(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】覆工コンクリートの施工管理方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230627BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20230627BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
E21D11/10 A
E21D9/00 Z
G01B11/24 B
(21)【出願番号】P 2020124497
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 岩往
(72)【発明者】
【氏名】橘高 豊明
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 敏之
(72)【発明者】
【氏名】徳永 満善
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 善一
(72)【発明者】
【氏名】堀川 和利
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特許第6611306(JP,B2)
【文献】特開2009-186184(JP,A)
【文献】特開2011-203090(JP,A)
【文献】特開2005-083893(JP,A)
【文献】特開2018-163063(JP,A)
【文献】特開平08-121091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
E21D 9/00
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状計測機器によって得られたトンネル掘削面の形状データから、トンネル覆工型枠を用いて形成される、トンネルの曲線部分の覆工コンクリートの厚さを予め算出して管理するための覆工コンクリートの施工管理方法であって、
トンネルの曲線部分の設計中心線に沿わせて、矩形状の平面形状を有するトンネル覆工型枠の直線状型枠モデルを、当該直線状型枠モデルのトンネル掘進方向の先端部及び後端部の中心がトンネルの曲線部分の前記設計中心線に配置されるように割り付けして前記トンネル掘削面の形状データと重ね合わせ、重ね合わせた前記直線状型枠モデルの外周面と前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを算出する覆工コンクリートの施工管理方法。
【請求項2】
重ね合わせた前記直線状型枠モデルの外周面と、前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分の形状を、前記トンネル掘削面の形状データまたは前記直線状型枠モデルのいずれか一方を表した図面上にヒートマップ出力により表示させることによって、これらの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを確認できるようにする請求項1記載の覆工コンクリートの施工管理方法。
【請求項3】
前記形状計測機器は、3Dレーザ・スキャナーを用いたMMS(Mobile Mapping System)である請求項1又は2記載の覆工コンクリートの施工管理方法。
【請求項4】
前記直線状型枠モデルのトンネル掘進方向の後端部に、曲線部分の内周側におけるトンネル掘進方向の幅が狭く、外周側におけるトンネル掘進方向の幅が広くなった台形状の平面形状を備えるカーブライナーモデルを、接続部における互いの外周が一致すように接続することによって、曲線部直線状型枠モデルを形成し、該曲線部直線状型枠モデルを、当該曲線部直線状型枠モデルのトンネル掘進方向の先端部及び後端部の中心がトンネルの曲線部分の前記設計中心線に配置されるように割り付けして、前記トンネル掘削面の形状データと重ね合わせ、重ね合わせた前記曲線部直線状型枠モデルの外周面と前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを算出する請求項1~3のいずれか1項記載の覆工コンクリートの施工管理方法。
【請求項5】
重ね合わせた前記曲線部直線状型枠モデルの外周面と前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分に打設されるコンクリートの打設数量を算出できるようにする請求項4記載の覆工コンクリートの施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆工コンクリートの施工管理方法に関し、特に、トンネル覆工型枠を用いて形成される、トンネルの曲線部分の覆工コンクリートの出来形を管理するための覆工コンクリートの施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネル工法においては、地山を掘削して形成されたトンネルの掘削内壁面を、コンクリートやモルタルによる吹付け硬化材を吹き付けることで覆って地山の保護層を形成した後に、形成された保護層の内側に、トンネル覆工型枠(セントル)を用いてコンクリートを打設することにより、覆工コンクリートが施工されて、トンネルの仕上り面となる覆工面が形成されることになるが、覆工コンクリートを施工する際には、必要なコンクリートの打設量を、予め把握しておくことが重要である。
【0003】
このため、例えば3Dレーザ・スキャナーによる計測によって、吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)の出来形計測データを、例えば3次元点群データとして得ることを可能にする技術が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
また、3Dレーザ・スキャナーを用いて計測した、吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)の点群データを、3次元CADを用いて設計された、トンネルの計画設計モデルと重ね合わせることで、覆工コンクリートの厚さ検出の自動化を図れるようにすると共に、必要なコンクリート量をトンネルのブロック毎に自動計算できるようにして、正確な供給量で覆工コンクリートを打設することを可能にする山岳トンネル向けの3D出来形管理システムが、例えば「出来形マイスターβ版」として、佐藤工業、ユニアデックス、及び日本ユニシス・エクセリューションズの3社によって共同開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「レーザースキャナーを用いた出来形管理の試行要領(案)」平成29年3月、国土交通省
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
同様に、山岳トンネル工法においては、トンネルの覆工コンクリートは、本体構造物となることから、全ての断面の任意の位置において設計厚さが確保されるように、経済的な余堀量を考慮しながら、トンネルの掘削作業や吹付けコンクリート等の吹付け硬化材による保護層の施工が行われることになる。また、覆工コンクリートの厚さ(巻き厚)については、厳格に管理する必要があり、実際の施工現場において、覆工コンクリートの打設厚さが不足すると思われる部分が判明した場合には、その部分をアタリ箇所として、所定の打設厚さを確保できるように、形成された吹付けコンクリート等の吹付け硬化材による保護層の一部を斫り取る作業が行われることになる。
【0008】
しかしながら、上記の従来の3Dレーザ・スキャナーを用いて計測された、吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)の点群データを、3次元CADを用いて設計された、トンネルの計画設計断面と重ね合わせることで、覆工コンクリートの厚さを算出できるようにした技術によれば、トンネルの曲線部分において、覆工コンクリートが所定の打設厚さを確保できると判定された場合でも、実際のトンネルの施工現場においては、トンネルの曲線部分に設置されたトンネル覆工型枠(セントル)と吹付けコンクリート等の吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)との間隙部分に、間隔が狭くなっていて、覆工コンクリートを所定の打設厚さで形成するのに必要な十分な空間を確保できないと予想される箇所である、アタリ箇所の存在が、トンネルの曲線部分の特に内周側の領域において判明することがある。
【0009】
トンネルの施工現場でトンネル覆工型枠を設置した後に、トンネル覆工型枠と吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)との間の間隙部分にアタリ箇所の存在が判明すると、この部分の吹付け硬化材による保護層を斫り取ることが必要になって、斫り取る作業に多くの手間を要することになる。このようなことから、トンネルの曲線部分にトンネル覆工型枠を設置するのに先立って、設置されたトンネル覆工型枠と、吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)との間の間隙部分に、覆工コンクリートを所定の厚さで形成するのに十分な空間が確保されることを、予め精度良く予測して管理できるようにする技術の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、トンネルの曲線部分にトンネル覆工型枠を設置するのに先立って、設置されるトンネル覆工型枠と、吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)との間隙部分に、覆工コンクリートを所定の厚さで形成するのに十分な空間が確保されることを、予め精度良く予測して管理することのできる覆工コンクリートの施工管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、形状計測機器によって得られたトンネル掘削面の形状データから、トンネル覆工型枠を用いて形成される、トンネルの曲線部分の覆工コンクリートの厚さを予め算出して管理するための覆工コンクリートの施工管理方法であって、トンネルの曲線部分の設計中心線に沿わせて、矩形状の平面形状を有するトンネル覆工型枠の直線状型枠モデルを、当該直線状型枠モデルのトンネル掘進方向の先端部及び後端部の中心がトンネルの曲線部分の前記設計中心線に配置されるように割り付けして、前記トンネル掘削面の形状データと重ね合わせ、重ね合わせた前記直線状型枠モデルの外周面と、前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを算出する覆工コンクリートの施工管理方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
そして、本発明の覆工コンクリートの施工管理方法は、重ね合わせた前記直線状型枠モデルの外周面と、前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分の形状を、前記トンネル掘削面の形状データまたは前記直線状型枠モデルのいずれか一方を表した図面上にヒートマップ出力により表示させることによって、これらの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを確認できるようにすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の覆工コンクリートの施工管理方法は、前記形状計測機器が、3Dレーザ・スキャナーを用いたMMS(Mobile Mapping System)であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の覆工コンクリートの施工管理方法は、前記直線状型枠モデルのトンネル掘進方向の後端部に、曲線部分の内周側におけるトンネル掘進方向の幅が狭く、外周側におけるトンネル掘進方向の幅が広くなった台形状の平面形状を備えるカーブライナーモデルを、接続部における互いの外周が一致すように接続することによって、曲線部直線状型枠モデルを形成し、該曲線部直線状型枠モデルを、当該曲線部直線状型枠モデルのトンネル掘進方向の先端部及び後端部の中心がトンネルの曲線部分の前記設計中心線に配置されるように割り付けして、前記トンネル掘削面の形状データと重ね合わせ、重ね合わせた前記曲線部直線状型枠モデルの外周面と、前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを算出することが好ましい。
【0015】
さらにまた、本発明の覆工コンクリートの施工管理方法は、重ね合わせた前記曲線部直線状型枠モデルの外周面と、前記トンネル掘削面の形状データとの間隙部分に打設されるコンクリートの打設数量を算出できるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の覆工コンクリートの施工管理方法によれば、トンネルの曲線部分にトンネル覆工型枠を設置するのに先立って、設置されるトンネル覆工型枠と、吹付け硬化材による保護層の表面(吹付面)との間隙部分に、覆工コンクリートを所定の厚さで形成するのに十分な空間が確保されることを、予め精度良く予測して管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】吹付面トンネル線形モデルと覆工面トンネル線形モデルとを重ね合わせた状態の説明図である。
【
図2】吹付面トンネル線形モデルの内側に、直線状型枠モデルを割り付けて重ね合わせた状態の説明図である。
【
図3】吹付面トンネル線形モデルの内側に、曲線部直線状型枠モデルを重ね合わせた状態を拡大して示す説明図である。
【
図4】トンネルの直線部分において、トンネル覆工型枠を、ラップアングルを介して既設の覆工コンクリートに連設させる状態の説明図である。
【
図5】トンネルの直線部分において、トンネル覆工型枠を、カーブライナーを介して既設の覆工コンクリートに連設させる状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい一実施形態に係る覆工コンクリートの施工管理方法は、例えば山岳トンネル工法において、地山を掘削して形成された曲線部分のトンネルの掘削内壁面に吹付け硬化材として例えば吹付けコンクリートを吹き付けて形成された保護層の内側に、トンネル覆工型枠(セントル)を設置して、施工現場において覆工コンクリートを形成するのに先立って、例えばコンピュータによるサーバー(図示せず)に組み込まれた、公知の山岳トンネル向けの3D出来形管理ソフトウェアを用いて、設置されるトンネル覆工型枠と、トンネル掘削面(吹付け硬化材による保護層の表面である吹付面)との間隙部分に、所定の厚さで覆工コンクリートを形成するのに十分な空間が確保されるか否かを、予め確認して管理するための管理方法として採用されたものである。これによって、本実施形態によれば、施工現場においてトンネル覆工型枠を設置する前に、設置したトンネル覆工型枠の外周面とトンネル掘削面である吹付面との間に、十分な空間を確保できないアタリ箇所が生じるか否かを予め予測できるようにして、予測されたアタリ箇所の吹付けコンクリートを事前に斫り取っておくことで、覆工コンクリートの施工をスムーズに行えるようにすることが可能になる。
【0019】
山岳トンネル向けの3D出来形管理ソフトウェアを用いた従来の施工管理方法では、例えば3Dレーザ・スキャナーを用いて計測された吹付けコンクリート施工後のトンネル掘削面(吹付面)の点群データに基づいて作成された吹付面トンネル線形モデル11(
図1参照)と、3次元CADを用いて設計された、トンネルの覆工コンクリート打設後の覆工面トンネル線形モデル12とを重ね合わせて、これらを重ね合わせたモデルから、覆工コンクリートが所定の設計厚さで形成されるか否かを確認するようになっているが、このような従来の施工管理方法では、トンネル覆工型枠(セントル)の実際の形状については考慮されておらず、トンネル掘進方向の覆工面がトンネルの設計中心線に沿わせた曲面状の覆工面となっている。このため、トンネルの全ての断面の任意の位置において、覆工コンクリートの設計厚さを確保できると判定された場合でも、実際の施工現場においては、トンネル覆工型枠(セントル)は、矩形状の平面形状の両側の側部がトンネル掘進方向Xに直線状となっている平面形状を有していることから(
図2参照)、特にトンネルの曲線部分の内周側で、トンネル覆工型枠の外周部が吹付面側に食い込むことによって、吹付面との空隙部分に十分な厚さを確保できないアタリ箇所が生じ易くなる。
【0020】
本実施形態の覆工コンクリートの施工管理方法は、実際の施工現場においてトンネル覆工型枠が実際に設置された状態を想定することで、設置されるトンネル覆工型枠の外周面と、吹付けコンクリート施工後のトンネル掘削面(吹付面)との間隙部分に、所定の厚さで覆工コンクリートを形成するのに必要な十分な空間が確保されることを、予め精度良く確認できるようにして、覆工コンクリートの施工をスムーズに行なえるようにする機能を備えている。
【0021】
そして、本実施形態の覆工コンクリートの施工管理方法は、形状計測機器として好ましくは3Dレーザ・スキャナーを用いたMMS(Mobile Mapping System)によって得られたトンネル掘削面の形状データから、トンネル覆工型枠を用いて形成される、トンネルの曲線部分の覆工コンクリートの厚さを算出して管理するための施工管理方法であって、好ましくは山岳トンネル向けの3D出来形管理ソフトウェアが組み込まれたサーバーにおいて、トンネル掘削面(吹付面)の形状データから吹付面トンネル線形モデル11を作成し、例えばディスプレイ(図示せず)に表示された吹付面トンネル線形モデル11及び覆工面トンネル線形モデル12の画像を見ながら(
図1参照)、
図2に示すように、トンネルの曲線部分の設計中心線Cに沿わせて、CADを用いて予め作成された矩形状の平面形状を有するトンネル覆工型枠の直線状型枠モデル10を、当該直線状型枠モデル10のトンネル掘進方向Xの先端部及び後端部の中心がトンネルの曲線部分の設計中心線Cに配置されるように割り付けしたデータを読み込んで、吹付面トンネル線形モデル11と重ね合わせる。重ね合わせた直線状型枠モデル10の外周面と、吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dの形状を推定し、これらの間隙部分dに打設されるコンクリートの打設後の厚さを予め算出して、トンネルの曲線部分の覆工コンクリートの厚さを確認するようになっている。ここで、重ね合わせた直線状型枠モデル10の外周面と、吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dは、例えば3D出来形管理ソフトウェアにより、吹付面トンネル線型モデル11の表面(内面)を一定領域で分割し(グリッドによる分割)、各領域(グリッド)に対して、直線状型枠モデル10の外周面までの最も近接する距離を算出することによって、算出した距離を、吹付面トンネル線形モデル11の内面の各領域における直線状型枠モデル10までの当該間隙部分dの間隔(距離)とすることができる。一定領域は、例えば各々の直線状型枠モデル10の外周面として設定してもよく、各領域(グリッド)に対して、吹付面トンネル線形モデル11の表面(内面)までの最も近接する距離を算出することによって、算出した距離を、直線状型枠モデル10の外周面の各領域における吹付面トンネル線形モデル11までの当該間隙部分dの間隔(距離)とすることができる。
【0022】
また、本実施形態では、好ましくは
図3及び
図5に示すように、直線状型枠モデル1
0のトンネル掘進方向Xの後端部に、曲線部分の内周側におけるトンネル掘進方向Xの幅b1が狭く、外周側のトンネル掘進方向Xの幅b2が広くなった台形状の平面形状を備えるカーブライナーモデル13を、接続部における互いの外周が一致すように接続することによって、曲線部直線状型枠モデル10’を形成し、この曲線部直線状型枠モデル10’を、当該曲線部直線状型枠モデル10’のトンネル掘進方向Xの先端部及び後端部の中心がトンネルの曲線部分の設計中心線Cに配置されるように割り付けして、吹付面トンネル線形モデル11と重ね合わせ、重ね合わせた曲線部直線状型枠モデル10’の外周面と、吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dの形状を推定し、これらの間隙部分dに打設されるコンクリートの打設後の厚さを予め算出できるようになっている。
【0023】
本実施形態の覆工コンクリートの施工管理方法は、公知の山岳トンネル向けの3D出来形管理ソフトウェアや、3次元CAD等のプログラムが組み込まれた、コンピュータによるサーバー(図示せず)において実施することができる。サーバーは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)、HDD(Hard Disk Drive)、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を備えている。CPUは、ROMに組み込まれた各種のプログラムに従って、RAMをワークエリアとして使用しながら、画像解析プログラムによる画像処理や、その他のプログラムによる処理を制御する。また、CPUは、各種のコンピュータプログラムがROMに組み込まれていることにより、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を機能させると共に、処理された画像データや、CPUによる解析結果等を、例えばデータベース部に記憶させたり、所定の情報として、例えばディスプレイ(図示せず)に表示させたり、プリンタ(図示せず)から出力させたりできるようになっている。
【0024】
本実施形態では、トンネル掘削面の形状データとして、例えば掘削壁面に吹付けコンクリートを吹き付けて形成された吹付面の形状データが、好ましくはMMS(Mobile Mapping System)を構成する3Dレーザ・スキャナーによって得ることができる。MMS(Mobile Mapping System)は、車両等の移動体にGNSS測量機、IMU、3Dレーザ・スキャナー、カメラ等の機器を搭載し、走行しながら3次元空間データを高精度で効率的に取得できるシステムとして公知のものであり、3次元都市空間モデルの作成や道路の維持管理業務など、様々分野で利用されている。MMSを、吹付コンクリートの施工後のトンネルの坑内を走行させることにより、トンネル掘削面の形状データとして、吹付面の形状を表す3次元点群データを取得して、容易に吹付面トンネル線形モデル11を作成することが可能になる。MMSによって得られた吹付面の3次元点群データは、サーバーに送られて記憶される。また、サーバーに組み込まれた3D出来形管理ソフトウェアによって、MMSにより得られた吹付面の3次元点群データと、3次元CADを用いて設計されたトンネルの計画設計モデル(覆工面トンネル線形モデル12)とを同一の座標系に統合した上で、吹付面トンネル線形モデル11が作成されることになる。トンネル掘削面の形状データとして、掘削壁面に吹付けコンクリートを吹き付けて形成された吹付面の三次元点群データは、例えば三脚を介してトンネルの内部に設置された3Dレーザ・スキャナーによって、得ることもできる。
【0025】
ここで、本実施形態では、好ましくはMMSによる計測に先立って、トンネルの坑口から坑内にかけて、一定間隔をおいて基準点を設置しておき、例えばトータルステーションによって、坑口からのGNSSを使って計測した座標値を、順次坑内の基準点に展開することで各基準点に座標を付与し、MMSによる計測の後に、坑内において計測した3次元点群の座標値と、予め付与しておいた基準点の座標値とを対応付けることにより、MMSにより計測した吹付面の三次元点群データの精度の向上を図ることが可能になる。
【0026】
また、本実施形態では、サーバーには3次元CADプログラムが組み込まれており、組み込まれた3次元CADプログラムによって、トンネルの曲線部分の設計中心線Cに沿って、所定の計画設計断面を備える、トンネルの覆工コンクリート打設後の仕上面となる計画覆工面を設計することができると共に、設計された計画覆工面から、3D出来形管理ソフトウェアによって、覆工面トンネル線形モデル12を作成できるようになっている。作成された覆工面トンネル線形モデル12は、3D出来形管理ソフトウェアにより、トンネルの曲線部分の設計中心線Cに沿って、吹付面トンネル線形モデル11と重ね合わせて配置されて、例えばディスプレイに表示させることができるようになっている。
【0027】
さらに、本実施形態では、サーバーに組み込まれた3次元CADプログラムによって、トンネルの吹付面の内側に設置されるトンネル覆工型枠は、カマボコ状の中空断面形状を備えると共に、例えば10.5m程度の延長を有する、両側の側部がトンネルの掘進方向Xに直線状となっている縦長矩形の平面形状を備える型枠装置として、設計することができる。設計されたトンネル覆工型枠による直線状型枠モデル10は、当該直線状型枠モデル10のトンネル掘進方向Xの先端部及び後端部の中心をトンネルの曲線部分の設計中心線Cに配置して、当該曲線部分の設計中心線Cに沿って割り付けされることになる。また、割り付けられた直線状型枠モデル10は、3D出来形管理ソフトウェアによって、設計中心線Cに沿って、吹付面トンネル線形モデル11や覆工面トンネル線形モデル12と重ね合わせて配置されて、例えばディスプレイに表示させることができるようになっている。
【0028】
ここで、実際の施工現場においてトンネル覆工型枠20は、
図4に示すように、例えばトンネルの直線部分では、先行して形成された覆工コンクリートによる既設の覆工コンクリート21に対して、好ましくはトンネル覆工型枠20のトンネル掘進方向Xの後端部に取り付けられたラップアングル22を、既設の覆工コンクリート21の先端部の内側縁部に挿入係止することで、覆工コンクリート21に連続して設置されるようになっている。
【0029】
一方、トンネルの曲線部分においては、その形状は、用途によって異なっており、例えば水路等における、ある程度急な曲率の曲線部分の場合には、一定の曲率半径で湾曲する単曲線区間が、直線部分に連続して接続することになるが、例えば道路や鉄道等の曲線部分では、単曲線区間の前後で緩やかに曲率が増加したり減少したりして行く、緩和曲線区間が設けられることになる。例えば曲線部分が単曲線区間と緩和曲線区間とを含んでいる場合には、トンネル覆工型枠20は、トンネルの坑口側の緩和曲線区間における最初に設置される部分のトンネル覆工型枠20を始点部として、当該トンネル覆工型枠20の長さ毎に、緩和曲線区間から単曲線区間に亘って、曲線部分に沿って連続して割り付けられる。例えば坑内防災設備や非常駐車帯の設置位置のように、トンネルの断面が変化する部分や、連絡坑や作業坑と交差する部分がある場合には、その前後でトンネル覆工型枠20の設置位置を調整して、その部分に覆工コンクリートの打継部が生じないようにすることができる。
【0030】
また、トンネルの掘進方向Xが直線部分から曲線部分に移行する際には、基本的には、緩和曲線区間内の適当な位置まで、直線状にトンネル覆工型枠20を設置し、その先から設置方向を徐々に曲げてゆくことができる。上述のラップアングル22には、トンネルの軸方向(トンネル掘進方法)Xに50mm程度のラップ長による調整範囲があり、ラップアングル22における、既設の覆工コンクリート21の先端部とのラップ範囲においては、トンネル覆工型枠20における曲線部分の外周側を前方にずらすことによって、ある程度、緩和曲線の曲率に沿った角度をつけることが可能になる。緩和曲線区間のある範囲まで、この方法によって曲線部分の中心線Cに沿わせるように角度をつけながら、トンネル覆工型枠20を連設してゆき、ラップアングル22だけでは対応できない急な曲率になったら、
図5に示すように、より大きな角度で曲げることが可能なように、カーブライナー23を使用することができる。より具体的には、設計された曲線部分の平面線形上で、ラップアングル22による調整のみによってでは、覆工コンクリート21の打継部の段差(目違い)が定められた許容値を超える可能性がある領域おいては、カーブライナー23を使用する。カーブライナー23による角度の変化が大きすぎる場合は、ラップアングル22と既設の覆工コンクリート21とのラップ範囲において、トンネル覆工型枠20における曲線部分の内周側を前方にずらすことによって、角度を調節することが可能になる。トンネルの掘進方向Xが曲線部分から直線部分に移行する際には、上述の手順とは逆の手順によって、トンネル覆工型枠20を既設の覆工コンクート21の先端部に連設してゆくことが可能になる。
【0031】
また、本実施形態では、3D出来形管理ソフトウェアや3次元CADプログラムが組み込まれたサーバーにおいて、上述のトンネル覆工型枠20やこれの後端部にカーブライナー23が接続された覆工型枠に対応させて形成した、直線状型枠モデル10や、これの後端部にカーブライナーモデル13が接続された曲線部直線状型枠モデル10’を、トンネルの曲線部分の設計中心線Cに沿わせて設けられた吹付面トンネル線形モデル11に、重ね合わせて配置するようにしながら割り付けてゆくことができる。
【0032】
すなわち、本実施形態では、トンネルの直線区間においては、例えばトンネルの設計中心線Cと直線状型枠モデル10の中心線とを合致させた状態で、トンネルの設計中心線Cを直線状型枠モデル10の長さに合せて区切ることによって、直線状型枠モデル10の割り付けを行うことができる。より具体的には、トンネルの設計中心線Cに、直線状型枠モデル10の長さごとに接点を設定し、この接点に直線状型枠モデル10の中心線の先端及び後端を一致させる。
【0033】
トンネルの曲線部分においても、直線区間と同様に、トンネルの設計中心線Cと、直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’の中心線の先端及び後端とを合致させた状態で、割り付けを行うことができる。この部分の直線距離(接点間の長さ)は、ラップアングル22によって角度を調整可能な範囲では、ラップアングル22による伸長分は無視して、直線状型枠モデル10の長さ(本実施形態では例えば10.5m)とすることができる。またカーブライナーモデル13は、例えば曲線部分の外周側における、トンネル掘進方向Xの幅b1(
図3参照)が例えば0.404m、内周側における、トンネル掘進方向Xの幅b2(
図3参照)が例えば0.08mとなった、台形状の平面形状を備えるものが使用されることから、カーブライナーモデル13によって角度が調整される範囲では、曲線部直線状型枠モデル10’の長さは、トンネル掘進方向Xの外周側の幅b1と内周側の幅b2の平均が0.242mであることから、10.5m+0.242m=10.742mとすることができる。また本実施形態では、直線状型枠モデル10の幅が9.05であることから、このような曲線部直線状型枠モデル10’を用いることで、例えば(0.404-0.08)/9.05=0.0358、すなわち2.05°の角度を調整することが可能になる。
【0034】
これらによって、本実施形態では、例えば緩和曲線区間と単曲線区間とを含むトンネルの曲線部分における、直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’の割り付けは、トンネルの設計中心線C上で直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’の節点を設定するステップと、トンネルの曲線部分において、緩和曲線区間と単曲線区間との始点及び終点を特定するステップと、データベースから直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’を取り出して、緩和曲線区間の最初の領域に直線状型枠モデル10を、トンネルの設計中心線Cの上に、ラップアングル22で調整可能な所定の角度を付けた状態で配置するステップと、配置される当該直線状型枠モデル10と先に配置された直線状型枠モデル10との間の角度が、ラップアングル22で調整可能な所定の角度を超える場合に、以降のセントルとして、曲線部直線状型枠モデル10’を、トンネルの設計中心線Cの上に配置するステップとを含む方法によって、行うことができる。
【0035】
そして、本実施形態では、上述のようにして、3D出来形管理ソフトウェアや3次元CADプログラムが組み込まれたサーバーにおいて形成された、トンネル覆工型枠の直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’を、当該直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’のトンネル掘進方向Xの先端部及び後端部の中心が、トンネルの曲線部分の設計中心線Cに配置されるように割り付けして、これらのモデルを例えばMMSによって得られたトンネル掘削面の形状データによる吹付面トンネル線形モデル11と重ね合わせ、重ね合わせた直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’の外周面と、吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dの形状を推定し、これらの間隙部分に打設されるコンクリートの打設後の厚さを、予め算出することができるようになっている。
【0036】
これによって、本実施形態によれば、実際の施工現場において用いられる矩形状の平面形状を有するトンネル覆工型枠の形状を反映させた、直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’を用いることで、重ね合わせた吹付けコンクリート施工後の吹付面トンネル線形モデル11と覆工コンクリート打設後の覆工面トンネル線形モデル12とから、覆工コンクリートが所定の設計厚さで形成されるか否かを予測する、従来の施工管理方法と比較して、特にトンネルの曲線部分の内周側において、トンネル覆工型枠の外周部が吹付けコンクリート側に食い込むことを考慮しつつ、所定の厚さで覆工コンクリートを形成するのに十分な空間を確保できることを、より精度良く確認又は予測することが可能になるので、トンネルの曲線部分の覆工コンクリートの出来形を、高品質となるようにさらに適切に管理することが可能になる。
【0037】
またこれによって、本実施形態の覆工コンクリートの施工管理方法によれば、トンネルの曲線部分にトンネル覆工型枠を設置するのに先立って、設置されるトンネル覆工型枠と、吹付けコンクリート施工後のトンネルの内壁面との間隙部分に所定の厚さが確保されるのを、予め精度良く予測して確認できるので、十分な空間を確保できないアタリ箇所を事前に抽出して、トンネル覆工型枠を設置する前に、手間がかかる吹付けコンクリートを斫り取る作業を終えておくことで、覆工コンクリートの施工をスムーズに行えるようにすることが可能になる。
【0038】
さらに、本実施形態によれば、サーバーに組み込まれた3D出来形管理ソフトウェアにより、重ね合わせた直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’の外周面と、MMSによって得られた、トンネル掘削面の形状データである吹付けコンクリート施工後の吹付面の3次元点群データによる、吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dの形状を、例えば表面のグリッド等の一定領域毎の間隔(距離)として算出して、その結果を、トンネル掘削面の形状、あるいは、トンネル覆工型枠の直線状型枠モデル10ないしは曲線部直線状型枠モデル10’のいずれかを表した図面上に、ヒートマップ出力により好ましくは3次元形状ないしは2次元の展開図のいずれかによって表示させることができる。これによって、ヒートマップ出力によって表示された画像を見ながら、設置されるトンネル覆工型枠と、吹付けコンクリート打設後のトンネルの内壁面との間隙部分dに所定の間隔(距離)が確保されていることを確認することで、予め、これらの間隙部分dに打設されるコンクリートの打設後の厚さを、より容易に且つ明確に確認することが可能になる。
【0039】
さらにまた、本実施形態によれば、サーバーに組み込まれた3D出来形管理ソフトウェアは、重ね合わせた直線状型枠モデル10や曲線部直線状型枠モデル10’の外周面と、MMSによって得られた、トンネル掘削面の形状データである吹付けコンクリート施工後の吹付面の3次元点群データによる吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dの容積を、容易に算出することがきるので、好ましくはカーブライナー23が取り付けられたトンネル覆工型枠20を含む覆工型枠による、曲線部分dのコンクリートの打設量を、予め精度良く容易に算定して把握しておくことが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、重ね合わせた曲線部直線状型枠モデル10’の外周面と、トンネル掘削面の形状データによる吹付面トンネル線形モデル11との間隙部分dの形状を推定し、これらの間隙部分dに打設されるコンクリートの打設数量を予め精度良く算出できるようになっている。
【0040】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、トンネル掘削面の形状データとして、好ましくはトンネルの掘削壁面に吹付けコンクリートを吹き付けて形成された吹付面の3次元点群データは、3Dレーザ・スキャナーを含むMMS(Mobile Mapping System)によって得られたものである必要は必ずしも無く、上述のように、例えば三脚を介してトンネルの内部に設置された3Dレーザ・スキャナーや、その他の公知の種々の形状計測機器によって、得ることもできる。また、直線状型枠モデルや曲線部直線状型枠モデルは、上述の長さや大きさを備えるものである必要は必ずしも無く、その他の種々の長さや大きさを備えるものとして、設計することができる。また、カーブライナーは、大きさや形状、角度等が異なる複数種類のものから適宜選択して、曲線部直線状型枠モデルを形成することができる。上記の実施形態では、トンネル掘削面は、吹付け硬化材による保護層の内側表面(吹付面)としたが、保護層が必要でない場合は、掘削によって現れる地山の内側表面としてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 直線状型枠モデル
10’ 曲線部直線状型枠モデル
11 吹付面トンネル線形モデル
12 覆工面トンネル線形モデル
13 カーブライナーモデル
20 トンネル覆工型枠
21 覆工コンクリート
22 ラップアングル
23 カーブライナー
d 間隙部分
C トンネルの曲線部分の設計中心線
X トンネル掘進方向(軸方向)