(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】シリコンソーラセルのコンタクトグリッドとエミッタレイヤ間のオーミックコンタクト挙動を改善する方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/18 20060101AFI20230627BHJP
H01L 31/0224 20060101ALI20230627BHJP
H01L 31/068 20120101ALI20230627BHJP
【FI】
H01L31/04 400
H01L31/04 260
H01L31/06 300
(21)【出願番号】P 2020541588
(86)(22)【出願日】2019-02-05
(86)【国際出願番号】 DE2019000027
(87)【国際公開番号】W WO2019154450
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】102018001057.1
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520494208
【氏名又は名称】シーイー セル エンジニアリング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ホンミン
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175491(WO,A1)
【文献】特開2011-138969(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02164114(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0032939(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-39/18
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンソーラセルにおけるコンタクトグリッドと、エミッタレイヤとの間のオーミックコンタクト挙動を改善する
方法において、前記シリコンソーラセルは最初に、エミッタレイヤ、コンタクトグリッド、およびリアコンタクトが提供され、前記コンタクトグリッドは、電源の一方の極と電気的に接続され、前記電源の他方の極に接続されたコンタクトデバイスは、前記リアコンタクトに接続され、前記電源により、前記シリコンソーラセルのブレーク電圧未満の電圧が、前記シリコンソーラセルの順方向と逆向きに印加され、この電圧が印加されると、点光源が、前記シリコンソーラセルの太陽面側にガイドされ、それにより
前記太陽面に備わる前記太陽面側のサブセクションの断面が照射され、それにより前記サブセクションに電流が誘導され、前記断面に対する電流は、200A/cm
2乃至20,000A/cm
2の電流密度を有し、10ns乃至10msの間前記サブセクションに作用する、
方法。
【請求項2】
前記点光源は、レーザ、発光ダイオード、またはフラッシュランプである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記点光源は、前記断面に
対して、500W/cm
2乃至20,000W/cm
2の出力密度を
有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記点光源は、400nm乃至1500nmの範囲の波長を有する放射を放出する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記断面は、10
3μm
2乃至10
4μm
2の範囲の領域を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記シリコンソーラセルの順方向と逆向きの電圧は、1V乃至20Vの範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記点光源は、前記シリコンソーラセルの前記太陽面側の、前記コンタクトグリッド
のコンタクトフィンガの、すぐ隣にガイドされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記シリコンソーラセルは、片面
シリコンソーラセルまたは両面
シリコンソーラセルである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記シリコンソーラセルは、nドープまたはpドープシリコン基板から構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エミッタレイヤは、100Ω/sqを超えるシート抵抗を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンソーラセルにおけるコンタクトグリッドと、エミッタレイヤ間のオーミックコンタクト挙動を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶ソーラセルにコンタクトを作成するとき、スクリーン印刷技術を使用して、コンタクトグリッドの形態の金属ペーストを、誘電体窒化シリコンでコーティングされた、セルの前面に印加する。印加後、金属ペーストは、800-900℃で窒化シリコンに焼成され、エミッタレイヤへの電気コンタクトを形成する。金属ペーストの焼成中のプロセス制御は、形成されるコンタクトに重大な影響を及ぼし、それゆえ、誤ったプロセス制御は、シリコンソーラセル内の金属ペーストとエミッタレイヤ間の遷移において、接触抵抗が高くなる。高い接触抵抗は、シリコンソーラセルの効率を低減する可能性がある。
【0003】
従来技術において、ソーラセルの効率安定化または性能改善を可能にする方法が知られている。DE102011056843A1は、例えば、「シリコンソーラセルの効率の安定化」の方法を記載する。この文献では、積層プロセスの期間に、継続電流(a continuous flow of current)がソーラセルアセンブリに印加され、本質的に、シリコン材料内でホウ素-酸素複合体が破壊される。
【0004】
US4166918Aは、ソーラセルの性能を改善するための方法を提案し、ここでは、ソーラセルは、順方向とは逆向きに印加された電圧に晒される。この場合、電流は、ソーラセル内のショートサーキットに沿って刺激され、ショートサーキットが「焼失」され、除去される。これらの既知の方法は、シリコンソーラセルのコンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間の遷移に既知の影響を与えない。
【0005】
エミッタレイヤに低抵抗の電気コンタクを形成するためには、低フィルム抵抗(100Ω/sq未満)がエミッタレイヤに必要である。しかしながら、これは、短波光の電気への変換が不十分になる原因となる。より良い変換は、110-150Ω/sqのレンジのシート抵抗で達成される。しかしながら、ここでは、コンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間の相対的に高インピーダンスの遷移しか、通常のベークインプロセス(baking-in process)を介して生成することができない。これを回避するために、選択的エミッタの概念が開発された(例えば、EP2583315B1)。ここでは、その後に、金属ペーストで印刷されるエミッタレイヤのエリアは、局所的に高度にドーピングされるので、シート抵抗が局所的に低下する。しかしながら、これは、シリコンソーラセルを製造するプロセスにおいて高価な追加のステップを必要とする。
【0006】
電子コンポーネントの分野において、導電性接着剤により接触された半導体本体へのオーム接触挙動が、電圧パルスを印加することにより改善することができることが、DD250247A3から知られている。接触改善の動作モードについては、このドキュメンには詳細に記載されていない。接触に使用される導電性接着剤は、本質的に導電性粒子、通常は、ポリマーマトリックスにより囲まれた銀ボール又は銀フレークからなる。
【0007】
まだ公開されていないドイツ特許出願DE102016009560.1は、シリコンソーラセルにおけるコンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間のオーム接触挙動を改善する方法を提案する。この場合、シリコンソーラセルのコンタクトグリッドは、コンタクトピンマトリクスと接触し、電圧パルスにより、このソーラセルのリアコンタクトとコンタクトピンマトリクスとの間に電流が生成される。1ms乃至100msのパルス期間と、シリコンソーラセルの短絡電流の10乃至30倍の誘導電流により、コンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間の高接触抵抗を低減し、それにより、例えば、金属ペーストの焼付け中の誤ったプロセス制御を修正することができる。あるいは、電気的にバイアスされたシリコンソーラセルを点光源でスキャンし、シリコンソーラセルの10乃至30倍の短絡電流密度を有する電流が照射されたサブセクションに生成される方法が記載される。シリコンソーラセルの種類と品質に応じて、ある構成では、シリコンソーラセルの太陽に面する側に照射すると、材料に望ましくない影響を引き起こし、材料を損傷する場合さえあり得る。
【発明の概要】
【0008】
この発明の目的は、太陽に面する側の照射により生じる材料への影響をさらに最小化するように、シリコンソーラセルのコンタクトグリッドと、エミッタレイヤ間のオーム接触挙動を改善する方法を開発することである。さらに、この方法は、エミッタレイヤが高いシート抵抗を有するシリコンソーラセルに適用可能である。
【0009】
この目的は、最初にエミッタレイヤと、コンタクトグリッドと、リアコンタクトを有するシリコンソーラセルを提供し、コンタクトグリッドを電源の一方の極に電気的に接続することにより達成される。電源の他方の極は、リアコンタクト上に配置された接触デバイスに電気的に接続される。次に、電源は、シリコンソーラセルの順方向と逆方向であって、シリコンソーラセルのブレークダウン電圧よりも低い電圧を印加する。この電圧が印加されると、次に点光源が、シリコンソーラセルの太陽面側にガイドされ、プロセスでは、太陽面側のサブセクションの断面が照射される。従って、電流がそのセクションに関連して、200A/cm2乃至20,000A/cm2の電流密度を有するサブセクションに電流が誘導され、10ns乃至10msの間サブセクションに作用する。
【0010】
この発明に従う方法によって、金属ペーストの焼付中の誤ったプロセス制御が補償されるので、ソーラセルは、最適直列抵抗を達成する。さらに、この発明に従う方法により、高フィルム抵抗を有するエミッタレイヤを用いても、コンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間の非常に良好なオーミックコンタクトが達成され、選択的エミッタを形成するのに必要なプロセスステップを省略することができる。さらに、この発明に従う方法を用いることにより、焼付プロセスは、より低い温度で実行することができ、シリコンソーラセルを製造するプロセスにおいて、エネルギをセーブすることができる。
【0011】
点光源は、レーザ、発光ダイオード、またはフラッシュランプであることが提案される。一実施形態において、点光源は、断面で500W/cm2乃至200,000W/cm2の出力密度を有する。1つのバージョンは、点光源が、400nm乃至1500nmの範囲の波長の放射を放出することを想定している。さらなる実施形態において、断面は、103μm2乃至104μm2の範囲のエリアを有する。シリコンソーラセルの順方向と逆向きの電圧は、1V乃至20Vの範囲であることが提案される。さらに、点光源は、シリコンソーラセルの太陽に面する側のコンタクトグリッドのコンタクトフィンガのすぐ隣にガイドされることが提案される。1つのバージョンにおいて、シリコンソーラセルは、片面または両面の形を有する。他のバージョンにおいて、シリコンソーラセルは、nドープまたはpドープのシリコン基板を有する。一実施形態は、エミッタレイヤが100オーム/sqを超えるシート抵抗を有することを想定する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施形態を以下に説明する。第1に、結晶シリコンソーラセルを用意する。これは、太陽面側に窒化珪素の反射防止層を有する。シリコンソーラセルのエミッタレイヤは、この反射防止層の下に配置される。太陽面側では、フロントメタライゼーション(front metallization)は、製造者の仕様に従って硬化され、窒化ケイ素層に焼き付けられた、商業的に入手可能な金属ペースト(例えば、銀ペースト)から作られたコレクションコンタクト(母線)およびコンタクトフィンガから構成されるコンタクトグリッドの形態で印刷される。シリコンソーラセルの太陽面と反対側に、リアコンタクト(rear contact)が装備される。このリアコンタクトは、パッシベーション(PERCコンセプト)あり、または無しで設計可能な金属層で構成される。
【0013】
コンタクトグリッドは、電源の一方の極と電気的に接続される。電源の他方の極は、リアコンタクトに接続されたコンタクトデバイスに接続される。次に、電源はシリコンソーラセルの順方向と逆向きであって、シリコンソーラセルのブレークダウン電圧より低い電圧を印加する。この電圧が印加されると、点光源は、シリコンソーラセルの太陽面側にガイドされる。点光源は、例えばレーザ、発光ダイオード、またはフラッシュランプの収束ビームであり得る。しかしながら、この発明は、これらの放射源に限定されない。点光源は、400nm乃至1500nmの範囲の波長を有する放射を放出する。シリコンソーラセルの太陽面側のサブセクションの断面は、この点光源により照射され、それにより電流が断面に誘導される。断面に関連した、200A/cm2乃至20,000A/cm2の電流密度を有し、10ns乃至10msの期間サブセクションに作用する。
【0014】
コンタクトグリッドとエミッタレイヤ間のオーミックコンタクト挙動を改善するのに必要な高電流密度は、放射線により誘発された材料の損傷を生じることなく、照射されたセルエリアの動作点をシフトすることにより達成することができる。断面の放射源の放射密度、コンタクトタイムおよび印加電圧との間の相互作用において、必要な電流密度は、材料を損傷する放射の必要なしに達成される。約60μmの表面直径を有する放射断面の場合、50mA乃至600mAの大きさを有する電流は、通常10Vの印加電圧で生成されるので、放射断面のエリアに基づいて、約200A/cm2乃至20,000A/cm2の電流密度が作用する。完全に流れる電流は、特に、光線を受信する比較的小さな領域により低く抑えられる。
【0015】
本質的に、シリコンソーラセルの太陽面側をスキャンするとき、点光源は、コンタクトフィンガの左および右に直接移動することで十分である。従って、この発明に従う方法を持ちいて6”セルを処理する処理時間は、約1秒である。
【0016】
さらなる実施形態において、この発明に従う方法は、金属ペーストの製造業者により推奨されるよりも低い温度でコンタクトグリッドが焼き付けされたシリコンソーラセルに適用される。通常、焼付は、約800℃で行われる。金属ペーストが、例えばわずか700℃の温度で焼付された場合、シリコンソーラセルは、コンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間の遷移において、高い接触抵抗を有する。この種のシリコンソーラセルでも、この発明に従う方法により、コンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間のオーミックコンタクト挙動の改善が見られた。この発明による方法と、より低い温度で実行される焼付プロセスが組み合わされた場合、エネルギを同時に節約しながら、コンタクトグリッドと、エミッタレイヤとの間の遷移において、同じコンタクト抵抗が達成される。
【0017】
この発明に従う方法は、片面および両面シリコンソーラセルの両方に適用可能である。後者の場合、両側のコンタクトを最適にするのに、片側の処理だけで十分である。
【0018】
他の実施形態において、エミッタレイヤが選択的に形成されておらず、従って面全体に高いシート抵抗(100Ω/sqを超える)を有するシリコンソーラセルに、この処理が適用される。上述したように、これらのシリコンソーラセルは、または金属ペーストで印刷され、次に、焼付プロセスがなされ、それにより、焼付プロセスは、製造業者の指示書に従って、またはより低い温度で実行することもできる。焼付プロセスの後、シリコンソーラセルは、コンタクトグリッドとエミッタレイヤとの間の遷移において、比較的高い値のコンタクト抵抗しか持たない。この発明に従う方法を適用することにより、接触抵抗は、断面の放射源の放射密度と、コンタクトタイムと、印加電圧の相互作用により、これらのシリコンソーラセルにおいても同様に低減され、シリコンソーラセルの最適動作に必要な値を低減する。それゆえ、選択的エミッタは、必要ではなく、その製造に必要な、コストのかかる工程を、省略することができる。