(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】マンホールの浮上防止方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/12 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
E02D29/12 Z
(21)【出願番号】P 2018223011
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】598143550
【氏名又は名称】鈴木 宏
(73)【特許権者】
【識別番号】522483378
【氏名又は名称】大岡 孝子
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218817(JP,A)
【文献】特開2016-211354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホールの底部に下水の流路を確保すると共に該マンホールの内部に液体を充填し、該充填された液体の重さをマンホールに作用する浮力に対抗させることでマンホールの浮上を防止するマンホールの浮上防止方法であって、
マンホールの底面に所定の高さを有する架台を設置した後、マンホールの内部であって該架台よりも上部に可撓性を有する袋体を配置し、前記袋体に液体を充填して充填された液体の重さをマンホールに作用する浮力に対抗させることでマンホールの浮上を防止することを特徴とするマンホールの浮上防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に地震時に生じる虞のあるマンホールの地面からの浮上を防止するための浮上防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震時にマンホールが浮上して下水道を破損したり、交通障害を起こすことが生じている。マンホールの浮上は、地震時に生じる地盤の液状化に伴う過剰間隙水圧の増大による浮力の増大を原因とすることが多い。しかし、マンホールの浮上は、必ずしも地盤の液状化現象に伴う過剰間隙水圧の増加のみを原因として生じるものではなく、地下水位の上昇に伴う地下水圧の増加を原因として生じることもある。
【0003】
マンホールの浮上を防止するための代表的な工法として、セフティパイプ工法、マンホールフランジ工法、アンカーウイング工法等がある。例えばセフティパイプ工法は、マンホールの壁面に貫通穴を形成すると共に、該貫通穴に予め設定された圧力を感知したときに開放する弁を配置している。そして、地盤の液状化に伴って過剰間隙水圧が弁に設定された圧力を超えたとき、該弁が開放して地下水をマンホールの内部に排水することで該過剰間隙水圧を消散させるようにしている。
【0004】
また、マンホールフランジ工法は、マンホールの外壁に鋳鉄やコンクリート塊等からなる重量の大きいフランジを固定することで、見掛け上の比重を大きくしている。このため、地盤の液状化に伴って過剰間隙水圧が上昇しても、マンホールの重量がこの水圧に対抗することで浮上を防止することが可能である。
【0005】
また、アンカーウイング工法は、支持体を地盤の定着層へ回転貫入させて打設すると共にマンホールの外壁に片持ち梁状の頭部固定金具を固定し、ロッドによって支持体と頭部固定金具を連結している。このため、マンホールは、ロッド、頭部固定金具を介して定着層に固定されることとなり、地盤の液状化に伴って過剰間隙水圧が上昇しても、この水圧に対抗してマンホールの浮上を防止することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したセフティパイプ工法やマンホールフランジ工法、或いはアンカーウイング工法は何れもマンホールを新設する際に施工することが有利である。しかし、既設のマンホールに対して施工するには、付近の通行に支障を来すという問題や、大掛かりとなり費用が嵩むという問題がある。このため、簡便且つ低廉な方法でマンホールの浮上を防ぐことができる技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、マンホールの浮上を防止するための新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るマンホールの浮上防止方法は、マンホールの底部に下水の流路を確保すると共に該マンホールの内部に液体を充填し、該充填された液体の重さをマンホールに作用する浮力に対抗させることでマンホールの浮上を防止することを特徴とするものである。
【0009】
上記マンホールの浮上防止方法に於いて、マンホールの底面に所定の高さを有する架台を設置した後、マンホールの内部であって該架台よりも上部に可撓性を有する袋体を配置し、前記袋体に液体を充填して充填された液体の重さをマンホールに作用する浮力に対抗させることでマンホールの浮上を防止することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るマンホールの浮上防止方法では、下水の流路を確保してマンホールの内部に液体を充填することによって、下水の流通を阻害することなく、マンホールの重さを大きくすることができる。このため、地下水圧の上昇に伴ってマンホールに浮力が作用したときにも、この浮力に対抗することができる。従って、マンホールの浮上を防ぐことができる。
【0011】
マンホールの底面に所定高さの架台を設置することで、下水の流路を確保することができ、この架台の上部に袋体を配置して液体を充填することで、マンホールの重さを大きくすることができる。
【0012】
マンホールの底面に形成された流路を蓋体によって被蓋することで、下水の流路を確保することができる。その後、マンホールの内部に液体を充填することで、マンホールの重さを大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る第1の浮上防止方法を説明する図である。
【
図2】本発明に係る第2の浮上防止方法を説明する図である。
【
図3】流路に蛇腹管を取り付けた状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るマンホールの浮上防止方法(以下単に「本浮上防止方法」という)について説明する。本浮上防止方法は、地震時に地盤の流動化現象の発生に伴って生じる過剰間隙水圧の増加、或いは何等かの原因によって生じる地下水圧の増加、に起因する浮力の増大に伴って生じる虞のあるマンホールの浮上を防止するための方法である。
【0015】
本浮上防止方法では、マンホールの内部に液体を充填し、充填された液体の重さを作用する浮力に対抗させることで浮上を防止している。マンホールの内部に液体を充填することによって、充填された液体の重さがマンホールに加わり、且つマンホール内に形成される空間の容積を小さくすることが可能となる。また、マンホールに充填する液体の水位は限定するものではないが、周辺地盤に於ける地下水位よりも高いことが必要である。このため、地下水圧に応じてマンホールに作用する浮力に対抗して浮上を防止することが可能となる。
【0016】
本浮上防止方法に於いて、対象となるマンホールを限定するものではなく、新設のマンホール或いは既設のマンホールの何れであっても良い。また、マンホールのサイズも限定するものではなく、規格化された標準的なマンホールや現場打ちコンクリートによって構成されたマンホールであって良い。即ち、どのようなマンホールであっても適用することが可能である。
【0017】
マンホールに液体を充填するのに先立って、該マンホールの底部に形成されている下水の流路を確実に確保しておくことが必須である。流路を確保する方法としては限定するものではなく、マンホールに液体を充填したときに下水の流通に支障を来さなければ良い。このため、流路を確保するための方法は、マンホールに対する液体の充填方法と対応させて適宜設定することが好ましい。
【0018】
本浮上防止方法の第1の方法では、マンホールの底面に、所定の高さ、即ち、下水の流路を構成する管路の頂部の高さよりも大きい高さを有する架台を設置し、この架台の上部に袋体を配置している。そして、マンホールの底面と架台の高さとの間の空間を下水の流路として確保している。
【0019】
また、本浮上防止方法の第2の方法では、マンホールの底面に、下水の流路を構成する管路の該マンホールに於ける開口部の径よりも大きい径をする蓋体を流路の全長にわたって設置することで、被蓋した流路を確保している。
【0020】
マンホールに充填する液体も限定するものではないが、水、特に上水であることが好ましい。上水であれば入手が容易であり、マンホールに対する充填作業を短時間で容易に行うことが可能となる。また、マンホールに充填する液体の量は特に限定するものではなく、適用するマンホールの内部容量に対応して設定することが好ましい。
【0021】
図1は本浮上防止方法の第1の方法を説明する図である。マンホール1の底部には下水の流路2を形成した底盤3が配置されており、該底盤3に向けて管路4が接続されている。流路2はマンホール1の底面となる底盤3の上面3aに略半円状に形成された凹溝からなり、管路4は流路2の上流側及び下流側に接続されている。従って、管路4の断面の略上部半分はマンホール1に於ける流路2よりも上方に開口している。
【0022】
底盤3の上面3aに架台10が設置されている。この架台10は、上板10aと脚10bとからなり、上板10aがマンホール1に開口している管路4の頂部4aよりも充分に高い位置となるように構成されている。また、架台10は必ずしも図に示す形状に限定するものではなく、脚10bが底盤3の上面3aに接地すると共に流路2の上方をアーチ型に覆うような形状であっても良い。
【0023】
架台10の材質や構造は限定するものではないが、充分な強度を有する合成樹脂製であることが好ましく、マンホール1の内径形状を分割した形状(例えば3分割、4分割)に対応させて製造された複数の部品によって構成されていることが好ましい。そして、これらの分割された複数の部品をマンホール1の内部に持ち込んで底盤3の上部で組み立てることで、底盤3との間に充分な空間14を有し且つ充分な強度を有する架台10を構成することが可能である。
【0024】
架台10の上板10aに可撓性を有する袋体11が配置されており、この袋体11に水12が充填されている。袋体11は可撓性を有しており、水が充填される以前に縮径された状態でマンホール1の内部に挿入され、底部11aが架台10の上板10aに到達した後、内部に水12が充填される。そして、袋体11に充分な水12が充填された後、上部の口部11bが閉塞具13によって閉塞される。特に、袋体11が可撓性を有することから、水12の充填に伴って拡径する際に、マンホール1の内周面に取り付けられている図示しないステップを回避することが可能である。
【0025】
従って、マンホール1の底部には、底盤3の上面3aと架台10の上板10aとの間に空間14が確保されることとなり、この空間14によって流路2と連続した流路を構成することが可能となる。即ち、マンホール1の底部に下水の流路を確保した状態で、架台10を介して袋体11に充填された水12の重さを底盤3に作用させることが可能である。そして、この袋体11に充填された水の重さによって、マンホール1に作用する浮力に対抗することが可能となる。
【0026】
マンホール1は路面に設置されることから、蓋1aに形成された穴から雨水に代表される水が内部に浸入することがあり、この水が袋体11の上部に滞留することは好ましいことではない。このため、マンホール1の内周面と袋体11の外周面との間にドレンパイプ15を配置しておくことが好ましい。ドレンパイプ15の材質や径は限定するものではなく、適度な硬度を有する合成樹脂製のパイプ、例えば塩ビパイプなどを利用することが可能である。
【0027】
第1の方法に於いて、可撓性を有する袋体11の材質は限定するものではなく、充分な可撓性と耐久性を有する、例えばゴムや合成樹脂製のものであれば採用することが可能である。しかし、マンホール1の蓋1aに形成された穴から加熱物、例えばタバコの吸い殻などが落下した場合、袋体11に焼け焦げが形成されて損傷する虞れがある。このため、袋体11の上部を不燃性のフィルム或いはシートなどで被覆11cしておくことが好ましい。
【0028】
上記第1の方法に於いて、マンホール1の保守・点検、或いは補修を行うような場合、閉塞具13を外して上方から袋体11の内部に充填されている水12を吸引して排水することが可能である。また、緊急に排水する必要が生じた場合には、袋体11を切断して充填されている水12をマンホール1の底部に形成されている流路2に排除することも可能である。
【0029】
特に、袋体11の底部11aに図示しないバルブを取り付けておき、このバルブを袋体11の口部11bから操作して開閉し得るように構成することが好ましい。このように構成された袋体11では、上部からの操作によって内部に充填されている水を排水することが可能となり有利である。袋体11の底部11aに取り付けられているバルブを口部11bから操作することが困難となるような場合、袋体11を架台10に設置した後、水を充填するよりも前段階で、バルブから口部11bに至るガイドパイプを挿入しておくことが好ましい。
【0030】
また、流路2を含む空間14が袋体11によって閉塞された構造となるため、流路2を大量の下水が流通するような場合でも、この下水が上方に流出することがない。従って、蓋1aが下水によってマンホール1から離脱するようなことを防ぐことが可能である。
【0031】
図2は本浮上防止方法の第2の方法を説明する図である。尚、図に於いてマンホール1~管路4は
図1と同じであり、説明を省略する。
【0032】
第2の方法は、マンホール1に直接水を充填して浮上を防止するものである。既設のマンホールでは、設置期間が長期にわたった場合、マンホールの内周面の劣化や、目地からの漏水の虞が生じる。このため、既設のマンホールに第2の方法を採用する場合には、内周面や目地の補修を行うことが必要となる。
【0033】
既設のマンホール1の内周面の補修方法や目地の補修方法などは限定するものではなく、例えばマンホール1の内周面に、合成樹脂製のシートで被覆する方法や、樹脂塗料を塗布して塗膜を形成する方法などがある。そして、対象となるマンホール1の状態に対し最適な方法を選択して適用することが好ましい。
【0034】
底盤3の上面3aには蓋体16が流路2の上流側から下流側まで全長にわたって配置されており、該蓋体16によって流路2が被蓋されている。蓋体16は、底盤3に形成された流路2と共にマンホール1に開口している管路4の断面積よりも充分に大きい断面積を有するような形状と寸法を有している。
【0035】
従って、蓋体16は前述の条件を満足し得るものであれば良く、形状や寸法を限定するものではない。例えば、
図2に示すように、管路4の径よりも充分に大きい径を有する半円形の形状であって良い。
【0036】
マンホール1の底盤3に形成された流路2を蓋体16によって被蓋することで、流路2は上流側の管路4から下流側の管路4に連続した閉鎖空間を構成することとなり、マンホール1に対する水17の充填に関わらず独立した流路を構成することが可能となる。即ち、マンホール1に於ける下水の流路を確保することが可能となる。
【0037】
流路2に蓋体16を被蓋したマンホール1の内部に水17が充填される。水17の充填はマンホール1の上部開口から流し込むことで行うことが可能である。そして、マンホール1に、該マンホール1に作用する浮力に対抗するのに充分な量の水17を充填した後、水17の水面よりも上部に落下防止用の網体18が配置される。
【0038】
流路2を蓋体16によって被蓋して水17を充填したとき、充填された水17が流路2に流出することは好ましいことではない。同様に、流路2を流れる下水の水圧が上昇したとき、この下水が水17に流れ込むことも好ましいことではない。従って、蓋体16は底盤3の上面3aに強固に固定されると共に漏水が生じないようにシールすることが好ましい。
【0039】
このため、蓋体16にはフランジ16aが取り付けられており、図示しないパッキンを介してフランジ16aをボルト16bによって底盤3の上面3aに締結することで、蓋体16が底盤3に固定されている。また、蓋体16の上部にはバルブ19が配置されており、該バルブ19によって流路2とマンホール1の内部を連通又は遮断し得るように構成されている。
【0040】
蓋体16によって流路2を被蓋する際に、該蓋体16がマンホール1の内周面と当接する端部は円弧状となるため、信頼性の高いシールを行うことが必要となる。例えば、
図3に示すように、マンホール1の上流側の管路4と下流側の管路4を蛇腹管20によって接続しておくことで、該蛇腹管20によって流路2を構成することが可能となり、信頼性の高いシールを実現することが可能である。この場合、蛇腹管20の外周面にバルブを配置することが必要となる。また、蛇腹管20の強度が充分でない場合、該蛇腹管20の外側に蓋体16を配置して補強することが好ましい。
【0041】
上記第2の方法に於いて、マンホール1の保守・点検、或いは補修を行うような場合、マンホール1の上方から内部に充填されている水17を吸引して排水することが可能である。また、マンホール1の上方から図示しない治具を用いて、蓋体16に配置したバルブ19を開放して充填されている水17を流路2に排除することも可能である。バルブ19の開閉操作は、前述した第1の方法と同様に予めガイドパイプを配置しておくことで、容易に行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るマンホールの浮上防止方法は、既設、新設のマンホールに関わらず利用することが可能であり、有利である。
【符号の説明】
【0043】
1 マンホール
1a 蓋
2 流路
3 底盤
3a 上面
4 管路
4a 頂部
10 架台
10a 上板
10b 脚
11 袋体
11a 底部
11b 口部
11c 被覆
12、17 水
13 閉塞具
14 空間
15 ドレンパイプ
16 蓋体
16a フランジ
16b ボルト
18 網体
19 バルブ
20 蛇腹管