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特許7303551改変されたコラーゲンタンパク質およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】改変されたコラーゲンタンパク質およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230628BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230628BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230628BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230628BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230628BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230628BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230628BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20230628BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
A01K67/027
C12Q1/02
C12M1/34 Z
C07K14/78
C07K19/00
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2019554262
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2018042181
(87)【国際公開番号】W WO2019098246
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017219515
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】三輪 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 順子
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-125872(JP,A)
【文献】特開2008-067655(JP,A)
【文献】特開2010-085108(JP,A)
【文献】特開2014-076026(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152882(WO,A1)
【文献】特表2000-506362(JP,A)
【文献】THEIN, M. C. et al.,"Caenorhabditis elegans Exoskeleton Collagen COL-19: An Adult-Specific Marker for Collagen Modification and Assembly, and the analysis of Organismal Morphology.",DEVELOPMENTAL DYNAMICS,2003年,Vol.226,pp.523-39
【文献】MAYE, P. et al.,"Generation and Characterization of Coll10a1-mCherry Reporter Mice.",GENESIS,2011年,Vol.49,pp.410-8
【文献】OHANA, R. F. et al.,"HaloTag7: A genetically engineered tag that enhances bacterial expression of soluble proteins and improves protein purification.",PROTEIN EXPRESSION AND PURIFICATION,2009年,Vol.68,pp.110-120,doi: 10.1016/j.pep.2009.05.010
【文献】野村純,「伸展運動がヒトにおよぼす影響の解析-分子細胞学的検討-」,千葉大学教育学部研究紀要,2006年,Vol.54,pp.271-274
【文献】吉岡秀克,「XI型コラーゲンα1鎖遺伝子:α1鎖の一次構造, その遺伝子発現及び調節機構」,CONNECTIVE TISSUE,1997年,Vol.29,pp.39-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内で、形質転換細胞で発現され、前記細胞外にてコラーゲン線維を形成することができる改変されたコラーゲンタンパク質であって、前記細胞が哺乳動物細胞であり、前記形質転換が、前記改変されたコラーゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチドの前記細胞への導入によるものであり、前記改変が、天然のコラーゲンタンパク質のN末端プロペプチド(N-プロペプチド)の領域に対応する領域内のNC3ドメインのC末端に隣接する部位においてなされた、前記天然のコラーゲンタンパク質をコードするヌクレオチド配列への前記天然のコラーゲンタンパク質とは異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの挿入または付加であり、前記天然のコラーゲンタンパク質が、Type VまたはType XIコラーゲンタンパク質である、改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の改変されたコラーゲンタンパク質であって、前記天然のコラーゲンタンパク質とは異なるタンパク質が、標識用タンパク質または治療用タンパク質である、改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項3】
前記標識用タンパク質が、蛍光タンパク質(例:GFP、iRFP、HaloTag7)または発光タンパク質(例:ルシフェラーゼ(遺伝子例:Luc(+),Luc2、CBGluc、CBRluc、ELuc、SLR、SLO、SLG))であり、前記治療用タンパク質が、抗体または特殊ペプチドである、請求項2に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項4】
前記部位が、Type Vコラーゲンタンパク質のN-プロペプチドの領域に対応する領域内にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項5】
前記天然のコラーゲンタンパク質が、Type V α1、Type V α3、Type XI α1、またはType XI α2コラーゲンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質であって、配列番号2および配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号1および配列番号3からなる群から選択されるヌクレオチド配列またはそれに対して少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなる、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項7または8に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項10】
請求項7もしくは8に記載のポリヌクレオチド、または請求項9に記載の発現ベクターが導入された哺乳動物細胞である発現細胞株。
【請求項11】
請求項10に記載の発現細胞株をコートしたコラーゲンコートディッシュ。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質または請求項7もしくは8に記載のポリヌクレオチドを含む薬物送達ビヒクル。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質または請求項7もしくは8に記載のポリヌクレオチドを含む、標識用または治療用の組成物。
【請求項14】
請求項7もしくは8に記載のポリヌクレオチド、請求項9に記載の発現ベクター、請求項10に記載の発現細胞株、請求項12に記載のビヒクル、または請求項13に記載の組成物が導入されたモデル動物。
【請求項15】
前記モデル動物がマウスである、請求項14に記載のモデル動物。
【請求項16】
改変されたコラーゲンをコードする遺伝子を形質導入した哺乳動物細胞の細胞外において前記改変されたコラーゲンタンパク質を含むコラーゲン線維を形成させる方法であって、
請求項7または8に記載のポリヌクレオチドが導入された前記細胞をインビトロでストレス下で培養する工程を含む、方法。
【請求項17】
前記ストレスが前記細胞の形態を変化させるストレスであって、重力の変化、振動、および遠心力からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
改変されたコラーゲンをコードする遺伝子を形質導入した哺乳動物細胞の細胞外において前記改変されたコラーゲンタンパク質を含むコラーゲン線維を形成させる方法であって、
請求項7または8に記載のポリヌクレオチドが導入され、前記ポリヌクレオチドを安定に発現する前記細胞をモデル動物に移植する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記改変されたコラーゲンタンパク質が、標識用タンパク質の挿入または付加により改変されており、
前記標識を検出するための可視化またはイメージングの工程をさらに含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記改変されたコラーゲンが、N末端ドメインとヒンジ部位との間の部位に標識用タンパク質を挿入したType Vコラーゲンα1である、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
コラーゲン分泌および/またはコラーゲン線維形成の阻害剤のスクリーニング方法であって、
請求項10に記載の発現細胞株をインビトロでストレス条件下で培養する工程であって、改変されたコラーゲンタンパク質が標識用タンパク質の挿入または付加により改変されている、工程、
前記ストレス条件下での培養の前に、前記培養物に前記阻害剤の候補物質を添加する工程、ならびに
前記候補物質の前記添加後、前記培養物において、前記細胞の細胞外においてコラーゲン分泌および/またはコラーゲン線維形成を観察し、前記コラーゲン分泌および/またはコラーゲン線維形成を、前記候補物質の前記添加がなかった場合と比較して低減させる作用を有する前記候補物質を前記阻害剤として選択する工程を含む、方法。
【請求項22】
前記選択する工程が、前記標識を検出するための可視化またはイメージングの工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなる改変されたコラーゲンタンパク質。
【請求項24】
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項25】
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを安定的に発現する細胞が移植されたモデル動物。
【請求項26】
モデル動物内で改変されたコラーゲンタンパク質を含むコラーゲン線維を形成させる方法であって、
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを安定的に発現する細胞をモデル動物に移植する工程、および
前記モデル動物内で前記改変されたコラーゲンタンパク質を前記細胞の外へ分泌させる工程
を含む、方法。
【請求項27】
前記ストレス条件が、重力の変化、振動、および遠心力からなる群から選択される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項28】
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項29】
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを安定的に発現するモデル実験動物細胞である発現細胞株。
【請求項30】
前記モデル実験動物がマウスである、請求項29に記載の発現細胞株。
【請求項31】
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを安定的に発現するマウス細胞である発現細胞株を含有する細胞をコーティングした細胞培養ディッシュ。
【請求項32】
線維化抑制薬物のインビトロスクリーニング方法であって、
配列番号1または配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを安定的に発現するマウス細胞株をインビトロで培養する工程であって、培養中に重力の変化、振動、および遠心力からなる群から選択されるストレスを前記細胞株に与える、工程、および
前記ストレス条件下での前記培養後に、前記細胞の細胞外でのコラーゲン線維の形成を蛍光観察により確認する工程を含み、
前記ストレスを前記細胞株に与える前に、候補薬物を前記細胞株に接触させた場合に、前記候補薬物を前記細胞株に接触させなかった場合よりも前記細胞外でのコラーゲン線維の形成の抑制が確認された場合に、前記候補薬物を前記線維化抑制薬物と評価する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンタンパク質の改変技術およびそれを利用したコラーゲンタンパク質の新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の線維化は、炎症や損傷に伴って起こる創傷治癒が過剰になり、結合組織が正常組織に置き換わることで発生し、臓器や組織の機能低下を引き起こす(例えば、肺においては間質性肺炎、感染症、肺炎等(喫煙が原因になり得る);肝臓においては、脂肪肝等(ウイルス感染、アルコール等が原因になり得る);腎臓においては、糖尿病末期等;心臓においては、心不全等;あるいは術後の癒着など)。種々の疾患の特に末期に発生しやすく、臓器不全の主要な原因である。これらの発生の解析には、実験動物の解剖(すなわち、侵襲的方法)による一連の解析が必要である。
【0003】
従来、コラーゲンタンパク質のN末端またはC末端は細胞外に分泌される際に切断・除去され、長いコラーゲンポリペプチドの中央部分(3量体ヘリックス部分)だけが線維形成に関与するため、N末端またはC末端に蛍光タンパク質などを付加したイメージングでは、細胞内での輸送過程しか検出できず、細胞外に出る時点で切断後のコラーゲン線維を可視化することは不可能であった。
【0004】
また、線維形成に関与する3量体ヘリックス部分は種間で保存された部分であり、構造的に安定であるため、この部分に他のタンパク質を挿入することは困難であった。(図1; 非特許文献1:Prockop DJ et al., New Engl J Med, Vol.301, 13-23, 1979)したがって、一般的な融合タンパク質の手法での標識化は困難であった。
【0005】
線維化の成分であるType I、III、V、XIコラーゲンのうちで、TypeVおよびXIコラーゲンは例外的に切断されないN末端ドメインを有し、特に、Type Iなどの他のコラーゲンと集合して太い線維を形成する際に、Type VコラーゲンのN末端ドメインは線維の外側に配列されると考えられている(図2; 非特許文献2: Simone M. Smith and David E. Birk, Exp Eye Res Vol.98, 105-106, 2012)
【0006】
ヒト・コラーゲン発現ベクターおよびヒト・コラーゲンの製造方法が、特許文献において報告されている(特許文献1:特開平08-023979号公報)。この文献では、ヒト3型コラーゲン遺伝子の全長をそのままベクターに組み込んで発現させることが報告されており、電気泳動上は正しいタンパク質が合成されているようであるが、細胞外に本来のコラーゲン線維を形成しているかどうかについては記載されていない。そもそもsf9細胞は他の種類のコラーゲンを産生しておらず、この細胞を用いて正しいコラーゲン線維形成はできないであろうと思われる。また、生体組織分析用プローブ及びその利用法を報告する文献もある(特許文献2:WO2012/124338)。この文献は、コラーゲン分解酵素のコラーゲン結合ドメインに蛍光タンパク質などを付加したプローブを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08-023979号公報
【文献】WO2012/124338
【0008】
【文献】Prockop DJ et al., New Engl J Med, Vol.301, 13-23, 1979
【文献】Simone M. Smith and David E. Birk, Exp Eye Res Vol.98, 105-106, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コラーゲンタンパク質の改変(例:外来タンパク質の挿入・付加)、およびそれを応用した、研究または治療法開発を含む各種用途(例えば、非侵襲的な実験動物のイメージング法、薬剤送達等)に有用なツール、方法等の開発等をその解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下を提供する。
【0011】
[1]形質転換細胞で発現され、上記細胞外にてコラーゲン線維を形成することができる改変されたコラーゲンタンパク質であって、上記形質転換が、上記改変されたコラーゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上記細胞への導入によるものである、改変されたコラーゲンタンパク質。
[2]上記[1]に記載の改変されたコラーゲンタンパク質であって、上記改変が、上記コラーゲンをコードするヌクレオチド配列への上記コラーゲンとは異なるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの挿入または付加によるものである、改変されたコラーゲンタンパク質。
[3]上記挿入または付加が、コラーゲンタンパク質のN末端側またはC末端側の領域に対応する領域内の部位においてなされたものである、上記[1]または[2]に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
[4]上記コラーゲンとは異なるタンパク質が、標識用タンパク質および治療用タンパク質からなる群から選択される、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
[5]上記標識用タンパク質が、蛍光タンパク質(例:GFP、iRFP、HaloTag7)または発光タンパク質(例:ルシフェラーゼ(遺伝子例:Luc(+), Luc2、CBGluc、CBRluc、ELuc、SLR、SLO、SLG))であり、上記治療用タンパク質が、抗体または特殊ペプチドである、上記[4]に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
[6]上記コラーゲンが、Type VコラーゲンまたはType XIコラーゲンである、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
[7]上記コラーゲンが、Type V α1、Type V α3、Type XI α1、またはType XI α2コラーゲンである、上記[6]に記載の改変されたコラーゲンタンパク質。
[8]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質であって、配列番号2および配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれに対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変されたコラーゲンタンパク質。
[9]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[10]配列番号1および配列番号3からなる群から選択されるヌクレオチド配列またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するヌクレオチド配列からなる、上記[9]に記載のポリヌクレオチド。
[11]上記[9]または[10]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[12]上記[9もしくは10]に記載のポリヌクレオチド、または上記[11]に記載の発現ベクターが導入された発現細胞株。
[13]上記[12]に記載の発現細胞株をコートしたコラーゲンコートディッシュ。
[14]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質または上記[9]もしくは[10]に記載のポリヌクレオチドを含む薬物送達ビヒクル。
[15]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の改変されたコラーゲンタンパク質または上記[9]もしくは[10]に記載のポリヌクレオチドを含む組成物。
[16]上記[9もしくは10]に記載のポリヌクレオチド、上記[11]に記載の発現ベクター、上記[12]に記載の発現細胞株、上記[14]に記載のビヒクル、または上記[15]に記載の組成物が導入されたモデル動物。
[17]上記モデル動物がマウスである、上記[16]に記載のモデル動物。
[18]改変されたコラーゲンをコードする遺伝子を形質導入した細胞の細胞外において上記改変されたコラーゲンタンパク質を含むコラーゲン線維を形成させる方法であって、
上記[9]または[10]に記載のポリヌクレオチドを上記細胞に導入する工程を含む、方法。
[19]形質導入された上記細胞をインビトロでストレス下で培養する工程を含む、上記
[18]に記載の方法。
[20]モデル動物において上記改変されたコラーゲンタンパク質を含むコラーゲン線維を形成させる工程をさらに含む、上記[18]または[19]に記載の方法。
[21]上記改変されたコラーゲンタンパク質が、標識用タンパク質の挿入または付加により改変されており、
上記標識を検出するための可視化またはイメージングの工程をさらに含む、上記[18]~[20]のいずれか一項に記載の方法。
[22]上記改変されたコラーゲンが、N末端ドメインとヒンジ部位との間の部位に標識用タンパク質を挿入したType Vコラーゲンα1である、上記[18]~[21]のいずれか一項に記載の方法。
[23]コラーゲン分泌および/またはコラーゲン線維形成の阻害剤のスクリーニング方法であって、
上記[12]に記載の発現細胞株をインビトロでストレス条件下で培養する工程であって、改変されたコラーゲンタンパク質が標識用タンパク質の挿入または付加により改変されている、工程、
上記ストレス条件下での培養の前に、上記培養物に上記阻害剤の候補物質を添加する工程、ならびに
上記候補物質の上記添加後、上記培養物において、上記細胞の細胞外においてコラーゲン分泌および/またはコラーゲン線維形成を観察し、上記コラーゲン分泌および/またはコラーゲン線維形成を、上記候補物質の上記添加がなかった場合と比較して低減させる作用を有する上記候補物質を上記阻害剤として選択する工程を含む、方法。
[24]上記選択する工程が、上記標識を検出するための可視化またはイメージングの工程を含む、上記[23]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コラーゲン線維の性質を損わないか、または損なう可能性が低い態様で、コラーゲンタンパク質を改変できるという利点が提供される。
【0013】
本発明によれば、形質転換した細胞の細胞外に移動し得る改変されたコラーゲンタンパク質が提供される。本発明によれば、細胞外でコラーゲン線維を形成し得る改変されたコラーゲンタンパク質を作製することが可能となる。
【0014】
本発明に従うコラーゲンタンパク質の改変技術によれば、コラーゲン線維の標識タンパク質による標識化およびそれによるコラーゲン線維の可視化が可能となり得る。
【0015】
本発明に従うコラーゲン線維の標識化方法によれば、実験動物を解剖することなく、非侵襲的に生体内のイメージングが可能となる。したがって、本発明は、線維形成をリアルタイムにモニタリングできるプローブとなり得るという利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来技術によるコラーゲン分子の構造を示す図である。
図2】従来技術によるType Vコラーゲン分子の構造を示す図である。
図3】本発明に従ってType Vコラーゲンα1のN末ドメインとヒンジ部との間にイメージング用タンパク質(例:蛍光タンパク質(GFP、iRFP)、HaloTagタンパク質)が導入される概念図である。
図4】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1をコラーゲン産生細胞であるマウス骨芽細胞MC3T3-E1に導入・発現したものをフローサイトメーターおよび蛍光顕微鏡で解析した図である。
図5】本発明に従って、マウス骨芽細胞MC3T3-E1を通常培養したものと、Zeromo(登録商標)を用いて重力ストレスを付加した場合の顕微鏡像の比較である。
図6】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1を通常培養したものと、重力ストレスを付加した場合の顕微鏡像の比較である。
図7】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1またはHaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1を通常培養したものと、一般的な振とう機を用いて重力ストレスを付加した場合の顕微鏡像の比較である。
図8】本発明に従って、HaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1を、一般的な振とう機を用いて重力ストレスを付加した後、細胞膜非透過性のAlexa488リガンドと細胞膜透過性のTMRリガンドで2段階染色したものの顕微鏡像である。
図9】本発明に従ってGFP挿入Type Vコラーゲンα1またはHaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1を発現させるために用いたベクターを示す模式図である。
図10】本発明に従うGFP挿入Type Vコラーゲンα1の構成および配列情報を示す模式図である。
図11】本発明に従うHaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1の構成および配列情報を示す模式図である。
図12】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス線維芽細胞Balb3T3を通常培養したものと、重力ストレスを付加した誘導培養の場合の顕微鏡像の比較である。
図13】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1およびマウス線維芽細胞Balb3T3をそれぞれC57BL/6マウスおよびBalb/cマウスの背部皮下に移植し2週間目の顕微鏡像の比較である。
図14】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1をC57BL/6マウスの背部皮下に移植し3週間目に摘出した皮膚の組織学的解析である。
図15】本発明に従って、HaloTag挿入 Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1をC57BL/6マウスの背部皮下に移植し2週間目に蛍光リガンドで染色した皮膚の顕微鏡像である。
図16】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1の培養法を改良し、ガラスボトム上でも線維形成するようにした顕微鏡像である。
図17】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1を培養法し、ガラスボトム上で線維形成させたものの超解像顕微鏡像である。
図18】本発明に従って、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現したマウス骨芽細胞MC3T3-E1をマルチウェルプレートで培養し、薬物による線維形成阻害効果の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中、「コラーゲン」および「コラーゲンタンパク質」は同意義のものとして用いられる。
【0018】
本発明の目的のために使用されるコラーゲンとしては、細胞外に分泌される際に、少なくともN末端およびC末端(すなわち、コラーゲン線維の形成時に線維の外側に配列され、外来タンパク質等が付加し易い部分)のいずれかが切断・除去されないコラーゲンが好ましい。そのようなコラーゲンの例としては、Type VコラーゲンおよびType XIコラーゲンが挙げられる。Type Vコラーゲンとしては、Type V α1およびType V α3コラーゲンが、Type XIコラーゲンとしては、Type XI α1およびType XI α2コラーゲンが、好ましい。これらのコラーゲンのアミノ酸配列およびそれをコードするヌクレオチド配列の情報は、公知の一般にアクセス可能なデータベース(例えば、NCBIのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/))から入手である。
【0019】
本明細書中、コラーゲンタンパク質の「改変」は、主として、天然のコラーゲンへの外来タンパク質の挿入または付加を意味し、そのうち特に、そのような外来タンパク質の挿入または付加によって元々のコラーゲンタンパク質の機能(例えば、コラーゲン線維を形成する能力)が実質的に損なわれない改変を意味する。そのような外来タンパク質の天然のコラーゲンへの挿入または付加は、当業者に良く知られた一般的な遺伝子導入技術により行うことができる。本明細書中、「挿入」および「付加」という用語は、コラーゲンタンパク質への外来アミノ酸配列の挿入もしくは付加、またはそれをコードするヌクレオチド配列への外来ヌクレオチド配列の挿入もしくは不可について言う場合に同じように使用される。本明細書中、細胞の「形質転換」(Transformation)は、トランスフェクション(Transfection)と同意義で使用され、細胞外部から遺伝子またはDNAを導入し、その細胞の遺伝的性質を変える、またその操作を意味する。
【0020】
本発明の目的のためのコラーゲンタンパク質の「改変」の好ましい部位は、コラーゲンタンパク質が線維を形成する際に線維形成に実質的な影響を及ぼしにくい部位であり、好ましくは、例えば、前述のコラーゲン線維の形成時に線維の外側に配列され、外来タンパク質等が付加し易い部分としてのコラーゲンタンパク質のN末端側およびC末端側の領域である。
【0021】
後述の実施例においては、Type V α1コラーゲンのN末端ドメイン(N末端プロペプチド)とヒンジ部との間の領域内の部位(Type V α1コラーゲンをコードするヌクレオチド配列(XM_006497644)中の1750位と1751位の核酸の間の部位(当該ヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列(XP_006497707)中の443位と444位のアミノ酸残基の間の部位に対応))に外来タンパク質を挿入した例が示されている。その他にもこのような改変に好ましい部位を有するコラーゲンタンパク質として、前述のType V α3コラーゲン、Type XI α1およびType XI α2コラーゲン等が挙げられる。これらのコラーゲンにおける外来タンパク質の挿入についての好適な部位は、本明細書中のガイダンスおよび当該分野の技術常識から当業者は過度の実験を要することなく導くことができるであろう。
【0022】
上述の「外来タンパク質」として、本発明の目的のために好適なものとして、蛍光タンパク質(例:GFP、iRFP、HaloTag7)、ルシフェラーゼのような発光タンパク質(遺伝子例:Luc(+), Luc2、CBGluc、CBRluc、ELuc、SLR、SLO、SLG(参考文献(全体が参考として本明細書中で援用される):Akimoto et al. 生物物理 49(2), 070-074 (2009)))等の標識タンパク質、疾患の治療に用いられるタンパク質(例えば、抗体)またはペプチド(例えば、生体内で分解されにくいように合成された特殊ペプチド)等が挙げられる。上記の蛍光タンパク質または発光タンパク質は、例えば、市販されており、当業者に入手可能である。発光タンパク質の導入方法についての参考文献(全体が参考として本明細書中で援用される):Takai et al., PNAS, 112(14), 4352-4356 (2015); Suzuki et al., Nature Communications 7:13718 DOI:10.1038 (2016)。蛍光タンパク質、発光タンパク質等の標識の検出のための可視化またはイメージングの手法については、後述の実施例、前掲の参考文献、または市販の場合は製造業者の使用説明書等から十分なガイダンスを得ることができる。
【0023】
本発明の目的のために、改変されたコラーゲンタンパク質の産生に使用され得る細胞としては、任意の動物細胞が挙げられる。そのような細胞の例としては、例えば、後述の実施例において用いたマウスMC3T3-E1細胞(元来コラーゲンを産生する細胞)、またはマウスBalb3T3細胞が挙げられるがこれに限定されない。また、動物細胞の「動物」の例としては、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット、ウサギ、イヌ、ミニブタなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
本明細書中、用語「同一性(identity)」は、「相同性(homology)」とは区別して用いるものとする。例えば、アミノ酸配列間のホモロジー(相同性)をいう場合、同じ性質を持つアミノ酸(グルタミン酸とアスパラギン酸など)はひとつのグループとして扱うが、同一性を考える場合は区別される。すなわち、同一性は一致性をさす。アミノ酸配列やヌクレオチド配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いことができる。
【0025】
本発明の発展的な実施形態においては、改変されたコラーゲンタンパク質を発現するように形質転換された細胞にストレスを与えて、当該改変されたコラーゲンタンパク質の当該細胞の外への分泌を促進する。本発明の目的に従う、改変されたコラーゲンタンパク質を発現するように遺伝子導入された細胞へ与える「ストレス」条件としては、培地を容器に満たす、重力の変化、振動、遠心力などが挙げられるが、細胞の形態を変化させる効果を有するものであれば、これらに限定されない。
【0026】
[配列の簡単な説明]
配列番号1は、図10に模式的に示すGFP挿入Type Vコラーゲンα1をコードするヌクレオチド配列を示す。
配列番号2は、図10に模式的に示すGFP挿入Type Vコラーゲンα1のアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、図11に模式的に示すHaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1をコードするヌクレオチド配列を示す。
配列番号4は、図11に模式的に示すHaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1のアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、本発明の実施例に係るプラスミドベクターpEB6CAGcol5α1-EGFPのヌクレオチド配列を示す。
配列番号6は、本発明の実施例に係るプラスミドベクターpEB6CAGcol5α1-Halo7のヌクレオチド配列を示す。
配列番号7は、本発明の実施例に係る改変されたコラーゲンタンパク質を作製する際に用いたリンカーのヌクレオチド配列を示す(図10および図11を参照)。
配列番号8は、配列番号7のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、マウス由来のType Vコラーゲンα1をコードするヌクレオチド配列(XM_006497644)を示す。
配列番号10は、マウス由来のType Vコラーゲンα1のアミノ酸配列(XP_006497707)を示す。
配列番号11は、マウス由来のType Vコラーゲンα3をコードするヌクレオチド配列(XM_017313471)を示す。
配列番号12は、マウス由来のType Vコラーゲンα3のアミノ酸配列(XP_017168960)を示す。
配列番号13は、マウス由来のType XIコラーゲンα1をコードするヌクレオチド配列(NM_007729)を示す。
配列番号14は、マウス由来のType XIコラーゲンα1のアミノ酸配列(NP_031755)を示す。
配列番号15は、マウス由来のType XIコラーゲンα2をコードするヌクレオチド配列(NM_001317722)を示す。
配列番号16は、マウス由来のType XIコラーゲンα2のアミノ酸配列(NP_001304651)を示す。
配列番号17は、本発明の実施例に係る改変されたコラーゲンタンパク質を作製する際に用いたクローニングベクターpEGFP-N1のヌクレオチド配列(U55762)を示す(図10を参照)。
配列番号18は、配列番号17のクローニングベクターpEGFP-N1によってコードされた増強された緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein)のアミノ酸配列(AAB02574)を示す。
配列番号19は、本発明の実施例に係る改変されたコラーゲンタンパク質を作製する際に用いたCMV Flexi Vector pFN21K (HaloTag 7)のヌクレオチド配列(EU621375)を示す(図11を参照)。
配列番号20は、配列番号19のCMV Flexi Vector pFN21K (HaloTag 7)によってコードされたカナマイシン抵抗性タンパク質(kanamycin resistance protein)のアミノ酸配列(ACF22985)を示す。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらの実施例により限定されることは意図されない。
【実施例
【0028】
[材料および方法]
以下に示す実施例において用いた材料および方法は、以下の通りである。
1.細胞培養
細胞はマウス由来骨芽細胞株MC3T3-E1とマウス線維芽細胞Balb3T3を用いた。
通常培養は以下の材料を用いて、MC3T3-E1は10%血清を含む αMEM培地で、Balb3T3は10%血清を含むMEM培地で、37℃、5%CO2下で行った。
・血清:Fetal bovine serum(Gibco)
・培地:Minimum Essential Medium Alpha(Gibco)
・培地:Minimum Essential Medium (Gibco)
・細胞培養用ディッシュ:Cell culture dish 60×15 mm(Falcon)
【0029】
震とう培養には、以下のフラスコに培地を満たした状態で行った。
・細胞培養用フラスコ:Cell culture flask(12.5 cm2スラントネック/プラグシール)25 ml(Falcon)
シェイカーはミニシェーカーSHM-2002(LMS)を用い、サンフラワー方式の振とうで振とう角度7°、回転速度20 rpmで培養を行った。
【0030】
2.遺伝子導入
ベクター構築には、当研究室で開発されたpEB6CAGベクターを基本骨格に用いた。クローニングしたType VコラーゲンのN末球状ドメインとヒンジ部の間に、それぞれGFP、HaloTag(R)7(Promega)を挿入し、以下のベクターを作製した(図3、9、10、11を参照)。
・pEB6CAGCol5α1-GFP
・pEB6CAGCol5α1-Halo7
本研究ではマウス頭蓋骨由来の細胞株であるMC3T3-E1細胞およびマウス線維芽細胞株Balb3T3を用いた。遺伝子導入はリポフェクション法で行い、ScreenFectTMA(和光純薬)を試薬として用いた。遺伝子導入から36時間後、細胞を0.05%Trypsin・0.02%EDTA-2Na・PBS(-)溶液(Trypsin溶液)で処理したのち60 mm dishに継代し、終濃度1.5 μg/mlのGeneticin(G418)を含むαMEM培地またはMEM培地により5日間セレクションを行った。形成されたコロニーを採取し、培養を継続した後、蛍光の輝度が高いクローンを選別した。
【0031】
3.HaloTagリガンドによる染色
pEB6CAGCol5α1-Halo7を導入したMC3T3-E1細胞は、以下の3種類の色素を 0.1 μMになるように添加し、1時間染色後、培地で洗浄して色素を除去し、1時間脱色後に蛍光観察を行った。
・HaloTag-OregonGreen(細胞膜透過性、緑)
・HaloTag-TMR(細胞膜透過性、赤)
・HaloTag-Alexa488(細胞膜非透過性、緑)
【0032】
4.細胞の撮影
蛍光顕微鏡撮影には、OLYMPUS LX73を用いた。蛍光撮影には、以下のフィルターセットを用いた。
・緑色蛍光:U-EGFP(OLIMPUS)Ex:470/20、Em:518/45
・赤色蛍光:BrightLine(R)SpGold-B-000-ZERO(Semrock)Ex:534/20、Em:572/28
・近赤外蛍光:BrightLine(R)Cy5.5-B-000(Semrock)Ex:655/40、Em:716/40
超解像顕微鏡撮影は、Zeiss LSM880 Airscanを用いて、細胞核をHoechst33342で対比染色して観察した。
【0033】
5.細胞の移植
MC3T3-E1およびBalb3T3のコラーゲンプローブ安定発現株1x106個の細胞を50 μlのPBS(-)に懸濁し、MC3T3-E1細胞はC57BL/6 アルビノマウスの背部皮下に、Balb3T3細胞はBalb/cマウスの背部皮下に移植した。2週間後、皮膚を切開し実体顕微鏡MVX(OLYMPUS)に設置した マルチスペクトルCCDカメラNuance(PerkinElmer)を使い倍率2.5倍で撮影した。GFP挿入の場合はそのまま観察し、HaloTag挿入の場合はStella700HaloTagリガンドを0.5 μMにPBS(-)で希釈した溶液50 μlを細胞移植部位に投与して1時間染色後に撮影した。蛍光撮影には、以下のフィルターを用いた。
・緑色蛍光:U-FGFP(OLIMPUS)Ex:470/20、Em:518/45
・近赤外蛍光:BrightLine(R)Cy5.5-B-000(Semrock)Ex:655/40、Em:716/40
移植3週間後に蛍光を含む皮膚片を摘出し固定後、蛍光の線維を切断する方向に切片を作成して、H&E染色、マッソントリクローム染色、エラスチカワンギーソン染色にて、コラーゲン線維の蓄積を検出した。
【0034】
[実施例1]マウスMC3T3-E1細胞におけるGFP挿入Type Vコラーゲンα1の発現
コラーゲンには専用の細胞内輸送系が必要だと考えられていることを考慮し、コラーゲンを産生していると報告のあるマウスMC3T3-E1細胞を使用し、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現させた。蛍光顕微鏡で観察したところ、細胞質内に顆粒状の緑色蛍光が観察され、膜小胞で輸送されていると考えられるが、ゴルジ体が暗く抜けていた(図4)。これにより、通常の培養方法では、正しく輸送されず、分泌もされていないことが推定された。
【0035】
[実施例2]ストレス下でのマウスMC3T3-E1細胞におけるGFP挿入Type Vコラーゲンα1の発現(1)
培養方法の改良を検討するため、北川鉄工所製Zeromo(登録商標)によって、フラスコを回転させ重力変化のストレスを与えた場合のMC3T3-E1細胞の形態を観察した。図5に示すように、通常培養では薄く広がった上皮様の形態であるのに対して、重力変化ストレス3日後には細胞が細く折り重なって密集した線維芽細胞様の形態に変化した(図5)。
【0036】
[実施例3]ストレス下でのマウスMC3T3-E1細胞におけるGFP挿入Type Vコラーゲンα1の発現(2)
GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現させたMC3T3-E1細胞を図5と同様にZeromoによって重力ストレスを与えた場合、3日目には細胞の形態が上皮様から線維芽細胞様に変化するだけでなく、多くの結晶の出現を認め、また蛍光像にも部分的に線維状への変化が認められた。さらにZeromo培養を継続した結果12日目には、正常なコラーゲン様の線維像に完全に変化した(図6)。
【0037】
[実施例4]ストレス条件の比較・検討
重力ストレスの与え方が、Zeromoによる回転が必要なのか、より単純な震とうでよいのかを検討した。A) GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現させたMC3T3-E1細胞を静置して通常培養しても、細胞は上皮様であり分泌は起こらなかった(図7A)。B)震とう培養すると、形態が線維芽細胞様に変化し、分泌されたコラーゲン線維が蛍光として可視化された(図7B)。C) HaloTag7挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現させ震とう培養後、TMR-HaloTagリガンドで染色すると、GFPの場合と同様にコラーゲン線維像が可視化された(図7C)。
【0038】
[実施例5]コラーゲン線維の細胞外への分泌
図7で見られた線維が細胞外に分泌されたものであることを確認するため、染色方法を、まず膜透過性がなく細胞外タンパク質しか染色できないAlexa488-HaloTagリガンドで1時間染色後、膜透過性で細胞内も染色できるTMR-HaloTagリガンドでさらに1時間染色する2段階染色を行った。緑の蛍光像(図8;下欄中央)から、線維は細胞外に分泌して形成された線維を可視化したものであり、赤の蛍光像(図8;下欄右側)から、細胞内を輸送中のタンパク質は図4の分泌されなかった際の蛍光像と同様になったことが示された(図8)。
【0039】
[実施例6]ストレス下でのマウスBalb3T3細胞におけるGFP挿入Type Vコラーゲンα1の発現
同じGFP挿入Type Vコラーゲンα1プローブが他の細胞でも機能するか確認するため、GFP挿入Type Vコラーゲンα1を導入・発現させたBalb3T3細胞株を樹立し解析を行った。通常の増殖培養の間は細胞質に顆粒状の蛍光が検出されるだけで、分泌は起こらなかった(図12A)。静置して通常培養を継続しても分泌は起こらず、2週間目にはかなりの細胞が死亡していた。(図12B)。ストレス誘導培養すると2週間目に分泌されたコラーゲン線維が蛍光として可視化された(図12C)。
【0040】
[実施例7]GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現細胞のマウス皮下移植
MC3T3-E1およびBalb3T3のコラーゲンプローブ安定発現株1x106個の細胞を50 μlのPBS(-)に懸濁し、それぞれMC3T3-E1細胞はC57BL/6 アルビノマウスの背部皮下に、Balb3T3細胞はBalb/cマウスの背部皮下に移植した。2週間後、皮膚を裏返しにして蛍光撮影したところ、いずれのマウスにおいても、GFPの蛍光で光るコラーゲン線維様のかたまりが形成されていた。これらは、PBS(-)のみを注射した部位には見られなかった(図13)。
【0041】
[実施例8]GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1細胞を移植したマウス皮膚の組織学的解析
GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1細胞を皮下移植後3週間目に実施例7と同一部位を観察したところ、線維状蛍光塊が継続して存在した。これを含むように皮膚を回収し、固定後に蛍光線維を横断する切片を作成し、ヘマトキシン・エオジン染色((Hematoxylin Eosin (HE) stain)、マッソントリクローム染色(Masson's Trichrome (MT) stain)、エラスチカワンギーソン染色(Elastica van Gieson (EVG) stain)を行った。蛍光が見られた皮膚の裏側に、通常はみられない瘤状の構造がみられ(図14矢頭)、これはマッソントリクローム染色で膠原線維を示す青色に、またエラスチカワンギーソン染色で膠原線維を示すピンク色に染色されていた。これらにより、本発明によるType Vコラーゲンα1プローブは、生きたマウス体内においてもコラーゲン線維を細胞外に形成し、観察できることが確認された。
【0042】
[実施例9]Halotag挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1細胞のマウス皮下移植
Halotag挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1の安定発現株1x106個の細胞を50 μlのPBS(-)に懸濁し、C57BL/6 アルビノマウスの背部皮下に移植した。2週間後、Stella700HaloTagリガンドを0.5 μMにPBS(-)で希釈した溶液50 μlを細胞移植部位に投与して1時間染色後に皮膚を裏返しにして蛍光撮影したところ、Stella700の近赤外蛍光で光るコラーゲン線維のかたまりが形成されていた。(図15)。
【0043】
[実施例10]GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1細胞の超解像顕微鏡解析
GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1をガラスボトム上で培養し、コラーゲン分泌を誘導できるストレス培養に切り替えて19日後に細胞外に緑の蛍光の線維構造が確認された(図16;写真の下段パネル)。これを4%パラフォルムアルデヒドで固定した後、細胞核をHoechst33342で対比染色して、Zeiss LSM880 Airyscanを用いて超解像観察した。コラーゲン線維と細胞が複雑に重なり合った3次元構造を形成していた。(図17)。
【0044】
[実施例11]GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1細胞の線維形成阻害実験
GFP挿入Type Vコラーゲンα1発現MC3T3-E1をマルチウェルプレートで培養し、コラーゲン分泌を誘導できるストレス培養に切り替える際に、ピルフェニドン 1.0 mg/mlを添加して、無添加のウェルと比較した。28日後にピルフェニドン無添加のウェルでは細胞外に緑の蛍光の線維構造が確認されたが、添加したウェルでは、線維形成が阻害されていた。(図18)。これにより、本発明を利用することで、コラーゲン分泌・線維形成の阻害効果をもつ薬物を探索できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、コラーゲン線維を直接可視化することから、線維形成をリアルタイムにモニタリングするプローブとして有用であり、またこれを利用した線維化抑制薬物のスクリーニング技術としても有用である。
【0046】
本発明は、線維化を研究するための研究ツールとしても有用である。
【0047】
本発明の改変されたコラーゲンタンパク質(またはそれを含むコラーゲン線維)によれば、コラーゲン線維への治療用タンパク質の担持および治療部位への送達も可能となり得ることから、有用タンパク質の標的部位への送達ビヒクルとしても有用であり得る。
【0048】
本発明は、非侵襲的かつリアルタイムで線維化症状をモニタすることができる各種疾患等のモデル動物(例: マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット、ウサギ、イヌ、ミニブタなど、ある程度の遺伝学的な統御がされており、均質な遺伝的要件を備えている実験動物)の提供に有用である。
【0049】
本発明はまた、形質転換細胞で発現され、該細胞外でコラーゲン線維を形成することができる改変されたコラーゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現可能に導入された発現細胞株を含有する細胞培養培地を予めコーティングした細胞培養ディッシュ(ストレス下培養前または後のいずれか)の提供に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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