(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】静電紡糸装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/04 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
D01D5/04
(21)【出願番号】P 2021013421
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼
(72)【発明者】
【氏名】菅原 博勝
(72)【発明者】
【氏名】大沢 清輝
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0239094(US,A1)
【文献】特開2020-196004(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0153623(US,A1)
【文献】国際公開第2004/085078(WO,A1)
【文献】特開2005-324181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
B05B 5/00 - 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が把持可能なハンドヘルドタイプの静電紡糸装置であって、
液体の噴出方向に沿って延び、液体を噴出する噴出孔を有する非導電性のノズルと、
前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向と反対側に配され、液体に電圧を印加するノズル電極と、
前記噴出方向に沿って延びる非導電性の補助ガイドとを備え、
前記補助ガイドは、前記ノズルの前記噴出孔から前記噴出方向と直交する方向に離間した位置で、該ノズルの周囲に配置され、
前記補助ガイドの内部に、該補助ガイドの周方向に沿って延びる補助電極を有する
静電紡糸装置。
【請求項2】
前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離は、-40mm以上60mm以下である
請求項1に記載の静電紡糸装置。
【請求項3】
前記補助ガイドは、円筒状に形成されており、
前記突出距離÷前記補助ガイドの内径は、1.00未満である
請求項2に記載の静電紡糸装置。
【請求項4】
前記補助ガイドは、円筒状に形成されており、
液体の噴出量は、0.01ml/min以上1.0ml/min以下であり、
前記突出距離÷前記補助ガイドの内径は、1.67未満である
請求項2に記載の静電紡糸装置。
【請求項5】
前記補助電極の前記噴出方向側の端部は、前記ノズルの前記噴出孔と同位置又は前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向と反対側に位置している
請求項1~4のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項6】
前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部は、前記ノズルの前記噴出孔と同位置又は前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向側に位置している
請求項5に記載の静電紡糸装置。
【請求項7】
前記ノズル及び前記補助ガイドの少なくとも一方が、非導電性樹脂により構成されている
請求項1~6のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【請求項8】
前記ノズルに連続する領域に把持部を備える
請求項1~7のいずれか1項に記載の静電紡糸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電気力によって液体を噴出する静電噴霧装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の静電噴霧装置は、使用者の手で握ることができる寸法に作られたハウジングの内部に、モータ、高電圧発生器、フィールド電極及び電池等を備えている。この静電噴霧装置では、高電圧発生器から高電圧が供給されたフィールド電極により、液体を静電チャージ(静電的に帯電)し、静電チャージされた液体をノズルから対象物に向けて噴出している。
【0003】
また、従来、ノズルの周囲を囲うように非導電性の筒状部材(制御部材、環状シュラウド)が配置された静電噴霧装置(特許文献2及び3参照)や、ノズルの先端外周縁よりも後方(液体の噴出方向とは反対の方向)側に後部電極が配置された静電噴霧装置(特許文献4参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-521941号公報
【文献】特表平9-512477号公報
【文献】特表平9-504992号公報
【文献】特開2016-144786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に記載の静電噴霧装置には、以下のような課題があり、それゆえ、紡糸用液を糸状に吐出して対象物の表面上に被膜を形成する静電紡糸装置としての使用には適していなかった。
すなわち、特許文献1の静電噴霧装置では、ノズルから噴出された液体は、対象物に到達するまでの間に分散し、噴出範囲が広がってしまうおそれがある。このため、噴出される液体の広がりを抑え、液体を狙った箇所に噴出させる観点において、改善の余地がある。
【0006】
この点に関し、特許文献2及び3の静電噴霧装置は、非導電性の筒状部材をノズルの周囲に配置することにより、特許文献1の静電噴霧装置と比較すると、液体の噴出範囲を抑えることが可能である。しかしながら、非導電性の筒状部材のみで液体の噴出範囲の広がりを抑えるのには限界があり、依然として、噴出される液体の広がりを抑え、液体を狙った箇所に噴出させる観点において、改善の余地がある。
【0007】
一方、特許文献4の静電噴霧装置では、非導電性の筒状部材に代えて導電性の後部電極を用いることにより、液体の噴出範囲の広がりをより一層抑えることが可能となっている。しかしながら、特許文献4の静電噴霧装置では、後方電極が剥き出しの状態で配置されているため、感電のおそれがあり、安全性の観点において改善の余地がある。また、特許文献4の静電噴霧装置において、安全性を担保するために、後方電極を含めた装置全体を絶縁性のハウジング等で覆う場合には、装置全体が大型化するおそれがある。このため、特許文献4の静電噴霧装置には、噴出範囲の広がりを抑えつつ、安全性の確保と大型化の抑制とを両立させる観点において、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、安全性の確保と大型化の抑制とを両立させつつ、噴出範囲の広がりを抑えることができる静電紡糸装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、使用者が把持可能なハンドヘルドタイプの静電紡糸装置であって、液体の噴出方向に沿って延び、液体を噴出する噴出孔を有する非導電性のノズルと、前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向と反対側に配され、液体に電圧を印加するノズル電極と、前記噴出方向に沿って延びる非導電性の補助ガイドとを備え、前記補助ガイドは、前記ノズルの前記噴出孔から前記噴出方向と直交する方向に離間した位置で、該ノズルの周囲に配置され、前記補助ガイドの内部に、該補助ガイドの周方向に沿って延びる補助電極を有する静電紡糸装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る静電紡糸装置によれば、安全性の確保と大型化の抑制とを両立させつつ、噴出範囲の広がりを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本実施形態に係る静電紡糸装置を示す斜視図である。
【
図1B】本実施形態に係る静電紡糸装置を、キャップを外した状態で示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る静電紡糸本体を示す分解斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る静電紡糸装置の補助ガイド及びノズルを概略的に示す拡大断面図である。
【
図4】変形例に係る静電紡糸装置の補助ガイド及びノズルを概略的に示す拡大断面図である。
【
図5】本実施形態に係る静電紡糸装置のハウジング内の構成を示すブロック構成図である。
【
図6】補助電極を有さない補助ガイドの構成例(比較例2)を概略的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
[本実施形態]
まず、本発明の本実施形態に係る静電紡糸装置10について、
図1~
図5を用いて説明する。本実施形態に係る静電紡糸装置10は、使用者が把持可能なハンドヘルドタイプの静電紡糸装置であって、概略的には、液体の噴出方向に沿って延び、液体を噴出する噴出孔123aを有する非導電性のノズル123と、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に配され、液体に電圧を印加するノズル電極124(
図3参照)と、噴出方向に沿って延びる非導電性の補助ガイド255とを備え、補助ガイド255は、ノズル123の噴出孔123aから噴出方向と直交する方向に離間した位置で、ノズル123の周囲に配置され、その内部に、該補助ガイドの周方向に沿って延びる補助電極247を有している。
【0014】
なお、本明細書において、「液体の噴出方向」とは、ノズル123の噴出孔123aの中心軸に沿う方向をいう。また、「噴出方向と直交する方向」とは、ノズル123の噴出孔123aが広がる方向、すなわち、ノズル123の径方向をいう。
【0015】
さらに、「非導電性」(絶縁性)とは、電気を通し難い性質を有することをいい、例えば1012Ωmを超える体積抵抗率(ASTM D257, JIS K6911)を有することをいうものとする。一方、「導電性」とは、電気を通し易い性質を有することをいい、例えば10-2Ωm以下の体積抵抗率を有することをいうものとする。
【0016】
[静電紡糸装置の全体構成と動作概要]
本実施形態に係る静電紡糸装置10は、
図1A、
図1B及び
図2に示すように、液体を収容するカートリッジ100と、該カートリッジ100を挿脱可能な装置本体200とを備えている。また、本実施形態に係る静電紡糸装置10は、装置本体200に装着されるキャップ11を更に備えており、使用時にはキャップ11を外し(
図1B参照)、使用後にキャップ11を装着するようになっている(
図1A参照)。
【0017】
本実施形態に係る静電紡糸装置10は、使用者が手で握ることができる形状と大きさになっているハンドヘルドタイプの装置であり、静電スプレー法により、液体(液体組成物)を対象物に向けて噴出する。静電スプレー法とは、液体(例えば、高分子化合物を揮発性の溶媒に溶解した溶液)に、高電圧(例えば、3kVから20kV)を印加して液体を静電チャージし(静電的に帯電させ)、帯電した液体と対象物との電位差に基づく静電気力によって、液体を対象物に向けて噴出する方法である。静電スプレー法により噴出された液体は、極細の糸状になって対象物に向かって送り出される。噴出された液体は、噴出されてから対象物に向かって送り出されている過程、及び、対象物に付着した後に、揮発性物質である溶媒が乾燥することで、対象物の表面に被膜を形成することができる。対象物とは、例えば、人体、導電性の樹脂及び金属が挙げられ、人体に対して液体を噴出させる場合には、例えば皮膚が堆積面となる。なお、本実施形態に係る静電紡糸装置10は、静電紡糸用の原料を含む溶液すなわち紡糸用液を、対象物に向けて噴出する静電紡糸装置である。
【0018】
本実施形態に係る静電紡糸装置10において、液体にチャージする電圧は、紡糸性の観点から、3KV~20kVであることが好ましく、5kV~15kVであることがより好ましい。本実施形態に静電紡糸装置10は、少ない噴出量にも好適に用いることが可能であり、液体の噴出量は、好ましくは0.01ml/min以上1.0ml/min以下であり、より好ましくは0.05ml/min以上0.5ml/min以下である。
【0019】
液体として、例えば、(a)揮発性物質と(b)繊維形成用水不溶性ポリマーと(c)水を含む溶液を採用した場合には、使用者が静電紡糸装置10を手で握り、この液体を使用者の皮膚に向けて噴出することで、被対象面である人の(使用者の)皮膚の表面(堆積面)に被膜を形成することができる。被膜は、成分(b)を主成分とする繊維を含む堆積物である。
【0020】
装置本体200は、
図2に示すように、ハウジング210と、このハウジング210に装着されるカバー250と、カバー250に設けられた補助ガイド255とを備えている。ハウジング210は、カバー250が着脱可能となっており、カバー250を取り外した状態において、カートリッジ100が着脱可能となっている。
【0021】
これらハウジング210、カバー250及び補助ガイド255(補助電極247を除く)は、非導電性材料(絶縁性材料)、すなわち、電気を通し難い性質を有する材料により形成されている。ハウジング210、カバー250及び補助ガイド255に用いられる非導電性材料(絶縁性材料)としては、例えば、合成樹脂等の非導電性(絶縁性)の有機材料、又はガラス若しくはセラミック等の非導電性(絶縁性)の無機材料等が例示される。非導電性(絶縁性)の合成樹脂(非導電性樹脂)としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、その他汎用の樹脂等を用いることができる。非導電性(絶縁性)の有機材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、モノマーキャストナイロンなどを用いることができる。
【0022】
[カバーの構成]
図1B及び
図2を参照してカバー250の説明をする。カバー250は、一方の開口251と他方の開口253を有し、一方の開口251から他方の開口253に向かうにしたがい開口面積が絞られていく筒形状となっている。このため、一方の開口251は他方の開口253よりも広くなっている。カバー250のうち一方の開口251に沿う部分が当接縁部252である。この当接縁部252が、後述するハウジング210の第2の係合段部225に嵌合することにより、カバー250がハウジング210に装着される。後述するカートリッジ100が装着されたハウジング210に、カバー250を装着すると、カートリッジ100のノズル123が、カバー250の他方の開口253を貫通し、ノズル123の噴出孔123aが、カバー250の外側に臨む状態になる。つまり、カバー250は、ハウジング210に装着されていても、カートリッジ100の噴出部120からの液体の噴出を許容するように構成されている。
【0023】
[補助ガイドの構成]
補助ガイド255は、
図1B及び
図2に示すように、噴出方向に沿って伸びる円筒状に形成されており、その内面(後述するガイド内壁255b)がカバー250の開口253と連続するよう、該開口253の周囲に設けられている。補助ガイド255は、カバー250の開口253から補助ガイド255の先端(開口255a)に向けて一定の径で延びている。なお、補助ガイド255は、内径が一定の円筒状の構成に限定されず、先端(開口255a)に向けて拡径又は縮径した円筒状(軸方向に径が異なる円筒状)の構成や、軸方向と直交する断面が楕円状の円筒状(周方向に径が異なる円筒状)の構成等であっても良い。なお、補助ガイド255が先端(開口255a)に向けて拡径又は縮径した円筒状である場合において、カバー250との境界が不明確となる場合には、噴出方向の軸に対して、円筒内側の母線の角度が-30°(縮径する方向)以上60°(拡径する方向)の部分を補助ガイド255と定義しても良い。
【0024】
補助ガイド255は、後述するノズル123の噴出孔123aから噴出方向と直交する方向に離間した位置で、ノズル123の周囲に形成されている。ここで「ノズルの周囲に形成」とは、ノズル123の周囲を完全に囲う態様(例えば、ノズル123の周方向全域に亘って取り囲むように補助ガイド255が配される態様)の他に、ノズル123の周囲を間欠的に囲う態様(例えば、ノズル123の周囲を囲うように周方向に沿って複数の円弧状の補助ガイドが配される態様、ノズル123の周囲を囲うように周方向に沿って複数の平板状の補助ガイドが配される態様等)で形成されることも含むものとする。なお、カバー250と補助ガイド255は、別部材で形成されても良いし、一体的に形成されても良い。また、ノズル123と補助ガイド255においても、別部材で形成されても良いし、一体的に形成されても良い。
【0025】
本実施形態に係る装置本体200では、このようにノズル123の周囲に非導電性の補助ガイド255が配置されることにより、補助ガイド255の内面(後述するガイド内壁255b)と、ノズル123から噴出された液体との間に電荷反発が生じる。そして、この電荷反発により、ノズル123から噴出された液体の分散(ノズル軸に対する径方向外側への拡散)を抑えることができるため、対象物上における液体の噴出範囲を狭くすることができる。また、液体の噴出範囲が狭くなることで、形成される被膜の密着性及び均一性を向上することができると共に、被膜のふわつきを抑えることができる。ここで、本明細書において「ふわつき」とは、被膜の形成時に繊維が対象物上に密着していない状態を意味する。
【0026】
補助ガイド255の内径D1は、
図3に示すように、より低い電圧で液体の噴出範囲の広がりを抑制させる観点から、10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましく、また、電荷反発により、液体の噴出範囲の広がりを抑える観点から、75mm以下であることが好ましく、55mm以下であることがより好ましい。なお、「補助ガイド255の内径D1」とは、補助ガイド255が内径が一定の円筒状である場合には、その内径をいい、補助ガイド255が軸方向に径が異なる円筒状である場合又は周方向に径が異なる円筒状である場合には、内径の最小をいう。
【0027】
補助ガイド255の厚みは、例えば、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、また、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましい。なお、「補助ガイド255の厚み」とは、補助ガイド255の噴出方向に直交する方向の厚みをいう。
【0028】
ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う突出距離H1は、
図3及び
図4に示すように、-40mm以上であることが好ましく、-10mm以上であることがより好ましく、また、60mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。ここで、「ノズルの噴出孔」とは、ノズル123の先端をいう。また、「突出距離H1」とは、ノズル123の噴出孔123aを基準(0)とした場合における、補助ガイド255の噴出方向側の端部(先端)の突き出し量(突き出し長さ)をいい、対象物の面からノズルの噴出孔までの高さ方向における直線距離と、対象物の面から補助ガイドの先端までの高さ方向における直線距離との差から求めることができる。
【0029】
なお、突出距離H1の上記数値範囲において、H1=0は、補助ガイド255の噴出方向側の端部(すなわち先端)がノズル123の噴出孔123aと同位置であることを意味している。このように、補助ガイド255の噴出方向側の端部(すなわち先端)が、ノズル123の噴出孔123aと同位置(突出距離H1=0mm)である場合には、静電紡糸装置10の小型化を図り、使いやすさを向上させることが可能になると共に、低い閾値電圧で紡糸することが可能になるという利点を有する。また、ノズル123先端の掃除がしやすく、液体の噴出範囲の広がりを抑制することもできるという利点を有する。このように、突出距離H1=0mmとする場合には、小型化、操作性及び低閾値電圧という観点における利点と、液体吐出のピンポイント効果という観点における利点との双方をバランスよく両立させることが可能となる。
【0030】
また、突出距離H1の上記数値範囲において、プラスの値(H1>0)は、補助ガイド255の噴出方向側の端部(すなわち先端)が、
図3に示すように、ノズル123の噴出孔123aよりも対象物側(噴出方向側)に位置することを意味している。この場合において、突出距離H1(mm)は、0<H1≦60であることが好ましい。このように、突出距離H1>0とする場合には、ノズル123先端の掃除がより一層容易となり、また、液体の噴出範囲の広がりをより一層抑制することができるという利点を有する。
【0031】
一方、突出距離H1の上記数値範囲において、マイナスの値(H1<0)は、補助ガイド255の噴出方向側の端部(すなわち先端)が、
図4に示すように、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置することを意味している。この場合において、突出距離H1(mm)は、-40≦H1<0であることが好ましい。このように、突出距離H1<0とする場合には、静電紡糸装置10をより一層小型化することが可能になり、より一層使いやすさを向上させることが可能になると共に、より低い閾値電圧で紡糸することが可能になるという利点を有する。
【0032】
補助ガイド255は、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部との噴出方向に沿う突出距離H1』÷『補助ガイド255の内径D1』」が、1.00未満であることが好ましい。具体的には、被膜の範囲をより狭くすることができる観点から、-4.0以上であることが好ましく、-1.33以上であることがより好ましく、-0.4以上であることが更に好ましく、また、より小さな電圧で被膜の範囲を狭くすることができる観点から、0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることが更に好ましい。
【0033】
一方、液体の噴出量を少なくすると、補助ガイド255へ液体の付着が起こりにくく安定するため、補助ガイド255を長く設計でき、よりピンポイントかつ安定的に液体を吐出することができる傾向にある。例えば、液体の噴出量が0.01ml/min以上1.0ml/min以下である場合には、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部との噴出方向に沿う突出距離H1』÷『補助ガイド255の内径D1』」を、1.00以上1.67未満とすることが可能である。このため、補助ガイド255の突出距離H1及び補助ガイド255の内径D1は、静電紡糸装置10の所望とするサイズ及び形状や、所望とする静電紡糸装置10の性能(電圧)等に応じて、任意に設定することが好ましい。
【0034】
補助ガイド255の噴出方向側の端部から噴出方向と反対側の端部までの噴出方向に沿った長さD2は、より液体の噴出範囲の広がりを抑える観点から、5mm以上であることが好ましく、カバー250への取り付け易さの観点から、20mm以上であることがより好ましく、また、静電紡糸装置10をコンパクト化する観点から、60mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましい。ここで、補助ガイド255の「噴出方向と反対側の端部」は、補助ガイド255の内面における基端、すなわち、カバー250の開口253とすることができる。
【0035】
補助ガイド255のノズル123の噴出孔123aから噴出された液体に対する電荷反発による影響は、突出距離H1を大きくすると(補助ガイド255の噴出方向側の端部を対象物に近い位置に設定すると)強まり、また、補助ガイド255の内径D1を小さくすると強まる傾向がある。すなわち、突出距離H1を大きくし、かつ、補助ガイド255の内径D1を小さくすると、補助ガイド255に起因する電荷反発の影響が強まって液体の拡散が抑制され、対象物上における繊維の堆積範囲を小さくすることが可能となる。一方で、電荷反発による影響が強まると、液体を帯電させるための電圧が高電圧になる傾向にある。このため、突出距離H1及び補助ガイド255の内径D1は、静電紡糸装置10の所望とするサイズ及び形状や、所望とする静電紡糸装置10の性能(電圧)等に応じて、任意に設定することが好ましい。
【0036】
補助ガイド255は、
図3に示すように、その内部に、補助ガイド255の周方向に沿って延びる補助電極247を有している。すなわち、補助ガイド255は、ノズル123と補助電極247との間に配置されるガイド内壁255bと、補助電極247の径方向外側(噴出方向と直交する方向の外側)に配置されるガイド外壁255cと、ガイド内壁255bの先端部(噴出方向側の端部)とガイド外壁255cの先端部(噴出方向側の端部)との間を閉塞する先端閉塞壁255dとを備えている。補助ガイド255先端の角部、すなわち、ガイド内壁255bと先端閉塞壁255dとを接続する角部と、ガイド外壁255cと先端閉塞壁255dとを接続する角部とは、電場を乱れにくくし、安定して紡糸する観点から、面取りされるか又はR面状に形成されることが好ましい。
【0037】
これらガイド内壁255b、ガイド外壁255c及び先端閉塞壁255dは、これらの間に補助電極247を収容するための補助電極収容空間255eを形成可能に構成されている。すなわち、補助電極247は、静電紡糸装置10の全体を覆うハウジング等の部材ではなく、ノズル123の周囲に配置される小型かつ薄型の補助ガイド255によって覆われている。
【0038】
ガイド内壁255bは、既述のとおり、ノズル123から噴出された液体との間に生じる電荷反発により、ノズル123から噴出された液体の分散を抑える機能を有している。一方、ガイド外壁255c及び先端閉塞壁255dは、使用者が補助電極247に触れないようにするため又は使用者と補助電極247との間の放電を防止するための感電防止壁としての機能を有している。なお、使用者と補助電極247との間において放電が起きる可能性がない又は低い場合には、先端閉塞壁255dを設けない構成(ガイド内壁255bとガイド外壁255cとの間が開放されている構成)としても良い。
【0039】
補助電極247は、図示の例ではリング状に形成されているが、補助電極247の形状はこれに限定されるものではなく、例えばコイル状、板状及び円筒状等の任意の形状を採用することが可能である。また、補助電極247は、補助ガイド255の周方向全域に亘って配される構成に限定されず、周方向に沿って所定の間隔を置いて配される間欠的な構成であっても良い。さらに、補助電極247は、補助ガイド255の延在方向(すなわち、液体の噴出方向)に沿って延びる構成を有していても良い。
【0040】
補助電極247の噴出方向側の端部は、
図3に示すように、噴出方向に沿う高さ位置が、ノズル123の噴出孔123aと略同じ位置である。ただし、これに限定されず、補助電極247の噴出方向側の端部は、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置させても良い。なお、補助ガイド255の噴出方向側の端部が、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置に位置している場合は、
図4に示すように、補助電極247の噴出方向側の端部は、噴出方向に沿う高さ位置が、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置することとなる。
【0041】
補助電極247の噴出方向側の端部を、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置させる場合には、具体的には、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の後退距離H2(
図4参照)は、0mm以上であることが好ましく、また、液体の噴出範囲を狭くする観点から、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0042】
なお、この場合における「後退距離H2」とは、ノズル123の噴出孔123aを基準(0)とした場合における、補助電極247の噴出方向側の端部(先端)の後退量(後退距離)をいい、対象物の面から補助電極247の噴出方向側の端部までの高さ方向における直線距離と、対象物の面からノズル123の噴出孔123aまでの高さ方向における直線距離との差から求めることができる。
【0043】
ノズル123の噴出孔123aから噴出された液体に対する補助電極247の電場の影響は、補助電極247の噴出方向側の端部を対象物に近い位置に設定するほど強まる傾向にあるが、その一方で、液体を帯電させるための電圧を増加させる必要がある。このため、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う後退距離H2は、静電紡糸装置10の所望とするサイズ、形状及び性能等に応じて、任意に設定することが好ましい。
【0044】
[カートリッジの構成]
カートリッジ100は、液体の供給対象となる装置に交換可能に装着される使い捨て容器であり、本実施形態では、静電紡糸装置に用いられる静電紡糸装置用カートリッジである。具体的には、
図2に示すように、カートリッジ100は、液体が収容される導電性の液収容袋(液収容部)110と、液収容袋110内の液体を噴出させる噴出部120とを有している。
【0045】
液収容袋110は、同形同大の2枚のシート体を重ね、両者の周縁部を接合(本実施形態では熱融着)して形成した扁平な袋状の密閉容器であり、その内部に液体が収容されている。各シート体は、袋状とされた際の内面を形成する内層と、外面を形成する外層と、内層と外層との間に配された導電層とを備える積層体からなり、導電性を有している。なお、これら内層と外層との間に更に任意の層、例えば、PETフィルム等の接着層等が設けられても良い。
【0046】
内層は、収容される液体に耐性を有すると共に、シーラント効果(熱融着性)を有するシーラント層で形成されることが好ましい。具体的には、無延伸ポリプロピレン(CPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、LDPEとLLDPEのブレンド、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセンポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合フィルム(EVA)等を用いることができる。その中でも低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、LDPEとLLDPEのブレンドが好ましい。内層の厚さは、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、内層の厚さは、150μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
【0047】
外層は、内層よりも機械的強度の優れた材料で形成される。外層の材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、延伸ポリプロピレン(OPP)及び延伸ナイロン(ONy)等が例示される。その中でもポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。外層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、外層の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。外層は、導電層との界面に印刷層を有していてもよい。印刷層は、通常、高揮発性溶剤液体に溶けやすい着色剤を主成分とするインキによって形成される。
【0048】
導電層は、外層側から印加された電圧を内層を介して液体に印加させることが可能な導電性を有する材料で形成される。導電層としては、例えばアルミニウムシートを用いることができる。アルミニウムシートの厚さは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましい。アルミニウムシートの厚さは、15μm以下であることが好ましく、9μm以下であることがより好ましい。
【0049】
また、導電層としては、PETフィルムやポリプロピレン(PP)フィルムなどの樹脂フィルムにアルミニウム、酸化アルミニウム、導電性シリカ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)又は二酸化スズ(SnO2)等を蒸着させた蒸着フィルムを用いることもできる。樹脂フィルムの厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0050】
樹脂フィルムと蒸着層の材料とは、適宜組み合わせて蒸着フィルムを構成することができる。なかでも、樹脂フィルムとしてPETフィルムを用い、蒸着層としてアルミニウムを用いることが好ましい。
【0051】
導電層は、液収容袋110内の液体に十分に電圧を印加することが可能な体積抵抗率を有している。具体的には、導電層は、例えば10-2Ωm以下の体積抵抗率を有することが好ましく、10-7Ωm以下の体積抵抗率を有することが更に好ましい。
【0052】
また、導電層は、液収容袋110内の液体に十分に電圧を印加することが可能な範囲に亘って設けられている。具体的には、導電層は、液収容袋110全体の5%以上の範囲を占めることが好ましく、10%以上の範囲を占めることがより好ましく、30%以上の範囲を占めることが更に好ましく、液収容袋110の全面に亘って設けられることが一層好ましい。また、導電層が部分的に設けられる場合には、その一部(導電部分)は、液体の収容箇所に設けられることが好ましく、また、その位置は、噴出部120寄りに設けられることが、液体に十分に電圧を印加する観点から好ましい。
【0053】
導電層は、液収容袋110内の液体が外層へ浸透することを抑制するバリア層として機能しても良い。このように導電層をバリア層として機能させることにより、液体(揮発性液溶剤)の蒸散を抑制することができるため、液体に溶解しているポリマーなどの析出を抑制することができ、効果的に内容物の安定性を向上させることができる。また、導電層にアルミニウムシートや蒸着フィルムを用いた場合は、導電層自身に遮光性があるために、内容物を効果的に保護することができる。さらに、印刷層に遮光性を付与する必要がないため、印刷に用いることができる色数を増やすことができる。さらに、光沢性があるために、デザイン性を向上させることができる。
【0054】
液収容袋110は、接合された周縁部よりも内側の領域が、内容物の体積変化(例えば、収容している液体の量の減少)に応じて変形することが可能な可撓性を有している。すなわち、液収容袋110は、内容物の体積変化に応じて変形しない周縁部と、内容物の体積変化に応じて変形可能な可撓領域とからなる。液収容袋110の可撓領域は、液体が十分に収容されているときには、外側に膨らんだ膨満形状になっているが、収容されている液体が減少してくるとこれに追従して次第に膨らみ量が減ってきて、最終的には平面状になる。なお、ここでいう「内容物」とは、液収容袋110に収容されている液体と、液収容袋110内部に封入された気体(空気)との総称である。
【0055】
噴出部120は、装着体121と、接続体122と、ノズル123を有している。本実施形態では、装着体121、接続体122及びノズル123は、非導電性樹脂(例えば、所謂カーボンレス樹脂)により形成されている。なお、「非導電性樹脂」とは、金属やカーボン等の導電性材料を含まず、また、電気抵抗が高く、電気が流れにくい一般的な樹脂をいい、例えば、1012Ωm以上の体積抵抗率を有する樹脂のことをいう。本実施形態において、装着体121、接続体122及びノズル123は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアセタール(PОМ)など、エタノール等の溶媒に対して耐溶媒性を有する、絶縁性の単品樹脂により形成されている。
【0056】
装着体121は、その内部に、流路、ポンプ(例えば、歯車ポンプ)及びノズル電極124を有している。流路は、液体を流通させる通路である。ポンプは、流路の途中に配置されており、駆動されることにより液体を吸引して流路内を流通させる。
【0057】
ノズル電極124は、ノズル123の内部、かつ、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に配されている。ノズル電極124は、導電性の液収容袋110を介して後述する高電圧発生部244と電気的に接続可能に構成されており、これにより、液体に電圧を印加するよう構成されている。本実施形態において、ノズル電極124は、針状(棒状)に形成された針状電極であるが、これに限定されるものではなく、その内部に液体を流通させることが可能なチューブ状電極としても良いし、その他、液体に電圧を印加するという機能を阻害しない範囲内において種々の形状を採用することが可能である。
【0058】
ノズル電極124の噴出方向側の端部から噴出孔123aまでの距離D3は、ノズル電極124と接触するのを防止する観点から、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、また、電位降下を防ぎ、効率よく電圧を印加する観点から、15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。
【0059】
接続体122は、液収容袋110に機械的に接続されると共に、液収容袋110の内部に連通しており、液収容袋110内の液体を、装着体121の流路に導く。ノズル123は、装着体121と共に一体的に形成されており、先端に噴出孔123aを有すると共に、噴出孔123aと装着体121の流路とを接続するノズル流路を有している。帯電した液体は、ノズル123内に形成したノズル流路を通過した後、噴出孔123aから噴出される。
【0060】
[ハウジングの外部構成]
図1A、
図1B及び
図2に示すハウジング210は、ノズル123に連続する領域に使用者が手で握ることができる形状と大きさとなっている把持部227を有している。具体的には、ハウジング210は、扁平な形状、すなわち、ノズル軸(ノズル123から液体が噴出される方向に沿う軸)に直交する断面が長軸と短軸を有する形状を有している。また、ハウジング210は、ノズル軸に沿う方向の長さが、例えば、3cm以上11cm以下である。ここで「ノズル123に連続する領域」とは、組み立てた状態において、面続きで連続している領域をいい、ノズル123と把持部227が一体的に連続している態様の他に、ハイウジング210の周縁、除電用のプレート及びスイッチ等が介在して間接的に連続している態様を含むものとする。ハウジング210内には、カートリッジ100の液収容袋110を収容可能な収容空間220(
図2参照)が形成されると共に、液体を静電チャージ(静電的に帯電)する帯電構造や、装着体121内に備えたポンプを駆動する駆動部等が配置されている。帯電構造や駆動部等の詳細については、後述する。
【0061】
なお、本明細書では、ハウジング210の表面のうち、カバー250が装着される面を「着脱面222」という。また、この着脱面222のうち、カバー250の当接縁部252が接触する外周縁部を「周縁221」という。以下、この着脱面222に施されている構造を、
図2を参照して説明する。
【0062】
着脱面222は、
図2に示すように、楕円状の周縁221により囲まれた、略楕円状の面となっている。この着脱面222には、楕円の長軸に対して略平行な状態で挿入孔223が形成されている。挿入孔223は、ハウジング210内の収容空間220に連通しており、カートリッジ100の液収容袋110が、挿入孔223を挿通して収容空間220に挿脱することができる形状及び大きさになっている。本実施形態において、挿入孔223及び収容空間220は、楕円の中央位置ではなく、周縁221の一部分に近寄った位置に形成されており、これにより、周縁221の他の部分側に、帯電構造や駆動部等の収容スペースを広く確保することが可能となっている。
【0063】
着脱面222には、その周縁221に沿って第1の係合段部224が形成されていると共に、第1の係合段部224の内周側に第2の係合段部225が形成されている。キャップ11は、その開口縁部11a(
図1B参照)が、第1の係合段部224に嵌入することで、ハウジング210に着脱自在に装着される。カバー250は、その一方の開口251に沿う部分である当接縁部252(
図2参照)が、第2の係合段部225に嵌入することで、ハウジング210の周縁221に沿った部分に着脱自在に装着される。
【0064】
着脱面222には、マウント凹部226が形成されている。このマウント凹部226は、カートリッジ100の装着体121が嵌入してくると、この装着体121を位置合わせした状態で保持する形状になっている。このため、カートリッジ100の液収容袋110が挿入孔223を介して収容空間220に挿入されてきて、装着体121がマウント凹部226に密接に嵌入して位置保持されると、カートリッジ100が、ハウジング210の規定位置に正確に装着される。
【0065】
[ハウジングの内部構成及び動作]
図5を参照して、ハウジング210内に備えた帯電構造や駆動部等について説明する。ハウジング210には、主電源操作部241と作動操作部242が、ハウジング210の外部から操作しうる状態で取り付けられている。ハウジング210の内部には、電源部243、高電圧発生部244、電極部245、出力端子246及び駆動部248が備えられている。高電圧発生部244及び駆動部248は、電源部243と電気的に接続されており、電極部245及び出力端子246は、高電圧発生部244と電気的に接続されている。これにより、高電圧発生部244は、後述するように電極部245が導電性の液収容袋110と電気的に接続された際に、該液収容袋110と電気的に接続可能に構成されている。
【0066】
電極部245(フィールド電極)は、2枚の導電板(金属板等)で構成されている。この2枚の導電版は、収容空間220を間に挟んだ状態で対向配置されている。このため、カートリッジ100の液収容袋110が挿入孔223を介して収容空間220に収容され、カートリッジ100がハウジング210に装着されると、液収容袋110は、電極部245を構成する2枚の導電板の間の位置に占位する。なお、電極部245を袋状の導電体で形成し、ハウジング210の収容空間220内に収容された液収容袋110が、袋状の電極部245で包まれるような構成を採用することも可能である。
【0067】
ここで、主電源操作部241と作動操作部242を操作することにより行われる動作を説明する。この動作の前提としては、次に示す(a),(b),(c)の状態になっていることとする。なお通常の使用時では(c)の状態になっているが、(c)の状態になっていなくても、主電源操作部241と作動操作部242による操作に基づく動作は可能である。
(a)カートリッジ100の液収容袋110が、挿入孔223を介して収容空間220に収容され、カートリッジ100が、ハウジング210の規定位置に正確に装着されている。
(b)上記(a)により、液収容袋110は、電極部245を構成する2枚の導電性の間の位置に占位している。
(c)カバー250がハウジング210に装着されている(
図1B参照)。
【0068】
上記(a)及び上記(b)の状態になると、電極部245が、導電性の液収容袋110と電気的に接続されると共に、出力端子246が、カートリッジ100のノズル電極124と電気的に接続される。また、駆動部248は、カートリッジ100の装着体121内に備えた歯車ポンプの歯車に機械的に連結される。さらに、上記(c)の状態になると、電極部245は、液収容袋110を介して補助電極247と電気的に接続される。これにより、ノズル電極124と補助電極247は、同電位となる。ただし、当該構成に限定されず、ノズル電極124と補助電極247とが異なる電位となる構成であっても良い。
【0069】
主電源操作部241をオフ(OFF)にしておくと、電源部243から高電圧発生部244や駆動部248に給電がされることはない。このため、高電圧発生部244から高電圧が発生することはなく、また駆動部248が駆動することもない。したがって、主電源操作部241をOFFにしておけば、使用者が間違って作動操作部242を操作しても、液収容袋110に収容した液体に静電チャージがされることはなく、液体が噴出されることもない。
【0070】
作動操作部242は、例えば、オン(ON)状態とオフ(OFF)状態とを切り替えることが可能なスイッチにより構成されている。主電源操作部241がON状態になっているときに、作動操作部242をONすると、電源部243から高電圧発生部244と駆動部248に給電がされる。そうすると、駆動部248が駆動して回転力を発生し、この回転力は、カートリッジ100の装着体121内に備えた歯車ポンプの歯車に伝達され、歯車ポンプが駆動する。歯車ポンプの駆動により液収容袋110内の液体が噴出部120側に吸引される。また、高電圧発生部244は正の高電圧(例えば、数kVから数十kV)を発生し、発生した高電圧を電極部245及び出力端子246に送る。なお、高電圧は、所望とする補助ガイド255の内径等に応じて、任意に設定することが好ましい。
【0071】
電極部245は、高電圧が印加されることにより、液収容袋110内に収容された液体を静電チャージする。高電圧が印加された電極部245は、導電性の液収容袋110を介して、補助電極247に高電圧を送る。補助電極247は、高電圧が印加されることにより、ノズル電極124の近傍における電場の状態を調整する。なお、補助電極247は正の電荷を帯び、ノズル電極124が帯びる電荷の極性と同じである。補助電極247及びノズル電極124は、同じ極性の電荷であれば、負の電荷を帯びても良い。
【0072】
出力端子246は、カートリッジ100の装着体121内に備えたノズル電極124に高電圧を送る。ノズル電極124は高電圧が印加されることにより、ノズル123を流通する液体に対して静電チャージする。また、ノズル電極124及び補助電極247は、高電圧が印加されることにより、電場が生じうる。すなわち、ノズル電極124及び補助電極247と、これらに対向する対象物(接地電位)との間には、高電位差の電場が生じうる。この電場における等電位面に対し直交する電気力線に沿って、液体が進む。
【0073】
このようにして静電チャージされた液体が、液収容袋110から噴出部120に流入し、ノズル123の噴出孔123aにまで達すると、帯電した液体と対象物との電位差に基づく静電気力によって、液体は対象物に向かって噴出される。その後、作動操作部242をOFFにすると、液体の噴出が停止する。
【0074】
ハウジング210には、主電源操作部241及び作動操作部242に加え、液体の噴出量を多段的(例えば大/中/小の3段階)に調整できる切り替えスイッチ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0075】
上記の例では、作動操作部242は、ON/OFFの2状態のみを選択するスイッチであったが、これに限定されず、例えば、押し込むことによりオン(ON)になり、押し込みをやめるとオフ(OFF)に戻り、更にON状態において押し込み量を変化させることができるスイッチであってもよい。作動操作部242が、ON状態において押し込み量を変化させることができるスイッチである場合には、その押し込み量の変化により、ノズル123から噴出される液体の噴出量を調整することが可能であっても良い。すなわち、作動操作部242の押し込み量を増やしていくと、電源部243から駆動部248に給電される電圧が高くなり、駆動部248の回転数が増加する。そうすると装着体121内に備えた歯車ポンプの回転数が増加し、液収容袋110から噴出部120側に吸引されてくる(流入してくる)液体の量が増加し、噴出される液体の噴出量も増加する。一方、作動操作部242の押し込み量を減らしていくと、電源部243から駆動部248に給電される電圧が低くなり、駆動部248の回転数が減少する。そうすると装着体121内に備えた歯車ポンプの回転数が減少し、液収容袋110から噴出部120側に吸引されてくる(流入してくる)液体の量が減少し、噴出される液体の噴出量も減少する。
【0076】
[液体の組成]
液収容袋110に収容される液体は、特に限定されるものではないが、例えば、静電紡糸装置において使用される紡糸用の液体組成物が例示される。また、そのような液体組成物としては、例えば、繊維形成の可能な高分子化合物が溶媒に溶解した溶液を用いることができる。そのような高分子化合物としては、水溶性高分子化合物または水不溶性高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0077】
水不溶性高分子化合物を用いる場合、液体組成物は、次の成分(a)、(b)および(c)を含有することが好ましい
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種以上の揮発性物質(揮発性液剤)
(b)繊維形成用水不溶性ポリマー
(c)水
【0078】
具体的には、水不溶性高分子化合物を用いる場合、液体組成物は、(a)アルコール及びケトンから選ばれる揮発性液剤を50質量%以上含有する。揮発性液剤は、液体の状態において揮発性を有する物質である。(a)揮発性液剤はその蒸気圧が20℃において0.01kPa以上、106.66kPa以下であることが好ましく、0.13kPa以上、66.66kPa以下であることがより好ましく、0.67kPa以上、40.00kPa以下であることが更に好ましく、1.33kPa以上、40.00kPa以下であることがより一層好ましい。
【0079】
(a)揮発性液剤のうち、アルコールとしては例えば一価の鎖式脂肪族アルコール、一価の環式脂肪族アルコール、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。一価の鎖式脂肪族アルコールとしてはC1-C6アルコール、一価の環式アルコールとしてはC4-C6環式アルコール、一価の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等がそれぞれ挙げられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、n-プロパノール、n-ペンタノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0080】
(a)揮発性液剤のうち、ケトンとしてはジC1-C4アルキルケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのケトンは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
(a)揮発性液剤は、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはエタノール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種であり、形成される繊維の感触の観点から更に好ましくはエタノールを含有する揮発性液剤である。
【0082】
液体組成物における(a)揮発性液剤(グリコールを除く)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。また、95質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることが更に好ましい。液体組成物における(a)揮発性液剤の含有量は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上94質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上93質量%以下であることが更に好ましい。この割合で液体組成物中に(a)揮発性液剤を含有させることで、静電スプレー法を行うときに液体組成物を十分に揮発させることができ、皮膚又は爪の表面に繊維を含む被膜を形成することができる。
【0083】
また、エタノールは、揮発性の高さと形成される繊維の感触の観点から、(a)揮発性液剤の全量に対して、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが一層好ましい。また100質量%以下であることが好ましい。エタノールは(a)揮発性液剤の全量に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以上100質量%以下であることが一層好ましい。
【0084】
また、液体組成物は、(b)繊維形成用水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。繊維形成用水不溶性ポリマーは、揮発性液剤に溶解することが可能な物質である。ここで、溶解するとは20℃において分散状態にあり、その分散状態が目視で均一な状態、好ましくは目視で透明又は半透明な状態であることをいう。
【0085】
(b)繊維形成用水不溶性ポリマーとしては、揮発性物質に可溶で、水に対して不溶なポリマーである。本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するものをいう。一方、本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が溶解しない性質を有するもの、言い換えれば溶解量が0.5g未満の性質を有するものをいう。
【0086】
水不溶性である繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性ポリマーのうち、被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ツエインから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらの水不溶性ポリマーのうち、アルコール溶媒への分散性、繊維の感触の観点等から、部分鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂がより好ましく、部分鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂がさらに好ましく、皮膚又は爪の表面に繊維を含む被膜を安定して効率的に形成することができる点、被膜の耐久性、被膜の形成性、皮膚への追随性と耐久性との両立の点からポリビニルブチラール樹脂が殊更に好ましい。
【0087】
液体組成物中の(b)繊維形成用水不溶性ポリマーの含有量は、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。液体組成物の(b)繊維形成用水不溶性ポリマーの含有量は、2質量%以上30質量%以下であることが好ましく、4質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、6質量%以上20質量%以下が更に好ましい。この割合で液体組成物中に(b)繊維形成用水不溶性ポリマーを含有させることで、繊維状の被膜を安定して効率的に形成することができる。
【0088】
また、液体組成物は、(c)水を含むことが好ましい。(c)水は、エタノール等の電離しない溶媒に比べて電離し荷電するため、液体組成物に導電性を付与することができる。そのため、静電スプレーにより皮膚や爪の表面上に繊維状の被膜が安定して形成される。また、水は、静電スプレーにより形成される被膜の皮膚や爪への密着性の向上、耐久性の向上、外観に寄与する。これらの作用効果を得る点から、(c)水は、液体組成物中に0.2質量%以上20質量%以下含有することが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下がより好ましく、湿度の高い環境においても繊維状の被膜の形成性の観点から0.4質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0089】
また、液体組成物における、(c)水の含有量と(b)繊維形成用水不溶性ポリマーの含有量との質量比((b)/(c))は、繊維状の皮膜の安定性の観点から、0.1以上150以下であることが好ましく、0.4以上80以下であることがより好ましく、0.4以上50以下であることが更に好ましい。
【0090】
液体組成物は、更に他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばポリオール、液状油、繊維形成用水不溶性ポリマーの可塑剤、液体組成物の導電率制御剤、水溶性ポリマー、着色顔料、体質顔料等の粉体、染料、香料、忌避剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、各種ビタミン等が挙げられる。液体組成物中に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の含有割合は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
更に、液体組成物中に不揮発性のグリコールを含有することができる。グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。静電スプレー法を行うときに揮発性液剤を十分に揮発させる観点、繊維形成性の観点、形成される繊維の感触の観点から、液体組成物中に10質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が好ましく、実質含まないことが好ましい。
【0092】
液体組成物の粘度は、繊維状の被膜を安定して形成する点、静電スプレー時の紡糸性の観点、被膜の耐久性を向上する観点と、被膜の感触を向上する観点から、25℃で2mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上1500mPa・s以下がより好ましく、15mPa・s以上1000mPa・s以下がさらに好ましく、15mPa・s以上800mPa・s以下がよりさらに好ましい。液体組成物の粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される。E型粘度計としては例えば東京計器株式会社製のE型粘度計(VISCONICEMD)を用いることができる。その場合の測定条件は、25℃、コーンプレートのローターNo.43、回転数は粘度に応じた適切な回転数が選択され、500mPa・S以上の粘度は5rpm、150mPa・S以上500mPa・S未満の粘度は10rpm、150mPa・S未満の粘度は20rpmとする。
【0093】
以上説明したとおり、本実施形態に係る静電紡糸装置10は、本実施形態に係る静電紡糸装置10は、概略的には、液体の噴出方向に沿って延び、液体を噴出する噴出孔123aを有する非導電性のノズル123と、ノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に配され、液体に電圧を印加するノズル電極124と、噴出方向に沿って延びる非導電性の補助ガイド255とを備え、補助ガイド255は、ノズル123の噴出孔123aから噴出方向と直交する方向に離間した位置で、ノズル123の周囲に配置され、補助ガイド255の内部に、補助ガイドの周方向に沿って延びる補助電極247を有する。
【0094】
このような構成を備える静電紡糸装置10によれば、補助ガイド255と、ノズル123から噴出された液体との電荷反発により、ノズル123から噴出された液体の分散(ノズル軸に対する径方向外側への拡散)を抑えることができるため、対象物上における液体の噴出範囲の広がりを抑えることができる。また、補助ガイド255だけではなく、更に補助電極247を有することで、電場の強度をより強くすることができるので、より一層、ノズル123から噴出された液体の噴出方向への直進性を向上させ、対象物上における液体の噴出範囲の広がりを抑えることができると共に、対象物上に対する被膜の密着性を高めることができる。
【0095】
また、本実施形態に係る静電紡糸装置10によれば、ノズル電極124がノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に配されているので、使用者の感電のリスクを減らすことができ、安全性を高めることができる。さらに、補助電極247が補助ガイド255の内部に配置されることにより、装置全体を大型化することなく、より一層、使用者の感電のリスクを減らすことができ、安全性を高めることができる。またさらに、補助ガイド255と補助電極247を組み合わせることにより、補助ガイド単体又は補助電極単体で用いる場合と比較して、同等のピンポイント効果(液体の噴出範囲の広がりを抑える効果)を得るために必要な閾値電圧を低くすることが可能となる。換言すれば、補助ガイド255と補助電極247を組み合わせることで、より低い閾値電圧で同等以上のピンポイント効果を得ることができるため、小型化やコスト削減を図ることができると共に、より一層、安全性を高めることができる。
【0096】
このように、本実施形態に係る静電紡糸装置10によれば、安全性の確保と大型化の抑制とを両立させつつ、噴出範囲の広がりを抑えることが可能となる。
【0097】
また、本実施形態に係る静電紡糸装置10は、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う突出距離H1が-40mm以上60mm以下であることにより、より一層、ノズル123から噴出された液体の分散(ノズル軸に対する径方向外側への拡散)を抑えることができる。
【0098】
さらに、本実施形態に係る静電紡糸装置10では、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う突出距離H1』÷『補助ガイド255の内径D1』」が1.00未満であることにより、ノズル123から噴出された液体が補助ガイド255に付着することを防ぐことができる。
【0099】
また、本実施形態に係る静電紡糸装置10は、液体の吐出量が少ない低吐出時(例えば、液体の噴出量が0.01ml/min以上1.0ml/min以下)において、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う突出距離H1』÷『補助ガイド255の内径D1』」を比較的大きな値、具体的には1.00以上1.67未満に設定することが可能である。これにより、補助ガイド255へ液体の付着を抑えつつ補助ガイド255を長く設計することが可能となるため、よりピンポイントかつ安定的に紡糸することが可能となる。
【0100】
さらに、本実施形態に係る静電紡糸装置10では、補助電極247の噴出方向側の端部が、ノズル123の噴出孔123aと同位置又はノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置していることにより、より安定して対象物上における繊維の堆積範囲の広がりを抑えることができる。
【0101】
またさらに、本実施形態に係る静電紡糸装置10では、補助ガイド255の噴出方向側の端部は、ノズル123の噴出孔123aと同位置又はノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向側に位置していることにより、より一層安定して、対象物上における繊維の堆積範囲の広がりを抑えることができる。
【0102】
さらに、本実施形態に係る静電紡糸装置10では、ノズル123及び補助ガイド255の少なくとも一方が非導電性樹脂により構成されることによって、ノズル123及び補助ガイド255を汎用性のある材料で形成することが可能となるため、製造コストを抑えることが可能となる。
【0103】
ノズル123に連続する領域に把持部227を備えることにより、静電紡糸装置10をコンパクト化することができる。
【0104】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態として本実施形態を例示して説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上記各実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0105】
また、上述した本実施形態では、装置本体200のハウジング210内に電源部243及び高電圧発生部244が内蔵されたスタンドアローンタイプの静電紡糸装置であるものとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、電源部243及び高電圧発生部244が内蔵されたベースステーション(図示せず)を別に設け、該ベースステーションと装置本体200とを接続ケーブル等で接続することにより、装置本体200の電極部245、出力端子246及び駆動部248に電圧が印加される構成としても良い。
【0106】
さらに、上述した本実施形態では、液体が収容される液収容部が導電性であるものとして説明したが、これに限定されず、非導電性であっても良い。また、液収容部が袋状であるものとして説明したが、これに限定されず、例えばシリンダ状等の種々の任意の構成を採用することが可能である。
【0107】
上記のような変形例が本発明の範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0108】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の静電紡糸装置を開示する。
<1>
使用者が把持可能なハンドヘルドタイプの静電紡糸装置であって、液体の噴出方向に沿って延び、液体を噴出する噴出孔を有する非導電性のノズルと、前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向と反対側に配され、液体に電圧を印加するノズル電極と、前記噴出方向に沿って延びる非導電性の補助ガイドとを備え、前記補助ガイドは、前記ノズルの前記噴出孔から前記噴出方向と直交する方向に離間した位置で、該ノズルの周囲に配置され、前記補助ガイドの内部に、補助ガイドの周方向に沿って延びる補助電極を有する静電紡糸装置。
【0109】
<2>
前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離は、-40mm以上60mm以下である、<1>に記載の静電紡糸装置。
<3>
前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離は、-10mm以上20mm以下である、<1>又は<2>に記載の静電紡糸装置。
<4>
前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離H1は、H1=0又はH1>0である、<1>~<3>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<5>
前記補助ガイドは、円筒状に形成されており、「前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離」÷「前記補助ガイドの内径」は、1.00未満である、<1>~<4>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<6>
前記補助ガイドは、円筒状に形成されており、「前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離」÷「前記補助ガイドの内径」は、-4.0以上であることが好ましく、-1.33以上であることがより好ましく、-0.4以上であることが更に好ましく、また0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることが更に好ましい、<1>~<5>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<7>
前記補助ガイドは、円筒状に形成されており、液体の噴出量は、0.01ml/min以上1.0ml/min以下であり、「前記ノズルの前記噴出孔に対する前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部の前記噴出方向に沿う突出距離」÷「前記補助ガイドの内径」は、1.67未満である、<1>~<6>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<8>
前記突出距離÷前記補助ガイドの内径は、1.00以上である、<7>に記載の静電紡糸装置。
<9>
前記補助電極の前記噴出方向側の端部は、前記ノズルの前記噴出孔と同位置又は前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向と反対側に位置している、<1>~<8>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<10>
前記補助電極の噴出方向側の端部は、前記ノズルの噴出孔に対する前記補助電極の後退距離H2が、0mm以上であることが好ましく、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい、<1>~<9>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<11>
前記補助ガイドの前記噴出方向側の端部は、前記ノズルの前記噴出孔と同位置又は前記ノズルの前記噴出孔よりも前記噴出方向側に位置している、<9>又は<10>に記載の静電紡糸装置。
<12>
前記ノズル及び前記補助ガイドの少なくとも一方が、非導電性樹脂により構成されている、<1>~<11>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<13>
前記ノズルに連続する領域に把持部を備える、<1>~<12>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
【0110】
<14>
前記補助ガイドの内径D1は、10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましく、また75mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましい、<1>~<13>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<15>
前記補助ガイドの噴出方向側の端部から噴出方向と反対側の端部までの噴出方向に沿った長さD2は、5mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、また60mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましい、<1>~<14>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<16>
前記補助電極は、前記補助ガイドの周方向全域に亘って配される、<1>~<15>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<17>
前記補助電極は、リング状に形成されている、<1>~<16>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<18>
前記補助ガイドは、前記ノズルと前記補助電極との間に配置されるガイド内壁と、前記補助電極の径方向外側に配置されるガイド外壁と、ガイド内壁の先端部とガイド外壁の先端部との間を閉塞する先端閉塞壁とを備えている、<1>~<17>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<19>
前記ノズル電極は、前記ノズルの内部に配され、前記ノズル電極の噴出方向側の端部から前記噴出孔までの距離D3は、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましく、また15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい、<1>~<18>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<20>
液体を収容するカートリッジと、該カートリッジを挿脱可能な装置本体とを備え、該装置本体は、ハウジングと、該ハウジングに装着されるカバーとを有し、前記補助ガイドは前記カバーに設けられている、<1>~<19>のいずれかに記載の静電紡糸装置
<21>
前記液体は、(a)揮発性物質、(b)繊維形成用水不溶性ポリマー及び(c)水を含み、被対象面である人の(使用者の)皮膚の表面(堆積面)に成分(b)を主成分とする繊維を含む堆積物である被膜を形成する、<1>~<20>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<22>
液体にチャージする電圧は、紡糸性の観点から、3KV~20kVであることが好ましく、5kV~15kVであることがより好ましい、<1>~<21>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
<23>
液体の噴出量は、好ましくは0.01ml/min以上1.0ml/min以下であり、より好ましくは0.05ml/min以上0.5ml/min以下である、<1>~<22>のいずれかに記載の静電紡糸装置。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0112】
[実施例1]
実施例1に係る静電紡糸装置は、補助ガイド255にABS樹脂を使用し、ノズル123にポリエチレンを使用して、噴出孔123aを内径0.84mmで製造した。ノズル電極124として、直径1.0mmの金属電極を使用し、ノズル電極124の噴出方向側の端部から噴出孔123aまでの距離D3を10mmとした。補助ガイド255の噴出方向側の端部は、ノズル123の噴出孔123aよりも対象物側(噴出方向側)に位置させた。また、補助ガイド255の内部に、線径0.5mm、内径32mmの金属製の補助電極247を設け、ノズル電極124と共通の電源から同電位を印加した。補助電極247の噴出方向側の端部と、ノズル123の噴出孔123aとの噴出方向の位置は、同位置(ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う後退距離H2を0)とした。実施例1に係る静電紡糸装置における補助ガイド255の内径(mm)、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離H1(mm)、及び、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離』÷『補助ガイド255の内径D1』」は、表1に示すとおりである。
【0113】
[実施例2]
ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う後退距離H2(mm)を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の静電紡糸装置を得た。実施例2に係る静電紡糸装置における補助ガイド255の内径(mm)、上記突出距離H1(mm)、上記後退距離H2(mm)、及び、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離』÷『補助ガイド255の内径D1』」については、表1に示すとおりである。なお、表1及び後述する表2~表6では、補助ガイド255の噴出方向側の端部をノズル123の噴出孔123aよりも対象物側(噴出方向側)に位置させた場合の突出距離をプラス、補助ガイド255の噴出方向側の端部をノズル123の噴出孔123aよりも噴出方向と反対側に位置させた場合の突出距離をマイナスとして示す。
【0114】
[実施例3、4]
さらに、補助ガイド255の内径を変更し、かつ、実施例1、2の補助電極247に代えて線径0.5mm、内径52mmの金属製の補助電極247を設けた点以外は実施例1、2と同様にして、実施例3、4の静電紡糸装置を得た。実施例3、4に係る静電紡糸装置における補助ガイド255の内径(mm)、上記突出距離H1(mm)、上記後退距離H2(mm)、及び、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離』÷『補助ガイド255の内径D1』」については、表2に示すとおりである。
【0115】
[実施例5~8]
ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う後退距離H2(mm)を変更し、かつ、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離H1(mm)を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例5~8の静電紡糸装置を得た。実施例5~8に係る静電紡糸装置における補助ガイド255の内径(mm)、上記突出距離H1(mm)、上記後退距離H2(mm)、及び、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離』÷『補助ガイド255の内径D1』」については、表3に示すとおりである。
【0116】
[実施例9~12]
ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う後退距離H2(mm)を変更し、かつ、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離H1(mm)を変更した点以外は、実施例5と同様にして、実施例9の静電紡糸装置を得た。また、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向に沿う後退距離H2(mm)を変更した点以外は、実施例6~8と同様にして、実施例10~12の静電紡糸装置を得た。実施例9~12に係る静電紡糸装置における補助ガイド255の内径(mm)、上記突出距離H1(mm)、上記後退距離H2(mm)、及び、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離』÷『補助ガイド255の内径D1』」については、表4に示すとおりである。
【0117】
[実施例13~16]
補助ガイド255の内径を変更し、かつ、実施例5~8の補助電極247に代えて線径0.5mm、内径52mmの金属製の補助電極247を設けた点以外は実施例5~8と同様にして、実施例13~16の静電紡糸装置を得た。実施例13~16に係る静電紡糸装置における補助ガイド255の内径(mm)、上記突出距離H1(mm)、上記後退距離H2(mm)、及び、「『ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離』÷『補助ガイド255の内径D1』」については、表5に示すとおりである。
【0118】
[比較例1~3]
補助ガイド255及び補助電極247を排除した点以外は実施例1と同様にして、比較例1の静電紡糸装置を得た。また、補助電極247を排除した点以外は実施例1と同様にして、比較例2の静電紡糸装置を得た(
図6参照)。さらに、補助電極247を排除した点以外は実施例3、4と同様にして、比較例3の静電紡糸装置を得た。
【0119】
これら実施例1~16及び比較例1~3に係る静電紡糸装置について、以下の紡糸条件下で液体を噴出させ、紡糸に必要な閾値電圧(kV)を測定した。なお、「閾値電圧(kV)」とは、紡糸に必要な最低電圧をいう。また、この閾値電圧(kV)に0.5kV加えた電圧により、以下の紡糸条件で液体を下方に向けて噴出させ、噴出開始から20秒時点における被膜の直径を測定した。これらの結果を表1~6に示す。
[紡糸条件]
・紡糸用の液体:エタノール87.6質量%、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)社製:商品名S-LEC BM-1)12.0質量%、イオン交換水0.4質量%の混合溶液
・紡糸対象:接地させたアルミ箔
・環境(室温・湿度):約25℃・約50%
・紡糸距離(ノズル123の噴出孔123aと紡糸対象との距離):80mm
・噴出量:0.1ml/min
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
表1~表6に示す結果より、実施例1~16の静電紡糸装置は、補助ガイド255及び補助電極247を備えない比較例1と比較して、閾値電圧を過度に高めることなく、被膜の直径を小さくすることが可能であることが分かる。また、表1~表6に示す結果より、補助ガイド255を備える比較例2及び3は、補助ガイド255を備えない比較例1よりも閾値電圧を過度に高めることなく、被膜の直径を小さくすることが可能であるものの、補助ガイド255に加えて補助電極247を備える実施例1、2、7及び11並びに実施例3、4及び15の静電紡糸装置の方が、比較例2及び3よりも一層、閾値電圧を過度に高めることなく、被膜の直径を小さくすることが可能であることが分かる。
【0127】
また、表1及び表2に示す結果より、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向の端部の後退距離H2が小さいほど、被膜の直径は小さくなるが、閾値電圧は増加する。一方で、後退距離H2が大きくなるほど、閾値電圧は低下していく。したがって、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向の端部の後退距離H2を変えることで、閾値電圧と被膜の直径の大きさを任意の値に制御することが可能となることが分かる。
【0128】
さらに、表1及び表2に示す結果より、実施例1と実施例3においては、実施例3の方が、閾値電圧が高くなるが、被膜直径は小さくなる。実施例2と実施例4においても、同様である。さらに、表3及び表5に示す結果より、実施例5と実施例13においては、実施例13の方が、閾値電圧が高くなるが、被膜直径は小さくなる。実施例6と実施例14、実施例7と実施例15のそれぞれにおいても同様の効果を得ることができることが分かる。したがって、補助ガイド255の内径が小さい方が閾値電圧を低くできる傾向にあり、補助ガイド255の内径が大きい方が被膜直径を小さくできる傾向にあることが分かる。
【0129】
また、表3~表5に示す結果より、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離H1が大きいほど、被膜の直径は小さくなるが、閾値電圧は増加する。一方で、突出距離H1が小さくなるほど、閾値電圧は低下していく。したがって、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離H1を変えることで、閾値電圧と被膜の直径の大きさを任意の値に制御することが可能となることが分かる。
【0130】
さらに、表3に示す結果より、ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の突出距離H1が0mm又はプラスの値である実施例6~8は、該突出距離H1がマイナスの値である実施例5と比較して、閾値電圧が大きくなる傾向にあるものの、被膜の直径を小さくできる傾向にあることが分かる。この点は、表4に示す実施例9~12及び表5に示す実施例13~16においても同様の傾向にあることが分かる。
【0131】
[実施例17]
実施例17に係る静電紡糸装置は、補助ガイド255にABS樹脂を使用し、ノズル123にポリアセタールを使用して製造した。補助ガイド255の内部に補助電極247を設けた。補助ガイド255の内径(mm)は、17cmであり、補助電極247の内径は、23cmであった。ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部の該噴出方向の突出距離H1は、3mmであり、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向の後退距離H2は、0mmであった。
【0132】
[比較例4]
補助ガイド255及び補助電極247を排除した点以外は実施例17と同様にして、比較例4の静電紡糸装置を得た。
【0133】
これら実施例17及び比較例4に係る静電紡糸装置について、以下の紡糸条件下で液体を噴出させ、噴出開始から30秒時点における被膜の直径を測定した。被膜の直径は、紡糸距離(ノズル123の噴出孔123aと紡糸対象との距離)を60mmとした場合、80mmとした場合、110mmとした場合及び140mmとした場合の4段階についてそれぞれ測定した。なお、被膜が円形でない場合(周方向で径が一定ではない場合)は、被膜の縦方向(第1方向)の長さと横方向(第1方向と直交する方向)の長さ(縦×横)を測定した。これらの結果を表7に示す。
[紡糸条件]
・紡糸用の液体:エタノール87.6質量%、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)社製:商品名S-LEC BM-1)12.0質量%、イオン交換水0.4質量%の混合溶液
・紡糸対象:接地させたアルミ箔
・環境(室温・湿度):約26℃・60%
・噴出量:0.07ml/min
・印加電圧(kV):14.5kV
【0134】
【0135】
表7に示す結果より、実施例17の静電紡糸装置は、比較例4と比較して、ノズル123の噴出孔123aを対象物に近づけた場合と離した場合とのいずれにおいても被膜の直径を小さくすることができることが分かる。また、実施例17の静電紡糸装置は、比較例4と比較して、被膜の形状をより真円に近づけることが可能であることが分かる。
【0136】
[実施例18]
実施例18に係る静電紡糸装置は、補助ガイド255にABS樹脂を使用し、ノズル123にポリアセタールを使用して製造した。補助ガイド255の内部に補助電極247を設けた。補助ガイド255の内径(mm)は、17mmであり、補助電極247の内径は、23mmであった。ノズル123の噴出孔123aに対する補助ガイド255の噴出方向側の端部の該噴出方向の突出距離H1は、0mmであり、ノズル123の噴出孔123aに対する補助電極247の噴出方向側の端部の該噴出方向の後退距離H2は、2mmであった。
【0137】
[比較例5]
補助ガイド255及び補助電極247を排除した点以外は実施例18と同様にして、比較例5の静電紡糸装置を得た。
【0138】
これら実施例18及び比較例5に係る静電紡糸装置について、以下の紡糸条件下で液体を噴出させ、噴出開始から20秒時点における被膜の直径を測定した。被膜の直径は、紡糸距離(ノズル123の噴出孔123aと紡糸対象との距離)を60mmとした場合、80mmとした場合の2段階についてそれぞれ測定した。噴出量については、表8に示すとおりである。なお、被膜が円形でない場合(周方向で径が一定ではない場合)は、被膜の縦方向(第1方向)の長さと横方向(第1方向と直交する方向)の長さ(縦×横)を測定した。これらの結果を表8に示す。
[紡糸条件]
・紡糸用の液体:ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)社製:商品名S-LEC BM-1)12.0質量%、ポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)社製、PEG-400)4.0質量%、ジメチコン(信越化学工業(株)社製、KF-96A―6CS)4.0質量%、99度合成アルコール80.0質量%の混合溶液
・紡糸対象:接地させたアルミ箔
・環境(室温・湿度):約25℃・50%
・印加電圧(kV):14.5kV
【0139】
【0140】
表8に示す結果より、実施例18の静電紡糸装置は、比較例5と比較して、ノズル123の噴出孔123aを対象物に近づけた場合と離した場合とのいずれにおいても被膜の直径を小さくすることができることが分かる。また、実施例18の静電紡糸装置は、比較例5と比較して、噴出方向が安定することで、直進性が向上し、被膜の形状をより真円に近づけることが可能であることが分かる。
【0141】
[実施例19]
測定環境(室温・湿度)を「約25℃・80%」に変更した点以外は実施例18と同様にして、実施例19の静電紡糸装置を得た。また、実施例18と同様にして、噴出開始から20秒時点における被膜の直径を測定した。その結果を表9に示す。
【0142】
[比較例6]
補助ガイド255及び補助電極247を排除した点以外は実施例19と同様にして、比較例7の静電紡糸装置を得た。また、比較例5と同様にして、噴出開始から20秒時点における被膜の直径を測定した。その結果を表9に示す。
【0143】
【0144】
表9に示す結果より、湿度を高めた環境で測定した実施例19及び比較例6においても、実施例18及び比較例5と同様の関係性が見受けられた。すなわち、実施例19の静電紡糸装置は、比較例6と比較して、ノズル123の噴出孔123aを対象物に近づけた場合と離した場合とのいずれにおいても被膜の直径を小さくすることができることが分かる。また、実施例19の静電紡糸装置は、比較例6と比較して、噴出方向が安定することで、直進性が向上し、被膜の形状をより真円に近づけることが可能であることが分かる。さらに、実施例19の被膜と比較例6の被膜とを横から見ると、実施例19の被膜の方が対象物に対する密着性が高いことが分かった。
【符号の説明】
【0145】
10 :静電紡糸装置
100 :カートリッジ
110 :液収容袋(液収容部)
120 :噴出部
121 :噴出体
122 :接続体
123 :ノズル
123a:噴出孔
124 :ノズル電極
200 :装置本体
210 :ハウジング
220 :収容空間
227 :把持部
243 :電源部
244 :高電圧発生部
245 :電極部
246 :出力端子
247 :補助電極
248 :駆動部
255 :補助ガイド