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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】配電系統制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 13/00 20060101AFI20230628BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
H02J13/00 311R
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019202979
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2020156311
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019045428
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第18回情報科学技術フォーラム(FIT2019)、主催者名:一般社団法人電子情報通信学会 情報・システムソサイエティ(ISS) ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)、一般社団法人情報処理学会(FIT2019幹事学会)、開催日:2019年9月3日。 集会名:電力技術/電力系統技術合同研究会、主催者名:一般社団法人 電気学会、開催日:2019年9月19日。
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉村 修平
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隆之
(72)【発明者】
【氏名】周 暁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 顕
(72)【発明者】
【氏名】畠山 航
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-243556(JP,A)
【文献】特開2009-284614(JP,A)
【文献】特開2005-117787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
H02J 3/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象である配電系統内における目的関数値が最小値または最適値となるように配電系統内の電力が供給される領域間の接続関係を導出する配電系統導出部と、
前記配電系統導出部により導出された接続関係に基づいて、前記配電系統内の複数の開閉器の各々を開閉する開閉信号を生成して出力する開閉信号出力部と、を備え、
前記配電系統導出部は、
制御対象である配電系統内のすべての開閉器の開閉状態を閉状態にしてから、配電系統に環状構造が残っている状態または電力供給点が2個以上となる領域がある状態であるループを壊していくことで、配電系統において満たすべき電気的な制約条件を満たす候補を抽出する配電系統候補抽出部と、
前記配電系統候補抽出部が抽出した候補を対象として、配電系統内における目的関数値が最小値または最適値となる接続関係を選択する配電系統選択部とを備え、
前記目的関数値の最小値または最適値は、配電系統内の損失の最小化、電圧降下量の最小化、通過電流の最小化、所定の期間を指定した最適化、分散型電源による潮流変化を考慮した最適化又は不平衡計算による不平衡改善に向けた最適化を求めるための目的関数から求められる最小値または最適値であり、前記配電系統導出部は、前記目的関数値が最小値または最適値となるように配電系統内の接続関係を導出する、配電系統制御装置。
【請求項2】
前記配電系統導出部によって、制御対象である前記配電系統の一部における電力が供給される領域間の接続関係を導出する部分最適化を複数回行うことで制御対象である前記配電系統の全体の接続関係を導出することを特徴とする請求項1に記載の配電系統制御装置。
【請求項3】
選択された異なる領域群に対して同時に前記部分最適化を行うことを特徴とする請求項2に記載の配電系統制御装置。
【請求項4】
前記配電系統候補抽出部にて抽出された前記候補を用いて、配電系統の現在の開閉状態から特定の開閉器を開状態から閉状態にして一時的にループ状態とし、他の開閉器を閉状態から開状態に切り替えてループを解消し、
現在状態から遷移する過程の遷移状態の配電方法についても配電系統において満たすべき電気的な制約条件を満たすように配電系統の開閉器の開閉状態を前記現在状態から最良状態まで切り替えていくことを特徴とする請求項1に記載の配電系統制御装置。
【請求項5】
前記部分最適化における一部の接続関係に着目した状態遷移空間から、前記配電系統候補抽出部にて抽出された前記候補を用いて、配電系統の現在の開閉状態から特定の開閉器を開状態から閉状態にして一時的にループ状態とし、他の開閉器を閉状態から開状態に切り替えてループを解消し、現在状態から遷移する過程の遷移状態の配電方法についても配電系統において満たすべき電気的な制約条件を満たすように配電系統の開閉器の開閉状態を前記現在状態から最良状態まで切り替えていく切替手順も作成して記憶することを特徴とする請求項2又は3に記載の配電系統制御装置。
【請求項6】
配電系統において満たすべき電気的な制約条件を満たさない候補も記憶することを特徴とする請求項1に記載の配電系統制御装置。
【請求項7】
常開開閉器の中から閉状態にする開閉器を選択し、前記配電系統導出部によって、制御対象である前記配電系統の一部における電力が供給される領域間の接続関係を導出する部分最適化を行うことを特徴とする請求項1に記載の配電系統制御装置。
【請求項8】
前記開閉器の切替の探索の際に、遷移状態の配電系統候補の目的関数値によって前記配電系統候補に重みを付加することを特徴とする請求項5に記載の配電系統制御装置。
【請求項9】
前記開閉器の切替を行う際に工事者の前記開閉器を操作するための移動距離を重みとして、前記状態遷移空間の状態間にある辺に前記重みを付加することによって、工事者の移動距離が小さい切替手順を算出する請求項5に記載の配電系統制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電系統内の電力の供給源と需要家との間に配された複数の開閉器の開閉状態を制御することで、供給源から需要家への伝送効率を向上させる技術が広く知られている。
一般に、これら複数の開閉器の開閉状態は、設定した目的関数を様々なアルゴリズムにより解くことで決定されて制御される。
【0003】
従来技術の一例である非特許文献1には、供給点を根とする系統条件を満たした木を全て列挙し、整数計画法によってそれらの木の最適な組み合わせの厳密解を算出することで配電系統の構成を決定する技術が開示されている。
【0004】
また、従来技術の一例である非特許文献2には、メタヒューリスティクス手法の一つであるタブー探索を用いて配電系統損失最小化問題を解く技術が開示されている。
【0005】
更には、従来技術の一例である非特許文献3には、メタヒューリスティクス手法の一つである遺伝的アルゴリズムを用いて送配電系統の電力損失を最小化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】安田宜仁、他3名、「配電損失最小化問題のスケーラブルな厳密解法」、平成28年電気学会全国大会、6-156、第6分冊、p.250-251
【文献】三島裕樹、他4名、「配電系統損失最小化問題のタブー探索を用いた解法」、電気学会論文誌B、Vol.123、No.10、2003年
【文献】青木秀憲、他1名、「GAによる送配電系統の電力損失最小化手法」、電気学会論文誌B、Vol.115、No.5、1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の非特許文献1に開示された従来技術では、供給点の供給力が大きい場合又は需要量が少ない場合には列挙する木の数が多く、許容される時間内に厳密解を求めることが困難である、という問題があった。
【0008】
また、上記の非特許文献2,3に開示された従来技術では、厳密解を得られる保証がなく、配電系統の規模が大きいほど実行時間が長くなり、又は局所解に陥りやすくなる、という問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、配電系統への供給力及び配電系統内の需要量によらず、配電系統の伝送効率が高い構造を従来よりも高速に導出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決して目的を達成する本発明は、制御対象である配電系統内における目的関数値を抑制するように配電系統内の接続関係を導出する配電系統導出部と、前記配電系統導出部により導出された接続関係に基づいて、前記配電系統内の複数の開閉器の各々を開閉する開閉信号を生成して出力する開閉信号出力部と、を備え、前記配電系統導出部は、制御対象である配電系統内のすべての開閉器の開閉状態を閉状態にしてからループを壊していくことで、制約条件を満たす候補を抽出する配電系統候補抽出部と、前記配電系統候補抽出部が抽出した候補を対象として、配電系統内における目的関数値を抑制する接続関係を選択する配電系統選択部とを備え、前記目的関数値は、配電系統内の損失の最小化、電圧降下量の最小化、通過電流の最小化、所定の期間を指定した最適化、分散型電源による潮流変化を考慮した最適化又は不平衡計算による不平衡改善に向けた最適化を目的関数とする配電系統制御装置である。
【0011】
上記構成の配電系統制御装置において、制御対象である前記配電系統の一部の接続関係に着目して部分最適化を複数回行うことで制御対象である前記配電系統の全体の接続関係を導出してもよい。
【0012】
上記構成の配電系統制御装置において、前記部分最適化に並列化を用いてもよい。
【0013】
上記構成の配電系統制御装置において、前記配電系統候補抽出部にて抽出された前記候補を用いて、配電系統の現在の開閉状態から特定の開閉器を開状態から閉状態にして一時的にループ状態とし、他の開閉器を閉状態から開状態に切り替えてループを解消し、現在状態から遷移する過程の遷移状態の配電方法についても制約条件を満たすように配電系統の開閉器の開閉状態を前記現在状態から最良状態まで切り替えていく構成であってもよい。
【0014】
上記構成の配電系統制御装置において、前記部分最適化における一部の接続関係に着目した状態遷移空間から、切替手順も作成して記憶してもよい。
【0015】
上記構成の配電系統制御装置において、制約条件を満たさない候補も記憶してもよい。
【0016】
上記構成の配電系統制御装置において、常開開閉器の中から閉状態にする開閉器を選択し、系統の一部の最適化を行ってもよい。
【0017】
上記構成の配電系統制御装置において、前記開閉器の切替の探索の際に、遷移状態の目的関数値の影響を受けてもよい。
【0018】
上記構成の配電系統制御装置において、前記状態遷移空間の辺に重みを付加して切替手順を算出してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、配電系統への供給力及び配電系統内の需要量によらず、配電系統の伝送効率が高い構造を従来よりも高速に導出することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態1に係る配電系統制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態1に係る配電系統制御装置の制御対象である配電系統の構成例を示す図である。
図3図2に示す構成の配電系統を区切り、分岐点ノード及び開閉器ノードを点とし、区切られた区間及び開閉器を辺とした図である。
図4A図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部の動作を示す第1のフローチャートである。
図4B図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部の動作を示す第2のフローチャートである。
図5図3に示す配電系統から配電系統候補を抽出した図である。
図6A図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部の動作を示す深さ優先の第1のフローチャートである。
図6B図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部の動作を示す深さ優先の第2のフローチャートである。
図7図3に示す配電系統から配電系統候補を深さ優先で抽出した図である。
図8】実施形態2において、4個の供給点と18個の需要点とを有する配電系統を示す図である。
図9】実施形態2における部分最適化による配電系統を導出するフローチャートである。
図10A】実施形態3における部分最適化による配電系統を導出する第1のフローチャートである。
図10B】実施形態3における部分最適化による配電系統を導出する第2のフローチャートである。
図11】実施形態4において切替手順を説明するための配電系統を示す図である。
図12】実施形態4において現在状態から最良状態への切替手順を示す状態遷移空間を示す図である。
図13】実施形態4において切替手順を具体的に説明する図である。
図14】実施形態6における状態遷移空間を示す図である。
図15】実施形態8における状態遷移空間を示す図である。
図16】実施形態9における状態遷移空間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態の記載によって限定解釈されるものではない。
【0022】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る配電系統制御装置10の構成を示すブロック図である。
図1に示す配電系統制御装置10は、配電系統導出部11と、電力需要データ記憶部12と、配電系統構成データ記憶部13と、発電出力データ記憶部14と、開閉信号出力部15とを備え、制御対象である配電系統内の開閉器の開閉状態を制御する。
【0023】
配電系統導出部11は、配電系統候補抽出部111と、配電系統選択部112とを備える。
配電系統候補抽出部111は、制御対象である配電系統内の開閉器の開閉状態の組み合わせから、制約条件を満たす候補を抽出する。
配電系統選択部112は、配電系統候補抽出部111が抽出した候補を対象として、目的関数値の一例である配電系統内における電力損失を抑制して好ましくは最小化する接続関係を選択する。
配電系統導出部11は、MPU(Micro Processing Unit)及びCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサにより実現することができる。
【0024】
電力需要データ記憶部12は、配電系統制御装置10の制御対象である配電系統内の電力需要データを記憶する。
電力需要データ記憶部12は、半導体メモリ及び磁気ディスク等の記録媒体により実現することができる。
【0025】
配電系統構成データ記憶部13は、配電系統制御装置10の制御対象である配電系統内の需要点及び供給点の接続構成のデータを記憶する。
ここで、配電系統内の需要点及び供給点の接続構成のデータには、配電系統に含まれる複数の開閉器の各々の開閉情報が含まれる。
配電系統構成データ記憶部13は、半導体メモリ及び磁気ディスク等の記録媒体により実現することができる。
【0026】
発電出力データ記憶部14は、配電系統制御装置10の制御対象である配電系統内の発電出力データを記憶する。
発電出力データ記憶部14は、半導体メモリ及び磁気ディスク等の記録媒体により実現することができる。
【0027】
開閉信号出力部15は、配電系統導出部11により導出された接続関係に基づいて、配電系統制御装置10が制御する配電系統内の複数の開閉器の各々を開閉する開閉信号を生成して出力する。
開閉信号出力部15は、MPU及びCPU等のプロセッサと、外部インターフェースとにより実現することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、配電系統導出部11を備える配電系統制御装置10について説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
配電系統制御装置とは別の装置に配電系統導出部11を設け、該装置が配電系統制御装置に接続される構成であってもよい。
【0029】
図2は、本実施形態に係る配電系統制御装置10の制御対象である配電系統の構成例を示す図である。
図2に示す供給点21a,21b,21cは電力の供給点であり、囲んだ領域22a,22b,22c,22d,22e,22f,22g,22h,22i,22j,22k,22l,22m,22n,22o,22p,22qは区間である。
また、図2に点線で示す辺23a,23b,23c,23d,23e,23fは、開閉器によって開閉が制御される部分である。
図2では、配電系統が分岐点ノード及び開閉器ノードによって区切られることで、区間が作成される。
そして、常開開閉器は削除され、常閉開閉器は抵抗値及び電力の需要量が0とされる。
ここで、辺23cは操作不可の常開開閉器であるため、削除する。
【0030】
図3は、図2に示す構成の配電系統を区切り、分岐点ノード及び開閉器ノードを点とし、区切られた区間及び開閉器を辺とした図である。
図3では、供給点21a,21b,21cは矩形の点で示されており、図2において囲んだ領域22a,22b,22c,22d,22e,22f,22g,22h,22i,22j,22k,22l,22m,22n,22o,22p,22qの各々は実線の辺で示されており、図2において点線で示した辺23a,23b,23d,23e,23fは、開閉器によって開閉が制御される部分であるが、図3においても点線の辺で示され、図2において囲んだ領域の外にある分岐ノード及び開閉器ノードは円形の点で示されている。
また、図2に示す辺23cは常開開閉器であるため、図3における点10と点11とは互いに非接続の構成として示されている。
【0031】
ここで、以下の説明におけるループしている状態は、配電系統に環状構造が残っている状態と、配電系統に環状構造は残っていないものの、供給点が2個以上同じ連結成分にある状態とを指す。
図3には、供給点が3個示され、需要点が19個示され、辺が22個示されており、操作可能な全開閉器5個のうち、ループをなくすために開くべき開閉器の数は、(辺数)-(需要点数)=22-19=3個である。
このときの開閉器の開閉状態の組み合わせは、=10通りであるが、これには停電区間が発生してしまう組み合わせが含まれている。
そこで、ループ状態からループを一つずつ解消して放射状系統を作成することで、停電区間を発生させることなくループをなくすための開閉器の開閉状態が決定される。
【0032】
図4Aは、図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部111の動作を示す第1のフローチャートである。
図4Bは、図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部111の動作を示す第2のフローチャートである。
ここで、制約条件とは、配電系統において満たすべき電気的な制約をいう。
制約条件としては、電線若しくは電気機器の許容電流制約、又は電線若しくは電気機器の電圧の上下限制約を例示することができる。
処理を開始すると、まず、配電系統候補抽出部111は、初期設定を行う(S1)。
ここで、初期設定においては、配電系統候補抽出部111内のメモリにおいて、探索済のため閉状態のままにする開閉器群swt及びループをなくすために開く開閉器群swcのメモリをクリアする。
次に、配電系統候補抽出部111は、再帰関数である配電系統候補の列挙の実行を行う(S2)。
配電系統候補抽出部111は、配電系統候補の列挙の実行が呼び出されると、まず、呼び出された際に指定された開閉器群swcに含まれる全ての開閉器を開状態にした配電系統においてループ探索を行い(S3)、ループが存在するか否かの判定を行う(S4)。
【0033】
ループが存在する場合(S4:Y)には、配電系統候補抽出部111は、iに1を代入し(S5)、あるループを構成する開閉器群A1,A2,A3,…,AIを記憶する(S6)。
その後、配電系統候補抽出部111は、配電系統候補の列挙の実行が呼び出された際に指定された開閉器群swtにAiが存在するか否かを判定する(S7)。
ここで、Aiは、ループを構成する開閉器群のi番目の開閉器を示す。
探索済の開閉器群swtにAiが存在しない場合(S7:N)には、配電系統候補抽出部111は、ループをなくすために開く開閉器群swcにAiを追加し(S8)、再帰関数である配電系統候補の列挙の実行を呼び出す(S9)。
その後、開閉器群swcからAiを削除し、開閉器群swtにAiを追加し(S10)、i=Iであるか否かの判定を行う(S11)。
探索済の開閉器群swtにAiが存在する場合(S7:Y)には、配電系統候補抽出部111は、i=Iであるか否かの判定を行う(S11)。
【0034】
i=Iでない場合(S11:N)には、配電系統候補抽出部111は、iに1を加算し(S12)、S7に戻る。
i=Iである場合(S11:Y)には、配電系統候補抽出部111は、再帰関数を終了する。
【0035】
又は、ループが存在しない場合(S4:N)には、配電系統候補抽出部111は、制約条件違反であるか否かを判定する(S13)。
制約条件違反でない場合(S13:N)には、開状態の開閉器を記憶する(S14)。
制約条件違反である場合(S13:Y)には、開状態の開閉器を記憶することなく、再帰関数を終了する。
図4A,Bに示すようにループを探索して壊すことで、停電区間のない配電方法を列挙することができる。
【0036】
図5は、図3に示す配電系統から配電系統候補を抽出した図である。
図5に示す矩形の各々は再帰関数の配電系統候補の列挙の実行の呼び出しの各々に対応している。
まず、上述のように、ループをなくすために開く開閉器群swc及び探索済の開閉器群swtをクリアして、再帰関数である配電系統候補の列挙を呼び出す(C1)。
これは、swc()及びswt()で示されている。
また、図5において、ループをなくすために開く開閉器群swcに記憶されている開閉器をswc()の括弧内に記載し、探索済の開閉器群swtに記憶されている開閉器をswt()の括弧内に記載する。
【0037】
C1において、配電系統内のループを探索すると、まず辺23a,23bで構成されるループ(23a,23b)が存在することがわかる。
そこで、ループをなくすために開く開閉器群として辺23aを選択すると、swc(23a),swt()となる(C2)。
【0038】
次に、C2において再度ループを探索すると、辺23f,23bで構成されるループ(23f,23b)が存在することがわかる。
そこで、ループをなくすために開く開閉器群として辺23fを選択すると、swc(23a,23f),swt()となる(C3)。
【0039】
次に、C3において再度ループを探索すると、辺23e,23dで構成されるループ(23e,23d)が存在することがわかる。
そこで、ループをなくすために開く開閉器群として辺23eを選択すると、swc(23a,23f,23e),swt()となる(候補1)。
ループをなくすために開く開閉器群swc(23a,23f,23e)において、制約条件を考慮し、制約条件を満たしているため、候補1は配電系統候補として記憶される。
【0040】
次に、C3で探索したループ(23e,23d)について、ループをなくすために開く開閉器群として辺23dを選択すると、swc(23a,23f,23d)となり、探索済の開閉器群swt(23e)となる(候補2)。
ループをなくすために開く開閉器群swc(23a,23f,23d)において、制約条件を考慮し、制約条件を満たしているため、候補2は配電系統候補として記憶される。
【0041】
次に、C2で探索したループ(23f,23b)について、ループをなくすために開く開閉器群として辺23bを選択すると、swc(23a,23b)となり、探索済の開閉器群swt(23f)となる(C4)。
【0042】
次に、C4において再度ループを探索すると、辺23e,23dで構成されるループ(23e,23d)が存在することがわかる。
そこで、ループをなくすために開く開閉器群として辺23eを選択すると、swc(23a,23b,23e)となり、探索済の開閉器群swt(23f)となる(候補3)。
ループをなくすために開く開閉器群swc(23a,23b,23e)において、制約条件を考慮し、制約条件を満たしているため、候補3は配電系統候補として記憶される。
【0043】
次に、C4で探索したループ(23e,23d)について、ループをなくすために開く開閉器群として辺23dを選択すると、swc(23a,23b,23d)となり、探索済の開閉器群swt(23f,23e)となる(候補4)。
ループをなくすために開く開閉器群swc(23a,23b,23d)において、制約条件を考慮し、制約条件を満たしているため、候補4は配電系統候補として記憶される。
【0044】
次に、C1で探索したループ(23a,23b)について、ループをなくすために開く開閉器群として辺23bを選択すると、swc(23b)となり、探索済の開閉器群swt(23a)となる(C5)。
【0045】
次に、C5において再度ループを探索すると、辺23a,23fで構成されるループ(23a,23f)が存在することがわかる。
そこで、探索済の開閉器群swt(23a)であるためにループをなくすために開く開閉器群として辺23fを選択すると、swc(23b,23f)となり、探索済の開閉器群swt(23a)となる(C6)。
【0046】
次に、C6において再度ループを探索すると、辺23e,23dで構成されるループ(23e,23d)が存在することがわかる。
そこで、ループをなくすために開く開閉器群として辺23eを選択すると、swc(23b,23f,23e)となり、探索済の開閉器群swt(23a)となる(候補5)。
ループをなくすために開く開閉器群swc(23b,23f,23e)において、制約条件を考慮し、制約条件を満たしていないため、候補5は配電系統候補として記憶されない。
【0047】
次に、C6において探索したループ(23e,23d)について、ループをなくすために開く開閉器群として辺23dを選択すると、swc(23b,23f,23d)となり、探索済の開閉器群swt(23a,23e)となる(候補6)。
ループをなくすために開く開閉器群swc(23b,23f,23d)において、制約条件を考慮し、制約条件を満たしていないため、候補6は配電系統候補として記憶されない。
【0048】
このように、ループを見つけた場合にはループを構成する開閉器群を抽出し、そのループを構成する開閉器群の中から1つの開閉器を、ループをなくすために開く開閉器群swcに追加し、ループをなくすために開く開閉器群swcの開閉器を開状態にした上で、再度ループを探索していく。ループを構成する開閉器群の中からループをなくすために開く開閉器群swcに追加した開閉器を探索済の開閉器群swtに追加することで、重複探索を防ぐことができる。
こうして、ループの破壊を繰り返し、ループがすべてなくなると、放射状系統が得られる。
【0049】
上述のように、配電系統候補抽出部111によって制約条件を満たす全ての候補が抽出され、又は候補を抽出している途中で経過時間が規定時間を超えた場合には、全ての候補を抽出することなく、その時点で終了してもよい。
次に、配電系統選択部112は、上述のように配電系統候補抽出部111によって抽出された複数の候補から、配電系統内における電力損失を抑制して好ましくは最小化する配電系統内の接続関係を選択する。
【0050】
上述したように、配電系統候補抽出部111によって制約条件を満たす候補を抽出し、配電系統選択部112によって当該候補から配電系統内における電力損失を抑制して好ましくは最小化する配電系統内の接続関係を選択することで、伝送効率が高い放射状の配電系統の構造が導出される。
【0051】
なお、上述した手法は幅優先の列挙方法であり、配電系統全体のループを壊してから、系統の制約条件を考慮している。
そのため、供給点が多い場合又はループが多い場合には開くべき開閉器数が多くなり、規定時間内に配電方法を全て列挙することが困難である。
すなわち、上述した手法は、市街地のようにループが多い配電系統には適用することが難しい。
【0052】
図6Aは、図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部の動作を示す深さ優先の第1のフローチャートである。
図6Bは、図3に示す配電系統における制約条件を満たす配電系統を抽出する際の配電系統候補抽出部の動作を示す深さ優先の第2のフローチャートである。
図6A,Bにおいて、図4A,Bと同じ処理には同じ符号を付し、その処理内容は省略する。
【0053】
まず、初期設定(S1a)を行う。
ここでは、探索済のため閉状態のままにする開閉器群swt及びループをなくすために開く開閉器群swcのメモリをクリアすることに加え、K個ある供給点群のうち、1番目の供給点に着目するため、k=1と設定する。
その後、再帰関数である配電系統候補の列挙の実行を呼び出す(S2a)。
ループ探索(S3a)を行う際には、呼び出された際に指定された、k番目の供給点に着目し、その供給点からループ探索を行う。
また、S9aにおいて、Aiを開閉器群swcに追加し(S8)、k番目の供給点に着目したまま、再帰的に配電系統候補の列挙の実行を呼び出す。
また、配電系統候補抽出部111は、S13において制約条件を違反していない場合(S13:N)、k番目の供給点が最後の供給点Kか否か、すなわち、すべての供給点に着目したか否かの判定を行う(S15)。
すべての供給点に着目した場合(S15:Y)には、開閉状態を記憶する(S14)。
すべての供給点に着目していない場合(S15:N)には、kに1を加算し(S16)、着目する供給点として、k+1番目の供給点を選択し、再帰関数である配電系統候補の列挙の実行を呼び出す(S17)。
【0054】
図7は、図3に示す配電系統から配電系統候補を深さ優先で抽出した図である。
上述のように、図4A図4B図5に示す配電系統候補の抽出では、制約条件を満たさない候補5及び候補6も列挙されるが、図7に示すような深さ優先の探索においては、ある供給点が放射状となったところで制約条件を考慮し、制約条件を満たしていない場合にはその解はそれ以上の探索を不要とすることができるため、列挙する配電系統を少なくすることができる。
【0055】
本実施形態によれば、制約条件に違反しない配電系統候補を予め絞り込むことができるため、配電系統内における電力損失を抑制して好ましくは最小化する配電系統の伝送効率が高い構造を高速に導出することができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、配電系統選択部112において配電系統内の損失の最小化を目的関数として最適化しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、電圧降下量の最小化、通過電流の最小化、1か月若しくは1年といった所定の期間を指定した最適化、発電出力データ記憶部のデータを用いた太陽光発電若しくは風力発電等の分散型電源による潮流変化を考慮した最適化、又は不平衡計算による不平衡改善に向けた最適化を行ってもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、配電系統への供給力及び配電系統内の需要量によらず、目的関数値を抑制することで、配電系統の伝送効率が高い構造を高速に導出することができる。
【0058】
(実施形態2)
実施形態1においては、3個の供給点を備える配電系統について説明したが、本発明を実際の配電系統に適用する場合には、1つの変電所に対して10個以上100個未満程度の供給点が存在することが多く、許容される規定時間内に全ての配電方法を列挙することは困難である。
そこで、多くの供給点が存在する場合には、最適化を行う供給点を根とする木を限定して部分最適化を行うと、厳密解ではないものの、現在よりも損失が小さい解、すなわち、目的関数値が小さい解を導出することができる。
なお、以下の説明においては、条件を満たす接続構成を単に解と呼ぶこととする。
【0059】
図8は、本実施形態において、4個の供給点と18個の需要点とを有する配電系統を示す図である。
図8においても、供給点は矩形の点で示されており、需要点は円形の点で示されている。
図8(A)においては、まず、下部に示す2個の供給点を根とする木を選択し、その2つの木に含まれる需要点と供給点とが関連する接続関係にのみに着目し、実施形態1を適用することで、その部分に対する厳密解を算出する。
ここでは、下部に示す2個の供給点を根とする木では、この部分に着目すると厳密解であったため、全体の解は更新しない。
【0060】
次に、図8(B)において点線で囲んだ領域において、上部に示す2個の供給点を根とする木を選択し、厳密解を算出する。
ここでは、上部に示す2個の供給点を根とする木では厳密解が見つかったため、解の更新を行う。
そして、図8(C)には解を更新した状態を示している。
このようにして、2個の木の選び方にて厳密解を算出して更新する。
その後、選ぶ供給点の個数を増やしてその部分に対する厳密解を算出して更新する。
【0061】
図9は、本実施形態における部分最適化による配電系統を導出するフローチャートである。
図9において、まず、現在の配電方法等のループのない放射状系統である初期解の設定を行う(S21)。
次に、同時に選択する木の個数n=1とし(S22)、供給点を根とする木の集合P={S,S,…,S}を設定する(S23)。
次に、N個の木からn個選択する木の組み合わせの個数K=を設定し(S24)、K個全ての組み合わせを列挙してM,M,…,Mに代入する(S25)。
n個の木の組み合わせのうち着目する組み合わせをk番目とし、k=1に設定する(S26)。
その後、Mkで選択したn個の木が開閉器にて連系しているか否かを判定する(S27)。
選択したn個の木が開閉器に連系していない場合(S27:N)には、k=k+1として(S32)S33に進む。
選択したn個の木が開閉器に連系している場合(S27:Y)には、Mkで選択したn個の木に含まれる需要点と供給点とが関連する接続関係にのみ着目して実施形態1を適用し、現状解を更新したか否かを判定する(S28)。
現状解を更新した場合(S28:Y)には現状解を更新し(S29)、供給点を根とする木の集合Pを再設定する(S30)とともにk=1とする(S31)。
現状解を更新しなかった場合(S28:N)には現状解を更新することなくk=k+1とする(S32)。
次に、規定時間を経過しているか否かを判定する(S33)。
規定時間を経過している場合(S33:Y)には処理を終了する。
規定時間を経過していない場合(S33:N)にはn個の木のすべての組み合わせに着目したか否かを判定する(S34)。
n個の木のすべての組み合わせに着目していなかった場合(S34:N)には、S27に戻る。
n個の木のすべての組み合わせに着目した上で解が更新されなかった場合(S34:Y)には、すべての供給点を選択しているか否かを判定する(S35)。
全ての供給点を選択している場合(S35:Y)には処理を終了する。
全ての供給点を選択していない場合(S35:N)にはn=n+1として(S36)S24に戻る。
【0062】
すなわち、本実施形態によれば、現在の配電方法等により初期解を設定し、初期解に存在する、供給点を根とするN個の木から供給点を根とする木をn個選択し、選択したn個の木に対して実行可能な全ての配電方法を実施形態1に示すように列挙し、現状解が改善されれば解を更新する。
このような解の更新を、N個の木からn個を選ぶ全ての選び方に対して解の更新が行われなくなるまで行う。
そして、選択したn個の木に対して実行可能なすべての配電方法を実施形態1に示すように列挙した後に、経過時間が規定時間を超えていると終了し、又は、実施形態1に示すように、実行可能な配電方法を列挙している最中に経過時間が規定時間を超えた場合には、その時点で終了してもよい。
規定時間内であれば、N個の供給点及び木に対して、供給点を根とする木をn+1個選択し、選択したn+1個の木に対して実行可能な全ての配電方法を実施形態1に示すように列挙し、現状解が改善されれば解を更新し、このような解の更新を、N個の木からn+1個を選ぶ全ての選び方に対して解の更新が行われなくなるまで行い、N個全ての供給点を選択すると、処理を終了する。
【0063】
なお、N個全ての供給点及び木に対して全ての配電方法を列挙して、現状解の改善を行うと、厳密解を算出することも可能である。
【0064】
このように、本実施形態によれば、規定時間内に対象となる配電系統の全ての供給点及び木に対して全ての配電方法を列挙することが困難であっても、n個の供給点及び木に対して部分最適化により解を更新することで現在の配電方法よりも好ましい配電方法を導出することができる。
【0065】
配電系統においては、経時変化する電力の需要に応じて系統構成の変更を行うと、目的関数値を抑える効果が高いものの、経時変化する電力の需要をリアルタイムに把握し、これに基づいて系統構成の変更を逐次行うためには、高い計算速度が求められる。
他方で、電力の需要の経時変化が小さい配電系統又は電力の需要の経時変化に傾向がある配電系統においては、経時変化する電力の需要を一定期間の平均値で把握し、これに基づいて系統構成の変更を一定期間ごとに行えばよいため、高い計算速度は求められない。
ただし、電力の需要を一定期間の平均値で把握する場合においても、複数の需要曲線の断面での評価を行う場合には、予め設定した規定時間内に解を求めることを要する。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、配電系統への供給力及び配電系統内の需要量によらず、大規模な配電系統であっても、目的関数値を抑制することで、配電系統の伝送効率が高い構造を規定時間内に導出することができる。
【0067】
(実施形態3)
実施形態2の部分最適化に並列化を用いると、より高速に最良解を算出することができる。
本実施形態では、実施形態2の部分最適化に並列化を用いる形態について説明する。
ここで、部分最適化は、n個の木の選択方法が重複しなければ独立した系統である。
【0068】
図10Aは、本実施形態における部分最適化による配電系統を導出する第1のフローチャートである。
図10Bは、本実施形態における部分最適化による配電系統を導出する第2のフローチャートである。
図10A,Bにおいて、図9と同じ処理には同じ符号を付し、その処理内容は省略する。
【0069】
図10A,Bにおいては、S25において、K個すべての組み合わせを列挙し、Miに代入した後にK個のフラグF1,F2,…,FKを用意し、全てをfalseに初期化する(S37)。
また、n個の木の組み合わせのうち着目する組み合わせをk番目とし、k=1に設定し(S26)、集合Qを空集合とする(S38)。
その後、Fkがfalseか否かの判定を行う(S39)。
Fkがfalseでない場合、すなわちtrueの場合(S39:N)には、S45に進む。
Fkがfalseである場合、Mkで選択したn個の木が開閉器にて連系しているか否かを判定する(S27)。
選択したn個の木が開閉器に連系していない場合(S27:N)、Fkをtrueとする(S40)とともに、S45に進む。
選択したn個の木が開閉器に連系している場合(S27:Y)には、Mkで選択したn個の木が既に選択済みか否かを判定する(S41)。
具体的には、Mkで選択したn個の木が集合Qに含まれているか否かを判定する。
Mkで選択したn個の木が選択済みである場合(S41:N)には、k=k+1とし(S32)、S39に戻る。
Mkで選択したn個の木が選択済みでない場合(S41:Y)には、Fkをtrueとする(S42)とともに、集合QにMkで選択したn個の木を追加し(S43)、Mkを次回の並列計算の対象として抽出する(S44)。
その後、n個の木の全ての組み合わせを並列計算の対象として抽出可能かを調べたか否かについて、すなわちk=Kであるか否かを判定する(S45)。
n個の木の全ての組み合わせを調べていない場合(S45:N)には、k=k+1とし(S32)、S39に戻る。
n個の木の全ての組み合わせを調べた場合(S45:Y)には、並列計算の対象として抽出した木群M~Mに対して、並列計算を用いて選択したn個の木の開閉器を閉状態として実行可能な配電方法を全列挙する(S46)。
その後、現状解を更新した場合(S28:Y)には、S29~S30の処理を行うとともに、K個のフラグF1,F2,…,Fkをすべてfalseに初期化する(S47)。
そして、規定時間をチェックした(S33)後、K個すべてのフラグがtrueか否かを判定する(S48)。
K個すべてのフラグがtrueでない場合(S48:N)には、S26に戻る。
K個すべてのフラグがtrueである場合(S48:Y)には、S35に進む。
【0070】
図10A,Bを参照して説明したように、木の抽出部において異なる選択をした木群に対して並列化により同時に部分最適化を行うことで、配電方法の最良解をより高速に算出可能である。
【0071】
配電系統においては、経時変化する電力の需要に応じて系統構成の変更を行うと、目的関数値である損失等を抑える効果が高いものの、経時変化する電力の需要をリアルタイムに把握し、これに基づいて系統構成の変更を逐次行うためには、高い計算速度が求められる。
他方で、電力の需要の経時変化が小さい配電系統又は電力の需要の経時変化に傾向がある配電系統においては、経時変化する電力の需要を一定期間の平均値で把握し、これに基づいて系統構成の変更を一定期間ごとに行えばよいため、高い計算速度は求められない。
ただし、電力の需要を一定期間の平均値で把握する場合においても、複数の需要曲線の断面での評価を行う場合には、予め設定した規定時間内に解を求めることを要する。
【0072】
以上説明したように、本実施形態によれば、配電系統への供給力及び配電系統内の需要量によらず、目的関数値を抑制することで、配電系統の伝送効率が高い構造を規定時間内に導出することができる。
【0073】
(実施形態4)
ところで、実運用では、現在状態から最良状態に系統を切り替えるための切替手順を作成しなければならない。
本実施形態では、切替手順について説明する。
系統切替の方法は、配電系統候補抽出部111にて抽出された候補を用いて、現在の開閉状態から特定の開閉器を開状態から閉状態にして一時的にループ状態とし、他の開閉器を閉状態から開状態に切り替えてループを解消することで、系統を切り替えていく。
ただし、現在状態から最良状態へ遷移する過程の遷移状態の配電方法も制約条件を満たしていなくてはならない。
実施形態1では、系統制約を満たす配電方法を列挙しているため、その列挙された状態を用いることで次のような方法にて切替手順を作成することが可能である。
【0074】
図11は、本実施形態において切替手順を説明するための配電系統を示す図である。
現在状態では、図11(A)に示すように、供給点31aには、開閉可能な辺33aを介して円形の需要点34aが接続され、円形の需要点34aには、開閉可能な辺33bを介して円形の需要点34bが接続されるとともに、開閉可能な辺33cを介して円形の需要点34cが接続され、円形の需要点34dには、常閉の辺32aを介して円形の需要点34bが接続されるとともに、開閉可能な辺33dを介して円形の需要点34cが接続され、常閉の辺32bを介して供給点31bが接続されている。
なお、開閉可能な辺33a,33b,33c,33dは、閉状態であれば実線で示され、開状態であれば点線で示されている。
【0075】
図11(A)の状態から、開閉可能な辺33aを閉じて開閉可能な辺33bを開くと図11(B)に示す状態になる。
また、図11(A)の状態から、開閉可能な辺33cを閉じて開閉可能な辺33dを開くと図11(C)に示す状態になる。
更には、図11(A)の状態から、開閉可能な辺33cを閉じて開閉可能な辺33bを開くと図11(D)に示す状態になる。
図11に示すように、開状態から閉状態になる開閉器と閉状態から開状態になる開閉器との組み合わせがただ1つだけ違う配電方法同士が1手で切替可能であると定義する。
【0076】
図12は、本実施形態において現在状態から最良状態への切替手順を示す状態遷移空間を示す図である。
【0077】
図13は、本実施形態において切替手順を具体的に説明する図である。
図13(A)には現在状態を示している。
図13(A)に示す状態で開閉可能な辺33aを閉じると、第1のループ状態である図13(B)に示す状態になる。
図13(B)に示す状態で開閉可能な辺33bを開くと、遷移状態である図13(C)に示す状態になる。
図13(C)に示す状態で開閉可能な辺33cを閉じると、第2のループ状態である図13(D)に示す状態になる。
図13(D)に示す状態で開閉可能な辺33dを開くと、最良状態である図13(E)に示す状態になる。
【0078】
このように、現在状態から切替可能な配電方法を探索していき、最良状態に近付けていく切替手順を作成可能である。
このように実行可能な配電方法を列挙することができれば、切替手順を作成することが可能となる。
【0079】
(実施形態5)
実施形態2,3では、特定の木を選んで部分的に最適化を行っているため、時間制約により途中で終了した場合には、実行可能なすべての配電方法を列挙できていないことになる。
そこで、部分最適化において、供給点の選び方ごとの状態遷移空間から、切替手順も作成して記憶しておくことで、現在状態から最良状態までの切替手順が導出可能である。
また、部分最適化において、それぞれの供給点の選び方にて列挙した実行可能な配電方法を状態遷移空間に随時追加保存して、時間制約による途中終了後に列挙できた範囲での操作回数の少ない切替手順が作成可能である。
【0080】
(実施形態6)
実施形態4,5においては、実行可能な配電方法の状態遷移空間を用いて切替手順を求めているため、現状の系統構成における最良系統を探索できるが、将来の設備形成を考える上では、電圧管理又は損失等の目的関数値が抑制されるような対策を行うことが重要である。
実施形態1,2においては制約条件を満たさない解は記憶していなかったが、その解と違反した条件を記憶しておくことで、より目的関数値が小さい配電方法にするにはどこで制約違反となるのかがわかり、制約違反に対する対策を行うことが可能である。
本実施形態に係る配電系統制御装置は、このように制約条件を満たさない解を記憶する図示しない記憶部を備える。
【0081】
図14は、本実施形態における状態遷移空間を示す図である。
図14においては、厳密解を算出するには状態A又は状態Bを経由しなければならず、実行可能な配電方法のみの列挙では、厳密解までの切替手順は求めることができない。
これは、現状の系統では厳密解には至らないということである。
しかしながら、制約条件を満たさない状態A又は状態Bを列挙することで、状態A又は状態Bの制約違反を解消するために、所定の箇所の電線を張り替える等の対策を行うことで、厳密解までの切替手順を求めることが可能となる。
また、状態Cのように電圧制約によって実行不可能な配電方法であるが、目的関数値をより小さくする解がある場合には、制約条件違反を解消するために、電圧調整器の導入等の対策を行うことで、目的関数値をより小さくすることが可能となる。
【0082】
(実施形態7)
本実施形態では、上述の実施形態2の部分最適化のように供給点を選択して、供給点を根とする木に属する開閉器を閉状態として系統候補を列挙するのではなく、開状態の開閉器の中から閉状態にする開閉器を選択し、閉状態にすることにより発生するループを実施形態1のような手法で解消することにより、系統候補の列挙を行う形態について説明する。
開閉器を選択することで、供給点に属する開閉器が多い場合でも系統の一部を最適化することができ、複数の供給点にまたがる開閉器を変更する系統候補の列挙が可能となる。
すべての開閉器を閉状態として配電方法を全列挙して、解の改善を行えば厳密解が算出可能である。
又は、許容時間内にすべての配電方法を全列挙できない場合にも、開閉器の選び方に対して一部の解を列挙することにより現状よりも良い解を算出可能である。
ここで、閉状態の開閉器の選び方には、以下の3つの手法を挙げることができる。
【0083】
第1の手法は、電圧変動、又は電流及び損失が大きいフィーダの連系開閉器を選択する手法である。
電圧の降下若しくは上昇、又は通過電流及びフィーダの損失といった目的関数値が大きいフィーダに対する目的関数値の改良は、負荷を他フィーダに融通させて、負荷の平準化を行えばよい。
そこで、電圧変動、又は電流及び損失が大きいフィーダの連系開閉器を閉状態として、系統候補を列挙すると、より良い解の算出が可能となる。
【0084】
第2の手法は、開閉器の両端の電圧値の差が大きい開閉器を選択する手法である。
開閉器の両端の電圧値の差が大きい箇所では、負荷が偏っていることが考えられる。
そのため、開状態の開閉器の位置を変更すればよい。
第1の手法では、フィーダ間の連系開閉器を選択していたが、第2の手法では、フィーダ内の開閉器も選択することが可能となる。
【0085】
第3の手法は、現状状態と目標状態との間で、開閉状態が異なる開閉器を選択する手法である。
目標状態が決まっている場合において、切替手順の算出では、現状状態と目標状態との間で開閉状態が異なる開閉器については、操作が必要である。
そこで、現状状態と目標状態との間で開閉状態が異なる開閉器の中から閉状態にする開閉器を選択し、すなわち常開開閉器の中から閉状態にする開閉器を選択し、切替手順に必要な系統候補を列挙することで、系統の切替手順の算出を効率的に行うことができる。
【0086】
(実施形態8)
上述の実施形態4~6では、列挙された系統候補から一手で切替可能である等の解の繋がりを表した状態遷移空間から切替回数の少ない切替手順を導出しているが、切替回数以外の評価指標についても考慮をすると更なる改善が可能である。
配電系統候補抽出部において、列挙された系統候補を用いて、電力需要データと発電出力データとを入力データとし、計算期間を設定して各種潮流計算を行うと、以下の評価を得ることができる。
一断面の潮流計算によれば、通過電流(順潮流又は逆潮流)、電圧降下、電圧上昇、不平衡、損失、電圧及び電流の位相が求められる。
期間を設定すると、期間内における通過電流(順潮流又は逆潮流)の最大値、最小値、平均値及び標準偏差、期間内における電圧降下の最大値、最小値、平均値及び標準偏差、期間内における電圧上昇の最大値、最小値、平均値及び標準偏差、期間内における電圧変動率、期間内における電圧フリッカ、期間内における高調波、期間内における不平衡の最大値、最小値、平均値及び標準偏差並びに期間内における損失の積算値が求められる。
【0087】
図15は、本実施形態における状態遷移空間を示す図である。
図15に示すように列挙された系統候補において、潮流計算を行うことで求められる評価指標を用いて現状状態から最良状態へ遷移する遷移状態においても、目的関数値が良好であることが好ましい。
そこで、状態遷移空間からの開閉器の切替の探索の際に、遷移状態の目的関数値の影響を受けるようにし、すなわち、遷移状態である系統候補の目的関数値によって系統候補に重みを付加すると、より良い切替手順の算出が可能になる。
【0088】
(実施形態9)
状態遷移空間における辺に重みを付加すると、より良い切替手順の算出が可能になる。
実施形態4~6では、状態遷移空間において、一手で切替できるなどの解の繋がりを、開状態から閉状態になる開閉器と、閉状態から開状態になる開閉器と、の組み合わせがただ1つだけ違う配電方法同士が一手で切替可能であると定義している。
すなわち、一手順において、開状態から閉状態にする開閉器と、閉状態から開状態にする開閉器の2つが操作されることになる。
操作する開閉器が手動開閉器であれば、工事者が現地に赴き、開閉器を操作する必要がある。
【0089】
図16は、本実施形態における状態遷移空間を示す図である。
図16に示すように、状態遷移空間における辺に、開閉器を操作するための移動距離によって重みを付加すると、切替を行う際に工事者の移動距離を重みとして、工事者の移動距離が小さい切替方法の導出が可能となる。
【符号の説明】
【0090】
10 配電系統制御装置
11 配電系統導出部
12 電力需要データ記憶部
13 配電系統構成データ記憶部
14 発電出力データ記憶部
15 開閉信号出力部
21a,21b,21c 供給点
22a,22b,22c,22d,22e,22f,22g,22h,22i,22j,22k,22l,22m,22n 領域
23a,23b,23c,23d,23e,23f 辺
31a,31b 供給点
32a,32b 常閉の辺
33a,33b,33c,33d 開閉可能な辺
34a,34b,34c,34d 需要点
111 配電系統候補抽出部
112 配電系統選択部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16