(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】基板、基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法、有機物の堆積膜及び有機物
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
C23C26/00 A
(21)【出願番号】P 2020528845
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2019026014
(87)【国際公開番号】W WO2020009048
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018126082
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 純基
(72)【発明者】
【氏名】新免 益隆
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】灘野 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達夫
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-189296(JP,A)
【文献】特開2017-021014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板に対して、
前記第二表面領域よりも前記第一表面領域に、下記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させることを特徴とする方法。
【化1】
(1)
(一般式(1)において、Nは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は、炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【請求項2】
前記金属は、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非金属無機材料は、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物及びシリコン酸窒化物からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属酸化物は、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記一般式(1)において、R
2、R
3及びR
4は、水素原子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機物は、o-アミノチオフェノール、2-アミノベンジルアルコール、2-アミノエタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-アミノエタンチオール、3-アミノ-1-プロパノール及びo-アミノフェノールからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第二表面領域よりも前記第一表面領域に有機物の膜を選択的に堆積させる工程は、前記有機物と溶媒とを含む溶液に前記基板を暴露する工程である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液は、有機物と溶媒の合計に対して0.1質量%以上10質量%以下の前記一般式(1)で表される有機物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基板に対して、前記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させた後、前記基板を溶媒で洗浄する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第二表面領域よりも前記第一表面領域に、前記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させる工程が、前記有機物の気体を含む雰囲気に前記基板を暴露する工程である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記雰囲気の温度範囲は、0℃以上200℃以下である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記雰囲気の圧力範囲は、13Pa以上67kPa以下である請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記第一表面領域上の有機物の膜の厚さt
1と、前期第二表面領域上の有機物の膜の厚さt
2との比(t
1/t
2)が5以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板であって、
前記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、
前記第二表面領域に前記有機物の膜を有しないか、前記第二表面領域上の前記有機物の膜の厚さt
2が、前記第一表面領域上の前記有機物の膜の厚さt
1よりも薄いことを特徴とする基板。
【化2】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【請求項15】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物の堆積膜。
【化3】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【請求項16】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物
を含む、堆積膜形成用組成物。
【化4】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【請求項17】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物と、溶媒とを含むことを特徴とする溶液。
【化5】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【請求項18】
前記有機物が、o-アミノチオフェノール、2-アミノベンジルアルコール、2-アミノエタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-アミノエタンチオール、3-アミノ-1-プロパノール及びo-アミノフェノールからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記溶媒が、エタノール及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記溶液は、有機物と溶媒の合計に対して0.1質量%以上10質量%以下の前記一般式(1)で表される有機物を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板、基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法、有機物の堆積膜及び有機物である。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップの構造は益々微細化しており、構造体の一部を選択的に除去することによりパターニングする従来のリソグラフィ法は、ステップ数の多さやコスト高といった問題があった。化学気相堆積(CVD)法や原子層堆積(ALD)法において基板上の所望の箇所に選択的に膜を形成できれば、微細構造の形成に最適なプロセスとなり、これらの問題は、解消すると考えられている。
【0003】
しかし、電極や配線に用いられる金属や、絶縁膜に用いられる無機誘電体などの材料の異なる複数種の表面領域を持つ基板に対して、CVD法やALD法で膜を選択的に堆積させる場合に、堆積阻害用の膜を選択的に堆積させる必要があるが、従来の方法では選択性は十分に高くなかった。
【0004】
選択的な膜の形成方法については、膜を形成したくない領域に、膜の堆積を阻害する材料を堆積させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、基板上に、TiN、AlNまたはSiN等の無機材料の薄膜のパターンを原子層堆積法(ALD)により形成する方法であって、 基板上に、フッ素含有量が30原子%以上であり、少なくとも1つの第3級炭素もしくは第4級炭素を有し、かつ、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびイミド基を有しない含フッ素樹脂から構成される原子層堆積阻害材料を用いて、スクリーン印刷等で原子層堆積阻害層のパターンを形成すること、次いで、原子層堆積法により、原子層堆積阻害層が存在しない領域に、無機材料の層を形成することを、を含む方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、露出した金属表面及び露出したケイ素含有表面を有する基板の上に層を選択的に堆積させる方法において、(a)前記露出した金属表面の上に第1の自己組織化単分子膜を成長させることと、(b)前記露出したケイ素含有表面の上に、オルガノシラン系である第2の自己組織化単分子膜を成長させることと、(c)前記基板を加熱して、前記露出した金属表面の上から前記第1の自己組織化単分子膜を除去することと、(d)低誘電率誘電体層又は金属層である層を、前記露出した金属表面の上に選択的に堆積させることと、(e)前記基板を加熱して、前記露出したケイ素含有表面の上から第2の自己組織化単分子膜を除去することと、を含む方法が開示されている。
【0006】
上記方法によれば、異なる材料からなる第1の表面と第2の表面を有する基板に対して、両者の表面状態の相違を利用して、第1の表面に第2の表面よりも選択的に膜を堆積することができる。また、上記方法によれば、微細構造を形成するプロセスのステップ数を削減することができる。
【0007】
例えば、特許文献3には、金属性表面である第1の表面と、誘電体表面である第2の表面とを含む基板に、第1の気相前駆物質を接触させるステップと、第2の気相前駆物質を接触させるステップと、を含む堆積サイクルを行い、第2の表面よりも第1の表面上に選択的に有機薄膜を形成するプロセスが開示されている。特許文献3の実施例1では、酸化ケイ素表面と交互になったタングステン(W)フィーチャを有する200mmシリコンウェハを基板とし、1,6-ジアミノヘキサン(DAH)と、ピロメリト酸二無水物(PMDA)とを用いて、250~1000堆積サイクルを行い、ポリイミド膜を形成し、SiO2表面上のポリイミド膜の厚さより、金属タングステン表面上のポリイミド膜の厚さの方が厚かった、ことが記載されている。
【0008】
特許文献4には、特許文献3に記載の有機膜の選択的堆積法を利用して、金属製の第1表面の上にパッシベーション層を選択的に形成したのち、誘電体の第2表面の上にのみ層Xを形成する方法、さらにはこの方法を利用して、集積回路のメタライゼーション構造を形成する方法が開示されている。
【0009】
特許文献5においては、金属表面に配位結合によって単分子膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2016/147941号
【文献】特表2018-512504号公報
【文献】特開2017-216448号公報
【文献】特開2018-137435号公報
【文献】特開平10-180929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1では、単一材料の基板上に、原子層堆積阻害材料を用いて、所定のパターンを形成しており、材料の異なる複数種の表面領域を持つ基板に対して、所望の表面領域に選択的に構造を形成する方法は開示されていない。
【0012】
特許文献2では、金属表面上に第1のSAM膜を形成する工程は、長鎖アルキルチオール、長鎖有機ホスホン酸、長鎖スルホン酸を含む溶液に、基板を浸す方法であり、いわゆるウェットプロセスである。一方で、SAM膜の形成の後に行われる、基板上への低誘電率誘電体層や金属層に用いられるALDやCVDといったプロセスは、ドライプロセスであるため、ウェットプロセスを行った後、ドライプロセスを行う必要があり、方法が複雑となり、ドライプロセスにて、堆積阻害用の膜を形成する方法が望まれていた。
【0013】
特許文献3及び特許文献4に記載されている選択的に有機薄膜を形成する方法は、ドライプロセスではあるものの、原料と温度を切り替えての堆積サイクルを複数回繰り返す必要があり、有機薄膜の形成には大変な手間が必要であった。
【0014】
特許文献5では、単分子膜を形成する方法が開示されているものの、選択的な膜の形成については言及されていない。
【0015】
本開示は、上記課題に鑑み、簡単な操作にて、基板上の非金属無機材料が露出した表面領域又は金属酸化物が露出した表面領域に対してよりも、金属が露出した表面領域に選択的に有機物の膜を堆積する方法、上記方法で得られた基板、有機物の堆積膜及び有機物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、後述する一般式(1)で示される有機物は、基板上の非金属無機材料が露出した表面領域又は金属酸化物が露出した表面領域に対してよりも金属が露出した表面領域に選択的に有機物の膜を堆積することを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0017】
本開示の基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法は、金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板に対して、上記第二表面領域よりも上記第一表面領域に、下記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させることを特徴とする。
【化1】
(1)
(一般式(1)において、Nは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は、炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【0018】
上記方法によれば、一般式(1)で表される有機物を用いることにより、基板上の非金属無機材料が露出した領域及び/又は金属酸化物が露出した領域を含む第二表面領域に対してよりも、金属が露出した領域を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜を堆積する方法を提供することができる。
【0019】
上記第二表面領域には、非金属無機材料が露出していてもよく、金属酸化物が露出していてもよく、非金属無機材料及び金属酸化物が露出していてもよく、金属、非金属無機材料及び金属酸化物以外の物質が露出していてもよい。すなわち、上記第二表面領域は、非金属無機材料及び金属酸化物のうちの少なくとも1種が露出した領域を含む。上記第二表面領域は、非金属無機材料及び金属酸化物のうちの少なくとも1種のみが露出した領域であってもよい。上記第一表面領域は、金属のみが露出した領域であってもよい。
【0020】
本開示の基板は、金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板であって、上記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、上記第二表面領域に上記有機物の膜を有しないか、上記第二表面領域上の上記有機物の膜の厚さt
2が、上記第一表面領域上の上記有機物の膜の厚さt
1よりも薄いことを特徴とする。
【化2】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は、炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、上記炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【0021】
上記基板によれば、一般式(1)で表される有機物を用いることにより、基板上の非金属無機材料が露出した領域及び/又は金属酸化物が露出した領域を含む第二表面領域に対してよりも、金属が露出した領域を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜が堆積した基板を提供することができる。
【0022】
本開示の有機物の堆積膜は、上記方法により形成された有機物の膜であって、
基板上に選択的に堆積した下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物の堆積膜である。
【化3】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【0023】
本開示の有機物は、上記基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法に用いることを特徴とする下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物である。
【化4】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【0024】
本開示の有機物を用いることにより、基板上の非金属無機材料が露出した領域及び/又は金属酸化物が露出した領域を含む第二表面領域に対してよりも、金属が露出した領域を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜を堆積することができる。
【0025】
本開示の溶液は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物と、溶媒とを含むことを特徴する溶液である。
【化5】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【発明の効果】
【0026】
本開示の方法によれば、一般式(1)で表される有機物を用いることにより、基板上の非金属無機材料が露出した領域及び/又は金属酸化物が露出した領域を含む第二表面領域に対してよりも、金属が露出した領域を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜を堆積する方法を提供することができる。
【0027】
また、本開示の基板によれば、一般式(1)で表される有機物を用いることにより、基板上の非金属無機材料が露出した領域及び/又は金属酸化物が露出した領域を含む第二表面領域に対してよりも、金属が露出した領域を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜が堆積した基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0029】
本開示の実施の形態に係る基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法は、金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板に対して、上記第二表面領域よりも上記第一表面領域に、一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させることを特徴とする。
【0030】
上記方法においては、第二表面領域に対してよりも、一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させる。この際、上記基板には、第一表面領域のみに上記有機物の膜を選択的に堆積させ、第二表面領域には、上記有機物の膜を堆積させないか、又は、第一表面領域上の有機物の膜の厚さt1は、第二表面領域上の有機物の膜の厚さt2よりも厚く、t1をt2で除したt1/t2の値が5以上であるように堆積させることが好ましい。t1/t2の値は、10以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましい。なお、t1は、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。また、t2は1nm未満であることが好ましく、0nmであってもよい。t1及びt2の厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。t2が0nmである場合は、上記した条件、すなわち、第一表面領域のみに上記有機物の膜を選択的に堆積させることを意味する。
【0031】
第一表面領域を構成する金属としては、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfを使用することができ、特に、Cu、Co及びRuを用いることが好ましい。なお、第一表面領域を構成する金属は、上記金属の合金であってもよい。
【0032】
第二表面領域を構成する上記金属酸化物としては、前述の金属の酸化物が挙げられる。
【0033】
第二表面領域を構成する上記非金属無機材料としては、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物などのシリコン系材料と、ゲルマニウム、ゲルマニウム酸化物、ゲルマニウム窒化物、ゲルマニウム酸窒化物などのゲルマニウム系材料を挙げることができ、これらの非金属無機材料のなかでは、シリコン系材料が好ましい。
上記シリコンは、多結晶シリコンと単結晶シリコンの両方を含む。シリコン酸化物はSiOx(xは1以上2以下)の化学式で表され、通常はSiO2である。また、シリコン窒化物はSiNx(xは0.3以上9以下)の化学式で表され、通常はSi3N4である。シリコン酸窒化物はSi4OxNy(xは3以上6以下、yは2以上4以下)で表され、例えばSi4O5N3である。
【0034】
金属を含む第一表面領域を得る方法としては、化学気相堆積(CVD)法、物理気相堆積(PVD)法などを用いて金属の膜を得る方法が挙げられる。例えば、上記の非金属無機材料又は金属酸化物の膜の上に、上記方法により金属膜を形成し、フォトリソグラフィー法にて金属膜を所定のパターンに形成する方法や、非金属無機材料又は金属酸化物の膜に穴や溝を形成し、その溝に金属を埋め込む方法により、金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造の基板を得ることができる。
【0035】
例えば、本開示の方法に使用する基板としては、構造中に金属膜を有する半導体デバイスの基板や、半導体デバイスのパターニング工程中で金属膜が形成される基板等であり、特に、半導体素子の絶縁膜に所定のパターンを持つ金属配線を形成した基板が挙げられる。即ち、第一表面領域としては、金属配線が該当し、第二表面領域としては、非金属無機材料及び/又は金属酸化物からなる絶縁膜が該当する。しかし、本開示の基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法に用いる基板は、これらの部材に限定されない。
【0036】
上記有機物としては、下記一般式(1)で表される有機物を用いる。
【化6】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子または硫黄原子である。
R
1は、炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【0037】
R1~R4のヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子が挙げられる。R1としては、C2H4、C3H6、C4H8、C5H10、C6H12、フェニル基等が挙げられ、フェニル基の一部は、炭化水素基、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
R2、R3、R4としては、水素基やCH3、C2H5、C3H7等の炭化水素基等が挙げられる。R2、R3、R4を構成する炭化水素基の一部は、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
更に、R3とR4が共に炭素数1以上の場合、R3とR4とが直接結合して、一般式(1)が環状構造をとっても良い。R2、R3、R4は、同じ置換基である場合もあるし、異なる置換基である場合もある。
【0038】
特に、一般式(1)で表される有機物としては、R2、R3が水素原子であり、アミノ基(-NH2)を持つ化合物が好ましい。さらに、R4が水素原子であり、-XR4が、ヒドロキシ基(-OH)や、チオール基(-SH)である化合物が好ましい。
【0039】
一般式(1)で表される具体的な化合物として、例えば、o-アミノチオフェノール、2-アミノベンジルアルコール、2-アミノエタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-アミノエタンチオール、3-アミノ-1-プロパノール、o-アミノフェノールなどが挙げられ、これらのなかでは、o-アミノチオフェノール又は2-アミノベンジルアルコールが好ましい。これらの化合物は、単独または併用して用いることができる。
【0040】
第二表面領域よりも第一表面領域に、一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させる具体的な方法としては、有機物と溶媒とを含む溶液に基板を暴露する方法(湿式法)、及び、有機物の気体を含む雰囲気に前記基板を暴露する方法(乾式法)の二つの方法を採用することができる。以下、これらの方法について説明する。
【0041】
[湿式法]
本開示の実施の形態に係る湿式法では、上記した有機物と溶媒とを含む溶液に基板を暴露するが、その一例として、有機物と溶媒とを含む溶液に、第一表面領域と第二表面領域とを有する基板を浸漬することにより、上記基板の表面と上記溶液とを接触させ、有機物の膜を、基板の第一表面領域に選択的に堆積させる膜堆積工程を行うことができる。溶液に基板を暴露する方法として、浸漬法以外に、基板に溶液を滴下した後に高速回転させるスピンコート法や、溶液を基板に噴霧するスプレーコート法を用いることもできる。
【0042】
上記溶液中の有機物の濃度は、有機物と溶媒の合計に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上8質量%以下がより好ましく、1質量%以上5質量%以下が特に好ましい。
【0043】
溶液に使用する溶媒としては、特に限定されないが、有機物を溶解可能な有機溶媒を使用することが好ましく、例えば、エタノールやイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール等が挙げられる。
【0044】
上記湿式の膜堆積工程における溶液の温度は、0~80℃が好ましく、上記溶液に基板を浸漬する時間は、1~1000秒が好ましい。上記溶液に基板を浸漬する際、攪拌羽根等により溶液を攪拌することが好ましい。
【0045】
また、有機物を含む溶液に基板を浸漬させた後、基板を引き上げ、溶媒で基板を洗浄する洗浄工程を行うことが好ましい。上記洗浄工程で使用できる溶媒としては、前述の有機溶媒を挙げることができる。洗浄の方法としては、0~80℃の上記溶媒に1~1000秒浸漬することが好ましい。
【0046】
上記洗浄工程の後、窒素、アルゴン等の不活性ガスを基板に吹き付けることにより、基板を乾燥させることが好ましい。吹き付ける不活性ガスの温度は、0~80℃が好ましい。
【0047】
[乾式法]
本開示の実施の形態に係る乾式法では、有機物の気体を含む雰囲気に前記基板を暴露するが、具体的には、チャンバ内に基板を載置し、有機物を含む気体をチャンバ内に導入することにより、有機物を含む気体を基板の表面と接触させ、有機物の膜を、基板の第一表面領域に選択的に堆積させる膜堆積工程を行う。
【0048】
乾式の膜堆積工程で用いる有機物としては、湿式法と同様に一般式(1)で表される有機物が好ましい。
【0049】
有機物の気体を含むチャンバ内の雰囲気ガスの温度は、0℃以上200℃以下であることが好ましく、40℃以上200℃以下であることがより好ましく、60℃以上180℃以下であることが特に好ましい。
【0050】
有機物の気体を含むチャンバ内の雰囲気ガスの圧力範囲は、0.1Torr(13Pa)以上500Torr(67kPa)以下であることが好ましく、1Torr(0.13kPa)以上100Torr(13kPa)以下であることがより好ましい。
【0051】
なお、有機物を気体で基板に接触させるため、チャンバ内の温度と圧力は有機物が気体のままである条件に設定する必要がある。
【0052】
チャンバ内の雰囲気ガス中には、有機物の気体を1体積%以上100体積%以下含むことが好ましく、10体積%以上100体積%以下含むことがより好ましく、50体積%以上100体積%以下含むことが更に好ましい。
【0053】
液体の有機物を減圧及び/又は加熱することにより気体の有機物を得てもよいし、液体の有機物に不活性ガスをバブリングすることにより、不活性ガスで希釈された気体の有機物を得てもよい。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、クリプトンガス、ネオンガスなどを用いることができる。
【0054】
乾式の膜堆積工程を行った後に、チャンバ内を1~100Paに減圧することにより、余分な有機物を除去することができる。乾式法においては、乾燥工程を必要としない。
【0055】
本開示の上記湿式法や上記乾式法を用いることにより、簡単な操作にて、基板上の非金属無機材料が露出した表面領域又は金属酸化物が露出した表面領域に対してよりも、金属が露出した表面領域に選択的に有機物の膜を堆積させることができる。
【0056】
上記湿式法や上記乾式法を行うことにより基板上に選択的に堆積した一般式(1)で表される有機物の堆積膜も、本開示の有機物の堆積膜の一実施形態に該当する。
【0057】
[選択的堆積後の基板]
本開示の基板は、金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板であって、上記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、上記第二表面領域に上記有機物の膜を有しないか、上記第二表面領域上の上記有機物の膜の厚さt
2が、上記第一表面領域上の上記有機物の膜の厚さt
1よりも薄いことを特徴とする。
【化7】
(1)
(一般式(1)においてNは窒素原子であり、Xは酸素原子又は硫黄原子である。
R
1は炭素数2~12のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は水素原子又は炭素数1~10の環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、上記炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。)
【0058】
本開示の基板においては、上述のように、上記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、上記第二表面領域に上記有機物の膜を有しないか、上記第二表面領域上の上記有機物の膜の厚さt2が、上記第一表面領域上の上記有機物の膜の厚さt1よりも薄い。
【0059】
本開示の基板において、第二表面領域上の有機物の膜の厚さt2が、第一表面領域上の有機物の膜の厚さt1よりも薄い場合、t1をt2で除したt1/t2の値が5以上であることが望ましい。t1/t2の値は、10以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましい。なお、t1は、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。また、t2は1nm未満であることが好ましく、0nmであってもよい。t1及びt2の厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。t2が0nmである場合は、上記した条件、すなわち、第一表面領域のみに上記有機物の膜が選択的に堆積している。
【0060】
本開示の基板において、金属を含む第一表面領域、非金属無機材料及び/又は金属酸化物を含む第二表面領域、一般式(1)で表される有機物等については、上記した本開示の基板の金属表面領域への選択的な膜堆積方法において説明したので、ここでは、詳しい説明を省略することとする。
【0061】
上記有機物の膜は、上記有機物の分子中の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する基が、第一表面領域の金属と相互作用して形成されていると考えられる。
【実施例】
【0062】
以下に、金属が露出した表面領域に有機物により選択的に膜を堆積できることを下記の実験により確認した。
【0063】
[実験例1-1]
イソプロピルアルコール(以下、IPAという)に1%のo-アミノチオフェノールを溶解させ、有機物としてo-アミノチオフェノールと溶媒とを含む溶液を調製した。
次に、この溶液にCu表面を含有する基板を60秒浸漬させ、有機物の膜を堆積させた。溶液の温度は20~25℃であった。その後、20~25℃のIPAの液に60秒、2回浸漬させて、余分な有機物の除去を行い、続いて、20~25℃の窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
基板上に形成された有機物の膜厚を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したところ、48nmであった。また、X線光電子分光法(XPS)で元素組成を解析したところ、窒素と硫黄の強いピークを確認した。
【0064】
[実験例1-2~1-24]
基板表面の金属、有機物の種類、溶媒の種類、溶液濃度などを、表1に示したように変更した以外は、実験例1-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
[実験例2-1]
IPAに5%のo-アミノチオフェノールを溶解させ、有機物としてo-アミノチオフェノールと溶媒とを含む溶液を調製した。
次に、この溶液にSi表面を含有する基板を60秒浸漬させ、有機物の膜を堆積させた。溶液の温度は20~25℃であった。その後、20~25℃のIPAの液に60秒、2回浸漬させて、余分な有機物の除去を行い、20~25℃の窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
基板上に形成された有機物の膜厚をAFMで測定したところ、0nmであった。また、XPSで元素組成を解析したところ、窒素と硫黄のピークは確認できなかった。
【0066】
[実験例2-2~2-10]
基板表面の金属、有機物の種類、溶媒の種類、溶液濃度などを、表2に示したように変更した以外は、実験例2-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0067】
[実験例3-1]
真空プロセスが可能なチャンバ内にCu表面を含有する基板をセットし、チャンバ圧力を1Torr(0.13kPa、絶対圧)に設定した。次に、チャンバに接続したo-アミノチオフェノールのシリンダーを80℃に加熱してバルブを解放し、o-アミノチオフェノールの気体をチャンバ内に供給し、Cuを含有する基板上に有機物の膜を堆積させた。なお、チャンバの温度は、シリンダーの温度と同じにし、o-アミノチオフェノールの気体の温度は、基板に接触するまで、シリンダーを保温する温度と同じに保たれるようにした。有機物の膜の堆積後、チャンバ内を0.1Torr(13Pa)に減圧して余分な有機物を除去した。
基板上に形成された有機物の膜厚をAFMで測定したところ、10nmであった。また、XPSで元素組成を解析したところ、窒素と硫黄の強いピークを確認した。
【0068】
[実験例3-2~3-12]
基板上の金属、有機物の種類、シリンダーを保温する温度(有機物加熱温度)、チャンバ圧力などを表3に示したように変更した以外は、実験例3-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0069】
[実験例4-1]
真空プロセスが可能なチャンバ内にSi表面を含有する基板をセットし、チャンバ圧力を10Torrに設定した。次に、チャンバに接続したo-アミノチオフェノールのシリンダーを120℃に加熱してバルブを解放し、o-アミノチオフェノールの気体をチャンバ内に供給し、Si表面を含有する基板上に有機物の膜を堆積させた。有機物の膜の堆積後、チャンバ内を0.1Torrに減圧して余分な有機物を除去した。
基板上に形成された有機物の膜厚をAFMで測定したところ、0nmであった。また、XPSで元素組成を解析したところ、窒素と硫黄のピークは確認できなかった。
【0070】
[実験例4-2~4-10]
基板上の金属、有機物の種類、シリンダーを保温する温度、チャンバ圧力などを表4に示したように変更した以外は、実験例4-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表4に示す。
【0071】
なお、上記実験例において、Cu表面を含有する基板は、蒸着によりシリコン基板上に銅の膜を厚さ約100nmで成膜した後、表面自然酸化膜を除去することにより作製した。
Co表面を含有する基板は、蒸着によりシリコン基板上にコバルトの膜を厚さ約100nmで成膜した後、表面自然酸化膜を除去することにより作製した。
Ru表面を含有する基板は、蒸着によりシリコン基板上にルテニウムの膜を厚さ約100nmで成膜した後、表面自然酸化膜を除去することにより作製した。
【0072】
また、Si表面を含有する基板は、シリコン基板の自然酸化膜を除去することにより作製した。
SiO2表面を含有する基板は、化学的気相堆積法によりシリコン基板上に二酸化シリコンの膜を厚さ約30nmで成膜することにより作製した。
SiN表面を含有する基板は、化学的気相堆積法によりシリコン基板上にSi3N4の化学式で表される窒化シリコン膜を厚さ約30nmで成膜することにより作製した。
SiON表面を含有する基板は、化学的気相堆積法によりシリコン基板上にSiN表面を形成させた後に酸化してSi4OxNy(xは3以上6以下、yは2以上4以下)の化学式で表される酸窒化シリコン膜を厚さ約10nmで成膜することにより作製した。
CuO表面を含有する基板は、蒸着によりシリコン基板上に酸化銅の膜を厚さ約100nmで成膜することにより作製した。
CoO表面を含有する基板は、蒸着によりシリコン基板上に酸化コバルトの膜を厚さ約100nmで成膜することにより作製した。
【0073】
以上の結果を下記の表1~表4にまとめた。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表1~表4に示す結果より明らかなように、上記実験例において、有機物はCu、Co、Ruなどの金属上には膜を堆積したが、Si、SiO2、SiN、SiONなどの非金属無機材料上またはCuO、CoOなどの金属酸化物上には膜を堆積しなかった。従って、金属が露出した表面領域と非金属無機材料が露出した表面領域又は金属酸化物が露出した表面領域を有する基板を用いる場合、表1~表4に示す有機物を用いることにより、金属が露出した表面領域のみに選択的に膜を堆積することができる。
【0079】
なお、一般式(1)で表される有機物は、Co、Cu、Ru以外にも、半導体装置などの配線材料や電極材料として適する導電性材料であるNi、Pt、Al、Ta、Ti、Hfなどの金属上にも膜を堆積させることができる。