(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】あと施工アンカーの撤去方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20230628BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20230628BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20230628BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230628BHJP
F16B 13/08 20060101ALI20230628BHJP
F16B 13/10 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
E04B1/41 503F
E04B1/41 503G
E04G21/12 105Z
E04G23/08 Z
E04G23/02 Z
F16B13/08 D
F16B13/10 H
(21)【出願番号】P 2019140619
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 学
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博司
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003503(JP,A)
【文献】特開2003-106323(JP,A)
【文献】特開平09-095952(JP,A)
【文献】特開2018-080520(JP,A)
【文献】特開2014-074300(JP,A)
【文献】特開2011-122393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38 - 1/61
E04G 21/12
E04G 23/00 -23/08
F16B 13/08,13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部が設けられているインナー部材と、先端側に前記テーパ部の入り込みで拡張する拡張片が設けられ、後端側に雌ねじが形成されているスリーブを備え、前記インナー部材に後端面で開口する雌ねじ穴が設けられ、前記雌ねじ穴に取付ボルトを螺合可能であると共に、前記雌ねじ穴より小径で形成され、前記雌ねじ穴と連続して前記インナー部材の先端面に貫通する小径穴が設けられているあと施工アンカーが、前記インナー部材の前記テーパ部の入り込みで前記拡張片が拡張されてコンクリートの穿孔に打設され、前記インナー部材の前記雌ねじ穴に螺着された前記取付ボルトに対する取付ナットの締付で前記拡張片が追従拡張されている構造からあと施工アンカーを撤去する方法であって、
外周に雄ねじが形成され且つ後端面から軸方向に延びる止まり穴が形成された固定解除コマを、前記取付ボルトが外された前記インナー部材の前記雌ねじ穴に前記小径穴近傍まで螺入する第1工程と、
固定解除棒の先端を前記止まり穴の底部に当接して前記固定解除棒を打撃し、前記インナー部材を孔奥に押し込む第2工程を備えることを特徴とするあと施工アンカーの撤去方法。
【請求項2】
前記固定解除棒を外した後、軸方向の貫通穴の少なくとも後部に雌ねじが形成され、先端側に雄ねじが形成された抜出用アタッチメントの前記雄ねじを、
前記スリーブの雌ねじに螺着する第3工程と、
抜出用ボルトを前記抜出用アタッチメントの雌ねじに螺入して、前記抜出用ボルトの先端を前記インナー部材の雌ねじ穴に螺合された前記固定解除コマの止まり穴の底部に当接する第4工程と、
前記抜出用ボルトの先端で前記固定解除コマを押しながら前記抜出用ボルトを回転させることにより、前記抜出用アタッチメントと螺着された前記スリーブを抜き出す第5工程を備えることを特徴とする請求項1記載のあと施工アンカーの撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のコンクリートに穿孔して打設されるあと施工アンカーの撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のコンクリートに穿孔して打設されるあと施工アンカーとして、本体打込式アンカーと、スリーブ打込式アンカーが用いられている。本体打込式アンカー200は、
図10(a)、(b)に示すように、先端側に拡張片202、後端側に雌ねじ203が形成された略筒状の本体201と、本体201の先端側に配置される先端コーン204から構成され、先端コーン204で拡張片202を拡張してコンクリート210に形成された穿孔211に打設される。打設された本体打込式アンカー200の雌ねじ203には取付ボルト205を螺合し、コンクリート210から突出する取付ボルト205の部分に取付物220を外挿し、例えばワッシャー206を介してナット207を取付ボルト205に螺入して、取付物220が取り付けられる。
【0003】
本体打込式アンカー200は、取付ボルト205を外してしまえばコンクリート210からの突出部分が無くなるので、仮設アンカーとして利便性に優れる。更に、本体打込式アンカー200の本体201自体を撤去したい場合には、特許文献1、2のように、先端コーン204で反力を取りながら本体201を引き抜いて撤去することが可能である。
【0004】
また、スリーブ打込式アンカー300は、
図10(c)、(d)に示すように、先端側に拡張片302が形成されたスリーブ301と、先端側にテーパ部304、後端側に雄ねじ部305が形成されたテーパボルト303とから構成され、テーパ部304で拡張片302を拡張してコンクリート310に形成された穿孔311に打設される。打設されたスリーブ打込式アンカー300のテーパボルト303のコンクリート310から突出する部分には、取付物320を外挿し、例えばワッシャー306、スプリングワッシャー307を介してナット308を雄ねじ部305に螺入し、取付物320が取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-106323号公報
【文献】特開2015-71216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本体打込式アンカーは、取付ボルトが螺着される略筒状の本体と、先端コーンが別部材であるため、取付ボルトに荷重が負荷されても先端コーンは引っ張られずに本体だけに引抜方向の力が作用する。そのため、撤去時には本体を引き抜いて撤去することが可能であるが、拡張片からの先端コーンの抜け出しが発生し、本体がコンクリートから抜け出してしまう可能性が高くなる。
【0007】
これに対して、スリーブ打込式アンカーは、テーパボルトのテーパ部がスリーブ内に引き込まれて拡張片が拡張するため、テーパボルトに荷重が負荷されればテーパ部がスリーブ内により引き込まれて拡張力が生じ、定着力が増すことになる。しかしながら、スリーブ打込式アンカーでは、コンクリートへのアンカー打設、取付物の設置が不要になった場合、ナット・ワッシャー・取付物を外しても、テーパボルトはそのままコンクリートに残置され、コンクリートから出っ張って邪魔な状態ともなる。一旦打ち込まれたスリーブ打込式アンカーを撤去しようとすると、スリーブ打込式アンカーの引抜強度以上の荷重で抜くことが必要になるため、コンクリートが破壊されてしまう可能性が高い。そのため、コンクリートからの抜け出しを防止できると共に、不要時に容易に撤去することができるあと施工アンカーが求められている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、高い定着力を有し、コンクリートからの抜け出しを防止することができると共に、不要時に容易に撤去することができるあと施工アンカーの撤去方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、溶融メッキ槽に浸漬して溶融メッキを行う際にエア溜まりが発生することがなく、高い安全性で溶融メッキを行うことができるあと施工アンカーの撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の撤去方法で撤去されるあと施工アンカーは、基部の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部が設けられているインナー部材と、先端側に前記テーパ部の入り込みで拡張する拡張片が設けられ、後端側に雌ねじが形成されているスリーブを備え、前記インナー部材に後端面で開口する雌ねじ穴が設けられ、前記雌ねじ穴に取付ボルトを螺合可能であると共に、前記雌ねじ穴より小径で形成され、前記雌ねじ穴と連続して前記インナー部材の先端面に貫通する小径穴が設けられていることを特徴とする。
これによれば、インナー部材の雌ねじ穴に取付ボルトを螺合することにより、取付ボルトに荷重が負荷されればテーパ部が拡張片により引き込まれて拡張力が生じ、定着力を増すことができる。従って、本体打込式アンカーの先端コーンの抜け出しのような事態が無く、高い定着力を発揮して、コンクリートからの抜け出しを防止できる信頼性の高いあと施工アンカーとすることができる。また、あと施工アンカーの設置構造であと施工アンカーが不要になった際には、スリーブの雌ねじを利用してスリーブを引き抜くことができ、不要時に容易に撤去することができる。従って、あと施工アンカーの設置のためにコンクリートに形成された穿孔を再利用することも可能となる。また、インナー部材の小径穴が雌ねじ穴より小径であることから、雌ねじ穴に螺入される取付ボルトの位置や、あと施工アンカーの撤去時に雌ねじ穴に螺入される固定解除コマ等の部材の位置を所定位置に規制、定置することができる。また、インナー部材の雌ねじ穴と小径穴が連続して貫通する構成により、防食作用を得るために溶融メッキ槽に浸漬して溶融亜鉛メッキ等の溶融メッキを行う際に、スリーブと同様にインナー部材のメッキ処理の際にも、エア溜まりの発生、水分の膨張による爆発が発生することを確実に防止することができ、高い安全性で溶融メッキを行うことができる。
【0010】
また、あと施工アンカーの設置構造は、前記インナー部材の前記テーパ部の入り込みで前記拡張片が拡張されて前記あと施工アンカーがコンクリートの穿孔に打設され、前記インナー部材の前記雌ねじ穴に螺着された取付ボルトに対する取付ナットの締付で前記拡張片が追従拡張されていることを特徴とする。
これによれば、取付ボルトの取付ナットによる締付でインナー部材が引き寄せられ、インナー部材のテーパ部が拡張片により引き込まれて追従拡張されるので、通常の設置状態でもより高い定着力を得ることができ、アンカー全体の剛性を非常に高めることができる。また、取付ボルトに荷重が負荷されて取付ボルトが引っ張られた際の耐性をより増すことができる。
【0011】
本発明のあと施工アンカーの撤去方法は、上記あと施工アンカーが、前記インナー部材の前記テーパ部の入り込みで前記拡張片が拡張されてコンクリートの穿孔に打設され、前記インナー部材の前記雌ねじ穴に螺着された前記取付ボルトに対する取付ナットの締付で前記拡張片が追従拡張されている構造からあと施工アンカーを撤去する方法であって、外周に雄ねじが形成され且つ後端面から軸方向に延びる止まり穴が形成された固定解除コマを、前記取付ボルトが外された前記インナー部材の前記雌ねじ穴に前記小径穴近傍まで螺入する第1工程と、固定解除棒の先端を前記止まり穴の底部に当接して前記固定解除棒を打撃し、前記インナー部材を孔奥に押し込む第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、雌ねじ穴と小径穴が連続して貫通するインナー部材に対し、インナー部材の雌ねじ穴に螺入された固定解除コマを打撃することにより、インナー部材の全体に効果的に打撃力を伝えることができる。従って、インナー部材を孔奥に確実に押し込み、雌ねじ穴と小径穴が連続して貫通するインナー部材とスリーブの固定を確実に解除することができる。そして、スリーブの拡張片に対するインナー部材の入り込みを外し或いは押圧状態を緩め、より簡単にスリーブを抜き出すことが可能となる。
【0012】
本発明のあと施工アンカーの撤去方法は、前記固定解除棒を外した後、軸方向の貫通穴の少なくとも後部に雌ねじが形成され、先端側に雄ねじが形成された抜出用アタッチメントの前記雄ねじを、前記スリープの雌ねじに螺着する第3工程と、抜出用ボルトを前記抜出用アタッチメントの雌ねじに螺入して、前記抜出用ボルトの先端を前記インナー部材の雌ねじ穴に螺合された前記固定解除コマの止まり穴の底部に当接する第4工程と、前記抜出用ボルトの先端で前記固定解除コマを押しながら前記抜出用ボルトを回転させることにより、前記抜出用アタッチメントと螺着された前記スリーブを抜き出す第5工程を備えることを特徴とする。
これによれば、抜出用ボルトの先端で固定解除コマを押しながら抜出用ボルトを回転させることにより、簡単且つ確実にスリーブを抜き出すことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い定着力を有し、コンクリートからの抜け出しを防止することができると共に、不要時に容易に撤去することができるあと施工アンカーを得ることができる。また、溶融メッキ槽に浸漬して溶融メッキを行う際にエア溜まりが発生することがなく、高い安全性で溶融メッキを行うことができるあと施工アンカーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明による実施形態のあと施工アンカーの正面図、(b)は実施形態のあと施工アンカーの縦断面図、(c)は実施形態のあと施工アンカーの取付に用いられる取付ナット、ワッシャー、取付ボルトを示す正面図。
【
図2】(a)~(e)は第1実施形態のあと施工アンカーを施工する工程を説明する断面説明図。
【
図3】(a)は実施形態のあと施工アンカーの撤去工程で用いる固定解除コマの左側面図、(b)はその正面図、(c)はその縦断面図。
【
図4】実施形態のあと施工アンカーの撤去工程で用いる固定解除棒の正面図。
【
図5】(a)は実施形態のあと施工アンカーの撤去工程で用いる抜出用アタッチメントの左側面図、(b)はその正面図、(c)はその縦断面図。
【
図6】実施形態のあと施工アンカーの撤去工程で用いる抜出用ボルトの正面図。
【
図7】(a)~(e)は実施形態のあと施工アンカーを撤去する工程の前半工程を説明する断面説明図。
【
図8】(a)~(e)は実施形態のあと施工アンカーを撤去する工程の後半工程を説明する断面説明図。
【
図9】(a)は実施形態の撤去工程における固定解除コマを固定解除棒で打撃する際の打撃力の伝達を説明する断面説明図、(b)は比較例の打撃力の伝達を説明する断面説明図。
【
図10】(a)は従来の本体打込式アンカーの縦断面図、(b)は従来の本体打込式アンカーによる取付物の取り付けを説明する説明図、(c)は従来のスリーブ打込式アンカーの縦断面図、(d)は従来のスリーブ打込式アンカーによる取付物の取り付けを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態のあと施工アンカー〕
本発明による実施形態のあと施工アンカー1は、
図1に示すように、略円柱形の基部21の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部22が設けられているインナー部材2と、略円筒状の本体31の先端側に先端から切り込まれたスリット32で区分される拡張片33が設けられ、本体31の後端側の内周に雌ねじ34が形成されているスリーブ3を備える。
【0016】
インナー部材2には、後端面23で開口する雌ねじ穴24が設けられ、雌ねじ穴24に後述する取付ボルト4の外周に形成されている雄ねじ41を螺合可能になっている。更に、インナー部材2には、雌ねじ穴24よりも先端側に小径穴25が設けられており、小径穴25はテーパ部22に略対応する位置に内設されている。小径穴25は、雌ねじ穴24より小径で形成され、雌ねじ穴24と連続してインナー部材2の先端面26に貫通するように形成されており、雌ねじ穴24と小径穴25はインナー部材2の軸方向に延びて全体でインナー部材2を貫通している。
【0017】
あと施工アンカー1の拡張片33が拡張されていない状態では、スリーブ3の拡張片33にインナー部材2の基部21が内装され、テーパ部22の略全体が拡張片33の先端から先で露出するように配置される。そして、拡張片33の拡張時には、スリーブ3がインナー部材2の先端に向かって打ち込まれることで、拡張片33にテーパ部22が入り込んで拡張片33が拡張される(
図2参照)。
【0018】
あと施工アンカー1を後述するコンクリート150に設置して取付物160を取り付ける際には、
図1(c)に示す取付ボルト4、ワッシャー5、取付ナット6が用いられる。取付ボルト4は全長に亘って外周に雄ねじ41が形成されている全ねじボルトであり、インナー部材2の雌ねじ穴24に螺合可能になっている。ワッシャー5は取付ボルト4に外挿可能であり、取付ナット6は取付ボルト4に螺合可能になっている。
【0019】
本実施形態のあと施工アンカー1をコンクリート150に施工して設置する際には、
図2(a)、(b)に示すように、コンクリート150に穿孔151を形成し、穿孔151内を清掃して非拡張状態のあと施工アンカー1をインナー部材2を孔奥側にして穿孔151に挿入する。次いで、
図2(c)に示すように、スリーブ3の後端面に打込棒71を当接させ、ハンマー72で打込棒71を打ち込むことによってスリーブ3を孔奥側に打ち込み、インナー部材2のテーパ部22をスリーブ3の拡張片33に相対的に入り込ませて拡張片33を拡張させ、拡張片33を穿孔151の孔壁に食い込ませる。
【0020】
その後、
図2(d)、(e)に示すように、インナー部材2の雌ねじ穴24に取付ボルト4を螺合し、インナー部材2に螺着した取付ボルト4に取付物160を外挿し、取付物160の外側で取付ボルト4にワッシャー5を外挿し、取付ナット6を取付ボルト4に螺合する。そして、この取付ボルト4に対する取付ナット6の締付で、
図2(e)の太線矢印のようにインナー部材2を穿孔151の孔口側に引っ張る。このインナー部材2の引っ張りにより、拡張片33が追従拡張されると共に、インナー部材2の引き上げで穿孔151の孔底に空間が生ずる或いは孔底の空間が大きくなる。
【0021】
このように施工されたあと施工アンカー1の設置構造は、あと施工アンカー1の拡張片33が、インナー部材2のテーパ部22の入り込みで拡張され、且つインナー部材2に螺着された取付ボルト4に対する取付ナット6の締付で追従拡張され、あと施工アンカー1にプレロードをかけた構造となり、設置されたあと施工アンカー1の剛性は非常に高くなる。
【0022】
また、あと施工アンカー1の設置構造からあと施工アンカー1を撤去する場合には、
図3に示す固定解除コマ8、
図4に示す固定解除棒9、
図5に示す抜出用アタッチメント10、
図6に示す抜出用ボルト11が用いられる。固定解除コマ8は、略短尺円柱形で、その外周に全長に亘って雄ねじ81が形成されており、雄ねじ81はインナー部材2の雌ねじ穴24と螺合可能になっている。固定解除コマ8には、後端面82から軸方向に延びる止まり穴83が形成されており、止まり穴83は略六角柱形状の穴で軸方向の中間の位置まで形成されている(
図8参照)。後述するインナー部材2への良好な打撃力の伝達の観点から、固定解除コマ8の雄ねじ81の軸方向の長さは、インナー部材2の雌ねじ穴24の軸方向の長さの2/3以上とすると好適である。
【0023】
固定解除棒9は、
図4に示すように、本体91の軸方向の先端側に、本体91よりも小径で形成された棒状の小径部92が設けられている形状である。小径部92は、固定解除コマ8の止まり穴83よりも若干小径であり、小径部92を止まり穴83に挿入して、固定解除棒9の先端である小径部92の先端を固定解除コマ8の止まり穴83の底部に当接可能になっている。図示例における小径部92の先端は、略円錐形の止まり穴83の底部の形状に対応する略円錐形で形成されている。
【0024】
抜出用アタッチメント10は、軸方向の貫通穴の少なくとも後部に雌ねじが形成された形状であり、本実施形態では
図5に示すように、後部の雌ねじ穴101と前部の挿通穴102が連続して貫通するように形成された略円筒状に形成されている。抜出用アタッチメント10の先端側の前端部には外周に雄ねじ103が形成されており、その後端部には対向する平面状の把持部104が設けられ、スパナ等の工具で把持部104を把持可能になっている。
【0025】
抜出用ボルト11は、
図6に示すように、軸部111と頭部112を有する頭付ボルトであり、軸部111の後部に雄ねじ部113が設けられ、軸部111の前部に雄ねじ部113よりも小径の小径部114が設けられている。小径部114は、固定解除コマ8の止まり穴83よりも若干小径であり、小径部114を止まり穴83に挿入して、抜出用ボルト11の先端である小径部114の先端を固定解除コマ8の止まり穴83の底部に当接可能になっている。図示例における小径部114の先端は、略円錐形の止まり穴83の底部の形状に対応する略円錐形で形成されている。
【0026】
そして、あと施工アンカー1の撤去時には、
図7(a)に示すように、取付ナット6、ワッシャー5、取付物160、取付ボルト4をあと施工アンカー1から外した後、取付ボルト4が外されたインナー部材2の雌ねじ穴24に固定解除コマ8を小径穴25の近傍まで螺入する(
図7(b)参照)。固定解除コマ8の螺入は、例えば電動六角レンチ等の六角レンチ12を止まり穴83に挿入し、六角レンチ12と固定解除コマ8を回転することにより螺入する。
【0027】
その後、
図7(c)、(d)に示すように、固定解除棒9の先端である小径部92の先端を固定解除コマ8の止まり穴83の底部に当接し、固定解除棒9の後端をハンマー13で打撃して、雌ねじ穴24に螺合された固定解除コマ8を介してインナー部材2を穿孔151の孔奥に押し込み(
図7(d)の太線矢印参照)、インナー部材2とスリーブ3の縁切りを行う或いは縁切りに近い状態にする。
【0028】
固定解除棒9を外した後、
図7(e)、
図8(a)に示すように、抜出用アタッチメント10の雄ねじ103をスリーブ3の雌ねじ34に螺着して抜出用アタッチメント10をスリーブ3に取り付ける。更に、
図8(a)、(b)に示すように、電動工具14を用い、抜出用ボルト11の雄ねじ部113を抜出用アタッチメント10の雌ねじ101に螺入して、抜出用ボルト11の小径部114を抜出用アタッチメント10の雌ねじ穴101と挿通穴102、スリーブ3内、インナー部材2に螺着された固定解除コマ8の止まり穴83に挿入していき、抜出用ボルト11の先端である小径部114の先端をインナー部材2の雌ねじ穴24に螺合された固定解除コマ8の止まり穴83の底部に当接する。本例では、抜出用ボルト11の先端の略円錐形の部分が略円錐形の止まり穴83の底部の形状に係合し、位置合わせも行われる。
【0029】
そして、この状態から更に電動工具14で抜出用ボルト11を回転させると、抜出用ボルト11の先端で固定解除コマ8を押しながら抜出用ボルト11が回転していき、抜出用ボルト11に対して抜出用アタッチメント10及びこれに螺着されたスリーブ3が反力で穿孔151の外に上がってきて、抜出用アタッチメント10と螺着されたスリーブ3が抜き出される。この抜出時には、スリーブ3の拡張片33はスプリングバックして拡張前の形状にほぼ戻り、穿孔径以下の形に窄んだ状態で穿孔151から出てくる(
図8(c)参照)。
【0030】
その後、抜出用アタッチメント10の雄ねじ103とスリーブ3の雌ねじ34との螺合を外して、抜出用アタッチメント10と抜出用ボルト11を取り外し、スリーブ3を穿孔151から撤去する(
図8(d)参照)。更に、穿孔151に残ったインナー部材2を撤去し、撤去作業が完了する(
図8(e)参照)。空洞になった穿孔151は、例えば必要に応じて充填材を充填して塞がれるか、或いは同径等の別のあと施工アンカーの打設に再利用される。
【0031】
本実施形態によれば、インナー部材2の雌ねじ穴24に取付ボルト4を螺合することにより、取付ボルト4に荷重が負荷されればテーパ部22が拡張片33により引き込まれて拡張力が生じ、定着力を増すことができる。従って、本体打込式アンカーの先端コーンの抜け出しのような事態が無く、高い定着力を発揮して、コンクリート150からの抜け出しを防止できる信頼性の高いあと施工アンカー1とすることができる。また、あと施工アンカー1の設置構造であと施工アンカー1が不要になった際には、スリーブ3の雌ねじ34を利用してスリーブ3を引き抜くことができ、不要時に容易に撤去することができる。従って、あと施工アンカー1の設置のためにコンクリート150に形成された穿孔151を再利用することも可能となる。
【0032】
また、インナー部材2の小径穴25が雌ねじ穴24より小径であることから、雌ねじ穴24に螺入される取付ボルト4の位置や、あと施工アンカー1の撤去時に雌ねじ穴24に螺入される固定解除コマ8等の部材の位置を所定位置に規制、定置することができる。また、インナー部材2の雌ねじ穴24と小径穴25が連続して貫通する構成により、防食作用を得るために溶融メッキ槽に浸漬して溶融亜鉛メッキ等の溶融メッキを行う際に、スリーブ3と同様にインナー部材2のめっき処理の際にも、エア溜まりの発生、水分の膨張による爆発が発生することを確実に防止することができ、高い安全性で溶融メッキを行うことができる。
【0033】
また、あと施工アンカー1の設置構造或いは施工方法では、取付ボルト4の取付ナット6による締付でインナー部材2が引き寄せられ、インナー部材2のテーパ部22が拡張片33により引き込まれて追従拡張されるので、通常の設置状態でもより高い定着力を得ることができ、アンカー全体の剛性を非常に高めることができる。また、取付ボルト4に荷重が負荷されて取付ボルト4が引っ張られた際の耐性をより増すことができる。
【0034】
また、あと施工アンカー1の撤去方法では、雌ねじ穴24と小径穴25が連続して貫通するインナー部材2に対し、インナー部材2の雌ねじ穴24に螺入された固定解除コマ8を打撃することにより、インナー部材の全体に効果的に打撃力を伝えることができる(
図9(a)の太線矢印参照)。従って、インナー部材2を孔奥に確実に押し込み、雌ねじ穴24と小径穴25が連続して貫通するインナー部材2とスリーブ3の固定を確実に解除することができる。そして、スリーブ3の拡張片33に対するインナー部材2の入り込みを外し或いは押圧状態を緩め、より簡単にスリーブ3を抜き出すことが可能となる。付言すると、
図9(b)に示すように、固定解除コマ8を用いずに段落とし形状の打込棒400を用いてインナー部材2とスリーブ3の固定を解除する場合には、打込棒400がインナー部材2の上端の肩27の部分を叩くだけなので、打撃力がうまく伝わらず、打込棒400に反力が生じて跳ね返ってしまい、インナー部材2とスリーブ3の固定状態を解除することは容易でなくなる。特に、取付ボルト4をインナー部材2に取り付ける便宜上、インナー部材の雌ねじ穴24の基端部に面取りが施されていると、打込棒400が当たる部分がインナー部材2の面取り部の肩27だけのほぼ円周線状となるため、インナー部材2に大きな打撃力を与えることが極めて困難となる。
【0035】
また、抜出用ボルト11の先端で固定解除コマ8を押しながら抜出用ボルト11を回転させることにより、簡単且つ確実にスリーブ3を抜き出すことができる。
【0036】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0037】
本発明の撤去方法で撤去されるあと施工アンカーは、コンクリートに下向き、上向き或いは横向きで打設して設置構造を構築できるものであり、その打設方向は適宜である。更に、これらの適宜の打設方向で打設され設置されたあと施工アンカーを撤去する方法が本発明に含まれる。また、上記実施形態では、電動工具を用いてあと施工アンカー1を撤去する工程について説明したが、電動工具に代えて手工具を用いて撤去工程を行うことも可能である。
【0038】
また、上記実施形態における固定解除コマ8の止まり穴83は略六角柱形状の穴としたが、その内周面の形状は本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、又、略多角柱形など穴に係止して回転可能な形状にすることが好ましい。また、固定解除棒9の形状も上記実施形態の形状に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、既設のコンクリートに穿孔してあと施工アンカーを打設する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…あと施工アンカー 2…インナー部材 21…基部 22…テーパ部 23…後端面 24…雌ねじ穴 25…小径穴 26…先端面 27…肩 3…スリーブ 31…本体 32…スリット 33…拡張片 34…雌ねじ 4…取付ボルト 41…雄ねじ 5…ワッシャー 6…取付ナット 71…打込棒 72…ハンマー 8…固定解除コマ 81…雄ねじ 82…後端面 83…止まり穴 9…固定解除棒 91…本体 92…小径部
10…抜出用アタッチメント 101…雌ねじ穴 102…挿通穴 103…雄ねじ 104…把持部 11…抜出用ボルト 111…軸部 112…頭部 113…雄ねじ部 114…小径部 12…六角レンチ 13…ハンマー 14…電動工具 150…コンクリート 151…穿孔 160…取付物 200…本体打込式アンカー 201…本体 202…拡張片 203…雌ねじ 204…先端コーン 205…取付ボルト 206…ワッシャー 207…ナット 210…コンクリート 211…穿孔 220…取付物 300…スリーブ打込式アンカー 301…スリーブ 302…拡張片 303…テーパボルト 304…テーパ部 305…雄ねじ部 306…ワッシャー 307…スプリングワッシャー 308…ナット 310…コンクリート 311…穿孔 320…取付物 400…打込棒