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特許7303105積層体の製造方法、積層体の製造装置および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、積層体の製造装置および積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/15 20060101AFI20230627BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230627BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20230627BHJP
   B29C 63/02 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B32B37/15
B32B15/08 Z
B32B27/06
B29C63/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019509836
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018012223
(87)【国際公開番号】W WO2018181223
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017062111
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪田 育佳
(72)【発明者】
【氏名】廣川 裕志
(72)【発明者】
【氏名】大澤 知弘
(72)【発明者】
【氏名】小茂田 含
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107505(JP,A)
【文献】特開2016-132248(JP,A)
【文献】特開2016-093970(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137571(WO,A1)
【文献】特開平10-329270(JP,A)
【文献】特開平06-297576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 48/00-48/96,
63/00-63/48,
65/00-65/82
H05K 1/03, 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体の製造方法であって、
前記金属箔を100~300℃まで加熱する第1の加熱工程と、
一対の圧着ロールのうち、前段に配置された圧着ロールによって、前記金属箔を第1の加熱工程よりも高温に加熱する第2の加熱工程と、
押出機によって前記荷重たわみ温度よりも50~300℃高い温度に加熱され、溶融押出しされた前記熱可塑性樹脂を前記金属箔上に供給し、前記一対の圧着ロールによって圧着する積層工程と
前記積層工程後に、50~200℃に設定された金属ロールを用いて、前記積層体を冷却する冷却工程と、
を備え、
前記第2の加熱工程において、前記前段に配置された圧着ロールの表面温度を150~400℃に設定し、
前記積層工程において、前記一対の圧着ロールのうち、後段に配置された圧着ロールによって、前記熱可塑性樹脂からなる層のJIS B0601による表面粗さRzを0.1~10μmとし、
前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニルサルフォンから選ばれた1つ以上を含有し、
前記金属箔を構成する金属が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかである
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の加熱工程で、金属ロールによって前記金属箔を加熱することを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記前段に配置された圧着ロールが、誘導加熱によって加熱される金属ロールであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂からなる層の厚さが5~500μmであり、前記金属箔の厚さが2~500μmであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体の製造装置であって、
前記金属箔を100~300℃まで予備加熱する予備加熱手段と、
前記金属箔と前記熱可塑性樹脂からなる層とを圧着する一対の圧着ロールと、
前記一対の圧着ロールによって圧着された積層体を冷却するために50~200℃に設定された金属ロールと、
前記荷重たわみ温度よりも50~300℃高い温度に加熱された前記熱可塑性樹脂を溶融押出しして、前記一対の圧着ロール上の前記金属箔上に前記熱可塑性樹脂からなる層を供給する押出機とを備え、
前記一対の圧着ロールのうち、前段に配置された圧着ロールは、前記金属箔を前記予備加熱手段よりも高温に加熱することが可能であって、その表面温度を150~400℃に設定し、かつ
前記一対の圧着ロールのうち、後段に配置された圧着ロールによって、前記熱可塑性樹脂からなる層のJIS B0601による表面粗さRzを0.1~10μmとし、
前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニルサルフォンから選ばれた1つ以上を含有し、
前記金属箔を構成する金属が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかである
ことを特徴とする積層体の製造装置。
【請求項6】
前記予備加熱手段が、金属ロールであることを特徴とする請求項に記載の積層体の製造装置。
【請求項7】
前記前段に配置された圧着ロールが、誘導加熱によって加熱される金属ロールであることを特徴とする請求項または請求項に記載の積層体の製造装置。
【請求項8】
ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体であって、
前記熱可塑性樹脂は、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニルサルフォンから選ばれた1つ以上を含有し、
前記金属箔を構成する金属が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかであり、
前記熱可塑性樹脂からなる層の厚さが5~500μmであり、前記金属箔の厚さが2~500μmであり、
前記熱可塑性樹脂からなる層と前記金属箔とのJIS C6481による引きはがし強度が3.0~15.0N/10mmであり、
前記熱可塑性樹脂からなる層のJIS B0601による表面粗さRzが0.1~10μmであることを特徴とする積層体(但し、前記熱可塑性樹脂からなる層が延伸したフィルムであるものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂層と金属箔とからなる積層体の製造方法、積層体の製造装置および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁層と金属層が積層されたフレキシブル積層体は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)の材料として使われる。フレキシブルプリント基板は、薄く、軽量で、柔軟性があることから、携帯電話機、デジタルカメラを初めとした各種電子機器に多く使用されている。
【0003】
近年、各種電子機器の小型化による回路の高集積化およびフレキシブルプリント基板の実装で使用されるはんだの鉛フリー化に伴い、フレキシブルプリント基板に対する耐熱性向上の要求はより強いものとなっている。
【0004】
フレキシブルプリント基板の耐熱性向上を図るためには、銅箔等の金属箔に積層される熱可塑性樹脂からなる層が高耐熱性を有していることが必要となる。高耐熱性の熱可塑性樹脂としては、いわゆるスーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)として知られているものがある。スーパーエンプラの具体例としては、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルフォン等がある。
【0005】
熱可塑性樹脂を銅箔等の上に接着層を介さずに積層するときに、溶融した高耐熱性の熱可塑性樹脂の溶融温度が高いので、積層体の歪みが増大する。積層体の歪みが大きいと、厚さムラ、シワ、表面の凹凸等が発生し易くなるため、製造上または製品性能上問題となることが多い。また、高耐熱性の熱可塑性樹脂と銅箔等との密着性が低下するといった問題も存在する。
【0006】
こうした問題を解消するために、従来から積層体の製造技術が種々開示されている。例えば、特許文献1には、金属箔等の基材に接着剤を介さずにポリオレフィン系樹脂を積層する押出ラミネート法による積層体の製造方法であって、ポリオレフィン系樹脂の表面をオゾン処理する製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、一対のエンドレスベルトの間に液晶ポリマーフィルムと金属箔を連続的に供給し、熱圧着させてフレキシブル積層板を形成するフレキシブル積層板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4428157号公報
【文献】特開2016-129949公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示された製造方法は、低融点のポリオレフィン系樹脂を用いるものであるため、加熱温度が低く、高融点の熱可塑性樹脂を積層するときには適用することができない。また、通常の押出ラミネート法では、基材と溶融樹脂の温度差が大きく、急激な温度変化に伴う基材の寸法変化によって、貼り合わせ後にシワ等の外観不良が発生する懸念がある。
【0010】
また、特許文献2に開示された製造方法は、樹脂が溶融固化してから加熱・加圧して貼り合わせるため、多くの熱量が必要となり、生産性にも劣るものである。また、表面平滑性や厚さ精度に劣る懸念がある。
【0011】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、厚さムラが少なく、表面が平滑であり、外観や引きはがし強度に優れた、高耐熱性の熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体の製造方法および当該積層体の製造装置を提供することである。また、本発明の他の課題は、高耐熱性のフレキシブルプリント基板等の用途に適合し得る積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、高耐熱性の熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体を押出ラミネート法により製造する方法において、金属箔に高耐熱性の熱可塑性樹脂を積層する前に金属箔を予備加熱すること、溶融押出しされた熱可塑性樹脂を金属箔に積層した後すばやく圧着させること等によって、上記課題を解消し得ることを見出した。本発明はこのような知見を基に到達することができたものである。本発明は、以下のような構成を有している。
【0013】
(1)本発明の積層体の製造方法は、ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体の製造方法であって、前記金属箔を100~300℃まで加熱する第1の加熱工程と、一対の圧着ロールのうち、前段に配置された圧着ロールによって、前記金属箔を第1の加熱工程よりも高温に加熱する第2の加熱工程と、押出機によって前記荷重たわみ温度よりも50~300℃高い温度に加熱され、溶融押出しされた前記熱可塑性樹脂を前記金属箔上に供給し、前記一対の圧着ロールによって圧着する積層工程と、前記積層工程後に、50~200℃に設定された金属ロールを用いて、前記積層体を冷却する冷却工程と、を備え、前記第2の加熱工程において、前記前段に配置された圧着ロールの表面温度を150~400℃に設定し、前記積層工程において、前記一対の圧着ロールのうち、後段に配置された圧着ロールによって、前記熱可塑性樹脂からなる層のJIS B0601による表面粗さRzを0.1~10μmとし、前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニルサルフォンから選ばれた1つ以上を含有し、前記金属箔を構成する金属が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかであることを特徴としている。
【0015】
)前記第1の加熱工程では、金属ロールによって前記金属箔を加熱することが好ましい。
【0016】
)前記前段に配置された圧着ロールが、誘導加熱によって加熱される金属ロールであることが好ましい。
【0018】
)前記熱可塑性樹脂からなる層の厚さが5~500μmであり、前記金属箔の厚さが2~500μmであることが好ましい。
【0021】
)本発明の積層体の製造装置は、ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体の製造装置であって、前記金属箔を100~300℃まで予備加熱する予備加熱手段と、前記金属箔と前記熱可塑性樹脂からなる層とを圧着する一対の圧着ロールと、前記一対の圧着ロールによって圧着された積層体を冷却するために50~200℃に設定された金属ロールと、前記荷重たわみ温度よりも50~300℃高い温度に加熱された前記熱可塑性樹脂を溶融押出しして、前記一対の圧着ロール上の前記金属箔上に前記熱可塑性樹脂からなる層を供給する押出機とを備え、前記一対の圧着ロールのうち、前段に配置された圧着ロールは、前記金属箔を前記予備加熱手段よりも高温に加熱することが可能であって、その表面温度を150~400℃に設定し、かつ前記一対の圧着ロールのうち、後段に配置された圧着ロールによって、前記熱可塑性樹脂からなる層のJIS B0601による表面粗さRzを0.1~10μmとし、前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニルサルフォンから選ばれた1つ以上を含有し、前記金属箔を構成する金属が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかであることを特徴としている。
【0022】
)前記予備加熱手段は、金属ロールであることが好ましい。
【0023】
)前記前段に配置された圧着ロールは、誘導加熱によって加熱される金属ロールであることが好ましい。
【0025】
)本発明の積層体は、ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体(但し、前記熱可塑性樹脂からなる層が延伸したフィルムであるものを除く)であって、前記熱可塑性樹脂は、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニルサルフォンから選ばれた1つ以上を含有し、前記金属箔を構成する金属が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかであり、前記熱可塑性樹脂からなる層の厚さが5~500μmであり、前記金属箔の厚さが2~500μmであり、前記熱可塑性樹脂からなる層と前記金属箔とのJIS C6481による引きはがし強度が3.0~15.0N/10mmであり、前記熱可塑性樹脂からなる層のJIS B0601による表面粗さRzが0.1~10μmであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の積層体の製造方法および製造装置は、高耐熱性の熱可塑性樹脂からなる層と金属箔とからなる積層体を製造するものであり、厚さムラが少なく、表面が平滑であり、外観や引きはがし強度に優れた積層体を製造することができる。また、本発明の積層体は、高耐熱性のフレキシブルプリント基板等の用途に適合し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態の積層体の製造装置の模式図である。
図2】第2実施形態の積層体の製造装置の模式図である。
図3】第1実施形態の積層体の構成を示す断面図である。
図4】第2実施形態の積層体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、以下に説明する具体例としての実施形態に限定されるわけではない。
【0029】
<積層体>
積層体の実施形態には、熱可塑性樹脂からなる層の一方の面に金属箔を積層した第1実施形態の積層体と、熱可塑性樹脂からなる層の両方の面に金属箔を積層した第2実施形態の積層体とがある。
【0030】
(第1実施形態の積層体)
図3は、第1実施形態の積層体の構成を示す断面図である。第1実施形態の積層体は、ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂からなる層(以下、「熱可塑性樹脂層」と記載することがある。)60と、当該熱可塑性樹脂層60の一方の面に積層された金属箔61とから構成されている。熱可塑性樹脂層60と金属箔61との間には、他の材料の層は設けられていない。
【0031】
(第2実施形態の積層体)
図4は、第2実施形態の積層体の構成を示す断面図である。第2実施形態の積層体は、熱可塑性樹脂層62と、当該熱可塑性樹脂層60の両方の面にそれぞれ積層された金属箔63と金属箔64とから構成されている。熱可塑性樹脂層62と金属箔63との間、および熱可塑性樹脂層62と金属箔64との間には、いずれも他の材料の層は設けられていない。第1実施形態と第2実施形態の積層体を構成する各層について以下説明する。
【0032】
(熱可塑性樹脂層)
本実施形態の熱可塑性樹脂は、高耐熱性の熱可塑性樹脂であり、ASTM D648による荷重たわみ温度が150~350℃のものである。ASTM D648による荷重たわみ温度(HDT、以下「荷重たわみ温度」と略記することがある。)とは、射出成形によって成形した長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片に、1.82MPaの荷重を与え、たわみの値が所定の大きさになったときの温度である。
【0033】
荷重たわみ温度が150~350℃の熱可塑性樹脂としては、いわゆるスーパーエンプラとして知られている樹脂が該当する。具体的には、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルフォン(PPSU)等を挙げることができる。これらの高耐熱性熱可塑性樹脂から選ばれた1つ以上を含有していることが好ましい。
【0034】
これらの高耐熱性熱可塑性樹脂は、荷重たわみ温度が上記の範囲内にあるのであれば、特に限定されるものではなく、前記名称に該当する公知の樹脂を使用することができる。ここで、液晶ポリマーとは、溶融時に液晶状態あるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、一般に溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーである。液晶ポリマーは、熱変形温度によって、I型・II型・III型と分類され、いずれの型であっても構わない。
【0035】
これらの熱可塑性樹脂は、ホモ樹脂であっても、共重合樹脂であってもよく、2種類以上の樹脂のブレンドであってもよい。また、各熱可塑性樹脂中には、公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂層の厚さは、5~500μmであり、好ましくは10~400μmである。
【0037】
(金属箔)
本実施形態の金属箔を構成する金属は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金のいずれかであることが好ましい。これらの金属および金属合金は、フレキシブルプリント基板においても使用されるものであり、公知のものを使用することができる。鉄合金としては、ステンレス鋼等がある。
【0038】
金属箔の厚さは、2~500μmであり、好ましくは3~220μmである。第2実施形態の2枚の金属箔は、厚さが同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
金属箔と熱可塑性樹脂層との密着性(引きはがし強度)を向上させるために、金属箔の表面に予め表面処理を施してもよい。表面処理法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には粗面化処理、酸・アルカリ処理、加熱処理、脱脂処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、プライマー(下塗り剤)処理等を挙げることができる。
【0040】
<積層体の製造装置>
積層体の製造装置の実施形態には、第1実施形態の積層体を製造するための第1実施形態の積層体の製造装置と、第2実施形態の積層体を製造するための第2実施形態の積層体の製造装置とがある。
【0041】
(第1実施形態の積層体の製造装置)
図1は、第1実施形態の積層体の製造装置の模式図である。第1実施形態の積層体の製造装置20は、金属箔10を予備加熱する予備加熱ロール4と、金属箔10と熱可塑性樹脂層とを圧着する一対の圧着ロール5、6と、熱可塑性樹脂を溶融押出しして、圧着ロール5上の金属箔10上に熱可塑性樹脂を供給する押出機1とを備えている。また、第1実施形態の積層体の製造装置20は、金属箔10を巻いた金属箔ロール3、加熱圧着された積層体11を冷却する冷却ロール7、ガイドロール8および巻取りロール9を備えている。
【0042】
予備加熱ロール4は、一対の圧着ロール5、6の手前に設置されており、長尺の金属箔10を予備加熱する予備加熱手段として機能する。予備加熱ロール4に代えて、あるいは予備加熱ロール4と併用して、熱風ヒーター、赤外線ヒーター、接触加熱板、外部誘導加熱等の予備加熱手段を使用することができる。フラットで長尺の金属箔を連続して搬送しつつ、所定の温度に短時間で加熱する方式としては、加熱ロール方式が好ましい。加熱ロールとしては、内部から加熱することが容易な金属ロールが好ましい。金属ロールの加熱方法は特に限定されず、電気加熱ヒーター、スチーム加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、オイル加熱ヒーター、誘導加熱ヒーター等を使用することができる。予備加熱ロール4は、金属箔10を150~400℃まで加熱することが可能な能力を有している。
【0043】
押出機1は、その先端から溶融された熱可塑性樹脂を押出すダイ2を有している。押出機1の形式は特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機等のいずれの押出機も使用することができる。ダイ2は、その先端から低粘度の溶融された熱可塑性樹脂をシート状に押し出すものであり、通常はTダイであり、下向きもしくは横向きに設置される。ダイ2は、圧着ロール5上にある金属箔10の上に溶融した熱可塑性樹脂を積層することができる位置に設置される。
【0044】
一対の圧着ロール5、6のうち、前段に配置された圧着ロール5は、予備加熱ロール4と圧着ロール6との間に設置されており、後段に配置された圧着ロール6は、圧着ロール5と冷却ロール7との間に設置されている。圧着ロール5は、内部から加熱することが容易な金属ロールであり、予備加熱された金属箔10をさらに高温に加熱する。圧着ロール5は、表面温度を150~400℃に設定することが可能である。圧着ロール5の材質としては、炭素鋼等が使用される。またロール表面はニッケルやクロム等でめっきされているか、テフロン、セラミックなどでコーティングされていることが好ましい。
【0045】
圧着ロール5の加熱方法は特に限定されず、電気加熱ヒーター、スチーム加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、オイル加熱ヒーター、誘導加熱ヒーター等を使用することができる。これらの中では、短時間で表面温度を150~400℃という高温にまで加熱することが可能であり、比較的精密に温度制御することが可能な誘導加熱ヒーターが好ましい。圧着ロール5は、1回転する間に、金属箔10と接し、その後圧着ロール6と接するため、圧着ロール5の表面温度は一旦低下する。そのため、圧着ロール6の加熱手段としては、急速に加熱することが可能な誘導加熱ヒーターが好ましい。
【0046】
圧着ロール5と圧着ロール6は、互いに近接した位置に配置されており、金属箔10と熱可塑性樹脂層とからなる積層体11を圧着する。金属箔10および熱可塑性樹脂層は150~400℃程度に加熱されており、圧着することによって、金属箔と熱可塑性樹脂層とを強固に接着させる。圧着ロール6の材質は、金属、紙、ゴム、樹脂等であるが、均一な接着状態にすることから金属ロールもしくはゴムロールであることが好ましい。金属箔10の厚さが比較的小さいときは、圧着ロール6はゴムロールであっても所定の温度に加熱することが可能である。しかし、金属箔10の厚さが比較的大きいときは、所定の温度に加熱するために、圧着ロール6は金属ロールであることが好ましい。圧着ロール6は内部から加熱できるものであってもよいし、加熱できないものであってもよい。一対の圧着ロール5、6は、圧着するときの圧力として1~300kgf/cmにすることが可能であるものが好ましい。
【0047】
一対の圧着ロール5、6によって圧着された積層体11は、その後、冷却ロール7によって冷却される。冷却ロール7の材質は、温度調整が容易にできるように金属であることが好ましい。また、冷却ロール7は、50~200℃に設定することが可能なように、内部から加熱できるものである。冷却された積層体11は、ガイドロール8を経て、巻取りロール9によって巻き取られる。
【0048】
予備加熱ロール4と圧着ロール5との間の距離は、搬送速度にも依るが、予備加熱された金属箔10が温度低下しないで、圧着ロール5によってさらに高温に加熱することができるように、2~500mm程度である。
【0049】
積層体の製造装置20は、金属箔10および積層体11を0.5~25m/分程度の搬送速度で搬送しつつ、積層体11を連続して製造することができる。
【0050】
(第2実施形態の積層体の製造装置)
図2は、第2実施形態の積層体の製造装置の模式図である。第2実施形態の積層体の製造装置50は、熱可塑性樹脂層の両方の面に積層する2枚の金属箔40、43を供給し、予備加熱する装置を備えている。2枚の金属箔40、43を、以下必要に応じてそれぞれ、第1金属箔40、第2金属箔43と記載することがある。
【0051】
第2実施形態の積層体の製造装置50は、第1金属箔40を予備加熱する予備加熱ロール34と、第2金属箔43を予備加熱する予備加熱ロール42と、第1金属箔40と熱可塑性樹脂層と第2金属箔43とを圧着する一対の圧着ロール35、36と、熱可塑性樹脂を溶融押出しして、圧着ロール35上の第1金属箔40上に熱可塑性樹脂を供給する押出機31とを備えている。また、第2実施形態の積層体の製造装置50は、第1金属箔40を巻いた金属箔ロール33、第2金属箔43を巻いた金属箔ロール41、加熱圧着された積層体44を冷却する冷却ロール37、ガイドロール38および巻取りロール39を備えている。
【0052】
第2実施形態の積層体の製造装置50の予備加熱ロール34、42はそれぞれ、第1実施形態の積層体の製造装置20の予備加熱ロール4と同等の機能を有するものである。また、第2実施形態の積層体の押出機31は、第1実施形態の積層体の製造装置20の押出機1と同等の機能を有するものである。また、第2実施形態の積層体の製造装置50の一対の圧着ロール35、36は、第1実施形態の積層体の製造装置20の一対の圧着ロール5、6と同等の機能を有するものである。また、第2実施形態の積層体の製造装置50の冷却ロール37、ガイドロール38、巻取りロール39は、それぞれ第1実施形態の積層体の製造装置20の冷却ロール7、ガイドロール8、巻取りロール9と同等の機能を有するものである。したがって、第2実施形態の積層体の製造装置50における個々の装置の説明は省略する。
【0053】
第2実施形態の積層体の製造装置50では、第1金属箔40は、予備加熱後に前段の圧着ロール35上に供給される。一方、第2金属箔43は、予備加熱後に後段の圧着ロール36上に供給される。そのため、第1金属箔40と第2金属箔43の予備加熱温度は同一の温度でもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
<積層体の製造方法>
金属箔と熱可塑性樹脂層とを貼り合わせて積層体を製造する従来の方法は、予め熱可塑性樹脂シートを製造し、その後、金属箔と熱可塑性樹脂シートとを貼り合わせるという2工程の製造方法である。金属箔と熱可塑性樹脂シートとを貼り合わせる方法としては、金属箔と熱可塑性樹脂シートを加熱した後に圧着して貼り合わせたり、金属箔と熱可塑性樹脂シートとの間に接着層を設けて貼り合わせるという方法があった。
【0055】
そこで、従来の製造方法を、金属箔と高耐熱性の熱可塑性樹脂とを貼り合わせるときに適用できるかどうかを検討した。すると、高耐熱性の熱可塑性樹脂シートを高温に加熱したときに、高い内部応力が発生すること、貼り合わせ時にシワが発生し易く取扱いが難しいことが判明した。また、金属箔を一気に高温に加熱すると、線膨張係数の違いによって格子状のシワが発生すること、シワ対策として縦方向に張力をかけつつ加熱しても、縦方向にシワが発生することが判明した。
【0056】
また、従来の製造方法は、2工程を要するものであるため、生産性に劣り、加熱・冷却を繰り返すことによるエネルギーコストも比較的大きなものであった。
【0057】
そこで、本発明者らは、金属箔と高耐熱性の熱可塑性樹脂とを貼り合わせて積層体を製造するために、いわゆる押出ラミネート法を用いることを検討した。押出ラミネート法は、押出機から押し出された溶融樹脂のシートを金属箔上に直接積層し、その後直ちに圧着して積層体を製造する製造方法である。押出ラミネート法によれば、接着剤を用いることなく、熱可塑性樹脂層と金属箔とを直接貼り合わせて、積層体を連続的に製造することができる。このように、押出ラミネート法は、1工程の製造方法であり、生産性にも優れている。
【0058】
本実施形態の積層体の製造方法は、荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂層と金属箔とからなる積層体を押出ラミネート法によって製造する方法である。そして、金属箔を加熱する第1の加熱工程と、前記金属箔を第1の加熱工程よりも高温に加熱する第2の加熱工程と、押出機によって溶融押出しされた熱可塑性樹脂を金属箔上に供給し、一対の圧着ロールによって圧着する積層工程とを備えている。
【0059】
押出ラミネート法により金属箔と高耐熱性の熱可塑性樹脂とを貼り合わせるときは、金属箔に熱可塑性樹脂を積層する前に金属箔を予備加熱すること、溶融押出しされた熱可塑性樹脂を金属箔に積層した後すばやく圧着させること、圧着する前に金属箔と熱可塑性樹脂とをほぼ同等の温度に加熱しておくことが望ましい。
【0060】
(加熱工程)
金属箔は、前記したように、一気に高温に加熱すると、線膨張係数の違いによって格子状のシワが発生する。そこで、本実施形態の積層体の製造方法では、金属箔を加熱するに際して、2段階に分けて加熱することとした。すなわち、金属箔を予備加熱する第1の加熱工程と、第1の加熱工程よりも高温に加熱する第2の加熱工程の2つの加熱工程を設けることとした。第1の加熱工程では、金属箔を100~300℃まで、好ましくは150~250℃まで加熱する。その後、第2の加熱工程では、第1の加熱工程よりも高温であって、150~400℃まで、好ましくは180~400℃まで加熱する。このように2段階に分けて加熱することによって、金属箔にシワが発生することを防止することが可能である。第1の加熱工程と第2の加熱工程との温度差は30~200℃程度であることが好ましい。
【0061】
本実施形態では、第1の加熱工程は、前記した予備加熱手段としての金属ロールによって行われる。また、第2の加熱工程は、一対の圧着ロールのうち、前段に配置された圧着ロールによって行われる。第2の加熱工程を圧着ロールによって行うことによって、別途加熱装置を設けることが不要となり、製造装置をコンパクトにすることが可能となる。
【0062】
(積層工程)
積層工程では、押出機によって溶融押出しされた熱可塑性樹脂が圧着ロール上の金属箔上に供給される。その後、金属箔と熱可塑性樹脂、または金属箔と熱可塑性樹脂と金属箔を一対の圧着ロールによってすばやく圧着することによって、金属箔と熱可塑性樹脂層、または金属箔と熱可塑性樹脂層と金属箔とが強固に密着した積層体となる。
【0063】
金属箔と高耐熱性の熱可塑性樹脂とを貼り合わせるとき、圧着する直前の金属箔は、金属箔上に供給される熱可塑性樹脂とほぼ同等の温度に加熱しておくことが好ましい。金属箔と熱可塑性樹脂とをほぼ同等の温度にした状態で圧着することによって、金属箔と熱可塑性樹脂とが界面で強固に接着する。圧着時の金属箔の温度が、熱可塑性樹脂の温度よりも50℃以上低いと、接着は不十分となり、引きはがし強度が低下する。
【0064】
高耐熱性の熱可塑性樹脂としては、荷重たわみ温度が150~350℃である熱可塑性樹脂を用いる。そのため、圧着時の金属箔と熱可塑性樹脂との接着強度を高いものとするためには、熱可塑性樹脂は圧着時に、荷重たわみ温度よりも50~300℃高い温度に加熱しておくことが好ましい。
【0065】
(冷却工程)
次に、積層体は、冷却工程で冷却される。本実施形態では、積層体を冷却するために冷却ロールが使用される。冷却ロールとしては、50~200℃に、好ましくは50~180℃に設定された金属ロールが用いられる。
【0066】
(巻取り工程)
その後、冷却された積層体は、巻取りロールによって巻き取られて、積層体のロールとなる。
【0067】
図1の積層体の製造装置20を使用すると、上記の積層体の製造方法によって、積層体11を製造することができる。金属箔ロール3から金属箔10が繰り出され、予備加熱ロール4によって金属箔10は予備加熱される(第1の加熱工程)。その後、一対の圧着ロール5、6のうち、前段に配置された圧着ロール5によって金属箔10は第1の加熱工程よりも高温に加熱される(第2の加熱工程)。圧着ロール5上の金属箔10上に、押出機1から溶融した熱可塑性樹脂が供給される。その後すぐに金属箔10と熱可塑性樹脂とは圧着されて、積層体11が形成される(積層工程)。その後、積層体11は冷却ロール7によって冷却され(冷却工程)、ガイドロール8を経て、巻取りロール9によって巻き取られる(巻取り工程)。
【0068】
図2の積層体の製造装置50を使用すると、上記の積層体の製造方法によって、積層体44を製造することができる。具体的には、金属箔ロール33から第1金属箔40が繰り出され、予備加熱ロール34によって金属箔40は予備加熱される。一方、金属箔ロール41から第2金属箔43が繰り出され、予備加熱ロール42によって金属箔43は予備加熱される(第1の加熱工程)。その後、一対の圧着ロール35、36のうち、前段に配置された圧着ロール35によって第1金属箔40は第1の加熱工程よりも高温に加熱される(第2の加熱工程)。次に、圧着ロール35上の第1金属箔40上に、押出機31から溶融した熱可塑性樹脂が供給される。その後すぐに第1金属箔40と熱可塑性樹脂と第2金属箔43は圧着されて、積層体44が形成される(積層工程)。その後、積層体44は冷却ロール37によって冷却され(冷却工程)、ガイドロール38を経て、巻取りロール39によって巻き取られる(巻取り工程)。
【0069】
(積層体の特徴)
以上説明してきた積層体には、その製造方法に由来して、以下に説明するいくつかの特徴を有するものとなっている。
【0070】
積層体の金属箔と熱可塑性樹脂層との引きはがし強度が高いものである。具体的には、熱可塑性樹脂層と金属箔とのJIS C6481による引きはがし強度が3.0~15.0N/10mmである。ここで、引きはがし強度は、JIS C6471に記載の180°方向引きはがし方法に準拠して測定される。引きはがし強度は、好ましくは5~15N/10mmである。
【0071】
また、積層体の熱可塑性樹脂層の表面が平滑である。具体的には、熱可塑性樹脂層のJIS B0601による表面粗さRzが0.1~10μmである。表面粗さRzは、好ましくは0.1~5μmである。
【0072】
さらに、積層体は以下のような特徴を有している。
(1)シワ、波打ち、表面の凹凸がなく、外観に優れている。
(2)厚さが均一であり、厚さムラが少ない。
(3)比較的厚さの大きい積層体であっても製造することができる。
(4)誘電率および誘電正接が低い。
【0073】
本実施形態の積層体の用途としては、高耐熱性のフレキシブルプリント基板、ソーラーパネル基板、積層体を複数重ね合わせた多層基板、高周波用配線基板等がある。特に、自動車向けミリ波用のフレキシブルプリント基板等に適性を有している。
【実施例
【0074】
以下に実施例と比較例を用いて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0075】
実施例および比較例に用いた材料は以下のとおりである。
(1)熱可塑性樹脂
液晶ポリマー(LCP):上野製薬社製UENO LCP A-5000(荷重たわみ温度:180℃)
ポリエーテルサルフォン(PES):BASF社製Ultrason E1010(荷重たわみ温度:196℃)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK):SOLVAY社製KETASPIRE KT-820(荷重たわみ温度:157℃)
(2)金属箔
銅箔A:三井金属社製3EC-M3S-HTE(厚さ:12μm)、幅550mm、長さ200m
銅箔B:三井金属社製MLS-G(厚さ:210μm)、幅550mm、長さ100m
【0076】
[実施例1]
図1に示す積層体の製造装置20を用いて、液晶ポリマーと金属箔10(銅箔A)との積層体11を製造した。具体的な積層体11の製造方法は以下の通りである。
乾燥した液晶ポリマーをφ40mm単軸押出機1に投入し、290℃に加熱されたダイ(Tダイ、550mm幅)2から吐出量20kg/hで押出した。一方、金属箔10は予備加熱ロール4で150℃に予備加熱した後、表面温度を250℃に設定した前段の圧着ロール5で加熱した。ダイ2から押出された液晶ポリマーと加熱された金属箔10は圧着ロール5と圧着ロール6とで圧着され、その後、160℃に加熱された冷却ロール7で冷却され、巻き取られた。得られた積層体11は、熱可塑性樹脂層の厚さが50μm、平均厚さが62μmであった。なお、予備加熱された金属箔10の表面温度は、理化工業社製携帯型温度計(DP-700)を用いて測定した。
【0077】
[実施例2]
金属箔10として銅箔B(厚さ210μm)を用い、表1に記載の温度条件に変更した以外は実施例1と同様にして積層体11を製造した。得られた積層体11は、熱可塑性樹脂層の厚さが102μm、平均厚さが312μmであった。
【0078】
[実施例3]
熱可塑性樹脂をポリエーテルサルフォンとし、表1に記載の温度条件に変更した以外は実施例1と同様にして積層体11を製造した。得られた積層体11は、熱可塑性樹脂層の厚さが51μm、平均厚さが63μmであった。
【0079】
[実施例4]
熱可塑性樹脂をポリエーテルエーテルケトンとし、表1に記載の温度条件に変更した以外は実施例1と同様にして積層体11を製造した。得られた積層体11は、熱可塑性樹脂層の厚さが50μm、平均厚さが62μmであった。
【0080】
[比較例1]
表1に記載の温度条件に変更した以外は実施例1と同様にして積層体11を製造した。得られた積層体11は、熱可塑性樹脂層の厚さが50μm、平均厚さが62μmであった。
【0081】
[比較例2]
予備加熱ロール4によって予備加熱を行わなかった以外は、実施例1と同様にして積層体11を製造した。得られた積層体11は、熱可塑性樹脂層の厚さが51μm、平均厚さが63μmであった。
【0082】
得られた積層体を以下に記載の方法に従って評価した。評価結果を表1に示した。
【0083】
(積層体の外観)
積層体の両面を目視で観察し、以下の基準で判断した。
×:積層体の両面に凹凸があるもの
△:積層体の片面に凹凸があるもの
○:積層体の表面に凹凸が無いもの
【0084】
(平均厚さ、厚さムラ)
積層体の厚さを、JIS C6471に準拠して、ミツトヨ社製マイクロメータを用いて測定した。測定は、MD方向に1m間隔に3箇所、TD方向に10cm間隔に5箇所を測定し、計15箇所の測定値の平均値を平均厚さとした。厚さムラは、測定した厚さの最大値と最小値の差を平均厚さで除した比率(%)を求めて指標とした。厚さムラが3%未満のとき優、3~5%のとき良、5%を超えるとき不可と判定した。
【0085】
(平均表面粗さ)
積層体の熱可塑性樹脂層の表面粗さを、JIS B0601に準拠して、KEYENCE社製レーザー顕微鏡(VK-X110)を用いて測定した。Rzを任意に10箇所で測定し、10箇所のRzの平均値を平均表面粗さ(Rz)とした。平均表面粗さ(Rz)が5μm以下のとき優、5μmを超え10μm以下のとき良、10μmを超えるとき不可とと判定した。
【0086】
(引きはがし強度)
積層体の熱可塑性樹脂層と金属箔との引きはがし強度を、JIS C6471に記載の180°方向引きはがし方法に準拠して、東洋精機社製引張試験機(STROGRAPH VE10)を用いて測定した。積層体の金属箔を50mm/minの速度で180°方向に引きはがして測定した。引きはがし強度が、5N/10mm以上のとき優、3N/10mm以上5N/10mm未満のとき良、3N/10mm未満のとき不可と判定した。
【0087】
【表1】
【0088】
表1の評価結果から、実施例1~4はいずれも、積層体の外観、厚さムラ、平均表面粗さ、引きはがし強度において良好な性能を有していた。比較例1は、積層時の圧着ロールの表面温度が150℃未満であるため、引きはがし強度が低いものであった。比較例2は、積層する前に金属箔を予備加熱することをしなかったため、積層体の全面にシワが発生し、積層体の外観と厚さムラに劣るものであった。
【0089】
[実施例5]
図2に示す積層体の製造装置50を用いて、液晶ポリマーの一方の面に第1金属箔40(銅箔A)を、他方の面に第2金属箔43(銅箔A)を積層した積層体44を製造した。具体的な積層体44の製造方法は以下の通りである。
乾燥した液晶ポリマーをφ40mm単軸押出機31に投入し、290℃に加熱されたダイ(Tダイ、550mm幅)32から吐出量20kg/hで押出した。一方、第1金属箔40は予備加熱ロール34で150℃に予備加熱した後、表面温度を250℃に設定した前段の圧着ロール35で加熱した。更に、第2金属箔43は予備加熱ロール42で150℃に予備加熱した。ダイ32から押出された液晶ポリマーと加熱された金属箔40、43は圧着ロール35と圧着ロール36とで圧着され、その後、160℃に加熱された冷却ロール37で冷却され、巻き取られた。得られた積層体44は、熱可塑性樹脂層の厚さが50μm、平均厚さが74μmであった。なお、予備加熱された第1金属箔40および第2金属箔43の表面温度は、理化工業社製携帯型温度計(DP-700)を用いて測定した。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の評価結果から、実施例5は、積層体の外観、厚さムラ、平均表面粗さ、引きはがし強度において良好な性能を有していた。
【符号の説明】
【0092】
1、31 押出機
2、32 ダイ
3、33、41 金属箔ロール
4、34、42 予備加熱ロール
5、35 圧着ロール(前段)
6、36 圧着ロール(後段)
7、37 冷却ロール
8、38 ガイドロール
9、39 巻取りロール
10、40、43 金属箔
11、44 積層体
20、50 積層体の製造装置
60、62 熱可塑性樹脂層
61、63、64 金属箔
図1
図2
図3
図4