(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】フッ化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 7/19 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
C01B7/19 B
(21)【出願番号】P 2021526881
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023988
(87)【国際公開番号】W WO2020262195
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019117447
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301012162
【氏名又は名称】下関三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英俊
(72)【発明者】
【氏名】大深 直俊
(72)【発明者】
【氏名】諸隈 辰馬
(72)【発明者】
【氏名】天野 庄三
(72)【発明者】
【氏名】和田 光浩
(72)【発明者】
【氏名】飯島 朋範
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-037898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/19
C01B 33/08
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物と、無機酸と、Si元素含有化合物と、を含む混合物を反応させて、フッ化水素およびヘキサフルオロケイ酸を含む水溶液Aと、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物とを得る第1工程と、
前記水溶液Aを濃縮して、フッ化水素およびヘキサフルオロケイ酸を含む濃縮液である水溶液Bを得る第2工程と、
前記水溶液Bに硫酸
として75質量%以上の濃硫酸または発煙硫酸を付与して四フッ化ケイ素およびフッ化水素を含む気体を発生させ、前記気体からフッ化水素を分離して回収する第3工程と、を含
み、
前記Si元素含有化合物が、四フッ化ケイ素およびシリカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、フッ化水素の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物が、化合水の比率が19質量%以上である二水石膏である、請求項
1に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は、無機酸の濃度が40質量%以下であり、かつ、温度90℃以下の条件で行う、請求項1
または請求項2に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む原料として、乾燥重量としてフッ化カルシウムを60質量%以上含む人工蛍石を用いる、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物1モルに対し、無機酸1.0~1.5モル、Si元素含有化合物0.2~1.0モルを使用する、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項6】
前記水溶液Bにおけるヘキサフルオロケイ酸の含有率が、水溶液Bの全質量に対して35質量%以上であり、かつ、前記水溶液BにおけるF元素とSi元素とのモル比(F/Si)が6.0以上である、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程は、前記水溶液Bに75質量%以上の濃硫酸または発煙硫酸を加えて脱水分解を行い、四フッ化ケイ素およびフッ化水素を含む気体を発生させ、
80質量%以上の硫酸に前記フッ化水素を吸収させて吸収液を得て、
前記吸収液を100℃以上に加温して、フッ化水素を揮発させて、フッ化水素を回収する、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程において生成したフッ化水素を分離して回収した後に得られる無機酸水溶液を、第1工程における無機酸水溶液の少なくとも一部として用いる、請求項1~請求項
7のいずれか一項に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項9】
前記第3工程において生成したフッ化水素を分離して回収した後に得られる無機酸水溶液を、濃度を高め、第3工程で再利用する、請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
【請求項10】
前記第3工程において、フッ化水素を生成する際に副生する四フッ化ケイ素を回収し、当該四フッ化ケイ素および当該四フッ化ケイ素と水との反応物の少なくとも一方を、前記第1工程におけるSi元素含有化合物の少なくとも一部として、または、前記第3工程において前記水溶液Bに添加して用いる、請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化水素は、水溶液やガスの状態で半導体装置のエッチング材料や各種フッ化物の製造原料として用いられている。
【0003】
工業的なフッ化水素(HF)の製造方法としては、フッ化カルシウム(CaF2)を主成分とする天然の蛍石と硫酸とを混合して加熱する方法が知られている。一般的には、コニーダーと呼ばれるジャケット付き予備反応器と外熱式ロータリーキルンとを組み合せて用いて、二段階の反応工程でフッ化水素(HF)を発生させる。ロータリーキルンは約500℃の熱風をジャケットに流通させることにより加熱され、反応混合物の温度は、予備反応器に連絡しているロータリーキルンの入口付近では約100℃であり、その反対側に位置するロータリーキルンの出口に向かって上昇していき、出口付近では約300℃となる。副生成物として固形状の無水石膏を生じる。
【0004】
この方法において天然蛍石の代わりに、フッ素の固定化処理で得られた人工蛍石を使用することも検討されている。しかし、人工蛍石は、その粒径や不純物の含有量が天然蛍石と大きく異なるため、その反応性も大きく異なる。そのため、人工蛍石の利用は、天然蛍石に2割程度の人工蛍石を混合して使用する程度にとどまっている。人工蛍石の割合を高めるために、人工蛍石の粒径や不純物の含有量を改善する工夫も検討されている(例えば特許文献1および特許文献2)。しかし、これらの工夫は、フッ化水素の原料である人工蛍石が高価になりすぎてしまうという問題があった。
【0005】
ロータリーキルンを用いずに、人工蛍石を用いたフッ酸の製造方法として、例えば特許文献3には、フッ化カルシウムを硫酸と反応させてフッ化水素を製造する方法であって、(a)平均粒径1~40μmのフッ化カルシウム粒子および硫酸を、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9~1.1となる量で、0~70℃の温度にて混合および反応させて、固体状反応混合物を得る工程、および(b)該固体状反応混合物を100~200℃の温度に加熱して反応させ、フッ化水素を生成させて気相中に得る工程を含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-74575号公報
【文献】特開2015-54809号公報
【文献】特開2011-011964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らが検討したところ、特許文献3に記載された発明では、固体状反応混合物におけるフッ化水素の含有率が低く、人工蛍石中のフッ素を効率よくフッ化水素に転換することが困難である場合があることが分かった。そこで、本開示では、人工蛍石等を用いてフッ化水素を効率よく提供し得るフッ化水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、例えば下記[1]~[11]に関する。
[1] アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物と、無機酸と、Si元素含有化合物と、を含む混合物を反応させて、フッ化水素およびヘキサフルオロケイ酸を含む水溶液Aと、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物とを得る第1工程と、
前記水溶液Aを濃縮して、フッ化水素およびヘキサフルオロケイ酸を含む濃縮液である水溶液Bを得る第2工程と、
前記水溶液Bに硫酸を付与して四フッ化ケイ素およびフッ化水素を含む気体を発生させ、前記気体からフッ化水素を分離して回収する第3工程と、を含む、フッ化水素の製造方法。
[2] 前記Si元素含有化合物は、四フッ化ケイ素およびシリカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載のフッ化水素の製造方法。
[3] 前記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物が、化合水の比率が19質量%以上である二水石膏である、[1]または[2]に記載のフッ化水素の製造方法。
[4] 前記第1工程は、無機酸の濃度が40質量%以下であり、かつ、温度90℃以下の条件で行う、[1]~[3]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
[5] 前記アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む原料として、乾燥重量としてフッ化カルシウムを60質量%以上含む人工蛍石を用いる、[1]~[4]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
[6] アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物1モルに対し、無機酸1.0~1.5モル、Si元素含有化合物0.2~1.0モルを使用する、[1]~[5]のいずれか1項に記載のフッ化水素の製造方法。
[7] 前記水溶液Bにおけるヘキサフルオロケイ酸の含有率が、水溶液Bの全質量に対して35質量%以上であり、かつ、前記水溶液BにおけるF元素とSi元素とのモル比(F/Si)が6.0以上である、[1]~[6]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
[8] 前記第3工程は、前記水溶液Bに75質量%以上の濃硫酸または発煙硫酸を加えて脱水分解を行い、四フッ化ケイ素およびフッ化水素を含む気体を発生させ、
80質量%以上の硫酸に前記フッ化水素を吸収させて吸収液を得て、
前記吸収液を100℃以上に加温して、フッ化水素を揮発させて、フッ化水素を回収する、[1]~[7]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
[9] 前記第3工程において生成したフッ化水素を分離して回収した後に得られる無機酸水溶液を、第1工程における無機酸水溶液の少なくとも一部として用いる、[1]~[8]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
[10] 前記第3工程において生成したフッ化水素を分離して回収した後に得られる無機酸水溶液を、濃度を高め、第3工程で再利用する、[1]~[9]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
[11] 前記第3工程において、フッ化水素を生成する際に副生する四フッ化ケイ素を回収し、当該四フッ化ケイ素および当該四フッ化ケイ素と水との反応物の少なくとも一方を、前記第1工程におけるSi元素含有化合物の少なくとも一部として、または、前記第3工程において前記水溶液Bに添加して用いる、[1]~[10]のいずれかに記載のフッ化水素の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示のフッ化水素の製造方法によれば、人工蛍石を用いてフッ化水素を効率よく提供し得るフッ化水素の製造方法が提供される。また、本開示のフッ化水素の製造方法において副生成物として得られる石膏は、無水石膏や半水石膏ではなく、商業的に有用な二水石膏であるので、本開示のフッ化水素の製造方法は経済性に優れている。また、本開示のフッ化水素の製造方法において副生成物として得られるシリカの純度が高いので、本開示のフッ化水素の製造方法は経済性に優れている。また、本開示のフッ化水素の製造方法においては、硫酸や四フッ化ケイ素といったその他の副生成物を、本開示のフッ化水素の製造方法に用いることが出来るため、本開示のフッ化水素の製造方法は経済性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のフッ化水素の製造方法は、下記の第1工程、第2工程および第3工程を含む。
<第1工程>
第1工程は、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物と、無機酸と、Si元素含有化合物と、を含む混合物を反応させて、フッ化水素(HF)およびヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)を含む水溶液Aと、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物とを得る工程である。
【0011】
第1工程では、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物と無機酸水溶液との反応により生成されるフッ化水素(HF)を、Si元素含有化合物を利用して、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)として固定する。
第1工程において、Si元素含有化合物が存在しない場合には、アルカリ土類金属の代表例であるフッ化カルシウム(CaF2)と、無機酸の代表例である硫酸(水溶液)との反応は、下記式(1)に従っておこる。この反応では、生成したフッ化水素が溶液中にとどまるために式(1)の平衡関係が成り立ち、反応は途中で止まる。例えば、30質量%硫酸水溶液中では、反応率30%程度で反応は止まる。
【0012】
【0013】
本開示の第1工程では、Si元素含有化合物により、式(1)の平衡が右側に傾くため、フッ化カルシウム(CaF2)の分解が促進される。このため、フッ化カルシウムの分解率に優れると考えられる。
【0014】
CaF2の分解率を高める、つまり式(1)を右側に進ませるためには、例えば、(i)式(1)で生成したHFを揮発させて系外に追い出すことや、(ii)式(1)で生成したHFを、ケイ酸、ホウ酸と反応させて、H2SiF6、HBF4などの別の化合物に変換することなどが考えられる。
本開示では、前記(ii)のうち、HFと反応するSi元素含有化合物を反応系に加えることで、HFをH2SiF6に変換し、式(1)を右側に進ませる。
【0015】
Si元素含有化合物の種類により反応するHFの量論数は下記式(2)および(3)に示すように変わるが、いずれも同様の効果が得られる。例えば、Si元素含有化合物としてSiO
2を用いた場合は式(2)となり、SiF
4を用いた場合は式(3)となる。
【数2】
【0016】
このように、本開示のフッ化水素の製造方法では、アルカリ金属やアルカリ金属フッ化物と無機酸とを反応させるのみではなく、その反応物とSi元素含有化合物とを反応させることで、アルカリ金属やアルカリ金属フッ化物の分解を促進することができ、効率に優れている。また、副生成物であるアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が得られるため、廃棄物が少ないという利点がある。
【0017】
前記アルカリ金属フッ化物としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等が挙げられる。前記アルカリ土類金属フッ化物としては、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム等が挙げられる。
アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物としては、特に制限はないが、フッ化カルシウム(CaF2)が好ましく用いられる。
【0018】
CaF2を含む原料としては、蛍石や人工蛍石が挙げられ、これらの原料を本開示のフッ化水素の製造方法にそのまま使用することができる。本開示の特徴を活かす観点から、人工蛍石が好ましく用いられる。
【0019】
人工蛍石におけるフッ化カルシウム(CaF2)の含有率は、高いほど好ましく、乾燥量として60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。従来のフッ化水素の製造方法と違い、本開示のフッ化水素の製造方法は、CaF2から直接HFを製造するのではなく、H2SiF6を経由してHFを得るので、従来の人工蛍石を用いたフッ化水素の製造方法で問題となり得るSiO2、CaCO3、Ca(OH)2といった不純物が問題になりにくい。そのため、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物としては、人工蛍石を用いることが好ましい。
【0020】
第一工程で用いる無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などが挙げられる。これらの中でも、人工蛍石との反応性をより向上させる観点から、硫酸が好ましい。硫酸は、取り扱いを容易にする観点から、硫酸水溶液の形態で用いることが好ましい。第1工程で用いる無機酸として、後述する第3工程で副成する65~80質量%の硫酸などの無機酸を40質量%以下となるように添加して使用することもできる。
【0021】
反応液中での無機酸の濃度は、反応が進行する限りは特に制限されないが、二水石膏を得る観点から、40質量%以下が好ましく、20~30質量%がより好ましい。反応液中での無機酸の濃度とは、無機酸全量を反応開始時点で添加した場合の無機酸の濃度を指す。このため、無機酸を滴下して添加する場合、反応液中の実際の無機酸の濃度は、ここでいう反応液中での無機酸の濃度とは異なる場合がある。また、反応液中の無機酸の濃度とは、無機酸が複数種含まれる場合にはその合計の濃度を指す。
【0022】
第一工程で用いるSi元素含有化合物としては、特に制限されないが、例えばシリカ(SiO2)、四フッ化ケイ素(SiF4)等が挙げられる。反応効率を向上させる観点から、四フッ化ケイ素およびシリカからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。人工蛍石を用いる場合には、人工蛍石に不純物として含まれるSiO2もSi元素含有化合物として使用することができる。また、第3工程で生成したSiF4や、第2工程で揮発させたSiF4、第2工程で生じたSiO2なども、Si元素含有化合物として使用することができる。
【0023】
SiO2を含む材料として、SiO2を主成分とした珪藻土、ケイ酸パウダー、副生コロイダルシリカ、シリカ含有ダスト、および、シリカゲル、水ガラス、パーライトなどのケイ酸塩化合物を使用することができる。
また、後述の濾過性をより向上させる観点から、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩の種結晶を含んでいてもよい。種結晶としては、特に制限されないが、第1工程で生成したスラリー液の一部を使用することが好ましい。
【0024】
第1工程においては、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物1モルに対し、好ましくは無機酸1.0~1.5モル、Si元素含有化合物0.2~1.0モルを使用し、より好ましくは無機酸1.0~1.4モル、Si元素含有化合物0.30~0.50モルを使用し、さらに好ましくは無機酸1.0~1.4モル、Si元素含有化合物0.30~0.40モルを使用する。
【0025】
無機酸の量については、二水石膏の収率をより向上させ、かつ、残留する無機酸の濃度をより低下させて後述の第3工程を効率化する観点から、上記上限値以下にすることが好ましく、フッ化カルシウム等の分解反応を促進するために上記下限値以上にすることが好ましい。Si元素含有化合物の量については、ろ過性をより向上させるため上記上限値以下にすることが好ましく、フッ化カルシウム等の分解反応をより促進するため、つまり上記式(1)をより右に移動させるために上記下限値以上にすることが好ましい。
【0026】
第1工程の反応は、例えば、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物から選ばれる少なくとも一つの化合物と水とを混合し、この混合液に硫酸等の無機酸を滴下しながら、Si元素含有化合物を添加して行うことができる。
【0027】
第1工程における反応温度は、フッ化カルシウム等の分解率を向上させる観点から、高い方が好ましい。一方、石膏の化合水の含有量を上げて、二水石膏を得る観点から、反応温度は95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、70℃以下が特に好ましい。また、反応温度は、後述のろ過性をより向上させる観点から、80℃以下が好ましい。反応温度は、例えば、10℃~95℃とすることができ、常温~90℃が好ましく、30℃~80℃がより好ましく、50℃~70℃がさらに好ましい。第1工程の反応において、発熱量は使用するSi元素含有化合物の種類と量により異なるが、必要に応じて加熱または冷却を行い、反応温度を前記範囲に維持することが好ましい。
【0028】
第1工程における反応時間、すなわち無機酸の全量添加または滴下開始から反応終了までの時間は、フッ化カルシウム等の分解率をより向上させる観点から、長い方が好ましい。一方、反応時間が長いと効率に劣る。分解率と効率との両立の観点から、反応時間は、例えば0.5時間~8時間とすることができ、1時間~7時間が好ましく、2時間~6時間がより好ましく、2.5時間~5時間がさらに好ましい。
【0029】
第1工程における無機酸の濃度と温度条件は、無機酸が40質量%以下、かつ、温度90℃以下の条件であることが好ましい。この範囲であると、二水石膏を効率的に得ることができ、かつ、ろ過効率に優れる傾向にある。
【0030】
第1工程では、フッ化水素およびヘキサフルオロケイ酸を含む水溶液Aと、固体であるアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物との混合物が得られる。第2工程では水溶液Aを用いるので、第1工程で得られた前記混合物を、水溶液Aと、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属などの固体とに分別することが好ましい。分別の方法は、第2工程を行うことができれば特に制限されない。分別の方法としては、例えば、ろ過が挙げられる。ろ過の具体的な方法は、第2工程を行うことが出来れば特に制限されず、例えばカートリッジフィルター等を用いて行うことができる。
【0031】
水溶液Aにおけるフッ素分とケイ素分のモル比(F/Si)は、3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。F/Siのモル比の上限は特に制限されないが、現実的には6.0以下である。F/Siが上記下限値以上であると、第2工程を短縮でき、エネルギー効率に優れるため好ましい。
【0032】
水溶液Aにおけるヘキサフルオロケイ酸の濃度は、第2工程を短縮する観点、および、エネルギー効率を向上させる観点から、20質量%~35質量%が好ましい。
水溶液Aにおける無機酸の濃度、すなわち、反応終了後の無機酸の濃度は、1~5質量%であることが好ましい。残留する無機酸の濃度が5質量%以下であると、後述の第3工程におけるフッ化水素の回収効率がより向上する傾向にある。これは、フッ化水素が硫酸等の無機酸水溶液に溶けやすく、無機酸水溶液から分離させる際に残存しやすいためである。
【0033】
第1工程で得られるアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウムなどが例示できる。中でも、硫酸カルシウムが好ましい。さらに、硫酸カルシウムとしては無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられる。これらの中でも、経時的な吸湿をより抑制する観点から、二水石膏が好ましい。二水石膏は経時的な吸湿が少ないため、工業原料としての利用価値が高い物である。経時的な吸湿をより抑制する観点から、二水石膏が含む化合水の量は、19質量%以上が好ましい。このように、本開示のフッ化水素の製造方法によれば、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一つの化合物が得られ、該化合物は工業原料として利用価値が高いものである。
【0034】
<第2工程>
第2工程は、前記水溶液Aを濃縮してフッ化水素(HF)およびヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)を含む濃縮液である水溶液Bを得る工程である。
第2工程を経ずに水溶液Aを後述の第3工程に供すると、第3工程で生成する単位フッ化水素当たりの無機酸量が多量になると共に、副生する無機酸水溶液中に残留するフッ化水素量も増加し、その分フッ化水素の回収量が減少してしまう。すなわち、第2工程で濃縮することで、効率的にフッ化水素を回収できるようになる。
【0035】
第2工程の主な目的は、HFを水溶液中に留めつつ、H2OおよびSiF4を揮発させて、濃縮することである。このことにより、最終的なHFの回収効率を向上することができる。
【0036】
H
2SiF
6は強酸であるが、水溶液でのみ安定で、無水物はない。H
2SiF
6は常温で減圧濃縮しても60.92質量%までしか濃縮できないと報告されている。H
2SiF
6は、H
2SiF
6としては揮発せずに、分解してSiF
4とHFとして蒸発するが、揮発性の高いSiF
4が優先的に蒸発する。水溶液Aの濃縮において、H
2SiF
6濃度が低い間は、ほとんど水のみが蒸発し、H
2SiF
6濃度が35質量%近くになると水と共にSiF
4が蒸発する。このことは、H
2SiF
6の濃度が高くなるにつれて、液中の
【数3】
の解離が進み、SiF
4が揮発し易くなることを示す。H
2SiF
6が分解して生成したHFの大部分が液中に残り、HFが濃縮される。更に濃縮すると、HFも蒸発し始め、最後には共沸混合物となる。この間、水溶液A中のH
2SiF
6の濃度は、最初は濃縮と共に増加して、HFの増加と共に減少に転じる。
【0037】
本開示では、HFの蒸発が顕著になる前に濃縮を止めることにより、例えば、常圧で116~118℃で濃縮を止めることにより、H2SiF6の含有率が35質量%以上、かつ、モル比(F/Si)が6.0以上になるまで濃縮することができる。そのため、濃縮液は、濃縮液のヘキサフルオロケイ酸の含有率が濃縮液の全質量に対して35質量%以上であり、かつ、濃縮液におけるF元素とSi元素とのモル比(F/Si)が6.0以上であることが好ましい。
【0038】
濃縮により得られた水溶液B中のH2SiF6とHFの濃度、特にHFの濃度を高めることにより,第3工程における無水フッ化水素の回収量を高め、濃硫酸の使用量を低減させることができる。
【0039】
第2工程の濃縮で蒸発させたSiF4と H2Oを冷却して凝縮すると、ヘキサフルオロケイ酸水溶液とSiO2のスラリーが得られる。
ここで得られたSiO2は、濃縮で蒸発させたSiF4と H2Oを凝縮したもので、付着している母液中に存在するヘキサフルオロケイ酸は乾燥により容易に揮発させることができるので、極めて高純度のアモルファスシリカとして回収することが出来る。
【0040】
第2工程における濃縮方法は、水溶液Aを濃縮出来れば特に制限されず、例えば、常温下での蒸留、減圧下での蒸留などの公知の方法で行えばよい。中でも、常温下での蒸留および減圧下での蒸留が好ましい。特に減圧下での蒸留は、濃縮されやすいため好ましい。
【0041】
常圧下で蒸留する場合は、水溶液Aを100℃~120℃、好ましくは110℃~120℃、より好ましくは116℃~118℃まで昇温することが好ましい。水溶液Aの温度は、濃縮率を向上させるために前記の下限値以上であることが好ましく、フッ化水素のロスを低減する観点から前記の上限値以下であることが好ましい。
減圧下で蒸留する場合は、水溶液を20kPa(絶対圧)の条件下で68℃~85℃まで昇温することが好ましい。
【0042】
第2工程で得られる水溶液Bにおいて、モル比(F/Si)は6.0以上が好ましく、6.5~8.0がより好ましく、6.8~7.2がさらに好ましい。モル比(F/Si)は、第3工程を効率化する観点から前記の下限値以上であることが好ましく、現実的に可能な値として前記の上限値以下とすることができる。モル比(F/Si)は、終点となる温度を調整することで、変更することができます。
【0043】
第2工程で得られる水溶液Bにおいて、H2SiF6の含有率は35質量%以上が好ましく、37.0質量%~44.0質量%がより好ましい。H2SiF6の含有率は、第3工程を効率化する観点から前記の下限値以上であることが好ましく、現実的に可能な値として前記の上限値以下とすることができる。
【0044】
<第3工程>
第3工程は、前記水溶液Bに硫酸を付与して四フッ化ケイ素(SiF4)およびフッ化水素(HF)を含む気体を発生させ、前記気体からフッ化水素を分離して回収する工程である。また、前記気体から回収したフッ化水素は、再び蒸発および冷却を行い液化することで、濃度を高めることができる。
【0045】
第3工程の目的は、第2工程で製造した濃縮液である水溶液Bから、フッ化水素を分離し、H2SiF6およびSiF4の濃度を低下させることである。
第3工程の目的が達成できれば具体的な手段は制限されないが、第3工程では、下記(i)および(ii)を行い、任意的に(iii)を行うことが好ましい。
【0046】
(i)水溶液Bに75質量%以上の濃硫酸または発煙硫酸を加えて、脱水分解を行い、HFとSiF4とを含む気体を発生させる。この工程では、脱水分解により、フッ化水素と四フッ化ケイ素が発生し、フッ化水素および四フッ化ケイ素が同時に揮発する。
(ii)80質量%以上の硫酸に前記フッ化水素を吸収させて吸収液を得る。この工程では、HFとSiF4との混合ガスに80質量%以上の硫酸を添加し、硫酸にHFを吸収させて吸収液を調製し、混合ガスから HFを選択的に回収する。
(iii)前記吸収液を100℃以上に加熱し、フッ化水素を揮発させて、フッ化水素を回収する。この工程では、揮発したフッ化水素を冷却して液化して回収することが好ましい。
【0047】
前記(i)における濃硫酸または発煙硫酸を加える際の水溶液Bの温度は、硫酸によるH2SiF6の分解により発生するHFおよびSiF4を気化させることができれば特に制限されないが、例えば、80℃~130℃とすることができ、100℃~130℃とすることがより好ましい。
【0048】
前記(i)における硫酸による分解反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。水溶液中に残留するHF量を低減させて収率をより向上させる観点から、減圧下で行うことが好ましい。
【0049】
前記(i)においては、水溶液中に残留するHF量を低減させて収率をより向上させる観点から、不活性ガスを通気することが好ましい。不活化ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、SiF4ガスが挙げられる。不活性ガスの通気は、硫酸を添加する際から行っていても良く、硫酸による分解が進行または終了した後に行ってもよい。この方法によれば、HFが2質量%残留している場合であっても、0.5質量%程度にまで残留量を低下させることができる。
【0050】
前記(i)においては、水溶液中に残留するHF量を低減させて収率をより向上させる観点から、沸点が比較的低いパラフィンなどの炭化水素を添加することが好ましい。
【0051】
前記(i)の後の水溶液は、HFを少量含む希硫酸である。この希硫酸における硫酸濃度は、濃縮液の濃度や濃硫酸などの添加量を変更することで、例えば、60質量%~85質量%にできる。HFの含有量をより低下させる観点からは、希硫酸における硫酸濃度は、80質量%~85質量%が好ましい。また、再利用を容易にする観点から、希硫酸における硫酸濃度は70質量%~80質量%が好ましい。希硫酸は、例えば、リン酸工場などの原料の一部として、または、本開示の各工程で用いることができる。
【0052】
希硫酸におけるHFの含有率は、HFを効率的に回収する観点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0053】
前記(ii)においては、前記混合ガスに濃硫酸を加え、HFを濃硫酸に溶かして、HFおよびH2SO4を含む吸収液を調製する。混合ガス中にはH2Oも含まれており、該H2Oは濃硫酸に吸収されるため、吸収液に含まれる。吸収液におけるHFの濃度は、例えば、30質量%以上であり、35質量%以上であることが好ましい。
【0054】
前記(ii)においては、SiF4ガスが吸収されずに残る。そのため、フッ化水素を生成する際に副生する四フッ化ケイ素を回収し、当該四フッ化ケイ素および当該四フッ化ケイ素と水との反応物の少なくとも一方を、前記第1工程におけるSi元素含有化合物の少なくとも一部として、または、前記第3工程において前記水溶液Bに添加して用いることが好ましい。系外に排出される化合物が減少するため、経済性に優れる傾向にある。
【0055】
前記(iii)においては、前記吸収液を100℃以上、好ましくは120℃に加熱して、例えば30分間保持し、揮発したガスを冷却することで、HFの濃度が99質量%の水溶液を得ることが出来る。
【0056】
生成したフッ化水素を分離して回収した後の残液は、硫酸水溶液となる。この硫酸水溶液を、第1工程における無機酸の少なくとも一部として用いることが好ましい。系外に排出される化合物が減少するため、経済性に優れる傾向にある。また、この硫酸水溶液の濃度を高め、第3工程で再利用することが好ましい。系外に排出される化合物が減少するため、経済性に優れる傾向にある。濃度を高める方法としては、例えば、脱水蒸留が挙げられる。
【0057】
従来知られている本開示の第3工程に類似した方法として、2段の反応器を使用し、1段目ではほとんどSiF4のみを蒸発させ、より厳しい条件の二段目では主にHFを揮発させる方法がある。しかしながら、SiF4とHFとを別々に蒸発させることが難しく、HFの収率が低くなる場合がある。これに対し、本開示における第3工程によれば、揮発などの操作が容易であり、高い収率でHFを回収することができる。
【0058】
以上のとおり、本開示のフッ化水素の製造方法によれば、HF以外で系外に排出されるものは二水石膏、およびSiO2である。本開示の製造方法で得られる二水石膏およびSiO2は不純物含量が低く、そのまま製品として市販できる。
【実施例】
【0059】
実施例において行った各種測定方法を以下に示す。
(1)含有率の測定方法
(1-1)F含有率分析
F含有率は、Thermo製フッ素イオン電極9409BNを(株)堀場製作所イオンメーターF-72に装着し、フッ素イオンメーター法にて測定した。
(1-2)Si含有率分析
Si含有率は、(株)日立ハイテクノロジーズ製偏光ゼーマン原子吸光光度計ZA3300を用いて、原子吸光法にて測定した。
(1-3)H2SO4分析
SO4
2-を、日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフィーICS-1600にカラムAS18を装着し、溶離液はKOHを使用し、イオンクロマトグラフィー法にて測定した。測定されたSO4
2-の含有量をもとに、H2SO4の含有量を計算した。
【0060】
(2)二水石膏の化合水の測定方法
二水石膏の化合水は、JIS R 9101(1995)に準拠して測定した。加熱温度は250℃とした。
【0061】
[実施例1]
―第1工程―
攪拌機およびジャケット付の12Lフッ素樹脂ライニング反応器に、一般化学産業で得られた人工蛍石B(乾燥品、CaF2含量:85.0質量%、SiO2含量:2.4質量%)1,848gおよび水6,180gを加えてスラリー状にし、撹拌しながら60℃に加熱した。これに75質量%硫酸2,896gを30分間かけて滴下しながら、SiF4ガス1,654gを反応槽に吹き込んだ。この間反応温度が70℃を越えないように除熱を行った。硫酸の滴下が終了したのち熟成のため2時間攪拌を続けた。このスラリーをカートリッジフィルターでろ過して、固形分4,118gと、ろ液(水溶液A)8,440gとを回収した。固形分は二水石膏であり、メタノールで洗浄して、50℃で乾燥させた後の重量は、3,500gであった。ろ液(水溶液A)は、フッ化水素(HF)およびヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)を含んでいた。ヘキサフルオロケイ酸の濃度は27.6質量%であり、H2SO4の濃度は3.2質量%であった。また、モル比(F/Si)は、5.71であった。二水石膏の化合水は、19.5質量%であった。
【0062】
―第2工程―
温度計保護管2本(液温と気相の温度測定用)とガス出口を備えた1,000mlの フッ素樹脂製瓶(市販の瓶に溶接加工を行ったもの)に、第1工程で得たろ液1,055gを仕込み、液温が118℃に達するまで常圧で濃縮蒸留を行い、773gの濃縮液を得た。第1工程と第2工程を2回繰り返し、1,546gの濃縮液を得た。濃縮液(水溶液B)は ヘキサフルオロケイ酸37.6質量%、H2SO47.4質量%を含んでおり、モル比(F/Si)は7.01であった。
【0063】
―第3工程(i)(ii)―
攪拌機と温度計を備えた2,000mlテフロン(登録商標)反応器をオイルバスに浸し、撹拌しながら120℃に保持した。これに、前記濃縮液(ヘキサフルオロケイ酸:37.6質量%モル比(F/Si):7.01、H2SO4:7.4質量%)928gと98質量%硫酸1,840gを、チューブポンプを用いて同時に滴下して、ヘキサフルオロケイ酸の脱水分解を開始した。濃縮液と濃硫酸はそれぞれがほぼ60分間で同時に滴下が終了するように調節した。滴下終了と同時に、後述の吸収瓶から排出されるSiF4ガスをエアーポンプにて戻して、30分間バブリングして反応液中のHFを追い出した。この間に揮発したガスを、各90gの98質量%硫酸を入れ、直列に接続した2本のフッ素樹脂製吸収瓶中で、バブリングさせて硫酸にHFを吸収させた。この吸収瓶は10℃に設定した冷水浴に浸して冷却していた。
【0064】
テフロン(登録商標)反応器から残った液体2,412gを回収した。その組成は、0.5質量%のHFを含有する約75質量%H2SO4であった。
2本の吸収瓶から硫酸吸収液309gを回収した。その組成は、H2SO4:55.3質量%、HF:36.4質量%、H2O:8.3質量%であった。
ここで発生したSiF4は、HF追い出し用に使用すると共に、別途、水スクラバーにて吸収させ、SiO2とヘキサフルオロケイ酸とを含有する水溶液を回収した。この水溶液のモル比(F/Si)は5であった。
第1工程~第3工程(i)、(ii)を2回繰り返し、618gの硫酸吸収液を得た。硫酸吸収液の組成は前述のとおりであった。
【0065】
―第3工程(iii)―
500mlの蒸発缶、冷水凝縮器(5℃)、および冷水浴(5℃)に浸した100mlの受器を備えたフッ素樹脂製の単蒸留装置を用いて、前記硫酸吸収液からのHF回収を行った。硫酸吸収液450gを蒸発缶に仕込み、加熱してHFを蒸発させ、蒸発したHFを冷水凝縮器にて凝縮させ、凝縮液を受器に貯めた。徐々に加熱を行い、ほぼ1時間かけて硫酸吸収液を120℃まで昇温し、さらに30分間この温度を維持した。放冷後、蒸発缶の残留液293gと凝縮液157gを回収した。蒸発缶の残留液には2.3質量%のHFが含まれていた。凝縮液の組成はHFが99質量%であった。
【0066】
[比較例1]
実施例1と同様にして、第1工程を行い、ろ液(水溶液A)8,440gを回収した。ろ液(水溶液A)は、フッ化水素(HF)およびヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)を含んでいた。ヘキサフルオロケイ酸の濃度は27.6質量%であり、H2SO4の濃度は3.2質量%であった。また、モル比(F/Si)は、5.71であった。
【0067】
このろ液(水溶液A)を、第2工程を行わずに、第3工程(i)および(ii)に用いた。具体的には、攪拌機と温度計を備えた2,000mlテフロン(登録商標)反応器をオイルバスに浸し、撹拌しながら120℃に保持した。これに、ろ液(水溶液A)(ヘキサフルオロケイ酸:27.6質量%モル比(F/Si):5.71、H2SO4:3.2質量%)718.6gと98質量%硫酸1840gを、チューブポンプを用いて同時に滴下して、ヘキサフルオロケイ酸の脱水分解を開始した。濃縮液と濃硫酸はそれぞれほぼ60分間で同時に滴下が終了するように調節した。滴下終了と同時に、後述の吸収瓶から排出されるSiF4ガスをエアーポンプにて戻して、30分間バブリングして反応液中のHFを追い出した。この間に揮発したガスを、各90gの98質量%硫酸を入れ、直列に接続した2本のフッ素樹脂製吸収瓶中でバブリングさせて、硫酸にHFを吸収させた。この吸収瓶は10℃に設定した冷水浴に浸して冷却していた。
【0068】
2本の吸収瓶から硫酸吸収液236gを回収した。その組成は、H2SO4:62.3量%、HF:15.7質量%、H2O:8.1質量%であった。本比較例1は、実施例1と同じ量の吸収用の硫酸を使用している。しかし、沸硫酸として吸収瓶から回収できたHFの濃度は、実施例1の36.4質量%に対して本比較例1は15.7質量%であった。そのため、第2工程を経ない本比較例1は、実施例1に対して著しく効率が悪いことが分かる。
【0069】
[試験例1]
原料として、半導体産業で排出された人工蛍石A(乾燥品:CaF2含量:78.4質量%、SiO2:0.88質量%、CaSO4・2H2O:9.3質量%)と、濃硫酸を75質量%に希釈した硫酸と、SiO2源として市販の珪藻土とを使用して、第1工程を実施した。
人工蛍石A 99.6g(CaF2として1.0モル)と、SiO2として合計0.33モルを含む珪藻土を秤量し、500mlフッ素樹脂製容器に入れ、水150gを加えてスラリー化し、撹拌しながら65℃に昇温した。次いで、H2SO4として1.3モルを含む75質量%H2SO4を分液ロートにて30分間かけて滴下した。
前記式(1)に従って反応は進行し、硫酸滴下終了後4時間で反応を止め、直ちにろ過を行い、ろ液(水溶液A)を得た。ろ過残渣は、水洗およびメタノール洗浄後、105℃で1時間乾燥させ、乾燥固形分を得た。
【0070】
(1)ろ過性の評価
ろ過時におけるスラリーの滞留時間から、下記の評価基準に従って、ろ過性を評価した。なお、ろ過は、溶液が通過する部位の内径が4.5cmであるフィルターホルダーに、目開き1μmのメンブレンフィルターを設置したフィルター装置を用い、真空ポンプで吸引しつつ行った。
~評価基準~
A:スラリーの滞留時間が60秒以下であった。
B:スラリーの滞留時間が60秒を超え、90秒以下であった。
C:スラリーの滞留時間が90秒を超えていた。
【0071】
(2)化合水量の評価
得られた乾燥固形分から、前述の方法に従って、化合水量を測定した。
(3)分解率の測定
乾燥固形分の質量を秤量し、乾燥固形分の質量および原料として用いた人工蛍石の質量から、分解率を求めた。分解率は、次式で表される。
分解率(%)=[乾燥固形分の質量(g)/人工蛍石の質量(g)]×100
【0072】
[試験例2~試験例15]
使用する原料のモル比率、反応温度および反応時間を表1に記載のとおり変更した以外は試験例1と同様にして、第1工程を実施した。ろ過性、化合水、分解率の評価結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
試験例の評価結果に対する考察
(反応温度について)
「試験例1~4」、「試験例9、10」では、それぞれ反応温度以外の条件は同じで、反応温度のみを変化させている。表1に示す結果より、反応温度が高いほどCaF2分解率は向上することがわかる。一方、反応温度が高くなると化合水の量が下がり、80℃を超えると半水石膏、90℃を超えると無水石膏が生成し、ろ過性が低下することがわかる。以上より、第1工程における反応温度は、80℃以下が好ましく、50~70℃がより好ましいことが分かる。
【0075】
(SiO2量について)
SiO2を添加せず、SiO2として人工蛍石由来の0.014molのSiO2のみを使用した試験例15では、CaF2の分解率が30%以下であるのに対し、SiO2を添加した他の試験例はすべてCaF2の分解率は70%以上であった。
SiO2の添加量のみが異なる「試験例7、8」の比較、「試験例9、11、12」の比較から、試験例7および9のSiO2の添加量0.33モルの場合が最も分解率が高く、SiO2の添加量が0.33モルより少なくても多くても分解率が低下することが分かる。
また、「試験例9,11,12」の比較から、SiO2が多すぎると、ろ過性が低下することが分かる。これは、未反応の微細なSiO2がスラリー中に残るためであると考えられる。
【0076】
(硫酸量について)
CaF2に対する硫酸の量(モル比)を大きくすると、CaF2の分解率は高くなったが、ろ液中に残留する硫酸量が増加し、次の第2工程でSiF4とHFが揮発し易くなった。SiO2の存在下では当量の硫酸でも分解率は85%を越え、1.05倍等量で90~94%、2倍等量でも96.2%であった。
【0077】
(滞留時間について)
試験例9および13の結果より、反応時の滞留時間(H2SO4滴下後の反応時間)を長くすると、分解率が向上し、石膏結晶が大きくなる傾向にあったが、試験例6および7のように、反応時の滞留時間が2時間を超えると差が見られなくなった。そのため、滞留時間は2~4時間で十分であることがわかった。
【0078】
[試験例16](減圧蒸留)
1Lのフッ素樹脂製減圧蒸留装置を用い、実施例1の第1工程で得たろ液(ヘキサフルオロケイ酸:27.6質量%、モル比(F/Si):5.71、H2SO4:3.2質量%)910gを仕込み、15kPa絶対圧下で濃縮蒸留を行った。缶残の温度が75℃に達するまで蒸留を行った結果、缶残として402gの濃縮液を得、その組成はヘキサフルオロケイ酸:38.5質量%、モル比(F/Si):7.03、H2SO4:7.2質量%であった。
【0079】
[試験例17](バブリング操作なし)
実施例1において、第3工程(i)のバブリング操作を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、第3工程(i)および(ii)を行った。
回収した硫酸吸収液の組成は、2.2質量%のHFを含有する約75質量%H2SO4溶液であった。