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  • 特許-切削装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20230628BHJP
   B23B 25/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B23Q11/00 L
B23B25/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017195310
(22)【出願日】2017-10-05
(65)【公開番号】P2019063973
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(72)【発明者】
【氏名】青木 友弥
(72)【発明者】
【氏名】角田 貫一
【合議体】
【審判長】鈴木 貴雄
【審判官】奥隅 隆
【審判官】見目 省二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-120156(JP,A)
【文献】特開2016-97449(JP,A)
【文献】特開昭53-99576(JP,A)
【文献】実開昭63-124445(JP,U)
【文献】特開2015-91627(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043127(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146211(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B23B 25/00
B23B 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削材を切削する刃先と該刃先の後方へ連なるすくい面とを有するチップと、
該すくい面の上方から後方へ延びるカバーを有し、該被削材から生じた連続切屑を該刃先側にできる導入口から取込んで該すくい面の後方側にできる導出口まで誘導するダクトとを備え、
該チップは、該すくい面の後縁から該すくい面と異なる勾配で下方へ傾斜する傾斜面を有し、
該すくい面と該傾斜面は、該ダクトの下壁の少なくとも一部を構成し、
該ダクトの通路断面積は、該導出口が該導入口よりも大きく、該導入口から該導出口にかけて減少しない切削装置。
【請求項2】
さらに、前記導入口から前記導出口へ至る向きに、前記ダクト内へ加圧流体を供給する流体供給部を備える請求項1に記載の切削装置。
【請求項3】
前記ダクトの上壁の前記すくい面に対する勾配は0°~45°であり、
該ダクトの下壁の該すくい面に対する勾配は-45°~-10°である請求項1または2に記載の切削装置。
【請求項4】
前記チップは、旋削用である請求項1~3のいずれかに記載の切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した切屑を適切に処理できる切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精度を要求される機械部品等には、鋳物や金属素材などの被削材を切削した切削品が用いられる。切削品の品質や精度等を確保するためには、切削時に被削材から生じる切屑処理が重要となる。切屑処理が不適切であると、所望する表面粗さや精度が得られない加工不良を生じたり、加工効率や工具寿命の低下等を招く。特に、長く繋がった切屑(本明細書では「連続切屑」という。)は、被削材(ワーク)や切削工具(チップ)等に絡んだり、加工点に噛み込んだりして、加工不良等の要因となり易い。
【0003】
このような連続切屑は、切削加工の一種である旋削加工で発生し易い。そこで旋削加工では、従来から、連続切屑を分断するチップブレーカ(すくい面に施した突起物等)を備えた切削工具(チップ)が用いられている。
【0004】
しかし、切込み量や送り量が小さい仕上加工時に発生する連続切屑は、薄いためにチップブレーカでは分断され難い。つまり、チップブレーカが有効な加工条件は限られており、高品質または高精度が要求される仕上加工時にチップブレーカは有効ではない。そこで、旋削加工時に生じる切屑を吸引して加工点から除去する切屑処理に関する提案が下記の特許文献でなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-58244号公報
【文献】特開2010-247271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2は、いずれも切削工具(チップ)の上方に、切屑を捕集・吸引するダクト(切り屑飛散防止カバー、切り屑吸引ホルダ)を設けることを提案している。しかし、特許文献1等は、整流子片と絶縁片が交互に配設された整流子(被削材)を加工する場合のように、そもそも、仕上加工時に自ずと分断された切屑が生じる場合を前提としている。このため、特許文献1、2では、通路面積を途中から縮小しているにも拘わらず、集塵機(吸引ポンプ)に依る回収が可能となっている。
【0007】
しかし、連続切屑は、通路の途中にある狭い部分で滞留して目詰まりし易く、そこを起点として連続切屑が逆流するおそれもある。従って、特許文献1、2のような装置等では、連続切屑を安定的に排出処理できない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、連続切屑を的確に排出して、高品質な切削加工を安定して行える切削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、連続切屑の排出に適した新たな誘導路を着想した。この着想を具現化すると共に発展させることによって、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《切削装置》
(1)本発明は、被削材を切削する刃先と該刃先の後方へ連なるすくい面とを有する切削工具と、少なくとも該すくい面の上方または側方に形成され、該被削材から生じた連続切屑を該刃先側に設けた導入口から取込んで該すくい面の後方側に設けた導出口まで誘導する誘導路とを備え、該誘導路の通路断面積は、該導入口から該導出口に至るまで一定であるか、または増加している切削装置である。
【0011】
(2)本発明の切削装置では、導入口から導出口に至るまで誘導路の通路は一定以上の大きさが確保されている。このため、導入口から取り込まれた連続切屑は、誘導路の途中で滞留したり目詰まり等をすることなく、導出口へ安定して誘導され得る。また、このような誘導路の壁面に接触する高温で軟化状態にある切屑は、排出され易い形状へ矯正等もされ易い。
【0012】
こうして本発明の切削装置によれば、薄い連続切屑が発生し易い仕上加工時でも、切屑処理が的確になされ、高品質な切削品を安定的に得ることができる。なお、本発明の切削装置は、連続切屑を処理できるため、当然に分断された切屑も処理できる。
【0013】
《その他》
(1)本明細書では、説明の便宜上、刃先側または導入口側を「先方」、すくい面の後縁側(刃先の反対側)または導出口側を「後方」という。また、切屑の流入側または誘導路の先方側を「上流」、切屑の排出側または誘導路の後方側を「下流」という。また、すくい面を境として「上方」または「下方」といい、すくい面に対して上方側(すくい角が減少する側)の勾配を正勾配(傾斜角度が正数)、その反対側の勾配を負勾配(傾斜角度が負数)とする。
【0014】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】切削装置の一例を示す要部断面図である。
図2】通路断面の様々な形態例を示す図である。
図3】切削装置の他例を示す要部断面図である。
図4】連続切屑が円滑に誘導される範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一以上の構成要素を付加し得る。方法に関する構成要素も、物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《誘導路》
誘導路は、すくい面の上方、後縁下方または側方に形成される通路であり、刃先で生じた連続切屑を取り込む導入口と、その連続切屑を所定位置で排出する導出口とを有する。本発明の場合、導入口から導出口に至るまでの通路断面積は、一定であるか、(単調)増加している。
【0018】
(1)一例として、そのような誘導路を有する切削装置S1を図1に示した。切削装置S1は、切削工具であるスローアウェイ式のチップ1と、チップ1を取り付けるシャンク3と、チップ1のすくい面12上からシャンク3の上面上に渡って取り付けられたダクト2とを備える。なお、図1は、チップ1の刃先11の稜線に垂直な面内で見た断面図である。
【0019】
ダクト2は、チップ1の刃先11から僅かに後退した先端側に連続切屑の導入口21と、後端側に連続切屑の導出口22とを有する。導入口21と導出口22の間はカバー23で連なっており、カバー23の内側に通路20(誘導路)が形成されている。
【0020】
カバー23は、上壁231と左右の側壁232と下壁233を有し、図1から明らかなように、通路20の断面積は導入口21から導出口22に向かって単調増加する形状となっている。上壁231の勾配(α)は、基準面(すくい面21)に対して、0°~45°さらには10~30°の範囲で調整されると好ましい。なお、下壁233は、すくい面12とシャンク3の各上面で代用してもよい。
【0021】
通路20の断面形状は、図2(a)(図1のA―A断面図)に示すように、矩形状としたが、図2(b)に示すような半円状としても良いし、図2(c)に示すような楕円状としても良い。
【0022】
(2)他例として、誘導路を有する切削装置S2を図3に示した。切削装置S2は、切削工具5と、切削工具5のすくい面52上から後方へ延びるダクト6(誘導路)とを備える。なお、図3も、切削工具5の刃先51の稜線に垂直な面内で見た断面図である。
【0023】
ダクト6は、切削工具5の刃先51から僅かに後退した先端側に連続切屑の導入口61と、後端側に連続切屑の導出口62とを有する。導入口61と導出口62の間はカバー63で連なっており、カバー63の内側に、断面が矩形状の通路60(誘導路)が形成されている。
【0024】
ところで、切削工具5は、すくい面52の後縁から下方へ傾斜する傾斜面53を有する。通路60は、カバー63の上壁631および左右の側壁632に加えて、切削工具5のすくい面52と傾斜面53を下壁として形成されている。図3から明らかなように、通路60の断面積も導入口61から導出口62に向かって増加する形状となっている。傾斜面53の勾配(β)は、基準面(すくい面61)に対して、-45°~0°さらには-30°~-10°の範囲で調整されると好ましい。なお、図3には、上壁631が基準面(すくい面61)と平行な場合を示したが、上壁631の勾配も図1に示した上壁231の勾配と同様に変化させてもよい。
【0025】
なお、図1または図3では、通路断面積が一定であるか、直線的(一次関数的)に単調増加する場合を例示したが、導入口から導出口にかけて通路断面積が減少しない限り、通路断面積の変化は曲線的でも多段階的でもよく、通路の断面形状自体も、途中で変化してもよい。さらに、誘導路は切削工具等と独立して形成されても良いし、切削工具のすくい面等を利用して形成されてもよい。
【0026】
(3)図1または図3に示すように、誘導路が上壁または下壁を有する場合、それらの各勾配(α、β)は、すくい面(勾配:0°)を基準として、次のような関係にあると好ましい。
条件a:α-β≧0°、条件b:α≦45°、条件c:β≧-45°(さらに10°≧β)
【0027】
条件aにより、誘導路の通路断面積を一定または増加傾向にできる。条件bにより、切屑の滞留や逆流を回避し易くなる。条件cにより、工具(刃先)の強度を確保できる。
【0028】
そこで誘導路を構成する上壁(面)のすくい面に対する勾配(α)は0°~45°さらには10°~30°とすると好ましい。また、誘導路を構成する下壁(面)のすくい面に対する勾配(β)は-45°~0°さらには-30°~-10°とすると好ましい。
【0029】
(4)刃先から誘導路の先端(導入口)までの距離(t)は、1~10mmさらには3~7mmの範囲にあると好ましい。この距離が過小では、切削加工時に被削材等と干渉するおそれがあり、その距離が過大では切屑が導入口へ捕捉される確実性が低下し得る。
【0030】
また、切屑の捕捉性を確保するため、導入口の開口面積は4~225mmさらには16~100mmであると好ましい。仮に導入口の開口が正方形なら、その一辺は2~15mmさらには4~10mm程度とするとよい。
【0031】
導出口は、連続切屑の排出性と回収性を確保するために、開口面積が導入口に対して1~30倍さらには5~20倍程度とすると好ましい。
【0032】
《切削工具》
(1)切削工具は、連続切屑を生じるものであればよく、刃先は直線状でも曲線状でもよい。切削工具は、被削材を回転させつつ切削を行う旋削工具(旋盤用切削工具等)でも良いし、被削材を直線運動させつつ切削を行うシェーパ工具(フライス用切削工具等)でもよい。本明細書では、便宜上、旋削加工を行う場合を主に取り上げて説明している。
【0033】
(2)すくい面を誘導路の壁面の一部とする場合、誘導路の形態に応じて、すくい面は刃先側から後縁側に向けて拡張する形状であると好ましい。また、すくい面長さが小さいと、工具刃先の強度が低下し易いため、すくい角は-10°~45°(すくい角は、すくい面が被削材から遠ざかる向きが正方向)とするのが好ましい。なお、ここでいうすくい面は、すくい面長さが0.1mm以上あるものを対象としており、すくい面長さが0.1mm未満のチャンファー等は対象としていない。
【0034】
《流体供給部》
導入口から導出口へ至る向きに、誘導路内へ加圧流体を供給する流体供給部を備えると、切屑の形状安定化と排出牲向上を図れて好ましい。加圧される流体は、空気等のガスでも良いし、切削油剤(クーラント液)や切削油剤成分を含んだミスト等でもよい。加圧流体の注入口やノズル等は、上流側(導入口付近の壁面等)に少なくとも一つ以上設けられるとよい。なお、ノズル等の他、流体のタンクや加圧機等も含めて、本発明に係る流体供給部としてもよい。
【0035】
加圧流体(特に圧縮空気等)が誘導路の内壁面に当たる際に生じる乱流により、誘導路内における切屑の流動性が低下するおそれもある。そこで加圧流体の流線は、誘導路の中心線(例えば、図3に示す中心線l)に沿うようにすると好ましい。
【0036】
《切屑回収部》
本発明の切削装置は、さらに、導出口から排出された切屑を回収する切屑回収部を備えると好ましい。切屑回収部は、集塵ボックス等の他、回転するブラシ等により切屑を強制的に収集する装置でもよい。
【実施例
【0037】
誘導路の断面形状やその断面積を種々変化させて、連続切屑の排出性を実験により確認した。この実験結果に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0038】
《切削装置》
図3に示した傾斜面53の勾配(β)に加えて、上壁631の勾配(α)と、導入口61および導出口62のサイズも種々変化させた実験用の切削装置を多数用意した。このような切削装置を以下の実験に供した。なお、β<0°のとき、誘導路を構成する通路60は、すくい面52の後縁(すくい面52と傾斜面53の境界)から通路断面積が拡大するようにした。
【0039】
《実験》
次のような条件下で旋削加工を行い、誘導路の効果を確認した。
切削工具:超硬工具(直線刃先)、すくい角0°、すくい面長さ:0.1~3mm、
被削材:炭素鋼(JIS:S45C)、切削幅:2mm、
切取り厚さ:0.1mm/rev、切削速度:212m/min、
刃先から導入口(先端)までの距離:1~10mm、
導入口のサイズ(高さ、幅):2~15mm
導出口のサイズ(高さ、幅):5~40mm
上壁の勾配α:-45~45°、下壁(傾斜面)の勾配β(傾斜面角度):-45~0°
【0040】
《評価》
多数の実験を繰り返したところ、少なくとも図4に示すような範囲であれば、被削材から生じた連続切屑が途中で滞留等することなく、円滑に導出口から排出されることが確認できた。
【符号の説明】
【0041】
S1 切削装置
1 チップ(切削工具)
11 刃先
12 すくい面
2 ダクト
20 通路(誘導路)
21 導入口
22 導出口
23 カバー
図1
図2
図3
図4