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特許7303077マスクブランクスの製造方法及びフォトマスクの製造方法、マスクブランクス及びフォトマスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】マスクブランクスの製造方法及びフォトマスクの製造方法、マスクブランクス及びフォトマスク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/38 20120101AFI20230627BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20230627BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20230627BHJP
【FI】
G03F1/38
G03F1/32
G03F1/54
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019164760
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021043307
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-206729(JP,A)
【文献】特開2010-044275(JP,A)
【文献】特開2018-028631(JP,A)
【文献】特開2019-090910(JP,A)
【文献】特開2007-241065(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0246647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた反射防止層と、
前記反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた密着層と、
を有し、
前記位相シフト層がクロムを含有し、
前記反射防止層がモリブデンシリサイドと酸素とを含有し、
前記密着層がクロムと酸素とを含有し、
前記密着層において、酸素含有率がフォトレジスト層に対するパターニング形成可能な密着性を有するように設定される
ことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記密着層において、前記酸素含有率が8.4atm%~65.7atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記密着層が窒素を含有し、この窒素含有率が3.7atm%~42.3atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項2記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記密着層が炭素を含有し、この炭素含有率が2.2atm%~2.3atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項2または3記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記密着層において、クロム含有率が25.2atm%~42.4atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項6】
前記密着層において、膜厚が5nm~15nmの範囲に設定される
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項7】
前記反射防止層において、酸素含有率が6.7atm%~63.2atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項8】
前記反射防止層が窒素を含有し、窒素含有率が4.6atm%~39.3atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項7記載のマスクブランクス。
【請求項9】
前記密着層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられたフォトレジスト層を有する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にクロムを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にモリブデンシリサイドと酸素とを含有する前記反射防止層を積層する反射防止層形成工程と、
前記反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置にクロムと酸素とを含有する前記密着層を積層する密着層形成工程と、
を有し、
前記密着層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより前記密着層がフォトレジスト層に対するパターニング形成可能な密着性を有するように形成する
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項11】
前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧を設定することにより、酸素含有率の増加にともなって前記密着層における密着性を増大する
ことを特徴とする請求項10記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項12】
前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧比を0.00~0.30の範囲に設定する
ことを特徴とする請求項11記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項13】
前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスがNOとされる
ことを特徴とする請求項12記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか記載のマスクブランクスから製造される
ことを特徴とするフォトマスク。
【請求項15】
請求項14記載のフォトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記反射防止層にパターンを形成する反射防止パターン形成工程と、
前記密着層にパターンを形成する密着パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程および前記密着パターン形成工程におけるエッチング液と、前記反射防止パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる
ことを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスの製造方法及びフォトマスクの製造方法、マスクブランクス及びフォトマスクに関し、特に位相シフトマスクに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の高精細化に伴い微細パターンを形成する必要が高まっている。そのため、従来から用いられている遮光膜を用いたマスクだけでなく、エッヂ強調型の位相シフトマスク(PSMマスク;Phase-Shifting Mask)が使用されるようになっている。
【0003】
これらの位相シフトマスクにおいては、反射率が高い場合が多く、その場合にはマスク作製時のレジストの露光の際に定在波の影響が大きくなるので、マスクパターンの線幅のばらつきが大きくなる。このために位相シフトマスクの反射率を低下させることが望まれている(特許文献1)。
【0004】
位相シフトマスクの反射率を低下させるためには位相シフトマスクの上層に、マスク下層よりも屈折率の低い層を形成し、光干渉効果を用いて反射率を低減する必要がある。
また、マスクブランクスにおける位相シフト層としてクロム材料が一般的に用いられる。この場合に、反射防止層として屈折率の低い膜を得るためには、酸化されたクロム酸化膜を用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2004/070472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸素濃度の高いクロム酸化膜は、エッチングレートが低くなる。その結果、反射防止層として酸素濃度の高いクロム酸化膜を採用した場合、反射防止層が位相シフト層よりもエッチングレートが低いため、エッチングされない場合が発生する。
【0007】
このため、マスクパターンを作製した場合に、反射防止層に比べて位相シフト層のエッチングが進行してしまい、庇の形成された断面形状が発生する等の問題が発生してしまうという問題があることがわかった。
【0008】
低反射率と良好な断面形状を両立する方法として、位相シフト層にクロムニウムを主成分とする材料で形成した場合に反射防止層を例えばモリブデンシリサイド膜等の金属シリサイド膜を用いる方法が考えられる。この様に位相シフト層と反射防止層をそれぞれ別の材料を用いて形成することで、一方の材料をエッチングする際に、もう一方の材料がエッチングされないために、選択的にエッチング加工することが可能になり、結果として良好な断面形状を得ることが可能となる。
【0009】
しかしながら、モリブデンシリサイド膜等のシリサイド膜は親水性の性質を有するため、パターン形成のためにその上にレジストを塗布した場合にはレジストとの密着性が悪くなるという課題が発生することが判明した。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、反射率が小さいことと、高い選択比で他の層のエッチングを抑制できることを両立させた反射防止層を有するとともに、レジストとの密着性がよく、確実なパターン形成が可能なマスクブランクス及びフォトマスクを実現するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマスクブランクスは、位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた反射防止層と、
前記反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた密着層と、
を有し、
前記位相シフト層がクロムを含有し、
前記反射防止層がモリブデンシリサイドと酸素とを含有し、
前記密着層がクロムと酸素とを含有し、
前記密着層において、酸素含有率がフォトレジスト層に対するパターニング形成可能な密着性を有するように設定されることにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスは、前記密着層において、前記酸素含有率が8.4atm%~65.7atm%の範囲に設定されることができる。
本発明において、前記密着層が窒素を含有し、この窒素含有率が3.7atm%~42.3atm%の範囲に設定されることが好ましい。
本発明のマスクブランクスは、前記密着層が炭素を含有し、この炭素含有率が2.2atm%~2.3atm%の範囲に設定されることが可能である。
本発明のマスクブランクスにおいて、前記密着層において、クロム含有率が25.2atm%~42.4atm%の範囲に設定される手段を採用することもできる。
本発明のマスクブランクスは、前記密着層において、膜厚が5nm~15nmの範囲に設定されることができる。
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層において、酸素含有率が6.7atm%~63.2atm%の範囲に設定されることができる。
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層が窒素を含有し、窒素含有率が4.6atm%~39.3atm%の範囲に設定されることができる。
本発明のマスクブランクスは、前記密着層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられたフォトレジスト層を有することができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にクロムを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にモリブデンシリサイドと酸素とを含有する前記反射防止層を積層する反射防止層形成工程と、
前記反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置にクロムと酸素とを含有する前記密着層を積層する密着層形成工程と、
を有し、
前記密着層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより前記密着層がフォトレジスト層に対するパターニング形成可能な密着性を有するように形成することができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧を設定することにより、酸素含有率の増加にともなって前記密着層における密着性を増大することができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法において、前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧比を0.00~0.30の範囲に設定することが好ましい。
本発明のマスクブランクスの製造方法においては、前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスがNOとされることができる。
本発明のフォトマスクにおいては、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造されることができる。
本発明のフォトマスクの製造方法においては、上記のフォトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記反射防止層にパターンを形成する反射防止パターン形成工程と、
前記密着層にパターンを形成する密着パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程および前記密着パターン形成工程におけるエッチング液と、前記反射防止パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる
ことができる。
【0012】
本発明のマスクブランクスは、位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた反射防止層と、
前記反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた密着層と、
を有し、
前記位相シフト層がクロムを含有し、
前記反射防止層がモリブデンシリサイドと酸素とを含有し、
前記密着層がクロムと酸素とを含有し、
前記密着層において、酸素含有率がフォトレジスト層に対するパターニング形成可能な密着性を有するように設定される。
これにより、もともとフォトレジスト層との密着性に劣るモリブデンシリサイドを含有する反射防止層を有するマスクブランクスにおいて、フォトレジスト層に接する密着層を有することで、フォトレジスト層との密着性を充分に有して、必要なパターニングを可能とすることができる。このとき、同時に、反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率の値が低下するプロファイルにしたがって、設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における屈折率の値を設定することができる。
ここで、密着層としては、クロム化合物を用いることが望ましい。クロム化合物は酸やアルカリ溶液に対する薬液耐性が強いという性質と疎水性の性質を有するためにレジストと接触する界面に用いるのに適している。
【0013】
反射防止層としては、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが望ましい。これは、モリブデンシリサイドはマスク洗浄に一般的に用いられる硫酸と過酸化水素水の混合液に対する耐性が強く、モリブデンシリサイドに含まれる窒素や酸素濃度を制御することで光学特性を大きく制御することが可能なためである。
また、反射防止層における酸素含有率により、反射防止層における屈折率と消衰係数とを設定することができる。
また、位相シフト層としては、クロム化合物を用いることが望ましい。薬液耐性の強いクロム化合物と金属シリサイドの2種類の材料で位相シフト膜(マスク層)を形成することが可能となる。
【0014】
これらにより、必要な密着性を維持した状態で、反射防止層における屈折率を所定の値にして、位相シフト層に対して屈折率の低い反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を低減することが可能となる。同時に、密着層および位相シフト層がクロムを含有し、反射防止層がモリブデンシリサイドを含有することで、これらをエッチングによりパターニングする際に、それぞれ異なるエッチャント(エッチング液)を用いて、互いに異なるエッチンゲレートとして、高い選択性を呈することが可能となる。したがって、位相シフト層と反射防止層と密着層とにおけるそれぞれのエッチングにおいて、互いに影響を与えることなく、所望の断面形状を有する位相シフトマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
【0015】
ここで、本発明のマスクブランクスにおいては、マスクブランクスとしての反射率を小さくする。このためには、密着層と反射防止層の光学定数を近い値にした上で、反射防止層と位相シフト層との間の屈折率と消衰係数との値の差を大きくすることが重要である。このため、マスクブランクスとしての反射率を低減するためには密着層および反射防止層の屈折率と消衰係数との値を小さくすることが望ましい。
【0016】
本発明のマスクブランクスは、前記密着層において、前記酸素含有率が8.4atm%~65.7atm%の範囲に設定される。
これにより、密着層において、フォトレジスト層に対して充分な密着性を有することができ、マスク層としての必要な光学特性を有する状態を維持することができる。特に、密着層において、酸素含有率を増加することで、親水性を低下して疎水性を向上し、フォトレジストとの密着性を向上することが可能である。さらに、密着層において、酸素含有率を増加することで、屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。
【0017】
本発明において、前記密着層が窒素を含有し、この窒素含有率が3.7atm%~42.3atm%の範囲に設定される。
これにより、密着層において、フォトレジスト層に対して充分な密着性を有することができ、また、所定のエッチングレートを有して、同時に、他の層とともに設定されるマスク層としての光学特性に対して影響を与えない状態を維持した所望のマスクブランクスとすることができる。特に、密着層において、窒素含有率を増加することで、屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。
さらに、密着層に用いられるクロム化合物では、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度をいずれも高くすることで、屈折率と消衰係数の値をより低くすることが可能である。
【0018】
本発明のマスクブランクスは、前記密着層が炭素を含有し、この炭素含有率が2.2atm%~2.3atm%の範囲に設定されることが可能である。
これにより、密着層において、フォトレジスト層に対して充分な密着性を有することができ、また、所定のエッチングレートを有して、同時に、他の層とともに設定されるマスク層としての光学特性に対して影響を与えない状態を維持した所望のマスクブランクスとすることができる。
【0019】
本発明のマスクブランクスにおいて、前記密着層において、クロム含有率が25.2atm%~42.4atm%の範囲に設定される手段を採用することもできる。
これにより、密着層において、フォトレジスト層に対して充分な密着性を有することができ、また、所定のエッチングレートを有して、同時に、他の層とともに設定されるマスク層としての光学特性に対して影響を与えない状態を維持した所望のマスクブランクスとすることができる。
密着層としてはクロム化合物を用いることが望ましい。クロム化合物は酸やアルカリ溶液に対する薬液耐性が強いという性質と疎水性の性質を有するためにレジストと接触する界面に用いるのに適している。
【0020】
本発明のマスクブランクスは、前記密着層において、膜厚が5nm~15nmの範囲に設定されることができる。
これにより、密着層において、フォトレジスト層に対して充分な密着性を有することができ、また、所定のエッチングレートを有して、同時に、他の層とともに設定されるマスク層としての光学特性に対して影響を与えない状態を維持した所望のマスクブランクスとすることができる。
【0021】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層において、酸素含有率が6.7atm%~63.2atm%の範囲に設定される。
これにより、前記反射防止層において、波長365nm~436nmにおける屈折率の値を2.5から1.8の範囲に設定することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層よりも屈折率の低い反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を低減することが可能となる。
したがって、反射防止層における反射率を低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率を有することが可能となる。
これにより、FPD製造におけるレーザ光を用いたパターニングにおいても、所定の反射率を有するブランクスを提供することが可能となる。
【0022】
反射防止層がモリブデンシリサイドを含有することで、マスク洗浄に一般的に用いられる硫酸と過酸化水素水の混合液に対する耐性が強いモリブデンシリサイドにおいて、含まれる窒素や酸素濃度を制御して、光学特性を大きく制御することが可能である。
また、前記反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率の値が低下するプロファイルにしたがって、設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における屈折率の値を設定することができる。
これにより、反射防止層における屈折率を所定の値にして、位相シフト層に対して屈折率の低い反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を低減することが可能となる。
【0023】
また、前記反射防止層において、前記酸素含有率を上記の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける消衰係数の値を0.6から0.1の範囲に設定することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率および消衰係数を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
【0024】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層が窒素を含有し、窒素含有率が4.6atm%~39.3atm%の範囲に設定される。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率および消衰係数を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
反射防止層に用いられる金属シリサイドにモリブデンシリサイドを用いとともに、反射防止層中の窒素濃度と酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。特に反射防止層中の酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させることができる。
【0025】
また、前記反射防止層を設けることで、前記反射防止層がない場合に比べて、波長365nm~436nmにおける反射率の比を1(25%)~1/5(5%)の範囲まで低減することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率および消衰係数を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
【0026】
本発明のマスクブランクスは、前記密着層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられたフォトレジスト層を有する。
これにより、フォトリソグラフィ法によるパターニングをおこなう際に、フォトレジスト層とマスク層とが充分な密着性を有し、エッチング液がフォトレジスト層の透明基板側の界面に侵入することがないマスクブランクスとすることができる。
【0027】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にクロムを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にモリブデンシリサイドと酸素とを含有する前記反射防止層を積層する反射防止層形成工程と、
前記反射防止層よりも前記透明基板から離間する位置にクロムと酸素とを含有する前記密着層を積層する密着層形成工程と、
を有し、
前記密着層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより前記密着層がフォトレジスト層に対するパターニング形成可能な密着性を有するように形成する。
これにより、密着層形成工程において、酸素含有ガスの分圧を所定の範囲に設定した状態で、スパッタリングによりクロムを含有する密着層を反射防止層に積層することで、密着層における疎水性を低減して撥水性を増大し、フォトレジスト層との密着性を向上するとともに、屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
たがって、必要な密着性を有して、かつ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率を有することが可能となる。
【0028】
具体的には、まず、マスクブランクスとするガラス基板(透明基板)上に、スパッタリング法等を用いて、位相シフト層の主成分膜となるクロム化合物膜を形成する。この際に形成するクロム化合物はクロムニウム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。膜中に含有するクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御することで所望の透過率と位相を有する位相シフト層を形成することが可能である。
【0029】
この際に、クロム化合物のみで位相シフト層を形成した場合、反射率が約25%と高くなってしまう。このため、位相シフト層の表面に低反射層を形成することにより、反射率を低減することが望ましい。
【0030】
このため、位相シフト層を形成するクロム膜に対して、位相シフト層の膜厚、および、光学定数を調整することに加えて、反射防止層の膜厚、および、光学定数を調整することで位相差および透過率および反射率を制御することが必要となる。
【0031】
ここで、反射防止層を位相シフト層に対して別材料で形成することにより、エッチング工程においてウエットエッチングを用いた場合に、異なるエッチング工程として、エッチング液を変えて選択的にエッチングすることが可能である。
【0032】
また、位相シフトマスクの反射率を小さくするためには、反射防止層と位相シフト層との間の屈折率と消衰係数の値の差を大きくすることが重要である。したがって、位相シフトマスクの反射率を低減するためには、反射防止層の屈折率と消衰係数の値をより小さくすることが望ましい。
【0033】
本発明者らは、鋭意検討の結果、マスク層の最表面にフォトレジストとの密着性を改善する密着層としてクロム化合物を用い、その下に反射防止層としてモリブデンシリサイド等の金属シリサイドを用い、最下層に位相シフト層として、クロム化合物を用いた3層構造を用いることで、フォトレジスト層との密着性を高めた上で、エッチング中には、それぞれの層が高い選択比で他の層のエッチングを抑制出来るプロセスを用いることが望ましいことを見出した。
【0034】
このことにより、密着層と反射防止層と位相シフト層とのエッチングをそれぞれ独立に制御することが可能であるために、反射率を十分に低減した上で、マスクとして用いるのに適した断面形状を得ることが可能である。
【0035】
また反射防止層としては、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが望ましいことを見出した。
これは、モリブデンシリサイドに含まれる窒素や酸素濃度を制御することで光学特性を大きく制御することが可能であるという知見による。これは、モリブデンシリサイド膜に含まれるモリブデン、シリコン、酸素、窒素の濃度を制御することでモリブデンシリサイド膜の光学定数を大きく制御することができるためである。
【0036】
特に、本発明者らは、モリブデンシリサイドは膜中の窒素濃度と酸素濃度を増加させることで屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能であることを見出した。
特に膜中の酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させることができることを見出した。
【0037】
このため、位相シフト層としてクロム化合物を用い、かつ、反射防止層としてモリブデンシリサイド膜を用いることにより、位相シフトマスクの反射率を低くすることが可能になる。
【0038】
また、位相シフト層としてクロム化合物を用いた場合に対して、エッチングにおける高い選択性をもたせることができる。
さらに、モリブデンシリサイドは、マスク洗浄において、一般的に用いられる硫酸と過酸化水素水の混合液に対する耐性が強い。
【0039】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧を設定することにより、酸素含有率の増加にともなって前記密着層における密着性を増大する。
これにより、密着層形成工程において、酸素含有ガスの分圧を所定の範囲に設定した状態で密着層を反射防止層に積層することで、密着層における疎水性と撥水性とにかかるフォトレジスト層との密着性、および、屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
ここで、スパッタリングにおける酸素含有ガスの分圧を所定の値に設定することにより、密着層における屈折率と消衰係数との値を設定することができる。
具体的には、前記密着層形成工程において、酸素含有ガスの分圧を増加させて、密着層におけるフォトレジスト層との密着性を増加させるとともに、密着層における屈折率と消衰係数との値を低下させ、前記酸素含有ガスの分圧を減少させて、密着層における屈折率と消衰係数との値を増加させることができる。
【0040】
本発明のマスクブランクスの製造方法において、前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧比を0.00~0.30の範囲に設定する。
これにより、所定の酸素含有率として密着層を反射防止層に積層することができる。したがって、密着層におけるフォトレジスト層に対する密着性、および、屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
【0041】
本発明のマスクブランクスの製造方法においては、前記密着層形成工程において、
前記酸素含有ガスがNOとされることができる。
なお、酸素含有ガスとして、O、CO、NO、などを用いることもできる。
さらに、密着層形成工程において、同じクロムを含有する位相シフト層の成膜時における酸素含有ガスとは異なるガスを採用することができる。
【0042】
本発明のフォトマスクにおいては、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造されることができる。
【0043】
本発明のフォトマスクの製造方法においては、上記のフォトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記反射防止層にパターンを形成する反射防止パターン形成工程と、
前記密着層にパターンを形成する密着パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程および前記密着パターン形成工程におけるエッチング液と、前記反射防止パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる。
これにより、互いに異なるエッチンゲレートとして、高い選択性を呈することが可能となる。したがって、密着層と位相シフト層と反射防止層とにおけるそれぞれのエッチングにおいて、互いに影響を与えることなく、所望の断面形状を有するフォトマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
これにより、それぞれの層で、所望の膜特性を有するフォトマスクを製造することができる。
【0044】
ここで、一般的な位相シフトマスクは、i線(波長365nm)で約5%の透過率を有し、位相シフト部と透過部との位相差が180°になるように設定される。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、反射率が小さいことと、高い選択比で他の層のエッチングを抑制できることを両立させた反射防止層を有するとともに、レジストとの密着性がよく、確実なパターン形成が可能なマスクブランクス及びフォトマスクを提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
図3】本発明に係るフォトマスクの第1実施形態を示す断面図である。
図4】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図5】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態の反射防止層に適用されるMoSi化合物における屈折率のCO分圧比依存性を示すグラフである。
図6】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態の反射防止層に適用されるMoSi化合物におけるにおける消衰係数のCO分圧比依存性を示すグラフである。
図7】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態の密着層に適用されるCr化合物における屈折率のNO分圧比依存性を示すグラフである。
図8】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態の密着層に適用されるCr化合物における消衰係数のNO分圧比依存性を示すグラフである。
図9】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態の位相シフト層に適用されるCr化合物における屈折率のCO分圧比依存性を示すグラフである。
図10】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態の位相シフト層に適用されるCr化合物における消衰係数のCO分圧比依存性を示すグラフである。
図11】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態における反射率特性の、反射防止層における膜厚依存性を示すグラフである。
図12】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態における透過率特性、反射防止層における膜厚依存性を示すグラフである。
図13】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態における反射率特性の、密着層における膜厚依存性を示すグラフである。
図14】本発明に係るマスクブランクス、フォトマスクの製造方法の第1実施形態における透過率特性の、密着層における膜厚依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図2は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、図において、符号10Bは、マスクブランクスである。
【0048】
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、露光光の波長が365nm~436nm程度の範囲で使用される位相シフトマスク(フォトマスク)に供されるものとされる。
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、このガラス基板11上に形成された位相シフト層12と、位相シフト層12上に形成された反射防止層13と、反射防止層13上に形成された密着層14と、で構成される。
【0049】
つまり、反射防止層13は、位相シフト層12よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。また、密着層14は、反射防止層13よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。
これら位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とは、フォトマスクとして必要な光学特性を有して低反射な位相シフト膜であるマスク層を構成している。
【0050】
さらに、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、図1に示すように、位相シフト層12と反射防止層13と密着層14との積層されたマスク層に対して、図2に示すように、あらかじめフォトレジスト層15が成膜された構成とすることもできる。
【0051】
なお、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、位相シフト層12と反射防止層13と密着層14以外に、耐薬層、保護層、遮光層、エッチングストッパー層、等を積層した構成とされてもよい。さらに、これらの積層膜の上に、図2に示すように、フォトレジスト層15が形成されていてもよい。
【0052】
ガラス基板(透明基板)11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。
【0053】
本実施形態では、ガラス基板(透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2000mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0054】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0055】
位相シフト層12としては、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
さらに、位相シフト層12が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、位相シフト層12として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
位相シフト層12は、後述するように、所定の光学特性および抵抗率が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。
【0056】
位相シフト層12の膜厚は、位相シフト層12に要求される光学特性によって設定され、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。位相シフト層12の膜厚は、50nm~150nmとすることができる。
【0057】
例えば、位相シフト層12における組成比は、炭素含有率(炭素濃度)が2.3atm%~10.3atm%、酸素含有率(酸素濃度)が8.4atm%~72.8atm%、窒素含有率(窒素濃度)が1.8atm%~42.3atm%、クロム含有率(クロム濃度)が20.3atm%~42.4atm%であるように設定されることができる。
【0058】
これにより、位相シフト層12は、波長365nm~436nm程度の範囲において、屈折率が2.4~3.1程度、消衰係数0.3~2.1を有した場合、膜厚90nm程度に設定されることができる。
【0059】
反射防止層13としては、位相シフト層12とは異なる材料として、金属シリサイド膜、例えば、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金とシリコンとを含む膜とすることができる。特に、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが好ましく、MoSi(X≧2)膜(例えばMoSi膜、MoSi膜やMoSi膜など)が挙げられる。
【0060】
反射防止層13としては、O(酸素)およびN(窒素)を含有するモリブデンシリサイド膜とすることが好ましい。
さらに、反射防止層13は、C(炭素)含有することが好ましい。
反射防止層13において、酸素含有率(酸素濃度)を6.7atm%~63.2atm%の範囲に設定し、窒素含有率(窒素濃度)を4.6atm%~39.3atm%の範囲に設定し、炭素含有率(炭素濃度)が4.0atm%~13.5atm%の範囲に設定することができる。
【0061】
反射防止層13において、酸素含有率(酸素濃度)が36atm%以上、窒素含有率(窒素濃度)が10atm%以上含まれるモリブデンシリサイド化合物を用いることが望ましい。
反射防止層13において、膜中の窒素濃度と酸素濃度を増加させて、屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。特に、膜中の酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させる。
また、反射防止層13の膜厚を30nm以上、60nm以下に設定することで365~436nmの波長における反射率を低減できる。
【0062】
このとき、反射防止層13において、シリコン含有率(シリコン濃度)を11.1atm%~21.7atm%の範囲に設定し、モリブデン含有率(モリブデン濃度)が14.9atm%~28.3atm%の範囲に設定することができる。
【0063】
これにより、反射防止層13において、波長365nm~436nmにおける前記屈折率の値を2.5から1.8の範囲に設定することができる。
また、反射防止層13において、波長365nm~436nmにおける前記消衰係数の値を0.7から0.1の範囲に設定することができる。
【0064】
したがって、本実施形態のマスクブランクス10Bにおいて、上記の位相シフト層12および反射防止層13を有することで、反射防止層13がない場合に比べて、波長365nm~436nmにおける反射率の比を1(25%)~1/5(5%)の範囲まで低減することが可能となる。
【0065】
密着層14は、Cr(クロム)、O(酸素)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)およびN(窒素)を含むものとされる。
この場合、密着層14として、Crの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。さらに、密着層14が厚み方向に異なる組成を有することもできる。
密着層14は、後述するように、所定の密着性(疎水性)、所定の光学特性が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O,Si等の組成比(atm%)が設定される。
【0066】
例えば、密着層14における組成比は、酸素含有率(酸素濃度)が8.4atm%~65.7atm%、窒素含有率(窒素濃度)が3.7atm%~42.3atm%、クロムが25.2atm%~42.4atm%、炭素含有率(炭素濃度)が2.2atm%~2.3atm%、シリコンが3.3atm%~4.7atm%、であるように設定されることができる。
【0067】
密着層14の膜厚は、密着層14に要求される密着性(疎水性)および光学特性等によって設定され、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。密着層14の膜厚は、5nm~20nm、さらに、10nm~15nmとすることができる。
密着層14の膜厚を上記の範囲とすることにより、フォトリソグラフィ法におけるパターニング形成時に、たとえば、クロム系に用いられるフォトレジスト層15との密着性を向上して、フォトレジスト層15との界面でエッチング液の浸込みが発生しないため、良好なパターン形状が得られて、所望のパターンを形成することができる。
【0068】
なお、密着層14の膜厚が上記範囲よりも薄いと、フォトレジスト層15との密着性が所定の状態とならずにフォトレジスト層15が剥離して、界面にエッチング液が侵入してしまい、パターン形成をおこなうことができなくなるため好ましくない。また、密着層14の膜厚が上記範囲よりも厚い場合には、フォトマスクとしての光学特性を所望の条件に設定することが難しくなる、あるいは、マスクパターンの断面形状が所望の状態にならない可能性があるため、好ましくない。
【0069】
密着層14は、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度を高くすることで親水性を低減して、疎水性を向上し、密着性をあげることが可能である。
同時に、密着層14は、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度を高くすることで屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。
【0070】
本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法は、ガラス基板(透明基板)11に位相シフト層12を成膜した後に、反射防止層13を成膜し、その後、密着層14を成膜するものとされる。
【0071】
マスクブランクスの製造方法は、位相シフト層12と反射防止層13と密着層14以外に、保護層、遮光層、耐薬層、エッチングストッパー層、等を積層する場合には、これらの積層工程を有することができる。
一例として、例えば、クロムを含む遮光層を挙げることができる。
【0072】
図3は、本実施形態におけるフォトマスクを示す断面図である。
本実施形態における位相シフトマスク(フォトマスク)10は、図3に示すように、マスクブランクス10Bとして積層された位相シフト層12と反射防止層13と密着層14に、パターンを形成したものとされる。
【0073】
以下、本実施形態のマスクブランクス10Bから位相シフトマスク10を製造する製造方法について説明する。
【0074】
レジストパターン形成工程として、図2に示すように、マスクブランクス10Bの最外面上にフォトレジスト層15を形成する。または、あらかじめフォトレジスト層15が最外面上に形成されたマスクブランクス10Bを準備してもよい。フォトレジスト層15は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層15としては、いわゆるクロム系材料へのエッチングおよびモリブデンシリサイド系材料へのエッチングに対応可能なものとされる。フォトレジスト層15としては、液状レジストが用いられる。
【0075】
続いて、フォトレジスト層15を露光及び現像することで、密着層14よりも外側にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とのエッチングマスクとして機能する。
【0076】
レジストパターンは、位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、位相シフト領域においては、形成する位相シフトパターンの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0077】
次いで、密着パターン形成工程として、このレジストパターン越しにエッチング液を用いて密着層14をウエットエッチングして密着パターン14Pを形成する。
【0078】
密着パターン形成工程におけるエッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0079】
次いで、反射防止パターン形成工程として、この密着パターン14P越しにエッチング液を用いて反射防止層13をウエットエッチングして反射防止パターン13Pを形成する。
【0080】
反射防止パターン形成工程におけるエッチング液としては、反射防止層13がMoSiである場合には、エッチング液として、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることが好ましい。
【0081】
次いで、位相シフトパターン形成工程として、パターン形成された反射防止パターン13Pと密着パターン14Pとレジストパターン越しに、位相シフト層12をウエットエッチングして位相シフトパターン12Pを形成する。
【0082】
位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0083】
反射防止層13を構成するモリブデンシリサイド化合物は、例えばフッ化水素アンモニウムと過酸化水素の混合液によりエッチングすることが可能である。これに対し、密着層14および位相シフト層12を形成するクロム化合物は、例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液によりエッチングすることが可能である。
【0084】
したがって、それぞれのウエットエッチングの際における選択比が非常に大きくなる。このため、エッチングによる密着パターン14Pと、反射防止パターン13Pと、位相シフトパターン12Pとの形成後においては、位相シフトマスク10の断面形状として、垂直に近い良好な断面形状を得ることが可能である。
【0085】
また、位相シフトパターン形成工程においては、密着層14の酸素濃度が位相シフト層12の酸素濃度に比べて高く設定されているので、エッチングレートが低くなる。したがって、位相シフト層12のエッチングに比べて、密着パターン14Pのエッチングの進行は遅くなる。
【0086】
つまり、密着パターン14Pと反射防止パターン13Pと位相シフトパターン12Pとがガラス基板11表面と為す角(テーパ角)θは直角に近くなり、例えば、90°程度にすることができる。
【0087】
しかも、密着層14から密着パターン14Pが形成されていることで、密着パターン14Pとレジストパターンとの密着性が向上している。これにより、密着パターン14Pとレジストパターンとの界面にエッチング液が浸入することがない。したがって、確実なパターン形成をおこなうことができる。
【0088】
さらに、遮光層等他の膜を成膜してあるマスクブランクス10Bの場合には、この膜を対応するエッチング液を用いたウエットエッチング等により、密着パターン14P、反射防止パターン13Pおよび位相シフトパターン12Pに対応した所定の形状にパターンニングする。遮光層等他の膜のパターンニングは、その積層順に対応して位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とのパターンニングの前後で所定の工程としておこなわれることができる。
【0089】
さらに、位相シフト層12と反射防止層13と密着層14については、それぞれ膜厚方向に酸素濃度を変化させることで、パターニング後の断面形状を改善することが可能となる。
具体的には、反射防止層13、つまり、MoSi膜においては、膜中の酸素濃度が高くなるほどエッチングレートが高くなることがわかっている。そのため、反射防止層13については上層側の酸素濃度を下層側の酸素濃度よりも低くすることで、上層側のエッチングレートを下層側よりも遅くすることが可能である。これにより、にエッチング後の断面形状を垂直に近づけることが可能になる。
一方、位相シフト層12と密着層14、つまり、Cr膜においては、膜中の酸素濃度が高くなるほど、エッチングレートが低くなる。そのため、位相シフト層12と密着層14については上層側の酸素濃度を下層側の酸素濃度よりも高くすることで、上層側のエッチングレートを下層側のエッチングレートよりも低くすることが可能である。
【0090】
以上により、密着パターン14P、反射防止パターン13Pおよび位相シフトパターン12Pを有する位相シフトマスク10が、図3に示すように得られる。
【0091】
以下、本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0092】
図4は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造装置を示す模式図である。
本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、図4に示す製造装置により製造される。
【0093】
図4に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード室S11、アンロード室S16と、ロード室S11に密閉機構S187を介して接続されるとともに、アンロード室S16に密閉機構S18を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0094】
ロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S12へと搬送する搬送機構S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S11fが設けられる。
【0095】
アンロード室S16には、成膜室S12から成膜の完了したガラス基板11を外部へと搬送する搬送機構S16aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S16fが設けられる。
【0096】
成膜室S12には、基板保持機構S12aと、3つの成膜処理に対応した機構として二段の成膜機構S13,S14,S15が設けられている。
【0097】
基板保持機構S12aは、搬送機構S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS13b,S14b,S15bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード室S11からの搬入およびアンロード室S16へ搬出可能とされている。
【0098】
成膜室S12のロード室S11側位置には、三段の成膜機構S13,S14,S15のうち一段目の成膜材料を供給する成膜機構S13が設けられている。
成膜機構S13は、ターゲットS13bを有するカソード電極(バッキングプレート)S13cと、バッキングプレートS13cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S13dと、を有する。
【0099】
成膜機構S13は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S13eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S13fと、を有する。
【0100】
さらに、成膜室S12におけるロード室S11とアンロード室S16との中間位置には、二段の成膜機構S13,S14,S15のうち二段目の成膜材料を供給する成膜機構S14が設けられている。
成膜機構S14は、ターゲットS14bを有するカソード電極(バッキングプレート)S14cと、バッキングプレートS14cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S14dと、を有する。
【0101】
成膜機構S14は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S14eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S14fと、を有する。
【0102】
さらに、成膜室S12のアンロード室S16側位置には、三段の成膜機構S13,S14,S15のうち三段目の成膜材料を供給する成膜機構S15が設けられている。
成膜機構S15は、ターゲットS15bを有するカソード電極(バッキングプレート)S15cと、バッキングプレートS15cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S15dと、を有する。
【0103】
成膜機構S15は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S15c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S15eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S15c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S15fと、を有する。
【0104】
成膜室S12には、カソード電極(バッキングプレート)S13c,S14c,S15cの付近において、それぞれガス導入機構S13e,S14e,S15eから供給されたガスが、隣接する成膜機構S13,S14,S15に混入しないように、ガス流れを抑制するガス防壁S12gが設けられる。これらガス防壁S12gは、基板保持機構S12aがそれぞれ隣接する成膜機構S13,S14,S15間を移動可能なように構成されている。
【0105】
成膜室S12において、それぞれの三段の成膜機構S13,S14,S15は、ガラス基板11に順に成膜するために必要な組成・条件を有するものとされる。
本実施形態において、成膜機構S13は位相シフト層12の成膜に対応しており、成膜機構S14は反射防止層13の成膜に対応しており、成膜機構S15は密着層14の成膜に対応している。
【0106】
具体的には、成膜機構S13においては、ターゲットS13bが、ガラス基板11に位相シフト層12を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0107】
同時に、成膜機構S13においては、ガス導入機構S13eから供給されるガスとして、位相シフト層12の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
【0108】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S13fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S13においては、電源S13dからバッキングプレートS13cに印加されるスパッタ電圧が、位相シフト層12の成膜に対応して設定される。
【0109】
また、成膜機構S14においては、ターゲットS14bが、位相シフト層12上に反射防止層13を成膜するために必要な組成として、モリブデンシリサイドを有する材料からなるものとされる。
【0110】
同時に、成膜機構S14においては、ガス導入機構S14eから供給されるガスとして、反射防止層13の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定される。
【0111】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S14fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S14においては、電源S14dからバッキングプレートS14cに印加されるスパッタ電圧が、反射防止層13の成膜に対応して設定される。
【0112】
また、成膜機構S15においては、ターゲットS15bが、反射防止層13上に密着層14を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0113】
同時に、成膜機構S15においては、ガス導入機構S15eから供給されるガスとして、密着層14の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン、窒素ガス等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
【0114】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S15fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S15においては、電源S15dからバッキングプレートS15cに印加されるスパッタ電圧が、密着層14の成膜に対応して設定される。
【0115】
図4に示す製造装置S10においては、ロード室S11から搬送機構S11aによって搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S12において基板保持機構S12aによって搬送しながら三段のスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S16から成膜の終了したガラス基板11を搬送機構S16aによって外部に搬出する。
【0116】
位相シフト層形成工程においては、成膜機構S13において、ガス導入機構S13eから成膜室S12のバッキングプレートS13c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S13cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS13b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0117】
成膜室S12内のバッキングプレートS13c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S13cのターゲットS13bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で位相シフト層12が形成される。
【0118】
同様に、反射防止層形成工程においては、成膜機構S14において、ガス導入機構S14eから成膜室S12のバッキングプレートS14c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S14cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS14b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0119】
成膜室S12内のバッキングプレートS14c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S14cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で反射防止層13が形成される。
【0120】
同様に、密着層形成工程においては、成膜機構S15において、ガス導入機構S15eから成膜室S12のバッキングプレートS15c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S15cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS15b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0121】
成膜室S12内のバッキングプレートS15c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S15cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で密着層14が形成される。
【0122】
この際、位相シフト層12の成膜では、ガス導入機構S13eから所定の分圧となる窒素ガス、酸素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0123】
また、反射防止層13の成膜では、ガス導入機構S14eから所定の分圧となる窒素ガス、酸素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0124】
また、密着層14の成膜では、ガス導入機構S15eから所定の分圧となる窒素ガス、酸素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0125】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、O(酸素)、NO(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
また、炭素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
なお、位相シフト層12、反射防止層13、密着層14の成膜で、必要であればターゲットS13b,S14b,S15bを交換することもできる。
【0126】
さらに、これら位相シフト層12、反射防止層13、密着層14の成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクス10Bとする。
【0127】
以下、本実施形態における位相シフト層12、反射防止層13、密着層14の膜特性について説明する。
【0128】
まず、マスクを形成するためのガラス基板11上に、位相シフト層12の主成分膜となるクロム化合物膜を、スパッタリング法等を用いて形成する。この際に形成するクロム化合物はクロムニウム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。位相シフト層12の膜中に含有するクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御することで、所望の透過率と位相とを有する位相シフト層12を形成することが可能である。
【0129】
ここで、クロム化合物のみで位相シフト層12を形成し、それ以外の膜がない場合、反射率が約25%と高くなってしまう。このため、位相シフト層12の表面に低反射層となる反射防止層13を形成することにより、反射率を低減することが望ましい。
【0130】
反射防止層13としては、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが望ましい。モリブデンシリサイドはマスク洗浄に一般的に用いられる硫酸と過酸化水素水の混合液に対する耐性が強く、モリブデンシリサイドに含まれる窒素や酸素濃度を制御することで光学特性を大きく制御することが可能である。
【0131】
ここで、モリブデンシリサイドは、親水性を有するために、フォトレジストとの密着性が悪い場合がある。これを改善するために、撥水性を有する密着層14を形成することで密着性改善を図る。
密着層14としては、クロム化合物を用いることが望ましい。クロム化合物は酸やアルカリ溶液に対する薬液耐性が強いという性質と疎水性の性質を有するためにフォトレジストと接触する界面に用いるのに適している。
【0132】
このように位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とを積層することで、薬液耐性の強いクロム化合物と金属シリサイドの2種類の材料で、フォトマスク10に必要な光学特性等を有する位相シフト膜を形成することが可能となる。
【0133】
位相シフトマスク10の反射率を小さくするためには、密着層14と反射防止層13との光学定数を近い値にした上で、さらに、反射防止層13と位相シフト層12との間において、屈折率の差と消衰係数の差とを大きくすることが重要である。このように、位相シフトマスク10の反射率を低減するためには、密着層14と反射防止層13との屈折率および消衰係数の値を小さくすることが望ましい。
【0134】
密着層14に用いられるクロム化合物では、クロム化合物中の酸素濃度と窒素濃度を高くすることで屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。特に膜中の酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させることができる。
【0135】
また、反射防止層13に用いられる金属シリサイドにモリブデンシリサイドを用いた場合には膜中の窒素濃度と酸素濃度を増加させることで屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能である。特に膜中の酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させることができる。
【0136】
ここで、説明のため、位相シフト層12が窒素と酸素と炭素を含有するクロム化合物を主成分とする膜、反射防止層13が酸素と窒素を含有するモリブデンシリサイドを主成分とする膜、密着層14が酸素と窒素を含有するクロム化合物を主成分とする膜とするが、これに限定されるものではない。
【0137】
このように、低反射位相シフト膜(マスク層)である位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とにおいては、位相シフト層12において、上述した範囲に酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度が設定され、反射防止層13において、上述した範囲に酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度が設定され、密着層14において、上述した範囲に酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度が設定される。
【0138】
まず、密着層14における密着性の変化について評価した。
ここでは、密着層14として用いたクロム化合物の膜厚を変化させ、その場合のクロム化合物とフォトレジストとの密着性評価の関係を調べた。
レジスト密着性の評価は、本実施形態における三層構造のマスクブランクス10Bの上にレジストパターンを形成し、その後にウエットエッチングをおこなう。
フォトレジスト層15としては、例えば、ノボラック樹脂などを適用することができる。
【0139】
その際、フォトレジスト層15とマスク層との界面に、エッチング液の浸込みが発生した場合にNGとし、エッチング液の浸込みが発生しなかった場合にOKとしている。
なお、フォトレジスト層とマスク層との界面に、エッチング液の浸込みが発生した場合には、その部分では低反射位相シフト膜(マスク層)である位相シフト層12と反射防止層13と密着層14とにおけるパターンが形成されない。
この結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
この結果から、密着層(密着改善層)14の膜厚が10nm以上の場合において、エッチング液の浸込みが発生しない良好な断面形状が得られることがわかった。
【0142】
次に、反射防止層13における組成、つまり、酸素、窒素等の含有量変化による膜特性変化について検証する。
【0143】
スパッタリング法を用いてモリブデンシリサイド化合物を成膜した。
ここで用いているモリブデンシリサイドターゲットの組成Mo:Si=1:2.3である。また、スパッタリングの際にはNとCOの混合ガスを用いた。
モリブデンシリサイド化合物の成膜時におけるCO分圧を変化させた。
このように、MoSi化合物成膜時のCO分圧を変化させた際における屈折率の波長依存性を図5に示す。また、MoSi化合物成膜時のCO分圧を変化させた際における消衰係数の波長依存性を図6に示す。
【0144】
モリブデンシリサイド化合物の成膜時におけるCO分圧が変化すると、これにともなって炭素・窒素・酸素の組成比が変化する。同時に、モリブデンとシリコンの組成比も変化する。成膜時のCO分圧を増加させることで、酸素濃度、炭素濃度が増加し、窒素濃度、シリコン濃度、モリブデン濃度は減少する。
図5図6に示すように、モリブデンシリサイド化合物の成膜時におけるCO分圧を増加させることで、屈折率と消衰係数を低減できることがわかる。
【0145】
また、モリブデンシリサイド化合物の組成をオージェ電子分光法により求めた。
この結果を表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
成膜時のCO分圧を増加させることで、酸素濃度が増加し、窒素濃度、シリコン濃度、モリブデン濃度は減少することがわかる。
【0148】
モリブデンシリサイド膜をウエットエッチングを用いてエッチングするには、通常、フッ化水素を有する薬液を用いてエッチングする必要がある。しかしながら、フッ化水素は石英等の基板もエッチングしてしまう。このため、モリブデンシリサイドにおけるシリコン濃度が低い材料を用いることが望ましい。したがって、モリブデンシリサイドを形成する際のターゲット組成が上記のようにMoとSiとのものを用いることが望ましい。Si濃度を更に低下させてしまうとターゲット組成の均一性を保つのが困難になる。
【0149】
次に、密着層14および位相シフト層12における組成、つまり酸素、窒素等の含有量変化による膜特性変化について検証する。
【0150】
密着層14および位相シフト層12とはクロム化合物とされる。
スパッタリング法を用いてクロム化合物を成膜した。
クロム化合物を形成する際に酸化性ガスとして、COガスとNOガスとを選択して、それぞれのガスにおいて、その分圧を変化させた場合の屈折率と消衰係数の波長依存性のグラフを示す。
【0151】
Cr化合物成膜時のNOガス分圧を、ガス流量比で0%~30%まで変化させた際における、屈折率の波長依存性を図7に示す。また、Cr化合物成膜時のNOガス分圧を変化させた際における消衰係数の波長依存性を図8に示す。
クロム化合物は形成する際の酸化性ガスの分圧を調整することで、光学特性を大きく変化させることが可能である。
図7図8に示すように、成膜時のNOガス分圧を増加させることで屈折率と消衰係数を低下させることができることがわかる。
【0152】
酸化性ガスとしてNOガスを選択して成膜したクロム化合物の組成をオージェ電子分光法により求めた。その結果を表3に示す。
【0153】
【表3】
【0154】
Cr化合物成膜時のCOガス分圧を、ガス流量比で0%~30%まで変化させた際における、屈折率の波長依存性を図9に示す。また、Cr化合物成膜時のCOガス分圧を変化させた際における消衰係数の波長依存性を図10に示す。
また、酸化性ガスとしてCOガスを選択して成膜したクロム化合物の組成をオージェ電子分光法により求めた。その結果を表4に示す。
【0155】
【表4】
【0156】
Cr化合物成膜時のCO分圧あるいはNO分圧を増加させることで、酸素濃度が増加し、窒素濃度、クロム濃度は減少することがわかる。
このようにモリブデンシリサイド化合物とクロム化合物ともに成膜時のガス分圧を調整することで所望の光学定数を有する膜を得ることができる。
【0157】
位相シフトマスク10は、i線(波長365nm)で約5%の透過率で、位相シフト部分と透過部分との位相差が約180°になるように設定される。このため、位相シフト層12を形成するクロム膜と、反射防止層13を形成するモリブデンシリサイド膜と、密着層14を形成するクロム膜と、において、それぞれの膜厚と光学定数を調整することで位相差および透過率および反射率を制御することが可能となる。
【0158】
位相シフトマスク10は、反射率を低下させることが必要である。このために、密着層14と反射防止層13とにおいて、屈折率と消衰係数とを小さくするとともに、位相シフト層12において屈折率と消衰係数とを大きくする。つまり、反射防止層13と位相シフト層12との間で屈折率の差を大きくすること、同時に、反射防止層13と位相シフト層12との間で消衰係数の差を大きくすることが望ましい。
【0159】
このことから、密着層14については、成膜時のNOガス分圧を高くして膜中酸素濃度を高めることが望ましい。
酸素濃度の高いクロム膜を用いて密着性を高めるためにはCOガスよりも、NOガスを用いて酸化した方がレジストとの密着性を良くすることが可能である。このため、密着層に用いるクロム膜はNOガスを用いて成膜することが望ましい。
【0160】
また、反射防止層13については、成膜時の酸素含有ガス分圧を高くして膜中酸素濃度を高めることが望ましい。反射防止層13の酸素濃度を高めた場合、親水性が増加する場合があるため、密着層14における疎水性を高めることが望ましい。
【0161】
さらに、位相シフト層12については、COガスを添加して成膜したクロム膜で形成し、成膜時のCOガス添加量を変化させることで、位相シフト層12の光学定数を制御して、設定した位相シフトマスク10の透過率と位相差を得ることが可能になる。
【0162】
低反射特性を有する位相シフトマスク10においては、密着層14と反射防止層13と位相シフト層12とを成膜する際に、それぞれのスパッタガスとして酸素含有ガスを選択するとともに、ガス流量(分圧比)を設定することで、それぞれの膜中における酸素等の組成比を上述したように設定することができる。
【0163】
例えば、位相シフト層12の成膜時に、COガス分圧を15%~25%として、反射防止層13の成膜時に、NOガス分圧を25%~35%として、密着層14の成膜時に、NOガス分圧を25%~35%としてもよい。
【0164】
あるいは、COガス分圧を0%~5%とすること、COガス分圧を5%~15%とすること、COガス分圧を10%~20%とすること、COガス分圧を20%~30%とすること、COガス分圧を25%~35%とすること、も可能である。
また、NOガス分圧を5%~15%とすること、NOガス分圧を10%~20%とすること、NOガス分圧を15%~25%とすること、NOガス分圧を20%~30%としてもよい。さらに、これらの範囲を組み合わせて用いることでもできる。
また、スパッタガスにアルゴンを含む場合には、酸素含有ガスの分圧を高めに設定することができる。
【0165】
低反射特性を有する位相シフトマスク10においては、密着層14と反射防止層13と位相シフト層12とは、それぞれ別材料で形成されている。このため、パターニングをおこなうエッチング工程においてWETエッチングを用いた場合に、エッチング液を変えて選択的にエッチングすることが可能である。
【0166】
モリブデンシリサイド化合物は、例えばフッ化水素アンモニウムと過酸化水素の混合液によりエッチングすることが可能である。クロム化合物は例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液によりエッチングすることが可能である。
このそれぞれ異なるWETエッチングの際の選択比は非常に大きい。このため、エッチング後における位相シフトマスク10の断面形状を垂直に近いものとして、良好な断面形状を得ることが可能である。
【0167】
低反射特性を有する位相シフトマスク10の特性を検証した。
確認するために、3層構造の位相シフトマスク10とするマスクブランクス10Bを形成した。ガラス基板11上に、COガス分圧20%で形成したクロム化合物を用いて位相シフト層12とした。位相シフト層12上に、COガス分圧30%で形成したモリブデンシリサイド化合物を用いて反射防止層13とした。反射防止層13上に、NOガス分圧30%で形成したクロム化合物を用いて密着層14とした。ここで、位相シフト層12における膜厚を90nmとして、反射防止層13における膜厚を30nmとして、密着層14における膜厚を10nmとして用いた。
【0168】
反射防止層13の膜厚を変化させて、位相シフトマスク10の特性変化を検証した。
図11に本実施例の反射防止層13の膜厚を変化させた場合の位相シフトマスク10の反射率特性を示す。
図12に本実施例の反射防止層13の膜厚を変化させた場合の位相シフトマスク10の透過率特性を示す。
なお、LRは、反射防止層13の膜厚を示している。
【0169】
これによれば、反射防止層13の膜厚が30~40nmで反射率が5%程度となっている。つまり、反射防止層13の膜厚が30nm付近において、例えば413nmなどとされる波長400nm近辺で低い反射率を得ることができることがわかる。
【0170】
次に、密着層14の膜厚を変化させて、位相シフトマスク10の特性変化を検証した。
図13に本実施例の密着層14の膜厚を変化させた場合の位相シフトマスク10の反射率特性を示す。
図13に本実施例の密着層14の膜厚を変化させた場合の位相シフトマスク10の透過率特性を示す。
なお、AEは、密着層14の膜厚を示している。
【0171】
密着層14の膜厚が10nm以上に厚くなると反射率が増加する傾向にあるが、10nmにおいては波長400nm付近の反射率が5%程度と十分に低い反射率特性を得られることがわかる。密着層14の膜厚を変化させたときに、薄い方が、反射率は低くなる。また、厚くすると、屈折率が高い成分ができてしまうので、反射率が上がると考えられる。
【0172】
これらのことから、本実施形態における位相シフトマスク10は低い反射率特性を有することがわかる。
【0173】
本実施形態におけるマスクブランクス10B,フォトマスク10は、密着層14と反射防止層13と位相シフト層12のエッチングをそれぞれ独立に制御することが可能であるために、薬液耐性が強く、反射率を十分に低減した上で、マスクとして用いるのに適した断面形状を得ることが可能である。
また、成膜時の酸素含有ガス等のガス流量比を制御することで、膜中に含有するクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御して、所望の透過率と位相を有する位相シフト層を有し、同様に、屈折率と消衰係数の値を小さい密着層14と反射防止層13とにより反射率が低いマスクブランクス10B,フォトマスク10を実現することができる。
【0174】
なお、本実施形態においては、マスク層として位相シフト層12を有する位相シフトマスク10として説明したが、本発明は、この構成に限られるものではない。
例えば、位相シフト層12に変えて、遮光層を有する遮光マスク、あるいは、ハーフトーン層を有するハーフトーンマスク、あるいは、他の層も含めたこれらの層を組み合わせたフォトマスクとすることもできる。
【符号の説明】
【0175】
10…位相シフトマスク
10B…マスクブランクス
11…ガラス基板(透明基板)
12…位相シフト層
12P…位相シフトパターン
13…反射防止層
13P…反射防止パターン
14…密着層
14P…密着パターン
15…フォトレジスト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14