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特許7303439制御装置、制御方法、及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/26 20060101AFI20230628BHJP
   B21B 1/24 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B21B37/26
B21B1/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019191088
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021065896
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鷲北 芳郎
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-035061(JP,A)
【文献】特開平10-192935(JP,A)
【文献】特開2015-100826(JP,A)
【文献】特開2013-039621(JP,A)
【文献】特開2011-200896(JP,A)
【文献】特開2013-018019(JP,A)
【文献】特開平10-192936(JP,A)
【文献】特開2018-158374(JP,A)
【文献】特開平07-185627(JP,A)
【文献】特開2006-224119(JP,A)
【文献】特開昭58-058908(JP,A)
【文献】特開昭57-168719(JP,A)
【文献】特開昭51-081770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の整数であるN台の圧延機が直列に配置されたタンデム圧延機を制御して圧延材を圧延する制御装置であって、
前記N台の圧延機を、前記圧延材が搬送される搬送方向の上流側から下流側に向かって第1圧延機から第N圧延機としたときに、
前記N台の圧延機を停止することなく走間で圧下位置及びロール速度を変更する走間設定変更を少なくとも2回実施する場合の前記走間設定変更に関する設定を決定する設定決定部と、
前記設定決定部で決定された前記走間設定変更に関する設定に基づく情報を前記N台の圧延機に対して出力する設定出力部と、を備え、
前記走間設定変更に関する設定には、
1回目の前記走間設定変更を開始する第1走変開始点と、2回目の前記走間設定変更を開始する第2走変開始点との間の圧延前の前記圧延材の距離である走変開始点間距離を、前記1回目の走間設定変更と前記2回目の走間設定変更が同一の前記圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれ、
前記1回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第1圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれ、
前記2回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第N圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれる、制御装置。
【請求項2】
前記走間設定変更に関する設定には、
前記第1走変開始点が前記第1圧延機に到達した際には、前記第1圧延機の前記圧下位置と、第2圧延機から前記第N圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、
前記第1走変開始点が前記第2圧延機に到達した際には、前記第1圧延機及び前記第2圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第2圧延機から前記第N圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、
前記第1走変開始点が、3以上N以下の整数であるjに対する第j圧延機に到達した際には、第(j-1)圧延機及び前記第j圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第(j-1)圧延機から前記第N圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、
前記第2走変開始点が前記第1圧延機に到達した際には、前記第1圧延機の前記圧下位置と、前記第1圧延機の前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、
前記第2走変開始点が、2以上(N-1)以下の整数であるjに対する第j圧延機に到達した際には、第(j-1)圧延機及び前記第j圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第1圧延機から前記第j圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、
前記第2走変開始点が前記第N圧延機に到達した際には、第(N-1)圧延機及び前記第N圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第1圧延機から前記第(N-1)圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれる、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記走間設定変更に関する設定には、前記第1走変開始点が前記第1圧延機に到達する前の前記第N圧延機の前記ロール速度Vを(1)式による速度とする設定が含まれる、請求項1又は2に記載の制御装置。
V=Vref/α ・・(1)
ただし、Vrefは前記2回の走間設定変更が終了した際の前記第N圧延機の前記ロール速度を前記設定出力部が設定する値であり、αは前記2回の前記走間設定変更で変更される前記第N圧延機の前記ロール速度の変更比率である。
【請求項4】
前記走間設定変更に関する設定には、前記走変開始点間距離を(2)式による移動長さL14よりも長くする設定が含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
14=L12+L23+L34 ・・(2)
ただし、L12は、前記第1走変開始点が前記第1圧延機に到達した第1時刻から、前記第1時刻から開始する前記N台の圧延機のうちの定められた前記圧延機の前記圧下位置及び前記ロール速度の変更が終了する第2時刻までの間に、前記第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さであり、L23は、前記第2時刻から、前記第1走変開始点が前記第2圧延機に到達する第3時刻までの間に、前記第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さであり、L34は、前記第3時刻から、前記第3時刻から開始する前記N台の圧延機のうちの定められた前記圧延機の前記圧下位置及び前記ロール速度の変更が終了する第4時刻までの間に、前記第1圧延機で圧延される圧延前の前記圧延材の長さである。
【請求項5】
3以上の整数であるN台の圧延機が直列に配置されたタンデム圧延機を制御して圧延材を圧延する制御方法であって、
前記N台の圧延機を、前記圧延材が搬送される搬送方向の上流側から下流側に向かって第1圧延機から第N圧延機としたときに、
前記N台の圧延機を停止することなく走間で圧下位置及びロール速度を変更する走間設定変更を少なくとも2回実施する場合の前記走間設定変更に関する設定を決定する設定決定工程と、
前記設定決定工程で決定された前記走間設定変更に関する設定に基づく情報を前記N台の圧延機に対して出力する設定出力工程と、を行い、
前記走間設定変更に関する設定には、
1回目の前記走間設定変更を開始する第1走変開始点と、2回目の前記走間設定変更を開始する第2走変開始点との間の圧延前の前記圧延材の距離である走変開始点間距離を、前記1回目の走間設定変更と前記2回目の走間設定変更が同一の前記圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれ、
前記1回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第1圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれ、
前記2回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第N圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれる、制御方法。
【請求項6】
3以上の整数であるN台の圧延機が直列に配置されたタンデム圧延機を制御して圧延材を圧延する制御装置用の制御プログラムであって、
前記N台の圧延機を、前記圧延材が搬送される搬送方向の上流側から下流側に向かって第1圧延機から第N圧延機としたときに、
前記制御装置を、
前記N台の圧延機を停止することなく走間で圧下位置及びロール速度を変更する走間設定変更を少なくとも2回実施する場合の前記走間設定変更に関する設定を決定する設定決定部と、
前記設定決定部で決定された前記走間設定変更に関する設定に基づく情報を前記N台の圧延機に対して出力する設定出力部と、して機能させ、
前記走間設定変更に関する設定には、
1回目の前記走間設定変更を開始する第1走変開始点と、2回目の前記走間設定変更を開始する第2走変開始点との間の圧延前の前記圧延材の距離である走変開始点間距離を、前記1回目の走間設定変更と前記2回目の走間設定変更が同一の前記圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれ、
前記1回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第1圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれ、
前記2回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第N圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数台の圧延機を備えるタンデム圧延機で圧延鋼材(第1部材)を圧延する際に、圧延効率や歩留まりの向上のため、圧延鋼材を以下のように圧延することが行われている。すなわち、圧延鋼材を圧延する前に、他の圧延鋼材(第2部材)と溶接等により接合して接合圧延材(圧延材)を構成する。接合圧延材の長さは、各圧延鋼材の長さよりも長い。そして、タンデム圧延機に接合圧延材を連続的に供給し、タンデム圧延機を停止することなく連続的に複数の圧延鋼材を圧延する。
以下では、接合された一対の圧延鋼材のうち、これらが搬送される搬送方向の下流側に存在する圧延鋼材を先行材、上流側に存在する圧延鋼材を後行材と呼ぶ。先行材と後行材とが接合される溶接点が圧延機を通過する際には、接合圧延材の仕様が先行材から後行材に変化することになるため、圧延機の圧下位置(無負荷時のロール間のギャップ)とロール速度を先行材の設定値から後行材の設定値に変更する必要がある。このように圧延機を停止することなく圧延機の設定を変更することを、以下では走間設定変更と呼ぶ。
【0003】
走間設定変更において圧下位置とロール速度を制御するタンデム圧延機の制御方法(以下、単に制御方法とも呼ぶ)については、特許文献1に開示されている技術がある。
この従来の制御方法を、図12を用いて説明する。図12に示す例は、この制御方法を、第1圧延機から第5圧延機の5台の圧延機からなるタンデム圧延機に適用した例である。
図12では、横軸の左側から右側に向けて5台の圧延機を並べている。これらの5台の圧延機のうち、最も上流側(左側)に位置する圧延機を第1圧延機とし、下流側に向かうに従い第2圧延機、第3圧延機、第4圧延機、第5圧延機とする。図12では、横軸に沿う方向が、圧延材が搬送される搬送方向である。
圧延材は、先行材(第1部材)と、後行材(第2部材)とが、溶接点Wで溶接されて構成されている。接合圧延材は、第1圧延機から第5圧延機の順に圧延される。
【0004】
また図12では、圧延材が搬送される過程を世代別(タイミング別)に分けて表している。すなわち、図12では、同一のタンデム圧延機を、搬送方向における溶接点Wの位置ごとに世代分けした複数の態様を、縦軸の上側から下側に向けてに並べて示している。この図では、最も上側を、最も早期に生じる第1世代とし、下側に向かうに従い第1世代からの時間が徐々に経過する第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、第6世代とする。すなわち、縦軸の矢印の先端の向き(下側)に向かうに従い、時間が経過することを意味する。
第1世代は、溶接点Wが第1圧延機に進入する前の、溶接点Wが第1圧延機よりも上流側に位置する状態である。第2世代は、溶接点Wが第1圧延機と第2圧延機との間に位置する状態である。第3世代は、溶接点Wが第2圧延機と第3圧延機との間に位置する状態である。第4世代及び第5世代についても、同様である。第6世代は、溶接点Wが第5圧延機よりも下流側に位置する状態である。
【0005】
各世代における圧延機の近傍には、h等の符号が付されている。以下では、これらの記号について説明する。
各符号の右上の添え字において、「I」が記載された符号は先行材に関する各種設定値を意味する。「II」が記載された符号は、後行材に関する各種設定値を意味する。
先行材の第j圧延機(jは1以上5以下の整数(以下、「j=1~(から)5」と記載する。整数i等についても同様である))出口における板厚設定値をh (ただし、h は第1圧延機入口における板厚設定値を表す)とする。ただし、図12図14図3、及び図5中では、本明細書中の記号の添え字の表記に比べて、記号の添え字を上下に重ねて表している。先行材の第j圧延機と第(j+1)圧延機(j=1~4)との間の張力設定値をT (ただし、T は第1圧延機入口における張力設定値、T は第5圧延機出口における張力設定値を表す)、後行材の第j圧延機(j=1~5)出口における板厚設定値をh II(ただし、h IIは第1圧延機入口における板厚設定値を表す)、後行材の第j圧延機と第(j+1)圧延機(j=1~4)との間の張力設定値をT II(ただし、T IIは第1圧延機入口における張力設定値、T IIは第5圧延機出口における張力設定値を表す)とする。
【0006】
第1世代では、全ての圧延機の入口板厚H (1)、出口板厚h (1)、及び張力T (1)は、それぞれ先行材の設定値h(j-1) ,h ,T である。第6世代では、全ての圧延機の入口板厚H (6)、出口板厚h (6)、及び張力T (6)は、それぞれ後行材の設定値h(j-1) II,h II,T IIである。第1世代と第6世代との間の第i世代(i=2~5)においては、まず板厚に関しては、溶接点Wよりも下流側に存在する第j圧延機(j=i~5)において、入口板厚H (i)は先行材の板厚設定値h(j-1) であり、出口板厚h (i)は先行材の板厚設定値h である。溶接点Wよりも上流側に存在する第j圧延機(j=1~(i-1))の入口板厚H (i)、出口板厚h (i)は、それぞれ後行材の板厚設定値h(j-1) II,h IIである。
【0007】
張力に関しては、溶接点Wよりも下流側に存在する第j圧延機と第(j+1)圧延機との間の張力T (i)(j=i~4)、第5圧延機の出口張力T (i)は、それぞれ先行材の張力設定値T ,T である。溶接点Wよりも上流側に存在する第j圧延機と第(j+1)圧延機との間の張力T (i)(j=1~(i-2))、第1圧延機の入口張力T (i)は、それぞれ後行材の設定値T II,T IIである。
第i世代(i=2~5)において、溶接点Wが存在する第(i-1)圧延機と第i圧延機との間の張力T(i-1) (i)に対しては、一般的に第i圧延機の入口張力として第i圧延機の圧延に与える影響の方が、第(i-1)圧延機の出口張力として第(i-1)圧延機の圧延に与える影響よりも大きい。このため、溶接点Wが存在する第(i-1)圧延機と第i圧延機との間の張力T(i-1) (i)を、先行材の張力設定値T(i-1) にする。従って、張力に関しては、第i世代と第(i+1)世代との間(i=2~5)で溶接点Wが第i圧延機を通過する際に、第(i-1)圧延機と第i圧延機との間の張力の設定値を先行材設定値T(i-1) から後行材設定値T(i-1) IIに変更する。
【0008】
以上述べてきたタンデム圧延機における板厚等の設定をまとめると、第i世代の第j圧延機(i=1~6,j=1~5)の入口板厚H (i)、出口板厚h (i)、第j圧延機と第(j+1)圧延機との間の張力T (i)(ただし、T (i)は第1圧延機の入口張力、T (i)は第5圧延機の出口張力を表す)は、それぞれ(1)式~(3)式のようになる。
【0009】
【数1】
【0010】
次に、上記の板厚と張力に基づいて、各世代の各圧延機の圧延荷重、先進率を計算する。第1世代では、板厚、張力は全て先行材設定値であるので、第j圧延機(j=1~5)の圧延荷重P (1)は先行材の圧延荷重設定値P に、先進率f (1)は先行材の先進率設定値f にそれぞれ一致する。第6世代では、板厚、張力は全て後行材設定値であるので、第j圧延機(j=1~5)の圧延荷重P (6)は後行材の圧延荷重設定値P IIに、先進率f (6)は後行材の先進率設定値f IIにそれぞれ一致する。
第1世代と第6世代との間の第i世代(i=2~5)において、溶接点Wよりも下流側に存在する第j圧延機(j=i~5)では、入口板厚、出口板厚、入口張力、及び出口張力は先行材設定値になっている。従って、圧延荷重P (i)は先行材の圧延荷重設定値P に、先進率f (i)は先行材の先進率設定値f にそれぞれ一致する。
【0011】
溶接点Wよりも2つ以上上流側に存在する第j圧延機(j=1~(i-2))は、入口板厚、出口板厚、入口張力、及び出口張力が後行材設定値になっている。このため、圧延荷重P (i)は後行材の圧延荷重設定値P IIに、先進率f (i)は後行材の先進率設定値f IIにそれぞれ一致する。溶接点Wよりも1つ上流側に存在する第(i-1)圧延機は、入口板厚、出口板厚、及び入口張力は後行材設定値になっているが、出口張力が先行材設定値である。従って、圧延荷重P(i-1) (i)と先進率f(i-1) (i)は、先行材設定値にも後行材設定値にも一致しない。図12では、この圧延荷重P(i-1) (i)をP(i-1) 、先進率f(i-1) (i)をf(i-1) と表している。
以上述べてきたタンデム圧延機における圧延荷重等の設定をまとめると、第i世代の第j圧延機(i=1~6,j=1~5)の圧延荷重P (i)、先進率f (i)はそれぞれ、(4)式、(5)式のようになる。
なお、図12では、第1圧延機のロール1d~第5圧延機のロール5dについて、圧延荷重、先進率が、先行材設定値である圧延機のロールは実線で示し、後行材設定値である圧延機のロールは一点鎖線で示し、先行材設定値にも後行材設定値にも一致しない圧延機のロールを点線で示す。
【0012】
【数2】
【0013】
(1)式~(5)式で表される圧延状態を達成するための第i世代の第j圧延機(i=1~6,j=1~5)の圧下位置S (i)、ロール速度v (i)は、以下のように求めることができる。
まず、圧下位置は、出口板厚h (i)及び圧延荷重P (i)から、公知のゲージメータ式を用いて(6)式で求められる。
【0014】
【数3】
【0015】
出口板厚h (i)及び圧延荷重P (i)の少なくとも一方が変化するときのみ、圧下位置S (i)が変化する。このため、(2)式及び(4)式を考慮すると、(7)式~(11)式が成り立つことが分かる。
なお、(7)式は、第1圧延機の各世代間の圧下位置S (i)に関する式である。(8)式~(11)式についても、同様に、第2圧延機~第5圧延機の各世代間の圧下位置S (i)(j=2~5)に関する式である。
【0016】
【数4】
【0017】
ここで、従来の制御方法の各圧延機において圧下位置を変更するタイミングを、図13に示す。図13では、圧下位置を変更するタイミングを湾曲した矢印で示す。溶接点Wが第1圧延機を通過する際(第1世代から第2世代に移る際)には、第1圧延機の圧下位置を変更する。溶接点Wが第j圧延機(j=2~5)を通過する際(第j世代から第(j+1)世代に移る際)には、第(j-1)圧延機と第j圧延機の圧下位置を変更する。
【0018】
ここで、溶接点Wが第j圧延機(j=1~5)を通過する際に各圧延機の圧下位置を変更するとは、各圧延機が圧下位置の変更をする際に、その圧下位置の変更の開始と終了との間に溶接点Wが圧延機の一対のロール間の狭い隙間を通ることを意味する。すなわち、溶接点Wが第j圧延機の一対のロール間の狭い隙間を通るときが、各圧延機が、圧下位置の変更を開始した時点以降であって、その圧下位置の変更を終了する時点以前であることを意味する。
【0019】
ロール速度は、各世代において、溶接点Wよりも上流側にある後行材に関するマスフロー一定則である(12)式、溶接点Wよりも下流側にある先行材に関するマスフロー一定則である(13)式、(14)式が成り立つように決められる。
【0020】
【数5】
【0021】
(12)式~(14)式は、各世代における圧延機間のロール速度の比率のみを規定する式であるので、これらの(12)式~(14)式を満たすロール速度は無数に存在する。そこで、最下流圧延機である第5圧延機をピボット圧延機(時間の経過によらずロール速度が変わらない、ロール速度の基準となる圧延機)とし、各世代の第5圧延機のロール速度を一致させるように、(15)式を考慮する。
【0022】
【数6】
【0023】
(1)式、(2)式、(5)式、及び(12)式~(15)式より、ロール速度v (i)(i=1~6,j=1~5)は表1のように求められる。
【0024】
【表1】
【0025】
従って、第5圧延機をピボット圧延機とする従来の制御方法の場合の各圧延機において、ロール速度を変更するタイミングは、図14に示すようになる。図14では、ロール速度を変更するタイミングを湾曲した矢印で示す。溶接点Wが第j圧延機(j=1~4)を通過する際には第1圧延機~第j圧延機のロール速度を変更し、溶接点Wが第5圧延機を通過する際には第1圧延機~第4圧延機のロール速度を変更する。
ここで、溶接点Wが第j圧延機(j=1~5)を通過する際に各圧延機のロール速度を変更するとは、各圧延機がロール速度の変更をする際に、そのロール速度の変更の開始と終了との間に溶接点Wが圧延機の一対のロール間の狭い隙間を通ることを意味する。すなわち、溶接点Wが第j圧延機の一対のロール間の狭い隙間を通るときが、各圧延機が、ロール速度の変更を開始した時点以降であって、そのロール速度の変更を終了する時点以前であることを意味する。
【0026】
なお、各世代間における圧下位置及びロール速度の変更は、ランプ状(変化率が一定になるように)に行われるのが一般的である。圧下位置及びロール速度の変更に要する時間は、圧下装置と圧延機モータの応答に応じて決められる。溶接点が各圧延機を通過する際に行われる変更によって当該圧延機で圧延される圧延部位が、全ての圧延機で一致するように、各世代間で行われる変更に要する時間を、圧延機によらず互いに等しくしている。すなわち、圧下位置及びロール速度の変更に要する時間は、いずれの世代間のどの圧延機の変更であっても同じである。以下では、この時間を走変時間と呼ぶ。
上記のような走間設定変更方法は、先行材と後行材の溶接点で圧延条件を変更する場合だけでなく、先行材と後行材の溶接点前後を定常部よりも厚くする、あるいは薄くする場合にも適用できる。それらの事項は、特許文献2に開示されている。
【0027】
特許文献2には、前工程で検出された圧延材の耳割れ部の前後の板厚を、定常部の板厚より厚くすることにより圧延材の破断を防止する技術が開示されている。本技術では、定常部より板厚を厚くするための1回目の走間設定変更と、定常部の板厚に戻すための2回目の走間設定変更を行う。圧延材の部位を、以下では1回目の走間設定変更で板厚を変更している過渡状態の圧延材の部分を第1走変部、2回目の走間設定変更で板厚を変更している過渡状態の圧延材の部分を第2走変部と呼ぶことにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】特許第2800993号公報
【文献】特開2006-224119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかし、特許文献2の技術では、タンデム圧延機の最上流圧延機から最下流圧延機までの間に2つの走変部が同時に入ることを避けるため、定常部よりも厚くする部分の長さを必要以上に長くする必要がある。この場合、タンデム圧延機の歩留まりが悪化する。
【0030】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、タンデム圧延機の走間設定変更を少なくとも2回行う場合に歩留まりが悪化することを防止する制御装置、制御方法、及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の制御装置は、3以上の整数であるN台の圧延機が直列に配置されたタンデム圧延機を制御して圧延材を圧延する制御装置であって、前記N台の圧延機を、前記圧延材が搬送される搬送方向の上流側から下流側に向かって第1圧延機から第N圧延機としたときに、前記N台の圧延機を停止することなく走間で圧下位置及びロール速度を変更する走間設定変更を少なくとも2回実施する場合の前記走間設定変更に関する設定を決定する設定決定部と、前記設定決定部で決定された前記走間設定変更に関する設定に基づく情報を前記N台の圧延機に対して出力する設定出力部と、を備え、前記走間設定変更に関する設定には、1回目の前記走間設定変更を開始する第1走変開始点と、2回目の前記走間設定変更を開始する第2走変開始点との間の圧延前の前記圧延材の距離である走変開始点間距離を、前記1回目の走間設定変更と前記2回目の走間設定変更が同一の前記圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれ、前記1回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第1圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれ、前記2回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第N圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれる、ことを特徴としている。
【0032】
また、本発明の制御方法は、3以上の整数であるN台の圧延機が直列に配置されたタンデム圧延機を制御して圧延材を圧延する制御方法であって、前記N台の圧延機を、前記圧延材が搬送される搬送方向の上流側から下流側に向かって第1圧延機から第N圧延機としたときに、前記N台の圧延機を停止することなく走間で圧下位置及びロール速度を変更する走間設定変更を少なくとも2回実施する場合の前記走間設定変更に関する設定を決定する設定決定工程と、前記設定決定工程で決定された前記走間設定変更に関する設定に基づく情報を前記N台の圧延機に対して出力する設定出力工程と、を行い、前記走間設定変更に関する設定には、1回目の前記走間設定変更を開始する第1走変開始点と、2回目の前記走間設定変更を開始する第2走変開始点との間の圧延前の前記圧延材の距離である走変開始点間距離を、前記1回目の走間設定変更と前記2回目の走間設定変更が同一の前記圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれ、前記1回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第1圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれ、前記2回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第N圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれる、ことを特徴としている。
【0033】
また、本発明の制御プログラムは、3以上の整数であるN台の圧延機が直列に配置されたタンデム圧延機を制御して圧延材を圧延する制御装置用の制御プログラムであって、前記N台の圧延機を、前記圧延材が搬送される搬送方向の上流側から下流側に向かって第1圧延機から第N圧延機としたときに、前記制御装置を、前記N台の圧延機を停止することなく走間で圧下位置及びロール速度を変更する走間設定変更を少なくとも2回実施する場合の前記走間設定変更に関する設定を決定する設定決定部と、前記設定決定部で決定された前記走間設定変更に関する設定に基づく情報を前記N台の圧延機に対して出力する設定出力部と、して機能させ、前記走間設定変更に関する設定には、1回目の前記走間設定変更を開始する第1走変開始点と、2回目の前記走間設定変更を開始する第2走変開始点との間の圧延前の前記圧延材の距離である走変開始点間距離を、前記1回目の走間設定変更と前記2回目の走間設定変更が同一の前記圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれ、前記1回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第1圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれ、前記2回目の走間設定変更での前記ロール速度の変更に関し、前記第N圧延機をピボット圧延機とする設定が含まれる、ことを特徴としている。
【0034】
ここで言うピボット圧延機とは、時間の経過によらずロール速度が変わらない、ロール速度の基準となる圧延機のことを意味する。i回目(iは1又は2)の走間設定変更とは、第i走変開始点が各圧延機に到達した際に、第i走変開始点に対応して圧下位置またはロール速度の変更を開始する必要がある圧延機の圧下位置またはロール速度を、圧延機を停止させることなく走間で変更することを意味する。
これらの発明によれば、2つの走変部(走間設定変更により圧延材の状態を変更している過渡状態の圧延材の部分。下流側の端が走変開始点)に対する圧下位置及びロール速度変更を行う圧延機が重なり合うことが無くなる。従って、2つの走変部がタンデム圧延機の第1圧延機から第N圧延機までの間に同時に入ることを許容することができ、タンデム圧延機の走間設定変更を少なくとも2回行う場合に歩留まりが悪化することを防止することができる。
【0035】
また、前記制御装置において、前記走間設定変更に関する設定には、前記第1走変開始点が前記第1圧延機に到達した際には、前記第1圧延機の前記圧下位置と、第2圧延機から前記第N圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、前記第1走変開始点が前記第2圧延機に到達した際には、前記第1圧延機及び前記第2圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第2圧延機から前記第N圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、前記第1走変開始点が、3以上N以下の整数であるjに対する第j圧延機に到達した際には、第(j-1)圧延機及び前記第j圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第(j-1)圧延機から前記第N圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、前記第2走変開始点が前記第1圧延機に到達した際には、前記第1圧延機の前記圧下位置と、前記第1圧延機の前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、前記第2走変開始点が、2以上(N-1)以下の整数であるjに対する第j圧延機に到達した際には、第(j-1)圧延機及び前記第j圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第1圧延機から前記第j圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれ、前記第2走変開始点が前記第N圧延機に到達した際には、第(N-1)圧延機及び前記第N圧延機それぞれの前記圧下位置と、前記第1圧延機から前記第(N-1)圧延機それぞれの前記ロール速度、の変更を開始する設定が含まれてもよい。
【0036】
ここで言う走変開始点が圧延機に到達したとは、走変開始点が圧延機の一対のロール間の狭い隙間に到達したことを意味する。
この発明によれば、第1圧延機をピボット圧延機とする第1走変開始点に応じたロール速度及び圧下位置の変更、及び第N圧延機をピボット圧延機とする第2走変開始点に応じたロール速度及び圧下位置の変更を、各圧延機に対応して適切に行うことができる。
【0037】
また、前記制御装置において、前記走間設定変更に関する設定には、前記第1走変開始点が前記第1圧延機に到達する前の前記第N圧延機の前記ロール速度Vを(16)式による速度とする設定が含まれてもよい。
V=Vref/α ・・(16)
ただし、Vrefは前記2回の走間設定変更が終了した際の前記第N圧延機の前記ロール速度を前記設定出力部が設定する値であり、αは前記2回の前記走間設定変更で変更される前記第N圧延機の前記ロール速度の変更比率である。
この発明によれば、第1走変部のピボット圧延機を第1圧延機とする場合であっても、第2走変部が第N圧延機を通過した後の第N圧延機のロール速度、すなわち、2回の走間設定変更が終了した後の第N圧延機のロール速度を、所望のロール速度Vrefに制御することができる。
【0038】
また、前記制御装置において、前記走間設定変更に関する設定には、前記走変開始点間距離を(17)式による移動長さL14よりも長くする設定が含まれてもよい。
14=L12+L23+L34 ・・(17)
ただし、L12は、前記第1走変開始点が前記第1圧延機に到達した第1時刻から、前記第1時刻から開始する前記N台の圧延機のうちの定められた前記圧延機の前記圧下位置及び前記ロール速度の変更が終了する第2時刻までの間に、前記第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さであり、L23は、前記第2時刻から、前記第1走変開始点が前記第2圧延機に到達する第3時刻までの間に、前記第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さであり、L34は、前記第3時刻から、前記第3時刻から開始する前記N台の圧延機のうちの定められた前記圧延機の前記圧下位置及び前記ロール速度の変更が終了する第4時刻までの間に、前記第1圧延機で圧延される圧延前の前記圧延材の長さである。
【0039】
この発明によれば、(17)式を用いて、第1時刻から第2時刻までの間に第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さL12、第2時刻から第3時刻までの間に第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さL23、及び第3時刻から第4時刻までの間に第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さL34に分けて、圧延前の圧延材長さL14を求める。従って、走変開始点間距離の比較対象となる移動長さL14を、より正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、タンデム圧延機の走間設定変更を少なくとも2回行う場合に歩留まりが悪化することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施形態の制御装置が制御するタンデム圧延機の概要を示す図である。
図2】同制御装置の概要を示す図である。
図3】第1圧延機をピボット圧延機とした場合の、各圧延機におけるロール速度を変更するタイミングを表す図である。
図4】本発明の一実施形態における制御方法を示すフローチャートである。
図5】第1圧延機の入側における圧延材の板速度の、時間に対する変化を説明する模式図である。
図6】比較例の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する圧下位置及びロール速度の変化を示す図である。
図7】比較例の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する出口板厚及び圧延機間の張力の変化を示す図である。
図8】実施例1の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する圧下位置及びロール速度の変化を示す図である。
図9】実施例1の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する出口板厚及び圧延機間の張力の変化を示す図である。
図10】実施例2の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する圧下位置及びロール速度の変化を示す図である。
図11】実施例2の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する出口板厚及び圧延機間の張力の変化を示す図である。
図12】従来の制御方法において、各圧延機における時間に対する圧延状態の変化を表す図である。
図13】従来の制御方法において、各圧延機における圧下位置を変更するタイミングを表す図である。
図14】従来の制御方法において、各圧延機におけるロール速度を変更するタイミングを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る制御装置の一実施形態を、図1から図11を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る制御装置20の実施例を説明するための模式図である。制御装置20は、タンデム圧延機10を制御して圧延材Mを圧延するための装置である。圧延材Mは、先行材(第1部材)Mと、先行材Mに対して圧延材Mが搬送される搬送方向Dの上流側D1に配置された後行材(第2部材)MIIと、を備えている。
【0043】
本実施形態では、サイズ、材質が互いに同じ先行材Mと後行材MIIとが、溶接点Wにおいて溶接(接合)されている場合を例にとって説明する。例えば、先行材Mと後行材MIIとは、突合せ溶接されている。先行材Mの後端(搬送方向Dの上流側D1の端)の溶接点W付近と、後行材MIIの先端(搬送方向の下流側D2の端)の溶接点W付近を定常部(後行材MIIにおける溶接点Wから離間した、板厚が一定の部分)より厚くするとともに、この部分を張力を下げて圧延する。これにより、溶接点W付近で圧延材Mが破断することを防止する。
このために、先行材Mの後端付近において定常部から板厚を厚くし始める部分に第1走変開始点を設定し、後行材MIIの先端付近において定常部より厚い板厚を定常部の板厚に戻し始める部分に第2走変開始点を設定する。そして、圧延材Mの圧延において、2回の走間設定変更を実施する。第1走変開始点は、圧延材Mにおいて1回目の走間設定変更を開始する点である。第2走変開始点は、圧延材Mにおいて2回目の走間設定変更を開始する点である。また、第1走変部とは、第1走変開始点が下流側D2の端点となり、1回目の走間設定変更によって先行材Mの板厚を定常部から厚くし終わるまでの過渡状態の圧延材Mの部分である。第2走変部とは、第2走変開始点が下流側D2の端点となり、2回目の走間設定変更によって後行材MIIの定常部より厚い板厚を定常部の板厚に戻し終わるまでの過渡状態の圧延材Mの部分である。
なお、先行材Mと後行材MIIはサイズ、材質が同じであるので、溶接点Wでの走間設定変更は実施されない。
【0044】
例えば、タンデム圧延機10は、5台の圧延機1~5が直列に配置されて構成されている。なお、タンデム圧延機10が備える圧延機の数は、3以上の整数であるN台であれば制限はなく、5台以外にも、3台又は4台でもよいし、6台以上でもよい。
ここで、5台の圧延機1~5を、搬送方向Dの上流側D1から下流側D2に向かって第1圧延機1~第5圧延機5(第1圧延機1、第2圧延機2、第3圧延機3、第4圧延機4、及び第5圧延機5)とも呼ぶ。圧延機1~5は、搬送方向Dに等ピッチで配置されている。圧延材Mは、搬送方向Dの上流側D1から下流側D2に向かって第1圧延機1、第2圧延機2、‥、及び第5圧延機5の順に圧延される。
第1圧延機1~第5圧延機5には、それぞれ圧下装置1a~5a、速度制御装置1b~5bが備えられている。圧下装置1a~5a、は当該圧延機1~5のロール1d~5dの圧下位置を制御する。速度制御装置1b~5bは、当該圧延機1~5のロール速度(先行材M又は後行材MIIと接触するロール1d~5dの速度)を制御する。
【0045】
第1圧延機1から第5圧延機5の入側(上流側D1)には、板速計1c~5cが設置されている。板速計1c~5cは、各板速計1c~5cの設置位置における先行材M又は後行材MIIの板速度を測定し、測定した板速度を制御装置20の後述するトラッキング部21aに出力する。
【0046】
図2に、本実施形態の制御装置20を示す。制御装置20は、5台の圧延機1~圧延機5を停止させることなく(圧延機1~圧延機5に対して圧延材Mを下流側D2に移動させながら)圧延しながら圧下位置及びロール速度を変更する2回の走間設定変更を制御する。前記走間設定変更は、第1または第2走変開始点が圧延機に到達した際に、当該走変開始点に対応して圧下位置またはロール速度の変更を開始する必要がある圧延機の圧下位置またはロール速度を、圧延機を停止させることなく走間で変更することを意味する。
制御装置20はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)21と、主記憶装置22と、補助記憶装置23と、入出力インタフェース(IO・I/F)24と、記録・再生装置25と、を備えている。CPU21、主記憶装置22、補助記憶装置23、入出力インタフェース24、及び記録・再生装置25は、バス26により互いに接続されている。
主記憶装置22は、CPU21のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース24は、キーボードやマウス等の入力装置24a、及び表示装置24bに接続される。
記録・再生装置25は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体25aに対するデータの記録や再生を行う。
【0047】
補助記憶装置23は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置23には、前記コンピュータを制御装置20として機能させるための制御プログラム23aや、OS(Operating System)プログラム等の各種プログラム等が格納されている。制御プログラム23aを含む各種プログラムは、記録・再生装置25を介して記録媒体25aから補助記憶装置23に取り込まれる。制御プログラム23a等は、記録媒体25aに格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置23に取り込まれてもよい。
【0048】
CPU21は、各種演算処理を実行する。CPU21は、機能的に、両走変開始点の位置等を追跡するトラッキング(追跡)部21aと、走間設定変更を2回実施する場合の走間設定変更に関する設定を決定する設定決定部21bと、設定決定部21bで決定された走間設定変更に関する設定に基づく情報を第1圧延機1~第5圧延機5に対して出力する設定出力部21cと、を備えている。CPU21の機能構成要素であるトラッキング部21a、設定決定部21b、及び設定出力部21cは、補助記憶装置23に格納されている制御プログラム23a等をCPU21が実行することで機能する。制御プログラム23a等は、制御装置20用のプログラムである。制御プログラム23aは、制御装置20をトラッキング部21a、設定決定部21b、及び設定出力部21cとして機能させる。
【0049】
トラッキング部21aは、板速計1c~5cにそれぞれ接続されている。トラッキング部21aは、各板速計1c~5cから出力された板速度に基づいて、各走変開始点の搬送方向Dの位置を算出する。トラッキング部21aは、算出結果に基づいた変更指令を設定出力部21cに出力する。
設定決定部21bは、各走変開始点が第k圧延機k(k=1~5)に到達した際に圧下位置またはロール速度の変更を開始する必要がある圧延機の圧下位置及びロール速度の変更量、各走変部の走変時間を計算する。
【0050】
第1走変開始点が各圧延機に到達した際に開始する1回目の走間設定変更の走変時間は、第1走変部の走変時間であり互いに等しい。第2走変開始点が各圧延機に到達した際に開始する2回目の走間設定変更の走変時間は、第2走変部の走変時間であり互いに等しい。
設定決定部21bが決定する走間設定変更に関する設定には、第1走変開始点と第2走変開始点との間の圧延前の圧延材の距離である走変開始点間距離を、1回目の走間設定変更と2回目の走間設定変更が同一の圧延機において同一のタイミングで(同時に)実施されない距離にする設定が含まれる。
圧延される前の圧延材Mに対して、先行材Mに第1走変開始点を設定し、後行材MIIに第2走変開始点を後述する圧延前の圧延材長さ以上離れるように設定する。
【0051】
設定決定部21bは、第1走変開始点が5台の圧延機1~5のうちのいずれかの圧延機に到達した際に開始する1回目の走間設定変更に対しては、第1圧延機1をピボット圧延機として走間設定変更に関する設定を決定する。すなわち、走間設定変更に関する設定には、1回目の走間設定変更でのロール速度の変更に関し、第1圧延機1をピボット圧延機とする設定が含まれる。
さらに、設定決定部21bは、第2走変開始点が5台の圧延機1~5のうちのいずれかの圧延機に到達した際に開始する2回目の走間設定変更に対しては、第5圧延機5をピボット圧延機として走間設定変更に関する設定を決定する。すなわち、走間設定変更に関する設定には、2回目の走間設定変更でのロール速度の変更に関し、第5圧延機5をピボット圧延機とする設定が含まれる。
【0052】
ここで、ピボット圧延機の違いによる、各世代間での圧延機1~5のロール速度の変更の違いについて説明する。
第5圧延機をピボット圧延機とする場合、2つの走変部に対する圧下位置の変更又はロール速度の変更が重なり合う、すなわち、同じ圧延機に対して2つの走変部の変更を行わなければならないのは、表2の15ケースである。
【0053】
【表2】
【0054】
ケース1では、第1走変部が第1圧延機を通過する際に、第2走変部が第1圧延機を通過する。第1走変部(第2走変部)が第1圧延機を通過する際には、図13に示すように第1圧延機の圧下位置を変更する。この場合、第1走変部が第1圧延機を通過する際に第1圧延機の圧下位置を変更し、第2走変部が第1圧延機を通過する際に第1圧延機の圧下位置を変更する。このため、第1圧延機において、第1走変部における圧下位置の変更及び第2走変部における圧下位置の変更が重なり合う。
また、第5圧延機をピボット圧延機とする場合には、第1走変部(第2走変部)が第1圧延機を通過する際には、図14に示すように第1圧延機のロール速度を変更する。この場合、第1走変部が第1圧延機を通過する際に第1圧延機のロール速度を変更し、第2走変部が第1圧延機を通過する際に第1圧延機のロール速度を変更する。このため、第1圧延機において、第1走変部におけるロール速度の変更及び第2走変部におけるロール速度の変更が重なり合う。
【0055】
ケース2では、第1走変部が第2圧延機を通過する際に、第2走変部が第1圧延機を通過する。第1走変部が第2圧延機を通過する際には、図13に示すように第1圧延機及び第2圧延機それぞれの圧下位置を変更する。この場合、第1走変部が第2圧延機を通過する際に、第1圧延機及び第2圧延機それぞれの圧下位置を変更し、第2走変部が第1圧延機を通過する際に第1圧延機の圧下位置を変更する。このため、第1圧延機において、第1走変部における圧下位置の変更及び第2走変部における圧下位置の変更が重なり合う。
また、第5圧延機をピボット圧延機とする場合には、第1走変部が第2圧延機を通過する際には、図14に示すように第1圧延機及び第2圧延機それぞれのロール速度を変更する。この場合、第1走変部が第2圧延機を通過する際に第1圧延機及び第2圧延機それぞれのロール速度を変更し、第2走変部が第1圧延機を通過する際に第1圧延機のロール速度を変更する。このため、第1圧延機において、第1走変部におけるロール速度の変更及び第2走変部におけるロール速度の変更が重なり合う。
ケース3~ケース15についても、同様である。
【0056】
一方で、第1圧延機1をピボット圧延機とする場合、第1走変開始点が5台の圧延機1~5のうちのいずれかの圧延機に到達した際に開始する、各世代間での圧延機1~圧延機5の圧下位置及びロール速度の変更について説明する。
【0057】
第1圧延機1をピボット圧延機とする場合、(15)式に代えて、(31)式を用いればよい。(31)式は、各世代の第1圧延機1のロール速度が一定であることを意味する。
【0058】
【数7】
【0059】
そして、(1)式、(2)式、(5)式、(12)式~(14)式、及び(31)式より、第i世代の第j圧延機(i=1~6,j=1~5)のロール速度v (i)(i=1~6,j=1~5)は、表3のように求められる。
【0060】
【表3】
【0061】
第1圧延機1をピボット圧延機とした場合のロール速度の変更は、図3に示すように行われる。すなわち、第1走変開始点が第1圧延機1あるいは第2圧延機2に到達した際には、第2圧延機2~第5圧延機5のロール速度の変更を開始する。第1走変開始点が第j圧延機j(j=3~5)に到達した際には、第(j-1)圧延機(j-1)~第5圧延機5のロール速度の変更を開始する。
なお、第1圧延機1をピボット圧延機とした場合に圧下位置を変更する圧延機は、図13に示す第5圧延機5をピボット圧延機とした場合に圧下位置を変更する圧延機と同一である。
【0062】
第1走変部のロール速度の変更に表3の変更方法(第1圧延機1をピボット圧延機とした場合)を適用し、第2走変部のロール速度の変更に表1の変更方法(第5圧延機5をピボット圧延機とした場合)を適用した場合、2つの走変部に対する圧下位置あるいはロール速度の変更が重なる、すなわち、同じ圧延機に対して2つの走変部の変更を行わなければならないのは、表4の9ケースに限られる。
【0063】
【表4】
【0064】
これを従来の表2と比較すると、圧下位置変更が重なるケースは変わらないが、ロール速度変更が重なるケースは大幅に少なくなっている。これは、第1走変開始点が5台の圧延機1~圧延機5のうちのいずれかの圧延機に到達した際に開始する各世代間での圧延機1~圧延機5のロール速度の変更を、第1圧延機1がピボットとなるようにした効果である。
【0065】
表4のケースは、走間設定変更に関する設定に、走変開始点間距離を、1回目の走間設定変更と2回目の走間設定変更が同一の圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれていると、避けられる。より詳しく説明すると、この設定は、第1走変開始点が第(j+1)圧延機(j+1)に到達した際に開始する圧下位置及びロール速度の変更が終了した後に、第2走変開始点が第j圧延機j(j=1~4)に到達し、第1走変開始点が第5圧延機5に到達した際に開始する圧下位置及びロール速度の変更が終了した後に、第2走変開始点が第5圧延機5に到達するという設定、とも言える。
従って、走間設定変更に関する設定がこの設定を含んでいれば、2つの走変部が第1圧延機1から第5圧延機5の間に同時に入ったとしても圧下位置の変更もロール速度の変更も重なり合わず、第1走変部に対するロール速度及び圧下位置の変更と、第2走変部に対する圧下位置及びロール速度の変更を順番に行うだけでよいことになる。
【0066】
ところで、板圧延では圧延されて圧延材が延ばされると、圧延材が移動する速度である板速度が速くなる。従って、圧延材が圧延機間を移動する速度は、下流側D2に向かうに従って速くなり、圧延材が圧延機間を移動するのに要する時間は、下流側D2に向かうに従って短くなる。従って、第1走変開始点が第2圧延機2に到達した際に開始する第1圧延機1及び第2圧延機2の圧下位置及び第2圧延機2~第5圧延機5のロール速度の変更が終了した後に、第2走変開始点が第1圧延機1に到達する(以下、この条件を走変開始点間の距離設定条件と呼ぶ)ように、第1走変開始点と第2走変開始点との圧延前の搬送方向Dの距離をとれば、上記の条件は全て満たされることになる。
【0067】
再び、CPU21の機能構成要素であるトラッキング部21a、設定決定部21b、及び設定出力部21cについて説明する。
設定決定部21bが設定する第1走変開始点及び第2走変開始点は、圧延材Mに実際に刻印等されて示される点ではなく、制御装置20が制御プログラム23aを実行する際に、先行材M及び後行材MII上に設定される点である。
設定決定部21bは、先に説明した走変開始点間の距離設定条件を満たすように、圧延材Mが圧延される前の第1走変開始点と第2走変開始点との搬送方向Dの走変開始点間距離を決定する。走変開始点間距離の詳細については、後述する制御方法において詳しく説明する。
設定決定部21bは、決定した走間設定変更に関する設定を、設定出力部21cに対して出力する。
【0068】
設定出力部21cは、圧下装置1a~5a及び速度制御装置1b~5bにそれぞれ接続されている。設定出力部21cは、走間設定変更に関する設定に基づく情報を圧下装置1a~5a及び速度制御装置1b~5bに出力することで、圧下装置1a~5a及び速度制御装置1b~5bをそれぞれ制御する。
なお、制御装置20がトラッキング部21aを備えず、トラッキング部21aの機能が設定決定部21b及び設定出力部21cにそれぞれ組み込まれてもよい。
【0069】
次に、以上のように構成された制御装置20を用いた本実施形態の制御方法について説明する。図4は、本発明の一実施形態における制御方法Sを示すフローチャートである。
まず、設定決定工程(図4に示すステップS1)において、2回の走間設定変更に先立って、設定決定部21bは、第n(n=1,2)走変開始点が第k圧延機k(k=1~5)に到達した際に開始する第j圧延機j(j=1~5)の圧下位置の変更量ΔS 〔k,n〕、第n(n=1,2)走変開始点が第k圧延機k(k=1~5)に到達した際に開始する第j圧延機j(j=1~5)のロール速度の変更量ΔV 〔k,n〕、走変時間τ〔n〕を計算する。以下では、この計算処理について詳細に説明する。
【0070】
圧延材Mの定常部の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚をhset,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力をTset,j(ただし、Tset,0は第1圧延機1の入口張力、Tset,5は第5圧延機5の出口張力を表す)、溶接点Wの近傍の板厚を厚くする部分の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚をhtemp,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力をTtemp,j(ただし、Ttemp,0は第1圧延機1の入口張力、Ttemp,5は第5圧延機5の出口張力を表す)とする。
【0071】
第1走変部の走間設定変更前の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚はhset,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力はTset,j、走間設定変更後の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚はhtemp,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力はTtemp,jである。
すなわち、圧延材Mは、下流側D2から上流側D1に向かうに従い、添え字「set」で表される定常部から、溶接点Wの近傍の添え字「temp」で表される部分を介して、添え字「set」で表される定常部へと仕様が変化する。
従って、(1)式~(14)式と第1圧延機をピボット圧延機とする(31)式において、h =hset,j,h II=htemp,j,T =Tset,j,T II=Ttemp,jとすることにより、設定決定部21bは、第i世代の第j圧延機j(i=1~6,j=1~5)の圧下位置S (i,1)、ロール速度v (i,1)を求める。そして、設定決定部21bは、第1走変開始点が第k圧延機k(k=1~5)に到達した際に開始する第j圧延機j(j=1~5)の圧下位置の変更量ΔS 〔k,1〕を(32)式、ロール速度の変更量Δv 〔k,1〕を(33)式で計算する。
【0072】
【数8】
【0073】
ただし、(7)式~(11)式より、圧下位置の変更量ΔS 〔3,1〕,ΔS 〔4,1〕,ΔS 〔5,1〕,ΔS 〔1,1〕,ΔS 〔4,1〕,ΔS 〔5,1〕,ΔS 〔1,1〕,ΔS 〔2,1〕,ΔS 〔5,1〕,ΔS 〔1,1〕,ΔS 〔2,1〕,ΔS 〔3,1〕,ΔS 〔1,1〕,ΔS 〔2,1〕,ΔS 〔3,1〕、及びΔS 〔4,1〕は、対応する世代間で圧下位置を変更しないため、理論的にそれぞれ0である。また、表3より、ロール速度の変更量Δv 〔1,1〕,Δv 〔2,1〕,Δv 〔3,1〕,Δv 〔4,1〕,Δv 〔5,1〕,Δv 〔4,1〕,Δv 〔5,1〕、及びΔv 〔5,1〕は、対応する世代間でロール速度を変更しないため、理論的にそれぞれ0である。
また、設定決定部21bは、第1走変部の走変時間τ〔1〕を(34)式で計算する。
【0074】
【数9】
【0075】
ここで、τS,j 〔k,1〕は、第j圧延機jの圧下装置jaが圧下位置をΔS 〔k,1〕変更するのに必要な最小時間、τv,j 〔k,1〕は、第j圧延機jの速度制御装置jbがロール速度をΔv 〔k,1〕変更するのに必要な最小時間である。
また、第2走変部の走間設定変更前の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚はhtemp,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力はTtemp,j、走間設定変更後の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚はhset,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力はTset,jである。
従って、(1)式~(14)式と第5圧延機をピボット圧延機とする(15)式において、h =htemp,j、h II=hset,j、T =Ttemp,j、T II=Tset,jとすることにより、設定決定部21bは、第i世代の第j圧延機j(i=1~6,j=1~5)の圧下位置S (i,2)、ロール速度v (i,2)を求める。そして、設定決定部21bは、第2走変開始点が第k圧延機k(k=1~5)に到達した際に開始する第j圧延機j(j=1~5)の圧下位置の変更量ΔS 〔k,2〕を(35)式、ロール速度の変更量Δv 〔k,2〕を(36)式で計算する。
【0076】
【数10】
【0077】
ただし、(7)~(11)式より、圧下位置の変更量ΔS 〔3,2〕,ΔS 〔4,2〕,ΔS 〔5,2〕,ΔS 〔1,2〕,ΔS 〔4,2〕,ΔS 〔5,2〕,ΔS 〔1,2〕,ΔS 〔2,2〕,ΔS 〔5,2〕,ΔS 〔1,2〕,ΔS 〔2,2〕,ΔS 〔3,2〕,ΔS 〔1,2〕,ΔS 〔2,2〕,ΔS 〔3,2〕、及びΔS 〔4,2〕は、対応する世代間で圧下位置を変更しないため、理論的にそれぞれ0である。また、表1より、ロール速度の変更量Δv 〔1,2〕,Δv 〔1,2〕,Δv 〔2,2〕,Δv 〔1,2〕,Δv 〔2,2〕,Δv 〔3,2〕,Δv 〔1,2〕,Δv 〔2,2〕,Δv 〔3,2〕,Δv 〔4,2〕、及びΔv 〔5,2〕は、対応する世代間でロール速度を変更しないため、理論的にそれぞれ0である。
また、設定決定部21bは、第2走変部の走変時間τ〔2〕を(37)式で計算する。
【0078】
【数11】
【0079】
ここで、τS,j 〔k,2〕は、第j圧延機jの圧下装置jaが圧下位置をΔS 〔k,2〕変更するのに必要な最小時間、τv,j 〔k,2〕は、第j圧延機jの速度制御装置jbがロール速度をΔv 〔k,2〕変更するのに必要な最小時間である。
【0080】
次に、設定決定部21bは、走変開始点間の距離設定条件を満たすように、圧延材Mが圧延される前の第1走変開始点と第2走変開始点との搬送方向Dの走変開始点間距離を決定する。
図5は、第1圧延機1の入側における圧延材M(先行材M及び後行材MII)の板速度の時間変化を表した模式図である。図5において、横軸は時間を表し、縦軸は第1圧延機1の入側における圧延材Mの板速度を表す。
ここで、第1走変部に対する第i世代における第1圧延機1の先進率をf (i,1)、第1走変部に対する第i世代における第1圧延機1の出口板厚をh (i,1)、圧延前板厚をhとする。このとき、第1走変部の第i世代における第1圧延機1の入側における圧延材Mの板速度V (i,1)は(41)式で求められる。
【0081】
【数12】
【0082】
なお、図5の縦軸において、板速度V (1,1),V (2,1),V (3,1)の大小関係は便宜的に示したものであり、板速度V (1,1),V (2,1),V (3,1)の大小関係は限定されない。
また、第1走変開始点が第1圧延機1に到達した第1時刻tにおける第1圧延機1の出側板速度V (1,1)は、(42)式で求められる。一方で、第1時刻tから開始する圧延機1の圧下位置と第2圧延機2~第5圧延機5のロール速度(5台の圧延機のうちの定められた圧延機の圧下位置及びロール速度)の変更が終了する第2時刻tにおける第1圧延機1の出側板速度V (2,1)は、(43)式で求められる。
【0083】
【数13】
【0084】
従って、第1時刻tから第2時刻tまでの間に、第1圧延機1で圧延される圧延前の圧延材の長さL12は、(44)式で計算できる。また、第1走変開始点が第1圧延機1と第2圧延機2との間を移動する長さL121は、(45)式で計算できる。
【0085】
【数14】
【0086】
ここで、第1圧延機1と第2圧延機2との間の距離を、Lとする。この時、第2時刻tから、第1走変開始点が第2圧延機2に到達する第3時刻tまでの時間t23は、(46)式となる。第2時刻tから第3時刻tまでの間に第1圧延機1で圧延される圧延前の圧延材の長さL23は、(47)式となる。
【0087】
【数15】
【0088】
ここで、第3時刻tから開始する第1圧延機1及び第2圧延機2の圧下位置の変更と第2圧延機2~第5圧延機5のロール速度(5台の圧延機のうちの定められた圧延機の圧下位置及びロール速度の変更)の変更が終了する時刻を、第4時刻tとする。このとき、長さL12と同様に、第3時刻tから第4時刻tまでの間に、第1圧延機1で圧延される圧延前の圧延材の長さL34は、(49)式で計算できる。
【0089】
【数16】
【0090】
以上により、設定決定部21bは、第1時刻tから第4時刻tまでの間に第1圧延機1の入側で圧延材Mが移動する移動長さL14を、長さL12、長さL23、及び長さL34の和として(50)式で求める。(50)式に、(44)式、(47)式、及び(49)式を代入すると、(51)式が得られる。
【0091】
【数17】
【0092】
走間設定変更に関する設定に、圧延材Mが圧延される前の第1走変開始点と第2走変開始点との搬送方向Dの距離である走変開始点間距離を移動長さL14よりも長くする設定が含まれていれば、走変開始点間の距離設定条件を満たす。走変開始点間の距離設定条件は、第1走変開始点が第2圧延機2に到達した際に開始する圧下位置及びロール速度の変更が終了する第4時刻tの後に、第2走変開始点が第1圧延機1に到達するということである。
なお、走変開始点間距離は、移動長さL14よりも長く、かつ、第1走変開始点が第5圧延機5に到達してから時間τ〔1〕が経過したときに第2走変開始点が第1圧延機1に到達するような長さよりも短くすれば、2つの走変部がタンデム圧延機10の第1圧延機1から第5圧延機5までの間に同時に入ることを許容したことになり、従来より歩留まりの悪化を防止できる。しかし、歩留まりをより改善するには、走変開始点間距離は移動長さL14よりもわずかに長いことが好ましい。例えば、走変開始点間距離は移動長さL14の1.5倍であることが好ましく、1.2倍であることがより好ましく、1.1倍であることがさらに好ましい。
【0093】
設定決定部21bは、溶接点Wから下流側D2に(L14+ε)/2だけ離れた先行材Mに第1走変開始点を設定し、溶接点Wから上流側D1に(L14+ε)/2だけ離れた後行材MIIに第2走変開始点を設定する。ここで、εは予め定めておいた微小な正数である。すなわち、走変開始点間距離は、移動長さL14よりもε長い。
そして、設定決定部21bは、圧下位置の変更量ΔS 〔k,1〕,ΔS 〔k,2〕、ロール速度の変更量Δv 〔k,1〕,Δv 〔k,2〕、及び走変部の走変時間τ〔1〕,τ〔2〕を設定出力部21cに出力する。
【0094】
以上説明したような2回の走間設定変更に先立って行われる、設定決定部21bによる走間設定変更に関する設定の決定(設定決定部21bの計算と出力、第1,第2走変開始点の設定)が完了した後、走間設定変更を実施する。
設定決定工程S1が終了すると、ステップS2に移行する。
【0095】
次に、設定出力工程(ステップS2)において、設定出力部21cは走間設定変更に関する設定に基づく情報を出力することで、第1走変開始点が5台の圧延機1~5のうちのいずれかの圧延機に到達した際には、第1圧延機1をピボット圧延機として5台の圧延機1~5の圧下位置及びロール速度を変更する。さらに、設定出力部21cは走間設定変更に関する設定に基づく情報を出力することで、第2走変開始点が5台の圧延機1~5のうちのいずれかの圧延機に到達した際には、第5圧延機5をピボット圧延機として5台の圧延機1~5の圧下位置及びロール速度を変更する。
【0096】
より詳しくは、走間設定変更に関する設定には、第1走変開始点が第1圧延機1に到達した際には、第1圧延機1の圧下位置と、第2圧延機2~第5圧延機5それぞれのロール速度の変更を開始する設定が含まれる。走間設定変更に関する設定には、第1走変開始点が第2圧延機2に到達した際には、第1圧延機1及び第2圧延機2それぞれの圧下位置と、第2圧延機2~第5圧延機5それぞれのロール速度、の変更を開始する設定が含まれる。走間設定変更に関する設定には、第1走変開始点が第j圧延機j(j=3~5)に到達した際には、第(j-1)圧延機(j-1)及び第j圧延機jそれぞれの圧下位置と、第(j-1)圧延機(j-1)~第5圧延機5それぞれのロール速度、の変更を開始する設定が含まれる。
また、走間設定変更に関する設定には、第2走変開始点が第1圧延機1に到達した際には、第1圧延機1の圧下位置と、第1圧延機1のロール速度、の変更を開始する設定が含まれる。走間設定変更に関する設定には、第2走変開始点が第j圧延機j(j=2~4)に到達した際には、第(j-1)圧延機(j-1)及び第j圧延機jそれぞれの圧下位置と、第1圧延機1~第j圧延機jそれぞれのロール速度、の変更を開始する設定が含まれる。走間設定変更に関する設定には、第2走変開始点が第5圧延機5に到達した際には、第4圧延機4の圧下位置及び第5圧延機5それぞれの圧下位置と、第1圧延機1~第4圧延機4のロール速度、の変更を開始する設定が含まれる。
【0097】
設定出力工程S2において、トラッキング部21aは、板速計1c~5cから与えられる第k圧延機kの入側板速度Vに基づいて、第n走変開始点(n=1,2)がどの位置に存在するのを追跡する。トラッキング部21aは、第n走変開始点が第k圧延機k(k=1~5)に到達したことを検知すると、第n走変開始点が第k圧延機kに到達した際の圧下位置及びロール速度の変更開始指令を設定出力部21cに出力する。
設定出力部21cは、トラッキング部21aから、第n走変開始点が第k圧延機kに到達した際の圧下位置及びロール速度の変更開始指令が与えられると、設定決定部21bから与えられた走間設定変更に関する設定に基づく情報を圧下装置1a~5a及び速度制御装置1b~5bに出力する。この走間設定変更に関する設定には、第n走変開始点が第k圧延機kに到達した際に開始する第j圧延機j(j=1~5)の圧下位置の変更量ΔS 〔k,n〕が0でない圧延機に対して、圧下位置を変更レート(ΔS 〔k,n〕/τ〔n〕)でΔS 〔k,n〕だけ変更する設定が含まれる。
この走間設定変更に関する設定には、第n走変開始点が第k圧延機kに到達した際に開始する第j圧延機j(j=1~5)のロール速度の変更量Δv 〔k,n〕が0でない圧延機に対して、ロール速度を変更レート(Δv 〔k,n〕/τ〔n〕)でΔv 〔k,n〕だけ変更する設定が含まれる。
【0098】
第j圧延機jの圧下装置jaは、設定出力部21cから与えられた走間設定変更に関する設定に基づく情報に含まれる圧下位置変更指令に従って、第j圧延機jの圧下位置を制御する。第j圧延機jの速度制御装置jbは、設定出力部21cから与えられた走間設定変更に関する設定に基づく情報に含まれるロール速度変更指令に従って第j圧延機jのロール速度を制御する。これにより、走間設定変更制御が実現される。
設定出力工程S2が終了すると、制御方法Sの全ての工程が終了し、圧延材Mが所望の条件に圧延される。
【0099】
以上のように、第1走変部に対して第1圧延機1をピボット圧延機とすると、第1圧延機1をピボット圧延機としつつ、第1走変開始点が到達した圧延機よりも1つ上流側D1の圧延機から第5圧延機5までのロール速度がそれぞれ変更される。第2走変部に対して第5圧延機5をピボット圧延機とすると、第5圧延機5をピボット圧延機としつつ、第1圧延機1から第2走変開始点が到達した圧延機までのロール速度がそれぞれ変更される。
第1走変開始点は第2走変開始点よりも下流側D2に位置しているため、第1走変部に対して第1圧延機1をピボット圧延機とするとともに第2走変部に対して第5圧延機5をピボット圧延機とすることで、第1走変開始点の到達により変更する圧延機と、第2走変開始点の到達により変更する圧延機とが重なり合い難くなる。
【0100】
図14及び表1に示す従来の制御方法におけるロール速度の変更方法では、最も下流側の圧延機である第5圧延機をピボット圧延機としているため、走変開始点が第1圧延機~第5圧延機に到達するたびに、第1圧延機のロール速度を変更する。この制御方法を2つの走変部に適用して2つの走変部に対するロール速度の変更が重なり合わないようにするには、第1走変開始点が第5圧延機(最も下流側の圧延機)に到達した際の変更を終了するまで、第2走変開始点が第1圧延機に到達できないという問題がある。
【0101】
これに対して、本実施形態の制御装置20、制御方法S、及び制御プログラム23aによれば、第1圧延機1をピボット圧延機とする第1走変部に対するロール速度の変更は、第1圧延機1をピボット圧延機としつつ、第1走変開始点が到達した圧延機よりも1つ上流側D1の圧延機から下流側D2に向かう範囲に位置する圧延機に及ぶ。一方で、第5圧延機5をピボット圧延機とし、第1走変開始点よりも上流側D1に配置された第2走変開始点から変更を開始する第2走変部に対するロール速度の変更は、第5圧延機5をピボット圧延機としつつ、第2走変開始点が到達した圧延機から上流側D1に向かう範囲に位置する圧延機に及ぶ。そして、各走変部に対する圧下位置の変更は、各走変開始点が到達する圧延機及びこの圧延機よりも1つ上流側D1の圧延機に及ぶ。
第1走変部に対するロール速度の変更は下流側D2の範囲に及び、第1走変部よりも上流側に配置された第2走変部に対するロール速度の変更は上流側D1の範囲に及ぶため、基本的に、第1走変部に対するロール速度の変更と、第2走変部に対するロール速度の変更とを行う圧延機は重なり合いにくい。しかし、第1走変開始点と第2走変開始点との搬送方向Dの長さが短い場合には、例えば、第1走変部が第5圧延機5を通過する際に第2走変部が第4圧延機4を通過する場合等、2つの走変部に対する圧下位置及びロール速度の変更を行う圧延機が重なり合うことが考えられる。
【0102】
しかしながら、設定決定部21bが(設定決定工程S1において)決定する走間設定変更に関する設定には、走変開始点間距離を、1回目の走間設定変更と2回目の走間設定変更が同一の圧延機において同一のタイミングで実施されない距離にする設定が含まれる。より詳しくは、走変開始点間距離は、第1走変開始点が第2圧延機2に到達した際に開始する5台の第1圧延機1~第5圧延機5のあらかじめ定められた圧延機の圧下位置及びロール速度の変更が終了した後に、第2走変開始点が第1圧延機1に到達するという走変開始点間の距離設定条件を満たすように設定される。
圧延材Mはタンデム圧延機10により圧延されるに従い、第1走変開始点と前記第2走変開始点との距離が長くなるため、第1走変開始点が第2圧延機2よりも下流側D2の圧延機に到達した際に開始する変更も、2つの走変部に対する圧下位置及びロール速度の変更を行う圧延機が重なり合うことが無くなる。従って、2つの走変部がタンデム圧延機10の第1圧延機1から第5圧延機5までの間に同時に入ることを許容することができる。
【0103】
また、設定出力部21cは、第1圧延機をピボット圧延機とする第1走変部に応じた圧下位置及びロール速度の変更の設定、及び第5圧延機5をピボット圧延機とする第2走変部に応じた圧下位置及びロール速度の変更の設定を含む走間設定変更に関する設定に基づく情報を、各第1圧延機1~第5圧延機5に対応して適切に出力することができる。
設定決定部21bは(50)式を用いて、第1時刻tから第2時刻tまでの間に第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さL12、第2時刻tから第3時刻tまでの間に第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さL23、及び第3時刻tから第4時刻tまでの間に第1圧延機で圧延される圧延前の圧延材の長さL34に分けて、移動長さL14を求める。従って、走変開始点間距離の比較対象となる移動長さL14を、より正確に求めることができる。
【0104】
なお、特許文献1に記載されているような従来の走間設定変更では、最下流圧延機である第5圧延機5をピボット圧延機とするため、第5圧延機5のロール速度は変化しない。このため、走間設定変更が終了したときの第5圧延機5のロール速度を所望の速度Vrefとして指定したい場合は、第5圧延機5のロール速度がVrefになるようにタンデム圧延機全体の圧延速度を調節してしてから走間設定変更を開始する。
これに対して、本実施形態の制御装置20では、第1,第2走変部の全ての変更が行われている間に、最下流圧延機である第5圧延機5のロール速度は(55)式で示すα倍に変化する。
【0105】
【数18】
【0106】
なお、αは、2回の走間設定変更(1回目の走間設定変更及び2回目の走間設定変更)で変更される第5圧延機5のロール速度の変更比率である。より具体的には、両走変部が通過する前のロール速度に対する、両走変部が通過した後のロール速度の比率である。
なお、第2走変部に対しては第5圧延機5をピボット圧延機としているため、第2走変部に対する第5圧延機5の第6世代でのロール速度v 〔6,2〕は、第2走変部に対する第5圧延機5の第1世代でのロール速度v 〔1,2〕と等しくなる。
さらに、第2走変部の走間設定変更は、第1走変部の走間設定変更に引き続いて実施されるので、ロール速度v 〔1,2〕は、第1走変部に対する第5圧延機5の第6世代でのロール速度v 〔6,1〕と等しくなる。このため、(56)式が得られる。
【0107】
【数19】
【0108】
なお、(56)式を表5に基づいて整理すると、(57)式が得られ、さらに約分して式を整理すると、(58)式が得られる。
【0109】
【数20】
【0110】
従って、設定出力部21cが、2回の走間設定変更が終了したときの第5圧延機5のロール速度(第2走変開始点が第5圧延機5に到達した際に開始する圧下位置とロール速度の変更が終了した際の第5圧延機5のロール速度)をVrefとして指定したい場合は、設定出力部21cが出力する走間設定変更に関する設定に、以下の設定を含ませればよい。その設定は、第1走変開始点が第1圧延機1に到達する前(第1走変部の走間設定変更を開始する前)の第5圧延機5のロール速度が(Vref/α)の式による速度となるように、タンデム圧延機10全体の圧延速度を調節する設定である。
制御装置をこのように構成することで、第1走変部のピボット圧延機を第1圧延機1をとする場合であっても、第2走変開始点が第5圧延機5に到達した際に開始する圧下位置とロール速度の変更が終了した際の第5圧延機5のロール速度、すなわち、2つの走変部が5台の第1圧延機1~第5圧延機5を備えるタンデム圧延機10を通過した後の第5圧延機5のロール速度を、所望のロール速度Vrefに制御することができる。
【0111】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、先行材と後行材とは、サイズ及び材質の少なくとも一方が互いに異なっていてもよい。ただし、この場合には、溶接点Wでの走間設定変更が必要になるので、先行材の後端での走間設定変更を第1走変部、溶接点Wでの走間設定変更を第2走変部とするとともに、溶接点Wでの走間設定変更を第1走変部、後行材の先端の走間設定変更を第2走変部として別々に(つまり上記実施形態の手法を2回)実施する必要がある。
設定決定部21bは、走間設定変更を3回以上実施する走間設定変更に関する設定を決定してもよい。
圧延材は、1つの部材のみから構成されてもよい。
【0112】
(実施例)
以下では、本発明の実施例及び比較例を具体的に示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下では、上記の実施形態等をコンピュータを用いてシミュレーションした結果を説明する。先行材及び後行材について、板幅は1200mm、圧延前板厚は2.7mmとした。定常部の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚hset,j、第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力Tset,j、溶接部近傍の板厚を厚くする部分の第j圧延機j(j=1~5)の出口板厚htemp,j、及び第j圧延機jと第(j+1)圧延機(j+1)との間の張力Ttemp,jは、表5の値とした。
【0113】
【表5】
【0114】
また、搬送方向に隣合う圧延機間の距離は、いずれも4.6mとした。従って、(46)式の距離Lは、4.6mである。
【0115】
まず、特許文献1のように、2回の走間設定変更とも最下流圧延機である第5圧延機5をピボット圧延機とした比較例の制御装置について説明する。
この場合のシミュレーション結果を、図6及び図7に示す。横軸の時間は、第1走変部の走間設定変更の開始時刻を0としている。図6及び図7において、実線による線N1は、第1圧延機1に関する圧下位置、ロール速度、及び出口板厚(以下、圧下位置等と呼ぶ)を示す。同様に、点線による線N2は第2圧延機2に関する圧下位置等を示し、一点鎖線による線N3は第3圧延機3に関する圧下位置等を示し、二点鎖線による線N4は第4圧延機4に関する圧下位置等を示し、太い実線による線N5は第5圧延機5に関する圧下位置等を示す。
図7において、実線による線N12は、第1圧延機1と第2圧延機2との間の張力を示す。同様に、点線による線N23は、第2圧延機2と第3圧延機3との間の張力を示し、一点鎖線による線N34は、第3圧延機3と第4圧延機4との間の張力を示し、二点鎖線による線N45は、第4圧延機4と第5圧延機5との間の張力を示す。
後述する図8から図11についても同様である。
【0116】
横軸における期間A(j=1~5)は、第1走変開始点が第j圧延機jに到達した際に開始する、圧延機1~5のロール速度及び圧下位置の変更期間である。期間A,A,A,A,Aの長さは、互いに等しい。同様に、期間B(j=1~5)は、第2走変開始点が第j圧延機jに到達した際に開始する、圧延機1~5のロール速度及び圧下位置の変更期間である。期間B,B,B,B,Bの長さは、互いに等しい。
【0117】
第1走変部の走間設定変更を開始する前の第5圧延機5のロール速度は、2.5m/sとした(図6中の点Q1参照)。この比較例の制御装置の場合、第1走変開始点が第5圧延機5に到達した際に開始するロール速度及び圧下位置の変更が終了するまで、第2走変開始点が第1圧延機1に到達できない。すなわち、期間Aが終了するまで、期間Bが開始できない。
先行材と後行材の溶接点W近傍の板厚を厚くする部分の長さが等しくなるようにすると、走変開始点間の距離設定条件を満たすために必要な両走変開始点間の距離は、圧延材が圧延される前で各7.28m(合計14.57m)であった。
【0118】
比較例の制御装置では、同じ圧延機に対して2つの走変部に対する圧下位置及びロール速度の変更が重なり合うことは回避できており、板厚、張力ともに所望のように変更できている。しかし、圧延前の長さで約15m分が定常部の板厚と異なるため、歩留まりロスが大きくなる。
【0119】
次に、第1走変部の走間設定変更は最上流圧延機である第1圧延機1をピボット圧延機とし、第2走変部の走間設定変更は最下流圧延機である第5圧延機5をピボット圧延機とした実施例の制御装置について、2つの例を説明する。
まず、実施例1の制御装置のシミュレーション結果について説明する。実施例1のシミュレーションの条件及び結果を、図8及び図9に示す。
実施例1の制御装置では、第1走変部の走間設定変更を開始する前の第5圧延機5のロール速度を、比較例の制御装置と同じく2.5m/sとした(図8中の点Q3参照)。
【0120】
図8中には、各期間A,Bにおいて、ロール速度の変更及び圧下位置の変更を行う圧延機の番号(1~5)を示した。例えば、期間Aについては、ロール速度の変更を行う圧延機は第2圧延機2~第5圧延機5であり、圧下位置の変更を行う圧延機は第1圧延機1及び第2圧延機2である。期間Bについては、ロール速度の変更を行う圧延機は第1圧延機1であり、圧下位置の変更を行う圧延機は第1圧延機1である。
期間Aが終了した後に期間Bを開始するため、期間Aにおける第1走変部に対する第1圧延機1の変更と、期間Bにおける第2走変部に対する第1圧延機1の変更とが、重なり合わずに制御できていることが分かる。
【0121】
走変開始点間の距離設定条件を満たすために必要な両走変開始点間の距離は、圧延材が圧延される前で各2.87m(合計5.74m)であった。なお、実施例1の制御装置において、(55)式のαは、0.848になる。
実施例1の制御装置では、同じ圧延機に対して2つの走変部に対する圧下位置及びロール速度の変更が重なり合うことが回避できており、板厚、張力ともに所望のように変更できている。このように、実施例1の制御装置では、比較例の制御装置に比べて定常部の板厚と異なる部分の長さを短くできるため、歩留まりロスが減少する。
【0122】
次に、実施例2の制御装置のシミュレーション結果について説明する。実施例2のシミュレーションの条件及び結果を、図10及び図11に示す。
実施例2の制御装置では、2回の走間設定変更が終了したときの第5圧延機5のロール速度が比較例の制御装置と同じく2.5m/sになるように、第1走変部の走間設定変更を開始する前の第5圧延機5のロール速度を(2.5/α)の式から、2.95m/sとした。
この場合の走変開始点間の距離設定条件を満たすために必要な両走変開始点間の距離は、圧延材が圧延される前で各3.01m(合計6.02m)必要であった。期間Bよりも後の第5圧延機5のロール速度は、2.5m/sになる(図10中の点Q5参照)。
実施例2の制御装置では、同じ圧延機に対して2つの走変部に対する圧下位置及びロール速度の変更が重なり合うことが回避できており、板厚、張力ともに所望のように変更できている。このように、実施例2の制御装置では、比較例の制御装置に比べて定常部の板厚と異なる部分の長さを短くできるため、歩留まりロスが減少する。
【符号の説明】
【0123】
1 第1圧延機(圧延機)
2 第2圧延機(圧延機)
3 第3圧延機(圧延機)
4 第4圧延機(圧延機)
5 第5圧延機(圧延機)
10 タンデム圧延機
20 制御装置
21b 設定決定部
21c 設定出力部
23a 制御プログラム
D 搬送方向
D1 上流側
D2 下流側
14 移動長さ
M 圧延材
先行材(第1部材)
II 後行材(第2部材)
S 制御方法
S1 設定決定工程
S2 設定出力工程
第1時刻
第2時刻
第3時刻
第4時刻
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14