(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230628BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230628BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 M
C21D9/46 J
(21)【出願番号】P 2021569812
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047610
(87)【国際公開番号】W WO2021140893
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020001529
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】川田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】永野 真衣
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168991(WO,A1)
【文献】特開2012-031458(JP,A)
【文献】特開2012-082523(JP,A)
【文献】特開2011-246767(JP,A)
【文献】特開2002-167645(JP,A)
【文献】特開平10-287954(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0118307(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、質量%で、
C:0.0003~0.0100%、
Si:0.005~1.500%、
Mn:0.010~3.000%、
Al:0.005~1.000%、
P:0.100%以下、
S:0.0200%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0100%以下、
V:0~0.50%、
Cr:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
W:0~1.00%、
B:0~0.0100%、
Sn:0~1.00%、
Sb:0~0.20%、および
Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種または2種以上の合計:0~0.0100%、
を含有し、
Ti:0.010~0.100%、および
Nb:0.005~0.060%の1種または2種を含有し、
下記式(1)を満たし、
残部がFeおよび不純物からなり、
表面から板厚方向に板厚の1/4位置におけるミクロ組織が、
体積%で、フェライト:95%以上、残部組織:5%以下を含有し、
前記フェライトに占める未再結晶フェライトの割合が5%以下であり、
前記フェライトの(200)面のピークにおける半値幅wおよびX線波長λ
(wの単位はdegree、λの単位はÅ)が下記式(2)を満たす
ことを特徴とする鋼板。
0.80≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦5.00 …(1)
w×λ≧0.20 …(2)
上記式(1)中のTi、N、NbおよびCは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
また、上記(2)式のw×λの単位は「degree×Å」である。
【請求項2】
前記成分組成が、質量%で、
V:0.01~0.50%、
Cr:0.05~1.00%、
Ni:0.05~1.00%、
Cu:0.05~1.00%、
Mo:0.03~1.00%、
W:0.03~1.00%、
B:0.0005~0.0100%、
Sn:0.01~1.00%、
Sb:0.005~0.20%、および
Ca、Ce、Mg、Zr、La、REMの1種または2種以上の合計:0.0001~0.0100%
からなる群から選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記ミクロ組織に含まれる前記フェライトの平均結晶粒径が6.0~15.0μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼板。
【請求項4】
前記表面に亜鉛めっき層を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項5】
前記表面に亜鉛合金めっき層を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項6】
前記亜鉛めっき層または前記亜鉛合金めっき層中のFe含有量が、質量%で、7.0~13.0%であることを特徴とする、請求項4または5に記載の鋼板。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法であって、
請求項1に記載の成分組成を有する鋼片を1200~1320℃に加熱し、熱間圧延完了温度が880℃以上となるように熱間圧延を完了し、熱間圧延完了温度~500℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を、500~700℃の温度域まで加熱する再加熱工程と、
前記熱延鋼板を、室温まで冷却する冷却工程と、
前記熱延鋼板を、合計圧下率が60~90%、冷間圧延完了温度が250℃以下となるように冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板を、700~850℃の焼鈍温度に加熱し、80℃以下の温度域まで冷却する焼鈍工程と、
前記冷延鋼板を、合計圧下率が0.05~2.00%となるように調質圧延する調質圧延工程と、を備え、
前記再加熱工程では、
500~700℃の温度域において、下記式(3)を満たし、
前記焼鈍工程では、
前記焼鈍温度への加熱過程において、
700℃~前記焼鈍温度の温度域において、下記式(4)を満たし、
前記焼鈍温度からの冷却過程において、
500~700℃の前記温度域において、下記式(5)を満たし、
80~500℃の温度域において、20MPa以上の張力を付与しつつ曲げ加工を行う
ことを特徴とする鋼板の製造方法。
【数1】
上記式(3)において、K
20は再加熱工程の500~700℃の前記温度域における温度履歴を時間に対して20等分した場合の、20番目の区間におけるTiおよび/またはNbの炭窒化物の析出の進行度合いを示す指標である。t
nおよびK
nは、再加熱工程の500~700℃の温度域における温度履歴を時間に対して20等分し、そのn番目の区間における平均温度をT
n[℃]として計算されるものである。Δt
Kは同温度域における総滞在時間を20分割した時間[hr.]を表す。C、NbおよびTiはそれぞれの元素の含有量[質量%]を表す。但し、t
1=Δt
Kとする。
【数2】
上記式(4)において、R
iは700℃~前記焼鈍温度の前記温度域における再結晶の進行度合いおよび結晶粒界に存在するTiおよび/またはNbの炭窒化物から結晶粒内へのCの拡散の進行度合いを示す指標である。R
mは、焼鈍工程の加熱過程において700℃から焼鈍温度に到達するまでの間の鋼板の温度履歴を時間に対して10等分し、m番目の区間における平均温度をT
m[℃]として計算されるものである。Δt
Rは700℃~前記焼鈍温度の前記温度域における総滞在時間を10分割した時間[秒]を表す。K
20は上記式(3)により得られる値である。AおよびBは定数項であり、Aは9.67×10
9であり、Bは1.25×10
4である。
【数3】
上記式(5)において、P
jは700~500℃の温度域におけるCの析出の進行度合いを示す指標である。P
kは、焼鈍工程の冷却過程において、700℃に到達してから500℃に到達するまでの間の鋼板の温度履歴を時間に対して10等分し、k番目の区間における平均温度をT
k[℃]として計算されるものである。Δt
Pは同温度域における総滞在時間を10分割した時間[秒]を表す。R
10は式(4)中のR
mのmに10を代入した値である。D、EおよびFは定数項であり、Dは4.47×10
4であり、Eは2.11×10
0であり、Fは1.25×10
4である。
【請求項8】
前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記冷延鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする、請求項7に記載の鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記冷延鋼板に溶融亜鉛合金めっき処理を施すことを特徴とする、請求項7に記載の鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記溶融亜鉛めっき処理後または前記溶融亜鉛合金めっき処理後に合金化処理を施すことを特徴とする、請求項8または9に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびその製造方法に関する。
本願は、2020年1月8日に、日本に出願された特願2020-001529号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には、車体を軽量化して燃費を高め、炭酸ガスの排出量を低減するため、また、衝突時、衝突エネルギーを吸収して、搭乗者の保護・安全を確保するため、高強度鋼板が多く使用されている。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると、変形能(延性、曲げ性等)が低下する。
【0003】
例えば、特許文献1には、高い強度と優れた成形性とを両立できる引張強さが900MPa以上の高強度鋼板が開示されている。特許文献1では、鋼組織において、面積率で、フェライトを5%以上80%以下、オートテンパードマルテンサイトを15%以上とするとともに、ベイナイトを10%以下、残留オーステナイトを5%以下、焼入れままのマルテンサイトを40%以下とし、オートテンパードマルテンサイトの平均硬さをHV≦700、かつオートテンパードマルテンサイト中における5nm以上0.5μm以下の鉄系炭化物の平均析出個数を1mm2あたり5×104個以上としている。
【0004】
特許文献2には、引張強さ:900MPa以上を有し、かつ良好な溶接性を有し、伸びも良好である薄鋼板が開示されている。特許文献2の薄鋼板は、フェライトが面積率で25%以上65%以下、マルテンサイト粒内に鉄系炭化物が析出したマルテンサイトが面積率で35%以上75%以下、残部組織として前記フェライトおよび前記マルテンサイト以外を面積率が合計で20%以下(0%を含む)含み、前記フェライトおよび前記マルテンサイトの平均粒径がそれぞれ5μm以下であり、前記フェライトと前記マルテンサイトとの界面上のSiおよびMnの合計が原子濃度で5%以上である鋼組織を有することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、フェライトおよびベイナイトを合計で60面積%以上、並びに残留オーステナイトを3面積%以上、20面積%以下含有し、前記フェライト及びベイナイトの平均粒径が0.5μm以上、6.0μm以下、前記残留オーステナイト中のC濃度が0.5質量%以上、1.2質量%以下である鋼組織を有し、鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm以下である元素濃度分布を有し、鋼板表面のクラックの最大深さが4.5μm以下であり、かつ、幅6μm以下で深さ2μm以上のクラックの数密度が10個/50μm以下である表面性状を有し、引張強度(TS)が800MPa以上、1200MPa以下、3%以上、8%以下の塑性ひずみ域における加工硬化指数(n3-8)が0.10以上、曲げ性が式(R/t≦1.5)を満たす機械特性を有する冷延鋼板が開示されている。
【0006】
ここで、自動車のサイドパネルやフード等に使用される外板用鋼板では、耐デント性に優れることが要求される。耐デント性を向上させるためには、降伏強度を高め、高強度化を図ることが有効である。一方、プレス成形を行う際には、面ひずみの発生を抑制し、且つ高い面精度を確保するためには、降伏強度を下げる必要がある。このように相反する要求特性を満足し、プレス成形性と高強度化とを両立させた鋼板として、焼付硬化鋼板(BH鋼板)が開発されている。
【0007】
このBH鋼板は、プレス成形後に、高温加熱・高温保持を含む塗装焼付け処理を施すことにより、降伏強度が上昇する鋼板である。BH鋼板は、塗装焼付け処理後に降伏強度が上昇するように、焼付硬化性(BH性)に優れる必要がある。特に、車体軽量化のために複雑な形状を成形するなど、外板用鋼板に従来よりも大きなひずみを導入する要望があり、それに応えるために高ひずみ域であっても優れた焼付硬化性を有する鋼材が求められる。
【0008】
本発明者らが検討を行った結果、特許文献1~3では、焼付硬化性(BH性)が十分でない場合があることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2009/096596号
【文献】国際公開第2018/030503号
【文献】日本国特許第5659929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の通り、鋼板において、成形性の向上に加え、高ひずみ域でのBH性の向上が求められていることに鑑みてなされた。本発明は、鋼板(亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛合金めっき鋼板を含む)において、成形性および高ひずみ域でのBH性に優れる鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る鋼板は、成分組成が、質量%で、
C:0.0003~0.0100%、
Si:0.005~1.500%、
Mn:0.010~3.000%、
Al:0.005~1.000%、
P:0.100%以下、
S:0.0200%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0100%以下、
V:0~0.50%、
Cr:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
W:0~1.00%、
B:0~0.0100%、
Sn:0~1.00%、
Sb:0~0.20%、および
Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種または2種以上の合計:0~0.0100%、
を含有し、
Ti:0.010~0.100%、および
Nb:0.005~0.060%の1種または2種を含有し、
下記式(1)を満たし、
残部がFeおよび不純物からなり、
表面から板厚方向に板厚の1/4位置におけるミクロ組織が、
体積%で、フェライト:95%以上、残部組織:5%以下を含有し、
前記フェライトに占める未再結晶フェライトの割合が5%以下であり、
前記フェライトの(200)面のピークにおける半値幅wおよびX線波長λ
(wの単位はdegree、λの単位はÅ)が下記式(2)を満たす
ことを特徴とする鋼板。
0.80≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦5.00 …(1)
w×λ≧0.20 …(2)
上記式(1)中のTi、N、NbおよびCは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
また、上記(2)式のw×λの単位は「degree×Å」である。
[2]上記(1)に記載の鋼板は、前記成分組成が、質量%で、
V:0.01~0.50%、
Cr:0.05~1.00%、
Ni:0.05~1.00%、
Cu:0.05~1.00%、
Mo:0.03~1.00%、
W:0.03~1.00%、
B:0.0005~0.0100%、
Sn:0.01~1.00%、
Sb:0.005~0.20%、および
Ca、Ce、Mg、Zr、La、REMの1種または2種以上の合計:0.0001~0.0100%
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[3]上記(1)または(2)に記載の鋼板は、前記ミクロ組織に含まれる前記フェライトの平均結晶粒径が6.0~15.0μmであってもよい。
[4]上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の鋼板は、前記表面に亜鉛めっき層を有してもよい。
[5]上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の鋼板は、前記表面に亜鉛合金めっき層を有してもよい。
[6]上記(4)または(5)に記載の鋼板は、前記亜鉛めっき層または前記亜鉛合金めっき層中のFe含有量が、質量%で、7.0~13.0%であってもよい。
[7]本発明の別の態様に係る鋼板の製造方法は、
上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法であって、
上記(1)に記載の成分組成を有する鋼片を1200~1320℃に加熱し、熱間圧延完了温度が880℃以上となるように熱間圧延を完了し、熱間圧延完了温度~500℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を、500~700℃の温度域まで加熱する再加熱工程と、
前記熱延鋼板を、室温まで冷却する冷却工程と、
前記熱延鋼板を、合計圧下率が60~90%、冷間圧延完了温度が250℃以下となるように冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板を、700~850℃の焼鈍温度に加熱し、80℃以下の温度域まで冷却する焼鈍工程と、
前記冷延鋼板を、合計圧下率が0.05~2.00%となるように調質圧延する調質圧延工程と、を備え、
前記再加熱工程では、
500~700℃の温度域において、下記式(3)を満たし、
前記焼鈍工程では、
前記焼鈍温度への加熱過程において、
700℃~前記焼鈍温度の温度域において、下記式(4)を満たし、
前記焼鈍温度からの冷却過程において、
500~700℃の前記温度域において、下記式(5)を満たし、
80~500℃の温度域において、20MPa以上の張力を付与しつつ曲げ加工を行う。
【数1】
上記式(3)において、K
20は再加熱工程の500~700℃の前記温度域における温度履歴を時間に対して20等分した場合の、20番目の区間におけるTiおよび/またはNbの炭窒化物の析出の進行度合いを示す指標である。t
nおよびK
nは、再加熱工程の500~700℃の温度域における温度履歴を時間に対して20等分し、そのn番目の区間における平均温度をT
n[℃]として計算されるものである。Δt
Kは同温度域における総滞在時間を20分割した時間[hr.]を表す。C、NbおよびTiはそれぞれの元素の含有量[質量%]を表す。但し、t
1=Δt
Kとする。
【数2】
上記式(4)において、R
iは700℃~前記焼鈍温度の前記温度域における再結晶の進行度合いおよび結晶粒界に存在するTiおよび/またはNbの炭窒化物から結晶粒内へのCの拡散の進行度合いを示す指標である。R
mは、焼鈍工程の加熱過程において700℃から焼鈍温度に到達するまでの間の鋼板の温度履歴を時間に対して10等分し、m番目の区間における平均温度をT
m[℃]として計算されるものである。Δt
Rは700℃~前記焼鈍温度の前記温度域における総滞在時間を10分割した時間[秒]を表す。K
20は上記式(3)により得られる値である。AおよびBは定数項であり、Aは9.67×10
9であり、Bは1.25×10
4である。
【数3】
上記式(5)において、P
jは700~500℃の温度域におけるCの析出の進行度合いを示す指標である。P
kは、焼鈍工程の冷却過程において、700℃に到達してから500℃に到達するまでの間の鋼板の温度履歴を時間に対して10等分し、k番目の区間における平均温度をT
k[℃]として計算されるものである。Δt
Pは同温度域における総滞在時間を10分割した時間[秒]を表す。R
10は式(4)中のR
mのmに10を代入した値である。D、EおよびFは定数項であり、Dは4.47×10
4であり、Eは2.11×10
0であり、Fは1.25×10
4である。
[8]上記(7)に記載の鋼板の製造方法は、前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記冷延鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施してもよい。
[9]上記(7)に記載の鋼板の製造方法は、前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記冷延鋼板に溶融亜鉛合金めっき処理を施してもよい。
[10]上記(8)または(9)に記載の鋼板の製造方法は、前記焼鈍工程の前記冷却過程において、前記溶融亜鉛めっき処理後または前記溶融亜鉛合金めっき処理後に合金化処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る上記態様によれば、成形性およびBH性に優れる鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る鋼板およびその製造方法について、順次説明する。まず、本実施形態に係る鋼板の成分組成(化学組成)の限定理由について説明する。以下に記載する「~」を挟んで記載される数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。成分組成についての%は全て質量%を示す。
【0014】
本実施形態に係る鋼板は、成分組成が、質量%で、C:0.0003~0.0100%、Si:0.005~1.500%、Mn:0.010~3.000%、Al:0.005~1.000%、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、N:0.0150%以下、O:0.0100%以下、V:0~0.50%、Cr:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Mo:0~1.00%、W:0~1.00%、B:0~0.0100%、Sn:0~1.00%、Sb:0~0.20%、並びに、Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種または2種以上の合計:0~0.0100%を含有し、Ti:0.010~0.100%およびNb:0.005~0.060%の1種または2種を含有し、式(1)(0.80≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦5.00)を満たし、残部がFeおよび不純物からなる。以下、各元素について説明する。
【0015】
C:0.0003~0.0100%
Cは、鋼板の強度を大きく高める元素である。C含有量が0.0003%以上であると、十分な引張強さ(最大引張強さ)を得ることができるので、C含有量は0.0003%以上とする。鋼板の引張強さをより高めるため、C含有量は、好ましくは0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。
また、C含有量が0.0100%以下であると、熱処理後に多量の残留オーステナイトが生成することで抑制でき、BH性を確保することができる。また、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、C含有量は0.0100%以下とする。BH性を更に向上させるため、C含有量は、0.0090%以下が好ましく、0.0080%以下がより好ましい。
【0016】
Si:0.005~1.500%
Siは、鉄系炭化物を微細化し、強度-成形性バランスの向上に寄与する元素である。強度-成形性バランスを向上するために、Si含有量は0.005%以上とする。好ましくは、0.025%以上である。特に強度を高める観点から、0.100%以上とすることがより好ましい。
また、Si含有量が1.500%以下であると、破壊の起点として働く粗大なSi酸化物が形成されにくく、割れが発生しにくくなり、鋼の脆化を抑制することができる。そのため、Si含有量は1.500%以下とする。Si含有量は1.300%以下が好ましく、1.000%以下がより好ましい。
【0017】
Mn:0.010~3.000%
Mnは、鋼の焼入れ性を高めて、強度の向上に寄与する元素である。所望の強度を得るために、Mn含有量は0.010%以上とする。好ましくは、0.050%以上であり、0.200%以上がより好ましい。
また、Mn含有量が3.000%以下であると、鋳造時のMnの偏在により、鋼板内のマクロな均質性が損なわれて鋼板の成形性が劣化することを抑制できる。Mn含有量が3.000%以上の場合、鋼のAc1温度が低下し、焼鈍工程に生成するフェライト量が低下するため成形性が劣化する。そのため、Mn含有量は3.000%以下とする。より良好な成形性を得るために、Mn含有量は、2.800%以下が好ましく、2.600%以下がより好ましい。
【0018】
Al:0.005~1.000%
Alは、脱酸材として機能する元素である。Al含有量が0.005%以上であると、脱酸効果を十分に得ることができるので、Al含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。
Alは破壊の起点となる粗大な酸化物を形成し、鋼を脆化する元素でもある。Al含有量が1.000%以下であると、破壊の起点として働く粗大な酸化物の生成を抑制でき、鋳片が割れ易くなることを抑制できる。そのため、Al含有量は1.000%以下とする。Al含有量は0.800%以下が好ましく、0.600%以下がより好ましい。
【0019】
P:0.100%以下
Pは、鋼を脆化し、また、スポット溶接で生じる溶融部を脆化する元素である。P含有量が0.100%以下であると、鋼板が脆化して生産工程において割れ易くなることを抑制できる。そのため、P含有量は0.100%以下とする。生産性の観点から、P含有量は0.050%以下が好ましく、0.030%以下がより好ましい。
P含有量の下限は0%を含むが、P含有量を0.001%以上とすることで、製造コストをより抑制することができるため、0.001%を下限としてもよい。
【0020】
S:0.0200%以下
Sは、Mn硫化物を形成し、延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を劣化させる元素である。S含有量が0.0200%以下であると、鋼板の成形性が著しく低下することを抑制できるので、S含有量は0.0200%以下とする。S含有量は0.0100%以下が好ましく、0.0080%以下がより好ましい。
S含有量の下限は0%を含むが、S含有量を0.0001%以上とすることで、製造コストをより抑制することができるため、0.0001%を下限としてもよい。
【0021】
N:0.0150%以下
Nは、窒化物を形成し、延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を劣化させる元素である。N含有量が0.0150%以下であると、鋼板の成形性が低下することを抑制できるので、N含有量は0.0150%以下とする。また、Nは、溶接時に溶接欠陥を発生させて生産性を阻害する元素でもある。そのため、N含有量は、好ましくは0.0120%以下であり、より好ましくは0.0100%以下である。
N含有量の下限は0%を含むが、N含有量を0.0005%以上とすることで、製造コストをより抑制することができるため、0.0005%を下限としてもよい。
【0022】
O:0.0100%以下
Oは、酸化物を形成し、延性、穴拡げ性、伸びフランジ性および曲げ性などの成形性を阻害する元素である。O含有量が0.0100%以下であると、鋼板の成形性が著しく低下することを抑制できるので、O含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0080%以下、より好ましくは0.0050%以下である。
O含有量の下限は0%を含むが、O含有量を0.0001%以上とすることで、製造コストをより抑制することができるため、0.0001%を下限としてもよい。
【0023】
Ti:0.010~0.100%およびNb:0.005~0.060%の1種または2種
Tiは、破壊の起点として働く粗大な介在物を発生させるS、NおよびOを低減する効果を有する元素である。また、Tiは組織を微細化し、鋼板の強度-成形性バランスを高める効果がある。Nbは、析出物による強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒化強化及び再結晶の抑制による転位強化によって、鋼板強度の向上に寄与する元素である。更に、TiおよびNbは炭窒化物を形成して炭素および窒素を固定し、固溶炭素がフェライト粒内に過剰に残存することを抑制する。また、所望量のTiまたはNbを含有させることで、鋼板のBH性を高めることができる。これらの効果を得るために、TiおよびNbの1種または2種を含有させる。上記効果を確実に得るためには、Ti:0.010%以上およびNb:0.005%以上の1種または2種を含有させる。なお、Tiを0.010%以上またはNbを0.005%以上含んでいれば、他方の元素が不純物としてその下限値未満で含まれていても問題は無い。TiおよびNbのいずれか一方でも所定の量を含まなければ、過剰に残存する固溶炭素によって降伏点が上昇し、降伏伸びが発生する場合がある。
また、Ti含有量が0.100%以下であると、粗大なTi硫化物、Ti窒化物、Ti酸化物の形成を抑制でき、鋼板の成形性が劣化することを抑制できる。また、未再結晶フェライトの割合を低減することができ、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Ti含有量は0.100%以下とする。Ti含有量は0.075%以下とすることが好ましく、0.060%以下とすることがより好ましい。Nb含有量が0.060%以下であると、再結晶を促進して未再結晶フェライトが残存することを抑制でき、鋼板の成形性を確保することができる。そのため、Nb含有量は0.060%以下とする。Nb含有量は好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。
【0024】
本実施形態に係る鋼板の成分組成の残部は、Fe及び不純物であってもよい。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから及び/又は製鋼過程で不可避的に混入し、本実施形態に係る鋼板の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。不純物として、H、Na、Cl、Co、Zn、Ga、Ge、As、Se、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Te、Cs、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pb、Bi、Poが挙げられる。不純物は、合計で0.100%以下含んでもよい。
【0025】
本実施形態に係る鋼板は、Feの一部に代えて、任意元素として、以下の元素を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量は0%である。
【0026】
V:0~0.50%
Vは、析出物による強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒化強化及び再結晶の抑制による転位強化によって、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Vは必ずしも含有させなくてよいので、V含有量の下限は0%を含む。Vによる強度向上効果を十分に得るには、V含有量は、0.01%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
また、V含有量が0.50%以下であると、炭窒化物が多量に析出して、鋼板の成形性が低下することを抑制できる。そのため、V含有量は、0.50%以下とする。
【0027】
Cr:0~1.00%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に替わり得る元素である。Crは必ずしも含有させなくてよいので、Cr含有量の下限は0%を含む。Crによる強度向上効果を十分に得るには、Cr含有量は、0.05%以上が好ましく、0.20%以上がより好ましい。
また、Cr含有量が1.00%以下であると、破壊の起点となり得る粗大なCr炭化物が形成されることを抑制できる。そのため、Cr含有量は1.00%以下とする。
【0028】
Ni:0~1.00%
Niは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に替わり得る元素である。Niは必ずしも含有させなくてよいので、Ni含有量の下限は0%を含む。Niによる強度向上効果を十分に得るには、Ni含有量は、0.05%以上が好ましく、0.20%以上がより好ましい。
また、Ni含有量が1.00%以下であると、鋼板の溶接性が低下することを抑制できるので、Ni含有量は1.00%以下とする。
【0029】
Cu:0~1.00%
Cuは、微細な粒子で鋼中に存在し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Cおよび/またはMnの一部に替わり得る元素である。Cuは必ずしも含有させなくてよいので、Cu含有量の下限は0%を含む。Cuによる強度向上効果を十分に得るには、Cu含有量は、0.05%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましい。
また、Cu含有量が1.00%以下であると、鋼板の溶接性が低下することを抑制できるので、Cu含有量は1.00%以下とする。
【0030】
Mo:0~1.00%
Moは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、又はMnの一部に替わり得る元素である。Moは必ずしも含有させなくてよいので、Mo含有量の下限は0%を含む。Moによる強度向上効果を十分に得るためには、Mo含有量は、0.03%以上が好ましく、0.06%以上がより好ましい。
また、Mo含有量が1.00%以下であると、熱間加工性が低下して生産性が低下することを抑制できる。そのため、Mo含有量は、1.00%以下とする。
【0031】
W:0~1.00%
Wは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Cおよび/またはMnの一部に替わり得る元素である。Wは必ずしも含有させなくてよいので、W含有量の下限は0%を含む。Wによる強度向上効果を十分に得るには、W含有量は、0.03%以上が好ましく、0.10%以上がより好ましい。
また、W含有量が1.00%以下であると、熱間加工性が低下して生産性が低下することを抑制できるので、W含有量は1.00%以下とする。
【0032】
B:0~0.0100%
Bは、高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に替わり得る元素である。Bは必ずしも含有させなくてよいので、B含有量の下限は0%を含む。Bによる強度向上効果を十分に得るには、B含有量は、0.0005%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
また、B含有量が0.0100%以下であると、B析出物が生成して鋼板の強度が低下することを抑制できるため、B含有量は0.0100%以下とする。
【0033】
Sn:0~1.00%
Snは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Snは必ずしも含有させなくてよいので、Sn含有量の下限は0%を含む。Snによる効果を十分に得るには、Sn含有量は、0.01%以上がより好ましい。
また、Sn含有量が1.00%以下であると、鋼板が脆化して圧延時に破断することを抑制できるので、Sn含有量は1.00%以下とする。
【0034】
Sb:0~0.20%
Sbは、結晶粒の粗大化を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素である。Sbは必ずしも含有させなくてよいので、Sb含有量の下限は0%を含む。上記効果を十分に得るには、Sb含有量は、0.005%以上が好ましい。
また、Sb含有量が0.20%以下であると、鋼板が脆化して圧延時に破断することを抑制できるので、Sb含有量は0.20%以下とする。
【0035】
Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種又は2種以上:合計で0~0.0100%
本実施形態に係る鋼板の成分組成は、必要に応じて、Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種又は2種以上を含んでもよい。Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMは、鋼板の成形性の向上に寄与する元素である。Ca、Ce、Mg、Zr、LaおよびREMの1種又は2種以上の合計の下限は0%を含むが、成形性向上効果を十分に得るには、合計で0.0001%以上が好ましく、0.0010%以上がより好ましい。
また、Ca、Ce、Mg、Zr、La、REMの1種又は2種以上の含有量の合計が0.0100%以下であると、鋼板の延性が低下することを抑制できる。そのため、上記元素の含有量は、合計で0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下である。
【0036】
REM(Rare Earth Metal)は、ランタノイド系列に属する元素群のうち、個別に特定するLa、Ceを除く元素群を意味する。これらは、多くの場合、ミッシュメタルの形態で添加するが、La、Ceの他に、ランタノイド系列の元素を不可避的に含有していてもよい。
【0037】
0.80≦{(Ti/48-N/14)+Nb/93}/(C/12)≦5.00 …(1)
本実施形態に係る鋼板の化学組成は、上記式(1)を満たす。上記式(1)を満たすことで、ミクロ組織中のセメンタイト量が増加して鋼板の成形性が劣化すること、およびBH性が劣化することを抑制できる。
なお、上記式(1)中のTi、N、NbおよびCは各元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。また、TiとNを含むカッコ内の値(Ti/48-N/14)が負となる場合、当該カッコ内の値として0を代入する。
【0038】
次に、本実施形態に係る鋼板のミクロ組織について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、表面から板厚方向に板厚の1/4位置におけるミクロ組織において、体積%で、フェライト:95%以上、残部組織:5%以下を含有し、前記フェライトに占める未再結晶フェライトの割合が5%以下であり、フェライトの(200)面のピークにおける半値幅wおよびX線波長λ(wの単位はdegree、λの単位はÅ)が下記式(2)を満たす。
本実施形態において、表面から板厚方向に板厚の1/4位置におけるミクロ組織を規定するのは、この位置のミクロ組織が鋼板の代表的なミクロ組織を示し、鋼板の機械特性との相関が強いからである。なお、ミクロ組織における下記組織の割合は、いずれも体積率である。
【0039】
w×λ≧0.20 …(2)
なお、w×λの単位は「degree×Å」である。
【0040】
フェライト:95%以上
フェライトは、成形性に優れた組織である。フェライトの体積率が95%以上であると、所望の成形性を得ることができる。そのため、フェライトの体積率は95%以上とする。フェライトの体積率は、97%以上が好ましい。フェライトは多い方が好ましいため、フェライトの体積率は100%であってもよい。
なお、ここでいうフェライトには、未再結晶フェライトも含まれる。
【0041】
残部組織:5%以下
本実施形態において、残部組織は、鋼板の成形性を劣化させる組織である。残部組織の体積率を5%以下とすることで鋼板の成形性を確保することができるため、残部組織の体積率は5%以下とする。残部組織は存在しなくても良いため、残部組織の体積率は0%であってもよい。本実施形態における残部組織とは、アシキュラーフェライト、マッシブフェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトを意味する。
【0042】
フェライトに占める未再結晶フェライトの割合:5%以下
未再結晶フェライトは、内部に冷間圧延等によって導入されたひずみが残存したフェライトであり、通常のフェライトと比べて強度は高いが延性は劣位である。よって、本実施形態に係る鋼板において、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合は5%以下に制限する。フェライトに占める未再結晶フェライトの割合は3%以下とすることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。鋼板の成形性を高めるには、未再結晶フェライトが含まれないことがより一層好ましいため、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合は0%であってもよい。
【0043】
以下に、フェライトの体積率の測定方法について説明する。
鋼板から、鋼板の圧延方向に平行、かつ、鋼板表面に垂直な断面を観察面とする試験片を採取する。試験片の観察面を研磨した後、ナイタールエッチングする。観察面において、表面から板厚方向に板厚の1/4位置が中心となるように、表面からt/8~3t/8(tは板厚)の領域において、1以上の視野にて、1000~3000倍の倍率で、合計で2.0×10-9m2以上の面積を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microsope)で観察する。
【0044】
組織の形態(結晶粒の形状、炭化物の生成状態など)に基づいてフェライトを同定し、その面積率(面積%)を測定する。具体的には、結晶粒の形状がラス状である領域と、結晶粒内に上記倍率で観察可能な長径1.0μm以下の微細な炭化物が複数存在する領域をフェライト以外の組織とみなし、他の領域をフェライトとみなす。得られたフェライトの面積率を、フェライトの体積率とみなす。これにより、フェライトの体積率を得る。なお、ここで求めたフェライトの体積率には、未再結晶フェライトの体積率も含まれる。
【0045】
複数の視野を観察する場合、各視野で解析する面積はそれぞれ4.0×10-10m2以上とする。また、面積率の測定では、各視野においてポイントカウンティング法によって行い、圧延方向に平行に15本、同じく垂直に15本の線を引き、それらの線からなる225個の交点において組織を判別する。
【0046】
フェライトの平均結晶粒径:6.0~15.0μm
上記ミクロ組織において、フェライトの平均結晶粒径は6.0~15.0μmであると好ましい。フェライトの平均結晶粒径を6.0~15.0μmとすることで、高い引張強さと高い成形性の両方を得ることができる。
【0047】
以下に、フェライトの平均結晶粒径およびフェライトに占める未再結晶フェライトの割合の測定方法について説明する。
フェライトの体積率を測定した上述の各視野において、圧延方向に平行に最大15本、圧延方向に垂直に最大15本の直線を引き、直線の長さは合計で150μm以上とし、線分法によりフェライトの平均結晶粒径を求める。
【0048】
さらに、フェライトの体積率を測定した観察面と同じ観察面において、表面からt/8~3t/8(tは板厚)の領域において、1以上の視野にて、合計で4.0×10-8m2以上の面積に対し、FE-SEMによる電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron BackScatter Diffraction)を用いて、結晶方位の解析を行う。得られたbcc鉄の結晶方位マップから、方位差5.0度以上の境界を結晶粒界とみなし、更にその結晶粒内の結晶方位変動(GOS:Grain Orientation Spread)を求め、GOSが1.0度以上の結晶粒を未再結晶フェライトとみなしてその体積率を得る。得られた未再結晶フェライトの体積率をフェライトの体積率で除することで、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合を得る。結晶方位の解析には、例えばTSL社製のOIM Data CollectionおよびOIM Data Analysisを用いることができる。
【0049】
本実施形態におけるフェライトは、フェライトの(200)面のピークにおける半値幅w及びX線波長λ(wの単位はdegree、λの単位はÅ)が、式(2)(w×λ≧0.20)を満たす
フェライトの(200)面のピークにおける半値幅wおよびX線波長λが式(2)を満たすことで、所望の成形性およびBH性を得ることができる。上記半値幅wは、結晶粒界近傍に固溶C等が存在して結晶格子を歪ませる場合に値が大きくなる。一方、結晶粒界に粗大な炭化物が存在する場合には結晶格子を歪ませないため、上記半値幅wは大きくならない。本実施形態に係る鋼板は、結晶粒界近傍に固溶Cが多く存在するため、上記半値幅wが大きい。これにより、所望の成形性およびBH性を得ることができる。
【0050】
以下に、フェライトの(200)面のピークにおける半値幅wの測定方法について説明する。
鋼板から25mm×25mm×板厚の小片を切出し、試験片の板面を表面からt/4(tは板厚)の位置まで機械研磨する。次に、電解研磨を施して表層のひずみ部を除去して鏡面とし、その観察面に対してCu管球を用いたX線回折試験を行ってX線回折図形を得る。同図形から、bcc鉄(フェライト)の(200)面ピークを読み取り、半値幅wおよびピーク時の波長λを求めて式(2)の計算を行う。
【0051】
本実施形態に係る鋼板は、鋼板の片面又は両面に、亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層を有する鋼板であってもよい。また、本実施形態に係る鋼板は、亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層に合金化処理を施した合金化亜鉛めっき層又は合金化亜鉛合金めっき層を有する鋼板でもよい。
本実施形態に係る鋼板の片面又は両面に形成するめっき層は、亜鉛めっき層、又は、亜鉛を主成分とする亜鉛合金めっき層が好ましい。亜鉛合金めっき層は、合金成分として、Niを含むものが好ましい。
【0052】
亜鉛めっき層及び亜鉛合金めっき層は、溶融めっき法、電気めっき法、又は蒸着めっき法で形成する。亜鉛めっき層のAl含有量が0.5質量%以下であると、鋼板表面と亜鉛めっき層との密着性を確保することができるので、亜鉛めっき層のAl含有量は0.5質量%以下が好ましい。亜鉛めっき層が、溶融亜鉛めっき層の場合、鋼板表面と亜鉛めっき層との密着性を高めるため、溶融亜鉛めっき層のFe量は3.0質量%以下が好ましい。
亜鉛めっき層が、電気亜鉛めっき層の場合、めっき層のFe量は、耐食性の向上の点で、0.5質量%以下が好ましい。
【0053】
亜鉛めっき層及び亜鉛合金めっき層は、Al、Ag、B、Be、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cs、Cu、Ge、Hf、Zr、I、K、La、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Ni、Pb、Rb、Sb、Si、Sn、Sr、Ta、Ti、V、W、Zr、REMの1種又は2種以上を、鋼板の耐食性や成形性を阻害しない範囲で含有してもよい。特に、Ni、Al、Mgは、耐食性の向上に有効である。
【0054】
本実施形態に係る鋼板の表面の亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層は、合金化処理が施された、合金化亜鉛めっき層又は合金化亜鉛合金めっき層であってもよい。溶融亜鉛めっき層又は溶融亜鉛合金めっき層に合金化処理を施す場合、鋼板表面と合金化めっき層との密着性向上の観点から、合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)又は溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量を7.0~13.0質量%とすることが好ましい。溶融亜鉛めっき層又は溶融亜鉛合金めっき層を有する鋼板に合金化処理を施すことで、めっき層中にFeが取り込まれ、Fe含有量が増量する。これにより、Fe含有量を7.0質量%以上とすることができる。すなわち、Fe含有量が7.0質量%以上である亜鉛めっき層は、合金化亜鉛めっき層または合金化亜鉛合金めっき層である。
【0055】
合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)又は溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量は、次の方法により得ることができる。インヒビターを添加した5体積%HCl水溶液を用いてめっき層のみを溶解除去する。ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて、得られた溶解液中のFe含有量を測定することで、亜鉛めっき層中のFe含有量(質量%)を得る。
【0056】
本実施形態に係る鋼板の板厚は、特定の範囲に限定されないが、汎用性や製造性を考慮すると、0.2~5.0mmが好ましい。板厚を0.2mm以上とすることで、鋼板形状を平坦に維持することが容易になり、寸法精度および形状精度を向上することができる。そのため、板厚は0.2mm以上が好ましい。より好ましくは0.4mm以上である。
また、板厚を5.0mm以下とすることで、製造過程で、適正なひずみ付与および温度制御を容易に行うことができ、均質な組織を得ることができる。そのため、板厚は5.0mm以下が好ましい。より好ましくは4.5mm以下である。
【0057】
本実施形態に係る鋼板は、引張強さが270MPa以上であることが好ましい。より好ましくは300MPa以上である。上限は特に限定しないが、例えば500MPa以下とすればよい。
引張強さは、JIS Z 2241:2011に準拠して、5号試験片を作製し、引張軸を鋼板の圧延方向と垂直方向(C方向)として引張試験を行うことで、測定する。
【0058】
次に、本実施形態に係る鋼板の製造方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、製造方法に依らず、上記の特徴を有していればその効果が得られるが、以下の工程を含む製造方法によれば安定して製造できるので好ましい。以下の製造方法では、各工程を複合的且つ不可分に制御することで、所望の特徴を有する鋼板を製造することができる。
(I)所定の成分組成を有する鋼片を1200~1320℃に加熱し、熱間圧延完了温度が880℃以上となるように熱間圧延を完了し、熱間圧延完了温度~500℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程、
(II)前記熱延鋼板を、500~700℃の温度域まで加熱する再加熱工程、
(III)前記熱延鋼板を、室温まで冷却する冷却工程、
(IV)前記熱延鋼板を、合計圧下率が60~90%、冷間圧延完了温度が250℃以下となるように冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程、
(V)前記冷延鋼板を、700~850℃の焼鈍温度に加熱し、80℃以下の温度域まで冷却する焼鈍工程と、
(VI)前記冷延鋼板を、合計圧下率が0.05~2.00%となるように調質圧延する調質圧延工程。
以下、各工程について好ましい条件を説明する。
【0059】
<熱間圧延工程>
まず、上述した本実施形態に係る鋼板の成分組成を有する鋳片を1200~1320℃に加熱する。加熱温度が1200℃以上であると、炭化物を十分に溶解することができ、さらに以下に示す中間工程の条件を適切に制御することで、中間工程において意図せず粗大な炭化物が生成することを抑制できる。その結果、半値幅wおよびX線波長λを所望の範囲とすることができる。
また、鋼片の加熱温度が1320℃以下であると、粒径を細かくでき、金属組織の異方性を抑制できる。なお、加熱する鋳片は、製造コストの観点から連続鋳造によって生産することが好ましいが、その他の鋳造方法(例えば造塊法)で生産しても構わない。
【0060】
鋼片を加熱した後、熱間圧延完了温度が880℃以上となるように熱間圧延を施す。熱間圧延完了温度が880℃以上であると、単相域で圧延がなされるため、ミクロ組織の異方性を抑制できる。また、未再結晶フェライトの割合を低減することができる。そのため、熱間圧延完了温度は880℃以上とする。熱間圧延完了温度は、1050℃以下としてもよい。
【0061】
熱間圧延完了後は、熱間圧延完了温度~500℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように冷却する。これにより、熱延鋼板を得る。
熱間圧延完了温度~500℃までの平均冷却速度が20℃/s以上であると、粗大なTiおよび/またはNbの炭窒化物の生成を抑制でき、最終的に得られる鋼板において所望のミクロ組織が得られる。
平均冷却速度の上限は特に設定しないが、200℃/sを超える冷却速度を得るには特殊な冷媒を要するので、生産コストの観点から、平均冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。熱間圧延完了温度~500℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以上となるように冷却すれば、冷却を停止する温度は特に規定されない。
【0062】
なお、本実施形態における、平均冷却速度とは、設定する範囲の始点と終点との温度差を、始点から終点までの経過時間で除した値とする。
【0063】
<再加熱工程>
次に、得られた熱延鋼板を500~700℃の温度域まで加熱する。再加熱工程において、最高再加熱温度(再加熱工程における加熱温度の最大温度)が500~700℃であると、所望のミクロ組織を得ることができ、成形性およびBH性を確保できる。
【0064】
また、再加熱工程では、500~700℃の温度域における温度履歴は下記式(3)を満たす必要がある。下記式(3)において、K20は再加熱工程の500~700℃の前記温度域における温度履歴を時間に対して20等分した場合の、20番目の区間におけるTiおよび/またはNbの炭窒化物の析出の進行度合いを示す指標である。500~700℃の温度域における温度履歴が下記式(3)を満たすことにより、鋼中に微細なTiおよび/またはNbの炭窒化物を均一に析出させる。これにより、所望のミクロ組織を得ることができ、BH性を確保することができる。
【0065】
【0066】
上記式(3)において、tnおよびKnは、再加熱工程の500~700℃の温度域における温度履歴を時間に対して20等分し、そのn番目の区間における平均温度をTn[℃]として計算されるものである。ΔtKは同温度域における総滞在時間を20分割した時間[hr.]を表し、C、NbおよびTiはそれぞれの元素の含有量[質量%]を表す。但し、t1=ΔtKとする。log10は底が10の常用対数である。
【0067】
<冷却工程>
再加熱工程の後は、熱延鋼板を室温まで冷却する。この時の冷却速度は特に限定されず、冷却方法は空冷等が挙げられる。例えば、室温とは25℃であり、空冷時の平均冷却速度は10℃/s以下である。
【0068】
<冷間圧延工程>
次に、冷却後の熱延鋼板に対し、合計圧下率が60~90%、冷間圧延完了温度が250℃以下となるように冷間圧延を施す。これにより、冷延鋼板を得る。冷間圧延時の合計圧下率が60%以上であると、その後の熱処理における再結晶を十分に進行でき、未再結晶フェライトの残存を抑制でき、所望のミクロ組織を得ることができる。そのため、冷間圧延時の合計圧下率は60%以上とする。組織を微細化して強度-成形性バランスを高める観点から、合計圧下率は65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。また、冷間圧延における合計圧下率が90%以下であると、鋼板の異方性が高まることを抑制でき、また未再結晶フェライトの割合を低減することができ、成形性を確保できる。そのため、冷間圧延時の合計圧下率は90%以下とする。成形性をより高めるために、合計圧下率は85%以下が好ましい。
【0069】
冷間圧延において、鋼板の温度は加工発熱により上昇する。鋼板の温度が過剰に高まると、加工ひずみの蓄積が十分に進まず、再結晶の進行が阻害され、最終的に得られる鋼板に過剰な量の未再結晶フェライトが残存する。このため、冷間圧延の完了時点における鋼板の温度(冷間圧延完了温度)が250℃以下となるように、圧下率およびパス間時間を制御する。成形性の観点から、再結晶を効率的に進めるには、冷間圧延完了温度は200℃以下であることが好ましい。冷間圧延完了温度は、50℃以上としてもよい。圧延時の鋼板の割れをより抑制できるためである。
【0070】
<焼鈍工程>
[加熱過程]
続いて、冷間圧延後の冷延鋼板に熱処理(焼鈍)を施す。まず、冷延鋼板を700~850℃の焼鈍温度に加熱する。この加熱の際、700℃~焼鈍温度(700~850℃)の温度域の温度履歴は、下記式(4)を満たす必要がある。下記式(4)中のRiは、700℃~焼鈍温度の温度域における再結晶の進行度合いおよび結晶粒界に存在するTiおよび/またはNbの炭窒化物から結晶粒内へのCの拡散の進行度合いを示す指標である。700℃~焼鈍温度の温度域の温度履歴が下記式(4)を満たすように加熱を行うことで、フェライトの再結晶を促進させ、且つ結晶粒界に存在するTiおよび/またはNbの炭窒化物からCを粒内に拡散させる。この時、結晶粒内に存在する炭化物のCの拡散よりも、結晶粒界に存在する炭化物のCの拡散の方が、進行が速い。そのため、結晶粒界に存在するTiおよび/またはNbの炭窒化物のサイズが小さくなる。その結果、所望のミクロ組織を得ることができ、成形性およびBH性を確保することができる。
【0071】
【0072】
上記式(4)において、Rmは、焼鈍工程の加熱過程において700℃から焼鈍温度に到達するまでの間の鋼板の温度履歴を時間に対して10等分し、m番目の区間における平均温度をTm[℃]として計算されるものである。ΔtRは同温度域(700℃~焼鈍温度)における総滞在時間を10分割した時間[秒]を表し、K20は上記式(3)の値により得られる値である。また、AおよびBは定数項であり、Aは9.67×109であり、Bは1.25×104である。
【0073】
焼鈍工程における焼鈍温度は700℃以上とする。焼鈍温度が700℃以上であると、炭化物を十分に溶かすことができ、所望のミクロ組織を得ることができる。焼鈍温度は750℃以上であることが好ましく、780℃以上であることがより好ましい。また、焼鈍温度が850℃以下であると、炭化物が過剰に溶けること、およびその後の冷却過程での析出が速まることを抑制でき、十分なBH性を確保することができる。よって、焼鈍温度は850℃以下とする。フェライトの体積率を高めて成形性をより高める場合、焼鈍温度は830℃以下であることが好ましく、810℃以下であることがより好ましい。
【0074】
[保持過程]
焼鈍温度における保持時間、すなわち、加熱過程で700℃以上の焼鈍温度に到達してから、700~850℃の焼鈍温度での保持を経て再び700℃に到達するまでの時間は3秒以上とすることが好ましい。保持時間を3秒以上とすることで、炭化物を十分に溶かすことができ、成形性を確保することができる。保持時間は10秒以上とすることが好ましく、25秒以上とすることがより好ましい。保持時間の上限は特に設定しないが、200秒を超えて保持しても、鋼板のBH性への影響は小さいことから、生産コストを鑑みて200秒以下とすることが好ましい。
【0075】
[冷却過程]
焼鈍温度まで加熱し、保持時間を確保した後、冷却を施す。
冷却過程では、500~700℃の温度域において、温度履歴が下記式(5)を満たし、80~500℃の温度域において、20MPa以上の張力を付与しつつ曲げ加工を行う。
500~700℃の温度域における温度履歴が下記式(5)を満たす冷却を行うことで、加熱過程において結晶粒内に拡散したCの一部が結晶粒界のTiおよび/またはNbの炭窒化物に戻り、残りのCが固溶状態で結晶粒界に移動する。その結果、所望のミクロ組織を得ることができ、成形性およびBH性を確保することができる。下記式(5)中のPjは、700~500℃の温度域におけるCの析出の進行度合いを示す指標である。
【0076】
【0077】
上記式(5)中のPkは、焼鈍工程の冷却過程において、700℃に到達してから500℃に到達するまでの間の鋼板の温度履歴を時間に対して10等分し、k番目の区間における平均温度をTk[℃]として計算されるものである。ΔtPは同温度域における総滞在時間を10分割した時間[秒]を表す。R10は式(4)中のRmのmに10を代入して得られる値である。また、D、EおよびFは定数項であり、Dは4.47×104、Eは2.11×100であり、Fは1.25×104である。
【0078】
焼鈍工程の冷却過程において、500~700℃の温度域における温度履歴が上記式(5)を満たすように冷却を行った後は、結晶粒界にはTiおよび/またはNbの炭窒化物、並びに固溶Cが存在している。結晶粒界に固溶Cが存在すると、結晶粒界に存在する転位が固溶Cにより固定されるため、鋼板の降伏強度が高くなり、好ましくない。そこで、80~500℃の温度域において、20MPa以上の張力を付与しつつ曲げ加工を行うことで、結晶粒界に存在する固溶Cを転位と共に粒界近傍に移動させる。ただし、このままでは、移動した転位が固溶Cにより固定されているため、降伏強度が高い状態となる。曲げ加工としては、例えば、直径100~800mmの金属製ロールを用いて、ロール曲げ加工を行う方法が考えられる。
【0079】
<調質圧延工程>
上記の曲げ加工を行った後の冷延鋼板に対し、合計圧下率が0.05~2.00%となるように調質圧延を施す。調質圧延を行うことで、曲げ加工により粒界近傍に移動させた転位および固溶Cから、転位を移動させる。これにより、固溶Cを粒界近傍に存在させつつ、固溶Cを転位から外すことができる。そのため、所望のミクロ組織を得ることができ、その結果、所望のBH性および降伏強度を得ることができる。調質圧延の合計圧下率が0.05%以上であると、Cから転位を移動させることができ、十分なBH性を確保することができる。また、調質圧延の合計圧下率が2.00%以下であると、降伏強度が過剰に高まることを抑制できる。
【0080】
なお、本実施形態では、80~500℃の温度域において、曲げ加工を行いつつ、あるいは曲げ加工を行った後、鋼板に溶融亜鉛めっき処理あるいは溶融亜鉛合金めっき処理を施しても構わない。この際、めっき浴への浸漬前に鋼板を再加熱しても構わない。また、めっき処理後の鋼板を加熱し、めっき層の合金化処理を施しても構わない。
【0081】
焼鈍工程後の鋼板に電気めっき処理、または調質圧延前の鋼板に蒸着めっき処理を施し、鋼板の片面または両面に亜鉛めっき層を形成して、亜鉛めっき層を有する亜鉛めっき鋼板を製造してもよい。
焼鈍工程における雰囲気を制御し、鋼板の表面を改質しても構わない。例えば、脱炭雰囲気で加熱処理することで、鋼板表層部が適度に脱炭された曲げ性に優れる鋼板が得られる。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用する一条件例である。本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0083】
表1-1および表1-2に示す化学組成の溶鋼を鋳造して鋳片を製造した。次に、表2-1および表2-2に示す条件で熱間圧延を施した。まず、鋳片を表2-1および表2-2に記載の鋼片加熱温度まで加熱し、その後、表2-1および表2-2に記載の圧延完了温度までの温度域で熱間圧延を施した後、圧延完了温度から500℃まで表2-1および表2-2に記載の平均冷却速度で冷却することで熱延鋼板を得た。次に、表2-1および表2-2に示す条件で熱延鋼板を再加熱した。この再加熱工程における、500~700℃の温度域の温度履歴から求められるK20を表2-1および表2-2に記載した。このK20は、式(3)によって得ることができる。再加熱した後は、室温(25℃)まで10℃/s以下の平均冷却速度で冷却した。
【0084】
続いて、表3-1および表3-2に記載の圧延前板厚から圧延後板厚まで、表3-1および表3-2に記載の圧延完了温度となるように冷間圧延を施すことで、冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板に対して、表3-1および表3-2に記載の焼鈍を施した。焼鈍は、表3-1および表3-2に記載の焼鈍温度まで加熱して3~200秒間保持した(すなわち加熱過程で700℃以上の焼鈍温度に到達してから、700~850℃の焼鈍温度での保持を経て再び700℃に到達するまでの時間を3~200秒とした)後冷却した。80℃以下の温度域まで冷却する冷却過程では、表3-1および表3-2に記載の張力を付与しつつ曲げ加工を施した。その後、表3-1および表3-2に記載の合計圧延率で調質圧延を施すことで、鋼板を得た。
【0085】
焼鈍工程の冷却過程における曲げ加工では、実験例4~19では直径100mm、実験例39~54では直径800mm、それ以外の実験例では直径500mmの金属製ロールを用いて、ロール曲げ加工を行った。一部の鋼板には、焼鈍工程の冷却過程の80~500℃の温度域において、曲げ加工を行いつつ、あるいは曲げ加工を行った後に溶融亜鉛めっき処理あるいは溶融亜鉛合金めっき処理を施した。溶融亜鉛めっき処理あるいは溶融亜鉛合金めっき処理を施した鋼板は、必要に応じて合金化処理を施した。また、一部の鋼板には、焼鈍工程後の鋼板に対し、電気めっき処理または蒸着めっき処理を施した。
【0086】
なお、表3-1および表3-2のめっき処理はそれぞれ以下の通りである。
Zn合金:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却した後、溶融亜鉛合金浴に浸漬し、室温まで冷却することで亜鉛合金めっき鋼板を得る処理である。
合金化Zn合金:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却後に溶融亜鉛合金浴に浸漬し、更に580℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化亜鉛合金めっき鋼板を得る処理である。
GA:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却後に溶融亜鉛浴に浸漬し、更に560℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得る処理である。
GI:焼鈍工程において鋼板を500℃以下の温度域まで冷却した後、溶融亜鉛浴に浸漬し、室温まで冷却することで溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得る処理である。
蒸着:調質圧延後に蒸着めっき処理を施し、亜鉛めっき鋼板を得る処理である。
EG:焼鈍工程の後、電気亜鉛めっき処理を施し、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を得る処理である。
【0087】
表3-1および表3-2には、焼鈍温度まで加熱する加熱過程における、700~焼鈍温度の温度域の温度履歴から求められるΣRiを記載した。このΣRiは、式(4)によって得ることができる。また、表3-1および表3-2には、焼鈍温度からの冷却する冷却過程における、500~700℃の温度域の温度履歴から求められるR10・ΣPjを記載した。このR10・ΣPjは、式(5)によって得ることができる。
【0088】
表4-1および表4-2に、表1-1~表3-2に記載の製造条件によって得られた鋼板の特徴を示す。上述の方法により行った組織観察の結果として、表4-1および表4-2にフェライトの体積率、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合およびフェライトの平均結晶粒径を示す。また、上述の方法により行ったX線回折試験の結果としてw×λ(単位は「degree×Å」)を示す。なお、フェライトに占める未再結晶フェライトの割合は、TSL社製のOIM Data CollectionおよびOIM Data Analysisを用いて測定した。なお、鋼板の板厚は、表3-1および表3-2の圧延後板厚と同じ値であった。
【0089】
合金化処理を施した鋼板については、上述の方法により合金化処理後の溶融亜鉛めっき層(合金化亜鉛めっき層)又は溶融亜鉛合金めっき層(合金化亜鉛合金めっき層)のFe含有量を測定した。
【0090】
なお、表4-1および表4-2のめっき層はそれぞれ以下の通りである。
Zn合金:亜鉛合金めっき層
合金化Zn合金:合金化亜鉛合金めっき層
GA:溶融亜鉛浴に浸漬した後、合金化処理を施すことで形成された合金化溶融亜鉛めっき層
GI:溶融亜鉛浴に浸漬して形成された溶融亜鉛めっき層
蒸着:蒸着めっき処理により形成された亜鉛めっき層
EG:電気亜鉛めっき処理により形成された亜鉛めっき層
【0091】
表4-1および表4-2に、表1-1~表3-2の製造条件によって得られた鋼板の特性を示す。降伏強度および最大引張強さは引張試験を行うことで得た。引張試験は、JIS Z 2241:2011に準拠して、5号試験片を作製し、引張軸を鋼板の圧延方向として行った。得られた降伏強度(YS:Yield Strength)が180MPa以下、かつ、降伏強度を最大引張強さ(TS:Tensile Strength)で除した値である降伏比(YR:Yield Ratio)が0.50以下となる鋼板を、成形性が良好であるとして合格と判定した。降伏強度が180MPa超または降伏比が0.50超である場合を成形性が不良であるとして不合格と判定した。
【0092】
更に、上記引張試験と同様の方法で試験片を採取し、この試験片に対して10%の引張塑性ひずみを付与した。10%の引張塑性ひずみを付与した後に除荷して、同試験片を170℃に加熱したソルトバスに20分間浸漬した後、室温まで冷却する焼付処理を施した。その後、同試験片を引張試験に供して降伏強度を得た。得られた降伏強度と、10%引張塑性ひずみを付与した際に得られた最大応力との差(ΔBH=焼付処理後の降伏強度-10%引張塑性ひずみを付与した際の最大応力)を算出した。ΔBHが20MPa以上である鋼板を、焼付硬化性(BH性)が良好であるとして合格と判定した。一方、ΔBHが20MPa未満である場合をBH性が不良であるとして不合格と判定した。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
表1-1および表1-2に示すA~AHの鋼のうち、表1-2のAA~AHの鋼は本発明に定める成分組成の範囲を逸脱した比較例である。
【0102】
AA鋼は、C含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例65の鋼板は、降伏強度および降伏比が高くなった。
【0103】
AB鋼は、成分組成において、式(1)の中辺の値が本発明の範囲よりも小さかった。本鋼を用いて得られた実験例66の鋼板は、降伏比が高く、十分な焼付硬化性(BH性)が得られなかった。
【0104】
AC鋼は、成分組成において、式(1)の中辺の値が本発明の範囲よりも大きかった。本鋼を用いて得られた実験例67の鋼板は、未再結晶フェライトが過剰に残存して、降伏強度および降伏比が過度に高くなった。
【0105】
AD鋼は、Ti含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例68の鋼板は、未再結晶フェライトが過剰に残存して、降伏強度および降伏比が過度に高くなった。
【0106】
AE鋼は、Nb含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例69の鋼板は、未再結晶フェライトが過剰に残存して、降伏強度および降伏比が過度に高くなった。
【0107】
AF鋼は、Si含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例70の鋼板は、降伏強度および降伏比が過度に高くなった。
【0108】
AG鋼は、Mn含有量が本発明の範囲よりも高かった。本鋼を用いて得られた実験例71の鋼板は、フェライトの体積率が不足し、降伏強度および降伏比が高くなった。
【0109】
AH鋼は、TiおよびNbの両方を含まなかった。本鋼を用いて得られた実験例72の鋼板は、降伏強度および降伏比が高く、十分な焼付硬化性(BH性)が得られなかった。
【0110】
実験例7、47、53および62は、熱間圧延工程の条件が本発明の範囲を逸脱した比較例である。
【0111】
実験例47および62は、熱間圧延工程における鋳片の加熱温度が低く、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0112】
実験例7は、熱間圧延工程における圧延完了温度が低く、未再結晶フェライトが過剰に残存したため、降伏強度および降伏比が過度に高くなった比較例である。
【0113】
実験例53は、熱間圧延工程における熱間圧延完了温度~500℃の温度域の平均冷却速度が小さく、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0114】
実験例16、29、58および64は、再加熱工程の条件が本発明の範囲を逸脱した比較例である。
【0115】
実験例29は、再加熱工程における最高再加熱温度が高く、w×λの値が小さくなったため、降伏比が過度に高くなり、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0116】
実験例58は、再加熱工程における最高再加熱温度が低く、w×λの値が小さくなったため、降伏比が高くなり、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0117】
実験例16および64は、再加熱工程における温度履歴が式(3)を満たさず(K20が低く)、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0118】
実験例6、15および28は、冷間圧延工程の条件が本発明の範囲を逸脱する比較例である。
【0119】
実験例6は、冷間圧延工程における合計圧下率が高く、未再結晶フェライトが過剰に残存したため、降伏強度および降伏比が高くなった比較例である。
【0120】
実験例15は、冷間圧延工程における合計圧下率が低く、未再結晶フェライトが過剰に残存したため、降伏強度および降伏比が高くなった比較例である。
【0121】
実験例28は、冷間圧延工程における圧延完了温度が高く、未再結晶フェライトが過剰に残存したため、降伏強度および降伏比が高くなった比較例である。
【0122】
実験例2、27、33、40、46、51、56および61は、焼鈍工程の条件が本発明の範囲を逸脱した比較例である。
【0123】
実験例61は、焼鈍工程の保持過程における焼鈍温度が高く、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0124】
実験例46は、焼鈍工程の保持過程における焼鈍温度が低く、未再結晶フェライトが過剰に残存し、またw×λの値が小さくなったため、降伏強度および降伏比が高くなり、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0125】
実験例56は、焼鈍工程の加熱過程における温度履歴が式(4)を満たさず、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0126】
実験例2は、焼鈍工程の加熱過程における温度履歴が式(4)を満たさず、未再結晶フェライトが過剰に残存し、またw×λの値が小さくなったため、降伏強度および降伏比が高くなり、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0127】
実験例33は、焼鈍工程の冷却過程における温度履歴が式(5)を満たさず、w×λの値が小さくなり、降伏比が高く、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0128】
実験例51は、焼鈍工程の冷却過程における温度履歴が式(5)を満たさず、フェライト以外の組織が過剰に生成し、降伏強度および降伏比が高くなった比較例である。
【0129】
実験例27は、焼鈍工程の冷却過程における、80~500℃の温度域において曲げ加工を施さず、w×λの値が小さくなったため、降伏比が高くなり、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0130】
実験例40は、焼鈍工程の冷却過程における、80~500℃の温度域において十分な張力を付与せずに曲げ加工を施し、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0131】
実験例11および43は、調質圧延工程の条件が本発明の範囲を逸脱した比較例である。
【0132】
実験例43は、調質圧延工程における調質圧延の合計圧下率が大きく、未再結晶フェライトが過剰に残存し、またw×λの値が小さくなったため、降伏強度および降伏比が高くなり、また十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0133】
実験例11は、調質圧延工程における調質圧延の合計圧下率が小さく、w×λの値が小さくなったため、十分な焼付硬化性が得られなかった比較例である。
【0134】
上記の比較例を除く実験例が、本発明における実施例である。実施例として記載する鋼板は、本発明の製造条件を満足する製造方法により製造することで、降伏強度を低減でき、かつ、高ひずみ域での高い焼付硬化性を有することが分かる。
【0135】
実験例4、5、8、9、12、18、21、24、26、31、35、37、38、41、45、48、50、52、55、57、60および63は、めっき処理を施すことで本発明のめっき鋼板を得た実施例である。
【0136】
実験例8、21、24、41、45および50は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却した後、溶融亜鉛浴に浸漬し、室温まで冷却することで溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得た実施例である。
【0137】
実験例5、18、26、35、37、48、52、55、57および60は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却後に溶融亜鉛浴に浸漬し、更に560℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た実施例である。
【0138】
実験例4、38は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却後に溶融亜鉛合金浴に浸漬し、室温まで冷却することで亜鉛合金めっき鋼板を得た実施例である。
【0139】
実験例9は、焼鈍工程において鋼板を500℃まで冷却した後、溶融亜鉛合金浴に浸漬し、更に580℃まで再加熱する合金化処理を施してから、室温まで冷却することで合金化亜鉛合金めっき鋼板を得た実施例である。
【0140】
実験例12は、調質圧延後に蒸着めっき処理を施し、亜鉛めっき鋼板を得た実施例である。
【0141】
実験例31および63は、焼鈍工程の後、電気亜鉛めっき処理を施し、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を得た実施例である。
【産業上の利用可能性】
【0142】
前述したように、本発明によれば、成形性及びBH性に優れた鋼板を提供することができる。本発明の鋼板は、自動車の大幅な軽量化と、搭乗者の保護・安全の確保に好適な鋼板であるので、本発明は、鋼板製造産業及び自動車産業において利用可能性が高い。