(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】システム設計装置とその方法
(51)【国際特許分類】
G06N 3/126 20230101AFI20230627BHJP
G06N 99/00 20190101ALI20230627BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20230627BHJP
【FI】
G06N3/126
G06N99/00 180
G06F30/27
(21)【出願番号】P 2019107654
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2022-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000151461
【氏名又は名称】株式会社東京自働機械製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一生
(72)【発明者】
【氏名】桂 誠一郎
【審査官】多賀 実
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230702(JP,A)
【文献】特開平09-044466(JP,A)
【文献】安藤 晋 外2名,「可変長遺伝子を用いたアナログ回路の進化」,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,1999年05月27日,第99巻, 第95号,pp.25-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
G06T 7/00
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を処理しその処理結果を出力信号として出力するシステムを設計するシステム設計装置であって、
前記システムの構成要素を、前記入力信号を処理するための処理要素と、当該処理要素が処理する際に用いるパラメータのとりうる範囲を規定したパラメータ要素とに分け、複数種類の前記処理要素と複数種類の前記パラメータ要素とを記憶する記憶手段と、
各々任意に選択した前記処理要素と前記パラメータ要素とを組み合わせて前記構成要素を作成するとともに、それらの構成要素を組み合わせてシステム個体を生成するシステム個体生成手段と、
前記システム個体生成手段により生成された複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理する演算手段と、
前記演算手段の処理結果として出力された出力信号を評価する評価手段と、
前記評価手段による出力信号の評価に基づいて、前記システム個体を構成する前記構成要素を最適化する要素最適化手段と、
を含むことを特徴とするシステム設計装置。
【請求項2】
入力信号を処理しその処理結果を出力信号として出力するシステムを、設計するシステム設計方法であって、
前記システムの構成要素を、前記入力信号を処理するための処理要素と、当該処理要素が処理する際に用いるパラメータのとりうる範囲を規定したパラメータ要素とに分け、複数種類の前記処理要素と前記パラメータ要素とをあらかじめ設定しておき、
各々任意に選択した前記処理要素と前記パラメータ要素とを組み合わせて前記構成要素を作成するとともに、それらの構成要素を組み合わせてシステム個体を生成し、
複数種類の前記システム個体を生成し、当該複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理し、その処理結果として出力された出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する前記構成要素を最適化することを特徴とするシステム設計方法。
【請求項3】
前記生成されたシステム個体に対して、
当該システム個体を構成する前記各構成要素を格子状に配置するとともに、当該各構成要素に含まれる前記処理要素の機能に応じて、当該各構成要素に前記入力信号を伝達して行くことで、当該各構成要素による信号処理を実行し、
その処理結果として出力された前記出力信号を評価し、
当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する前記構成要素を最適化することを特徴とする請求項2に記載のシステム設計方法。
【請求項4】
複数種類の前記システム個体を生成し、当該複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理し、その処理結果として出力された出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する前記構成要素を最適化する初期適正化ステップと、
前記最適化された構成要素に、新たに作成した前記構成要素を追加して、複数種類の前記システム個体を生成し、当該複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理し、その処理結果として出力された出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体に含まれる前記新たに追加した構成要素を最適化する追加適正化ステップと、を含むことを特徴とする請求項2に記載のシステム設計方法。
【請求項5】
前記処理要素および前記パラメータ要素の組み合わせで構成される前記構成要素を遺伝的アルゴリズムで定義される遺伝子とし、前記システム個体を遺伝的アルゴリズムで定義される個体として、
遺伝的アルゴリズムを用いて、前記システム個体の出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する前記構成要素を最適化することを特徴とする請求項2乃至
4のいずれか一項に記載のシステム設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力信号を処理しその処理結果を出力信号として出力する各種のシステムを設計するシステム設計装置とその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、重回帰分析による予測モデルの作成方法を開示している。また、特許文献2は、ニューラルネットワークによる学習を用いた入力データの処理回路を開示している。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された重回帰分析による予測モデルの作成方法では、線形なモデルしか表現できないため、非線形システムに適用すると線形近似による誤差が発生してしまうという問題があった。
【0004】
また、特許文献2に開示されたニューラルネットワークによる学習を用いた入力データの処理回路は、そのシステムを構成するニューラルネットワークが完全にブラックボックス化されており、入力データに対する演算処理の過程をチェックすることができず、仮に明らかに間違った結果が出力されても、その原因を探究することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5293739号公報
【文献】特許第6183980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の事情に鑑みてなされたもので、入力信号に対して高精度に最適化された結果を出力することができて信頼性が高く、しかも入力信号に対する処理の過程が明確に把握でき、その解析も容易なシステムの設計を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る装置は、入力信号を処理しその処理結果を出力信号として出力するシステムの構成を、設計するシステム設計装置であって、
システムの構成要素を、入力信号を処理するための処理要素と、当該処理要素が処理する際に用いるパラメータのとりうる範囲を規定したパラメータ要素とに分け、複数種類の処理要素と複数種類のパラメータ要素とを記憶する記憶手段と、
各々任意に選択した処理要素とパラメータ要素とを組み合わせて構成要素を作成するとともに、それらの構成要素を組み合わせてシステム個体を生成するシステム個体生成手段と、
システム個体生成手段により生成された複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理する演算手段と、
演算手段の処理結果として出力された出力信号を評価する評価手段と、
評価手段による出力信号の評価に基づいて、システム個体を構成する構成要素を最適化する要素最適化手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る方法は、入力信号を処理しその処理結果を出力信号として出力するシステムを設計するシステム設計方法であって、
システムの構成要素を、入力信号を処理するための処理要素と、当該処理要素が処理する際に用いるパラメータのとりうる範囲を規定したパラメータ要素とに分け、複数種類の処理要素とパラメータ要素とをあらかじめ設定しておき、
各々任意に選択した処理要素とパラメータ要素とを組み合わせて構成要素を作成するとともに、それらの構成要素を組み合わせてシステム個体を生成し、
複数種類のシステム個体を生成し、当該複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理し、その処理結果として出力された出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する構成要素を最適化することを特徴とする。
【0009】
上述したように、本発明によれば、システムの構成要素を構成する処理要素とパラメータ要素とをそれぞれ最適化するので、特許文献1に開示されたような重回帰分析による予測モデルの作成方法に比べ、入力信号に対して高精度に最適化された結果を出力することができ、信頼性の高いシステムを設計することができる。しかも、あらかじめ予測モデルの構造を決める必要がないため、構造が未知のシステムに対しても適用可能であり、設計の自由度が極めて広い。
さらに、設計されたシステムは、その構成要素が明確であって入力信号に対する処理の過程を把握できるので、その解析も容易である。
【0010】
上述した本発明のシステム設計方法において、生成されたシステム個体に対して、
当該システム個体を構成する各構成要素を格子状に配置するとともに、当該各構成要素に含まれる処理要素の機能に応じて、当該各構成要素に入力信号を伝達して行くことで、当該各構成要素による信号処理を実行し、
その処理結果として出力された出力信号を評価し、
当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する前記構成要素を最適化する方法とすることもできる。
【0011】
このように構成要素を格子状に配置して、複数段の構成要素によりシステム個体を構成することで、より精密なシステムを構成することができる。しかも、格子状に配置した各構成要素に対して、処理要素の機能に応じて入力信号を伝達して行き、逐次信号処理を実行することで、迅速な処理を実現することができる。
【0012】
また、上述した本発明のシステム設計方法において、複数種類のシステム個体を生成し、当該複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理し、その処理結果として出力された出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体を構成する構成要素を最適化する初期適正化ステップと、
最適化された構成要素に、新たに作成した構成要素を追加して、複数種類のシステム個体を生成し、当該複数種類のシステム個体に対して、各々入力信号を処理し、その処理結果として出力された出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいて当該システム個体に含まれる新たに追加した構成要素を最適化する追加適正化ステップと、を含む方法とすることもできる。
【0013】
このようにシステム個体を階層化して順次最適化していくことで、重要な構成要素から段階的に設計していくことができ、要求される精度に応じて柔軟にシステムを設計することが可能となる。
【0014】
また、上述した本発明のシステム設計方法は、処理要素およびパラメータ要素の組み合わせで構成される構成要素を遺伝的アルゴリズムで定義される遺伝子とし、システム個体を遺伝的アルゴリズムで定義される個体として、
遺伝的アルゴリズムを用いて、システム個体の出力信号を評価し、当該出力信号の評価に基づいてシステム個体を構成する構成要素を最適化する方法とすることができる。
【0015】
遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic Algorithm)は、システムを最適化するためのシミュレーション手法としてすでに知られている。この遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、システム個体の出力信号の評価と、システム個体を構成する処理要素およびパラメータ要素の最適化を、高精度かつ柔軟に実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、システムの構成要素の処理要素とパラメータ要素をそれぞれ最適化するので、入力信号に対して高精度に最適化することができて信頼性が高く、しかもその構成要素が明確であって、入力信号に対する処理の過程が明確に把握でき、その解析も容易なシステムの設計を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るシステム設計装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図5】(a)(b)は入力端子部分の設計例を示す図、(c)(d)(e)は出力端子部分の設計例を示す図である。
【
図6】遺伝的アルゴリズムを説明するための図で、(a)は初期集団を示し、(b)は交叉の一例を示し、(c)は突然変異の一例を示している。
【
図7】コンピュータの一般的な構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係るシステム設計装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係るシステム設計方法を説明するための図である。
【
図10】粉体充填機の概略構成を示す断面正面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係るシステム設計方法の具体例を説明するための図である。
【
図12】
図11に続く、本発明の第2実施形態に係るシステム設計方法の具体例を説明するための図である。
【
図13】
図12に続く、本発明の第2実施形態に係るシステム設計方法の具体例を説明するための図である。
【
図14】
図13に続く、本発明の第2実施形態に係るシステム設計方法の具体例を説明するための図である。
【
図15】
図14に続く、本発明の第2実施形態に係るシステム設計方法の具体例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るシステム設計装置とその方法は、基本的には、入力信号を処理しその処理結果を出力信号として出力する各種のシステムを、コンピュータを用いて自動的に設計するものである。
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係るシステム設計装置の概略構成を示すブロック図である。
システム設計装置は、記憶手段100、システム初期個体作成手段(システム個体生成手段)101、演算手段102、評価手段103、要素最適化手段104の各構成部を備えている。
【0020】
記憶手段100には、設計するシステムを構成するための要素(すなわち「構成要素」)10をあらかじめ記憶してある。ここで、構成要素10は、入力信号を処理するための「処理要素11」の選択肢と、この処理要素11が処理する際に用いるパラメータのとりうる範囲を規定した「パラメータ要素12」とが、記憶手段100に記憶してある。
【0021】
例えば、任意のシステムがフックの法則に従う場合は、入力信号X(ばねの伸び)に対して、ゲインkを掛ける(kX)ことで、出力F(ばねから受ける力)を得る。この場合のkXが処理要素11に該当し、パラメータkのとりうる範囲がパラメータ要素12に該当する。
しかし、任意のシステムがフックの法則に従うか否か不明の場合は、システムに使用される処理要素が不明である。本発明では、処理要素が不明なシステムから自動的にシステムを設計できるようにするために、システムに使用される可能性のある処理要素11(kX、k/X、cosX等々)と、パラメータkのとりうる範囲(パラメータ要素12)とが記憶手段100に記憶されている。
【0022】
また、本実施形態で用いる処理要素11は、後述するように格子状に配置される構成要素10の各々が、行方向(X方向)か、または行方向(X方向)と列方向(Y方向)の二方向から信号を入力する構成となっている。
【0023】
図2および
図3は、処理要素の具体例を示す図である。
これらの図に示す具体例では、処理要素11を回路要素と演算要素とに区分して各種取り揃えている。回路要素は、信号の伝送経路を構成する経路要素である。
図2に示す処理要素11は、複数の方向からの信号を重畳して入力できる構成となっている。一方、
図3に示す処理要素11は、一方向からの信号のみを入力する構成となっている。
【0024】
なお、これらの図に示した処理要素11の中には、「a」や「b」の係数で示されたパラメータを含むものと、含まないものが混在している。例えば、経路要素、乗算器(MP)、符号関数(SGN)、アークサイン(ASIN)、アークコサイン(ACOS)、アークタンジェント(ATAN)の処理要素11は、パラメータを含んでいない。
【0025】
図1に戻り、システム初期個体作成手段101は、記憶手段100に記憶してある処理要素11とパラメータ要素12を用いてシステム個体を構成する機能を備えた構成部である。
システム初期個体作成手段101は、次の手順で初期のシステム個体を生成する。まず、記憶手段100に記憶してある処理要素11とパラメータ要素12を任意に選択し、それら選択した処理要素11とパラメータ要素12とを組み合わせることで、一つの構成要素10を作成する。これを繰り返して、複数種類の構成要素10を作成する。
【0026】
上述したように、処理要素11の中にはパラメータを含まないものがある。そのような処理要素11に対しては、パラメータなしを意味するパラメータ要素12を組み合わせればよい。
【0027】
次に、作成した複数種類の構成要素10を任意に組み合わせて初期の「システム個体13」を生成する。後述する要素最適化手段104では、システム個体13を単位として、そこに含まれる構成要素10を最適化するための操作が行われる。
【0028】
図4は、システム個体の信号処理を実行する際の構成例を示す図である。同図に示すように、本実施形態では、システム個体を構成する個々の構成要素10を格子状に配置して、演算手段102による信号処理を実行している。このように、個々の構成要素10を格子状に配置して、複数段の構成要素10によりシステム個体13を構成することで、より精密なシステムを構成することができる。
【0029】
ここで、第1列目に配置した各構成要素10には、それぞれ入力端子14が接続され、また最終列に配置した各構成要素には、それぞれ出力端子15が接続される。そして、任意の入力端子14から入力信号を入力し、システム個体13で処理した結果を任意の出力端子15から出力信号として出力する。
図5(a)(b)は入力端子部分の設計例を示す図であり、同図(c)(d)(e)は出力端子部分の設計例を示す図である。
入力端子14に関しては、同図(a)に示すように、一つの入力端子14から信号を入力する構成にすることもでき、また同図(b)に示すように、すべての入力端子14からそれぞれ信号を入力する構成にすることもできる。
また、出力端子15に関しても、同図(c)に示すように、一つの出力端子15から信号を出力する構成のほか、同図(d)に示すように、すべての出力端子15からの信号を重畳して出力したり、同図(e)に示すように、すべての出力端子15からそれぞれ信号を出力する構成にすることもできる。なお、
図5に示したこれらの設計例は単なる例示であり、これら以外の構成にしてもよいことは勿論である。
【0030】
入力端子部分や出力端子部分の各種構成も、処理要素11として、あらかじめ記憶手段100に記憶しておき、それらを任意に選択してシステム個体13を構成することができる。これにより、出力信号の計算に重要な入力パラメータの種類が未知であった場合でも、最適なシステムの設計が可能になる。また、システム設計に際して、入力端子部分や出力端子部分の構成をユーザが指定し、当該ユーザが指定した構成を利用してシステム個体を構成してもよい。
【0031】
演算手段102は、システム初期個体作成手段101により構成したシステム個体13に対して、入力信号を演算処理してその処理結果を出力信号として出力する。
本実施形態では、
図4に示したように、格子状に構成要素10を配置した構成のシステム個体13に対して、各構成要素10に含まれる処理要素11の機能に応じて、各構成要素10に入力信号を伝達して行くことで、各構成要素10による演算処理を逐次実行していくので、迅速な処理を実現することができる。
【0032】
評価手段103は、演算手段102によってシステム個体から出力された出力信号(処理結果)を、あらかじめ設定してある評価基準に基づいて評価する。
例えば、出力信号の真値との差の大きさに応じて評価レベルを設定し、システム個体13からの出力信号がどの評価レベルに該当するかをもって評価の結果とすることができる。また、評価手段103は、入出力の関係性の評価のみならず、外乱応答や目標値追従特性などのさまざまな指標を基に評価することもできる。
【0033】
要素最適化手段104は、評価手段103による出力信号の評価に基づいて、システム個体13を構成する構成要素10(すなわち、処理要素11とパラメータ要素12の各々)を最適化する。本実施形態では、この最適化の手法として遺伝的アルゴリズムの手法を用いている。
ここで、構成要素10(処理要素11およびパラメータ要素12)が遺伝的アルゴリズムで定義される遺伝子20に、システム個体13が遺伝的アルゴリズムで定義される個体21にそれぞれ相当する。
【0034】
遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithm)は、生物の進化の過程をまねた進化処理を実行して最適解を得ようとする探索手法である。具体的には、
図6(a)に示すように、情報が書き込まれた構成要素(遺伝子20)を組み合わせて複数種類の個体(染色体)21を生成する。その後に、各々の個体21に対して適応度の評価を行う。そして、適応度が高いものを次世代へ残すという観点から、各個体21に対して遺伝子操作による最適化を実行し、さらに適応度の高い次世代の個体21を生成していく。この一連の操作を繰り返しながら個体21を進化させ、あらかじめ設定した要求精度の個体21が得られた段階で進化処理を終了する。
個体21に対する遺伝子操作による最適化の態様としては、例えば、選択、交叉、突然変異などがある。
図6(b)は交叉の一例を示しており、2つの個体の一部を互いに組み替えている。また、
図6(c)は突然変異の一例を示しており、個体を構成する一部の遺伝子20を別の遺伝子20に変更している。
【0035】
このような遺伝的アルゴリズムの手法を利用して、上述した評価手段103によるシステム個体13の評価を実行するとともに、当該評価に基づいてシステム個体13を構成する処理要素11およびパラメータ要素12を最適化し、所望の要求精度を備えたシステムの構成を完成させる。
【0036】
図1に示す各構成部を備えた本実施形態に係るシステム設計装置は、具体的にはコンピュータを用いて構成することができる。
図7はコンピュータの一般的な構成を示すブロック図である。同図に示すように、コンピュータは、中央処理部(CPU:Central Processing Unit)200、RAM(Random Access Memory)201、記憶部202、入力部203、表示部204などの各構成部を備えている。
【0037】
記憶部202は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置や、回路基板に直接接続されたROM(Read Only Memory)を含んでいる。本実施形態に係るシステム設計装置の記憶手段100は、この記憶部202によって構成され、処理要素11、パラメータ要素12、入力端子部分や出力端子部分の各種構成などは、この記憶部202に記憶される。また、上述した手順でシステムの設計を実行するためのプログラムも、この記憶部202にあらかじめ記憶してある。
【0038】
中央処理部200は、記憶部202から読み出したプログラムや各種のデータをRAM201に一時保存して、当該プログラムに従って一連の処理を実行する。このプログラムと中央処理部200により、本実施形態に係るシステム設計装置のシステム初期個体作成手段101、演算手段102、評価手段103、要素最適化手段104が構成される。
【0039】
入力部203は、ユーザによる操作をもってデータの入力や指令、手動操作などを実行する構成部であり、キーボードやマウスなどで構成される。表示部204は、液晶ディスプレイなどで構成され、処理過程における各種の操作画面や、各種の処理結果などがこの表示部204に表示される。
【0040】
〔第2実施形態〕
図8は本発明の第2実施形態に係るシステム設計装置を示す図、
図9は同実施形態に係るシステム設計方法を説明するための図である。
【0041】
本実施形態では、システム個体13の構成要素10を階層化し、段階的に最適化していく構成としてある。そのために、本実施形態に係るシステム設計装置は、
図8に示すように、構成要素追加手段105を備えている。構成要素追加手段105は、最適化されたシステム個体13に、さらに新たな構成要素10を作成して追加する機能を備えている。この構成要素追加手段105は、
図7に示したコンピュータの中央処理部200によって構成される。
なお、
図8において先に示した
図1と同一又は相当する手段には同じ符号を付し、同手段の詳細な説明は省略する。
【0042】
本実施形態のシステム設計方法では、例えば、
図9(a)のように構成要素10を格子状に配列したシステム個体13を最終的に設計する場合、システム初期個体作成手段101は、まず格子の一行目に相当する第1の階層13aの構成要素10aだけでシステム個体13を構成する(同図(b)を参照)。
【0043】
そして、演算手段102が、このシステム個体13に対して、入力信号を演算処理してその処理結果を出力信号として出力する。
【0044】
評価手段103は、演算手段102によってシステム個体13から出力された信号(処理結果)を、あらかじめ設定してある評価基準に基づいて評価する。
【0045】
要素最適化手段104は、評価手段103による出力信号の評価に基づいて、第1の階層13aの構成要素10aを最適化する(初期適正化ステップ)。
このような手順で第1の階層13aの構成要素10aで構成されたシステム個体13を設計する。
【0046】
次いで、
図9(c)に示すように、最適化された構成要素10aからなる第1の階層13aに、構成要素追加手段105により、新たに作成した構成要素10bの組み合わせからなる第2の階層13b(格子の二行目に相当)を追加し、これら第1の階層13aの構成要素10aと第2の階層13bの構成要素10bとを含むシステム個体13を生成する。
【0047】
そして、演算手段102が、このシステム個体13に対して、入力信号を演算処理してその処理結果を出力信号として出力する。
【0048】
評価手段103は、演算手段102によってシステム個体13から出力された信号(処理結果)を、あらかじめ設定してある評価基準に基づいて評価する。
【0049】
要素最適化手段104は、評価手段103による出力信号の評価に基づいて、第2の階層13bの構成要素10bを最適化する(追加適正化ステップ)。ここでの最適化の対象は、新たに追加した第2の階層13bを構成する構成要素10bのみとし、先に最適化が終了している第1の階層13aを構成する構成要素10aはそのままの構成を保持する。このような手順で、第1の階層13aの構成要素10aと第2の階層13bの構成要素10bとを含むシステム個体13を設計する。
【0050】
このようにして、構成要素追加手段105が、新たに作成した構成要素10の組み合わせからなる下位の階層を順次追加していき(
図9(d)を参照)、追加した構成要素10を最適化して(追加適正化ステップ)、最終的に
図9(a)に示すような格子状に構成要素10が配置された構成のシステム個体13を設計する。
【0051】
このようにシステム個体13を階層化して順次最適化していくことで、重要な構成要素10から段階的に設計していくことができる。そして、要求精度を満たすシステムができた時点で設計を終了することで、柔軟なシステム設計が可能となる。
【0052】
本実施形態に係るシステム設計装置とその方法によれば、新たに追加する構成要素10の組み合わせをもって下位の階層を作成する際に、装置とユーザとが対話しながら当該構成要素10の組み合わせを決定する操作を組み込むこともできる。また、処理要素準備や評価手段103による評価方法など、システム設計の過程の一部において、ユーザの知識や意思を反映させることも可能である。
具体的には、
図7に示す入力部203からユーザの知識や意思に基づく指令やデータなどを入力し、その入力をシステム設計に反映させることができる。
【0053】
〔第2実施形態の具体例〕
次に、上述した第2実施形態に係るシステム設計方法を用いて、粉体充填機の摩擦補償器に関するシステムを設計するための具体例について、
図10~
図15を参照して説明する。
図10に示すように、粉体充填機は、ホッパ301と称する漏斗状の貯留部に粉体を貯留しておき、モータ302の回転駆動力をもってオーガスクリュー303を回転することにより、ホッパ301の粉体がファネルチューブ304の中空部内を下方に運ばれて行き、ファネルチューブ304の下端開口部から排出され、その下方に配置した包装袋に充填される構成となっている。また、ホッパ301内には、アジテータ305と称する撹拌部材が設けてあり、モータ302の回転駆動力をもってこのアジテータ305が回転してホッパ301内の粉体を撹拌することにより、粉体が円滑にファネルチューブ304へと導かれるようにしている。
【0054】
さて、このような構成をした粉体充填機では、モータ302の駆動により適正量の粉体がファネルチューブ304の下端開口部から排出される。そのような定量充填を実現するためには、充填対象となる粉体からオーガスクリューやアジテータが受ける粉体トルクを正確に検出する必要がある。しかし、粉体充填機には、例えば、モータの動力伝達系統に種々の要因から摩擦トルクが作用している。そのため、オーガスクリューやアジテータが受ける粉体トルク以外の摩擦トルクを除去して、モータを駆動制御にフィードバックする目的で、摩擦補償器が設けられている
【0055】
この摩擦補償器を上述した第2実施形態に係るシステム設計方法を用いて設計するには、例えば、
図11~
図15に示したステップ1~8の処理工程を順次実行していけばよい。
まず、
図11に示すように、構成要素10を組み合わせて複数種類のシステム初期個体13-1~13-Nを生成する(ステップ1)。これらのシステム初期個体13-1~13-Nは、例えば、
図2に示した処理要素からモータの回転速度(角度速度)に影響を与える基本的な静止摩擦トルクと粘性摩擦トルクを除去するための処理要素11に着目して適宜構成要素10を作成し、それらの構成要素10を組み合わせて生成すればよい。
このステップ1の処理は、
図8に示すシステム初期個体作成手段101によって実行される。
【0056】
次に、
図12に示すように、複数種類のシステム初期個体13-1~13-Nについて、それぞれ各構成要素10を格子状に配置する(ステップ2)。例えば、システム初期個体13-1の構成要素を二つの構成要素群10A,10Bに分け、一方の構成要素群10Aを1行目に配置し、他方の構成要素群10Bを2行目に配置する。
そして、各々のシステム初期個体13-1~13-Nに対して、入力信号を演算処理し、処理結果として出力された出力信号を評価する(ステップ3)。続いて、各システム初期個体13-1~13-Nに対する評価を基に、遺伝的アルゴリズムによりシステム個体の構成要素を最適化する(ステップ4)。
上述したステップ2~4の処理は、
図8の演算手段102、評価手段103および要素最適化手段104によって実行される。
【0057】
その後、
図13に示すように、最適化されたシステム個体を構成する格子状に配置された構成要素群の最下行(3行目)に新たな構成要素群を追加する(ステップ5)。ここで、追加する構成要素群は、例えば、
図2に示した処理要素からモータの回転角度に依存する摩擦トルクを除去するための処理要素に着目して適宜構成要素を作成し、それらの構成要素を組み合わせればよい。
このステップ5の処理は、
図8に示す構成要素追加手段105によって処理される。
【0058】
そして、当該システム個体に対して、演算手段102が入力信号を演算処理し、評価手段103が処理結果として出力された出力信号を評価し(ステップ6)、さらに要素最適化手段104が当該システム個体に対する評価を基に、遺伝的アルゴリズムによりシステム個体の構成要素を最適化する(ステップ7)。
【0059】
上述したステップ5~7は、
図14に示すように、満足のいく精度が得られるシステムが抽出されるまで繰り返される。
すなわち、最適化されたシステム個体を構成する格子状に配置された構成要素群の最下行に、構成要素追加手段105が別の新たな構成要素群を追加し(ステップ5)、当該システム個体に対して、演算手段102が入力信号を演算処理し、評価手段103が処理結果として出力された出力信号を評価し(ステップ6)、さらに要素最適化手段104が当該システム個体に対する評価を基に、遺伝的アルゴリズムによりシステム個体の構成要素を最適化する(ステップ7)。
【0060】
例えば、構成要素追加手段105は、最適化されたシステム個体を構成する構成要素群の4行目には、モータの回転角度に依存する別の摩擦トルクを除去するための処理要素に着目して適宜構成要素を作成し、それらの構成要素を組み合わせればよい。さらに、次に最適化されたシステム個体を構成する構成要素群の5行目には、モータの角加速度に依存する摩擦トルクを除去するための処理要素に着目して適宜構成要素を作成し、それらの構成要素を組み合わせればよい。
【0061】
このようにして新たな構成要素群を追加して階層化されたシステム個体の最適化が終了した後、そのように最適化されたシステム個体のコードを解析することで、
図15に示すように各構成要素の機能が理解できるシステム回路を得ることができる。
【0062】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変形実施や応用実施が可能であることは勿論である。
例えば、要素最適化手段104による最適化の手法としては、遺伝的アルゴリズム以外の手法を用いることも可能である。
また、追加適正化ステップにおいては、格子状に配置される「行」に新たな構成要素を追加するのみならず、「列」に新たな構成要素を追加して最適化することもできる。
さらに、システム個体を構成する各構成要素を行と列の2次元に配置するのみならず、多次元に配置して最適化することもできる。
【符号の説明】
【0063】
10:構成要素、11:処理要素、12:パラメータ要素、13:システム個体、14:入力端子、15:出力端子、
20:遺伝子、21:個体、
100:記憶手段、101:システム初期個体作成手段、102:演算手段、103:評価手段、104:要素最適化手段、105:構成要素追加手段、
200:中央処理部、201:RAM、202:記憶部、203:入力部、204:表示部、
301:ホッパ、302:モータ、303:オーガスクリュー、304:ファネルチューブ、305:アジテータ