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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】射出成形機の成形支援装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
B29C45/76
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021121959
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017604
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000227054
【氏名又は名称】日精樹脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小塚 誠
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505608(JP,A)
【文献】特開2020-131600(JP,A)
【文献】特開2017-217786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形する射出成形機に対する成形支援を行う射出成形機の成形支援装置であって、樹脂の種類を含む樹脂データに加え、前記樹脂に添加する強化繊維に係わる、前記強化繊維の種類,前記樹脂に対する添加量,及び繊維長を含む強化繊維データを有する樹脂関連データ及び少なくともスクリュデータを含む成形機関連データを入力するデータ入力部と、成形条件を設定する成形条件設定部と、前記データ入力部から入力された入力データ及び前記成形条件設定部により設定された成形条件データに基づいて加熱筒内における前記強化繊維を含む溶融樹脂の固相率を演算する固相率演算式データを設定した演算式データ設定部と、前記固相率演算式データに基づく演算処理により計量終了時における前記強化繊維を含む溶融樹脂の推定固相率を求める固相率演算処理部,及び計量終了時における強化繊維の推定破損率を求める繊維状態演算処理部を少なくとも含む演算処理機能部と、前記推定固相率,前記推定破損率の少なくとも一又は二以上に係わる情報をディスプレイに表示処理する出力処理機能部とを備えることを特徴とする射出成形機の成形支援装置。
【請求項2】
前記演算式データ設定部には、前記入力データ及び前記成形条件データに基づいて成形時におけるスクリュ表面の樹脂分解率を求める分解率演算式データを設定することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項3】
前記演算処理機能部は、前記入力データ,前記成形条件データ及び前記分解率演算式データに基づく演算処理により推定樹脂分解率を求める分解率演算処理部を有することを特徴とする請求項2記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項4】
前記繊維状態演算処理部は、計量終了時における前記強化繊維の推定最終繊維長を求める機能を含むことを特徴とする請求項3記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項5】
前記演算処理機能部は、前記推定固相率,前記推定最終繊維長及び前記推定破損率,前記推定樹脂分解率,の少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理し、この判定処理の判定結果に対応する支援メッセージデータを出力する判定処理部を備えることを特徴とする請求項4記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項6】
前記演算処理機能部は、前記成形条件に対して数理計画法に基づく制約条件を設定し、強化繊維を含む溶融樹脂の前記加熱筒内における最適化した、前記推定固相率,前記推定最終繊維長及び前記推定破損率,前記推定樹脂分解率,の少なくとも一又は二以上を求める最適化処理部を備えることを特徴とする請求項4記載の射出成形機の成形支援装置。
【請求項7】
前記出力処理機能部は、前記判定処理部から出力した前記支援メッセージデータに基づく支援メッセージを前記ディスプレイのメッセージ表示部に表示する機能を備えることを特徴とする請求項5記載の射出成形機の成形支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形する射出成形機に対する成形支援を行う際に用いて好適な射出成形機の成形支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形を行うため、溶融樹脂の溶融状態を適正な状態に維持できるか否かは、望ましい成形品質を確保する上で重要な要素となる。特に、可塑化が不十分の場合、溶融樹脂の可塑化不足により固相率(未溶融ポリマ分率)が高くなり、成形性の低下、更には成形品質の低下などの不具合を招くとともに、可塑化が過度に進行した場合、樹脂分解率(炭化発生率)が高くなり、溶融樹脂の変質や無用なガス発生の原因になるなどの不具合を招く。このため、加熱筒内における溶融樹脂の状態を把握して必要な対応処理を行うための技術も提案されている。
【0003】
従来、この種の技術としては、特許文献1に開示される可塑化シミュレーション装置及び特許文献2に開示される射出成形機の成形支援装置が知られている。特許文献1に開示の可塑化シミュレーション装置は、スクリュ式の可塑化装置において用いられる材料の樹脂物性と該可塑化装置の運転条件と該可塑化装置の構成データとを使用し、スクリュ特性式、質量保存の式及びエネルギー保存の式を用いて固相率、温度、圧力、可塑化能力のうち少なくとも1つの物理量を算出する物理量算出処理を行うようにした可塑化シミュレーション装置であり、特に、スクリュの回転状態における物理量を物理量算出処理により算出するとともに、算出された物理量を使用し、スクリュ特性式、質量保存の式及びエネルギー保存の式を用いることにより、スクリュの停止状態における物理量を算出する解析部を設けたものである。
【0004】
また、特許文献2に開示の成形支援装置は、初心者オペレータであっても成形品の歩留まり率や成形品質を高めることを目的としたものであり、具体的には、成形条件に係わる成形条件データ及びスクリュの形態に係わるスクリュデータを含む基本データを入力する基本データ入力部と、この基本データに基づいて加熱筒内における溶融樹脂の固相率を演算する固相率演算式データを設定した演算式データ設定部と、基本データ及び固相率演算式データに基づく演算処理により計量終了時における溶融樹脂の推定固相率を求める固相率演算処理部を有する演算処理機能部と、推定固相率に係わる情報をディスプレイに表示処理する出力処理機能部とを設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-123668号公報
【文献】WO2019-188998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来における溶融樹脂の状態を把握する技術は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
即ち、従来技術の場合、溶融樹脂に係わる固相率や樹脂分解率を推定することにより、溶融状況,可塑化時間,樹脂温度安定性(排出樹脂の安定性指向),及び発熱量等を、十分な実用的精度により予測可能である。しかし、これらの推定及び予測は、汎用的な樹脂に限られる。
【0008】
一方、成形品には添加物を配合する場合も少なくない。特に、溶融時であっても固体状態を維持する添加物、具体的には、熱伝導性が高く、比熱の低い、ガラス繊維等の強化繊維を含む強化繊維プラスチックの場合、その物性変化が激しいため、可塑化時間等の予測は容易でなく、従来より、強化繊維を含む溶融樹脂に対する溶融状態を的確に把握する観点から、これらの課題を解決するための成形支援装置が要請されていた。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の成形支援装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、可塑化した溶融樹脂をスクリュ3により金型2に射出充填して成形する射出成形機Mに対する成形支援を行う射出成形機の成形支援装置1を構成するに際して、樹脂の種類を含む樹脂データに加え、樹脂に添加する強化繊維に係わる、強化繊維の種類,樹脂に対する添加量,及び繊維長を含む強化繊維データDrgを有する樹脂関連データDr及び少なくともスクリュデータDmsを含む成形機関連データDmを入力するデータ入力部Fiと、成形条件を設定する成形条件設定部Fxと、データ入力部Fiから入力された入力データDi及び成形条件設定部Fxにより設定された成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における強化繊維を含む溶融樹脂の固相率Xcを演算する固相率演算式データDscを設定した演算式データ設定部Fsと、固相率演算式データDscに基づく演算処理により計量終了時における強化繊維を含む溶融樹脂の推定固相率Xcsを求める固相率演算処理部Fcp,及び計量終了時における強化繊維の推定破損率Ynを求める繊維状態演算処理部Fcfを少なくとも含む演算処理機能部Fcと、推定固相率Xcs,推定破損率Ynの少なくとも一又は二以上に係わる情報をディスプレイ5に表示処理する出力処理機能部Foとを備えることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、演算式データ設定部Fsには、入力データDi及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率Xrを求める分解率演算式データDsrを設定することができる。一方、演算処理機能部Fcには、入力データDi,成形条件データDs及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理により推定樹脂分解率Xrsを求める分解率演算処理部Fcrを設けることができる。他方、繊維状態演算処理部Fcfには、計量終了時における強化繊維の推定最終繊維長Yfを求める機能を含ませることができる。さらに、演算処理機能部Fcには、推定固相率Xcs,推定破損率Yn,推定最終繊維長Yf,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理し、この判定処理の判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdを出力する判定処理部Fcjを設けることができる。なお、演算処理機能部Fcには、成形条件に、数理計画法に基づく制約条件を設定し、強化繊維を含む溶融樹脂の加熱筒4内における最適化した、推定固相率Xcs,推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上を求める最適化処理部Fceを設けることが望ましい。また、出力処理機能部Foには、判定処理部Fcjから出力した支援メッセージデータmdに基づく支援メッセージmddをディスプレイ5のメッセージ表示部5vに表示する機能を設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係る射出成形機の成形支援装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 可塑化時間等の予測が容易でない物性変化の激しい強化繊維を含む樹脂(強化繊維プラスチック)であっても、その溶融状態の視覚化(見える化)が可能になるため、計量終了時における強化繊維を含む溶融樹脂の溶融状態を的確に把握することができる。これにより、経験などが要求される人的判断が不要になり、経験の浅い初心者オペレータであっても、成形不良の減少及びメンテナンスの低減を図れるとともに、成形品の歩留まり率や成形品質を高めることができるなど、より望ましい成形(生産)を行うことができる。
【0014】
(2) 強化繊維データDrgに、強化繊維の種類,樹脂に対する添加量,及び繊維長を含ませたため、強化繊維の視覚化のための要素として十分にカバーできる。これにより、溶融樹脂の溶融状態に含む強化繊維の変化状況(破損状況等)を的確に把握することができる。
【0015】
(3) 好適な態様により、演算式データ設定部Fsに、入力データDi及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率Xrを求める分解率演算式データDsrを設定すれば、固相率演算式データDscの演算処理に利用する入力データDiを、分解率演算式データDsrの演算処理にも利用できるなど、推定樹脂分解率Xrsを容易に求めることができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、演算処理機能部Fcに、入力データDi,成形条件データDs及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理により推定樹脂分解率Xrsを求める分解率演算処理部Fcrを設ければ、推定樹脂分解率Xrsを演算処理により容易に得れるため、推定樹脂分解率Xrsにより溶融樹脂の劣化状態を的確に把握することができる。したがって、推定固相率Xcsによる溶融状態の一方側(可塑化不足側)の限界点に加え、推定樹脂分解率Xrsによる溶融状態の他方側(可塑化過度側)の限界点の双方により、溶融状態の適正範囲を設定可能となるため、成形性及び成形品質をより高めることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、繊維状態演算処理部Fcfに、計量終了時における強化繊維の推定最終繊維長Yfを求める機能を含ませれば、推定破損率Ynと組合わせることにより強化繊維の変化状況を的確に把握することができるため、成形品における強化繊維の状況を最適化することにより成形品の強度や品質をより高めることができる。
【0018】
(6) 好適な態様により、演算処理機能部Fcに、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理し、この判定処理の判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdを出力する判定処理部Fcjを設ければ、オペレータは、判断の難しい溶融樹脂の溶融状態を容易に把握できるとともに、必要な対応処理を迅速に行うことができる。
【0019】
(7) 好適な態様により、演算処理機能部Fcに、成形条件に対して数理計画法に基づく制約条件を設定し、強化繊維を含む溶融樹脂の加熱筒4内における最適化した、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上を求める最適化処理部Fceを設ければ、樹脂流動解析ソフトウェア等に反映させることにより、成形品内の繊維配向、長さ、分散状況、更には強度をより詳細に予測することができる。
【0020】
(8) 好適な態様により、出力処理機能部Foに、判定処理部Fcjから出力した支援メッセージデータmdに基づく支援メッセージmddをディスプレイ5のメッセージ表示部5vに表示する機能を設ければ、オペレータは、視覚的手段により、判断の難しい溶融樹脂の溶融状態を容易に把握できるとともに、必要な対応処理を迅速に行うことができ、成形品生産の効率化及び能率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の好適実施形態に係る成形支援装置に備えるディスプレイの出力画面図、
図2】同成形支援装置を備える射出成形機のブロック系統図、
図3】同成形支援装置に備えるディスプレイの入力画面図、
図4】同成形支援装置の解析に用いたスクリュ位置に対する強化繊維の破損量の変化特性図、
図5】同成形支援装置の解析に用いたうねりの定義を説明するためのスクリュ位置に対する樹脂温度の特性図、
図6】同成形支援装置の検証に用いた重量平均繊維長に係る計算破損率と実測破損率の相関特性図、
図7】同成形支援装置の検証に用いた樹脂温度安定性(うねり)に係る計算値と実測値の相関特性図、
図8】同成形支援装置の検証に用いた可塑化時間に係る計算値と実測値の相関特性図、
図9】同成形支援装置を用いた成形支援方法に係る処理手順を説明するためのフローチャート、
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る成形支援装置1の理解を容易にするため、同成形支援装置1を利用できる射出成形機Mの概要について、図2を参照して説明する。
【0024】
図2は、射出成形機M、特に、型締装置を省略した射出装置Miを示す。射出装置Miにおいて、4は加熱筒であり、この加熱筒4の前端部にはヘッド部4hを介してノズル4nを取付固定するとともに、加熱筒4の後端上部にはホッパー8を備える。ノズル4nは加熱筒4の内部における溶融した樹脂を仮想線で示す金型2に対して射出する機能を有するとともに、ホッパー8は樹脂材料(樹脂ペレット)を加熱筒4の内部に供給する機能を有する。
【0025】
また、加熱筒4の内部にはスクリュ3を回動自在及び進退自在に装填する。このスクリュ3の表面には、螺旋状のフライト部3mpが形成されているとともに、スクリュ表面3fには、耐久性等を考慮した所定の表面素材(金属)によるコーティング処理が施されている。このスクリュ3は、前側から後側に、メターリングゾーンZm,コンプレッションゾーンZc,フィードゾーンZfを有している。一方、スクリュ3の後端部には、スクリュ駆動部9に結合する。スクリュ駆動部9は、スクリュ3を回転させるスクリュ回転機構9r及びスクリュ3を前進及び後退させるスクリュ進退機構9mを備える。なお、スクリュ回転機構9r及びスクリュ進退機構9mの駆動方式は、油圧回路を用いた油圧方式であってもよいし電動モータを用いた電気方式であってもよく、その駆動方式は問わない。
【0026】
さらに、加熱筒4は、前側から後側に、加熱筒前部4f,加熱筒中部4m,加熱筒後部4rを有し、各部4f,4m,4rの外周面には、前部加熱部11f,中部加熱部11m,後部加熱部11rをそれぞれ付設する。同様に、ヘッド部4hの外周面には、ヘッド加熱部11hを付設するとともに、ノズル4nの外周面には、ノズル加熱部11nを付設する。これらの各加熱部11f,11m,11r,11h,11nはバンドヒータ等により構成できる。
【0027】
一方、21は射出成形機Mの全体制御を司る成形機コントローラである。成形機コントローラ21は、CPU及び付属する内部メモリ21m等のハードウェアを内蔵したコンピュータ機能を有するコントローラ本体22を備える。また、コントローラ本体22の接続ポートにはこのコントローラ本体22に付属するディスプレイ5を接続するとともに、各種アクチュエータを駆動(作動)させるドライバ24を接続する。この場合、ディスプレイ5は、必要な情報表示を行うことができるとともに、タッチパネル5tを備え、このタッチパネル5tを用いて、入力,設定,選択等の各種操作を行うことができる。さらに、ドライバ24には、前述したスクリュ回転機構9r及びスクリュ進退機構9mを接続するとともに、各加熱部11f,11m,11r,11h,11nを接続する。これにより、コントローラ本体22はドライバ24を介してスクリュ回転機構9r及びスクリュ進退機構9mを駆動制御できるとともに、各加熱部11f,11m,11r,11h,11nを通電制御できる。
【0028】
したがって、成形機コントローラ21は、HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御系及びPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御系を包含し、内部メモリ21mには、PLCプログラムとHMIプログラムを格納する。なお、PLCプログラムは、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等を実現するためのソフトウェアであり、HMIプログラムは、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等を実現するためのソフトウェアである。
【0029】
次に、このような射出成形機Mに利用できる本実施形態に係る成形支援装置1の構成について、図1図8を参照して説明する。
【0030】
本実施形態に係る成形支援装置1は、上述した成形機コントローラ21を構成するコントローラ本体22及びディスプレイ5を利用して構成される。このため、コントローラ本体22の内部メモリ21mには、成形支援装置1を機能させるアプリケーションプログラムによる支援プログラムPsを格納する。
【0031】
成形支援装置1は、図2及び図3に示すように、樹脂の種類を含む樹脂データに加え、樹脂に添加する強化繊維の種類,添加量及び繊維長を含む樹脂関連データDr,並びに少なくともスクリュデータを含む成形機関連データDmを、少なくとも入力するデータ入力部Fiを備える。このデータ入力部Fiは、ディスプレイ5に付設したタッチパネル5tを用いることができる。
【0032】
図3は、支援プログラムPsに基づく設定機能を兼ねる入力画面31を示し、この入力画面31はディスプレイ5に表示される。この場合、入力画面31の上段がデータ入力部Fiとして機能し、樹脂関連データDrとして、樹脂の種類を選択して樹脂データを入力する樹脂選択部31a,溶融樹脂の流動性を入力する流動性入力部31b,強化繊維に関する情報を入力する強化繊維入力部32を備える。
【0033】
また、強化繊維入力部32には、強化繊維の種類を入力する繊維種入力部32a,添加量入力部32b,繊維長入力部32cを備え、これにより、強化繊維データDrgが入力される。このように、強化繊維データDrgに、強化繊維の種類,樹脂に対する添加量,及び繊維長を含ませれば、強化繊維の視覚化のための要素として十分にカバーできるため、溶融樹脂の溶融状態に含む強化繊維の変化状況(破損状況等)を的確に把握することができる。なお、樹脂関連データDrに、溶融樹脂の流動性データを含ませれば、カタログ値,推定値,実測値を選択して利用可能である。したがって、選択した適切なデータを選定(入力)することにより、より望ましい溶融状態を把握することができる。
【0034】
一方、成形機関連データDmとして、スクリュの種別を選択するスクリュ選択部33a,成形機の種類を選択する成形機選択部33bを備える。成形機の種類を選択することにより、成形機に係わる加熱筒データ等が選択される。なお、スクリュデータDmsにより、スクリュ外径,スクリュフライト幅,固体とスクリュの摩擦係数,スクリュ溝深さ,スクリュ幅方向長さ,スクリュリード,フライト係数,スクリュフライトのねじれ角,ピッチ数等の各種ディメンションに係わるデータ、更にはスクリュ表面3fの材質の種類に係わるデータなど、スクリュに関係する複数の各種データが選択される。特に、スクリュデータDmsに、スクリュ表面3fの材質の種類に係わるデータを含ませれば、スクリュ表面3fの金属材質による溶融樹脂に対する触媒効果や接着し易さによる劣化要因を、推定樹脂分解率Xrsの演算に反映できるため、より的確(正確)な推定樹脂分解率Xrsを得ることができる。
【0035】
さらに、図2に示すように、ディスプレイ5には設定画面35が表示される。この設定画面35の具体的な図示は省略したが、この設定画面35は、成形条件設定部Fxとして機能し、例えば、スクリュ回転数,計量時間,背圧,計量位置,前部温度,中部温度,後部温度,サイクル時間等の各種成形条件データDsを設定することができる。これらの設定は、タッチパネル5tを介して必要な数値の入力や選択等により行うことができる。
【0036】
一方、成形支援装置1は、内部メモリ21mに格納した演算式データ設定部Fsを備え、この演算式データ設定部Fsには、固相率演算式データDsc及び分解率演算式データDsrを設定する。固相率演算式データDscは、前述した入力データDi及び成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における溶融樹脂の固相率Xcを演算するための演算式に係わるデータであり、分解率演算式データDsrは、前述した入力データDi及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率Xrを演算するための演算式に係わるデータである。固相率演算式データDscに加え、分解率演算式データDsrを設定するようにすれば、固相率演算式データDscの演算処理に利用する入力データDiを、分解率演算式データDsrの演算処理にも利用できるなど、推定樹脂分解率Xrsを容易に求めることができる。
【0037】
まず、固相率演算式データDscの基礎となる固相率Xcを求めるための固相率演算式は、既に、本出願人が提案した再公表特許公報WO2019-188998に記載の固相率演算式を利用することができる。即ち、[式101]を用いることができる。
固相率Xc=Cx/Cw
=(Cx´/Cw)・(1-ka・Φi) … [式101]
ただし、Φi=f(Tr,Tc)・Φe
【0038】
これらの式において、Cxは現位置における固体の幅、Cwはピッチ幅からフライト幅を引いた長さ、Cx´は1ピッチ前の固体の幅、kaは調整係数、Φiは射出における溶融速度、Φeは押出における溶融速度、Trは計量時間、Tcはサイクル時間をそれぞれ示す。
【0039】
また、分解率演算式データDsrの基礎となる樹脂分解率Xrを求めるための分解率演算式も、既に、本出願人が提案した再公表特許公報WO2019-188998に記載の分解率演算式を利用することができる。即ち、[式102]を用いることができる。
樹脂分解率Xr=E・Wa・kb … [式102]
ただし、E=f(W,L,σ,γ,ζ)
Wa∝f(Φm,Φc,Qs)
【0040】
これらの式において、Eは、Tadmorのモデル式から算出した剪断発熱量〔MJ〕であり、完全溶融位置からスクリュ3の先端までの剪断発熱量を積算した総剪断発熱量である。Waは溶融樹脂と金属の接着仕事〔MJ/m2〕、kbは金属の触媒効果を考慮した調整係数をそれぞれ示す。剪断発熱量Eの算出において、Wはピッチ幅からフライト幅を引いた長さ、Lはスクリュ螺旋長さ、σは剪断応力、γは剪断速度、ζは無次元深さをそれぞれ示す。接着仕事Waの算出において、Φmは母材金属の仕事関数、Φcは母材金属の上にコーティングした金属の仕事関数、Qsは最表面金属に付着している酸素量をそれぞれ示す。酸素量QsはX線分析装置(EDX装置)により測定可能である。接着仕事Waは、溶融樹脂と金属の接着し易さを示す。
【0041】
このように、演算式データ設定部Fsに、入力データDi及び成形条件データDsに基づいて成形時におけるスクリュ表面3fの樹脂分解率Xrを求める分解率演算式データDsrを設定すれば、固相率演算式データDscの演算処理に利用する入力データDiを、分解率演算式データDsrの演算処理にも利用できるなど、推定樹脂分解率Xrsを容易に求めることができる。
【0042】
さらに、成形支援装置1には、上述した固相率演算式データDsc及び分解率演算式データDsrを利用して演算処理を行う図2に示す演算処理機能部Fcを備え、この演算処理機能部Fcには、計量終了時における強化繊維の推定最終繊維長Yf及び推定破損率Ynを求める繊維状態演算処理部Fcfが含まれる。
【0043】
この場合、入力データDi及び固相率演算式データDscに基づく演算処理により計量終了時における溶融樹脂の固相率Xc、即ち、推定固相率Xcsを求めるための固相率演算処理部Fcpを備える。得られる推定固相率Xcsは、実用上、必ずしも0である必要はない。この判断基準は、「0.06」に選定することが望ましく、この数値は実験の結果により確認した。これにより、推定固相率Xcsが、「Xcs≦0.06」の場合には、良好な溶融状態にあると判断できるとともに、「Xcs>0.06」の場合には、溶融が不十分(可塑化不足)と判断できる。このように、推定固相率Xcsの大きさは、溶融樹脂の可塑化不足などの溶融状態を示す指標となる。なお、推定固相率Xcsとは、溶融樹脂の溶融レベルを示すものであるため、未溶融ポリマ分率を用いてもよい。
【0044】
また、入力データDi及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理により溶融樹脂の樹脂分解率Xr、即ち、推定樹脂分解率Xrsを求める分解率演算処理部Fcrを備える。得られる推定樹脂分解率Xrsは、0.00よりも大きい値の場合、溶融樹脂は劣化状態(劣化状態に移行するリスクが高い場合を含む)にあることを把握できる。具体的には、推定樹脂分解率Xrsが、「Xrs=0.00」の場合には、劣化のない良好な溶融状態にあると判断できるとともに、「Xrs>0.00」の場合には、劣化状態又は劣化状態に移行するリスクが高いと判断できる。このように、推定樹脂分解率Xrsの大きさは、可塑化が過度に進行することにより生じる溶融樹脂の劣化状態を示す指標として利用できる。
【0045】
このように、演算処理機能部Fcに、入力データDi,成形条件データDs及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理により推定樹脂分解率Xrsを求める分解率演算処理部Fcrを設ければ、推定樹脂分解率Xrsを演算処理により容易に得れるため、推定樹脂分解率Xrsにより溶融樹脂の劣化状態を的確に把握することができる。したがって、推定固相率Xcsによる溶融状態の一方側(可塑化不足側)の限界点に加え、推定樹脂分解率Xrsによる溶融状態の他方側(可塑化過度側)の限界点の双方により、溶融状態の適正範囲を設定可能となるため、成形性及び成形品質をより高めることができる。
【0046】
さらに、繊維状態演算処理部Fcfは、入力データDiに基づき、予め設定した算出式又はデータテーブル等により強化繊維の破損率Ynを推定することができる。図4は、スクリュ位置に対する加熱筒4内における破損率Yn〔%〕を支援プログラムPsによりシミュレーションした結果を示す。同図中、グラフP1(サンプル1)は、ポリプロピレン樹脂(PP)に「ガラスロング繊維」を30〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP2(サンプル2)は、PPに「ガラスロング繊維」を10〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP3(サンプル3)は、PPに「ガラスショート繊維」を30〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP4(サンプル4)は、PPに「ガラスショート繊維」を10〔wt%〕を添加したグラフ,グラフP5(サンプル5)は、ポリアミド66樹脂(PA66)に「ガラスショート繊維」を30〔wt%〕を添加したグラフをそれぞれ示している。図4の場合、サンプル5が最も破損しにくい状況を示しており、この理由は、粘度が低く、可塑化時間が短いことが要因として考えられる。
【0047】
したがって、繊維状態演算処理部Fcfには、このような特性グラフを、樹脂の種類,強化繊維の種類,強化繊維の添加量,成形条件等をそれぞれ紐付けし、データテーブルとして登録すれば、入力データDiに基づき、対応する特性グラフP1…を選択して表示することができる。
【0048】
さらに、繊維状態演算処理部Fcfは、計量終了時における強化繊維の推定最終繊維長Yfを求める機能を備える。このような推定最終繊維長Yfを求める機能を設ければ、推定破損率Ynと組合わせることにより強化繊維の変化状況を的確に把握することができるため、成形品における強化繊維の状況を最適化することにより成形品の強度や品質をより高めることができる。
【0049】
推定最終繊維長Yfのデータに関しては、排出樹脂の最後の部分を採取し、灰化法により残った繊維を実測により求めた。
【0050】
一方、整合性についての検証を行った。まず、実際の可塑化時間以外に、図5に示すように、計測した樹脂温度から、ノズル排出時の樹脂(排出樹脂)の最大値-最小値間の温度をうねり(樹脂温度安定性)として解析した。この樹脂温度安定性により成形品重量安定性を把握することができる。
【0051】
また、強化繊維を含む樹脂において、スクリュの形状,成形条件,添加量を変更したときの可塑化時間,樹脂温度安定性,ガラス繊維の排出樹脂における最終繊維長の実測値と発熱量予測値との関係を検証した。
【0052】
この検証結果を図6図8に示す。図6は、実測破損率〔%〕と計算破損率〔%〕の関係を示す重量平均繊維長の相関図、図7は、実測したうねり〔℃〕と計算破損率〔%〕の関係を示す樹脂温度安定性の相関図、図8は、可塑化時間の実測値と計算値間の相関図をそれぞれ示す。図6図8において、P1(×)はサンプル1,P2(○)はサンプル2,P3(・)はサンプル3,P4(△)はサンプル4をそれぞれ示す。
【0053】
図6図8において、図6の重量平均繊維長の相関性と図8の可塑化時間の相関性は良好な結果を示す。したがって、十分な精度により予測が可能と判断できる。一方、図7の樹脂温度安定性に関しては、幾分精度が劣る。この理由は、強化繊維の熱伝導が比較的高く、かつ比熱が比較的低いことにより発生した熱が外部に放出され易くなることが要因と考えられ、温度計測用の熱電対によっては正確な値を表示しにくいものと推測される。
【0054】
他方、演算処理機能部Fcには、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理し、この判定処理の判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdを出力する判定処理部Fcjを備える。このように、演算処理機能部Fcに、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理し、この判定処理の判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdを出力する判定処理部Fcjを設ければ、オペレータは、判断の難しい溶融樹脂の溶融状態を容易に把握できるとともに、必要な対応処理を迅速に行うことができる。
【0055】
さらに、図1に示すように、判定処理部Fcjから出力した支援メッセージデータmdに基づく支援メッセージmddをディスプレイ5のメッセージ表示部5vに表示する機能を有する出力処理機能部Foを備える。このように、出力処理機能部Foに、判定処理部Fcjから出力した支援メッセージデータmdに基づく支援メッセージmddをディスプレイ5のメッセージ表示部5vに表示する機能を設ければ、オペレータは、視覚的手段により、判断の難しい溶融樹脂の溶融状態を容易に把握できるとともに、必要な対応処理を迅速に行うことができ、成形品生産の効率化及び能率化を図ることができる。
【0056】
このため、ディスプレイ5には、支援プログラムPsに基づく図1の出力画面36が表示される。この出力画面36は、上段に推定個相率表示部36aを、中段に強化繊維の推定破損率表示部36bを、下段に他のデータの表示部を含む最終データ表示部36cをそれぞれ備える。したがって、出力画面36は、推定固相率Xcs,推定破損率Ynの少なくとも一又は二以上に係わる情報をディスプレイ5に表示処理する出力処理機能部Foとして機能する。
【0057】
出力画面36において、推定個相率表示部36aは、横軸がスクリュ位置となり、縦軸が演算により得た推定個相率Xcsとなる。図1に例示する推定個相率Xcsのグラフは正常に近い特性となるが、他のパターンとして例示する仮想線のXcsdは溶融位置が早すぎることにより可塑化が過度に進行する状態を示しており、他方、仮想線のXcsuは溶融位置が遅すぎることにより可塑化不足が生じている状態を示している。
【0058】
また、図1の推定破損率表示部36bも横軸がスクリュ位置となり、縦軸が演算により得た推定破損率Ynになる。出力画面36の推定破損率表示部36bに表示される推定破損率Ynは、前述の図4に示したシミュレーション結果の特性グラフと同じになる。
【0059】
このように、推定個相率Xcsと推定破損率Ynはグラフィック表示されるため、そのグラフパターンにより適性か否かを容易に予測することができる。さらに、最終データ表示部36cには、上から順に、炭化発生確率36ca(推定樹脂分解率Xrs),発熱量36cb,残留固体量36cc,可塑化時間36cdが数値表示されるとともに、添加した強化繊維の状況として最終繊維長Yfが数値表示される。そして、これらの最終データ表示部36cの下方には、判定結果表示部36ceと支援メッセージ表示部36cfからなるメッセージ表示部5vを備える。この場合、判定結果表示部36ceには、各種データの推測(予測)に基づいた、「最良」,「良」,「可」,「不可」等により判定結果mj(例示の表示は「不可」)が表示されるとともに、この判定結果mjに基づく支援メッセージmddが表示される。例示は「全体的に条件を見直してください」の支援メッセージを示す。
【0060】
次に、本実施形態に係る成形支援装置1を用いた成形支援方法について、各図を参照しつつ図9に示すフローチャートに従って説明する。
【0061】
この成形支援装置1を用いた成形支援方法は、基本的に、生産開始前における成形条件の設定時に利用することができ、内部メモリ21mに格納された支援プログラムPsにより実行される。
【0062】
まず、オペレータは支援プログラムPsを立ち上げる(ステップS1)。これにより、ディスプレイ5には、設定機能を兼ねる図3の入力画面31が表示される(ステップS2)。オペレータは、入力画面31におけるデータ入力部Fiを用いて必要な各種データ、即ち、樹脂関連データDrを入力するとともに(ステップS3)、成形機関連データDmを入力する(ステップS4)。
【0063】
この場合、樹脂関連データDrは、樹脂選択部31aから樹脂の種類を選択するとともに、流動性入力部31bから溶融樹脂の流動性(MFR)データを入力する。したがって、この場合の樹脂関連データDrには、強化繊維に係わる情報は含まれない。
【0064】
また、成形機関連データDmは、スクリュ選択部33aからスクリュの種別を選択するとともに、成形機選択部33bから成形機の種類を選択する。なお、成形機選択部33bの選択により成形機に係わる加熱筒データ等が入力される。さらに、スクリュの種別が選択されることにより、スクリュ外径,スクリュフライト幅,固体とスクリュの摩擦係数,スクリュ溝深さ,スクリュ幅方向長さ,スクリュリード,フライト係数,スクリュフライトのねじれ角,ピッチ数等の各種ディメンションに係わるデータ、更にはスクリュ表面3fの材質の種類に係わるデータなど、スクリュに関係する複数の各種データが入力される。特に、スクリュデータに、スクリュ表面3fの材質の種類に係わるデータを含ませれば、スクリュ表面3fの金属材質による溶融樹脂に対する触媒効果や接着し易さによる劣化要因を、推定樹脂分解率Xrsの演算に反映できるため、より的確(正確)な推定樹脂分解率Xrsを得ることができる。
【0065】
一方、樹脂関連データDrとして、本発明に従い、強化繊維入力部32により強化繊維に関する情報を入力又は選択する。即ち、繊維種入力部32aにより強化繊維の種類を選択し(ステップS5)、さらに、添加量入力部32bにより強化繊維の添加量を入力するとともに(ステップS6)、繊維長入力部32cにより繊維長を選択又は入力する(ステップS7)。
【0066】
この後、射出成形機Mにより成形する際における成形条件の設定処理を行う(ステップS8)。この場合、通常の設定手順に従い、ディスプレイ5に所定の設定画面35(詳細図は省略)を表示し、スクリュ回転数,計量時間,背圧,計量位置,前部温度,中部温度,後部温度,サイクル時間等の各種物理量に係わる成形条件(成形条件データDs)を設定する。
【0067】
そして、一連のデータ入力処理及び成形条件の設定処理が終了したなら、図3の入力画面31に表示された「流動解析開始」キー38をON(タッチ)する(ステップS9)。これにより、固相率演算処理部Fcpにおいて、入力された入力データDi,設定された成形条件データDs及び固相率演算式データDscに基づく演算処理が行われる(ステップS10)。この演算処理により、入力データDi及び成形条件データDsに基づく推定固相率Xcsが算出される。また、分解率演算処理部Fcrにおいて、入力データDi,成形条件データDs及び分解率演算式データDsrに基づく演算処理が行われる(ステップS11)。この演算処理により、入力データDi及び成形条件データDsに基づく推定樹脂分解率Xrsが算出される。
【0068】
さらに、繊維状態演算処理部Fcfにより、計量終了時の排出樹脂における強化繊維の推定最終繊維長Yf及び推定破損率Ynが求められる。この場合、入力データDiに基づき、予め設定した算出式又はデータテーブル等により強化繊維の破損率Ynが推定されるとともに、最終繊維長Yfが推定される(ステップS12)。また、他の各種出力情報、具体的には、炭化発生確率〔%〕,発熱量〔℃〕,残留固体量〔%〕,可塑化時間〔s〕等の出力情報が演算処理等により求められる(ステップS13)。
【0069】
以上の出力情報に係わる推定処理を含む算出処理が終了したなら、判定処理部Fcjにおいて、所定の判定基準に従って、推定固相率Xcs,推定樹脂分解率Xrs,推定最終繊維長Yf,推定破損率Yn及び各種出力情報に対する判定処理を行う(ステップS14)。さらに、この判定処理の判定結果mjに基づき、この判定結果mjに対応する支援メッセージデータmdが選択されて出力する(ステップS15)。この結果、ディスプレイ5には、出力処理機能部Foにより、図1の出力画面36が表示されるため、オペレータは、得られた各種出力情報について確認することができる(ステップS16)。
【0070】
出力情報を確認し、例えば、判定処理の判定結果mjが「最良」,「良」又は「可」であって、オペレータが成形可能と判断した場合には、支援プログラムを終了させる(ステップS17,S18)。一方、判定処理の判定結果mjが「不可」となった場合には、成形条件データDsの修正又は入力データDiの変更等の修正処理を行う(ステップS19)。そして、修正が終了したなら「解析再開」キーをON(タッチ)する(ステップS20)。この「解析再開」キーは、上述した「流動解析開始」キー38と兼用してもよい。これにより、ステップS10以降の一連の処理が行われる(ステップS10…)。なお、図1には一例として、判定処理の判定結果mjが「不可」、支援メッセージmddとして「全体的に条件を見直してください」の文字が表示された場合を示している。
【0071】
以上は、成形支援装置1の基本的な機能(使用方法)となるが、図2に示すように、演算処理機能部Fcに、最適化処理部Fceを設けることにより、強化繊維を含む溶融樹脂の加熱筒4内における溶融状態をより最適化する処理を行ってもよい。この場合、成形条件に、数理計画法に基づく制約条件を設定し、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上に対する最適化を行うことができる。
【0072】
即ち、制約条件として、スクリュ回転数,背圧,計量位置,サイクル時間,射出時間,設定温度,可塑化時間等を設定するとともに、これらの物理量に対する最小値と最大値を制約情報として設定する。そして、演算により求められた推定固相率Xcsに対して、基本情報となる入力データDiと当該制約情報に基づき、最適数理処理手段により最適化処理のための演算を行う。この最適数理処理手段では、推定固相率Xcsを0(最適条件)又は0に近づけるための演算を行う。このような最適化処理は、推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrsに対しても、最適化処理部Fceを利用することにより同様に行うことができる。
【0073】
このように、演算処理機能部Fcに、成形条件に対して数理計画法に基づく制約条件を設定し、強化繊維を含む溶融樹脂の加熱筒4内における最適化した、推定固相率Xcs,推定最終繊維長Yf及び推定破損率Yn,推定樹脂分解率Xrs,の少なくとも一又は二以上を求める最適化処理部Fceを設ければ、樹脂流動解析ソフトウェア等に反映させることにより、成形品内の繊維配向、長さ、分散状況、更には強度をより詳細に予測することができる。
【0074】
よって、このような本実施形態に係る成形支援装置1によれば、基本的な構成として、樹脂の種類を含む樹脂データに加え、樹脂に添加する強化繊維に係わる強化繊維データDrgを含む樹脂関連データDr及びスクリュデータDmsを含む成形機関連データDmを入力するデータ入力部Fiと、成形条件を設定する成形条件設定部Fxと、データ入力部Fiから入力された入力データDi及び成形条件設定部Fxにより設定された成形条件データDsに基づいて加熱筒4内における強化繊維を含む溶融樹脂の固相率Xcを演算する固相率演算式データDscを設定した演算式データ設定部Fsと、固相率演算式データDscに基づく演算処理により計量終了時における強化繊維を含む溶融樹脂の推定固相率Xcsを求める固相率演算処理部Fcp,及び計量終了時における強化繊維の推定破損率Ynを求める繊維状態演算処理部Fcfを含む演算処理機能部Fcと、推定固相率Xcs,推定破損率Ynの少なくとも一方又は双方に係わる情報をディスプレイ5に表示処理する出力処理機能部Foとを備えるため、可塑化時間等の予測が容易でない物性変化の激しい強化繊維を含む樹脂(強化繊維プラスチック)であっても、その溶融状態の視覚化(見える化)が可能になるため、計量終了時における強化繊維を含む溶融樹脂の溶融状態を的確に把握することができる。これにより、経験などが要求される人的判断が不要になり、経験の浅い初心者オペレータであっても、成形不良の減少及びメンテナンスの低減を図れるとともに、成形品の歩留まり率や成形品質を高めることができるなど、より望ましい成形(生産)を行うことができる。
【0075】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,材料,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0076】
例えば、強化繊維データDrgとして、強化繊維の種類,樹脂に対する添加量,及び繊維長を含ませた場合を示したが他の情報を含ませてもよい。また、樹脂関連データDrとして、樹脂の種類に係わる情報と樹脂の流動性データを例示したが、他の情報を含ませてもよいとともに、成形機関連データDmとして、スクリュデータDmsを示したが、加熱筒データをはじめ、成形機に関連する各種情報を含ませることができる。さらに、演算処理機能部Fcにより求める強化繊維の推定情報として、推定破損率Yn,推定最終繊維長Yfを例示したが他の推定情報を追加してもよいし、推定破損率Ynのみを使用する場合を排除するものではない。他方、データ入力部Fiとして、ディスプレイ5のタッチパネル5tを例示したが、入力データDiを記憶する外部メモリのデータを転送したり通信手段により送信する場合、さらには全データを予め内部メモリ21mに登録し、この全データから入力データDiを選択するなど、各種入力手段をデータ入力部Fiとして適用できる。一方、固相率演算式データDsc及び分解率演算式データDsrは、一例であり、固相率Xc及び樹脂分解率Xrを求めることができる他の演算式データを排除するものではない。さらに、出力処理機能部Foにより表示する出力情報は、推定固相率Xcsと推定破損率Ynが必須の情報となり、推定樹脂分解率Xrsと推定最終繊維長Yfは、表示することが望ましいが、本発明において、必須の情報となるものではない。また、判定処理部Fcjは、推定固相率Xcs,推定破損率Yn,推定最終繊維長Yf,推定樹脂分解率Xrsの全てを含めて総合的に判定することが望ましいが、これらの少なくとも一又は二以上の大きさを判定処理する場合を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る成形支援装置は、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形を行う各種射出成形機に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1:成形支援装置,2:金型,3:スクリュ,3f:スクリュ表面,4:加熱筒,5:ディスプレイ,5v:メッセージ表示部,M:射出成形機,Dr:樹脂関連データ,Drg:強化繊維データ,Dm:成形機関連データ,Dms:スクリュデータ,Di:入力データ,Ds:成形条件データ,Dsc:固相率演算式データ,Dsr:分解率演算式データ,Da:支援メッセージデータ,Das支援メッセージ,Fi:データ入力部,Fx:成形条件設定部,Fs:演算式データ設定部,Fc:演算処理機能部,Fcp:固相率演算処理部,Fcr:分解率演算処理部,Fcf:繊維状態演算処理部,Fcj:判定処理部,Fo:出力処理機能部,Xcs:推定固相率,Yf:推定最終繊維長,Yn:推定破損率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9