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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20230627BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B27/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019116644
(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公開番号】P2021001419
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 治基
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012914(JP,A)
【文献】特開2013-208814(JP,A)
【文献】特開2012-197547(JP,A)
【文献】特開昭52-064403(JP,A)
【文献】特開昭59-088980(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材と、無孔質樹脂層と、前記繊維質基材と前記無孔質樹脂層の間に設けられた多孔質樹脂層と、を備える合成皮革であって、
前記合成皮革の厚みは800μm以上10400μm以下であり、
前記多孔質樹脂層の垂直断面における孔面積率は25%以上70%以下であり、
前記繊維質基材の目付(g/cm )と厚み(cm)から算出される前記繊維質基材の密度は0.05~1.0g/cmであり、前記多孔質樹脂層の目付(g/cm )と厚み(cm)から算出される前記多孔質樹脂層の密度は0.1~2.0g/cmであり、前記無孔質樹脂層の目付(g/cm )と厚み(cm)から算出される前記無孔質樹脂層の密度は2~4g/cmであり、
前記繊維質基材の密度(S1)と前記多孔質樹脂層の密度(S2)と前記無孔質樹脂層の密度(S3)が、S1<S2<S3の関係を満たす、
合成皮革。
【請求項2】
前記多孔質樹脂層の厚みは20~300μmである、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記無孔質樹脂層の厚みは1~100μmである、請求項1又は2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記多孔質樹脂層は、マトリックスとなる樹脂と反応温度が異なる2種類以上の感温性触媒とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法であって、
無孔質樹脂層用樹脂液を離型性基材上に塗布して、無孔質樹脂層を形成する工程、
多孔質樹脂層用樹脂液を前記無孔質樹脂層上に塗布して、多孔質樹脂層を形成する工程、
前記多孔質樹脂層と繊維質基材とを貼り合わせる工程、および、
前記離型性基材を剥離する工程、
をこの順で含む、合成皮革の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質樹脂層用樹脂液はマトリックスとなる樹脂と感温性触媒とを含む樹脂液である、請求項5に記載の合成皮革の製造方法。
【請求項7】
前記感温性触媒はジアザビシクロアルケンの有機塩を含む、請求項6に記載の合成皮革の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成皮革およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両内装材やインテリア資材の表皮材として、繊維質基材上にポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂からなる樹脂層を設けた合成皮革が用いられている。これら表皮材は、所望の形状に裁断され縫製して用いられるが、合成皮革はその表面が硬い樹脂層からなるため、縫製時に縫製箇所にシワが発生しやすいという課題がある。
【0003】
上記課題を解決すべく、特許文献1では、PVC製またはポリウレタン製の表皮と、芯糸が織物組織の間に挿入された編織物、弾性糸が一緒に編み込まれた編織物、又は芯糸が織物の間に挿入され、弾性糸が一緒に編み込まれた編織物とを合布してなることにより、縫製後に縫製個所に発生する縫製シワが改善された人造合成皮革を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-510964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の人造合成皮革は、縫製シワは改善されるものの、その風合いは粗硬であるという課題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、縫製時における縫製シワの発生が抑制され、かつ、風合いの良好な合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材と、無孔質樹脂層と、前記繊維質基材と前記無孔質樹脂層の間に設けられた多孔質樹脂層と、を備える。前記合成皮革の厚みは800μm以上である。前記多孔質樹脂層の垂直断面における孔面積率は25%以上である。
【0008】
本発明の実施形態に係る合成皮革の製造方法は、上記合成皮革を製造する方法であって、無孔質樹脂層用樹脂液を離型性基材上に塗布して無孔質樹脂層を形成する工程、多孔質樹脂層用樹脂液を前記無孔質樹脂層上に塗布して多孔質樹脂層を形成する工程、前記多孔質樹脂層と繊維質基材とを貼り合わせる工程、および、前記離型性基材を剥離する工程、をこの順で含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、縫製時における縫製シワの発生が抑制され、かつ、風合いの良好な合成皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る合成皮革の断面摸式図である。
図2】他の実施形態に係る合成皮革の断面摸式図である。
図3】(A)は一実施例の合成皮革の断面画像であり、(B)はそのうちの多孔質樹脂層をトリミングにより切り出した部分の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材上に、多孔質樹脂層と無孔質樹脂層とをこの順に積層してなる合成皮革である。すなわち、合成皮革は、繊維質基材と、前記繊維質基材上に設けられた多孔質樹脂層と、前記多孔質樹脂層上に設けられた無孔質樹脂層とを備えてなる。前記合成皮革の厚みは800μm以上であり、前記多孔質樹脂層の垂直断面における孔面積率は25%以上である。
【0012】
合成皮革の厚みが800μm以上であることにより、縫製時に合成皮革に生じる歪みを吸収しやすくなると考えられ、そのため、縫製時の縫製シワの発生が抑制された合成皮革とすることができる。合成皮革の厚みは好ましくは900μm以上である。合成皮革の厚みの上限は特に限定されず、例えば10400μm以下でもよく、2250μm以下でもよい。
【0013】
また、多孔質樹脂層の孔面積率が25%以上であることにより、多孔質樹脂層の空隙率が大きくなるので、縫製時に合成皮革に発生する歪みを空隙で吸収しやすくなると考えられる。これにより縫製時の縫製シワの発生が抑制され、且つ、風合いの良好な合成皮革とすることができる。ここで、多孔質樹脂層の孔面積率とは、多孔質樹脂層の垂直断面における孔の占める割合である。
【0014】
上記構成を有することにより、本実施形態の合成皮革を表皮材として用いて、例えばいせ込み縫製を行う場合に、いせ込み時に発生する歪みを軽減することができる。すなわち、合成皮革が十分な厚みを有するとともに空隙率の高い多孔質樹脂層を持つことで、いせ込みにより発生した歪みの力が分散されやすくなり、縫製シワが発生しようとする力(張力)を低減することができる。したがって、縫製時、特にはいせ込み縫製を行う際に、縫製シワの発生が抑制された合成皮革とすることができる。ここで、いせ込み縫製(縮縫)とは、平面の布帛(ここでは合成皮革)を立体的に仕立てるために、表面には見えないように細かく縫い縮める縫製方法である。
【0015】
本実施形態に係る合成皮革のBLC値は、風合いの観点から4.5mm以上であることが好ましい。BLC値の上限値は特に限定されないが、縫製シワの観点から6.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは6.0mm以下である。BLC値は、皮革の手触りによる風合い特性の指標となるものであり、この値が大きいほど合成皮革の風合いが柔らかいことを意味する。
【0016】
ここで、BLC値は以下のように求めることができる。すなわち、合成皮革から150mm四方の試験片を1枚採取し、ST300 Leather Softness Tester(BLC Leather Technology Center Ltd.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの、歪み測定値(BLC値)を測定する。歪み測定値が大きいものほど、柔軟であり、風合いが優れる。
【0017】
図1は、一実施形態に係る合成皮革1の断面構造を摸式的に示したものである。この合成皮革1では、繊維質基材2の一方の面に多孔質樹脂層3と無孔質樹脂層4がこの順に積層されている。また、合成皮革1のオモテ面5には凹凸が設けられている。無孔質樹脂層4の表面が合成皮革1のオモテ面5であり、該オモテ面5に凹凸が設けられている。さらに、多孔質樹脂層3の裏面およびオモテ面(すなわち無孔質樹脂層4の裏面)にも凹凸が設けられている。ここで、合成皮革のオモテ面とは、合成皮革の表裏のうち、使用時に目に見える方の面(意匠面)をいう。多孔質樹脂層のオモテ面とは、多孔質樹脂層の表裏のうち、無孔質樹脂層側の面をいう。
【0018】
図2は、他の実施形態に係る合成皮革10の断面構造を摸式的に示したものである。この合成皮革10では、繊維質基材2と多孔質樹脂層3との間に接着層6が設けられている。すなわち、図2の例では、繊維質基材2の一方の面に、接着層6、多孔質樹脂層3および無孔質樹脂層4がこの順に積層されている。このように、本発明において、多孔質樹脂層は、繊維質基材上に直接設けられてもよく、接着層等の他の層を介して繊維質基材上に設けられてもよい。また、無孔質樹脂層は、多孔質樹脂層上に直接設けられてもよく、接着層等の他の層を介して多孔質樹脂層上に設けられてもよい。
【0019】
図2に示す例では、合成皮革10のオモテ面5には凹凸が設けられていない。すなわち、合成皮革10のオモテ面5はフラットな状態である。このように、合成皮革のオモテ面はフラットでもよく、また図1に示す例のように凹凸が設けられてもよい。また、多孔質樹脂層のオモテ面及び裏面についても同様に、フラットでもよく、凹凸が設けられてもよい。なお、多孔質樹脂層の裏面の凹凸は、繊維質基材由来の凹凸であってもよい。また、合成皮革のオモテ面の凹凸および多孔質樹脂層のオモテ面の凹凸は、離型性基材により賦型される凹凸模様でもよい。
【0020】
本実施形態において、繊維質基材としては、特に限定されるものでなく、編物、織物、不織布などの布帛や、天然皮革(床革含む)を例示することができる。なかでも編物または織物が好ましく、より好ましくは編物である。布帛には、従来公知の溶剤系、無溶剤系(水系を含む)の高分子化合物(例えば、ポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂)を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させたものを用いてもよい。なお、繊維質基材は、染料または顔料により着色されたものであってもよい。
【0021】
繊維質基材を構成する繊維の種類も特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも、強度や加工性の観点から、合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維が特に好ましい。
【0022】
繊維質基材の厚み(T1)は、特に限定されるものではなく、400~10000μmであることが好ましく、より好ましくは500~2000μmである。繊維質基材の厚みが400μm以上であることにより、縫製シワが発生しようとする力(張力)を軽減することができ、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。繊維質基材の厚みが10000μm以下であることにより、耐摩耗性を向上することができる。
【0023】
繊維質基材の密度(S1)(見掛け密度)は、特に限定されるものではなく、0.05~1.0g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.05~0.5g/cmである。繊維質基材の密度が0.05g/cm以上であることにより、耐摩耗性を向上することができる。繊維質基材の密度が1.0g/cm以下であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。ここで、繊維質基材の密度は、その目付(g/cm)と厚み(cm)から算出される。
【0024】
本実施形態に係る合成皮革は、上述の繊維質基材に、第1の樹脂層として、多孔質樹脂層が積層されてなる。
【0025】
多孔質樹脂層は、多数の孔を有している樹脂層である。孔の形態は、特に限定されるものではなく、閉塞孔でも開放孔でもよい。なかでも耐摩耗性の観点から、閉塞孔(すなわち、貫通していない閉じた孔)であることが好ましい。
【0026】
孔の形状は、特に限定されるものではなく、定形でも不定形でもよく、球状でも、長球状でもよい。
【0027】
孔の大きさは、特に限定されるものではなく、孔の長径が10~200μmであることが好ましく、より好ましくは15~100μmである。孔の長径が10μm以上であることにより、多孔質樹脂層の空隙が大きくなり、縫製時に発生する歪みを吸収しやすくすることができる。そのため、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。孔の長径が200μm以下であることにより、耐摩耗性を向上することができる。
【0028】
ここで、孔の長径は、多孔質樹脂層の垂直断面に表れる孔の長径であり、孔が球状(断面では円形)の場合は直径であり、球状でない場合は最大寸法をとる差渡しの長さである。詳細には、多孔質樹脂層の垂直断面をマイクロスコープで観察した画像において当該垂直断面に表れる複数の孔のうちの最大の長径を持つ孔の当該長径を測定し、この測定を多孔質樹脂層の水平方向に連続した10箇所の垂直断面においてそれぞれ行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所における平均値を、孔の長径とする。
【0029】
多孔質樹脂層の密度(S2)(見掛け密度)は、特に限定されるものではなく、0.1~2.0g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.5~1.0g/cmである。多孔質樹脂層の密度が0.1g/cm以上であることにより、耐摩耗性を向上することができる。多孔質樹脂層の密度が2.0g/cm以下であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。ここで、多孔質樹脂層の密度は、その目付(g/cm)と厚み(cm)から算出される。
【0030】
繊維質基材と多孔質樹脂層を合わせた層の平均密度(S12)は、特に限定されるものではなく、0.1~1.0g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.2~0.5g/cmである。繊維質基材と多孔質樹脂層を合わせた層の平均密度が0.1g/cm以上であることにより、耐摩耗性を向上することができる。繊維質基材と多孔質樹脂層を合わせた層の平均密度が1.0g/cm以下であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。
【0031】
ここで、繊維質基材と多孔質樹脂層を合わせた層の平均密度(S12)は次式から算出することができる。
S12[g/cm3]={(繊維質基材の密度[g/cm3]×繊維質基材の厚み[cm])+(多孔質樹脂層の密度[g/cm3]×多孔質樹脂層の厚み[cm])}÷(繊維質基材の厚み[cm]+多孔質樹脂層の厚み[cm])
【0032】
多孔質樹脂層の厚み(T2)は、特に限定されるものではなく、20~300μmであることが好ましく、より好ましくは50~200μmであり、さらに好ましくは100~200μmである。多孔質樹脂層の厚みが20μm以上であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。多孔質樹脂層の厚みが300μm以下であることにより、耐摩耗性を向上することができる。
【0033】
本実施形態において、多孔質樹脂層の孔面積率、すなわち、多孔質樹脂層の垂直断面における孔の占める割合は、上記のとおり、25%以上である。多孔質樹脂層の孔面積率は、好ましくは35%以上である。多孔質樹脂層の孔面積率の上限値は、特に限定されないが、70%以下であることが好ましく、より好ましくは55%以下である。多孔質樹脂層の孔面積率が70%以下であることにより、耐摩耗性を向上することができる。
【0034】
多孔質樹脂層の孔面積率の算出方法は、マイクロスコープによる層の垂直断面の観察および画像処理により、垂直断面の多孔質樹脂層全体が占める面積に対する孔部分の面積率を求めることによる。
【0035】
すなわち、試験片の垂直断面の多孔質樹脂層をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、VHX-200/100F)を用いて100倍の倍率で観察する。
多孔質樹脂層の裏面(繊維質基材側)に複数ある凸部のうち高い方から順に2つを選択し、2つの凸部の頂点を結ぶ接線1を引く(図1参照)。次いで、多孔質樹脂層のオモテ面(無孔質樹脂層側)に複数ある凹部のうち最も低い凹部の1つを選択し、該凹部の底点を接点とし、前記接線1に平行になるように接線2を引く。接線1と接線2を引いた画像について、マイクロソフト社の「Office Picture Manager」を用いて画像の角度を0.1度単位で微調整することにより、接線1と接線2が水平になるように修正する(図3(A)参照)。その後、接線1と接線2と多孔質樹脂層の左右端部で囲まれた部分をトリミング加工し、トリミング加工した部分(図3(B)参照)を多孔質樹脂層全体が占める面積とする。上記トリミング加工した部分をIMAGE Jの画像ソフトを用い、2値化して孔の部分の面積率(=(孔の面積/全体の面積)×100)を求める。上記の作業を多孔質樹脂層の水平方向に連続した10箇所において行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所の面積率の平均値を、孔面積率とする。
【0036】
なお、多孔質樹脂層のオモテ面に凹凸が形成されない場合は、無孔質樹脂層を含まない範囲で接線1と接線2との間隔が最大となるように、接線1に平行な接線2を引き、上述の凹凸を有する場合と同様に、孔と孔以外の部分を2値化して、孔の部分の面積率を求める。
【0037】
また、多孔質樹脂層のオモテ面および裏面に凹凸が形成されない場合は、試験片の垂直断面の多孔質樹脂層をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、VHX-200/100F)を用いて100倍の倍率で観察する。上述の凹凸を有する場合と同様に、孔と孔以外の部分を2値化して、孔の部分の面積率を求める。上記の作業を多孔質樹脂層の水平方向に連続した10箇所において行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所の面積率の平均値を、孔面積率とする。
【0038】
多孔質樹脂層に多数の孔を形成する手段としては、特に限定されることはなく、従来公知の方法を取ることができる。例えば、機械の撹拌による物理的発泡、発泡剤添加や化学反応などによる化学的発泡、中空微粒子の添加による孔形成、または、ポリウレタン樹脂の湿式凝固による孔形成などが挙げられる。好ましくは化学的発泡が好ましく、2種類以上の感温性触媒を用いた化学的発泡がより好ましい。
【0039】
多孔質樹脂層に主剤として用いられる樹脂、すなわちマトリックスとなる樹脂は、例えば、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミノ酸樹脂、SBR樹脂、NBR樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びこれらの共重合体など、従来公知の合成樹脂を挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、マトリックスとなる樹脂は、耐摩耗性、風合いなどの観点から、ポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン樹脂とは、主鎖にウレタン結合を持つ高分子化合物であるポリウレタンまたは該ポリウレタンを主成分とする樹脂の総称である。そのため、例えばアクリルウレタン樹脂のようなウレタン結合を含む共重合体でもよく、あるいはまたポリウレタンと他の樹脂との混合物でもよい。一実施形態に係るポリウレタン樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えばポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。なかでも、耐久性の観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0040】
樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、溶剤系、水系など特に限定されない。また、一液型、二液硬化型も特に限定されず、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。なかでも、化学発泡により多孔質樹脂層を形成しやすいという観点から、2液硬化型が好ましく、環境負荷の観点から、無溶剤系(無溶媒系)が好ましい。
【0041】
多孔質樹脂層の主剤として、ポリウレタン樹脂を用いる場合、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させたものであることが好ましい。
【0042】
ポリオールは特に限定されるものでなく、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐久性の観点からポリカーボネートポリオールがより好ましい。
【0043】
ポリオールの数平均分子量は80~6000であることが好ましく、100~6000であることがより好ましく、500~5000であることが更に好ましい。数平均分子量が80以上であることにより、多孔質樹脂層用ウレタン樹脂組成物の粘度が高くなり、気泡が樹脂層から抜けにくくなる。また、数平均分子量が6000以下であることにより、多孔質樹脂層用ウレタン樹脂組成物の剛性が良好なものとなる。なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0044】
一方、ポリイソシアネートも特に限定されるものでなく、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートあるいは脂環族ジイソシアネート、および4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の2量体および3量体を含むポリメリックMDIなどを挙げることができる。なかでも、硬化反応のコントロールが容易で多孔質樹脂層を形成しやすいという観点から、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0045】
多孔質樹脂層を形成する樹脂液(即ち、多孔質樹脂層用樹脂液)には、必要に応じて、多孔質樹脂層の物性を損なわない範囲内で、架橋剤、触媒、レベリング剤、顔料、艶消し剤などの添加剤を用いることができる。なかでも、安定した多孔質状態を得られるという点から、触媒を用いることが好ましく、特には感温性触媒を用いることが好ましく、さらには、反応温度が異なる2種類以上の感温性触媒を用いることが好ましい。すなわち、好ましい実施形態において、多孔質樹脂層用樹脂液は、マトリックスとなる樹脂と感温性触媒を含む樹脂液であり、より好ましくは、マトリックスとなる樹脂と反応温度が異なる2種以上の感温性触媒を含む樹脂液である。そのため、好ましい実施形態において、多孔質樹脂層は、マトリックスとなる樹脂と反応温度が異なる2種以上の感温性触媒とを含む。多孔質樹脂層用樹脂液または多孔質樹脂層における感温性触媒の含有量(2種以上の感温性触媒を含む場合はその合計の含有量)は、特に限定されず、例えば、固形分として、マトリックスとなる樹脂(二液硬化型樹脂、例えば二液硬化型ポリウレタン樹脂の場合、ポリオールとイソシアネート硬化剤の合計量)100質量部に対して0.002~10質量部でもよく、0.02~1.0質量部でもよい。
【0046】
感温性触媒は、温度上昇により活性化ないし高活性化される触媒であり、例えばアミン触媒、金属触媒等が挙げられる。なかでも、環境負荷の観点から、アミン触媒が好ましい。
【0047】
アミン触媒としては、特に限定されるものではなく、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロアルケン、ジアルキル(C1~3)アミノアルキル(C2~4)アミン、複素環式アミノアルキル(C2~6)アミン、およびこれらの有機塩が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。ジアザビシクロアルケンとしては、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU(登録商標)、サンアプロ株式会社製)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5(DBN)等が挙げられる。ジアルキル(C1~3)アミノアルキル(C2~4)アミンとしては、例えば、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン等が挙げられる。複素環式アミノアルキル(C2~6)アミンとしては、例えば、2-(1-アジリジニル)エチルアミン、4-(1-ピペリジニル)-2-ヘキシルアミン等が挙げられる。有機塩としては、例えば、フタル酸塩、安息香酸塩等の芳香族カルボン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、エタンスルホン酸等のスルホン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、オクチル酸塩等の脂肪酸塩、フェノール塩、クレゾール塩、ナフトール塩等のフェノール類塩が挙げられる。
【0048】
これらのなかでも、感温性のアミン触媒としては、有機塩、すなわち上記アミンと有機酸との塩を用いることが好ましい。有機塩ではアミンと有機酸が温度上昇によって電離することで、アミンによる触媒効果が促進されると考えられ、有機酸の種類によって電離する温度を調整することができる。かかる電離状態を加熱温度によって容易に調整できるという観点から、感温性のアミン触媒としては、ジアザビシクロアルケンの有機塩が好ましく、ジアザビシクロウンデセン(DBU)の有機塩がより好ましい。
【0049】
上述のように、本実施形態においては反応温度が異なる2種類以上の感温性触媒を用いることが好ましい。低温で反応する感温性触媒により多孔質樹脂層の架橋状態を促進して、多孔質樹脂層と繊維質基材との貼り合わせ状態(積層状態)を安定化させ、高温で反応する感温性触媒により各層を積層した状態で熱処理によって多孔質樹脂層の架橋反応を促進させることにより、所望の孔面積率を有する多孔質樹脂層を得ることができる。なお、本明細書において、低温は100℃未満(より好ましくは50℃以上100℃未満)の範囲であり、高温は100℃以上(より好ましくは100℃以上170℃以下)の範囲である。
【0050】
多孔質樹脂層用樹脂液には、上述した添加剤以外に、必要に応じて溶媒を含有させてもよい。
【0051】
本実施形態に係る合成皮革は、上述の多孔質樹脂層に、第2の樹脂層として、無孔質樹脂層が積層されてなる。無孔質樹脂層は、耐久性、特には耐摩耗性を付与するための層である。
【0052】
無孔質樹脂層を構成する樹脂は、多孔質樹脂層の主剤と同様の樹脂を用いることができる。なかでも、無孔質樹脂層を構成する樹脂は、耐摩耗性、風合いなどの観点から、多孔質樹脂層と同様、ポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。なかでも、耐久性の観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0053】
樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、溶剤系、水系など特に限定されない。また、一液型、二液硬化型も特に限定されず、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。なかでも、溶媒を乾燥除去するだけで皮膜形成が可能なため一液型樹脂が好ましく、環境負荷の観点から、乳化分散(エマルジョンタイプ)が好ましい。
【0054】
無孔質樹脂層を形成する樹脂液(即ち、無孔質樹脂層用樹脂液)には、公知の添加剤、例えば、着色剤、平滑剤、架橋剤、艶消し剤、レベリング剤等を用いることができる。無孔質樹脂層用樹脂液には、前記添加剤以外に、必要に応じて溶媒を含有させる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。
【0055】
無孔質樹脂層の厚み(T3)は、特に限定されることはなく、1~100μmが好ましく、より好ましくは5~50μmである。無孔質樹脂層の厚みが1μm以上であることにより、耐摩耗性を向上することができる。無孔質樹脂層の厚みが100μm以下であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。
【0056】
無孔質樹脂層の密度(S3)(見掛け密度)は、特に限定されることはなく、1~5g/cmであることが好ましく、より好ましくは2~4g/cmである。無孔質樹脂層の密度が1g/cm以上であることにより、耐摩耗性を向上することができる。無孔質樹脂層の密度が5g/cm以下であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。ここで、無孔質樹脂層の密度は、その目付(g/cm)と厚み(cm)から算出される。
【0057】
本実施形態の合成皮革において、繊維質基材の厚み(T1)と多孔質樹脂層の厚み(T2)との合計厚み(T1+T2)と、無孔質樹脂層の厚み(T3)との関係が、以下を満たすことが好ましい。
0.010≦T3/(T1+T2)≦0.060
無孔質樹脂層の厚みに対して、繊維質基材の厚みと多孔質樹脂層との合計厚みを上記範囲となるよう特定の厚みに設定することで、空隙の多い繊維質基材と多孔質樹脂層が合成皮革の厚みの大部分を占めることになる。そのため、いせ込みによる歪みの吸収効果を高めることができるので、いせ込み時に生じる歪みを軽減することができ、よって、縫製時、特にはいせ込み縫製を行う際の縫製シワの抑制効果を高めることができる。T3/(T1+T2)は、0.050以下であることがより好ましい。
【0058】
本実施形態の合成皮革において、繊維質基材の密度(S1)と、多孔質樹脂層の密度(S2)と、無孔質樹脂層の密度(S3)との関係が、以下を満たすことが好ましい。
S1<S2<S3
このような関係性であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いの両立効果を高めることができる。
【0059】
また、この密度の関係とともに、繊維質基材の厚み(T1)と多孔質樹脂層の厚み(T2)と無孔質樹脂層の厚み(T3)との関係が、以下を満たすことが好ましい。
T1>T2>T3
これにより、厚みの厚い層ほど密度が小さくなるので、いせ込み時による歪みを更に吸収しやすくして縫製シワの発生をより効果的に抑制することができ、また、風合いを一層向上することができる。
【0060】
本実施形態の合成皮革において、繊維質基材と多孔質樹脂層とを合わせた層の平均密度(S12)が、無孔質樹脂層の密度(S3)よりも小さいことが好ましい。このような関係性であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いの両立効果を高めることができる。
【0061】
本実施形態に係る合成皮革の密度は、特に限定されることはなく、0.35~0.60g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.40~0.58g/cmであり、さらに好ましくは0.51~0.56g/cmである。合成皮革の密度が0.35g/cm以上であることにより、耐摩耗性を向上することができる。合成皮革の密度が0.60g/cm以下であることにより、縫製シワの抑制と良好な風合いを得る上で有利である。合成皮革の密度は、その目付(g/cm)と厚み(cm)から算出される見掛け密度である。
【0062】
本実施形態に係る合成皮革は、繊維質基材と、多孔質樹脂層と、無孔質樹脂層とを必須の構成部材とするものであるが、必要に応じて、各層の間に1層または2層以上の層を備えていてもよい。また各樹脂層は、1層であっても、2層以上であってもよい。
【0063】
本実施形態に係る合成皮革を製造する方法は、特に限定されない。例えば、第1の製法として、
多孔質樹脂層用樹脂液を繊維質基材上に塗布して、多孔質樹脂層を形成する工程、および、
無孔質樹脂層用樹脂液を前記多孔質樹脂層上に塗布して、無孔質樹脂層を形成する工程、
をこの順で含んでもよい。
【0064】
詳細には、第1の製法では、多孔質樹脂層用樹脂液を繊維質基材の片面に塗布後、乾式凝固させることにより、多孔質樹脂層を繊維質基材に積層した後、無孔質樹脂層用樹脂液を多孔質樹脂層上に塗布後、乾式凝固させることにより、無孔質樹脂層を積層してもよい。
【0065】
本実施形態に係る合成皮革の第2の製法として、
無孔質樹脂層用樹脂液を離型性基材上に塗布して、無孔質樹脂層を形成する工程、
多孔質樹脂層用樹脂液を前記無孔質樹脂層上に塗布して、多孔質樹脂層を形成する工程、
前記多孔質樹脂層と繊維質基材とを貼り合わせる工程、および、
前記離型性基材を剥離する工程、
をこの順で含んでもよい。
【0066】
詳細には、第2の製法では、(A)無孔質樹脂層用樹脂液を離型性基材に塗布後、乾式凝固させることにより無孔質樹脂層を形成し、その後、無孔質樹脂層上に、多孔質樹脂層用樹脂液を塗布後、粘稠性を有するうちに、これを繊維質基材の片面に圧着して多孔質樹脂層と繊維質基材を貼り合わせ、その後、離型性基材を剥離してもよい。あるいはまた、(B)無孔質樹脂層用樹脂液を離型性基材に塗布後、乾式凝固させることにより無孔質樹脂層を形成し、その後、無孔質樹脂層上に、多孔質樹脂層用樹脂液を塗布後、乾式凝固して、離型性基材上に多孔質樹脂層、無孔質樹脂層を形成し、次いで、多孔質樹脂層と繊維質基材の片面を接着剤にて貼り合わせることにより、接着層を介して多孔質樹脂層および無孔質樹脂層を積層し、その後、離型性基材を剥離してもよい。
【0067】
これらの第2の製法においては、離型性基材を剥離した後の無孔質樹脂層の表面に第2の無孔質樹脂層用樹脂液を塗布し、乾式凝固させることにより第2の無孔質樹脂層を形成してもよい。
【0068】
各樹脂液の塗布方法は、ナイフコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、またはスプレーコーティング等公知の方法が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る合成皮革の用途は、特に限定されないが、例えば自動車用シート、天井材、ダッシュボード、ドア内張材またはハンドルなどの自動車内装材をはじめとする各種車両のための内装材用途の他、ソファーや椅子のための表皮などのインテリア用途、鞄、靴などのファッション用途に用いることができる。
【0070】
上述した繊維質基材の厚みT1および密度S1、多孔質樹脂層の厚みT2,密度S2,孔の長径および孔面積率、無孔質樹脂層の厚みT3および密度S3、合成皮革の厚み,密度およびBLC値、T3/(T1+T2)、ならびに、繊維質基材と多孔質樹脂層を合わせた層の平均密度S12などについての数値範囲については、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
各評価項目は、以下の方法に従った。
【0073】
[縫製シワ]
得られた合成皮革を、下記縫製条件にて縫製して自動車シートカバーを作製し、目視で縫製シワの状態を確認し、下記判定基準に従って評価した。
A:縫製シワの発生がない。
B:縫製シワが発生しているが、目立たない。
C:縫製シワが発生しており、目立つ。
(縫製条件)
幅10cm、長さ10cmの試験片Aと、幅11cm、長さ11cmの試験片Bを各々2枚とる。試験片Aと試験片Bを経方向同士または緯方向同士を組み合わせて縫い合わせる。縫い代は、試験片の端末から5mmとする。縫目ピッチを「10cmあたり25±2目」として、試験片Aと試験片Bの縫い始めと縫い終わりが一致するように縫い合わせる。経方向同士の組合せ及び緯方向同士の組合せのうち、判定結果の悪い方を縫製シワの評価とする。
【0074】
[耐摩耗性]
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片をタテ、ヨコ各方向からそれぞれ1枚採取した。採取した試験片の裏面に幅70mm、長さ300mm、厚み10mmの大きさのウレタンフォームを添えた。ウレタンフォームの下面中央に直径4.5mmのワイヤーを設置した状態で、平面摩耗試験機T-TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定し、綿布(JIS L3102:綿帆布No.6)をかぶせた摩擦子がワイヤー上をワイヤーと平行に往復動するように、該摩擦子に荷重9.8Nをかけて摩擦子で摩擦して、摩耗試験を行った。摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで3000回往復させた。摩擦後の合成皮革を目視で確認し、下記判定基準に従って評価した。
A:樹脂層表面に変化なし。
B:樹脂層表面に削れあり。
C:樹脂層表面に割れあり。
D:樹脂層表面に著しい割れもしくは樹脂層消失部分(繊維質基材の露出部分)あり。
【0075】
[実施例1]
[繊維質基材]
22ゲージのポリエステル丸編地(厚み740μm、比重0.29g/cm)を繊維質基材として用いた。
【0076】
【表1】
調製方法
処方1に従い、各原料をミキサーにて混合した。このとき、粘度を2,000mPa・s(東京計器株式会社製、B型粘度計、ローターNo4、12rpm、23℃)に調整した。
【0077】
【表2】
調製方法
処方2に従い、各原料をミキサーにて混合した。このとき、粘度を5,000mPa・s(東京計器株式会社製、B型粘度計、ローターNo4、12rpm、23℃)に調整した。当量比(水酸基/イソシアネ―ト基)は1.20に調整した。
【0078】
【表3】
調製方法
処方3に従い、各原料をミキサーにて混合した。このとき、粘度を200mPa・s(東京計器株式会社製、B型粘度計、ローターNo.1、12rpm、23℃)に調整した。
【0079】
上述の処方1に従い調製した第1の無孔質樹脂層用樹脂液を、シボ調の凹凸模様を有する離型紙(AR-96M、アサヒロール株式会社製)に、コンマコーターにて塗布厚さが平均100μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間処理して、第1の無孔質樹脂層を形成した。
【0080】
次いで、上述の処方2に従い調製した多孔質樹脂層用樹脂液を、離型紙上に形成された第1の無孔質樹脂層表面に、コンマコーターにて塗布厚さが平均200μmとなるように塗布した後、110℃で3分間処理した後、粘稠性のあるうちに繊維質基材のポリエステル丸編地と重ねて39.2N/cmで1分間加圧した後、離型紙を剥離した。
【0081】
次いで、上述の処方3に従い調製した第2の無孔質樹脂層用樹脂液を、離型紙を剥離した後の第1の無孔質樹脂層表面に、リバースコーターにて厚さが平均50μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間処理して、第2の無孔質樹脂層を形成し、実施例1の合成皮革を得た。
【0082】
得られた合成皮革は、多孔質樹脂層は1層構造であり、その孔は閉塞孔であった。多孔質樹脂層の裏面、無孔質樹脂層のオモテ面および裏面には、凹凸が形成されていた。孔の大きさ(長径)は50μmであり、孔面積率は48%であった。第1の無孔質樹脂層の厚みは31μm、第2の無孔質樹脂層の厚みは10μmであり、無孔質樹脂層の厚みは41μmであった。多孔質樹脂層の厚みは198μmであり、合成皮革の厚みは981μmであった。
【0083】
なお、層の厚さは、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、VHX-200/100F)で100倍にて観察し、任意の10カ所についての厚さを測定し、これらの平均値を算出した。
【0084】
孔の大きさ(長径)は、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、VHX-200/100F)で100倍にて観察し、最大の長径を持つ孔の当該長径を測定し、この測定を多孔質樹脂層の水平方向に連続した10箇所の垂直断面においてそれぞれ行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所における平均値を算出した。
【0085】
無孔質樹脂層の密度は、次式から算出した。
無孔質樹脂層の密度[g/cm3]={(第1の無孔質樹脂層の密度[g/cm3]×第1の無孔質樹脂層の厚み[cm])+(第2の無孔質樹脂層の密度[g/cm3]×第2の無孔質樹脂層の厚み[cm])}÷(第1の無孔質樹脂層の厚み[cm]+第2の無孔質樹脂層の厚み[cm])
【0086】
[実施例2,3、比較例1]
多孔質樹脂層の熱処理温度を、実施例1の110℃から、実施例2では60℃に、実施例3では160℃に、比較例1では35℃に、それぞれ変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例2,3及び比較例1の合成皮革を得た。
【0087】
[実施例4,5]
多孔質樹脂層用樹脂液の塗布厚さを変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例4,5の合成皮革を得た。多孔質樹脂層の厚みは、実施例4では25μm、実施例5では278μmであった。
【0088】
[実施例6,7]
第1および第2の無孔質樹脂層用樹脂液の塗布厚さを変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例6,7の合成皮革を得た。実施例6では、第1の無孔質樹脂層の厚みが2.6μm、第2の無孔質樹脂層の厚みが0.4μmであり、無孔質樹脂層の厚みが3μmであった。実施例7では、第1の無孔質樹脂層の厚みが83μm、第2の無孔質樹脂層の厚みが12μmであり、無孔質樹脂層の厚みが95μmであった。
【0089】
[実施例8,9、比較例2,3]
多孔質樹脂層用樹脂液の塗布厚さ、ならびに第1および第2の無孔質樹脂層用樹脂液の塗布厚さを変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例8,9および比較例2,3の合成皮革を得た。
【0090】
実施例8では、多孔質樹脂層の厚みが60μmであり、第1の無孔質樹脂層の厚みが17.6μm、第2の無孔質樹脂層の厚みが2.4μm、無孔質樹脂層の厚みが20μmであった。実施例9では、多孔質樹脂層の厚みが290μmであり、第1の無孔質樹脂層の厚みが77μm、第2の無孔質樹脂層の厚みが12μm、無孔質樹脂層の厚みが89μmであった。
【0091】
比較例2では、多孔質樹脂層の厚みが20μmであり、第1の無孔質樹脂層の厚みが4.4μm、第2の無孔質樹脂層の厚みが0.6μm、無孔質樹脂層の厚みが5μmであった。比較例3では、多孔質樹脂層の厚みが25μmであり、第1の無孔質樹脂層の厚みが10.4μm、第2の無孔質樹脂層の厚みが1.6μm、無孔質樹脂層の厚みが12μmであった。
【0092】
[実施例10]
多孔質樹脂層用樹脂液の処方2から感温性触媒2を抜き、その他は実施例1と同様にして、実施例10の合成皮革を得た。
【0093】
[実施例11]
多孔質樹脂層用樹脂液の処方2において、0.1質量部の感温性触媒2の代わりに0.1質量部の感温性触媒3(DBUのオクチル酸塩、反応温度100℃、固形分0.1質量%、「U-CAT SA102」、サンアプロ株式会社製)を用い、その他は実施例1と同様にして、実施例11の合成皮革を得た。
【0094】
[実施例12]
多孔質樹脂層用樹脂液の処方2において、100質量部のポリカーボネート系ポリオールの代わりに100質量部のポリエステル系ポリオール(「クラレポリオールP2010」、株式会社クラレ製、数平均分子量2000)を用い、その他は実施例1と同様にして、実施例12の合成皮革を得た。
【0095】
【表4】
【0096】
結果は表4に示すとおりであり、多孔質樹脂層の孔面積率が小さい比較例1、合成皮革の厚みが小さい比較例3、及び多孔質樹脂層の孔面積率と合成皮革の厚みがともに小さい比較例2では、いせ込み縫製時に目立つ縫製シワが発生していた。これに対し、実施例1~12であると、BLC値が大きく、従って合成皮革の風合いが良好なものでありながら、いせ込み縫製時の縫製シワを改善することができた。
【符号の説明】
【0097】
1…合成皮革、2…繊維質基材、3…多孔質樹脂層、4…無孔質樹脂層、5…オモテ面
6…接着層、10…合成皮革
図1
図2
図3