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  • 特許-チタン合金板及び自動車用排気系部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】チタン合金板及び自動車用排気系部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20230628BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20230628BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640B
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019147378
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028408
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】岳辺 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 哲
(72)【発明者】
【氏名】西脇 想祐
(72)【発明者】
【氏名】塚本 元気
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/081077(WO,A1)
【文献】特開2016-199795(JP,A)
【文献】特開2016-079480(JP,A)
【文献】特開2018-001249(JP,A)
【文献】特開昭61-110756(JP,A)
【文献】特開2010-255026(JP,A)
【文献】特開2015-063720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Cu:0.7%以上1.5%以下、
Sn:0.5%以上1.5%以下、
Si:0.10%以上0.60%以下、
Nb:0.1%以上1.0%以下、
Al:0%以上1.0%以下、
Zr:0%以上1.0%以下を含有し、
更に、Cr,Moの一方または両方を合計で0~0.3%含有し、
Feを0.06%以下、Oを0.07%以下にそれぞれ制限し、
Ni、V、Mn、Co、Ta、W、C、Nの1種または2種以上を各々0~0.05%かつ合計で0.3%以下含有し、
残部がTi及び不純物であり、
金属組織において、面積率でα相の90%以上が等軸α粒であり、
前記α相の平均結晶粒径が10~100μmであり、
TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるとともに、RD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるか、または、TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であり、
TD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であり、
ND軸とc軸とのなす角が80~90°である結晶粒の面積率が15.0%未満であることを特徴とするチタン合金板。
【請求項2】
第二相の面積率が1.0%以上であることを特徴とする請求項1に記載のチタン合金板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のチタン合金板からなる、自動車用排気系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金板及び自動車用排気系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の排気装置には、エキゾーストマニホールド及びエキゾーストパイプが備えられている。エンジンから排出され、エキゾーストマニホールドによって集約された排気ガスは、エキゾーストパイプを介して車体後方の排気口から外部に排出される。エキゾーストパイプの途中には、触媒装置やマフラー(消音器)が配置されており、排ガスの浄化及び排気音の消音がなされる。本明細書では、エキゾーストマニホールドからエキゾーストパイプ、排気口までの全体を通して、「排気装置」と称する。また、排気装置を構成するエキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプ、触媒装置、マフラーなどの部品を「排気系部品」と称する。
【0003】
従来、四輪自動車や二輪自動車(以下、自動車等という)の排気装置の構成部材には、耐食性、高強度や加工性等に優れたステンレス鋼が使用されていたが、近年では、ステンレス鋼よりも軽量であり、高強度で耐食性にも優れるチタン材が使用されつつある。例えば、二輪自動車の排気装置には、JIS2種の工業用純チタン材が使われている。さらに、最近では、JIS2種の工業用純チタン材に代わって、より耐熱性が高いチタン合金が使用されつつある。
【0004】
特に最近は、排ガス温度が上昇する傾向にある。そのため、エキゾーストパイプにおける排気ガス温度は、800℃程度に達する場合があり、この温度域においても十分な高温強度の確保が求められる。
【0005】
特許文献1には、Siを0.15~2質量%含むとともに、Alを0.30質量%未満に規制し、残部チタンおよび不可避的不純物からなる耐高温酸化性に優れたチタン合金が記載されている。
また、特許文献2には、質量基準でAl:0.30~1.50%と、Si:0.10~1.0%を含有することを特徴とする耐高温酸化性および耐食性に優れたチタン合金が記載されている。
また、特許文献3には、質量%で、Cu:2.1%超~4.5%、酸素:0.04%以下、Fe:0.06%以下を含有し、残部Tiおよび不可避的不純物からなる、冷間加工性に優れる排気装置部材用耐熱チタン合金が記載されている。
また、特許文献4には、質量%で、Si:0.1~0.6%、Fe:0.04~0.2%、O:0.02~0.15%であり、FeとOの含有量の合計が、0.1%以上、0.3%以下、残部Tiおよび、単独の含有量が0.04%未満の不可避的不純物からなる、耐酸化性に優れた排気系部品用チタン合金材が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1~特許文献4に記載されたチタン合金は、化学成分を限定することで、高温強度を確保しようとするものであり、加工時の異方性を低減するものではなかった。
【0007】
加工時の異方性を低減するためには、β単相域で焼鈍する、クロス圧延するなどの方法が必要となる。しかし、β単相域で焼鈍したチタン合金板は、金属組織が針状組織となり、加工性が低下する問題がある。工業用純チタン1種のように、合金元素が含有されない純チタンであれば、針状組織であっても十分に加工性を確保することが出来るが、排気系部品の用途では、合金化させたチタン合金板を用いる必要があり、チタン合金板を針状組織にしてしまうと、加工性が不十分になる。一方、クロス圧延によってチタン合金板を製造すると、生産性が低下してしまう。このように従来技術では、チタン合金板の加工時の異方性を低減するために、加工性の低下やコストアップが避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-270199号公報
【文献】特開2005-290548号公報
【文献】特開2009-030140号公報
【文献】特開2013-142183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、加工性に優れ、加工時の異方性を低減することが可能であり、高温強度にも優れたチタン合金板及び自動車用排気系部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 質量%で、
Cu:0.7%以上1.5%以下、
Sn:0.5%以上1.5%以下、
Si:0.10%以上0.60%以下、
Nb:0.1%以上1.0%以下、
Al:0%以上1.0%以下、
Zr:0%以上1.0%以下を含有し、
更に、Cr,Moの一方または両方を合計で0~0.3%含有し、
Feを0.06%以下、Oを0.07%以下にそれぞれ制限し、
Ni、V、Mn、Co、Ta、W、C、Nの1種または2種以上を各々0~0.05%かつ合計で0.3%以下含有し、
残部がTi及び不純物であり、
金属組織において、面積率でα相の90%以上が等軸α粒であり、
前記α相の平均結晶粒径が10~100μmであり、
TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるとともに、RD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるか、または、TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であり、
TD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であり、
ND軸とc軸とのなす角が80~90°である結晶粒の面積率が15.0%未満であることを特徴とするチタン合金板。
[2] 第二相の面積率が1.0%以上であることを特徴とする[1]に記載のチタン合金板。
[3] 上記[1]または[2]に記載のチタン合金板からなる、自動車用排気系部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工性に優れ、加工時の異方性を低減することが可能であり、高温強度にも優れたチタン合金板及び自動車用排気系部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のチタン合金板の集合組織を説明するための(0001)極点図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
自動車用排気系部品は、チタン合金板を例えばプレス成形することによって得られ、また、自動車用排気系部品は高温環境下で使用される。そのため、自動車用排気系部品の素材となるチタン合金板には、優れた加工性及び高温強度が求められる。また、チタン合金板の加工時の異方性が大きいと、自動車用排気系部品に成形加工する際に狙いの形状に成形することが困難になるため、加工時の異方性が小さいことも求められる。
【0014】
加工時の異方性は、金属の集合組織の影響を受ける。集合組織は、冷間圧延と再結晶焼鈍で強く形成される。大きな圧延率で冷延すると、強く集合組織が形成されるため、異方性を低減するには冷延率を低くする必要がある。また、低冷延率であっても、冷延前に強く集合組織を形成していると異方性は低減できない。そのため、低冷延率での冷延をする前に、チタン合金板の異方性を低減する必要がある。その方法として、本発明者らは、β単相域での焼鈍を行い、その後、低冷延率の冷延を行い、更にβ変態点未満で焼鈍することで、結晶粒を等軸化させつつ、集合組織の発達を軽減することを見出した。
また、チタン合金板を低い冷延率で圧延すると、再結晶を起こす程度に十分なひずみが蓄積されず、十分に再結晶させることが難しいため、冷間圧延後の焼鈍工程をなるべく高い温度で焼鈍する必要があることも見出した。
以上の観点から鋭意検討したところ、本実施形態のチタン合金板を完成させるに至った。
【0015】
以下、本実施形態のチタン合金板及び自動車用排気系部品について説明する。
本実施形態のチタン合金板は、質量%で、Cu:0.7%以上1.5%以下、Sn:0.5%以上1.5%以下、Si:0.10%以上0.60%以下、Nb:0.1%以上1.0%以下、Al:0%以上1.0%以下、Zr:0%以上1.0%以下を含有し、更に、Cr,Moの一方または両方を合計で0~0.3%含有し、Feを0.06%以下、Oを0.07%以下にそれぞれ制限し、Ni、V、Mn、Co、Ta、W、C、Nの1種または2種以上を各々0~0.05%かつ合計で0.3%以下含有し、残部がTi及び不純物であり、金属組織において、面積率でα相の90%以上が等軸α粒であり、α相の平均結晶粒径が10~100μmであり、TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるとともに、RD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるか、または、TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であり、TD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であり、ND軸とc軸とのなす角が80~90°である結晶粒の面積率が15.0%未満であるチタン合金板である。
また、本実施形態のチタン合金板は、第二相の面積率が1.0%以上であることが好ましい。
次に、本実施形態の自動車排気系部品は、上記のチタン合金板からなることが好ましい。
【0016】
まず、本実施形態のチタン合金板の化学成分について説明する。なお、化学成分の含有量の単位である「%」は、「質量%」を意味する。
【0017】
Cu:0.7~1.5%
十分な高温強度を確保するためにはCuを0.7%以上含有させる必要がある。一方、Cu量が1.5%を超えると、鋳塊製造時にCuが偏析する可能性が高くなる。そのため、Cu量の上限を1.5%以下とする。より好ましいCu量は0.8~1.3%の範囲である。
【0018】
Sn:0.5~1.5%
十分な高温強度を確保するためには、Snを0.5%以上含有させる必要がある。一方、Snは金属間化合物を形成しがたいため、多量に含有させることもできるが、α相中のCu及びSi固溶限度が低下するため、Sn量は1.5%以下にしておく必要がある。また、Snは比重が大きな元素であり、多量に加えても原子数比率で比較するとさほど多くないため、固溶強化への寄与が小さいことも、含有量の上限を制限する理由である。より好ましいSn量は0.8~1.3%の範囲である。
【0019】
Si:0.10~0.60%
耐酸化性及び高温強度を確保するためには、Siを0.10%以上含有させる必要がある。一方、Si量が0.60%を超えるとシリサイドが形成され、粒成長を著しく阻害してしまう。よって、Si量を0.60%以下とする。より好ましいSi量は0.10~0.35%の範囲である。
【0020】
Nb:0.1~1.0%
耐酸化性を確保するためには、Nbを0.1%以上含有させる必要がある。Nbを多く含有するほど耐酸化性は向上するが、原料コストが上昇することに加えて、耐酸化性の向上効果が頭打ちになってくるため、Nbの上限を1.0%以下とする。より好ましいNb量は0.3~0.5%の範囲である。
【0021】
Al:0~1.0%
Alは任意選択元素であり、高温強度を確保するために含有させてもよいが、Al量が多くなると、α相を安定化させてβ相の形成を抑制してしまう。また、冷延性も大きく低下してしまう。そのため、Alを含有させる場合は最大で1.0%以下とする必要がある。Alは任意選択元素であるため下限を0%とするが、高温強度を確保するためにAlを0.1%以上含有させてもよい。
【0022】
Zr:0~1.0%
Zrは、SiとTiの金属間化合物を形成させやすくする。なお、形成される金属間化合物の中にはZrも存在する。Zrを含有させることでピン止め効果を得やすくなるとともに、ソリュートドラッグ効果により、排気系部品として高温環境下での使用時の粒成長を抑制することができ、高温強度の低下を抑制できる。一方、Zrの含有によってβ変態点が低下するとともに、金属間化合物の形成促進やソリュートドラッグ効果が添加量の割に小さくなるため、1.0%以下とする。Zrは任意選択元素であるため下限を0%とするが、上記の効果を得るためにZrを0.1%以上含有させてもよい。より好ましいZr量は0.1~0.6%の範囲である。
【0023】
Cr、Moの一方または両方を合計で0~0.3%
Cr及びMoは任意選択元素であるが、Cr及びMoを含有させることでβ相が形成され始める温度が低下する。そのため、排気系部品として高温環境下での使用時にβ相が析出しやすくなり、β相によるピン止め効果を得られやすくなるとともに、ソリュートドラッグ効果が発現することで、α相の粒成長が抑制される。これにより、排気系部品が高温環境下で使用された場合の高温強度の低下が抑制される。この効果を得るためには、Cr及びMoの一方または両方の合計量を0.05%以上にすることが好ましい。一方、CrやMoが過剰に含有すると、均一に合金元素を分布させにくくなるので、Cr及びMoの一方または両方の上限を0.3%以下とする。Cr、Moの一方または両方が0%でもよい。
【0024】
Fe:0.06%以下
Fe量が多すぎると、低温域からβ相が生じやすくなるため、粒成長が阻害されるようになる。また、Cr及びMoを含有させる場合に、Cr及びMoの適正な含有量の範囲が狭くなることで、制御を難しくする。そのため、Feは少ないほどよく、多くても0.06%以下に制限する必要がある。
【0025】
O:0.07%以下
Oは室温強度を増加させるが、高温強度はほとんど向上させない。そのため、スプリングバック量が大きくなるだけであり、少ないことに越したことはない。ただし、工業的に酸素(O)を低減させることは難しく、極端に低減すると原料コストが上昇するため、0.04%程度は含有され、ばらつきを考慮すると0.07%程度になることもある。そのため、Oの上限を0.07%以下に制限する。
【0026】
Ni、V、Mn、Co、Ta、W、C、Nの1種または2種以上を各々0~0.05%かつ合計で0.3%以下
Ni、V、Mn、Co、Ta、Wはいずれもβ相を安定化する効果を少なからず有する。そのため、本実施形態のように、Nb、Cr、Moでα相およびβ相を制御するにあたっては、これらの元素は少ないほうがよい。また、N及びCが過剰に含有されると、α相を安定化するとともに、室温での強度を高めるために、加工性が劣化する。そのため、N及びCも少ないほうがよい。従って、これらの元素の上限をそれぞれ0.05%以下とするとともに、これらの元素の合計量を0.3%以下にする。
【0027】
本実施形態のチタン合金板の残部は、Ti及び上記以外の他の不純物である。
【0028】
次に、本実施形態のチタン合金板の組織について説明する。
本実施形態のチタン合金板は、金属組織において、面積率でα相の90%以上が等軸α粒である。また、α相の平均結晶粒径は10~100μmの範囲である。更に、以下に説明する集合組織を有している。
【0029】
面積率でα相の90%以上が等軸α粒
チタン合金板の金属組織に針状組織が存在すると加工性が劣化するため、α相のうち、面積率で90%以上が等軸α粒である必要がある。α相における等軸α粒の面積率が90%未満になると、加工性が低下する。等軸α粒とは、アスペクト比(長軸径/短軸径)が3以下の結晶粒を指す。後述するように熱延板焼鈍または中間焼鈍においてβ変態点以上に加熱することで一旦針状結晶粒が形成されるが、その後の冷間圧延と最終焼鈍によって再結晶が起こり、等軸α粒が形成される。
【0030】
金属組織の残部はα相以外の第二相であり、例えば、金属間化合物が挙げられる。
【0031】
α相の平均結晶粒径:10~100μm
α相の平均結晶粒径が小さいと、耐力が増加してスプリングバック量が多くなるため、狙いの成形形状を得難くなる上、加工性(加工限界)も低下する。そのため、平均結晶粒径を10μm以上にする必要がある。一方、平均結晶粒径が100μmを超えると、成形加工時に表面にしわなどの模様が発生し、しかも、発生した模様を研磨しても消去しにくくなるため、結晶粒径は100μm以下とする必要がある。なお、平均結晶粒径は切断法で求めた値とする。
【0032】
α相における等軸α粒の面積率およびα相の平均結晶粒径の測定方法は以下の通りとする。
チタン合金板のL断面上に、一辺が100μm以上の正方形の測定領域を設け、測定領域を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、反射電子像からα相と第二相とを判別する。金属間化合物である第二相は、母相であるα相に比べて白色もしくは黒色であるとともに微細な析出物であるため、この特徴から第二相とα相を識別できる。そして、第二相の面積率を求める。α相の面積率は第二相の残部とする。更に、α相に対する、アスペクト比が3以下の結晶粒(等軸α粒)の面積率を求める。また、α相の平均結晶粒径は、上記の測定領域において圧延方向に平行な長さ100μm以上(上限は前記正方形領域の一辺の長さ)の線分を板厚方向に等間隔に5本以上引き、その線分が切断するα相の結晶粒の平均個数から算出する。
【0033】
集合組織
本実施形態のチタン合金板は、下記の(I)~(III)を全て満たす必要がある。
【0034】
(I) TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるとともに、RD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合が15.0%未満であるか、または、TD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であること。
【0035】
(II) TD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合との比が0.5~2.0であること。
【0036】
(III) ND軸とc軸とのなす角が80~90°である結晶粒の面積率が15.0%未満であること。
【0037】
(I)について
TD軸とc軸のなす角をθ1とし、また、RD軸とc軸のなす角をθ2とすると、θ1及びθ2が0~30°である結晶粒の面積率が多いと強い異方性を生じる場合がある。これらの絶対量が少ない場合、または、これらの割合が同程度である場合に、異方性が小さくなる。
【0038】
θ1及びθ2が0~30°である結晶粒の面積率が少ない条件としては、θ1が0~30°の結晶粒の割合が15.0%未満であるとともにθ2が0~30°の結晶粒割合が15.0%未満である。
【0039】
また、θ1及びθ2が0~30°である結晶粒の面積率が同程度の条件としては、θ1が0~30°の結晶粒の面積率とθ2が0~30°の結晶粒の面積率との比が0.5~2.0である。これらのいずれか一方の条件を満たすことで、加工時の異方性が低減される。θ1及びθ2が0~30°の領域は、図1に示す通りである。
【0040】
(I)の条件は、θ1及びθ2がそれぞれ0~30°である結晶粒の面積割合が15.0%未満、または、比が0.5~2.0のいずれか一方が成立すればよい。
【0041】
(II)について
さらに、一般的な冷延焼鈍した純チタン薄板で異方性が大きな原因は、θ1及びθ2がそれぞれ40~60°傾いた状態で存在する結晶粒の割合が大きく異なるためである。このため、この領域に存在する結晶粒の面積割合を同程度にすることも重要である。そのため、θ1及びθ2がそれぞれ40~60°となる領域に存在する結晶粒の面積率の比が0.5~2.0であることが好ましい。θ1及びθ2が40~60°の領域は、図1に示す通りである。
【0042】
(III)について
ND軸とc軸のなす角θ3が80~90°である結晶粒の面積率が15.0%未満であれば、さらに異方性を低減する方向へと作用する。θ3が80~90°の領域は、図1に示す通りである。
【0043】
以上のことから、本実施形態のチタン合金板は、上記(I)~(III)を全て満たすことが好ましい。
【0044】
集合組織の測定方法は次の通りとする。L断面における100μm×100μmの正方形の測定領域を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、後方電子散乱回折(EBSD)法によってα相の結晶方位を解析する。解析ソフトにはOIM-analysisを用いる。これによって、当該方位に該当する結晶粒を抽出し、その面積を求める。求めた面積を測定領域の面積で除することで面積率とする。なお、測定領域には第二相が含まれているが、その量は少ないため無視してよい。
【0045】
第二相の面積率が1.0%以上
金属組織における第二相の面積分率は、0.01%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.1%以上が更に好ましく、1.0%以上であることがより好ましい。第二相が0.01%以上の面積率で存在すると、α相の固溶元素量が減少することで固溶強化量が減少する。それによって0.2%耐力を大きく減少させることが可能となり、その結果、スプリングバックを抑制することが可能となる。特に、第二相の面積分率を1.0%以上とすることで、0.2%耐力を大きく減少させ、加工性を高めることができる。第二相の面積率の上限は、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。
【0046】
第二相の面積分率は、α相の面積率の測定にて説明したように、チタン合金板のL断面上に設定した一辺が100μm以上の正方形の測定領域に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、反射電子像から第二相を判別する。そして、測定領域における第二相の面積率を求める。
【0047】
本実施形態のチタン合金板は、以下の特性を有することが好ましい。
【0048】
全伸び:25%以上
成形加工後の部品形状にもよるが、少なくともチタン合金板を管形状に成形・溶接できることが必要である。また、その後は管の曲げ加工が必要になる。従って、本実施形態のチタン合金板は、加工性を向上するために、少なくともL方向の全伸びが25%以上であることが好ましい。
【0049】
L方向の0.2%耐力とT方向の0.2%耐力との比(T/L)が0.90~1.10
異方性が大きく反映される引張特性は0.2%耐力である。そのため、チタン合金板のL方向の0.2%耐力とT方向の0.2%耐力との比(T/L)で異方性を評価する。異方性を有する通常の純チタン板では約1.4であることから、本実施形態のチタン合金板は、T/Lが0.90~1.10であることが好ましい。
【0050】
全伸びは、室温引張試験を行うことにより測定する。室温での引張試験は、上記のチタン合金板から、長手方向が圧延方向に対して平行のASTMサブサイズ引張試験片を採取し、ひずみ速度を30%/minとして行う。試験温度は10~35℃の範囲内とする。
【0051】
0.2%耐力は、室温引張試験を行うことにより測定する。上記のチタン合金板から、長手方向が圧延方向に対して平行(L方向)のASTMサブサイズ引張試験片と、長手方向が圧延方向に対して直交(T方向)するASTMサブサイズ引張試験片とを採取し、ひずみ速度を0.5%/minとして行う。試験温度は10~35℃の範囲内とする。そして、L方向の0.2%耐力とT方向の0.2%耐力との比(T/L)を求める。
【0052】
エリクセン値:10.0mm以上
エリクセン試験は深絞りと張出の要素を評価するため、管形状以外への成形では重要である。純チタン(ASTM Grade2)のエリクセン値が10~11mmであるため、本実施形態のチタン合金板は、エリクセン値が10.0mm以上であることが加工性向上のために好ましい。
【0053】
エリクセン値は、JIS Z 2247(2006)に規定するエリクセン試験方法に準じて測定する。測定サンプルの板厚は0.1~2mmの範囲とし、幅は90mm以上とする。試験機はJIS B 7729に記載された通りとする。ジグ寸法は標準試験片による試験の寸法を用いる。ただし、潤滑剤には厚さ50μmのテフロンシートを用いる。
【0054】
耐酸化性:大気中で800℃、100時間保持後の酸化増量が5.0mg/cm以下
排気系部品における酸化増量は5mg/cm以下がほとんどであり、これを達成することが望ましい。そのため、耐酸化性の指標として、本実施形態のチタン合金板の酸化増量は5.0mg/cm以下を満たすことが好ましい。
【0055】
酸化増量は、上記のチタン合金板から、20mm×20mmの試験片を採取し、表面をエメリー紙#400で湿式研磨し、800℃で100時間、静止大気中に暴露し、暴露後の増加質量を測定し、増加質量を引張試験片の表面積で割った値((増加質量(mg)/試験片の表面積(cm))とする。なお、酸化試験によってスケール剥離が発生する場合は剥離したスケールもばく露後の質量に含める必要がある。
【0056】
高温強度(0.2%耐力):750℃で30MPa以上
材料として、高温強度が確保される必要がある。本実施形態においては、粗粒化を生じやすい温度域での高温強度が重要と考えており、700~750℃が粗粒化しやすい温度域となる。これ以上ではβ相が多量に生成することで粗粒化はむしろ抑制される方向である。そこで、本実施形態のチタン合金板は、組織変化が生じやすい750℃での0.2%耐力で比較評価を行う。その結果、0.2%耐力が30MPa以上であることが好ましい。
【0057】
750℃の高温強度(0.2%耐力)は、高温引張試験を行うことにより測定する。高温引張試験は、上記のチタン合金板から、長手方向が圧延方向に対して平行の引張試験片(平行部幅10mm、平行部長さ及び標点間距離35mm)を採取し、ひずみ速度を0.4%/minとして行う。試験雰囲気は750℃の大気中とし、試験片が十分に試験温度に達するように、試験雰囲気中に10分間保持した後、試験を行う。
【0058】
本実施形態のチタン合金板は、自動車排気系部品の素材として用いることができる。すなわち、本実施形態のチタン合金板を所定の形状に成形し、溶接することで、各種の自動車排気系部品とすることができる。本実施形態の自動車排気系部品としては、エキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプ、触媒装置、マフラーなどの部品を例示でき、これらの素材として、本実施形態のチタン合金板を用いることができる。これらの排気系部品は、四輪自動車に限らず、二輪自動車にも用いることができる。
【0059】
次に、本実施形態のチタン合金板の製造方法について説明する。
一般に、熱間圧延以降においてチタン合金板を焼鈍する場合、焼鈍はβ変態点未満の温度で行われる。これは、β変態点以上で焼鈍を行うと針状組織となることで冷間加工性が低下するためである。
【0060】
本実施形態では、従来ではβ変態点未満で行っていた最終冷延前の焼鈍(熱延板の焼鈍または中間焼鈍)をβ変態点以上で行うことで、それまでに形成された集合組織を低減する。β変態点以上での焼鈍後の冷却速度は速いほどよく、少なくとも5℃/s以上で700℃まで冷却を行えばよい。冷却速度が速いほど材料中の空孔濃度が増加し、その後の最終冷間圧延および最終焼鈍で等軸化および異方性を低減することができる。
【0061】
すなわち、本実施形態のチタン合金板の製造方法は、上述した化学成分を有するチタン合金からなるインゴットに熱間圧延を施して熱間圧延板とし、熱間圧延板に対して中間焼鈍を伴う冷間圧延を行う。また、最終冷間圧延の圧延率を10~45%とする。冷間圧延後に、670℃以上820℃の均熱温度で1分~24時間の最終焼鈍を行う。また、最終焼鈍後に、500~670℃、好ましくは550~670℃の均熱温度で1時間以上保持する再焼鈍を行ってもよい。
【0062】
また、熱間圧延と冷間圧延との間で、熱延板焼鈍を行ってもよい。
【0063】
最終冷間圧延前の中間焼鈍の条件は、焼鈍温度をβ変態点以上とし、焼鈍時間を1~5分間とし、焼鈍温度から700℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上とすることが好ましい。
熱延板焼鈍の条件は、焼鈍温度をβ変態点以上とし、焼鈍時間を1~5分間とし、焼鈍温度から700℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上とすることが好ましい。
【0064】
熱延板焼鈍を行う場合は、熱延板焼鈍または最終中間焼鈍の焼鈍温度のいずれか一方をβ変態点以上の温度とすることが好ましい。この場合、より好ましくは、中間焼鈍の焼鈍温度をβ変態点以上とすることがより好ましい。また、熱延板焼鈍及び中間焼鈍の焼鈍温度の両方をβ変態点以上の温度としてもよい。
以下、製造条件について説明する。
【0065】
熱延板焼鈍または最終中間焼鈍の焼鈍温度のいずれか一方をβ変態点以上の温度とすることで、それまでに形成された集合組織を低減する。特に、少なくとも中間焼鈍の焼鈍温度をβ変態点以上の温度とすることにより、板厚がより薄くなった状態でβ変態点以上に加熱されることになり、板の厚さ方向全体の集合組織を低減できる。更に、熱延板焼鈍と中間焼鈍の両方でβ変態点以上の焼鈍を行うことで、集合組織をより低減できる。なお、最終中間焼鈍をβ変態点未満で行う場合には、それまでに行った冷間圧延(中間圧延)の冷延率(合計冷延率)が45%未満でなければならない。45%以上の場合、すでに異方性が形成され始めており、その後の最終冷延及び最終焼鈍で異方性が生じるためである。
【0066】
β変態点以上の温度に加熱した後は、焼鈍温度から700℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上とする条件で冷却するとよい。冷却速度が速いほど材料中の空孔濃度が増加し、その後の最終冷間圧延および最終焼鈍で等軸化および異方性を低減することができる。
【0067】
β変態点以上で焼鈍した場合、金属組織が針状組織となり、冷延性が低下する。そのため、冷間圧延の条件は、1パス目から2パス目までの圧下率を10%以下とし、それ以降は15%以下とすることで、割れを生じさせることなく安定して冷間圧延できる。圧延初期に割れが生じないように2パス目までは低圧下率で加工する。その後は加工発熱により温度が上昇するため圧下率を高めても割れにくくなる。なお、割れ防止のために中間焼鈍を行ってもよい。
【0068】
最終焼鈍時に再結晶による等軸化と集合組織を制御するために、最終冷間圧延での冷延率は10~45%とする。冷延率が45%を超えると、集合組織が発達してしまい、加工時の異方性を低減できなくなる。また、冷延率が10%未満では、ひずみの導入量が不十分になり、最終焼鈍において十分に再結晶化させることができず、未再結晶組織が残存し、α相の面積率が低下してしまう場合がある。最終冷間圧延の冷延率のより好ましい範囲は、20~40%である。
【0069】
10~45%の低い圧延率で圧延後のチタン合金板の金属組織を再結晶させるためには、焼鈍温度の高温化が必要である。そのため、最終焼鈍の焼鈍温度は670℃以上820℃以下とする必要がある。670℃未満では再結晶が不十分になり、チタン合金板の加工性が低下する。また、820℃を超えると、バイモーダル組織が形成される場合があるので、820℃以下とする必要がある。また、焼鈍時間は1分~24時間とする。
【0070】
なお、再結晶を十分にさせた後に、時効処理として、500~670℃、好ましくは550~670℃に1時間以上保持する再焼鈍を行ってもよい。これによって第二相の面積率を1.0%以上にすることができ、0.2%耐力をより低下させることができる。
【0071】
また、熱間圧延前の工程は特に制限はない。例えば、電子ビーム溶解もしくは真空アーク溶解などによって製造された所定の化学組成を有するインゴットに、凝固組織の破壊を目的とした分塊工程(鍛造もしくは圧延)がβ単相域で行われ後、熱間圧延によって熱間圧延板を製造すればよい。
【実施例
【0072】
表1に示す化学組成を有するチタン合金No.1~No.45を、真空アークボタン溶解によりインゴットとした。作製したインゴットを1000℃で熱間圧延し、10mm厚の熱延板とした。その後、860℃での熱間圧延を行うことで4mm厚の熱延板を得た。表1では、Ni、V、Mn、Co、Ta、W、C、Nのそれぞれの含有率の記載を省略し、これら元素の含有率の合計量を「others」の欄に記載した。これらの元素のそれぞれの含有率はいずれも0.05%以下だった。
【0073】
その後、脱スケール工程もしくは、表2に記載の温度と時間で熱延板焼鈍を行った後に脱スケール工程を施し、その後、冷間圧延とともに必要に応じて中間焼鈍を行い、最終冷間圧延を行った。更に、最終焼鈍を行い、一部の合金については再焼鈍(時効処理)を行った。このようにして、No.1~45のチタン合金板を製造した。なお、表2中の中間冷延率は、中間冷延における合計の圧延率である。
【0074】
得られたチタン合金板について、各種の評価を行った。
α相における等軸α粒の面積率、α相の平均結晶粒径および第二相の面積率の測定方法は次の通りとした。チタン合金板のL断面上に、一辺が100μmの正方形の測定領域を設け、測定領域を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、反射電子像からα相と第二相とを判別した。金属間化合物である第二相は、母相であるα相に比べて白色もしくは黒色であるとともに微細な析出物であるため、この特徴から第二相とα相を識別できた。そして、第二相の面積率を求めた。α相の面積率は第二相の残部とした。更に、α相に対する、アスペクト比が3以下の結晶粒(等軸α粒)の面積率を求めた。また、α相の平均結晶粒径は、上記の測定領域において圧延方向に平行な長さ100μmの線分を板厚方向に等間隔に5本以上引き、その線分が切断するα相の結晶粒の平均個数から算出した。
【0075】
集合組織の測定方法は、次の通りとした。L断面における100μm×100μmの測定領域を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、後方電子散乱回折(EBSD)法によってα相の結晶方位を解析した。解析ソフトにはOIM-analysisを用いた。これによって、当該方位に該当する結晶粒を抽出し、その面積を求めた。求めた面積を測定領域の面積で除することで面積率とした。なお、測定領域には第二相が含まれているが、その量は少なかったため無視した。
【0076】
表3Aにおいて、「[A]TD:0-30°(面積%)」はTD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合であり、「[B]RD:0-30°(面積%)」はRD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合であり、「[A]/[B]」はTD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が0~30°の結晶粒の面積割合との比である。
また、「[C]/[D]」は、TD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合とRD軸及びc軸のなす角が40~60°の結晶粒の面積割合との比である。
更に、「ND:80-90°(面積%)」は、ND軸とc軸とのなす角が80~90°である結晶粒の面積率である。
【0077】
全伸び及び0.2%耐力は、室温引張試験を行うことにより測定した。上記のチタン合金板から、長手方向が圧延方向に対して平行のASTMサブサイズ引張試験片を採取し、ひずみ速度を30%/minとして室温での引張試験を行い、L方向の全伸びを測定した。
また、上記のチタン合金板から、長手方向が圧延方向に対して平行(L方向)のASTMサブサイズ引張試験片と、長手方向が圧延方向に対して直交(T方向)するASTMサブサイズ引張試験片とを採取し、ひずみ速度を0.5%/minとして室温での引張試験を行い、L方向の0.2%耐力とT方向の0.2%耐力全伸びをそれぞれ測定した。
室温での引張試験の試験温度は10~35℃の範囲内とした。
全伸びは25%以上、0.2%耐力比(T/L)は0.90~1.10を合格とした。
【0078】
エリクセン値は、JIS Z 2247(2006)に規定するエリクセン試験方法に準じて測定した。測定サンプルの板幅は90mm以上とした。試験機はJIS B 7729に記載された通りとした。ジグ寸法は標準試験片による試験の寸法を用いた。ただし、潤滑剤には厚さ50μmのテフロンシートを用いた。エリクセン値が10.0mm以上を合格とした。試験温度は10~35℃の範囲内とした。
【0079】
750℃の高温強度(0.2%耐力)は、上記のチタン合金板から、長手方向が圧延方向に対して平行の引張試験片(平行部幅10mm、平行部長さ及び標点間距離35mm)を採取し、ひずみ速度を0.4%/minとして引張試験を行うことにより測定した。試験雰囲気は750℃の大気中とし、試験片が十分に試験温度に達するように、試験雰囲気中に10分間保持した後、試験を行った。高温強度(0.2%耐力)は750℃で30MPa以上を合格とした。
【0080】
酸化増量は、チタン合金板から、20mm×20mmの試験片を採取し、表面をエメリー紙#400で湿式研磨し、800℃で100時間、静止大気中に暴露し、暴露後の増加質量を測定し、増加質量を引張試験片の表面積で割った値((増加質量(mg)/試験片の表面積(cm))とした。なお、酸化試験によってスケール剥離が発生する場合は剥離したスケールをばく露後の質量に含めた。酸化増量は5mg/cm以下を合格とした。
結果を表3A及び表3Bに示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3A】
【0084】
【表3B】
【0085】
表3A及び表3Bに示すように、No.1~8、11~13、15、17、19、21~27、31~35、38~42、44、45は、本発明の範囲にあるチタン合金板であり、優れた特性を示した。
【0086】
No.9は、Si量が少なく、酸化増量が増大し、耐酸化性が低下した。また、高温強度も低下した。
No.10は、Si量が過剰であり、α相の平均結晶粒径が小さくなりすぎたため、エリクセン値が小さくなり、加工性が低下した。
No.14は、Al量が過剰であり、加工性が低下した。
No.16は、Zr量が過剰であり、α相が細粒となり、加工性が低下した。
No.18は、Cr量が過剰であり、α相が細粒となり、加工性が低下した。
No.20は、Mo量が過剰であり、α相が細粒となり、加工性が低下した。
No.28は、熱延板焼鈍がβ変態点未満での焼鈍だったため、集合組織が残存し、異方性が生じた。
No.29は、熱延板焼鈍においてβ変態点以上で焼鈍したがその後の中間冷延が圧延率45%を超えていたため集合組織が形成され、最終冷延前の中間焼鈍がβ変態点未満での焼鈍だったため、集合組織が残存し、異方性が生じた。
No.30は、最終冷延前の中間焼鈍後の冷却速度が低かったため、最終冷間圧延および最終焼鈍で異方性を低減できなかった。
No.36は、最終焼鈍温度が低く、再結晶化が不十分となって等軸α粒が不足し、異方性も十分に改善できなかった。
No.37は、最終焼鈍温度が高すぎたため、異方性が十分に改善できなかった。なお、No.37では等軸α粒の面積率が0%であったため、平均粒径の測定は実施しなかった。
No.43は、最終冷間圧延の圧下率が高すぎたため、異方性が生じてしまった。
図1