(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ウイルス、その使用、およびがんを治療する医薬品
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20230627BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230627BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20230627BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20230627BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230627BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230627BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20230627BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230627BHJP
C12N 9/50 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/57
C12N15/869 Z
C12N15/63 Z
A61K35/76
A61K35/763
A61P35/00
C12N9/50
(21)【出願番号】P 2022502452
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 CN2020094751
(87)【国際公開番号】W WO2021008269
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】201910642804.4
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CCTCC CCTCC NO: V201920
【微生物の受託番号】CCTCC CCTCC NO: C201974
(73)【特許権者】
【識別番号】521523947
【氏名又は名称】伍沢堂
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伍沢堂
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-506931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0065952(US,A1)
【文献】Fukuhara, H. et al.,"Oncolytic virus therapy: A new era of cancer treatment at dawn",Cancer Sci.,2016年,Vol. 107,pp. 1373-1379
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムに第1の制御エレメントが挿入され、前記第1の制御エレメントに、がん細胞特異的プロモーター配列および前記がん細胞特異的プロモーターによって駆動されて標的がん細胞において特異的プロテアーゼを発現させる第1の核酸配列が含まれ、
ゲノムに第2の制御エレメントがさらに挿入され、前記第2の制御エレメントに、細胞外トラクションシグナルペプチドをコードするための第2の核酸配列および特異的切断部位をコードするための第3の核酸配列が含まれ、前記特異的切断部位が、特異的プロテアーゼによって認識され、切断され、
前記第2の制御エレメントが、腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子の5’末端に位置して
おり、
前記第2の制御エレメントは、前記腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子のオープンリーディングフレームの開始コドンと第2のトリプレットコドンの間に位置しており、
前記第1の制御エレメントの挿入位置は、前記腫瘍溶解性ウイルスの2つの遺伝子の間に位置する、
腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
前記特異的プロテアーゼは、ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼ、トロンビン、Xa因子プロテアーゼ、タバコエッチウイルスプロテアーゼまたは組換えPreScissionプロテアーゼであり、
好ましくは、前記特異的プロテアーゼがヒトライノウイルス3Cプロテアーゼである場合、前記特異的切断部位のアミノ酸配列がLEVLFQGPであり、
前記特異的プロテアーゼがトロンビンである場合、前記特異的切断部位のアミノ酸配列がLVPRGSであり、
前記特異的プロテアーゼがXa因子プロテアーゼである場合、前記特異的切断部位のアミノ酸配列がIE/DGRであり、
前記特異的プロテアーゼがタバコエッチウイルスプロテアーゼである場合、前記特異的切断部位の配列がENLYFQGであり、
前記特異的プロテアーゼが組換えPreScissionプロテアーゼである場合、前記特異的切断部位の配列がLEVLFQGPである、
請求項1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
前記細胞外トラクションシグナルペプチドは、インターフェロンα2、インターロイキン2、ヒト血清アルブミン、ヒト免疫グロブリン重鎖、または海洋カイアシ類動物由来のルシフェラーゼ細胞外分泌シグナルペプチドである、
請求項1または2に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項4】
前記第1の制御エレメントは、エンハンサー配列をさらに含み、前記エンハンサー配列が前記がん細胞特異的プロモーター配列と前記特異的プロテアーゼコード配列の間に位置し、前記エンハンサー配列が前記特異的プロテアーゼの発現を増強するためのものであり、
好ましくは、前記エンハンサー配列が、CMVエンハンサー配列またはSV40エンハンサー配列である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項5】
前記標的がん細胞は、肺がん細胞、肝臓がん細胞、乳がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、脳腫瘍細胞、ヒト結腸がん細胞、子宮頸がん細胞、腎臓がん細胞、卵巣がん細胞、頭頸部がん細胞、黒色腫細胞、膵臓がん細胞または食道がん細胞である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項6】
前記がん細胞特異的プロモーターは、テロメラーゼ逆転写酵素プロモーター、ヒト上皮成長因子受容体-2プロモーター、E2F1プロモーター、オステオカルシンプロモーター、癌胎児性抗原プロモーター、サバイビン(Survivin)プロモーターおよびセルロプラスミンプロモーターから選択されるいずれか1種である、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項7】
前記腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、ウシポックスウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、麻疹ウイルス、耳下腺炎ウイルス、水疱性口内炎ウイルスおよびインフルエンザウイルスから選択されるいずれか1種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスが単純ヘルペスウイルスである場合、必須遺伝子は、エンベロープ糖タンパク質L、ウラシルDNAグリコシラーゼ、キャプシドタンパク質、スパイラルエンザイムプロ酵素サブユニット、DNA複製開始結合ヘリカーゼ、ミリスチン酸誘導体タンパク質、デオキシリボヌクレアーゼ、外被セリン/トレオニンプロテインキナーゼ、DNAパッケージング末端酵素サブユニット1、コートタンパク質UL16、DNAパッケージングタンパク質UL17、キャプシドの3本鎖サブユニット2、主要なキャプシドタンパク質、エンベロープタンパク質UL20、核タンパク質UL24、DNAパッケージングタンパク質UL25、キャプシド成熟プロテアーゼ、キャプシドタンパク質、エンベロープ糖タンパク質B、一本鎖DNA結合タンパク質、DNAポリメラーゼ触媒サブユニット、核外輸送層タンパク質、DNAパッケージングタンパク質UL32、DNAパッケージングタンパク質UL33、核外輸送膜タンパク質、大キャプシドタンパク質、キャプシドの3本鎖サブユニット1、リボヌクレオチド還元酵素サブユニット1、リボヌクレオチド還元酵素サブユニット2、エンベロープ宿主閉鎖タンパク質、DNAポリメラーゼ加工性サブユニット、膜タンパク質UL45、コートタンパク質VP13/14、トランス活性化タンパク質VP16、コートタンパク質VP22、エンベロープ糖タンパク質N、コートタンパク質UL51、ヘリカーゼ-プライマーゼプライマーゼサブユニット、エンベロープ糖タンパク質K、ICP27、核タンパク質UL55、核タンパク質UL56、転写調節因子ICP4、調節タンパク質ICP22、エンベロープ糖タンパク質Dおよび膜タンパク質US8Aから選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスがアデノウイルスである場合、必須遺伝子は、初期タンパク質1A、初期タンパク質1B 19K、初期タンパク質1B 55K、カプセル化されたタンパク質Iva2、DNAポリメラーゼ、末端タンパク質前駆体pTP、カプセル化されたタンパク質52K、キャプシドタンパク質前駆体pIIIa、ペントンマトリックス、コアタンパク質pVII、コアタンパク質前駆体pX、コアタンパク質前駆体pVI、ヘキソン、プロテアーゼ、一本鎖DNA結合タンパク質、ヘキサマーアセンブリタンパク質100K、タンパク質33K、カプセル化されたタンパク質22K、キャプシドタンパク質前駆体、タンパク質U、フィブリン、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム6/7、調節タンパク質E4 34K、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム4、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム3、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム2および調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム1から選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスがウシポックスウイルスである場合、必須遺伝子は、ヌクレオチド還元酵素小サブユニット、セリン/トレオニンキナーゼ、DNA結合ウイルスコアタンパク質、ポリメラーゼ大サブユニット、RNAポリメラーゼサブユニット、DNAポリメラーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、仮想的DNA結合ウイルス核タンパク質、DNA結合リンタンパク質、ウイルスコアシステインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼNPH-II、仮想的メタロプロテアーゼ、転写伸長因子、グルタチオン様タンパク質、RNAポリメラーゼ、仮想的ウイルス核タンパク質、後期転写因子VLTF-1、DNA結合ウイルス核タンパク質、ウイルスキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ小サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo22、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo147、セリン/トレオニンプロテインホスファターゼ、IMVヘパリン結合性表面タンパク質、DNA依存性RNAポリメラーゼ、後期転写因子VLTF-4、DNAトポイソメラーゼ1型、mRNAキャッピング酵素大サブユニット、ウイルスコアタンパク質107、ウイルスコアタンパク質108、ウラシル-DNAグリコシラーゼ、トリホスファターゼ、初期遺伝子転写因子VETFの70 kDa小サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo18、ヌクレオシド三リン酸加水分解酵素-I、mRNAキャッピング酵素小サブユニット、リファンピシンターゲット、後期転写因子VLTF-2、後期転写因子VLTF-3、ジスルフィド結合形成経路、コアタンパク質4b前駆体p4b、コアタンパク質39kDa、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo19、初期遺伝子転写因子VETFの82kDa大サブユニット、転写因子VITF-3の32kDa小サブユニット、IMV膜タンパク質128、コアタンパク質4a前駆体P4a、IMV膜タンパク質131、ホスホネート化IMV膜タンパク質、IMV膜タンパク質A17L、DNAヘリカーゼ、ウイルスDNAポリメラーゼプロセシング因子、IMV膜タンパク質A21L、パルミトイル化タンパク質、中間遺伝子転写因子VITF-3の45kDa大サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo132、DNA依存性RNAポリメラーゼrpo35、IMVタンパク質A30L、仮想的ATPアーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ、EEV成熟タンパク質、パルミトイル化EEV膜糖タンパク質、IMV表面タンパク質A27L、EEV膜リン酸糖タンパク質、IEVおよびEEV膜糖タンパク質、EEV膜糖タンパク質、ジスルフィド結合形成経路タンパク質、仮想的ウイルス核タンパク質、IMV膜タンパク質I2L、ポックスウイルスミリストイルタンパク質、IMV膜タンパク質L1R、後期16kDa仮想的膜タンパク質、仮想的ウイルス膜タンパク質H2R、IMV膜タンパク質A21L、ケモカイン結合タンパク質、表皮成長因子様タンパク質およびIL-18結合タンパク質から選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルスである場合、必須遺伝子は、タンパク質Vpg、コアタンパク質2A、タンパク質2B、RNAヘリカーゼ2C、タンパク質3A、プロテアーゼ3C、逆転写酵素3D、コートタンパク質Vp4およびタンパク質Vp1から選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスが麻疹ウイルスである場合、必須遺伝子は、核タンパク質N、リンタンパク質P、マトリックスタンパク質M、膜貫通糖タンパク質F、膜貫通糖タンパク質HおよびRNA依存性RNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスが耳下腺炎ウイルスである場合、必須遺伝子は、核タンパク質N、リンタンパク質P、融合タンパク質F、RNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスが水疱性口内炎ウイルスである場合、必須遺伝子は、糖タンパク質G、核タンパク質N、リン酸タンパク質PおよびRNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスがポリオウイルスである場合、必須遺伝子は、キャプシドタンパク質VP1、キャプシドタンパク質VP2、キャプシドタンパク質VP3、システインプロテアーゼ2A、タンパク質2B、タンパク質2C、タンパク質3A、タンパク質3B、プロテアーゼ3C、タンパク質3DおよびRNAガイドRNAポリメラーゼから選択される1種または複数種であり、
好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスがインフルエンザウイルスである場合、必須遺伝子は、血球凝集素、ノイラミニダーゼ、核タンパク質、膜タンパク質M1、膜タンパク質M2、ポリメラーゼPA、ポリメラーゼPB1-F2およびポリメラーゼPB2から選択される1種または複数種である、
請求項1~
6のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項8】
前記腫瘍溶解性ウイルスの1つまたは複数の必須遺伝子の5’末端に前記第2の制御エレメントが挿入される、
請求項1~
7のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項9】
前記腫瘍溶解性ウイルスが単純ヘルペスウイルス1型であり、必須遺伝子がICP27であり、前記がん細胞特異的プロモーターがテロメラーゼ逆転写酵素プロモーターであり、前記特異的プロテアーゼがヒトライノウイルス3Cプロテアーゼであり、前記細胞外トラクションシグナルペプチドがインターフェロンα2シグナルペプチドであり、前記特異的切断部位のアミノ酸配列がLEVLFQGPであり、前記第2の制御エレメントが前記必須遺伝子のオープンリーディングフレームの開始コドンATGと第2のトリプレットコドンの間に位置し、前記第1の制御エレメントが前記必須遺伝子の下流に位置している、
請求項1~
7のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項10】
前記テロメラーゼ逆転写酵素プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 4に示されており、
前記ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 5に示されており、
前記ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼのオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 6に示されており、
前記インターフェロンα2シグナルペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7に示されており、前記第2の核酸配列のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 8に示されており、
前記第3の核酸配列のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 9に示されている、
請求項
9に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項11】
前記2つの遺伝子は、2つの必須遺伝子であるか、または2つの非必須遺伝子であるか、またはそのうちの1つが必須遺伝子であり、もう1つが非必須遺伝子である、
請求項
1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項12】
腫瘍溶解性ウイルスの標的部位に挿入される挿入配列を有し、
前記挿入配列が、前記第1の制御エレメントおよび前記第2の制御エレメントを含み、前記第1の制御エレメントの標的部位が前記腫瘍溶解性ウイルスの2つの遺伝子の間に位置し、前記第2の制御エレメントが前記腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子の5’末端に位置している、
請求項1~1
1のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルスを調製するための核酸分子。
【請求項13】
前記挿入配列の5’末端に前記の標的部位の上流配列に相同である5’末端相同性アーム配列を有し、前記挿入配列の3’末端に前記の標的部位の下流配列に相同である3’末端相同性アーム配列を有する、
請求項1
2に記載の核酸分子。
【請求項14】
請求項1
2または1
3に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項15】
請求項1
4に記載のベクターを親ウイルスおよび相補的宿主細胞と共培養し、培養物から前記腫瘍溶解性ウイルスを収集することを含み、
前記親ウイルスのゲノム配列が、野生型ウイルスのゲノム配列に対して、前記必須遺伝子が欠失するものであり、
前記相補的宿主細胞に前記必須遺伝子を発現させる発現配列が含まれる、
請求項1~1
1のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルスを調製する方法。
【請求項16】
がんを治療する医薬品の調製における、請求項1~1
1のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルスの使用。
【請求項17】
請求項1~1
1のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス、および薬学に許容されるアジュバントを含む、
がんを治療する医薬品。
【請求項18】
遺伝子治療薬またはワクチンがさらに含まれる、
請求項1
7に記載の医薬品
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本開示は、2019年07月16日に中国特許庁に提出された出願番号2019106428044の「腫瘍溶解性ウイルス、その使用、およびがんを治療する医薬品」という名称の中国特許出願の優先権を主張するものであり、その内容のすべては本明細書に参照として取り込まれる。
【0002】
本開示は、がん治療の技術分野に関し、具体的には、腫瘍溶解性ウイルス、その使用、およびがんを治療する医薬品に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは、すでにもっとも人々の健康を脅かす疾患となっている。中国は、がん、特に肺がん、胃がん、肝臓がん、直腸がんの発生率の高い国である。統計によると、2016年だけでも、様々な種類の新規がん患者が全国で480万人増加し、230万人の患者が様々な種類のがんで亡くなった。技術の進歩に伴い、様々な新しい治療法、特に生物学的薬物治療が続々と臨床に使用されている。しかし、医薬品の安全性、有効性、患者の生活の質のニーズはまだ満たされていない。そのため、新薬や新治療法の開発が求められている。
【0004】
1991年、Martuzaらが「Science」ジャーナルに発表した記事によれば、トランスジェニック単純ヘルペスウイルスが悪性神経膠腫の治療に一定の効果があることが証明されていた。それ以来、がんを治療するための腫瘍溶解性ウイルスの開発がますます注目を集めている。腫瘍溶解性ウイルスによる、がんに対する治療法の原理は、自然界に存在するいくつかの病原性の低いウイルスに対して遺伝子組み換えを行い、腫瘍細胞内で選択的に複製させて腫瘍を破壊することである。また、免疫応答を誘発し、免疫細胞を引き付けて、残存のがん細胞を殺し続けるか、免疫応答により転移したがん細胞を殺すことができる。ここ数十年で、腫瘍溶解性ウイルスの関係研究は大きく進歩した。
【0005】
人々は、前後してニューカッスル病ウイルス(new castle disease virus、NDV)、単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus-1、HSV-1)、レオウイルス(reovirus)、腫瘍溶解性アデノウイルス(oncolytic adenovirus)を使用して腫瘍溶解性ウイルスを開発しており、そして動物実験ではそれが安全で有効であることが示されている。しかし、臨床成績は予想をはるかに下回っていた。良くなかった臨床成績は、現在の腫瘍溶解性ウイルスの設計案に関わっている。従来の腫瘍溶解性ウイルスは、主に1つまたは複数のウイルス非必須遺伝子を削除するか、1つまたは複数の必須遺伝子をがん特異的プロモーターの駆動で発現させることによって、がん細胞における腫瘍溶解性ウイルスの選択的増殖の目的を達成するものである。非必須遺伝子の削除またはがん特異的プロモーターの駆動での必須遺伝子の発現は、いずれもin vivoでのウイルスの増殖に影響を与える。要するに、現在の腫瘍溶解性ウイルスの良くない臨床成績は既存の設計案による結果である。腫瘍溶解性ウイルスの有効性と広いスペクトル効果を高めるために、ウイルスのゲノムの完全性を維持するとともにウイルス遺伝子の時間に伴う発現の高度な調和性に影響を与えることのないようにすることが腫瘍溶解性ウイルスの設計に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の一態様は、野生型ウイルスを遺伝子操作してなした組換え腫瘍溶解性ウイルスであり、がん細胞において強力な複製能力で複製して宿主がん細胞を殺すことができ、非がん細胞に対して確実な安全性を有する腫瘍溶解性ウイルスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の別の態様において、上記の腫瘍溶解性ウイルスを調製するための核酸分子を提供する。
【0008】
本開示のさらに別の態様において、上記の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0009】
本開示のさらに別の態様において、上記の腫瘍溶解性ウイルスを調製するための方法を提供する。
【0010】
本開示のさらに別の態様において、がん治療における、上記の腫瘍溶解性ウイルスの使用を提供する。
【0011】
本開示のさらに別の態様において、がんを治療する医薬品を提供する。
【0012】
第1の局面において、本開示は、腫瘍溶解性ウイルスを提供し、前記腫瘍溶解性ウイルスのゲノムに第1の制御エレメントが挿入され、第1の制御エレメントに、がん細胞特異的プロモーター配列およびがん細胞特異的プロモーターによって駆動されて標的がん細胞において特異的プロテアーゼを発現させる第1の核酸配列が含まれ、
腫瘍溶解性ウイルスのゲノムに第2の制御エレメントがさらに挿入され、第2の制御エレメントに、細胞外トラクションシグナルペプチドをコードするための第2の核酸配列および特異的切断部位をコードするための第3の核酸配列が含まれ、特異的切断部位が、特異的プロテアーゼによって認識され、切断され、
第2の制御エレメントが、腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子の5’末端に位置している。
【0013】
本開示による腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞特異的プロモーターによって制御され、正常細胞のような非がん細胞に感染すると、その下流の特異的プロテアーゼが発現しないため、細胞外トラクションシグナルペプチドが、下流の必須遺伝子配列により発現されるウイルス複製に不可欠なタンパク質を細胞外へ引き出し、その結果、腫瘍溶解性ウイルスが必要なエレメントを欠き、非がん細胞において複製することができなくなる。一方、それががん細胞に感染すると、該腫瘍溶解性ウイルスのがん細胞特異的プロモーターが特異的プロテアーゼの発現を駆動し、特異的プロテアーゼが細胞外トラクションシグナルペプチドと上記の必須遺伝子によって発現されるタンパク質の間の特異的切断部位を切断し、ウイルス複製に必要なタンパク質ががん細胞に残され、腫瘍溶解性ウイルスが正常に複製でき、その複製によってがん細胞を死滅させることができる。
【0014】
本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスは、その元のゲノムにおける遺伝子(必須遺伝子も非必須遺伝子も)がいずれも削除されなく、強力な複製能力で複製でき、その複製でがん細胞を殺すことができる。
【0015】
本開示の一態様による腫瘍溶解性ウイルスのゲノムの模式的構成図は
図1のAを参照できる。
【0016】
なお、第1の制御エレメントの挿入位置は、腫瘍溶解性ウイルスの2つの遺伝子の間(2つの必須遺伝子の間、2つの非必須遺伝子の間、または1つの必須遺伝子と1つの非必須遺伝子の間でありうる)に位置しており、遺伝子の正常な機能に影響を与えることがない。
【0017】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、特異的プロテアーゼは、ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼ(HRV 3Cプロテアーゼ)、トロンビン、Xa因子プロテアーゼ、タバコエッチウイルスプロテアーゼ(TEVプロテアーゼ)または組換えPreScissionプロテアーゼである。
【0018】
本開示の特異的プロテアーゼは、上記のプロテアーゼに限定されず、他のいくつかの実施形態において、当業者が必要に応じて適切なプロテアーゼを選択して本開示に適用することができ、これらも本開示の保護範囲に属する。
【0019】
同様に、当業者は、必要に応じて特異的プロテアーゼによって認識、切断されることができる適切な特異的切断部位を選択して本開示に適用することができる。
【0020】
例えば、特異的プロテアーゼがヒトライノウイルス3Cプロテアーゼである場合、特異的切断部位のアミノ酸配列がLEVLFQGPであり、
特異的プロテアーゼがトロンビンである場合、特異的切断部位のアミノ酸配列がLVPRGSであり、
特異的プロテアーゼがXa因子プロテアーゼである場合、特異的切断部位のアミノ酸配列がIE/DGR(IEDGR or IDGR)であり、
特異的プロテアーゼがタバコエッチウイルスプロテアーゼである場合、特異的切断部位の配列がENLYFQGであり、
特異的プロテアーゼが組換えPreScissionプロテアーゼである場合、特異的切断部位の配列がLEVLFQGPである。
【0021】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、細胞外トラクションシグナルペプチドは、インターフェロンα2、インターロイキン2、ヒト血清アルブミン、ヒト免疫グロブリン重鎖、または海洋カイアシ類動物由来のルシフェラーゼ細胞外分泌シグナルペプチドである。
【0022】
本開示の細胞外トラクションシグナルペプチドは、上記のようなタイプに限定されなく、他のいくつかの実施形態において、当業者が必要に応じて適切な細胞外トラクションシグナルペプチドを選択して本開示の技術案に適用してもよく、それと融合するタンパク質を細胞外へ引き抜くことができればよく、これらも本開示の保護範囲に属する。
【0023】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、第2の制御エレメントは、腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子のオープンリーディングフレームの開始コドン(ATG)と第2のトリプレットコドンの間に位置している。
【0024】
細胞外トラクションシグナルペプチドおよび必須遺伝子が発現すると、細胞外トラクションシグナルペプチドは、特異的切断部位配列を介して必須タンパク質と融合(上記の必須遺伝子により発現される)し、特異的切断部位配列が切断されていない場合、必須タンパク質が細胞外へ引き出され、腫瘍溶解性ウイルスが正常に複製できなくなる。
【0025】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、第1の制御エレメントは、エンハンサー配列をさらに含み、エンハンサー配列ががん細胞特異的プロモーター配列と特異的プロテアーゼコード配列の間に位置し、エンハンサー配列が特異的プロテアーゼの発現を増強するためのものである。
【0026】
本開示では、エンハンサー配列の具体的なタイプが限定されなく、下流の遺伝子配列の発現を増強できるエンハンサーであれば本開示に使用できる。1つまたは複数の実施形態において、エンハンサー配列は、CMVエンハンサー配列またはSV40エンハンサー配列である。本開示の他の実施形態において、当業者が必要に応じて適切なエンハンサー配列を選択でき、がん細胞、特にがん細胞特異的プロモーターの転写活性が低いがん細胞における特異的プロテアーゼの発現を増強することに用いられるエンハンサーであれば、すべて本開示の保護範囲に属する。
【0027】
エンハンサーを導入することで、特異的プロテアーゼの発現量を増やすことができる。腫瘍溶解性ウイルスががん細胞に感染すると、特異的プロテアーゼが大量に発現し、高効率で特異的切断部位を切断でき、より多くの発現された必須タンパク質(上記の必須遺伝子により発現される)を細胞内に残させ、腫瘍溶解性ウイルスの複製能力を増強させることができ、がん細胞に対する死滅能力の向上に寄与できる。
【0028】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、標的がん細胞は、肺がん細胞、肝臓がん細胞、乳がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、脳腫瘍細胞、ヒト結腸がん細胞、子宮頸がん細胞、腎臓がん細胞、卵巣がん細胞、頭頸部がん細胞、黒色腫細胞、膵臓がん細胞または食道がん細胞である。
【0029】
なお、標的がん細胞の種類は、当業者が実際の状況に応じて選択することができる。同様に、がん細胞特異的プロモーターは、選択される標的がん細胞で特異的に発現するもの、または様々ながん細胞で特異的に発現を駆動するもの(ただし、非がん細胞では発現を駆動しない)であり得る。
【0030】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、がん細胞特異的プロモーター配列が、テロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(hTERT)、ヒト上皮成長因子受容体-2プロモーター(HER-2)、E2F1プロモーター、オステオカルシン(osteocalcin)プロモーター、癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen)プロモーター、サバイビン(Survivin)プロモーターおよびセルロプラスミンプロモーターのうちの任意の1種である。
【0031】
本開示のがん細胞特異的プロモーター配列は、上記の種類に限定されず、他のいくつかの実施形態において、当業者が必要に応じて、がん細胞において下流遺伝子の発現を特異的に駆動できる適切なプロモーターを選択できる。どのがん細胞特異的プロモーターが選択されても、すべて本開示の保護範囲に属する。
【0032】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス1型)、アデノウイルス、ウシポックスウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、麻疹ウイルス、耳下腺炎ウイルス、水疱性口内炎ウイルスおよびインフルエンザウイルスから選択されるいずれか1種である。
【0033】
なお、本開示の腫瘍溶解性ウイルスの種類は上記の種類に限定されなく、他の実施形態において、当業者は、実際の状況に応じて適切な腫瘍溶解性ウイルスを選択することができ、がん細胞に感染させてがん細胞を抑制しまたは殺す能力を有すれば、本開示の腫瘍溶解性ウイルスとして使用することができる。どの腫瘍溶解性ウイルスが選択されても、すべて本開示の保護範囲に属する。
【0034】
また、異なる腫瘍溶解性ウイルスは異なる必須遺伝子を有し、当業者は、実際の状況に応じて適切な腫瘍溶解性ウイルスおよび必須遺伝子を選択することができる。
【0035】
例えば、腫瘍溶解性ウイルスが単純ヘルペスウイルスである場合、必須遺伝子は、エンベロープ糖タンパク質L、ウラシルDNAグリコシラーゼ、キャプシドタンパク質、スパイラルエンザイムプロ酵素サブユニット、DNA複製開始結合ヘリカーゼ、ミリスチン酸誘導体タンパク質、デオキシリボヌクレアーゼ、外被セリン/トレオニンプロテインキナーゼ、DNAパッケージング末端酵素サブユニット1、コートタンパク質UL16、DNAパッケージングタンパク質UL17、キャプシドの3本鎖サブユニット2、主要なキャプシドタンパク質、エンベロープタンパク質UL20、核タンパク質UL24、DNAパッケージングタンパク質UL25、キャプシド成熟プロテアーゼ、キャプシドタンパク質、エンベロープ糖タンパク質B、一本鎖DNA結合タンパク質、DNAポリメラーゼ触媒サブユニット、核外輸送層タンパク質、DNAパッケージングタンパク質UL32、DNAパッケージングタンパク質UL33、核外輸送膜タンパク質、大キャプシドタンパク質、キャプシドの3本鎖サブユニット1、リボヌクレオチド還元酵素サブユニット1、リボヌクレオチド還元酵素サブユニット2、エンベロープ宿主閉鎖タンパク質、DNAポリメラーゼ加工性サブユニット、膜タンパク質UL45、コートタンパク質VP13/14、トランス活性化タンパク質VP16、コートタンパク質VP22、エンベロープ糖タンパク質N、コートタンパク質UL51、ヘリカーゼ-プライマーゼプライマーゼサブユニット、エンベロープ糖タンパク質K、ICP27、核タンパク質UL55、核タンパク質UL56、転写調節因子ICP4、調節タンパク質ICP22、エンベロープ糖タンパク質Dおよび膜タンパク質US8Aから選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスがアデノウイルスである場合、必須遺伝子は、初期タンパク質1A、初期タンパク質1B 19K、初期タンパク質1B 55K、カプセル化されたタンパク質Iva2、DNAポリメラーゼ、末端タンパク質前駆体pTP、カプセル化されたタンパク質52K、キャプシドタンパク質前駆体pIIIa、ペントンマトリックス、コアタンパク質pVII、コアタンパク質前駆体pX、コアタンパク質前駆体pVI、ヘキソン、プロテアーゼ、一本鎖DNA結合タンパク質、ヘキサマーアセンブリタンパク質100K、タンパク質33K、カプセル化されたタンパク質22K、キャプシドタンパク質前駆体、タンパク質U、フィブリン、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム6/7、調節タンパク質E4 34K、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム4、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム3、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム2および調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム1から選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスがウシポックスウイルスである場合、必須遺伝子は、ヌクレオチド還元酵素小サブユニット、セリン/トレオニンキナーゼ、DNA結合ウイルスコアタンパク質、ポリメラーゼ大サブユニット、RNAポリメラーゼサブユニット、DNAポリメラーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、仮想的DNA結合ウイルス核タンパク質、DNA結合リンタンパク質、ウイルスコアシステインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼNPH-II、仮想的メタロプロテアーゼ、転写伸長因子、グルタチオン様タンパク質、RNAポリメラーゼ、仮想的ウイルス核タンパク質、後期転写因子VLTF-1、DNA結合ウイルス核タンパク質、ウイルスキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ小サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo22、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo147、セリン/トレオニンプロテインホスファターゼ、IMVヘパリン結合性表面タンパク質、DNA依存性RNAポリメラーゼ、後期転写因子VLTF-4、DNAトポイソメラーゼ1型、mRNAキャッピング酵素大サブユニット、ウイルスコアタンパク質107、ウイルスコアタンパク質108、ウラシル-DNAグリコシラーゼ、トリホスファターゼ、初期遺伝子転写因子VETFの70 kDa小サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo18、ヌクレオシド三リン酸加水分解酵素-I、mRNAキャッピング酵素小サブユニット、リファンピシンターゲット、後期転写因子VLTF-2、後期転写因子VLTF-3、ジスルフィド結合形成経路、コアタンパク質4b前駆体p4b、コアタンパク質39kDa、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo19、初期遺伝子転写因子VETFの82kDa大サブユニット、転写因子VITF-3の32kDa小サブユニット、IMV膜タンパク質128、コアタンパク質4a前駆体P4a、IMV膜タンパク質131、ホスホネート化IMV膜タンパク質、IMV膜タンパク質A17L、DNAヘリカーゼ、ウイルスDNAポリメラーゼプロセシング因子、IMV膜タンパク質A21L、パルミトイル化タンパク質、中間遺伝子転写因子VITF-3の45kDa大サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo132、DNA依存性RNAポリメラーゼrpo35、IMVタンパク質A30L、仮想的ATPアーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ、EEV成熟タンパク質、パルミトイル化EEV膜糖タンパク質、IMV表面タンパク質A27L、EEV膜リン酸糖タンパク質、IEVおよびEEV膜糖タンパク質、EEV膜糖タンパク質、ジスルフィド結合形成経路タンパク質、仮想的ウイルス核タンパク質、IMV膜タンパク質I2L、ポックスウイルスミリストイルタンパク質、IMV膜タンパク質L1R、後期16kDa仮想的膜タンパク質、仮想的ウイルス膜タンパク質H2R、IMV膜タンパク質A21L、ケモカイン結合タンパク質、表皮成長因子様タンパク質およびIL-18結合タンパク質から選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルスである場合、必須遺伝子は、タンパク質Vpg、コアタンパク質2A、タンパク質2B、RNAヘリカーゼ2C、タンパク質3A、プロテアーゼ3C、逆転写酵素3D、コートタンパク質Vp4およびタンパク質Vp1から選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスが麻疹ウイルスである場合、必須遺伝子は、核タンパク質N、リンタンパク質P、マトリックスタンパク質M、膜貫通糖タンパク質F、膜貫通糖タンパク質HおよびRNA依存性RNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスが耳下腺炎ウイルスである場合、必須遺伝子は、核タンパク質N、リンタンパク質P、融合タンパク質F、RNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスが水疱性口内炎ウイルスである場合、必須遺伝子は、糖タンパク質G、核タンパク質N、リン酸タンパク質PおよびRNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスがポリオウイルスである場合、必須遺伝子は、キャプシドタンパク質VP1、キャプシドタンパク質VP2、キャプシドタンパク質VP3、システインプロテアーゼ2A、タンパク質2B、タンパク質2C、タンパク質3A、タンパク質3B、プロテアーゼ3C、タンパク質3DおよびRNAガイドRNAポリメラーゼから選択される1種または複数種であり、
或いは、腫瘍溶解性ウイルスがインフルエンザウイルスである場合、必須遺伝子は、血球凝集素、ノイラミニダーゼ、核タンパク質、膜タンパク質M1、膜タンパク質M2、ポリメラーゼPA、ポリメラーゼPB1-F2およびポリメラーゼPB2から選択される1種または複数種である。
【0036】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスの1つまたは複数の必須遺伝子のオープンリーディングフレームの開始コドンATGと第2のトリプレットコドンの間に第2の制御エレメントが挿入される。
【0037】
つまり、本開示のいくつかの実施形態において、必須遺伝子の数は1つまたは複数であり得る。必須遺伝子が複数ある場合、これらの必須遺伝子の種類が異なってもよく、各種の必須遺伝子のオープンリーディングフレームATGと第2のトリプレットコドンの間に第2の制御エレメントが挿入され、そして、第2の制御エレメントのコピー数も増加される。この場合、該腫瘍溶解性ウイルスが非がん細胞に感染させると、複製に必要な腫瘍溶解性ウイルスの複数の必須遺伝子によって発現されるタンパク質が細胞外へ引き出され、腫瘍溶解性ウイルスの複製能力が大幅に弱まり、したがって、非がん細胞に対する安全性が向上した。
【0038】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスが単純ヘルペスウイルス1型であり、必須遺伝子がICP27であり、がん細胞特異的プロモーターがテロメラーゼ逆転写酵素プロモーターであり、特異的プロテアーゼがヒトライノウイルス3Cプロテアーゼであり、細胞外トラクションシグナルペプチドがインターフェロンα2シグナルペプチドであり、特異的切断部位のアミノ酸配列がLEVLFQGPであり、第2の制御エレメントが必須遺伝子のオープンリーディングフレームの開始コドンATGと第2のトリプレットコドンの間に位置し、第1の制御エレメントが必須遺伝子の下流に位置している。
【0039】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、
テロメラーゼ逆転写酵素プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 4に示されており、
ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 5に示されており、
ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼのオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 6に示されており、
インターフェロンα2シグナルペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7に示されており、第2の核酸配列のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 8に示されており、
第3の核酸配列のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 9に示されている。
【0040】
別の態様において、本開示は、上記のいずれか1種の腫瘍溶解性ウイルスを調製するための核酸分子を提供し、その核酸分子は、腫瘍溶解性ウイルスの標的部位に挿入される挿入配列を有する。挿入配列が、第1の制御エレメントおよび第2の制御エレメントを含み、第1の制御エレメントの標的部位が組換え腫瘍溶解性ウイルスの2つの遺伝子の間に位置し、第2の制御エレメントが腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子の開始コドンと第2のトリプレットコドンの間に位置している。
【0041】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、挿入配列の5’末端に標的部位の上流配列に相同である5’末端相同性アーム配列を有し、挿入配列の3’末端に標的部位の下流配列に相同である3’末端相同性アーム配列を有する。
【0042】
該核酸分子は、相同組換えによって挿入配列を野生型腫瘍溶解性ウイルスゲノムに挿入して、本開示の腫瘍溶解性ウイルスを得ることができる。
【0043】
別の態様において、本開示は、上記の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0044】
別の態様において、本開示は、上記のいずれか1種の腫瘍溶解性ウイルスを調製する方法を提供し、この方法は、上記のベクターを親ウイルスおよび相補的宿主細胞と共培養し、培養物から組換え腫瘍溶解性ウイルスを収集することを含み、
ここで、親ウイルスのゲノム配列が、野生型ウイルスのゲノム配列に対して、必須遺伝子が欠失するものであり、
相補的宿主細胞に必須遺伝子を発現させる発現配列が含まれる。
【0045】
別の態様において、本開示は、がんを治療する医薬品の調製における、上記のいずれか1種の腫瘍溶解性ウイルスの使用を提供する。
【0046】
別の態様において、本開示は、上記のいずれか1種の腫瘍溶解性ウイルス、および薬学に許容されるアジュバントを含む、がんを治療する医薬品を提供する。
【0047】
当業者は、必要に応じて適切な薬学的に許容されるアジュバントを選択することができ、本開示で限定しない。
【0048】
本開示の1つまたは複数の実施形態において、医薬品には、遺伝子治療薬またはワクチンがさらに含まれる。
【0049】
別の態様において、本開示は、被験者の疾患を治療する方法を提供し、該方法は、
本開示による医薬品を被験者または患者に投与することを含み、
ここで、疾患は、肺がん、胃がん、肝臓がん、直腸がん、乳がん、前立腺がん、脳腫瘍、結腸がん、子宮頸がん、腎臓がん、卵巣がん、頭頸部がん、黒色腫、膵臓がん、または食道がんである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本開示の実施例の技術案をより明瞭に説明するために、以下は、実施例に必要な図面を簡単に説明する。図面は、本開示のいくつかの実施例を示すものにすぎず、範囲を限定するものではないことを理解されたい。当業者にとって、発明能力を利用しなくても、これらの図面をもとに他の関係図面を得ることもできる。
【
図1】本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列に挿入された制御エレメントの構造およびコントロール関係の模式図である。A:本開示による腫瘍溶解性ウイルスの一実施態様であり、第1の制御エレメントが必須遺伝子3’末端の非コード領域の前に位置し、第2の制御エレメントが必須遺伝子オープンリーディングフレーム開始コドンと第2のトリプレットコドンの間に位置している。B:Aのより具体的な一実施態様であり、ウイルスがHSV-1であり、がん細胞特異的プロモーターがhTERTプロモーターであり、エンハンサーがCMVエンハンサーであり、特異的プロテアーゼがHRV-3Cプロテアーゼであり、必須遺伝子がICP27であり、細胞外シグナルトラクションペプチドがインターフェロンα2シグナルペプチドである。特異的切断部位は、HRV-3Cプロテアーゼによって特異的に切断される。それによって構築された腫瘍溶解性ウイルスは、oHSV-BJSと名付けられた。
【
図2】プラスミドpcDNA3.1-EGFPの模式的構成図である。
【
図3】アフリカミドリザルの腎臓細胞(Vero、正常細胞)では、ICP27 mRNAが組換えウイルスoHSV-BJSから正常に発現され、ICP27タンパク質が細胞内での蓄積が非常に少なかった。Vero細胞に3 MOI(ウイルス数/細胞)HSV-1野生型ウイルスKOSまたは腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSを感染させ、1日後、細胞を収集し、RNAを単離してタンパク質を抽出し、逆転写と半定量PCRの結合によりICP27 mRNAを検出し(図のA)、ウエスタンブロット(Western blotting)でHSV ICP27によってコードされるタンパク質を検出した(図のB)。
【
図4】HRV-3C mRNAは、4種のがん細胞で容易に検出可能なレベルまで発現し、ICP27タンパク質が組換えウイルスoHSV-BJSおよび野生型ウイルスKOSにおいてほとんど無差別に発現された。図のA:HRV-3C mRNAの発現の検出結果、図のB:ICP27タンパク質発現の検出結果。
【
図5】野生型ウイルスKOSおよび腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSのがん細胞における増殖動態である。0.1 MOIのKOSまたはoHSV-BJSで様々ながん細胞に感染させ、異なる日数が経った後に、細胞と培地を回収し、3回の凍結融解サイクルで細胞内に残されたウイルスを培地に放出した。ウイルスを相補的細胞C
ICP27に感染させ、プラーク法でウイルス力価(プラーク形成単位/ミリリットル、PFU/ml)を測定した。図において、A:子宮頸がんHela細胞、B:子宮頸部扁平上皮がんsiHa細胞、C:乳がんSK-BR3細胞、D:乳がんME-180細胞。
【
図6】組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSは、動物において肺がん、胃がん、肝臓がんおよび直腸がんの増殖を顕著に抑制した。ヒト腫瘍マウス動物モデルを構築した。モデル構築後、腫瘍溶解性ウイルスを腫瘍内に3日に1回、合計3回注射した。ネガティブコントロールとしてPBS(腫瘍溶解性ウイルスを含まず)を注入した。腫瘍溶解性ウイルス注射後、腫瘍サイズを週に2回測定した。ネガティブコントロール動物を安楽死させるときに、実験を終了させた。腫瘍の大きさに基づいて腫瘍の成長曲線を作成した(図において、A:肺がん、B:胃がん、C:直腸がん、D:直腸がん)、試験終了時の試験群の腫瘍の大きさとネガティブコントロールを比較、分析して、相対的阻害率を計算した(図のE)。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本開示の実施例の目的、技術案および利点をより明瞭にするために、以下、本開示の実施例における技術案を明瞭かつ完全に説明する。実施例に具体的な条件が示されていない場合、従来の条件またはメーカーが推奨する条件に従って実施するものとする。使用される試薬または機器は、製造元が明示されていない場合、すべて市販で購入できる一般的な製品である。
【0052】
明細書で使用される場合、「塩基配列」および「ヌクレオチド配列」という用語は交換して使用することができ、一般に、DNAまたはRNAの塩基の配列を指す。
【0053】
「プライマー」という用語は、ポリヌクレオチドテンプレートと二重鎖を形成した後、核酸合成の開始点として機能し、その3’末端からテンプレートに沿って伸長し、それによって拡張された二重鎖を形成することができる、天然または合成オリゴヌクレオチドを指す。伸長プロセスで追加されるヌクレオチド配列は、テンプレートポリヌクレオチドの配列によって決定され、プライマーはDNAポリメラーゼによって伸長される。プライマーは通常、プライマー伸長産物の合成での使用と互換性のある長さを持ち、その特定の長さは、温度、プライマー由来、実験方法などの多くの要因の影響を受ける。
【0054】
「プロモーター」という用語は、一般に、RNAポリメラーゼによって特異的に認識され、RNAポリメラーゼを活性化することができる構造遺伝子の5’末端の上流に位置するDNA配列を指す。
【0055】
「エンハンサー」という用語は、それに連鎖する遺伝子の転写の頻度を増加させるDNA配列を指す。エンハンサーはプロモーターによって転写を増強させる。効果的なエンハンサーは、遺伝子の5’末端または遺伝子の3’末端に位置してもよく、一部が遺伝子のイントロンに位置してもよい。エンハンサーの効果は顕著であり、一般的に遺伝子転写の頻度を10~200倍増やすことができ、数千倍になることもある。
【0056】
用語の「被験者」、「個体」および「患者」は、本明細書で交換して使用することができ、脊椎動物を指し、好ましくは哺乳動物を指し、最も好ましくはヒトを指す。哺乳動物は、げっ歯類、類人猿、ヒト、家畜、スポーツ動物、ペットなどを含むが、これらに限定されない。
【0057】
本開示の特徴および性能について実施例を用いてより詳細に説明する。
【0058】
実施例1
本実施例による腫瘍溶解性ウイルスは、野生型の単純ヘルペスウイルス1型KOSを形質転換することにより得られ、該組換え腫瘍溶解性ウイルスのゲノムは、以下の構成を有する(
図1のBを参照)。
【0059】
(1)該組換え腫瘍溶解性ウイルスの必須遺伝子ICP27の3’末端の非コード領域の前に第1の制御エレメントを有する。第1の制御エレメントには、がん細胞特異的プロモーターであるhTERT、エンハンサーであるCMVエンハンサー、特異的プロテアーゼであるヒトライノウイルス3Cプロテアーゼ(HRV-3Cプロテアーゼ)をコードする核酸配列、およびBGH Poly(A)が含まれる。
【0060】
ここで、hTERTの塩基配列は、SEQ ID NO: 4に示されている。
【0061】
CMVエンハンサーの塩基配列は、SEQ ID NO: 10に示されている。
【0062】
HRV-3Cプロテアーゼをコードする核酸配列は、SEQ ID NO: 6に示されている。
【0063】
HRV-3Cプロテアーゼのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 5に示されている。
【0064】
(2)該組換え腫瘍溶解性ウイルスは、必須遺伝子ICP27のオープンリーディングフレームの開始コドン(ATG)と第2のトリプレットコドンの間に第2の制御エレメントを有し、該第2の制御エレメントには、細胞外トラクションシグナルペプチドであるインターフェロンα2シグナルペプチドをコードする第2の核酸配列および特異的切断部位配列をコードする第3の核酸配列が含まれる。
【0065】
ここで、インターフェロンα2シグナルペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7に示されている。
【0066】
インターフェロンα2シグナルペプチドをコードする第2の核酸は、SEQ ID NO: 8に示されている。
【0067】
特異的切断部位配列のアミノ酸列は、
LEVLFQGPであり、
特異的切断部位配列のコード配列である第3の核酸配列は、
TTAGAAGTTCTTTTTCAAGGTCCTである。
【0068】
ICP27が発現すると、インターフェロンα2細胞外トラクションシグナルペプチドは、特異的切断部位配列を介してICP27タンパク質のN末端に結合する。該腫瘍溶解性ウイルスが正常細胞に感染すると、HRV-3Cプロテアーゼは発現せず、特異的切断部位は切断されず、インターフェロンα2細胞外トラクションシグナルがICP27タンパク質の分泌に細胞外に誘導し、腫瘍溶解性ウイルスの複製が阻害されまたは失敗し、正常細胞に安全であり、損傷を引き起こすことがなかった。該腫瘍溶解性ウイルスががん細胞に感染すると、HRV-3CプロテアーゼがhTERTの駆動下で特異的に発現し、特異的切断部位が、発現されたHRV-3Cプロテアーゼによって認識されて切断され、ICP27タンパク質が通常がん細胞に正常に局在化することができ、該腫瘍溶解性ウイルスが正常に複製し、それによって標的のがん細胞を死滅させることができる。
【0069】
また、本実施例による上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスの調製方法は以下のとおりである。
【0070】
(1)ICP27を発現させるVero細胞株の樹立
(a)野生型ヘルペスウイルス1型KOSのDNAをテンプレートとして用いて、ICP27遺伝子のコード領域をPCRで増幅し、増幅した断片を、ネオマイシン耐性遺伝子を発現するプラスミドpcDNA3.1-EGFP(
図2を参照)のHindIIIとXbaサイトの間に挿入してEGFPを置き換えた。該組換えプラスミドはICP27発現プラスミドと名付けられ、ICP27遺伝子はCMVプロモーターの駆動下で発現された。
【0071】
(b)Vero細胞を異なる濃度のG418で処理し、3日ごとにG418を含む培地を交換し、10日後の細胞死を観察した。細胞死に必要な最小限のG418濃度を決定し、これを、細胞株を樹立する際のG418濃度として使用した。
【0072】
(c)3.5×105個のVero細胞を6ウェル細胞培養プレートの各ウェルに播種し、抗生物質を含まない培地で一晩インキュベートし、Lipofectamine2000で、ステップ(a)で得られたICP27発現プラスミド4μgを各ウェルに形質導入した。24時間後、1:20、1:40及び1:60の比率で希釈し、プレートに移し、G418を含む培地で培養し、3日ごとにG418を含む培地を交換した。培地を6~7回交換した後、クローンを収集し、24ウェルプレートから段階的に増幅した。その後、タンパク質を単離し、ウエスタンブロット法(Western blotting)でICP27の発現を検出した。ICP27を高度に発現するクローン由来の細胞を選択し、ICP27を発現するVero細胞を取得し、それを相補的細胞CICP27と名付けた。
【0073】
該相補的細胞CICP27は、2019年4月24日付で中国武漢市武昌珞珈山武漢大学にある中国典型培養物寄託センター(CCTCC)に寄託がなされ、CCTCC NO.C201974の受託番号が付与された。
【0074】
(2)EGFPでICP27を置き換えた組換えウイルスの構築
親ウイルスは野生型ヘルペスウイルス1型KOSを基礎材料として構築され、EGFPでICP27遺伝子を置き換えて得られた組換えウイルスを移行型ヘルペスウイルスとし、親ウイルスと名付けた。具体的な方法は以下のとおりである。
【0075】
(a)第1の核酸断片を人工合成し、SEQ ID NO: 1に示されるように、その上流から下流(5’-3’)へ、順にICP27 5’末端配列、CMVプロモーター、Kozak配列、EGFPコーディングフレーム、BGH Poly(A)及びICP27 3’末端配列が含まれる。
【0076】
SEQ ID NO: 1において:
1-6番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になり、
7-12番目:Xho1サイト、C/TCGAG、
13-575番目:ICP27 5’末端配列、
576-1163番目:CMVプロモーター、
1164-1174番目:スペーサー配列、
1175-1180番目:Kozak配列、タンパク質の発現を増強させ、
1181-1900番目:EGFPコーディングフレーム、
1901-2144番目:BGH Poly(A)、
2145-2667番目:ICP27 3’末端配列、
2668-2673番目:HindIIIサイトA/AGCTT、
2674-2679番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になる。
【0077】
(b)XhoIおよびHindIIIで第1の核酸断片を酵素的切断し、pcDNA3.1-EGFPプラスミドのXho1およびHindIIIサイトに結合した。得られた組換えプラスミドをEGFP発現プラスミドと名付けた。
【0078】
(c)3.5×105個/ウェルの量で、上記の相補的細胞CICP27を6ウェル細胞培養プレートに播種し、抗生物質を含まない培地で一晩培養した。
【0079】
(d)それぞれ0.1、0.5、1、3MOI(ウイルス/細胞)野生型ウイルスKOSを相補的細胞CICP27に感染させ、1時間後、Lipofectamine 2000で上記のEGFP発現プラスミド(4μg DNA/ウェル)を細胞に形質導入した。4時間後、完全培地で形質導入溶液を置き換えた。すべての細胞が感染した後、細胞と培地を収集し、3回凍結融解し、遠心処理によって上清液を回収し、上清液を希釈し、上記の相補的細胞CICP27に感染させた。
【0080】
(e)プラーク単離法によってウイルスを単離した。4~5日後、蛍光顕微鏡下で緑色のウイルスプラークを選択した。そして、得られたウイルスプラークを、純粋なウイルスプラークを得るまで2または3回スクリーニングした。ウイルスを増殖して拡大して、EGFPでICP27を置き換えた組換えウイルスを得、親ウイルスHSV-EGFPと名付けた。
【0081】
(3)第1の発現制御エレメントおよび第2の制御エレメントを含む組換えプラスミドの構築
(a)マルチクローニングサイトにXhoIサイトのみを含むようにTAクローニングプラスミドに対して遺伝子操作しておき、TA-XhoIプラスミドと名付けた。
【0082】
(b)第2の核酸断片を人工合成し、SEQ ID NO: 2に示されるように、その上流から下流(5’-3’)へ、天然ICP27プロモーターを含むICP27 5’末端の非コード領域配列、インターフェロンα2細胞外トラクションシグナルペプチドをコードする第2の核酸配列、HRV-3Cプロテアーゼによって切断される特異的切断部位配列をコードする第3の核酸配列、ICP27オープンリーディングフレーム配列、SV40 Poly(A)、ICP27 3’末端の非コード領域配列が順に含まれる。ここで、SV40 Poly(A)とICP27 3’末端の非コード領域配列の間に、第1の制御エレメントを挿入、構築するための1つのHindIIIサイトがある。
【0083】
SEQ ID NO: 2において:
1-6番目:Xho 1サイト、
7-677番目:天然ICP27プロモーターを含むICP27 5’末端の非コード領域配列、
678-746番目:インターフェロンα2シグナルペプチドをコードする第2の核酸配列、
747-770番目:HRV-3Cプロテアーゼによって切断される特異的切断部位配列をコードする第3の核酸配列、
771-2306番目:ICP27オープンリーディングフレーム配列(開始コドンATGなし)、
2307-2753番目:SV40 Poly(A)、
2754-2759番目:HindIIIサイト、
2760-3279番目:ICP27 3’末端の非コード領域配列、
3280-3285番目:Xho 1サイト。
【0084】
Xho 1で第2の核酸断片を酵素的切断した後、TA-XhoIプラスミドに挿入し、組換えプラスミドを得ておき、TA-XhoI-S-ICP27プラスミドと名付けた。
【0085】
(c)第3の核酸断片を人工合成し、SEQ ID NO: 3に示されるように、その上流から下流(5’-3’)へ、順にhTERTプロモーター、CMVエンハンサー、Kozak配列、HRV-3Cプロテアーゼをコードする核酸配列およびSV40 Poly(A)が含まれる。
【0086】
第3の核酸断片の配列は、SEQ ID NO: 3に示されるように、含まれる各エレメントが以下のとおりである。
【0087】
1-6番目:HindIIIサイト、
7-432番目:hTERTプロモーター、
433-527番目:CMVエンハンサー、
528-539番目:Kozak配列、
540-1088番目:HRV-3Cプロテアーゼをコードする核酸配列、
1089-1544番目:SV40 Poly(A)、
1545-1550番目:HindIIIサイト。
【0088】
HindIIIで第3の核酸断片を酵素的切断した後、同じく酵素的切断されたTA-XhoI-S-ICP27プラスミドに挿入し、組換えプラスミドを得ておき、TA-XhoI-S-ICP27-3Cプラスミドと名付けた。
【0089】
(4)組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスの構築
(a)3.5×105個/ウェルの量で、上記の相補的細胞CICP27を6ウェル細胞培養プレートに播種し、抗生物質を含まない培地で一晩培養した。
【0090】
(b)それぞれ0.1、0.5、1、3MOI(ウイルス/細胞)親ウイルスHSV-EGFPを相補的細胞CICP27に感染させ、1時間後、Lipofectamine 2000で上記のTA-XhoI-S-ICP27-3Cプラスミド(4 μg DNA/ウェル)を細胞に形質導入した。4時間後、完全培地で形質導入溶液を置き換えた。すべての細胞が感染した後、細胞と培地を収集し、3回凍結融解し、遠心処理によって上清液を回収し、上清液を希釈し、上記の相補的細胞CICP27に感染させた。プラーク単離法によってウイルスを単離した。4~5日後、蛍光顕微鏡下で緑色のウイルスプラークを選択した。そして、得られたウイルスプラークを、純粋なウイルスプラークを得るまで2または3回スクリーニングした。ウイルスを増殖して拡大して、感染細胞のDNAを単離し、特異的プライマーを使用して、PCR増幅によってフラグメントを調べ、配列特定を行い、本実施例の組換え腫瘍溶解性ウイルスを得、oHSV-BJSと名付けた。
【0091】
該組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSは、2019年4月24日付で中国武漢市武昌珞珈山武漢大学にある中国典型培養物寄託センター(CCTCC)に寄託がなされ、CCTCC NO:V201920の受託番号が付与されている。
【0092】
実験例1
正常細胞Veroにおける実施例1による組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJSのICP27の発現の検出
方法:それぞれ野生型KOSおよび組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSでVero(3 MOI)に感染させ、1日後、細胞を収集し、RNAを単離してタンパク質を抽出し、逆転写と半定量PCRの結合によりICP27 mRNAの発現レベルを検出し、ウエスタンブロット(Western blotting)でICP27によってコードされたタンパク質の発現レベルを検出した。mRNAおよびタンパク質の検出は、いずれもβ-アクチン(β-actin)をローディングコントロールとして用いた。
【0093】
結果:
図3のAに示すように、ICP27 mRNAレベルは、oHSV-BJSおよびKOSに感染したVero細胞で有意差が見られなかった。しかし、oHSV-BJSに感染したVero細胞においてICP27タンパク質の量は、KOSに感染したVero細胞(
図3のBを参照)より有意に少なかった。これは、上記実施例1で得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJShが、正常細胞におけるICP27の発現後、インターフェロンα2細胞外トラクションシグナルペプチドによって細胞外に分泌されたことを示している。
【0094】
実験例2
がん細胞におけるHRV-3CプロテアーゼおよびICP27の発現の検出
方法:3 MOI組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSまたはKOSを4種の異なるがん細胞に感染させ、24時間後、全RNAおよびタンパク質を単離した。半定量PCRによりHRV-3C mRNAの発現を分析し、ウエスタンブロット法によりICP27タンパク質の量を検出した。mRNAおよびタンパク質の検出は、いずれもβ-アクチンをローディングコントロールとして用いた。
【0095】
結果により、HRV-3C mRNAがoHSV-BJSに感染した4種の異なるがん細胞で検出可能なレベルまで発現され(
図4のAを参照)、ICP27タンパク質が組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSに感染した4種のがん細胞で検出可能なレベルまで蓄積され、且つ腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSに感染した各種類のがん細胞におけるICP27タンパク質の量は、KOSに感染した細胞に対して有意差がなかった(
図4のBを参照)ことが示されている。結果から、HRV-3Cは、がん細胞で特異的に発現し、特異的切断部位(LEVLFQGP)を切断して、ICP27タンパク質が細胞内に残されてウイルスの増殖をサポートできるようにしたことがわかった。
【0096】
実験例3
組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJSの増殖動態
方法:それぞれ0.1 MOIのKOSおよびoHSV-BJSを異なるがん細胞に感染させ、異なる日経った後に、細胞と培地を回収し、3回の凍結融解サイクルで細胞内に残されたウイルスを培地に放出した。ウイルスを相補的細胞CICP27に感染し、プラーク法でウイルス力価(プラーク形成単位/ミリリットル、PFU/ml)を測定した。
【0097】
結果により、oHSV-BJSが異なるがん細胞に感染したときの増殖に大きく異なるがが、oHSV-BJSとKOSの増殖動態は同じ種類のがん細胞で有意差はなく(
図5のA~Dを参照)、これは、がん細胞におけるoHSV-BJSの増殖能力または複製能力が、野生型KOSと一致または同等であることを示しており、oHSV-BJSの複製能力が弱まっていなかったことを示している。
【0098】
実験例4
組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJSのがん細胞に対する死滅能力
方法:0.25または0.5 MOIのKOSまたはoHSV-BJSを異なるがん細胞に感染させ、異なる日経った後、細胞の生存率を測定した。結果を表1~4に示す。
【0099】
表1~4のデータからわかるように、0.25または0.5 MOI oHSV-BJSは異なるがん細胞に対して死滅能力が異なるが、同じがん細胞に対して、oHSV-BJSの細胞に対する死滅効率はKOSとほぼ同じであった(表1~4)。組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJSは、一定の広いスペクトル効果を持ち、KOSに近い殺傷効率で標的がん細胞を死滅させることができることが示されている。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
実験例5
組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJSの、正常細胞の生存率に対する影響
方法:腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJS(2 MOI)および野生ウイルスKOS(0.5 MOI)でVero細胞または初代ヒト角膜上皮細胞に感染させた。oHSV-BJSで感染した細胞と未処理の細胞の活性を3日後に測定し、野生ウイルスKOSで感染した細胞の活性を2日後に測定した。KOSで感染した細胞は、2日後、Vero細胞または初代ヒト角膜上皮細胞がすべて死亡したが、腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSで感染した細胞は、生存率が無処理の場合とほぼ同じであった(表5)。結果から、腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJSが正常細胞に対して安全であることがわかった。
【0105】
【0106】
実験例6
in vivoでの組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJSの腫瘍抑制効果の検出
方法:体重14~16グラムの4~8週齢の雄マウスを利用して腫瘍モデルを構築した。ヒト肺がん、胃がん、肝臓がんのマウスの癌モデルは、それぞれin vitroで培養されたヒト非小細胞肺がんA549細胞、胃がんNCI-N87細胞、肝臓がんSK-HEP-1細胞をBALb/c(肺がんおよび胃がん)またはNPGマウス(肝臓がん)に皮下接種し、腫瘍が所定のサイズまで成長したとき、腫瘍を取り出して小さく切り、相応のマウスに移植して40~120mm3まで成長させた後、腫瘍溶解性ウイルスを腫瘍内に注射した。3日に1回、合計3回、毎回1.2×107感染ユニット(40μlのPBSに懸濁)を複数の箇所に注射するように腫瘍内に注射した。ネガティブコントロールとしてPBS(腫瘍溶解性ウイルスを含まず)を注入した。各実験群あたり8匹の動物であった。腫瘍溶解性ウイルス注射後、腫瘍サイズを週に2回測定した(1回目の注射時の腫瘍の相対的なサイズは1と定義されている)、合計17~32日間測定した(ネガティブコントロール動物を安楽死させる必要がある時間によって決める)。腫瘍の大きさに基づいて腫瘍の成長曲線を作成した、試験終了時の試験群の腫瘍の大きさとネガティブコントロールを比較、分析して、相対的阻害率を計算した。
【0107】
相対的阻害率(%)=(陰性対照群の腫瘍体積-実験群の腫瘍体積)/陰性対照群の腫瘍体積×100%。
【0108】
結果により、oHSV-BJSは、肺がん、胃がん、肝臓がんおよび直腸がんの増殖を異なる程度で遅らせることができる(
図6のA~D)。oHSV-BJSの肺がん、胃がん、肝臓がんおよび直腸がんに対する阻害率は、それぞれ45%、37%、26%および49%であった(
図6のE)。結果から、oHSV-BJSは、広範囲で様々ながんの増殖を阻害でき、広いスペクトル効果をもつことが示されている。
【0109】
上記の説明は、本開示の代表的な実施例にすぎず、本開示を限定することを意図するものではない。当業者にとって、本開示は、様々な変化および変更を有してもよい。本開示の精神および原則の範囲内で行われた変更、均等置換、改善などは、いずれも本開示の保護範囲に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示による腫瘍溶解性ウイルスは、産業上、大量生産することができ、該腫瘍溶解性ウイルスが元のゲノム上の遺伝子(必須遺伝子も非必須遺伝子も)を削除せず、強力な複製能力で複製し、がん細胞を殺すことができる。がんの治療に使用され、非がん細胞に対して安全である。
【配列表】