(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】工程支援装置、工程支援方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230628BHJP
B21B 99/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B21B99/00
(21)【出願番号】P 2019118208
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 幾太郎
(72)【発明者】
【氏名】枚田 優人
(72)【発明者】
【氏名】足立 巧
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-134888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
B21B 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程に関する数値を
前記数値の区切り設定に従ってセグメント化した
基準テーブルの各セルに対して規定される
許容度を含むデータを入力する基準データ入力部と、
前記工程における前記数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、
前記実績値を前記
区切り設定に従ってセグメント化する
ことによって実績テーブルを生成するセグメント化部と、
前記
実績テーブルの各セルを前記
基準テーブルの各セルに対して規定された前記許容度と比較する比較部と、
前記比較部による比較の結果を可視化する可視化部と
を備える工程支援装置。
【請求項2】
前記可視化された比較の結果を参照したユーザの操作を受け付ける操作部と、
前記操作に従って
前記基準テーブルの各セルに対して規定された前記
許容度を含むデータを更新する基準データ更新部と
をさらに備える、請求項1に記載の工程支援装置。
【請求項3】
前記数値は、第1の数値と第2の数値とを含み、
前記
区切り設定は、第1の
区切り設定と第2の
区切り設定とを含み、
前記
許容度は、前記第1の数値を前記第1の
区切り設定に従ってセグメント化した第1の基準要素と、前記第2の数値を前記第2の
区切り設定に従ってセグメント化した第2の基準要素とによって構成される
前記基準テーブルの各セルに対して規定され、
前記実績値は、前記第1の数値に対応する第1の実績値と、前記第2の数値に対応する第2の実績値とを含み、
前記セグメント化部は、前記第1の実績値を前記第1の
区切り設定に従ってセグメント化した第1の実績要素と、前記第2の実績値を前記第2の
区切り設定に従ってセグメント化した第2の実績要素とによって構成される
前記実績テーブルを生
成する、請求項1または請求項2に記載の工程支援装置。
【請求項4】
前記可視化部は、前記比較部による比較の結果を前記基準テーブルおよび前記実績テーブルと共通のセル構成を有する比較結果テーブルとして可視化する、請求項3に記載の工程支援装置。
【請求項5】
前記工程は、コイルを圧延する熱間圧延工程であり、
前記第1の数値および前記第1の実績値は、前記熱間圧延工程の製造スケジュールにおける第1のコイルのコイル幅であり、
前記第2の数値および前記第2の実績値は、前記製造スケジュールで前記第1のコイルの次に圧延される第2のコイルのコイル幅であり、
前記第1の
区切り設定および前記第2の
区切り設定は、前記コイル幅の区切り設定であり、
前記
許容度は、前記基準テーブルの各セルの前記製造スケジュールにおける許容度を示す、請求項3または請求項4に記載の工程支援装置。
【請求項6】
前記
許容度は、前記熱間圧延工程を少なくとも製造スケジュールにおける始圧区間と通常区間とで分類した複数のカテゴリについてそれぞれ規定され、
前記セグメント化部は、前記実績値を前記複数のカテゴリごとにセグメント化し、
前記比較部は、前記複数のカテゴリごとに前記セグメント化された前記実績値を前記
許容度と比較する、請求項5に記載の工程支援装置。
【請求項7】
工程に関する数値を
前記数値の区切り設定に従ってセグメント化した
基準テーブルの各セルに対して規定される
許容度を含むデータを入力する基準データ入力部と、
前記工程における前記数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、
前記実績値を前記
区切り設定に従ってセグメント化する
ことによって実績テーブルを生成するセグメント化部と、
前記
実績テーブルの各セルを前記
基準テーブルの各セルに対して規定された前記許容度と比較する比較部と、
前記比較部による比較の結果に従って
前記基準テーブルの各セルに対して規定された前記
許容度を含むデータを更新する基準データ更新部と、
を備える工程支援装置。
【請求項8】
前記
許容度は
、前記工程を分類した複数のカテゴリについてそれぞれ規定され、
前記セグメント化部は、前記実績値を前記複数のカテゴリごとにセグメント化し、
前記比較部は、前記複数のカテゴリごとに前記セグメント化された前記実績値を前記
許容度と比較する、請求項1から請求項4または請求項7のいずれか1項に記載の工程支援装置。
【請求項9】
前記セグメント化された前記実績値について、セグメントごとの度数分布から閾値を算出する閾値算出部をさらに備え、
前記比較部は、前記セグメント化された前記実績値の前記閾値による判定結果を前記
許容度と比較する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の工程支援装置。
【請求項10】
工程に関する数値を
前記数値の区切り設定に従ってセグメント化した
基準テーブルの各セルに対して規定される
許容度を含むデータを入力する基準データ入力ステップと、
前記工程における前記数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力ステップと、
前記実績値を前記
区切り設定に従ってセグメント化する
ことによって実績テーブルを生成するセグメント化ステップと、
前記
実績テーブルの各セルを前記
基準テーブルの各セルに対して規定された前記許容度と比較する比較ステップと、
前記比較の結果を可視化する可視化ステップと
を備える工程支援方法。
【請求項11】
工程に関する数値を
前記数値の区切り設定に従ってセグメント化した
基準テーブルの各セルに対して規定される
許容度を含むデータを入力する基準データ入力ステップと、
前記工程における前記数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力ステップと、
前記実績値を前記
区切り設定に従ってセグメント化する
ことによって実績テーブルを生成するセグメント化ステップと、
前記
実績テーブルの各セルを前記
基準テーブルの各セルに対して規定された前記許容度と比較する比較ステップと、
前記比較ステップによる比較の結果に従って
前記基準テーブルの各セルに対して規定された前記
許容度を含むデータを更新する基準データ更新ステップと
を備える工程支援方法。
【請求項12】
工程に関する数値を
前記数値の区切り設定に従ってセグメント化した
基準テーブルの各セルに対して規定される
許容度を含むデータを入力する基準データ入力部と、
前記工程における前記数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、
前記実績値を前記
区切り設定に従ってセグメント化する
ことによって実績テーブルを生成するセグメント化部と、
前記
実績テーブルの各セルを前記
基準テーブルの各セルに対して規定された前記許容度と比較する比較部と、
前記比較部による比較の結果を可視化する可視化部と
としてコンピュータを動作させるためのプログラム。
【請求項13】
工程に関する数値を
前記数値の区切り設定に従ってセグメント化した
基準テーブルの各セルに対して規定される
許容度を含むデータを入力する基準データ入力部と、
前記工程における前記数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、
前記実績値を前記
区切り設定に従ってセグメント化する
ことによって実績テーブルを生成するセグメント化部と、
前記
実績テーブルの各セルを前記
基準テーブルの各セルに対して規定された前記許容度と比較する比較部と、
前記比較部による比較の結果に従って
前記基準テーブルの各セルに対して規定された前記
許容度を含むデータを更新する基準データ更新部と、
としてコンピュータを動作させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程支援装置、工程支援方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業などの製造業では、工程における設定値や計測値などについて基準が規定されていることが一般的である。このような基準は、多くの場合、品質を担保したり、工程を円滑に進めたりするために用意されている。例えば、鉄鋼業の圧延工場においてスラブなどの鋼材を熱間圧延する際には、隣接する鋼材の有する属性(幅、厚み、硬度など)の変化が小さくなるように鋼材圧延順序を決定できるように、コイル幅差やコイル厚み差などの移行量について基準が規定されている。特許文献1においては、作成するスケジューリング対象について、圧延制約マスターとして登録された製造標準情報を元に制約違反をチェックする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、あらかじめ圧延制約マスターに、規制内容を登録する。登録の際は、規制内容を指定された構文で記載し、構文解析を行った上で、構文木を作成し、その構文木に基づいて制約チェックを行っている。しかしながら、これらの圧延制約については、明文化し、指定された構文で記載することが必要である。一般的に、圧延制約マスターにおける数値は、様々な条件で層別された上で、適切な間隔で分割され、定義されている(以下、セグメント化と称する)。この条件が細分化された場合においては、圧延制約マスターの登録、管理に労力がかかる問題点は解消されていない。そのため、これらを人が定期的に見直し、新たに人が定めた製造順序作成ノウハウを組み込み、継続的にテーブルを更新することは毎回大きな労力が発生するため、実施が困難であるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、工程に関する基準が細分化されていても、容易にその基準を見直すことを可能にする工程支援装置、工程支援方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある観点によれば、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータを入力する基準データ入力部と、工程における数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、実績値を条件に従ってセグメント化するセグメント化部と、セグメント化された実績値を基準と比較する比較部と、比較部による比較の結果を可視化する可視化部とを備える工程支援装置が提供される。
また、本発明のある観点によれば、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータを入力する基準データ入力部と、工程における数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、実績値を条件に従ってセグメント化するセグメント化部と、セグメント化された実績値を基準と比較する比較部と、比較部による比較の結果に従って基準を含むデータを更新する基準データ更新部とを備える工程支援装置が提供される。
【0007】
本発明の別の観点によれば、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータを入力する基準データ入力ステップと、工程における数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力ステップと、実績値を条件に従ってセグメント化するセグメント化ステップと、セグメント化された実績値を基準と比較する比較ステップと、比較の結果を可視化する可視化ステップとを備える工程支援方法が提供される。
また、本発明の別の観点によれば、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータを入力する基準データ入力ステップと、工程における数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力ステップと、実績値を条件に従ってセグメント化するセグメント化ステップと、セグメント化された実績値を基準と比較する比較ステップと、比較ステップによる比較の結果に従って基準を含むデータを更新する基準データ更新ステップとを備える工程支援方法が提供される。
【0008】
本発明のさらに別の観点によれば、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータを入力する基準データ入力部と、工程における数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、実績値を条件に従ってセグメント化するセグメント化部と、セグメント化された実績値を基準と比較する比較部と、比較部による比較の結果を可視化する可視化部と、としてコンピュータを動作させるためのプログラムが提供される。
また、本発明のさらに別の観点によれば、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータを入力する基準データ入力部と、工程における数値の実績値を含むデータを入力する実績データ入力部と、実績値を条件に従ってセグメント化するセグメント化部と、セグメント化された実績値を基準と比較する比較部と、比較部による比較の結果に従って基準を含むデータを更新する基準データ更新部と、としてコンピュータを動作させるためのプログラムが提供される。
【0009】
上記の構成によれば、実績値が基準と同じ条件に従ってセグメント化されるため、工程に関する基準が細分化されていても、容易にその基準を見直すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】熱間圧延工程における製造スケジュールを概念的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る工程支援装置の概略的な構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る工程支援方法の概略的な工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図3の例における基準データの一例を示す図である。
【
図5】
図3の例における実績データの一例を示す図である。
【
図6】
図3の例における閾値の算出方法の一例を示すグラフである。
【
図7A】
図6に示された閾値の算出方法で各カテゴリの閾値を算出した例を示すグラフである。
【
図7B】
図6に示された閾値の算出方法で各カテゴリの閾値を算出した例を示すグラフである。
【
図7C】
図6に示された閾値の算出方法で各カテゴリの閾値を算出した例を示すグラフである。
【
図7D】
図6に示された閾値の算出方法で各カテゴリの閾値を算出した例を示すグラフである。
【
図8】
図3の例における実績値の閾値による判定結果の一例を示す図である。
【
図9】
図3の例において可視化された比較結果の例を示す図である。
【
図10】
図9に例示された比較結果に関連付けて可視化される詳細情報の例を示す図である。
【
図11】
図10に例示された詳細情報からさらに展開して可視化される情報の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
以下では、スラブからコイルを製造する熱間圧延工程を含む製造工程における工程支援装置、工程支援方法およびプログラムの実施形態を例として説明するが、本発明は熱間圧延工程を含む工程に限らず、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して基準が規定される様々な工程において適用可能である。
【0013】
図1は、熱間圧延工程における製造スケジュールを概念的に示す図である。
図1は、圧延する予定順にコイル(長方形)を並べた図であり、左端のコイルが最初に圧延され、右端のコイルが最後に圧延されることを示している。また、各長方形の長辺をコイル幅として表している。図示された例において、熱間圧延工程のスケジュールは、始圧区間と通常区間とを含む。始圧区間は、圧延ロールの慣らしを目的とした区間であり、原則として徐々にコイル幅が広がるようにコイルが配列される(正移行)。ただし、始圧区間でも、例外的にコイル幅が狭まるコイルの配列が現れる場合がある(逆移行)。一方、通常区間は、始圧区間が最大コイル幅に到達した後の区間である。通常区間では、コイルの幅方向端部でのロール摩耗を考慮し、原則として徐々にコイル幅が狭まるようにコイルが配列される(正移行)。ただし、通常区間でも、例外的にコイル幅が広がるコイルの配列が現れる場合がある(逆移行)。始圧区間および通常区間のそれぞれにおいて、正移行および逆移行の場合のコイル幅およびコイル厚みの変更量には上限値が規定されている。上限値は、例えばコイルの材質やコイル幅、コイル厚みなどの属性に応じて規定されている。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態に係る工程支援装置の概略的な構成を示す図である。
図2に示される工程支援装置100は、メインフレームやオープン系システムなどの大型計算機、またはパーソナルコンピュータなどの情報処理装置によって構成される。基準データ1および実績データ2は、例えばオペレータによる操作や定期的に実行される自動取り込み指示などによってROMやRAMなどの各種メモリ、ハードディスク、またはCD-ROMなどの記録媒体に格納される。基準データ入力部110は基準データ1を入力し、基準データ1は条件抽出部120の処理に利用される。一方、実績データ入力部210は実績データ2を入力し、実績データ2はセグメント化部220の処理に利用される。セグメント化部220の処理には、条件抽出部120の処理結果も利用される。閾値算出部230は、セグメント化部220の処理結果を利用する。比較部130は、閾値算出部230および条件抽出部120の処理結果に基づいて比較を実行し、比較の結果は可視化部140によって可視化されてディスプレイ4に出力される。ディスプレイ4に出力された情報に基づいてユーザが操作装置5に対して実行する操作を操作部150が受け付け、基準データ更新部160が基準データ1を更新する。一方、閾値算出部230が算出した閾値は、閾値保存部240によって閾値データ3として保存される。
【0015】
なお、基準データ1、実績データ2および閾値データ3は、他の情報処理装置において格納され、LANやインターネットなどの電気通信回線を用いた通信によって工程支援装置100に送信されてもよい。また、工程支援装置100の各部は、単一の情報処理装置によって実現される必要はなく、複数の情報処理装置に分散して実現されてもよい。具体的には、例えば、基準データ入力部110、条件抽出部120、比較部130、可視化部140、操作部150および基準データ更新部160と、実績データ入力部210、セグメント化部220、閾値算出部230、および閾値保存部240とは、それぞれ異なる情報処理装置によって実現されてもよい。1または複数の情報処理装置(コンピュータ)を、基準データ入力部110、条件抽出部120、比較部130、可視化部140、操作部150および基準データ更新部160と、実績データ入力部210、セグメント化部220、閾値算出部230、および閾値保存部240としで動作させるためのプログラムが提供されてもよい。
【0016】
図3は、本発明の一実施形態に係る工程支援方法の概略的な工程を示すフローチャートである。
図3に示された処理は、例えば、熱間圧延処理の基準データを更新するタイミングで実行される。図示された例では、まず、基準データ入力ステップS110において、基準データ入力部110は、基準データ1を記録媒体から読み出して入力する。ここで、基準データ1は、工程に関する数値を所定の条件に従ってセグメント化したものに対して規定される基準を含むデータである。例えば、工程が熱間圧延工程である場合、基準データ1は、
図1に示したような熱間圧延工程のスケジュールにおいて、互いに連続して圧延されるコイルの属性に関する基準を含む。なお、セグメント化の例については後述する。
【0017】
図4は、
図3の例における基準データの一例を示す図である。図示された例では、熱間圧延工程の製造スケジュールにおける第1のコイル(前コイル)のコイル幅と、第1のコイルの次に圧延される第2のコイル(後コイル)のコイル幅との組合せごとに、製造スケジュールにおける許容度が規定されている。
図1の例でいえば、「i」で示されたコイルを前コイルとした場合、「j」で示されたコイルが後コイルになる。
図4に示された例において、基準は、工程に関する第1の数値である「前コイルのコイル幅」および第2の数値である「後コイルのコイル幅」を所定の条件(例えば200mmごとの区切り設定)に従ってセグメント化した第1の基準要素(前コイルのコイル幅が属する区切り)および第2の基準要素(後コイルのコイル幅が属する区切り)によって構成される基準テーブルの各セルに対して規定される。他の例では、第1の数値に対するセグメント化の条件(第1の条件)と第2の数値に対するセグメント化の条件(第2の条件)とが異なっていてもよい。この例において、基準は、基準テーブルの各セルの製造スケジュールにおける許容度を示す。
【0018】
上記のような
図4に示された基準テーブルを
図1に示した熱間圧延工程の製造スケジュールにおける通常区間のものとした場合、基準テーブルの左下半分のセルが正移行(前コイルのコイル幅に対して、後コイルのコイル幅が同じか小さい)を示し、右上半分のセルが逆移行(前コイルのコイル幅よりも後コイルのコイル幅が大きい)を示す。全体的な傾向として、正移行であり、かつコイル幅の移行量が小さいセルでは組み合わせが許容され(〇)、逆移行、および正移行であってもコイル幅の移行量が大きいセルでは組み合わせが許容されない(×)か、または許容されるが推奨されない(△)。具体的には、例えば、前コイルのコイル幅1400mmである場合、後コイルとしてコイル幅が800mmのコイルを組み合わせる逆移行は許容されないが(×)、コイル幅が1200mmや1400mmのコイルを組み合わせる正移行は許容される(〇)。また、コイル幅が1000mmのコイルを組み合わせる移行量の大きな正移行や、1600mmのコイルを組み合わせる移行量の小さな逆移行は、許容されるが推奨されない(△)。
【0019】
なお、
図4には7要素×7要素=49セルの単純化された基準テーブルが例示されているが、実際にはコイル幅の区切り設定をより細かくしたり、他の条件を組み合わせたりすることによって数千セルの基準テーブルが定義される場合もある。また、
図4の例では製造スケジュールにおける許容度が〇、△、×の3階級で規定されたが、より多い、またはより少ない階級、または数値で許容度が規定されてもよい。
【0020】
また、上記では
図4に示された基準テーブルを製造スケジュールにおける通常区間のものとしたが、始圧区間についての基準テーブルも別途提供されうる。このように、基準データ1に含まれる基準は、数値(コイル幅)をセグメント化するための条件とは異なる条件(第3の条件)に従って工程を分類した複数のカテゴリについてそれぞれ規定されてもよい。
【0021】
再び
図3を参照して、次に、条件抽出ステップS120において、条件抽出部120が、ステップS110で入力された基準データ1からセグメント化のための条件を抽出する。上記で
図4に例示した基準テーブルでは、工程に関する第1の数値である「前コイルのコイル幅」および第2の数値である「後コイルのコイル幅」が所定の条件(200mmごとの区切り設定)に従ってセグメント化されている。例えば、条件抽出部120は、基準データ1にセグメント化のための条件自体が記述されていない場合であっても、上記の基準テーブルのような基準のデータから条件を特定する。
【0022】
次に、実績データ入力ステップS130において、実績データ入力部210は、実績データ2を記録媒体から読み出して入力する。ここで、実績データ2は、基準データ1に含まれる基準が規定されている数値の実績値を含むデータである。例えば、実績データ2は、
図1に示したような熱間圧延工程のスケジュールにおいて、実績として互いに連続して圧延されたコイルの属性を示す値を含む。ここで、
図4に例示されたように基準データ1において基準が数値を条件に従ってセグメント化したものに対して規定されるのに対して、実績データ2に含まれる実績値は、ステップS130で取得された時点ではセグメント化されていない。
【0023】
図5は、
図3の例における実績データの一例を示す図である。図示された例において、実績データ2は、コイルID(コイルごとにユニークなID)、コイル幅、コイル厚み、炭素量(材質または化学成分を示す情報)、加工性(易製造材、通常材、難製造材)、圧延ロットID(どのロットで圧延されたか)、圧延順序(圧延ロット内の順序)、および部位(始圧区間(S)か通常区間(N)かを識別するための区分値)を含む。なお、
図5の例は単純化されているが、実績データ2はさらに多くの情報を含みうる。実績データ2はコイル幅の実績値を含むが、この時点ではコイル幅は
図4に示された基準テーブルのようにセグメント化(具体的には、200mmごとの区切りに分ける)されていない。
【0024】
再び
図3を参照して、次に、幅セグメント化ステップS140において、セグメント化部220が、ステップS120で条件抽出部120が抽出した条件に従って、ステップS130で入力された実績データ2に含まれる基準に係る数値の実績値をセグメント化する。
図5に示された熱間圧延工程の例では、工程に関する第1の実績値である「前コイルのコイル幅」および第2の実績値である「後コイルのコイル幅」を所定の条件(200mmごとの区切り設定)に従ってセグメント化した第1の実績要素(前コイルのコイル幅が属する区切り)および第2の実績要素(後コイルのコイル幅が属する区切り)によって構成される実績テーブルが生成される。他の例では、第1の実績値に対するセグメント化の条件(第1の条件)と第2の実績値に対するセグメント化の条件(第2の条件)とが異なっていてもよい。なお、ステップS140で生成される実績テーブルは、
図4と同様のテーブルであるが、この段階では各セルにデータは存在しない。
【0025】
上述のように、基準テーブルが複数のカテゴリについてそれぞれ規定される場合、セグメント化もカテゴリごとに実行される。つまり、上記の例において、セグメント化部220は、前コイルおよび後コイルのそれぞれのコイル幅を、始圧区間および通常区間のそれぞれのカテゴリについてセグメント化し、カテゴリごとの実績テーブルを生成する。セグメント化の条件は、カテゴリごとに異なっていてもよい。
【0026】
次に、幅閾値算出ステップS150において、閾値算出部230が、ステップS140においてセグメント化された実績値について、セグメントごとの度数分布から閾値を算出する。具体的には、例えば、閾値算出部230は、コイル幅の移行量の度数分布における累積度数に応じて1または複数の閾値を算出する。これらの閾値による判定結果は、例えば基準データ1における許容度に対応する。例えば、セグメントごとの累積度数分布から閾値を算出する場合、通常実施される範囲の限界を示す閾値(例えば、累積度数95%)、およびまれに実施される範囲の限界を示す閾値(例えば、累積度数99%)を算出することができる。
【0027】
図6は、
図3の例における閾値の算出方法の一例を示すグラフである。
図6に示されるように、一般に、コイル幅の移行量、すなわち互いに連続して圧延される前コイルと後コイルのコイル幅の差は、小さいほど度数が高く、大きくなるにつれて度数が減少する右肩下がりの分布を示す。ここで、上記で
図1を参照して説明したように、熱間圧延工程の製造スケジュールには始圧区間と通常区間とが存在し、これらの間では含まれるコイル数に差があるのに加えて、コイル幅移行量の向き(正負)が逆になる。また、コイル幅の移行には正移行と逆移行が存在し、頻度は逆移行よりも正移行の方が多い。これらの点を考慮すると、以下で説明するように、始圧区間および通常区間のそれぞれについて正移行および逆移行の合計4つのカテゴリの閾値を算出することが好ましい。
【0028】
図7A~
図7Dは、
図6に示された閾値の算出方法で、始圧区間および通常区間のそれぞれについて正移行および逆移行の合計4つのカテゴリの閾値を算出した例を示すグラフである。
図7Aには通常区間の正移行が、
図7Bには通常区間の逆移行が、
図7Cには始圧区間の正移行が、
図7Dには始圧区間の逆移行が、それぞれ例示されている。
【0029】
図8は、
図3の例における実績値の閾値による判定結果の一例を示す図である。
図8に示された例では、累積度数95%以下を通常実施される範囲(〇)とし、95%を超え99%以下の領域をまれに実施される範囲(△)、累積度数が99%を超える領域を実施されない範囲(×)として判定結果を決定している。閾値算出部230、または後述する比較部130は、ステップS120で生成された実績テーブルの各セルについて、上記のような判定結果を決定し、格納する。
【0030】
再び
図3を参照して、次に、幅閾値保存ステップS160において、閾値保存部240が、ステップS150で算出された閾値を閾値データ3として保存する。例えば、保存された閾値は、次回以降に入力された実績データの判定に利用される。
【0031】
次に、幅比較ステップS170において、比較部130が、ステップS140でセグメント化された実績値を、基準データ1に規定される基準と比較する。より具体的には、比較部130は、
図8で例示された実績テーブルの各セルの閾値による判定結果を、
図4で例示された基準テーブルの各セルに対して規定された基準(許容度)と比較する。続く可視化ステップS180において、可視化部140が比較部130による比較の結果を可視化してディスプレイ4に出力する。
【0032】
図9は、
図3の例において可視化された比較結果の例を示す図である。
図9に示された例では、比較部130による比較の結果が、
図4で例示された基準テーブルおよび
図8で例示された実績テーブルと共通のセル構成を有する比較結果テーブルとして可視化されている。より具体的には、
図9に例示された比較結果テーブルにおいて、第1の要素は200mmごとに区切られた前コイルのコイル幅であり、第2の要素は同じく200mmごとに区切られた後コイルのコイル幅である。これらの要素によって構成される比較結果テーブルの各セルには、基準テーブルおよび実績テーブルの対応するセルを比較した結果がアイコンによって表示される。
【0033】
例えば、
図9に示された比較結果テーブルでは、基準テーブルおよび実績テーブルの対応するセルにおける基準および判定結果が一致している場合(いずれも〇、いずれも×、またはいずれも△)は、アイコンが表示されない。基準テーブルおよび実績テーブルの対応するセルにおける基準および判定結果が一致していない場合は、アイコンが表示される。例えば、前コイルのコイル幅1400mm、後コイルのコイル幅1000mmのセルでは、
図4に示した基準テーブルで規定された基準が△(好ましくないが許容される)であるのに対して、
図8に示した実績テーブルにおける判定結果が×(実施されない範囲)であるため、アイコン(△/×)が表示される。一方、前コイルのコイル幅1200mm、後コイルのコイル幅1400mmのセルでは、
図4に示した基準テーブルで規定された基準が×(許容されない)であるのに対して、
図8に示した実績テーブルにおける判定結果が△(まれに実施される)であるため、アイコン(×/△)が表示される。
【0034】
ここで、上述の通り、実際には数千セルの基準テーブルが定義される場合があり、そのような場合には実績テーブルおよび比較結果テーブルも数千セルになる。このような場合において、可視化部140は、基準テーブルおよび実績テーブルにおける基準および判定結果が一致していないセルが発見されやすくなるような態様で比較結果を可視化してディスプレイ4に出力してもよい。具体的には、例えば、可視化部140は、工程のカテゴリごとに生成された比較結果テーブルのうち、差分の検出箇所が多いテーブルを優先的にディスプレイ4に表示させてもよい。また、例えば、可視化部140は、各カテゴリのテーブルをディスプレイ4に表示させる前に、各カテゴリにおいて基準と判定結果とが一致していないセルの数を一覧表示してもよい。あるいは、可視化部140は、基準と判定結果とが一致していないセルのうち、乖離が大きいものを優先的にディスプレイ4に表示させてもよい(この場合、上記で
図9を参照して説明した例では、△/×のアイコンよりも○/×のアイコンが優先的に表示される)。
【0035】
上述のように、基準テーブルおよび実績テーブルが複数のカテゴリについてそれぞれ規定される場合、セグメント化もカテゴリごとに実行される。つまり、上記の例において、比較部130は、始圧区間および通常区間のそれぞれのカテゴリについて、基準テーブルの各セルに規定された基準と実績テーブルの各セルの判定結果とを比較する。
【0036】
図10は、
図9に例示された比較結果に関連付けて可視化される詳細情報の例を示す図である。詳細情報は、例えば、
図9に示した比較結果テーブルにおいて基準と判定結果とが一致していないことを示すアイコン(×/△など)を選択することによって、
図10に示すような詳細情報がディスプレイ4に表示される。図示された例において、詳細情報は、前コイルおよび後コイルのコイルID、コイル幅、およびコイル厚みと、後コイルの圧延順序および部位と、圧延ロットIDとを含む。このように可視化された詳細情報を参照したユーザは、基準では×(許容されない)とされながら実績では△(まれに実施される範囲)とされた圧延実績の前後コイルが、どのような共通の特徴を持つのか確認することができる。例えば、
図10では、コイル幅1200mm台-1400mm台で基準では許容されない関係にあるにもかかわらず実績では圧延されている前コイルおよび後コイルの組では、コイル厚みが7mmより厚いという特徴があることが確認できる。
【0037】
図11は、
図10に例示された詳細情報からさらに展開して可視化される情報の例を示す図である。
図11(A)および
図11(B)に示された例では、
図10の例で表示されている圧延ロットIDをディスプレイ4上で選択すると、対象のコイルが当該圧延ロットのどの部位に位置するかが表示され、ロット内でどのような経過をたどり圧延されたのかがわかる。このように可視化された情報を参照したユーザは、対象コイルより前に圧延されたコイルがどのような情報を持つか確認できる。例えば、
図11(A)においてコイル幅が逆移行で圧延されたコイルの前後では、
図11(B)に示されるようにロール摩耗が少ない易製造材が多いため、逆移行が発生しても問題なかったであろうという推測ができる。
【0038】
再び
図3を参照して、次に、基準データ更新ステップS190において、基準データ更新部160が基準データ1を更新する。具体的には、ステップS180で可視化された比較の結果を参照したユーザが、基準の更新内容を検討し、ユーザの操作を操作部150が受け付け、基準データ更新部160が受け付けられた操作に従って基準データ1を更新する。
【0039】
あるいは、基準データ更新部160は、更新内容によっては可視化を伴わず、つまり上記のステップS180をスキップして、比較部130による比較の結果に基づいて基準データ1の更新を実施してもよい。例えば、より厳しい基準に更新する場合(例えば
図9の例において△/×のアイコンが表示された部分)には、可視化を行わず自動的にテーブルの値を更新してもよい。また、基準を緩和する更新の場合(例えば
図9の例において×/△のアイコンが表示された部分)には、×(非許容)から△(非推奨)、または△(非推奨)から○(許容)の緩和をする場合(ただし、基準が○であるセルと隣接するセルに限る)であれば、可視化を行わず自動的にテーブルの値を更新してもよい。
【0040】
以上で説明したような構成によれば、条件抽出部120が基準における数値のカテゴリ化の条件を抽出し、この条件に従ってセグメント化部220が実績値をセグメント化するため、比較部130による基準と実績値との比較が容易になり、また比較結果を可視化部140が可視化したものも見易くなる。基準と実績値との比較が容易になることによって、実績値の基準からの逸脱を発見できる。また、基準が変更可能なものである場合には実績値を反映させて基準を更新したりすることができ、過去の製造順序作成ノウハウが組み込まれた基準を作成できる。
【0041】
また、閾値算出部230がセグメントごとの度数分布から閾値を算出することによって、実績値についても基準に対応する判定結果を得ることができ、比較部130による基準と実績値との比較結果を可視化部140がわかりやすい形で可視化(上記の例では、〇、△、×を用いたアイコン)することができる。
【0042】
なお、上記のステップS140~ステップS170は、コイル幅について実績値のセグメント化や閾値算出、基準との比較などを実行するステップとして説明されたが、
図3に示すように、コイル厚みについて同様に実績値のセグメント化や閾値算出、基準との比較などを実行するステップS240~S270が並行して実行され、ステップS180ではコイル幅およびコイル厚みの両方について比較結果が可視化されてもよい。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0044】
1…基準データ、2…実績データ、3…閾値データ、4…ディスプレイ、5…操作装置、100…工程支援装置、110…基準データ入力部、120…条件抽出部、130…比較部、140…可視化部、150…操作部、160…基準データ更新部、190…操作部、210…実績データ入力部、220…セグメント化部、230…閾値算出部、240…閾値保存部。