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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20230628BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230628BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230628BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/00 M
B23K26/082
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019223091
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021090987
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉野 友洋
(72)【発明者】
【氏名】松岡 修史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 哲郎
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-206144(JP,A)
【文献】特開2011-005533(JP,A)
【文献】特開2016-043409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0061053(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/00
B23K 26/082
B23K 26/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、
前記金属板間のギャップに対して溶接進行方向の前方側から後方側に向けてフィラーワイヤを供給しつつ前記ギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせながら該ギャップに沿ってレーザ光を照射するに際して、
オシレート動作する前記レーザ光の前記ギャップ通過時におけるオシレート光路を前記フィラーワイヤの先端を囲むような前記溶接進行方向の後方側に凸の円弧状とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記円弧状のオシレート光路に対して前記フィラーワイヤの先端が位置ずれした場合に、そのずれた量だけ前記レーザ光の照射位置を補正する請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を前記金属板間に照射するレーザヘッドと、
前記レーザ光を前記金属板間のギャップに沿って移動させるヘッド駆動機構と、
前記ギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせるオシレート機構と、
前記ギャップに対して溶接進行方向の前方側から後方側に向けてフィラーワイヤを供給するワイヤ供給部と、
前記レーザヘッド,前記ヘッド駆動機構及び前記オシレート機構の各動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、オシレート動作する前記レーザ光の前記ギャップ通過時におけるオシレート光路が前記フィラーワイヤの先端を囲むべく前記溶接進行方向の後方側に凸の円弧状となるように前記オシレート機構を制御するレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記フィラーワイヤの供給状況を検出するワイヤ検出部を有し、前記制御部は、前記円弧状のオシレート光路に対して前記フィラーワイヤの先端が位置ずれしたのを前記ワイヤ検出部が検出した場合に、そのずれた量だけ前記レーザ光の照射位置を補正するべく前記オシレート機構を制御する請求項3に記載のレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、板厚5mm程度の金属板同士をレーザ光の照射によって接合する際に用いられるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したような板厚5mm程度の金属板同士を接合する場合、金属板間にはギャップが否応なく生じる。このようなギャップがある金属板同士をレーザ光により接合する場合には、このギャップをなくすために、従来において、例えば、ギャップに対してフィラーワイヤを供給しつつレーザ光をオシレートさせるレーザ溶接装置が採用されている(特許文献1参照。)。
【0003】
すなわち、このレーザ溶接装置は、レーザ光源からのレーザ光を金属板上に集光して金属板間に生じているギャップを跨ぐようにオシレートさせる光学系と、この光学系をギャップに沿って移動させる移動機構と、ギャップにフィラーワイヤを供給するワイヤ供給器と、フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出してワイヤ供給器を制御するワイヤ供給制御部を備えている。
【0004】
この際、光学系はレーザ光の金属板からの戻り光を受けて光強度を測定する受光光学系を含んでおり、ワイヤ供給制御部は受光光学系からの光強度の変化をオシレート動作に沿って取得してフィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出するようになっている。
【0005】
つまり、このレーザ溶接装置では、受光光学系からの光強度の変化に基づいて、オシレートに沿った溶接部位置や姿勢を算出するので、この算出した溶接部位置や姿勢に対応してワイヤ供給器を動作させることで、溶接部位置にフィラーワイヤを安定して供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-043409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来のレーザ溶接装置において、大半の場合、溶接部位置にフィラーワイヤを安定して供給することができるものの、溶接進行方向の前方側から後方側に向けて供給されるフィラーワイヤの先端が溶接部位置を超えて溶接進行方向の後方側に入り込んだ場合には、ワイヤ供給制御部でフィラーワイヤの供給位置及びその姿勢が算出される前に、フィラーワイヤの先端が過剰溶融して溶融池から離脱してしまい、その結果、溶接欠陥が発生する可能性があるという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0008】
本開示は、上記した従来の課題を解決するためになされたもので、板厚5mm程度の金属板同士をレーザ光の照射により接合する場合において、フィラーワイヤの過剰溶融を回避することができるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、前記金属板間のギャップに対して溶接進行方向の前方側から後方側に向けてフィラーワイヤを供給しつつ前記ギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせながら該ギャップに沿ってレーザ光を照射するに際して、オシレート動作する前記レーザ光の前記ギャップ通過時におけるオシレート光路を前記フィラーワイヤの先端を囲むような前記溶接進行方向の後方側に凸の円弧状とする構成としている。
また、本開示の第2の態様は、前記円弧状のオシレート光路に対して前記フィラーワイヤの先端が位置ずれした場合に、そのずれた量だけ前記レーザ光の照射位置を補正する構成としている。
【0010】
一方、本開示の第3の態様は、金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、レーザ光を前記金属板間に照射するレーザヘッドと、前記レーザ光を前記金属板間のギャップに沿って移動させるヘッド駆動機構と、前記ギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせるオシレート機構と、前記ギャップに対して溶接進行方向の前方側から後方側に向けてフィラーワイヤを供給するワイヤ供給部と、前記レーザヘッド,前記ヘッド駆動機構及び前記オシレート機構の各動作を制御する制御部を備え、前記制御部は、オシレート動作する前記レーザ光の前記ギャップ通過時におけるオシレート光路が前記フィラーワイヤの先端を囲むべく前記溶接進行方向の後方側に凸の円弧状となるように前記オシレート機構を制御する構成としている。
さらに、本開示の第4の態様は、前記フィラーワイヤの供給状況を検出するワイヤ検出部を有し、前記制御部は、前記円弧状のオシレート光路に対して前記フィラーワイヤの先端が位置ずれしたのを前記ワイヤ検出部が検出した場合に、そのずれた量だけ前記レーザ光の照射位置を補正するべく前記オシレート機構を制御する構成としている。
【0011】
なお、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、レーザ溶接により接合する金属板の厚さは特に限定しない。例えば、中板と呼称される3~6mmの金属板を特に対象としている。
【0012】
また、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、レーザにはYAGレーザや半導体レーザやファイバーレーザを用いるのが一般的であるが、これらのものに限定されない。
【0013】
さらに、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置は、金属板同士を突き合わせ接合するのに用いることができるほか、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を金属板同士の隅肉溶接にも適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置によれば、板厚5mm程度の金属板同士をレーザ光の照射により接合する場合に、フィラーワイヤの過剰溶融を回避することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係るレーザ溶接方法に用いるレーザ溶接装置を示す概略説明図である。
図2図1のレーザ溶接装置によりオシレートするレーザ光とフィラーワイヤの上向きに反った先端との距離が近い場合の位置関係を示す部分拡大断面説明図(a)及び部分拡大平面説明図(b)である。
図3図2の状態にあるレーザ光の照射位置を補正した後のフィラーワイヤの上向きに反った先端に対する位置関係を示す部分拡大断面説明図(a)及び部分拡大平面説明図(b)である。
図4図1のレーザ溶接装置によりオシレートするレーザ光とフィラーワイヤの下向きに反った先端との距離が近い場合の位置関係を示す部分拡大断面説明図(a)及び部分拡大平面説明図(b)である。
図5図4の状態にあるレーザ光の照射位置を補正した後のフィラーワイヤの下向きに反った先端に対する位置関係を示す部分拡大断面説明図(a)及び部分拡大平面説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るレーザ溶接装置を示しており、本実施形態では、本開示に係るレーザ溶接装置を金属板同士の突き合わせ接合に用いた場合を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に概略的に示すように、このレーザ溶接装置1は、金属板W,W同士をレーザ溶接により突き合わせ接合するものであって、レーザ発振器2と、このレーザ発振器2から供給されるレーザ光Lを内蔵した光学系3により集光して金属板W,W間に照射するレーザヘッド4と、レーザ発振器2からのレーザ光Lをレーザヘッド4へ導く光ファイバ5と、レーザヘッド4を金属板W,W間に生じているギャップWaに沿って移動させるヘッド駆動機構6と、ギャップWaを跨ぐようにレーザ光Lを往復移動させる、すなわち、ギャップWaを跨いでレーザ光Lをオシレートさせるオシレート機構8と、ギャップWaに対して溶接進行方向(図1右上から左下に向かう方向)の前方側から後方側に向けてフィラーワイヤFWを供給するワイヤ供給部11と、フィラーワイヤFWの供給状況を検出するカメラ(ワイヤ検出部)12と、レーザヘッド4,ヘッド駆動機構6及びオシレート機構8の各動作を制御する制御部10を備えている。
【0018】
ヘッド駆動機構6は、金属板W,W間のギャップWaに沿って配置されるレール6aと、このレール6a上を往復移動するスライダ6bを具備している。この場合、レーザヘッド4は、ギャップWaを跨ぐようにレーザ光照射方向を合わせるようにしてスライダ6bに固定されている。
【0019】
オシレート機構8は、ヘッド駆動機構6のスライダ6bに支持台7を介して取り付けられたケース9に保持されており、水平軸回りに回動してレーザヘッド4からのレーザ光Lを金属板W,Wに向けて反射するスキャナミラー8aと、このスキャナミラー8aを所定の範囲で回動させるミラー用モータ8bを具備している。
【0020】
この際、オシレート機構8は、鉛直軸回りに回動するジンバル8cと、このジンバル8cを所定の範囲で回動させるジンバル用モータ8dを具備しており、スキャナミラー8a及びミラー用モータ8bをジンバル8cで支持することで、スキャナミラー8aを2自由度で回動させることができるようになっている。
【0021】
この実施形態において、制御部10は、図1の拡大円内に示すように、オシレート動作するレーザ光LがギャップWaを通過する際のオシレート光路OTを溶接進行方向の後方側に凸の円弧状となるようにオシレート機構8のミラー用モータ8b及びジンバル用モータ8dを制御するようになっている。
【0022】
より詳述すれば、制御部10は、フィラーワイヤFWの先端FWtを囲むようにオシレート光路OTを設定して、フィラーワイヤFWの先端FWtの近傍をレーザ光Lが溶融可能に移動するように制御することで、フィラーワイヤFWを安定して溶融させるようにしている。
【0023】
また、制御部10は、フィラーワイヤFWの先端FWtが円弧状のオシレート光路OTに対してあらかじめ設定した位置からずれたのをカメラ12が検出した場合に、そのずれた量だけレーザ光Lの照射位置を補正するべくオシレート機構8のミラー用モータ8b及びジンバル用モータ8dを制御するようになっている。
【0024】
すなわち、制御部10は、図2(a),(b)に示すように、フィラーワイヤFWの上反りの先端FWtが円弧状のオシレート光路OTの内側に深く入り込んだ場合において、オシレート機構8のミラー用モータ8b及びジンバル用モータ8dに指令を出して、図示矢印方向に円弧状のオシレート光路OTを移動させて(レーザ光Lの照射位置を移動させて)、図3(a),(b)に示すように、フィラーワイヤFWの先端FWtが円弧状のオシレート光路OTの略中心に位置するようにコントロールする。
【0025】
これと同じく制御部10は、図4(a),(b)に示すように、フィラーワイヤFWの下反りの先端FWtが円弧状のオシレート光路OT外に外れた場合において、オシレート機構8のミラー用モータ8b及びジンバル用モータ8dに指令を出して、図示矢印方向に円弧状のオシレート光路OTを移動させて(レーザ光Lの照射位置を移動させて)、図5(a),(b)に示すように、フィラーワイヤFWの先端FWtが円弧状のオシレート光路OTの略中心に位置するようにコントロールする。
【0026】
このように構成されたレーザ溶接装置1を用いて金属板W,W同士を接合するに際しては、まず、金属板W,Wの各両端部間にタブ板Tをそれぞれ仮付けする。
【0027】
この後、レーザ溶接装置1を始動すると、レーザ発振器2からレーザヘッド4に対するレーザ光Lの供給が開始され、レーザヘッド4からは光学系3で集光したレーザ光Lの照射が金属板W,W間に向けて開始される。
【0028】
これと同時に、ヘッド駆動機構6及びオシレート機構8がそれぞれ動作を開始し、これにより、金属板W,W間に生じているギャップWaを跨ぐようにオシレートしつつレーザ光LがギャップWaに沿って移動する。そして、レーザ光Lが移動するのに合わせてワイヤ供給部11が作動して、溶接進行方向の前方側から後方側に向けてギャップWaに対するフィラーワイヤFWの供給が開始される。
【0029】
このレーザ溶接装置1において、オシレート動作するレーザ光LがギャップWaを通過する際には、オシレート機構8のミラー用モータ8b及びジンバル用モータ8dの作動により、溶接進行方向の後方側に凸の円弧状を成すように(フィラーワイヤFWの先端FWtを囲むように)設定したオシレート光路OTをレーザ光Lが移動する。つまり、フィラーワイヤFWの先端FWtの近傍をレーザ光Lが溶融可能に移動する。
【0030】
したがって、このレーザ溶接装置1では、フィラーワイヤFWの先端FWtに直接レーザ光Lが当たらないので、フィラーワイヤFWが想定外に過剰に溶融されることが回避されることとなる。すなわち、フィラーワイヤの先端が過剰溶融して溶融池から離脱するようなことがなくなり、溶接欠陥の発生が回避されることとなる。
【0031】
加えて、このレーザ溶接装置1において、フィラーワイヤFWの先端FWtが円弧状のオシレート光路OTに対してあらかじめ設定した位置からずれたのをカメラ12が検出した場合は、制御部10からの指令によってオシレート機構8のミラー用モータ8b及びジンバル用モータ8dが作動し、そのずれた量だけレーザ光Lの照射位置を補正する。
【0032】
つまり、フィラーワイヤFWの先端FWtの位置ずれにも対応して常に安定してフィラーワイヤFWを溶融させることができるので、未接合等の溶接欠陥の発生を少なく抑え得ることとなる。
【0033】
上記した実施形態では、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置が、金属板W,W同士を突き合わせ接合するレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置である場合を示したが、これに限定されるものではなく、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を金属板同士の隅肉溶接にも適用することが当然可能である。
【0034】
本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 レーザ溶接装置
4 レーザヘッド
6 ヘッド駆動機構
8 オシレート機構
10 制御部
11 ワイヤ供給部
12 カメラ(ワイヤ検出部)
FW フィラーワイヤ
FWt フィラーワイヤの先端
L レーザ光
OT オシレート光路
W 金属板
Wa ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5