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  • 特許-バルブステムシール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】バルブステムシール
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/08 20060101AFI20230627BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20230627BHJP
【FI】
F01L3/08 E
F16J15/3204 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021519334
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017314
(87)【国際公開番号】W WO2020230557
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019090389
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】神前 剛
(72)【発明者】
【氏名】平山 一寿
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】実公平06-045603(JP,Y2)
【文献】特開昭59-173510(JP,A)
【文献】米国特許第03326562(US,A)
【文献】実開昭59-030503(JP,U)
【文献】米国特許第04928644(US,A)
【文献】実開平04-117107(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/08, 3/10,
F16J 15/3204, 15/3252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブガイドと、このバルブガイド内に往復動自在に挿入されるバルブステムとの間を封止するバルブステムシールであって、
前記バルブステムの周囲に配置される筒状の補強環本体を備える補強環と、
前記バルブステムの側周面に接触するシールリップを備えるとともに前記補強環を被覆する弾性体部と、
前記弾性体部の径方向外側に配設されるバルブスプリングの端部を支持する環状かつ平板状のスプリングリテーナーと、を有し、
前記スプリングリテーナーは、前記バルブガイドの軸方向において前記補強環と離間するとともに径方向において前記バルブガイドと離間しており、
前記補強環と前記スプリングリテーナーとは、前記弾性体部を介して連結されており、
前記スプリングリテーナーと前記補強環と前記弾性体部とは一体形成されており、
前記弾性体部は、前記補強環本体と前記バルブガイドの間において軸方向に沿って前記補強環本体の内側を被覆していることを特徴とするバルブステムシール。
【請求項2】
前記補強環は、径方向外側に張り出すフランジ部を有することを特徴とする請求項1に記載のバルブステムシール。
【請求項3】
前記スプリングリテーナーは、前記弾性体部に被覆される被覆部と、前記バルブスプリングの端部を支持する支持部と、を有し、
前記バルブスプリングの端部と接触する前記支持部のおもて面は、前記被覆部のおもて面よりも前記バルブステムが挿通されるシリンダヘッド側となるように段差を設けて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバルブステムシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブステムシールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用等のエンジンにおいては、往復運動する吸排気バルブのバルブステムとバルブガイドとの間に、これらの間の環状空間を封止するためのバルブステムシールが設けられている。バルブステムシールは、バルブステムとバルブガイドとの間にバルブステムの摺動を円滑に行わせるための潤滑油を供給しつつ、ポートやシリンダへの潤滑油の流入防止を図っている。
【0003】
図3は、特許文献1に係る発明の概略断面図である。図3に示すように、特許文献1に係るバルブステムシール100は、バルブステム140及びバルブガイド124の径方向外側に配設される筒状の補強環114と、バルブステム140の側周面と接触するシールリップ138を備えるとともに補強環114の一部を被覆する弾性体部118と、弾性体部118の軸方向の一方側(カム側)の外周に配設されたばね部材172とで主に構成されている。
【0004】
補強環114の軸方向の他方側(シリンダ側)には、曲げ部135と、曲げ部135から径方向外側に張り出すフランジ部136とが形成されている。フランジ部136は、バルブガイド124の径方向外側に配置されるバルブスプリング132の端部を支持するスプリングリテーナーとなる部位である。バルブステムシール100では、フランジ部136に周方向に延設された溝150a,150bを設けることによりフランジ部136に柔軟性を与えており、これによりフランジ部136を平坦に維持することができ、ひいては、バルブスプリング132の軸方向収縮時における曲げ部135への応力集中を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5185979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る発明であると、曲げ部135を形成する際の曲げ加工の精度管理が困難になる。また、バルブステムシールでは、より一層の耐久性の向上が望まれている。
【0007】
このような観点から本発明は、耐久性が高くかつ容易に製造することができるバルブステムシールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明は、バルブガイドと、このバルブガイド内に往復動自在に挿入されるバルブステムとの間を封止するバルブステムシールであって、前記バルブステムの周囲に配置される筒状の補強環本体を備える補強環と、前記バルブステムの側周面に接触するシールリップを備えるとともに前記補強環を被覆する弾性体部と、前記弾性体部の径方向外側に配設されるバルブスプリングの端部を支持する環状かつ平板状のスプリングリテーナーと、を有し、前記スプリングリテーナーは、前記バルブガイドの軸方向において前記補強環と離間するとともに径方向において前記バルブガイドと離間しており、前記補強環と前記スプリングリテーナーとは、前記弾性体部を介して連結されており、前記スプリングリテーナーと前記補強環と前記弾性体部とは一体形成されており、前記弾性体部は、前記補強環本体と前記バルブガイドの間において軸方向に沿って前記補強環本体の内側を被覆していることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、環状かつ平板状を呈するスプリングリテーナーを設けるとともに、別体で形成された補強環とスプリングリテーナーとを弾性体部を介して連結している。本発明では、前記した特許文献1に係る発明とは異なり、曲げ部を介してフランジ部を設けていないため、バルブスプリングの軸方向収縮時の応力を平板状のスプリングリテーナー内で分散させることができる。これにより、応力集中を防ぐことができ、耐久性を高めることができる。また、前記した特許文献1に係る発明のように曲げ部を備えていないため、長期間にわたりスプリングリテーナーの平坦性を維持することができる。また、スプリングリテーナーを設けるための曲げ加工を要しないため、容易に製造することができる。
【0010】
また、前記補強環は、径方向外側に張り出すフランジ部を有することが好ましい。このようにすると、補強環の剛性を高めることができるとともに、補強環と弾性体部との接着強度を高めることができる。
【0011】
また、前記スプリングリテーナーは、前記弾性体部に被覆される被覆部と、前記バルブスプリングの端部を支持する支持部と、を有し、前記バルブスプリングの端部と接触する前記支持部のおもて面は、前記被覆部のおもて面よりも前記バルブステムが挿通されるシリンダヘッド側となるように段差を設けて形成されていることが好ましい。このようにすると、バルブスプリングと弾性体部との干渉を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルブステムシールによれば、耐久性が高くかつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るバルブステムシールの概略断面図である。
図2】実施形態に係るバルブステムシールの変形例の概略断面図である。
図3】特許文献1に係る発明の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るバルブステムシール1は、バルブガイド32と、このバルブガイド32内に往復動自在に挿入されるバルブステム31との間を封止するものである。バルブステムシール1は、バルブステム31の周囲に配置される補強環2と、バルブステム31の側周面に接触するシールリップ16aを備えるとともに補強環2を被覆する弾性体部3と、弾性体部3の径方向外側に配設されるバルブスプリング33の端部を支持する環状かつ平板状のスプリングリテーナー4と、を主に有している。
【0015】
スプリングリテーナー4は、補強環2とは別体で互いに離間して配設されており、補強環2とスプリングリテーナー4とは、弾性体部3を介して連結されている。
【0016】
バルブステムシール1は、特許文献1とは異なり図3に示す曲げ部135を介してバルブスプリング33の荷重を支持するフランジ部を備えず、かつ、補強環2とは別体の平坦なスプリングリテーナー4でバルブスプリング33の荷重を支持する。これにより、バルブスプリング33の軸方向収縮時の応力を平板状のスプリングリテーナー4内で分散させることができるため、スプリングリテーナー4に作用する応力集中を軽減することができる。よって、バルブステムシール1の耐久性を高めることができる。
【0017】
また、スプリングリテーナー4は、補強環2とは別体で離間して配設されているため、バルブスプリング33の荷重が作用する部位の平坦性を長期間維持することができる。また、スプリングリテーナー4を設けるための曲げ加工を要しないため、容易に製造することができる。以下に、実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係るバルブステムシール1は、自動車等の燃料機関の動弁系に使用され、シリンダとポートとの間を連通及び遮断するためのバルブのバルブステム31と、このバルブステム31が挿通されるバルブガイド32との間を密封するものである。バルブガイド32は、一端がカム側に臨み、他端がシリンダヘッド30側に臨んでいる。
【0019】
説明の便宜上、バルブステム31の軸線Xにおける一方側をカム側(カム側A)とし、他方側をシリンダ側(シリンダ側B)とする。また、軸線Xに直交する方向において、軸線Xに向かう方向を内周側とし、軸線Xから離間する方向を外周側とする。軸線Xに直交する方向を「径方向」とも言う。
【0020】
図1に示すように、バルブステムシール1は、補強環2と、弾性体部3と、スプリングリテーナー4と、ばね部材5とで主に構成されている。補強環2は、バルブステム31の周囲に配置される部材であって筒状を呈する。補強環2は、補強環本体11と、フランジ部12と、端壁13とで構成されている。補強環2は、例えば、金属製であり、プレス加工や鍛造で形成されている。なお、フランジ部12は省略してもよい。
【0021】
補強環本体11は、軸線Xに沿って延設され円筒状又は略円筒状を呈する。フランジ部12は、補強環本体11の他方側(シリンダ側B)の端部から外周側に向けて延設されている。端壁13は、補強環本体11の一方側(カム側A)の端部から内周側に向けて延設されている。
【0022】
弾性体部3は、本体部14と、ベース部15と、シール部16とで構成されている。弾性体部3は、例えば、フッ素ゴムやアクリルゴム等のゴム材である。本体部14は、筒状を呈し補強環2の全体を被覆する部位である。本体部14の一方側(カム側A)は、端壁13の全体を覆うように内周側に張り出している。本体部14の他方側(シリンダ側B)は拡径されており、フランジ部12の全体を覆っている。本体部14の他方側には、他方側に向かうにつれて拡径するテーパー面14aが形成されている。本体部14の内周面は、バルブガイド32の側周面に嵌合されている。バルブガイド32の端面32aと本体部14とは離間している。
【0023】
ベース部15は、補強環2とスプリングリテーナー4とを連結する円筒状の部位である。ベース部15の一方側は、本体部14の他方側に連続している。ベース部15の他方側はスプリングリテーナー4の内周側を周方向に亘って覆っている。本実施形態では、ベース部15の内周側の一部がシリンダヘッド30と接触するように形成されている。
【0024】
シール部16は、本体部14の一方側(カム側A)に連続しており、断面略矩形の環状を呈する。シール部16は、内周側に突出するシールリップ16aを備えている。シールリップ16aは、内周側に向かって突出する断面楔形になっている。シールリップ16aはバルブステム31の側周面に摺動自在に接触している。
【0025】
スプリングリテーナー4は、環状かつ平板状を呈する。スプリングリテーナー4の内周及び外周は円形になっている。スプリングリテーナー4の材料は特に制限されないが、本実施形態では金属である。スプリングリテーナー4と、補強環2とはバルブステム31の軸方向に離間している。スプリングリテーナー4の内周側にはベース部15に被覆される被覆部21が形成されている。被覆部21には、弾性体部3が接着されている。スプリングリテーナー4の外周側にはバルブスプリング33の他方側の端部を支持する支持部22が形成されている。
【0026】
バルブスプリング33の一方側(カム側A)の端部はスプリングリテーナー34の裏面に当接し、他方側(シリンダ側B)の端部は支持部22のおもて面22aに当接している。支持部22の裏面22bは、シリンダヘッド30に接触している。なお、スプリングリテーナー4の内周側の端部は、本実施形態ではベース部15で被覆されているが、露出させてもよい。
【0027】
ばね部材5は、シール部16の外周側に配置されている。ばね部材5は、例えば、ガータースプリングである。ばね部材5は、シール部16に緊迫力を付与している。なお、ばね部材5は省略してもよい。
【0028】
補強環2と、弾性体部3と、スプリングリテーナー4は、架橋(加硫)成形によって一体成形されている。この架橋成形の際、成形型の中に配置された補強環2及びスプリングリテーナー4が弾性体部3に架橋接着され、補強環2と、弾性体部3と、スプリングリテーナー4とが一体的に形成される。
【0029】
次に、本実施形態に係るバルブステムシール1の作用効果について説明する。図1に示すように、バルブスプリング33の荷重を受けるスプリングリテーナー4は、環状かつ平板状を呈するとともに、補強環2とスプリングリテーナー4とは弾性体部3を介して連結されている。つまり、本実施形態では、前記した特許文献1に係る発明の曲げ部(図3の曲げ部135)を備えていないため、バルブスプリング33の軸方向収縮時の応力を平板状のスプリングリテーナー4内で分散させることができる。これにより、スプリングリテーナー4の応力集中を防ぐことができ、ひいては耐久性を高めることができる。
【0030】
また、図3における特許文献1に係る発明であると、曲げ部135に応力が集中し、例えば、フランジ部136の外周側がシリンダヘッド30から浮き上がるおそれがある。しかし、本実施形態では、特許文献1に係る発明の曲げ部(図3の曲げ部135)を備えていないため、スプリングリテーナー4の変形を防止でき、長期間にわたりスプリングリテーナー4の平坦性を維持することができる。
【0031】
また、図3の特許文献1に係る発明であると、曲げ部135の曲げ加工の精度管理が困難となる。しかし、本実施形態によれば、スプリングリテーナー4を形成するための曲げ加工を省略することができるため容易に製造することができ、製造コストを低減することができる。
【0032】
また、補強環2に径方向外側に張り出し、弾性体部3で被覆されるフランジ部12を備えることで、補強環2と弾性体部3との接着強度を高めることができる。また、フランジ部12を備えることで、補強環2(バルブステムシール1)の剛性を高めることができる。
また、補強環2に径方向内側に張り出し、弾性体部3で被覆される端壁13を備えることで、補強環2と弾性体部3との接着強度を高めることができる。また、端壁13を備えることで、補強環2(バルブステムシール1)の剛性を高めることができる。
【0033】
以上本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、図2は、実施形態に係るバルブステムシールの変形例の概略断面図である。図2に示すバルブステムシール1Aでは、スプリングリテーナー4Aの形状が前記した第1実施形態と異なる。
【0034】
スプリングリテーナー4Aの内周側には被覆部21が形成されるとともに、外周側には支持部22が形成されている。支持部22のおもて面22aは、被覆部21のおもて面21aよりも低い位置(シリンダヘッド30側)に段差を設けて形成されている。おもて面22aには、バルブスプリング33の端部が当接している。弾性体部3は被覆部21には接触しているが、支持部22には接触していない。
【0035】
当該変形例によれば、バルブスプリング33が軸方向に伸縮する際に、スプリングリテーナー4Aに設けられた段差によってバルブスプリング33が弾性体部3側に移動しづらくなる。これにより、バルブスプリング33と弾性体部3との干渉を防ぐことができる。より詳しくは、弾性体部3とスプリングリテーナー4Aとの境界の接着部にバルブスプリング33が干渉するのを防ぐことができる。
【0036】
また、例えば、補強環2及びスプリングリテーナー4(4A)の両方又はスプリングリテーナー4(4A)のみに強度を向上させるための表面処理を行ってもよい。当該表面処理をスプリングリテーナー4(4A)のみに行う場合、製造工程を少なくすることができる。
【0037】
また、例えば、弾性体部3のシールリップ16aよりも他方側(シリンダ側B)に、他方側に向けて傾斜して形成され、バルブステム31と摺動自在に接触する背圧リップを設けてもよい。背圧リップは、排気ガスに基づくシリンダ側からの圧力(背圧)を受けてシールリップ16aに加わる背圧を低減し、シールリップ16aの背圧による変形を抑制して、シールリップ16aによる潤滑油の供給量の安定化を図る部位である。
【符号の説明】
【0038】
1 バルブステムシール
2 補強環
3 弾性体部
4 スプリングリテーナー
12 フランジ部
16 シール部
16a シールリップ
21 被覆部
21a おもて面
22 支持部
22a おもて面
A 一方側(カム側)
B 他方側(シリンダ側)
図1
図2
図3