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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】混銑車の加熱装置
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/06 20060101AFI20230628BHJP
   F27D 7/02 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C21C1/06
F27D7/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019146301
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021025114
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】月ヶ瀬 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大谷 康彦
(72)【発明者】
【氏名】町田 和喜
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082449(JP,A)
【文献】特開2007-254864(JP,A)
【文献】特開2005-076065(JP,A)
【文献】実開昭52-170805(JP,U)
【文献】特開平09-031512(JP,A)
【文献】特開昭62-180009(JP,A)
【文献】特開2000-161862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/06
F27D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混銑車の内部を加熱する加熱装置であって、
一対のバーナーを備え、
前記バーナーは、溶銑を収容する前記混銑車の本体から外方に突出した受銑口の内部において、火炎の噴出口が前記受銑口の端縁よりも内側且つ前記本体よりも外側に配置され、且つ、前記バーナーの火炎が前記受銑口と前記本体との境界の角部に直接当たらない方向に火口を向けて配置されていることを特徴とする、混銑車の加熱装置。
【請求項2】
前記一対のバーナーは、それぞれ、火炎が前記混銑車の長手方向両側に向かうように傾斜を有して配置されている、請求項1に記載の混銑車の加熱装置。
【請求項3】
前記バーナーは、火炎が下方に向かうように、先端が下方に向けられていることを特徴とする、請求項2に記載の混銑車の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車の内部を加熱する加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、高炉で製造された溶銑は、混銑車で製鋼工場まで搬送される。混銑車は、単に溶銑の搬送装置として、あるいは、搬送される間、脱リン、脱珪、脱硫処理等の溶銑の予備処理が行われる処理容器として用いられる。混銑車に高温の溶銑を収容するため、混銑車の内壁は耐火物で構成されている。
【0003】
通常、製鉄所内で稼働している混銑車は、溶銑を受け入れるために高炉の溶銑排出部付近で待機するもの、溶銑を収容して製鋼工場へ搬送途中のもの、溶銑を製鋼工場の転炉鍋等に排出した後再び高炉に戻るものがあり、このうち何台かは、非常時の予備用として、処理される溶銑量に対して多めに配置されたものである。このような予備用の混銑車は、例えば製鋼工場内にトラブルが発生し、製鋼工場で溶銑を受け入れられなくなったときに、高炉から出銑し続ける溶銑を受け入れるために必要とされている。
【0004】
従来、この予備用の混銑車は、高炉と製鋼工場との間を往復する稼働ラインに組み込まれている。しかしながら、予備用の混銑車を稼働ラインに組み込むことで、混銑車の回転率が低下し、それにより空の時間が長くなって混銑車内部の蓄熱量が低下するという問題がある。蓄熱量が低下すると、溶銑を受け入れて高炉から製鋼工場へ運搬する間に、溶銑の温度が大幅に下がったり、溶銑やスラグの一部が凝固して炉壁に付着し、炉容積を小さくしたりすることがある。さらに混銑車の内部の温度が低下すると、溶銑を受け入れたときに、混銑車内部の耐火物に急激な温度差が作用することにより、耐火物が破損するおそれがある。
【0005】
混銑車内部の温度低下を抑制するには、混銑車の回転率を向上させることが好ましく、そのためには、予備用の混銑車は、稼働ラインから外しておくことが好ましい。ところが、稼働している混銑車の場合は一定時間ごとに溶銑を受け入れることで内部の温度が一定以上に保たれるが、稼働ラインから完全に外してしまった場合、非常時に迅速に溶銑を受け入れ可能とするためには、常に一定の温度以上に保熱しておく必要がある。したがって、効率的に予備用の混銑車を加熱する方法が求められる。
【0006】
従来、混銑車内部の乾燥および予熱作業の際には、90°付近に傾動した混銑車の受銑口から内部にバーナーを装入して火炎及び燃焼ガスを供給し、混銑車内部の加熱を行っている。未使用の耐火物の乾燥を行う際にはこの方法で問題ないが、一度溶銑を搬送した混銑車の場合、内壁に地金やスラグ等が付着しているため、これをバーナーで加熱すると、付着物が剥がれ落ちてバーナーを損傷させるというリスクがある。
【0007】
そのため、特許文献1には、混銑車の内部にバーナーを装入することなく内部を加熱する加熱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-82449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1は、外側口縁にバーナーが設けられており、この位置から混銑車の長手方向両端部まで火炎が届くような方向にバーナーを傾斜させて設けると、火炎が混銑車の本体に到達する前に、受銑口と本体との境界の角部の不定形耐火物に直接火炎が当たり、角部の耐火物が破損することがある。また、角部に直接火炎が当たらないように、バーナーを傾斜させず受銑口の対向面に向けて火炎を放射すると、混銑車の当該対向面から反射された熱が受銑口から放出され、混銑車の長手方向両端部まで十分に熱が届かないという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、混銑車内部の予熱を行う際、加熱装置や混銑車の耐火物を破損することなく、効率よく加熱を行うことができる加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明は、混銑車の内部を加熱する加熱装置であって、一対のバーナーを備え、前記バーナーは、溶銑を収容する前記混銑車の本体から外方に突出した受銑口の内部において、火炎の噴出口が前記受銑口の端縁よりも内側且つ前記本体よりも外側に配置され、且つ、前記バーナーの火炎が前記受銑口と前記本体との境界の角部に直接当たらない方向に火口を向けて配置されていることを特徴とする。
【0012】
前記一対のバーナーは、それぞれ、火炎が前記混銑車の長手方向両側に向かうように傾斜を有して配置されていることが好ましい。また、前記バーナーは、火炎が下方に向かうように、先端が下方に向けられていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バーナーの先端を混銑車本体の内部まで装入しないので、混銑車の内壁に付着した付着物の脱落によりバーナーが破損することがなく、且つ、バーナーの火炎が混銑車内の受銑口と本体との境界の角部の耐火物に当たらないので、角部の耐火物の破損を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態にかかる加熱装置の使用時の配置を示す断面図である。
図2図1の加熱装置とその周辺の拡大図である。
図3】本発明の実施の形態にかかる加熱装置を用いた混銑車内の温度分布を示し、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
図4】本発明の異なる実施の形態にかかる加熱装置を用いた混銑車内の温度分布を示し、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
図5】本発明とは異なる加熱装置の比較例を用いた混銑車内の温度分布を示し、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
図6】本発明とは異なる加熱装置の別の比較例を用いた混銑車内の温度分布を示し、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
図7】従来の加熱装置を用いた混銑車内の温度分布を示し、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
図8図3の加熱装置の中心位置における断面図である。
図9図5の加熱装置の中心位置における断面図である。
図10図3図7の例による混銑車内の温度の標準偏差を比較したグラフである。
図11図3図7の例による混銑車内の最低温度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
図1および図2は、本発明の実施の形態にかかる加熱装置を説明する図であり、混銑車10の断面から見た配置を説明する図である。図1に示すように、混銑車10は、高炉で製造された溶銑を収容する略長筒状の本体11を有している。本体11は、長軸まわりに回転できる構造であり、長手方向両側に、先端に向けて径が小さくなる略円錐形のコニカル部を有している。また、長手方向中央部には、受銑口13が形成されている。受銑口13は、本体11から垂直外向きに延びる首部14を有している。本体11および首部14の内壁には、耐火物12が施工されている。なお、本明細書においては、混銑車の本体11の長手方向を左右方向、受銑口13を混銑車10の上方向、受銑口13の対向面を混銑車10の底部とする。ただし、受銑口13が真上よりも低い位置になるように混銑車10を傾けた方が内部の熱が逃げにくいため、加熱時には混銑車10を長軸まわりに例えば90°回転させることがある。
【0017】
加熱装置1は一対のバーナー2を備え、本実施の形態では、例えば図1図2に示すように、バーナー2は、受銑口13の上下方向および左右方向の略中央に配置される。バーナー2が受銑口13よりも本体11の内部に入り込むと、加熱時に、混銑車10の内壁の耐火物12に付着している付着物が剥がれ落ちてバーナー2を損傷させるというリスクがある。なお、受銑口13の首部14の耐火物にもスラグは付着するが、首部14のスラグは外部から重機を用いて容易に取り除くことができるため、バーナー2の損傷を防ぐことができる。バーナー2を受銑口13の端縁15あるいは受銑口13よりも外側に配置すると、バーナー2の火炎が、受銑口13の首部14と本体11との境界の角部16の不定形耐火物に直接当たり、耐火物が破損することがある。また、角部16に直接火炎が当たらないように火炎を下方に向けると、混銑車10の底部から反射された熱が受銑口13から放出され、長手方向両端部まで十分に熱が届かない。
【0018】
図1図2に示すように、バーナー2は、火炎がそれぞれ混銑車10の左右両側に向かうように、例えばθ=45°程度の角度を有して分岐している。一対のバーナー2は、好ましくは、例えば右側のバーナー2が左向きに、左側のバーナー2が右向きに火炎を放出するように配置される。これは、首部14と本体11との境界の角部16の不定形耐火物に火炎が直接当たらないための分岐角度をなるべく大きくし、これにより混銑車10の左右両側まで十分に加熱するためである。また、上記条件を満たした上で、バーナー2の先端にあたる火炎の噴出口は、図2に示すように、端縁15から寸法Dだけ内側寄りの位置に配置される。寸法Dは、混銑車10の端縁15から角部16までの寸法以下とすることが望ましい。さらに、各バーナー2の先端は、下方に向けられていることが好ましい。これは、火炎が上方に向かいやすいことから、混銑車10の下面まで均等に加熱するためである。バーナー2は、従来公知の各種バーナーを用いることができる。
【0019】
混銑車10の受銑口13は、混銑車10が単に搬送容器として用いられるものか、あるいは溶銑の予備処理が行われる処理容器を兼ねるかによって、太さ等の形状が異なる。したがって、バーナー2の設置位置は、首部14の形状や寸法に応じて設定される。すなわち、混銑車10の首部14の形状、バーナー2の分岐角度や火口等の仕様に応じて、火炎が角部16の耐火物に直接当たらないように、最適な位置を設定すれば良い。なお、一般に、混銑車内の乾燥を目的とする場合に用いられるバーナーは、先端が直角に曲がっており、混銑車内部の中央まで装入されて両端に火炎を向けるが、本発明で用いられるバーナー2は、受銑口13の内部に配置されても火炎が角部16に直接当たらないように、図2の角度θが90°よりも小さいものとされる。
【0020】
図3図7は、バーナー2の配置等による混銑車内部の温度分布をシミュレーションした結果を示し、濃淡が淡い方が高温であることを示す。なお、図3図7において、(a)は混銑車10の横断面、(b)は混銑車10の縦断面方向であるが、混銑車10を長軸まわりに90°回転させて加熱した状態を想定しており、各図に記載したように(a)の紙面上下方向が、加熱時の混銑車10の上下方向になっている。図3は、本発明の実施の形態に係るバーナー2の例であり、受銑口13の中央に一対のバーナー2を配置し、各バーナーからの火炎が角部16に直接当たらないように、45°に分岐している場合である。また、図4は、図3と同じ位置に配置したバーナー2の先端を下方に向けた場合である。一方、図5および図6は、バーナー2を受銑口13の端縁15に配置した場合であり、図5はバーナー2の分岐角度が45°、図6は分岐角度が30°である。さらに、図7は、バーナー2を混銑車10の本体11の内部まで装入し、バーナー2を左右両側に向けた場合である。
【0021】
図3図4に示すように、本発明の要件を満たす実施の形態においては、左右両側のコニカル部まで十分に加熱されていることがわかる。さらに、図4の場合には混銑車10の下部まで十分に加熱されていることがわかる。
【0022】
また、図8は、図3のバーナー2の中心位置における断面を示し、図9は、図5のバーナー2の中心位置の断面を示す。本発明の実施の形態である図8では、バーナー2の火炎が角部16に直接当たることがないのに対し、バーナー2を受銑口13の端縁15に配置すると、図9に示すように火炎が角部16に直接当たり、角部16の耐火物の破損が懸念される。一方、バーナー2の分岐角度を30°とした図6の場合は、火炎が角部16に当たらないものの、均等に加熱されていない。
【0023】
図10図11は、図3図7において、混銑車10内の温度の標準偏差、および、最低温度を(平均温度-2σ)と仮定して比較したものである。図10に示すように、本発明の要件を満たす実施の形態(実施例1、2)はいずれも、標準偏差が、図5に示す比較例1や図6に示す比較例2よりも明らかに低く、さらにバーナー2を本体11の内部まで装入した場合(従来例)よりも低い。また、平均温度は操業条件等で変動するものの、(平均温度-2σ)で表した最低温度については、図11に示すように、本発明の実施例1、2は、比較例1、2および従来例よりも高い。すなわち、本発明の実施例1、2は、混銑車内が均等に効率よく加熱されていることがわかる。これに対して、図5に示す比較例1および図6に示す比較例2では、全体が十分に加熱されないことがわかった。
【0024】
なお、上記実施の形態では、バーナー2を、受銑口13の中央に配置することとしたが、耐火物12に付着した付着物を外側から除去できる範囲であれば、受銑口13内の上下方向において中央よりも下方に配置してもよい。下方に向かうほど、バーナー2の分岐角度を大きくできるので、左右両側への加熱が有利になる。
【0025】
以上のように、本発明によれば、混銑車10の内部で剥がれ落ちた付着物によりバーナー2が損傷することがなく、且つ、混銑車10の長手方向両端部まで十分に加熱することができるので、非常時には迅速に溶銑の受け入れを行うことができる。したがって、予備用の混銑車を稼働ラインから外しておくことができるので、通常使用されている稼働ライン内の混銑車の回転率を向上させ、空の時間を短くして温度低下を抑制することができる。
【0026】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、混銑車の内部を乾燥および加熱する際の加熱装置として適用でき、特に、非常用として待機させる予備の混銑車を加熱する際の加熱装置として有用である。
【符号の説明】
【0028】
1 加熱装置
2 バーナー
10 混銑車
11 本体
12 耐火物
13 受銑口
14 首部
15 端縁
16 角部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11