(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ピロリン酸チタンの製造方法、リン酸チタンの製造方法及びプロトン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/42 20060101AFI20230627BHJP
C01B 25/37 20060101ALI20230627BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20230627BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20230627BHJP
C04B 35/462 20060101ALI20230627BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230627BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230627BHJP
【FI】
C01B25/42
C01B25/37 J
C01B25/45 H
C04B35/447
C04B35/462
H01B13/00 Z
H01M8/10
(21)【出願番号】P 2019116431
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018183577
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-007311(JP,A)
【文献】特開2007-044602(JP,A)
【文献】特開2010-123469(JP,A)
【文献】特開平02-083203(JP,A)
【文献】特開2013-155052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
C01B 25/42
C01B 25/45
C04B 35/447
C04B 35/462
H01B 13/00
H01M 8/00 - 8/0297
H01M 8/08 - 8/2495
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
(Ti
1-xM
x)P
2O
7 (1)
(式中、0≦x≦0.5であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al
、Na、K
、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb
、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるピロリン酸チタンの製造方法であって、
二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び溶媒を含有する
か、又は二酸化チタン、リン酸、M源(Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)、界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を
50~120℃で2時間以上加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥処理して、下記一般式(2):
(Ti
1-yM
y)(HPO
4)
2・nH
2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al
、Na、K
、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb
、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンを含有する反応前駆体を得る第3工程と、
該反応前駆体を焼成する第4工程と、
を有することを特徴とするピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項2】
前記二酸化チタンがアナターゼ型であることを特徴とする請求項
1記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程における前記原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの固形分としての含有量が、前記混合スラリー(1)全量に対して、0.3~40質量%であることを特徴とする請求項1
又は2いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1~
3いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項5】
前記アニオン系界面活性剤が、ポリカルボン酸系界面活性剤であることを特徴とする請求項
4記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項6】
前記反応前駆体は、ラマンスペクトル分光分析において、700cm
-1付近にピークが観察されるものであることを特徴とする請求項1~
5いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項7】
前記第4工程における焼成温度が、600~1100℃であること特徴とする請求項1~
6いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項8】
更に、前記第4工程を行い得られる焼成物を粉砕処理する第5工程を有すること特徴とする請求項1~
7いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法。
【請求項9】
下記一般式(2):
(Ti
1-yM
y)(HPO
4)
2・nH
2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al
、Na、K
、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb
、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンの製造方法であって、
二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び水溶媒を含有する
か、又は二酸化チタン、リン酸、M源(Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)、界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を
50~120℃で2時間以上加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥処理して、前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを得る第3工程と、
を有することを特徴とするリン酸チタンの製造方法。
【請求項10】
請求項1~
8いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンと、リンのオキソ酸と、を混合し、次いで、得られる混合物を加熱処理するA1工程を有することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導体、二次電池の負極活物質、二次電池の固体電解質のリン供給源等として有用なピロリン酸チタンの製造方法、及びそれを用いたプロトン伝導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピロリン酸チタンは、例えば、プロトン伝導体、触媒、二次電池の負極活物質等への用途が検討されている。下記特許文献1には、リン酸型のイオン伝導体無機化合物のリン供給源としてピロリン酸チタン等のピロリン酸塩を用いることが提案されている。特許文献1によると、ピロリン酸チタン等のピロリン酸塩によれば、イオン伝導度が高く、且つ、低コストの固体電解質を得ることができることが開示されている。
【0003】
ピロリン酸チタンの製造方法としては、例えば、特許文献2には、85質量%リン酸水溶液に、アナターゼ型の二酸化チタンを分散させ、120℃で乾燥後に700℃で焼成する方法、また、特許文献3には、酸化チタン(Ti2O3)にリン酸二水素アンモニウムを混合した後、大気下に700℃で1日焼成する方法、また、特許文献4には、硫酸チタニル、含水酸化チタン及び微粒子酸化チタンから選ばれるチタン化合物と、濃度70質量%以上のリン酸水溶液と、を50~140℃の温度で反応させて、ビス(リン酸一水素)チタンの双晶粒子を得、次いで、該ビス(リン酸一水素)チタンの双晶粒子を900~1100℃で焼成する方法等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-213539号公報
【文献】特開2008-282665号公報
【文献】特開2002-246025号公報
【文献】特開2000-7311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1~4の方法では、チタン源とリン源とが均一に混合された反応前駆体を工業的に有利に得ることが難しく、このために、X線回折的に単相のものを工業的に有利に得ることが難しいという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相のピロリン酸チタンを得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、(1)二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を含有する原料混合スラリーを加熱処理することにより、一般式:(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2O(nは、0≦n≦1)で表されるリン酸チタンを含有するスラリー(原料加熱処理物スラリー)が得られること、(2)この原料加熱処理物スラリーは、加熱処理による効果と界面活性剤の添加効果との相乗効果で、噴霧乾燥装置内部での付着が抑制されたスラリーであること、(3)原料加熱処理物スラリーを噴霧乾燥して得られる反応前駆体は、反応性に優れていること、(4)該反応前駆体を焼成することにより、X線回折的に単相のピロリン酸チタンが得られること、(5)上記のようにして得られるピロリン酸チタンを粉砕することにより、粒度分布がシャープなものが得られること等を見出し、本発明を完成させるに至った。更には、本発明者らは、上記のようにして得られるピロリン酸チタンとリンのオキソ酸を混合し、得られる混合物を加熱処理することにより、プロトン伝導性に優れたプロトン伝導体が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
(Ti1-xMx)P2O7 (1)
(式中、0≦x≦0.5であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるピロリン酸チタンの製造方法であって、
二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び溶媒を含有するか、又は二酸化チタン、リン酸、M源(Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)、界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を50~120℃で2時間以上加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥処理して、下記一般式(2):
(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンを含有する反応前駆体を得る第3工程と、
該反応前駆体を焼成する第4工程と、
を有することを特徴とするピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、前記二酸化チタンがアナターゼ型であることを特徴とする(1)のピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、前記第1工程における前記原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの固形分としての含有量が、前記混合スラリー(1)全量に対して、0.3~40質量%であることを特徴とする(1)~(2)いずれか1のピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(4)は、前記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤であることを特徴とする(1)又は(3)いずれかのピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(5)は、前記アニオン系界面活性剤が、ポリカルボン酸系界面活性剤であることを特徴とする(4)のピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(6)は、前記反応前駆体は、ラマンスペクトル分光分析において、700cm-1付近にピークが観察されるものであることを特徴とする(1)~(5)いずれかのピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(7)は、前記第4工程における焼成温度が、600~1100℃であること特徴とする請求項(1)~(6)いずれか1項記載のピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(8)は、更に、前記第4工程を行い得られる焼成物を粉砕処理する第5工程を有すること特徴とする(1)~(7)いずれかのピロリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(9)は、下記一般式(2):
(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンの製造方法であって、
二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び水溶媒を含有するか、又は二酸化チタン、リン酸、M源(Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、Na、K、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)、界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を50~120℃で2時間以上加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥処理して、前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを得る第3工程と、
を有することを特徴とするリン酸チタンの製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(10)は、(1)~(8)いずれかのピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンと、リンのオキソ酸と、を混合し、次いで、得られる混合物を加熱処理するA1工程を有することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相のピロリン酸チタンを得ることができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1の第3工程で得られた反応前駆体のX線回折図。
【
図2】実施例1の第3工程で得られた反応前駆体のラマンスペクトル。
【
図3】実施例1で得られたピロリン酸チタンのX線回折図。
【
図4】比較例1で得られた付着物のラマンスペクトル。
【
図5】実施例1で得られたピロリン酸チタンの粒度分布。
【
図6】実施例2で得られたピロリン酸チタンのX線回折図。
【
図7】実施例2で得られたピロリン酸チタンの粒度分布。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法は、下記一般式(1):
(Ti1-xMx)P2O7 (1)
(式中、0≦x≦0.5であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるピロリン酸チタンの製造方法であって、
二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥処理して、下記一般式(2):
(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンを含有する反応前駆体を得る第3工程と、
該反応前駆体を焼成する第4工程と、
を有することを特徴とするピロリン酸チタンの製造方法である。
【0024】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法により得られるピロリン酸チタンは、下記一般式
(1):
(Ti1-xMx)P2O7 (1)
(式中、0≦x≦0.5であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるピロリン酸チタンである。
【0025】
一般式(1)の式中のxは、0≦x≦0.5、好ましくは0≦x≦0.4である。Mは、例えば、プロトン伝導体の用途に用いる場合に、導電率等の性能を向上させることを目的として必要により含有させる金属元素である。Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示し、Zrであることが好ましい。
【0026】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法に係る第1工程は、溶媒に、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を添加し撹拌することにより、溶媒中で、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を混合し、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を含有する原料混合スラリー(1)を調製する工程である。
【0027】
第1工程に係る二酸化チタンは、硫酸法で製造されたものであってよいし、塩酸法で製造されたものであってもよいし、気相法で製造されたものであってもよいし、あるいは、他の公知方法で製造されたものであってもよく、二酸化チタンの製造方法は特に制限されない。
【0028】
二酸化チタンの平均粒子径は、好ましくは20μm以下、特に好ましくは0.1~10μmである。二酸化チタンの平均粒子径が上記範囲にあることにより、各原料との反応性が高くなる。また、二酸化チタンのBET比表面積は、好ましくは50m2/g以上、特に好ましくは150~400m2/gである。二酸化チタンのBET比表面積が上記範囲にあることにより、各原料との反応性が高くなる。
【0029】
二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型とルチル型に大別されるが、本発明においては、いずれの結晶構造のものも使用できる。これらのうち、二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型であることが、反応性が良好になる点で好ましい。
【0030】
第1工程に係るリン酸は、工業的に入手できるものであれば、特に制限されない。リン酸は、水溶液であってもよい。
【0031】
第1工程に係る界面活性剤は、二酸化チタン粒子の粒子表面に選択的に吸着し、原料混合スラリー(1)中に二酸化チタンを高分散させる機能を有し、二酸化チタンが高分散した状態で、第2工程の加熱処理において、前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを生成させることができる。そして、本発明のピロリン酸チタンの製造方法では、第2工程における加熱処理と、原料加熱処理物スラリー(2)に残存する界面活性剤の相乗効果により、原料加熱処理スラリー(2)の粘度が低くなる。このため、第3工程の噴霧乾燥処理において、噴霧乾燥装置の内部でのスラリーの付着が劇的に少なくなる。
【0032】
第1工程に係る界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び両性界面活性剤のうちのいずれであってもよく、噴霧乾燥装置の内部でのスラリーの付着を抑制する効果が高くなる点で、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0033】
アニオン系界面活性剤は、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤であることが、原料加熱処理物スラリー(2)の粘度を低くする効果が高く、反応性に優れた反応前駆体が得られる点で好ましく、ポリカルボン酸系界面活性剤又はポリアクリル酸系界面活性剤が特に好ましく、ポリカルボン酸系界面活性剤がより好ましい。ポリカルボン酸系界面活性剤としては、ポリカルボン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0034】
界面活性剤は、市販のものであってもよい。市販のポリカルボン酸型界面活性剤の一例としては、サンノプコ社製のSNディスパーサント5020、SNディスパーサント5023、SNディスパーサント5027、SNディスパーサント5468、ノプコスパース5600、KAO社製のポイズ532A等が挙げられる。
【0035】
第1工程に係る溶媒は、水溶媒、あるいは、水と親水性有機溶媒の混合溶媒である。親水性有機溶媒としては、原料に対して不活性なものであれば特に制限されず、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、メチルエチルケトンなどが挙げられる。水と親水性有機溶媒の混合溶媒の場合、水と親水性有機溶媒の混合比は適宜選択される。
【0036】
原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの含有量は、二酸化チタン中のTi原子に対するリン酸中のP原子のモル比(P/Ti)で、好ましくは1.5~2.5、特に好ましくは1.7~2.3となる量である。原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの含有量が上記範囲にあることにより、単相のピロリン酸チタンが得られ易くなる。
【0037】
原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの固形分としての含有量は、原料混合スラリー(1)の全量に対して、好ましくは0.3~40質量%、特に好ましくは0.3~35質量%、より好ましくは5~25質量%である。原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの固形分としての含有量が上記範囲にあることにより、各原料成分の分散性が高くなり、また、スラリーの粘度上昇の抑制効果が高くなる。
【0038】
原料混合スラリー(1)中の界面活性剤の含有量は、二酸化チタン100質量部に対して、好ましくは1~20質量部、特に好ましくは5~15質量部である。原料混合スラリー(1)中の界面活性剤の含有量が上記範囲にあることにより、スラリーの粘度上昇の抑制効果が高くなる。
【0039】
なお、第1工程において、溶媒への二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤の添加順序は、特に制限されない。
【0040】
第1工程において、原料混合スラリー(1)の調製を、二酸化チタンとリン酸が反応しない温度で行うことが好ましい。原料混合スラリー(1)を調製する際の温度は、好ましくは50℃未満、特に好ましくは40℃以下、より好ましくは10~30℃である。
【0041】
このようにして、第1工程において原料混合スラリー(1)が得られるが、本発明のピロリン酸チタンの製造方法では、必要により、第1工程において、原料混合スラリー(1)に更に、M源(Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)を含有させることができる。つまり、本発明のピロリン酸チタンの製造方法では、必要により、第1工程において原料混合スラリー(1)を調製する際に、溶媒にM源を混合することができる。
【0042】
M源としては、例えば、M元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、リン酸塩が挙げられる。
【0043】
M源の含有量は、二酸化チタン中のTi原子とM源中のM原子の合計のモル比に対するM源中のM原子のモル比(M/(M+Ti))が、0~0.5、好ましくは0.01~0.5、特に好ましくは0.05~0.4となる量である。二酸化チタン中のTi原子とM源中のM原子の合計のモル比に対するM源中のM原子のモル比(M/(M+Ti))が上記範囲にあることにより、X線回折的に単相のピロリン酸チタンが得られ易くなる。
【0044】
第1工程におけるM源の添加時期は、特に制限されないが、第1工程が終了するまでのいずれかの時期に、原料混合スラリー(1)にM源を添加し、原料混合スラリー(1)にM源を含有させることができる。
【0045】
本発明のピロリン酸コバルトリチウムの製造方法に係る第2工程は、第1工程を行うことにより得られる原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る工程である。
【0046】
第2工程における加熱処理では、リン酸と二酸化チタンが反応して、下記一般式(2):
(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンが生成する。そして、第2工程では、原料混合スラリー(1)を加熱処理することにより、前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを含有する原料加熱処理物スラリー(2)が得られる。
【0047】
二酸化チタンとリン酸を含むスラリー、及び二酸化チタンとリン酸を含むスラリーに対して加熱処理を行い得られるスラリーは、スラリー自体の粘性が著しく高くなるため、該スラリーを噴霧乾燥装置に導入すると、噴霧燥装置内部に該スラリーが付着して噴霧乾燥を行うことができない。これに対して、本発明者らは、二酸化チタンとリン酸とを含む原料混合スラリー(1)を界面活性剤の存在下に加熱処理することにより、(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2Oを含むスラリーになり、且つ、この加熱処理による効果と界面活性剤の添加効果との相乗効果により、原料混合スラリー(1)に比べて粘度が低く、更に噴霧乾燥装置の内部に付着し難いスラリー(原料加熱処理スラリー(2))が得られること、また、原料加熱処理スラリー(2)を噴霧乾燥して得られる反応前駆体は、反応性に優れる反応前駆体になることを見出した。
【0048】
第2工程における加熱処理の温度は、好ましくは50~120℃、特に好ましくは70~105℃である。第2工程における加熱処理の温度が上記範囲にあることにより、工業的に有利な方法で二酸化チタンとリン酸の反応を完結させることができる。第2工程における加熱処理の時間は、本発明のピロリン酸チタンの製造方法において臨界的ではないが、好ましくは2時間以上、特に好ましくは4~24時間である。第2工程における加熱処理の時間が上記範囲にあることにより、一般式(2)で表されるリン酸チタンが生成し、また、後述するように、ラマンスペクトル分光分析において、700cm-1付近にピークが観察されるまで十分に反応が行われるので、噴霧乾燥装置へのスラリーの付着が抑制され、且つ、反応性に優れた反応前駆体を得易くなる。なお、本発明では、ラマンスペクトル分光分析において700cm-1付近にピークが観察されるとは、検出されるピークの極大値が700cm-1付近に存在すると言うことであり、また、700cm-1付近とは700±20cm-1の範囲を示す。
【0049】
第2工程において、二酸化チタンとリン酸との反応を効率的に行うことができる点で、撹拌下に加熱処理を行うことが好ましい。また、第2工程では、大気圧下で加熱処理を行うことが好ましい。
【0050】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法に係る第3工程は、第2工程を行い得られる原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥して、反応前駆体を得る工程である。
【0051】
第3工程において、噴霧乾燥により乾燥処理を行うことにより、原料粒子が密に詰まった状態の造粒物が得られるため、X線回折的に単相のピロリン酸チタンが得られ易くなる。
【0052】
第3工程における噴霧乾燥では、所定手段によってスラリーを霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることにより、反応前駆体を得る。スラリーの霧化には、例えば回転円盤を用いる方法と、圧力ノズルを用いる方法がある。第3工程においてはいずれの方法も用いることもできる。
【0053】
第3工程における噴霧乾燥では、霧化された液滴の大きさは、特に限定されないが、1~40μmが好ましく、5~30μmが特に好ましい。噴霧乾燥装置へのスラリーの供給量は、この観点を考慮して決定することが好ましい。
【0054】
第3工程において、噴霧乾燥装置での乾燥温度を、熱風入口温度が150~300℃、好ましくは200~250℃に調整して、熱風出口温度が80~200℃、好ましくは100~170℃となるように調整することが、粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0055】
第3工程を行い得られる反応前駆体は、一般式(2)で表されるリン酸チタンを含有する。反応前駆体は、ラマンスペクトル分光分析において、700cm-1付近にピークが観察されるものであることが、噴霧乾燥装置へのスラリーの付着が抑制され、且つ、反応性に優れた反応前駆体となる点で好ましい。
【0056】
このようにして、第3工程を行うことにより、第4工程において焼成に付する反応前駆体を得る。
【0057】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法に係るに係る第4工程は、第3工程を行い得られる反応前駆体を焼成して、X線的に単相のピロリン酸チタンを得る工程である。
【0058】
第4工程での焼成温度は、好ましくは600~1100℃、特に好ましくは700~1050℃である。焼成温度が上記範囲であることにより、X線的に単相のピロリン酸チタンが得られる。一方、焼成温度が上記範囲未満だと、X線的に単相なものになるまでの焼成時間が長くなり過ぎ、また、粒度分布がシャープなものが得られ難くなる傾向にある。また、焼成温度が上記範囲を超えると、一次粒子が大きく成長した焼結体が粗大粒子となって含有されるため、好ましくない。
【0059】
第4工程での焼成雰囲気は、大気雰囲気又は不活性ガス雰囲気である。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられ、これらの中、窒素ガスが、安価で工業的に有利になる観点から好ましい。
【0060】
第4工程における焼成時間は、特に制限されず、0.5時間以上、好ましくは2~20時間である。第4工程では、0.5時間以上、好ましくは2~20時間焼成を行えば、X線回折的に単相のピロリン酸チタンを得ることができる。
【0061】
第4工程では、一旦焼成を行い得られたピロリン酸チタンを、必要に応じて、複数回焼成してもよい。
【0062】
第4工程を行い得られるピロリン酸チタンを、必要に応じて、解砕処理、又は粉砕処理し、更に分級してもよい。
【0063】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法は、第4工程を行い得られる焼成物を粉砕処理する第5工程を有することが、微粒で且つ粒度分布がシャープなピロリン酸チタンが得られる点で好ましい。第5工程における粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0064】
このようにして本発明のピロリン酸チタンの製造方法を得られるピロリン酸チタンは、X線回折的に単相のピロリン酸チタンであることに加えて、レーザー回折散乱法により求められる平均粒子径が、好ましくは10μm以下、特に好ましくは0.1~5μmであり、BET比表面積が、好ましくは1m2/g以上、特に好ましくは5~30m2/gである。本発明のピロリン酸チタンは、粒度分布がシャープなものであることが好ましい。なお、レーザー回折散乱法により求められる平均粒子径とは、レーザー回折散乱法により測定される体積頻度粒度分布測定により求められる積算50%(D50)の粒径を指す。
【0065】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンは、プロトン伝導体、二次電池の負極活物質、二次電池の固体電解質のリン供給源として好適に利用される。
【0066】
本発明のピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンを、そのままで、プロトン伝導体として用いることができる。あるいは、本発明のピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンを、リンのオキソ酸と混合し、次いで、得られる混合物を加熱処理する第A1工程を行い、得られる加熱処理物をプロトン伝導体として用いることができる。
【0067】
本発明のプロトン伝導体の製造方法は、本発明のピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンと、リンのオキソ酸と、を混合し、次いで、得られる混合物を加熱処理するA1工程を有することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法である。A1工程を行うことにより、プロトン伝導性能が向上したプロトン伝導体が得られる。
【0068】
第A1工程に係るピロリン酸チタンは、本発明のピロリン酸チタンの製造方法を行い得られるピロリン酸チタンである。第A1工程に用いられるピロリン酸チタンの物性等は、特に制限されるものではないが、レーザー回折散乱法により求められる平均粒子径が0.5~2.0μmであることが、高い強度を持つプロトン伝導体が得られる点で好ましい。
【0069】
第A1工程に係るリンのオキソ酸は、リン原子に水酸基(-OH)とオキシ基(=O)とが結合した構造を有する化合物を指す。上記リンのオキソ酸としては、リン酸(H3PO4)、ホスホン酸(H3PO3)、ホスフィン酸(H3PO2)、ピロリン酸(H4P2O7)、ポリリン酸等が挙げられる。これらのうち、特にプロトン伝導体が優れたものが得られる観点からリン酸が好ましい。また、リンのオキソ酸は、水溶液であってもよい。
【0070】
リンのオキソ酸の混合量は、ピロリン酸チタン中のTi原子に対するリン酸中のリン原子のモル比(P/Ti)で、好ましくは0.07~0.7、特に好ましくは0.1~0.5となる量である。リンのオキソ酸の混合量が上記範囲にあることにより、ピロリン酸チタンの粒子表面をリンのオキソ酸で均一に被覆したものが得られる点で好ましい。
【0071】
第A1工程において、ピロリン酸チタンと、リンのオキソ酸とを混合する方法は、特に制限されず、ピロリン酸チタンとリンのオキソ酸とがムラなく接触できるような方法であればよい。例えば、実験室レベルでは、乳鉢等を用いてもムラなく混合処理することができる。
【0072】
なお、ピロリン酸チタンとリンのオキソ酸との反応性を向上させるため、混合処理後にシートやぺレット等に加圧成形してもよい。
【0073】
第A1工程における加熱処理の温度は、80~500℃、好ましくは200~500℃、特に好ましくは300~450℃である。第A1工程における加熱処理の温度が上記範囲にあることにより、過度の焼結を抑制しつつ、高い強度を持つプロトン伝導体が得られる。第A1工程における加熱処理の時間は、0.5時間以上、好ましくは1~5時間である。第A1工程における加熱処理の雰囲気は、大気中であって、不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0074】
また、本発明のプロトン伝導体の製造方法において、リンのオキソ酸として水を含むものを用いるときは、加熱処理を2段階に分けて段階的に行ってもよい。段階的に加熱処理を行う場合は、第1加熱処理を80~150℃、好ましくは100~130℃で、0.5時間以上、好ましくは1~5時間行い、次いで、第2加熱処理を200~500℃、好ましくは300~450℃で、0.5時間以上、好ましくは1~5時間行うことが好ましい。この場合は、第1加熱処理後、一旦室温へ冷却してから、第2加熱処理を行ってもよく、あるいは、第1加熱処理後、そのまま冷却することなく連続的に第2加熱処理を継続して行ってもよい。
【0075】
本発明で得られるプロトン伝導体は、燃料電池の電解質として用いられる。
【0076】
本発明のリン酸チタンの製造方法は、下記一般式(2):
(Ti1-yMy)(HPO4)2・nH2O (2)
(式中、0≦y≦1.0であり、0≦n≦1であり、Mは、Mg、Zn、Cu、Fe、Cr、Mn、Ni、Al、B、Na、K、F、Cl、Br、I、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Y、Yb、Si、S、Mo、W、V、Bi、Te、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ga、Ge、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy及びHoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。)
で表されるリン酸チタンの製造方法であって、
二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び水溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)を噴霧乾燥処理して、前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを得る第3工程と、
を有することを特徴とするリン酸チタンの製造方法である。
【0077】
本発明のリン酸チタンの製造方法に係る第1工程、第2工程及び第3工程は、本発明のピロリン酸チタンの製造方法に係る第1工程、第2工程及び第3工程と同様である。
【0078】
本発明のリン酸チタンの製造方法において、第3工程を行い得られるリン酸チタンを、必要に応じて、解砕処理、又は粉砕処理し、更に分級し、例えば、無機イオン交換体、触媒等として用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<評価装置>
・X線回折:リガク社 UltimaIVを用いた。
線源としてCu-Kαを用いた。測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度0.1°/secとした。
・ラマン分光装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック製 NicoletAlm
ega XRを用いた。測定条件は、レーザー波長を532nmとした。
【0080】
(実施例1)
<第1工程>
純水11.5Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら、純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m
2/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)1500g、アニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム:サンノプロ社製SNディスパーサント5468)130.5g、85質量%リン酸(含水率15質量%)3880.9gの順に仕込んで、原料混合スラリー(1)を調製した。
<第2工程>
次いで、撹拌下にこの原料混合スラリー(1)を、30℃/hで90℃まで昇温し、そのまま90℃で8時間保持した後、室温(25℃)まで放冷して、原料加熱処理物スラリー(2)を得た。
<第3工程>
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で、原料加熱処理物スラリー(2)を供給し、乾燥物を得た。スプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着分は少なく、回収率は固形分基準で96%であった。得られた乾燥物をX線回折分析したところ、α-Ti(HPO
4)
2(H
2O)であった(
図1)。また、ラマンスペクトル分析したところ700cm
-1にピークが確認された(
図2)。
<第4工程及び第5工程>
次いで、得られた反応前駆体を大気中850℃で4時間、焼成し、焼成物を得た。
次いで、焼成物を気流粉砕機で粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、粉砕物は単相のTiP
2O
7であった(
図3)。これをピロリン酸チタン試料とした。
【0081】
(比較例1)
純水11.5Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m
2/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)1500g、アニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム:サンノプロ社製SNディスパーサント5468)130.5g、85質量%リン酸(含水率15質量%)3880.9gの順に仕込み、8時間攪拌して、原料混合スラリー(1)を得た。
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で原料混合スラリー(1)を供給したが、スラリーのほぼ全量がスプレードライヤー内部に付着した。付着物をラマンスペクトル分析したところ700cm
-1付近のピークは確認されなかった(
図4)。
【0082】
(比較例2)
純水11.5Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m2/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)1500g、85質量%リン酸(含水率15質量%)3880.9gの順に仕込み、8時間攪拌して原料混合スラリー(1)を得た。
次いで、撹拌下にこのスラリーを30℃/hで90℃まで昇温したところ、ゲル化して、攪拌不能となった。ゲル化したケーキをラマンスペクトル分析したところ700cm-1付近のピークは確認された。
【0083】
【0084】
(1)<物性評価>
実施例で得られたピロリン酸チタン試料について、平均粒子径、BET比表面積を測定した。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法により求めた。また、実施例1で得られたピロリン酸チタン試料の粒度分布図を
図5に示す。
図5から明らかなように実施例1で得られたピロリン酸チタン試料は粒度分布がシャープなものであることが分かる。
【0085】
(2)<プロトン伝導体としての評価>
<成型体の作製>
実施例で得られたピロリン酸チタン試料0.46gと85質量%リン酸 0.09gをメノウ乳鉢で10分間、混合した。得られた混合物をφ10mmの金型に全量入れ、300kgの圧力で円柱型ペレット状に成形し、粉末成形体を作製した。得られた粉末成型体を、乾燥機にて120℃で1時間乾燥後、電気炉にて400℃で1時間焼成して、セラミック成型体を得た。
<導電率の測定>
JISK7194に準拠した低抵抗率計ロレスターGP、MCT-T600(三菱化学株式会社製)を用いてPSPプローブ(電極間隔1.5mm)使用、リミッタ電圧10Vにて4探針法による(25℃)での導電率(S/cm)測定を行った。
【0086】
【0087】
(実施例2)
<第1工程>
純水11.5Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら、純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m
2/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)1500g、ZrO
2換算で純度28.2%の水酸化ジルコニウム819.4g、アニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム:サンノプロ社製SNディスパーサント5468)130.5g、85質量%リン酸(含水率15質量%)3880.9gの順に仕込んで、原料混合スラリー(1)を調製した。
<第2工程~第3工程>
次いで、実施例1と同様にして第2工程~第3工程を実施して、反応前駆体を得た。第3工程で得られた反応前駆体を、ラマンスペクトル分析したところ700cm
-1にピークが確認された。また、反応前駆体をX線回折分析したところ、異相は観察されず、α-(Ti)(HPO
4)
2(H
2O)に、Zrをモル比(Zr/Ti)0.1で含有させたリン酸チタンであり、X線回折的には単相のα-(Ti)(HPO
4)
2(H
2O)であることを確認した。
また、第3工程において、噴霧乾燥後のスプレードライヤーの内部を実施例1と同様に目視で観察したところ、内部付着物は少なく、回収率は固形分基準で95%であった。
<第4工程~第5工程>
次いで、得られた反応前駆体に対して実施例1と同様に第4工程~第5工程を実施して粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、異相は観察されず、Zrをモル比(Zr/Ti)0.1で含有させたピロリン酸チタンであり、X線回折的には単相のTiP
2O
7であることを確認した(
図6)。これをピロリン酸チタン試料とした。
このピロリン酸チタン試料について、実施例1と同様にして平均粒径、BET比表面積を測定した結果、平均粒径は1.2μmで、BET比表面積は11.67m
2/gであった。また、ピロリン酸チタン試料の粒度分布図を
図7に示す。