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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】メタン化触媒の生成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/047 20060101AFI20230627BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230627BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20230627BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20230627BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20230627BHJP
   C07C 1/04 20060101ALI20230627BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20230627BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
B01J27/047 Z
B01J37/08
B01J37/10
B01J37/16
B01J37/18
C07C1/04
C07C9/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019512776
(86)(22)【出願日】2017-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 SG2017050441
(87)【国際公開番号】W WO2018044241
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-04-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】10201607373Q
(32)【優先日】2016-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】508305029
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】ポー チー コック
(72)【発明者】
【氏名】チェン ルエイ
(72)【発明者】
【氏名】ボーグナ アルマンド
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博之
(72)【発明者】
【氏名】泉 良範
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】松井 裕典
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4243554(US,A)
【文献】特開2000-202292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
C07B31/00-61/00
C07B63/00-63/04
C07C1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン化反応を触媒する硫化モリブデン触媒の作成方法であって、
還元剤の存在下で前駆体を加熱することを備え、前記前駆体は、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩であり、
前記前駆体がモリブデン酸塩である場合、反応は、400~500℃の温度にて、還元雰囲気中、硫黄元素の存在下で行われ、
前記前駆体がチオモリブデン酸塩である場合、反応は、硫黄元素の不存在下、及び、溶媒の存在下で、180~220℃の温度で行われる方法。
【請求項2】
前記塩は、アンモニウム塩であり、これにより、前記モリブデン酸塩は、モリブデン酸アンモニウムであり、前記チオモリブデン酸塩は、チオモリブデン酸アンモニウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モリブデン酸アンモニウムは、七モリブデン酸アンモニウム四水和物(AHM)であり、チオモリブデン酸アンモニウムは、テトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATM)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱は、担体の存在下で行われ、これにより、前記方法では、担持硫化モリブデン触媒を生成する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記担体は、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、酸化アルミニウム/酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、活性炭素、カーボンナノチューブ、及び、これらのうちのいずれか2つ以上の混合物からなる群より選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記反応は、溶媒の不存在下、且つ、硫黄元素の存在下において行われ、前記反応は、還元雰囲気中で前記前駆体と前記硫黄元素とを加熱する工程を備える請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱する工程に先立ち、前記前駆体と前記硫黄元素とをともに粉砕する工程を備える請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記還元雰囲気は、水素ガスを含む請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記水素ガスは、不活性ガスと混合される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記不活性ガスは、窒素である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱は、400~500℃の温度まで行われる請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱後、酸素及び不活性ガスの混合物に前記触媒を露出する工程を備え、前記不活性ガス中の酸素濃度は、2%v/v未満である請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、溶媒中で実施され、前記還元剤は、ホウ化水素である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ホウ化水素は、水素化ホウ素ナトリウムである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記前駆体は、ATMである請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、硫黄元素の不存在下で行われる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒は、30超の誘電率を有する請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒は、水、ジメチルホルムアミド、又はこれらの混合物である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記加熱は、180~220℃の温度で行われる請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、密封容器内で行われる請求項13~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
メタン化反応を触媒する硫化モリブデン触媒の作成方法であって、
還元剤の存在下で前駆体を加熱することを備え、前記前駆体は、ポリモリブデン酸塩又はポリチオモリブデン酸塩であり、
前記前駆体がポリモリブデン酸塩である場合、反応は、400~500℃の温度にて、還元雰囲気中、硫黄元素の存在下で行われ、
前記前駆体がポリチオモリブデン酸塩である場合、反応は、硫黄元素の不存在下、及び、溶媒の存在下で、180~220℃の温度で行われる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化モリブデン触媒の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
世界規模の経済成長及び人口増加に合わせて天然ガスの需要が増加しているが、天然ガスの生成がこの需要の増加に追いつかないこともある。従って、エネルギー需要の増加に見合うように代替天然ガスの生成を行う必要がある。代替天然ガスを生成するために可能な方法として、石炭を気化することにより、メタン化の原材料として合成ガスを生成する方法(すなわち、メタン生成)がある。当分野の現状では、メタン化触媒は、メタン化活性の高いニッケル(Ni)等の遷移金属である。それにしても、これらの触媒は、石炭気化で得られた合成ガス中に存在の硫黄化合物による有毒化への脆弱性が故に、運用限界を有する。
【0003】
硫化モリブデン、MoSは、硫黄不純物による影響の及ばない一酸化炭素の数少ないメタン化触媒のうちの1つである。これは、水素化脱硫、水素化脱窒素、及びCO水素化からの混合アルコール合成に幅広く使用される。硫黄耐性MoS触媒は、硫黄有毒化の不都合を克服することができるため、硫黄除去方法を行うことなく、直接メタン化に石炭気化からの原料を使用することができるようになる。
【0004】
MoSの基底面と縁部面は、非常に異なる物理的特性及び化学的特性を有する。縁部に対する表面エネルギーは基底面の約100倍である(001)。従って、縁部は、化学反応に対する活性面と見られてきた。従って、エネルギー市場の成長に合わせて代替天然ガスの生成を実現するため、合成ガスメタン化に対して高活性を達成することのできる、縁部をより露出した、より活性の高いMoS触媒を生成する方法を開発することが望ましい。
【0005】
効果的な担持MoS触媒は、所望の形態を維持しつつ、担体上で良好に分散される必要がある。単体上での触媒の分散を向上するには、前駆体の脱重合を行うことが望ましく、一方で脱重合中は自己組織化方法を保つことで所望の形態を維持するために、化学的相互作用の強さによる担体上の自動還元を抑制しなければならない。
【0006】
本発明は、これを達成する方法を提供するものである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様は、メタン化反応を触媒する硫化モリブデン触媒の作成方法であって、還元剤の存在下で前駆体を加熱することを備え、前駆体は、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩であり、前駆体がモリブデン酸塩である場合、反応は、400~500℃の温度にて、還元雰囲気中、硫黄元素の存在下で行われ
前駆体がチオモリブデン酸塩である場合、反応は、(a)溶媒の不存在下、及び、硫黄元素の存在下、又は(b)硫黄元素の不存在下、及び、溶媒の存在下、のいずれかで、180~220℃の温度で行われる方法を提供する。

【0008】
以下のオプションは、個別又はいずれかの好適な組み合わせにおいて、第1の態様とともに使用されてもよい。
【0009】
塩は、アンモニウム塩であってもよい。従って、モリブデン酸塩は、モリブデン酸アンモニウムであってもよく、チオモリブデン酸塩は、チオモリブデン酸アンモニウムであってもよい。モリブデン酸アンモニウムは、七モリブデン酸アンモニウム四水和物(AHM)であってもよい。チオモリブデン酸アンモニウムは、テトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATM)であってもよい。
【0010】
加熱は、担体の存在下で行われてもよい。この場合、当該方法では、担持硫化モリブデン触媒を生成してもよい。担体は、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、酸化アルミニウム/酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、活性炭素、カーボンナノチューブ、これらのうちのいずれか2つ以上の混合物からなる群より選択されてもよく、又は他の何らかの担体が使用されてもよい。
【0011】
反応は、溶媒の不存在下、且つ、硫黄元素の存在下で行われてもよい。この場合、反応は、還元雰囲気中で前駆体と硫黄元素とを加熱する工程を備えてもよい。前駆体として使用されてもよい、又は、前駆体からその場で形成されてもよいポリモリブデン酸塩又はポリチオモリブデン酸塩を硫黄が分解可能であってもよい。そして当該方法は、加熱する工程に先立ち、前駆体と硫黄元素とをともに粉砕する工程を備えてもよい。還元雰囲気は、水素ガスを備えてもよい。水素ガスは、例えば、窒素等の不活性ガスと混合されてもよい。加熱は、約400~約500℃の温度まで行われてもよい。反応は、適切な周辺圧力、すなわち、約1気圧で行われてもよい。この反応は、約1~約2バールの圧力で行われてもよく、又は1~1.5バール、1.5~2バール、又は1.2~1.7バールの圧力で行われてもよく、例えば、約1バール、1.1バール、1.2バール、1.3バール、1.4バール、1.5バール、1.6バール、1.7バール、1.8バール、1.9バール、又は2バールの圧力で行われてもよい。
【0012】
前駆体がチオモリブデン酸塩(任意で、ポリチオモリブデン酸塩)である場合、反応は、液体溶媒の不存在下、且つ、前駆体となり得る、又は、前駆体からその場形成されてもよいポリチオモリブデン酸塩を分解可能な化合物の存在下で行われてもよい。このような化合物の好適な例として、例えば、水又はその他何らかの溶媒であって、一般的には約30超の誘電率を有する一般的溶媒を含む。これらについては、本明細書の他の箇所で説明する。このような場合、反応は、前駆体と、還元雰囲気中で中間物を分解可能な化合物とを加熱する工程を備えてもよい。還元雰囲気は、水素ガスを備えてもよく、また中間物を分解可能な化合物の蒸気も備えてもよい。水素ガスは、窒素等の不活性ガスと混合されてもよい。加熱は、約400~約500℃の温度まで行われてもよい。このオプションは、硫黄元素の不存在下で行われてもよい。
【0013】
そして、以上のように生成された触媒は、上述の加熱後、酸素と不活性ガスとの混合物に露出されてもよい。この場合、不活性ガス中の酸素濃度は、約2%v/v未満であってもよい。
【0014】
当該方法は、溶媒中で行われてもよい。このような場合、還元剤は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ化水素であってもよい。このオプションによると、前駆体は、ATMであってもよい。この方法は、硫黄元素の不存在下で行われてもよい。溶媒は、30超の誘電率を有してもよい。溶媒は、例えば、水、ジメチルホルムアミド、又はこれらの混合物であってもよい。加熱は、約180~220℃の温度で行われてもよい。当該方法は、密封容器内で行われてもよい。この方法は、封止された容器内で行われてもよい。この場合の圧力は、封止された容器内で溶媒を加熱して自然に生じる圧力であってもよい。この圧力は、例えば、約2~約20バールであってもよく、又は約2~10バール、2~5バール、5~20バール、10~20バール、10~15バール、又は15~20バールであってもよく、例えば、約2バール、3バール、4バール、5バール、6バール、7バール、8バール、9バール、10バール、11バール、12バール、13バール、14バール、15バール、16バール、17バール、18バール、19バール、又は20バールであってもよい。
【0015】
一実施形態において、硫化モリブデン触媒の作成方法であって、還元剤と硫黄元素との存在下で前駆体を加熱することを備え、前駆体は、モリブデン酸塩である方法を提供する。
【0016】
他の実施形態において、硫化モリブデン触媒の作成方法であって、還元剤の存在下で前駆体を加熱することを備え、前駆体は、チオモリブデン酸塩である方法を提供する。本実施形態において、加熱は、硫黄の存在下で行われてもよく、若しくは、硫黄の不存在下で行われてもよい。
【0017】
他の実施形態において、硫化モリブデン触媒の作成方法であって、約400~約500℃の温度にて、水素を含む還元雰囲気中、硫黄元素の存在下、且つ、溶媒の不存在下でモリブデン酸塩を加熱することを備える方法を提供する。
【0018】
他の実施形態において、硫化モリブデン触媒の作成方法であって、約400~500℃の温度にて、水素を含む還元雰囲気中、硫黄元素の存在下、且つ、溶媒の不存在下でチオモリブデン酸塩を加熱することを備える方法を提供する。
【0019】
他の実施形態において、硫化モリブデン触媒の作成方法であって、約180~約220℃の温度でホウ化水素還元剤の存在下、溶媒中でチオモリブデン酸塩を加熱することを備える方法を提供する。
【0020】
さらなる実施形態において、硫化モリブデン触媒を作成する方法であって、約400~約500℃の温度にて、水素を含む還元雰囲気中、例えば、重合体チオモリブデン酸塩を単量体に分解することのできる水蒸気等の物質の存在下、任意で硫黄元素の不存在下、液体溶媒の不存在下でチオモリブデン酸塩を加熱することを備える方法を提供する。この場合の圧力は、約1気圧であってもよく、約1~約2バールであってもよい。
【0021】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る方法によって作成可能であるか、又は作成された硫化モリブデン触媒を提供する。
【0022】
以下のオプションは、個別又はいずれかの好適な組み合わせにおいて、第2の態様とともに使用されてもよい。
【0023】
触媒は、ナノサイズの硫化モリブデンを備えてもよい。触媒は、硫化モリブデン粒子を備えてもよく、硫化モリブデンは、各々、約1~約999nmの範囲で少なくとも1つの寸法、任意で2つ又は3つの寸法を有してもよい。硫化モリブデンは、硫化モリブデンフラワーの形態であってもよい。
【0024】
硫化モリブデンは、高純度であってもよい。硫化モリブデンは、少なくとも90%、任意で約100%の二硫化モリブデンであってもよく、すなわち、少なくとも90%、任意で約100%の純度であってもよい。
【0025】
触媒は、担体上に二硫化モリブデンを備えてもよい。担体は、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、酸化アルミニウム/酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、活性炭素、カーボンナノチューブ、これらのうちのいずれか2つ以上の混合物からなる群より選択されてもよい。担体は、ハイドロタルサイトであってもよい。担体に対する硫化モリブデンの割合は、w/w基準で約35:65であってもよい。
【0026】
本発明の第3の態様は、メタン生成方法であって、第2の態様に係る触媒に、一酸化炭素と水素とを含有する混合ガスを露出することを備える方法を提供する。
【0027】
以下のオプションは、個別又はいずれかの好適な組み合わせにおいて、第3の態様とともに使用されてもよい。
【0028】
当該方法は、約500~約600℃の温度で行われてもよい。
【0029】
混合ガスは、例えば、硫化水素等のガスを含有する硫黄をさらに備えてもよい。このような場合、触媒は、例えば、硫化水素等のガスを含有する硫黄により有毒化されなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明は、非限定的な実施例及び添付の図面を考慮し、以下の説明を参照してよく理解される。
【0031】
図1図1は、(A)不活性ガス(N)中でのATMの分解により調製されたサンプルと、(B)硫黄元素によりN中でのATMの分解により調製されたサンプルと、(C)還元ガス(H)中でのATMの分解により調製されたサンプルと、(D)硫黄元素によりH中でのATMの分解により調製されたサンプルとの走査電子顕微鏡(SEM)画像を示している。
【0032】
図2図2は、SASOL(PURAL(登録商標)MG30、Al-Mg30とラベル付け)、SiO、及びAlからの、ハイドロタルサイトに非担持又は担持のMoS触媒のCO転換率及びメタン(CH)選択率を示す。全触媒の選択率は定常状態で平衡に達し、性能の差はこれらの反応条件(SV=5000h-1、CO:H=1:1、反応温度は550℃)における転換率にのみ反映される。
【0033】
図3図3は、(A)低倍率におけるATMを硫黄と混合して調製した(ATM+S法とラベル付け)非担持MoS、(B)高倍率における、ATM+S法で調製した非担持MoS、(C)ATM+S法で調製した35%MoS/Al-Mg30、(D)ATM+S法で調製した35%MoS/Al、及び(E)ATM+S法で調製した35%MoS/SiOの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0034】
図4図4は、異なるMo前駆体を使用して調製した非担持又は担持のMoS触媒のCO転換率を示す。ATM及び硫黄を混合して調製したMoS触媒は、(ATM+S)とラベル付けし、モリブデン酸アンモニウム四水和物(AHM)を混合して調製したMoS触媒は、(AHM+S)とラベル付けする。すべての触媒が定常状態で平衡に達したので、明瞭性のため、CHの選択率は省略する。
【0035】
図5図5は、(A)35%MoS(AHM+S)/Al-Mg30と、(B)35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30のSEM画像を示す。
【0036】
図6図6は、ATM+S法で調製した、25~100%(すなわち、非担持)の異なる負荷を有するMoS触媒のCO転換率を描いている。
【0037】
図7図7は、(A)25%MoS(ATM+S)/Al-Mg30と、(B)35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30と、(C)50%MoS(ATM+S)/Al-Mg30のSEM画像を示す。
【0038】
図8図8は、熱水法で調製したMoS触媒のCO転換率を描いている。MoS触媒は、Al、SiO、ハイドロタルサイト(Al-Mg30)、活性炭素(Act-C)、及びカーボンナノチューブ(CNT)で担持された。溶媒として脱イオン水を使用して調製した35%MoS(HO)/Al-Mg30-hydroを除くすべての触媒は、溶媒としてジメチルホルムアミドを使用して調製した。
【0039】
図9図9は、(A)35%MoS(HO)/Al-Mg30-hydroのSEM画像と、(B)同一の触媒のより高い倍率におけるSEM画像とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書に記載の触媒の調製方法は、ナノ構造のMоSの自己組織化を保存するように、任意で担体上において、前駆体(又は前駆体から重合されたもの)の単量体への分解とその自動還元とを制御することを備える。この方法では、本明細書において提供される実施例において実証された効果的なMоS触媒を産出した。例えば、ハイドロタルサイト上に担持されたナノサイズの二硫化モリブデン(MоS)触媒は、合成中、自己組織化プロセスに有利な方法を通じて調製された。特定例が化学蒸着法及び熱水法を通じて実証されている。
【0041】
本明細書において記載の反応に対する前駆体は、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩である。これらの用語は、特にことわりがない限り、これらの塩の重合体の形態、すなわち、ポリモリブデン酸塩又はポリチオモリブデン酸塩を含むと見做されなければならない。
【0042】
従って、合成中、自己組織化方法を許容することにより、ナノサイズのハイドロタルサイト保持MоS触媒を合成する方法を提供する。この方法の1つの実施形態は、テトラチオモリブデン酸アンモニウム、担体、大量の硫黄元素を乳鉢内で混合することで開始する。混合物の反応は、管状炉内で昇温した還元環境中で実施される。他の方法は、テトラチオモリブデン酸アンモニウム、担体、及び還元剤を溶媒中で混合することにより実施される。続いて、混合物は、テフロン(登録商標)内張りオートクレーブに移され、昇温して加熱される。自己組織化方法は、前駆体、分解環境、及び担体材料の制御によって促進される。
【0043】
理論に縛られることはないが、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩の前駆体は、まず、熱的又は熱水的に重合体の形態(すなわち、各々、ポリモリブデン酸塩又はポリチオモリブデン酸塩)に変換される。これは続いて、単量体に分解され、最終的には本明細書に記載のナノサイズの硫化モリブデン触媒とされる。前駆体が、まず、重合体の形態(すなわち、モリブデンがポリブデン酸塩であり、チオモリブデン酸がポリチオモリブデン酸である)であると、重合体の形態に変換する工程は生じないことが理解されるであろう。
【0044】
本発明の一実施形態は、ナノサイズのMoS触媒を生成する方法を含む。本方法は、乳鉢又はボールミルで機械的にテトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATM)と硫黄元素とを混合することによって開始される。この混合物を、管状炉に移す。混合物の反応は、昇温した管状炉内で実施される。本実施形態において、反応は、硫黄リッチの還元環境下で発生させ、前駆体の分解と、層状MoSナノ構造への自己組織化を許容する。
【0045】
一実施形態において、ナノサイズのMoS触媒に好適な担体材料を使用する。担体は、触媒のナノサイズの層状形態と活性を維持しつつ、メタン化に使用されるMoSの負荷を軽減するよう働く。例えば、好適な担体材料は、塩基性担体とすることができる。これは、中間ポリモリブデン酸塩又はポリチオモリブデン酸塩の脱重合性を向上し、層状に分散したナノサイズのMoS触媒の分解及び自己組織化を阻害する担体上の自動還元を軽減し得るものと考えられる。
【0046】
他の実施形態において、担持MoS触媒を熱水条件下で調製することができる。本方法は、好適な溶媒中で、テトラチオモリブデン酸アンモニウム、担体、及び還元剤を混合することによって開始され、その後、混合物をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに移し、200℃で10時間加熱する。これにより、より低温でMoS触媒を調製する低コストなやり方を提供する。好適な溶媒は前駆体の重合の軽減に役立ち、担体上におけるMoSの分散性を向上し、自動還元に繋がる前駆体と担体との間の強い化学的相互作用を防ぐ。前駆体の分解からの中間ポリチオモリブデン酸塩又はポリモリブデン酸塩の単量体への分解は、前駆体を効果的に分散可能である好適な溶媒を選択することで達成されてもよい。硫黄は、ポリモリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩の中間物の単量体への分解を行うための物質として作用可能であると考えられる。しかしながら、単量体への分解剤は、例えば、水等の溶媒置き換えられてもよい。溶媒を含有しないシステムでは、例えば、水蒸気等の好適な蒸気が同様の役割を担ってもよい。従って、例えば、反応が行われる気体中で、低濃度(例えば、約0.5~約5%w/w又はv/v、又は約0.5~2%、1~2%、1~3%、3~4%、又は2~4%であり、例えば、約0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%)で使用されてもよい。この気体は、封止されたチャンバ内で静的であってもよく、又は反応が行われる容器又は反応チャンバ内を流動してもよい。
【0047】
ナノサイズのMoS触媒は、その独自の形態により、従来の触媒を超える顕著な改善を示す。好適な担体材料を使用することにより、MoSの負荷がより低いにも関わらず、ナノ形態とその高い活性を維持することができる。このような触媒を使用することで得られたCO転換率は、熱水合成触媒を使用した場合に69%に達し、合成ガス直接メタン化における化学的気相法で生成された触媒を用いた場合に80%を上回る。
【0048】
通常、一酸化炭素(CO)及び水素(H)を同等のモル濃度で含有した未処理合成ガスは、ナノサイズのMoS触媒によって直接メタン化することができる。従って、原料のH/CO比は、Ni触媒で要求されるような水性ガスシフト反応を用いてより高い比率へと調整する必要がなく、これはオペレーションコストの削減に役立つであろう。さらに、MoS触媒の硫黄耐性特性も、酸性ガス除去ユニットの資本コストの削減に役立つ。
【0049】
従って、本発明の方法は、硫化モリブデン触媒の生成に関連する。この方法において、モリブデンを含有する前駆体は、還元剤の存在下で加熱される。前駆体が硫黄を含有しない場合、例えば、モリブデン酸塩前駆体の場合、硫黄を含有した試薬を含むことが必要である。これを達成する簡便な方法として、硫黄元素の存在下で反応を行う。しかしながら、前駆体が硫黄を含有する場合、例えば、チオモリブデン酸塩前駆体の場合、追加で硫黄を含有する試薬の存在は必要でないが、場合によってこれが使用されてもよい。一実施形態において、本実施形態は、硫黄元素と別の還元剤との存在下で、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩のいずれかを加熱することにより、硫化モリブデン触媒を生成することに関連する。還元剤は、実験の詳細に応じて、例えば、水素ガスであってもよく、又はホウ化水素塩であってもよい。
【0050】
従って、簡便な前駆体は、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩である。これらは、簡便に、アンモニア塩であってもよいが、代わりに、アルカリ金属又はアルカリ土塁金属等、その他任意の塩であってもよい。特定の例として、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、又はルビジウムの塩が含まれる。これらの塩は、無水であってもよく、又は水化物の形態であってもよい。前述の通り、モリブデン酸塩又はチオモリブデン酸塩は、重合体の形態であってもよい。これらの処理は、各々、単量体のモリブデン酸塩及びチオモリブデン酸塩に使用されるのと同様の条件下で行われてもよい。場合によっては、より高圧及び/又はより高温が用いられてもよい。これらの条件については、明細書中、他の箇所で検討している。
【0051】
通常、生成物としての触媒を担持させることが簡便であるため、反応は、担体の存在下で行われてもよい。これにより、結果として担持触媒を生じることとなる。好適な担体として、酸化金属、混合酸化金属、これらの水化物形態が挙げられ、例えば、シリカ、マグネシア、ドロマイト、珪藻土、ハイドロタルサイトが挙げられる。他の好適な担体として、活性炭素、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、及びその他の炭素形態が挙げられる。
【0052】
還元剤は、固形還元剤であってもよい。還元剤は、ホウ化水素であってもよく、例えば、水素化ホウ素ナトリウムであってもよい。還元剤は、例えば、水溶液等の溶液中で使用されてもよい。
【0053】
反応は、溶媒の不存在下で簡便に行われてもよい。これにより、コストが高く、有害(例えば、燃焼性及び/又は有毒性)であり、廃棄又は再利用の問題を生じ得る溶媒の必要性を回避する。これを達成するには、前駆体は、還元雰囲気中、前駆体と硫黄元素とを加熱することを単に備えてもよい。還元雰囲気は、例えば、水素を備えてもよい。水素は、純粋な水素であってもよく、又は反応条件下で水素と反応しない第2の気体との組み合わせであってもよい。好適な混合ガスとして、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、又はこれらのうちの2つの混合物が挙げられる。水素(又は、その他何らかの還元ガス又は蒸気)は、質量基準で、約1~約100%、又は約10~100%、50~100%、80~100%、1~50%、1~20%、1~10%、10~50%、20~80%、50~80%であり、例えば、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%の割合で還元雰囲気中に存在してもよい。加熱に先立ち、前駆体及び硫黄は、よく混合されてもよい。これを達成する方法として、単に2つをともに粉砕する。モリブデン酸塩に対する硫黄の割合は、モル基準で約2:1~10:1、又は約2:1~5:1、2:1~3:1、2.5:1~10:1、3:1~10:1、5:1~10:1、2.5:1~5:1、又は2.1:1~2.5:1であり、例えば、約2:1、2.1:1、2.2:1、2.3:1、2.4:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、4.5:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、又は10:1であってもよい。この割合は、少なくとも2:1でなければならないが、例えば、少なくとも5:1、少なくとも10:1、少なくとも20:1以上等、これより実質的に大きくてもよい。従って、硫黄は、MоSの収率を高くするように、モリブデンを少なくとも2倍超過してもよい。
【0054】
加熱は、約350~約550℃の温度で行われてもよく、又は約350~500℃、350~450℃、400~550℃、450~450℃、400~500℃、400~450℃、又は450~500℃で行われてもよく、例えば、約350℃、400℃、450℃、500℃、又は550℃で行われてもよい。反応は、少なくとも90%のMоSへの変換が達成されるのに十分な時間、行われてもよい。十分な時間として、約1~10時間であってもよく、又は約1~5時間、1~2時間、2~10時間、5~10時間、又は2~5時間であってもよく、例えば、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、又は10時間であってもよい。温度が低いほど、反応に要する時間が長くなることが理解されるであろう。
【0055】
触媒の形成後、例えば、ほぼ周辺温度(例えば、約20~約30度)まで冷却されてもよい。その後、酸素を含有する雰囲気に露出されてもよい。酸素は、露出条件下で酸化しない気体と混合されてもよい。これが、触媒を不動態化する役割を担う。酸素は、約0.5~5質量%の濃度であってもよく、又は約0.5~2質量%、0.5~1質量%、1~5質量%、2~5質量%、又は1~2質量%の濃度であってもよく、例えば、約0.5質量%、1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、3.5質量%、4質量%、4.5質量%、又は5質量%の濃度であってもよい。場合によっては、この濃度は、約2%未満であってもよく、又は約1.5%又は約1%未満であってもよい。この工程は、周辺温度で実施されてもよい。この工程は、約20~約40℃の温度で行われてもよく、又は約20~30℃、30~40℃、又は25~30℃の温度で行われてもよく、例えば、20℃、25℃、30℃、35℃、又は40℃の温度で行われてもよい。この工程は、約0.5~5時間実施されてもよく、又は約0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、又は5時間実施されてもよい。
【0056】
反応が溶媒中で行われる場合、好適な溶媒として、試薬用の溶媒が含まれる。これらは、典型的に、高い誘電率を有し、例えば、約30を上回り、任意で40、50、60、70、又は80を上回る。誘電率は、約30~約90であってもよく、又は約30~80、約30~60、約40~90、約60~90、又は約40~60であってもよく、例えば、約30、40、50、60、70、80、又は90であってもよい。これらには、水、DMF、及びこれらの混合物が含まれる。より一般的には、多くの両性非プロトン性溶媒が好適に単独で使用されても、互いに混合されても、水中で混合されてもよい。このような溶媒には、DMSO、HMPT、HMPA、ジオキサン等が含まれる。このような場合、約150~250℃の温度が使用されてもよく、約150~200℃、200~250℃、180~250℃、180~220℃、150~220℃、又は190~210℃が使用されてもよく、例えば、約150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、又は250℃が使用されてもよい。このような反応は、封止された容器内で好適に行われてもよい。これにより、温度を、溶媒又は反応に使用される混合溶媒中のいずれかの溶媒の正常沸点を超過させる。
【0057】
前述の通り、前駆体が硫黄を含有するとき、硫黄を別途添加する必要性がなくなることがある。従って、この場合、反応は、硫黄(すなわち、硫黄元素)の不存在下で行われてもよい。硫黄を含まないMоSの合成に好適な前駆体は、チオモリブデン酸アンモニウム等のチオモリブデン酸塩である。しかしながら、一実施形態において、チオモリブデン酸塩は、硫黄元素の存在下で使用されてもよい。
【0058】
上述の方法で生成された触媒は、ナノサイズを有してもよい。これは、1~999nmの範囲内である、すなわちナノ寸法の範囲内である少なくとも1つの範囲を有し、任意で2つ又は3つの寸法を有する触媒を意味する。ナノ寸法又は各ナノ寸法は、独立に、約1~約500nm、約1~200nm、約1~100nm、約1~50nm、約1~20nm、約1~10nm、約10~999nm、約20~999nm、約50~999nm、約100~999nm、約200~999nm、約500~999nm、約10~500nm、約10~100nm、約10~50nm、約50~500nm、約50~100nm、又は約100~500nmの範囲内であって、例えば、約1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、150nm、200nm、250nm、300nm、350nm、400nm、450nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、950nm、又は999nmであってもよい。
【0059】
当該方法によって生成されたMоSは、純粋であってもよい。これは、触媒の純度判定の際に考慮に入れない(上述)触媒担持の存在を除外するものであってはならならない。触媒の純度は、重量又はモル基準で、少なくとも約80%であってもよく、任意で少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、又は99.9%であってもよい。
【0060】
MоSが担持される場合、その担体は、前述の通りであってもよい。担体に対するMоSの割合は、重量基準で、約1:1~約1:3であってもよく、又は約1:1~1:2、1:2~1:3、又は2:3~2:5であってもよく、例えば、約1:1、2:3、1:2、2:5、1:3、又は35:65であってもよい。
【0061】
本発明の触媒は、担持又は非担持に関わらず、一酸化炭素及び水素からメタンを生成するために使用されてもよい。一酸化炭素及び水素は、モル又は質量基準で、約1:1~約1:4の割合であってもよく、又は約1:1~1:3、1:1~1:2、1:2~1:4、又は1:2~1:3であってもよく、例えば、約1:1、2:3、1:2、2:5、1:3、2:7.又は1:4であってもよい。しかしながら、本発明の触媒は、可変の割合に対して高い耐性を有し、以上に記載の割合以外の割合が使用されてもよい。反応は、例えば、約400~約700℃、又は約400~600℃、400~500℃、500~700℃、600~700℃、又は500~600℃であり、例えば、約400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、650℃、又は700℃の好適な温度で行われてもよい。本発明の触媒は、硫黄現有物質による有毒化に著しい耐性を有する。従って、供給される混合ガスは、例えば、硫化水素等の硫黄含有ガスを備えてもよい。
【0062】
上述の通り、触媒としての使用に先立って、本発明の材料は、例えば、硫化水素等の還元剤で処理されてもよい。好適な条件として、例えば、H中の5%HS並びに1時間を採用する。この事前処理は、表面の酸化物を除去する役割を担ってもよい。
【0063】
実施例1
【0064】
テトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATM)を元祖硫黄と混合して非担持MoS触媒を調製し、次いで管状炉内に移した。この反応は、450℃の温度の水素及び窒素の環境の混合物において5時間で実施された。触媒の回収に先立って、この触媒を30mL/分の流量で1時間に亘り、N中の1%Oで不動態化した。結果として得られた触媒は、黒い粉末状であった。本方法をATM+S法として識別する。
【0065】
管状炉を使用した化学的気相反応法により、担持MoS触媒を調製した。ATMを前駆体として使用し、熱分解は石英管反応器内で実施した。通常、石英管内部に載置されたセラミックボートに混合物を移すのに先立ち、乳鉢内で、1.0gの担体、1.461gのATM、及び4.3828gの硫黄粉末を混合した。この混合物を、30mL/分の総ガス流量のH/N(1:2)雰囲気中、5℃/分の加熱速度にて450℃まで5時間に亘って加熱した。その後、反応器を室温まで冷却した。触媒の回収に先立ち、この触媒を30mL/分の流量で1時間に亘り、N中の1%Oで不動態化した。この触媒を回収し、固定床マイクロ反応器内で試験を行った。
【0066】
MoS触媒の合成中の還元環境により、不活性ガスのみが使用される場合にMoSを形成する代わりにMoSを確実に形成するようにする。ナノ構造のMoSの形成には硫黄が極めて重要であると考えられる。ATMが硫黄を含有するため、硫黄の役割は、単に硫黄ドナーとしての役割に留まらず、反応中、飽和硫黄蒸気を提供することにあり、これは気相におけるナノサイズのMoSフラワーの自己組織化において重要と考えられる。
【0067】
硫黄の過剰使用(S/Mо>>2)と還元ガス(H)中でのATMの分解は、MоS触媒の形態に多大な影響を及ぼす。不活性ガス中のATMの分解は、表面の平滑なMоS触媒を生成するのみである(図1A)。硫黄を含有することで、MоSの表面に凸凹を生じるが、所望のナノフラワー様の形態は生成されない(図1B)。硫黄を用いず、Hガスを用いたATMの分解では、図1Cに示される他の種別のナノ構造が生成されるであろう。過去の従事者は、ATMがH中で分解されるときのMоSナノチューブ又はファイバの観察も報告されているが、これらは、H中のATM分解により、且つ、大量の硫黄元素の添加によって達成可能な図1Dに示される所望のナノフラワーの形態ではない。
【0068】
活性評価として、0.8gのMoS触媒をステンレス鋼反応器に投入した。活性試験に先立ち、表面酸素を除去するためにH中の5%HSで1時間、触媒を処理した。活性試験中、1.0の合成ガス比(H/CO)を選択し、550℃の反応温度を使用した。H及びCOの流量は23.33sccmとし、残留不活性ガスは、20sccmで流れるNとした。反応ストリーム中に3000ppmのHSを供給した。この触媒を使用した反応で得られた主要生成物はCH及びCOであった。
【0069】
図2は、異なる触媒担体上の非担持又は担持のMoS触媒のCO転換率及びCH選択率を示す。3つの担体、すなわち、SASOL(PURAL(登録商標)MG30、Al-Mg30とラベル付け)、SiO、及びAlを用いて、担体上のMoS触媒の活性を比較した。現在の条件におけるこれらすべてのMoS触媒試験に対するCHの選択率は、平衡選択率に達することができるため、議論の主な対象はCO転換率となるであろう。反応が定常状態に到達したのは、反応器が温度及び圧力の設定ポイントに到達してから約3時間後であったが、その後、触媒の平均CO転換率を算出した。MoS(ATM+S)-非担持の平均CO転換率は81.9%であり、35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30は81.6%、35%MoS(ATM+S)/SiOは80.5%、35%MoS(ATM+S)Alは78.1%であった。35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30の活性は、MoSの負荷が1/3低いにも関わらず、MoS(ATM+S)-非担持の活性と同様であり、他の2つの材料(SiO及びAl)は、本方法Cで調製されたMoS触媒の担体に比して効率が劣った。MgO、Al、及びSiOの等電点(IEP)は、既知であり、MgOの塩基性が高いこと(IEP=11.6)、Alは僅かに塩基性であること(7.2)、SiOは酸性であること(2.8)を見出した。担体のIEPが担持モリブデンイオンの基本的相互作用を決定すると考えられる。担体のIEPが高くなるほど前駆体の脱重合性が強くなる証拠が存在する。従って、Al-Mg30上に担持されたMoSは、30%MgO及び70%Alからなるが、Al及びSiO上に担持された触媒に比して分散が良好であると期待される。これは、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した観察によって確認される。
【0070】
図3は、触媒のSEM画像を示す。図3Aには、MoS(ATM+S)-非担持のバルク形態が示されている。図3A中のMoS粒子は、通常、約30~40ミクロンの寸法を有する。図3Bは、より高倍率におけるMoS(ATM+S)-非担持の形態を示す。SEM画像より、MoSスラブの表面には、100nm未満の花弁のナノフラワーが施されている。前駆体の分解中、自己組織化を通じて形成されたこのナノ構造がMoS触媒の高活性の理由である。しかしながら、これらのナノフラワーから大きなMoSスラブが形成されることで、MoSブロックの中央におけるアクティブサイトの利用を制限した。従って、MoS触媒の分散をより良好にするために好適な担体が必要となる。図3Cは、Al-Mg30によって担持された35重量%MoSを描いている。Al-Mg30上にMoSナノフラワーの小さな薄片を観察することができる。図3D及び図3Eに示すとおり、非担持MoSのスラブに類似したMoSのスラブが依然として観察可能であるため、Al及びSiOは、MoSの分散に有効でない。
【0071】
実施例2
【0072】
硫黄と混合し、次いで生成した非担持MoS触媒と同様の条件下にて反応を行うための前駆体として、七モリブデン酸アンモニウム四水和物(AHM)を用いることができる。得られた触媒をMoS(AHM+S)-非担持とラベル付けした。MoS(AHM+S)-非担持のCO転換率を図4に示す。この触媒に対する平均CO転換率は81.8%であり、これは、MoS(ATM+S)-非担持及び35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30に匹敵する。しかしながら、AHM+S法で調製した担持触媒は、35%MoS(AHM+S)/Al-Mg30とラベル付けされるが、非常に低い活性を示す。
【0073】
図5では、35%MoS(AHM+S)/Al-Mg30のSEM画像を、35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30のSEM画像と比較している。図5Aにおいて、MoSは、AHMを前駆体として使用した場合、Al-Mg30上に縁部のより厚いナノウォールを形成した。この形態は、35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30(図5B)で観察されたような、表面にナノフラワーを備えたMoS薄片とは大きく異なる。35%MoS(AHM+S)/Al-Mg30におけるMoSの構造はメタン化や、引いては図4に示すようなより低い活性には相応しくない。前駆体(AHM)と担体(Al-Mg30)との相互作用は、明らかに強すぎるため、MoSナノウォールの形成に繋がる。一方、ATMとAl-Mg30との相互作用は、前駆体の脱重合を通じてMoS触媒を分散するのに十分であるように思われるが、担体と化学反応させる程度に強過ぎることはない。したがって、活性MoS触媒の合成には、担体と所望の相互作用強度を有する好適な前駆体を用いることが極めて重要であると思われる。AHM前駆体が担体とより強い相互作用を示す理由は、ポリモリブデン酸塩の種にあると考えられる。AHM前駆体中のMo-O-Mo種は、酸素を有さないATM前駆体と比して、酸素担体と強く相互作用する。さらに、酸素は硫黄より電気陰性が強いため、AHM前駆体の重合度はATMより高いであろう。重合度が高ければ、AHM前駆体の自動還元に繋がり、MoS層状構造の自己組織化には相応しくないと考えられる。
【0074】
実施例3
【0075】
図6は、ATM+S法で調製した負荷の異なるMoS触媒のCO転換率を示す。MoS負荷が25%から35%に増加すると、触媒の活性は68.5%から81.6%に増え、負荷が50%まで増加すると、80.5%まで僅かに降下した。結果として、35%が担持触媒に対する最適負荷であった。図7Aは、25%MoS(ATM+S)/Al-Mg30、35%MoS(ATM+S)/Al-Mg30、及び50%MoS(ATM+S)/Al-Mg30のSEM画像を示す。25%MoS(ATM+S)/Al-Mg30の負荷がより低ければ、前駆体が担体との相互作用を強めるため、担体上に望ましくないMoSナノウォールの形成が見られることとなる(図7A)。負荷がより高ければ(35%)、担体上にナノフラワーを備えたMoS薄片が分散される(図7B)が、負荷が50%まで増えると、MoS薄片はともに塊をなし、何等かの形で反応に有効な表面を低減する。
【0076】
実施例4
【0077】
或いは、低温度環境、すなわち低コストの熱水法でハイドロタルサイト担持MoS触媒を調製することができる。この方法は、20分間の超音波処理により、80mlの溶媒中に1.461gのATMを溶解することで開始される。モリブデンソースが完全に溶解した後、1gの担体を添加する。この混合物にさらに20分間超音波処理を施し、混合物をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに移す前に、混合物に0.01gのNaBHを添加した。オートクレーブを200℃で10時間加熱した。反応後、混合物を脱イオン水で洗浄し、ろ過した。回収した触媒は黒い粉末状であった。
【0078】
活性評価のため、0.8gのMoS触媒をステンレス鋼反応器に投入した。反応条件は実施例1で説明したものと同様とした。
【0079】
図8は、熱水法を使用して調製した触媒のCO転換率を示す。MoS触媒は、Al、SiO、ハイドロタルサイト(Al-Mg30)、活性炭素(Act-C)、及びカーボンナノチューブ(CNT)に担持した。溶媒として脱イオン水を用いて調製した35%MoS(HO)/Al-Mg30-hydroを除くすべての触媒は、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を使用して調製した。炭素担体は、通常、低CO転換率(~30%)で観察可能な他の担体に比べて有効でない。溶媒としてDMFを使用して調製したすべての熱水触媒に比べて、Al-Mg30が最も有効な担体であることがわかり、CO転換率は約60%であった。溶媒を水に変えると、同一の担体(Al-Mg30)を使用したMoS触媒の性能は、ほぼ10パーセント向上した。これは、正しい担体及び溶媒の組み合わせにより、調製したMoSをより有効にできることを示している。
【0080】
図9は、35%MoS(HO)/Al-Mg30-hydroのSEM画像を示している。画像中、担体上に形成されたMoSが異なる種別の形態を示しているのを観察することができ、一方は担体上のナノウォールに類似しており、他方は担体の頂上部に散乱したナノプレートに類似している。双方の構造は、MoS触媒の縁部サイトを露出しているため、この触媒は図8に示すとおり、COメタン化に有効である。
【0081】
DMFを用いて調製した35%MoS/Al-Mg30-hydroと水を用いて調製した35%MoS/Al-Mg30-hydroの性能の違いは、溶媒の極性指数で説明することができる。ATMは、極性溶媒への可溶性が高い。水の極性(誘電率=80)はDMF(誘電率=38)に比べて著しく高いため、ATMは水への可溶性がより高い。これは、前駆体と担体との相互作用がより低くなること、担体によって発生することもある自動還元を低減することに繋がる。結果として、これはMoS触媒の自己組織化に役立つ。溶媒の可溶性が高いほど、前駆体の重合を低減し、より小さな塊を形成したり、MoS触媒をより分散させたりするのに役立つこともある。
【0082】
一形態において、本発明は、ナノサイズのMoS触媒の生成方法を提供する。当該方法は、テトラチオモリブデン酸アンモニウム(ATM)と硫黄元素とを乳鉢内で混合することによって開始する。混合物の反応は、管状炉内で昇温した還元環境中で実施される。これにより、硫黄リッチの還元環境下で所望の形態に導く自己組織化方法の保存を実証した。
【0083】
第2の形態において、MoS触媒は、ATM、硫黄元素、及び好適な担体を乳鉢内で混合することによっても生成可能である。その後、この混合物は、管状炉に移され、反応は、450℃の水素及び窒素の混合物の環境下で5時間、実施される。担体は、触媒の活性とともにナノサイズの形態を維持しつつ、メタン化に使用されるMoSの投与を低減する役割を担う。好適な担体材料は、分散を向上し、前駆体の担体との化学的相互作用を抑制するように選択した。
【0084】
他の形態において、本発明は、熱水条件下でATMと担体とを反応させる他の方法を提供する。当該方法は、溶媒中で、テトラチオモリブデン酸アンモニウム、担体、及び還元剤を混合することによって開始する。次いで、この混合物は、テフロン(登録商標)内張りオートクレーブに移され、200℃で10時間加熱する。好適な溶媒及び担体は、単量体への分解を向上し、前駆体の自動還元を低減するように選択した。
【0085】
従って、本明細書中では、飽和硫黄ソース中での化学的蒸着と還元環境とを使用して調製された担体の有無を問わず、ナノサイズの二硫化モリブデン触媒の自己組織化を促進する方法を説明している。好適な担体として、SASOLから入手可能なPURAL(登録商標)MG30が挙げられる。反応温度は、450℃であってもよい。硫黄ソースは、硫黄元素からの蒸気であってもよい。還元ガスは、Hであってもよい。MoS触媒は、合成ガス直接メタン化において総CO変換が80%を上回ってもよい。
【0086】
熱水法を使用してナノサイズの二硫化モリブデン触媒の自己組織化を促進する方法も説明している。上述の通り、この方法によると、担体は、SASOLから入手可能なPURAL(登録商標)MG30であってもよい。反応温度は、200℃であってもよい。溶媒は、水であってもよい。
【0087】
硫黄蒸気合成によるテトラチオモリブデン酸アンモニウムからのMoS触媒の調製において、Hの流動を伴うハイドロタルサイト担体の使用についても説明している。
【0088】
さらに、溶媒として水を用いた、テトラチオモリブデン酸アンモニウムからのMoS触媒の熱水合成におけるハイドロタルサイト担体の使用についても説明している。本発明の効果は、HSに対する触媒の耐性が挙げられる。結果として、合成ガスは、精製せずに使用可能である。これは、結果として、従来の含侵法と比較してより高いCО変換を生じることができる。本発明の方法は、結果として、SEM画像に観察される通り、独自の形態を生じる。これらには、熱水触媒に対するナノフラワー、ナノウォール、又はナノプレートのクラスタが含まれる。例えば、550℃で70%~80℃にて、高いCО変換が達成されている。
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