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特許7303273リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230627BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230627BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230627BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20230627BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M4/505
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021174356
(22)【出願日】2021-10-26
(62)【分割の表示】P 2020526047の分割
【原出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2022009487
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019027419
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】須藤 幹人
(72)【発明者】
【氏名】増岡 弘之
(72)【発明者】
【氏名】松崎 晃
(72)【発明者】
【氏名】長野 林太郎
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-123529(JP,A)
【文献】特開2004-200161(JP,A)
【文献】特開2004-200160(JP,A)
【文献】特開2016-006762(JP,A)
【文献】特開2015-088383(JP,A)
【文献】特開2007-242303(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる複合酸化物を含む粉末粒子と、
前記粉末粒子の表面に付着した有機ケイ素化合物と、を有し、
前記有機ケイ素化合物の有機官能基が、炭素数2~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基からなる群から選択される少なくとも1種を含む、リチウムイオン二次電池用正極活物質を製造する方法であって、
前記粉末粒子に、前記有機ケイ素化合物を付着させる、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(ただし、水洗した前記粉末粒子に、前記有機ケイ素化合物を付着させたものを除く。)
LiNiBa (1)
ただし、一般式(1)中、
Xは、CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
Yは、Na、K、Si、B、PおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
a、b、c、d、およびeは、実数であり、以下の関係を充足し、
xは、実数であり、特に数値を定めない。
a/(b+c):0.9~1.1
b/(b+c):0.5~0.95
c/(b+c):0.05~0.5
d/(b+c):0.0001~0.01
e/(b+c):0超0.1以下
b+c=1
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物の有機官能基が、n-プロピル基、オクチル基、およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電解質は、非水系の液体または固体によって構成される。
固体電解質を用いるリチウムイオン二次電池では、正極活物質と電解質との界面をリチウムイオンが移動する際の抵抗(以下において「界面抵抗」ということがある。)が増大しやすい。これは、正極活物質と固体電解質とが反応することにより、正極活物質の表面に高抵抗層が形成されるためであると言われる。
そこで、特許文献1には、ニオブ酸リチウムまたはLiTi12を含有する被覆層を正極活物質の表面に形成する技術が開示されている。この技術によれば、正極活物質と固体電解質(特に硫化物系固体電解質)との界面における高抵抗層の形成を抑制でき、界面抵抗を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-193940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池の高容量化のため、ニッケルを多く含む正極活物質が求められている。
【0005】
しかし、ニッケルを多く含む(NiおよびX(CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素)に対するNiの量が多い)正極活物質では、大気中の水分を吸着することによる電池特性の劣化が起きやすい。
例えば、特許文献1に記載された被覆層は、正極活物質におけるリチウムイオンの移動を妨げにくく、リチウムイオン伝導性に優れるものの、正極活物質の大気中の水分吸着を抑制できない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ、大気中の水分吸着も抑制可能なリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成によれば、上記目的を達成できることを知得し、本発明を完成させた。
【0008】
[1] 下記一般式(1)で表わされる複合酸化物を含む粉末粒子と、
上記粉末粒子の表面に付着した有機ケイ素化合物と、を有し、
上記有機ケイ素化合物の有機官能基が、炭素数2~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基からなる群から選択される少なくとも1種を含む、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
LiNiBa (1)
ただし、一般式(1)中、
Xは、CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
Yは、Na、K、Si、B、PおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、
a、b、c、d、およびeは、実数であり、以下の関係を充足し、
xは、実数であり、特に数値を定めない。
a/(b+c):0.9~1.1
b/(b+c):0.5~0.95
c/(b+c):0.05~0.5
d/(b+c):0.0001~0.01
e/(b+c):0超0.1以下
b+c=1
[2] 上記有機ケイ素化合物の有機官能基が、n-プロピル基、オクチル基、およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[3] 上記[1]または[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を備えるリチウムイオン二次電池。
[4] 上記リチウムイオン二次電池は、リチウムの充放電可能な正極と、リチウムの充放電可能な負極と、硫化物からなる固体電解質と、を備える全固体リチウムイオン二次電池である、上記[3]に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ、大気中の水分吸着も抑制可能なリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池に備えられるセルの形態例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表わされる範囲には、「~」の両端を含むものとする。例えば、「A~B」と表わされる範囲には、「A」および「B」を含む。
【0012】
以下に本発明を説明する。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、後述する一般式(1)で表わされる複合酸化物を含む粉末粒子と、この粉末粒子の表面に付着した有機ケイ素化合物とを有する。
【0013】
〈粉末粒子〉
粉末粒子は、平均粒径が0.1μm以上の一次粒子が凝集して二次粒子を形成していることが好ましい。0.1μm未満の粒子の存在により、熱安定性が低下することから、平均粒径が0.1μm以上の一次粒子が凝集して二次粒子を形成している粉末粒子が好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、電子顕微鏡で3000倍で観察して多面体の一次粒子が略球状に凝集している二次粒子が観察される。
【0014】
粉末粒子は、後述する複合酸化物を含む。粉末粒子における複合酸化物の含有量は、粉末粒子の全質量の95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましい。上限は特に限定されず、例えば、100質量%である。
【0015】
〈複合酸化物〉
上記複合酸化物は、下記一般式(1)で表わされる。
LiNiBa (1)
式(1)中のX、Y、a、b、c、d、e、およびxは以下の意味である。
Xは、CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
Yは、Na、K、Si、B、PおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
a、b、c、d、およびeは実数であり、以下の関係を充足する。
a/(b+c):0.9~1.1
b/(b+c):0.5~0.95
c/(b+c):0.05~0.5
d/(b+c):0.0001~0.01
e/(b+c):0超0.1以下
b+c=1
xは実数であり、特に数値を定めない。
【0016】
元素記号は、Li(リチウム)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Ba(バリウム)、O(酸素)、Mn(マンガン)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、P(リン)、およびAl(アルミニウム)である。
【0017】
上記は、NiとXとの合計を1モル(すなわちb+c=1)としたときの各元素のモル数を表わす。
【0018】
a/(b+c)、すなわち、NiおよびXに対するLiの量(以下「Li量」ともいう)は、0.9以上であり、0.95以上が好ましく、0.98以上がより好ましい。一方、Li量は、1.1以下であり、1.08以下が好ましく、1.05以下がより好ましい。Li量が0.9よりも少ないと、リチウム欠損が多い結晶構造となり、リチウムイオン二次電池用正極に用いたときに電池の容量が低下するおそれがある。また、Li量が1.1よりも多いと、水酸化リチウム等の水和物および/または炭酸リチウム等炭酸化物が生成され、電極製造時にゲル化状態となるおそれがある。
【0019】
b/(b+c)、すなわち、NiおよびXに対するNiの量(以下「Ni量」ともいう)は、0.5以上であり、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。一方、Ni量は、0.95以下であり、0.93以下が好ましく、0.91以下がより好ましい。Ni量が0.5よりも少ないと、リチウムイオン二次電池用正極に用いたときに電池の容量が低下するおそれがある。また、Ni量が0.95よりも多いと、安定性が劣る。
【0020】
c/(b+c)、すなわち、NiおよびXに対するXの量(以下「X量」ともいう)は、0.05以上であり、0.08以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。一方、X量は、0.5以下であり、0.4以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。Xは熱安定性を向上させるが、X量が0.05よりも少ないと、熱安定性を向上させる効果が乏しい。X量が0.5よりも多いと、リチウムイオン二次電池の放電容量を低下させるおそれがある。
【0021】
d/(b+c)、すなわち、NiおよびXに対するBaの量(以下「Ba量」ともいう)は、0.0001以上であり、0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。一方、Ba量は、0.01以下であり、0.008以下が好ましく、0.007以下がより好ましい。Baは熱安定性を向上させるが、Ba量が0.0001よりも少ないと、熱安定性を向上させる効果が乏しい。Ba量が0.01よりも多いと、リチウムイオン二次電池の容量を低下させるおそれがある。
【0022】
e/(b+c)、すなわち、NiおよびXに対するYの量(以下「Y量」ともいう)は、0超であり、0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。一方、Y量は、0.1以下であり、0.03以下が好ましく、0.01以下がより好ましい。Yは熱安定性を向上させるが、Y量が0.1よりも多いと、リチウムイオン二次電池の放電容量を低下させるおそれがある。
元素Yとしては、Alが好ましい。
【0023】
〈有機ケイ素化合物〉
有機ケイ素化合物は、有機官能基を有する。有機官能基は、炭素数2~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
炭素数2~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基は、1または2以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。ここで、ハロゲン原子は、フッ素原子が好ましい。
アルキル基の炭素数は、2以上であり、3以上が好ましい。一方、アルキル基の炭素数は、10以下であり、8以下が好ましい。
アリール基の炭素数は、6以上である。一方、アリール基の炭素数は、14以下であり、12以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0024】
炭素数2~10のアルキル基は、鎖状アルキル基であってもよいし、環状構造を持つアルキル基であってもよい。
鎖状アルキル基である場合は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
炭素数2~10のアルキル基の例は、エチル基、プロピル基(n-プロピル基)、1-メチルエチル基(イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基)、2-メチルプロピル基(イソブチル基)、1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、ペンチル基(n-ペンチル基)、3-メチルブチル基(イソペンチル基)、2,2-ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、1-メチルブチル基(sec-ペンチル基)、1-エチルプロピル基(3-ペンチル基)、1,1-ジメチルプロピル基(tert-ペンチル基)、ヘキシル基(n-ヘキシル基)、ヘプチル基(n-ヘプチル基)、オクチル基(n-オクチル基)、ノニル基(n-ノニル基)、およびデシル基(n-デシル基)であるが、これらに限定されるものではない。
炭素数2~10のアルキル基としては、炭素数3~8のアルキル基が好ましく、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、およびn-オクチル基からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、n-プロピル基および/またはn-オクチル基がさらに好ましい。
【0025】
炭素数6~14のアリール基の例は、フェニル基、ベンジル基(1-フェニルメチル基)、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、o-メチルトリル基(2-メチルフェニル基)、m-メチルトリル基(3-メチルフェニル基)、p-メチルトリル基(4-メチルフェニル基)、1-ナフチル基、2-ナフチル基、およびトリフェニルメチル基(トリチル基)であるが、これらに限定されるものではない。
炭素数6~14のアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、フェニル基、ベンジル基、1-ナフチル基、および2-ナフチル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0026】
有機ケイ素化合物は、炭素数2~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基からなる群から選択される少なくとも1種の有機官能基を有するシランが好ましい。
炭素数2~10のアルキル基を有するシランの具体例は、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、およびトリフルオロプロピルトリメトキシシランであるが、これらに限定されるものではない。
炭素数6~14のアリール基を有するシランの具体例は、フェニルトリメトキシシラン、およびフェニルトリエトキシシランであるが、これらに限定されるものではない。
有機ケイ素化合物としては、n-プロピルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、およびフェニルトリエトキシシランが好ましく、n-プロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上述した複合酸化物を含む粉末粒子の表面に、上述した有機ケイ素化合物が付着している。これにより、正極活物質と硫化物系固体電解質との界面に高抵抗層が形成されることを抑制する。このとき、リチウムイオンの移動を妨げない(リチウムイオン伝導性に優れる)。さらに、正極活物質が大気中の水分を吸着することを抑制して、安定性を向上させる。
この作用効果のメカニズムは、以下のように推測される。例えば、有機ケイ素化合物の有機官能基が炭素数2~10のアルキル基および炭素数6~14のアリール基からなる群から選択される少なくとも1種を有すると、立体障害が大きく、反応性が低い。このため、有機官能基によるネットワーク構造が形成されにくくなり、リチウムイオンの移動を阻害せず、水が正極活物質に接触しなくなると考えられる。
【0028】
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を以下に説明するが、以下の説明に限定されるものではない。
複合酸化物を製造するのに用いる原料としては、酸化物または製造工程における合成時の焼成反応により酸化物となるものを用いることができる。
複合酸化物を製造するのに用いる原料に、Liを含む成分と、Niを含む成分と、X(CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素)を含む成分と、Baを含む成分と、Y(Na、K、Si、B、PおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素)を含む成分とを混合し、これを焼成する。これにより、複合酸化物を製造することができる。
【0029】
複合酸化物の製造方法は、特に限定されるものでなく、固相反応法、溶液からの析出を経てそれを焼成する方法、噴霧燃焼法、溶融塩法等種々の方法によって製造することができる。
その一例を示せば、まず、Liを含む成分、Niを含む成分、Xを含む成分、およびBaを含む成分等を、目的とするリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じた割合でそれぞれ混合し、混合物を得る。形成させる複合酸化物の種類により、焼成温度は適宜選択するが、得られた混合物を、酸素、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群から選ばれた1種または2種以上の気体の雰囲気下で700~950℃程度の温度で焼成する。これにより、複合酸化物を合成することができる。上記焼成は、酸素雰囲気において300~500℃で2~6時間の保持を行う予備焼成と、予備焼成後5~30℃/分で昇温する昇温段階と、この昇温段階に引き続き700~950℃で2~30時間の保持を行う最終焼成とを順次行う焼成工程であることも好ましい。
【0030】
Liを含む成分、Niを含む成分、Xを含む成分、Baを含む成分としては、酸化物、水酸化物または硝酸塩等を利用することができる。NiおよびXは、均一な混合が重要となるため、例えば、湿式合成法によるNi-X-(OH)が原料として好ましい。Ni-X-(OH)は、NiおよびXの合計量に対するXの割合がモル比で0.05~0.60となるように調製する。その調製に当っては、例えば湿式合成法によって、緻密なNi-X-(OH)の二次粒子状の粉状物を製造することが好ましい。
【0031】
Liを含む成分としては、水酸化物、硝酸塩または炭酸塩等が好ましい。
Yを含む成分としては、それぞれの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩および有機酸塩等が用いられる。
【0032】
好ましい製造方法は、Liを含む成分、Niを含む成分およびXを含む成分を共沈させて得られた水酸化物と、その他の元素を含む成分(酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上)とを混合し、得られた混合物を焼成して複合酸化物を製造する方法である。
さらに、Yを含む成分を共沈させて得られた水酸化物と、その他の元素を含む成分(酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩およびリン酸塩からなる群から選択される1種または2種以上)とを混合し、得られた混合物を焼成して複合酸化物を製造してもよい。
【0033】
複合酸化物は粉末粒子として得られる。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、例えば、得られた複合酸化物の粉末粒子の表面に、上述した有機ケイ素化合物を付着させることによって製造できる。
複合酸化物の粉末粒子の表面に有機ケイ素化合物を付着させる方法は、特に限定されないが、例えば、粉末粒子と有機ケイ素化合物とを混合し、撹拌して、均一な混合物とする方法が挙げられる。粉末粒子に付着していない有機ケイ素化合物は、除去することが好ましい。例えば、複合酸化物粒子と、有機ケイ素化合物の溶液(溶媒は、例えば、エタノールなどのアルコール)とを混合し、その後、真空下等で溶媒を気化させる方法が挙げられる。
【0034】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を備える。その他の構成には、従来公知の構成を採用できる。例えば、本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極(リチウムの充放電可能な正極)と、リチウムの充放電可能な負極と、電解質と、を備え、さらにセパレータを備える場合がある。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池は、好ましくは全固体リチウムイオン二次電池であり、リチウムの充放電可能な正極と、リチウムの充放電可能な負極と、硫化物からなる固体電解質と、を備える。
以下、図1を参照しつつ、本発明のリチウムイオン二次電池の一例を説明する。
【0036】
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池に備えられるセルの形態例を示す概念図である。図1では、正極層の形態を簡略化して示す。
【0037】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10(以下「二次電池10」という。)は、正極活物質を含む正極層1と、硫化物系の固体電解質を含む固体電解質層5と、In箔によって構成される負極層6と、を備える。
二次電池10の充電時には、正極層1の正極活物質からリチウムイオンが引き抜かれ、固体電解質層5を伝って、負極層6へと達する。
これに対し、二次電池10の放電時には、負極層6から放出されたリチウムイオンが、固体電解質層5を伝って、正極層1の正極活物質へと達する。
このように、二次電池10の充放電時には、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動するため、二次電池10の高容量化および高出力化を図るには、この界面の抵抗(界面抵抗)を低減することが重要である。
ここで、正極層1には、正極活物質として、有機ケイ素化合物が表面に付着した複合酸化物粒子(複合酸化物を含む粉末粒子)が含有されている。複合酸化物粒子と固体電解質との間に有機ケイ素化合物の層を介在させることにより、複合酸化物粒子と固体電解質との反応を抑制することができる。その結果、複合酸化物粒子の表面への高抵抗層の形成を抑制するとともに、大気中の水分と複合酸化物粒子との接触も抑制することができる。
すなわち、二次電池10には、界面抵抗を低減するとともに水分の接触を防止することが可能な正極層1が備える。本発明によれば、界面抵抗を低減させることにより性能を向上させることが可能な、二次電池10を提供することができる。
【実施例
【0038】
以下では、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
〈正極活物質の調製〉
複合酸化物粒子(Li1.03Ni0.9Co0.1Ba0.005Al0.006,xは実数、JFEミネラル社製)を準備した。さらに、表面処理剤として、有機ケイ素化合物(n-プロピルトリエトキシシラン:KBE-3033,信越化学工業社製)を準備した。
複合酸化物粒子と、複合酸化物粒子の1~3質量%の表面処理剤をエタノールに溶解して調製した表面処理剤溶液とを混合し、70℃真空下でエタノールを気化させて、複合酸化物粒子の表面に有機ケイ素化合物が付着した正極活物質を製造した。
【0040】
〈水分吸着性の評価〉
得られた正極活物質をサンプル瓶に所定量秤量し、大気雰囲気、25±3℃、湿度60±5%で一定とした環境に保持した恒温恒湿槽に保管し、48時間後の質量の増加率を測定した。複数の試料の測定値の平均値からの計算値を質量増加率とした。
質量増加率が0.20質量%以下である場合を合格(A)と評価し、0.20質量%超である場合を不合格(B)と評価した。結果を下記表1に示す。
合格は、大気中の水分吸着を抑制できることを示唆する。
【0041】
〈リチウムイオン伝導性の評価〉
1.基準電池の作製および放電容量の測定
上述した複合酸化物粒子(JFEミネラル社製)を正極活物質として準備した。この正極活物質90質量%と、アセチレンブラック5質量%およびポリフッ化ビニリデン5質量%とに、N-メチル-2-ピロリドンを添加し、充分混練し、混練物を得た。その後、得られた混練物を、20μm厚みのアルミニウム集電体に塗布し、乾燥して、積層体を得た。得られた積層体をロール型プレスで厚み80μmになるように加圧し、直径14mmに打ち抜きした。打ち抜きされた積層体を150℃にて15時間真空乾燥して正極とした。負極にはリチウム金属シートを用い、セパレータにはポリプロピレン製多孔質膜を用いた。電解質には、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)との体積比1:1の混合溶液1リットルにLiPFを1モル溶解した電解液を用いた。アルゴン置換したグローブボックス内にて、基準電池を作製した。1.0mA/cmの定電流密度にて3.0~4.2Vの間で充電容量および放電容量を求めた。これをさらに1サイクル繰り返し、2サイクル目の充電容量および放電容量を求めた。
【0042】
2.評価用電池の作製および放電容量の測定
正極活物質として、上述した複合酸化物粒子(JFEミネラル社製)に代えて、上述のとおり製造した、複合酸化物粒子の表面に有機ケイ素化合物が付着した正極活物質を用いて、基準電池と同様にして、評価用電池の作製と2サイクル目の放電容量の測定とを行った。
【0043】
3.リチウムイオン伝導性の評価
評価用電池の2サイクル目の放電容量が基準電池の2サイクル目の放電容量を基準として、±5.00%の範囲内である場合を合格(A)と評価し、±5.00%の範囲外である場合を不合格(B)と評価した。結果を下記表1に示す。
合格は、リチウムイオン伝導性に優れることを示唆する。
【0044】
〈サイクル特性の評価〉
正極活物質として、上述のとおり製造した、複合酸化物粒子の表面に有機ケイ素化合物が付着した正極活物質を用いて、以下のように、全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池)を試作した。試作した全固体電池では、硫化物系固体電解質を用いた。
【0045】
具体的には、まず、正極活物質140mgと、硫化物からなる固体電解質60mgと、アセチレンブラック10mgとを乳鉢で混合し、正極複合材を得た。固体電解質として、75LiS-25P(モル比)を用いた。
円筒容器に、固体電解質のみを投入し、2MPaで30秒間加圧した。次いで、この円筒容器に、正極複合体を投入し、12MPaで60秒間加圧した。さらに、この円筒容器に、正極複合体とは反対側から、インジウム箔(100μm)およびリチウム箔(200μm)を投入し、5MPaで60秒間加圧した。
正極複合材/固体電解質/インジウム箔/リチウム箔を、各々に均等に5Nmの荷重がかかるように、円筒容器の上下から、ステンレス製の治具を用いて保持した。これを、全固体電池とした。
【0046】
得られた全固体電池を用いて、以下の条件にて、サイクル試験を実施した。
・充電条件 上限電位:3.6V(Li-In対極基準)
電流値:0.1mA
カットオフ電流:0.05mA
・放電条件 下限電位:2.0V(Li-In対極基準)
電流値:0.1mA
・充放電間の休止時間 10分間
・サイクル数 25回
【0047】
初回の放電容量に対する25サイクル目の放電容量の比(25サイクル目/初回)を、容量維持率(単位:%)とした。容量維持率が70%以上の場合を合格(A)と評価し、70%未満の場合を不合格(B)と評価した。結果を下記表1に示す。
合格は、硫化物系固体電解質を用いた全固体電池でのサイクル特性に優れることを示唆する。
【0048】
[実施例2]
表面処理剤として、オクチルトリエトキシシラン(KBE-3083,信越化学工業社製)を使用した。この点を除いて、実施例1と同様にして水分吸着性、リチウムイオン伝導性およびサイクル特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0049】
[実施例3]
表面処理剤として、フェニルトリエトキシシラン(KBE-103,信越化学工業社製)を使用した。この点を除いて、実施例1と同様にして水分吸着性、リチウムイオン伝導性およびサイクル特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0050】
[比較例1]
表面処理剤として、シランカップリング剤(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン:KBE-603,信越化学工業社製)を使用した。この点を除いて、実施例1と同様にして水分吸着性、リチウムイオン伝導性およびサイクル特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0051】
[比較例2]
表面処理剤として、シランカップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン:KBE-503,信越化学工業社製)を使用した。この点を除いて、実施例1と同様にして水分吸着性、リチウムイオン伝導性およびサイクル特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0052】
[比較例3]
表面処理剤として、リチウムエトキシド(Ardrich社製)、チタンテトライソプロポオキシド(和光純薬工業社製)およびアセチルアセトン(和光純薬工業社製)から合成したチタン酸リチウム(LiTi12)を使用した。この点を除いて、実施例1と同様にして水分吸着性、リチウムイオン伝導性およびサイクル特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
[結果の説明]
実施例1~3の正極活物質は、大気中の水分吸着を抑制可能であり、かつ、リチウムイオン伝導性にも優れていた。さらに、硫化物系固体電解質を用いた全固体電池でのサイクル特性も良好であった。
これに対して、比較例1~3の正極活物質は、水分吸着性および/またはリチウムイオン伝導性が劣っていた。サイクル特性も不十分である場合があった。詳細には、以下のとおりである。
比較例1の正極活物質は、大気中の水分吸着を抑制できず、リチウムイオン伝導性も劣っていた。サイクル特性も不十分であった。
比較例2の正極活物質は、大気中の水分吸着を抑制可能であったものの、リチウムイオン伝導性が劣っていた。サイクル特性も不十分であった。
比較例3の正極活物質は、リチウムイオン伝導性およびサイクル特性は比較的良好であったものの、大気中の水分吸着を抑制できなかった。なお、比較例3は、特許文献1(特開2009-193940号公報)に記載された技術を適用したものである。
【符号の説明】
【0055】
1…正極層
5…固体電解質層
6…負極層
10…リチウムイオン二次電池(二次電池)
図1