(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】導電性布帛
(51)【国際特許分類】
D03D 15/533 20210101AFI20230627BHJP
D02G 3/12 20060101ALI20230627BHJP
D02G 3/32 20060101ALI20230627BHJP
D02G 3/38 20060101ALI20230627BHJP
D03D 15/25 20210101ALI20230627BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20230627BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20230627BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20230627BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
D03D15/533
D02G3/12
D02G3/32
D02G3/38
D03D15/25
D03D15/47
D03D15/56
D04B1/14
D04B21/00 B
(21)【出願番号】P 2023503142
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2022046574
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022025288
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】向當 健司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 幸輔
(72)【発明者】
【氏名】前川 俊樹
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-261143(JP,A)
【文献】特開平05-214646(JP,A)
【文献】特開2006-284276(JP,A)
【文献】特開2014-125696(JP,A)
【文献】特開2012-184521(JP,A)
【文献】特開2011-241518(JP,A)
【文献】特開2018-111902(JP,A)
【文献】特表2005-538270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電糸と、非導電糸とを含む織物又は編物からなる導電性布帛であって、
前記導電糸は、伸縮性を有する芯糸に金属線を含む導電性鞘糸が巻回されたカバリング糸であり、
前記芯糸の繊度は22~167dtexであり、
前記非導電糸は、伸縮性を有するマルチフィラメント糸であり、
前記導電糸の直径(D1)と、前記非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)は、1.0~2.6であり、
前記導電糸の本数(a)と、前記非導電糸の本数(b)との比(a:b)は、前記導電性布帛の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において1:2~1:40である導電性布帛。
【請求項2】
前記織物からなる場合、JIS L1096の伸び率(B法)に準拠して測定される5Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率が20%以上であり、
前記編物からなる場合、JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される5Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率が20%以上である請求項1に記載の導電性布帛。
【請求項3】
前記芯糸の破断伸度が70%以上である請求項1又は2に記載の導電性布帛。
【請求項4】
前記導電糸は、前記芯糸1mあたりに前記導電性鞘糸が1000~3000回巻き付けられてなる請求項1又は2に記載の導電性布帛。
【請求項5】
40%伸長時の抵抗値変動率が30%以下である請求項1又は2に記載の導電性布帛。
【請求項6】
厚みが0.6mm以下である請求項1又は2に記載の導電性布帛。
【請求項7】
前記導電糸の間隔が5mm以下である請求項1又は2に記載の導電性布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電糸と、非導電糸とを含む織物又は編物からなる導電性布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性布帛は、例えば車輛の内装品、衣料品、健康・介護・医療器具、家具等におけるセンサ用の電極布として広く利用されている。車輛の内装品においては、例えば導電性布帛がステアリングホイールに内蔵され、運転者からステアリングホイールに加えられる圧力を検知するためのセンサ(タッチセンサ)の電気回路として用いられている。このセンサは、ステアリングホイールを握っている運転者の状態(例えば、運転者がステアリングホイールを両手で握っているか否か、どの位置を握っているか等)を検知するものであることから、運転者からステアリングホイールに加えられる圧力を正確に検知する必要がある。そのため、導電性布帛には、安定した導電性を有することが求められる。
【0003】
従来、この種の導電性布帛として、例えば、非導電糸で構成された織物からなる基布の表面に無電解金属メッキによる金属皮膜層が設けられてなるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の導電性布帛として、例えば、非導電性の繊維からなる布帛の表面に導電性材料による導電パターン(導電性層)が接着剤を介して積層されてなるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、別の導電性布帛として、例えば、非導電性の織物であるメッシュ状の基材の両面が導電性組成物で被覆されてなるものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-11035号公報
【文献】特開2017-124497号公報
【文献】特開2020-75422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非導電糸からなる織物に導電性層を積層してなる特許文献1及び2の導電性布帛は、伸縮時に、織物と導電性層との剥離や導電性層の破断(クラック)等が発生するおそれがある。このような剥離や破断が発生すると、伸縮前後で抵抗値の変動が大きくなって導電性が不安定になるため、電気的信頼性の低下に繋がる。また、導電性層の一部に剥離や破断が生じると、これら剥離や破断が面方向に広がり、抵抗値の変動が一層大きくなる虞もある。さらに、特許文献1及び2の導電性布帛は、非導電性の織物に導電性層が積層されているため、面方向に導電性を有する一方、厚み方向に導電性を有するものではなく、その分、導電性が優れるとはいい難い。
【0008】
特許文献3の導電性布帛は、面方向及び厚さ方向の導電性を有するものの、特許文献1及び2と同様、非導電性の織物に導電性層が積層されているため、織物と導電性層との剥離や導電性層の破断等が発生するおそれがある。
【0009】
ところで、導電性布帛をセンサ等に内蔵させる場合、センサの感度を向上させるためには、測定対象物の形状に応じて良好に密着させる必要がある。このため、導電性布帛には伸縮性が要求されている。導電性布帛の伸縮性が不十分であると、測定対象物への密着が不十分なものとなる。また、伸縮に伴って導電糸が破断し、伸縮に伴う抵抗変動率が大きくなる、すなわち導電安定性が低下する虞がある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、伸縮性及び導電安定性に優れた導電性布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る導電性布帛の特徴構成は、
導電糸と、非導電糸とを含む織物又は編物からなる導電性布帛であって、
前記導電糸は、伸縮性を有する芯糸に金属線を含む導電性鞘糸が巻回されたカバリング糸であり、
前記非導電糸は、伸縮性を有するマルチフィラメント糸であり、
前記導電糸の直径(D1)と、前記非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)は、1.0~2.6であり、
前記導電糸の本数(a)と、前記非導電糸の本数(b)との比(a:b)は、前記導電性布帛の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において1:2~1:40であることにある。
【0012】
本構成の導電性布帛によれば、導電糸と、非導電糸とを含む織物又は編物からなることにより、当該導電性布帛は、面方向、及び厚み方向の双方において導電性を有するものとなる。導電糸が上記カバリング糸であることにより、伸縮性を有する非導電糸と相俟って、当該導電性布帛に伸縮性が付与される。そして、当該導電性布帛に導電糸が用いられることで、当該導電性布帛に導電性が付与される。ここで、導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)が1.0以上であることにより、導電糸が非導電糸に埋まり難く、また、破断し難いものとなるため、当該導電性布帛は、導電安定性が高められたものとなる。上記比(D1/D2)が2.6以下であることにより、導電糸が相対的に柔軟なものとなるため、当該導電性布帛は、伸縮性が高められたものとなる。また、導電糸の本数(a)と、非導電糸の本数(b)との比(a:b)が導電性布帛の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において1:2~1:40であることにより、導電糸の単位面積あたりの本数が一定以上となるため、当該導電性布帛の導電性が高められ、これに伴って導電安定性も高められたものとなる。また、相対的に剛性が高い導電糸の本数(a)と比較して相対的に剛性が低い非導電糸の本数(b)を多くしているため、当該導電性布帛は、伸縮性が高められたものとなる。
【0013】
本発明に係る導電性布帛において、
前記織物からなる場合、JIS L1096の伸び率(B法)に準拠して測定される5Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率(以下、「5N定荷重伸長率」ともいう)が20%以上であり、
前記編物からなる場合、JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される5Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率が20%以上であることが好ましい。
【0014】
本構成の導電性布帛によれば、5N定荷重伸長率が20%以上であることにより、当該導電性布帛は、伸縮性がより高められたものとなる。
【0015】
本発明に係る導電性布帛において、
前記芯糸の破断伸度が70%以上であることが好ましい。
【0016】
本構成の導電性布帛によれば、芯糸の破断伸度が70%以上であることにより、導電糸の伸縮性が高められ、その結果、当該導電性布帛は、伸縮性がさらに高められたものとなる。
【0017】
本発明に係る導電性布帛において、
前記導電糸は、前記芯糸1mあたりに前記導電性鞘糸が1000~3000回巻き付けられてなることが好ましい。
【0018】
本構成の導電性布帛によれば、芯糸1mあたりに導電性鞘糸が1000~3000回巻き付けられた導電糸を使用することで、芯糸に対するカバリング時に導電性鞘糸の浮きが発生しないため、品位が向上し、また、当該導電性布帛の伸縮性がより高められたものとなる。
【0019】
本発明に係る導電性布帛において、
40%伸長時の抵抗値変動率が30%以下であることが好ましい。
【0020】
本構成の導電性布帛によれば、40%伸長時の抵抗値変動率が30%以下であることにより、伸長の前後で抵抗値の変動が小さくなる(すなわち、伸縮に伴う抵抗値の変動が小さくなる)ため、導電安定性が高められたものとなる。これにより、例えば当該導電性布帛をセンサに用いることで、当該センサの感度を向上することができる。
【0021】
本発明に係る導電性布帛において、
厚みが0.6mm以下であることが好ましい。
【0022】
本構成の導電性布帛によれば、厚みが0.6mm以下であることにより、当該導電性布帛を別部材に内蔵させた際に、段差の発生を抑制することができる。例えば、当該導電性布帛をステアリングホイールセンサ等のセンサに内蔵させた際に、センサにおける段差の発生を抑制することができるため、当該導電性布帛は、センサの触感に悪影響を与えないものとなる。
【0023】
本発明に係る導電性布帛において、
前記導電糸の間隔が5mm以下であることが好ましい。
【0024】
本構成の導電性布帛によれば、導電糸の間隔が5mm以下であることにより、単位面積あたりの導電糸の本数が多くなるため、当該導電性布帛の導電性が高められ、これに伴って導電安定性も高められたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明に係る導電性布帛が内蔵されたステアリングホイールの平面図であり、内蔵された当該導電性布帛の一部拡大図と共に示す。
【
図2】
図2は、本発明に係る導電性布帛の一部拡大図であり、(a)荷重が付与されていない状態、及び(b)荷重が付与されている状態を示す。
【
図3】
図3は、導電糸及び非導電糸の説明図であり、(a)導電糸の全体構成図、(b)芯糸及び鞘糸の断面図、(c)非導電糸の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の導電性布帛について、図面を参照しながら説明する。ただし、各図に示した構成(組織)は、説明を容易にするため適宜誇張又は簡略化してあり、組織に含まれる糸のサイズ関係、縮尺関係は、実際の導電性布帛を正確に反映したものとは限らない。
【0027】
<導電性布帛>
図1は、本発明に係る導電性布帛1が内蔵された車両のステアリングホイール500を模式的に示す平面図である。この例では、導電性布帛1がステアリングホイール500に内蔵され、ステアリングホイールセンサの電気回路を構成している。導電性布帛1は、導電糸200と、非導電糸300とを含む。具体的には、導電性布帛1は、導電糸200と、非導電糸300とを含む布帛10から構成されている。導電性布帛1は、導電糸200及び非導電糸300の伸縮性によりステアリングホイール500の外表面部の合成皮革等の形状に良好に追従して変形することができる。ステアリングホイール500内において、例えば緯方向に離間する二つの設置領域(図示せず)の夫々に電極が設けられている。上記ステアリングホイールセンサは、導電性布帛1が上記電極を介して通電された状態で、運転者がステアリングホイール500を握る圧力が検知されるように構成されている。上記電極としては、従来公知の電極を用いることができる。ステアリングホイール500において、例えば、導電性布帛1は、その緯方向がステアリングホイール500の回転方向に沿い、その経方向がステアリングホイール500の周方向(握る方向)に沿うように配置されることができるが、その配置は特に限定されるものではない。
【0028】
図2は、本発明に係る導電性布帛1の一部拡大図である。
図2(a)は、導電性布帛1に荷重が付与されていない状態を示す。導電性布帛1においては、布帛10(すなわち、導電性布帛1)の経方向及び緯方向に導電糸200及び非導電糸300が用いられている。この導電性布帛1は、経方向及び緯方向に非導電糸300が格子状に用いられた布帛において、そのうちの一部の非導電糸300が導電糸200で置き換えられたものに相当する。このように導電糸200が非導電糸300と共に布帛を構成していることにより、布帛10は、面方向及び厚み方向の双方において導電性を有するものとなる。導電糸200は、伸縮性を有する芯糸210に金属線を含む導電性鞘糸220が巻回されたカバリング糸であり、非導電糸300は、伸縮性を有するマルチフィラメント糸である。導電糸200が上記カバリング糸であることにより、伸縮性を有する非導電糸300と相俟って、布帛10に伸縮性が付与される。そして、布帛10に導電糸200が用いられることで、布帛10に導電性が付与され、導電性布帛1となる。
【0029】
<布帛>
布帛は、繊維から構成された布状の構造体である。布帛としては、織物、編物等が挙げられる。
図1及び
図2に例示される導電性布帛1を構成する布帛10は、導電糸200及び非導電糸300が格子状に組み合わされたものである。布帛10が織物である場合、布帛10は、導電糸200及び非導電糸300が製織されたものである。この場合、導電糸200を、経方向及び/又は緯方向に間隔を空けて並んだものとすることができる。織物の織組織は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができ、例えば平織、綾織、朱子織等を採用することができる。布帛10が編物である場合、布帛10は、導電糸200及び非導電糸300を用いて編成されたものである。この場合、導電糸200を、経方向又は緯方向に間隔を空けて並んだものとすることができる。編物の編組織は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができ、例えば天竺編、ゴム編、及びパール編等の緯編組織で編成された緯編地が好ましい。
【0030】
<非導電糸>
非導電糸300は、伸縮性を有するマルチフィラメント糸である。導電性布帛1を構成する布帛10において、非導電糸300は、経方向及び緯方向に格子状に用いられている。マルチフィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚り加工や流体攪乱処理などの加工を施してもよい。ここで、非導電糸は、絶縁糸と同義である。
【0031】
非導電糸300の繊度(総繊度)は、22~167dtexが好ましく、上限については84dtex以下がより好ましい。非導電糸300の総繊度が167dtex以下であることにより、導電性布帛1が柔軟なものとなり、また、導電性布帛1の厚みが比較的小さいものとなるため、導電性布帛1がセンサ等に内蔵された際に、段差の発生を抑制することができる。一方、非導電糸300の総繊度が22dtex以上であることにより、導電性布帛1は、強度が高められたものとなる。非導電糸300の直径(D2)は、45~125μmが好ましく、上限については88μm以下がより好ましい。非導電糸300の直径(D2)が125μm以下であることにより、導電性布帛1が柔軟なものとなり、また、導電性布帛1の厚みが比較的小さいものとなるため、導電性布帛1がセンサ等に内蔵された際に、段差の発生を抑制することができる。一方、非導電糸300の直径(D2)が45μm以上であることにより、導電性布帛1は、強度が高められたものとなる。なお、非導電糸300の直径(D2)については、後述する。
【0032】
非導電糸300を構成する繊維の素材は、特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、優れた強度を有する点から、合成繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル繊維が好ましい。非導電糸300が合成繊維で構成されることによって、導電性布帛1を上述した電極に接続する際に、非導電糸300をレーザー除去加工等によって溶融させることが可能になる。繊維の形状は、特に限定されるものではなく、長繊維、短繊維の何れであってもよい。また、繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、一般的な丸型だけでなく、扁平型、楕円型、三角型、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0033】
非導電糸300は、伸縮性を有するという観点から、2種類の合成繊維(例えば、2種類のポリエステル繊維(例えばポリエチレンテレフタレート繊維と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維と)をサイドバイサイド型に複合紡糸することにより、捲縮性が付与されてなる(捲縮加工されてなる)捲縮糸であることが好ましい。また、捲縮加工された糸に仮撚加工が施されてなる捲縮糸であることがより好ましく、仮撚加工の後にDDW加工が施されてなる捲縮糸であることが、更なる伸縮性を有するという観点から、さらに好ましい。
【0034】
伸縮性を有する非導電糸300は、破断伸度が70%以上であることが好ましい。非導電糸300の破断伸度が70%以上であることにより、非導電糸300の伸縮性が高められるため、導電性布帛1は、伸縮性が高められたものとなる。一方、非導電糸300の破断伸度の上限は特に限定されず、適宜設定することができ、例えば150%とすることができる。「破断伸度」の測定方法は、後述する。
【0035】
<導電糸>
図3は、導電糸200及び非導電糸300の説明図である。
図3(a)は、導電糸200の全体構成図である。導電糸200は、通電可能な導電性の糸であり、例えば、芯糸210と、当該芯糸210に巻き付けられた導電性鞘糸220とを有するカバリング糸として構成される。導電糸200は、導電性布帛1に導電性を十分に付与する観点から、5×10
-5Ω・m以下の電気抵抗率を有することが好ましい。従って、導電糸200に使用する導電性鞘糸220は、絶縁性皮膜を有さず、金属線のみからなるものであることが好ましい。一方、導電糸200は、芯糸210と、導電性鞘糸220とを有するカバリング糸として構成されることで、導電糸200の伸縮性が実現される。導電糸200は、
図3(a)に示すように、芯糸210に一本の導電性鞘糸220が巻き付けられたシングルカバリング糸であることが好ましい。このようなシングルカバリング糸の導電糸200を用いることで、導電性布帛1は、伸縮性に優れたものとなる。
【0036】
導電糸200に用いる芯糸210は、モノフィラメント糸、又はマルチフィラメント糸を用いることが好ましい。芯糸210の繊度は、22~167dtexが好ましく、上限については84dtex以下がより好ましい。芯糸210の繊度が167dtex以下であることにより、導電糸200が柔軟なものとなり、導電性布帛1の柔軟性がより高まるため、優れた伸縮性を備えた導電性布帛1を実現することができる。一方、芯糸210の繊度が22dtex以上であることにより、導電性布帛1の強度を高めることができる。芯糸210の直径は、45~125μmが好ましく、上限については88μm以下がより好ましい。芯糸210の直径が125μm以下であることにより、導電糸200が柔軟なものとなるため、優れた伸縮性を備えた導電性布帛1を実現することができる。一方、芯糸210の直径が45μm以上であることにより、導電性布帛1の強度を高めることができる。ここで、芯糸210の直径は、最大径を意味する。
【0037】
芯糸210の素材は、特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等を挙げることができ、強度の観点から、合成繊維が好ましい。合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維が挙げられ、とりわけポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。
【0038】
導電糸200の伸縮性を高めるという観点から、芯糸210は、2種類の合成繊維(例えば、2種類のポリエステル繊維(例えばポリエチレンテレフタレート繊維と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維と))をサイドバイサイド型に複合紡糸することにより、捲縮性が付与されてなる(捲縮加工されてなる)捲縮糸であることが好ましい。また、捲縮加工された糸に仮撚加工が施されてなる捲縮糸であることがより好ましく、仮撚加工の後にDDW加工が施されてなる捲縮糸であることが、さらに伸縮性を高めるという観点から、好ましい。また、芯糸210がこのような捲縮糸であることにより、芯糸210と導電性鞘糸220との間で伸縮の程度を近づけることができるため、導電性布帛1を伸縮や屈曲させた際に導電性布帛1から導電性鞘糸220が飛び出すことを抑制することができる。
【0039】
伸縮性を有する芯糸210は、破断伸度が70%以上であることが好ましい。芯糸210の破断伸度が70%以上であることにより、導電糸200の伸縮性がより高められ、その結果、導電性布帛1は、伸縮性がさらに高められたものとなる。一方、芯糸210の破断伸度の上限は特に限定されず、適宜設定することができ、例えば150%とすることができる。
【0040】
導電性鞘糸220は、上述したように、導電性布帛1の導電性を高めるという観点から、金属線のみからなるものであることが好ましい。導電性鞘糸220の金属線の直径は、20~80μmが好ましく、25~70μmがより好ましい。導電性鞘糸220の金属線の直径が20μm以上であることにより、伸縮時に導電性鞘糸220が破断し難くなるため、導電性布帛1は、伸縮に伴う抵抗値変動が抑制されたものとなる。また、導電性鞘糸220の金属線の直径が80μm以下であることにより、導電糸200の剛性が高くなり過ぎないため、導電性布帛1は、伸縮性が高められたものとなる。ここで、導電性鞘糸220の金属線の直径は、最大径を意味する。
【0041】
導電性鞘糸220を構成する金属線の素材は、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、クロム、マンガン、ケイ素、鉛、ビスマス、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、及びコバルト等の単体金属、並びにこれらの合金を用いることができ、これらのなかでも、銅及び錫の合金を用いることが好ましい。また、金属線の破断伸度は、15%以上が好ましい。金属線の破断伸度が15%以上であることにより、導電糸200の伸縮性が向上されるため、導電性布帛1は、伸縮性が向上されたものとなる。一方、金属線の破断伸度の上限は特に限定されず、適宜設定することができ、例えば100%とすることができる。
【0042】
導電性鞘糸220の金属線は、5×10-5Ω・m以下の電気抵抗率を有することが好ましく、1.5×10-6Ω・m以下がより好ましく、5.0×10-7Ω・m以下がさらに好ましい。導電性鞘糸220の金属線の電気抵抗率が5×10-5Ω・m以下であることにより、導電性布帛1は、導電性が高められたものとなり、これに伴って、導電安定性も高められたものとなる。また、導電性布帛1をセンサに用いる際、センサの感度を高めることができる。
【0043】
導電性鞘糸220は、芯糸210への1mあたりの巻数(以下、単に「巻数」と称する。)が1000~3000回であることが好ましい。導電性鞘糸220の巻数が1000回以上であることにより、芯糸210に対するカバリング時に導電性鞘糸220の浮きが発生しないため、品位が向上する。導電性鞘糸220の巻数が3000回以下であることにより、導電性布帛1の伸縮性がより高められたものとなる。
【0044】
導電性布帛1が
図1に示すようなセンサに使用される場合、導電糸200は、等間隔に配置されることが好ましい。具体的には、布帛10の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において、等間隔に配置されることが好ましい。導電糸200が等間隔に配置されることにより、導電糸200の一部が破断しても、導電性布帛1の全体としての導電性を比較的万遍なく維持することができるため、導電性布帛1は、導電安定性が高められたものとなる。
【0045】
布帛10(すなわち、導電性布帛1)の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において、導電糸200の間隔(
図2(a)には、経方向の間隔S1、及び緯方向の間隔S2を示す。)は、0.09~5mmが好ましく、1.9~5mmがより好ましい。導電糸200の間隔が5mm以下であることにより、単位面積(例えば、後述する経30mm×緯30mmの正方形の領域の面積)あたりの導電糸200の本数が多くなるため、導電性布帛1の導電性が高められ、これに伴って導電安定性も高められたものとなる。一方、導電糸200の間隔が0.09mm以上であることにより、導電性布帛1の伸縮性を十分に高めることができる。また、布帛10の経方向及び緯方向のうち単位面積あたりの導電糸200の本数が多い方向(すなわち、経方向及び緯方向のうち導電糸200の間隔が狭い方向)における導電糸200の間隔が、0.09~5mmであることがより好ましく、1.9~5mmがさらに好ましい。なお、上記二方向における単位面積あたりの導電糸200の本数が同じ場合は、何れの方向における導電糸200の間隔を採用してもよく、上記二方向のうち一方向には導電糸200が存在せず、他方向にのみ導電糸200が間隔を空けて設けられる場合は、他方向における導電糸200の間隔を採用するものとする。導電糸200の本数が多い方向における導電糸200の間隔が5mm以下であることにより、当該方向において、単位面積あたりの導電糸200の本数がより多くなるため、導電性布帛1の導電性がより高められ、これに伴って導電安定性もより高められたものとなる。一方、導電糸200の本数が多い方向における導電糸200の間隔が0.09mm以上であることにより、導電性布帛1の伸縮性をより十分に高めることができる。
【0046】
<導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)>
図3(b)は、導電糸200に用いる芯糸210及び導電性鞘糸220の断面図である。導電糸200においては、芯糸210に導電性鞘糸220が重ねられる態様によって、両者が密着する程度が異なり、その結果、芯糸210と導電性鞘糸220とで構成される導電糸200の直径が、種々異なる場合がある。そこで、本発明においては、
図3(b)に示すように、導電糸200の直径(D1)は、芯糸210の直径(Da)と、導電性鞘糸220の直径(Db)との和と定義する(D1=Da+Db)。すなわち、芯糸210に導電性鞘糸220が重ねられた際に取り得る最大の直径を、導電糸200の直径(D1)と定義する。本実施形態では、芯糸210に1本の導電性鞘糸220が巻き付けられているため、導電糸200の直径(D1)は、芯糸210の直径(Da)と、1本の導電性鞘糸220の直径(Db)との和である(D1=Da+Db)。また、芯糸210の直径(Da)、及び導電性鞘糸220の直径(Db)は、夫々の最大径である。導電性鞘糸220が金属線のみから構成される場合、導電性鞘糸220の直径(Db)は、金属線の直径に相当する。
【0047】
図3(c)は、非導電糸300の断面図である。非導電糸300の直径(D2)は、
図3(c)に示すように、その最大径である。
【0048】
ここで、導電性布帛1の厚み(すなわち、布帛10の厚み)は、導電糸200の直径(D1)と、非導電糸300の直径(D2)との比(D1/D2)によって決定づけられる。この比(D1/D2)が小さくなる、すなわち導電糸200の直径(D1)が非導電糸300の直径(D2)よりも相対的に小さくなると、導電性布帛1の伸縮性が向上される一方、導電糸200が非導電糸300に埋まってしまい、導電性布帛1の導電性が低下する虞がある。また、導電糸200の強度が低下し、これにより、伸縮時に導電糸200が破断し、その結果、伸縮に伴う抵抗値の変動が大きくなる虞もある。これに対し、上記比(D1/D2)が大きくなる、すなわち導電糸200の直径(D1)が非導電糸300の直径(D2)よりも相対的に大きくなると、導電性布帛1の導電性が向上される一方、導電糸200の剛性が相対的に大きくなり、導電性布帛1の伸縮性が低下する虞がある。導電糸200の直径(D1)と、非導電糸300の直径(D2)との比(D1/D2)は、1.0~2.6であり、1.1~2.6がより好ましく、1.2~2.4がさらに好ましい。上記比(D1/D2)が1.0以上であることにより、導電糸200が非導電糸300に埋まり難く、また、破断し難いものとなるため、導電性布帛1は、導電安定性が高められたものとなる。上記比(D1/D2)が2.6以下であることにより、導電糸200が相対的に柔軟なものとなるため、導電性布帛1は、伸縮性が高められたものとなる。
【0049】
<導電糸の本数(a)と、非導電糸の本数(b)との比(a:b)>
導電糸200の本数(a)と、非導電糸300の本数(b)との比(a:b)(以下、「混用比率」とも称する。)は、布帛10(すなわち、導電性布帛1)の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において1:2~1:40であり、1:5~1:40が好ましく、1:10~1:40がより好ましい。上記比(a:b)が布帛10の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において1:2~1:40であることにより、導電糸200の単位面積あたりの本数が一定以上となるため、導電性布帛1の導電性が高められ、これに伴って導電安定性も高められたものとなる。また、相対的に剛性が高い導電糸200の本数(a)と比較して相対的に剛性が低い非導電糸300の本数(b)を多くしているため、導電性布帛1は、伸縮性が高められたものとなる。上記比(a:b)は、導電性布帛1における導電糸200が存在している領域(センサ等の導電部として機能し得る領域)においての、経方向及び緯方向の少なくとも一方における単位長さあたりの導電糸200の本数(a)と、非導電糸300の本数(b)との比である。具体的には、上記比(a:b)は、導電性布帛1において、導電糸200を含むように選択した任意の十箇所の経30mm×緯30mmの正方形(角型)の領域について、夫々、経方向及び緯方向の少なくとも一方における導電糸200の本数(a)と非導電糸300の本数(b)とを計数し、各方向において導電糸200の本数(a)の平均値と非導電糸300の本数(b)の平均値とを算出し、算出された導電糸200の本数(a)の平均値と非導電糸300の本数(b)の平均値との比として得られるものである。このように、経方向及び緯方向の夫々において単位長さ(30mm)あたりの平均値の比が得られる。すなわち、上記比(a:b)は、経方向及び緯方向の少なくとも一方における単位長さ(30mm)あたりの導電糸200の本数(a)と、非導電糸300の本数(b)との平均値の比である。なお、導電性布帛1においては、導電糸200を偏って存在させず、分散させて存在させることが好ましい。
【0050】
<導電性布帛の特性>
図2(b)は、導電性布帛1に荷重が付与されている状態を示す。
図2(b)に示すように、布帛10の経方向及び緯方向の少なくとも一方(
図2(b)の例示では緯方向)に荷重Fが付与されると、導電性布帛1は、
図2(a)に示す無荷重状態から、
図2(b)に示すように荷重方向に伸長する。これにより、導電性布帛1の長さが、無荷重状態の長さ(例えば後述するチャック間隔に相当する長さとすることができる。)K1(
図2(a)参照)から伸長し、長さK2(
図2(b)参照)となる。荷重の付与が解除されると、導電性布帛1は荷重方向に収縮し、無荷重状態に戻る。導電性布帛1の長さは、長さK2(
図2(b)参照)から収縮し、長さK1(
図2(a)参照)に戻る。導電性布帛1は、5N定荷重伸長率(すなわち、荷重Fとして5Nの荷重が付与されたときの伸長率)が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。導電性布帛1の5N定荷重伸長率が20%以上であることにより、導電性布帛1は、伸縮性がより高められたものとなる。5N定荷重伸長率の上限は、特に限定されず、適宜設定することができ、例えば100%とすることができる。
【0051】
5N定荷重伸長率は、荷重が付与されていない状態での導電性布帛1の長さK1と、5Nの荷重が付与された状態での導電性布帛1の長さK2とを用いて、下記式(1)で表される。
5N定荷重伸長率(%) = (K2-K1)/K1 × 100 ・・・(1)
5N定荷重伸長率の測定方法は、後述する。
【0052】
導電性布帛1は、40%伸長時の抵抗値変動率が30%以下であることが好ましい。導電性布帛1の40%伸長時の抵抗値変動率が30%以下であることにより、導電性布帛1は、伸長の前後での抵抗値の変動が小さくなる(すなわち、伸縮に伴う抵抗値の変動が小さくなる)ため、導電安定性が高められたものとなる。これにより、例えば導電性布帛1をセンサに用いることで、当該センサの感度を向上することができる。導電性布帛1における40%伸長時の抵抗値変動率の下限は、特に限定されるものではないが、通常、5%程度である。40%伸長時の抵抗値変動率は、導電性布帛1を40%伸長させた前後での抵抗値の変動率(%)であり、後述する方法で測定される。
【0053】
導電性布帛1は、厚みが0.6mm以下であることが好ましく、0.5mm以下がより好ましい。導電性布帛1の厚みが0.6mm以下であることにより、導電性布帛1をセンサ等の別部材に内蔵させた際に、段差の発生を抑制することができる。例えば、導電性布帛1をステアリングホイール500のステアリングホイールセンサ等のセンサに内蔵させた際に、センサにおける段差の発生を抑制することができるため、導電性布帛1は、センサの触感に悪影響を与えないものとなる。導電性布帛1の厚みの下限は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができ、例えば0.1mmとすることができる。
【実施例】
【0054】
本発明の特徴構成を有する導電性布帛(実施例1~17)を作製し、各種測定及び評価を行った。また、比較のため、本発明の特徴構成を有しない導電性布帛(比較例1~4)を作製し、同様の測定及び評価を行った。測定及び評価項目は、破断伸度、5N定荷重伸長率、及び40%伸長時の抵抗値変動率とした。各項目について、以下、説明する。
【0055】
[破断伸度]
JIS L1013に準じ、引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-I/20kN-50kNオートグラフ)を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定した。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を示すときの試料糸長(cm)を求め、荷重を加える前の試料糸長(20cm)に対する伸び率(%)として算出し、これを5回繰り返し、5回測定の平均値を、破断伸度(%)として求めた。
【0056】
[5N定荷重伸長率]
布帛が織物からなる実施例1~15、比較例1~4の導電性布帛については、「JIS L1096 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.1 伸び率」のB法(織物の定荷重法)に準拠して5N定荷重伸長率を測定した。布帛が編物からなる実施例16~17の導電性布帛については、「JIS L1096 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.1 伸び率」のD法(編物の定荷重法)に準拠して5N定荷重伸長率を測定した。具体的には、導電性布帛から経150mm×緯25mmの試験片を採取する。引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-I/20kN-50kNオートグラフ)のチャック間隔が100mmになるよう設定し、試験片の上下(幅25mm)をクランプにて挟んで固定する。その後、5Nの荷重がかかるまで試験片を伸長した際のチャック間隔(伸長長さ)(mm)を測定し、下記式(2)に基づいて5N定荷重伸長率を算出した。
5N定荷重伸長率(%) = (5N荷重付与時のチャック間距離)/100 × 100 ・・・(2)
得られた5N定荷重伸長率を、下記の評価基準により評価した。
20%以上 :+ (良好)
10%以上20%未満:+-(やや不良)
10%未満 :- (不良)
【0057】
[40%伸長時の抵抗値変動率]
導電性布帛から経150mm×緯25mmの試験片を採取し、試験片の中央に50mmの間隔で銅箔テープを貼付することにより、マーキングを行った。引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-I/20kN-50kNオートグラフ)のチャック間隔が100mmになるよう設定し、試験片の上下(幅25mm)をクランプにて挟んで固定する。固定後、銅箔テープにmΩテスターを取り付け、マーキング距離間の抵抗値(Ω)を測定する(初期抵抗値、すなわち伸縮前の抵抗値)。その後、1分間あたり40mmの引張速度で試料を伸長し、伸長率が40%の地点にて伸長を停止する。伸長停止後、再度mΩテスターにてマーキング距離間の抵抗値(Ω)を測定し(40%伸長時の抵抗値)、下記式(3)に基づいて40%伸長時の抵抗変動率を算出した。
40%伸長時の抵抗値変動率(%) = (初期抵抗値-40%伸長時の抵抗値)/初期抵抗値 × 100 ・・・(3)
得られた40%伸長時の抵抗値変動率を、下記の評価基準により評価した。
30%以下:+(良好)
30%超 :-(不良)
【0058】
<実施例1>
ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)との2種類の糸を用いて捲縮加工された後、仮撚加工及びDDW加工(弛緩熱処理条件:160℃)が施されてなり、33dtex/24fである捲縮糸(商品名:TEXBRID、帝人フロンティア株式会社製)を芯糸として用いた。直径50μmのCu/Sn合金製の金属線を導電性鞘糸として用いた。この芯糸に導電性鞘糸を、巻数が1500(回/m)でシングルカバリングすることにより、表1に示す導電糸(カバリング糸)を得た。
【0059】
この導電糸と、上記芯糸と同種の糸である非導電糸とを、経糸及び緯糸として用い、組織が2/2綾織、糸密度が緯方向に120本/2.54cm、経方向に140本/2.54cmとなるように製織した。この製織において、上述した単位長さ(30mm)あたりの平均値の比として、緯方向における導電糸の本数(a)と、非導電糸の本数(b)との比(a:b)を1:30に設定し、経方向における導電糸の本数(a)と、非導電糸の本数(b)との比(a:b)を1:20に設定し、経方向及び緯方向のうち上述した単位面積(経30mm×緯30mm)あたりの導電糸の本数が多い方向(実施例1では経方向)における導電糸の間隔を3.6mmに設定した。また、導電性布帛の厚みを0.25mmに設定した。このようにして、表1に示すような構成を有する実施例1の導電性布帛を得た。実施例1の導電性布帛において、導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)は、表1に示すように1.9であった。
【0060】
<実施例2~15、比較例1~4>
導電糸における芯糸の素材、芯糸の繊度(すなわち直径)、芯糸の破断伸度、導電性鞘糸における金属線の素材、金属線の直径、金属線の破断伸度、非導電糸の素材、非導電糸の繊度(すなわち直径)、上記単位長さ(30mm)あたりの平均値の比としての経方向及び緯方向における各導電糸の本数(a)と非導電糸の本数(b)との比(a/b)、導電性布帛の厚み、及び経方向及び緯方向のうち上記単位面積(経30mm×緯30mm)あたりの導電糸の本数が多い方向における導電糸の間隔を表1~3、5に示すように変更し、実施例1と同様の手順にて、実施例2~15、比較例1~4の導電性布帛を得た。なお、実施例10においては、導電糸の芯糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)との2種類の糸を用いて捲縮加工された後、仮撚加工のみが施され、DDW加工が施されていない捲縮糸を用いた。実施例2~15、比較例1~4の導電性布帛における導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)は、表1~3、5中に示す。
【0061】
<実施例16>
22dtex/1fのポリエチレンテレフタレート糸(東レ株式会社製)を芯糸として用いた。直径50μmのCu/Si合金製の金属線を導電性鞘糸として用いた。この芯糸に導電性鞘糸を、巻数が1000(回/m)でシングルカバリングすることにより、表4に示す導電糸(カバリング糸)を得た。
【0062】
この導電糸と、非導電糸(表組織の地糸、裏組織の地糸、及び連結糸)としての84dtex/36fのポリエチレンテレフタレート絶縁糸とを用い、26ゲージ/33インチの編機(株式会社福原精機製作所製)により、コース密度31(コース/25.4mm)、ウェル密度33(ウェル/25.4mm)の両面天竺二重編(丸編み)を編成した。この編成において、表組織の絶縁糸の一部に代えて上記で得られた導電糸を編み込み、この編み込みにおいて、上記単位長さ(30mm)あたりの平均値の比としての経方向における導電糸の本数(a)と、絶縁糸の本数(b)との比(a:b)を1:5に設定し、経方向における導電糸の間隔を4.0mmに設定した。また、導電性布帛の厚みを0.54mmに設定した。このようにして、表4に示すような構成を有する実施例16の導電性布帛を得た。実施例16の導電性布帛における導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)は、表4中に示す。
【0063】
<実施例17>
56dtex/36fのポリエチレンテレフタレート糸(南亜株式会社製)を芯糸として用いた。直径50μmのCu/Si合金製の金属線を導電性鞘糸として用いた。この芯糸に導電性鞘糸を、巻数が1000(回/m)でシングルカバリングすることにより、表4に示す導電糸(カバリング糸)を得た。
【0064】
この導電糸と、非導電糸としての110dtex/36fのポリエチレンテレフタレート絶縁糸とを用い、28ゲージ/33インチの編機(株式会社福原精機製作所製)により、コース密度33(コース/25.4mm)、ウェル密度35(ウェル/25.4mm)のスムース編み(丸編み)を編成した。この編成において、絶縁糸の一部に代えて上記で得られた導電糸を編み込み、この編み込みにおいて、上記単位長さ(30mm)あたりの平均値の比としての経方向における導電糸の本数(a)と、絶縁糸の本数(b)との比(a:b)を1:2に設定し、経方向における導電糸の間隔を3.0mmに設定した。また、導電性布帛の厚みを0.60mmに設定した。このようにして、表4に示すような構成を有する実施例17の導電性布帛を得た。実施例17の導電性布帛における導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)は、表4中に示す。
【0065】
実施例1~17の導電性布帛、及び比較例1~4の導電性布帛の構成、並びに、測定結果、及び評価結果を表1~5に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)が1.0~2.6であり、かつ布帛の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において導電糸の本数(a)と、非導電糸の本数(b)との比(a:b)が1:2~1:40である実施例1~17の導電性布帛は、何れも、5N定荷重伸長率が20%以上であり、伸縮性が優れるものであった。実施例1~17の導電性布帛は、何れも、40%伸長時の抵抗値変動率が30%以下であり、伸縮に伴う抵抗値の変動が抑制されたもの(導電安定性に優れたもの)であった。また、実施例1~17の結果、芯糸の破断伸度が70%以上であることにより、5N定荷重伸長率を20%以上、40%伸長時の抵抗値変動率を30%以下とし得ることが示された。また、実施例1~17の結果、芯糸の直径は125μm以下が好ましいこと、導電性鞘糸の金属線の直径は20~80μm以下が好ましいこと、導電糸における導電性鞘糸の巻数は1000~3000回/mが好ましいこと、非導電糸の直径は125μm以下が好ましいこと、経方向及び緯方向のうち単位面積あたりの導電糸の本数が多い方向における導電糸の間隔は5mm以下が好ましいことが示された。また、DDW加工が施された芯糸(実施例1~9、11~15)は、DDW加工が施されていない芯糸(実施例10)よりも破断伸度が大きいことも示された。また、編物からなる実施例16~17の導電性布帛においても、織物からなる実施例1~15の導電性布帛と同様の効果が得られることが示された。
【0072】
これに対し、導電糸の本数(a)と、非導電糸の本数(b)との比(a:b)が布帛の経方向及び緯方向の何れにおいても1:2~1:40の範囲外である(導電糸の本数が非導電糸の本数に対して少な過ぎる)比較例1は、40%伸長時抵抗値変動率が30%を超えており、伸縮に伴う抵抗値の変動が抑制されていないものであった。上記本数比(a:b)が布帛の経方向及び緯方向の何れにおいても1:2~1:40の範囲外である(導電糸の本数が非導電糸の本数に対して多過ぎる)比較例2は、5N定荷重伸長率が10%未満であり、伸縮性が極めて劣っているものであった。また、比較例2は、40%伸長時の抵抗値変動率を測定する際に導電性布帛が破断したため、測定不能であり、導電性布帛として機能するために必要な伸縮時の導電性が付与されていないものであった。導電糸の直径(D1)と、非導電糸の直径(D2)との比(D1/D2)が2.6超である比較例3は、5N定荷重伸長率が20%未満であり、伸縮性が劣るものであった。上記比(D1/D2)が1.0未満である比較例4は、40%伸長時の抵抗値変動率が30%超であり、伸縮に伴う抵抗値の変動が抑制されていないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の導電性布帛は、例えば、ステアリングホイール等の車輛の内装品、上着、ズボン、手袋等の衣料品、マッサージチェア、介護ベッド等の健康・医療器具、椅子、ソファー等の家具などにおけるセンサとして利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 導電性布帛
10 布帛
200 導電糸
210 芯糸
220 導電性鞘糸
300 非導電糸
D1 導電糸の直径
D2 非導電糸の直径
K1 無荷重時の導電性布帛の長さ
K2 荷重付与時の導電性布帛の長さ
F 荷重
S1 導電糸の間隔(経方向)
S2 導電糸の間隔(緯方向)
【要約】
伸縮性及び導電安定性に優れた導電性布帛を提供する。導電糸200と、非導電糸300とを含む織物又は編物からなる導電性布帛1であって、導電糸200は、伸縮性を有する芯糸210に金属線を含む導電性鞘糸220が巻回されたカバリング糸であり、非導電糸300は、伸縮性を有するマルチフィラメント糸であり、導電糸200の直径(D1)と、非導電糸300の直径(D2)との比(D1/D2)は、1.0~2.6であり、導電糸200の本数(a)と、非導電糸300の本数(b)との比(a:b)は、導電性布帛の経方向及び緯方向の少なくとも何れか一方において1:2~1:40である。