(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】電池セルケースおよびそれを用いた電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/103 20210101AFI20230628BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/124 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/152 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/153 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/16 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/164 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/169 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/176 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/179 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/55 20210101ALI20230628BHJP
H01M 50/636 20210101ALI20230628BHJP
【FI】
H01M50/103
H01M50/107
H01M50/121
H01M50/124
H01M50/152
H01M50/153
H01M50/159
H01M50/16
H01M50/164
H01M50/167
H01M50/169
H01M50/176
H01M50/179
H01M50/342 101
H01M50/55 101
H01M50/55 201
H01M50/636
(21)【出願番号】P 2021551464
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037469
(87)【国際公開番号】W WO2021066112
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2019182800
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-246068(JP,A)
【文献】特開2010-087170(JP,A)
【文献】特開2009-245709(JP,A)
【文献】特開2008-251381(JP,A)
【文献】特開2001-243980(JP,A)
【文献】特開2001-243953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/103
H01M 50/107
H01M 50/121
H01M 50/124
H01M 50/152
H01M 50/153
H01M 50/159
H01M 50/16
H01M 50/164
H01M 50/167
H01M 50/169
H01M 50/176
H01M 50/179
H01M 50/342
H01M 50/55
H01M 50/636
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と容器蓋とを巻き締めまたは溶接により接合した電池セルケースであって、
前記容器本体は、その内面となる面に樹脂ラミネートされた鋼板からなり、
前記樹脂ラミネートがポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記容器蓋は金属板からなり、
前記容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有し、
前記容器蓋の外面となる面において、前記開口部の周囲から少なくとも2mmの範囲は樹脂ラミネートがされていないこと
、
前記容器本体の鋼板が、Al、Cr、Ni、Sn、Zn、Zr、Si、V、Ti、Pの少なくとも1つを含んだめっき処理および/またはSi、V、Ti、Zr、P、Crの少なくとも1つを含んだ化成処理を施された表面処理鋼板を基材
とすること、
前記容器蓋が端子穴を一つだけ有し、負極または正極のいずれか一方が前記端子穴を経由して外部へ電気的接続され、前記負極または前記正極のもう一方が前記容器蓋を経由して外部へ電気的接続され、
前記負極が前記容器蓋を経由するとき、前記容器蓋の金属板がNiめっき鋼板またはステンレス鋼板のいずれかを基材とし、
前記正極が前記容器蓋を経由するとき、前記容器蓋の金属板がステンレス鋼板またはアルミ板のいずれかを基材とすること、
を特徴とする、電池セルケース。
【請求項2】
前記開口部の直径が0.5mm以上、10mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の電池セルケース。
【請求項3】
前記負極または前記正極の一方が前記容器蓋を経由して外部へ電気的接続される箇所以外で、前記容器蓋の内面となる面にポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムがラミネートされていることを特徴とする、請求項1
または2に記載の電池セルケース。
【請求項4】
前記開口部が溶接により塞がれ密閉されていることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか1項に記載の電池セルケース。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれか1項に記載の電池セルケースを用いた電池の製造方法であって、以下の工程:
前記容器本体に電池エレメントを挿入し;
前記容器本体と前記容器蓋を巻き締めまたは溶接により接合し;
前記開口部から電解液を注液し;
予備充放電により、前記電解液中の水分を分解しガス化して、前記電池セルケースから前記水分を放出し;そして、
前記開口部に金属の蓋を溶接することで、封止する;
を含んでなる、電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体と容器蓋から構成される電池セルケースに関するものであり、特に、容器蓋は電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有し、容器蓋の外面となる面において前記開口部の周辺は樹脂ラミネートがされていない、電池セルケース、およびそれを用いた電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池のような非水電解液を電解液とする電池の内、大型のものには、角型の容器が用いられることが多い。一般に、角型の容器は蓋と容器から構成され、その材質は主にステンレスかアルミであり、蓋と容器はレーザー溶接で組み付けられる。しかし、素材が高価であること、およびレーザー溶接は時間がかかるため生産性が低いことから、より安価な素材への置き換え、より生産性が高い蓋の組み付け方法の適用が期待されている。
【0003】
これに対して、樹脂をラミネートしたアルミ箔を用いて、アルミ使用量を減らして容器材料を安価化すること、および樹脂のm(ヒートシール)により短時間で密閉化することを達成できているものもある。しかしながら、そのような樹脂ラミネートアルミ箔から構成された容器は、剛性が低い。そのため、充放電等で電池が膨張した際に、密閉箇所(すなわち融着部)が剥離を起こすおそれがあり、密閉性に不安があること、外部からの突き刺し等に弱いことなどから、用途が限定される。
【0004】
一方で、クロムめっき鋼板にポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)を主体としたフィルムをラミネートしたラミネート鋼板は、安価な容器材料として、食品や薬品などの容器に広く用いられている。そのようなラミネート鋼板による容器は、内容物に合わせたフィルムを選択することで、様々な内容物の劣化を抑えて長期間保存することができ、また、容器蓋を巻き締めにより短時間で容器本体に組み付けることができ、更に高い強度も有することができる。さらに、より高い密閉性を必要とする場合は、溶接によって容器蓋を容器本体へ組み付けることも可能である。しかし、これまで電池用容器の材料としては、特殊な場合を除いて、広く用いられることはなかった。その理由は、開口部の封止性によると考えられる。
【0005】
大型電池では、電池を組み上げたのちに電解液を開口部から注液し、電解液を電池容器内部に浸透させた後に予備充放電を行う。その際に発生したガスを容器外に放出させた後、開口部を封止することが多い。封止は溶接で行うことが多いが、ラミネート鋼板は樹脂がラミネートされており、ラミネート鋼板の穴(すなわち開口部)を溶接で塞ぐのは困難である。そのため、ラミネート鋼板は、これまで電池用容器の材料としては、広く用いられることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-258501号公報
【文献】特開2012-018866号公報
【文献】特開2012-094374号公報
【文献】特開2012-064337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、2つのラミネート鋼板を貼り合わせて形成される電池セルケースの製造方法を開示しており、当該方法は、2つのラミネート鋼板を準備して、融着面同士を重ね合わせる工程と、融着部の周囲を曲げながら融着部に熱を加えて融着部同士をヒートシールする工程とを含む。この方法によれば、融着した融着部間を曲げによって剥がしてしまうことがないので、2つのラミネート鋼板同士の融着性を向上することができる、と教示されている。ただし、特許文献1は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0008】
特許文献2は、ラミネート鋼板同士の融着(ヒートシール)強度を向上することを目指した電池セルケースの製造方法及び電池セルケースを開示している。当該ケースは、絞り部を備える一対のラミネート鋼板のフランジ部を重ね合わせて形成したものであり、それぞれのフランジ部はリブがあり、それらのリブが係合して、ヒートシールされることにより、ヒートシール強度が向上することが、教示されている。ただし、特許文献2は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0009】
特許文献3は、ラミネート鋼板からなる電池の外装材(容器)、およびその外装材製造方法を開示している。当該外装材では、外装材内部からタブ(正電極及び負電極の引出端子)を引き出せるように、タブの断面形状に適合する段差加工部を外装材(ラミネート鋼板)に予め形成している。これにより、外装材とタブとの間に隙間が生じることを回避でき、より確実に電池ケースの密封性を確保できる、と教示している。ただし、特許文献3は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0010】
特許文献4は、密閉型蓄電池に関するものである。当該蓄電池は、フランジ部を有する金属性の外装体と、前記フランジ部の一面に樹脂フィルムを介して融着された金属板(これはラミネート鋼板に相当する)とを含んでなる。前記金属板は、前記フランジ部の外方にはみ出ており、このはみ出た部分が前記フランジ部の他面に折り返され、前記樹脂フィルムを介して融着している。これにより、電池内部のガス発生に伴う応力によって破断しないように封止をすることができる、と開示している。そして、特許文献4は、電解液を外装体に注液した後に、金属板で外装体を封止することを開示しているが、金属板が開口部を備えることは記載も示唆もしていない。
【0011】
このように、ラミネート鋼板を用いた電池セルケースについて、様々な検討がなされている。しかしながら、実際的な電池製造工程では、電解液を注入し、予備充放電の際に発生したガスを排出するための、開口部が必須であるところ、その封止性については十分な検討がなされていなかった。
【0012】
そこで、本発明は、新規な構成により、開口部を有する容器蓋の外面となる面において前記開口部の周辺は樹脂ラミネートがされていない、電池セルケース、およびそれを用いた電池の製造方法を提供することを目的とする。これにより、開口部を容易に溶接で封止すること、さらに容器蓋を正極または負極の端子の少なくとも一部とすることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明により、以下の態様が提供される。
【0014】
[1]
容器本体と容器蓋とを巻き締めまたは溶接により接合した電池セルケースであって、
前記容器本体は、その内面となる面に樹脂ラミネートされた鋼板からなり、
前記樹脂ラミネートがポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記容器蓋は金属板からなり、
前記容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有し、
前記容器蓋の外面となる面において、前記開口部の周囲から少なくとも2mmの範囲は樹脂ラミネートがされていないことを特徴とする、電池セルケース。
[2]
前記容器本体の鋼板が、Al、Cr、Ni、Sn、Zn、Zrの少なくとも1つを含んだめっき処理および/またはSi、V、Ti、Zr、P、Crの少なくとも1つを含んだ化成処理を施された表面処理鋼板を基材とし、
前記容器蓋の金属板が、Niめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板のいずれかを基材とすることを特徴とする、[1]に記載の電池セルケース。
[3]
前記開口部の直径が0.5mm以上、10mm以下であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の電池セルケース。
[4]
前記容器蓋が、前記開口部のほかに、正極端子および負極端子用の端子穴を有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[5]
前記容器蓋の金属板がNiめっき鋼板またはステンレス鋼板のいずれかを基材とし、
前記容器蓋が、前記開口部のほかに、正極端子用の端子穴を有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[6]
前記容器蓋の金属板がステンレス鋼板またはアルミ板のいずれかを基材とし、
前記容器蓋が、前記開口部のほかに、負極端子用の端子穴を有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[7]
前記容器蓋の内面となる面にポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムがラミネートされていることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[8]
前記開口部が溶接により塞がれ密閉されていることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[9]
[1]~[8]のいずれか1項に記載の電池セルケースを用いた電池の製造方法であって、以下の工程:
前記容器本体に電池エレメントを挿入し;
前記容器本体と前記容器蓋を巻き締めまたは溶接により接合し;
前記開口部から電解液を注液し;
予備充放電により、前記電解液中の水分を分解しガス化して、前記電池セルケースから前記水分を放出し;そして、
前記開口部に金属の蓋を溶接することで、封止する;
を含んでなる、電池の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、開口部を有する容器蓋の外面となる面において前記開口部の周辺は樹脂ラミネートがされていない、電池セルケース、およびそれを用いた電池の製造方法が提供され、これにより、開口部を容易に溶接で封止すること、さらに容器蓋を正極または負極の端子の少なくとも一部とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一態様である、電池セルケース(容器蓋が無極性である)の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様である、電池セルケース(容器蓋が正極端子と電気的に接続されている)の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様である、電池セルケース(容器蓋が負極端子と電気的に接続されている)の模式図である。
【
図4】
図4は、参考発明の一態様である、電池セルケースの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1~3に、本発明の一態様である、電池セルケースの模式図を示す。電池セルケースは、容器本体と容器蓋とを溶接または巻き締め(かしめ)により接合して構成される。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。
【0018】
前記容器本体は、その内面となる面(つまり、電池セルケースにしたときの内面)に樹脂ラミネートされた鋼板から構成される。
【0019】
樹脂ラミネートされた鋼板の基材となる鋼板は、めっき性や、溶接性、樹脂ラミネートとの密着性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよい。電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、鋼板の種類を選択してもよい。鋼板の厚みにより、耐食性や容器強度を確保することもできるので、コストパフォーマンスのよい鋼板を採用してもよい。鋼板として、ステンレス鋼のほか、純鉄、炭素鋼、低合金鋼、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、アルミ鉄合金、亜鉛銅合金等を採用してもよい。鋼板の厚みは、適宜選択可能であり、例えば、鋼板の厚みを、0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上、1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下としてもよい。薄すぎると、電池セルケースとしての十分な強度が得られないおそれがあり、厚すぎると加工性が低下し、またコストが上昇するためである。
【0020】
鋼板は、めっき鋼板であってもよい。めっきの種類は、樹脂ラミネートとの密着性に影響を与えない範囲で、電池の電解液や使用環境等に応じた適当な耐食性が得られるように、めっきの種類を選択してもよい。例えば、めっきは、Al、Cr、Ni、Sn、Zn、Zrの中から、1種または複数の種類の元素を含むものであってもよい。これらの元素をふくむめっきは、常法によって得ることが可能である。複数元素を含むめっきにおいて、めっき元素は合金層、層状、一部粒状一部層状のうち一種または複数の状態でめっきされていても構わない。樹脂ラミネートとの密着性、耐食性、入手容易性の観点等から、めっきとして、酸化クロム層と金属クロム層を有するティンフリースティール(TFS)や、ニッケル層、あるいはニッケル層とニッケル-鉄合金層を有するようなニッケルめっきや、またはスズ層、あるいはスズ層とスズ-鉄合金層を有するようなスズめっきであってもよい。
めっき量は、電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、適宜選択してもよく、5mg/m2から5g/m2の範囲であってもよい。5mg/m2以下だとめっきが全体に付着できず、樹脂ラミネートとの密着性や耐電解液性が低下しやすいことがある。5g/m2以上だと加工時にめっきにクラックが入り、ピール強度などが低下する原因となることがある。
なお、めっきはめっき浴の種類がいくつかありうるが、めっき浴によらず性能が発現する。まためっき方法も電気めっき以外に、溶射や蒸着、溶融めっきであっても構わない。
【0021】
樹脂ラミネートの鋼板への密着性、加工密着性、耐食性等の特性をさらに向上するために、鋼板に公知の化成処理がされていてもよい。この場合の化成処理については特に限定されず、公知の処理が適用でき、シリカ系化成処理、クロメート系化成処理等であってもよい。例えば、シランカップリング剤を用いてもよく、無機化成処理皮膜層の場合には、シリカ微粒子、バナジウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、リン酸化合物、クロム酸化物などから選ばれる1種または2種以上が例示される。なお、クロム酸化物は、任意の価数のクロムを含んでもよく、例えば、3価クロムおよび/または6価クロムを含んでもよい。
【0022】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、ラミネートされる樹脂との密着性を考慮して、適当なシランカップリング剤を選択してもよく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。前記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
シリカ微粒子としては、液相シリカ、気相シリカの2種類が存在するが、これらのいずれかを用いてもかまわない。バナジウム化合物としては、バナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0024】
チタン化合物としては、Tiアルコキシド、あるいは塩基性Ti炭酸塩、Tiふっ化物、Ti含有有機キレート、Ti含有カップリング剤(Tiアルコキシドにエポキシ基、ビニル基、アミノ基、メタクリロキシ基などの有機官能基が結合した化合物)等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0025】
ジルコニウム化合物としては、Zrアルコキシド、あるいは塩基性Zr炭酸塩、Zrふっ化物、Zr含有有機キレート等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
リン酸化合物としては、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
クロム酸化物処理の場合、電解クロメート、樹脂クロメート等各種クロメート処理や、その他のクロメートフリー化成処理を施しても良い。なお鋼板が既にクロム含有表面処理の施されているティンフリースティールである場合、各種クロメート処理を施した金属面と同等に樹脂ラミネートの鋼板への密着性、加工密着性、耐電解液性が良好である。
【0028】
化成処理皮膜層の付着量は、最外層の下層の化成処理皮膜層、すなわち、おもて面に用いられる化成処理皮膜層については、良好な密着性、耐食性を確保するために、20mg/m2以上1000mg/m2以下としてもよい。付着量が過度に少ないと、鋼板表面に化成処理皮膜が十分に存在しておらず、樹脂ラミネートとの密着性が十分でない場合がある。一方、付着量が過度に多いと、化成処理皮膜自体が凝集破壊してしまう可能性がある上、コストが高くなる。
【0029】
化成処理の前に、下地処理としてスケール除去処理をしてもよい。スケール除去処理法として、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理等が挙げられる。酸洗、サンドブラスト処理後、クロメート処理又はクロメートフリー処理、ストライクめっき処理、エポキシプライマー処理を併用した下地処理が、ラミネート樹脂と鋼板との化学的な密着力を強化する観点から好ましい。
【0030】
化成処理層には、前記に加えて各種防錆剤や、顔料、無機化合物、有機化合物を含有させることも可能である。
【0031】
化成処理層の形成方法は特に限定されず、塗布、焼付け等の公知の方法が限定なく適用できる。
【0032】
特に、容器本体の鋼板が、Cr、Si、Zrの少なくとも1つを含む処理を施された表面処理鋼板であってもよい。これらの処理を施された鋼板は、ポリオレフィン系の樹脂ラミネートとの密着性が優れており、好ましい。
【0033】
樹脂ラミネートされた鋼板は、基材となる鋼板を樹脂ラミネートしたものである。容器本体の内面の樹脂ラミネートが、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするフィルムから構成される。ポリオレフィン系樹脂は、耐電解液性を有するので電池セルケースの内面樹脂として好適であり、また容器蓋との巻き締め部等で融着(ヒートシール)用樹脂を兼ねることもできる。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位を有する樹脂である。当該樹脂を主成分とするとは、(式1)の繰り返し単位を有する樹脂が、50質量%以上を構成することである。
-CR1H-CR2R3- (式1)
(式1中、R1、R2は各々独立に炭素数1~12のアルキル基または水素を示し、R3は炭素数1~12のアルキル基、アリール基又は水素を示す)
ポリオレフィン系樹脂は、上述の構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体であってもよい。繰り返し単位は、5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子効果(例えば、柔軟性、伸張性など)が発揮し難いことがある。
【0035】
上記繰り返し単位を例示すると、エチレン、プロペン(プロピレン)、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の末端オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位、イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや、スチレンモノマーの他に、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o- エチルスチレン、m- エチルスチレン、o-エチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t- ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、末端メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0036】
このような繰り返し単位の単独重合体を例示すると、末端オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリへキセン、ポリオクテニレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等が挙げられる。また、上記繰り返し単位の共重合体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボーネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系共重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記の繰り返し単位を満足していればよい。また、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。また、これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。
【0037】
また、本発明に使用するポリオレフィンは、上記のオレフィン単位が主成分であればよく、上記の単位の置換体であるビニルモノマー、極性ビニルモノマー、ジエンモノマーがモノマー単位もしくは樹脂単位で共重合されていてもよい。共重合組成としては、上記オレフィン単位に対して50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。50質量%超では腐食原因物質に対するバリア性等のオレフィン系樹脂としての特性が低下することがある。
【0038】
上記極性ビニルモノマーの例としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水マレイン酸のイミド誘導体、塩化ビニル等が挙げられる。
【0039】
取扱性、腐食原因物質のバリア性から最も好ましいのは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの2種類以上の混合物である。
【0040】
本発明で使用する樹脂ラミネートとして、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主成分とするフィルムは、コスト、流通、融着の容易性等の観点で、さらに好適である。
【0041】
ここでポリオレフィン系樹脂を主成分とする樹脂とは、ポリオレフィン系樹脂を50質量%以上含有する樹脂をいい、ポリオレフィン系樹脂の純粋樹脂の他に、合計が50質量%未満の割合で、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂などを含有することができる。また、めっき鋼板との密着性を向上させるために酸変性ポリオレフィンとしたものでも良い。ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でも、また、重合するポリオレフィン系樹脂以外の樹脂が1種類でも2種類以上でも、主成分となるポリオレフィン系樹脂が50質量%以上となっていれば良い。より好ましくはポリオレフィン系樹脂が70質量%以上、90質量%以上のものから、ポリオレフィン系樹脂そのものまでである。好ましくは、重合されるものは、ポリオレフィン系樹脂単独の時よりも分解温度を低下させるものの方が好ましい。
【0042】
容器蓋は、金属板から構成される。金属板は、容器蓋の溶接性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよく、例えば、Niめっき鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、ティンフリースティール(TFS)板等を採用してもよい。また、金属板は、耐食性等の性能を向上させるために、前述した樹脂ラミネートされた鋼板と同様の、めっき処理、化成処理をされたものであってもよい。
【0043】
容器蓋の外面となる面において、後述する開口部の周囲から少なくとも2mmの範囲は樹脂ラミネートがされていない。これは、後述する容器蓋の開口部を溶接により封止するためである。溶接箇所およびその近傍に、樹脂ラミネートが存在すると、樹脂の蒸発等により、溶接不良が生じるおそれがある。溶接箇所になる開口部の周囲から少なくとも2mmの範囲に樹脂ラミネートが存在していないことにより、樹脂ラミネートによる溶接不良が抑制される。
樹脂ラミネートされない範囲が広いほど、溶接箇所への悪影響は低下するので、好ましい。また、容器蓋の外面において樹脂ラミネートがされていない箇所は、通電可能であるので、当該ラミネートされていない箇所を、電池の電極、すなわち正極または負極の端子の少なくとも一部や、開口部を抵抗溶接する際の通電接点として利用することができる。これらの用途等に応じて、容器蓋の外面の適当な範囲では、樹脂ラミネートがされていなくてもよい。一方で、樹脂ラミネートは耐食性の向上に役立つので、開口部の周囲を除く適当な範囲に樹脂ラミネートを適用して、電池の使用環境等に応じた適当な耐食性を得てもよい。容器蓋の外面に適用する樹脂ラミネートとしては、前述の容器本体の鋼板の樹脂ラミネートと同様の材料を用いてもよく、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするフィルムであってもよい。
また、開口部の溶接手法は、特に限定されるものではないが、電解液を電池セルケース内に注液後に行なうことや、溶接される開口部の寸法等を考慮すると、作業性、安全性の点で抵抗溶接が好ましい。外面の少なくとも一部に樹脂ラミネートされていない箇所を有し、すなわち当該ラミネートされていない箇所と溶接箇所になる開口部の間で通電可能である容器蓋は、抵抗溶接に適している。
【0044】
容器蓋の内面となる面には樹脂ラミネートがされていてもよい。これにより、電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得ることができる。また、容器本体との巻き締め部等で融着(ヒートシール)用樹脂を兼ねることもできる。樹脂ラミネートとしては、前述の容器本体の鋼板の樹脂ラミネートと同様の材料を用いてもよく、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするフィルムであってもよい。
【0045】
容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部(注液口)を有する。電池、特に大型電池では、電池を組み上げたのちに電解液を開口部から注液し、電解液を電池容器内部に浸透させた後に予備充放電を行うことが、製造工程が簡易となり好ましい。開口部は小さすぎると、注液が困難となることがある。そのため、開口部が円形である場合、開口部の直径の下限は0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であってもよい。
【0046】
開口部(注液口)は、注液や予備充放電終了後に、封止されてもよい。開口部からの電解液の漏洩、開口部を介して外部からの水分の侵入等を防ぐためである。開口部の封止は、溶接、例えば抵抗溶接によって行なわれてもよい。ここで、開口部が大きすぎると、開口部を封止するための溶接部が大きいものになり、溶接による密閉が難しくなることがある。そのため、開口部が円形である場合、開口部の直径の上限は10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下であってもよい。
【0047】
なお、容器蓋は、上述の開口部(注液口)のほかに、正極端子用および/または負極端子用の端子穴を有してもよい。これらにより、電池内部の正極および負極との電気的接続を得て、電池外部で電池エネルギーの利用が可能となる。
図1は、正極端子用および負極端子用の端子穴を備える電池セルケースの模式図である。
【0048】
容器蓋の金属板が、ステンレス鋼板またはアルミ板のいずれかを基材とし、
容器蓋が、開口部(注液口)のほかに、負極端子用の端子穴を有してもよい。
図2は、この態様を模式的に例示したものである。電池内部の負極は、負極端子用の端子穴を経由して外部への電気的接続をすることができる。一方、電池内部の正極は、電池蓋を経由して外部への電気的接続をすることができる。このとき、容器蓋が正極と等電位になるが、容器蓋を構成する金属板がステンレス鋼板またはアルミ板のいずれかであるため、電解液、特にリチウムイオン電池等で用いられる非水系電解液、への金属の溶解は生じない。通常の容器蓋は2つ端子穴(正極用と負極用)が必要であるが、この態様の容器蓋は一つの端子穴を備えるだけでよい。端子穴は電池内部への水分の透過経路となり得るので、端子穴が少ないほど、電池内部への水分の侵入が抑制され、電池性能の劣化を抑制することができ、好ましい。
【0049】
容器蓋の金属板が、ステンレス鋼板またはNiめっき鋼板のいずれかを基材とし、
容器蓋が、開口部(注液口)のほかに、正極端子用の端子穴を有してもよい。
図3は、この態様を模式的に例示したものである。電池内部の正極は、正極端子用の端子穴を経由して外部への電気的接続をすることができる。一方、電池内部の負極は、電池蓋を経由して外部への電気的接続をすることができる。このとき、容器蓋が負極と等電位になるが、容器蓋を構成する金属板がステンレス鋼板またはNiめっき鋼板のいずれかであるため、電解液、特にリチウムイオン電池等で用いられる非水系電解液、ならびにNi-MH電池等で用いられる水系電解液、への金属の溶解は生じない。通常の容器蓋は2つ端子穴(正極用と負極用)が必要であるが、この態様の容器蓋は一つの端子穴を備えるだけでよい。端子穴は電池内部への水分の透過経路となり得るので、端子穴が少ないほど、電池内部への水分の侵入が抑制され、電池性能の劣化を抑制することができ、好ましい。
【0050】
上記のように、容器蓋に使用可能な金属素材は、電解液への耐溶解性の観点から、無極性、負極接続、正極接続かに応じて、適宜選択することができる。一実施態様では、電解液が1M-LiPF6のエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1溶液である場合、無極性の容器蓋の金属素材にはNiめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、TFSが使用可能で、負極接続の容器蓋にはNiめっき鋼板、ステンレスが使用可能で、正極接続の容器蓋にはステンレス鋼板、アルミ板が使用可能である。容器蓋を無極性にすれば、Niめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、TFS板のいずれも使用可能だが、正極、負極用に穴を二つ開けることになるため、その封止をするのにコストがかかる。一方、負極接続、正極接続であれば、蓋が一方の端子を兼ねることになるため、電極用の穴が一つで良く、その封止にかかるコストが不要となる。
【0051】
容器蓋が正極または負極のいずれかの端子穴のみを有する場合、つまり容器蓋が負極または正極と電気的に接続される場合、容器蓋と容器本体との巻き締め(かしめ)を内巻きとすることが好ましい。巻き締め(かしめ)部が外巻きであると、電池セルケースの突出部となり、外部との短絡が生じる可能性が高まるからである。
【0052】
電池セルケースは、容器本体と容器蓋とを溶接または巻き締め(かしめ)により接合して構成される。
図1~3の模式図では、巻き締め(かしめ)により接合されている。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。容器本体および容器蓋が、それぞれ、樹脂ラミネートされている場合、樹脂ラミネートどうしを融着(ヒートシール)して、容器の密閉性を高めることができる。溶接により接合する際には、溶接不良を生じないように、ラミネート樹脂を除去または蒸発させた上で、鋼板どうしを溶接してもよく、本発明者らが別途出願している特願2019-107770号の明細書に記載の手法を用いてもよい。
【0053】
電池セルケースの形状、大きさは、用途等に応じて適宜選択することができる。電池セルケースが角型の形状、円筒形の形状等であってもよい。なお、角型は円筒型と比べ、放熱性に優れるため大型化しやすく経済性に優れ、積載性も良いとされており、好ましい。大型の電池セルケースとは、特に規格等で定められたものではないが、少なくとも一辺が120mm以上、さらに148mm以上のものとしてもよい。
【0054】
本発明の別の態様により、前記の電池セルケースを用いた電池の製造方法が提供される。当該製造方法は、以下の工程を含んでもよい。
前記容器本体に電池エレメントを挿入し;
前記容器本体と前記容器蓋を巻き締めまたは溶接により接合し;
前記開口部から電解液を注液し;
予備充放電により、前記電解液中の水分を分解しガス化して、前記電池セルケースから前記水分を放出し;そして、
前記開口部に金属の蓋を溶接することで、封止する。
以下、各工程について説明する。
【0055】
容器本体に電池エレメントを挿入する工程では、容器本体には上述の容器本体を用いて、当該容器本体内に電池エレメントを挿入する。電池エレメントは、正電極、負電極、及びセパレータの積層体であってもよい。
【0056】
次に、容器本体と容器蓋を巻き締めまたは溶接により接合する。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。
図1~3では、巻き締め(かしめ)による接合を模式的に示す。容器本体および容器蓋が、それぞれ、樹脂ラミネートされている場合、樹脂ラミネートどうしを融着(ヒートシール)して、容器の密閉性を高めることができる。溶接により接合する際には、溶接不良を生じないように、ラミネート樹脂を除去または蒸発させた上で、鋼板どうしを溶接してもよく、本発明者らが別途出願している特願2019-107770号の明細書に記載の手法を用いてもよい。
【0057】
次に、容器蓋の開口部から電解液を注液する。この電解液は、電解質としては特に限定しないが、有機溶媒などの溶媒に支持塩を溶解させたもの、それ自体が液体状であるイオン液体、そのイオン液体に対して更に支持塩を溶解させたものが例示できる。有機溶媒としては、通常リチウム二次電池の電解液に用いられる有機溶媒が例示できる。例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等及びそれらの混合溶媒が適当である。例に挙げたこれらの有機溶媒のうち、特に、カーボネート類、エーテル類からなる群より選ばれた一種以上の非水溶媒を用いることが、支持塩の溶解性、誘電率および粘度、安定性において優れ、電池の充放電効率も高いので、好ましい。
【0058】
イオン液体は、通常リチウム二次電池の電解液に用いられるイオン液体であれば特に限定されるものではない。例えば、イオン液体のカチオン成分としては、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムや、ジメチルエチルメトキシアンモニウムカチオン等が挙げられ、アニオン成分としは、BF4
-、N(SO2CF3)2
-等が挙げられる。
【0059】
また、電解質において用いられる支持塩としては、特に限定されない。例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSCN、LiClO4、LiAlCl4、NaClO4、NaBF4、NaI、これらの誘導体等の塩化合物が挙げられる。これらの中でも、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiCF3SO3の誘導体、LiN(CF3SO2)2の誘導体及びLiC(CF3SO2)3の誘導体からなる群から選ばれる1種以上の塩を用いることが、電気特性の観点からは好ましい。
【0060】
次に、予備充放電により、前記電解液中の水分を分解しガス化して、前記電池セルケースから前記水分を放出する。電解液中の水分が残留したまま電池セルケースを封止すると、その後に水分がガス化して電池セルケース内部圧力が高まり電池セルケースの破損に至り、また、電解液中の水分が電池エレメントに悪影響を与え電池性能をさせるおそれがある。これらの不都合を避けるために、予備充放電により、電解液の温度を上昇させて、電解液中の水分を分解し且つガス化して、容器蓋の開口部を通じて電池セルケースから放出する。
【0061】
次に、すなわち予備充放電により電池セルケースから水分が放出された後に、開口部に金属の蓋を溶接することで、電池セルケースを封止する。この蓋の材質は、溶接できる金属であれば特に限定されるものではなく、溶接性の観点から容器蓋の材質と同材料であることが好ましい。本実施態様では、容器蓋の開口部(電解液の注液口)を溶接することにより、電池セルケースの封止ができる。つまり、予備充放電後速やかに、封止をすることができるので、電池セルケース内への水分が侵入してコンタミネーションを生じる可能性を劇的に低減することができ、電池性能の向上、維持に大きく寄与することができる。
【0062】
以下に、参考発明について説明する。参考発明について開示された事項は、特に矛盾の生じない範囲で、本発明の一態様に組み入れることができる。また、本発明について開示された事項は、特に矛盾の生じない範囲で、参考発明の一態様に組み入れることができる。
[参考発明の名称] 電池セルケース
[技術分野]
【0063】
参考発明は、容器本体と容器蓋から構成される電池セルケースに関するものであり、特に、容器本体と容器蓋がそれぞれ樹脂をラミネートした鋼板から構成され、且つ、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部が、樹脂をラミネートした金属箔から構成される開口部シールによって封止される、電池セルケースに関するものである。
[背景技術]
【0064】
現在、リチウムイオン電池のような非水電解液を電解液とする電池の内、大型のものには、角型の容器が用いられることが多い。一般に、角型の容器は蓋と容器から構成され、その材質は主にステンレスかアルミであり、蓋と容器はレーザー溶接で組み付けられる。しかし、素材が高価であること、およびレーザー溶接は時間がかかるため生産性が低いことから、より安価な素材への置き換え、より生産性が高い蓋の組み付け方法の適用が期待されている。
【0065】
これに対して、樹脂をラミネートしたアルミ箔を用いて、アルミ使用量を減らして容器材料の安価化すること、および樹脂の融着(以下、ヒートシールと称することもある)により短時間で密閉化することを達成できているものもある。しかしながら、そのような樹脂をラミネートしたアルミ箔から構成された容器は、剛性が低い。そのため、充放電等で電池が膨張した際に、密閉箇所が剥離を起こすおそれがあり、密閉性に不安があること、外部からの突き刺し等に弱いことなどから、用途が限定される。
【0066】
一方で、クロムめっき鋼板にポリエチレンまたはポリプロピレンを主体としたフィルムをラミネートしたラミネート鋼板は、安価な容器材料として、食品や薬品などの容器に広く用いられている。そのようなラミネート鋼板による容器は、内容物に合わせたフィルムを選択することで、様々な内容物の劣化を抑えて長期間保存することができ、また、容器蓋を巻締めにより短時間で容器本体に組み付けることができ、更に高い強度も有することができる。さらに、より高い密閉性を必要とする場合は、溶接によって容器蓋を容器本体へ組み付けることも可能である。しかし、これまで電池用容器の材料としては、特殊な場合を除いて、広く用いられることはなかった。それは、開口部の封止性によると考えられる。
【0067】
大型電池では、電池を組み上げたのちに電解液を開口部から注液し、電解液を電池容器内部に浸透させた後に予備充放電を行う。その際に発生したガスを容器外に放出させた後、開口部を封止することが多い。封止は溶接で行うことが多いが、ラミネート鋼板は樹脂をラミネートしており、ラミネート鋼板の穴を溶接で塞ぐのは困難である。そのため、ラミネート鋼板は、これまで電池用容器の材料としては、広く用いられることはなかった。
[先行技術文献]
[特許文献]
【0068】
[特許文献1]特開2011-258501号公報
[特許文献2]特開2012-018866号公報
[特許文献3]特開2012-094374号公報
[参考発明の概要]
[参考発明が解決しようとする課題]
【0069】
特許文献1は、2つのラミネート鋼板を貼り合わせて形成される電池セルケースの製造方法を開示しており、当該方法は、2つのラミネート鋼板を準備して、融着面同士を重ね合わせる工程と、融着部の周囲を曲げながら融着部に熱を加えて融着部同士をヒートシールする工程とを含む。この方法によれば、融着した融着部間を曲げによって剥がしてしまうことがないので、2つのラミネート鋼板同士の融着性を向上することができる、と教示されている。ただし、特許文献1は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0070】
特許文献2は、ラミネート鋼板同士のヒートシール強度を向上することを目指した電池セルケースの製造方法及び電池セルケースを開示している。当該ケースは、絞り部を備える一対のラミネート鋼板のフランジ部を重ね合わせて形成したものであり、それぞれのフランジ部はリブがあり、それらのリブが係合して、ヒートシールされることにより、ヒートシール強度が向上することが、教示されている。ただし、特許文献2は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0071】
特許文献3は、ラミネート鋼板からなる電池の外装材(容器)、およびその外装材製造方法を開示している。当該外装材では、外装材内部からタブ(正電極及び負電極の引出端子)を引き出せるように、タブの断面形状に適合する段差加工部を外装材(ラミネート鋼板)に予め形成している。これにより、外装材とタブとの間に隙間が生じることを回避でき、より確実に電池ケースの密封性を確保できる、と教示している。ただし、特許文献3は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0072】
このように、ラミネート鋼板を用いた電池セルケースについて、様々な検討がなされている。しかしながら、実際的な電池製造工程では、電解液を注入し、予備充放電の際に発生したガスを排出するための、開口部が必須であるところ、その封止性については十分な検討がなされていなかった。
【0073】
そこで、参考発明は、新規な構成により、ラミネート鋼板からなる容器蓋の開口部をラミネート金属箔からなる開口部シールにより封止することができる、電池セルケースを提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
【0074】
参考発明により、以下の態様が提供される。
【0075】
[1]
容器本体と容器蓋とを巻き締めまたは溶接により接合した電池セルケースであって、
前記容器本体および前記容器蓋は、それぞれ、樹脂をラミネートした鋼板からなり、
前記容器本体の内面および前記容器蓋の内外面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有し、
開口部シールは、樹脂をラミネートした金属箔からなり、
前記開口部シールの前記容器蓋と接する面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記開口部シールのフィルムと前記容器蓋のフィルムとの融着部を介して、前記開口部シールが前記容器蓋に固定され、前記開口部が密閉されることを特徴とする、電池セルケース。
[2]
前記容器本体および前記容器蓋の少なくともいずれか一方または両方の鋼板が、Al、Cr、Ni、Sn、Zn、Zrの少なくとも1つを含んだめっき処理および/またはSi、V、Ti、Zr、P、Crの少なくとも1つを含んだ化成処理を施された表面処理鋼板であることを特徴とする、[1]に記載の電池セルケース。
[3]
前記開口部の面積が0.19mm2以上、25mm2以下であり、前記開口部の端部から前記融着部の端部までの最短距離が5mm以上、15mm以下であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の電池セルケース。
[4]
前記開口部シールの樹脂を除いた金属箔の厚さが10μm以上、50μm以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[5]
前記融着部の厚さが5μm以上、60μm以下であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[6]
前記容器蓋が、前記開口部のほかに、正極端子用および負極端子用の端子穴を有することを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[発明の効果]
【0076】
参考発明によれば、ラミネート鋼板からなる容器蓋の開口部をラミネート金属箔からなる開口部シールにより封止することができる、電池セルケースが提供される。
[図面の簡単な説明]
【0077】
[
図4]
図4は、参考発明の一態様である、電池セルケースの模式図である。
[
図5]
図5は、
図4の開口部の封止前後の拡大模式図である。
[発明を実施するための形態]
【0078】
図4に、参考発明の一態様である、電池セルケースの模式図を示す。電池セルケースは、容器本体と容器蓋とを溶接または巻き締め(かしめ)により接合して構成される。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。
【0079】
前記容器本体および前記容器蓋は、それぞれ、樹脂をラミネートした鋼板から構成される。
【0080】
樹脂をラミネートした鋼板の基材となる鋼板は、めっき性や、溶接性、樹脂ラミネートとの密着性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよい。電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、鋼板の種類を選択してもよい。鋼板の厚さにより、耐食性や容器強度を確保することもできるので、コストパフォーマンスのよい鋼板を採用してもよい。鋼板として、ステンレス鋼のほか、純鉄、炭素鋼、低合金鋼、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、アルミ鉄合金、亜鉛銅合金等を採用してもよい。鋼板の厚さは、適宜選択可能であり、例えば、鋼板の厚さを、0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上、1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下としてもよい。薄すぎると、電池セルケースとしての十分な強度が得られないおそれがあり、厚すぎると加工性が低下し、またコストが上昇するためである。
【0081】
鋼板は、めっき鋼板であってもよい。めっきの種類は、樹脂との密着性に影響を与えない範囲で、電池の電解液や使用環境等に応じた適当な耐食性が得られるように、めっきの種類を選択してもよい。例えば、めっきは、Al、Cr、Ni、Sn、Zn、Zrの中から、1種または複数の種類の元素を含むものであってもよい。これらの元素をふくむめっきは、常法によって得ることが可能である。複数元素を含むめっきにおいて、めっき元素は合金層、層状、一部粒状一部層状のうち一種または複数の状態でめっきされていても構わない。樹脂との密着性、耐食性、入手容易性の観点等から、めっきとして、酸化クロム層と金属クロム層を有するティンフリースティールや、ニッケル層、あるいはニッケル層とニッケル-鉄合金層を有するようなニッケルめっきや、またはスズ層、あるいはスズ層とスズ-鉄合金層を有するようなスズめっきであってもよい。
めっき量は、電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、適宜選択してもよく、5mg/m2から5g/m2の範囲であってもよい。5mg/m2以下だとめっきが全体に付着できず、樹脂との密着性や耐電解液性が低下しやすいことがある。5g/m2以上だと加工時にめっきにクラックが入り、ピール強度などが低下する原因となることがある。
なお、めっきはめっき浴の種類がいくつかありうるが、めっき浴によらず性能が発現する。まためっき方法も電気めっき以外に、溶射や蒸着、溶融めっきであっても構わない。
【0082】
樹脂ラミネートの鋼板への密着性、加工密着性、耐食性等の特性をさらに向上するために、鋼板に公知の化成処理がされていてもよい。この場合の化成処理については特に限定されず、公知の処理が適用でき、シリカ系化成処理、クロメート系化成処理等であってもよい。例えば、シランカップリング剤を用いてもよく、無機化成処理皮膜層の場合には、シリカ微粒子、バナジウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、リン酸化合物、クロム酸化物などから選ばれる1種または2種以上が例示される。なお、クロム酸化物は、任意の価数のクロムを含んでもよく、例えば、3価クロムおよび/または6価クロムを含んでもよい。
【0083】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、ラミネートされる樹脂との密着性を考慮して、適当なシランカップリング剤を選択してもよく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。前記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
シリカ微粒子としては、液相シリカ、気相シリカの2種類が存在するが、これらのいずれかを用いてもかまわない。バナジウム化合物としては、バナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0085】
チタン化合物としては、Tiアルコキシド、あるいは塩基性Ti炭酸塩、Tiふっ化物、Ti含有有機キレート、Ti含有カップリング剤(Tiアルコキシドにエポキシ基、ビニル基、アミノ基、メタクリロキシ基などの有機官能基が結合した化合物)等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0086】
ジルコニウム化合物としては、Zrアルコキシド、あるいは塩基性Zr炭酸塩、Zrふっ化物、Zr含有有機キレート等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
リン酸化合物としては、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
クロム酸化物処理の場合、電解クロメート、樹脂クロメート等各種クロメート処理や、その他のクロメートフリー化成処理を施しても良い。なお鋼板が既にクロム含有表面処理の施されているティンフリースティールである場合、各種クロメート処理を施した金属面と同等に樹脂の鋼板への密着性、加工密着性、耐電解液性が良好である。
【0089】
化成処理皮膜層の付着量は、最外層の下層の化成処理皮膜層、すなわち、おもて面に用いられる化成処理皮膜層については、良好な密着性、耐食性を確保するために、20mg/m2以上1000mg/m2以下としてもよい。付着量が過度に少ないと、鋼板表面に化成処理皮膜が十分に存在しておらず、樹脂との密着性が十分でない場合がある。一方、付着量が過度に多いと、化成処理皮膜自体が凝集破壊してしまう可能性がある上、コストが高くなる。
【0090】
化成処理の前に、下地処理としてスケール除去処理をしてもよい。スケール除去処理法として、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理等が挙げられる。酸洗、サンドブラスト処理後、クロメート処理又はクロメートフリー処理、ストライクめっき処理、エポキシプライマー処理を併用した下地処理が、ラミネート樹脂と鋼板との化学的な密着力を強化する観点から好ましい。
【0091】
化成処理層には、前記に加えて各種防錆剤や、顔料、無機化合物、有機化合物を含有させることも可能である。
【0092】
化成処理層の形成方法は特に限定されず、塗布、焼付け等の公知の方法が限定なく適用できる。
【0093】
特に、容器本体および容器蓋の少なくともいずれか一方または両方の鋼板が、Cr、Si、Zrの少なくとも1つを含む処理を施された表面処理鋼板であってもよい。これらの処理を施された鋼板は、ポリオレフィン系の樹脂との密着性が優れており、好ましい。
【0094】
樹脂ラミネートされた鋼板は、基材となる鋼板に樹脂をラミネートしたものである。容器本体の内面および容器蓋の内外面の樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするフィルムから構成される。ポリオレフィン系樹脂は、融着(ヒートシール)用樹脂としても好適であり、また、耐電解液性を有するので電池セルケースの内面樹脂を兼ねることもできる。
【0095】
ポリオレフィン系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位を有する樹脂である。当該樹脂を主成分とするとは、(式1)の繰り返し単位を有する樹脂が、50質量%以上を構成することである。
-CR1H-CR2R3- (式1)
(式1中、R1、R2は各々独立に炭素数1~12のアルキル基または水素を示し、R3は炭素数1~12のアルキル基、アリール基又は水素を示す)
ポリオレフィン系樹脂は、上述の構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体であってもよい。繰り返し単位は、5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子効果(例えば、柔軟性、伸張性など)が発揮し難いことがある。
【0096】
上記繰り返し単位を例示すると、エチレン、プロペン(プロピレン)、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の末端オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位、イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや、スチレンモノマーの他に、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o- エチルスチレン、m- エチルスチレン、o-エチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t- ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、末端メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0097】
このような繰り返し単位の単独重合体を例示すると、末端オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリへキセン、ポリオクテニレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等が挙げられる。また、上記繰り返し単位の共重合体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボーネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系共重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記の繰り返し単位を満足していればよい。また、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。また、これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。
【0098】
また、参考発明に使用するポリオレフィンは、上記のオレフィン単位が主成分であればよく、上記の単位の置換体であるビニルモノマー、極性ビニルモノマー、ジエンモノマーがモノマー単位もしくは樹脂単位で共重合されていてもよい。共重合組成としては、上記オレフィン単位に対して50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。50質量%超では腐食原因物質に対するバリア性等のオレフィン系樹脂としての特性が低下することがある。
【0099】
上記極性ビニルモノマーの例としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水マレイン酸のイミド誘導体、塩化ビニル等が挙げられる。
【0100】
取扱性、腐食原因物質のバリア性から最も好ましいのは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの2種類以上の混合物である。
【0101】
参考発明で使用する樹脂として、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主成分とするフィルムは、コスト、流通、融着の容易性等の観点で、さらに好適である。
【0102】
ここでポリオレフィン系樹脂を主成分とする樹脂とは、ポリオレフィン系樹脂を50質量%以上含有する樹脂をいい、ポリオレフィン系樹脂の純粋樹脂の他に、合計が50質量%未満の割合で、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂などを含有することができる。また、めっき鋼板との密着性を向上させるために酸変性ポリオレフィンとしたものでも良い。ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でも、また、重合するポリオレフィン系樹脂以外の樹脂が1種類でも2種類以上でも、主成分となるポリオレフィン系樹脂が50質量%以上となっていれば良い。より好ましくはポリオレフィン系樹脂が70質量%以上、90質量%以上のものから、ポリオレフィン系樹脂そのものまでである。好ましくは、重合されるものは、ポリオレフィン系樹脂単独の時よりも分解温度を低下させるものの方が好ましい。
【0103】
容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有する。電池、特に大型電池では、電池を組み上げたのちに電解液を開口部から注液し、電解液を電池容器内部に浸透させた後に予備充放電を行うことが、製造工程が簡易となり好ましい。開口部は小さすぎると、注液が困難となることがある。開口部が大きすぎると、開口部を封止するための融着(ヒートシール)部が広いものになり、周囲長が長くなる。すなわち、外部からの水蒸気を透過し得る樹脂断面積が大きくなり、融着(ヒートシール)部を介して外部から水蒸気等が電池内部へ侵入しやすくなり、電池の劣化を生じる可能性が高まる。そのため、開口部の面積が0.19mm2以上、25mm2以下であってもよい。開口部が円形である場合、開口部の直径が0.5mm以上、5mm以下であってもよい。
【0104】
なお、容器蓋は、上述の開口部(注液口)のほかに、正極端子用および負極端子用の端子穴を有してもよい。これらにより、電池内部の正極および負極との電気的接続を得て、電池外部で電池エネルギーの利用が可能となる。
【0105】
容器蓋の開口部は、開口部シールによって密閉(封止)される。
図5は、開口部が開口部シールによって封止される前後を模式的に表した図である。
【0106】
開口部シールは、樹脂をラミネートした金属箔から構成されている。基材となる金属箔は、樹脂の密着性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよく、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔等を採用してもよい。また、金属箔は、密着性や耐食性等の性能を向上させるために、前述した樹脂をラミネートした鋼板と同様の、めっき処理、化成処理をされたものであってもよい。
【0107】
金属箔(樹脂を含まない)の厚さは、10μm以上、50μm以下であってもよい。薄すぎるとピンホールや破れが生じるおそれ、十分な融着強度が得られず電池内部の内圧変化に耐えられないおそれがある。厚すぎると樹脂ラミネートを融着する際に伝熱性が低下し融着(ヒートシール)の不良が生じるおそれや、融着に必要な熱が大きくなり電池内部が加熱され悪影響を受けるおそれがある。
【0108】
樹脂をラミネートした金属箔は、基材となる金属箔に樹脂をラミネートしたものである。開口部シールの容器蓋と接する面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムから構成される。このポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムとして、上述した、樹脂をラミネートした鋼板に用いた、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムを用いることができる。
なお、開口部シールの容器蓋と接しない面は、樹脂をラミネートしなくてもよいが、金属箔を保護する観点から、樹脂ラミネートをすることが好ましい。この樹脂をラミネートして、上述のポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムを用いてもよく、あるいはさらに耐候性等で優れるとされるポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分としたフィルムを用いてもよい。
【0109】
図5に示されるように、開口部シールの樹脂は、容器蓋を構成する樹脂ラミネートされた鋼板の外面の樹脂と、融着(ヒートシール)して、融着部を形成する。この融着部を介して、開口部シールが容器蓋に固定され、開口部が密閉(封止)される。開口部シールの上面からアイロンプレス等で熱をかけながら押圧することで、開口部シールの樹脂、およびそれと接する容器蓋の樹脂が融点以上の温度となり、両者を融着し、融着部を形成することができる。融着による封止は、従来の溶接による封止に比べて、作業負荷が大幅に低く好ましい。
【0110】
開口部の端部から融着部の端部までの距離(
図5の「融着幅」を参照)は、開口部を封止できるものであればよく、特に限定されるものではない。ただし、融着幅が短すぎると、融着(ヒートシール)部を介して外部から水蒸気等が電池内部へ侵入しやすくなり、電池の劣化を生じる可能性が高まる。そのため、融着幅の下限を、例えば最短で3mm以上、より好ましくは5mm以上であってもよい。一方で、融着幅を長くすると封止性が向上するが、融着幅が15mm以上ではその封止性はほぼ飽和する。また、融着幅が長すぎると、融着(ヒートシール)部の周囲長が長くなり、すなわち、外部からの水蒸気を透過し得る樹脂断面積が大きくなり、融着(ヒートシール)部を介して外部から水蒸気等が電池内部へ侵入しやすくなり、電池の劣化を生じる可能性が高まる。そのため、融着幅の上限を15mm以下とし、好ましくは12mm以下としてもよい。
【0111】
融着部の厚さ(
図5の「融着厚さ」を参照)は、開口部を封止できるものであればよく、特に限定されるものではない。ただし、薄すぎると、十分な融着強度がえられず、剥離しやすくなるおそれがあり、例えば5μm以上、より好ましくは8μm以上としてもよい。また、厚すぎると、融着部を介した水蒸気の拡散パスが広くなり、電池内部の水蒸気量が増加し、電池を劣化させるおそれがあるので、例えば60μm以下、より好ましくは36μm以下であってもよい。
【0112】
参考発明の一態様では、適当な長さの融着幅と、適当な厚さの融着厚さと、適当な長さの開口部直径を組み合わせて、密閉性を高めてもよい。一例として、融着幅/(融着厚さ×開口部直径)が0.04以上であってもよい。この密着性に関する指標は、概して大きいほど密閉性が高まると考えられ、好ましくは0.06以上、さらに好ましくは0.1以上としてもよい。この密着性に関する指標の上限は特に規定されず、融着幅、融着厚さ、開口部直径の範囲に応じて、6以下としてもよく、1以下、または0.5以下としてもよい。
【0113】
図4の模式図に例示されるように、電池セルケースは、容器本体と容器蓋とを溶接または巻き締め(かしめ)により接合して構成される。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。容器本体および容器蓋は、それぞれ、樹脂ラミネートされた鋼板から構成されているので、樹脂どうしを融着(ヒートシール)して、容器の密閉性を高めることができる。樹脂をラミネートした鋼板どうしを溶接する際には、溶接不良を生じないように、樹脂を除去または蒸発させた上で、鋼板どうしを溶接してもよく、本発明者らが別途出願している特願2019-107770号の明細書に記載の手法を用いることができる。
【0114】
電池セルケースの形状、大きさは、用途等に応じて適宜選択することができる。電池セルケースが角型の形状、円筒形の形状等であってもよい。なお、角型は円筒型と比べ、放熱性に優れるため大型化しやすく経済性に優れ、積載性も良いとされており、好ましい。大型の電池セルケースとは、特に規格等で定められたものではないが、少なくとも一辺が120mm以上さらに148mm以上のものとしてもよい。
[参考実施例]
【0115】
参考発明について、以下の参考実施例を用いて説明する。ただし、参考発明は、この参考実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0116】
表2に示す条件で、容器本体および容器蓋を用意し、それらを組み上げて電池セルケースを作製した。容器蓋は注液口として開口部を有しており、開口部(注液口)からの注液性を評価した。その後、開口部シールによって開口部(注液口)を封止し、完成した電池セルケースについて、封止部の剥離強度、密閉性についても評価を行なった。評価結果をあわせて表2に示す。
【0117】
(注液性)
容器蓋の開口部から、注射針を使って、電解液を電池セルケース内へ注入した。評点は以下のとおりである。電解液として、1M-LiPF6 EC/DEC(1/1)を用いた。
E(Excellent):外径が0.8mmの注射針で注入ができたもの
VG(Very Good):外径が0.4mmの注射針で注入ができたもの
G(Good):外径が0.4mm未満の注射針で注入ができたもの
P(Poor):外径が0.4mm未満の注射針で注入ができなかったもの
外径0.8mm、外径0.4mmの注射針の場合、いずれも、注液は可能であり、特に外径0.8mmの場合、注液が短時間で完了できるので、Eとした。
【0118】
(剥離強度)
電解液(1M-LiPF6 EC/DEC)を電池セルケース内に注液した後、注液口(容器蓋の開口部)を開口部シールを融着により封止(密閉)した。雰囲気温度85℃、相対湿度85%の環境で、封止した電池セルケールを蓋を下に向け保持した。保持開始から100日経過後に、封止部、すなわち開口部シールの樹脂ラミネートと、容器蓋の樹脂ラミネートとの融着部において、剥離の有無を確認し、剥離が確認された場合、その剥離の生じた範囲(幅)を測定した。評点は以下のとおりである。
E(Excellent):最大の剥離幅が0.1mm以下
VG(Very Good):最大の剥離幅が0.1mm超、0.2mm以下
G(Good):最大の剥離幅が0.2mm超、0.5mm以下
P(Poor):最大の剥離幅が0.5mm超
【0119】
(密閉性)
剥離強度の評価の後、開口部シールを注液口(開口部)から取り外して、電池セルケース内部の電解液を回収し、化学分析により、電解液中のふっ酸濃度を測定した。フッ酸は、電池セルケース内に侵入した水分によって生成し、侵入した水分量が多いほどふっ酸濃度が高まると考えられ、以下の評点とした。
E(Excellent):ふっ酸濃度が10ppm以下
VG(Very Good):ふっ酸濃度が10ppm超、15ppm以下
G(Good):ふっ酸濃度が15ppm超、20ppm以下
P(Poor):ふっ酸濃度が20ppm超
【0120】
No.14は、開口部シールの樹脂ラミネート(封止材)が100μmと厚すぎて、開口部シールによって開口部を封止することができなかった。その他の例では、ラミネート鋼板からなる容器蓋の開口部を、ラミネート金属箔からなる開口部シールにより封止することができ、電池セルケースが得られた。
【0121】
【表1】
Ni-Si:Niめっき上にシランカップリング剤処理
Sn-Cr:Snめっき上にクロメート処理
Ni-Zr:Niめっき上にZr処理
PP:ポリプロピレン
PE:ポリエチレン
PET:ポリエチレンテレフタレート
【0122】
【0123】
【表3】
PP:ポリプロピレン
PE:ポリエチレン
PET:ポリエチレンテレフタレート
[参考符号の説明]
【0124】
1 ・・・・・・容器本体
2 ・・・・・・容器蓋
3 ・・・・・・封止部
4 ・・・・・・接合部
5 ・・・・・・開口部シール
51・・・・・・金属箔
52、53・・・樹脂
6 ・・・・・・開口部(注液口)周辺
61・・・・・・鋼板
62、63・・・樹脂
7 ・・・・・・開口部(注液口)直径
8 ・・・・・・融着幅
9 ・・・・・・融着厚さ
【実施例】
【0125】
本発明について、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0126】
表1に示す条件で、容器本体および容器蓋を用意し、それらをくみ上げて電池セルケースを作製した。容器蓋は注液口として開口部を有しており、溶接によって開口部(注液口)を封止できるか、つまり溶接性を評価し、さらに、封止部(溶接部)の密閉性についても評価を行なった。また、容器蓋の耐溶解性(耐電解液性)についても評価を行なった。評価結果をあわせて表1に示す。
【0127】
(溶接性)
容器蓋の開口部(注液口)を、抵抗溶接によって封止した。溶接によって封止できたものを「可」とし、封止できなかったものを「不可」とした。
No.4は、容器蓋の外面にポリプロピレンフィルムがラミネートされており、溶接熱でポリプロピレンが蒸発し、溶接不良が生じ、封止ができず、「不可」と評価した。
No.4以外では、いずれも溶接によって封止ができ、「可」と評価した。
【0128】
以降の試験では、以下のように電池を作成し、密閉性および耐溶解性を評価した。
(a)正極板
正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いた。これにアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比で10:10:1となるよう混合したのち水性ディスパージョンとしてAl箔に塗布し、乾燥した。これを所定の厚みとなるよう圧延し、所定の大きさに切り出したものを正極板とした。
【0129】
(b)負極板
負極活物質には非晶質カーボンを用いた。これを導電材であるアセチレンブラックと乾式混合し、さらにポリフッ化ビニリデンを溶解させたN-メチルー2-ピロリドン(NMP)を混合物に均一に分散させて、質量比でカーボン:アセチレンブラック:PVDF=88:5:7となるペーストを作成した。これをCu箔に塗布し、乾燥したのち、所定厚みとなるよう圧延してから、所定の大きさに切り出したものを負極板とした。
【0130】
(c)セパレータおよび電解液
セパレータにはポリエチレン微多孔膜を用いた。
電解液にはエチレンカーボネート:ジエチルカーボネートを体積比で1:1で混合したものに、6ふっ化りん酸リチウムを1mol/L添加した溶液(1M-LiPF6 EC/DEC(1/1))を用いた。
【0131】
電池
正極板と負極板の間にセパレータを挟んで捲回した電極群をセルケースに入る形状につぶし、正極板はAlリード、負極板はNiリードに溶接した。
図1のように、蓋に正極端子用および負極端子用の端子穴を備える電池セルケースでは、Alタブを正極端子に、Niリードを負極端子に溶接した。
図2のように、蓋に負極端子用の端子穴のみを有し、蓋が正極と同電位となるものは、Alタブを蓋に、Niタブを負極端子に溶接した。
図3のように、蓋に正極端子用の端子穴のみを有し、蓋が負極と同電位となるものは、Alタブを正極端子に、Niタブを蓋に溶接した。
【0132】
蓋を巻き締めまたは巻き締め後に樹脂を融着または溶接により容器に固定した。
露点-67℃の雰囲気で電池内を乾燥させ、水分を除去した。同雰囲気で上記の電解液を注入した。同雰囲気において電池を3.6Vで充電した。この処理により電池内に残った水分を電解除去した。その後、同雰囲気内で、開口部の蓋(封止材)として、容器蓋と同じ種類の金属を溶接した後、通常の大気雰囲気に取り出した。
【0133】
試験条件
(密閉性)
雰囲気温度85℃、相対湿度85%の環境で、封止した電池セルケースを蓋を下に向け保持した。保持開始から100日経過後に、電池セルケース内部の電解液を回収した。
回収した電解液を化学分析し、電解液中のふっ酸濃度を測定した。ふっ酸は、電池セルケース内に侵入した水分によって生成し、侵入した水分量が多いほどふっ酸濃度が高まると考えられ、以下の評点とした。
VG(Very Good):ふっ酸濃度が5ppm以下
G(Good):ふっ酸濃度が5ppm超、10ppm以下
P(Poor):ふっ酸濃度が10ppm超
溶接不可であったNo.4を除いて、全ての例で、良好な密閉性(GまたはVG)が確認された。特に、容器本体と容器蓋との組み付け(接合部)にヒートシールを施した例(No.12)、および組み付け(接合部)が溶接による例(No.18)では、さらに良好な密閉性(VG)が確認された。
【0134】
(耐溶解性)
密閉性の評価に続いて、回収した電解液を化学分析し、電解液中の金属イオン濃度を測定した。金属イオンは、容器本体を構成する鋼板および/または容器蓋を構成する金属板から電解液に溶出すると考えられ、以下の評点とした。
VG(Very Good):金属イオン濃度が10ppm以下
G(Good):金属イオン濃度が10ppm超、20ppm以下
P(Poor):金属イオン濃度が20ppm超
いずれの例でも、金属イオン濃度は低く(VGまたはG)であり、良好な耐食性が確認された。
別途、容器蓋の金属板をアルミ板として、容器蓋に正極端子用の端子穴を備え、容器蓋を負極と電気的に接続した電池セルケースについて、耐食性を評価したところ、電解液中の金属イオン濃度は20ppm超であることが確認された。
また、容器蓋の金属板をNiめっき鋼板として、容器蓋に負極端子用の端子穴を備え、容器蓋を正極と電気的に接続した電池セルケースについて、耐食性を評価したところ、電解液中の金属イオン濃度は20ppm超であることが確認された。
【0135】
【符号の説明】
【0136】
1 ・・・・・・容器
2 ・・・・・・蓋
3 ・・・・・・封止材
4 ・・・・・・注液口
5 ・・・・・・絶縁シール
61・・・・・・正極
62・・・・・・正極集電体
63・・・・・・正極タブ
64・・・・・・正極端子
71・・・・・・負極
72・・・・・・負極集電体
73・・・・・・負極タブ
74・・・・・・負極端子