(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】光センサのオンライン線形化
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
A61M1/16 117
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018091271
(22)【出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】10 2017 110 269.8
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517289480
【氏名又は名称】ベー・ブラウン・アヴィトゥム・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】B. BRAUN AVITUM AG
【住所又は居所原語表記】SCHWARZENBERGER WEG 73‐79, 34212 MELSUNGEN, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルデマール・ヤニク
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・デュール
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0213127(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0163034(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0326646(US,A1)
【文献】特開平11-137666(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02163271(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液回路の透析液側ドレンラインにある、現在の透析処理を測定するための光センサ(8)を有する透析装置であって、
―前記透析装置の前記透析液回路をシャントに切り替えることを繰り返す工程、
―シャント間隔とシャント継続時間とを調節する工程、及び透析液回路の透析液側ドレンラインにある前記光センサ(8)でデータを記録する工程、
―前記光センサ(8)の線形域を決定する工程、
―前記光センサ(8)の決定された前記線形域と非線形域にある記録された前記データに基づき、前記非線形域において記録された前記データを前記線形域からの記録された前記データによって後方外挿する工程、
―前記非線形域のために前記後方外挿されたデータで、前記非線形域にある前記光センサ(8)の記録された前記データを補正又は置換する工程、
により、前記光センサ(8)によって得られた値を線形化するように構成されているデータ補正ユニットを有
し、
前記データ補正ユニットは、
被減数としての局所での各シャントの消光信号の最大値と、減数としての透析液回路の各シャントへのチェンジの直前の前記光センサ(8)の消光信号との差を、横軸としての前記シャントへのチェンジ直前の消光信号に適用する工程、及び
最大転換点よりも小さな、少なくとも1つの消光、又はデータを決定する工程
によって前記線形域を決定するように構成されていることを特徴とする透析装置。
【請求項2】
前記データ補正ユニットは、非線形回帰によって後方外挿を行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の透析装置。
【請求項3】
前記データ補正ユニットは、
前記シャントは、18秒間以下である第1継続時間を有し、且つ、前記シャント間隔は前記第1継続時間よりも長い第2継続時間を有する
ことを設定するように構成されていることを特徴とする請求項
1又は2に記載の透析装置。
【請求項4】
前記データ補正ユニットは、前記シャント間隔を時間において等距離又は非等距離に分布させるように構成されていることを特徴とする請求項
1~
3のいずれか1項に記載の透析装置。
【請求項5】
前記データ補正ユニットは、2~3分間であるシャント継続時間後のシャントの消光信号の最大値後の、血漿中の消光を計算することによってクリアランスKを決定するように構成されていることを特徴とする請求項
1~
4のいずれか1項に記載の透析装置。
【請求項6】
前記データ補正ユニットは、透析液側クリアランスと血液側クリアランスを非侵襲的に測定するように構成されていることを特徴とする請求項
5に記載の透析装置。
【請求項7】
前記データ補正ユニットは、前記光センサ(8)の線形化を確認するためにKt/V値を決定するように構成されていることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の透析装置。
【請求項8】
前記データ補正ユニットは、線形化された光センサによって測定された、初期尿素含量と、時間tの所与の時点での尿素濃度c(t)とを測定することによって前記Kt/V値を計算するように構成されていることを特徴とする請求項
7に記載の透析装置。
【請求項9】
前記データ補正ユニットは、リバウンド効果を考慮するためのモデルに基づいて前記Kt/V値を決定するように構成されていることを特徴とする請求項
7に記載の透析装置。
【請求項10】
前記データ補正ユニットは、治療中の尿素の発生を考慮するSingle-Poolモデルによって前記Kt/V値を決定するように構成されていることを特徴とする請求項
7に記載の透析装置。
【請求項11】
前記データ補正ユニットは、前記差の前記シャントの消光信号の最大値を記憶するように構成されていることを特徴とする請求項
1に記載の透析装置。
【請求項12】
前記データ補正ユニットは、治療の所定継続時間の後に、前記透析装置の前記シャント間隔の始まりを設定するように構成されていることを特徴とする請求項1
1に記載の透析装置。
【請求項13】
前記データ補正ユニットは、前記第2継続時間を4分間に設定するように構成されていることを特徴とする請求項
3に記載の透析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
記載
本発明は、透析液側ドレンラインの光センサと、シャントへの反復チェンジとによって、前記センサが線形域で提供されているか否か、及び前記センサが線形域で提供されている時のそれぞれ(resp.)を判定する方法と、更に、前記光センサを線形化する装置とに関する。線形域からのデータの後方(backward)外挿によって、非線形域で記録された初期データを訂正することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
透析の効率を測定する一つのパラメータはKt/V値である。この文脈において、K[ml/分]は、クリアランス(特定の物質を含まない、単位時間当たりの仮想血漿量、換言すると、物質の濃度)であり、これは、透析の前後の尿素含量を介して測定される。更に、t[分]は、有効透析時間、換言すると、治療の継続時間である。V[ml]は、尿素分布容積、換言すると、血液が循環可能な体(体液含量)の体重(重量)の60%を示している。或いは、前記クリアランスK又は前記分布容積に対する前記クリアランスの比率K/Vも進行中の透析治療の効率のインジケータを構成する。
【0003】
光学において、消光(extinction)は、媒体通過後の放射線(たとえば、可視光)の減衰の程度を構成する。消光は、波長に依存し、対数変数である。特定の値までの基準装置の消光E
REF(
図1を参照)に対して適用された光センサの消光E
OSは、ほぼ直線に対応し、その後、特性線は平坦になる。このことは、基準に対して適用された前記特性線が光吸収物質の濃度の増加と共に平坦化することを意味している。
図1において、光センサの消光E
OSが、広い線形域を有する基準装置の消光E
REFに対して適用されている。更に、ここには、恒等式(identity)も明白に示されている。従って、前記光センサは、約0.2の消光まで線形であり、その後、平坦になる。
【0004】
透析治療中においても、上述した挙動を同様に観察することができる。これは、特に透析の開始時の場合であるところの、透析液が複数の光吸収物質を含んでいる場合に特に当てはまる。
図2は、前記光センサと前記基準装置との両方の消光の時間推移を例示している。ここで、測定時間(秒単位)に対して二つの消光特性が適用されている。これら二つの消光間の相違は、特に最初において比較的大きい。更に推移すると、その曲線は互いに近づくが、但し、これは光吸収物質の減少によるものである。前記光センサは、両特性線が互いに重なり合ったとたんに線形域となる。換言すると、特に初めにおいては、出口側の透析液は、例えば、尿素又はその他の尿毒素によって強く汚染されている。この場合、消光は非常に高く、従って、センサは非線形域となり、測定の非常に高い不確実性をもたらす。透析の時間の増大に伴い、汚染は大きく減少し、センサは線形域に入り、そこで、測定値は、再び、基準装置の測定値と一致する。
【0005】
病院での日々のルーチンにおいて、通常、広い線形測定域を有する基準装置は利用不能である。したがって、光センサが線形域にあるか否か、又は、いつから線形域に入ったか、従って、光センサの挙動が基準装置による挙動と同様であるか、また、いつから同様になるか、を述べることはできない。
【0006】
背景技術
現在のKt/V値の測定は、様々なオンライン処理によって実現される。先ず、「オンライン・クリアランス測定」の技術があげられる。そのコンセプトは、導電性測定の原理に基づく。透析装置の前後、即ち、透析液入口と透析液出口とにおいて、二つの導電性プローブが設置される。透析液中の導電性は、主としてナトリウム濃度によって規定される。その測定技法は、短時間、透析液入口の導電性を増加させ、透析液出口での導電性の変化を観察することによる。次に、透析装置の前と後ろとのプローブでの導電性によって、測定可能な導電性の差を介してナトリウムクリアランスを測定することができる。ナトリウムイオンと尿素とは非常に類似した拡散特性を有するので、ナトリウムクリアランスを直接、尿素クリアランスに変換することができ、これから、次に、Kt/V値を測定することができる。更に、計算には、分布容積Vと処理時間tとが含まれる。この技術では、±6%の測定精度が得られる。この技術の欠点は、Kt/V値を規則的間隔で連続的にモニタリングするためには、透析液入口の導電性を変える必要があることである。更に、電解溶液の導電性は、更に溶解される粒子(further dissolved particles)に強く依存し、それによってナトリウムの移動性が減少し、それによって導電性が減少し、これが今度は誤ったクリアランス計算をもたらす。この技法のもう一つの欠点は、導電性の変化によって患者のイオンの不注意な取り入れ、取出しが生じる可能性があることにある。更に、導電性の変化は遅く、それによって連続測定が不可能となる。
【0007】
Kt/V値を測定するもう一つの技術は、光センサを透析液出口に配置することと、毒素を光学的に検出すること、からなる。この方法は、290nmの波長で最大吸収率を有する尿酸の特性を利用する。前記波長で光を発するUV LEDと、UV域に高い感度を有する光ダイオードとから成る光学システムを使用して、透析液中の尿酸濃度の質を判定することができる。血液中の尿酸と尿素との濃度は、互いに強く相関するので、尿素濃度の減少、従って、尿素クリアランスを、処理中に光学的に測定された尿酸濃度の減少から結論づけることができる。その後、前記クリアランスによって、Kt/V値を計算することができる。この方法の主要な欠点は、使用された当該センサが非線形特性線を有することである。このように、患者の血液中の毒素の負荷が高く、そこからセンサの飽和が生じる場合には、尿素クリアランスが過小評価されてしまうことにある。非線形性によって歪(falsification)、即ち、Kt/V計算の過小評価、が起こる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、光非線形センサを、少なくとも進行中の透析治療中において、測定域に関して線形化することにある。また、これによって、前記クリアランスと分布容積との非侵襲性測定が可能となる。本発明のもう一つの課題は、光センサの推移を、当該センサのハードウエア側での改造、或いは、当該センサの基準装置に対する調節する必要無く、線形測定域の延長を伴う仮想基準に対して投影(project)することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の簡単な説明
前記課題は、請求項1の光センサの線形化の方法と、透析装置、特に、光センサを線形化するための請求項15の装置、によってそれぞれ達成される。
【0010】
透析装置において光センサを線形化するための好適な方法は、透析液側ドレンラインにセンサを導入する工程と、前記光センサの線形域を決定して当該線形域からデータを後方外挿する工程と、前記光センサによって前記非線形域において決定された前記非線形域からセンサによって確立されたデータを補正又は置換する工程とを含む。前記方法によれば、追加のコンポーネント無しで、測定範囲を拡張することが可能となり、その結果コストが削減される。更に、Kt/V測定が最適化される。本発明は、更に、非常に高い消光値によって通常特徴付けられる血液側の値を測定することも可能にする。
【0011】
前記後方外挿は、回帰曲線の非線形回帰によって行われる。換言すると、線形域内で提供された値から非線形域内で提供された値に基づいて結論付けるために非線形回帰を使用し、ここで、前記非線形域は、測定の最初に与えられ、前記線形域は、測定されるべき測定期間の後に与えられる。
【0012】
前記光センサの線形域を測定する工程は、好ましくは、特定のシャント継続時間を有するシャント間隔を調節する工程を含む。シャントは、透析液が透析装置を通って流れる時、又は、適当なバルブ制御装置によって停止される時、に与えられる。シャント継続時間は、一回のシャントがどれだけ時間がかかるか、換言すると、その間、透析液が透析装置を通過してこの透析装置をブリッジする、或いは、交互に停止される、時間、を示す。シャント時間は、その後の動作、すなわちシャントが繰り返される時間である。言い換えると、シャント時間は、一つのシャントの開始から次のシャントの開始までの時間である。シャント間隔は、一つのシャントの終わりから次のシャントの開始までの継続時間を指す。シャント継続時間は、あるシャントに変わるのにどれくらい時間がかかるかを示す。
【0013】
前記線形域を測定する工程は、局所のシャントの最大値とそのシャントにチェンジする直前の光センサ8の消光信号との差を、そのシャントにチェンジする直前の消光信号に適用して、最大転換点より小さな消光を測定する工程を好ましくは含む。
【0014】
好ましくは、前記シャントは、特に好ましくは18秒間以下である第1継続時間を有し、前記シャント間隔は、前記第1継続時間よりも長い、好ましくは4分間の第2継続時間を有する。換言すると、前記シャント継続時間は、シャント間の間隔よりも遥かに短い。この文脈において、ここでの「第1継続時間」はシャントの継続時間を意味し、前記「第2継続時間」とは二つの直接に連続するシャント又はシャント継続時間、の間の時間間隔を意味するものである。
【0015】
前記シャント間隔、前記シャント継続時間、従って、前記シャント時間は、時間的に等距離又は非等距離で分布するものとすることができる。換言すると、前記シャントは、規則的に行われて、それによって全測定域に亘ってある測定結果を得ることを可能にするものであってもよいし、或いは、不規則に行われて、それによって、短時間でより多数のシャント、即ち、測定点、を有する、線形挙動と非線形挙動との間の予想転換点でのより高い測定精度を可能にするものとして構成することも可能である。
【0016】
前記シャント間隔又はシャント時間は、遅く、所定の継続時間の治療の後にようやく開始されるものとすることができ、それによって、線形域のみが測定されるようになり、従って、測定の継続時間が短縮される、という利点を提供する。
【0017】
前記クリアランスKは、好ましくは、2~3分間の範囲であるシャント継続時間に続く、シャント最大後に、血漿又は血漿水中の消光の計算によって計算される。逆に、このことは、透析液側クリアランスと血液側クリアランスとの測定を行うことが可能である、ということを意味する。換言すると、前記血液側クリアランスを、非侵襲的に測定することができる。
【0018】
好ましくは、前記方法は、更に、特に、回帰曲線によって、Kt/V値を決定する工程を含む。前記Kt/V値は、線形化された光センサを検査するために使用することができる。従って、前記Kt/V値は、リバウンド効果を考慮に入れたモデルによって、或いは、治療中の尿素の発生を考慮に入れた単一プールモデルによって、線形化された光センサによって順番に測定された、時間t中の所与の時点で、初期尿素含量c(t)と尿素濃度とを測定することによって計算することができる。
【0019】
光センサの線形化は、透析において、より正確には、透析装置、において使用されるが、それは透析の分野に限定されるものではない。前記方法は、吸収物質の濃度が、アルゴリズム、例えば、指数関数、に従って、減少するすべての分野において利用可能である。現在の(current)透析処理を測定するための光センサを含む透析装置は、上述の方法によって光センサを線形化するように適応されるデータ収集ユニットによって特徴付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、基準装置に対する光センサの消光を示している。
【
図2】
図2は、前記光センサと前記基準装置との両方の消光の時間推移を示している。
【
図6】
図6は、基準測定装置の消光差を示している。
【
図7】
図7は、左側に、前記基準値の透析液側消光推移と値の指数適合(指数あてはめ:exponential fit)を、そして、右側には、光センサの透析液側消光推移と、最後の9つの値の外挿指数適合、を示している。
【
図8】
図8は、光センサの線形化された特性線を、元の特性線と共に示している。
【
図9】
図9は、左側に、基準値の血液側消光推移と、それらの値の外挿適合を、そして、右側には、前記光センサの血液側消光推移と、最後の4つの値の外挿指数適合とを示している。
【
図10】
図10は、光センサの線形化された特性線を、非線形化特性線と共に示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図3において、本発明の略図が図示されている。透析装置に運ばれる血液は、動脈管系2を介して患者1から、輸送ユニット3によって集められる。透析装置4において、血液は、尿排出物質と余剰水から除去される。その後、浄化された血液が静脈管系5を介して前記患者に戻される。関節カニューレを介した血液の収集と戻しも同様に考えられる。透析装置4において、半透過性膜を有する中空ファイバ細管が設けられている。これら細管は、所謂透析液によって洗浄され、他方、この透析液は血液から尿排出物質と余剰水とを吸収し、他方、患者1のアシドーシスを治療するための特に炭酸水素塩を出す。透析液は供給ライン6を通って透析装置へと流れる。前記透析装置4の透析液出口には、少なくとも1つの光センサ8を備えるドレンライン7が配設されている。前記光センサ8は、少なくとも1つの光ダイオードと好ましくは二つの光検出器を含み、透析液の吸収特性を測定するために使用される。これは、好ましくは、吸収度、即ち、前記透析液が光を吸収する物質を含む場合に測定可能な消光、である。この目的のために前記光センサ8の前記光ダイオードは、好ましくは200~350nmの波長を有する、UV域の狭帯域光を発する。好ましくは、275~295nmのピーク波長を有する光が発せられる。或いは、前記光センサは、蛍光を測定するように構成され、その目的のために、それは光学的に活性な物質を励起するための光を発し、その後、その放射を測定する。
【0022】
前記ドレンライン7中での光センサ8の位置に関しては様々なオプションがある。例えば、シャントの場合、それは分離部分、および/又は、バランス装置の前、又はバランス装置の後方、に配置することができる。
【0023】
多くの場合、光センサ8の特性線は、部分的にのみ線形である(
図1を参照)。線形測定域を拡張するために、本発明に依れば、それは治療中においてシャントに繰り返しチェンジされる。シャント中、透析液は、透析装置を超えた適当なバルブ位置を通って流れ、ここで血液は、透析装置4を通して輸送され続ける。透析装置4を通る透析液流を停止する(或いは、少なくともそれを減少させる)ことにより、透析側の残量の少なくとも一部が少なくとも部分的に飽和する。即ち、血液側の物質、特に光吸収物質が、封入された透析液側、へと通過する。換言すると、透析装置において、電磁放射線と相互作用する物質が血液案内側から透析液案内側へと通過する。好ましくは、18秒間のシャント継続時間が設けられる。又、物質が封入側から血液側へと通過する逆の構成も可能である。
【0024】
図4において、治療中の消光(extinction)の時間推移が図示されている。4分間の間隔で、それは一度に18秒間シャントにチェンジされる。光センサ8の消光信号(E
OS)は、シャント停止後に短い増大を示している。局所最大値はE
topとして示されている。E
Ref.DAは、基準装置によって測定された透析液出口での消光の時間推移である。E
Ref.BEは、基準装置によって測定された血液入口での消光の時間推移である。E
calcは、光センサによって測定された血液入口での消光の時間推移である。
【0025】
前記曲線E
OSのみに基づくと、光センサが線形か否か、又は、それぞれいつ線形であるか、が明白ではない。しかし、E
preに対して差E
top-E
pre(ここで、E
preは、シャントに変える直前のE
OSの消光を表す)を適用すると、
図5に示されているように特性曲線が得られる。線形なセンサでは、E
preに対して適用された差E
top-E
preは単調に増大する直線(
図6を参照)になるであろう。しかし、前記光センサの場合には、前記差は最大転換点を示し、その後再び減少している。従って、前記最大転換点での前記E
pre値は、そこから光センサが非線形になる消光を表す。従って、最大転換点でのE
pre値よりも小さな消光は、線形性に関して信頼性が高い。換言すると、前記最大転換点以上の消光は非線形域から生じ、それ以下の消光は線形域から生じる。これら図面のそれぞれにおいて、E
top/E
pre比も、E
preに対して図示されている。前記基準測定装置の場合、この比は一定である。前記光センサの場合、最大でE
pre値よりも小さなE
pre値の恒常性(constancy)が有効である。前記比は、値が大きくなるにつれて連続的に減少する。従って、前記差に代えて、センサが線形域内にあるか否か、そして、いつからセンサは線形域内にあるか、の判断を可能にするために前記比を考慮に入れることもできる。
【0026】
図5中の前記差の時間推移は、下に開放された放物線と見なすことができる。知られているように、放物線は数学的に三つの点によって定義される。従って、シャントの回路の数を、少なくとも三つ、例えば、治療の開始時と、治療の中間時と、治療の終了時、に減らすことも考えられる。その後、前記少なくとも三つの点の平方適合(square fit)によって、前述したように線形性の限界と見なすことが可能な前記放物線の頂点を決めることができる。
【0027】
本発明は、代替構成として、シャントチェンジの実施を非線形域、即ち、治療の開始時、のみに限定することを提案(provide)する。ランダムに規定された時間間隔で、それはシャントにチェンジされ、その後、前記差が観察される。曲線の傾きの平坦化又は逆転が検出されるや否や、センサはこの点からは線形であるので、後続のシャントへのチェンジは破棄することができる。シャントへの変化が生じるであろう範囲は、
図5中の放物線の右脚部分に対応する。
【0028】
線形化のために、最大の前記E
pre値よりも小さなE
pre値が使用される。そして、これらの値を非線形回帰に使用することができる。好ましくは、これは下記の式の指数関数である。
【数1】
但し、たとえば二重指数関数等のその他の関数も考えられる。
【0029】
図7は二つの回帰曲線を示している。左側には、基準測定装置の回帰曲線が図示されている。測定データと回帰曲線とが互いに重なり合っていることがはっきりとわかる。時間t=0での外挿消光は0.4よりも少し大きい。右側には、類似の図が図示されている。但し、ここでは、前記光センサの値が図示されている。このケースにおいて、測定された消光値がいかにして約0.2の消光において前記回帰共曲線から逸れているかが明白である。最後の9つのデータを適合させて外挿した時、前記基準と丁度同じようにt=0での消光はわずかに0.4より大きな値となる。これにより、前記基準と前記光センサの適合とは同じ曲線を示すことになる。従って、前記光センサ8は測定中にオンライン線形化される。
【0030】
さて、
図8に、本発明によって線形化された光センサの特性曲線が図示されている(E
OS.korr)。更に、補正する必要があった元の特性(E
OS)も適用される。
【0031】
シャントへのチェンジの時間間隔は可変である。それは、例えば、治療継続時間全体に亘って固定的に決められた間隔で行うことができ、ここで、シャントへのチェンジの回数は等距離間隔又は非等距離間隔で分布するものとすることができる。更に、シャントへのチェンジを特定の治療継続時間の後、又はその時まで遅らせることも考えられる。
【0032】
初期値(t=0での消光)と治療の終わりにおける消光値は、今、既知であるので、Kt/V値を以下の式のいずれによっても補正することが可能である。
【0033】
追加の影響を考慮に入れない単純化モデルが、透析治療中のKt/V値を決定するための最も単純な式である。これは、治療中の患者における尿素の発生も、所謂リバウンド効果も考慮に入れない。
【数2】
ここで、Kは尿素クリアランスを、tは治療の継続時間を、Vは尿素分布容積を、C
0は初期尿素濃度を、そしてC(t)は時間tの所与の時点での尿素濃度、をそれぞれ表す。
【0034】
Kt/V値を決定するためのもう一つのモデルは、治療中の尿素生成を考慮に入れるSingle-Poolモデルである。このモデルにおいては、尿素は単に大きな分布容積で溶解されるものと単純に想定されている。上述したモデルと比較して、治療中において患者の体内で尿素が生成されることが考慮される。更に、このモデルは、限外濾過によって生じる対流によって更に尿素が取り除かれることを考慮する。
【数3】
UFは限外濾過量を、そしてWは患者の体重を、それぞれ表す。
【0035】
Kt/V値を決定するためのもう一つのモデルは、リバウンド効果(平衡化Kt/V)を考慮する。実際には、体を通る尿素の移動は、制限無く可能なものではない。というのは、尿素は細胞内および細胞外空間と、血管内空間との両方に存在するからである。前記Single-Poolモデルから逸脱する前記様々な空間の存在を考慮するモデルは、所謂平衡化Kt/Vを決定するのに役立つ。この場合、低血流の器官から血管内空間への治療後の尿素の逆流が考慮に入れられる。
【数4】
この式において、Tは全治療継続時間に対応する。
【0036】
特に、透析治療の終わりに向かって、多くの光吸収物質が既に取り除かれていることから、予想される消光は低い。従って、特に治療の終わりに向けて、約2~3分間の長いシャントを実施することが提案される。シャント中、血液が循環を続けながら、透析液が透析装置を通過して流れる。一定時間後、透析装置中の透析液側残量が、透析装置中において透析液側と血液側との間に少なくとも部分的な拡散均衡が形成される程度にまで、血液から物質を吸収する。それが主接続に再びチェンジされると、飽和した透析液側残量は、光センサ8を通して案内され、ここで、短時間の信号変化を測定することができる。信号変化の最大における消光が、血漿中又は少なくとも血漿水中の消光に対応する。前記血漿中、及び、前記血漿水中のそれぞれの消光を計算するために、下記の等式が使用される。
【数5】
ここで、長いシャントの場合の係数kは1である。前記クリアランスKは、知られているように、下記の等式、によって決定することができる。
【数6】
ここで、Q
dは、透析液流を、C
DOおよびC
B1は、透析液出口と血液入口との濃度等価変数を、それぞれ表す。例えば、濃度等価変数は、吸光度、又は、消光又は蛍光のそれぞれ、単数又は複数の物質の濃度又は吸収特性である。ランベルト・ベールの法則により、消光は、光吸収物質の濃度に比例する。C
DOは、光センサ8によって直接測定することができる(C
DO=E
OS)。C
B1は、シャント後に起こる局所的最大値から得られ、上述したように計算される(C
B1=E
calc)。
【0037】
血液側消光は透析液側消光よりも常に高いので、拡散均衡に至るまでの時間制限されたシャントへのチェンジは、常に、又はすくなくとも非常に多くの場合、センサ信号を非線形範囲へともってゆくことが明らかである。最悪の場合、光センサは飽和して、それによってなんらかの情報性を有する測定がほとんど不可能になるであろう。実験室測定によって、その後に50%の血液側値に至るために18秒間のシャント継続時間が十分であるという結果が得られた。このようにすることで光センサが飽和状態になるというリスクが大幅に軽減される。血漿中の消光を計算するための前記等式に関連して、このことはk=2となることを必要とすることを意味する。他の透析装置又は流量が使用される場合、本発明は、前記係数をオンライン決定することを提案する。この目的のために、最初、長いシャントを、その後、短いシャントを、実施するか、若しくは、最初短いシャントを、その後、長いシャント、が実施される。最後に、両シャントから、比率
【数7】
が形成され、ここで、分子は前記長いシャントから、そして分母は前記短いシャント、からのものである。このようにして、前記係数kが決定される場合、短いシャントを介して、血液側値(E
calc)が透析液側測定によって非侵襲的に測定される。勿論、更に、より短いシャント時間を選択することも可能であり、その場合にも、同様に、k係数の適合が得られる。より短いシャント時間は、その後の局所的消光最大値がより小さくなり、光センサの特性曲線の線形範囲内に入る傾向となる、という利点を提供する。
【0038】
短いシャントの反復と、少なくとも治療の終わりに少なくとも一つの長いシャントとを実施する時、前記k係数を決定し、血漿中の消光を計算するための前記等式とによって、血液側値(E
calcs)を決定することができる。この目的のためには、前記光センサの線形域にある消光を利用することが重要である。これは、特に消光E
topとE
preとに関係する。それは、値が線形域にある
図5の図示から推定可能である。次に、前節と同様に、非線形回帰曲線を描くことができる。
図9において、対応の回帰が、左側には基準に対して、そして右側には光センサに対して図示されている。光センサの場合、血液入口における4つの最後に計算された値(E
calc)が考慮に入れられた。この場合にも、t=0の外挿値は、基準と光センサとを互いに比較した場合に、ほぼ等しい。図面の右側において、それはより明白であり、計算値(E
calc)が治療の最初において回帰曲線から外れている。回帰点の数が外挿の質に大きく影響することが知られている。外挿をより堅固でより正確なものとして構成するために、この理由から、追加的に、治療の最初と治療の終わりにかけて血液サンプルを収集して、等式1,2および/又は3によってKt/V値を決定するために分析することができる。その後、前記Kt/V値を外挿からのKt/V値と比較して後者の補正に利用することができる。
【0039】
図10は、前記光センサの線形化された特性曲線を非線形化特性曲線と共に図示している。非線形回帰の前記等式において、変数bは、分布容積Vに対するクリアランスKの比率を表す。
【数8】
bは適合から決定することができ(
図7および
図9を参照)、Kは前記クリアランスを計算するための前記等式によって計算され、前記変数bを計算するための前記等式は、V用に再構成することができる。このようにすることで、前記分布容積を決定することができる。
【0040】
先ず、遡及的補正が行われるので、光センサの推移を既に治療中に、即ち、オンラインに、補正することが可能である。このために、例えば、
図8および
図10からの特性曲線を利用することができる。更に、本発明は、E
preに対して、少なくとも、前記差E
top-E
preの最大値を記憶しておくことを提案する。これにより、後続の治療のために十分な利用可能なデータで、センサデータが線形域内にあるか否か、どの時点から線形域内にあるか、をそれぞれ予測することが可能となる。これは、治療の最初にシャントにチェンジすることを回避することに役立つ。
【0041】
或いは、測定値のなんら追加的記録無しの実施例も考えられる。前記光センサ8(又はのその他のセンサの)の特性曲線は、機械および/又はデータ管理システムに保管される。これは、例えば、ルックアップテーブルの形態として実現することができ、進行中の治療中に前記光センサ8を調節するために使用することができる。このようにすることによっても、シャントへのチェンジを回避、又は、少なくとも減らすことが可能となる。シャントに対する各チェンジによって、この期間中には血液を十分に浄化することができなくなるので、シャント中には、複数の用途のために時間をより効率的に利用するために、同じようにシャントへのチェンジを必要とする、追加の測定又はテストを実施すると有利である。
【符号の説明】
【0042】
参照番号リスト
1 患者
2 動脈管系
3 輸送ユニット
4 透析装置
5 静脈管系
6 供給ライン
7 ドレンライン
8 センサ