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特許7302946光デバイス、およびこれを用いた光通信モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】光デバイス、およびこれを用いた光通信モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20230627BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20230627BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20230627BHJP
   H04B 10/00 20130101ALI20230627BHJP
【FI】
G02F1/01 F
G02F1/01 C
G02B6/12 363
G02B6/125 301
H04B10/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018045016
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019159075
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌樹
【合議体】
【審判長】瀬川 勝久
【審判官】吉野 三寛
【審判官】金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-79092(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0248521(US,A1)
【文献】特開2017-83507(JP,A)
【文献】特開2014-89310(JP,A)
【文献】特開2010-185979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一基板上に形成された変調部と受光部を有し複数のチャネルで光信号を送受信する光集積回路と、
前記光集積回路との間で電気信号を伝送する配線基板と、
を有し、
前記変調部の出力から前記光集積回路の出力ポートまでの第1光導波路と、前記光集積回路の入力ポートから前記受光部の入力までの第2光導波路において、前記出力ポートと前記入力ポートは前記光集積回路の同じ端面に設けられ、前記複数のチャネルの各々で光導波路は前記光集積回路の導波路レイアウト上で最短配置され、
前記配線基板は前記複数のチャネルに対応する複数の電気配線を有し、
前記光導波路の実効長と前記電気配線の実効長のトータルのチャネル長は、前記複数のチャネル間で同じになるように設定されていることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記第1光導波路または前記第2光導波路に配置される合分波器の合分波比率は、前記複数のチャネル間の前記光導波路の実効長の差による光損失の差を補うように等分からシフトして設定されていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記合分波器は、前記第1光導波路に挿入される合波カプラであり、前記合波カプラの合波比率は、実効長がより長い前記光導波路を通る光の合波比率が大きくなるように1:1からずれていることを特徴とする請求項2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記合分波器は、前記第1光導波路に挿入される偏波合成カプラであり、前記偏波合成カプラの結合比率は、実効長がより長い前記光導波路を通る光の偏波依存損失を低減するように1:1からずれていることを特徴とする請求項2に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記合分波器は、前記第2光導波路に挿入される偏波分離カプラであり、前記偏波分離カプラの結合比率は、実効長がより長い前記光導波路を通る光の偏波依存損失を低減するように1:1からずれていることを特徴とする請求項2に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記合分波器は、前記第2光導波路に配置される90°ハイブリッド光ミキサであり、前記90°ハイブリッド光ミキサの入力導波路に依存する分岐比が、実効長がより長い前記光導波路を通る光の損失を低減するように1:1からずれていることを特徴とする請求項2に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記配線基板は、前記光集積回路に入力され、または前記光集積回路から出力される前記電気信号を外部へ中継する中継基板であり、
前記複数の電気配線の配列中心は、前記中継基板の信号配列方向の中心からオフセットしていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記配線基板は、前記複数のチャネルに対応する前記電気配線が形成されたフレキシブルプリント回路基板を含み、前記中継基板と前記フレキシブルプリント回路基板の少なくとも一方で、前記複数のチャネル間での前記光導波路の実効長の相違を補償するように、前記電気配線の実効長が調整されていることを特徴とする請求項7に記載の光デバイス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光デバイスと、
前記光デバイスに光を入射する光源と、
前記光デバイスに入力される、または前記光デバイスから出力される信号を処理する信号処理回路と、
を有する光通信モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信で用いられる光デバイスとこれを用いた光通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される情報通信端末の普及、IoT(Internet of Things)技術の進展などにより、大容量の光伝送技術への要求が高まっている。送信側では、光変調信号の多値化と波長多重(WDM:Wavelength Division)により大容量の伝送を実現している。受信側では、受信光信号をコヒーレント検波してデジタル信号処理を施すデジタルコヒーレント技術により、高速の大容量通信に対処している。
【0003】
一般的に、光送信器(Tx)は、光変調器と、光変調器を駆動するドライバを有し、光受信器(Rx)として、集積コヒーレント受信器(ICR:Integrated Coherent Receiver)が用いられている。変調器パッケージは、多値度あるいは多重数が大きくなるほどサイズが大きくなる。受信側のICRのサイズも同様である。
【0004】
ドライバ、変調器、ICRをそれぞれ個別のチップまたはパッケージにしてプリント基板上に実装すると、光送受信モジュールのサイズが大きくなる。変調器とICRを光集積回路(IC:Integrated Circuit)に集積し、電気回路であるドライバを光ICと同じパッケージ内に配置することで、光送受信モジュールのサイズを低減することができる。
【0005】
大容量化のために複数のチャネルで送受信を行う場合、光送信器に入力された高周波(RF:Radio Frequency)信号が、光信号の出力時にチャネル間で出力タイミングが合うように調整される。光受信器で受信された光信号も、RF電気信号として出力されるときにチャネル間で出力タイミングが合うように調整される。これにより、送信側と受信側の双方で、チャネル間のスキューが最小化されている。
【0006】
光信号チャネル間のスキューを電気配線長の調整により補償する構成(たとえば特許文献1~3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-79092号公報
【文献】米国特許出願公開第2016/0248521A1
【文献】米国特許出願公開第2007/0003184A1
【文献】特開第2011-199687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1は、光IC1002と、電気回路であるドライバ1006及びトランスインピーダンスアンプ(TIA:Trans-Impedance Amplifier)1022を同じパッケージ1001内に配置したときのスキュー調整を示す。ドライバ1006への入力を中継する中継基板1003で、RF電極1007の長さをチャネル間で等しくする。TIA1022の出力を中継する中継基板1004で、RF電極1008の長さをチャネル間で等しくする。さらに光IC1002では、変調部1005の出力から送信器Txの出力までの光導波路1011Tの長さをチャネル間で等しくし、光受信器Rxの入力から受光部1021の入力までの光導波路1011Rの長さを、チャネル間で等しくする。RF電極1007のそれぞれでチャネル間の電気信号のタイミングが揃い、光導波路1011Tのそれぞれでチャネル間の光信号のタイミングが揃う。同様に、光導波路1011Rのそれぞれでチャネル間の光信号のタイミングが揃い、RF電極1008のそれぞれでチャネル間の電気信号のタイミングがそろう。これにより、スキューが最小になる。
【0009】
光IC1002上で、複数のチャネル間で光導波路長を同じにするために、光導波路1011Tと、光導波路1011Rのそれぞれで、最も長いチャネル長に他のチャネルの長さを合わせている。チャネルによっては、最短配置と比較して光導波路が長くなる場合がある。
【0010】
従来の空間光学系やPLC(Planar Lightwave Circuit:プレーナ光波回路)を用いた構成では、伝搬損失がほとんど生じないか、極めて小さく、光路長を長くしても過剰損失はほとんど発生しない。しかしシリコン導波路は伝搬損失が大きく、導波路長が長くなると過剰損失が生じ、光送信器の出力パワー(Tx出力)と光受信器からのRF信号出力(Rx出力)が低下する。
【0011】
本発明は、光ICを用いた小型の光デバイスにおいて、スキューを調整し、かつ光損失を低減して光デバイスの出力特性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの態様では、光デバイスは、
変調部と受光部を有し複数のチャネルで光信号を送受信する光集積回路と、
前記光集積回路との間で電気信号を伝送する配線基板と、
を有し、
前記変調部の出力から前記光集積回路の出力ポートまでの第1光導波路と、前記光集積回路の入力ポートから前記受光部の入力までの第2光導波路において、前記複数のチャネルの各々で光導波路が最短で配置され、
前記配線基板は前記複数のチャネルに対応する複数の電気配線を有し、
前記複数の電気配線の長さは、前記複数のチャネル間の前記光導波路の長さの差を補償する長さに設定されている。
【発明の効果】
【0013】
光ICを用いた小型の光デバイスで、スキュー調整と光損失低減を実現して、光デバイスの出力特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の光デバイスでのスキュー調整の構成例を示す。
図2】第1実施形態の光デバイスの構成例を示す図である。
図3】分岐カプラに方向性結合器を用いたときの分岐比率の調整を説明する図である。
図4】分岐カプラにMMIカプラを用いたときの分岐比率の調整を説明する図である。
図5】第2実施形態の光デバイスの構成例を示す図である。
図6】第3実施形態の光デバイスの構成例を示す図である。
図7】光デバイスの変形例を示す図である。
図8】実施形態の光デバイスを用いた光通信モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態では、光ICを用いた光デバイスで、変調部から出力ポートの間、及び/または入力ポートから受光部の間で、それぞれのチャネルを最短の光導波路でつなぐ。各チャネルの光導波路を最短配置にすることにより生じるチャネル間の光導波路長の差異は、光ICとの間で電気信号を伝送する信号配線の長さを変えることで補償する。
【0016】
ここで、「最短配置」とは、変調器の出力と出力ポートの間、あるいは入力ポートと受光部の入力の間を幾何学上の最短直線で結ぶという意味ではない。導波路レイアウト上で最短の、あるいは最も効率的な配置がなされており、チャネル間のタイミングを合わせるための光パスの延長、または遅延ラインの付加がなされていないことをいう。
【0017】
光IC上で、光導波路が各チャネル(または各信号パス)で最短配置されると、チャネルによって光導波路の長さが異なることがあり得る。このチャネル間での光導波路長の差は、電気配線の長さを調整することで補償される。チャネル間の光導波路が長いチャネルは、配線基板で短い信号配線または電極に接続される。光導波路が短いチャネルは、配線基板で長い信号配線または電極に接続される。光導波路の実効長と、電気配線の実効長のトータルのチャネル長をチャネル間で同じにすることで、スキューを調整する。
【0018】
光ICの光導波路をそれぞれのチャネルで最短配置とすることで、光ICを小型にすることができる。光ICでは、光導波路の長さが短いほど伝搬損失が少ない。最短配置によりチャネル間で光導波路長が異なると、チャネルごとに光損失が異なることがあり得る。この場合、光導波路の合分波比率を調整することで、チャネル間で損失のばらつきを抑制し、かつ光デバイス全体としての光パワーを向上することができる。
【0019】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態の光デバイス1Aの概略構成図である。図2の例では、光デバイス1Aは互いに直交する2つの偏波成分と、互いに直交する2つの位相成分を用いて4つの論理値を表わすDP-QPSK(Dual Polarization-Quadrature Phase Shift Keying:偏波多重直交位相偏移)方式の光デバイスである。
【0020】
光デバイス1Aは、光通信のフロントエンドで用いられる光電気変換チップであり、光集積回路2(以下、「光IC2」と略称する)と、ドライバ回路6と、TIA回路22と、中継基板3及び4を有する。
【0021】
光IC2は、集積基板上に形成された変調部5と受光部21を有する。変調部5は、光変調器XI、XQ、YI、YQを有する。光変調器XI、XQ、YI、YQは、ドライバ回路6の対応するドライバから出力される高速のRF信号で駆動され、LD(レーザダイオード)等の光源から入力される光を変調する。
【0022】
変調部5に入力される光は、分岐カプラ12cで2つに分岐され、各分岐光は分岐カプラ12aと12bによりさらに分岐されて、光変調器XI、XQ、YI、YQに入力される。光変調器XI、XQ、YI、YQの各々は、たとえばマッハツェンダ干渉計で形成され、駆動信号の電圧レベルに応じた干渉光が光導波路111a、111b、111c、111dに出力される。
【0023】
光導波路111aと111bは、合波カプラ112aで合波される。光導波路111cと111dは、合波カプラ112bで合波される。合波カプラ112aの出力と、合波カプラ112bの出力のいずれか一方は、偏波ローテータ113によって偏光方向が90°回転されて、互いに直交する偏波となる。2つの偏波は偏波ビームコンバイナ114で合波されて、送信(Tx)光信号として光IC2の出力ポートPoutから出力される。
【0024】
受信(Rx)側で、光信号は光IC2の入力ポートPinから入力され、偏波ビームスプリッタ121で2つの光成分に分離される。一方の光成分の偏波方向が、偏波ローテータ122によって90°回転された後に、90°ハイブリッド光ミキサ123aと123bにそれぞれ入力される。
【0025】
LDからの光の一部が局発光(LO)として用いられ、90°ハイブリッド光ミキサ123aと123bに局発光が入力される。光ミキサ123a、123bは、信号光と局発光を干渉させて4つの光成分を出力する。これらの光成分は受光部21で検出される。
【0026】
受光部21は、光検出器PDXI、PDXQ、PDYI、及びPDYQを有する。光検出器PDXI、PDXQ、PDYI、及びPDYQは、たとえばバランス型の光検出器であり、受光部21から4対の差動電流が出力される。差動電流はTIA回路22で電圧信号に変換されて差動電圧信号が出力される。
【0027】
差動電圧信号は、中継基板4に形成された差動信号配線8a~8bによって、光デバイス1Aから出力される。
【0028】
実施形態の特徴として、変調部5から出力ポートPoutまでの光導波路111Tは、各チャネル(信号パス)で最短の配置となっている。また、入力ポートPinから受光部21までの光導波路111Rは、各チャネル(信号パス)で最短の配置となっている。受信側の光導波路111Rには、入力ポートPinから延びる光導波路131、偏波ビームスプリッタ121から90°ハイブリッド光ミキサ123a、123bまで延びる光導波路131aと131b、及び90°ハイブリッド光ミキサ123a、123bから受光部21まで延びる4対の光導波路132a~132dが含まれている。
【0029】
光導波路111Tと光導波路111Rを、各チャネルで最短配置としたことで、光IC2のレイアウトが簡単になり、かつサイズを低減することができる。シリコンフォトニクスで作製される光IC2では、チャネル間のスキューを解消するために各チャネルに遅延パスを設けると、遅延パスの分だけ光の損失が大きくなり、出力パワーが減少する。実施形態の光IC2は、最短の光導波路とすることで、各チャネルで光損失を最小にすることができる。
【0030】
光導波路111Tと光導波路111Rで、各チャネルを最短構成にすると、チャネル間で伝送時間差(スキュー)が生じる。光IC2でのスキューを補償するために、電気の信号配線の長さを調整して、実効的なチャネル長を同じにする。
【0031】
具体的には、ドライバ回路6の各入力に接続される中継基板3の信号配線(またはRF電極)7a~7dの長さは、光導波路111Tの長さに応じて調整されている。同様に、TIA回路22の各出力に接続される中継基板4の信号配線(またはRF電極)8a~8dの長さは、光導波路111Rの長さに応じて調整されている。
【0032】
中継基板3では、最も長い光導波路111aに対応する電気の信号配線7aの長さを短くし、最も短い光導波路111dに対応する電気の信号配線7dを長くする。中継基板4では、入力ポートPinから受光部21までの長さが最も短いチャネルに接続される差動の信号配線8dを最も長くする。入力ポートPinから受光部21までの長さが最も長いチャネルに接続される差動の信号配線8aを最も短くする。
【0033】
図2の例では、中継基板3で信号配線7の配列の中心が中継基板3の中心にある。中継基板4で信号配線8の配列の中心は中継基板4の中心にある。中継基板3で、最も短い信号配線7aを基準として、光導波路111Tの導波路長の差に応じて他の信号配線7b~7dの長さを伸ばしている。中継基板4でも、最も短い信号配線8aを基準として、光導波路111Rの導波路長の差に応じて他の信号配線8b~87dの長さを伸ばしている。
【0034】
各チャネルで光導波路の実効長と電気の信号配線の実効長を足し合わせたトータルのチャネル長が、チャネル間で等しくなり、光デバイス1Aでスキューを抑制することができる。
【0035】
図2で、光導波路111Tと光導波路111Rを最短配置とする場合、チャネル間で導波路長が異なり得る。シリコンフォトニクスを用いた光ICの場合、チャネル間で導波路長が異なると、長いチャネルで短いチャネルよりも光損失が大きくなり、I-Q間(位相間)、またはX-Y間(偏波間)で損失差が発生する。I-Q間、及び/または偏波間に損失差があると、変調部5の各変調器の消光比、偏波依存損失、受信側のX-Y間、I-Q間の受光感度バランス等が劣化する場合がある。
【0036】
そこで、光導波路の長いチャネルを通る光の損失を補うように、光導波路111Tまたは光導波路111Rに配置される合分波器の分岐比を等分(1:1)からシフトさせる。
【0037】
たとえば、長さの異なる光導波路111aと111bを光学的に結合する合波カプラ112aと、長さの異なる光導波路111cと光導波路111dを光学的に結合する合波カプラ112bで結合比率を制御して、長いチャネルを通る光の損失を補償する。同様に、偏波ビームコンバイナ114の合波比率を、長い光導波路の合波比率が高くなるように設定して、偏波依存損失比を1:1からシフトさせる。
【0038】
合波比率は、合波器を方向性結合器やMMI(Multi-Mode Interference:多モード干渉)カプラで形成して、作用長、カプラ長等を調整することで調整可能である。また、最も長い光導波路111aの断面積(または幅)が最も大きく、最も短い光導波路111dの断面積(または幅)が最も小さくなるように導波路を設計にしてもよい。
【0039】
受信側では、偏波ビームスプリッタ121の分岐比と、90°ハイブリッド光ミキサ123a、123bの分岐比は、たとえば光導波路のY分岐部に方向性結合器、MMIカプラ等を接続して、作用長を制御することで調整可能である。
【0040】
図3は、方向性結合器による作用長の調整を説明する図である。長い光導波路への分岐比が、短い光導波路への分岐比よりも大きくなるように、方向性結合器の作用長を調整して、長い光導波路を通る光の損失を補う。
【0041】
図4は、分岐カプラにMMI(Multi-Mode Interference:多モード干渉)カプラを用いるときの調整例を示す。図4の(A)に示すように、カプラ長を調整して、長い光導波路への分岐比率を大きくする。あるいは、図4の(B)に示すように、スラブ導波路の中心に対する入出力導波路の位置d1、d2を調整することで、分岐比率を調整することができる。図4の(C)のように、MMIカプラの入出力導波路の幅w1、w2を調整してもよい。
【0042】
チャネル間での光導波路長の差を補償するように合分波の比率を調整することで、各光導波路からの出力をバランスさせ、消光比、偏波依存損失、X-Y間及びI-Q間の受光感度バランス等の劣化を防ぐ。
【0043】
図2に戻って、図2の構成では、各チャネルで最短の導波路配置がとられているので、光デバイス1Aの全体として、伝搬損失が最小になっている。たとえば、送信側のY偏波の光導波路111cと111dは、図1の構成と比較して短くなった分だけ、光の損失が低減されている。ここで得られた光パワーの半分をX偏波側に配分する。同様に、IチャネルとQチャネルのうち、Q側の光導波路111bと111dが図1の構成と比較して短くなった分、光の損失が抑制されている。ここで得られた光パワーの半分をI側に配分する。
【0044】
X-Y間、及びI-Q間のトータルの光パワーは、光導波路長をチャネル間で等しくする図1の構成で得られる光パワーよりも大きい。光導波路の長さの差により発生するスキューは、電気の信号配線7及び8の長さを調整してチャネル間でトータルのチャネル長を等しくすることで、抑制されている。
【0045】
これにより、光ICを用いた小型の光デバイスにおいて、スキューを調整し、かつ光損失を低減して光デバイスの出力特性を向上することができる。
【0046】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の光デバイス1Bの概略構成図である。第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する。
【0047】
光IC2、ドライバ回路6、及びTIA回路22の構成は第1実施形態と同じである。すなわち、光導波路111Tと光導波路111Rは、各チャネルで最短の経路配置となっており、光デバイス1B全体での伝搬損失が最小になっている。光導波路の長さの差によるチャネル間の光損失の差は、合分波の比率を調整することで補償されている。また、光導波路の長さの差によるタイミング差(スキュー)は、電気配線の長さを調整することで低減する。
【0048】
第2実施形態では、中継基板3Bの信号配線7と、中継基板4Bの信号配線8の配置を工夫する。第1実施形態では、中継基板3と中継基板4で、信号配線の配列中心と基板中心を一致させていた。第2実施形態では、信号配線の配列中心(出力の中心)を、基板のチャネル配列方向の中心からオフセットさせることで、信号配線全体の長さを短縮する。
【0049】
中継基板3Bに形成された信号配線7a~7dの出力中心Csigは、中継基板3Bの中心Csubから配列方向にdxだけオフセットしている。オフセット量は、配線レイアウトの範囲内で、長い光導波路111aに接続される信号配線7aの長さ自体が最も短くなる量である。
【0050】
信号配線7aの長さ自体を配線レイアウトの範囲内で最短にしたうえで、信号配線7aを基準として、その他のチャネルの信号配線の長さを、チャネル間の長さばらつきを補償するように調整する。したがって、残りの信号配線7b~7dの長さも従来構成と比較して短縮することができる。
【0051】
同様に、中継基板4Bに形成された差動の信号配線8a~8dの出力中心Csigは、中継基板4Bの中心Csubからdx’だけ配列方向にオフセットしている。オフセット量は、配線レイアウトの範囲内で、長い光導波路(光導波路131→131a→132aの経路)に接続される信号配線8aの長さ自体が最も短くなる量である。
【0052】
信号配線8aの長さ自体を最短にしたうえで、この信号配線8aを基準として、その他のチャネルの信号配線の長さを、チャネル間の長さばらつきを補償するように調整する。したがって、残りの信号配線8b~8dの長さも従来構成と比較して短縮することができる。
【0053】
信号配線7a~7d、及び信号配線8a~8dの配線長を短縮することで、高周波(RF)信号の損失を低減して帯域を改善することができる。光導波路と信号配線の双方で伝搬損失が低減され、デバイスの伝送特性が向上する。光IC2を用いた小型の光デバイス1Bで、スキューの調整と光損失の低減を実現して、光デバイスの出力特性を向上することができる。
【0054】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態の光デバイス1Cの概略構成図である。第1実施形態及び第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する。
【0055】
第3実施形態では、入力ポートPinと出力ポートPoutを含むファイバ接続部10を光IC2の端面またはエッジの中央付近に配置する。ファイバ接続部10には、外部光源(LD)から光IC2への入力光を導く入射ポートが含まれていてもよい。
【0056】
図2及び図5の構成と比較して、ファイバ接続部10を光ICのエッジの中央部に配置することで、光導波路111Tの各チャネルの長さを最短配置し、かつ光導波路Tの全体で導波路長が短縮されている。また、チャネル間での導波路長の差が小さい。受信側の光導波路111Rの長さにほとんど影響せずに、送信側の光導波路111Tの長さを全体として短縮することができる。
【0057】
ファイバ接続部10の位置の変化にともなって、受信側では、光導波路131→131a→132aを通る信号パスの長さが最も短くなり、光導波路131→131b→132dを通る信号パスの長さが最も長くなる。図2及び図5の構成と比較して、入力ポートPinから受光部21への導波路レイアウトが反転されただけで、導波路長に影響はない。
【0058】
光導波路111Tのチャネル間の導波路長の差は、中継基板3Cの信号配線7a~7dの長さを調整することで補償される。光導波路111Rのチャネル間の導波路長の差は、中継基板4Cの信号配線8a~8dの長さを調整することで補償される。このとき、第2実施形態のように、信号配線配列の出力中心Csigを中継基板の信号配列方向の中心Csubから所定量オフセットさせてもよい。これにより、電気の信号配線の長さを全体として低減して、光導波路と電気配線の双方で伝送損失を最小にして、光デバイス1Cの出力を大きくすることができる。
【0059】
<変形例>
図7は、変形例の光デバイス1Dの概略構成図である。光デバイス1Dは、パッケージ11のRFインタフェースに、フレキシブルプリント回路(FPC)40を用いている。中継基板3Dの信号配線7a~7dは、FPC40の信号配線41a~41dに接続されている。中継基板4Dの差動の信号配線8a~8dは、FPC40の差動の信号配線42a~42dに接続されている。
【0060】
この構成では、光導波路111Tのチャネル間の導波路長の相違と、光導波路111Rのチャネル間の導波路長お相違は、FPC40の信号配線(RF電極)の長さを調整することで、補償することができる。
【0061】
中継基板3Dの信号配線7a~7dの長さは同じであってもよい。中継基板4Dの信号配線8a~8dの長さは同じであってもよい。中継基板3D及び/または4Dの信号配線の長さが固定であっても、FPC40で電気の配線長を調整することができるので、光導波路111Tと光導波路111Rを最短配置にした場合でも、トータルのチャネル長をチャネル間で同じにすることができる。
【0062】
中継基板3DとFPC40の少なくとも一方、あるいは中継基板4DとFPC40の少なくとも一方で電気の配線長を、チャネル間の光導波路長のばらつきを補償するように調整してもよい。
【0063】
<光通信モジュールへの適用>
図8は、光デバイス1を用いた光通信モジュール100の概略図である。光通信モジュール100は、光デバイス1、光源ユニット(LD)106、及び信号処理回路(DSP)105を有し、これらの部品はパッケージ101内に収容されている。
【0064】
光デバイス1は、実施形態の光デバイス1A~1Cと、変形例の光デバイス1Dのいずれを用いてもよい。光デバイス1はパッケージ11内に光IC2、ドライバ回路6、TIA回路22、中継基板3,4が収容されており、小型化された光電気変換チップである。光デバイス1では、各チャネルで光導波路を最短配置にしてデバイス全体の光損失を抑制し、かつ電気の信号配線長を調整することで光ICのスキューを補償しており、良好な出力特性を有する。
【0065】
光デバイス1は、中継基板3及び4、またはFPC40によって、パッケージ基板を介して信号処理回路105に接続されている。信号処理回路105は、送信データに基づいてデジタルデータ信号を生成してドライバ回路6に供給する。ドライバ回路6は、デジタルデータ信号から変調部5を駆動する高速のアナログ駆動信号を生成し、各光変調器を駆動する。信号処理回路105はまた、光デバイス1から出力されるアナログ電気信号をデジタル信号に変換して、データ信号を復調する。
【0066】
光源ユニット106の出力光は、光デバイス1に入力される。入力光の一部は、光デバイス1の変調部5に導かれ、他の一部は、局発光として90°ハイブリッド光ミキサ123aと123bに導かれる。
【0067】
光デバイス1は、光IC2を用いて全体として小型化されている。上述のようにスキューが調整され、かつ光損失が抑制されているので、光通信モジュール100も小型化され良好な出力特性を有する。
【0068】
上述した実施形態は一例であり、種々の変形が可能である。光デバイス1の変調部の構成は、DP-QPSK方式の光変調だけではなく、16QAM方式やQPSK方式などで複数の光導波路で複数の信号パスまたはチャネルが形成される構成にも適用可能である。実施形態の光通信モジュール100は、データセンター内のサーバ間等の近距離の光通信に好適に適用されるが、データセンター間の光通信や、メトロネットワークの光通信網にも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1A~1C 光デバイス
2 光IC(光集積回路)
3、3A~3C、4、4A~4C 中継基板
5 変調部
6 ドライバ回路
7、7a~7d 信号配線
8、8a~8d 差動配線
12、12a、12b、12c 分岐カプラ
21 受光部
22 TIA回路
40 フレキシブルプリント回路
41a~41d、42a~42d 信号配線
100 光通信モジュール
105 DSP(信号処理回路)
106 LD(光源)
111、111T、111R 光導波路
112、112a、112b 合波カプラ
113、122 偏波ローテータ
114 偏波ビームコンバイナ
121 偏波ビームスプリッタ
123a、123b 90°ハイブリッド光ミキサ
132a~132d 出力導波路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8