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特許7303475熱間プレス成形品の製造方法及び熱間プレス成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】熱間プレス成形品の製造方法及び熱間プレス成形品
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20230628BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230628BHJP
   B21D 37/01 20060101ALI20230628BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230628BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20230628BHJP
   C22C 38/32 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
B21D22/20 H
B21D22/20 G
C23C28/00 A
B21D37/01
C22C38/00 301T
C22C21/02
C22C38/32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022517045
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021015950
(87)【国際公開番号】W WO2021215418
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020074701
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 宗士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優貴
(72)【発明者】
【氏名】布田 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】入川 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/198728(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
C23C 28/00
B21D 37/01
C22C 38/00
C22C 21/02
C22C 38/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alめっき鋼板を、850℃~1000℃に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、ダイ金型を用いて前記Alめっき鋼板を成形して熱間プレス成形品を得る成形工程と、
を有し、
前記Alめっき鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されたAlめっき層と、
前記Alめっき層の表面に形成された被覆層と、
を有し、
前記被覆層は、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属を含む金属層、Mg、Ca、V、Ti、Znの1種以上の酸化物を含む金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層とを含む混合層であり、
前記ダイ金型は、表面に硬質層を有し、前記硬質層を有する位置での前記ダイ金型の表面硬さであるHVDieがHV1500以上HV3800以下であり、
前記成形工程の、成形開始時の前記Alめっき鋼板の温度を単位℃でTm、前記成形開始時から下死点到達時までの前記ダイ金型の平均移動速度を単位mm/sでVとしたとき、前記Tmと前記Vとが下記(1)式を満足する、
ことを特徴とする、熱間プレス成形品の製造方法。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/4)-(HVDie/100) ・・・(1)式
【請求項2】
前記HVDie、前記Tm、及び前記Vが、以下(2)式を満足することを特徴とする、請求項1に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/2)-(HVDie/50) ・・・(2)式
【請求項3】
前記被覆層の厚みが、0.3~10.0μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形開始時の前記ダイ金型の表面温度が、5℃以上180℃以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
【請求項5】
Alめっき層を有するAlめっき鋼板からなり、表面における、JIS Z 8741:1997に規定される光沢度であるGs60°が30以下であることを特徴とする、熱間プレス成形品。
【請求項6】
前記Gs60°が25以下であることを特徴とする、請求項5に記載の熱間プレス成形品。
【請求項7】
前記Alめっき層の表面に被覆層を有し、前記被覆層はMg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属からなる金属層、またはMg、Ca、V、Ti、Znの1種以上の酸化物からなる金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層とからなる混合層であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の熱間プレス成形品。
【請求項8】
前記被覆層の厚みが、0.3~10.0μmであることを特徴とする、請求項7に記載の熱間プレス成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス成形品の製造方法及び熱間プレス成形品に関する。
本願は、2020年04月20日に、日本に出願された特願2020-074701号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護及び地球温暖化の防止のために、化学燃料の消費を抑制することが要請されている。このような要請は、例えば、移動手段として日々の生活や活動に欠かせない自動車についても例外ではない。このような要請に対し、自動車では、車体の軽量化などによる燃費の向上等が検討されている。自動車の構造の多くは、鉄、特に鋼板により形成されているので、この鋼板を薄くして重量を低減することが、車体の軽量化にとって効果が大きい。しかしながら、単純に鋼板の厚みを薄くして鋼板の重量を低減すると、構造物としての強度が低下し、安全性が低下することが懸念される。そのため、鋼板の厚みを薄くするためには、構造物の強度を低下させないように、使用される鋼板の機械的強度を高くすることが求められる。
よって、鋼板の機械的強度を高めることにより、以前使用されていた鋼板より薄くしても機械的強度を維持又は高めることが可能な鋼板について、研究開発が行われている。このような鋼板に対する要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様になされている。
【0003】
一般的に、高い機械的強度を有する材料は、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低い傾向にあり、複雑な形状に加工する場合、加工そのものが困難となる。この成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「熱間プレス方法(ホットプレス法、ホットスタンプ法、高温プレス法、温間プレス法、ダイクエンチ法とも呼ばれる)」が挙げられる。この熱間プレス方法では、成形対象である材料を一旦高温(例えば850℃以上)に加熱してオーステナイト化し、加熱により軟化した材料に対してプレス加工を行って成形した後に、または成形と同時に、金型で急速に冷却することでマルテンサイト変態させることで、成形後に高強度の加工品を得ることができる。
【0004】
この熱間プレス方法によれば、材料を一旦高温に加熱して軟化させ、材料が軟化した状態でプレス加工するので、材料を容易にプレス加工することができる。従って、この熱間プレス加工により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを両立したプレス成形品が得られる。特に材料が鋼の場合、成形後の冷却による焼入れ効果により、プレス成形品の機械的強度を高めることができる。
【0005】
しかしながら、この熱間プレス方法を鋼板に適用した場合、例えば800~850℃以上の高温に加熱することにより、表面の鉄などが酸化してスケール(酸化物)が生成する。従って、熱間プレス加工を行った後に、このスケールを除去する工程(デスケーリング工程)が必要となり、生産性が低下する。また、耐食性を必要とする部材等では、加工後に部材表面へ防錆処理や金属被覆をする必要があるので、表面清浄化工程、表面処理工程が必要となり、やはり生産性が低下する。
【0006】
このような生産性の低下を抑制する方法の例として、鋼板に被覆を施す方法が挙げられる。一般に、鋼板上の被覆としては、有機系材料や無機系材料など様々な材料が使用される。なかでも鋼板に対しては、その防食性能と鋼板生産技術との観点から、犠牲防食作用のある亜鉛系めっきが、多く適用されている。一方で、熱間プレス加工における加熱温度は、焼き入れ効果を得るために鋼のAc3変態点より高い温度で行われることが多く、例えば加熱温度は800~1000℃程度である。しかしながら、この加熱温度は有機系材料の分解温度やZn系などの金属材料の沸点などよりも高い。このため、有機系材料やZn系の金属材料を被覆した鋼板を熱間プレスのために加熱する場合、鋼板の表面のめっき層が蒸発し、表面性状の著しい劣化の原因となる場合がある。
【0007】
このような表面性状の劣化を回避する場合、高温に加熱する熱間プレス加工を行う鋼板に対しては、例えば、有機系材料被覆やZn系の金属被覆に比べて沸点が高いAl系の金属を被覆することが好ましい。
Al系の金属被覆を施した鋼板、いわゆるAlめっき鋼板を用いることにより、鋼板表面にスケールが付着することを防止でき、デスケーリング工程などの工程が不要となるため生産性が向上する。また、Al系の金属被覆には防錆効果もあるので塗装後の耐食性も向上する。
【0008】
例えば特許文献1には、Al系の金属被覆を所定の鋼成分を有する鋼に施したAlめっき鋼板を、熱間プレス加工に用いる方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、従来の熱間プレス成形用のAlめっき鋼板(鋼板の両面にAlめっき層が設けられためっき鋼板)を熱間プレス成形すると、Alめっき層の表面のAl合金めっき層やその表面に形成される酸化膜(アルミナ)が硬質であるため、ダイ金型(Die)の表面が摩耗し、その結果、特にダイ金型の形状が変形することが問題となる場合があった。
【0010】
このような課題に対し、特許文献2には、めっき鋼板本体のAlめっき層側の面上に亜鉛系金属石鹸被膜が設けられた熱間プレス用めっき鋼板が開示されている。特許文献2では、熱間プレス成形したときの熱間プレス用金型(ダイ金型)の摺動面の摩耗の発生が抑制されると開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献2の技術では、熱間で成形中に材料とダイ金型とが擦れて金属石鹸皮膜の一部が剥がれることで金型に摩耗が発生し、熱間プレスを何度も続けていくと摩耗した金型の表面凹凸が増える場合があった。この場合、プレス成形後の材料側にカジリを生じる課題や摺動性が低下するなどの課題があった。
【0012】
このような課題に対し、近年、ダイ金型の素材の表面に、窒化処理やPVD処理といった硬質層を形成する処理を施し、金型の耐摩耗性を上げることが検討されている。
例えば、特許文献3には、亜鉛めっき鋼板の熱間プレスに用いられる金型に硬質皮膜が施された技術が開示されている。また、特許文献4、5及び6にはアルミニウムや亜鉛のめっき鋼板、またはAlめっき層の上に最表層として亜鉛化合物や金属亜鉛層を有するAlめっき鋼板の熱間プレスにおいて、窒化物などの硬質なPVD皮膜が施されたダイ金型を利用する技術が開示されている。
一方で、自動車等に用いられるプレス成形品には、光沢度が低く美麗な外観を有することも求められる。光沢度が高いと成形品に疵が多いと見なされ、耐食性の低下などを招く心配があるからである。しかしながら、ホットスタンプにおいては、通常、縦壁部は金型と擦られて光沢度が増加し、外観の品質が低下する。特許文献3~6に記載された金型の表面に窒化層やPVDなどの硬質皮膜が施された金型を用いる技術を利用した場合、金型の表面が硬質であるため材料表面が疵を受け易いという課題がある。特に、ホットスタンプなどの熱間プレス方法を用いる場合、材料は高温の状態で速やかに下死点までプレス成形されるので、材料表面は高温軟化した状態であり、より一層金型によって材料表面が疵を受け易く、プレス成形品の表面外観が損なわれることが課題であった。
【0013】
すなわち、従来、Alめっき鋼板を熱間プレスして成形品(熱間プレス成形品)を製造するに際し、成形品の優れた表面外観(低い光沢度)を確保した上で、金型の摩耗を抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】日本国特許3931251号公報
【文献】日本国特許第6369659号公報
【文献】日本国特許第6055324号公報
【文献】日本国特許第6477867号公報
【文献】日本国特許第6125313号公報
【文献】国際公開第2019-198728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記の課題に鑑みてなされた。
本発明は、金型の摩耗を抑制しつつ、表面外観(外観)に優れた熱間プレス成形品を得るための、熱間プレス成形品の製造方法と、表面外観に優れた熱間プレス成形品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らが検討を行った結果、金型(ダイ金型)の耐摩耗性を高めるために硬質層が表面に形成された金型を用いてAlめっき鋼板を熱間プレスする際、成形開始時(移動するダイ金型が、Alめっき鋼板に接触した時)の前記Alめっき鋼板の温度を単位℃でTm、成形開始時から下死点到達時(前記ダイ金型が下死点に到達した時)までの前記ダイ金型の平均移動速度(いわゆる成形速度)を単位mm/sでVとしたとき、前記Tmと前記Vとが下記(1)式を満足し、
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/4)-(HVDie/100) ・・・(1)式、
さらに、成形に供するAlめっき鋼板の表面に、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属を含む金属層または、Mg、Ca、V、Ti、Znの酸化物を含む金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層との混合層を形成することで、成形品の光沢を低く抑えることができ、表面外観に優れた熱間プレス成形品を得られることが分かった。
この(1)式は、金型の表面に耐摩耗性を高める硬質層がある場合において、表面外観に優れた熱間プレス成形品を得るためには、その硬質層の硬さに応じた、成形開始温度、ダイ金型の平均移動速度の制御が重要であることを意味する。
成形開始温度の上限を定めたTm≦850-(V/4)-(HVDie/100)の式は、1)Alめっき鋼板の表面の硬さは温度が高くなることで徐々に軟化し疵を受け易くなるため、成形開始温度をある一定の温度以下に抑制することが重要であること、2)Alめっき鋼板は、成形時、ダイ金型との接触によって抜熱され冷却されるが、成形速度が速いと抜熱が抑制されるので、成形開始温度が同等であっても、成形速度が速いほどAlめっき鋼板の表面はより軟化した状態で加工されることになるので、成形速度に応じて成形開始温度を低くする必要があること、3)その疵の受け易さは、金型表面の硬質層の硬度の影響を受けるので、金型の表面の硬度が高いほど、成形開始温度を低くする必要があること、を意味している。
また、成形開始温度の下限を定めた800-(HVDie/40)≦Tmの式は、成形開始温度が低ければAlめっき鋼板の表面が硬くなり、金型側を疵付け易くなり、金型の耐摩耗性が低下することを意味している。金型の耐摩耗性が低下すれば、金型が受けた疵で金型表面に凹凸が生じ、結果として金型の凸による局部的な応力集中で熱間プレス成形品の表面が疵付けられ、表面外観が低下する。
(1)式中の係数(1/4、1/40、1/100)は、これまでの発明者らの経験と新たに得られた実験結果等とから導出された、ビッカース硬さや成形速度の影響を温度に換算するため値である。
【0017】
本発明は上記の知見に基づいてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る熱間プレス成形品の製造方法は、Alめっき鋼板を、850℃~1000℃に加熱する加熱工程と、前記加熱工程後、ダイ金型を用いて前記Alめっき鋼板を成形して熱間プレス成形品を得る成形工程と、を有し、前記Alめっき鋼板は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に形成されたAlめっき層と、前記Alめっき層の表面に形成された被覆層と、を有し、前記被覆層は、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属を含む金属層、Mg、Ca、V、Ti、Znの1種以上の酸化物を含む金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層とを含む混合層であり、前記ダイ金型は、表面に硬質層を有し、前記硬質層を有する位置での前記ダイ金型の表面硬さであるHVDieがHV1500以上HV3800以下であり、前記成形工程の、成形開始時の前記Alめっき鋼板の温度を単位℃でTm、前記成形開始時から下死点到達時までの前記ダイ金型の平均移動速度を単位mm/sでVとしたとき、前記Tmと前記Vとが下記(1)式を満足する。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/4)-(HVDie/100) ・・・(1)式
[2]上記[1]に記載の熱間プレス成形品の製造方法は、前記HVDie、前記Tm、及び前記Vが、以下(2)式を満足してもよい。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/2)-(HVDie/50) ・・・(2)式
[3]上記[1]または[2]に記載の熱間プレス成形品の製造方法は、前記被覆層の厚みが、0.3~10.0μmであってもよい。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱間プレス成形品の製造方法は、前記成形開始時の前記ダイ金型の表面温度が、5℃以上180℃以下であってもよい。
[5]本発明の別の態様に係る熱間プレス成形品は、Alめっき層を有するAlめっき鋼板からなり、表面における、JIS Z 8741:1997に規定される光沢度であるGs60°が30以下である。
[6]上記[5]に記載の熱間プレス成形品は、前記Gs60°が25以下であってもよい。
[7]上記[5]または[6]に記載の熱間プレス成形品は、前記Alめっき層の表面に被覆層を有し、前記被覆層はMg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属からなる金属層、またはMg、Ca、V、Ti、Znの1種以上の酸化物からなる金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層とからなる混合層であってもよい。
[8]上記[7]に記載の熱間プレス成形品は、前記被覆層の厚みが、0.3~10.0μmであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記態様によれば、金型の摩耗を抑制しつつ、表面外観に優れた熱間プレス成形品を得るための、熱間プレス成形品の製造方法と、表面外観に優れた熱間プレス成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法で用いるAlめっき鋼板の模式図である。
図2】熱間プレス成形品の表面外観の評価装置を示す図である。
図3図2の評価装置で試験した熱間成形品の摺動部の外観と、光沢度の測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法(本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法)及び本発明の一実施形態に係る熱間プレス成形品(本実施形態に係る熱間プレス成形品)について説明する。
【0021】
<熱間プレス成形品の製造方法>
本発明者らは、Alめっき(アルミめっき)鋼板が熱間プレス法によって加熱され、直後にプレス成形されるプロセスの場合に、めっきが疵付いて熱間プレス成形品の光沢度が高くなる原因を調査した。その結果、以下の4点が原因であることを突き止めた。
1)加熱後に、Alめっき表面にAlめっき層と母材が合金化反応することで形成される硬質なAl-Fe系の合金層及び/または硬質な酸化アルミが、プレス成形時にAlめっき鋼板の表面と金型とが擦られることで剥がれ、剥がれた合金層と酸化アルミが研磨粉の様に働き、Alめっき鋼板の表面のめっきを強く疵付けること、
2)硬質皮膜を施した金型表面において、硬さが低ければ金型が摩耗し、高ければ逆に金型により擦れたアルミめっき鋼板の表面(例えば縦壁部において)が疵付くこと、
3)加熱直後にプレス成形される場合において、成形開始の温度が高いとアルミめっきが軟質化するため、金型に擦られることでアルミめっき鋼板表面が疵を受けやすくなること、
4)プレス成形される場合において、成形開始後の成形中、アルミめっき鋼板の温度は接触した金型によって抜熱され、アルミめっき鋼板の温度は低下するが、成形速度が速い場合には抜熱が抑制され、アルミめっき鋼板の温度が高温をより維持された状態で金型と擦れ、より一層アルミめっき鋼板の表面が疵を受け易いこと。
本発明者らは、この知見に基づいて、Alめっき表面を、硬度の低い金属、または硬度の低い金属酸化物の層で覆うこと、成形温度T(℃)、成形速度V(mm/s)が、金型の表面硬さHVDieに対して、所定の関係を満足すること、によって課題を解決できることを見出した。
【0022】
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法は、Alめっき鋼板を、850℃~1000℃に加熱する加熱工程と、前記加熱工程後、ダイ金型を用いて前記Alめっき鋼板を成形して熱間プレス成形品を得る成形工程と、を有する。成形工程は、加熱炉を出て例えば30秒以内に、行う。
また、前記Alめっき鋼板は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に形成されたAlめっき層と、前記Alめっき層の表面に形成された被覆層と、を有し、前記被覆層は、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属を含む金属層または、Mg、Ca、V、Ti、Znの1種以上の酸化物を含む金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層とを含む混合層である。
また、前記ダイ金型は、Alめっき鋼板と成形工程で接する金型表面に硬質層を有し、前記硬質層を有する位置での前記ダイ金型の表面硬さであるHVDieがHV1500以上HV3800以下である。
また、成形工程の、成形開始時の前記Alめっき鋼板の温度(成形温度)を単位℃でTm、成形開始から下死点までの前記ダイ金型の平均移動速度(成形速度)を単位mm/sでVとしたとき、前記Tmと前記Vとが下記(1)式を満足する。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/4)-(HVDie)/100 ・・・(1)式
【0023】
プレス成形では、鋼板がダイ金型のダイ穴に引き込まれて成形される。ダイ穴の縁(ダイ肩部、R部とも呼ぶ)がダイ穴の外側に向かって張り出して湾曲している場合、鋼板はダイ穴に引き込まれる際、縮みフランジ変形する。
絞り成形の場合、縮みフランジ変形では鋼板がダイ穴の縁(ダイ肩部)に近づくに従い厚みが増加する。鋼板の厚みが増加すると、鋼板に高い面圧が付与される。
曲げ成形の場合、縮みフランジ変形では鋼板がダイ穴の縁(ダイ肩部)に近づくに従い、鋼板にしわが発生する。鋼板にしわが発生すると、ダイ穴の近傍でしわになった鋼板がダイ金型に接触し、接触した箇所が高面圧になる。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法において、熱間プレス成形では、例えば、必要に応じてブランキング(打ち抜き加工)した後、高温に加熱してめっき鋼板を軟化させる。そして、金型を用いて、軟化しためっき鋼板を成形温度Tm℃、成形速度Vmm/sでプレスして成形し、その後、金型で保持することによる抜熱によって急速冷却する。このように、熱間プレス成形では、めっき鋼板を一旦軟化させることにより、後続するプレスを容易に行うことができる。また、熱間プレス成形されたプレス成形品は、加熱及び冷却により焼入れされ、ビッカース硬さでHV400以上(荷重1kg-f(9.8N))の高い硬度を有する成形品となる。
【0024】
[加熱工程]
加熱工程では、Alめっき鋼板を、850℃~1000℃に加熱する。加熱温度を母材鋼板のAc3点以上である850℃以上にすることで、Alめっき鋼板(の母材部)をオーステナイト化させ、次工程の成形工程において成形性を高めることができる。また、Alめっき鋼板を850℃以上に加熱すると、その直後に金型で急速冷却することによって母材鋼板をマルテンサイト変態させることができ、その結果、熱間プレス成形品として高い引張強さを得ることが出来る。金型で急速冷却する前に鋼板温度が下がってしまうと、オーステナイトからフェライトへの変態が進んでしまい、金型で急速冷却しても所望のマルテンサイト変態が得られない。更に、850℃以上に加熱することは、Alめっき鋼板のAlめっき層と母材鋼板との合金化反応を十分進行させ、硬質で耐疵付き性に良好なAl-Fe系合金層を表面に形成させることにも寄与する。加熱温度が850℃未満では金型での冷却前にフェライト変態が開始し、成形品では十分な硬度が得られない場合がある。そのため、加熱温度を850℃以上とする。鋼板温度を成形工程でも高温で保つため、加熱温度は、好ましくは890℃以上、より好ましくは910℃以上、更に好ましくは925℃以上である。
一方、加熱温度が1000℃超になると、アルミめっき(Alめっき)表面の酸化が進み過ぎて金型の摩耗が増加する。また、高温でプレス成形することにも繋がり、めっき表面が軟質になって材料側も金型から疵を受け易くなる。そのため、加熱温度を1000℃以下とする。加熱温度は、好ましくは980℃以下、より好ましくは960℃以下である。
加熱方法としては、通常の電気炉、ラジアントチューブ炉による輻射加熱に加え、赤外線加熱、通電加熱、誘導加熱等による加熱方法を採用することが可能である。加熱は大気雰囲気、窒素雰囲気、燃焼ガス雰囲気で行われ、雰囲気の露点は特段限定されないが、加熱雰囲気は酸素を10体積%以上含有することが好ましい。酸素を10体積%以上含有することで、Alめっき表面上の被覆層の蒸発を抑制することができる。より好ましくは、大気雰囲気と同じ20体積%もしくはそれ以上である。
加熱による昇温速度は、7.0℃/s以下が好ましい。本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法では、加熱するAlめっき鋼板において、Alめっき層の表面に形成された被覆層として、Alの沸点(化学便覧改訂2版・基礎編I(著者:日本化学会、出版社:丸善株式会社、出版日1975年);2467℃)よりも比較的低いZn(同:沸点907℃)や、Mg(同:沸点1107℃)、Ca(同:沸点1487℃)を含む場合がある。そのため、急激な昇温によって被覆層の蒸発が促進され、プレス後の部品外観が低下する可能性がある。昇温速度を7.0℃/s以下にすることで雰囲気中の酸素により被覆層は酸化され、過度な蒸発が抑制される。昇温速度は、6.0℃/s以下にすることがより好ましい。
昇温速度(℃/s)の求め方としては、鋼板にK型熱電対をスポット溶接して繋げ、加熱初期の温度Ts(℃)から850℃に到達するまでの板温を測定し、加熱開始後に板温Tsから850℃までに到達するまでの時間t(秒)で、除することで求められる。式としては、(850-Ts)/tで昇温速度が求まる。
【0025】
(Alめっき鋼板)
加熱工程に供されるAlめっき鋼板は、母材鋼板と、母材鋼板の表面に形成されたAlめっき層と、Alめっき層の表面に形成された被覆層とを有する。この被覆層は、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属を含む金属層または、Mg、Ca、V、Ti、Znの1種以上の酸化物を含む金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層とを含む混合層である。
具体的には、例えば、図1に示されるように、Alめっき鋼板1は、母材鋼板2の両面(上面及び下面)にAlめっき層3A,3Bを備え、かつAlめっき層3A,3Bそれぞれの上に最表層として被覆層(金属層、金属酸化物層またはそれらの混合層)4A,4Bを備える。
【0026】
母材鋼板2(めっき前の鋼板)は、例えば、高い機械的強度(例えば、引張強さ、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値、疲れ強さ、クリープ強さなどの機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味する。)を有する鋼板が好ましい。本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法で用いられるAlめっき鋼板1において、母材鋼板2の化学組成は限定されないが、高い機械的強度を実現する場合、好ましい母材鋼板2の化学組成の一例は、以下の通りである。以下、化学組成に関する%の表記は、特に断りがない場合は質量%を意味する。
すなわち、母材鋼板2の化学組成は、例えば、質量%で、C:0.18%以上0.50%以下、Si:2.00%以下、Mn:0.30%以上5.00%以下、Cr:2.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、N:0.0100%以下、Al:0.500%以下、B:0.0002%以上0.0100%以下、を含有し、必要に応じてさらに、W:3.00%以下、Mo:3.00%以下、V:2.00%以下、Ti:0.500%以下、Nb:0.500%以下、Ni:5.00%以下、Cu:3.00%以下、Co:3.00%以下、Sn:0.100%以下、Sb:0.100%以下、及びMg:0.0050%以下、Ca:0.0050%以下、REM:0.0070%以下、及びO:0.0070%以下の1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
【0027】
上記の化学組成が好ましい理由について説明する。
(C:0.18%以上0.50%以下)
ホットスタンプ法で得られる熱間プレス成形品は、例えば1000MPa以上という高強度を有することが求められる。この場合、熱間プレス成形品の組織(金属組織)は、ホットスタンプ後に急冷することでマルテンサイトを主体とする組織に変態させることが要求される。
炭素(C)含有量が0.18%未満では、焼入れ性が低下して強度が不足する。そのため、C含有量は0.18%以上であることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.20%以上、さらに好ましくは0.22%以上である。
一方、C含有量が0.50%を超えると、鋼板の靭性の低下が著しく、加工性が低下する。そのため、C含有量は、0.50%以下とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.40%以下、さらに好ましくは0.35%以下である。
【0028】
(Si:2.00%以下)
ケイ素(Si)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、ケイ素(Si)が0.01%未満である場合、焼入れ性及び疲労特性が劣る。そのため、Si含有量は0.01%以上であることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上、一層好ましくは0.30%以上である。
一方、SiはFeよりも酸化されやすい元素(易酸化性元素)であるため、連続焼鈍めっきラインにおいてSi含有量が2.00%を超えると、焼鈍処理中に、安定なSi系酸化被膜が母材鋼板表面に形成されて、溶融Alめっきの付着性が阻害され、不めっきを生じることが懸念される。そのため、Si含有量は、2.00%以下とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは1.00%以下であり、さらに好ましくは0.80%以下、一層好ましくは0.70%以下または0.60%以下である。
【0029】
(Mn:0.30%以上5.00%以下)
マンガン(Mn)は、鋼板の焼入れ性を高め、更に、不可避的に混入するSに起因する熱間脆性を抑制するために有効な元素である。Mn含有量が0.30%未満である場合には、焼入れ性が低下して強度が不足する場合がある。そのため、Mn含有量は0.30%以上であることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは0.80%以上、一層好ましくは1.00%以上である。
一方、Mn含有量が5.00%を超える場合には、焼入れ後の衝撃特性が低下する。そのため、Mn含有量は5.00%以下とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは4.00%以下、さらに好ましくは3.00%以下、一層好ましくは2.50%以下、または2.00%以下である。
【0030】
(Cr:2.00%以下)
クロム(Cr)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、クロム(Cr)は、鋼板の焼入れ性を高める効果を奏する元素である。Cr含有量が0.001%未満である場合には、上記のような焼入れ性向上効果を得ることができずに強度が不足する場合がある。そのため、Cr含有量は0.001%以上であることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは、0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。
一方、Crは、Feよりも酸化されやすい元素(易酸化性元素)であるため、Cr含有量が2.00%を超える場合には、焼鈍処理中に安定なCr系酸化被膜が母材鋼板表面に形成されてしまい、溶融Alめっきの付着性が阻害されて不めっきを生じることが懸念される。そのため、Cr含有量は、2.00%以下とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは1.60%以下、さらに好ましくは1.40%以下、一層好ましくは1.00%以下である。
【0031】
(B:0.0002%以上0.0100%以下)
ホウ素(B)は、焼入れ性の観点から有用な元素であり、0.0002%以上含有させることで、焼入れ性が向上する。そのため、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上である。
一方、B含有量が0.0100%を超えると、上記の焼入れ性向上効果は飽和する上、鋳造欠陥や熱間圧延時の割れが生じるなど、製造性が低下する。そのため、B含有量は、0.0100%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0080%以下であり、さらに好ましくは0.0070%以下、一層好ましくは0.0060%以下である。
【0032】
(Al:0.500%以下)
アルミニウム(Al)は、脱酸剤として鋼中に含有される。Alは、Feよりも易酸化性元素であるため、Al含有量が0.500%を超える場合には、焼鈍処理中に安定なAl系酸化被膜が母材鋼板表面に形成されてしまい、溶融Alめっきの付着性が阻害されて不めっきを生じることが懸念される。そのため、Al含有量は、0.500%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.200%以下、さらに好ましくは0.100%以下、一層好ましくは0.080%以下である。
一方、Al含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいいが、Al含有量を0.001%未満とすることは、精錬限界上から経済的ではない。そのため、Al含有量を0.001%以上としてもよい。
【0033】
(P:0.100%以下)
リン(P)は、不純物として含有される元素である。Pは固溶強化元素でもあり、比較的安価に鋼板の強度を上昇させることができる元素でもある。しかしながら、P含有量が0.100%を超える場合には、靭性が低下するなどの悪影響が大きく出てしまう。そのため、P含有量は0.100%以下とすることが好ましい。P含有量は、より好ましくは0.050%以下、さらに好ましくは0.020%以下である。
一方、P含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、P含有量を0.001%未満とすることは、精錬限界上から経済的ではない。そのため、P含有量を0.001%以上としてもよい。
【0034】
(S:0.100%以下)
硫黄(S)は、不純物として含有される元素であり、MnSとして鋼中の介在物になる。S含有量が0.100%を超える場合には、MnSが破壊の起点となり、延性及び靭性が低下して、加工性が低下する。そのため、S含有量は、0.100%以下とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは0.050%以下、さらに好ましくは0.010%以下、一層好ましくは0.005%以下である。
一方、Sは本実施形態に係るアルミ系めっき鋼板において必要とされないので、S含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、S含有量を0.0001%未満とする場合には、精錬限界上から経済的ではない。そのため、S含有量を0.0001%以上としてもよい。
【0035】
(N:0.0100%以下)
窒素(N)は、不純物として含有される元素であり、特性の安定化の観点からはTi、Nb、及びAl等を用いて固定する(化合物とする)ことが好ましい。N含有量が増加すると、Nの固定用に含有させる元素の含有量が多量となり、コストアップを招くことになる。そのため、N含有量は、0.0100%以下であることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.0080%以下である。N含有量は少ない方が好ましく、0%でもよいが、N含有量を0.0010%未満とすることは、精錬限界上から経済的ではない。そのため、N含有量を0.0010%以上としてもよい。
【0036】
Alめっき鋼板1の母材鋼板2は、上記の元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有していてもよいが、さらに特性を向上させるため、母材鋼板2は、以下に示す元素(任意元素)をさらに含有してもよい、以下に説明する母材鋼板2の任意元素の含有量の下限値は全て0%である。
【0037】
(W、Mo:それぞれ3.00%以下)
タングステン(W)及びモリブデン(Mo)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、W、Moは、それぞれ焼入れ性の観点から有用な元素であり、0.01%以上含有させることで、焼入れ性を向上させる効果を発揮する。効果を得る場合、W含有量、Mo含有量をそれぞれ0.01%以上とすることが好ましい。W含有量、Mo含有量は、より好ましくは、それぞれ0.05%以上である。
一方、W及びMoの含有量がそれぞれ3.00%を超える場合には、上記効果は飽和し、また、コストも上昇する。そのため、W含有量、Mo含有量は、3.00%以下であることが好ましい。W含有量、Mo含有量は、より好ましくは、それぞれ1.00%以下である。
【0038】
(V:2.00%以下)
バナジウム(V)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、Vは、焼入れ性の観点から有用な元素であり、0.01%以上含有させることで、焼入れ性を向上させる効果を発揮する。そのため、効果を得る場合、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.05%以上である。
一方、V含有量が2.00%を超えた場合には、上記効果が飽和し、また、コストも上昇する。そのため、V含有量は、2.00%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは1.00%以下である。
【0039】
(Ti:0.500%以下)
チタン(Ti)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、Tiは、Nを固定するために有効な元素であり、含有させてもよい。この効果を得る場合、質量%にてN含有量の約3.4倍以上のTiを含有させることが好ましい。N含有量は、低減させたとしても10ppm(0.001%)程度となることが多いので、Ti含有量は、0.005%以上であることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.010%以上である。
一方、Ti含有量が過剰になると、焼入れ性が低下し、また、強度が低下する。このような焼入れ性及び強度の低下は、Ti含有量が0.500%を超えると顕著となる。そのため、Ti含有量は、0.500%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.100%以下である。
【0040】
(Nb:0.500%以下)
ニオブ(Nb)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、Nbは、Nを固定するために有効な元素であり、含有させてもよい。この効果を得る場合、Nbを、質量%にてN含有量の約6.6倍以上含有させることが好ましい。N含有量は、低減させたとしても10ppm(0.001%)程度となることが多いため、Nb含有量は、0.006%以上であることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは、0.010%以上である。
一方、Nb含有量が過剰になると、焼入れ性が低下し、また、強度が低下する。このような焼入れ性及び強度の低下は、Nb含有量が0.500%を超えると顕著となるため、Nb含有量を0.500%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは、0.100%以下である。
【0041】
また、母材鋼板2の化学組成として、Ni、Cu、Co、Sn、Sb、Mg、Ca、REM、O等が含有されていても、含有量が下記に示す上限以下の範囲であれば本実施形態における効果は阻害されるものではない。
【0042】
(Ni:5.00%以下)
ニッケル(Ni)含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、Niは、焼入れ性に加え、耐衝撃特性改善に繋がる低温靭性を向上させるために有用な元素である。上記効果を得る場合、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
一方、Ni含有量が5.00%を超えると、上記のような効果は飽和し、また、コストも上昇する。そのため、Ni含有量を、5.00%以下とすることが好ましい。
【0043】
(Cu、Co:3.00%以下)
銅(Cu)、コバルト(Co)それぞれの含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、Cu、Coは、どちらも焼入れ性に加え、靭性を向上させるために有用な元素である。この効果を得る場合、Cu含有量、Co含有量を、それぞれ0.01%以上とすることが好ましい。
一方、Cu、Coそれぞれの含有量が3.00%を超えると、上記のような効果は飽和し、また、コストも上昇する。また、過剰なCu、Coの含有は、どちらも鋳片性状の劣化や熱間圧延時の割れや疵の発生を生じさせる。そのため、Cu含有量、Co含有量を、それぞれ3.00%以下とすることが好ましい。
【0044】
(Sn、Sb:0.100%以下)
スズ(Sn)及びアンチモン(Sb)含有量の下限は、特に限定するものではなく、それぞれ0%としてもよいが、Sn、Sbは、いずれもめっきの濡れ性や密着性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得る場合、Sn又はSbの少なくとも何れか一方を0.001%以上含有させることが好ましい。
一方、Sn又はSbの少なくとも何れか一方を、0.100%を超えて含有させた場合、製造時に疵が発生しやすくなったり、また、靭性が低下したりする。そのため、Sn含有量、Sb含有量は、それぞれ0.100%以下であることが好ましい。
【0045】
(Mg、Ca:0.0050%以下)
MgやCaは、いずれも不純物として含有される元素であり、Mg含有量、Ca含有量の下限は、特に限定するものではなく、それぞれ0%としてもよい。Mg、Caは、いずれも含有させることで母材の介在物抑制に効果がある場合があり含有させても良いが、多量の場合は破壊の起点となる。このためMg含有量、Ca含有量は、それぞれ0.0050%以下であることが好ましい。
【0046】
(REM、O:0.0070%以下)
REM、Oは必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。REM、Oは、酸化物を形成し破壊の起点になるなど鋼板の特性劣化をもたらす元素である。また、鋼板の表面の近傍に存在する酸化物は、表面疵の原因となり、外観品位を劣化させる場合もある。このため、REM含有量、O含有量は低ければ低いほど良い。特に、REM含有量、O含有量が0.0070%超で特性劣化が顕著であるため、REM含有量含有量、O含有量はそれぞれ0.0070%以下が好ましい。REM、O含有量の下限は、特に限定するものではなく、0%としてもよいが、実操業上、精錬上の下限は0.0005%であるので、REM含有量、O含有量の実質的な下限はそれぞれ0.0005%である。
【0047】
(その他の成分について)
その他の成分については、特に規定するものではないが、Zr、As等の元素がスクラップから混入する場合がある。しかしながら、混入量が通常の範囲であれば、本実施形態に係る母材鋼板2の特性(機械的強度等)には影響しない。
母材鋼板2の化学組成の残部は鉄(Fe)及び不純物である。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係るAlめっき鋼板1に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0048】
(Alめっき層)
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法で用いられるAlめっき鋼板1において、Alめっき層3A,3Bは、その組成が、質量%で、Alを50%以上含有するめっき層である。Al以外の元素は、特に限定しないが、以下の理由からSiを積極的に含有させてもよい。
【0049】
Alめっき層3A,3BにSiを含有させると、Alめっき層3A,3Bと母材鋼板2(地鉄)との界面にAl-Fe-Si合金層が生成し、溶融めっき時に生成される脆いAl-Fe合金層の生成を抑制することができる。Si含有量が、質量%で3%未満の場合には、Alめっきを施す段階でAl-Fe合金層が厚く成長し、加工時にめっき層割れが助長されて、耐食性に悪影響が及ぶ可能性がある。
一方、Si含有量が質量%で15%を超える場合には、逆にSiを含む層の体積率が増加し、めっき層の加工性及び耐食性が低下するおそれがある。従って、Alめっき層中のSi含有量は、3~15%とすることが好ましい。
Alめっき層を前記母材鋼板に処理してAlめっき鋼板を製造する方法としては、通常の製銑、製鋼によって化学成分を調整されたスラブを、通常の熱延、酸洗、冷延工程を経て、ゼンジマー式の連続的な焼鈍、溶融Alめっき浴への浸漬とワイピングによるAlめっき層厚の調整によって製造される方法が挙げられる。
【0050】
Alめっき層3A,3Bは、自動車部品として用いられた場合の鋼板の腐食を防止する。また、Alめっき層3A,3Bは、Alめっき鋼板1を熱間プレス成形により加工する場合には、高温に加熱されても、母材の表面でスケール(鉄の酸化物)が発生することもない。Alめっき層3A,3Bがスケール発生を防止することにより、スケールを除去する工程、表面清浄化工程、表面処理工程などを省略することができ、熱間プレス成形品の生産性が向上する。スケールである鉄の酸化物は、加熱によって硬く粗大に成長するため、金型を摩耗する原因にもなる。また、Alめっき層3A,3Bは、他の金属系材料(例えば、Zn系材料)によるめっき層よりも沸点及び融点が高い。したがって、熱間プレス成形によって成形する際に、Alめっき層が蒸発しにくく、高い温度での熱間プレス成形が可能となる。そのため、熱間プレス成形における成形性を更に高め、容易に成形できるようになる。
【0051】
一般に、Alめっき鋼板1のAlめっき層の表面には、厚さ0.01~0.1μmの酸化Al被膜が存在する場合がある。この酸化Al被膜は、熱間プレス後に厚さが0.01~0.5μmまで増加する場合がある。熱間プレス後に酸化Al被膜の厚みが増加するのは、熱間プレス成形後の雰囲気中の酸素や水蒸気で酸化するからである。
この酸化Al被膜の形成、厚みの増加は、Alめっき層の表面に金属層または金属酸化物層が形成されることで抑制される。ただし、本実施形態に係るAlめっき鋼板1のようにAlめっき層3A,3B上に金属層、金属酸化物層を含む被覆層4A,4Bがある場合、最表面側としては酸化Al被膜の形成は抑制されることとなるものの、金属層及び/または金属酸化物層とAlめっき層との界面において反応が生じ、熱間プレス後の金属酸化物層にAlを含んだ金属酸化物が形成される場合がある。
【0052】
溶融めっき時及び熱間プレス成形に伴う加熱により、Alめっき層中のAlは鋼板中のFeと合金化し得る。よって、Alめっき層は、必ずしも成分組成が一定な単一の層で形成されるとは限らず、部分的に合金化した層(合金層)を含むものとなる。合金層は硬く脆いため、熱間成形時の金型摩耗の原因となる。しかしながら、表面に金属層または金属酸化物層を形成することで、この合金層が金型と接触し金型を摩耗させることを抑制できる。さらに、合金層が金型から受ける疵も抑制され、外観の低下が抑制される。
【0053】
Alめっき層3A,3Bの厚さは、10μm以上60μm以下であることが好ましい。Alめっき層3A,3Bの厚さが10μm未満であると母材鋼板2に鉄スケールが形成され金型の摩耗が促進される。Alめっき層3A,3Bの厚さは、より好ましくは12μm以上、更により好ましくは15μm以上である。
一方で、Alめっき層3A,3Bの付着量が60μm超であると、めっきが大きな剪断応力を受け多量のAlめっきが剥離する。この場合、ダイ金型が疵つき、金型の摩耗が促進される。Alめっき層3A,3Bの厚さは、好ましくは55μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0054】
Alめっき層3A,3Bの厚さは、厚み方向断面が観察できるように試料を採取し、この断面を研磨した後に光学顕微鏡を用いて、倍率1,000倍で観察することで、求めることができる。
【0055】
(被覆層)
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法で用いるAlめっき鋼板1では、Alめっき層3A,3B上に最表層の被覆層4A,4Bとして金属層、金属酸化物層またはこれらの混合層を備える。
この被覆層4A,4Bは、金型の摩耗を抑え、熱間プレス成形品の美麗な外観を得る上で非常に重要である。
上述したように、Alめっき鋼板1を熱間プレスした場合に、めっきが疵付く要因の一つとして、ホットスタンプ加熱時にAlめっき表面に形成される硬質なAl-Fe合金層や酸化アルミの存在が挙げられる。
そのため、本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法では、Alめっき層3A,3Bの表面に、Alめっき層3A,3B表面を覆うように、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属を含む金属層、またはこれらの金属の酸化物の1種以上を含む金属酸化物層、または金属層と金属酸化物層とを含む混合層を形成させる。金属層や金属酸化物層が有効である理由は明らかでは無いが、モース硬度(化学便覧基礎編 p475、丸善株式会社、昭和41年発刊)が低い物質が有効である可能性が考えられる。例えばAl(モース硬度2.9)に対し、Mg(同2.0)、Ca(同1.5)、Zn(同2.5)といずれも低い。また酸化Al(モース硬度9)に対し、MgO(同5.5~6)、CaCO(同3)、ZnO(同4.5~5)、TiO(モース硬度:5.5~7.5)である。ただし、これだけで摩耗が整理されるとは限らず、例えば金属であればその融点が影響し得る場合があり、酸化物であればそのサイズなども影響し得る場合も考えられる。本実施形態で言う被覆層が含む金属酸化物には、上記金属の酸化物だけでなく、上記金属の水酸化物及び炭酸化物も含む。水酸化物、炭酸化物も、加熱炉で加熱された後は殆どが酸化物に変わると考えられるからである。
被覆層が含む金属層、金属酸化物層を構成する金属、金属酸化物としては、コストと入手の容易さからは、金属Zn、Mg、またはZnO、MgOが好ましい。
一方で、熱間プレスの加熱工程での被覆層の蒸発を抑制する観点からは、比較的沸点の低いZnまたはZnO単独の層ではなく、Mg、Ca、V、Ti少なくとも1種の金属を含む金属層、Mg、Ca、V、Tiの1種以上の酸化物を含む金属酸化物層、またはそれらの混合層のいずれかを必ず含む被覆層であることが好ましい。
本実施形態において、金属層、金属酸化物層、または金属層と金属酸化物層とを含む混合層は、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の元素が、合計で8質量%以上含まれている層を指す。
被覆層は、金属層の一部が、酸化物となった、金属層と金属酸化物層との混合層であってもよい。また、金属層や金属酸化物層は、上述した金属または金属酸化物からなる層であってもよいが、金属や金属酸化物と、樹脂とが混合された層であっても良い。樹脂はバインダーの役割を担うので、樹脂を混合することで金属層や金属酸化物層をAlめっき表面に強固に密着させることができる。ここで言う樹脂とは、主にCから成る化合物、またはH、O、N、Sを含み主にCから成る化合物を意味する。樹脂を混合しても、容易に加熱炉で燃焼され二酸化炭素として放出され、プレス成形後に被覆層から無くなるため、金属層や金属酸化物層の特性への影響は小さい。
【0056】
熱間プレス成形時の加熱工程で、Alめっき鋼板1は、酸素または水蒸気を有した雰囲気中で加熱される。そのため、加熱炉から出てから熱間プレス成形される時、および熱間プレス後(熱間プレス成形品となった際)には、熱間プレス前には酸化物ではなかった金属の一部または全てが酸化され、金属層は、金属層と金属酸化物層との混合層または金属酸化物層となる。例えば、金属Zn層は一部または全てがZnO層になる。
【0057】
被覆層4A,4Bの形成方法は、特に制限はないが、例えば、金属層であれば、Alめっき鋼板上に電気めっき法による析出や、物理蒸着法による蒸着によって形成することが可能である。金属酸化物層であれば、例えば、Alめっき鋼板上に形成させた金属層を大気中で短時間加熱することで酸化させることで形成させる方法や、他にも例えば、市販される金属酸化物ゾルを水に分散させ、水分散液をAlめっき鋼板上に塗装し、水分を乾燥させることで皮膜を形成させることができる。この時、水分散液に樹脂を混合することもできる。
【0058】
被覆層4A,4Bの厚みを0.3μm以上とすることで金型の摩耗を抑制し、更に熱間成形後に美麗な熱間プレス成形品の外観が得られる(低い光沢度が得られる)。そのため、被覆層4A,4Bの厚みを0.3μm以上とすることが好ましい。より好ましくは0.4μm以上、更により好ましくは0.5μm以上である。
一方、被覆層の厚みが10.0μmを超えると金属層または金属酸化物層自身によって外観が損なわれる場合がある。そのため、被覆層の厚みを10.0μm以下とすることが好ましい。被覆層の厚みは、より好ましくは7.0μm以下、更に好ましくは5.0μm以下である。
被覆層4A,4B(金属層及び/または金属酸化物層)の厚みは、樹脂で埋め込み研磨した上で厚み方向断面からSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて1,000倍~30,000倍の倍率で観察することで測定できる。この金属層、金属酸化物層、または金属層と金属酸化物層とを含む混合層である被覆層4A、4Bは、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の元素の含有率が、合計で8質量%以上の層を指し、その含有率は断面からのEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による分析で求める。必要に応じて、被覆層と埋め込み樹脂との境目を明確化するため、埋め込み前に材料表面に金蒸着を施して観察しても良い。
【0059】
[成形工程]
成形工程では、加熱されたAlめっき鋼板1を、加熱工程完了後、ダイ金型を用いて成形して熱間プレス成形品を得る。
加熱工程が完了してから成形開始までの時間が30秒超であると、加熱でオーステナイト化した鋼板の母材がフェライト変態してしまい、プレス後に高強度のマルテンサイト組織が得られなくなる場合がある。そのため、加熱工程完了後、成形開始までの時間を30秒以内とすることが好ましい。なるべく早く成形することが好ましいので、下限については限定する必要はないが、加熱炉からプレス機までの搬送速度やプレス機のダイ金型の下降する速度などの設備制約等を考えると、3秒以上としてもよい。ただし、成形までの時間はAlめっき鋼板の温度の確保を目的とする。
【0060】
(ダイ金型)
成形に用いるダイ金型は、特に用途として限定されるものを用いる必要は無い。JISのSKD11、SKD61(JIS G 4404:2015)で示される一般的な工具鋼、又はハイスピード鋼などが例示される。
ただし、本実施形態で用いるダイ金型は、Alめっき鋼板と接する金型の表面に硬質層を有する。また、硬質層を有する位置でのダイ金型の表面硬さであるHVDieは、HV1500以上HV3800以下である。
この硬質層は金型の摩耗を抑え、熱間プレス成形品の美麗な外観を得る上で非常に重要である。
摩耗をより抑制するためには、硬質層は、1.0μm以上の厚みで形成されていることが好ましい。硬質層の厚みの上限は、硬質層の内部応力の過度の増加や靭性低下を抑制するため20μm以下が好ましい。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法では、ダイ金型の上型と下型とが一定の方向に相対移動し、この移動によって、上型と下型との間に設置された鋼板がダイ金型のダイ穴に引き込まれて成形される。このようなプレス成形に際しては、ダイ金型(上型と下型)が相対移動する方向と平行な方向(一般には鉛直方向)の面において、加工される鋼板と接触して摺動される。相対移動する方向と平行な方向の面は、例えば、金型のR部の表面が、熱間プレス成形品の縦壁部と接触しており、他の例としては金型のしわ押さえフランジ部の表面やビード付き金型の場合はビード頭頂部の表面などが挙げられる。
ダイ金型が備える硬質層の硬さHVDieがHV1500以上であることで、熱間プレス成形の際にダイ金型の摺動面(鋼板と接触して摺動する面)での摩耗が抑制される。HV1500未満では、金型が摩耗する。例えばSKD11やSKD61の素材はHV500~HV1000であり、一般的に窒化処理を行った場合ではHV600~HV1400であり、金型が摩耗する。そのため、HVDieはHV1500以上とする。好ましくはHV2000以上であり、より好ましくはHV2500以上である。表面硬さに上限は設けないが、過剰に硬質な場合には硬質層が脆性となり、硬質層とダイ金型の母材とが剥離する現象が起こる。更には金型が熱間プレス時のAlめっき鋼板の表面を疵付け、外観を低下させる。そのため、HVDieはHV3800以下とする。HVDieは、好ましくはHV3600以下であり、より好ましくはHV3400以下である。
ダイ金型の表面硬さHVDieは、JIS Z 2244:2009で指定されるビッカース硬さ試験方法において、試験荷重を10g-fから25g-f(0.098Nから0.245N)の間で測定される硬さである。硬さを測定するマイクロビッカース試験機には、株式会社ミツトヨ製HM-211を用いることができる。硬さの測定に関しては、マイクロビッカース圧子を打つ点を30μm以上離して2点以上とし、圧痕の対角線長さをSEM観察することで、硬さを求める。
【0061】
ダイ金型に形成される硬質層は、HVDie≧HV1500を満たすものであれば、その材質や形成方法に制限はない。
例えば、物理蒸着法(PVD法)による硬質コーティング層(蒸着膜)が挙げられ、具体的にはTi、Cr及びAlから選ばれる1種又は2種以上を主体とする窒化膜、炭化膜、炭窒化膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜、等が挙げられる。
中でも、硬質コーティング層としての蒸着膜としては、Ti及びCrの少なくとも一方を含む膜であることが好ましい。例えば、その金属元素部分がTi、Cr、及びAlから選んだ1種もしくは2種以上を主体とする窒化物、炭化物、炭窒化物のいずれかであることが好ましい。さらには、その金属元素部分がTi又はCrを主体とする窒化物、炭化物、炭窒化物のいずれかであることがより好ましい。金属元素部分がTi、Cr、Alを含むPVDコーティングの硬さHVDieは、2000~4000の間となる。ダイヤモンドライクカーボンを用いた場合は、PVDコーティングの硬さHVDieは5000~8000の間となる。
【0062】
本実施形態において、ダイ金型への硬質層の形成方法としては、物理蒸着による蒸着膜の形成方法が挙げられる。物理蒸着法の種類については特に制限はない。物理蒸着法として、例えばアークイオンプレーティング法、及びスパッタリング法が望ましい。また、化学気相成長(CVD)法を用いてもよい。
例えば、金属成分の蒸発源である各種金属製ターゲット及び反応ガス(Nガス、CHガス等)を用い、温度、ガス圧力を調整して、Bias電圧をかけることで、ダイ金型の母材の表面にPVD膜を成膜することができる。
ダイ金型に物理蒸着法(PVD法)による硬質コーティング層(蒸着膜)を形成する前に、下層となる窒化層を形成(窒化処理と言った拡散を利用した表面硬化処理)することが好ましい。ただし、窒化層は一般にHV1500未満であり、本実施形態では耐摩耗として必要な金型の硬質層には含めない。
窒化層の形成は、ダイ金型の母材に、例えばイオン窒化処理、つまり所定濃度のN及びHガス雰囲気中で、温度を調整してイオン窒化処理を施すことで行われる。
この時、窒化処理で形成される白層と呼ばれる窒化物層などの化合物層は、密着性を低下させる原因となるため、処理条件の制御により形成させないようにするか、あるいは研磨等により除去することが望ましい。
【0063】
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法では、熱間プレス成形では、成形開始時のAlめっき鋼板1の温度を単位℃でTm、成形開始から下死点までのダイ金型の平均移動速度を単位mm/sでVとしたとき、TmとVとが、HVDieに応じて、下記(1)式を満足するように成形を行う。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/4)-(HVDie/100) ・・・(1)式
この(1)式は、金型の摩耗を抑え、熱間プレス成形品の美麗な外観を得る上で非常に重要である。
成形開始時のAlめっき鋼板1の温度(成形温度:Tm)(℃)は、((850-V/4)-(HVDie/100))以下である必要がある。成形温度が((850-V/4)-(HVDie/100))超では、Alめっき鋼板1の表面のAlめっき層3A,3Bの表面が軟質となり、金型と擦れることで疵を受け易くなり、成形後の熱間プレス成形品の外観が低下(外観の品質が低下)する。成形開始時から下死点到達時までのダイ金型の平均移動速度(成形速度:V)は、成形開始から、Alめっき鋼板1とダイ金型の両方の動きが停止するまで(一般には下死点とも呼ばれる)までの間の時間t(秒)、成形開始からAlめっき鋼板とダイ金型の両方の動きが停止するまでのダイ金型の移動距離S(mm)を用いて、V=S/tの関係から求めることが出来る。熱間プレス成形品の外観が、成形時のダイ金型の平均移動速度V(成形速度)に依存する理由として、成形速度が速くなるほど金型との接触による鋼板の抜熱が抑制され、鋼板が金型から高温で衝撃を受けて疵を受け易くなり、外観が低下し易いからである。ここで成形開始時とは、移動するダイ金型が、Alめっき鋼板に接触したタイミングをいう。
また、材料(Alめっき鋼板)側の疵付きを抑制する適正な温度は、金型表面の硬度の影響も受けるので、Tm及びVは、(2)式を満足することが好ましい。
800-(HVDie/40)≦Tm≦850-(V/2)-(HVDie/50) ・・・(2)式
すなわち、成形開始時のAlめっき鋼板の温度(成形温度:Tm)(℃)は、((850-V/2)-(HVDie/50))以下であることが好ましい。金型表面の硬度HVDieが高い場合の方がよりプレス成形品の表面を疵付け易いので、HVDieに応じて、成形温度をより抑制することで、一層美麗な熱間プレス成形品が得られるからである。
一方、成形温度Tm(℃)が(800-(HVDie/40))未満では、鋼板の表面が硬質化するためプレス時に金型と鋼板とが強く擦れて金型が摩耗する。そのため、成形温度(℃)を(800-(HVDie/40))以上とする。成形温度Tm(℃)は好ましくは、(805-(HVDie/40))以上、より好ましくは(810-(HVDie/40))以上である。
成形開始から下死点までのダイ金型の平均移動速度V(mm/s)は、(1)式、(2)式を満足すれば特に限定されないが、成形品はダイ金型と接触することで抜熱されるが、平均移動速度を遅くすることで、抜熱が大きくなり、より低温で成形品がダイ金型と接触することとなるので、成形品表面の傷付きが減り、光沢度が低下する。そのため、外観の点で、平均移動速度(成形速度)は、95mm/s以下が好ましく、85mm/s以下がより好ましい。ただし、平均移動速度が遅過ぎれば過剰な成形品の抜熱を招き、材料のマルテンサイト変態の阻害や、材料表面の硬質化により金型の摩耗が促進される。そのため、平均移動速度(成形速度)は、15mm/s以上が好ましく、25mm/s以上がより好ましい。平均移動速度V(mm/s)は、成形開始(金型が稼働した時点)から下死点(金型とプレス成形品の移動が停止した時点)までの時間(秒)で、金型の移動距離(mm)を除することで求まる。
成形開始時のAlめっき鋼板1の温度(成形温度:Tm)(℃)の測定方法としては、放射温度計やAlめっき鋼板1への熱電対の取り付けなどによって測定することが出来る。一般に、熱電対を取り付ける場合、熱電対の取り付け部分が凸状になり熱間プレス成形を阻害することになるため、Alめっき鋼板の鋼板端部の側面(Alめっき層を有する面に垂直な面)に取り付ける方法を用いてもよい。成形温度Tm(℃)は、(1)式、(2)式を満足すれば特に限定されないが、熱間プレス時に材料をマルテンサイト変態させ、プレス成形品の機械的強度を高める観点から、550℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、650℃以上が更に好ましい。一方、加熱炉からプレス成形までの移動時間を確保する観点から、成形温度Tm(℃)は、850℃以下が好ましく、830℃以下がより好ましく、810℃以下が更に好ましい。
【0064】
成形開始時のダイ金型の表面温度は、180℃以下とすることが好ましい。金型側が疵付くと、凹凸が生じ、材料側への疵付きが増加し、外観が低下するが、ダイ金型の表面温度を180℃以下とすることで、ダイ金型の疵付きをより安定して抑制できる。成形開始時のダイ金型の表面温度は、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは160℃以下である。ダイ金型の表面温度の下限は特に定めないが、5℃以上が好ましい。また、成形中に加熱されたAlめっき鋼板と接することで金型温度が上昇することや、連続的に成形を行った場合は金型が蓄熱され徐々に金型温度の上昇が発生するため、20℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
ダイ金型の表面温度は、金型に熱電対を点溶接で付け測定することができる。
【0065】
ダイ金型の、移動距離は、150mm以下であることが好ましい。ここで言う移動距離とは、熱間プレス成形時においてダイ金型とAlめっき鋼板が最初に接触してから、成形終了でダイ金型の下降が停止するまで(一般には下死点とも呼ばれる)の、ダイ金型(上型と下型)が相対移動する方向での、ダイ金型の移動距離を意味する。ダイ金型の移動距離が長くなると、Alめっき鋼板と金型とが擦れて摺動する距離が長くなる。摺動距離が多くなれば剥離しためっきのAl-Fe合金層や酸化Alが研磨材のように働き始め徐々に外観が低下する。移動距離が150mmを超えると外観の低下が大きくなる。ダイ金型の移動距離は、より好ましくは130mm以下、更に好ましくは110mm以下である。
【0066】
ダイ金型の母材の金属材質については、特段に定めるものではなく、例えば冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼および超硬合金等の公知の金属材料が使用できる。これについては、JIS等による規格金属種(鋼種)を含め、従来金型への使用が可能な鋼種として提案されてきた改良金属種も適用できる。
【0067】
<熱間プレス成形品>
本実施形態に係る熱間プレス成形品は、Alめっき層を有するAlめっき鋼板からなる熱間プレス成形品であって、表面における、JIS Z 8741:1997に規定される光沢度(Gs60°)が30以下である。
本実施形態に係る熱間プレス成形品は、上述した本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法によって得ることができる。本実施形態において、熱間プレス成形品とは、必ずしもAlめっき鋼板の鋼板形状の変形を伴う熱間プレスによって形成された成形品だけを指すのではなく、加熱後に摺動を受けたAlめっき鋼板や、加熱後に金型に挟まれ圧力を受けたAlめっき鋼板も含む。
本実施形態に係る熱間プレス成形品は、少なくとも熱間プレス時にダイ金型と接触する摺動面において、表面にMg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属からなる金属層、Mg、Ca、V、Ti、Znの酸化物からなる金属酸化物層、または前記金属と前記金属酸化物層とからなる混合層が形成されたAlめっき鋼板が、熱間プレスによって成形されることによって得られる。
そのため、本実施形態に係る熱間プレス成形品の表面において、JIS Z 8741:1997に規定される光沢度(Gs60°)が30以下であり、表面外観に優れる。光沢度は好ましくは25以下である。
光沢度は、最も外観が低下しやすい縦壁部(摺動部)で測定すればよい。
【0068】
また、本実施形態に係る熱間プレス成形品では、上記光沢度とするため、Alめっき層の表面に、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属層、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の金属酸化物層、または前記金属層と前記金属酸化物層との混合層からなる被覆層を有することが好ましい。また、被覆層の厚みが0.3~10.0μmであることが好ましい。
【実施例
【0069】
(実施例1)
表1に記載の化学組成(単位質量%、残部Fe及び不純物)を有する板厚1.4mmの冷延鋼板の両面に、ゼンジマー法でAlめっきを施した。めっき浴浸漬前の焼鈍温度は約750℃とした。Alめっき浴はSiを9.5質量%含有し、他に冷延鋼板から溶出するFeを含有し、残部はAlであった。めっき後のAlめっき層の厚み(目付量)をガスワイピング法で調整し、冷延鋼板の両面に形成するAlめっき層の厚み(目付量)を、いずれも20μmとした後、冷却した。
その後、両面のAlめっき層上に、一部については、薬液(シグマアルドリッチジャパン社製、シーアイ化成株式会社製、多木化学株式会社製、TECNAN社製、タテホ化学工業株式会社製、鈴木工業株式会社製)の酸化Zn、酸化Ti、酸化V、酸化Mg、及び/または酸化Caをロールコーターで塗布し、約80℃で焼きつける作業をそれぞれ施し、Mg、Ca、V、Ti、及び/またはZnの酸化物被膜を両面に形成した。一部では、酸化Znに対し同質量%のポリウレタン樹脂を混合させ、塗布、焼付け被膜を形成した。いずれの被覆層も、Mg、Ca、V、Ti、Znの少なくとも1種の元素の含有率の合計は、8質量%以上であった。
このようにして、表3-1~表3-4に示すAlめっき鋼板A1~A35を得た。
【0070】
(実施例2)
表2に記載の化学組成(単位質量%、残部Fe及び不純物)を有する板厚1.4mmの冷延鋼板の両面に、ゼンジマー法でAlめっきを施した。めっき浴浸漬前の焼鈍温度は約750℃とし、Alめっき浴はSiを9.5質量%含有し、他に冷延鋼板から溶出するFeを含有し、残部はAlであった。めっき後のAlめっき層の厚み(目付量)をガスワイピング法で調整し、冷延鋼板の両面に形成するAlめっき層の厚み(目付量)を、いずれも30μmとした後、冷却した。また、Alめっき層上の両面に、イオンプレーティング法によってMg、Ca、V、Ti、Znの金属層、及びZnとMgの混合した金属層、ZnとVの混合した金属層を形成した。また、一部については、同様に金属層をAlめっき層上の両面に形成した後に700℃で4分間大気中に加熱することで金属層の一部を酸化させることで、酸化物層と金属酸化物層との混合層をAlめっき層上に形成させた。いずれの被覆層も、Mg、Ca、V、Ti、Zn少なくとも1種の元素の含有率の合計は、8質量%以上であった。
このようにして、表3-1~表3-4に示すAlめっき鋼板A36~A49を得た。
併せて、Alめっき層上には金属層または金属酸化物層を施さないAlめっき鋼板A50、A51も準備した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
このようにして得られたAlめっき鋼板(A1~A51)にダイ金型を用いて、摺動試験を行った。この試験は、熱間プレスの際の、ダイ金型が移動する方向と平行な面における、ダイ金型とAlめっき鋼板と摺動を模した試験である。摺動試験は、図2に示す装置を用い、表3-1~表3-4の加熱温度に加熱後、ダイ金型に加圧力3kNで挟み、表3-1~表3-4に示す成形温度Tm(℃)、成形速度V(mm/s)で100mmの距離を摺動させることで成形した。加熱完了から成形開始までの時間は、3~30秒とした。加熱時の雰囲気は大気環境とした。
また、摺動試験に用いたダイ金型は以下の要領で準備した。
【0074】
≪ダイ金型の作製≫
工具鋼としてSKD61(JIS G 4404:2015)に相当する鋼を用意し、焼鈍状態にて図2の6A、6Bに示すダイ金型に近似した形状に粗加工し、真空中で1180℃の加熱保持より窒素ガス冷却により焼入れ後、540~580℃での焼戻しにより硬さがHV600になるように調質した。その後、仕上げ加工を行って、複数のダイ金型の基材を得た。
一部の前記基材に、次に示す条件にてイオン窒化処理を施した。具体的には、流量比が5%N(残部:H)の雰囲気中で、500℃に5時間保持の条件で、イオン窒化処理を施した。その後、それぞれの試験面を研磨によって仕上げ、窒化層を形成した。窒化層形成後の表面の硬度はHV1200であった。
また、一部の基材については、窒化層を形成した箇所に硬質層を形成した。硬質層はPVD膜であり、アークイオンプレーティング装置を用い、Ar雰囲気中で、Bias電圧を印加し、熱フィラメントによるプラズマクリーニングを行った。この後、金属成分の蒸発源である各種金属製ターゲット及び反応ガスとしてNガスをベースに、必要に応じCHガスを用い、Bias電圧にてPVD膜の成膜を行った。PVD膜形成後のダイ金型の表面の硬度はHV2500、HV3200、またはHV7000に調製した。
【0075】
それぞれの成形条件及び用いたダイ金型の表面硬さ、成形開始時の表面温度を表3-1~表3-4に示す。
【0076】
摺動試験後のAlめっき鋼板について、外観の評価を行った。一部の例には、表面に金属層が施された場合、熱間プレス成形品上では加熱によって酸化され、酸化物層が形成されていた。
【0077】
[成形後の外観の評価]
摺動距離50mm位置を切断で切り出し、光沢度計を用いて、JIS Z 8741:1997に規定される光沢度(Gs60°)を測定した。
光沢度が25以下をVG(Very Cood)、25超30以下をG(Good)、30超をNG(No Good)とした。
【0078】
[耐摩耗性の評価]
また、金型の耐摩耗性の評価を行った。
具体的には、成形後の金型表面の形状プロファイルを接触式粗度計(株式会社小坂研究所SE700、測定探針の径R2μm)を用いて、JIS B 0601:2013に沿って算術平均粗さRa測定した。摺動していない部分のRaと摺動した部分のRaとの差を比べ、摺動した部分のRaが5μm以上大きい場合をNG(No Good)、差が5μm未満の場合をG(Good)とした。
結果を表3-1~表3-4に示す。
【0079】
【表3-1】
【0080】
【表3-2】
【0081】
【表3-3】
【0082】
【表3-4】
【0083】
表3-1~表3-4から分かるように、本発明によれば金型の耐摩耗性を向上しつつ、熱間プレス成形品の摺動部が美麗(光沢度Gs60°が30以下)な部品を得ることができる。
比較例においては、A3では加熱温度が低過ぎた。またA4は加熱温度が高すぎた。そのため、熱間プレス後のAlめっき鋼板に疵が発生し光沢度が増加し30超となり、外観は低下した。
A7では成形温度が低過ぎた。A8とA13とA14とは成形温度が高過ぎた。そのため、熱間プレス後のAlめっき鋼板の外観が低下した。A7は、成形温度が低過ぎたため金型も摩耗した。
また、A15からA18では、金型表面の硬度が低過ぎ、A15とA16は成形温度も低過ぎた。そのため、金型に摩耗が生じ、熱間プレス後のAlめっき鋼板の外観も低下した。
A21では金型表面の硬度が高過ぎた。そのため、熱間プレス後のAlめっき鋼板に疵が発生し、外観が低下した。
A50、A51はAlめっき上に金属層または金属酸化物層が無いため、熱間プレス後のAlめっき鋼板の表面に疵が生じ、外観が低下した。A51は金型の硬度も低く、金型の摩耗も生じた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、金型の摩耗を抑制しつつ、表面外観に優れた熱間プレス成形品を得るための、熱間プレス成形品の製造方法と、表面外観に優れた熱間プレス成形品が得られる。
【符号の説明】
【0085】
1 Alめっき鋼板
2 母材鋼板
3A Alめっき層(上面側)
3B Alめっき層(下面側)
4A 被覆層(上面側)
4B 被覆層(下面側)
5 Alめっき鋼板の加熱炉
6A ダイ金型(Alめっき鋼板の上面と接する上型)
6B ダイ金型(Alめっき鋼板の下面と接する下型)
図1
図2
図3