(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】車両の操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20230627BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2022521096
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008410
(87)【国際公開番号】W WO2022185478
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500024274
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・プレスタ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 洋介
(72)【発明者】
【氏名】判治 宗嗣
(72)【発明者】
【氏名】ボドナール・ベンツェ
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-153109(JP,A)
【文献】特開2012-71692(JP,A)
【文献】特開2019-98810(JP,A)
【文献】特表2006-513086(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0016830(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00,30/00-60/00
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵装置であって、
操舵操作を受け付ける操舵部材と、
前記操舵部材から機械的に切り離され、車輪を転舵するように構成された転舵機構と、
前記操舵部材の操舵角を検出する操舵角センサと、
前記車輪の転舵角を検出する転舵角センサと、
前記転舵機構に駆動力を与える転舵アクチュエータと、
前記操舵部材に、前記操舵操作に対する反力を付与する反力アクチュエータと、
前記転舵角が前記操舵角に対して所定関係になるように前記転舵アクチュエータを駆動制御するとともに、前記反力が前記車輪の転舵状態に応じた値になるように前記反力アクチュエータを駆動制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記転舵角が前記操舵角に対して前記所定関係から偏位している場合には、直ちに又は所定のトリガ条件が満たされたときに、前記転舵角が前記操舵角に対して前記所定関係に近付くように前記転舵アクチュエータを駆動し、且つ車速又は加速度に上限値を設定する車両の操舵装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記転舵アクチュエータの最大出力を取得し、前記転舵アクチュエータの前記最大出力が所定値以上である場合には、前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定しない請求項1に記載の車両の操舵装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記転舵アクチュエータの前記最大出力に基づいて、所定時間内に変更可能な前記転舵角の最大変更量である最大補正角を算出し、
前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であっても、前記転舵角の前記所定関係に対する偏位量が前記最大補正角以下である場合には、前記制御装置は前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定しない請求項2に記載の車両の操舵装置。
【請求項4】
前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であり、且つ、前記転舵角の前記所定関係に対する前記偏位量が前記最大補正角よりも大きい場合には、前記制御装置は、前記最大出力が前記所定値以上になるか、前記偏位量が前記最大補正角以下になるまで前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定する請求項3に記載の車両の操舵装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記転舵アクチュエータの前記最大出力に基づいて、所定時間内に変更可能な前記転舵角の最大変更量である最大補正角を算出し、
前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であっても、前記転舵角を中立点について前記操舵角と同じ側にするのに必要な補正量として与えられる同方向補正量が前記最大補正角以下である場合には、前記制御装置は前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定しない請求項2に記載の車両の操舵装置。
【請求項6】
前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であり、且つ、前記同方向補正量が前記最大補正角よりも大きい場合には、前記制御装置は、前記転舵角が前記操舵角に対して同方向になるか、前記最大出力が前記所定値以上になるか、前記同方向補正量が前記最大補正角以下になるまで前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定する請求項5に記載の車両の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ式の車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者が操作するステアリングホイール等の操舵部材と、操舵部材から機械的に切り離され、車輪の転舵角を変化させる転舵機構とを有するステアバイワイヤ式の車両の操舵装置が公知である。転舵機構は、車輪の転舵角を変更するための駆動力を発生する転舵アクチュエータによって駆動される。操舵部材には、操舵操作に対する反力が反力アクチュエータによって付与される。このような操舵装置において、車両のイグニッションスイッチがオフにされた後に操舵部材が動かされ、操舵部材の操舵角が車輪の転舵角に対する所定関係から偏位した場合、イグニッションスイッチがオンになったときに、操舵部材の操舵角に対応するように車輪が転舵アクチュエータによって駆動されるものがある(例えば、特許文献1)。特許文献1によれば、車輪を転舵駆動するタイミングは、自動車が発進する前が好ましく、エンジンが始動する前が更に好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、転舵アクチュエータが故障した場合や転舵アクチュエータのモータが過熱状態になった場合など、転舵アクチュエータの最大出力が低下することがある。そのような場合、特許文献1に記載の発明では、車輪が操舵部材の操舵角に対応する転舵角まで駆動される前に自動車が発進する。また、運転者がアクセルペダルを急激に踏み込んだ場合、運転者が予想した方向と異なる方向に自動車が急加速する可能性がある。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑み、ステアバイワイヤ式の車両の操舵装置において、駐車中に操舵部材の操舵角が変化した場合に、運転者が予想した方向と異なる方向に車両が急加速することを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある実施形態は、車両(2)の操舵装置(1)であって、操舵操作を受け付ける操舵部材(10)と、前記操舵部材から機械的に切り離され、車輪(3)を転舵するように構成された転舵機構(11)と、前記操舵部材の操舵角(β)を検出する操舵角センサ(21)と、前記車輪の転舵角(α)を検出する転舵角センサ(32)と、前記転舵機構に駆動力を与える転舵アクチュエータ(12)と、前記操舵部材に、前記操舵操作に対する反力を付与する反力アクチュエータ(13)と、前記転舵角が前記操舵角に対して所定関係になるように前記転舵アクチュエータを駆動制御するとともに、前記反力が前記車輪の転舵状態に応じた値になるように前記反力アクチュエータを駆動制御する制御装置(15)とを備え、前記制御装置は、前記転舵角が前記操舵角に対して前記所定関係から偏位している場合には(ST2:Yes)、直ちに又は所定のトリガ条件が満たされたときに、前記転舵角が前記操舵角に対して前記所定関係に近付くように前記転舵アクチュエータを駆動し(ST16、ST17、ST20、ST21)、且つ車速(V)又は加速度に上限値を設定する(ST7)。
【0007】
この構成によれば、転舵角記操舵角に対して前記所定関係から偏位している場合には車速V又は加速度に上限値が設定される。車速V又は加速度が上限値によって制限されることにより、運転者が予想した方向と異なる方向に車両が急加速することが抑制される。
【0008】
好ましくは、前記制御装置は、前記転舵アクチュエータの最大出力を取得し(ST3)、前記転舵アクチュエータの前記最大出力が所定値以上である場合には(ST4:Yes)、前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定しない。
【0009】
転舵角が操舵角に対して所定関係から偏位している場合に常に車速又は加速度に上限値が設定されると、車輪を操舵部材の操舵角に対応する転舵角まで駆動可能な場合であっても、運転者の意図に沿う加速が制限される。この構成によれば、転舵アクチュエータの最大出力が所定値以上である場合には車速又は加速度に上限値が設定されないため、運転者の意図に沿う加速が不要に制限されることを抑制できる。
【0010】
好ましくは、前記制御装置は、前記転舵アクチュエータの前記最大出力に基づいて、所定時間内に変更可能な前記転舵角の最大変更量である最大補正角(αcmax)を算出し(ST5)、前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であっても(ST4:No)、前記転舵角の前記所定関係に対する偏位量(αdev)が前記最大補正角以下である場合には(ST6:Yes)、前記制御装置は前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定しない。
【0011】
この構成によれば、転舵角の所定関係に対する偏位量が最大補正角以下である場合には車速又は加速度に上限値が設定されないため、運転者の意図に沿う加速が不要に制限されることをより確実に抑制できる。
【0012】
好ましくは、前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であり(ST4:No)、且つ、前記転舵角の前記所定関係に対する前記偏位量が前記最大補正角よりも大きい場合には(ST6:No)、前記制御装置は、前記最大出力が前記所定値以上になるか(ST4:Yes)、前記偏位量が前記最大補正角以下になる(ST6:Yes)まで前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定する。
【0013】
この構成によれば、運転者が予想した方向と車両の進行方向とを所定時間内に一致可能になるまでは車両の急加速を抑制し、運転者が予想した方向と車両の進行方向とを所定時間内に一致可能になった後には運転者の意図に沿う加速が可能になる。これにより、運転者の意図に沿う操舵と加速とを両立させることができる。
【0014】
好ましくは、前記制御装置は、前記転舵アクチュエータの前記最大出力に基づいて、所定時間内に変更可能な前記転舵角の最大変更量である最大補正角(αcmax)を算出し(ST5)、前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であっても(ST4:No)、前記転舵角を中立点について前記操舵角と同じ側にするのに必要な補正量として与えられる同方向補正量(αdevn)が前記最大補正角以下である場合には(ST36:Yes)、前記制御装置は前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定しない。
【0015】
この構成によれば、転舵角を中立点について操舵角と同じ側にするのに必要な同方向補正量が前記最大補正角以下である場合には車速又は加速度に上限値が設定されないため、運転者の意図に沿う加速が不要に制限されることをより確実に抑制できる。
【0016】
好ましくは、前記転舵アクチュエータの前記最大出力が前記所定値未満であり(ST4:No)、且つ、前記同方向補正量が前記最大補正角よりも大きい場合には(ST36:No)、前記制御装置は、前記転舵角が前記操舵角に対して同方向になる(ST31:No)か、前記最大出力が前記所定値以上になるか(ST4:Yes)、前記同方向補正量が前記最大補正角以下になる(ST36:Yes)まで前記車速又は前記加速度に前記上限値を設定する。
【0017】
この構成によれば、運転者が予想した方向と車両の進行方向とを所定時間内に同方向にできるようになるまでは車両の急加速を抑制し、運転者が予想した方向と車両の進行方向とを所定時間内に同方向にできるようになった後には運転者の意図に沿う加速が可能になる。これにより、運転者の意図に沿う操舵と加速とを両立させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の構成によれば、駐車中に操舵部材の操舵角が変化した場合に、運転者が予想した方向と異なる方向に車両が急加速することを抑制できる車両の操舵装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】操舵部材の操舵角と前輪の転舵角との関係を示す図
【
図4】操舵部材の操舵角と前輪の転舵角との関係を示すグラフ
【
図5】制御装置が実行する位相合わせ制御の前半部のフロー図
【
図6】制御装置が実行する位相合わせ制御の後半部のフロー図
【
図7】転舵アクチュエータの最大出力と補正可能な最大補正角との関係図
【
図8】パッシブ位相合わせによる転舵角の変化を示すタイムチャート
【
図9】アクティブ位相合わせによる転舵角の変化を示すタイムチャート
【
図10】変形例に係る位相合わせ制御の前半部のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る車両2の操舵装置1の実施形態について説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、ステアバイワイヤ(SBW)式の車両操舵装置である。操舵装置1が設けられる車両2は、左右の前輪3及び左右の後輪(不図示)を備えた4輪自動車である。左右の前輪3は、転舵角αが変更可能にナックル7を介して車体8(
図1において、下部の輪郭のみを表示)に支持され、転舵輪として機能する。転舵角αは、平面視において前輪3の前後方向に対する角度をいう。操舵装置1は、前輪3の転舵角αを変更する。
【0021】
操舵装置1は、車体8に回転可能に設けられた操舵部材10と、前輪3を転舵する転舵機構11と、転舵機構11に駆動力を与える転舵アクチュエータ12と、操舵部材10に反力トルクTを与える反力アクチュエータ13と、反力アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ12を制御する制御装置15とを有する。操舵装置1は、転舵アクチュエータ12、反力アクチュエータ13、及び制御装置15をそれぞれ複数備える冗長系であってもよい。
【0022】
操舵部材10は、運転者による操舵操作を受け付ける。操舵部材10は、車体8に回転可能に支持されたステアリングシャフト18と、ステアリングシャフト18の一端に設けられたステアリングホイール19とを有する。ステアリングシャフト18は車体8に設けられたステアリングコラム(不図示)に回転可能に支持され、その後端はステアリングコラムから後方に突出している。ステアリングホイール19は、ステアリングシャフト18の後端に結合され、ステアリングシャフト18と一体に回転する。
【0023】
反力アクチュエータ13は電動モータであり、ギヤを介してステアリングシャフト18に連結されている。反力アクチュエータ13が駆動すると、その駆動力がステアリングシャフト18に回転力として伝達される。反力アクチュエータ13は、回転することによって操舵部材10にトルクを与える。反力アクチュエータ13が操舵操作に応じて操舵部材10に与えるトルクを反力トルクTという。
【0024】
操舵装置1は、ステアリングシャフト18の軸線を中心とした回転角を操舵角βとして検出する操舵角センサ21を有する。操舵角センサ21は公知のロータリエンコーダであってよい。また、操舵装置1は、ステアリングシャフト18に加わるトルクを操舵トルクTsとして検出するトルクセンサ22を有する。トルクセンサ22は、ステアリングシャフト18におけるステアリングホイール19と反力アクチュエータ13との間の部分に加わる操舵トルクTsを検出する。操舵トルクTsは、運転者によってステアリングホイール19に加えられる操作トルクと、反力アクチュエータ13によってステアリングシャフト18に加えられる反力トルクTとによって定まる。トルクセンサ22は、磁歪式トルクセンサやひずみゲージ等の公知のトルクセンサ、又は反力アクチュエータ13の電動モータに流れる電流値に基づいた推定値を利用したものであってよい。
【0025】
操舵装置1は、反力アクチュエータ13の回転角θを検出する第1回転角センサ23を有する。第1回転角センサ23は、公知のレゾルバやロータリエンコーダであってよい。
【0026】
転舵機構11は、車幅方向に延びるラック軸26を有する。ラック軸26は、車幅方向に移動可能にギヤハウジング(不図示)に支持されている。ラック軸26の左右の端部は、タイロッド30を介して左右の前輪3をそれぞれ支持するナックル7に接続されている。ラック軸26が車幅方向に移動することによって、前輪3の転舵角αが変化する。転舵機構11は、操舵部材10から機械的に切り離されている。
【0027】
転舵アクチュエータ12は、電動モータである。転舵アクチュエータ12は、制御装置15からの信号に基づいてラック軸26を車幅方向に移動させ、左右の前輪3の転舵角αを変化させる。
【0028】
操舵装置1は、転舵アクチュエータ12の回転角θを検出する第2回転角センサ31を有する。第2回転角センサ31は、公知のレゾルバやロータリエンコーダであってよい。また、操舵装置1は、前輪3の転舵角αを検出する転舵角センサ32を有する。本実施形態では、転舵角センサ32は、ラック軸26の車幅方向における位置であるラック位置を検出するラックストロークセンサであり、ラック位置に基づいて前輪3の転舵角αを検出する。
【0029】
制御装置15は、CPUやメモリ、プログラムを記憶した記憶装置等を含む電子制御装置である。制御装置15には、操舵角センサ21、トルクセンサ22、第1回転角センサ23、第2回転角センサ31、転舵角センサ32が接続されている。制御装置15は、これらのセンサからの信号に基づいて、操舵角β、操舵トルクTs、反力アクチュエータ13の回転角θ、転舵アクチュエータ12の回転角θ、転舵角αに対応した信号を取得する。また、制御装置15は、車速センサ33、変速ポジションセンサ34に接続され、車速V、変速装置35の変速ポジションSP等を取得する。
【0030】
変速装置35は、車両2に搭載された走行駆動源から車輪への動力伝達モードを変更する装置である。例えば、車両2が走行駆動源として内燃機関を搭載している場合、変速装置35は内燃機関から駆動輪への駆動力伝達モードを変更するトランスミッションである。また、車両2が走行駆動源として電気モータを搭載している場合、変速装置35は電気モータから駆動輪への駆動力伝達モードを変更するパワーユニットである。
【0031】
変速装置35は、自動変速機である場合、駆動力伝達モードを示す変速ポジションSPとして、パーキングポジション「P」、ニュートラルポジション「N」、ドライブポジション「D」、リバースポジション「R」を備えている。ドライブポジション「D」は、1つのレンジを有していてもよく、1速(Low)、2速などを含む複数のレンジを有していてもよい。変速装置35は、手動変速機である場合、ニュートラルポジション「N」、ドライブポジション「D」、リバースポジション「R」を備えている。ドライブポジション「D」は、1速~5速などの複数のレンジを有している。以下、ドライブポジション「D」及びリバースポジション「R」を総称して、走行用ポジションということがある。
【0032】
変速装置35の変速ポジションSPは、シフトレバーやシフトボタン等の切替部材に対する運転者の切替操作によって切り替えられる。なお、シフトボタンは、タッチパネルディスプレイに表示される機能ボタンであってもよい。変速ポジションセンサ34は、運転者によって切り替えられた変速装置35の変速ポジションSPに対応した信号を取得する。制御装置15を含む車両システムは、変速装置35がパーキングポジション「P」又はニュートラルポジション「N」にある場合のみに、オン/オフを切り替えられるように構成されている。
【0033】
制御装置15は、反力アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ12に接続され、反力アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ12を制御する。制御装置15は、操舵角βに応じて転舵アクチュエータ12を制御し、且つ転舵角αに応じて反力アクチュエータ13を制御する。
【0034】
また、制御装置15は、転舵アクチュエータ12の出力特性を管理するように構成されている。
図2は転舵アクチュエータ12の出力特性を示すグラフである。
図2に示すように、転舵アクチュエータ12は、車両2が停止しているときに前輪3を転舵するのに必要な転舵トルクT1において、所定の速度(転舵角速度)で前輪3を転舵できる出力特性を有している。したがって、制御装置15は、
図2に示す出力を最大限に発揮するように転舵アクチュエータ12を駆動することにより、車両2の停止中に前輪3を所定の速度で転舵することができる。転舵アクチュエータ12は、前輪3を転舵するのに必要な転舵トルクが小さくなるほど高い(速い)転舵角速度を発揮する。
【0035】
一方、転舵アクチュエータ12に出力を最大限に発揮させることができない場合もある。例えば、電源系の故障時や、転舵アクチュエータ12のデグラデーション状態時等である。デグラデーション状態とは、転舵アクチュエータ12が過熱状態にあること等を理由に、転舵アクチュエータ12の出力が制限された状態を意味する。このような場合のために、制御装置15は転舵アクチュエータ12に発揮させる出力を制限するべく、転舵アクチュエータ12に発揮させることができる最大出力を取得する。この最大出力は、
図2に示す転舵アクチュエータ12の特性値よりも小さく、転舵アクチュエータ12の使用状況や温度等に応じた可変値(例えば90%や50%等)である。最大出力は、センサの検出により取得されてもよく、推定により取得されてもよい。
【0036】
以下、制御装置15のSBWモードにおける制御を具体的に説明する。制御装置15は、操舵角センサ21によって検出された操舵角βに基づいて、操舵角βに対して所定関係をなす目標転舵角αtを演算する。制御装置15は、例えば操舵角βに所定のギヤ比Kを掛けることによって目標転舵角αtを演算するとよい(αt=β×K)。ギヤ比Kは例えば0.01~0.5であり、一例として0.125であるとよい。そして、制御装置15は、転舵角αが目標転舵角αtとなるように、目標転舵角αtと転舵角αとの偏差Δα(=αt-α)に基づいて転舵アクチュエータ12に供給すべき第1電流値A1を演算する。すなわち、制御装置15は、偏差Δαに基づいて、転舵アクチュエータ12のフィードバック制御を行う。偏差Δαが大きいほど、転舵アクチュエータ12に供給される第1電流値A1が大きくなり、転舵アクチュエータ12の出力が大きくなり、転舵角αの変化速度が大きくなる。
【0037】
制御装置15は、前輪3の転舵状態に応じて、具体的には偏差Δαに基づいて反力アクチュエータ13が発生させるべき目標反力トルクTtを演算する。目標反力トルクTtはΔαに所定の係数を掛けることによって演算されるとよい。そして、制御装置15は、演算した目標反力トルクTtに基づいて反力アクチュエータ13に供給すべき第2電流値A2を演算する。反力アクチュエータ13に供給すべき第2電流値A2は、目標反力トルクTtに基づいて所定のマップを参照することによって決定されるとよい。なお、他の実施形態では、制御装置15は、偏差Δαに基づいて所定のマップを参照し、第2電流値A2を決定してもよい。目標反力トルクTt及び第2電流値A2は、転舵角αの偏差Δαが大きいほど大きく設定される。
【0038】
制御装置15は、第2電流値A2を反力アクチュエータ13に供給し、反力アクチュエータ13に駆動力を発生させる。反力アクチュエータ13が発生した駆動力は、ステアリングシャフト18に運転者の操作入力に抗する反力トルクTとして加えられる。これにより、運転者は、操舵操作に対する反力(抵抗力)をステアリングホイール19から受けることができる。
【0039】
ところで、制御装置15は車両2のイグニッションスイッチがオンのときに稼働し、イグニッションスイッチがオフになると稼働を停止する。したがって、イグニッションスイッチがオフの間は、操舵部材10が操舵されて操舵角βが変化しても、前輪3の転舵角αは変化せず、反力トルクTも発生しない。そのため、イグニッションスイッチがオフの間に、操舵部材10の操舵角βと前輪3の転舵角αとが上記所定のギヤ比関係でなくなることがある。以下、所定のギヤ比関係が加味された、互いに対応する両角度を位相という。このように転舵角αの位相が操舵角βの位相から偏位した不整合状態には複数のタイプがある。
【0040】
図3は操舵部材10の操舵角βと前輪3の転舵角αとの位相関係を示す図である。
図3に示すように、操舵角β及び転舵角αの位相が互いに偏位した状態(不整合状態)の状態には、操舵角β及び転舵角αの位相の方向が互いに逆の逆位相のタイプ(A)と、操舵角β及び転舵角αの位相の方向が互いに同一の同位相のタイプ(B)とがある。ここで、操舵角β及び転舵角αの位相の一方のみが0である、又は0と見做せる所定の角度範囲にある場合(以下、単に「0である場合」という)は同位相の位相偏位に分類される。したがって、同位相のタイプ(B)には、操舵角βが0であり、転舵角αが0でないタイプ(B1)と、転舵角αの位相が操舵角βの位相よりも大きいタイプ(B2)と、転舵角αの位相が操舵角βの位相よりも小さいタイプ(B3)と、転舵角αが0であり、操舵角βが右又は左に0より大きいタイプ(B1)との4つがある。
【0041】
図4は操舵部材10の操舵角βと前輪3の転舵角αとの関係を示すグラフである。
図4に示すように、逆位相の1つのタイプ及び同位相の4つのタイプは、
図4のグラフに示す通りである。
【0042】
このようにイグニッションスイッチがオフの間には操舵角β及び転舵角αの位相関係が崩れ得ることから、制御装置15は、イグニッションスイッチがオンになって起動すると、
図5及び
図6に示す位相合わせ制御を実行する。
【0043】
図5は起動時に制御装置15が実行する位相合わせ制御の前半部のフロー図であり、
図6は後半部のフロー図である。
図5に示すように、制御装置15は起動すると、操舵角β及び転舵角αを取得し(ステップST1)、操舵角β及び転舵角αの位相が偏位しているか否かを判定する(ステップST2)。ステップST2では、操舵角β及び転舵角αの位相関係が所定のギヤ比関係から変化しているか(
図3に示される斜めのギヤ比Kの線から外れているか)否かが判定される。操舵角β及び転舵角αの位相が整合している場合(ST2:No)、制御装置15は本処理を終了する。
【0044】
操舵角β及び転舵角αの位相が互いに偏位している場合(ST2:Yes)、制御装置15は、転舵アクチュエータ12の最大出力を取得し(ステップST3)、最大出力が所定値以上であるか否かを判定する(ステップST4)。ここで、所定値は、車両2の停止中に前輪3を所定の速度で転舵できる値として予め設定された値であり、例えば90%や80%であってよい。所定値は、固定値であってもよく、車両2の状態に応じて変化する可変値であってもよい。
【0045】
転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値未満である場合(ST4:No)、制御装置15は、転舵アクチュエータ12の最大出力に基づいて、車両2が停止している状態で所定時間内に変更可能な転舵角αの最大変更量である最大補正角αcmaxを算出する(ステップST5)。この所定時間は、その時点(初回はイグニッションスイッチがオンになった時点)から車速Vが所定速度(例えば、10km/h)に達するまでに要する時間として、車両2の状態に応じて設定される可変値である。所定時間は、イグニッションオン後に最も長く、変速ポジションSPがパーキングポジション「P」から走行用ポジションになるとより短く、車両2が走行を開始すると更に短くなるように設定される。ある時点における最大補正角αcmaxは、例えば、
図7に示すグラフのように設定されている。続いて制御装置15は、転舵角αの操舵角βとの位相関係に対する偏位量αdev、すなわち操舵角βにギヤ比Kを乗じた値との位相差が、上記の最大補正角αcmax以下であるか否かを判定する(ステップST6)。
【0046】
転舵角αの偏位量αdevが最大補正角αcmaxよりも大きい場合、(ST6:No)、制御装置15は、車速Vに上限値を設定する車速制限を行い(ステップST7)、
図6のステップST8に処理を進める。例えば、制御装置15は車速Vの上限値に10km/hを設定する。一方、ステップST4の判定で、転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値以上である場合(Yes)及び、ステップST6の判定で、転舵角αの偏位量αdevが最大補正角αcmax以下である場合(ST6:Yes)、制御装置15は車速制限を行うことなく
図6のステップST8に処理を進める。これにより、ステップST4又はステップST6の判定がYesにまるまで、車両2は上限値よりも高い車速Vで走行することができなくなる。なお、ステップST2の判定がNoになることによっても車速制限は解除されるが、通常はステップST2の判定がNoになる前にステップST6の判定がYesにまる。
【0047】
このように、操舵角β及び転舵角αの位相が偏位している状態で(ST2:Yes)、転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値未満であり(ST4:No)、且つ転舵角αの偏位量αdevが最大補正角αcmaxよりも大きい(ST6:No)場合には、車速Vが制限される。車速Vの制限は、転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値まで回復するか、車速Vが所定速度に達する前に転舵角α及び操舵角βの位相を整合可能と判定できるまで、継続される。これにより、運転者が意図する方向と異なる方向へ車両2が高速で進むことが抑制される。
【0048】
続いて
図6に示すように、制御装置15は車速Vを取得し(ステップST8)、車両2が走行中であるか否かを判定する(ステップST9)。具体的には、制御装置15は、車速Vが所定の閾値Vthよりも高い場合に車両2が走行中であると判定し、それ以外の場合は車両2が停止していると判定する。車両2が停止していると判定された場合(ST9:No)、制御装置15は、操舵角β及び転舵角αに基づいて位相偏位のタイプを確認し(ステップST10)、位相偏位のタイプが逆位相であるか否かを判定する(ステップST11)。
【0049】
位相偏位のタイプが逆位相である場合(ST11:Yes)、制御装置15は変速ポジションSPを取得し(ステップST12)、変速ポジションSPがドライブポジション「D」又はリバースポジション「R」であるか否かを判定する(ステップST13)。運転者がまだシフト切替操作を行っておらず、変速ポジションSPがパーキングポジション「P」又はニュートラルポジション「N」である場合(ST13:No)、及び、ステップST11でNoと判定された場合、制御装置15は操舵角速度βdotを取得する(ステップST14)。制御装置15は、操舵角速度βdotが0[deg/sec]である、又は0[deg/sec]と見做せる所定の速度範囲にある(以下、単に「0である」という)か否かを判定する(ステップST15)。
【0050】
操舵角速度βdotが0である場合(ST15:Yes)、制御装置15は上記処理を繰り返す。操舵部材10が運転者によって操舵され、操舵角速度βdotが0でない場合(ST15:No)、制御装置15は、パッシブ位相合わせを実行する(ステップST16)。ステップST16のパッシブ位相合わせは、操舵部材10が操舵されている間に(ST15:No)操舵角β及び転舵角αの位相を近付けるように、転舵アクチュエータ12及び反力アクチュエータ13の少なくとも一方を駆動する制御である。ここで、「操舵角β及び転舵角αの位相を近付ける」とは、操舵角βと転舵角αとを所定関係(上記のギヤ比関係)に近付けることを意味する。本実施形態では、制御装置15は操舵角β及び転舵角αの位相を合わせるために転舵アクチュエータ12を駆動する。
【0051】
ステップST16のパッシブ位相合わせでは、制御装置15は、操舵部材10が操作されたことをトリガにして(ST15:No)、操舵角β及び転舵角αの位相を近付けるように転舵アクチュエータ12を駆動する。このように、操舵部材10が操作されたことをトリガにして転舵角αが操舵角βに対して位相を近付けるため、運転者が意識していないときに前輪3が転舵されることが抑制される。
【0052】
図8は、パッシブ位相合わせによる転舵角αの変化を示すタイムチャートである。
図8に示すように、パッシブ位相合わせでは、制御装置15は、操舵角βに応じて設定される目標転舵角αtと転舵角αとの偏差Δα(=αt-α)が徐々に小さくなるように転舵アクチュエータ12を駆動する。操舵部材10が転舵角αの位相に近付く向きに操舵されている場合であっても、操舵部材10の操舵速度が所定の操舵速度以上である場合には、制御装置15は、操舵部材10の操舵方向と同じ方向に前輪3が転舵されるように転舵アクチュエータ12を駆動する。
【0053】
図6に戻り、ステップST16のパッシブ位相合わせでは、制御装置15は、操舵部材10が操作されなくなったことをトリガにして(ST15:Yes)上記処理を繰り返す、すなわち、転舵アクチュエータ12の駆動を停止する。これにより、操舵部材10が操作されていない間は転舵角αが一定に保たれるため、運転者が違和感を覚えることが抑制される。
【0054】
運転者がシフト切替操作を行い、変速ポジションSPがドライブポジション「D」又はリバースポジション「R」になると、ステップST13の判定がYesになり、制御装置15は逆位相合わせを行う(ステップST17)。逆位相合わせは、操舵部材10が操舵されているか否かに関わらず、操舵角β及び転舵角αの位相を互いに近付けて同位相にするように、転舵アクチュエータ12及び反力アクチュエータ13の少なくとも一方を駆動する制御である。
【0055】
ステップST12の逆位相合わせは、ステップST8の判定にて、変速ポジションSPがパーキングポジション「P」又はニュートラルポジション「N」からドライブポジション「D」又はリバースポジション「R」に変更されたことをトリガにして開始される。つまり、変速ポジションSPがパーキングポジション「P」から走行用ポジションになったことを条件にして、制御装置15が逆位相合わせを開始する。逆位置合わせは、この条件が満たされた直後に開始されてもよく、所定の遅れをもって開始されてもよい。
【0056】
このように、運転者が変速ポジションSPをパーキングポジション「P」又はリバースポジション「R」から走行用ポジションへ変化させたことをトリガにして、制御装置15はステップST12の逆位相合わせを行い、転舵角α及び操舵角βの位相を互いに近付ける。そのため、運転者に発進意思があるときに、転舵角α及び操舵角βの位相を互いに近付けることができる。
【0057】
本実施形態では、制御装置15は操舵角β及び転舵角αの位相を同位相にするために転舵アクチュエータ12を駆動する。本実施形態の逆位相合わせ(ST17)では、制御装置15は、目標転舵角αtを0°(中立位置)に設定して転舵アクチュエータ12を駆動し、転舵角αが目標転舵角αtに一致して、転舵角αの位相が操舵角βの位相と同位相になると、転舵アクチュエータ12の駆動を停止する。ただし、目標転舵角αtは、0°から、操舵角βの位相に一致する値の範囲内であれば如何なる値に設定されてよい。
【0058】
この転舵アクチュエータ12の駆動停止は、操舵角βの方向と転舵角αの方向とが互いに同一になったこと(ST11:No)をトリガにして行われる。これにより、操舵部材10が操作されない場合(ST15:Yes)でも、転舵角α及び/又は操舵角βが必要以上に変化することなく、車両2が運転者の意思と異なる方向へ発進する状態が解消される。
【0059】
ステップST17の逆位相合わせは、ステップST16のパッシブ位相合わせとは異なり、操舵部材10が操作されたか否かを問わずに行わる。そのため、操舵角βの方向と転舵角αの方向とが互いに逆である場合には(ST11:Yes)、操舵部材10の操作に関わらずに、変速ポジションSPがパーキングポジション「P」又はニュートラルポジション「N」から走行用ポジションへ変化した直後に転舵角α及び操舵角βの位相を互いに近付けることができる。
【0060】
制御装置15がステップST17にて逆位相合わせを実行すると、その後はステップST11において、位相偏位のタイプが同位相と判定される(ST11:No)。この場合、制御装置15は、処理をステップST14に進め、操舵部材10が操舵されていない間に(ST15:No)操舵角β及び転舵角αの位相を合わせるパッシブ位相合わせ(ST16)を実行する。
【0061】
また、ステップST16のパッシブ位相合わせは、操舵角βの方向と転舵角αの方向とが互いに逆である場合に(ST11:Yes)、変速ポジションSPがパーキングポジション「P」又はニュートラルポジション「N」にある状態で(ST13:No)操舵部材10が操作されたこと(ST15:No)をトリガにして行われる。このように、操舵角βの方向と転舵角αの方向とが互いに逆である場合には、操舵部材10の操作をトリガにすることで、運転者に違和感を与えることなく、転舵角α及び操舵角βの位相を互いに近付けることができる。
【0062】
ステップST16のパッシブ位相合わせによって操舵角β及び転舵角αの位相合わせが完了することなく、車両2が発進すると、ステップST9において、車両2が走行中であると判定される(ST9:Yes)。
【0063】
この場合、制御装置15は、操舵角速度βdotを取得し(ステップST18)、操舵角速度βdotが0であるか否かを判定する(ステップST19)。操舵角速度βdotが0である場合(ST19:Yes)、制御装置15はアクティブ位相合わせを実行する(ステップST20)。アクティブ位相合わせは、車両2の発進後(ST9:Yes)、運転者が操舵部材10を操舵しなくても(ST19:Yes)、操舵角β及び転舵角αの位相がゆっくり合うように、転舵アクチュエータ12及び反力アクチュエータ13の少なくとも一方を駆動する制御である。本実施形態では、制御装置15は操舵角β及び転舵角αの位相を合わせるために転舵アクチュエータ12を駆動する。
【0064】
このように、操舵部材10が操作されたか否かを問わずに、制御装置15がステップST20のアクティブ位相合わせを実行することにより、操舵部材10が操作されなくても、運転者が意図する方向と異なる方向へ車両2が高速で進むことが抑制される。アクティブ位相合わせが実行されることにより、車両2の発進後には必ず操舵角β及び転舵角αの位相が整合し、ステップST2の判定がNoになることで位相合わせ制御が終了する。よって、車速Vの上限値は解除される。
【0065】
図9は、アクティブ位相合わせによる転舵角αの変化を示すタイムチャートである。
図9に示すように、車速Vが所定の閾値Vthよりも高くなると、制御装置15がアクティブ位相合わせを開始し、操舵角β及び転舵角αの位相偏位が小さくなるように、転舵アクチュエータ12を駆動する。
【0066】
この際、制御装置15は、目標転舵角αtと転舵角αとの偏差Δαに基づいて算出する第1電流値A1に対し、通常時の転舵角制御に比べて転舵角αの変化速度を低下させるための減速ゲインGを乗じ、転舵アクチュエータ12を駆動する。これにより、転舵角αの変化速度は通常時に比べて遅くなり、車両2が運転者の予期せぬ挙動をとることが抑制される。
【0067】
減速ゲインGは、車速Vに応じて変化するように設定されるとよい。具体的には、減速ゲインGは車速Vが低いときに比較的大きな値に設定され、車速Vが高いほど、転舵角αの変化速度が遅くなるように小さな値に設定される。これにより、車速Vが低く転舵角αの変化が車両挙動に与える影響が小さいときには、比較的速い速度で転舵角αを変化させ、車両挙動に与える影響が大きい高車速のときには転舵角αの変化を抑制することができる。これにより、車両2が予期しない挙動をとることがより確実に抑制される。
【0068】
再び
図6に戻り、車両2の走行中に(ST9:Yes)操舵部材10が運転者によって操舵され、操舵角速度βdotが0でない場合(ST19:No)、制御装置15は、パッシブ位相合わせを実行する(ステップST21)。ステップST21のパッシブ位相合わせは、操舵部材10が操舵されていない間に(ST19:No)操舵角β及び転舵角αの位相を合わせるように、転舵アクチュエータ12及び反力アクチュエータ13の少なくとも一方を駆動する制御である。本実施形態では、制御装置15は操舵角β及び転舵角αの位相を合わせるために転舵アクチュエータ12を駆動する。
【0069】
ステップST21のパッシブ位相合わせでは、制御装置15は、操舵部材10が操作されているときに行われるアクティブ位相合わせ(ST20)に比べて転舵角αの変化速度が速くなるように、転舵アクチュエータ12を駆動する。これにより、運転者が車両2の挙動を予期し易い操舵操作中には速い変化速度で転舵角αが変化し、早期に操舵角β及び転舵角αの位相を整合させることができる。
【0070】
ステップST16のパッシブ位相合わせ、ステップST20のアクティブ位相合わせ、及び、ステップST21のパッシブ位相合わせにより、操舵角β及び転舵角αの位相が整合し、ステップST2の判定がNoになると、位相合わせ制御は終了する。
【0071】
次に、このように構成された実施形態に係る操舵装置1の作用効果について説明する。
【0072】
図5に示すように、制御装置15は、その起動時に転舵角αが操舵角βに対して所定関係から偏位している場合(ST2:Yes)、
図6のステップST9、ステップST15及びステップST17のトリガ条件が満たされたときに、転舵角αが操舵角βに対して所定関係に近付くように転舵アクチュエータ12を駆動し(ST16、ST17、ST20、ST21)、且つ車速Vに上限値を設定する(ST7)。このように車速Vが上限値によって制限されることにより、運転者が予想した方向と異なる方向に車両2が急加速することが抑制される。
【0073】
制御装置15は、その起動時に転舵アクチュエータ12の最大出力を取得し(ST3)、転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値以上である場合には(ST4:Yes)、車速Vに上限値を設定しない。そのため、運転者の意図に沿う加速が不要に制限されることが抑制される。
【0074】
制御装置15は、起動時に転舵アクチュエータ12の最大出力に基づいて、所定時間内に変更可能な転舵角αの最大変更量である最大補正角αcmaxを算出する(ST5)。そして、転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値未満であっても(ST4:No)、転舵角αの所定関係に対する偏位量αdevが最大補正角αcmax以下である場合には(ST6:Yes)、制御装置15は車速Vに上限値を設定しない。そのため、運転者の意図に沿う加速が不要に制限されることがより確実に抑制される。
【0075】
転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値未満であり(ST4:No)、且つ、転舵角αの所定関係に対する偏位量αdevが最大補正角αcmaxよりも大きい場合には(ST6:No)、制御装置15は、最大出力が所定値以上になるか(ST4:Yes)、偏位量αdevが最大補正角αcmax以下になる(ST6:Yes)まで車速Vに上限値を設定する。そのため、運転者が予想した方向と車両2の進行方向とを所定時間内に一致可能になるまでは車両2の急加速を抑制し、運転者が予想した方向と車両2の進行方向とを所定時間内に一致可能になった後には運転者の意図に沿う加速が可能になる。これにより、運転者の意図に沿う操舵と加速とが両立する。
【0076】
次に、
図10を参照して、本発明に係る操舵装置1の変形例について説明する。なお、本変形例は、位相合わせ制御の手順の一部が上記実施形態と相違し、他は上記実施形態と同一である。以下、上記実施形態と相違する点を説明する。
【0077】
図10は、変形例に係る位相合わせ制御の前半部のフロー図である。なお、位相合わせ制御の後半部は上記実施形態の
図6と同じである。
図10に示すように、制御装置15は、ステップST2において操舵角β及び転舵角αの位相が互いに偏位している(Yes)と判定した後、操舵角β及び転舵角αに基づいて、位相偏位のタイプが逆位相であるか否かを判定する(ステップST31)。そして制御装置15は、位相偏位のタイプが逆位相である場合(ST31:Yes)にステップST3に処理を進める一方、位相偏位のタイプが逆位相でない場合(ST31:No)には
図6のステップST8に処理を進める。すなわち、位相偏位のタイプが逆位相でない場合には、ステップST7において車速Vが制限されることはない。
【0078】
ステップST3~ステップST5は上記実施形態と同じ処理である。ステップST5の後、制御装置15は、転舵角αの位相を操舵角βの位相と同位相にする、すなわち転舵角αを中立点について操舵角βと同じ側にするのに必要な補正量として与えられる同方向補正量αdevnを算出し、この同方向補正量αdevnが最大補正角αcmax以下であるか否かを判定する(ステップST36)。同方向補正量αdevnは、転舵角αの0°(中立位置)からの偏位角度である。
【0079】
同方向補正量αdevnが最大補正角αcmaxよりも大きい場合、(ST36:No)、制御装置15は、車速Vに上限値を設定する車速制限を行い(ステップST7)、
図6のステップST8に処理を進める。一方、ステップST6の判定で、同方向補正量αdevnが最大補正角αcmax以下である場合(ST6:Yes)、制御装置15は車速制限を行うことなく
図6のステップST8に処理を進める。
【0080】
本変形例ではこのように、転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値未満であっても(ST4:No)、転舵角αを操舵角βと同方向にするのに必要な同方向補正量αdevnが最大補正角αcmax以下である場合には(ST36:Yes)、制御装置15は車速Vに上限値を設定しない。そのため運転者の意図に沿う加速が不要に制限されることがより確実に抑制される。
【0081】
転舵アクチュエータ12の最大出力が所定値未満であり(ST4:No)、且つ、同方向補正量αdevnが最大補正角αcmaxよりも大きい場合には(ST36:No)、制御装置15は、転舵角αが操舵角βに対して同方向になるか(ST31:No)、最大出力が所定値以上になるか(ST4:Yes)、同方向補正量αdevnが最大補正角αcmax以下になる(ST36:Yes)まで車速Vに上限値を設定する。そのため、運転者が予想した方向と車両2の進行方向とを所定時間内に同方向にできるようになるまでは車両2の急加速を抑制し、運転者が予想した方向と車両2の進行方向とを所定時間内に同方向にできるようになった後には運転者の意図に沿う加速が可能になる。これにより、運転者の意図に沿う操舵と加速とが両立する。
【0082】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記の実施形態では、ステップST7において、制御装置15が車速Vに上限値を設定して車速制限を行ったが、制御装置15は車両2の加速度に上限値を設定して車両2の加速度制限を行ってもよい。これによっても、運転者が予想した方向と異なる方向に車両2が大きな加速度をもって動くことが抑制される。また、制御装置15は、その起動時に直ちに(ステップST2以降、且つステップST8前に)転舵アクチュエータ12を駆動してもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 :操舵装置
2 :車両
3 :前輪
10 :操舵部材
11 :転舵機構
12 :転舵アクチュエータ
13 :反力アクチュエータ
15 :制御装置
21 :操舵角センサ
32 :転舵角センサ
α :転舵角
αdev:偏位量
αdevn:同方向補正量
αcmax:最大補正角
β :操舵角
V :車速