(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】電気リニアモータを制御する方法
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2019045578
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-09-28
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591159044
【氏名又は名称】コネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】KONE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トゥーッカ コルホネン
(72)【発明者】
【氏名】テロ ハカラ
(72)【発明者】
【氏名】パシ ラアッシナ
(72)【発明者】
【氏名】セッポ スウル-アスコラ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ヒンッカネン
(72)【発明者】
【氏名】セッポ サアラッカラ
(72)【発明者】
【氏名】マクシム ソコロブ
(72)【発明者】
【氏名】レザ ホッセインザデハ
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/207136(WO,A1)
【文献】特開2009-296874(JP,A)
【文献】特開平4-236188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0003224(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3373428(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/084366(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 41/02
H02P 25/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置を用い
て電気リニアモータを制御する方法であって、
該電気リニアモータは、
長尺の固定子梁と、
該固定子梁に沿って移動するように構成された少なくとも1つの可動子とを有し、
前記固定子梁は、該固定子梁の両側に配設された少なくとも2つの側面を含み、該側面のそれぞれは、1ピッチ分離隔して設けられた強磁性極を担持し、
前記可動子は、前記固定子梁の各側面に対向する少なくとも2つの対向面を含み、
前記可動子は、前記対向面のうち少なくとも1つに、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有する少なくとも1つの回転子ユニットを含み、前記巻線および前記永久磁石は、前記固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設され、
前記制御装置は、前記可動子の前記少なくとも1つの回転子ユニット毎に電力を供給するように構成された少なくとも1つの駆動装置を有し、
該方法は、
-前記強磁性極と該強磁性極に対向する前記少なくとも1つの回転子ユニットとの相互位置に関する位置情報を取得し、該位置情報は前記回転子ユニットの走行方向にて取得され、
-前記回転子ユニットのd軸は該回転子ユニットに対向する前記強磁性極の方向に位置しつつq軸は前記d軸と直交するように、前記位置情報を用いて前記少なくとも1つの回転子ユニットのd座標系およびq座標系を表し、
-前記強磁性極と該強磁性極に対向する前記少なくとも1つの回転子ユニットとの間にある空隙の長さに関する情報を取得し、
-前記少なくとも1つの駆動装置を用いて、前記少なくとも1つの回転子ユニットの前記少なくとも1つの巻線にd軸電流成分を供給することにより、前記空隙の長さを所定の基準値に近づけるように調整し、前記d軸電流成分は、空隙基準値と取得した空隙長さ情報の差に基づいて設定され
、
-前記可動子の走行位置情報および/または走行速度情報を取得し、
-前記少なくとも1つの駆動装置を用いて、走行位置基準と取得した走行位置情報の差および/または走行速度基準と取得した走行速度情報の差に基づいて、前記少なくとも1つの回転子ユニットの前記少なくとも1つの巻線にq軸電流成分を供給し、走行位置および/または走行速度を前記位置基準および/または速度基準に近づけるように調整し、
-走行位置情報、走行速度情報および空隙長さ情報のうち少なくとも1つの変化に応じて、回転子ユニットのd軸電流成分およびq軸電流成分の少なくとも一方を変化させ、
-該d軸電流成分およびq軸電流成分の少なくとも一方が変化すると同時に、該d軸電流成分およびq軸電流成分の他方に補正項を付与して、前記可動子の吸引力および/または推進力に対する変更の効果を補償することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法において、該方法は、
-前記固定子梁の両側に配置された強磁性極と該強磁性極に対向する前記回転子ユニット毎との相互位置に関する位置情報を取得し、該位置情報は前記回転子ユニットの走行方向にて取得され、
-前記回転子ユニットそれぞれのd軸は該回転子ユニットに対向する前記強磁性極の方向に位置しつつq軸は前記d軸と直交するように、前記位置情報を用いて前記回転子ユニットのd座標系およびq座標系を表し、
-前記強磁性極と該強磁性極に対向する前記回転子ユニット毎との間にある空隙の長さに関する情報を取得し、
-前記駆動装置を用いて、前記固定子梁の両側にて、前記回転子ユニットの巻線毎に別々にd軸電流成分を供給することにより、前記空隙の長さを所定の基準値に近づけるように調整し、前記別々のd軸電流成分は、空隙基準値と取得した空隙長さ情報の差に基づいて設定されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項
1または
2に記載の方法において、前記可動子は、前記対向面の少なくとも1つに、前記走行方向に連続して配設された少なくとも2つの回転子ユニットを有し、該回転子ユニットのそれぞれは、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有し、前記巻線および前記永久磁石は、前記固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設され、
前記制御装置は、同一の対向面の各回転子ユニットに個別に電力を供給するように構成された駆動装置を有し、
該方法は、前記駆動装置を用いて、別々のd軸電流成分を前記同一の対向面の回転子ユニットの巻線に供給して前記空隙の偏りを矯正し、前記別々のd軸電流成分は、前記空隙基準値と空隙長さ情報の差に基づいて設定されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項
1ないし3のいずれかに記載の方法において、該方法は、
-前記駆動装置を用いて、走行位置基準と取得した走行位置情報の差および/または走行速度基準と取得した走行速度情報の差に基づいて、前記回転子ユニットの前記巻線毎に別々のq軸電流成分を供給し、走行位置および/または走行速度を前記位置基準および/または速度基準に近づけるように調整することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項
1ないし
4のいずれかに記載の方法において、該方法は、
-前記可動子の走行位置基準と取得した走行位置情報の差および/または走行速度基準と取得した走行速度情報の差に基づいて推進力基準値を算出し、
-少なくとも空隙基準値と空隙長さ情報の差に基づいて吸引力基準値を算出し、
-前記回転子ユニットの推進力基準値、吸引力基準値および空隙長さ情報のうち少なくとも1つの変化に応じて、前記回転子ユニットのd軸電流成分およびq軸電流成分の少なくとも一方を変化させることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1
ないし5のいずれかに記載の
方法において、前記可動子は、前記対向面のそれぞれに、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有する少なくとも1つの回転子ユニットを含み、前記巻線および前記永久磁石は、前記固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されていることを特徴とする
方法。
【請求項7】
請求項1
ないし6のいずれかに記載の
方法において、前記固定子梁は該固定子梁の両側に2つずつ配設された少なくとも4つの側面を含み、該4つの側面は前記固定子梁の周囲を実質的に覆い、前記側面のそれぞれは1ピッチ分離隔して設けられた強磁性極を担持し、
前記可動子は、前記固定子梁の各側面に対向する少なくとも4つの対向面を含み、
前記可動子は、前記対向面のそれぞれに、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有する少なくとも1つの回転子ユニットを含み、前記巻線および前記永久磁石は、前記固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されていることを特徴とする
方法。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれかに記載の
方法において、前記強磁性極は、強磁性固定子ロッドの側面上に設けられた歯状部であり、該歯状部毎に各歯の間隙分離隔して設けられていることを特徴とする
方法。
【請求項9】
請求項1ないし
8のいずれかに記載の
方法において、前記固定子梁の強磁性極を担持する側面は、永久磁石も巻線も有していないことを特徴とする
方法。
【請求項10】
請求項1ないし
9のいずれかに記載の
方法において、前記回転子ユニットのそれぞれは、永久磁石および巻線、好ましくは三相モータ巻線を有することを特徴とする
方法。
【請求項11】
請求項1ないし
10のいずれかに記載の
方法において、前記可動子は、前記対向面のそれぞれに、走行方向に連続して配設された少なくとも2つの回転子ユニットを有し、該回転子ユニットのそれぞれは、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有し、前記巻線および前記永久磁石は、前記固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されていることを特徴とする
方法。
【請求項12】
請求項1ないし
11のいずれかに記載の
方法において、前記回転子ユニットのそれぞれは、直列または並列に接続された巻線を有する少なくとも2つの回転子を含むことを特徴とする
方法。
【請求項13】
請求項1ないし
12のいずれかに記載の
方法において、
前記制御装置は、前記可動子の回転子ユニット毎に別々に電力を供給するように構成された駆動装置を有し、これによって前記回転子ユニットのそれぞれは独立した駆動装置から給電を受けることを特徴とする
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性極を備えた線状の長尺固定子を有する電気リニアモータを制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータは可動子を有し、可動子は、例えば本発明における巻線や永久磁石の場合には、電気モータの回転子部品を有する。これにより、リニア固定子に沿って移動する荷重担持部とともに走行する可動子が、リニアモータを構成する。従来技術によるリニアモータでは、固定子は一般的にモータ巻線および/または永久磁石を有する。このようなモータの不利な点は、とくに、揚程が高いエレベータシャフトなど、例えば50m以上の長さの長軌道にすることを考慮に入れる場合、巻線および/または永久磁石を含むリニア固定子がかなり高価になることにある。さらに、このようなリニア固定子が中層型エレベータでもとから使用されている場合には、固定子の重量が相当大きくなる。また、このようなリニアモータを駆動するシャフトに必要な電力回路も、複雑で高価なものとなる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのため、本発明は、製造費用が比較的安く、長い移動経路にも十分に適応できる電気リニアモータを提供することを目的とする。これに応じて、付加要素を設けることなく固定子と可動子の間の摩擦を低減するモータの制御手法も提供する。これは、より効率的で(例えば、摩擦損失の低減により)、簡素かつ信頼性の高いリニアモータおよび/またはリニアモータ制御装置も提供することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる目的は、請求項1に記載の方法によって解決される。本発明の好適な実施例は、従属請求項の保護対象である。また、本発明の実施例を、本願明細書および図面にも示す。また、発明の内容は、とくに明示的もしくは暗示的なサブタスクの観点から見た場合、または達成される利点に関連して、いくつかの別々の発明からなるものでもよい。この場合、特許請求の範囲に含まれる特徴のいくつかは、別の発明の概念からみると不要な場合もある。本発明の基本的な概念の範囲内で、本発明の様々な実施例における特徴を、他の実施例と併せて適用することもできる。
【0005】
本発明の第1の態様は電気リニアモータであり、本モータは、長尺の固定子梁と、固定子梁に沿って移動するように構成された少なくとも1つの可動子とを有する。固定子梁は、固定子梁の両側に配設された少なくとも2つの側面を含み、側面のそれぞれは、1ピッチ分離隔して設けられた強磁性極を担持する。可動子は、固定子梁の各側面に対向する少なくとも2つの対向面を含む。可動子は、対向面のうち少なくとも1つに、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有する少なくとも1つの回転子ユニットを含み、巻線および永久磁石は、固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されている。
【0006】
好適な実施例によると、可動子は、対向面のそれぞれに、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有する少なくとも1つの回転子ユニットを含み、巻線および永久磁石は、固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されている。一実施例によると、可動子は、別の対向面に永久磁石を有するが、巻線は有していない。永久磁石だけを有する対向面は、可動子の走行方向に推進力を発生させることができないため、「回転子ユニット」とは考えられない。
【0007】
用語「回転子ユニット」とは、独立して制御可能な回転子体を意味する。よって、回転子ユニットの各巻線は、インバータ等の独立して制御可能な駆動装置から給電を受けるように構成され、これにより、巻線の電流を個別に制御できる。リニアモータは、本発明によると、回転子ユニットの巻線によって走行方向における移動制御に連動して空隙を制御するように構成され、これにより、可動子は、固定子梁に沿って走行する際に固定子梁の近くを浮揚することができる。
【0008】
「固定子梁の両側に配設された少なくとも2つの側面」という構成は、これら少なくとも2つの側面のどちらの面法線も、逆方向に向くベクトル成分を有することを意味するものでよい。その結果、逆方向の吸引力成分は、少なくとも2つの回転子ユニットと固定子梁の各側面の強磁性極との間に発生して、固定子梁との関連で可動子の空隙制御を行うことを可能にしてもよい。
【0009】
本発明によると、少なくとも1つの回転子ユニットは、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有する。好ましくは、少なくとも1つの回転子ユニットは、複数の永久磁石と、三相巻線とを有する。加えて、または別の手法として、少なくとも1つの回転子ユニットは、単相巻線を有していてもよい。一実施例によると、各回転子ユニットは、少なくとも1つの永久磁石および少なくとも1つの巻線を有する。好適な実施例においては、各回転子ユニットは、複数の永久磁石および1本のモータ巻線、最も好ましくは三相モータ巻線を有する。固定子梁の強磁性極を担持する側面は、永久磁石および巻線のいずれも有していない。
【0010】
これにより、各回転子ユニットは、d軸およびq軸の電流成分の制御に関し、個々に制御することができる。
【0011】
このような特性のモータは、固定子を搭載した永久磁石(SMPM)モータでよく、永久磁石および巻線は可動子に取り付けられる。適切なモータの型式の1つとして、磁束切替式永久磁石(FSPM)モータがある。別の適したモータの型式としては、例えば、二重突極性永久磁石(DSPM)モータや磁束変化永久磁石(FRPM)モータでもよい。
【0012】
別の実施例において、モータはハイブリッド励磁(HE)型同期機でよい。
【0013】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による電気リニアモータの制御装置である。本制御装置は、可動子の少なくとも1つの回転子ユニット毎に電力を供給するように構成された少なくとも1つの駆動装置を有する。
【0014】
好適な実施例によると、制御装置は、可動子の回転子ユニット毎に個別に電力を供給するように構成された駆動装置を有し、これによって回転子ユニットのそれぞれは独立した(少なくとも1つの)駆動装置から電力供給を受ける。これは、固定子梁の両側において、回転子ユニットの巻線に個別に調整可能な制御電流を供給でき、これにより、モータの空隙の制御が可能となることを意味する。一実施例によると、駆動装置は、回転子ユニット間で回生力(例えば制動力)を共有する共通の直流リンクを有していてもよい。
【0015】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による電気リニアモータおよび本発明の第2の態様による制御装置を有する輸送システムである。本輸送システムはさらに、可動子に結合され固定子梁によって画定された軌道に沿って可動子の推進力によって走行するように配設された可動荷重担持部を有する。
【0016】
本輸送システムはエレベータシステムでもよく、その場合、荷重担持部は、エレベータ乗りかご、エレベータ乗りかごスリングまたは同様のものでよい。荷重担持部は、乗客および/または貨物を輸送するように構成されるものでよい。あるいは、輸送システムはエスカレータでもよく、この場合、荷重担持部は、エスカレータのステップバンドまたはステップバンドの一部でよい。あるいは、輸送システムは動く歩道でもよく、この場合、荷重担持部は移動バンドまたは移動バンドの一部でよい。あるいは、輸送システムはベルトコンベヤでもよく、その場合、荷重担持部はベルトコンベヤのベルトでよい。あるいは、輸送システムは車両または列車でもよく、この場合、荷重担持部は可動体または可動体からなるものでよい。
【0017】
本発明の第4の態様は、本発明の第2の態様による制御装置を用いて本発明の第1の態様による電気リニアモータを制御する方法である。本方法は、強磁性極と強磁性極に対向する少なくとも1つの回転子ユニットとの相互位置に関する位置情報(Xact)を取得し、位置情報は回転子ユニットの走行方向(x)にて取得され、位置情報(Xact)を用いて少なくとも1つの回転子ユニットのd座標系およびq座標系を表し、座標系では、回転子ユニットのd軸は回転子ユニットに対向する強磁性極の方向に位置し、q軸はd軸に直交する。本方法はまた、強磁性極と強磁性極に対向する少なくとも1つの回転子ユニットとの間にある空隙の長さ(Yact)に関する情報を取得し、少なくとも1つの駆動装置を用いて、少なくとも1つの回転子ユニットの少なくとも1つの巻線にd軸電流成分を供給することにより、空隙長さが所定の基準値(Yref)に近づくように調整し、d軸電流成分は、空隙基準値(Yref)と取得した空隙長さ情報(Yact)の差に基づいて設定される。
【0018】
好適な実施例において、少なくとも1つの回転子ユニットは、巻線および永久磁石を有する。本方法は、少なくとも1つの駆動装置を使用して、d軸電流成分を少なくとも1つの回転子ユニットの巻線に供給して、空隙長さを所定の基準値(Yref)に近づくように調整する。
【0019】
好適な実施例によると、本方法は、強磁性極と強磁性極に対向する回転子ユニット毎との相互位置に関する位置情報を取得し、位置情報は回転子ユニットの走行方向において取得され、位置情報を用いて回転子ユニットのd座標系およびq座標系を表し、座標系では、各回転子ユニットのd軸は回転子ユニットに対向する強磁性極の方向に位置し、q軸はd軸に直交する(すなわち、モータの電気角で90度)。本方法はまた、強磁性極と強磁性極に対向する回転子ユニット(毎)との間の空隙長さに関する情報を取得し、駆動装置を用いて、固定子梁の両側にて、回転子ユニット毎に別々にd軸電流成分を供給して、空隙の長さを所定の基準値に近づけるように調整し、別々のd軸電流成分は、空隙基準値と取得した空隙長さ情報の差に基づいて設定される。
【0020】
「強磁性極と強磁性極に対向する回転子ユニットとの相互位置に関する位置情報を取得する」とは、当該位置を適切なセンサを用いて測定してもよいことを意味し、または別の方法として、あるいは付加的に、当該位置を例えば回転子ユニットの巻線の電流および電圧から判断して、巻線に対する強磁性極の位置を割り出してもよいことを意味する。
【0021】
「強磁性極と各回転子ユニットの走行方向における対向する回転子ユニットとの相互位置」とは、回転子ユニットの所期の走行方向において、すなわち、回転子ユニットの対向面が固定子梁の側面に沿って走行する長手方向において測定される相互位置を意味する。
【0022】
一実施例によると、可動子は、少なくとも1つの対向面に、走行方向に連続して配設された少なくとも2つの回転子ユニットを有し、回転子ユニットのそれぞれは、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有し、巻線および永久磁石は回転子ユニットに対向する側面の強磁性極と協働するように配設されている。
【0023】
一改良例によると、固定子梁の両側に設けられた強磁性極および回転子ユニットは、固定子梁の横断方向の同じ高さに対称的に配されるため、回転子ユニットと固定子梁との間における吸引力成分は、固定子梁の横断方向の同じ高さに存在する。
【0024】
一実施例によると、固定子梁は、固定子梁の周囲を実質的に覆うように固定子梁の両側に2つずつ配設された少なくとも4つの側面を含み、側面のそれぞれは、1ピッチ分離隔して配置された強磁性極を担持する。可動子は、固定子梁の各側面に対向する少なくとも4つの対向面を含む。可動子は、対向面のそれぞれに、少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの回転子ユニットを含み、回転子ユニットは少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有し、巻線および永久磁石は固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されている。これは、リニアモータによって浮揚している際に、推進力を増強することができることを意味する。
【0025】
一実施例によると、強磁性極は、強磁性固定子ロッドの側面上に設けられた歯状部であり、歯状部毎に各歯の間隙分離隔して設けられている。固定子梁の強磁性極を担持する側面は、永久磁石および巻線のどちらも有していない。そのため、固定子は、安価で容易に製造、設置および保守することができる。
【0026】
一実施例によると、可動子は、少なくとも1つの、好ましくは対向面のそれぞれに、走行方向に連続して配設された少なくとも2つの回転子ユニットを有する。回転子ユニットのそれぞれは、少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有し、巻線および永久磁石は、固定子梁の各側面の強磁性極と協働するように配設されている。これは、少なくとも2つの別々の力成分が、回転子ユニットによって異なる位置に与えられ、これにより、リニアモータによって同時に浮揚して駆動する際に、空隙の偏りが矯正されて、固定子梁と可動子を分離した状態に維持できることを意味する。
【0027】
一実施例によると、少なくとも1つの回転子ユニットは、直列または並列に接続された巻線を有する少なくとも2つの回転子を含む。これは、回転子ユニット内の、空隙の方向(可動子の浮揚制御を行うための吸引力)および走行方向(可動子の速度制御を行うための推進力)の両方向において、均一に力を分布できることを意味する。改良例において、回転子ユニットのそれぞれは直列または並列に接続された巻線を有する少なくとも2つの回転子を含むため、より均一に力を分布することができる。
【0028】
一実施例によると、電気リニアモータは、同一の固定子梁に沿って移動するように適応された少なくとも2つの可動子を有し、輸送システムは、少なくとも2つの独立可動型の荷重担持部を有し、それぞれの荷重担持部は別々の可動子に結合される。これは、マルチカー式エレベータシステムの複数の乗りかごなどの複数の独立可動荷重担持部が、同一の軌道に沿って移動することができることを意味する。
【0029】
一実施例によると、輸送システムは、2つの平行する固定子梁と、それぞれの固定子梁に沿って移動するように適応された少なくとも2つの可動子を有し、荷重担持部のそれぞれは、少なくとも2つの可動子に結合される。これにより、輸送システムの推進力を増大させることができ、荷重担持部の積載量も増加させることができる。
【0030】
一実施例によると、同一の固定子梁の少なくとも2つの可動子は、同一の荷重担持部に結合される。このこともまた、荷重担持部の、ひいては輸送システムの推進力/積載量を増大させることができることを意味する。本実施例を前述の例と組み合わせる場合、推進力および/または積載量をさらに増大させることができる。
【0031】
一実施例によると、可動子は、対向面のそれぞれにおいて、走行方向に連続して配設された少なくとも2つの回転子ユニットを有する。回転子ユニットはそれぞれ少なくとも1つの巻線および少なくとも1つの永久磁石を有し、巻線および永久磁石は固定子梁の対応する側面の強磁性極と協働するように配設されている。制御装置は、同一の対向面の各回転子ユニットに別々に電力を供給するように構成された駆動装置を有する。本方法は、駆動装置を使用して、別々のd軸電流成分を同一対向面の各回転子ユニットに供給して空隙の偏りを矯正することを含み、個々のd軸電流成分は、空隙基準値と空隙長さ情報の差に基づいて設定される。これは、リニアモータによって浮揚させると同時に駆動させる際に、少なくとも2つの異なる吸引力成分を、回転子ユニットによって固定子梁の同じ側部の異なる位置に供給して空隙の偏りを矯正して、固定子梁および可動子を分離した状態に維持できることを意味する。
【0032】
一実施例によると、本方法は、可動子の走行位置情報および/または走行速度情報を取得し、駆動装置を用いて、走行位置基準と取得した走行位置情報との差および/または走行速度基準と取得した走行速度情報の差に基づいて、回転子ユニットの巻線毎に別々のq軸電流成分を供給し、走行位置および/または走行速度を上述の位置基準および/または速度基準に近づけるように調整する。用語「可動子の走行位置情報」とは、可動子が固定子梁に沿って走行する、可動子の走行方向における位置情報を指す。したがって、用語「可動子の走行速度情報」とは、可動子が固定子梁に沿って走行する、可動子の走行方向における速度情報を意味する。共通の電流基準に基づく共通のq軸電流成分を使用して推進力/速度を調整してきた従来技術による制御システムとは異なり、本実施例に基づいて別々のq軸電流成分/電流基準を個々の駆動装置に用いることにより、個々の駆動装置の様々な物理的条件(例えば、様々な空隙の長さ)に良好に適応させて、推進力が個々の駆動装置間でより均一になるように維持し、それにより、可動子をより正確で快適な速度制御を維持できる。
【0033】
一実施例によると、本方法は、可動子の走行位置基準と走行位置との差に基づいて走行速度基準を求めることを含む。
【0034】
一改良例によると、本方法は、空隙の長さ、走行位置情報および走行速度情報のうち少なくとも1つの変化に応じて、回転子ユニットのd軸電流成分およびq軸電流成分のうち少なくとも一方を変化させる際に同時に、d軸電流成分およびq軸電流成分の他方に補正項を付与して、可動子の吸引力および/または推進力に対する変化の効果を補償する。
【0035】
一改良例によると、本方法は、少なくとも可動子の走行位置基準と取得した走行位置情報との差および/または走行速度基準と取得した走行速度情報との差に基づいて推進力基準値を算出し、少なくとも空隙基準値と空隙長さ情報の差に基づいて吸引力基準値を算出し、回転子ユニットの推進力基準値、吸引力基準値および空隙長さ情報のうち少なくとも1つの変化に応じて、回転子ユニットのd軸電流成分およびq軸電流成分のうち少なくとも一方を変化させる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のモータ、装置および制御方法は、電流消費量の最適化および浮揚による摩擦の最小化により、損失が低減するという利点を有する。さらに、推進力リップルの低減により、乗心地が向上するという利点もある。よって、リニアモータは、例えば高層エレベータ、とくに50m超、好ましくは100m超の揚程を有するエレベータに非常に適している。本手法では、関連重量の観点から高層エレベータの設計の妨げとなるエレベータロープもカウンタウェイトも不要であるため、本リニアモータの発想をあらゆる高層建築物における用途に適用できる。また、当然ながら、リニアモータを動作距離の長い他の用途、例えば、エスカレータ、動く歩道、動く傾斜路、列車および傾斜型エレベータに使用することも可能である。
【0037】
好ましくは、可動子はさらに、例えばバッテリまたは蓄電池として電源を有し、電源は可動子のバックアップ電源としても構成されることが好ましい。電源バックアップは、好ましくは、例えば巻線または永久磁石として可動子に接続されたモータの電磁力要素として設計される。したがって、このような電源を使用して、可動子のすべての電気負荷に給電することができる。エレベータ乗りかごの場合、これらの負荷には、照明、換気装置、ドア駆動装置、および乗りかご表示パネル、スピーカ、ディスプレイなどのエレベータ乗りかごのあらゆる入出力装置も含まれる。また、任意のコンベヤ制御部と無線データ接続を行う際に要する電力を、電源により供給することもできる。一実施例によると、バッテリ/蓄電池は、同一の荷重担持部(例えばエレベータ乗りかご)に関連するすべての駆動装置の共通する直流リンクに接続させてもよい。バッテリは、直流リンクに直接結合しても、電力遮断スイッチを介して結合してもよい。さらに/または、バッテリと直流リンクの間に電圧変換器を設けて、バッテリ/直流リンク間に電圧差が生じるようにしてもよい。
【0038】
好ましくは、シャフトから可動子への電力供給は、結合コイルの原理を用いて無線で行われ、一次コイルは環境構造体または固定子梁に取り付けられ、二次コイルは乗りかごとともに移動する。可動子が所定位置に到達すると、一次コイルと二次コイルが結合され、一次コイルから二次コイルへ、さらに可動子に搭載されたバッテリへと電力が送られる。一次コイルは、各停止階に配設されてもよい。
【0039】
本発明に関連する用語「浮揚」は、回転子ユニットの電流調整によって、側面と対応する対向面の間の空隙が維持されることを意味する。しかしながら、本発明の範囲内で、いくつかの付加的な案内要素を使用して、可動子を固定子梁に対して補助的に案内してもよい。他方、多くの実施例では、付加的な案内要素を使用せずに浮揚を行うことも可能である。
【0040】
以下の表現、要素-移動する要素-エレベータ乗りかご、環境構造体-エレベータシャフト-エスカレータ走路、固定子極-固定子歯は、類義語として用いられる。一実施例において、回転子ユニットの巻線は単一のコイル形状でよい。
【0041】
当業者には明白なことであるが、本発明に関連して述べる構成要素を、必要に応じて単一構造体または複合構造体として設けることができる。例えば、1本の固定子梁が、移動する要素に相互に重ねて配設される3つの可動子と協働してもよい。また、2本の固定子梁が環境構造体の壁に配設されてもよく、あるいは、3本以上の、例えば3本または4本の固定子梁が壁に配設されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
続いて、以下に、添付図面を参照して本発明を述べる。
【
図1】一実施例に係る電気リニアモータの側面図を示す。
【
図2A】
図1の固定子梁および可動子を通過する断面図を示す。
【
図2B】別の変形例による
図1の固定子梁および可動子を通過する断面図を示す。
【
図2C】本発明の一実施例による固定子梁および可動子を通過する断面図を示す。
【
図2D】本発明の一実施例による固定子梁および可動子を通過する断面の細部図を示す。
【
図3】一実施例による切替式永久磁石モータ(FSPM)の機能部の概略図を示す。
【
図4】一実施例による制御システムを簡略に示す図である。
【
図5】一実施例によるマルチカー式エレベータシステムの側面図を示す。
【
図6】
図5に示すエレベータ乗りかごとシャフト壁との間の領域内にあるエレベータモータ部品およびガイドレール部品の水平断面図を示す。
【
図7】一実施例による電気リニアモータの側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
全図において、同様の要素または同一の機能を有する要素には、同一の参照番号が付与されていることに注意されたい。
【0044】
図1は、電気リニアモータの側面図を示す。内容を理解しやすくするために、
図1では2つの向かい合う側面6A、6Bおよびこれらに対応するモータの対向面7A、7Bのみを示している。リニアモータは、長尺固定子梁1および固定子梁1を囲繞する可動子24、26を有する。固定子梁1は、
図2Aおよび
図2Bに示すように、4つの側面6A、6B、6C、6Dを有する。側面は固定子梁1の両側に2つずつ配設され、4つの側面6A、6B;6C、6Dが固定子梁1の周囲を実質的に覆っている。側面はそれぞれ、ピッチ8’分の間隔、例えば各歯8間の間隙または溝の分だけ離隔して、強磁性極8、すなわち強磁性歯状部を担持する。
【0045】
可動子24、26は、固定子梁1の各側面6A、6B;6C、6Dに対向する4つの対向面7A、7B;7C、7Dを含む。
【0046】
可動子は、各対向面7A、7B;7C、7Dに、回転子ユニット2、3、4、5;2’、3’、4’、5’を有する。モータは、
図3に示すように、磁束切替式永久磁石モータでよい。すべての永久磁石および3相モータ巻線は、回転子ユニット2、3、4、5に設けられている。
図3の実施例では、強磁性極8は、強磁性の固定子ロッド50の側面6A、6B;6C、6D上に設けられた歯状部であり、固定子ロッド50は固定子梁の各側面に組み込まれている。
【0047】
モータの固定子側の構成は非常に簡素である。なぜならば、強磁性極8を担持する固定子梁の側面6A、6B;6C、6Dは、永久磁石も巻線も有していないからである。このような簡素性は、固定子梁1が長くなって可動子24、26の移動範囲が広がると、累積的なものとなる。可動子24、26が固定子梁1に沿って走行すると、側面6A、6B;6C、6Dと対向面7A、7B;7C、7Dとの間に空隙15ができる。この空隙15は、浮揚による非接触方式で維持されるものである。回転子ユニットの巻線74、76および永久磁石71は、固定子梁1の各側面6A、6B;6C、6Dの強磁性極8と協働するように配設され、これにより、可動子24、26を浮揚させて、固定子梁1によって画定される軌道に沿って駆動させるのに必要な力成分を発生させる。
【0048】
語句「固定子梁1の両側に配設された少なくとも2つの側面6A、6B;6C、6D」とは、少なくとも2つの側面の面法線(
図2Cのn
1、n
2、n
3を参照)がいずれもベクトル成分を有し、ベクトル成分は相対する方向にあることを意味する。そのため、回転子ユニット2、3、4、5と対応する側面6A、6B;6C、6Dとの間に吸引力が発生した場合、発生した吸引力は互いに対し逆方向にあるベクトル成分を有するため、
図1のy方向に平行な空隙の長さを調整し、これによって可動子の浮揚を可能にする。
【0049】
また、いくつかの実施例では、固定子梁の長手軸(
図1の方向xに平行な軸)周囲での可動子24、26の回転の制御が必要になる場合がある。制御をするために、回転トルクが固定子梁1の周囲に発生するように固定子および可動子を設計してもよい。したがって、
図2Dに示すように、対向する側面6A、6Bの少なくとも一部が互いに対して傾いていてもよく、すなわち、固定子梁の長手軸を囲んで平行方向から傾斜をつけてもよい。当然のことながら、可動子の各対向面7A、7Bも同様に傾斜をつけて、側面6A、6Bに対向させる必要がある。
図2Cに示すように、側面6A、6B、6Cおよび対応する対向面7A、7B、7Cの少なくとも一部は、曲がっていてもよい。
図2Bの変形例に示すように、側面6A、6B、6C、6D(および対応する対向面7A、7B、7C、7D)は、平行四辺形を形成していてもよい。また、このような変形例は、固定子梁1の周囲に回転トルクを発生させることが可能であってもよい。
【0050】
可動子枠25は、任意の適切な硬質の、好ましくは軽量な材料で作成されていてもよく、そのような材料として、ガラス繊維複合材、炭素繊維複合材またはアルミニウムなどがある。
【0051】
図1に示すように、可動子24、26は、各対向面7A、7Bに、
図1の方向xに平行する走行方向に連続して配設された2つの回転子ユニット2、3;4、5を有する。2つの連続する回転子ユニットは、空隙15の偏りを矯正するために必要となる。各回転子ユニットには、それぞれ専用のインバータ9、10、11、12が設けられている。別の実施例では、可動子24、26は、各対向面7A、7Bに、走行方向に連続して配設された3つの回転子ユニットを有し、各回転子ユニットには各自のインバータが設けられている。別のいくつかの実施例では、対向面ごとに4つ以上もの回転子ユニットが設けられてもよく、インバータも同様に設けられてよい。さらに別の実施例では、
図7に示すように、可動子24、26は、1つの対向面7Aに、走行方向に連続して配設された2つの回転子ユニット2、3を有し、これに対し固定子梁1の反対側に設けられたもう一方の対向面7Bには、より長尺の回転子ユニット4を1つだけ有している。回転子ユニット2、3、4はそれぞれ、インバータ9、10、11を有している。また、このような手法は、回転子ユニットを制御することによって空隙15の偏りを適切に矯正するものであってもよい。さらに、力の分布を均一にするために、回転子ユニットはそれぞれ、巻線を備えて2つ(または3つ以上でさえも)の共通に制御される回転子2A、2B;3A、3B;4A、4B;5A、5Bを有する。共通の制御を行うために、同一の回転子ユニットの個々の回転子の巻線を直列または並列に接続して、同一のインバータ9、10、11、12を設けるようにする。
【0052】
図4は、
図1に示すリニアモータの浮揚および走行を制御する際に用いられる制御アーキテクチャを図示する。制御アーキテクチャは、各インバータ9、10、11、12の処理装置の制御ソフトウェアにおいて実行される制御要素を示す。
【0053】
図4によると、インバータ9、10、11、12はそれぞれ、対応するインバータによって制御される回転子ユニットの三相巻線と当該三相巻線に対向する/当該三相巻線と協働する強磁性極との相互位置の位置情報X
actを受信する。相互位置X
actは、
図1に示す方向xと平行な走行方向にて、1または複数の位置センサ16A、16B、16C、16Dによって計測される。位置センサは、例えば、ホールセンサまたは誘導式近接センサでよい。インバータ9、10、11、12はそれぞれ、自身のd座標系およびq座標系における回転子巻線の電力供給を制御する。d座標系およびq座標系は、位置情報X
actによって、回転子巻線に対向する固定子梁の強磁性極の位置に同期される。d軸は、強磁性極8の方向を参照することによって、協働する強磁性極の中心線の方向に設定される。この方向は、固定子歯の中心線と同一でよいが(
図3を参照)、他方、例えば固定子歯の飽和状態に応じて、固定子歯の中心線と異なっていてもよい。また、d軸方向を別の方法で規定してもよく、例えば、回転子ユニットのR相の磁束鎖交数が最大となる位置に規定してもよい。
【0054】
また、各インバータ9、10、11、12は、強磁性極8を担持する側面6A、6Bと回転子ユニット2、3、4、5を含む対向面7A、7Bとの間の空隙の長さについての情報(Y
act)を受信する。空隙長さ情報(Y
act)は、センサ16A、16B、16C、16Dから受信してもよく、または、付加的あるいは代替的に、渦電流センサなどの独立した空隙センサから受信してもよい。空隙センサは、センサ16A、16B、16C、16Dと同じ位置に配設されていてもよく、あるいはセンサ16A、16B、16C、16Dの1つまたは複数と置き換えてもよい。固定子梁1の長手方向における空隙の長さならびに空隙の偏りを測定するために、例えば可動子の対向する側部の両端の、例えば
図1に示すセンサ位置16Aおよび16Dに、少なくとも2つのセンサを設ける必要がある。
【0055】
さらに、固定子梁の長手軸周りの可動子24、26の回転を計測するために、2つの平行に並ぶ空隙センサ16、16’を、
図2Dに示すように、空隙15の横断方向に配置してもよい。
【0056】
空隙の基準値Y
refは、インバータ9、10、11、12の処理装置に記憶される。空隙制御部40は、空隙基準値Y
refと空隙長さ情報Y
actの差を算出して、吸引力の基準値F
yref、例えば
図1におけるy方向に平行な力成分を発生させて、基準値Y
refに対する空隙長さY
actを調整する。空隙制御部40は状態制御部であり、観測部42を使用して、吸引力推定値F
yrefの影響下での可動子24、26の質量体の模擬的位置yおよび速度y’(
図1のy軸方向における)を取得する。
【0057】
第1の実施例では、固定子梁の両側で回転子ユニットを制御するインバータの空隙制御部40を使用して、空隙長さを調整する。第2の変形実施例では、固定子梁の一方の側において、吸引力の基準値Fyrefは一定に保たれ、空隙制御部は固定子梁の他方側の回転子ユニットのみに関連して用いられることにより、吸引力基準値Fyrefを調整する。これは、一方の側の1つ以上の回転子ユニットが、一定の吸引力をもたらし、空隙制御部はこの吸引力に逆らって、固定子梁のもう一方の側で作動することを意味する。さらなる変形例では、インバータ/モータ巻線を使用せずに一定の吸引力Fyrefを発生させる。インバータ/モータ巻線を使用するのではなく、固定子梁の一方の側において、対向面の回転子ユニットを永久磁石だけに置き換え、これによって、永久磁石が固定子梁の側面に対して吸引力を発生させる。固定子梁の他方の側では、巻線を備えた回転子ユニットがインバータの空隙制御部によって制御されて、永久磁石の吸引力に逆らって作動する。このような方式によると、永久磁石のみを有する対向面には、モータ巻線/インバータを設けなくてよい。
【0058】
さらに、共通の可動子のインバータ9、10、11、12のうち少なくとも1つは、可動子の走行位置情報x
actおよび走行速度情報v
actを受信する。これに関連して、走行位置情報x
actおよび走行速度情報v
actとは、
図1のx軸方向に平行な方向における可動子の位置/速度情報のことを指す。本実施例では、同一の位置情報x
actを用いて、回転子ユニットと対応する強磁性極の相対位置を定めて、駆動装置/インバータのd軸およびq軸を当該強磁性極8に同期させる。また、この情報を用いて、固定子梁1に沿った可動子の位置x
act/速度v
actを制御する。本実施例では、走行位置情報x
actは1つ以上のセンサ16A、16B、16C、16Dから受信されるが、あるいは、別のセンサを使用してもよい。走行速度情報v
actは、エンコーダもしくはタコメータなどの独立した速度センサから受信してもよく、または、本実施例のように走行位置情報x
actの適時な変動値(例えば、走行位置情報の時間導関数)から得てもよい。共通の可動子のインバータのうち1つはマスタとして働き、可動子の走行方向における位置/速度の制御を行って、推進力基準値F
xref(すなわち
図1のx軸方向に平行な基準分力)を他のインバータ9、10、11、12に出力する。これに対し、共通の可動子の他のインバータはスレーブとして働き、位置/速度制御は行わず、推進力の制御だけを行う。2つ以上の可動子が、一般的なエレベータ乗りかごなど一般的な負荷支持手段に結合される場合、ただ1つの可動子のための1つのインバータのみがマスタとして働き、他のすべてのインバータ/可動子はスレーブとして働き、位置/速度制御に障害が生じることを防止する。
【0059】
図4に戻ると、マスタインバータ9、10、11、12の処理装置は、走行位置基準値x
refを算出して、制御される可動子の所期動作プロファイルを設定する。位置制御部44は、可動子の走行方向xにおける走行位置基準値x
refと可動子の走行位置x
actとの差から、走行速度基準値v
refを算出する。速度制御部45は、走行速度基準値v
refと走行速度情報v
actとの差から、推進力基準値F
xrefを算出する。
【0060】
推進力基準値Fxref、吸引力基準値Fyrefおよび空隙長さ情報Yactは、磁気モデル43に入力され、磁気モデルは、回転子巻線のd軸基準電流成分Idrefおよびq軸基準電流成分Iqrefを算出する。スレーブインバータの場合、各スレーブインバータは、空隙長さ情報Yactを用いてインバータ自体の吸引力基準値Fyrefを算出するが、推進力基準値Fxrefはマスタインバータから受信する。これらの基準値および空隙センサ16A、16Bから取得する空隙長さ情報を用いることで、スレーブインバータは、磁気モデル43によって、d軸およびq軸の電流成分基準値を割り出す。
【0061】
磁気モデルはアルゴリズムで構成されていてもよく、アルゴリズムは、可動子の吸引力および推進力がどのようにd軸電流、q軸電流および空隙長さに依拠するかを表現する。このような表現は、下記のモータの式に基づくものでもよい。
【0062】
【0063】
式中、idおよびiqはそれぞれ、d座標系およびq座標系における電流成分を表し、ad0、add、adq、aq0、aqq、adq、bdm、bd、bq、cσ、fσ、ψr、S、T、U、Vは、モータ固有の定数である。これらは磁気抵抗に基づいて導き出され、磁気抵抗は、モータの構造に依拠する。ψdおよびψqはそれぞれ、モータの磁束鎖交数のd軸成分およびq軸成分であり、τはモータの極ピッチ(2π)であり、yは回転子と固定子の間の空隙長さであり、Fxは推進力基準値、そしてFyは吸引力基準値である。
【0064】
上記の式を鑑みると、Fxは、
Fx(ψd,ψq,y)
のように磁束鎖交数および空隙長さyのみに依拠して表されるものであってもよく、そしてFyも、
Fy(ψd,ψq,y)
のように磁束鎖交数および空隙長さyのみに依拠して表されるものであってもよい。
【0065】
よって、推進力Fxrefおよび吸引力Fyrefの(基準)値を速度制御部45および空隙制御部40から受け取る場合、磁束鎖交数の成分ψdおよびψqは、表現(3)および(4)を用いて求めることができる。したがって、基準電流値Idref、Iqrefは、磁束鎖交数成分ψdおよびψqを用いて、式(1)および(2)によって算出することができる。
【0066】
代替的または付加的に、磁気モデル43は表を含んでいてもよく、この表は、推進力基準値Fxref、吸引力基準値Fyrefおよび空隙長さ情報Yactによって記憶され、インデックス化されたd軸およびq軸の電流成分を有する。d軸およびq軸の電流基準成分のより正確な値を得るために、表中の記憶された数値間の補間をしてもよい。また、表の数値は、例えば有限要素法(FEM)を用いたシミュレーションを行うことで決定してもよい。
【0067】
磁気モデル43では、回転子ユニット2、3、4、5の推進力基準値Fxref、吸引力基準値Fyrefおよび空隙長さ情報Yactのうち少なくとも1つが変化した場合、モータ巻線のd軸基準電流成分Idrefおよびq軸基準電流成分Iqrefの少なくとも一方を変化させる。これにより、磁気モデル43は、回転子ユニット、そしてひいては可動子を様々な動作条件に迅速に適応させ、可動子24、26の動作をより安定させて反応を高めることができる。
【0068】
d軸電流成分基準値Idrefおよびq軸電流成分基準値Iqrefは、電流制御部41に送信される。電流制御部は、d軸およびq軸の電流基準値Idref、Iqrefと測定されたd軸およびq軸の電流成分Id、Iqとの差に基づいて、回転子ユニットの巻線のd軸電圧基準値Udおよびq軸電圧基準値Uqを算出する。d座標系およびq座標系から三相電圧成分UR、US、UTへの変換、ならびに三相電流測定値iR、iS、iTからd軸およびq軸の成分値Id、Iqへの変換は、パーク変換およびクラーク変換によって行う。これらの変換法自体は、技術分野において公知のものである。d座標系およびq座標系を同期するには、上述したように走行位置情報Xactを使用する。
【0069】
回転子ユニットの三相電圧成分UR、US、UTは、インバータの状態ベクトルPWM変調部46(パルス幅変調部)に送信される。変調部は、制御パルスを生成して、インバータ電力段の固体スイッチを制御し、これにより、変調した三相電圧成分を回転子ユニットの巻線に送る。これらの固体スイッチは、例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、MOS型電界効果トランジスタ、炭化ケイ素トランジスタおよび/または窒化ガリウムトランジスタでよい。
【0070】
別の実施例では、簡略化された制御アーキテクチャによって適切な性能レベルを達成してもよく、マスタインバータの速度制御部45は、q軸電流成分基準値Iqrefを直接スレーブインバータに出力する。各スレーブインバータは、空隙制御部40を用いてインバータ自体のd軸電流成分基準値Idrefを生成する。その後、d軸およびq軸の電流成分基準値Idref、Iqrefを電流制御部41に直接送信することにより、磁気モデル43を使用しないようにする。すなわち、磁気モデルを回避する。これにより、可動子24、26の浮揚/速度の制御に要する処理能力を低減できる。
【0071】
1つのインバータ9、10、11、12をマスタとして動作させるのではなく、独立したマスタ制御装置を使用することも可能である。マスタ制御装置は、1または複数のインバータ9、10、11、12の空隙制御部40、位置制御部44および速度制御部45のうち少なくとも1つの機能を実行し、必要な基準値をインバータ9、10、11、12に出力して、回転子ユニットへの電力供給を制御してもよい。
【0072】
図5は、本発明の第3の態様の実施例によるマルチカー式エレベータシステムを示す。エレベータシステムは、複数のエレベータ乗りかご16を有し、乗りかごのそれぞれは可動子24、26によって、並置されている固定子梁1、1’に結合されている(
図6を参照)。乗りかごは、並置されている2つのエレベータシャフト17内を循環移動する。各乗りかごには、固定子梁1、1’ごとに4つの可動子24、26が設けられている。リニアモータは、上述の実施例で述べたリニアモータと同様のものであり、乗りかご毎に32個の回転子ユニットと32個のインバータが設けられている。同一の乗りかご16のすべてのインバータは、共通の直流リンクに接続されているため、1つのインバータから直流リンクに戻る回生エネルギーは、他のインバータと共用してもよいし、他のインバータに供給してもよい。各乗りかご16は、共通の直流リンクに接続されたバッテリを有する。
【0073】
本発明は、添付の特許請求の範囲内において実施可能である。したがって、上述の実施例は、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【符号の説明】
【0074】
1 固定子梁
6A~6D 側面
7A~7D 対向面
8 強磁性極
24、26 可動子
71 永久磁石
74、76 巻線