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特許7303485頭部伝達関数を生成する方法、装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】頭部伝達関数を生成する方法、装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
H04S7/00 300
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019054856
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020156029
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】末永 司
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0093320(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
個人の属性を示す属性データを取得し、
各々平均耳形状から生成され、属性の基準値に対応づけられた複数の標準頭部伝達関数を含むデータベースから、前記属性データに基づいて、1以上の前記標準頭部伝達関数を選択し、
選択した標準頭部伝達関数と前記属性データに基づいて、前記個人に適応した頭部伝達関数を生成する生成方法。
【請求項2】
コンピュータを、
個人の属性を示す属性データを取得する取得部と、
各々平均耳形状から生成され、属性の基準値に対応づけられた複数の標準頭部伝達関数を含むデータベースから、前記属性データに基づいて、1以上の前記標準頭部伝達関数を選択する選択部と、
前記選択部が選択した標準頭部伝達関数と前記属性データに基づいて、前記個人に適応した頭部伝達関数を生成する生成部と
して機能させるプログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音像定位等の音響処理に係り、特に頭部伝達関数を生成する方法、装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音像定位等の音響処理では頭部伝達関数が用いられる場合がある。この頭部伝達関数は3次元空間内の任意の音源位置から聴者の頭部の左右の耳の位置までの伝達関数である。この頭部伝達関数は、聴者の耳形状によって定まる。従って、頭部伝達関数を求めた人間の耳形状と聴者の耳形状とが異なる場合、実際の聴者の頭部伝達関数と異なる頭部伝達関数が音像定位に用いられるため、音像定位に違和感が生じることとなる。
【0003】
そこで、特許文献1では、性別、年齢別等の属性ごとに複数人分の耳形状を取得し、これらの耳形状に基づく平均耳形状を算出している。この特許文献1に開示の技術によれば、属性ごとに算出された平均耳形状から頭部伝達関数を生成し、聴者の属性に対応した頭部伝達関数を音像定位に用いることで、聴者に生じる違和感を少なくすることができる。しかしながら、聴者の属性が平均耳形状を算出した人間の属性のいずれとも一致しない場合が起こり得る。この場合、聴者の属性に近い属性に対応した頭部伝達関数は得られるが、その頭部伝達関数は聴者の属性に正確に対応した頭部伝達関数ではないため、聴者に違和感が生じることとなる。
【0004】
そこで、特許文献2では、聴者の耳画像を撮影し、耳画像から取得した耳形状に基づいて聴者に適応する頭部伝達関数を生成するようにしている。また、特許文献2では、耳画像から得られた耳形状に近い形状に対応した頭部インパルス応答をデータベースから複数選択し、これらをクロスフェード(補間)し、フーリエ変換することで聴者に適応した頭部伝達関数を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/047116号
【0006】
【文献】国際公開第2017/116308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示の技術によれば、聴者の耳形状が頭部伝達関数の算出された耳形状のいずれとも一致しない場合においても、補間を利用することにより、聴者である個人の耳形状に適応した頭部伝達関数を得ることができる。しかしながら、十分な精度の個人適応を行うためには大量の耳形状データを記憶しておかなくてはならず、多数の人に適用するのに適さないという問題があった。また、耳画像から得られた耳形状に近い形状がデータベースに存在しない場合、個人適応の精度が下がるという問題があった。
【0008】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、多数の人に簡便に適用できる、個人に適応した頭部伝達関数を生成する技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明では、コンピュータが、個人の属性を示す属性データを取得し、属性の基準値に対応づけられた複数の標準頭部伝達関数を含むデータベースから、前記属性データに基づいて、1以上の前記標準頭部伝達関数を選択し、選択した標準頭部伝達関数と前記属性データに基づいて、前記個人に適応した頭部伝達関数を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の第1実施形態である頭部伝達関数生成方法を実行する音響処理装置を含む再生システムの構成を示すブロック図である。
図2】同音響処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】同音響処理装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】同音響処理装置のUI(User Interface)部に表示されるGUI(Graphical User Interface)を示す図である。
図5】同音響処理装置が利用するDB(Database)の構成を示す図である。
図6】同音響処理装置の動作を示すフローチャートである。
図7】この発明の第2実施形態である音響処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態を説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である音響再生システムの構成を示すブロック図である。この音響再生システムは、信号供給装置1と、本実施形態による頭部伝達関数生成方法を実行する機能を備えた音響処理装置2と、放音装置3とを有する。
【0013】
信号供給装置1は、音声や楽音等の音響を表す音源信号Sを音響処理装置2に供給する。具体的には、周囲の音響を収音して音源信号Sを生成する収音装置や、可搬型または内蔵型の記録媒体から音源信号Sを取得して音響処理装置2に供給する再生装置が信号供給装置1として採用され得る。
【0014】
音響処理装置2は、信号供給装置1から供給される音源信号Sに各種の音響処理を施して左右2チャネルの音信号を生成する。この音響処理には、音像定位処理が含まれる。音響処理装置2は、この音像定位処理に用いられる頭部伝達関数を生成する機能、すなわち、本実施形態による頭部伝達関数生成装置としての機能を備えている。
【0015】
放音装置3は、例えばヘッドホンやイヤホンであり、受聴者の両耳に装着され、音響処理装置2が生成した音信号に応じた音響を放音する。放音装置3からの再生音を受聴した利用者は、音響成分の音源の位置を明確に知覚することが可能である。なお、音響処理装置2が生成した音信号をデジタルからアナログに変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略した。また、信号供給装置1や放音装置3を音響処理装置2に搭載することも可能である。
【0016】
図2は音響処理装置2のハードウェア構成を例示するブロック図である。図2に例示される通り、音響処理装置2は、制御部11と、記憶部12と、UI(User Interface)部13と、通信部14とを具備するコンピュータである。記憶部12は、制御部11が実行するプログラムや制御部11が使用する各種のデータを記憶する。半導体記録媒体または磁気記録媒体等の公知の記録媒体や複数種の記録媒体の組合せが記憶部12として任意に採用され得る。
【0017】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置であり、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することで各種の機能を実現する。なお、制御部11の機能を複数の装置に分散した構成や、専用の電子回路が制御部11の一部の機能を分担する構成も採用され得る。
【0018】
UI部13は、各種の情報をユーザに表示する機能と、ユーザから各種の情報を取得する機能を備えた装置であり、例えばタッチパネルである。UI部13は、キーボードやマウス等も含み得る。通信部14は、ネットワークを介して他の装置と通信を行う装置である。通信は、有線通信であってもよく、無線通信であってもよい。制御部11は、この通信部14を介して例えばネットワーク上のサーバにアクセスすることができる。
【0019】
図3は制御部11が記憶部12内の音響処理プログラムを実行することにより実現される機能を示すブロック図である。音響処理部20は、信号供給装置1から供給される音源信号に音像定位等の各種の音響処理を施す。音響処理部20は、音像定位に使用する頭部伝達関数を生成する頭部伝達関数生成部30を含む。この頭部伝達関数生成部30は、取得部31と、選択部32と、生成部33とを含む。
【0020】
取得部31は、UI部13を介して属性データを取得する。この属性データは、頭部伝達関数の生成対象となるユーザの属性を示すデータである。本実施形態における属性データは、ユーザの性別を示す性別成分と、ユーザの身長を示す身長成分を含む。この属性データを取得するため、取得部31は、図4に例示するGUIをUI部13のタッチパネルに表示する。ユーザは、このGUIを利用して自分の性別と身長を入力する。取得部31は、このようにしてユーザの属性データを取得し、選択部32に供給する。
【0021】
選択部32は、標準頭部伝達関数を集めたDB40にアクセスする。このDB40は、記憶部12に記憶されたDBでもよく、ネットワークに接続されたサーバに記憶されたDBであってもよい。
【0022】
図5はDB40の構成を示す図である。このようにDB40は、複数の標準頭部伝達関数HRTF_M_150、HRTF_M_160等を含む。各標準頭部伝達関数は、属性の基準値に対応付けられている。属性の基準値は、身長、性別といった属性ごとに適宜設定されている。例えば標準頭部伝達関数HRTF_M_170は、性別の基準値「男」に対応付けられており、かつ、身長の基準値「170cm」に対応付けられている。また、標準頭部伝達関数HRTF_W_160は、性別の基準値「女」に対応付けられており、かつ、身長の基準値「160cm」に対応付けられている。属性の基準値は、標準頭部伝達関数と対応づけてDB40内に格納してもよく、DB40とは別の記憶領域に格納し、DB40内の標準頭部伝達関数に対応づけてもよい。各標準頭部伝達関数は、各々に対応付けられた属性の基準値に該当する複数人から耳形状を取得し、これらの耳形状から算出した平均耳形状に基づいて生成した頭部伝達関数である。本実施形態における標準頭部伝達関数は、このような平均耳形状から生成されたものであるが、これ以外の方法により生成されたものであってもよい。例えば属性の基準値に該当する複数人について、音源位置から各々の耳までのインパルス応答あるいは伝達関数を求め、それらのインパルス応答あるいは伝達関数を平均化することにより標準頭部伝達関数を生成してもよい。あるいは複数人について、音源位置から各々の耳までの経路の周波数特性を求め、各周波数特性の周波数方向の伸縮やシフトを行って各周波数特性に現れるピークやディップが重なるように調整し、この調整後の各周波数特性を平均化することにより標準頭部伝達関数を生成してもよい。
【0023】
選択部32は、取得部31が取得した属性データと性別成分が一致し、かつ、身長成分が最も近い2つの属性の基準値に対応付けられた2つの標準頭部伝達関数をDB40内の複数の標準頭部伝達関数の中から選択する。例えば性別成分「男」を有し、かつ、身長成分「165cm」を有する属性データを取得部31が取得した場合、選択部32は、標準頭部伝達関数HRTF_M_160およびHRTF_M_170を選択する。また、例えば性別成分「女」を有し、かつ、身長成分「145cm」を有する属性データを取得部31が取得した場合、選択部32は、標準頭部伝達関数HRTF_W_150およびHRTF_W_160を選択する。
【0024】
生成部33は、選択部32が選択した2つの標準頭部伝達関数を取得部31が取得した属性データに基づいて補間することにより個人(属性データ)に適応した頭部伝達関数を生成する。例えば性別成分「男」を有し、かつ、身長成分「165cm」を有する属性データを取得部31が取得した場合、生成部33は、標準頭部伝達関数HRTF_M_160およびHRTF_M_170を属性データの身長成分「165cm」に基づいて内挿補間することにより個人に適応した頭部伝達関数を生成する。また、例えば性別成分「女」を有し、かつ、身長成分「145cm」を有する属性データを取得部31が取得した場合、生成部33は、標準頭部伝達関数HRTF_W_150およびHRTF_W_160を属性データの身長成分「145cm」に基づいて外挿補間することにより個人に適応した頭部伝達関数を生成する。補間演算の態様には、各種考えられるが、本実施形態では、簡単な直線補間(1次補間)により個人に適応した頭部伝達関数を生成する。すなわち、先の例の場合、生成部33は、0.5HRTF_M_160+0.5HRTF_M_170なる演算により個人に適応した頭部伝達関数を生成する。また、後の例の場合、生成部33は、0.5HRTF_W_150-0.5HRTF_W_160なる演算により個人に適応した頭部伝達関数を生成する。このようにして生成された頭部伝達関数は、音響処理部20における音像定位処理に利用される。
【0025】
図6は本実施形態において制御部11が実行する頭部伝達関数生成プログラムのフローチャートである。制御部11は、UI部を介して頭部伝達関数の生成処理が指示されることによりこのプログラムを実行する。
【0026】
まず、制御部11は、取得部31としての処理を実行する(ステップS1)。すなわち、制御部11は、図4に例示するGUIをUI部13のタッチパネルに表示し、聴者から性別成分および身長成分からなる属性データを取得する。
【0027】
次に制御部11は、選択部32としての処理を実行する(ステップS2)。すなわち、制御部11は、ステップS1において取得した属性データと性別成分が一致し、かつ、身長成分が最も近い2つの属性の基準値に対応付けられた2つの標準頭部伝達関数をDB40から選択する。
【0028】
次に制御部11は、生成部33としての処理を実行する(ステップS3)。すなわち、制御部11は、ステップS2において選択した2つの標準頭部伝達関数をステップS1において取得した属性データに基づいて補間し、聴者に適応した頭部伝達関数を生成する。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、聴者である個人の属性データが複数の属性の基準値のいずれとも一致しない場合であっても、属性データに基づいて、属性データに最も近い属性の基準値に対応した2つの頭部伝達関数の補間が行われ、個人に適応した頭部伝達関数が得られる。従って、特許文献2に開示の技術に比べ、個人に適応した頭部伝達関数を得るための演算量を少なくすることができる。また、本実施形態によれば、補間により個人に適応した頭部伝達関数を生成するので、DB40を構成する標準頭部伝達関数の数を少なくし、DB40のデータ量を少なくすることができる。また、本実施形態によれば、平均耳形状から得られた標準頭部伝達関数を用いて、個人に適応した頭部伝達関数を生成するので、頭部伝達関数の個人差を吸収し、幅広い層のユーザに適切な頭部伝達関数を提供することができる。また、本実施形態によれば、属性データとして、性別、身長というユーザにとって入力し易いデータを採用したので、音響処理装置2の操作が容易になるという効果がある。
【0030】
<第2実施形態>
頭部伝達関数には、ITD(Interaural Time Difference;
両耳間時間差)と、ILD(Interaural
Level Difference; 両耳間強度差)の情報が含まれている。これらの情報は音像定位に非常に大きな影響を与えるため、頭部伝達関数と分離し、別途処理を行うことによって、音像定位の更なる精度向上が期待できる。
【0031】
そこで、この発明の第2実施形態である音響処理装置では、ITD,ILDの情報を除いた頭部伝達関数を生成するとともに、属性データからITD,ILDの情報を算出し、別途処理を行うことで音像定位の更なる精度向上を図る。
【0032】
図7はこの発明の第2実施形態である音響処理装置の機能構成を示すブロック図である。図7には、本実施形態による音響処理装置において、制御部11が記憶部12内の音響処理プログラムを実行することにより実現される音響処理部20Aの各機能が示されている。
【0033】
頭部伝達関数生成部30Aは、上記第1実施形態と同様な取得部31A、選択部32Aおよび生成部33Aを有する。本実施形態における頭部伝達関数生成部30Aと上記第1実施形態の頭部伝達関数生成部30との相違点は、選択部32Aがアクセスする標準頭部伝達関数のDB40Aにある。本実施形態におけるDB40Aは、ITDおよびILDの情報が除去された標準頭部伝達関数により構成されている。
【0034】
このような標準頭部伝達関数の生成方法に関しては各種の方法が考えられるが、例えば音源位置から聴者の左右の耳までのインパルス応答HRIR_LおよびHRIR_Rの相互相関が最大となるように両インパルス応答間の時間差を調整し、両インパルス応答のレベルが同じになるように両インパルス応答のレベルを調整し、これらの調整後の両インパルス応答をフーリエ変換することによりITDおよびILDの情報が除去された標準頭部伝達関数を生成してもよい。
【0035】
上記第1実施形態と同様、頭部伝達関数生成部30Aは、UI部を介して頭部伝達関数の生成指示が与えられることにより動作する。一方、ITD生成部61と、音像定位部63と、ITD調整部64と、ILD調整部65は、UI部を介して音響処理(音像定位処理を含む)の実行が指示されることにより動作する。
【0036】
上記第1実施形態と同様、取得部31Aは、性別成分および身長成分からなる属性データを聴者から取得する。ITD生成部61およびILD生成部62には、取得部31Aが取得した属性データと、3次元空間内における音源位置を示す音源位置情報P(x、y、z)が与えられる。ITD生成部61は、属性データが示す性別および身長に基づいて、聴者の頭部、左右の耳の形状、左右の耳の位置座標等を求め、これらの情報と音源位置情報P(x、y、z)に基づいて、例えば画像処理によりITDを示す情報を生成する。また、ILD生成部62は、ITD生成部61と同様、属性データが示す性別および身長に基づいて、聴者の頭部、左右の耳の形状、左右の耳の位置座標等を求め、これらの情報と音源位置情報P(x、y、z)に基づいて、例えば画像処理により聴者のILDを示す情報を生成する。このような処理を可能にするため、人間の性別および身長と、頭部の形状、左右の耳の形状、左右の耳の位置との関係を示すテーブルを生成し、ITD生成部61およびILD生成部62に予め記憶させてもよい。


【0037】
音像定位部63には、音像位置情報P(x、y、z)と、生成部33Aによって生成されたITDおよびILDの情報が除去された頭部伝達関数HRTF-ITD-ILDが供給される。この頭部伝達関数HRTF-ITD-ILDは、上記第1実施形態と同様、取得部31Aが取得した属性データに最も近い属性の基準値に対応付けられた2つの標準頭部伝達関数に属性データに基づく補間処理を施すことにより得られた頭部伝達関数である。
【0038】
音像定位部63は、この頭部伝達関数HRTF-ITD-ILDと音源位置情報P(x、y、z)とに基づいて、音源位置から聴者の左右の耳までの伝達関数を求め、これらの伝達関数を周波数領域において音源信号Sに乗算することにより、音源位置に定位した音を示す左右2チャネルの音信号SLaおよびSRaを生成する。
【0039】
ITD調整部64は、音信号SLaを遅延させ、音信号SLbとして出力する遅延部64Lと、音信号SRaを遅延させ、音信号SRbとして出力する遅延部64Rとを有する。ITD調整部64は、音信号SLbおよびSRbの時間差がITD生成部61からの情報により指示されたITDとなるように遅延部64Lおよび64Rの各遅延量を調整する。
【0040】
ILD調整部65は、音信号SLbのレベルを調整し、音信号SLcとして出力するレベル調整部65Lと、音信号SRbのレベルを調整し、音信号SRcとして出力するレベル調整部65Rとを有する。ILD調整部65は、音信号SLcおよびSRcのレベル差がILD生成部62からの情報により指示されたILDとなるようにレベル調整部65Lおよび65Rの各レベル調整量を調整する。このILD調整部65から得られる音信号SLcおよびSRcが放音装置3(図1参照)に供給される。
【0041】
本実施形態によれば、ITDおよびILD以外のパラメータについては、頭部伝達関数生成部30Aが聴者の属性データに基づいて生成する頭部伝達関数HRTF-ITD-ILDが利用され、ITDおよびILDについては聴者の属性データに基づいて生成されたものが利用され、音像定位の処理が実行される。従って、頭部伝達関数を利用しつつ音像定位のための処理の操作性を高めることができる。なお、本実施形態では、ITD調整部64およびILD調整部65において生成したITD、ILDを音声信号に反映させているが、これらを生成部33Aに組み込んでもよい。すなわち、ITD,ILDを別途求め、遅延およびレベル調整の処理を行った後、再度頭部伝達関数の形に戻してから音像定位を行ってもよい。
【0042】
<他の実施形態>
以上、この発明の第1および第2実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0043】
(1)上記第1および第2実施形態では、聴者の属性データに最も近い2つの属性の基準値に対応した2つの標準頭部伝達関数を補間することにより聴者に適用した頭部伝達関数を生成した。しかし、聴者に適応した頭部伝達関数の生成方法は、これに限定されるものではなく、例えば1つの標準頭部伝達関数を選択し、この1つの標準頭部伝達関数を用いて聴者に適応した頭部伝達関数を生成してもよい。具体的には、頭部伝達関数を構成する各パラメータの属性データの変化(例えば身長の変化)に対する依存性を示す補正係数を標準頭部伝達関数とともにDBに記憶させる。そして、1つの標準頭部伝達関数が選択された場合、聴者の属性データと、選択された標準頭部伝達関数に対応した属性の基準値との差分を求め、この差分と補正係数とに基づいて、聴者に適応した頭部伝達関数のパラメータと標準頭部伝達関数のパラメータとの差分を生成するのである。すなわち、この発明において、選択部は、1以上の標準頭部伝達関数を選択すればよく、その場合においても、生成部は、属性データと1以上の標準頭部伝達関数とに基づいて、個人に適応した頭部伝達関数を生成可能である。
【0044】
(2)上記第1および第2実施形態では、2つの標準頭部伝達関数が選択され、属性データに基づいて2つの標準頭部伝達関数の1次補間が行われた。しかし、補間の態様はこれに限定されるものではない。例えば聴者の属性データに最も近い属性の基準値に対応した3つ以上の標準頭部伝達関数を選択し、2次以上の補間演算により、聴者に適応した頭部伝達関数を生成してもよい。
【0045】
(3)上記第2実施形態では、取得部31Aが取得する属性データに基づいて、ITDを示す情報、ILDを示す情報を生成した。しかし、そのようにする代わりに、あるいはそのようにすることに加えて、聴者がUI部を利用して自由にITD、ILDを指定するようにしてもよい。この態様によれば、聴者は、自分の好みに合ったITD、ILDを指定することができる。
【0046】
(4)上記第1実施形態において、属性の基準値における身長成分は、150cm、160cm、170cmという具合に等間隔のデータとなっていたが、属性の基準値の間隔は任意である。
【0047】
(5)上記各実施形態では、性別、身長を属性データとしたが、属性データの種類はこれに限定されるものではない。性別、身長以外に、耳形状に影響を与える任意のデータを属性データとしてよい。
【0048】
(6)上記第1実施形態では、音響処理装置2が頭部伝達関数生成部30を有していたが、例えばネットワーク上のサーバに頭部伝達関数生成部30を設け、音響処理装置2がネットワークを介して頭部伝達関数生成部30を利用してもよい。上記第2実施形態に関しても同様である。
【0049】
(7)上記第2実施形態において、頭部伝達関数生成部30Aを設けず、例えば1種類の平均耳形状から得られた1種類の頭部伝達関数であって、ITDおよびILDの情報が除去された頭部伝達関数を用いて音像定位部63の処理を行い、この音像定位部63の処理により得られた音信号SLaおよびSRaに対し、属性データから得られたITDに基づくITD調整部64の処理と、属性データから得られたILDに基づくILD調整部65の処理を施してもよい。この態様によれば、小規模な装置構成により、操作性に優れ、幅広い層のユーザの要求を満たす音響処理装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0050】
1……信号供給装置、2……音響処理装置、3……放音装置、11……制御部、12……記憶部、13……UI部、14……通信部、20,20A……音響処理部、30,30A……頭部伝達関数生成部、31,31A……取得部、32,32A……選択部、33,33A……生成部、40……DB、61……ITD生成部、62……ILD生成部、63……音像定位部、64……ITD調整部、65……ILD調整部、64L,64R……遅延部、65L,65R……レベル調整部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7