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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】網膜色素変性症治療用ペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/55 20060101AFI20230627BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230627BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230627BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230627BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
A61K38/55 ZNA
A61K48/00
A61K35/12
A61P27/02
A61P43/00 111
G01N33/15 Z
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020525812
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024620
(87)【国際公開番号】W WO2019245012
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018117875
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(72)【発明者】
【氏名】井上 達也
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-515012(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024914(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/121766(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/117244(WO,A1)
【文献】特表2015-501149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 48/00
A61K 31/00-33/44
A61P 27/00
A61P 43/00
G01N 33/00-33/46
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列を含み、且つ、ヒトHTRA1の有するプロテアーゼ活性を阻害する、SPINK2変異体ペプチドを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項2】
該ペプチドに含まれる、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列中、1番目のXaa(X)はAsp、Glu、Ser、Gly,又はIle、2番目のXaa(X)はAla、Gly、Leu、Ser又はThr、3番目のXaa(X)はAsp、His、Lys、Met又はGln、4番目のXaa(X)はAsp、Phe、His、Ser又はTyr、5番目のXaa(X)はAla、Asp、Glu、Met又はAsn、6番目のXaa(X)はMet又はTrp、7番目のXaa(X)はGln、Trp、Tyr又はVal、8番目のXaa(X)はPhe、Leu又はTyr、9番目のXaa(X)はPhe又はTyr、10番目のXaaX10)はAla、Glu、Met又はVal、並びに、11番目のXaa(X11)はAla、Thr又はValである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
該ペプチドが、配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21及び23乃至29(図15図17図19図21図23図25図27図29図31図33及び、図35乃至41)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を含む、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
該ペプチドが、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列のアミノ末端側に1乃至3個のアミノ酸がペプチド結合してなるアミノ酸配列を含む、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
該ペプチドが、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側に1又は2個のアミノ酸がペプチド結合してなるアミノ酸配列を含む、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項6】
該ペプチドが、3つのジスルフィド結合を有し、ループ構造、αへリックス及びβシートを含むことで特徴付けられる立体構造を有する、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド若しくは該ヌクレオチド配列を含むベクターを含む細胞又は請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペプチドを産生する細胞を含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペプチドに他の部分が連結してなるコンジュゲートを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項11】
該コンジュゲートが、ポリペプチドである、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
網膜色素変性症の治療又は予防のための、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項13】
視細胞変性を伴う遺伝性疾患の治療又は予防のための、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項14】
視細胞変性を伴う遺伝性疾患が黄斑ジストロフィーである、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項16】
PDE6蛋白質機能異常関連疾患が色覚異常又は常染色体優性先天性停在性夜盲である、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
1つ又は2つ以上の他の医薬を含む、請求項1乃至16のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項18】
1つ又は2つ以上の他の医薬と組み合わせて使用される、請求項1乃至17のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項19】
下記の工程1乃至工程3を含む、網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療薬又は予防薬を同定する方法:
[工程1]HTRA1プロテアーゼ及び基質を、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列を含むSPINK2変異体ペプチドである被検物質の存在下又は非存在下で保温する;
[工程2]被検物質の存在下及び非存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性を検出する;
[工程3]被検物質の存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性が、被検物質の非存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性と比較して小さい場合、該被検物質を陽性と判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド、そのコンジュゲート等を含む各種疾患の治療又は予防のための医薬組成物、各種疾患の治療又は予防のためのペプチド等の同定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
High temperature requirement A serine peptidase 1(HTRA1)はトリプシン様セリンプロテアーゼ(PRSS11;Clan PA, family S1)であり、IGFBP様モジュールおよびKazal様モジュールから成るN末ドメイン、プロテアーゼドメインおよびC末のPDZドメインから構成される。HTRA1はHTRA2、HTRA3、HTRA4を含むHTRAファミリーに属しており、他のHTRA分子と同様、可逆的に活性型と非活性型構造を示す(非特許文献1,2)。その発現はヒトの体内において偏在的であり、軟骨や滑膜、胎盤等において相対的に高い発現が認められている。HTRA1はAmyloid precursor protein、Fibromodulin、Clusterin、ADAM9、Vitronectinなど多くの細胞外マトリックス構成成分を基質として切断し、関節炎や骨石灰化に代表される疾患と関連することが知られている(非特許文献3,4,5,6)。さらに、HTRA1プロモーター領域に遺伝子多型(rs11200638)がある場合、HTRA1転写量が上昇することが知られており、また、その多型と加齢黄班変性症(Age-related Macular Degeneration:以下AMD」という)が強く相関することがゲノムワイド関連解析から明らかになっている(非特許文献7,8)。しかしながら、網膜色素変性症との関連性についてはあまり報告されていない。
【0003】
網膜色素変性症は、視細胞のうちの桿体の変性、脱落から始まる進行性の網膜変性疾患であり、視細胞の退行変性によって、進行性夜盲、視野狭窄、羞明が認められ、視力の低下を引き起こし、中途失明に至ることのある網膜変性疾患である。網膜色素変性症は遺伝性疾患として知られており、網膜色素変性症を引き起こす遺伝子変異は現在までに3000個以上同定されている(非特許文献9)。この中で割合の高いロドプシンの遺伝子変異だけでもヒトについて120ヶ所以上で確認されており、その分類によって、桿体脱落に至る11のメカニズムが提唱されている(非特許文献10)。この様な状況から創薬の標的分子を絞り込むことは非常に困難で、網膜色素変性症の治療薬開発が困難である要因と考えられており、遺伝子を直接のターゲットとはしない治療法の開発が望まれている(非特許文献11)。
【0004】
現在、網膜色素変性症の治療薬として確立されたものはないが、数多くの動物実験、ヒトの臨床試験から、網膜色素変性症の治療の可能性として以下のような考え方が確立されている(非特許文献9)。すなわち;
a) 桿体の小さな生存率の改善であっても錐体保護に繋がる
b) 機能不全の桿体であっても錐体の生存をサポートできる
c) 黄斑部のわずかな錐体だけでも残すことができれば、例えば自力歩行が十分出来る程度の、最低限の視力を保つことができる
等である。
【0005】
この様な考え方に基づき、桿体もしくは錐体の保護を目的として、CNTFなどの栄養因子、バルプロ酸、ビタミンA、ドコサヘキサエン酸(DHA)等について臨床試験が実施されているが、今のところ明確な薬効は報告されておらず、FDAから承認を受けた化合物はない。
【0006】
一方、現在、非臨床段階、臨床段階で活発に検討されているのは、幹細胞もしくは桿体へ分化誘導した細胞の移植による再生医療である。しかしながら、免疫拒絶、移植細胞の低い生存率、定着率、バイオセイフティー等、解決が必要な問題が多い(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】トルーベスタイン エル他(Truebestein L,et al.)(2011年刊) ナショナル・ストラクチュラル・モレキュラー・バイオロジー(Nat Struct Mol Biol.)18巻(3号):386-8頁
【文献】アイゲンブロート シー他(Eigenbrot C,et al.)(2012年刊)ストラクチャー(Structure)20巻(6号):1040-50頁
【文献】グラウ エス他(Grau S,et al.)(2005年刊)プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オズ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proc Natl Acad Sci U S A.)102巻(17号):6021-26頁
【文献】グラウ エス他(Grau S,et al.)(2006年刊)ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J Biol Chem.)281巻(10号):6124-29頁
【文献】ハッドフィールド ケイ・ディー他(Hadfield KD,et al.)(2008年刊) ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J Biol Chem.) 283巻(9号):5928-38頁
【文献】アン イー他(An E,et al.)(2010年刊)インベスティゲイティブ・オフタモロジー・アンド・ビジュアル・サイエンス(Invest Ophthalmol Vis Sci.)51巻(7号):3379-86
【文献】ヤン ゼット他(Yang Z,et al.)(2006年刊)サイエンス(Science.)314巻(5801号):992-93頁
【文献】タン エヌ・ピー他(Tang NP,et al.)(2009年刊)アナルス・オブ・エピデミオロジー(Ann Epidemiol.)19巻(10号):740-45頁
【文献】グァダーニ・ブイ他(Guadagni V,et al.)(2015年刊)プログレス・イン・レチナル・アンド・アイ・リサーチ(Prog Retin Eye Res.)48巻:62-81頁
【文献】メンデス・HF他(Memdes HF,et al.)(2005年刊)トレンズ・イン・モレキュラー・メディシン(TRENDS Mol. Medicine)11巻:177-185頁
【文献】ファーラー GJ他(Farrar GJ,,et al.)(2002年刊)エムボ・ジャーナル(EMBO J.)21巻(5号):857-864頁
【文献】ヘー・ワイ他(He Y,,et al.)(2014年刊)インターナショナル・ジャーナル・オブ・モレキュラー・サイエンシズ(Int. J. Mol. Sci.)15巻(8号):14456-14474頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
新規な網膜色素変性症の治療又は予防のための医薬組成物等を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は
(1)
配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列を含み、且つ、ヒトHTRA1の有するプロテアーゼ活性を阻害する、SPINK2変異体ペプチドを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物、
(2)
該ペプチドに含まれる、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列中、1番目のXaa(X)はAsp、Glu、Ser、Gly,又はIle、2番目のXaa(X)はAla、Gly、Leu、Ser又はThr、3番目のXaa(X)はAsp、His、Lys、Met又はGln、4番目のXaa(X)はAsp、Phe、His、Ser又はTyr、5番目のXaa(X)はAla、Asp、Glu、Met又はAsn、6番目のXaa(X)はMet又はTrp、7番目のXaa(X)はGln、Trp、Tyr又はVal、8番目のXaa(X)はPhe、Leu又はTyr、9番目のXaa(X)はPhe又はTyr、10番目のXaaX10)はAla、Glu、Met又はVal、並びに、11番目のXaa(X11)はAla、Thr又はValである、(1)載の医薬組成物、
(3)
該ペプチドが、配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21及び23乃至29(図15図17図19図21図23図25図27図29図31図33及び、図35乃至41)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を含む、(1)又は(2)記載の医薬組成物、
(4)
該ペプチドが、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列のアミノ末端側に1乃至3個のアミノ酸がペプチド結合してなるアミノ酸配列を含む、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(5)
該ペプチドが、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側に1又は2個のアミノ酸がペプチド結合してなるアミノ酸配列を含む、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(6)
該ペプチドが、3つのジスルフィド結合を有し、ループ構造、αへリックス及びβシートを含むことで特徴付けられる立体構造を有する、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(7)
(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物、
(8)
(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物、
(9)
(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド若しくは該ヌクレオチド配列を含むベクターを含む細胞又は(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のペプチドを産生する細胞を含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物、
(10)
(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のペプチドに他の部分が連結してなるコンジュゲートを含む網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための医薬組成物、
(11)
該コンジュゲートが、ポリペプチドである、(10)記載の医薬組成物、
(12)
網膜色素変性症の治療又は予防のための、(1)乃至(11)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(13)
視細胞変性を伴う遺伝性疾患の治療又は予防のための、(1)乃至(11)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(14)
視細胞変性を伴う遺伝性疾患が黄斑ジストロフィーである、(13)に記載の医薬組成物、
(15)
PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防のための、(1)乃至(11)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(16)
PDE6蛋白質機能異常関連疾患が色覚異常又は常染色体優性先天性停在性夜盲である、(15)に記載の医薬組成物、
(17)
1つ又は2つ以上の他の医薬を含む、(1)乃至(16)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(18)
1つ又は2つ以上の他の医薬と組み合わせて使用される、(1)乃至(17)のいずれか一つに記載の医薬組成物、および、
(19)
下記の工程1乃至工程3を含む、網膜色素変性症、視細胞変性を伴う遺伝性疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療薬又は予防薬を同定する方法:
[工程1]HTRA1プロテアーゼ及び基質を、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列を含むSPINK2変異体ペプチドである被検物質の存在下又は非存在下で保温する;
[工程2]被検物質の存在下及び非存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性を検出する;
[工程3]被検物質の存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性が、被検物質の非存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性と比較して小さい場合、該被検物質を陽性と判定する、
等に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の提供するペプチド、それを含む医薬組成物は、HTRA1阻害活性を有し、網膜色素変性症の治療又は予防等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1(A)】ヒト/マウス/ラット/サルHTRA1の配列類似性を比較した図。破線は酵素活性ドメイン(204Gly~364Leu)を示す。
図1(B)】ヒト/マウス/ラット/サルHTRA1の配列類似性を比較した図(続き)。
図2】ペプチド基質の分解速度を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)阻害活性を評価した図。パネルA乃至Cでは、各阻害ペプチドを、パネルDは対照の野生型SPINK2でそれぞれ評価した。
図3】ペプチド基質の分解速度を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(full)阻害活性を評価した図(パネルA乃至C)。
図4(A)】ヒトVitronectinの分解を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)阻害活性を評価した図。Human Vitronectin Antibody(R&D Systems;MAB2349)を用いたWestern blotにより解析した。
図4(B)】ヒトVitronectinの分解を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)阻害活性を評価した図(続き)。
図5(A)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その1)。使用した各プロテアーゼの名称とその濃度、基質の名称とその濃度等は実施例3参照。
図5(B)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その2)。
図5(C)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その3)。
図5(D)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その4)。
図6】X線結晶構造解析により得られたHTRA1(cat)/HTRA1阻害ペプチド複合体を示した図。HTRA1(cat)が形成するHTRA1三量体にそれぞれ阻害ペプチドが結合していた。
図7】X線結晶構造解析により得られたHTRA1(cat)/HTRA1阻害ペプチド複合体を単量体として示した図。該阻害ペプチドはHTRA1(cat)活性中心を含む領域に結合していた。
図8】H2-Optのアミノ酸配列(配列番号54)。N末端の「Mca-I」は、N-(4-methylcoumaryl-7-amide)-isoleucineを、C末端の「(Dnp)K」は、N epsilon-(2,4-dinitrophenyl)-lysineを、それぞれ意味する。
図9】ラット光照射網膜障害モデルの硝子体液中でHTRA1の発現が亢進したことを示した図。Human HTRA1/PRSS11 Antibody(R&D Systems;AF2916)を用いたWestern blotにより解析した。
図10】ラット光照射網膜障害モデルにおいて、HTRA1阻害ペプチド投与群が網膜断層の外顆粒層に含まれる核数の減少を抑制することを示した図。生理食塩水投与群の例数は4であり、その他の群の例数は5であった。
図11】ペプチド基質の分解速度を指標として、5種のHTRA1阻害ペプチド誘導体のHTRA1(cat)阻害活性を評価した図。
図12】HTRA1(cat)と3種のHTRA1阻害ペプチドが結合していることを免疫沈降法により評価した図。
図13】ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1)
図14】ヒトSPINK2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号2)
図15】ペプチドH218のアミノ酸配列(配列番号3)
図16】ペプチドH218のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号4)
図17】ペプチドH223のアミノ酸配列(配列番号5)
図18】ペプチドH223のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号6)
図19】ペプチドH228のアミノ酸配列(配列番号7)
図20】ペプチドH228のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号8)
図21】ペプチドH308のアミノ酸配列(配列番号9)
図22】ペプチドH308のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号10)
図23】ペプチドH321のアミノ酸配列(配列番号11)
図24】ペプチドH321のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号12)
図25】ペプチドH322のアミノ酸配列(配列番号13)
図26】ペプチドH322のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号14)
図27】ペプチド誘導体H308ATのアミノ酸配列(配列番号15)
図28】ペプチド誘導体H308ATのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号16)
図29】ペプチド誘導体H321ATのアミノ酸配列(配列番号17)
図30】ペプチド誘導体H321ATのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号18)
図31】ペプチド誘導体H322ATのアミノ酸配列(配列番号19)
図32】ペプチド誘導体H322ATのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号20)
図33】ペプチドM7のアミノ酸配列(配列番号21)
図34】ペプチドM7のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号22)
図35】ペプチド誘導体H308_S16Aのアミノ酸配列(配列番号23)
図36】ペプチド誘導体H308_D1G_S16Aのアミノ酸配列(配列番号24)
図37】ペプチド誘導体H308_D1S_S16Aのアミノ酸配列(配列番号25)
図38】ペプチド誘導体H308_D1E_S16Aのアミノ酸配列(配列番号26)
図39】ペプチド誘導体H308_D1SLI_S16Aのアミノ酸配列(配列番号27)
図40】ペプチド誘導体H321AT_D1S_S16Aのアミノ酸配列(配列番号28)
図41】ペプチド誘導体H322AT_D1S_S16Aのアミノ酸配列(配列番号29)
図42】HTRA1阻害ペプチドの一般式(配列番号30)。X乃至X11は任意のアミノ酸を示す。
図43】S tag及びリンカーからなるアミノ酸配列(配列番号31)
図44】C末6マーのアミノ酸配列(配列番号32)
図45】プライマー1のヌクレオチド配列(配列番号33)
図46】プライマー2のヌクレオチド配列(配列番号34)
図47】プライマー3のヌクレオチド配列(配列番号35)
図48】プライマー4のヌクレオチド配列(配列番号36)
図49】プライマー5のヌクレオチド配列(配列番号37)
図50】プライマー6のヌクレオチド配列(配列番号38)
図51】プライマー7のヌクレオチド配列(配列番号39)
図52】プライマー8のヌクレオチド配列(配列番号40)
図53】プライマー9のヌクレオチド配列(配列番号41)
図54】プライマー10のヌクレオチド配列(配列番号42)
図55】プライマー11のヌクレオチド配列(配列番号43)
図56】プライマー12のヌクレオチド配列(配列番号44)
図57】プライマー13のヌクレオチド配列(配列番号45)
図58】プライマー14のヌクレオチド配列(配列番号46)
図59】プライマー15のヌクレオチド配列(配列番号47)
図60】プライマー16のヌクレオチド配列(配列番号48)
図61】プライマー17のヌクレオチド配列(配列番号49)
図62】プライマー18のヌクレオチド配列(配列番号50)
図63】プライマー19のヌクレオチド配列(配列番号51)
図64】プライマー20のヌクレオチド配列(配列番号52)
図65】ヒトHTRA1(full)のアミノ酸配列(配列番号53)
図66(A)】ペプチド基質の分解速度を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)阻害活性を評価した図。
図66(B)】ペプチド基質の分解速度を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(full)阻害活性を評価した図。
図67】ヒトVitronectinの分解を指標として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)阻害活性を評価した図。Human Vitronectin Antibody(R&DSystems;MAB2349)を用いたWesternblotにより解析した。
図68(A)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その1)。
図68(B)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その2)。
図68(C)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その3)。
図68(D)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その4)。
図68(E)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対するHTRA1阻害ペプチドの交差性を評価した図(その5)。
図69】HTRA1(cat)と3種のHTRA1阻害ペプチドが結合していることを免疫沈降法により評価した図。
図70(A)】ラット光照射網膜障害モデルにおいて、HTRA1阻害ペプチドH308_D1G_S16A投与群が網膜断層の外顆粒層に含まれる核数の減少を抑制することを示した図。いずれの群の例数も6、HTRA1阻害ペプチドH308_D1G_S16A投与量は0.2および1μg/eyeであった。
図70(B)】ラット光照射網膜障害モデルにおいて、HTRA1阻害ペプチドH321AT_D1G_S16A投与群が網膜断層の外顆粒層に含まれる核数の減少を抑制することを示した図。いずれの群の例数も6、HTRA1阻害ペプチドH321AT_D1G_S16A投与量は0.2および1μg/eyeであった。
図70(C)】ラット光照射網膜障害モデルにおいて、HTRA1阻害ペプチドH322AT_D1G_S16A投与群が網膜断層の外顆粒層に含まれる核数の減少を抑制することを示した図。いずれの群の例数も6、HTRA1阻害ペプチドH322AT_D1G_S16A投与量は0.2および1μg/eyeであった。
図71(A)】12週齢ウサギ、3歳齢ウサギ、および、HFD-HQ負荷3歳齢ウサギにおけるRPE細胞を、ZO-1抗体(Themo Fisher SCIENTIFIC)を用いて免疫染色した図。
図71(B)】12週齢ウサギ、3歳齢ウサギ、および、HFD-HQ負荷3歳齢ウサギにおけるRPE細胞の平均面積。
図71(C)】HFD-HQ負荷3歳齢ウサギの網膜組織において、AMD関連因子である補体第三成分C3のmRNAが発現亢進していることを示した図。
図71(D)】HFD-HQ負荷3歳齢ウサギのRPE/脈絡膜組織において、AMD関連因子である補体第三成分C3のmRNAが発現亢進していることを示した図。
図71(E)】LC-MS/MSにより、12週齢ウサギ、3歳齢ウサギ、および、HFD-HQ負荷3歳齢ウサギにおける硝子体液中のHTRA1濃度を測定した図。
図72(A)】HFD-HQ負荷3歳齢ウサギにおいて、HTRA1阻害ペプチドH308投与群がRPE細胞の肥大に対して抑制効果を示した図。いずれの群も例数は5で、平均面積を指標とした。
図72(B)】HFD-HQ負荷3歳齢ウサギにおいて、HTRA1阻害ペプチドH308投与群がRPE細胞の肥大に対して抑制効果を示した図。いずれの群も例数は5で、細胞面積が1500μm以上のRPE細胞数を指標とした。
図73】ヒト/サル/ウサギ/マウス/ラットHTRA1の配列類似性を比較した図。破線は酵素活性ドメイン(204Gly~364Leu)を示す。
図74】HおよびNormal Human Serum Complement、HTRA1添加により、ヒト網膜色素上皮細胞株ARPE-19において誘導されたVEGF mRNAに対して、HTRA1阻害ペプチドが抑制効果を示した図。
図75】血清によって誘導されたヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の遊走に対して、HTRA1阻害ペプチドが抑制効果を示した図。
図76】プライマー21のヌクレオチド配列(図66
図77】プライマー22のヌクレオチド配列(図67
図78】Rd10マウス(B6.CXB1-Pde6brd10/J)に対してHTRA1阻害ペプチドを投与したところ、160 μg/eye投与群のcentral部において、対照のPBS群に較べてONL/INL比が有意に増加していたこと、ならびに、peripheral部においても対照群に較べてONL/INL比が増加する傾向があったことを示す図。*は、Studentのpaired-t検定におけるp<0.05を示す。実施例15参照。なお、本発明において「配列番号X(図Y)」又は「図Y(配列番号X)」と記載される場合、当該配列は配列番号Xにより示されるか又は図Yにより示されることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.定義
本発明において、「遺伝子」とは、蛋白質に含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子又はその相補鎖を意味し、一本鎖、二本鎖又は三本鎖以上からなり、DNA鎖とRNA鎖の会合体、一本の鎖上にリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドが混在するもの及びそのよう鎖を含む二本鎖又は三本鎖以上の核酸分子も「遺伝子」の意味に含まれる。
【0013】
本発明において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」は同義であり、それらの構成単位であるリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、ヌクレオチド、ヌクレオシド等の個数によっては何ら限定されず、例えば、DNA、RNA、mRNA、cDNA、cRNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、プライマー等もその範囲に含まれる。「核酸分子」は略して「核酸」と呼ばれる場合がある。
【0014】
本発明において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「蛋白質」は同義である。標的分子Xの有する1つ又は2つ以上の活性又は機能を阻害又は抑制する(以下、それらの阻害又は抑制作用をまとめて「X阻害活性」という。)ペプチドを、「X阻害ペプチド」と呼ぶことができる。
【0015】
「SPINK2」は、Serine Protease Inhibitor Kazal-type 2を意味し、3つのジスルフィド結合を有するKazal様ドメインから成る7kDaの蛋白質である。好適なSPINK2はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトSPINK2を単に「SPINK2」という。
【0016】
「HTRA1」は、high temperature requirement A serine peptidase 1を意味し、IGFBP様モジュール及びKazal用モジュールから成るN末ドメイン、プロテアーゼドメイン並びにC末のPDZドメインから構成される、HTRAファミリーの属する蛋白質である。好適なHTRA1はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトHTRA1を単に「HTRA1」ということがある。
【0017】
「HTRA1阻害ペプチド」は、HTRA1の有する1つ又は2つ以上の活性又は機能を阻害又は抑制するペプチドを意味する。「HTRA1阻害ペプチド」の範囲には、当該ペプチドの断片、他の部分(moiety)の付加体、又は、コンジュゲートのうち、HTRA1阻害活性を維持しているものが含まれる。すなわち、HTRA1阻害活性を維持する当該ペプチドの断片、付加体及び修飾体も「HTRA1阻害ペプチド」に含まれる。
【0018】
本発明において、「細胞」には、動物個体に由来する各種細胞、継代培養細胞、初代培養細胞、細胞株、組換え細胞、酵母、微生物等も含まれる。
【0019】
本発明において、ペプチドが結合する「部位」、すなわちペプチドが認識する「部位」とは、ペプチドが結合又は認識する標的分子上の連続的もしくは断続的な部分アミノ酸配列又は部分高次構造を意味する。本発明においては、かかる部位のことを標的分子上のエピトープ又は結合部位と呼ぶことができる。
【0020】
「SPINK2変異体」とは、野生型SPINK2の有するアミノ酸配列において、1個又は2個以上のアミノ酸が野生型とは異なるアミノ酸で置換され、1個又は2個以上の野生型のアミノ酸が欠失し、1個又は2個以上の野生型には無いアミノ酸が挿入され、及び/又は、野生型には無いアミノ酸が野生型のアミノ末端(N末)及び/又はカルボキシル末端(C末)に付加されて(以下、「変異」と総称する)なるアミノ酸配列を含むペプチドを意味する。「SPINK2変異体」のうち、HTRA1阻害活性を有するものは、HTRA1阻害ペプチドに包含される。なお、本発明においては「挿入」も「付加」の範囲に含まれ得る。
【0021】
本発明において、「1乃至数個」における「数個」とは、3乃至10個を指す。
【0022】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、5×SSCを含む溶液中で65℃にてハイブリダイゼーションを行い、ついで2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、0.5×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、ならびに、0.2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、それぞれ洗浄する条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることを意味する。SSCとは150mM NaCl-15mMクエン酸ナトリウムの水溶液であり、n×SSCはn倍濃度のSSCを意味する。
【0023】
本発明において「特異的」及び「特異性」なる語は「選択的」及び「選択性」とそれぞれ同義であり、互換性がある。例えば、HTRA1特異的な阻害ペプチドは、HTRA1選択的な阻害ペプチドと同義である。
【0024】
2.ペプチド
2-1.アミノ酸
「アミノ酸」は、アミノ基及びカルボキシル基を含む有機化合物であり、好適にはタンパク質に、より好適には天然のタンパク質に、構成単位として含まれるα-アミノ酸を意味する。本発明において、より好適なアミノ酸は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr及びValであり、特に明記しない限り「アミノ酸」はこれらの計20アミノ酸を意味する。それらの計20アミノ酸を「天然アミノ酸」と呼ぶことができる。本発明のHTRA1阻害ペプチドは、好適には天然アミノ酸を含有する。
【0025】
本発明においては「アミノ酸残基」は「アミノ酸」と略記される場合がある。
【0026】
また、本発明において、アミノ酸は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、またはその混合物(DL-アミノ酸)であるが、特に明記しない限りL-アミノ酸を意味する。
【0027】
天然アミノ酸は、その共通する側鎖の性質に基づいて、例えば、次のグループに分けることができる。
(1)疎水性アミノ酸グループ:Met、Ala、Val、Leu、Ile
(2)中性親水性アミノ酸グループ:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln
(3)酸性アミノ酸グループ:Asp、Glu
(4)塩基性アミノ酸グループ:His、Lys、Arg
(5)主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸のグループ:Gly、Pro
(6)芳香族アミノ酸グループ:Trp、Tyr、Phe
ただし、天然アミノ酸の分類はこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明においては、天然アミノ酸は保存的アミノ酸置換を受け得る。
【0029】
「保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)」とは、機能的に等価または類似のアミノ酸との置換を意味する。ペプチドにおける保存的アミノ酸置換は、該ペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。例えば、同様の極性を有する一つまたは二つ以上のアミノ酸は機能的に等価に作用し、かかるペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。一般に、あるグループ内の置換は構造および機能について保存的であると考えることができる。しかしながら、当業者には自明であるように、特定のアミノ酸残基が果たす役割は当該アミノ酸を含む分子の三次元構造における意味合いにおいて決定され得る。例えば、システイン残基は、還元型の(チオール)フォームと比較してより極性の低い、酸化型の(ジスルフィド)フォームをとることができる。アルギニン側鎖の長い脂肪族の部分は構造的および機能的に重要な特徴を構成し得る。また、芳香環を含む側鎖(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)はイオン-芳香族相互作用または陽イオン-pi相互作用に寄与し得る。かかる場合において、これらの側鎖を有するアミノ酸を、酸性または非極性グループに属するアミノ酸と置換しても、構造的および機能的には保存的であり得る。プロリン、グリシン、システイン(ジスルフィド・フォーム)等の残基は主鎖の立体構造に直接的な効果を与える可能性があり、しばしば構造的ゆがみなしに置換することはできない。
【0030】
保存的アミノ酸置換は、以下に示すとおり、側鎖の類似性に基づく特異的置換(レーニンジャ、生化学、改訂第2版、1975年刊行、73乃至75頁:L. Lehninger, Biochemistry, 2nd edition, pp73-75, Worth Publisher, New York (1975))および典型的置換を含む。
(1)非極性アミノ酸グループ:アラニン(以下、「Ala」または単に「A」と記す)、バリン(以下、「Val」または単に「V」と記す)、ロイシン(以下、「Leu」または単に「L」と記す)、イソロイシン(以下、「Ile」または単に「I」と記す)、プロリン(以下、「Pro」または単に「P」と記す)、フェニルアラニン(「Phe」または単に「F」と記す)、トリプトファン(以下、「Trp」または単に「W」と記す)、メチオニン(以下、「Met」または単に「M」と記す)
(2)非荷電極性アミノ酸グループ:グリシン(以下、「Gly」または単に「G」と記す)、セリン(以下、「Ser」または単に「S」と記す)、スレオニン(以下、「Thr」または単に「T」と記す)、システイン(以下、「Cys」または単に「C」と記す)、チロシン(以下、「Tyr」または単に「Y」と記す)、アスパラギン(以下、「Asn」または単に「N」と記す)、グルタミン(以下、「Gln」または単に「Q」と記す)
(3)酸性アミノ酸グループ:アスパラギン酸(以下、「Asp」または単に「D」と記す)、グルタミン酸(以下、「Glu」または単に「E」と記す)
(4)塩基性アミノ酸グループ:リジン(以下、「Lys」または単に「K」と記す)、アルギニン(以下、「Arg」または単に「R」と記す)、ヒスチジン(以下、「His」または単に「H」と記す)
本発明において、アミノ酸は、天然アミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。例えば、天然のペプチドや蛋白質において見出されるセレノシステイン、N-ホルミルメチオニン、ピロリジン、ピログルタミン酸、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-ホスホセリン、デスモシン、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γアミノ酪酸、オパイン、テアニン、トリコロミン酸、カイニン酸、ドウモイ酸、アクロメリン酸等を挙げることができ、ノルロイシン、Ac-アミノ酸、Boc-アミノ酸、Fmoc-アミノ酸、Trt-アミノ酸、Z-アミノ酸等のN末端保護アミノ酸、アミノ酸t-ブチルエステル、ベンジルエステル、シクロヘキシルエステル、フルオレニルエステル等のC末端保護アミノ酸、ジアミン、ωアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸、アミノ酸のTic誘導体、アミノフォスフォン酸を含むその他の天然界には見出されないアミノ酸等を挙げることができるが、それらに限らず上記20の「天然アミノ酸」以外のアミノ酸を、本発明では便宜的に「非天然アミノ酸」と総称する。
【0031】
2-2.HTRA1阻害ペプチド
本発明のHRTA1阻害ペプチドは、SPINK2の有する骨格が少なくとも部分的に維持されたSPINK2変異体(以下、「SPINK2変異体」と略記する)であり、HTRA1又はその酵素活性が保持された断片(以下、「機能断片」という)の有するプロテアーゼ活性を阻害又は抑制する(以下、かかる阻害又は抑制をまとめて「HTRA1阻害活性」という)。
【0032】
本発明の阻害ペプチドの標的であるHTRA1は、好適には哺乳類の、より好適には霊長類の、より一層好適にはヒトのHTRA1であり、全長成熟ヒトHTRA1(以下、「HTRA1(full)」という)のアミノ酸配列は配列番号53(図65)で示されるアミノ酸配列を有する。当該アミノ酸配列は、23番乃至480番からなり、1番乃至22番からなるシグナル配列を含まない。ヒトHTRA1の機能断片(以下、「HTRA1(cat)」という)のアミノ酸配列としては、該プロテアーゼ活性が保持されていれば特に限定されないが、配列番号53(図65)の158番Gly~373番Lysからなるもの、158番Gly~373番Lysを含むもの等を例示することができる。本発明の阻害ペプチドの標的であるHTRA1及びその機能断片は、HTRA1プロテアーゼとも表記され、好適には脊椎動物、より好適には哺乳類、より一層好適には霊長類、最適にはヒトに由来し、それらの組織や細胞から精製するか、又は、遺伝子組換え、イン・ビトロ翻訳、ペプチド合成等の蛋白質の調製方法として当業者に公知の方法により、調製することができる。HTRA1及びその機能断片には、シグナル配列、免疫グロブリンのFc領域、タグ、標識等が連結されてもよい。
【0033】
HTRA1阻害活性は、HTRA1の有するプロテアーゼ活性を指標として評価することができる。例えば、HTRA1又はその機能断片、基質及び本発明の阻害ペプチド又はその候補を共存させた場合に、対照の存在下又は該阻害剤又はその候補の非存在下と比較して、HTRA1のプロテアーゼ活性が70%以下、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、1%以下又は0%である場合、HTRA1阻害が生じており、その阻害活性はそれぞれ30%以上、50%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上又は100%である。HTRA1阻害活性は、反応条件、基質の種類や濃度等により異なり得る。反応条件については、実施例に記載のものを例示することができるが、それに限定されない。一定濃度のHTRA1に基質ペプチドまたは基質タンパク質を添加し、一定時間反応させた後、基質ペプチドの蛍光を検出する、または基質タンパク質をSDS-PAGEやWestern blot法、液体クロマトグラフィーなどにより検出することで、酵素活性は評価できる。緩衝液としては、例えば、ホスフェート・バッファー・セイライン(phosphate buffer saline:以下「PBS」という)、ホウ酸バッファー(50mM ホウ酸,pH7乃至9、例えばpH8.5)、トリスバッファー(50mM トリス,pH6乃至9、例えばpH8.0)などを用いることができ、NaCl(50乃至300mM、例えば150mM)やCHAPSやOctyl β-D-glucopyranosideなどの界面活性剤を添加することもできるが、それらに限定されない。
【0034】
HTRA1の有するプロテアーゼの基質は、内在性の基質、外因性の基質、合成基質等、特に限定されるものではない。ヒトの内在性の基質としては、ビトロネクチン等を例示することができる。合成基質としては、特に限定されないが、H2-Opt(Mca-IRRVSYSFK(Dnp)K)やβ-Casein、他のHTRA1基質等を例示することができる。本発明のペプチドのHTRA1阻害活性(IC50又はK)は、1μM以下、好適には100nM以下である。
【0035】
また、本発明の阻害ペプチドは、HTRA1以外のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれらに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱いことが好ましい。言い換えれば、本発明の阻害ペプチドは、好適には、HTRA1特異性が高い。好適な本発明の阻害ペプチドは、トリプシン、α-キモトリプシン、トリプターゼ、プラスミン、トロンビン、マトリプターゼ、プロテインC、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ(uPA)、プラスミン、血漿カリクレイン等のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれらに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱い。そのような本発明の好適なペプチドは、他のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制することに起因する副作用を示さず、HTRA1に関わる疾患(後述)の治療薬又は予防薬として好適に使用され得る。
前述の通り、本発明のペプチドの標的であるHTRA1は、脊椎動物、好適には哺乳動物、より好適には霊長類、より一層好適にはヒトに由来するが、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス等のげっ歯類、カニクイザル、コモンマーモセット、アカゲザル等の霊長類に由来してもよい。非ヒト動物由来のHTRA1に対して阻害活性を有するペプチドは、かかる非ヒト動物におけるHTRA1に関わる疾患の診断、検査、治療又は予防等に使用することができる。また、そのようなペプチドが、ヒトHTRA1も阻害する場合、ヒトHTRA1に関わる疾患の治療薬又は予防薬としての該ペプチドの非臨床研究開発において、かかる非ヒト動物を動物病態モデルとして使用した薬効薬理試験や薬物動態試験、健常動物として使用した安全性試験や毒性試験等を行うことができる。
【0036】
また、本発明のHTRA1阻害ペプチドは、医薬及び診断薬として当該分野で使用される抗体等の他の生体高分子と比較して分子量が小さく、その製造(後述)が比較的容易であり、組織への浸透性、保存安定性や熱安定性等の物性の面で優れており、医薬組成物(後述)として使用される場合の投与経路、投与方法、製剤等の選択の幅が広い等の長所を有する。また、生体高分子やポリマーの付加等、公知の方法を適用して本発明のペプチドの分子量を大きくすることにより、医薬組成物として使用された場合の血中半減期をより長く調節することもできる。そのような本発明のHTRA1阻害ペプチドの分子量は10,000未満、好適には8,000未満、より好適には約7,000~7,200である。また、配列番号23(図29)の15番Cys~31番Cysからなる可変ループ部分又は15番Cys~63番Cysからなる部分(以下「6つのCysを含む部分」という)のうち、HTRA1阻害活性を有するものも、本発明HTRA1阻害ペプチドにそれぞれ包含され、可変ループ部分の分子量は2,500未満、好適には約1,800~2,000であり、6つのCysを含む部分の分子量は6,000未満、好適には約5,300~5,500である。
【0037】
さらに、本発明のHTRA1阻害ペプチドの範囲に含まれる、SPINK2の有する骨格が少なくとも部分的に維持されたSPINK2変異体(以下、「SPINK2変異体」と略記する)は、HTRA1に結合してもよく、好適には哺乳類の、より好適には霊長類の、より一層好適にはヒトのHTRA1に結合し得る。そのようなHTRA1に結合するペプチドは、HTRA1の部分ペプチド、部分高次構造等を認識する、又はそれらに結合する(以下、かかる認識又は結合作用をまとめて「標的結合活性」という)。
【0038】
また、ある態様における本発明の阻害ペプチドは、HTRA1の免疫原性断片に結合し得る。HTRA1の免疫原性断片は、1つ又は2つ以上のエピトープ、ミモトープ又はその他の抗原決定基を有するので、免疫応答を誘発し得るか又は当該断片に対する抗体が産生され得る。
【0039】
本発明におけるSPINK2変異体とHTRA1又はその免疫原性断片の結合は、検出可能な結合親和性の測定(ELISA法、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance :以下、「SPR」という)解析法(「BIAcore」法ともいう)、等温滴定熱量測定(Isothermal Titration Calorimetry:以下「ITC」という)法、フローサイトメトリー、免疫沈降法等)等により、当業者に公知の方法を用いて、評価、測定又は判定することができる。
【0040】
ELISA法としては、プレート上に固相化されたHTRA1を認識して結合したHTRA1阻害ペプチドを検出する方法が挙げられる。HTRA1の固相化には、ビオチン-ストレプトアビジンの他、HTRA1に融合したタグを認識する固相用抗体等を利用することができる。HTRA1阻害ペプチドの検出には、標識されたストレプトアビジンの他、HTRA1阻害ペプチドに融合したタグを認識する標識された検出用抗体等を利用することができる。標識には、ビオチンの他、HRP、アルカリフォスファターゼ、FITC等生化学的解析に実施可能な方法を利用することができる。酵素標識を利用した検出にはTMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)、BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate)、p-NPP(p-nitrophenyl phosphate)、OPD(o-Phenylenediamine)、ABTS(3-Ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)、SuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)等の発色基質やQuantaBlu(商標)Fluorogenic Peroxidase Substrate(Thermo Fisher Scientific)等の蛍光基質、及び化学発光基質を用いることができる。検出シグナルの測定には、吸光プレートリーダー、蛍光プレートリーダー、発光プレートリーダー、RI液体シンチレーションカウンター等を利用することができる。
【0041】
SPR解析に用いる機器としては、BIAcore(商標)(GE Healthcare)、ProteOn(商標)(BioRad)、SPR-Navi(商標)(BioNavisOy)、Spreeta(商標)(Texas Instruments)、SPRi-PlexII(商標)(ホリバ)、Autolab SPR(商標)(Metrohm)等を例示することができる。BLI法に用いる機器としては、Octet(商標)(Pall)を例示することができる。
【0042】
免疫沈降法としては、ビーズ上に固相化されたHTRA1阻害ペプチドによって認識され、結合したHTRA1を検出する方法が挙げられる。ビーズには磁気ビーズやアガロースビーズ等を利用することができる。HTRA1阻害ペプチドの固相化には、ビオチン-ストレプトアビジンの他、該ペプチド又は該ペプチドに融合したタグを認識する抗体、プロテインA又はプロテインG等を利用することができる。磁石や遠心分離等によってビーズを分離し、ビーズと共に沈殿したHTRA1をSDS-PAGEやWestern blot法で検出する。HTRA1の検出には、標識されたストレプトアビジンの他、HTRA1に融合したタグを認識する標識された検出用抗体等を利用することができる。標識には、ビオチンの他、HRP、アルカリフォスファターゼ、FITC等生化学的解析に実施可能な方法を利用することができる。酵素標識を利用した検出にはELISA法と同様の基質を利用することができる。検出シグナルの測定にはChemiDoc(商標)(BioRad)やLuminoGraph(ATTO)等を利用することができる。
【0043】
本発明において「特異的な認識」、すなわち「特異的な結合」とは、非特異的な吸着ではない結合を意味する。結合が特異的であるか否かの判定基準としては、例えば、ELISA法における結合活性EC50をあげることができる。他の判定基準としては、例えば、解離定数(dissociation constant:以下、「K」という)をあげることができる。本発明におけるHTRA1阻害ペプチドのHTRA1に対するK値は1×10-4M以下、1×10-5M以下、5×10-6M以下、2×10-6M以下又は1×10-6M以下、より好適には5×10-7M以下、2×10-7M以下又は1×10-7M以下、より一層好適には5×10-8M以下、2×10-8M以下又は1×10-8M以下、さらにより一層好適には5×10-9M以下、2×10-9M以下又は1×10-9M以下である。他の判定基準としては、例えば、免疫沈降法での解析結果をあげることができる。本発明における好適なHTRA1阻害ペプチドをビーズに固相化し、それぞれHTRA1を添加した後にビーズを分離し、ビーズと共に沈殿したHTRA1を検出した場合、HTRA1のシグナルが検出される。
【0044】
前述の記載にもかかわらず、HTRA1阻害活性を有する限りにおいて、HTRA1又はその免疫原性断片への結合能は本発明の阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体にとって必須ではない。
【0045】
本発明の阻害ペプチドは、HTRA1へのプロテアーゼ基質の結合において、競合的であってもよい。
【0046】
また、好適ないくつかの態様において、本発明の阻害ペプチドは、網膜保護効果を有する。例えば、実施例において詳述される光照射網膜障害モデルにおいて、本発明の好適な阻害剤は、外顆粒層に含まれる核の数の光照射による減少を、抑制することができる。当該モデルにおいては、非照射の群と比較して、光照射した群の硝子体液中により多量のHTRA1蛋白質が検出されており、網膜障害にHTRA1が関与すること、HTRA1阻害活性が網膜保護効果をもたらすことを、本発明は開示している。
【0047】
本発明の阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体は、上記のような活性、性質、機能、特徴等を有し得る一方で、その全長アミノ酸配列はヒト野生型SPINK2のアミノ酸配列に対して高い配列同一性を有する。本発明のSPINK2変異体は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:図13)と60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する。
【0048】
「同一性」とは、2つの配列の間の、類似性又は関係の程度を示す性質を意味する。アミノ酸配列の同一性(%)は、同一であるアミノ酸もしくはアミノ酸残基の数をアミノ酸もしくはアミノ酸残基の総数で割って得られる数値に、100を掛けることにより、算出される。
【0049】
「ギャップ」とは、2つ以上の配列のうち少なくとも1つにおける欠失及び/又は付加の結果である、当該配列間のアライメントにおける隙間を意味する。
【0050】
完全に同一なアミノ酸配列を有する2つのアミノ酸配列の間の同一性は100%であるが、一方のアミノ酸配列を他方と比較して1つ又は2つ以上のアミノ酸又はアミノ酸残基の置換、欠失又は付加があれば、両者の同一性は100%未満となる。ギャップをも考慮して2つの配列間の同一性を決定するためのアルゴリズムやプログラムとしては、標準的なパラメータを用いるBLAST(Altschul,et al.Nucleic Acids Res.25巻、3389-3402頁、1997年)、BLAST2(Altschul,et al.J.Mol.Biol.215巻、403-410頁、1990年)、Smith-Waterman(Smith,et al.J.Mol.Biol.147巻、195-197頁、1981年)等の当業者に公知のものを例示することができる。
【0051】
本発明において、「変異した」とは、天然に存在する核酸分子又はペプチドと比較のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列において、1つ又は2つ以上のヌクレオチドもしくはヌクレオチド残基又はアミノ酸もしくはアミノ酸残基の置換、欠失又は挿入がなされていることを意味する。本発明のSPINK2変異体のアミノ酸配列は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列と比較して、1つ又は2つ以上のアミノ酸又はアミノ酸残基が変異されている。
【0052】
本発明のある態様において、SPINK2変異体のアミノ酸配列は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:図13)の:
16番Ser~22番Glyのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ又は7つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されており;
24番Pro~28番Asnのうち1つ、2つ、3つ、4つ又は5つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されており;
39番Ala及び43番Thrのうち1つ又は2つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されていても、野生型であっても、16番~30番等のアミノ酸残基から構成されるループ主鎖3次構造が、HTRA1阻害活性を少なくとも部分的に発揮し得る限りにおいて、いずれでもよく(当該2アミノ酸又はアミノ酸残基はαへリックスに含まれる);
15番Cys、23番Cys、31番Cys、42番Cys、45番Cys及び63番Cysは、天然型のジスルフィド結合を維持するためには野生型と同じくCysであることが好ましく、天然型のジスルフィド結合を消失させたり、非天然型のジスルフィド結合を生じさせたりするためには、それらのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つを他のアミノ酸に置換してもよい。本発明のSPINK2変異体うち一部の好適なHTRA1阻害ペプチドにおいては、天然型と同じ当該6箇所にCysが維持され、ジスルフィド結合が保持されている。かかる阻害ペプチドのうちより好適な一部の態様においては、15番Cys-45番Cys、23番Cys-42番Cys、及び、31番Cys-63番Cysが、それぞれジスルフィド結合を形成している。
【0053】
そのようなSPINK2変異体の有するアミノ酸配列がHTRA1阻害ペプチドに含まれる場合、野生型SPINK2のアミノ酸配列に含まれる16番Ser乃至30番Valからなるループ構造、31番Cys及び32番Glyからなるβストランド(1)並びに57番Ile乃至59番Argからなるβストランド(2)から構成されるβシート、41Glu番アミノ酸乃至51番Glyからなるαへリックス、又は、それらに類似しているか若しくはそれら(の位置)に少なくとも部分的に対応するループ構造、βシート、αへリックス等から構成される立体構造が、HTRA1阻害活性を発揮し得る程度に、維持されていることが好ましい。
【0054】
本発明のSPINK2変異体のうち、一部のHTRA1阻害ペプチドの有するアミノ酸配列について以下に述べる。上述の通り、本発明において「アミノ酸残基」は単に「アミノ酸」と表記されることがある。
【0055】
配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列において、1番目乃至11番目のXaa(それぞれX1乃至X11に同じ)は、HTRA1に結合し且つHTRA1活性を阻害する限りに置いてそれぞれ任意のアミノ酸であれば特に限定されない。以下、X1乃至X11の好適なアミノ酸について記載するが、それらのアミノ酸の中には天然型、すなわち野生型ヒトSPINK2のアミノ酸配列中と同一のアミノ酸が含まれている場合がある。
【0056】
1番X1は、好適にはAsp、Glu、Gly、Ser又はIle、より好適にはAsp又はGly、より一層好適にはGlyであり;
16番X2は、好適にはAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Gln、Arg、Ser、Thr又はTyr、より好適にはAla、Asp、Gly、His、Lys、Leu、Met、Gln、Arg、Ser又はThr、より一層好適にはAla、Gly、Lys、Leu、Ser又はThr、さらにより一層好適にはAla、Gly、Leu、Ser又はThr、その上さらにより一層好適にはAla又はSerであり;
17番X3は、好適には、Ala、Asp、Glu、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr又はTyr、より好適にはAsp、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr又はTyr、より一層好適にはAsp、His、Lys、Met又はGln、さらにより一層好適にはAsp又はGlnであり;
18番X4は、好適にはAla、Asp、Glu、Phe、Gly,His、Ile、Leu、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp又はTyr、より好適にはAsp、Phe、His、Met、Asn、Gln、Ser又はTyr、より一層好適にはAsp、Phe、His、Ser又はTyr、さらにより一層好適にはPhe又はHisであり;
19番X5は、好適にはAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val又はTyr、より好適にはAla、Asp、Glu、Gly、His、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Ser又はVal、より一層好適にはAla、Asp、Glu、Met又はAsn、さらにより一層好適にはAla、Asp又はGluであり;
21番X6は、好適にはAla、Glu,Phe、Gly、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Ser,Trp又はTyr、より好適にはGlu,Phe、Ile、Leu、Met、Gln、Arg又はTrp、より一層好適にはMet又はTrp、さらにより一層好適にはMetであり;
24番X7は、好適にはAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr,Val、Trp又はTyr、より好適にはAsp、Glu、His、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp又はTyr、より一層好適にはGln、Trp、Tyr又はVal、さらにより一層好適にはTyr又はValであり;
26番X8は、好適にはAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Val又はTyrであり、より好適にはAla、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Ser、Val又はTyrであり、より一層好適にはPhe、Leu又はTyrであり、さらにより一層好適にはPhe又はLeuであり;
27番X9は、好適にはGlu、Phe、Leu、Ser、Thr又はTyrであり、より好適にはPhe、Leu、Ser、Thr又はTyrであり、より一層好適にはPhe又はTyr、さらにより一層好適にはTyrであり;
39番X10は、好適にはAla、Glu、Met又はVal、より好適にはAla又はGluであり;
43番X11は、好適にはAla、Thr又はVal、より好適にはThrまたはValである。
【0057】
なお、野生型のX1乃至X11は、それぞれAsp、Ser、Gln、Tyr、Arg、Pro、Pro、His、Phe、Ala及びThrである。また、20番はLeu、22番はGly、25番はArg、28番はAsnである。
【0058】
本発明においては、1番アミノ酸のN末側に、さらに1つ乃至数個又はそれ以上のアミノ酸が付加していてもよく、そのような付加されるアミノ酸としては、例えば、Ser-Leu、S tag及びリンカーからなるアミノ酸配列(配列番号31:図43)等をあげることができる。
【0059】
さらに、C末に位置する63番Cysに1乃至数個のアミノ酸が付加していてもよく、例えば、C末が64番Glyであるアミノ酸配列、Gly-Glyを加えC末が65番Glyであるアミノ酸配列等をあげることができる。そのような付加されるアミノ酸としては、例えば、Gly-Gly、C末6マー(配列番号32:図44)等をあげることができる。
【0060】
配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列又は配列番号30から派生したアミノ酸配列のN末及び/又はC末に他のアミノ酸が付加されてなるアミノ酸配列として、配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21及び23乃至29(図15、17、19、21、23、25、27、29、31、33及び35乃至41)並びに配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20及び22(図16、18、20、22、24、26、28、30、32及び34)のいずれか一つにより示されるヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列はより好適な態様に、配列番号24、28及び29(図36、40及び41)はより一層好適な態様にそれぞれ含まれる。
【0061】
本発明においては、SPINK2変異体ペプチド又はSPINK2変異体ペプチドのN末及び/又はC末付加体(以下、「親ペプチド」と呼ぶ)において、1つ又は2つ以上のアミノ酸が置換、付加及び/又は欠失されてなるペプチドを「親ペプチドの誘導体」又は「親ペプチド誘導体」と呼ぶことがある(例えば、実施例6)。かかる「誘導体」も本発明の「ペプチド」の範囲に含まれる。
【0062】
本発明の阻害ペプチドの範囲に含まれるSPINK2変異体の有するアミノ酸配列においては、X1乃至X11以外の部分、すなわち、野生型ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:図13)中の、2番Pro~15番Cys、20番Pro、22番Gly、23番Cys、25番Arg、28番Asn~38番Tyr、41Glu、42番Cys及び44番Thr~63番Cysの位置において、天然型のアミノ酸もしくは変異したアミノ酸又はアミノ酸配列を含むことができる。例えば、SPINK2変異体は、HTRA1阻害活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしない限りにおいて、1つ又は2つ以上の位置において変異してよい。そのような変異は、当業者に公知の標準的な方法を使用することによりなし得る。アミノ酸配列中の典型的な変異としては、1つ又は2つ以上のアミノ酸の置換、欠失又は付加をあげることができ、置換としては、保存的置換を例示することができる。保存的置換により、あるアミノ酸残基は、嵩高さのみならず、極性の面についても化学的特徴が類似しているアミノ酸残基により置換される。保存的置換の例は、本明細書の他の箇所に記載されている。一方で、X1乃至X11以外の部分は、HTRA1阻害活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしない限りにおいて、1つ又は2つ以上のアミノ酸の非保存的置換も許容し得る。
【0063】
本発明の阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体の有するアミノ酸配列は、X1乃至X11が、好適には配列番号配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21及び23乃至29(図15、17、19、21、23、25、27、29、31、33及び35乃至41)の、より好適には配列番号24、28及び29(図36、40及び乃至41)のいずれか一つにおけるX1乃至X11の各アミノ酸であり、且つ、X1乃至X11以外の部分がHTRA1阻害活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしないアミノ酸又はアミノ酸配列を有することができる。
【0064】
また、本発明のHTRA1阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体のアミノ酸配列の例として、次の(a)乃至(e)のいずれか一つに記載のアミノ酸配列をそれぞれあげることができる:
(a)配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23乃至29(図15、17、19、21、23、25、25、29、31、33、35乃至41)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列;
(b)(a)に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つHTRA1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列;
(c)(a)に記載のアミノ酸配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つHTRA1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列;
(d)(a)に記載のアミノ酸配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つHTRA1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列;及び、
(e)配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20及び22(図16、18、20、22、24、26、28、30、32及び34)のいずれか一つで示されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列。
【0065】
しかしながら、HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子は(a)乃至(e)に限定されるものではなく、HTRA1阻害活性を有するSPINK2変異体に含まれるアミノ酸配列、好適には配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は遍くHTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子の範囲に包含される。
【0066】
本発明の阻害ペプチドに、そのフォールディング安定性、熱安定性、保存安定性、血中半減期、水溶性、生物活性、薬理活性、副次的作用等を改善する目的で、変異を導入することができる。例えば、ポリエチレングルコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン、ペプチド又は蛋白質等の他の物質にコンジュゲートさせるため、Cysのような新たな反応性基を変異により導入することができる。本発明において、HTRA1阻害ペプチドは他の部分に付加、連結又は結合していてもよく、そのようなコンジュゲート体を「HTRA1阻害ペプチドのコンジュゲート」と総称する。本発明において「コンジュゲート」とは、本発明のペプチド又はその断片に他の部分が付加、連結又は結合してなる分子を意味する。「コンジュゲート」又は「コンジュゲーション」には、ある部分が架橋剤等の化学物質を介して、ある部分をアミノ酸の側鎖に連結するのに適した作用物質等を介して、本発明のペプチドのN末及び/又はC末に合成化学的手法や、遺伝子工学的手法等により、本発明のペプチドに連結又は結合される形態が含まれる。そのような「部分」には、血中半減期を改善するものとして、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリアルキレングリコール分子、ヒドロキシエチルデンプン、パルミチン酸等の脂肪酸分子、免疫グロブリンのFc領域、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン又はその断片、アルブミン結合ペプチド、連鎖球菌プロテインG等のアルブミン結合タンパク質、トランスフェリンを、例示することができる。その他の「部分」としては、かかる「部分」はペプチドリンカー等のリンカーを介して本発明のペプチドが連結され得る。
【0067】
また、本発明のHTRA1阻害ペプチドには、薬理活性を発揮するか又は増強するために、他の薬物がコンジュゲートされていてもよい。抗体分野において抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)として当業者に公知の技術や態様は、抗体を本発明のペプチドに置き換えることにより、本発明の一部の態様となる。
【0068】
本発明のHTRA1阻害ペプチドは、HTRA1以外の標的分子に対する結合親和性、阻害活性、拮抗活性、作動活性等を発揮する1つ又は2つ以上の部分をさらに含むか、そのような部分にコンジュゲートされていてもよい。かかる「部分」としては、抗体又はその断片、SPINK2変異体のような抗体以外の骨格を有する蛋白質又はその断片を例示することができる。抗体分野において多重特異的抗体及び二重特異的抗体(multispecific antibody、bispecific antibody)として当業者に公知の技術や態様は、それらに含まれる2つ以上の「抗体」のうち少なくとも1つを本発明のペプチドに置き換えることにより、本発明のコンジュゲートの一部の態様となる。
【0069】
本発明のペプチド又はその前駆体は、シグナル配列を含み得る。あるポリペプチドもしくはその前駆体のN末に存在するか又は付加されたシグナル配列は、当該ポリペプチドを細胞の特定の区画、例えば、大腸菌であれば周辺質、真核細胞であれば小胞体に送達するために有用であり、多くのシグナル配列が当業者に公知であり、宿主細胞に応じて選択され得る。大腸菌の周辺質中に所望のペプチドを分泌させるためのシグナル配列としては、OmpAを例示することができる、シグナル配列を含む形態も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。
【0070】
また、本発明のペプチドに予めタグを付加させることにより、アフィニティークロマトグラフィーによって該ペプチドを精製することができることができる。本発明のペプチドは、例えば、そのC末に、ビオチン、Strepタグ(商標)、StrepタグII(商標)、His6等のオリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、ジゴキシゲニンやジニトロフェノール等のハプテン、FLAG(商標)等のエピトープタグ、mycタグ、HAタグ等(以下まとめて「アフィ二ティー・タグ」と呼ぶ)を含むことができる。タグ付加体も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。本発明のコンジュゲートは、全体としてペプチド(ポリペプチド)であってもよい。
【0071】
本発明のペプチドは、標識のための部分を含むことができ、具体的には、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属複合体、金属、コロイド金等の標識部分がコンジュゲートされ得る。標識のための部分を含む態様も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。
【0072】
本発明の阻害ペプチドは、そのペプチド部分に天然アミノ酸及び非天然アミノ酸のいずれをも含むことができ、天然アミノ酸としてはL-アミノ酸及びD-アミノ酸のいずれをも含むことができる。
【0073】
本発明の阻害ペプヂドのアミノ酸配列には、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸のいずれをも含むことができ、天然アミノ酸としてはL-アミノ酸及びD-アミノ酸のいずれをも含むことができる。
【0074】
本発明の阻害ペプチドは、単量体、2量体、3量体以上のオリゴマー又は多量体として存在し得る。2量体、3量体以上のオリゴマー及び多量体は、単一の単量体から構成されるホモ、及び、2つ以上の異なる単量体から構成されるヘテロ、のいずれでもよい。単量体は、例えば、速やかに拡散し組織への浸透に優れている場合がある。2量体、オリゴマー及び多量体は、例えば、局所において標的分子に対して高い親和性もしくは結合活性を有するか、遅い解離速度を有するか、又は高いHTRA1阻害活性を示す等の優れた側面を有し得る。自発的な2量体化、オリゴマー化及び多量体化に加え、意図した2量体化、オリゴマー化及び多量体化も、jun-fosドメイン、ロイシンジッパー等を本発明の阻害ペプチドに導入することにより、なし得る。
【0075】
本発明の阻害ペプチドは、単量体、2量体、3量体以上のオリゴマー又は多量体で、1つ又は2つ以上の標的分子に結合するか又は標的分子の活性を阻害することができる。
【0076】
本発明の阻害ペプチドがとり得る形態としては、単離された形態(凍結乾燥標品、溶液等)、上述のコンジュゲート体、他の分子に結合した形態(固相化された形態、異分子との会合体、標的分子と結合した形態等)等をあげることができるが、それらに限定されるものではなく、発現、精製、使用、保存等に適合した形態を任意に選択することができる。
【0077】
3.HTRA1阻害ペプチドの同定
HTRA1阻害ペプチドは、SPINK2のアミノ酸配列又は本発明のHTRA1阻害ペプチドの有するアミノ酸配列(例えば、配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21及び23乃至29からなる群、又は、図15、17、19、21、23、25、27、29、31、33及び35乃至41からなる群から選択されるアミノ酸配列)、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、該ヌクレオチド配列を含む核酸分子等を出発材料として、当業者に周知の方法により、同定することができる。好適な一例として、ヒトSPINK2変異体ライブラリーより、HTRA1阻害活性を指標として同定することができ、HTRA1結合活性も指標として組み合わせてもよい。
【0078】
例えば、出発材料としての核酸分子は、変異誘発に供され、組換えDNA技術を用いて適切な細菌宿主又は真核性宿主中に導入され得る。SPINK2変異体ライブラリーは、標的分子のバインダーや阻害剤を同定するための技術として公知であり、例えば、WO2012/105616公報における開示も、その全体を参照することにより本発明の開示に含まれる。適切な宿主において変異誘発に供されたヌクレオチド配列を発現させた後、所望の性質、活性、機能等を有するSPINK2変異体がその遺伝形質とリンクしてなるクローンを、前記のライブラリーから濃縮及び/又は選抜し、同定することができる。クローンの濃縮及び/又は選抜には、細菌ディスプレイ法(Francisco,J.A.,et al.(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90巻,10444-10448頁)、酵母ディスプレイ法(Boder,E.T.,et al.(1997年)Nat.Biotechnol. 15巻,553-557頁)、哺乳動物細胞ディスプレイ法(Ho M,et al.(2009年)Methods Mol Biol.525巻:337-52頁)、ファージディスプレイ法(Smith,G.P.(1985年)Science. 228巻,1315-1317頁)、リボソームディスプレイ法((Mattheakis LC, et al. (1994年) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91巻19号,9022-9029頁))、mRNAディスプレイ等の核酸ディスプレイ法(Nemoto N,et al.(1997年)FEBS Lett. 414巻2号,405-408頁)、コロニースクリーニング法(Pini,A.et al.(2002年)Comb.Chem.High Throughput Screen. 5巻,503-510頁)等、当業者に公知の方法を使用することにより、選抜され同定されたクローンに含まれるSPINK2変異体のヌクレオチド配列を決定することにより、該ヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を、当該クローンに含まれるSPINK2変異体すなわちHTRA1阻害ペプチドの有するアミノ酸配列として決定することができる。
【0079】
本発明のSPINK2変異体は、例えば、天然型のSPINK2に変異を誘発することにより、得ることができる。「変異の誘発」とは、あるアミノ酸配列の各位置に存在する1つ又は2つ以上のアミノ酸を他のアミノ酸に置換するかもしくは欠失させるか、又は当該アミノ酸配列中には存在しないアミノ酸を付加もしくは挿入することができるようにすることを意味する。かかる欠失又は付加もしくは挿入により、配列長が変わり得る。本発明のSPINK2変異体において、変異の誘発は、好適には、配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列中の、X1乃至X11の1つ又は2つ以上の位置において生じ得る。
【0080】
但し、そのような好適な変異の誘発の後に、X1乃至X11の1つ又は2つ以上の位置において、天然型のアミノ酸、すなわち天然型のアミノ酸配列中の特定の位置に存在するのと同じアミノ酸が維持されたものも、全体として少なくとも1つのアミノ酸が変異されていれば、変異体の範囲に含まれる。同様に、本発明のある態様において、X1乃至X11以外の部分の1つ以上の位置に変異を誘発した後に、当該位置に天然型のアミノ酸、すなわち天然型のアミノ酸配列中の特定の位置に存在するのと同じアミノ酸が維持されたものも、全体として少なくとも1つのアミノ酸が変異されていれば、変異体の範囲に含まれる。
【0081】
「ランダム変異の誘発」とは、配列上の特定の位置について、1つ又は2つ以上の異なるアミノ酸が、変異の誘発により、当該位置に一定の確率で導入させることを意味するが、少なくとも2つの異なるアミノ酸の導入される確率が全て同じではなくてもよい。また、本発明においては、少なくとも2つの異なるアミノ酸に、天然型のアミノ酸(1種)が含まれることを妨げるものではなく、そのような場合も「ランダム変異の誘発」の範囲に含まれる。
【0082】
特定の位置にランダム変異を誘発する方法としては、当業者に公知の標準的方法を使用することができる。例えば、配列中の特定の位置に、縮重ヌクレオチド組成物を含む合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いたPCR(polymerase chain reaction)により変異を誘発することができる。例えば、コドンNNK又はNNS(N=アデニン、グアニン、シトシン又はチミン;K=グアニン又はチミン;S=アデニン又はシトシン)を使用すれば、天然アミノ酸20種全てに加え、停止コドンが導入される変異の誘発されるのに対し、コドンVVS(V=アデニン、グアニン又はシトシン)を使用すれば、Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr及びValが導入される可能性が無く、残る12の天然アミノ酸の導入が変異誘発される。また、例えば、コドンNMS(M=アデニン又はシトシン)を使用すれば、Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp及びValが導入される可能性が無く、残る11の天然アミノ酸の導入が変異誘発される。非天然アミノ酸の導入を変異誘発するために、特殊なコドン、人工的なコドン等を用いることができる。
【0083】
部位特異的な変異誘発は、高次構造を含む標的及び/又は該標的に対するペプチドもしくはペプチドが由来する野生型ペプチドの構造情報を利用しても行うことができる。本発明においては、標的であるHTRA1及び/又は標的に対するSPINK2変異体もしくは野生型SPINK2の、又は両者の複合体の、高次情報を含む構造情報を利用して、部位特異的な変異を導入することができる。例えば、HTRA1阻害活性を有するSPINK2変異体を同定し、次いでHTRA1及び当該SPINK2変異体の複合体の結晶を取得してX線結晶構造解析を行い、その解析結果に基づいて該SPINK2変異体が結合するHTRA1分子上の部位及び該部位との相互作用に関わる該SPINK2変異体中のアミノ酸残基を特定すること等を通じて得られる構造情報と、HTRA1阻害活性との相関を見出すことができる場合がある。そのような構造活性相関に基づいて、特定の位置において特定のアミノ酸への置換、特定の位置におけるアミノ酸の挿入又は欠失等をデザインし、実際にHTRA1活性を確認することができる。
【0084】
また、例えば、イノシン等の塩基対の特異性が改変されたヌクレオチド構成単位を用いて、変異を誘発することができる。
【0085】
さらに、例えば、Taq DNAポリメラーゼ等の、校正機能を欠き、エラー率の高いDNAポリメラーゼを用いたエラー・プローンPCR法、化学変異誘発等により、ランダムな位置への変異誘発が可能である。
【0086】
HTRA1阻害ペプチドは、細菌ディスプレイ、酵母ディスプレイ、哺乳細胞ディスプレイ、ファージディスプレイ、リボゾームディスプレイ、核酸ディスプレイ、コロニースクリーニング等を利用して、ファージライブラリー、コロニーライブラリー等それぞれのスクリーニング方法に適した当業者に公知のライブラリーより濃縮及び/又は選抜することができる。それらのライブラリーのうち、ファージライブラリーにはファージミド、コロニースクリーニングにはコスミド等、それぞれのライブラリーに適した当業者に公知のベクター及び方法により構築することができる。そのかかるベクターは、原核細胞又は真核細胞に感染するウイルス又はウイルス性ベクターであってもよい。それらの組換えベクターは、遺伝子操作等当業者に公知の方法により調製することができる。
【0087】
細菌ディスプレイは、例えば、大腸菌の外膜リポ蛋白質(Lpp)の一部および外膜蛋白質OmpAと所望の蛋白質を融合させ、大腸菌表面上に所望の蛋白質を提示させる技術である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるDNA群を細菌ディスプレイに適したベクターに導入し、当該ベクターで細菌細胞を形質転換すれば、形質転換細菌細胞表面上に、ランダム変異誘発された蛋白質群を提示するライブラリーを得ることができる(Francisco,J.A.,et al.(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90巻,10444-10448頁)。
【0088】
酵母ディスプレイは、酵母の細胞表面の外殻にあるα-アグルチニン等の蛋白質に所望の蛋白質を融合させ、酵母表面上に提示させる技術である。α-アグルチニンには、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI) アンカー付着シグナルと推定されるC末疎水性領域、シグナル配列、活性ドメイン、細胞壁ドメイン等が含まれ、それらを操作することにより、酵母の細胞表面上に所望の蛋白質をディスプレイすることができる。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるDNA群を酵母ディスプレイに適したベクターに導入し、当該ベクターで酵母細胞を形質転換すれば、形質転換酵母細胞表面上に、ランダム変異誘発された蛋白質群を提示するライブラリーを得ることができる(Ueda,M.& Tanaka,A.、Biotechnol.Adv.、18巻、121頁~、2000年刊:Ueda,M.& Tanaka,A.、J.Biosci.Bioeng.、90巻、125頁~、2000年刊等)。
【0089】
動物細胞ディスプレイは、例えば、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)に代表される膜蛋白質の膜貫通領域と所望の蛋白質を融合させ、HEK293やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞表面上に所望の蛋白質を提示させる技術である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるDNA群を動物細胞ディスプレイに適したベクターに導入し、当該ベクターで動物細胞を形質転換すれば、形質転換動物細胞表面上に、ランダム変異誘発された蛋白質群を提示するライブラリーを得ることができる(Ho M,et al.(2009年)Methods Mol Biol.525巻:337-52頁)。
【0090】
酵母、細菌、動物細胞などの細胞上に提示された所望のライブラリーは、標的分子の存在下で保温するか、又は、標的分子と接触させることができる。例えば、ビオチン等で修飾されたHTRA1とライブラリーを含む細胞を一定時間保温した後、磁性ビーズ等の担体を添加し、細胞を担体から分離し、次いで担体を洗浄することにより非特異的な吸着物及び結合物を除去し、担体(に結合したHTRA1)に結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物が提示された細胞群を回収することができる。同様に、磁性ビーズ添加後に磁気細胞分離(MACS)をする、または、抗HTRA1抗体を用いた細胞染色後にFACSを実施することで、担体(に結合したHTRA1)またはHTRA1と結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物が提示された細胞群を回収することができる。非特異的な吸着物部位及び/又は結合部位は、例えば、ブロッキングする(saturateする)ことも可能であり、ブロッキング工程も適切な方法であれば組み入れられ得る。そのようにして得られたペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を発現しているベクターを回収し、ベクターに挿入されたポリヌクレオチドの有するヌクレオチド配列を決定し、該ヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を決定することができる。また、ベクターを再度宿主細胞に導入し、上述の操作をサイクルとして1回乃至数回繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチド集合物をより高度に濃縮することができる。
【0091】
ファージディスプレイの場合、例えば、ファージミドは、プラスミド複製起点の他に、一本鎖バクテリオファージから誘導された第二の複製起点を含む細菌プラスミドである。ファージミドを有する細胞は、M13またはそれに類似のヘルパーバクテリオファージによる重感染において、一本鎖複製モードを介してファージミドを複製することができる。すなわち、バクテリオファージ被覆タンパク質により被覆された感染性粒子の中に、一本鎖ファージミドDNAがパッケージされる。このようにして、ファージミドDNAを、感染細菌中にクローン二本鎖DNAプラスミドとして、ファージミドを、重感染した細胞の培養上清からバクテリオファージ状の粒子として、それぞれ形成することができる。バクテリオファージ状の該粒子を、F性線毛を有する細菌にかかるDNAを感染させるために該細菌中に注入することにより、粒子自体をプラスミドとして再形成することができる。
【0092】
被検ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド及びバクテリオファージ被覆蛋白質(coat protein)遺伝子を含んで構成される融合遺伝子を該ファージミドに挿入して細菌に感染させ、該細胞を培養すれば、かかるペプチドを、該細菌上またはファージ様粒子上に発現もしくは提示(ディスプレイと同義)させるか、または、該被覆蛋白質との融合蛋白質としてファージ粒子中もしくは該細菌の培養上清中に産生することができる。
【0093】
例えば、該ポリヌクレオチド及びバクテリオファージ被覆タンパク質遺伝子gpIIIを含んで構成される融合遺伝子をファージミドに挿入し、M13またはそれに類似のヘルパーファージとともに大腸菌に重感染させれば、該ペプチドおよび該被覆蛋白質を含んで構成される融合蛋白質として、該大腸菌の培養上清中に産生させることができる。
【0094】
ファージミドの代わりに、環状又は非環状の各種ベクター、例えば、ウイルスベクターを用いる場合、当業者に公知の方法に従って、該ベクターに挿入された該ポリヌクレオチドの有するヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有するペプチドを、該ベクターが導入された細胞もしくはウイルス様粒子上に発現又は提示させるか、または該細胞の培養上清中に産生することができる。
【0095】
そのようにして得られる、ペプチドを発現しているライブラリーを、標的分子の存在下で保温するか、又は、標的分子と接触させることができる。例えば、HTRA1が固相化された担体を、ライブラリーを含む移動相と一定時間保温した後、移動相を担体から分離し、次いで担体を洗浄することにより非特異的な吸着物及び結合物を除去し、担体(に結合したHTRA1)に結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を、溶出により回収することができる。溶出は、相対的に高いイオン強度、低いpH、中程度の変性条件、カオトロピック塩の存在下等で、非選択的に行うか、又は、HTRA1等の可溶性の標的分子、標的分子に結合する抗体、天然のリガンド、基質等を添加して固相化された標的分子と競合させることにより選択的に行うことができる。非特異的な吸着物部位及び/又は結合部位は、例えば、ブロッキング処理することも可能であり、ブロッキング工程も適切な方法であれば組み入れられ得る。
【0096】
そのようにして得られたペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を発現しているベクターを回収し、ベクターに挿入されたポリヌクレオチドの有するヌクレオチド配列を決定し、該ヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を決定することができる。また、ベクターを再度宿主細胞に導入し、上述の操作をサイクルとして1回乃至数回繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチド集合物をより高度に濃縮することができる。
【0097】
リボゾームディスプレイは、例えば、終始コドンを持たない所望の蛋白質をコードするmRNAと無細胞蛋白質合成系を用いることで、試験管内で所望の蛋白質とそれに対応するmRNA、およびリボゾームが連結した分子を合成する技術である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるmRNA群と無細胞蛋白質合成系を利用することで、ランダム変異誘発された蛋白質群がリボゾーム上に提示されたライブラリーを得ることができる(Mattheakis LC, et al. (1994年) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91巻19号,9022-9029頁)。
【0098】
核酸ディスプレイは、mRNAディスプレイともよばれ、例えば、チロシルtRNAの3’末端に類似の構造をもつピューロマイシンなどのリンカーを用いることで、所望の蛋白質、それをコードするmRNAおよびリボゾームが連結した分子を合成する技術である。当該技術は生細胞ではなく、無細胞蛋白質合成系を利用するため、試験管内で合成することが可能である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるmRNA群とピューロマイシン等のリンカー、および、無細胞蛋白質合成系を利用することで、ランダム変異誘発された蛋白質群がリボゾーム上に提示されたライブラリーを得ることができる(Nemoto N,et al.(1997年)FEBS Lett. 414巻2号,405-408頁)。
【0099】
リボゾームディスプレイや核酸ディスプレイなどの無細胞合成系を介して得られる、ペプチドを発現しているライブラリーは、標的分子の存在下で保温するか、又は、標的分子と接触させることができる。例えば、HTRA1が固相化された担体を、ライブラリーを含む移動相と一定時間保温した後、移動相を担体から分離し、次いで担体を洗浄することにより非特異的な吸着物及び結合物を除去し、担体(に結合したHTRA1)に結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を、溶出により回収することができる。溶出は、相対的に高いイオン強度、低いpH、中程度の変性条件、カオトロピック塩の存在下等で、非選択的に行うか、又は、HTRA1等の可溶性の標的分子、標的分子に結合する抗体、天然のリガンド、基質等を添加して固相化された標的分子と競合させることにより選択的に行うことができる。非特異的な吸着物部位及び/又は結合部位は、例えば、ブロッキング処理することも可能であり、ブロッキング工程も適切な方法であれば組み入れられ得る。
【0100】
そのようにして得られたペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を発現している核酸を回収し、mRNAの場合はcDNAに逆転写反応後にヌクレオチド配列を決定し、該ヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を決定することができる。また、回収した核酸からmRNAを転写し、上述の操作をサイクルとして1回乃至数回繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチド集合物をより高度に濃縮することができる。
【0101】
ペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物に予めアフィ二ティー・タグをコンジュゲートさせておけば、効率的に当該ペプチド又はそれらの集合物を精製することができる。例えば、プロテアーゼの基質をタグとして予めペプチド集合物にコンジュゲートさせておけば、該プロテアーゼ活性により切断することにより、ペプチドを溶出することができる。
【0102】
得られた配列情報及びペプチドの機能等に基づき、得られたクローン又はライブラリーにさらなる変異を誘発させ、変異が導入されたライブラリーから、その機能(例えば、HTRA1阻害活性)、物性(熱安定性、保存安定性等)、体内動態(分布、血中半減期)等が改善されたペプチドを取得することも可能である。
【0103】
得られたペプチドが、HTRA1阻害活性を有しているか否かを決定することにより、HTRA1阻害ペプチドを同定することができる。
【0104】
また、HTRA1阻害ペプチドは、好適には、野生型SPINK2のアミノ酸配列に含まれる16番Ser乃至30番Valからなるループ構造、31番Cys及び32番Glyからなるβストランド(1)並びに57番Ile乃至59番Argからなるβストランド(2)から構成されるβシート、並びに、41Glu番アミノ酸乃至51番Glyからなるαへリックス、又は、それらに類似するか若しくはそれら(の位置に)少なくとも部分的に対応するループ構造、βシート、αへリックス等から構成される立体構造が、HTRA1阻害活性を発揮し得る程度に、維持され得る。かかる立体構造(全体の構造又は部分構造)を指標の一部として、より好適なHTRA1阻害ペプチドを同定することも可能である。
【0105】
4.HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子、それを含むベクター、それらを含む細胞、並びに、組換えHTRA1阻害ペプチドの製造方法
本発明は、HTRA1阻害ペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(以下、「HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子」という)、該遺伝子が挿入された組換えベクター、該遺伝子もしくはベクターが導入された細胞(以下、「HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞」という)、又はHTRA1阻害ペプチドを産生する細胞(以下、「HTRA1阻害ペプチド産生細胞」という)をも提供する。
【0106】
本発明のHTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子の一部の好適な例として、次の(a)乃至(e)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列(以下、「HTRA1阻害ペプチドのヌクレオチド配列」という)を含んでなるか、HTRA1阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列からなるか、またはHTRA1阻害ペプチドのヌクレオチド配列からなるものをあげることができる:
(a)配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23乃至29(図15、17、19、21、23、25、25、29、31、33、35乃至41)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(b)配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20及び22(図16、18、20、22、24、26、28、30、32及び34)のいずれか一つで示されるヌクレオチド配列;
(c)(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つHTRA1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(d)(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、または1個のヌクレオチド又はヌクレオチド残基が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つHTRA1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および、
(e)(a)又は(b)に記載のヌクレオチド配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つHTRA1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列。
【0107】
しかしながら、HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子は(a)乃至(e)に限定されるものではなく、HTRA1阻害活性を有するSPINK2変異体に含まれるアミノ酸配列、好適には配列番号30(図42)で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は遍くHTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子の範囲に包含される。
【0108】
アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を設計するには、各アミノ酸に対応するコドンを1種又は2種以上使用することができる。そのため、あるペプチドが有する単一のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、複数のバリエーションを有し得る。かかるコドンの選択に際しては、該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを又はそれを含むベクターが導入される、発現用の宿主細胞のコドン使用(codon usage)に応じて適宜コドンを選択したり、複数のコドンの使用の頻度もしくは割合を適宜調節したりすることができる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合は、大腸菌において使用頻度が高いコドンを使用してヌクレオチド配列を設計してもよい。
【0109】
HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子は、1つ又は2つ以上の調節配列に機能的に連結されていてもよい。「機能的に連結される」とは、連結された核酸分子を発現させることができる、又は、該分子に含まれるヌクレオチド配列の発現を可能にする、ことを意味する。調節配列は、転写調節及び/又は翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントを含む。調節配列は、種により様々であるが、一般に、プロモーターを含み、原核生物の-35/-10ボックス及びシャイン・ダルガノ配列、真核生物のTATAボックス、CAAT配列、及び5’キャッピング配列等で例示される、転写及び翻訳の開始に関与する5’非コード配列を含む。かかる配列は、エンハンサーエレメント及び/又はリプレッサーエレメント、並びに宿主細胞内外の特定の区画へと天然型又は成熟型のペプチドを送達するための、翻訳され得るシグナル配列、リーダー配列等を含んでもよい。さらに、調節配列は3’非コード配列を含んでよく、かかる配列には、転写終結又はポリアデニル化などに関与するエレメントを含み得る。ただし、転写終結に関する配列が、特定の宿主細胞において充分に機能しない場合は、当該細胞に適した配列で置換され得る。
【0110】
プロモーター配列としては、原核生物ではtetプロモーター、lacUV5プロモーター、T7プロモーター等を、真核細胞ではSV40プロモーター、CMVプロモーター等を例示することができる。
【0111】
HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子は、単離された形態、ベクターもしくは他のクローニングビヒクル(以下、単に「ベクター」という:プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド等)中又は染色体中に含まれる形態であってよいが、それらの形態に限定されない。ベクターには、HTRA1阻害ペプチドのヌクレオチド配列及び上記調節配列に加え、発現に使用される宿主細胞に適した複製配列及び制御配列、並びに形質転換等により核酸分子が導入された細胞を選択可能な表現型を与える選択マーカーを含んでいてもよい。
【0112】
HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子、HTRA1阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むベクターは、当該ペプチド又ヌクレオチド配列を発現可能な宿主細胞に形質転換等の当業者に公知の方法により導入することができる。該核酸分子又はベクターを導入された宿主細胞は、当該ペプチド又ヌクレオチド配列の発現に適した件下で培養され得る。宿主細胞は、原核及び真核のいずれでもよく、原核では大腸菌、枯草菌等、真核ではサッカロミセス・セレヴィシエ、ピキア・パストリス等の酵母、SF9、High5等の昆虫細胞、HeLa細胞、CHO細胞、COS細胞、NS0等の動物細胞胞を例示することができる。真核細胞等を宿主細胞として用いることにより、発現した本発明のペプチドに所望の翻訳後修飾を施すことができる。翻訳後修飾としては、糖鎖等の官能基付加、ペプチド又は蛋白質の付加、アミノ酸の化学的性質の変換等を例示することができる。また、本発明のペプチドへの所望の修飾を人工的に施すことも可能である。そのようなペプチドの修飾体も、本発明の「ペプチド」の範囲に包含される。
【0113】
本発明はHTRA1阻害ペプチドの製造方法をも含む。当該方法には、HTRA1阻害ペプチドをコードする核酸分子もしくはHTRA1阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むベクターが導入された宿主細胞又はHTRA1阻害ペプチドを発現する細胞を培養する工程1、及び/又は、工程1で得られた培養物からHTRA1阻害ペプチドを回収する工程2が含まれる。工程2には、当業者に公知の分画、クロマトグラフィー、精製等の操作を適用することができ、例えば、後述する本発明の抗体を利用したアフィニティー精製が適用可能である。
【0114】
本発明の一部の態様において、HTRA1阻害ペプチドは、分子内ジスルフィド結合を有する。分子内ジスルフィド結合を有するペプチドは、シグナル配列等を用いて、酸化性の酸化還元環境を有する細胞区間に送達させることが好ましい場合がある。酸化性環境は、大腸菌等のグラム陰性細菌の周辺質、グラム陽性細菌の細胞外環境、真核細胞の小胞体内腔等により提供することが可能であり、かかる環境下では、構造的なジスルフィド結合の形成が促進され得る。また、大腸菌等の宿主細胞の細胞質において分子内ジスルフィド結合を有するペプチドを作製することも可能であり、その場合ペプチドは、可溶性の折り畳まれた状態で直接的に獲得されるか、又は封入体の形態で回収され、次いでイン・ビトロで復元され得る。さらに、酸化性の細胞内環境を有する宿主細胞を選択し、その細胞質において分子内ジスルフィド結合を有するペプチドを作製することもできる。一方、HTRA1阻害ペプチドが分子内ジスルフィド結合を有さない場合は、還元性の酸化還元環境を有する細胞区間、例えば、グラム陰性細菌の細胞質において作製され得る。
【0115】
本発明のHTRA1阻害ペプチドは、メリフィールド他のペプチド固相合成法、並びに、t-ブトキシカルボニル(t-Butoxycarbonyl:Boc)や9-フルオレニルメトキシカルボニル(9-Fluorenylmethoxycarbonyl:Fmoc)等を利用した有機合成化学的ペプチド合成法により例示される化学合成、イン・ビトロ翻訳等の、他の当業者に公知の方法によっても製造することができる。
【0116】
5.医薬組成物
本発明はHTRA1阻害ペプチド、又は、そのコンジュゲートを含む医薬組成物をも提供する。
【0117】
本発明のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲート医薬組成物は、HTRA1により惹起されるか又は増悪化され、HTRA1の発現又は機能を阻害又は抑制することにより、かかる惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持もしくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患(以下、「HTRA1に関わる疾患」又は「HTRA1関連疾患」という)の治療及び/又は予防に有用である。HTRA1に関わる疾患には、視細胞変性の抑制により惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持もしくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患が包含される。本発明のHTRA1阻害ペプチドは視細胞変性抑制効果を有し、HTRA1関連疾患の治療及び/又は予防に有用である。
【0118】
HTRA1関連疾患としては、遺伝性および非遺伝性の各種眼疾患、例えば、網膜色素変性症、遺伝性の視細胞変性を伴う疾患、PDE6遺伝子変異(例えば、マウスPDE6βサブユニットをコードするPde6b遺伝子の対応ヒト遺伝子PDE6Bの変異)又はPDE6蛋白質機能異常に起因する視細胞変性を伴う疾患(以下、まとめて「PDE6蛋白質機能異常関連疾患」という)等をあげることができ、網膜色素変性症としては、非定型網膜色素変性症、定型網膜色素変性症、全身疾患に合併する網膜色素変性症等を、遺伝性の視細胞変性を伴う疾患としては、網膜色素変性症以外の当該疾患、例えば、黄斑ジストロフィー等を、PDE6蛋白質機能異常関連疾患としては、色覚異常、常染色体優性先天性夜盲症(autosomal dominant congenital stationary night blindness)、網膜色素変性症等を、それぞれあげることができるが、それらに限定されるものではない。また、本発明の医薬組成物は、視細胞変性抑制剤としても使用され得る。
【0119】
本発明の医薬組成物が、HTRA1関連疾患の治療又は予防に使用し得ることは、例えば、Rd10網膜色素変性症モデルマウス(PDE6βサブユニットをコードするPde6b遺伝子が変異を有している)において、本発明のHTRA1阻害ペプチドを投与すると、対照群に比して、網膜外顆粒層の増大が認められることにより(実施例15)、確認することができる。また、ロドプシン遺伝子変異のあるモデル動物におけるHTRA1遺伝子発現の増加は、視細胞変性と相関していた(実施例16)。本発明の医薬組成物は、網膜色素変性症、網膜色素変性症以外の遺伝性(ロドプシン遺伝子の限定されない)の視細胞変性を伴う疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療又は予防に使用し得る。
本発明のHTRA1阻害ペプチドは、組織への浸透性に優れ(実施例11)、物性・安定性、安全性、投与後の動態、生産性等にも優れており、医薬組成物に有効成分として好適に含有せしめることができる。
【0120】
本発明の医薬組成物には、治療または予防に有効な量のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートと薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含有せしめることができる。
【0121】
「治療または予防に有効な量」とは、特定の疾患、投与形態および投与径路につき治療又は予防効果を奏する量を意味し、「薬理学的に有効な量」と同義である。
【0122】
本発明の医薬組成物には、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、該組成物又はそれに含まれる本発明のペプチド、そのコンジュゲートの安定性、溶解性、徐放性、吸収性、浸透性、剤型、強度、性状、形状等を変化させたり、維持したり、保持したりするための物質(以下、「製剤用の物質」という)を含有せしめることができる。製剤用の物質としては、薬理学的に許容される物質であれば特に限定されるものではない。例えば、非毒性又は低毒性であることは、製剤用の物質が好適に具備する性質である。
【0123】
製剤用の物質として、例えば、以下のものをあげることができるが、これらに限定されるものではない;グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類やグルコース、マンノースやデキストリン等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等ポリソルビテート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールやソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。
【0124】
これらの製剤用の物質の添加量は、HTRA1阻害ペプチドの重量に対して0.001乃至1000倍、好適には0.01乃至100倍、より好適には0.1乃至10倍である。
【0125】
HTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートをリポソーム中に含有せしめたもの、HTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートとリポソームとが結合してなる修飾体を含有する医薬組成物も、本発明の医薬組成物に含まれる。
【0126】
賦形剤や担体は、通常液体又は固体であり、注射用の水、生理食塩水、人工脳脊髄液、その他の、経口投与又は非経口投与用の製剤に用いられる物質であれば特に限定されない。生理食塩水としては、中性のもの、血清アルブミンを含むもの等をあげることができる。
【0127】
緩衝剤としては、医薬組成物の最終pHが7.0乃至8.5になるように調製されたTrisバッファー、同じく4.0乃至5.5になるように調製された酢酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたクエン酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたヒスチジンバッファー等を例示することができる。
【0128】
本発明の医薬組成物は、固体、液体、懸濁液等である。凍結乾燥製剤をあげることができる。凍結乾燥製剤を成型するには、スクロース等の賦形剤を用いることができる。
【0129】
本発明の医薬組成物の投与経路としては、点眼、経腸投与、局所投与及び非経口投与のいずれでもよく、例えば、結膜上への点眼、硝子体内投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、骨内投与、関節内投与等をあげることができる。
【0130】
かかる医薬組成物の組成は、投与方法、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1結合親和性等に応じて決定することができる。本発明のHTRA1阻害ペプチドの標的であるHTRA1に対する阻害活性が強い(IC50値が小さい)か又はHTRA1蛋白質に対する親和性が高いほど(K値が低い)ほど、少ない投与量でその薬効を発揮し得る。
【0131】
本発明のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートの投与量は、薬理学的に有効な量であれば限定されず、個体の種、疾患の種類、症状、性別、年齢、持病、該ペプチドのHTRA1蛋白質結合親和性又はその生物活性、その他の要素に応じて適宜決定することができるが、通常、0.01乃至1000mg/kg、好適には0.1乃至100mg/kgを、1乃至180日間に1回、又は1日2回若しくは3回以上投与することができる。
【0132】
医薬組成物の形態としては、注射剤(凍結乾燥製剤、点滴剤を含む)、坐剤、経鼻型吸収製剤、経皮型吸収製剤、舌下剤、カプセル、錠剤、軟膏剤、顆粒剤、エアーゾル剤、丸剤、散剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、生体埋め込み型製剤等を例示することができる。
【0133】
HTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを有効成分として含む医薬組成物は、他の医薬と同時に又は別個に投与することができる。例えば、他の医薬を投与した後にHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを有効成分として含む医薬組成物を投与するか、かかる医薬組成物を投与した後に、他の医薬を投与するか、または、当該医薬組成物と他の医薬とを同時に投与してもよい。同時に投与する場合、HTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートと他の医薬とは、単一の製剤、及び、別々の製剤(複数の製剤)、のいずれに含有されてもよい。
【0134】
本発明の医薬組成物と組み合わせて使用される他の医薬としては、例えば、抗VEGF剤、抗炎症剤、炎症性サイトカイン中和剤、補体活性化経路抑制剤等をあげることができる。抗VEGF剤は、抗VEGF抗体、VEGF阻害剤、VEGF受容体アンタゴニスト及び可溶型VEGF受容体等に分類され、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ペガプタニブ、ブロルシズマブ(brolucizumab)等が含まれる。抗炎症剤としては、眼内又は関節内炎症を抑制するために局所投与され得るものであれば特に限定されない。炎症性サイトカイン中和剤には、抗TNFα抗体、抗インターロイキン-6(以下、「IL-6」という)抗体、抗IL-6受容体抗体、可溶型TNF受容体等があり、具体的にはインフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ、トシリズマブ、エタネルセプト等をあげることができる。補体活性化経路抑制剤としては、ランパリズマブ等をあげることができる。それらはHTRA1に関わる疾患の治療又は予防のために好適であるが、HTRA1に関わる疾患以外の疾患の治療又は予防においても本発明の医薬組成物と組み合わせることができる。
【0135】
それらの他の医薬は、1つの場合もあり、2つ、3つあるいはそれ以上を投与するか又は受けることもできる。それらをまとめて本発明の医薬組成物と「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」と呼び、本発明の抗体、その結合断片若しくはその修飾体に加えて他の医薬を含むか又は他の療法と組み合わせて使用される本発明の医薬組成物も「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」の態様として本発明に含まれる。
【0136】
本発明は、HTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを投与する工程を含む、網膜色素変性症等HTRA1に関わる疾患の治療方法又は予防方法、該疾患の治療用又は予防用医薬組成物を調製するための本発明のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートの使用、該疾患の治療又は予防のためのHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートの使用、をも提供する。本発明のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを含む治療用又は予防用キットも本発明に含まれる。
【0137】
さらに、本発明は、HTRA1ペプチド又はそのコンジュゲートの有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、又は、該ポリヌクレオチドもしくは該ベクターを含むか又は本発明のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを発現する細胞を含む医薬組成物をも提供する。例えば、かかるポリヌクレオチド及びベクターはHTRA1に関わる疾患の遺伝子治療に、かかる細胞はHTRA1に関わる疾患の細胞治療に、それぞれ公知の手法を用いて適用することができる。また、例えば、かかるポリヌクレオチド又はベクターを、自家細胞又は他家細胞(同種細胞)に導入することにより、細胞治療用の細胞を調製することができる。そのようなポリヌクレオチド及びベクターは、細胞治療薬調製用の組成物としても、本発明に包含される。しかしながら、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞等を含む医薬組成物の態様は上記のものに限定されない。
【0138】
6.診断用組成物及びHTRA1の検出
本発明のHTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートは、HTRA1プロテアーゼ阻害活性に加え、HTRA1結合活性を有していてもよく、HTRA1阻害剤探索研究のポジティブコントロールとしての使用等の様々な研究、HTRA1の検出、該検出を利用した検査及び診断、HTRA1の分離、試薬及びその他の用途で使用され得る。HTRA1の検出や分離の際には、本発明のペプチド及びHTRA1のうち少なくとも一方が固相化され得る。
【0139】
本発明は、HTRA1に結合する本発明のペプチド又はそのコンジュゲートを含む検査用又は診断用組成物(以下、まとめて「診断用組成物」という)を提供する。
【0140】
本発明の診断用組成物は、HTRA1関連疾患、HTRA1発現等の検査又は診断に有用である。本発明において検査又は診断には、例えば、罹患リスクの判定又は測定、罹患の有無の判定、進行や増悪化の程度の測定、HTRA1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを含む医薬組成物による薬物治療の効果の測定又は判定、薬物治療以外の治療の効果の測定又は判定、再発リスクの測定、再発の有無の判定等が含まれるが、検査又は診断であればそれらに限定されるものではない。
【0141】
本発明の診断用組成物は、本発明のペプチド又はそのコンジュゲート、それらを含む組成物、それらを含む医薬組成物を投与する個体の同定に有用である。
【0142】
かかる診断用組成物には、pH緩衝剤、浸透圧調節剤、塩類、安定化剤、防腐剤、顕色剤、増感剤、凝集防止剤等を含有せしめることができる。
【0143】
本発明はHTRA1に関わる疾患、の検査方法又は診断方法、該疾患の診断用組成物を調製するための本発明のペプチドの使用、該疾患の検査又は診断のための、HTRA1に結合する本発明のペプチド又はそのコンジュゲートの使用、をも提供する。かかる本発明のペプチド又はそのコンジュゲートを含む検査又は診断用キットも本発明に含まれる。
【0144】
HTRA1に結合する本発明のペプチドを含む検査又は診断の方法としてはサンドウィッチELISAが望ましいが、通常のELISA法やRIA法、ELISPOT法、ドットブロット法、オクタロニー法、CIE法、CLIA、フローサイトメトリー等の検出方法が利用可能である。免疫沈降法を利用した方法でも検査又は診断が可能である。
【0145】
また、本発明は被検サンプル中のHTRA1を検出又は測定する方法を提供する。これらの検出又は測定方法には、本発明の診断用組成物を使用することができる。HTRA1阻害ペプチド、又は、そのコンジュゲートを被検試料と接触させ(工程1)、次いで該ペプチドに結合したHTRA1の量又は測定を測定する(工程2)ことにより、該試料中のHTRA1を検出することができる。工程1としては、例えば、HTRA1阻害ペプチドに免疫グロブリンのFc領域をコンジュゲートしたものを、プロテインGを介して磁気ビーズに固相化し、そこに被検試料を添加する等、工程2としては、例えば、磁気ビーズを分離し、ビーズと共に沈殿した可溶性蛋白質をSDS-PAGEやWestern blot法で解析し、HTRA1を検出する等をあげることができる。本測定には、ヒト又は非ヒト動物由来の試料に加え、組換え蛋白質等の人工的な処理を加えた試料をも供することができる。生物個体由来の被検試料としては、例えば、血液、関節液、腹水、リンパ液、脳脊髄液、肺胞洗浄液、唾液、痰、組織ホモジネート上清、組織切片等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。
【0146】
前記のHTRA1の検出は、イン・ビトロのみならず、イン・ビボでも実施することができる。画像診断の場合は、薬学的に許容可能な放射性核種や発光体で標識されたHTRA1阻害ペプチド、又は、そのコンジュゲートを利用することができる。工程1としては、例えば、被験者に、標識された該ペプチドもしくはそのコンジュゲートを投与する、工程2としては、例えば、PET/CT等の画像診断技術を使用して画像を取り、HTRA1の存在を判定又は検査する等をあげることができる。
【0147】
本発明の診断用組成物に含まれるペプチド又はそのコンジュゲートはHTRA1に結合し、好適にはHTRA1特異的結合活性を有する。
【0148】
本発明の医薬組成物が投与される個体を同定する方法も本発明に包含される。かかる同定方法においては、該個体由来サンプル中のHTRA1を本発明のHTRA1結合ペプチドを用いて測定し、該サンプル中に、HTRA1が検出されたか、又は、健常個体由来サンプル中に検出されたHTRA1の量と比較してより多くのHTRA1が検出された場合に、該個体を陽性と判定することができる。当該方法には、本発明の診断用組成物を使用することができる。
【0149】
また、かかる同定方法の好適な一態様において、該個体はHTRA1関連疾患に罹患しているか又はそのリスクがある。
【0150】
さらに、本発明の医薬組成物は、その一態様において、かかる同定方法において陽性と判定された個体に投与され得る。
【0151】
HTRA1に特異的な結合活性を有する本発明のペプチド又はそのコンジュゲートを用いて、HTRA1と他の成分が混在した試料中から、HTRA1を特異的に分離することができる。ペプチドからのHTRA1の遊離は、相対的に高いイオン強度、低いpH、中程度の変性条件、カオトロピック塩の存在下等で、非選択的に行うことができるが、HTRA1のプロテアーゼ活性を減弱させない範囲で行うことが好ましい。
【0152】
7.HTRA1関連疾患の治療薬又は予防薬の同定方法
本発明はそのある態様において、HTRA1阻害活性を指標として、HTRA1関連疾患、好適には網膜色素変性症、網膜色素変性症以外の遺伝性の視細胞変性を伴う疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療薬もしくは予防薬、又はその候補を同定する方法を提供する。該方法には、HTRA1プロテアーゼ及び基質を、被検物質の存在下又は非存在下(若しくはヴィークル存在下)で保温する工程1、被検物質の存在下及び非存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性を決定する工程2、及び/又は、被検物質の存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性が、検物質の非存在下でのHTRA1プロテアーゼ活性と比較して小さい場合、該被検物質を網膜色素変性症、網膜色素変性症以外の遺伝性の視細胞変性を伴う疾患、及び/又は、PDE6蛋白質機能異常関連疾患の治療薬もしくは予防薬、又はその候補と判定する工程3、を含み得る。被検物質は、ペプチド性、非ペプチド性のいずれであってもよく、ペプチド性としてはSPINK2変異体に限定されず、抗体、免疫グロブリンではない蛋白質の骨格を有するSPINK2変異体以外のペプチド、HTRA1基質アナローグ等を例示することができ、非ペプチド性としては合成低分子化合物、核酸等を例示することができるが、それらに限定されない。また、上記の1つ又は2つ以上の工程は、視細胞変性抑制効果を有する物質又はその候補の同定方法にも、好適に含まれ得る。本発明は視細胞変性抑制効果を有する物質又はその候補の同定方法にも関する。
【実施例
【0153】
以下の実施例において、本発明の一部の態様についてさらに詳述するが、本発明はそれらに限定されない。
【0154】
なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.著,Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1982年発刊又は1989年発刊)に記載の方法及びその他の当業者が使用する実験書に記載の方法により行うか、または、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って行った。
【0155】
実施例1.HTRA1阻害ペプチドの調製
(1-1)HTRA1阻害ペプチド発現ベクターの構築
(1-1-1)pET 32a(改変)_HTRA1阻害ペプチドの構築
まず、SPINK2scaffoldを骨格としたHTRA1阻害ペプチドの発現ベクターを構築した。各阻害ペプチドのヌクレオチド配列(配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20及び22)とSPINK2のヌクレオチド配列(配列番号2)を鋳型として、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)により阻害剤断片を増幅した。
プライマー1:5’-AAAAGAATTCTGATCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号33)
プライマー2:5’-AAAACTCGAGTTATGCGGCCGCAGACGCGCCGCACGGACC-3’ (配列番号34)
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(改変)を制限酵素EcoRI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、精製した断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌へ形質転換した。翌日、形質転換した大腸菌を、0.1mg/mlアンピシリンを含むTerrific Broth培地(Invitrogen)に植菌し、37℃で一晩培養後、QIAprep 96 Turbo Miniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを回収し(以下、「miniprep処理」という)、配列解析を実施することで「pET 32a(改変)_HTRA1阻害ペプチド」を構築した。
(1-1-2)pET 32a_HTRA1阻害ペプチド_Kex2の構築
同様に、各阻害剤の配列(配列表)とSPINK2を鋳型として、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)により阻害剤断片を増幅した。
プライマー3:5’-AAAAGGATCCCTGGACAAACGTGATCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号35)
プライマー4:5’-AAAACTCGAGTTAGCCGCCGCACGGACCATTGCGAATAATTTTA-3’ (配列番号36)
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(Novagen)を制限酵素BamHI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、それぞれの精製断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pET 32a_HTRA1阻害ペプチド_Kex2」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
(1-2)HTRA1阻害ペプチドの発現精製
(1-1-1)で構築したベクターpET 32a(改変)_HTRA1阻害ペプチドを大腸菌Origami B (DE3)(Novagen)へ形質転換し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YT培地を用いて37℃で培養後、IPTG(最終濃度1mM)を添加し、16℃で一晩培養した。翌日、遠心分離(3,000g、20分、4℃)により集菌後、BugBuster Master Mix(Novagen)を用いてlysateを調製し、TALON Metal Affinity Resin(Clontech)を用いてHis tag融合目的蛋白質を精製した。次に、Thrombin Cleavage Capture Kit(Novagen)を用いてthioredoxin tagと所望の蛋白質とを切断し、TALONを用いて精製した。さらに、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex75 10/300 GL)または逆相クロマトグラフィー(YMC-Pack ODS-AM)に供することで、HTRA1阻害ペプチドを調製した。得られたペプチドのN末端にはS tag及びリンカーからなる部分(配列番号31:図43)が、C末端にはGly-Glyの代わりにC末6マー(配列番号32:図44)が、それぞれコンジュゲートされている。
【0156】
同様に、(1-1-2)で構築したベクターpET 32a_HTRA1阻害ペプチド_Kex2を大腸菌Origami B (DE3)(Novagen)へ形質転換し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YT培地を用いて37℃で培養後、IPTG(最終濃度1mM)を添加し、16℃で一晩培養した。翌日、遠心分離(3,000g、20分、4℃)により集菌後、BugBuster Master Mix(Novagen)を用いてlysateを調製し、TALON Metal Affinity Resin(Clontech)を用いてHis tag融合目的蛋白質を精製した。次に、Kex2 (Saccharomyces cerevisiae:Accession CAA96143)を用いてthioredoxin tagと所望の蛋白質とを切断し、TALONを用いて精製した。さらに、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex75 10/300 GL)または逆相クロマトグラフィー(YMC-Pack ODS-AM)に供することで、HTRA1阻害ペプチド(N末及びC末にタグ、リンカー等はコンジュゲートされていない)を調製した。
【0157】
実施例2.HTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
ヒト/マウス/ラット/サルHTRA1の配列類似性を図1に示す。酵素活性ドメインであるHTRA1プロテアーゼドメイン(204Gly-364Leu)を構成する一次配列はヒトとサルにおいて完全に一致している。ヒトとマウスまたはラットのHTRA1プロテアーゼドメイン配列は1残基異なっているが、構造上、当該残基は酵素活性中心の反対側に位置していることから酵素活性中心に影響を与えないと推測された(図1)。よって、HTRA1プロテアーゼドメインはヒト/マウス/ラット/サルの種によらず同配列であることから、種に関しては明示しない。
(2-1)HTRA1プロテアーゼドメインHTRA1(cat)の調製
(2-1-1)pET 21b_HTRA1(cat)の構築
ヒトHTRA1(Q92743)のN末ドメインおよびPDZドメインを除いたプロテアーゼドンメイン(158Gly-373Lys)をHTRA1(cat)として、HTRA1(cat)発現ベクターを構築した。ヒトHTRA1挿入プラスミド(GeneCopoeia;GC-M0558)を鋳型として下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 45秒)×30サイクル)により所望のDNA断片を増幅した。
プライマー5:5’-AAACATATGGGGCAGGAAGATCCCAACAGTTTGC-3’ (配列番号37)
プライマー6:5’-AAACTCGAGTTTGGCCTGTCGGTCATGGGACTC-3’ (配列番号38)
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(Novagen)を制限酵素NdeI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、それぞれの精製断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pET 21b_HTRA1(cat)」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
【0158】
(2-1-2)HTRA1(cat)の調製
構築したpET 21b_HTRA1(cat)は大腸菌BL21 (DE3)(Novagen)へ形質転換し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YT培地を用いて37℃で培養後、IPTG(最終濃度1mM)を添加し、28℃で一晩培養した。集菌後に1mg/mlリゾチームを含むリン酸バッファー(50mM Sodium phosphate,300mM NaCl)で懸濁し、超音波破砕によりlysateを調製した。TALON(Clontech)を用いて所望のHis tag融合タンパクを回収し、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 200 10/300 GL)に供することでHTRA1(cat)を精製した。
(2-2)HTRA1全長HTRA1(full)の調製
(2-2-1)pcDNA3.1_HTRA1(full)_Hisの構築
合成したヒトHTRA1(Q92743)DNA(GENEART)を鋳型とし、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 90秒)×30サイクル)により所望のDNA断片を増幅した。
プライマー7:5’-AAAAGAATTCGCCACCATGCAGATTCCTAGAGCCG-3’ (配列番号39)
プライマー8:5’-AAAACTCGAGTCAGTGGTGATGGTGGTGGTGGCCGG-3’ (配列番号40)
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片とpcDNA3.1(Thermo Fisher Scientific)を制限酵素EcoRI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、それぞれの精製断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pcDNA3.1_HTRA1(full)_His」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
(2-2-2)pcDNA3.3_HTRA1(full)_FLAG_Hisの構築
(2-2-1)で構築したpcDNA3.1_HTRA1(full)_Hisを鋳型として、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 90秒)×30サイクル)により断片Aを増幅した。
プライマー7
プライマー9:5’-CTTGTCGTCATCGTCCTTGTAGTCGCCGGGGTCGATTTCCTC-3’ (配列番号41)
次に、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 10秒)×30サイクル)により断片Bを増幅した。
プライマー10:5’-GCGACTACAAGGACGATGACGACAAGCACCACCACCATCATCAC-3’ (配列番号42)
プライマー11:5’-AAAAACTCGAGCTAGTGATGATGGTGGTGGTGCTTGTCGTC-3’ (配列番号43)
断片Aおよび断片Bを鋳型として、プライマー7および11、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 90秒)×30サイクル)により所望のDNA断片を増幅した。増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片とpcDNA3.3(ThermoFisher Scientific)を鋳型としたベクター)を制限酵素EcoRI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、それぞれの精製断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pcDNA3.3_HTRA1(full)_FLAG_His」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
(2-2-3)HTRA1(full)の調製
(2-2-2)で構築したpcDNA3.3_HTRA1(full)_FLAG_HisはPolyethylenimine Max(Polysciences,Inc.)を用いてFreeStyle 293F(Thermo Fisher Scientific)にtransfectionし、6日後に培養上精を回収した。HisTrap excel(GE Healthcare)によりHis tag融合タンパク質を回収し、さらにANTI-FLAG M2 Affinity Agarose Gel(Sigma-Aldrich)を用いることでHTRA1(full)を精製した。
【0159】
(2-3)HTRA1不活性変異体HTRA1(S328A)の調製
(2-3-1)pcDNA3.3_HTRA1(S328A)_FLAG_Hisの構築
HTRA1不活性変異体HTRA1(S328A)発現ベクターを構築するため、実施例(2-2-2)で構築したベクター「pcDNA3.3_HTRA1(full)_FLAG_His」を鋳型として、下記プライマーおよびQuikChange II Site-Directed Mutagenesis Kits(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いたPCR法((95℃ 30秒、55℃ 1分、68℃ 7分)×18サイクル)を実施した。
プライマー21:5’-CCATCATCAACTACGGCAACGCGGGCGGACCCCTCGTGAACC-3’ (配列番号55:図76
プライマー22:5’-GGTTCACGAGGGGTCCGCCCGCGTTGCCGTAGTTGATGATGG-3’(配列番号56:図77
PCR反応後、キット付属のプロトコールに従い、DpnI処理したPCR反応液を用いて大腸菌JM109(TOYOBO)を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pcDNA3.3_HTRA1(S328A)_FLAG_His」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
(2-3-2)HTRA1(S328A)の調製
(2-2-3)に記載の方法に従い、FreeStyle 293Fを用いてHTRA1(S328A)を発現し、Affinity精製によりHTRA1(S328A)を調製した。
【0160】
実施例3.HTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
(3-1)ペプチド基質を用いたHTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
基質ペプチドH2-Opt(Mca-IRRVSYSFK(Dnp)K)(株式会社ペプチド研究所:配列番号54、図8)を10mMになるようDMSOで溶解し、Assay buffer(50mM borate,150mM NaCl,pH8.5)で希釈して終濃度10μMで使用した。Assay bufferで希釈したHTRA1(HTRA1(cat)またはHTRA1(full))とHTRA1阻害ペプチドをそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナル(excitation 328nm/emission 393nm)を測定した。HTRA1は終濃度100nM、HTRA1阻害ペプチドは終濃度1.875~1,000nM、反応および測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。
【0161】
各濃度におけるHTRA1阻害ペプチドの基質ペプチド分解速度を算出し、阻害剤濃度0nMの分解速度を100%として、各HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)およびHTRA1(full)阻害活性を評価した(図2及び3)。GraphPad Prism (version 5.0; GraphPad Software Inc.)を用いて50%阻害濃度(IC50)を算出した結果、いずれのHTRA1阻害ペプチドも低濃度でHTRA1(cat)およびHTRA1(full)酵素活性を阻害することが明らかになった(図2A乃至C及び図3)。対照的に、野生型SPINK2(wt)はHTRA1阻害活性を示さなかった(図2D)。
【0162】
【表1】
【0163】
(3-2)タンパク基質を用いたHTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
ヒトVitronectinをタンパク基質として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性を評価した。Assay buffer(50mM Tris,150mM NaCl,pH8.0)で希釈したHTRA1(cat)と各HTRA1阻害ペプチドを混合し、37℃で1時間反応した。次に、Assay bufferで希釈したヒトVitronectin(BD Biosciences;354238)を加えて37℃で2時間反応させ、SDSサンプルバッファーを添加し、99℃で5分処理することで酵素反応を停止した。その後、SDS-PAGEおよびWestern blot解析により、ヒトVitronectinの分解を評価した。HTRA1阻害ペプチドの終濃度は0~25μM、HTRA1(cat)の終濃度は1μM、ヒトVitronectinの終濃度は1μMであった。また、Western blot解析では、一次抗体にHuman Vitronectin Antibody(R&D Systems;MAB2349)、二次抗体にAnti-Mouse IgG,HRP-Linked Whole Ab Sheep(GE Healthcare;NA931)を使用した。
【0164】
(3-1)と同様、ヒトitronectinを基質とした場合でもHTRA1阻害ペプチドは強力にHTRA1(cat)阻害を示した(図4)。
【0165】
(3-3)HTRA1阻害ペプチドの特異性評価
基質ペプチドの切断を指標に、他のプロテアーゼに対する特異性を評価した。(3-1)に記載の方法と同様、Assay bufferで希釈したプロテアーゼとサンプル(終濃度1μM)をそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナル(excitation 380nm/emission 460nm)を測定した。尚、HTRA2活性評価では実施例2と同様のAssay buffer(50mM borate,150mM NaCl,pH8.5)、HTRA2以外のプロテアーゼ活性評価にはAssay buffer(50mM Tris,150mM NaCl,pH8.0)を用い、反応および測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。特異性評価に用いたプロテアーゼおよび基質の組み合わせは以下の通り。
Bovine trypsin阻害活性評価;終濃度5nM trypsin(Pierce;20233)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-VPR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(R&D Systems;ES011)
Bovine α-chymotrypsin阻害活性評価;終濃度10nM chymotrypsin(Worthington Biochemical Corporation;LS001434)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)
Human tryptase阻害活性評価;終濃度1nM tryptase(Sigma-Aldrich;T7063)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Phe-Ser-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3107-v)
Human chymase阻害活性評価;終濃度100nM chymase(Sigma-Aldrich;C8118)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)
Human plasmin阻害活性評価;終濃度50nM Plasmin(Sigma-Aldrich;P1867)、終濃度100μM基質 ペプチドBoc-Val-Leu-Lys-MCA(株式会社ペプチド研究所;3104-v)
Human thrombin阻害活性評価;終濃度1nM thrombin(Sigma-Aldrich;T6884)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-VPR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(R&D Systems;ES011)
Human matriptase阻害活性評価;終濃度1nM matriptase(R&D Systems;E3946-SE)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-QAR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(R&D Systems;ES014)
Human protein C阻害活性評価;終濃度100nM protein C(Sigma-Aldrich;P2200)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Leu-Ser-Thr-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3112-v)
Human tPA阻害活性評価;終濃度10nM tPA(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)
Human uPA阻害活性評価;終濃度10nM uPA(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)
Human plasma kallikrein阻害活性評価;終濃度0.125μg/ml plasma kallikrein(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドZ-Phe-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3095-v)
Human HTRA2阻害活性評価;終濃度200nM HTRA2(R&D Systems;1458-HT)、終濃度50μM 基質ペプチドH2-Opt(株式会社ペプチド研究所)
(3-2)と同様、ペプチド基質の分解を指標にHTRA1以外のプロテアーゼへの交差性を評価した。阻害剤の終濃度1uMにおいては、いずれのプロテアーゼに対しても各HTRA1阻害ペプチドはプロテアーゼ活性を抑制せず、HTRA1阻害ペプチドはHTRA1特異的な阻害作用を有することが示された(図5)。
【0166】
実施例4.X線結晶構造を用いたHTRA1阻害ペプチドの解析
(4-1)HTRA1(cat)/HTRA1阻害ペプチド複合体の調製
(1-2)および(2-1)に記載した方法に従って、HTRA1(cat)および配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するHTRA1阻害ペプチドをそれぞれ調製した。20mM Tris-HCl,150mM NaCl,pH7.6の条件下で両者を混合後、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 200 10/300 GL)により複合体を単離精製した。
(4-2)X線結晶構造解析
(4-1)で調製した複合体溶液を18mg/mlまで濃縮後、リザーバー溶液(LiCl 1.0M,7.5%PEG6000,0.1M Tris/HCl(pH8.5))と1対1で混合し、蒸気拡散法により結晶化した。得られた立方体状の単結晶を、20%のエチレングリコールを含むリザーバー溶液に浸漬した後液体窒素にて凍結した。凍結結晶をクライオ気流下でX線照射し、回折イメージを得た(photon factory BL5A:高エネルギー加速器研究機構)。HKL2000を使用した解析により、最大分解能2.6Aのスケーリングデータを取得した。Serine protease HTRA1(PDB ID:3NZI)を鋳型とした分子置換法により位相を決定し、構造精密化後、分解能2.6AでHTRA1(cat)/該ペプチドの複合体結晶を決定した。単位格子中にはHTRA1とSPINK2が各1分子ずつ含まれていた。SPINK2分子については、配列情報と観測された電子密度に基づき、HTRA1(cat)との相互作用部位を含む部分的な分子モデルを構築した。当該HTRA1阻害ペプチドはHTRA1酵素活性中心を含む領域へ結合していることが認められた(図6及び7)。
【0167】
実施例5.ラット光照射網膜障害モデルにおけるHTRA1阻害による網膜保護効果
(5-1)ラット光照射網膜障害モデルの作製
ラット光照射網膜障害モデルは光照射により網膜視細胞の細胞死を誘発させるモデルであり、網膜変性のモデル動物として汎用されている(Daniel T. Organisciak et al., (1996) Invest Ophthalmol Vis Sci. 37巻(11号):2243-2257頁)。72時間暗順応させたラットに対し、0.5%(W/V)トロピカミド-0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を暗順応下で点眼し、その後5500Luxの白色光を3時間照射した。照射後、再び約24時間暗順応させ、その後は通常飼育の明暗条件に戻して2日間飼育した。安楽殺後に眼球を摘出し、3.7%(W/V)ホルムアルデヒド-0.5~1%(W/V)メタノール-0.2%(W/V)ピクリン酸固定液で24時間以上浸漬させ固定した。パラフィン包埋後、薄切切片を作製した。切片はヘマトキシリン-エオジン染色を行い、網膜断層の外顆粒層に含まれる核の数を数えることで、網膜障害を評価した。ラット光照射網膜障害モデルは光照射により、外顆粒層に含まれる核の数が顕著に減少することが明らかになった。
(5-2)網膜障害時の細胞外HTRA1の発現確認
ラット光照射網膜障害モデルにおけるHTRA1の関与を調べるため、(5-1)で作製したモデルラットから硝子体液を採取し、Western blot解析によりHTRA1発現量を評価した。硝子体液は還元条件下でSDS-PAGEに供し、一次抗体Human HTRA1/PRSS11 Antibody(R&D Systems;AF2916)および二次抗体Sheep IgG Horseradish Peroxidase-conjugated Antibody(R&D Systems;HAF016)を用いてラットHTRA1を検出した。非照射群と比較し、光照射した群においては硝子体液中のHTRA1量の増加が認められたことから、当該モデルでは、光照射による網膜障害の過程にHTRA1が関与するものと考えられる(図9)。
(5-3)ラット光照射網膜障害モデルにおけるHTRA1阻害ペプチドの網膜保護効果
ラットへの光照射直前に麻酔下で、0.04mg/mLまたは0.2mg/mLの濃度のHTRA1阻害ペプチドH308を5uL硝子体内に投与した。尚、生理食塩水投与群の例数は4であり、その他の群の例数は5であった。生理食塩水投与群は光照射により網膜断層の外顆粒層に含まれる核が減少したのに対し、HTRA1阻害ペプチド投与群では外顆粒層に含まれる核の減少を抑制する効果が認められた(図10)。以上より、HTRA1により引き起こされた組織障害に対し、HTRA1阻害ペプチドは薬効を示すことが明らかになった。
【0168】
実施例6.HTRA1阻害ペプチド誘導体の評価
(6-1)pET 32a_HTRA1阻害ペプチドH308_S16A_Kex2の構築
HTRA1阻害ペプチドH308を鋳型として、配列番号9(図21)で示されるアミノ酸配列中の16番SerがAlaに置換されたアミノ酸配列を有する誘導体S16Aを調製した。下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 15秒)×30サイクル)により断片Cを増幅した。
プライマー12:5’-CCGCAGTTTGGTCTGTTTAGCAAATATCGTACCCCGAATTGT-3’ (配列番号44)
プライマー13:5’-GCCATACCAGCATGGTCCGCACAATTCGGGGTACGATATTTGC-3’ (配列番号45)
次に、HTRA1阻害ペプチドH308を鋳型として、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 20秒)×30サイクル)により断片Dを増幅した。
プライマー14:5’-GCGGACCATGCTGGTATGGCATGTGTTGCTCTGTATGAAC-3’ (配列番号46)
プライマー15:5’-AAAACTCGAGTTAGCCGCCGCACGGACCATTGCGAATAA-3’ (配列番号47)
断片CとD、下記プライマー、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 20秒)×30サイクル)により所望のDNA断片を増幅した。
プライマー16:5’-AAAAGGATCCCTGGACAAACGTGATCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号48)
プライマー15
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(Novagen)を制限酵素BamHI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、それぞれの精製断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pET 32a_HTRA1阻害ペプチドH308_S16A_Kex2」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
【0169】
(6-2)HTRA1阻害ペプチド_N末誘導体発現ベクターの調製
配列番号9(図21)で示されるアミノ酸配列中、1番AspがGly、Ser、Glu又はSer-Leu-Ileで置換されたアミノ酸配列を有する、HTRA1阻害ペプチドのN末端配列誘導体4種(それぞれD1G,D1S,D1E又はD1SLIと表記する)を調製するため、(6-1)と同様の手法で発現ベクターを構築した。断片CおよびD、下記プライマー、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 20秒)×30サイクル)により目的断片4種をそれぞれ増幅した。
D1G作製プライマー
プライマー17:5’-AAAAGGATCCCTGGACAAACGTGGCCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号49)
プライマー15
D1S作製プライマー
プライマー18:5’-AAAAGGATCCCTGGACAAACGTAGCCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号50)
プライマー15
D1E作製プライマー
プライマー19:5’-AAAAGGATCCCTGGACAAACGTGAACCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号51)
プライマー15
D1SLI作製プライマー
プライマー20:5’-AAAAGGATCCCTGGACAAACGTAGCCTGATTCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’ (配列番号52)
プライマー15
増幅した4種の断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(Novagen)を制限酵素BamHI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、それぞれの精製断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。形質転換された大腸菌を培養した後に、miniprepおよび配列解析を実施することで、「pET 32a_HTRA1阻害ペプチドH308_D1G_S16A_Kex2」「pET 32a_HTRA1阻害ペプチドH308_D1S_S16A_Kex2」「pET 32a_HTRA1阻害ペプチドH308_D1E_S16A_Kex2」「pET 32a_HTRA1阻害ペプチドH308_D1SLI_S16A_Kex2」を構築した。尚、操作は(1-1-1)に記載の方法に準じて行った。
(6-3)HTRA1阻害ペプチド誘導体の調製
(6-1)および(6-2)で構築したベクター5種をそれぞれ大腸菌Origami B (DE3)(Novagen)へ形質転換し、0.1mg/mlアンピシリンを含む2YT培地を用いて37℃で培養後、IPTG(最終濃度1mM)を添加し、16℃で一晩培養した。翌日、遠心分離(3,000g、20分、4℃)により集菌後、BugBuster Master Mix(Novagen)を用いてlysateを調製し、TALON Metal Affinity Resin(Clontech)を用いてHis tag融合目的蛋白質を精製した。次に、Kex2(前述)を用いてthioredoxin tagと所望の蛋白質とを切断し、TALONを用いて精製した。さらに、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex75 10/300 GL)または逆相クロマトグラフィー(YMC-Pack ODS-AM)に供することで、HTRA1阻害ペプチド誘導体5種を調製した。該誘導体の有するアミノ酸配列は、配列番号23乃至27(図35乃至39)に記載されている。
(6-4)HTRA1阻害ペプチド誘導体の評価
(3-1)記載の方法に従い、HTRA1(cat)阻害活性を測定した結果、いずれの誘導体も阻害活性はH308と同等であった(図11)。
【0170】
実施例7.HTRA1阻害ペプチドとHTRA1(cat)の結合性評価
実施例(1-2)で調製した3種のHTRA1阻害ペプチド(H308、H321AT、H322AT)および(2-1)で調製したHTRA1(cat)を用いて、免疫沈降法により結合性を評価した。2.5μgの各HTRA1阻害ペプチドと10μgのHTRA1(cat)を室温で30分反応した後、10μLのTALON Metal Affinity Resin(Clontech)を添加した。さらに30分の反応後のResinをImmunoprecipitation(IP)画分として回収し、SDS-PAGEに供することで結合性を評価した。尚、反応のバッファーにはPBSを用いた。
【0171】
3種のHTRA1阻害ペプチドまたはHTRA1(cat)それぞれとTALONを反応させた場合、His tagが融合したHTRA1(cat)のみのバンドがinputレーンに検出された。一方、各阻害ペプチドとHTRA1(cat)を反応させたIPレーンのみで、阻害ペプチドと酵素のバンドが検出された。よって、3種のHTRA1阻害ペプチドはそれぞれHTRA1(cat)に結合することが確認された(図12)。
【0172】
実施例8.HTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
(8-1)ペプチド基質を用いたHTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
実施例6で構築した3種のHTRA1阻害ペプチド(H308_D1G_S16A、H321AT_D1G_S16A、H322AT_D1G_S16A)について、基質ペプチドH2-Optを用いて、HTRA1(cat)またはHTRA1(full)阻害活性を評価した(n=3)。基質ペプチドH2-Opt(Mca-IRRVSYSFK(Dnp)K)(株式会社ペプチド研究所:配列番号54、図8)を10mMになるようDMSOで溶解し、Assay buffer(50mM Tris,150mM NaCl,0.25% CHAPS,pH8.0)で希釈して終濃度10μMで使用した。Assay bufferで希釈したHTRA1(HTRA1(cat)またはHTRA1(full);実施例2)とHTRA1阻害ペプチドをそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナル(excitation 328nm/emission 393nm)を測定した。HTRA1は終濃度10nM、HTRA1阻害ペプチドは終濃度1.875~1,000nM、反応および測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。
【0173】
各濃度におけるHTRA1阻害ペプチドの基質ペプチド分解速度を算出し、阻害剤濃度0nMの分解速度を100%として、各HTRA1阻害ペプチドのHTRA1(cat)およびHTRA1(full)阻害活性を評価した。
【0174】
GraphPad Prism (version 5.0; GraphPad Software Inc.)を用いて50%阻害濃度(IC50)を算出した結果、いずれのHTRA1阻害ペプチドも低濃度でHTRA1(cat)およびHTRA1(full)酵素活性を阻害することが明らかになった(図66)。
【0175】
【表2】
【0176】
(8-2)タンパク基質を用いたHTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性評価
ヒトVitronectinをタンパク基質として、HTRA1阻害ペプチドのHTRA1阻害活性を評価した。操作は実施例(3-2)に従った。
【0177】
(8-1)と同様、ヒトVitronectinを基質とした場合でもHTRA1阻害ペプチドは強力にHTRA1(cat)阻害を示した(図67)。
【0178】
(8-3)HTRA1阻害ペプチドの特異性評価
基質ペプチドの切断を指標に、他のプロテアーゼに対する特異性を評価した。Bovine trypsin、Bovine α-chymotrypsin、Protein C、Tryptase、Chymase、Thrombin、Plasmin、tPA、Plasma kallikrein、Matriptase、uPA、HTRA2については実施例(3-3)に記載の方法に従った(n=3)。また、他のプロテアーゼに対する阻害活性の手順、プロテアーゼおよび基質の組み合わせは以下の通り。
【0179】
反応および測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用し、Assay bufferで希釈したプロテアーゼとサンプル(終濃度1μM)をそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナルを測定した。
【0180】
Human trypsin阻害活性評価;終濃度1nM trypsin(Sigma-Aldrich;T6424)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-VPR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(R&DSystems;ES011)、蛍光シグナルexcitation 380nm/emission 460nm。
【0181】
Human chymotrypsin阻害活性評価;終濃度10nM chymotrypsin(Sigma-Aldrich;C8946)、終濃度10μM 基質ペプチドSuc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)、蛍光シグナルexcitation 380nm/emission 460nm。
【0182】
Human FactorXIIa阻害活性評価;終濃度100nM Factor Alpha-XIIa(Enzyme Research Laboratories)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)、蛍光シグナルexcitation 380nm/emission 460nm。
【0183】
Human MMP-2阻害活性評価;終濃度1nM tryptase(Calbiochem;PF023)、終濃度100μM 基質ペプチドMOCAx-KPLGL-A2pr(Dnp)-AR(株式会社ペプチド研究所;3226-v)、蛍光シグナルexcitation 328nm/emission 393nm。
【0184】
Human TPP1阻害活性評価;終濃度0.5μg/mL TPP1(Calbiochem;2237-SE)、終濃度200μM 基質ペプチドAAF-MCA(株式会社ペプチド研究所;3201-v)、蛍光シグナルexcitation 380nm/emission 460nm。
【0185】
ペプチド基質の分解を指標にHTRA1以外のプロテアーゼへの交差性を評価した。いずれのプロテアーゼに対しても、各HTRA1阻害ペプチドの終濃度1uMではプロテアーゼ活性を抑制せず、HTRA1阻害ペプチドはHTRA1特異的な阻害作用を有することが示された(図68)。
【0186】
実施例9.HTRA1阻害ペプチドとHTRA1(cat)の結合性評価
実施例6で調製した3種のHTRA1阻害ペプチドおよび(2-1)で調製したHTRA1(cat)を用いて、実施例7の操作に従い、免疫沈降法により結合性を評価した。
【0187】
3種のHTRA1阻害ペプチドまたはHTRA1(cat)それぞれとTALONを反応させた場合、His tagが融合したHTRA1(cat)のみのバンドがinputレーンに検出された。一方、各阻害ペプチドとHTRA1(cat)を反応させたIPレーンのみで、阻害ペプチドと酵素のバンドが検出された。よって、3種のHTRA1阻害ペプチドはそれぞれHTRA1(cat)に結合することが確認された(図69)。
【0188】
実施例10.ラット光照射網膜障害モデルにおけるHTRA1阻害による網膜保護効果(その2)
実施例(5-1)で構築したラット光照射網膜障害モデルを用いて、実施例6で作製した3種のHTRA1阻害ペプチドの網膜保護効果を評価した。操作は実施例5に従った。いずれの群も例数は6であった。
【0189】
網膜病理評価の結果を図70に示す。3種のHTRA1阻害ペプチドは、光照射によって引き起こされる外顆粒層に含まれる核の数の減少に対して顕著な抑制作用を示した。
【0190】
実施例11.ハイドロキノン含有高脂肪食負荷によるウサギ網膜障害モデルにおけるHTRA1阻害による網膜色素上皮細胞の保護効果
(11-1)ハイドロキノン含有高脂肪食負荷によるウサギ網膜障害モデルの作製
高脂肪食(High Fat Diet;HFD)とハイドロキノン(Hydroquinone;HQ)を用いた網膜障害モデルは、酸化促進物質により酸化ストレスを惹起し網膜障害を引き起こすモデルであり、マウスにおいてのみモデルが報告されている(Diego G. Espinosa-Heidmann et al.,(2006) Invest Ophthalmol Vis Sci. 47巻(2号):729-737頁)。そこで、1.5%(W/V)ココナッツオイル-0.25%(W/V)コレステロール-1.5%(W/V)ピーナッツオイル-2.4%(W/V)ハイドロキノン含有RC4(オリエンタル酵母)食(HFD-HQ)を3歳齢JWウサギに4ヶ月間摂食させることでウサギ網膜障害モデルを構築した。安楽殺後に眼球を摘出し、角膜輪部より5mm程度外側で切開して前眼部を取り除き、さらに硝子体を分離した後、網膜-脈絡膜-強膜を4%(W/V)パラホルムアルデヒド固定液で24時間以上浸漬させ固定した。固定後、脈絡膜を分離し、一次抗体ZO-1 Monoclonal Antibody (ZO1-1A12)(Themo Fisher SCIENTIFIC;33-9100)および二次抗体Chicken anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 594(Themo Fisher SCIENTIFIC;A-21201)を用いて免疫染色を行った。蛍光顕微鏡(BZ-9000;KEYENCE)を用いて染色した脈絡膜を観察し、染色された網膜色素上皮(RPE)細胞の面積を求め、RPE細胞障害を評価した。
【0191】
図71に、12週齢ウサギ、3歳齢ウサギおよび、HFD-HQ負荷3歳齢ウサギのRPE細胞の染色像(図71(A))とRPE細胞の平均面積(図71(B))のグラフを示す。3歳齢のウサギでは12週齢のウサギよりもRPE細胞が肥大しており、HFD-HQ負荷でさらに肥大することが確認され、RPE細胞に障害が現れていることを認めた。加齢黄斑変性症患者の眼球においても同様の変化が観察されている(Ding JD et al.,(2011) Proc Natl Acad Sci U S A. 108巻(28号):279-87頁)。
(11-2)網膜障害時のAMD関連因子C3発現量の増加
AMD関連因子の発現を評価するため、当該ウサギ網膜障害モデルから網膜およびRPE/脈絡膜からそれぞれ組織を採取し、RNeasy mini kit (QIAGEN)を用いてmRNAを抽出後、TaqMan Gene Expression Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写反応を行った。TaqMan Gene Expression Assay(Oc03397832_g1およびOc03824857_g1;Thermo Fisher Scientific)を用いて、7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)により補体第三因子C3および内部標準β-actinのmRNA量を定量解析した。尚、3歳齢ウサギの例数は4、HFD-HQ負荷3歳齢ウサギの例数は10として解析を実施した。
【0192】
網膜、および、RPE細胞と脈絡膜におけるC3発現量を図71(C)および(D)に示す。いずれの組織においても、HFD-HQを与えたウサギ群でC3の発現量が亢進していることを認めた。
(11-3)網膜障害時のHTRA1タンパク量の増加
ウサギ網膜障害モデルにおけるHTRA1の関与を調べるため、(6-1)で作製したモデルウサギから硝子体液を採取し、Trypsin/Lys-C Mix(Promega)を用いて酵素消化後、LC(EASY-nLC 1000; Thermo Fisher Scientific)-MS(TripleTOF 6600;SCIEX)を用いてHTRA1のペプチド断片を定量した。HFD-HQを与えたウサギの硝子体液中ではHTRA1タンパク量が増加していることが明らかになった(図71(E))。以上のことから、RPE細胞肥大化およびAMD関連因子C3、HTRA1の発現亢進が認められたことから、当該ウサギ網膜障害モデルが加齢性網膜疾患研究に有用であることが示された。
(11-4)ウサギ網膜障害モデルにおけるHTRA1阻害剤の網膜保護効果
当該ウサギモデルを用いて、実施例1で作製したHTRA1阻害ペプチドH308の網膜保護効果を評価した。HFD-HQの給餌開始から2ヶ月後に、40mg/mLのH308溶液50μLを麻酔下で片眼に硝子体内に投与した。僚眼には生理食塩水を硝子体内投与した。いずれの群も例数は5であった。
【0193】
給餌開始4ヶ月後に、モデル動物のRPE細胞肥大を評価した結果を図72に示す。RPE細胞の平均面積(図72(A))または細胞面積が1500μm以上の肥大したRPE細胞数(図72(B))、いずれの指標においても、HTRA1阻害剤はRPE細胞の肥大に対して抑制効果を示した。図71(E)に示す通り、当該モデルの硝子体液中ではHTRA1の増加が認められ、HFD-HQによるRPE細胞の障害過程に対してHTRA1の関与が示唆された。このように、HTRA1阻害ペプチドは、抗加齢黄斑変性症剤として有用であり、本試験ではとりわけ萎縮型の加齢黄斑変性症の予防に有用であることが示された。
【0194】
また、HTRA1阻害ペプチドを投与した正常ウサギ網膜においてHTRA1阻害ペプチドの存在が認められ、HTRA1阻害ペプチドの高い組織浸透性が示された。
【0195】
実施例12.ヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19を用いたVEGF mRNA誘導試験におけるHTRA1阻害ペプチドの抑制効果
ARPE-19細胞を10%Fetal bovine serum(FBS)、Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific)含有のDMEM/F-12培地(和光純薬工業株式会社)を用いて37℃、5%CO条件下で、12mm Transwell with 0.4μm Pore Polyester Membrane Insert,Sterile(Corning)中にてコンフルエントになるまで培養した。その後、FBS非含有のDMEM/F-12で5日間培養し、チャンバー上下層に終濃度が500μMのHを、チャンバー上層に終濃度25%のNormal Human Serum Complement(Quidel)をそれぞれ添加した。さらにチャンバー上下層にHTRA1(実施例2-2)、HTRA1プロテアーゼ不活性変異体HTRA1(S328A)(実施例2-3)、または、HTRA1阻害ペプチドH308_D1G_S16A(実施例6)をそれぞれ終濃度1μMとなるように加えた。4時間後に培養上清を除去し、PBSで洗浄後、SuperPrepTM Cell Lysis & RT Kit for qPCR(東洋紡株式会社)によりmRNAを抽出し、逆転写反応を行った。TaqMan Gene Expression Assays(Hs000900055_m1およびHs02786624_g1;Thermo Fisher Scientific)を用いて、7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)によりVEGFのmRNA量を定量解析した。尚、mRNA量の補正にはGAPDHを用いた。
【0196】
結果を図74に示す。H、Normal Human Serum ComplementおよびHTRA1不活性変異体HTRA1(S328A)添加条件と比べて、H、Normal Human Serum ComplementおよびHTRA1を添加することで、VEGFのmRNA量が顕著に増加した。さらに、HTRA1阻害ペプチドH308_D1G_S16Aを共添加することにより、VEGFの発現抑制が認められた。網膜色素上皮細胞からのVEGF誘導は滲出型加齢性黄斑変性病態形成に重要とされている(Klettner A. et al.,(2009) Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 247巻:1487-1492頁)。また、病態形成だけでなく、病態の維持にもこれらの病的なVEGF誘導が関与していると考えられており、HTRA1阻害ペプチドH308_D1G_S16A等本発明のペプチドの投与は滲出型加齢性黄斑変性の予防および治療に対して有効である。
【0197】
実施例13.HTRA1阻害ペプチドH308_DIG_S16Aによるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)遊走抑制効果
(13-1)HUVEC遊走試験
HUVEC(Kurabo Industries)は0.1%BSA含有EBMTM-2基本培地(Lonza Walkersville)に血清とVEGFを除いたEGMTM-2 SingleQuotsTM添加因子セットを添加した培地(0.1%BSA含有無血清EGM)で37℃、5%CO条件下で18時間培養した後、0.1%BSA含有無血清EGMで4×10個/mLとなるよう調製した。メンブレンをゼラチンコートしたCorning FluoroBlok HTS 96 Well Multiwell Permeable Support System with 3.0 μm High Density PET Membrane(Corning)のチャンバー上層に、4×10個/mLのHUVEC懸濁液を50μL/ウェルで添加した後、チャンバー下層に210μL/ウェルで下記サンプル(培地1または2、3)を添加した(n=3)。また、HUVECを添加していないチャンバー上層には、0.1%BSA含有無血清EGMを50μL添加し、そのチャンバー下層には、0.1%BSA含有無血清EGMを210μL添加した(n=3)。
培地1;0.1%BSA含有無血清EGM
培地2;全てのEGMTM-2 SingleQuotsTM 添加因子を添加したEBMTM-2培地(EGM増殖培地)
培地3;300nMのH308_DIG_S16Aを含むEGM増殖培地
細胞とサンプルを添加したFluoroBlok HTS 96 Well Multiwell Support Systemを37℃、5%CO条件下で2時間インキュベーションし、下層へ遊走したHUVECをPBSで洗浄後、4μg/mLのCalcein-AM(Thermo Fisher Scientific)含有0.1%BSA含有無血清EGMで15分間染色した。その後、培地をPBSに置換し、各ウェルの蛍光強度(励起波長/蛍光波長:485nm/535nm)をプレートリーダー(ARVO-MX、PerkinElmer)で測定し、次式で各ウェルの遊走細胞を算出した。
遊走細胞=HUVEC存在ウェルの蛍光強度の平均(n=3)-ブランクウェルの蛍光強度の平均(n=3)。
【0198】
結果を図75に示す。HTRA1阻害ペプチドH308_DIG_S16Aは血清含有培地で誘導されたHUVECの遊走に対して抑制効果を認めた。よって、本発明のペプチドは、滲出型加齢黄斑変性症の特徴である血管新生に対して抑制効果を示すことが明らかになった。
【0199】
実施例14.ウサギ網膜障害モデルにおけるHTRA1阻害ペプチドの網膜保護効果(その2)
実施例(11-1)~(11-3)で作製、評価したウサギ網膜障害モデルを用いて、実施例1で作製したHTRA1阻害ペプチドH308又は実施例6で作製した3種のHTRA1阻害ペプチドのうち1種の網膜障害に対する治療効果を評価する。40mg/mLの阻害ペプチド溶液50μLを麻酔下でモデル動物の片眼に硝子体内に投与し2ヶ月間飼育する。僚眼には生理食塩水を硝子体内投与する。いずれの群も例数は5とする。
【0200】
生理食塩水投与群ではRPE細胞面積の増大又は細胞数の増加が見られるのに対し、HTRA1阻害ペプチド投与群ではRPE細胞面積の増大又は細胞数の増加が抑制されるであろう。このように、HTRA1阻害ペプチドは、抗加齢黄斑変性症剤として有用であること、本実施例ではとりわけ萎縮型の加齢黄斑変性症の治療に有用であることを確認することができる。
【0201】
実施例15.Rd10網膜色素変性症モデルマウスにおけるHTRA1阻害ペプチドによる視細胞保護効果の検討
(15-1)Rd10マウスの飼育
B6.CXB1-Pde6brd10/J (以下Rd10)マウスはPde6b遺伝子に変異を認め、自然発症に視細胞死を誘発するモデルである。網膜色素変性症のモデル動物として汎用されている(Vision Res. 2002年2月刊;42巻(4号):517-25頁:Chang B1,Hawes NL,Hurd RE,Davisson MT, Nusinowitz S,及びHeckenlively JR著.)。通常の飼育条件でマウスを飼育した。
(15-2)マウス硝子体への被験物質投与
P14, 19の時点で、ケタミン麻酔下に33G針を用い、薬液0.5μLを硝子体内投与した。片眼へPBS投与、僚眼にHTRA1阻害ペプチド(H308_D1G_S16A:配列番号24、図36)を投与した。
(15-3)視細胞死の評価および解析
安楽殺後に眼球を摘出し、3.7%(W/V)ホルムアルデヒド-0.5~1%(W/V)メタノール-0.2%(W/V)ピクリン酸固定液で24時間以上浸漬させ固定した。パラフィン包埋後、薄切切片を作製した。切片はヘマトキシリン-エオジン染色を行い、網膜断層の外顆粒層(ONL層)の厚さを内顆粒層(INL層)の厚さで補正することで、視細胞保護効果を評価した。測定箇所は乳頭部から両側に0.6 mmの箇所2点をcentral部、同1.8 mmの箇所2点をperipheral部とし、central部2箇所の平均、peripheral部2箇所の平均値をそれぞれ求めた。統計解析はStudentのpaired-t検定法を用いた。
(15-4)結果
HTRA1阻害ペプチドの160 μg/eye投与眼はPBS投与眼に較べて、central部において、統計学的に有意に外顆粒層(視細胞の核が集積する)の厚さを改善させた。また32 μg/eye投与眼では同様の薬効を示さず、用量依存性が確認された(図78)。
【0202】
実施例16.変異型ロドプシン遺伝子[P347L]導入ウサギにおけるHTRA1の発現解析
(16-1)ウサギ網膜におけるHTRA1のmRNA発現解析
雄15週齢の野生型(WT)と変異型ロドプシン遺伝子[P347L]導入(Tg)ウサギの網膜からRNAをRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて抽出し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher)を用いてcDNAに逆転写後、TaqMan プローブ(Thermo Fisher)及び、TaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher)を用いて、HTRA1のmRNA発現解析を行った。
(16-2)レーザーマイクロダイセクションを用いた部位特異的なHTRA1のmRNA発現解析
雄24週齢のWTとTgウサギの網膜を10%中性緩衝ホルマリンを用いて固定し、パラフィン包埋標本を作製後、薄切しニッスル染色を行った。染色した切片からLMD6500(Leica)を用いて、神経節細胞層、内顆粒層、外顆粒層を切り出し、QIAGEN RNeasyFFPEMiniKit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出した後、SMARTer Stranded Total RNA-Seq Kit-Pico Input Mammalian(Clontech)を用いてそれぞれのライブラリを作製した。Nextseq(illumina)を用いて、ライブラリの配列を網羅的に解析した。それぞれの層に特異的に発現するマーカー遺伝子の解析により、切り出しに問題がないことを確認した。HTRA1 mRNAのコピー数を、TPM(Transcript Per Million)値として算出した。
【0203】
(16-3)結果
(16-3-1)
15週齢の時点で、Tgウサギの網膜では野生型のウサギに較べて約1.5倍のHTRA1 mRNAが発現していた。また、外顆粒層において視細胞変性が生じていた(Tgウサギの例数は5、野生型ウサギの例数は4)。
(16-3-2)
24週齢の時点で、レーザーマイクロダイセクション法により部位別の解析を行ったところ、野生型ウサギおよびTgウサギについて、(ア)神経節細胞層におけるTPM値は11.76±1.47および9.99±3.94、(イ)内顆粒層におけるTPM値は75.79±22.02および54.55±13.12、(ウ)外顆粒層におけるTPM値は6.21±3.33および25.37±6.45(両数値間に統計学的有意差あり)であった(例数は3乃至6)。
(16-3-3)
P347Lトランスジェニックウサギは人の網膜色素変性症患者と同じロドプシン遺伝子変異を持つ。人の網膜色素変性症患者と同様に視細胞死が誘発され、今回用いた生後15乃至24週齢の条件において視細胞変性が認められる(Invest Ophthalmol Vis Sci. 2009年5月刊;50巻(3号):1371-7頁: Kondo M1, Sakai T, Komeima K, Kurimoto Y, Ueno S, Nishizawa Y, Usukura J, Fujikado T, Tano Y,およびTerasaki H.著)。
外顆粒層は視細胞の核が集積している部位であり、視細胞変性とHTRA1遺伝子発現増加との間に相関が見られたことから、本発明の他の開示をも踏まえれば、P347Lをはじめとしたロドプシン遺伝子変異のある網膜色素変性症に対して有用な治療薬となることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明の提供するペプチド、そのコンジュゲート等を含む医薬組成物は、網膜色素変性症等の治療又は予防等に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0205】
配列番号1:ヒトSPINK2のアミノ酸配列(図13
配列番号2:ヒトSPINK2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図14
配列番号3:ペプチドH218のアミノ酸配列(図15
配列番号4:ペプチドH218のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図16
配列番号5:ペプチドH223のアミノ酸配列(図17
配列番号6:ペプチドH223のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図18
配列番号7:ペプチドH228のアミノ酸配列(図19
配列番号8:ペプチドH228のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図20
配列番号9:ペプチドH308のアミノ酸配列(図21
配列番号10:ペプチドH308のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図22
配列番号11:ペプチドH321のアミノ酸配列(図23
配列番号12:ペプチドH321のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図24
配列番号13:ペプチドH322のアミノ酸配列(図25
配列番号14:ペプチドH322のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図26
配列番号15:ペプチド誘導体H308ATのアミノ酸配列(図27
配列番号16:ペプチド誘導体H308ATのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図28
配列番号17:ペプチド誘導体H321ATのアミノ酸配列(図29
配列番号18:ペプチド誘導体H321ATのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図30
配列番号19:ペプチド誘導体H322ATのアミノ酸配列(図31
配列番号20:ペプチド誘導体H322ATのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図32
配列番号21:ペプチドM7のアミノ酸配列(図33
配列番号22:ペプチドM7のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(図34
配列番号23:ペプチド誘導体H308_S16Aのアミノ酸配列(図35
配列番号24:ペプチド誘導体H308_D1G_S16Aのアミノ酸配列(図36
配列番号25:ペプチド誘導体H308_D1S_S16Aのアミノ酸配列(図37
配列番号26:ペプチド誘導体H308_D1E_S16Aのアミノ酸配列(図38
配列番号27:ペプチド誘導体H308_D1SLI_S16Aのアミノ酸配列(図39
配列番号28:ペプチド誘導体H321AT_D1G_S16Aのアミノ酸配列(図40
配列番号29:ペプチド誘導体H322AT_D1G_S16Aのアミノ酸配列(図41
配列番号30:HTRA1阻害ペプチドの一般式(図42
配列番号31:S tag及びリンカーからなるアミノ酸配列(図43
配列番号32:C末6マーのアミノ酸配列(図44
配列番号33:プライマー1のヌクレオチド配列(図45
配列番号34:プライマー2のヌクレオチド配列(図46
配列番号35:プライマー3のヌクレオチド配列(図47
配列番号36:プライマー4のヌクレオチド配列(図48
配列番号37:プライマー5のヌクレオチド配列(図49
配列番号38:プライマー6のヌクレオチド配列(図50
配列番号39:プライマー7のヌクレオチド配列(図51
配列番号40:プライマー8のヌクレオチド配列(図52
配列番号41:プライマー9のヌクレオチド配列(図53
配列番号42:プライマー10のヌクレオチド配列(図54
配列番号43:プライマー11のヌクレオチド配列(図55
配列番号44:プライマー12のヌクレオチド配列(図56
配列番号45:プライマー13のヌクレオチド配列(図57
配列番号46:プライマー14のヌクレオチド配列(図58
配列番号47:プライマー15のヌクレオチド配列(図59
配列番号48:プライマー16のヌクレオチド配列(図60
配列番号49:プライマー17のヌクレオチド配列(図61
配列番号50:プライマー18のヌクレオチド配列(図62
配列番号51:プライマー19のヌクレオチド配列(図63
配列番号52:プライマー20のヌクレオチド配列(図64
配列番号53:ヒトHTRAI(full)のアミノ酸配列(図65
配列番号54:H2-Optのアミノ酸配列(図8
配列番号55:プライマー21のヌクレオチド配列(図76
配列番号56:プライマー22のヌクレオチド配列(図77
図1(A)】
図1(B)】
図2
図3
図4(A)】
図4(B)】
図5(A)】
図5(B)】
図5(C)】
図5(D)】
図6
図7
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図10
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図66(A)】
図66(B)】
図67
図68(A)】
図68(B)】
図68(C)】
図68(D)】
図68(E)】
図69
図70(A)】
図70(B)】
図70(C)】
図71(A)】
図71(B)】
図71(C)】
図71(D)】
図71(E)】
図72(A)】
図72(B)】
図73
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【配列表】
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