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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】ガラス繊維用ガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20230628BHJP
   C03C 13/02 20060101ALI20230628BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20230628BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C13/02
C03C3/087
C03C3/091
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019089682
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020186138
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】横田 裕基
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-506267(JP,A)
【文献】特開2014-234319(JP,A)
【文献】特表2004-508265(JP,A)
【文献】特開2000-247683(JP,A)
【文献】特表2003-505318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 50~65%、Al 12.3~13.7%、B 1.1~3.4%、MgO 0~10%、CaO 15~30%、ZnO 0~0.1%未満、LiO 0~1%未満、NaO 0~2%、KO 0~2%、TiO 0~0.5%未満、SiO+MgO+CaO 79~86%、LiO+NaO+KO 0~2%を含有し、Pを実質的に含有せず、質量比で、(SiO+MgO+CaO)/MgO 30~80、(MgO+CaO)/MgO 8~18であることを特徴とするガラス繊維用ガラス組成物であって、
紡糸温度T と液相温度T との温度差ΔT xL が90℃以上であるガラス繊維用ガラス組成物
【請求項2】
溶融温度Tmeltが1500℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維用ガラス組成物
【請求項3】
紡糸温度Tが1300℃以下であることを特徴とする請求項1又2に記戴のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項4】
液相温度Tが1200℃以下であること特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項5】
300~500μmの粒度に粉砕分級された比重分のガラスを10質量%のHCl水溶液100ml中に80℃、90時間の条件で浸漬した時のガラスの質量減少率が10%以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項6】
300~500μmの粒度に粉砕分級された比重分のガラスを10質量%のNaOH水溶液100ml中に80℃、90時間の条件で浸漬した時のガラスの質量減少率が5%以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項7】
ヤング率が85GPa以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項8】
30~380℃における線熱膨張係数が70×10-7/℃以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項9】
25℃、1MHzでの誘電率が8以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項10】
25℃、1MHzでの誘電正接が0.003未満であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のガラス繊維用ガラス組成物からなることを特徴とするガラス繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の補強材等として用いられるガラス繊維用ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂との複合材料等に用いられるガラス繊維(ガラスファイバーともいう)は一般に次のようにして製造される。
【0003】
まず、目的の組成となるように調合し、混合した原料混合物(バッチと呼ぶ)を溶融窯の中に投入し、重油やガスのバーナー燃焼、あるいは直接通電によってガラスを加熱してバッチの表面から融解を進行させ、徐々に溶融ガラスとする。
【0004】
続いて、溶融したガラスをブッシング(紡糸炉ともいう)と呼称される成形装置に供給する。ブッシングは多数のノズル部(又はオリフィス部)を備えた略矩形状の外観を有する装置であり、ブッシングノズル先端部での溶融ガラスの粘度が大凡10dPa・sとなるように温度管理される(例えば特許文献1)。溶融ガラスの粘度が10dPa・sとなる温度は紡糸温度Tと呼ばれ、Tと液相温度Tとの温度差ΔTXLが小さいほどブッシングノズル先端部で溶融ガラス中に失透物が発生しやすくなり、糸切れが発生しやすくなる。このため、ΔTXLは大きい方が好ましいとされる。
【0005】
その後、溶融ガラスを紡糸してガラス繊維を製造する。詳述すると、ブッシングに供給された溶融ガラスを、ブッシングノズルの先端部から連続的に引き出して急冷することによりフィラメント状に成形するとともに所定本数毎に集束してガラス繊維を得る。
【0006】
このようにして製造されたガラス繊維は長繊維と呼ばれ、プリント配線板や車、飛行機などの構造部材である繊維強化プラスチック(FiberReinforced Plastics、FRP)に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-39320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガラス繊維の製造を行う場合、ガラスを融解させるための溶融窯内は1500℃以上の高温となり、ガラスの溶融から紡糸の工程において膨大なエネルギーを必要とする。しかし、近年の地球環境問題の意識の高まりから、多くのエネルギーを使用するガラス産業に対して省エネルギー化が求められている。また高温で溶融するほど、重油、ガス、電気の消費量が増え、製造コストの高騰につながる。このような事情から、ガラスをより低温で溶融する取り組みが必要とされている。
【0009】
また、ガラス繊維の製造を行う場合、紡糸温度が高いほどブッシングが変形して寿命が短くなりやすく、結果的に製造コストの高騰につながる。このため、紡糸温度を下げる取り組みも必要とされている。
【0010】
しかしながら、低温で溶融すると、バッチ中のSiOなど難溶性成分の融解が遅れ、不均質な融液が形成されるという問題がある。
【0011】
均質性の高い溶融ガラスを低温で溶融するためには難溶性の原料を粉砕して粒度を細かくする方法がある。しかしこの方法では、ガラス製造工程に原料を粉砕する工程が加わるため製造コストが上昇するという問題がある。またこの方法では紡糸温度を下げることはできない。
【0012】
本発明は、原料の粉砕等、特別な処理を行わなくても、低温でガラスの溶融及び紡糸が可能なガラス繊維用ガラス組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は質量%で、SiO 50~65%、Al 12.3~13.7%、B 1.1~5.5%、MgO 0~10%、CaO 15~30%、ZnO 0~1%未満、LiO 0~1%未満、NaO 0~2%、KO 0~2%、TiO 0~0.5%未満、SiO+MgO+CaO 79~86%、LiO+NaO+KO 0~2%を含有し、Pを実質的に含有せず、質量比で、(SiO+MgO+CaO)/MgO 30~80、(MgO+CaO)/MgO 8~18であることを特徴とする。ここで、「SiO+MgO+CaO」はSiO、MgO、及びCaOの合量であり、LiO+NaO+KOはLiO、NaO、及びKOの合量であり、(SiO+MgO+CaO)/MgOはSiO、MgO、及びCaOの合量をMgOの含有量で除した値であり、(MgO+CaO)/MgOはMgO、及びCaOの合量をMgOの含有量で除した値である。
【0014】
上記構成を採用する本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、高温粘度を低下できることから、低温で溶融及び紡糸を行える。よってエネルギー消費量を抑制した生産ができ、安価に製品を供給することが可能になる。
【0015】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、質量%で、B 1.1~3.4%を含有することが好ましい。
【0016】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、溶融温度Tmeltが1500℃以下であることが好ましい。なお、溶融温度Tmeltとは、ガラスの粘度が102.0dPa・sとなる温度である。
【0017】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、紡糸温度Tが1300℃以下であることが好ましい。なお、溶融温度Tとは、ガラスの粘度が103.0dPa・sとなる温度である。
【0018】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、液相温度Tが1200℃以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、紡糸温度Tと液相温度Tとの温度差ΔTXLが80℃以上であることが好ましい。
【0020】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、300~500μmの粒度に粉砕分級された比重分のガラスを10質量%のHCl水溶液100ml中に80℃、90時間の条件で浸漬した時のガラスの質量減少率が10%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、300~500μmの粒度に粉砕分級された比重分のガラスを10質量%のNaOH水溶液100ml中に80℃、90時間の条件で浸漬した時のガラスの質量減少率が5%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、ヤング率が85GPa以上であることが好ましい。
【0023】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、30~380℃における線熱膨張係数が70×10-7/℃以下であることが好ましい。
【0024】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、25℃、1MHzでの誘電率が8以下であることが好ましい。
【0025】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、25℃、1MHzでの誘電正接が0.003未満であることが好ましい。
【0026】
本発明のガラス繊維は、上記のガラス繊維用ガラス組成物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、原料の粉砕等、特別な処理を行わなくても、低温でガラスの溶融及び紡糸が可能なガラス繊維用ガラス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のガラス繊維用ガラス組成物について、ガラスを構成する成分の作用と、その含有量を上記のように規定した理由を説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
【0029】
SiOはガラスのネットワークを構成する元素である。その含有量は50~65%であり、50.5~65%、51~65%、51.5~65%、52~65%、52~64.5%、52~64%、52~63.5%、52~63%、52.5~63%、53~63%、53.5~63%、54~63%、54~62.5%、54~62%、54~61.5%、54~61%、54.5~61%、55~61%、55.5~61%、55.5~60.5%、特に56~60.5%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、ガラスの構造強度が著しく悪化し、機械的強度が低下する傾向にある。一方、SiOの含有量が多すぎると高温粘度が上昇しやすくなる。その結果、ガラスの溶融温度が上昇し、製造コストが高くなる。また低温で溶融しようとすると、原料を粉砕して微粉化する等の工程が必要となり、これも製造コストの上昇を招く。
【0030】
Alは溶融ガラス中での結晶の析出や分相生成を抑制する成分である。Alの含有量は12.3~13.7%であり、12.3~13.6%、12.3~13.5%、12.4~13.5%、12.4~13.4%、12.5~13.4%、12.6~13.4%、12.7~13.4%、特に12.7~13.3%であることが好ましい。Alの含有量が少なすぎると、液相温度が上昇してΔTXLが小さくなりやすくなる。また、ガラスの構造強度が著しく悪化するほか、耐水性や耐薬品性が低下する傾向にある。一方、Al含有量が多すぎると、ガラスの高温粘度が上昇し、溶融性が悪化しやすくなる。
【0031】
はSiOと同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiOのように溶融ガラスの高温粘度を上昇させることはなく、むしろ高温粘度を低下させる働きがある。Bの含有量は1.1~5.5%であり、1.1~5.4%、1.1~5.3%、1.1~5.2%、1.1~5.1%、1.1~5%、1.1~4.9%、1.1~4.8%、1.1~4.7%、1.1~4.6%、1.1~4.5%、1.1~4.4%、1.1~4.3%、1.1~4.2%、1.1~4.1%、1.1~4%、1.1~3.9%、1.1~3.8%、1.1~3.7%、1.1~3.6%、1.1~3.5%、1.1~3.4%、1.2~3.4%、1.3~3.4%、1.4~3.4%、1.5~3.4%、1.6~3.4%、1.7~3.4%、1.8~3.4%、1.8~3.3%、1.9~3.3%、1.9~3.2%、2~3.2%、2.1~3.2%、2.2~3.2%、2.3~3.2%、2.4~3.2%、2.4~3.1%、2.5~3.1%、特に2.5~3%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、高温粘度が上昇し、溶融性が悪化しやすくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、溶融過程においてスカムなどの異質ガラスが生成しやすくなる。また、B原料は高価であるため、製造コストの上昇を招く。
【0032】
MgOは、高温粘度を低下させる成分である。MgOの含有量は0~10%であり、0~9.5%、0~9%、0~8.5%、0~8%、0~7.5%、0~7%、0~6.5%、0~6%、0~5.5%、0~5%、0~4.5%、0.1~4.5%、0.2~4.5%、0.3~4.5%、0.4~4.5%、0.5~4.5%、0.6~4.5%、0.7~4.5%、0.8~4.5%、0.9~4.5%、1~4.5%、1~4.4%、1~4.3%、1~4.2%、1~4.1%、1~4%、1~3.9%、1~3.8%、1~3.7%、1~3.6%、1~3.5%、1~3.4%、1~3.3%、1~3.2%、1~3.1%、1~3%、1.1~3%、1.2~3%、1.3~3%、1.4~3%、1.5~3%、1.6~3%、1.6~2.9%、1.7~2.9%、1.7~2.8%、特に1.8~2.8%であることが好ましい。MgOの含有量が多すぎると、ディオプサイト等の結晶が析出しやすくなり、液相温度が上昇してΔTXLが小さくなりやすくなる。
【0033】
CaOは、高温粘度を低下させる成分である。CaOの含有量は15~30%であり、15.5~30%、16~30%、16~29.5%、16~29%、16.5~29%、17~29%、17~28.5%、17~28%、17.5~28%、18~28%、18~27.5%、18~27%、18.5~27%、19~27%、19~26.5%、19~26%、19~25.5%、19~25%、19.5~25%、20~25%、20.5~25%、20.8~25%、21~25%、21~24.9%、21~24.8%、21~24.7%、21~24.6%、21~24.5%、21.1~24.5%、21.2~24.5%、21.3~24.5%、21.4~24.5%、21.5~24.5%、21.6~24.5%、21.7~24.5%、21.8~24.5%、21.9~24.5%、22~24.5%、22~24.4%、22~24.3%、22~24.2%、22~24.1%、特に22~24%であることが好ましい。CaOの含有量が少なすぎると、ガラスの高温粘度が上昇し、溶融性が悪化しやすくなる。一方、CaOの含有量が多すぎると、溶融ガラスの分相性が高くなるほか、アノーサイトやウォラストナイト等の結晶が析出しやすくなり、液相温度が上昇してΔTXLが小さくなりやすくなる。
【0034】
単純に高温粘度を低下させるとΔTXLが小さくなり紡糸性が低下する。そこで本発明ではさらに、上述したディオプサイト、アノーサイト、ウォラストナイト等の結晶の構成成分であるSiO、MgO、及びCaOの比率((MgO+CaO)/MgO、及び(SiO+MgO+CaO)/MgO)を前記結晶の共晶点付近になるように調整することにより、液相温度を低下しΔTXLを大きくすることが可能になる。(MgO+CaO)/MgOは8~18であり、8.1~18、8.2~17.8、8.3~17.6、8.4~17.4、8.5~17.2.6、8.6~17、8.7~16.8、8.8~16.4、8.9~16.2、9~16、9.1~15.8、9.2~15.6、9.3~15.4、9.4~15.2、9.5~15、9.6~14.8、9.7~14.6、9.8~14.4、9.9~14.2、特に10~14であることが好ましく、(SiO+MgO+CaO)/MgOは30~80であり、30~79、30~79.5、30~78.5、30~78、30~77.5、30~77、30~76.5、30~76、30~75.5、30~75、30~74.5、30~74、30~73.5、30~73、30~72.5、30~72、30~71.5、30~71、30~70.5、30~70、30~69.5、30~69、30~68.5、30~68、30~67.5、30~67、30~66.5、30~66、30.5~66、31~66、31.5~66、32~66、32~65.5、特に32~65であることが好ましい。(MgO+CaO)/MgO、及び/又は(SiO+MgO+CaO)/MgOが小さすぎても大きすぎても、液相温度が上昇して、ΔTXLが小さくなりやすくなる。
【0035】
SiO、MgO、及びCaO原料は比較的安価であるため、SiO、MgO、及びCaOの合量を多くすることで、製造コストを低下させやすくなる。一方、SiO、MgO、及びCaOの合量が多すぎると、ディオプサイト、アノーサイト、ウォラストナイト等の結晶が析出しやすくなり、液相温度が上昇してΔTXLが小さくなりやすくなる。よって、SiO+MgO+CaOは79~86%であり、79.2~86%、79.4~86%、79.6~86%、79.8~86%、80~86%、80~85.9%、80~85.8%、80~85.7%、80~85.6%、80~85.5%、80~85.4%、80~85.3%、80~85.2%、80~85.1%、80~85%、80.1~85%、80.2~85%、80.3~85%、80.4~85%、80.5~85%、80.5~84.9%、80.5~84.8%、80.5~84.7%、80.5~84.6%、特に80.5~84.5%であることが好ましい。
【0036】
ZnOは、高温粘度を低下させる成分であるが、溶融ガラスの分相性を著しく高める成分である。また、ZnO原料は高価であるため、ZnOの含有量が多すぎると、製造コストの上昇を招く。そのため、ZnOの含有量は0~1%未満であり、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、特に実質的に含有しない(0.1%未満)ことが好ましい。
【0037】
アルカリ金属酸化物成分であるLiO、NaO、及びKOは、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に高温粘度を低下させる成分である。LiO、NaO、及びKOの合量は0~2%であり、0~1.9%、0~1.8%、0~1.7%、0~1.6%、0~1.5%、0~1.4%、0~1.3%、0~1.2%、0~1.1%、0~1%、特に0.1~1%であることが好ましい。LiO、NaO、及びKOの合量が多すぎるとガラスのアルカリ溶出量が増加し、樹脂とガラス界面における接着強度が低下して、樹脂とガラスからなる複合材料の機械的強度が低下しやすくなる。また、LiO、NaO、及びKO原料は高価であるため、LiO、NaO、及びKOの合量が多すぎると、製造コストの上昇を招く。
【0038】
なお、LiO、NaO、及びKOの含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0039】
LiOの含有量は、0~1%未満であり、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、特に0~0.1%であることが好ましい。
【0040】
NaOの含有量は、0~2%であり、0~1.9%、0~1.8%、0~1.7%、0~1.6%、0~1.5%、0~1.4%、0~1.3%、0~1.2%、0~1.1%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、特に0.1~0.8%であることが好ましい。
【0041】
Oの含有量は、0~2%であり、0~1.9%、0~1.8%、0~1.7%、0~1.6%、0~1.5%、0~1.4%、0~1.3%、0~1.2%、0~1.1%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、特に0.1~0.8%であることが好ましい。
【0042】
TiOは化学的耐久性を向上させる成分である。TiOの含有量は0~0.5%未満であり、0~0.4%、特に0~0.3%であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると、ガラスの高温粘度が上昇し、溶融性が悪化しやすくなる。また、ガラスが黄色に着色しやすくなり、樹脂とガラスからなる複合材料の透明性および透光性が失われやすくなる。ただし、TiOは不純物として混入しやすいため、TiOを完全に除去しようとすると、原料バッチが高価になり製造コストが増加する傾向にある。製造コストの増加を抑制するために、TiOの含有量の下限は0.0001%以上、0.0002%以上、0.0003%以上、0.0005%以上、特に0.001%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、上記成分に加え、さらに種々の成分を含有することができる。
【0044】
Feは、高温粘度を低下させる成分である。Feの含有量は0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、特に0~0.5%であることが好ましい。Feの含有量が多すぎるとガラスが緑色や黄色に着色しやすくなり、樹脂とガラスからなる複合材料の透明性や透光性が失われやすくなる。ただし、Feは不純物として混入しやすいため、Feを完全に除去しようとすると、原料バッチが高価になり製造コストが増加する傾向にある。製造コストの増加を抑制するために、Feの含有量の下限は0.0001%以上、0.0002%以上、0.0003%以上、0.0005%以上、0.001%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.03%以上、0.04%以上、特に0.05%以上であることが好ましい。
【0045】
は液相温度を低下する成分であるが、溶融ガラスの分相性を著しく高める成分である。またP原料は高価であり、製造コストの上昇を招くため実質的に含有しない(0.1%未満)ことが好ましい。ただし、Pは不純物として混入することがあり、Pを完全に除去しようとすると、原料バッチが高価になり製造コストが増加する傾向にある。製造コストの増加を抑制するために、Pの含有量の下限は0.0001%以上、0.0002%以上、0.0003%以上、0.0005%以上、特に0.001%以上であることが好ましい。
【0046】
SrO、及びBaOは高温粘度を低下させる成分である。SrOの含有量は0~2%、0~1.9%、0~1.8%、0~1.7%、0~1.6%、0~1.5%、0~1.4%、0~1.3%、0~1.2%、0~1.1%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、特に0.05~0.5%であることが好ましく、BaOの含有量は0~2%、0~1.9%、0~1.8%、0~1.7%、0~1.6%、0~1.5%、0~1.4%、0~1.3%、0~1.2%、0~1.1%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、特に0.05~0.5%であることが好ましい。SrO、及び/又はBaOの含有量が多すぎると溶融ガラスの分相性が高まりやすい。
【0047】
また、ガラス中の泡を低減するため清澄剤を一種類以上含有してもよい。清澄剤としては例えばSOやCl、SnO、Sb、Asなどを使用できる。この場合標準的な清澄剤の添加量の合計は、0.5%以内である。
【0048】
また化学的耐久性、高温粘度等を改善するために上記成分以外に、Cr、PbO、La、WO、Nb、Y等の成分を各々3%まで含有してもよい。
【0049】
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、不純物として、例えば、H、CO、CO、HO、He、Ne、Ar、Nを各々0.1%まで含有してもよい。さらに不純物として、Pt、Rh、Auを各々0.05%以下まで含有してもよい。
【0050】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、溶融温度Tmelt(ガラスの粘度が102.0dPa・sとなる温度)が1500℃以下、1498℃以下、1495℃以下、1493℃以下、1490℃以下、1487℃以下、1485℃以下、1483℃以下、1480℃以下、1478℃以下、1475℃以下、1472℃以下、1470℃以下、1468℃以下、1465℃以下、1463℃以下、1460℃以下、1459℃以下、1458℃以下、1457℃以下、1456℃以下、1455℃以下、1454℃以下、1453℃以下、1452℃以下、1451℃以下、特に1450℃以下であることが好ましい。溶融温度Tmeltが高すぎると、ガラス溶融を高温で行わなければならず、重油、ガス、電気の消費量が増え、製造コストの増大につながる。
【0051】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、紡糸温度T(ガラスの粘度が103.0dPa・sとなる温度)が1300℃以下、1298℃以下、1295℃以下、1293℃以下、1290℃以下、1288℃以下、1285℃以下、1283℃以下、1280℃以下、1279℃以下、1278℃以下、1277℃以下、1276℃以下、1275℃以下、1274℃以下、1273℃以下、1272℃以下、1271℃以下、1270℃以下、1269℃以下、1268℃以下、1267℃以下、1266℃以下、1265℃以下、1264℃以下、1263℃以下、1262℃以下、1261℃以下、特に1260℃以下であることが好ましい。Tが高すぎると、ガラス繊維を高温で紡糸する必要が生じることから、ブッシングが変形して寿命が短くなりやすく、製造コストの増大につながる。
【0052】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、液相温度Tが1200℃以下、1195℃以下、1190℃以下、1185℃以下、1180℃以下、1178℃以下、1176℃以下、1174℃以下、1172℃以下、1170℃以下、1169℃以下、1168℃以下、1167℃以下、1166℃以下、1165℃以下、1164℃以下、1163℃以下、1162℃以下、1161℃以下、特に1160℃以下であることが好ましい。Tが高すぎると、ΔTXLが小さくなり、紡糸性が悪化する。すなわち溶融ガラス中に失透物が発生しやすくなり、糸切れが発生しやすくなる。なお液相温度は約120×20×10mmの白金ボートに粉砕した試料を充填して線形の温度勾配を有する電気炉に16時間投入し、顕微鏡によって判定した結晶析出箇所の温度を電気炉の温度勾配グラフから算出する方法によって求めることができる。
【0053】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、紡糸温度Tと液相温度Tとの温度差ΔTXLが80℃以上、81℃以上、82℃以上、83℃以上、84℃以上、85℃以上、86℃以上、87℃以上、88℃以上、89℃以上、90℃以上、91℃以上、92℃以上、93℃以上、94℃以上、95℃以上、96℃以上、97℃以上、98℃以上、99℃以上、特に100℃以上であることが好ましい。ΔTXLが小さすぎると紡糸性が悪化する。
【0054】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、300~500μmの粒度に分級された比重分の重量のガラスを10質量%のHCl水溶液100ml中に80℃、90時間浸漬した時のガラスの質量減少率が10%以下、9.5%以下、9%以下、8.5%以下、8%以下、7.5%以下、7%以下、6.5%以下、6.4%以下、6.3%以下、6.2%以下、6.1%以下、特に6%以下であることが好ましい。質量減少率が高すぎると、耐酸性を必要とする用途に使用しにくくなる。
【0055】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、300~500μmの粒度に分級された比重分の重量のガラスを10質量%のNaOH水溶液100ml中に80℃、90時間浸漬した時のガラスの質量減少率が5%以下、4.8%以下、4.6%以下、4.4%以下、4.2%以下、4%以下、3.8%以下、3.6%以下、3.4%以下、3.2%以下、特に3%以下であることが好ましい。質量減少率が高すぎると、耐アルカリ性を必要とする用途に使用しにくくなる。
【0056】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、ヤング率が80GPa以上、80.5GPa以上、81GPa以上、81.5GPa以上、82GPa以上、82.5GPa以上、83GPa以上、83.5GPa以上、84GPa以上、84.5GPa以上、85GPa以上、85.5GPa以上、86GPa以上、86.5GPa以上、特に87GPa以上であることが好ましい。ヤング率が低すぎると、樹脂とガラスからなる複合材料の機械的強度が低下しやすくなる。なお、ヤング率の上限は特に限定されないが、現実的には200GPa以下である。
【0057】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、30~380℃における線熱膨張係数が70×10-7/℃以下であるならば、プリント配線板等として使用された場合に低い熱膨張係数のものとなるので好ましい。
【0058】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、上述に加え周波数1MHzにおける誘電率が8以下であり、かつ誘電正接が0.003未満であるならば、誘電損失が小さくなるためプリント配線板等として利用する際に安定した性能を発揮するものとなる。
【0059】
本発明のガラス繊維は、上記組成及び特性を有することを特徴とする。組成や特性は既述の通りであり、ここでは説明を省略する。また本発明のガラス繊維は、例えばチョップドストランド、ヤーン、ロービング等の形態で使用に供することが好ましい。なおチョップドストランドとは、ガラスモノフィラメントを集束したストランドを所定長の長さに切断したものである。ヤーンとは、ストランドに撚りをかけたものである。ロービングとは、ストランドを複数本合糸し、円筒状に巻き取ったものである。
【0060】
次に本発明のガラス繊維の製造方法を説明する。
【0061】
まず上記組成(及び特性)となるように、調合したガラス原料バッチをガラス溶融炉に投入し、ガラス化し、溶融、均質化する。組成については既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0062】
続いて溶融ガラスを紡糸してガラス繊維に成形する。詳述すると、溶融ガラスをブッシングに供給する。ブッシングに供給された溶融ガラスは、その底面に設けられた多数のブッシングノズルからフィラメント状に連続的に引き出される。このようにして引き出されたモノフィラメントに各種処理剤を塗布し、所定本数毎に集束することによってガラス繊維を得る。
【0063】
このようにして成形された本発明のガラス繊維は、チョップドストランド、ヤーン、ロービング等に加工され、種々の用途に供される。
【実施例
【0064】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0065】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~6)および比較例(試料No.7)を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
各試料は、以下のようにして調製した。
【0068】
まず、表1のガラス組成になるように、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を秤量、混合して、500gのガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム合金製坩堝に投入した後、1500℃にて4時間溶融した。続いて、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型内に流し出し、空気中で放冷して塊状のガラス試料を得た。このようにして得られたガラス試料について、溶融温度、紡糸温度、液相温度、耐酸性、耐アルカリ性、ヤング率、線熱膨張係数、誘電率、及び誘電正接を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
溶融温度Tmelt(ガラスの粘度が102.0dPa・sとなる温度)、及び紡糸温度T(ガラスの粘度が103.0dPa・sとなる温度)は次のようにして評価した。塊状のガラス試料を適正な寸法に破砕し、なるべく気泡が巻き込まれないようにアルミナ製坩堝に投入した。続いてアルミナ坩堝を加熱して、試料を融液状態とし、白金球引き上げ法によって複数の温度におけるガラスの粘度の計測値を求め、Vogel-Fulcher式の定数を算出して粘度曲線を作成し、その内挿によってガラスの粘度が103.0dPa・sとなる温度と102.0dPa・sとなる温度を算出する方法により測定した。
【0070】
液相温度Tの測定は、約120×20×10mmの白金ボートに粉砕した試料を充填して線形の温度勾配を有する電気炉に16時間投入し、顕微鏡によって判定した結晶析出箇所の温度を電気炉の温度勾配グラフから算出、この温度を液相温度Tとした。
【0071】
耐酸性は次のようにして測定した。まず、上記した板状ガラス試料を粉砕し、直径300~500μmの粒度のガラスを比重分の重量だけ精秤し、続いて10質量%HCl溶液100ml中に浸漬して、80℃、90時間の条件で振とうした。その後、ガラス試料の重量減少率を測定した。この値が小さいほど耐酸性に優れていることになる。
【0072】
耐アルカリ性は次のようにして測定した。まず、上記した板状ガラス試料を粉砕し、直径300~500μmの粒度のガラスを比重分の重量だけ精秤し、続いて10質量%NaOH溶液100ml中に浸漬して、80℃、90時間の条件で振とうした。その後、ガラス試料の重量減少率を測定した。この値が小さいほど耐アルカリ性に優れていることになる。
【0073】
ヤング率は、1200番アルミナ粉末を分散させた研磨液で表面を研磨した板状試料(40mm×20mm×2mm)について、自由共振式弾性率測定装置を用いて室温環境下にて測定した。
【0074】
線熱膨張係数は、20mm×3.8mmφに加工した試料を用いて、30~380℃の温度域で測定した平均線熱膨張係数により評価した。測定にはNETZSCH製Dilatometerを用いた。
【0075】
誘電率、及び誘電正接は、1200番アルミナ粉末を分散させた研磨液で表面を研磨した板状試料(50mm×50mm×3mm)について、インピーダンスアナライザを用いて室温環境下、周波数1MHzにて測定した。
【0076】
表から明らかなように、実施例である試料No.1~6は溶融温度Tmeltが1500℃以下であり、紡糸温度Tが1300℃以下であり、液相温度Tが1200℃以下であり、耐酸性、耐アルカリ性、ヤング率、線熱膨張係数、誘電率、及び誘電正接が、繊維強化プラスチック(FiberReinforced Plastics、FRP)用途のガラスとして適した特性値を示した。
【0077】
これに対し、比較例である試料No.7は溶融温度Tmeltが1500℃超、紡糸温度Tが1300℃超であり、低温での溶融、紡糸が困難であることが分かる。