(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】金属有機骨格ガラス膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230628BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230628BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230628BHJP
B01D 71/04 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/04
(21)【出願番号】P 2022519844
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2020132605
(87)【国際公開番号】W WO2021063426
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】201911231111.2
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520143281
【氏名又は名称】寧波大学
【氏名又は名称原語表記】NINGBO UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】818 Fenghua Road, Jiangbei District, Ningbo City, Zhejiang Province, China
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】李 硯碩
(72)【発明者】
【氏名】金 花
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110090621(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0189866(US,A1)
【文献】特開2019-018178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質金属有機骨格材料を1~15℃/分間の速度で溶融温度まで昇温した後に自然冷却する工程を含
む金属有機骨格ガラス膜の製造方法であって、
前記結晶質金属有機骨格材料が、金属ノード
、配位子A
および配位子Bから構成され、
前記金属ノードが、亜鉛イオンおよび/またはコバルトイオンであり、
前記配位子Aが、イミダゾールまたはリン酸であ
り、
前記配位子Bが、ベンズイミダゾール、2-メチルベンズイミダゾール、5-メチルベンズイミダゾール、5,6-ジメチルベンズイミダゾール、5-クロロベンズイミダゾール、5-ヒドロキシベンズイミダゾール、およびトリアゾールよりなる群から選択され、
前記結晶質金属有機骨格材料が、モル比で1:4.5~30:0~5:100~500の金属イオン、配位子A、配位子Bおよび有機溶媒から構成される合成系を用いて、ソルボサーマル法により合成されたものであり、
前記有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、メタノール、エタノール、およびこれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする金属有機骨格ガラス膜の製造方法。
【請求項2】
前記配位子Bが、ベンズイミダゾール、5-メチルベンズイミダゾール、および5-クロロベンズイミダゾールよりなる群から選択されることを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記配位子Aが、イミダゾールであることを特徴とする請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記昇温速度が、10±2℃/分間であることを特徴とする請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶融温度が、370~600℃であることを特徴とする請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド
であることを特徴とする請求項1
~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記結晶質金属有機骨格材料が担持型結晶質金属有機骨格材料であり、担体の孔径が70nm~1μmであることを特徴とする請求項1
~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記担体が、α-Al
2O
3担体、γ-Al
2O
3担体、TiO
2担体、およびステンレス鋼担体よりなる群から選択されることを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離の技術分野に属し、詳しくは金属有機骨格ガラス膜の製造方法およびそのガス混合物の分離への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスとは、一般的に非晶質で無機の非金属材料を言う。一般的に、無機鉱物を主原料とし、金属酸化物または金属塩を所定の割合で混ぜて着色ガラスを製造する。高分子の開発に伴い、いくつかの透明なプラスチックもガラスの範疇に入り、有機ガラスと呼ばれる。
【0003】
ガラス材料の多くは、溶融急冷の方法によって製造される。急冷の過程は、粘度が増加し、晶析を阻止してガラスの形成を促進する。従来の溶融急冷ガラスは、化学的な観点から、無機非金属ガラス、有機ガラスおよび金属ガラスの3種類に分類され、それらの化学結合がそれぞれイオン結合と共有結合の混合結合、共有結合、金属結合である。最近、イギリスケンブリッジ大学のT.D.Bennettらの研究チームは、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)(DOI:10.1021/jacs.5b13220)に、新規な溶融急冷ガラス、即ち金属有機骨格(MOF)ガラスを製造できたことを発表した。このガラスは、金属イオンと有機配位子が配位結合により連結してなる無機-有機ハイブリッドガラスであり、その化学的特性と結合構造が従来の3種類のガラスと異なる。そのため、金属有機骨格ガラスは、「第4種類の溶融急冷ガラス」に分類される。しかしながら、該研究チームは、この新規なガラスのいくつかの基本的な特性、例えば、融点、化学組成、形成過程、ガス吸着などを報告しただけで、これまでは材料そのものについて研究を行い、実際の応用で使用できる実用可能な製品を製造しなかった。一方、本発明では、実行可能な解決策を提供し、該材料から分離膜を製造し、実際のガス分離に使用している。
【0004】
実際の研究では、一般的な金属有機骨格材料は200~600℃で直接熱分解し、極めて少ない金属有機骨格材料のみが分解する前に溶融してガラスを形成することを発見した。該種類の材料の粉体をガス吸着に使用することができる。しかし、単に粉体を用いてガスの吸着・分離を行う場合、吸着飽和した粉体に対して脱着を行うように間歇的に操作しないといけない。金属有機骨格ガラスは、その自身の吸着能力が比較的低いため、粉体のまま用いて吸着するのは経済性が悪い。膜分離は、膜の選択性を利用して混合物における異なる成分を分離・精製・濃縮することを実現するものであり、省エネルギーや環境に優しいという特徴を有する。また、そのほかの分離プロセスと組み合わせやすく、連続的に操作することができる。金属有機骨格から製造されるガス分離膜は、その材料の孔径による篩い分け特性を利用して分離を実現できると共に、材料の熱安定性を利用して高温で操作することを実現できる。しかし、本願を出願するまでは、前記材料から膜を形成する適切な方法がなかった。上記したように、金属有機骨格ガラス材料は、新世代の溶融急冷ガラスとして、その特別な構造および優れた耐熱性により、高温下でガス分離に使用されうる良好な膜材料である。この材料に適する製膜方法を開発することは、この材料の使用および発展に対して重要な意義を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、金属有機骨格ガラスを材料とする高性能ガス分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明は、結晶質金属有機骨格材料を1~15℃/分間の速度で溶融温度まで昇温した後に自然冷却する工程を含み、前記結晶質金属有機骨格材料が金属ノードと配位子Aを含み、前記金属ノードが亜鉛イオンおよび/またはコバルトイオンであり、前記配位子Aがイミダゾールまたはリン酸である金属有機骨格ガラス膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記方法で製造された金属有機骨格ガラス膜を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法による金属有機骨格ガラス膜の合成は、成膜条件が広く、制御範囲において材料が分解せずに溶融し、連続したガラス層が形成でき、再現性が良い。得られる膜製品は、良好な耐熱性を有し、ガス分離分野への使用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ZIF-62粉末の示差走査熱量測定を行った結果を示す図である。
【
図2】ZIF-62を従来の打錠・焼結することにより得たガラス膜の実物図である。
【
図3】ZIF-62粉末のX線回折測定を行った結果を示す図である。
【
図4】ZIF-62シード層のX線回折測定を行った結果を示す図である。
【
図5】ZIF-62シード層の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】ZIF-62ガラス膜のX線回折測定を行った結果を示す図である。
【
図7】ZIF-62ガラス膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図8】ZIF-62粉末およびZIF-62ガラス膜の赤外線測定を行った結果を示す図である。
【
図9】ZIF-62ガラス膜のH
2/CH
4に対する分離性能を示す図である。
【
図10】ZIF-76シード層のX線回折測定を行った結果を示す図である。
【
図11】ZIF-76シード層の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図12】ZIF-76ガラス膜のX線回折測定を行った結果を示す図である。
【
図13】ZIF-76ガラス膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図14】ZIF-76ガラス膜のCO
2/N
2に対する分離性能を示す図である。
【
図15】ZIF-4ガラス膜(ZIF-zni相を含む)のX線回折測定を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の目的は、金属有機骨格ガラス膜(MOFガラス膜)およびその製造方法を提供することである。係る製造方法は、結晶質金属有機骨格材料を1~15℃/分間の速度で結晶質金属有機骨格材料の溶融温度まで昇温した後に自然冷却する工程を含み、前記結晶質金属有機骨格材料が金属ノードと配位子Aを含み、前記金属ノードが亜鉛イオンおよび/またはコバルトイオンであり、前記配位子Aがイミダゾールまたはリン酸であるものである。典型的な材料の代表例は、金属ノードである亜鉛イオンと配位子であるイミダゾールから構成されるZIF-4である。
【0010】
より好ましい技術手段では、上記の結晶質金属有機骨格材料は、金属ノードと配位子Aに加えて、さらに、ベンズイミダゾール、2-メチルベンズイミダゾール、5-メチルベンズイミダゾール、5,6-ジメチルベンズイミダゾール、5-クロロベンズイミダゾール、5-ヒドロキシベンズイミダゾール、およびトリアゾールよりなる群から選択される配位子Bを含む。
【0011】
上記した金属ノード、配位子Aおよび配位子Bは、任意に組み合わせて適切な結晶質金属有機骨格材料を形成することができる。これらの材料は、特に限定されないが、ZIF-4(亜鉛イオン/コバルトイオン、イミダゾール)、ZIF-62(亜鉛イオン/コバルトイオン、イミダゾール、ベンズイミダゾール)、ZIF-76(亜鉛イオン/コバルトイオン、イミダゾール、5-クロロベンズイミダゾール)、TIF-4(亜鉛イオン、イミダゾール、5-メチルベンズイミダゾール)、GIS(亜鉛イオン、イミダゾール)、架橋ポリマー1(亜鉛イオン、リン酸、イミダゾール)、架橋ポリマー2(亜鉛イオン、リン酸、トリアゾール)、架橋ポリマー3(亜鉛イオン、リン酸、ベンズイミダゾール)、架橋ポリマー4(亜鉛イオン、リン酸、2-メチルベンズイミダゾール)が挙げられる。本発明では、金属ノード、配位子Aおよび配位子Bから構成される結晶質金属有機骨格材料、特に、イミダゾールを配位子Aとし且つベンズイミダゾール、5-メチルベンズイミダゾールまたは5-クロロベンズイミダゾールを配位子Bとする材料は、より良い効果を得ることができる。このような材料としては、例えば、ZIF-62(亜鉛イオン/コバルトイオン、イミダゾール、ベンズイミダゾール)、TIF-4(亜鉛イオン、イミダゾール、5-メチルベンズイミダゾール)、ZIF-76(亜鉛イオン/コバルトイオン、イミダゾール、5-クロロベンズイミダゾール)が挙げられる。
【0012】
本発明に係るMOFガラス膜の製造方法では、溶融急冷法により結晶質MOF材料をMOFガラスに転化させる。溶融温度は、MOF材料に応じて適切な値を選択する。一般的な溶融温度選定基準は、供試材料の融点よりも高くかつ該材料の分解温度よりも低いことである。もちろん、これは最も基本的なガイドラインに過ぎず、具体的な材料について、このガイドラインを用いて溶融する際に未だ様々な要因を考慮する必要がある。実際の試験では、MOF材料のいくつは、この温度範囲において溶融できなかった。本発明では、MOFsの溶融温度は370~600℃、最も好ましいZIF-62、ZIF-76材料の溶融温度は440~450℃であることが好ましい。溶融工程では、溶融温度まで昇温し、昇温速度を10±2℃/分間とすることが好ましい。
【0013】
本発明の技術手段では、結晶質金属有機骨格材料は、当分野における様々な方法によって製造することができる。本発明では、ソルボサーマル法により合成する。ソルボサーマル法は、水熱法に基づいて開発されたものであり、オートクレーブなどの密閉系中で、有機物や非水溶媒を溶媒として、所定の温度および溶液の自発生圧力下で、原料混合物を反応させる合成方法である。水熱反応との違いは、使用する溶媒が水ではなく有機物である点である。本発明では、結晶質金属有機骨格材料を合成するソルボサーマル法の合成系は、モル比で1:4.5~30:0~5:100~500の金属イオン、有機配位子A、有機配位子Bおよび有機溶媒から構成され、前記有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、メタノール、エタノール、およびこれらの混合物よりなる群から選択される。好ましい有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドである。
【0014】
結晶質金属有機骨格材料を金属有機骨格ガラス材料へ転化させるには、溶融急冷法または焼結法を用いることができる。これらの方法は、いずれも規則的な結晶格子構造を有する結晶材料を、金属イオンと有機配位子が配位結合により連結したネットワーク構造の無機-有機ハイブリッド材料に転化させるためのものである。しかし、我々の研究では、材料の転化方法が違うと、得られる生成物のガス分離性能が大きく異なることを発見した。具体的に、実施例で示される効果の通りである。一般的に、打錠・焼結されてなるMOFガラス材料は、実用化可能なガス分離特性を有さない。本発明では、溶融急冷法を用いて相転移を行う。当該方法は、特に担持型MOFガラス膜の製造に好適に使用できる。これに応じて、製造原料を担持型結晶質金属有機骨格材料とすることが好ましく、担体の孔径を70nm~1μmとすることが好ましい。結晶質有機骨格材料を担持する担持型結晶質MOFsの製造は、in-situ成長法、2次成長法、真空アシスト法、スピンコート法などを用いることができる。担体は、α-Al2O3担体、γ-Al2O3担体、TiO2担体およびステンレス鋼担体よりなる群から選択されることが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、図面および非限定的な実施例を用いて、本発明をさらに説明する。
実施例1
従来の打錠・焼結法によるZIF-62ガラス自立型膜の製造
(1)ZIF-62粉体の製造:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾール、ベンズイミダゾール、DMFをモル比1:12.5:3:200で均一に混合した。この溶液50mLを反応釜に入れ、130℃で48時間反応させ、新鮮なDMFで3回洗浄し、100℃で真空乾燥し、ZIF-62粉体を得た。
(2)打錠:製造されたZIF-62粉体0.1gを打錠機の槽内に入れ、15Mpaの条件下で、15分間プレスして、自立型の円盤状ZIF-62を得た。
【0016】
(3)溶融・急冷:まず、示差走査熱量法によりZIF-62粉末を測定した。材料の昇温過程における熱量変化(
図1)を解析したところ、ZIF-62材料は、融点が434℃、ガラス転移温度が335℃、440℃~500℃で分解せずに溶融することを確認した。円盤状のZIF-62を管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から440℃まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷した。円盤状のZIF-62を溶融急冷後の写真は
図2に示され、膜が緻密ではなかった。当該分離膜は、Wicke-Kallenbach法により検出したところ、ガス分離性能が全く認めなかった。
【0017】
実施例2
ソルボサーマル法による担持型ZIF-62ガラス膜の製造
(1)シード(結晶種)の成長:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾール、ベンズイミダゾール、DMFをモル比1:12.5:3:200で均一に混合した。この溶液10mLを25mLのビーカーに入れ、表層の孔径が70nmのα-Al2O3担体シートをビーカーの底部に置き、48h静置した。
(2)溶融・急冷:シード層が成長した担体シートを100℃で2時間乾燥した後、管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から440℃まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷した。
【0018】
ZIF-62ガラス膜の特性は、以下の通りである。
X線回折によりZIF-62粉末(
図3)およびZIF-62シード層(
図4)を測定し、検出したピーク位置に基づいて、さらに材料の結晶構造を判定した。対応する結晶のシミュレーションデータと比較したところ、ZIF-62シード層はcagトポロジー構造を持っていることが分る。ZIF-62シード層の走査型電子顕微鏡写真(
図5)から、ZIF-62シードの粒子径は10~15μmの間にあり揃ったことが分る。
【0019】
ZIF-62ガラス膜のX線回折結果図(
図6)とZIF-62シード層のX線回折結果図(
図4)を比較したところ、ZIF-62は、溶融工程を経た後、cagトポロジー構造がアモルファス構造に転化されたことが分る。ZIF-62ガラス膜の走査型電子顕微鏡写真(
図7)から、ZIF-62は、溶融過程で結晶が溶融し、結晶の形態が変化し、高温下で連続した膜に広がったことが分る。ZIF-62粉末およびZIF-62ガラス膜の赤外線結果図(
図8)から、溶融した際にZIF-62の細孔中の溶媒DMFはさらに除去され、配位子は高温下で分解しないことが分る。Wicke-Kallenbach法により得られたZIF-62ガラス膜のH
2/CH
4分離性能を検出した(
図9)。膜の上流側にモル比で1:1のH
2とCH
4の混合ガスを通気し、膜の下流側にヘリウムガスを通気してパージした。本発明のZIF-62ガラス膜は、H
2/CH
4の選択性が50と高かった。
【0020】
実施例3
担持型ZIF-76ガラス膜の製造
(1)シードの成長:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾール、5-メチルベンズイミダゾールおよびDMFをモル比1:10:2:200で均一に混合した。この溶液10mLを25mLの反応釜に入れ、表層の孔径が70nmのα-Al2O3担体シートを反応釜の底部に置き、110℃でソルボサーマル反応を12時間行った。
(2)溶融・急冷:シード層が成長した担体シートを100℃で2時間乾燥した後、管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から460℃まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷した。
【0021】
ZIF-76ガラス膜の特性は、以下の通りである。
X線回折によりZIF-76シード層(
図10)を測定し、検出したピーク位置に基づいて、さらに材料の結晶構造を判定した。対応する結晶のシミュレーションデータと比較したところ、ZIF-76シード層は、ltaトポロジー構造を持っていることが分る。ZIF-76シード層の走査型電子顕微鏡写真(
図11)から、ZIF-76シードの粒子径は20μm程度で比較的に揃ったことが分かる。
【0022】
ZIF-76ガラス膜のX線回折結果図(
図12)とZIF-76シード層のX線回折結果図(
図10)を比較したところ、ZIF-76は、溶融工程を経た後、ltaトポロジー構造がアモルファス構造に転化されたことが分る。ZIF-76ガラス膜の走査型電子顕微鏡写真(
図13)から、ZIF-76は、溶融過程で結晶が溶融し、結晶の形態が変化し、高温下で連続した膜に広がったことが分る。Wicke-Kallenbach法により得られたZIF-76ガラス膜のCO
2/N
2分離性能を検出した(
図14)。膜の上流側にモル比で1:1のCO
2とN
2の混合ガスを通気し、膜の下流側にヘリウムガスを通気してパージした。本発明のZIF-76ガラス膜は、常温で透過量が30~40GPUに達し、選択性が20であった。
【0023】
実施例4
担持型ZIF-4ガラス膜の製造
(1)シードの成長:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾールおよびDMFをモル比1:15:200で均一に混合した。この溶液10mLを25mLのビーカーに入れ、70nmのα-Al2O3担体シートをビーカーの底部に置き、48h静置した。
(2)溶融・急冷:シード層が成長した担体シートを100℃で2時間乾燥した後、管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から580℃まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷した。
【0024】
ZIF-4は、600℃で分解する前に一旦結晶の溶融が発生した。ZIF-4は、ZIF-62と異なり、温度が上昇するにつれて、最初に結晶がcagトポロジー構造からアモルファス構造に転化した後、500~550℃で再び結晶化してzniトポロジー構造に転化され、最終的に分解するまで溶融した。解析したところ、各段階の温度が近いため、得られたガラス膜にZIF-zni結晶が多くドープされたことが分る(
図15)。結晶相とガラス相が共存し、相界面で隙間が極めて生じやすく、欠陥が形成され、膜のCO
2/N
2に対する選択性が1.5と低く、分離性能を有さなかった。
【0025】
実施例5
担持型GISガラス膜の製造
(1)シードの成長:文献(DOI:10.1073/pnas.0602439103)を参照し、硝酸亜鉛四水和物およびイミダゾールを10:1の比率で均一に混合した。この溶液10mLを25mLのビーカーに入れ、70nmのα-Al2O3担体シートをビーカーの底部に置き、48h静置した。
(2)溶融・急冷:シード層が成長した担体シートを100℃で2時間乾燥した後、管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から580℃まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷した。
GISは、焼結過程において、580℃で直接アモルファス相から液状に溶融したが、融点が分解温度に近いため、580℃で膜表面の一部材料が熱分解して膜に欠陥が生じ、膜が分離効果を有さなかった。
【0026】
実施例6
各MOFs材料の製造および性能測定
(1)ZIF-4/ZIF-62/ZIF-76/GIS粉体の製造
ZIF-4粉体の製造:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾール、DMFをモル比1:5:200で均一に混合してZIF-4合成液を得た。合成液50mLを反応釜に入れ、130℃で48時間反応させ、新鮮なDMFで3回洗浄し、100℃で真空乾燥し、ZIF-4粉体を得た。
【0027】
ZIF-62粉体の製造:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾール、ベンズイミダゾール、DMFをモル比1:12.5:3:200で均一に混合してZIF-62合成液を得た。合成液50mLを反応釜に入れ、130℃で48時間反応させ、新鮮なDMFで3回洗浄し、100℃で真空乾燥し、ZIF-62粉体を得た。
ZIF-76粉体の製造:硝酸亜鉛六水和物、イミダゾール、5-メチルベンズイミダゾール、DMFをモル比1:2:2:200で均一に混合してZIF-76合成液を得た。合成液50mLを反応釜に入れ、130℃で48時間反応させ、新鮮なDMFで3回洗浄し、100℃で真空乾燥し、ZIF-76粉体を得た。
GIS粉体の製造:硝酸亜鉛四水和物、イミダゾール、DMFをモル比10:1:200で均一に混合してGIS合成液を得た。合成液50mLを反応釜に入れ、130℃で48時間反応させ、新鮮なDMFで3回洗浄し、100℃で真空乾燥し、GIS粉体を得た。
【0028】
(2)in-situ成長法による担持型結晶質ZIF-4/ZIF-62/ZIF-76/GIS材料の製造
70nmのα-Al2O3シートを担体とし、蒸留水とエタノールで担体シートを洗浄し、担体シートを工程(1)と同様の合成液に入れ、130℃で48時間反応・成長させ、100℃で真空乾燥し、それぞれ、結晶質ZIF-4A、結晶質ZIF-62A、結晶質ZIF-76A、結晶質GISAと記す4種類の担持型結晶質金属有機骨格材料を得た。
【0029】
(3)真空アシスト法による担持型結晶質ZIF-4/ZIF-62/ZIF-76/GIS材料の製造
70nmのα-Al2O3シートを担体とし、蒸留水とエタノールで担体シートを洗浄した。
工程(1)で製造した4種類の金属有機骨格粉体0.05gをそれぞれメタノール溶媒10mlに15分間超音波分散させて分散液を得た。担体を漏斗に固定し、担体の上流側に分散液10mlを加え、担体の下流側を真空状態に吸引し、上流側の液体が無くなるまで吸引を続けた。その後、担体シートを外し、100℃で真空乾燥し、それぞれ、結晶質ZIF-4B、結晶質ZIF-62B、結晶質ZIF-76B、結晶質GISBと記す4種類の担持型結晶質金属有機骨格材料を得た。
【0030】
(4)打錠・焼結法による粉体MOF材料のガラス化処理
工程(1)で製造した4種類のMOF粉体0.1gをそれぞれ打錠機の金型に入れ、上型の圧力が15Mpaとなるように15分間プレスして、自立型金属有機骨格材料片を得た。自立型金属有機骨格材料片を管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から4種類の結晶質金属有機骨格材料のそれぞれの溶融温度(表1)まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷し、それぞれ、ZIF-4ガラス焼結片、ZIF-62ガラス焼結片、ZIF-76ガラス焼結片、GISガラス焼結片と記す4種類のMOFガラス焼結片を得た。
【0031】
【0032】
(5)溶融急冷法によるMOF材料のガラス化処理
工程(2)および工程(3)で製造した8種類の担持型結晶質MOF材料をそれぞれ独立に管状炉に移し、アルゴンガスの保護下で、10℃/分間の昇温速度で室温から結晶質金属有機骨格材料の溶融温度(表2)まで昇温し、加熱を停止し、室温まで急冷し、それぞれZIF-4ガラス膜A、ZIF-62ガラス膜A、ZIF-76ガラス膜A、GISガラス膜A、ZIF-4ガラス膜B、ZIF-62ガラス膜B、ZIF-76ガラス膜B、GISガラス膜Bと記す8種類の担持型金属有機骨格ガラス複合膜を得た。
【0033】
【0034】
(6)材料性能の測定
a.結晶質金属有機骨格融点の測定
測定方法:示差走査熱量法
測定対象:ZIF-4粉末、ZIF-62粉末、ZIF-76粉末、GIS粉末
測定結果:表3に示す。
【0035】
【0036】
b.結晶質金属有機骨格結晶構造の測定
測定方法:X線回折法
測定対象:ZIF-4粉末、ZIF-62粉末、ZIF-76粉末、GIS粉末、結晶質ZIF-4A、結晶質ZIF-62A、結晶質ZIF-76A、結晶質GISA、結晶質ZIF-4B、結晶質ZIF-62B、結晶質ZIF-76B、結晶質GISB
測定結果:表4に示す。
【0037】
【0038】
c.金属有機骨格ガラス膜性能の測定
測定方法:Wicke-Kallenbach法を用い、膜の上流側にモル比1:1の混合ガスを通気し、膜の下流側にヘリウムガスを通気してパージし、クロマトグラフィーによって下流側のガス組成を分析し、膜の透過量と選択性を算出した。
測定対象:ZIF-4ガラス焼結片、ZIF-62ガラス焼結片、ZIF-76ガラス焼結片、GISガラス焼結片、ZIF-4ガラス膜A、ZIF-62ガラス膜A、ZIF-76ガラス膜A、GISガラス膜A、ZIF-4ガラス膜B、ZIF-62ガラス膜B、ZIF-76ガラス膜BおよびGISガラス膜B。
【0039】
測定結果:具体的に表5に示す。
1.ZIF-4ガラス焼結片、ZIF-62ガラス焼結片、ZIF-76ガラス焼結片、GISガラス焼結片は、装置の下流側にガスの透過が検出されなかった。
2.ZIF-4ガラス膜A、GISガラス膜A、ZIF-4ガラス膜B、GISガラス膜B膜は、いずれも選択性が2未満であり、膜に欠陥があり分離効果がなかった。
3.ZIF-62ガラス膜A、ZIF-76ガラス膜A、ZIF-62ガラス膜B、ZIF-76ガラス膜Bは、分離効果を有している。
【0040】