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特許7303383溶接シームを溶接するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】溶接シームを溶接するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230627BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/073 545
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022525839
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2020080590
(87)【国際公開番号】W WO2021089441
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】19206966.4
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘル、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ウィリンガー、マルティン
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/146844(WO,A1)
【文献】特開2016-73996(JP,A)
【文献】特表2011-518042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転する溶接ワイヤ(9)を用いて溶接シームを溶接するアーク溶接方法であって、アークフェーズ中に特定の期間Δt内または前記溶接ワイヤ(9)の特定の距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、前記溶接ワイヤ(9)の前進速度Vが、特定の最小速度値VDminに自動的に低減される、アーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接方法において、
前記特定の期間Δt内または前記特定の距離Δs内に短絡KSが検出されなくなるとすぐに、前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度Vが、段階的または連続的に前記特定の最小速度値VDminに低減される、アーク溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアーク溶接方法において、
溶接電圧Uが監視され、前記溶接電圧Uが低下する場合に短絡KSが検出される、アーク溶接方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度Vの低減と並行して、溶接電流Iが特定の最小電流値Iminに低減される、アーク溶接方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤ(9)は、該溶接ワイヤ(9)の前進速度Vが前記特定の最小速度値VDminに低減した後、短絡KSが検出されるまで、溶接されるべきワークピース(14A,14B)の方向に正の前進運動で前記アークフェーズ中に移動される、アーク溶接方法。
【請求項6】
請求項5に記載のアーク溶接方法において、
短絡KSの検出後、前記溶接ワイヤ(9)は、溶接されるべき前記ワークピース(14A,14B)から離れるように負の前進速度Vで反対方向に戻されるか、または溶接されるべき前記ワークピース(14A,14B)に向かうように低減された前進速度でさらに移動される、アーク溶接方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載のアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度の最小速度値VDmin及び溶接電流Iの最小電流値Iminのうち少なくとも一方は、記憶された特性曲線KSに従って設定される、アーク溶接方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度V及び溶接電流Iのうち少なくとも一方は、前記特定の期間Δt内及び前記特定の距離Δs内のうち少なくとも一方に短絡KSが検出されなくなるとすぐに、記憶された特性曲線KLに従って段階的又は連続的に低減される、アーク溶接方法。
【請求項9】
請求項8に記載のアーク溶接方法において、
前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度V及び前記溶接電流Iのうち少なくとも一方を低減するための各種の特性曲線KLが、異なる溶接パラメータPに対して提供される、アーク溶接方法。
【請求項10】
請求項9に記載のアーク溶接方法において、
前記溶接パラメータは、特に、前記溶接ワイヤ(9)の材料及び直径のうち少なくとも一方、使用される不活性ガスの種類、並びに選択される溶接方法の種類を含む、アーク溶接方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のアーク溶接方法において、
前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度Vの前記最小速度値は、0.1m/分から5.0m/分の間であり、好ましくは0.5m/分から3.0m/分の間の範囲内である、アーク溶接方法。
【請求項12】
請求項4乃至11のいずれか一項に記載のアーク溶接方法であって、
溶接電流Iの最小電流値Iminは、0アンペアから200アンペアの間であり、好ましくは、0アンペアから50アンペアの範囲内である、アーク溶接方法。
【請求項13】
溶接シーム、特にルート溶接シームを溶接するための溶接装置(1)であって、
反転する溶接ワイヤ(9)を有し、アークフェーズ中に特定の期間Δt内または前記溶接ワイヤ(9)の特定の距離Δs内に短絡が検出されない場合、前記溶接ワイヤ(9)の前進速度Vが、前記溶接装置(1)の制御装置(4)によって、自動的に指定された最小速度値VDminに低減される、溶接装置。
【請求項14】
請求項13に記載の溶接装置において、
前記溶接装置(1)の測定装置(23)によって測定された特定の期間Δt内に前記溶接装置(1)の測定装置(23)によって短絡KSが検出されない場合、または前記溶接装置(1)の前記測定装置(23)によって測定された、前記溶接ワイヤ(9)の特定の距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、前記溶接装置(1)のデータメモリ(22)に記憶された特性曲線KLに従って、前記溶接ワイヤ(9)の前記前進速度Vおよび溶接電流Iのうち少なくとも一方が段階的にまたは連続的に低減される、溶接装置。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の溶接装置であって、
前記データメモリ(22)に記憶された前記特性曲線KLは、データベースからダウンロード可能である、溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反転する溶接ワイヤまたは溶接ワイヤ電極で溶接シームを溶接するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CMT(コールドメタルトランスファー(Cold Metal Transfer))溶接法は、反転する溶接ワイヤ電極を用いる金属不活性ガス溶接法である。CMT溶接プロセスの場合、電圧が印加された溶接ワイヤは、短絡が形成されるまでワークピースの方向に移動される。次に、溶接ワイヤが反対方向に戻される。このワイヤの動きにより、短絡時に溶接ビードが溶接ワイヤから離れるため、溶接プロセス中のスパッタ発生が少なくなる。安定した電流供給と、材料搬送中の溶接ワイヤのワイヤ移動の有益な効果とにより、基材への入熱も少なくなっている。
【0003】
しかしながら、ギャップが大きいルート溶接中には、前進速度が一定であると溶接ワイヤが溶融池を貫通するという事態が発生し得る。これは、特に、溶接ワイヤのワイヤ前進速度がまだ比較的高い場合、溶接ワイヤが溶融池に向かって前進する際に溶接プールを貫通するため、短絡を検出することができない場合に起こり得る。従来のCMT溶接プロセスでは、アーク相には2つの前進相しかない。ブースト電流の間、溶接ワイヤは、短絡が発生するまでの後続の短絡待機段階中に減少する特定の前進速度を有する。しかしながら、ルート溶接の場合、溶融池が溶接ワイヤによって貫通するリスクがあり、その結果、短絡を検出できない可能性がある。溶融池が貫通することにより、アークが消滅する。したがって、溶融池の望ましくない貫通によって、溶融していない溶接ワイヤがルートの下側に突き出ているため、生成される溶接シームの品質が大幅に低下する結果となる。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の目的は、品質が向上した溶接シームを溶接するための方法および装置を提供することである。
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載の特徴を有するアーク溶接方法によって達成される。
【0005】
したがって、本発明は、反転する溶接ワイヤを用いて溶接シームを溶接するアーク溶接方法を提供し、アークフェーズ中に特定の期間内または溶接ワイヤの特定の距離内(innerhalb einer bestimmten Wegstrecke)に短絡が検出されない場合、溶接ワイヤの前進速度は特定の最小速度値まで自動的に低減される。
【0006】
本発明によるアーク溶接方法は、特に、特にルート溶接シームの製造中に、より大きなギャップの場合に、溶接ワイヤによる溶融池の貫通を防止する。
本発明によるアーク溶接方法の1つの可能な実施形態において、溶接ワイヤの前進速度は、特定の期間内または特定の距離内に短絡が検出されなくなるとすぐに、段階的または連続的に指定された最小速度値まで低減される。
【0007】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態では、溶接電圧が監視され、溶接電圧が低下した場合に短絡が自動的に検出される。
本発明によるアーク溶接方法のさらに可能な実施形態では、溶接ワイヤの前進速度の低減と並行して、溶接電流が特定の最小電流値まで低減される。
【0008】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態では、溶接ワイヤは、該溶接ワイヤの前進速度が指定された最小速度値まで低減した後、短絡が検出されるまで、溶接されるべきワークピースの方向に正の前進運動でアークフェーズ中に移動される。
【0009】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態では、短絡の検出後、溶接ワイヤは、溶接されるべきワークピースから離れるように負の前進速度で反対方向に戻される。
本発明によるアーク溶接方法の別の実施形態では、短絡の検出後、溶接ワイヤは、溶接されるべきワークピースに向かって、減少した正の進行速度でさらに移動される。
【0010】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態では、溶接ワイヤの前進速度の最小速度値及び溶接電流の最小電流値のうち少なくとも一方は、記憶された特性曲線に従って設定される。
【0011】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態において、溶接ワイヤの前進速度及び溶接電流のうち少なくとも一方は、特定の期間内及び特定の距離内のうち少なくとも一方に短絡が検出されなくなるとすぐに、記憶された特性曲線に従って段階的又は連続的に低減される。
【0012】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態では、溶接ワイヤの前進速度及び溶接電流のうち少なくとも一方を低減するための異なる特性曲線が、異なる溶接パラメータに対して提供される。
【0013】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態では、溶接パラメータは、特に溶接ワイヤの材料及び/又は直径、使用される不活性ガスの種類、並びに選択される溶接方法の種類を含む。
【0014】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態において、溶接ワイヤの前進速度の最小速度値は、0.1m/分から5.0m/分の間である。
本発明によるアーク溶接方法の更に好ましい実施形態において、溶接ワイヤの前進速度の最小速度値は、0.5m/minから3.0m/minの範囲内である。
【0015】
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態において、溶接ワイヤの前進速度の最小速度値は、約1m/分である。
本発明によるアーク溶接方法の更なる可能な実施形態において、溶接電流の最小電流値は、0アンペアから200アンペアの間である。
【0016】
本発明によるアーク溶接方法の好ましい実施形態において、溶接電流の最小電流値は、0アンペアから50アンペア、好ましくは約20アンペアの範囲内である。
更なる態様によれば、本発明は、請求項13に記載の特徴を有する溶接装置をさらに提供する。
【0017】
したがって、本発明は、反転する溶接ワイヤを用いて溶接シーム、特にルート溶接シームを溶接する溶接装置を提供し、アークフェーズ中に特定の期間内または溶接ワイヤの特定の距離内に短絡が検出されない場合、溶接ワイヤの前進速度は、溶接装置の制御装置によって、自動的に指定された最小速度値に低減される。
【0018】
本発明に係る溶接装置の1つの可能な実施形態では、溶接装置の測定装置によって測定された特定の期間内に溶接装置の検出装置によって短絡が検出されない場合、または溶接装置の測定装置によって測定された溶接ワイヤの特定の距離内に短絡が検出されない場合、溶接装置のデータメモリに記憶された特性曲線に従って、溶接ワイヤの前進速度および/または溶接電流が段階的にまたは連続的に低減される。
【0019】
本発明による溶接装置の更なる可能な実施形態では、データメモリに記憶された特性曲線はデータベースからダウンロードされる。
本発明によるアーク溶接方法および本発明による溶接装置の可能な実施形態において、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】溶接シームを溶接するための本発明による溶接装置の1つの可能な例示された実施形態を示す。
図2】溶接シームを溶接するための本発明による溶接装置の一実施形態を説明するためのブロック図を示す。
図3】本発明によるアーク溶接方法および本発明による溶接装置の動作モードを説明するための信号図を示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、溶接シームを溶接するための本発明による溶接装置1の例示的な実施形態を示す。図1に示すように、溶接装置1は、内部に電力部3を備えた電流源2を備える。溶接装置1は、溶接パラメータPを調整する目的で設けられた制御装置4を有する。これらの溶接パラメータPは、たとえ溶接電流Iおよび溶接ワイヤ9の前進速度Vを含む。この溶接ワイヤ9は、溶融溶接ワイヤ電極を含む。制御装置4は、例えば、ガス貯蔵タンク6と溶接トーチ7との間の不活性ガス5の供給ラインに配置される制御弁に接続され得る。制御装置4は、溶融溶接ワイヤ電極9を送給するための装置8を作動させる。この場合、溶接ワイヤ9は、溶接トーチ7の供給ドラム10から供給ラインを介して溶接装置1に供給され得る。送給装置8は、電流源2のハウジング11に統合されてもよいし、または図1に示すように、トロリー12上の補助装置に配置されてもよい。
【0022】
図1に示すように、アーク13を確立するための直流電流Iは、電流源2の電力部3の溶接ラインを介して溶接ワイヤ電極9に供給される。アーク13は、図1に概略的に示されているように、溶接ワイヤとワークピース14A,14Bとの間に存在する。図1に示す例では、2つのワークピース14A,14Bが溶接されている。例えば、ワークピース14A,14Bは、端面で一緒に溶接されている。2つのワークピース14A,14Bの端面の間にギャップがあり、そこに溶融池が形成されている。溶接装置1は、溶接ワイヤ電極9が2つのワークピース14A,14Bの端面の間の溶融池を貫通することを防止する。したがって、図1に示す溶接装置1は、ルート溶接シームを形成するのに適している。
【0023】
一実施形態では、電流源2は、異なる溶接パラメータP、動作モード、または溶接プログラムを設定可能なユーザインターフェースまたは入出力装置18を有する。装置1の制御装置4は、設定された溶接パラメータP、動作データ、および溶接プログラムに応じて、溶接装置1の構成要素を作動させる。対応する溶接トーチ7を使用する場合、この場所で設定操作を実行することもできる。溶接トーチ7は、別個の溶接トーチ入出力装置19を備えてもよい。可能な一実施形態では、溶接トーチ7は、データバスを介して、電流源2、特に内部に組み込まれた制御装置4、および溶接ワイヤ9を送給するための送給装置8に接続される。溶接トーチ7は、ホースアセンブリ21を介して溶接装置1の電流源2に接続されている。ホースアセンブリ21には、様々なライン、特に溶接ワイヤ電極9、不活性ガス5、冷却回路、およびデータ伝送ライン用の供給ラインが設けられている。
【0024】
溶接装置1の溶接ワイヤ9は、可逆的に設計されている。すなわち、溶接装置1の溶接ワイヤ9は、ワークピース14に向かう方向への前方への動きと、ワークピース14から離れる方向への後方への動きとの両方によって可動である。溶接ワイヤ9の前進速度Vは、溶接装置1の制御装置4によって制御される。アークフェーズLBBP中に特定の期間Δt内または特定の距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、溶接ワイヤ9の前進速度Vは、溶接装置1の制御装置4によって自動的に指定された最小速度値VDminに低減される。溶接装置1の測定装置23によって測定された特定の期間Δt内に溶接装置1の検出装置23によって短絡KSが検出されない場合、または溶接装置1の測定装置23によって測定された溶接ワイヤ9の特定の距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、溶接装置1のデータメモリ22に記憶された特性曲線KLに従って、溶接ワイヤ9の前進速度Vおよび/または溶接電流Iが段階的にまたは連続的に低減される。測定装置23は、好ましくは、例えば監視された溶接電圧Uによって、短絡KSを検出することも可能である。溶接電圧Uが低下する場合に、測定装置23によって短絡KSが検出される。
【0025】
1つの可能な実施形態では、溶接装置1のデータメモリ22に記憶された特性曲線KLは、データベースからダウンロード可能である。この目的のために、1つの可能な実施形態では、溶接装置1は、プラットフォーム又はデータベースによって記憶された特性曲線KLを溶接装置1のローカルデータメモリ22にダウンロードするために、データネットワークを介してリモートサーバに接続されるデータインターフェースを有している。
【0026】
図2は、本発明による溶接装置1の構成要素を概略的に示している。溶接トーチ7は、ホースアセンブリ21を介して溶接装置1の電流源2に接続されている。電流源2のハウジング内に配置されるのは、好ましくは、電力部3を備えた制御装置4である。図2に概略的に示されている溶接装置1の実施形態では、制御装置4は、1つまたは複数の特性曲線KLを記憶可能なローカルデータメモリ(DS:Datenspeicher)22にアクセスできる。さらに、様々なパラメータを検出するために、電流源2のハウジング内に測定装置23が設けられている。反転する溶接ワイヤ9は、溶接装置1の制御装置4によって制御可能な前進速度Vを有する。アークフェーズ中に特定の期間Δt内または特定の距離Δs内に、溶接装置1の対応する計測装置23によって短絡KSが検出されない場合、溶接ワイヤ9の前進速度Vは、溶接装置1の制御装置4によって自動的に指定された最小速度値VDminに低減される。
【0027】
1つの可能な実施形態において、特定の期間Δt内または特定の距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、溶接ワイヤ9の前進速度Vは、制御装置4によって段階的に指定された最小速度値VDminに低減される。1つの可能な実施形態において、特定の期間Δt内または特定の距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、溶接ワイヤ9の前進速度VDは、制御装置4によって継続的に指定された最小速度値VDminに低減されてもよい。好ましくは、溶接電圧Uは、溶接装置1の測定装置23によって監視される。溶接電圧Uが低下する場合に、短絡KSが自動的に検出される。したがって、溶接ワイヤ9のワイヤ前進速度Vの低減は、設定可能な時間サイクルまたは定義された距離のいずれかにわたって達成可能である。
【0028】
本発明によるアーク溶接装置の1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ9の前進速度Vの低下と並行して、溶接電流Iが特定の最小電流値Iminまで低下する。1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ9は、該溶接ワイヤ9の前進速度Vが指定された最小速度値VDminまで減少した後、短絡KSが検出されるまで、溶接されるべきワークピース14A,14Bの方向に正の前進運動でアークフェーズ中に移動される。短絡KSの検出後、溶接ワイヤ9は、溶接されるべきワークピース14A,14Bから離れるように負の前進速度Vで反対方向に戻される。
【0029】
1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ9の前進速度の最小速度値VDmin及び溶接電流の最小電流値Iminは、記憶された特性曲線KLに従って設定される。この特性曲線KLは、好ましくは、電流源2のローカルデータメモリ22に記憶される。1つの可能な実施形態では、特性曲線KLは、データインターフェースを介して、リモートデータベースから電流源2のローカルデータメモリ22にダウンロード可能である。1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ9の前進速度Vを低減するための、及び/又は溶接電流Iを低減するための各種の特性曲線KLが、異なる溶接パラメータPに対して提供される。更なる実施形態において、電流源2のプロセス調整器(図示せず)は、設定された溶接パラメータSPに基づいて、溶接ワイヤ9の前進速度VDを低減するため、および/または溶接電流Iを低減するための特性曲線点KLを、好ましくは補間手段によって算出する。これらの溶接パラメータPは、特に、溶接ワイヤ9の材料及び/又は直径、使用される不活性ガス5の種類、及び/又はユーザによって選択される溶接方法または溶接動作モードの種類を含む。
【0030】
溶接ワイヤ9の前進速度の最小速度値VDminは、用途に応じて異なる方法で計算、構成、または定義されてもよい。1つの可能な実施形態において、溶接ワイヤ9の前進速度Vの最小速度値は、0.1m/分から0.5m/分の間である。好ましくは、前進速度Vは、0.5m/分から3.0m/分の間である。1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ9の最小速度VDminは、例えば約1m/分である。1つの可能な実施形態では、溶接電流Iの最小電流値Iminは、200アンペア未満であり、好ましくは、0アンペアから50アンペアの範囲内である。1つの可能な実施形態では、溶接電流Iの最小電流値Iminは、例えば約20アンペアである。
【0031】
図3は、本発明によるアーク溶接方法および本発明による溶接シームを溶接するための溶接装置1の動作モードを説明するためのプロセスシーケンスを示している。図3は、アーク溶接プロセス中の溶接電流I及び溶接電圧Uの時間経過、並びに進行速度Vを示している。アーク溶接プロセスは、定期的に繰り返されるアークフェーズLBBPと短絡フェーズKSPとを有する。アーク溶接プロセスでは、溶接フィラー材料または溶接ワイヤ電極9の動きが、溶接プロセスの調整に積極的に組み込まれる。好ましくは、溶接ワイヤ9は前後に動かされ得る。アーク13のアークフェーズLBBP中、溶接ワイヤ9は、ワークピース14に向かう方向に案内される(V>0)。アークフェーズLBBP中に特定の指定された期間Δt内または特定の指定された距離Δs内に短絡KSが検出されない場合、前進速度Vは、算出、指定、または予め設定された最小速度値VDminに低減される。1つの可能な実施形態では、前進速度Vの低減は、設定可能な時間サイクルTを介してもたらされる。図3に示されるように、アークフェーズLBBP中、溶接ワイヤ9は、正の前進速度Vで前方に移動され得る。溶接ワイヤ9の前進速度Vは、一定期間が経過した後の時間t11において、高速レベルVD1からわずかに低いレベルVD2に低減される。その後、短絡KSが検出されたか否かを定めるための待機フェーズWPが存在する。時間t11は、短絡待機フェーズWPの開始を示す。図3に示される例では、短絡KSは、第1の時間サイクルT中に、指定された最大待機時間内の時間t12で発生したことが検出される。図3に示す例では、監視される溶接電圧Uは待機フェーズWP中に時間t12で低下し、短絡KSが発生したことを自動的に検出するために、その電圧低下を使用することができる。溶接ワイヤ9のワイヤ前進速度VDは、検出された短絡KSの結果として、時間t12後に速度レベルVD2からさらに自動的に急速に低減されて負の値(V<0)をとる、すなわち溶接ワイヤ電極9がワークピース14から離れるように動かされる。
【0032】
図3に示す第2の時間サイクルTにおいて、予め定められた最大待機フェーズWPmax中、監視される溶接電圧Uに低下が生じない。第2の時間サイクルTにおける待機フェーズWPは、前進速度値Vが速度レベルVD1から速度レベルVD2に向かって低下する時間t21で開始する。第2の時間サイクルT2における待機フェーズWPは、時間t22で指定された最大待機時間が満了した後に終了する。溶接ワイヤ9の前進速度Vは、特にワークピース14A,14B間に存在するギャップにおける溶融池の更なる侵入を防止するために、図3に示すように、時間t22における待機時間または最大待機フェーズWPmaxの満了後のアークフェーズLBBP中の時間t23、t24、t25、t26において段階的に自動的にさらに低減される。図3に示すように、ワイヤ前進速度Vは、時間t26で指定された最小速度値VDminに達するまで、複数の段階またはステップで低減される。この低い前進速度VDminで、溶接ワイヤ9は、最終的に時間t27で短絡KSが検出されるまでさらに移動される。短絡KSが検出されるとすぐに、溶接ワイヤ9は、好ましくは、負の前進速度Vで、すなわち、ワークピース14A,14Bから離れる反対方向に移動される。アークフェー図LBBPで形成された溶接液滴は剥離する。溶接ワイヤ9による溶融池の急速な貫通を防止するために、特にルート溶接シームを形成する場合、本発明に係るアーク溶接方法では、短絡待機フェーズKSPにおいてワイヤの前進が段階的に低減される。溶接ワイヤ9が接触チューブの方向に過度に溶融するのを防ぐために、最小速度VDminが定義されることが好ましい。1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ電極9の制御された溶融を確実にするために、溶接電流Iが低減され、かつ並行して段階的に制限される。本発明によるアーク溶接方法により、形成される溶接シームの品質が向上する。本発明によるアーク溶接方法は、ルート溶接シームを形成するのに特に適している。単層突合せ継手溶接では、溶接シームのルートは、溶接工がアクセスできない側にある。
【0033】
本発明による溶接装置1では、1つの可能な実施形態において、瞬時に設定される特性曲線KLは、電流源2のユーザインターフェース18のディスプレイ上の前進速度VDを介して溶接機に表示され得る。1つの可能な実施形態では、電流源2のユーザインターフェース18は、特性曲線KLを変更するために溶接機によって操作され得るタッチスクリーンを有する。例えば、1つの可能な実施形態では、溶接機は、ユーザインターフェース18を介して段階的にワイヤ前進速度を低減すべく、図3に示される特性曲線KLを適合させることができる。本発明による溶接装置1の異なる実施形態の変形例では、異なる測定装置23を使用して、溶接ワイヤ9の距離Δsおよび/または期間Δtを測定することができる。1つの可能な実施形態では、溶接ワイヤ9の距離Δsは、測定された期間および前進速度Vの現在の波形に基づいて計算可能である。さらに可能な実施形態では、溶接ワイヤ9の距離Δsも、例えば、光学的に検出可能である。1つの可能な実施形態では、距離Δsは、測定ユニットを形成するワイヤ前進ユニットのエンコーダによって検出可能である。エンコーダは信号送信機を形成する。エンコーダは、溶接トーチ7に設けられ得る。距離Δsを測定するための更なる実施形態の変形例は、当業者に知られている。溶接ワイヤ9の前進速度Vの特性曲線KL、特に最小速度VDminは、溶接されるワークピース14A,14Bの厚さDに応じて設定可能である。1つの可能な実施形態において、溶接機の入力、例えば、溶接されるシートの厚さDおよび対応する特性曲線KLは、溶接プロセスを制御するために制御装置4によって使用される。さらに可能な実施形態では、溶接電流源2のプロセスレギュレータ(図示せず)は、既存の溶接パラメータに基づいて特性曲線の動作点を算出し、特性曲線KLを自動的に生成する。本発明によるアーク溶接法は、ほとんど電流が流れない材料の移動を可能とするものであり、制御された、清潔で、かつスパッタのない溶滴の剥離をも可能とする。さらに、ワークピース間のより大きなギャップでの溶融池の制御されない貫通が防止される。
【符号の説明】
【0034】
1 溶接装置
2 電流源
3 電力部
4 制御装置
5 不活性ガス
6 ガス貯蔵タンク
7 溶接トーチ
8 送給装置
9 溶接シーム
10 貯蔵ドラム
11 電流源ハウジング
12 トロリー
LB アーク
14 ワークピース
18 ユーザインターフェース
19 溶接トーチ入出力装置
20 熱保護シールド
21 ホースアセンブリ
22 データメモリ
23 測定装置
図1
図2
図3