(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230628BHJP
G01N 27/406 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
G01N27/416 311H
G01N27/406
(21)【出願番号】P 2018174268
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】小山 勇気
(72)【発明者】
【氏名】ペータース クリストフ
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-512511(JP,A)
【文献】特開2001-215214(JP,A)
【文献】特開2001-027626(JP,A)
【文献】特開2005-106817(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0062223(US,A1)
【文献】特表2003-528314(JP,A)
【文献】特開2000-009685(JP,A)
【文献】特表2002-540399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406-419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質内に設けられていてガス中の水素を検知する検知部と、
前記固体電解質の一の面に形成された前記ガスの流入口と前記検知部との間に設けられていて、中央部に孔が形成された拡散バリアと、
前記流入口から前記固体電解質を通って前記拡散バリアの前記孔まで延在する流路と、
を備え、
前記拡散バリアの気孔率をAとし、前記流入口に面する前記孔における内周面と前記検知部に面する外周面との間の前記拡散バリアの延在長さ[mm]をBとした場合、
A/B≦0.05
を満た
し、
円筒形の測定室をさらに備え、
前記検知部は、2つの電極と、該2つの電極間に挟まれた電解質と、を有し、前記測定室の外周部に沿って設けられており、
一方の前記電極は、前記流入口が設けられた前記固体電解質の面に設けられており、他方の前記電極は、前記電解質を挟んで前記一方の電極とは反対の側に面する前記測定室の面に設けられており、
前記拡散バリアは、前記測定室の中央において環状に設けられており、前記延在長さは、前記拡散バリアの外周の半径と内周の半径との差であり、
前記流路に別の拡散バリアが設けられていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記拡散バリアは、気孔率Aが0.05以下であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記拡散バリアは、前記延在長さBが4.0mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス内の酸素濃度を広域にわたって検出するガスセンサが知られている。ガスセンサは、センサ素子を備える。センサ素子は、ポンプセルとネルンストセルを有し、ポンプセルとネルンストセルとの間に測定室が設けられている。測定室には、外部から導入されたガスが通過する拡散バリアが設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、測定対象となるガス中には様々な気体(ガス成分)が含まれている。近年、ガス中に含まれる水素を検知する水素センサが開発されている。特許文献1におけるガスセンサは、酸素濃度を検出する酸素センサであるが、その態様によれば、水素を検知することも可能である。
【0005】
しかし、酸素センサのセンサ素子の表面には触媒層が設けられており、水素は触媒層に接触すると燃焼してしまう。そのため、酸素センサにおいて水素を検知することはできない。水素を検知するために、ガスセンサにおいて触媒層を設けない態様も考えられるが、水素は分子量が小さく拡散速度が酸素の拡散速度よりも速い。そのため、単に触媒層を設けない態様では酸素に比べて拡散速度が速い水素を検知することができない。したがって、水素の拡散速度を拡散バリアにおいて制限する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、水素の拡散速度を、ガスセンサにおいて水素を検知できる速度に制限することができるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るガスセンサは、ガス中の水素を検知する検知部と、前記ガスの流入口と前記検知部との間に設けられた拡散バリアと、を備え、前記拡散バリアの気孔率をAとし、前記流入口に面する面と前記検知部に面する面との間の前記拡散バリアの延在長さ[mm]をBとした場合、A/B≦0.05、を満たすことを特徴とする。この態様によれば、拡散バリアを通過するガス中の水素分子の拡散速度を制限することができ、検知部においてガス中の水素の有無を確実に検知することができる。
【0008】
前記拡散バリアは、気孔率Aが0.05以下であってもよい。この態様によれば、ラムダセンサにおいて使用されていた拡散バリアの気孔率を小さくするだけで、水素分子の拡散速度を制限することができる。かくして、検知部においてガス中の水素の有無を確実に検知することができる。
【0009】
前記拡散バリアは、前記延在長さBが4.0mm以上であってもよい。この態様によれば、ラムダセンサにおいて使用されていた拡散バリアの延在長さを長くするだけで水素分子の拡散速度を制限することができる。かくして、検知部においてガス中の水素の有無を
確実に検知することができる。
【0010】
円筒形の測定室と、前記流入口と前記測定室の中央部との間に延在する流路と、を備え、前記検知部は、前記測定室の外周部に沿って設けられており、前記拡散バリアは、前記測定室の中央において環状に設けられており、前記延在長さは、前記拡散バリアの外径と内径との差であってもよい。この態様によれば、本発明に係るガスセンサの基本構成は、ラムダセンサの構成と同じでありながら、水素分子の拡散速度を制限することができる。
【0011】
前記流路に別の拡散バリアが設けられていてもよい。この態様によれば、水素分子の拡散速度を流路にガスが達した段階において制限することができる。かくして、水素分子が検知部に達するまでに水素分子の拡散速度を十分に制限して、検知部においてガス中の水素の有無を確実に検知することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水素分子の拡散速度を、ガスセンサにおいて水素を検知できる速度に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るガスセンサの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の実施の形態をとりうる。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るガスセンサ1の構成を説明するための概略図である。図面において、ガスセンサ1の高さ方向における上方を「U」、下方を「D」とし、ガスセンサ1の横方向における左方を「L」、右方を「R」とする。
【0016】
ガスセンサ1は、内燃機関から排出される排ガスG中に含まれる水素の有無を検知する。ガスセンサ1は、内燃機関の排ガス管路内に設けられる。なお、ガスセンサ1は、水素ガスを燃料とする燃料電池車において使用することもできる。
【0017】
ガスセンサ1は、固体電解質10により形成されている。ガスセンサ1は、測定室11と、流路12と、ポンプセル(検知部)20と、拡散バリア2,2Aと、ネルンストセル30と、加熱部40と、を備える。固体電解質10には、測定室11と、流路12と、ポンプセル20と、ネルンストセル30と加熱部40とが設けられている。
【0018】
固体電解質10は、水素イオンが通過することができるジルコニアにより形成されている。なお、固体電解質10は、1つの固体電解質により形成されていても、複数の固体電解質層を積層することにより形成されていてもよい。
【0019】
測定室11は、円筒形の空間により形成されている。測定室11は、固体電解質10の上方Uに面する上面10uと下方Dに面する下面10dとの間に形成されている。なお、測定室11は、角筒形の空間部として形成されていてもよい。流路12は、固体電解質10の上面10uに形成された流入口10aと測定室11との間に延在している。
【0020】
流路12は、一端が流入口10aに接続し、他端が測定室11の中央部に接続している。測定室11及び流路12は、同じ軸線X上に形成されている。流路12は、排ガス管路中の排ガスGを測定室11に案内する。
【0021】
拡散バリア2は多孔体である。拡散バリア2は、Zr,Ceを含んでいる。拡散バリア2は、流路12を通って測定室11のポンプセル20に供給される排ガスG中に含まれる気体成分の拡散速度を制限(減速)する。拡散バリア2は、測定室11内で排ガスGの流入口10aとポンプセル20との間に設けられている。拡散バリア2は、測定室11の中央において流路12の軸線Xと同軸に環状に設けられている。
【0022】
本実施の形態に係るガスセンサ1は、水素を検知(水素濃度を測定)することを目的としている。排ガスG中には、一酸化炭素、二酸化炭素、水、炭化水素、酸素、水素等が含まれている。グレアムの法則(Graham’s law)によれば、気体の拡散速度は、分子量の平方根に逆比例する。酸素の質量は2であり、水素の質量は32であり、グレアムの法則から、
となり、水素の拡散速度は酸素の拡散速度よりも4倍速いことが理論的に分かっている。
【0023】
本発明者が使用する現行のラムダセンサ(O2センサ)においては、酸素分子の拡散速度に対応した気孔率を有する拡散バリアが使用されている。現行のラムダセンサの拡散バリアにおいては、拡散速度が酸素分子よりも速い水素分子の拡散速度は制限されない。したがって、現行のラムダセンサにおける拡散バリアにおいては、水素分子の拡散速度は制限されず、ポンプセル20において水素を検知することができない。具体的には、ポンプセル20における電極21,22間に発生するポンプ電流を出力特性として得ることができないため、水素の正しい濃度測定をすることができない。
【0024】
そこで、本実施の形態に係るガスセンサ1においては、気孔率をAとし、流入口10aに面する内周面2aと、ポンプセル20に面する外周面2bとの間の拡散バリア2の延在長さ[mm]をBとした場合、以下の関係式を満たす拡散バリア2が設けられている。本発明者は、ガスセンサ1の開発の過程において、以下の関係式を満たす拡散バリア2を使用して、ガスセンサ1において水素を検知するに至った。
【0025】
【0026】
ここで、「拡散バリア2の延在長さ」とは、拡散バリア2において水素分子が移動しなければならない距離であり、環状の拡散バリア2の外径と内径との差である。
【0027】
上記の関係式を満たす拡散バリア2によれば、拡散バリア2を通過した水素分子の拡散速度を、現行の拡散バリアを通過した酸素分子の拡散速度と同程度にまで制限させることができる。これにより、ガスセンサ1は、測定室11のポンプセル20において水素を検知することができる。ガスセンサ1によれば、ガス中の水素濃度0.5%から水素を検知することができる。ガスセンサ1による水素検知に要する時間は、1秒以下である。
【0028】
本発明者が使用している現行のラムダセンサにおける拡散バリアの気孔率Aは0.2~0.3であり、延在長さBは0.5mm~1.0mmである。
【0029】
(実施例1)
拡散バリアの延在長さBが0.5~1.0mmのときに、適切なサイズのラムダセンサを構成することができている。本発明者は、ガスセンサ1を適切なサイズに維持しつつ、
水素分子の拡散速度を制限するために、拡散バリア2の気孔率Aを小さくすることが有意であることを見出した。
【0030】
ガスセンサ1における拡散バリア2の気孔率Aは、延在長さBとの関係において、上記関係式を満たせばよい。本発明者の研究開発において、実施例1の拡散バリア2の延在長さBとして、現行のラムダセンサにおける拡散バリアの延在長さBを採用した。実施例1に係るガスセンサ1において、延在長さBが1.0mmであり、気孔率Aは0.05とした。
【0031】
また、拡散バリア2の気孔率Aは0.05以下であることが好ましい。拡散バリア2の気孔率Aを0.05以下に設定すれば、現行のラムダセンサにおける拡散バリアの延在長さBを採用しつつ、ガスセンサ1において水素を検知することができる。これにより、ガスセンサ1のサイズは、現行のラムダセンサの適切なサイズを維持することができる。
【0032】
(実施例2)
本発明者は、現行のラムダセンサにおける拡散バリアの気孔率を維持しつつ、水素分子の拡散速度を制限するために、拡散バリアの延在長さBを大きくすることが有意であることを見出した。
【0033】
ガスセンサ1において拡散バリア2の延在長さBは、拡散バリア2の気孔率Aとの関係において、上記関係式を満たせばよい。本発明者の研究開発において、実施例2の拡散バリア2の気孔率Aとして、現行のラムダセンサにおける拡散バリアの気孔率Aを採用した。ガスセンサ1において、拡散バリア2の気孔率Aは0.2であり、延在長さBは4.0mmであった。
【0034】
また、拡散バリア2の延在長さBが4.0mm以上であることが好ましい。拡散バリア2の延在長さBを4.0mm以上に設定すれば、現行のラムダセンサにおける拡散バリアの気孔率Aを採用しつつ、ガスセンサ1において水素を検知することができる。これにより、ガスセンサ1において現行のラムダセンサと同じ気孔率の拡散バリアを援用することができる。
【0035】
拡散バリア2Aは、多孔体であり、酸化アルミニウムにより形成されている。拡散バリア2Aは、流路12に設けられている。拡散バリア2Aは、排ガスGを通流可能にしつつ流路12を閉鎖している。拡散バリア2Aは、流路12から測定室11内に突出している。拡散バリア2Aの気孔率は、拡散バリア2と同じであることが好ましい。
【0036】
流路12に拡散バリア2Aを設けることにより、排ガスGが流路12に達した段階において水素分子の拡散速度を制限することができる。これにより、排ガスG中の水素分子の拡散速度を測定室11における拡散バリア2に達する前に制限することができ、ポンプセル20において排ガスG中の水素の有無を確実に検知することができる。なお、ガスセンサ1において、水素分子の拡散速度を拡散バリア2において十分に制限することができれば、拡散バリア2Aは設けなくてもよい。
【0037】
ポンプセル20は、測定室11に対してその外周部に設けられている。ポンプセル20において排ガスG中の水素が検知される。ポンプセル20は、外側ポンプ電極21と、内側ポンプ電極22と、を有する。ポンプセル20は、外側ポンプ電極21と、内側ポンプ電極22と、両方の電極21,22に挟まれた電解質により構成された電気化学的なポンプセルである。
【0038】
外側ポンプ電極21は、固体電解質10の上面10uに設けられている。外側ポンプ電
極21は、一部が固体電解質10から露出している。外側ポンプ電極21の固体電解質10から露出している部分は、保護層23によって覆われている。外側ポンプ電極21は、白金製の多孔質サーメット電極である。内側ポンプ電極22は、測定室11の上方U側の面であり下方Dに面する天井面11aに設けられている。内側ポンプ電極22は、白金製の多孔質サーメント電極である。
【0039】
ネルンストセル30は、測定電極31と、基準電極32と、を有する。ネルンストセル30は、測定電極31と、基準電極32と、両方の電極31,32の間に位置する固体電解質10とにより形成されている。測定電極31は、測定室11の内側ポンプ電極22に対向する側に設けられている。測定電極31は、右方R側に基準室(図示せず。)にまで延在している。基準電極32は、一部が固体電解質10に露出した状態において絶縁材料33内に埋め込まれている。基準電極32は、右方R側に基準室(図示せず。)にまで延在している。
【0040】
加熱部40は、白金とセラミックスとを含むサーメットにより形成されている。加熱部40は、通電によって発熱する。加熱部は、測定室11に対して下方Dの側に所定の間隔をあけて設けられている。加熱部40は、絶縁材料41内に埋め込まれている。
【0041】
ガスセンサ1の基本構成は、拡散バリア2,2A、及び触媒層が設けられていない以外は本発明者が使用している現行のラムダセンサの構成と同じであるため、現行のラムダセンサからの大幅な設計変更を必要としない。そのため、ガスセンサ1は、現行のラムダセンサに基づいて容易に製造することができる。
【0042】
ガスセンサ1においては、公知のラムダセンサと同様に、外側ポンプ電極21と内側ポンプ電極22との間に、相応の極性を与えられたポンプ電流を印加する。ポンプ電流を印加することによって、酸素イオンが、排ガスGから測定室11内にポンプ供給されると同時に、水素イオンと反応し水となる。反応後の水は測定室11から排ガスGへ拡散される。酸素イオンの、両電極21,22間の移動はポンプ電流によって発生する。ポンプ電流を用いて水素濃度が求められる。
【0043】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られるものではなく、本発明の範囲を超えない範囲で適宜変更が可能である。ガスセンサ1において拡散バリア2の気孔率Aは、0.05以下、延在長さBは、4.0mm以上に限られず、当業者であれば、上記の実施の形態における関係式を満たすように、気孔率A及び延在長さBを適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 ガスセンサ
10 固体電解質
10a 流入口
11 測定室
12 流路
2,2A 拡散バリア
2a 内周面(流入口に面する面)
2b 外周面(検知部に面する面)
20 ポンプセル(検知部)
G ガス(排ガス)