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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】光ビーム分岐光回路及びレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/08 20060101AFI20230628BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20230628BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20230628BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20230628BHJP
   G02B 27/10 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
G02B26/08 G
B23K26/067
B23K26/064 Z
G02B27/28 Z
G02B27/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018195088
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020064146
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】302060650
【氏名又は名称】株式会社フォトニックラティス
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 貴之
(72)【発明者】
【氏名】川上 彰二郎
(72)【発明者】
【氏名】居城 俊和
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150568(WO,A1)
【文献】特開2016-024270(JP,A)
【文献】特開平06-250239(JP,A)
【文献】特開平04-089192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0050452(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0188120(US,A1)
【文献】特表2008-532085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00-26/08
G02B 27/10,27/28
B23K 26/064,26/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元空間x、y、zにおいて、-z方向から+z方向へと入射する光をxy面内においてそれぞれ逆方向に屈曲される右回り円偏光と左回り円偏光に分離するN枚(Nは3以上の整数)の光学素子を備え、
前記光学素子のそれぞれは、xy面に形成されたπラジアンの整数倍の位相差の波長板を備え、
前記波長板は、
y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返され、
幅Dの前記領域が、y軸に平行な複数の帯状のサブ領域に区分され、
前記波長板の軸方位が、前記領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、前記サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様であり、
前記サブ領域の遅波軸がx軸に対してなす角βが、前記サブ領域の中心線のx座標x1に対して時計回りに β=(180×x1/D)度+定数 で表されるものであ
1枚目の前記光学素子はπの整数倍の位相差を持ち、2枚目以降でn-1枚目までの光学素子はπの整数倍+π/2の位相差を持ち、n枚目の前記光学素子はπの整数倍の位相差を持ち、
光が進む軸上に前記光学素子が同じ向きにN枚並び、1~n-1枚目までの前記光学素子に入力したビームを2の(n-1)乗本のビームに分岐し、n枚目の前記光学素子において2の(n-1)乗本の平行なビームを生成し、かつ各光学素子の間隔を変化させることで、ビームの間隔を調整できる
光ビーム分岐回路。
【請求項2】
前記波長板はフォトニック結晶を用いた波長板である
請求項1に記載の光ビーム分岐回路。
【請求項3】
3次元空間x、y、zにおいて、-z方向から+z方向へと入射する光をxy面内においてそれぞれ逆方向に屈曲される右回り円偏光と左回り円偏光に分離する少なくとも2枚の光学素子を備え、
前記光学素子のそれぞれは、xy面に形成されたπラジアンの整数倍の位相差の波長板を備え、
前記波長板は、
y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返され、
幅Dの前記領域が、y軸に平行な複数の帯状のサブ領域に区分され、
前記波長板の軸方位が、前記領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、前記サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様であり、
前記サブ領域の遅波軸がx軸に対してなす角βが、前記サブ領域の中心線のx座標x1に対して時計回りに β=(180×x1/D)度+定数 で表されるものであ
光が進む軸上に前記光学素子が同じ向きに2枚並び、入射する光の波長λに対して1枚目及び2枚目の前記光学素子はλ/2の位相差を持ち、1枚目の前記光学素子で2本に分離した光が2枚目の前記光学素子で平行な2本のビームになり、かつ2枚の前記光学素子の間隔を変化させることで、2本の平行なビームの間隔を制御でき、
1枚目の前記光学素子の前に、一様な1/4波長板をさらに備え、
入射する光が直線偏光の場合、前記1/4波長板をxy面内で回転させることで当該1/4波長板の後に配置されている前記光学素子における分岐比を制御できる
光ビーム分岐回路。
【請求項4】
1枚目の前記光学素子の前に、電気的に位相差を制御できる液晶可変リターダをさらに備え、
前記リターダの偏光状態を変化させることで、1枚目の前記光学素子における分岐比を制御できる
請求項1又は請求項2に記載のビーム分岐光回路。
【請求項5】
1枚目の前記光学素子の後に、電気的に位相差を制御できる液晶可変リターダをさらに備え、
前記リターダの偏光状態を変化させることで、2枚目以降の前記光学素子における入射光と平行に進む成分の光量を制御できる
請求項1又は請求項2に記載のビーム分岐光回路。
【請求項6】
ビーム分岐光回路を具備するレーザ加工機であって、
前記ビーム分岐光回路は、
3次元空間x、y、zにおいて、-z方向から+z方向へと入射する光をxy面内においてそれぞれ逆方向に屈曲される右回り円偏光と左回り円偏光に分離する少なくとも2枚の光学素子を備え、
前記光学素子のそれぞれは、xy面に形成されたπラジアンの整数倍の位相差の波長板を備え、
前記波長板は、
y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返され、
幅Dの前記領域が、y軸に平行な複数の帯状のサブ領域に区分され、
前記波長板の軸方位が、前記領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、前記サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様であり、
前記サブ領域の遅波軸がx軸に対してなす角βが、前記サブ領域の中心線のx座標x1に対して時計回りに β=(180×x1/D)度+定数 で表されるものであ
光が進む軸上に前記光学素子が同じ向きに2枚並び、入射する光の波長λに対して1枚目及び2枚目の前記光学素子はλ/2の位相差を持ち、1枚目の前記光学素子で2本に分離した光が2枚目の前記光学素子で平行な2本のビームになり、かつ2枚の前記光学素子の間隔を変化させることで、2本の平行なビームの間隔を制御できる
レーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光に分岐・屈曲の作用をさせる光学素子を用いた光ビーム分岐光回路及びそれを具備するレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
光の屈曲・分離・分岐・合流、再配分などを実現する光学素子としては、レンズ、プリズム、ハーフミラーなどが極めて広汎に実用されている。それらの多くはプリズムのように立体的形状をもち、1個1機能として作製されるため、集積化、小型化には困難を伴うことが多い。近年、透明な基板の表面に微細な加工を行いそれに垂直に透過する光ビームの場所ごとの位相を変化させ波面を傾けて、透過後の伝播を操作する技術(傾斜メタ表面:gradient metasurfaceと呼ばれる)が進展している。
【0003】
その際に必要な波面の変形量が波長の数倍、数十倍に上ることは珍しくない。一方、表面を通過する光の位相変化量として実用上可能なのは2πラジアンの数分の1から数倍程度なので、位相変化量を2πラジアンごとに鋸歯状波的にゼロに戻す操作が必要である。
【0004】
位相変化量を2πラジアンごとに鋸歯状波的にゼロに戻す前述の操作は、その不連続点付近で光の散乱、それに伴う振幅や位相の誤差が避けられない。それを軽減する方法として次の手段が知られている(非特許文献1)。即ち、
(A)領域ごとに種々な方位をもつ微小な1/2波長板を基板表面に隙間なく配置する。
(B)円偏光がその領域を通過するとき受ける位相推移はある基準方向に対して主軸のなす角θの2倍に等しいという性質を利用する。
詳しく云えば、図1において入射する光の電界が、例えば
=Ecos(ωt), E=Esin(ωt)
で与えられる円偏光であるとき、図1のようにξη軸をとり、ξη軸方向に主軸を持つ1/2波長板を挿入すれば透過後の光は逆回りの円偏光となり相対位相は2θだけ変化することが知られている。
【0005】
位相推移を2πラジアンをこえて連続的に変化させる必要があるときは、例えばθを図1上部のように定義し、θをπラジアンを超えて連続的に変化させれば良く、θを連続かつ単調にπの数倍変化させれば、位相角は不連続なく2πラジアンの何倍でも変化させることができる。もし仮にθが近似的にxと共に直線的に増加または減少するとき、透過する円偏光の波面はxに関して直線的な変換をうけ、プリズム作用が生ずる。つまり図2に示すように右回り円偏光は左回り円偏光に変換されかつ屈曲される。また左回り円偏光は右回り円偏光に変換されかつ逆方向に屈曲される。図2において直線偏光を入射した場合は、直線偏光は右回り円偏光と左回り円偏光の重ね合わせであるため、右回り円偏光と左回り円偏光に分離される。
【0006】
また構成される素子が1/2波長板ではなく、位相差φの場合、入射した円偏光は入射偏光と同じ円偏光と逆回りの円偏光にcosφ:sinφの強度比で分離される。またこのことからその素子に直線偏光を入射すると、直線偏光は右回り円偏光と左回り円偏光の重ね合わせであるため、図3に示すように出力は直進する直線偏光と互いに逆方向に屈曲される右回り円偏光と左回り円偏光とにcosφ:sinφの強度比で分離されることは明らかである。
【0007】
必要な「領域ごとに種々な方位をもつ微小な波長板」は、基板に深い溝を周期配列することにより実現される。固体表面に周期的に形成された無限長の溝列は、電界が溝に平行な偏光に対して、電界が溝に垂直な偏光に対するより大きな位相遅れを生ずる。半波長板では位相差をπラジアンに一致させることが必要で、設計上また加工上の理由から溝と溝の間隔は1/3波長から1/2波長程度となることが多く、1/4波長になることはない。
【0008】
一方でレーザ加工の場合、発振器から出たビームを複数のビームに分けて対象物に照射する場合がある。発振器の出力が十分な場合、そのようにすることで複数個所を同時に加工できる。1枚の板の上の多数の点にビームを照射する必要がある場合、こうした機能は加工時間の大幅な短縮につながる。
分岐にはプリズムやハーフミラーを用いて分岐する場合があるが、反射光学系であるために、すべてのビームの入射角をそろえることは調整が困難であり、コストの増加を招いていた。また例えば1mmの幅で分離しようとすると、微小な光学素子を複数組み合わせる必要が生じ、やはりアライメントに大きな工数が必要となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】D. Lin, P. Fan, E. Hasman and M. Brongersma, “Dielectric gradient metasurface optical elements”, Science, Applied Optics, 18 July 2014, pp. 298-302.
【文献】N. Yu and F. Capasso, “Flat optics with designer metasurfaces”, Nature materials, 23 January 2014, pp.139-149.
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第3325825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、光ビームを分岐させる方法としては、偏光分離スプリッタを用いる方法、ハーフミラーを用いる方法、又は回折格子を用いる方法が考えられる。しかし、これらの方法にはそれぞれ次の問題点がある。
【0012】
・偏光分離スプリッタを用いる場合
出力が直線偏光であるため、多段にする場合は1/2波長板で偏光方向を変えるもしくは1/4波長板で円偏光にする必要がある。
分離角が大きくとれず、大きな分離幅を得ようとすると光回路が長くなる。素子が大型化して高価になる。
【0013】
・ハーフミラーを用いる場合
反射光学系のため、各素子の角度に高い精度が要求される。多段になるとその度合いは高まる。微小な分離幅を得ようとすると、微小な光学系が必要であり、製造、位置調整が困難になる。
【0014】
・回折格子を用いる場合
一般的な回折格子では高次の回折光が生じ、効率が下がる。
【0015】
これに対して、本発明では偏光分離素子もしくは円偏光に対し手ビームを屈曲させる機能を持つ板状の光学素子を組み合わせて平行に板を並べるだけで、入力光ビームを分離しかつ容易に平行光を得ることができ、素子間の間隔を調整するだけで任意分離幅を実現することができ、高い効率で多数のビームに分離することができる。
【0016】
なおこうした機能を持つ光学素子は上で述べた表面加工でも実現可能であるが次の困難がある。
【0017】
(1)溝と溝の間隔、あるいは周期溝の周期は少なくとも1/3波長以上となる。光ビームを制御するには場所ごとに精細に位相を制御したいが、波長板の溝間隔で制限される。実際にはそれ以前に溝が波長板として機能し隣接領域と異なる主軸方向をもつためには、溝の長さは溝同士の間隔の少なくとも同等以上、望ましくは2倍以上であることを要し、微小領域の寸法が十分小さくなり得ない。以下説明する。図1における各領域Dのうち領域内の溝の長さが最小になるものを符号dであらわす。同様に図4においても符号dを同じく定義する。また、周期的に繰り返される溝の周期(「溝間単位周期」ともいう)を符号pで表す。波長板として動作するためにはd/pがある程度大きいことが必要である。d/pが有限のとき、その領域の複屈折による位相差はπより小さく、π(1-p/2d)程度と見積もられる。本来πであるべき位相差が、たとえば0.95π以上、または0.9π以上、または0.75π以上、または0.5π以上であるためには、dはそれぞれ10p以上、5p以上、2p以上、p以上であることが必要である。
【0018】
逆に、高精細化のためにはdは小さく保ちたい。図1の光学素子においてdは素子への要求により上限が定まり、それを小さくできるほど素子の性能は高まる(量子化誤差が小さいから)。一方、pはさらにそれより1桁から半桁小さいことが求められるゆえ、pを小さくできることの利益は大きい。
【0019】
また、図4の様に溝を曲線とした場合には、等ピッチで同じ曲線を並べると垂直に近づくにつれてピッチが狭くなってしまい、溝の本数を減らす(間引く)ことで、ピッチを保つ必要がある。そうした場合でも、厳密にピッチ間隔を一定にすることはできず、ピッチ間隔が場所ごとに変動し、位相差がずれてしまう。
【0020】
(2)素子表面での不要な光の反射を避けるため反射防止層を表面に成膜する必要があるが表面加工による波長板では成膜が困難である。
【0021】
(3)素子表面での微細加工で1/4波長板を実現する場合で、その高さは50nm程度となる。例えば誤差1%とすると、表面加工精度を50×0.01=0.5nm程度以下に抑える必要があり、たいへん高度な加工技術を要する。
【0022】
(4)素子表面での空気との境界で動作を実現しているため、接着剤で微細構造が埋まると効果が激減してしまう。
【0023】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、メタ表面でなく、集積化が容易な光学素子を提供することである。
【0024】
本発明の効果をあらかじめ要約すると、本発明は、以下の第1から第2のいずれか1つ以上又は全ての効果を奏する。
第1に、成膜面を境に片側から入射し、反対側に出射する素子において1つの方向から入射した光が二つに分離される素子を2枚以上並べて、2本以上の平行な光線を生成する機能を実現する。
第2に、偏光を電気的に変換する素子を用いて、分離される光の強度比を任意に制御できる(図5)。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の第1の側面は、光ビーム分岐回路に関する。本発明で用いる光学素子は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成された位相差φの波長板を備える。位相差φはπラジアンの整数倍とする。波長板の好ましい形態は、z軸方向に積層されたフォトニック結晶である。光学素子の第1の実施形態(分割型)は、x軸方向に単一、もしくは、繰り返される一又は複数の領域を有する。つまり、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返される。幅Dの領域は、x軸方向に、複数の帯状のサブ領域に区分される。例えば波長板には複数の溝が形成されている。この波長板の軸方位(例えば溝方向)は、幅Dの領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様となる。また、サブ領域の遅波軸がx軸に対してなす角βは、サブ領域の中心線のx座標x1に対して時計回りに β=(180×x1/D)度+定数 で表される。
【0026】
もしくは、光学素子の第2の実施形態(曲線型)は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成された波長板を備える。波長板の好ましい形態は、z軸方向に積層されたフォトニック結晶である。波長板の位相差φは、πラジアンの整数倍ではない。光学素子は、x軸方向に単一、もしくは、繰り返される一又は複数の領域を有する。つまり、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返される。例えば波長板には複数の溝が形成されている。この波長板の軸方位(例えば溝)は、曲線であり、かつy軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で連続的に変化する。具体的には、波長板の軸方位は、曲線y=(D/π)log(|cos(πx/D)|)+定数 と離散化誤差の範囲で一致する曲線となる。
【0027】
本発明に係る光ビーム分岐回路は、-z方向から+z方向へと入射する光をxy面内においてそれぞれ逆方向に屈曲される右回り円偏光と左回り円偏光に分離する少なくとも2枚の光学素子をさらに備える。また、光が進む軸上において、前記の光学素子が同じ向きに2枚以上並ぶ。これにより、1枚目の光学素子で2本に分離した光が2枚目の光学素子で平行な2本のビームになり。そして、2枚の光学素子の間隔を変化させることで、2本の平行なビームの間隔を制御できる。
【0028】
本発明の各実施形態において、-z方向から+z方向に直線偏光が入射する場合、波長板の位相差がπの整数倍であれば二つの方向に屈曲し、位相差が0.95ラジアンの波長板であれば、前記の屈曲する成分と前記の直進する成分とに等しいパワー(光量)で3本に分離および変換して出射する。
【0029】
上記した曲線型の軸方位(例えば溝)をもつ光学素子は、隣り合う凸部と凹部の一方の間隔の前記領域の内部における最大値と最小値の比が2倍以内になるように、他方が分岐・合流するよう幾何学的に配置されていることが好ましい(図4等参照)。
【0030】
本発明の光学素子において、波長板はz軸方向に積層されたフォトニック結晶で構成されていることが好ましい。この場合、フォトニック結晶の溝間単位周期が、40nm以上、かつ入射する光の波長の1/4以下であり、フォトニック結晶の厚さ方向の周期が、入射する光の波長の1/4以下であることが好ましい。
【0031】
フォトニック結晶は、公知であるが、例えば自己クローニング法(特許文献1参照)によって形成すればよい。フォトニック結晶は、導波する光の動作波長よりも短い周期で屈折率が周期的に変化する構造体である。特に、波長板は、自己クローニング作用により形成されたフォトニック結晶であることが好ましい。フォトニック結晶は、光学素子として機能する微小周期構造体である。具体的なフォトニック結晶の製造方法としては、特許文献1に開示されているように、1次元的または2次元的に周期的な凹凸をもつ基板の上に、2種類以上の屈折率の異なる物質(透明体)を周期的に順次積層し、その積層の中の少なくとも一部分にスパッタエッチングを単独で、または成膜と同時に用いることにより、光学素子(波長板)を製造する方法があげられる。この方法は、自己クローニング法ともよばれる。そして、この自己クローニング法により形成されたフォトニック結晶は、自己クローニング型フォトニック結晶とよばれる。なお、自己クローニング型フォトニック結晶を用いて波長板を構成する技術は公知である。例えばフォトニック結晶の別の作製方法として、フェムト秒レーザをガラスに照射することで周期的な空隙を作製する方法が挙げられる。
また同様に波長板を構成する技術として液晶を用いた方法も挙げられる。
【0032】
なお、自己クローニング型フォトニック結晶を形成する複数種類の透明体は、アモルファスシリコン、5酸化ニオブ、5酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、2酸化ケイ素、酸化アルミ、フッ化マグネシウムなどのフッ化物のいずれかであることが好ましい。これらの中から屈折率の異なる2ないし複数種を選択しフォトニック結晶に用いることができる。例えばアモルファスシリコンと二酸化ケイ素、5酸化ニオブと二酸化ケイ素、五酸化タンタルと二酸化ケイ素の組み合わせが望ましいが、それ以外の組み合わせでも可能である。具体的には、自己クローニング型フォトニック結晶は、高屈折率材料と低屈折率材料とをz方向に交互に積層した構造を有する。高屈折率材料は、5酸化タンタル、5酸化ニオブ、アモルファスシリコン、酸化チタン、酸化ハフニウムまたはこれら2種以上の材料を組み合わせたものであることが好ましい。低屈折率材料は、2酸化ケイ素、酸化アルミ、フッ化マグネシウムを含むフッ化物またはこれら2種以上の材料を組み合わせたものであることが好ましい。
【0033】
さらに具体的に説明すると、本発明の光学素子は、主軸方位が領域ごとに異なった波長板(分割型:第1の実施形態)、または、主軸方位が連続的に変化する波長板(曲線型:第2の実施形態)であり、それぞれの領域の波長板が、面内に周期構造を持ち当該周期構造が厚さ方向に積層されたフォトニック結晶で構成されている。フォトニック結晶は、自己クローニング法(特許文献1参照)によって形成すればよい。
【0034】
各波長板を形成する面内の周期構造の溝間単位周期および前記波長板の厚さ方向の単位周期は、共に、光学素子に入射する光の波長の4分の1以下となる。なお、面内の周期構造の溝間単位周期40nm以上とすることが好ましく。なお、光学素子に入射する光の波長は、通常、400nm~1800nmの間から選ばれることが想定される。
【0035】
また、複数領域の波長板のうち、波長板溝長さの面内の最小値は溝間単位周期以上である。なお、波長板溝長さの面内の最大値の上限は溝間単位周期pの50倍以下であることが好ましい。
【0036】
また主軸方位が連続的に変化する波長板(曲線型)の場合、凸部のピッチpが(パターンが直線であるときのピッチ)をpとすると0.7・p≦p≦1.4・p以内になるよう、凸部または凹部が分岐・合流するよう幾何学的に配置されることが好ましい。自己クローニング型フォトニック結晶は図6に示すように、位相差の変化が、ピッチの変動に対して変動が小さい。したがって、ピッチが変わった場合の位相の不均一性を小さくできる。
【0037】
自己クローニング形フォトニック結晶波長板に基づく本発明の光学素子は傾斜メタ表面(たとえば非特許文献1,2:gradient metasurface)とは根本的に異なり体積形であるため、その表面とその下部に反射防止処理を行うことや、接着剤を用いてほかの光学素子と接続することなどが容易にできる。体積形であって、積層の全厚さを保ったまま積層数を大きく(例えば2倍)、積層周期、面内周期を小さく(例えば1/2)しても特性がほぼ一定に保たれるので、構造の高精細化が可能である。
またフォトニック結晶では1/4波長でもミクロンオーダの厚さになるため、例えば5μm×0.01=50nm程度の制御ができればよく、これは通常の薄膜プロセスで十分対応可能な値である。
【0038】
本発明の光学素子のもう一つの好ましい実施形態は、ピッチの決まった平行線によって形成されているそれぞれの領域の波長板を平行線から曲線に変えて領域(サブ領域)の境目をなくすことである。曲線に変えることで量子化誤差が小さくなり、結果位相誤差が小さくでき、不要偏波の割合を小さくでき、分岐しない成分の割合を小さくすることができる。
【0039】
本発明の望ましい実施形態の一つは、上記光学素子を図7のようにパターンが同じ向きとなるように2枚平行に並べる。ここに-z方向から直線偏光が入射することを考える。
直線偏光は右回り円偏光と左回り円偏光が等量重ね合わせられたものと考えられるので、1枚目の素子で右回り円偏光と左回り円偏光の二つのビームに分離される。入射光の光路とそれぞれ分離された角度をθとすると、
θ = sin-1(λ/D)
となる。2本のビームは2枚目の素子に入射するとそれぞれ右回り円偏光は左回り円偏光に、左回り円偏光は右回り円偏光に変換され、ビームの向きは入射光と平行になる。この時、1枚目のパターンと2枚目のパターンが同じであることが肝要である。もし図7における周期Dが異なれば、平行でなくなる。パターンの向きが異なる場合も入射光とは平行でなくなる。
この二枚の素子の間隔Lを広げれば、2本のビームの間隔は、
W = 2tanθ
となり、制御することができる。
例えば2枚目の素子の位相差をλ/4とすると、図8に示すように2枚目の素子でビームがそれぞれ2本に分離することが可能となる。それを3枚目の素子を準備することで平行光に戻すことが可能なことは明らかである。
なお例えば1枚目の位相差をπの整数倍以外すると、図9に示すように3本のビームを得ることができる。このとき2枚目の素子で図10のように中心部のパターンをなくしておけば、その部分は素通しとなるため、3本の平行なビームを得ることができる。
どの構成においても素子間隔を変えると出力されるビームの間隔を変えることができる。この場合、位相差を0.95ラジアンとすると3本のビームの強度は等しくなる。
【0040】
すなわち、本発明の光ビーム分岐回路は、前記の光学素子をN枚備える(Nは3以上の整数)。1枚目の光学素子はπの整数倍の位相差を持ち、2枚目以降でn-1枚目までの光学素子はπの整数倍+π/2の位相差を持ち、n枚目の前記光学素子はπの整数倍の位相差を持つ。これにより、光ビーム分岐回路は、1~n-1枚目までの光学素子に入力したビームを2(n-1)本のビームに分岐し、n枚目の光学素子において2(n-1)本の平行なビームを生成する。また、各光学素子の間隔を変化させることで、ビームの間隔を調整できる。
【0041】
また、本発明の光ビーム分岐回路に含まれる複数の光学素子を、その機能に応じて第一の光学素子と第二の光学素子に分類する。第一の光学素子は、-z方向から+z方向へと入射する光を、xy面内においてそれぞれ逆方向に屈曲される右回り円偏光と左回り円偏光を含む「屈曲光」と、そのまま直進する「直進光」とに分離する。なお、直進光と前曲光の分岐比はφの関数cosφ:sinφで表される。第二の光学素子は、一部に軸方位が一様な波長板の領域もしくは波長板のない領域を持つ。この場合に、光ビーム分岐回路に入射した光は、第一の光学素子で3本のビームに分離される。第二の光学素子では、第一の光学素子で屈曲されたビームが平行光になる。第一の光学素子を直進した光は第二の光学素子の一様な波長板もしくは波長板のない領域を透過又は直進して、3本の平行なビームが出射される。さらに、第一の光学素子と第二の光学素子の間隔を変化させることで、3本のビームの間隔を制御できる。
【0042】
本発明は、さらに、光ビーム分岐回路の前もしくは中で、波長板を回転させるかもしくは液晶可変リターダを用いて偏光状態を変えることで、ビームの分岐比もしくは入射光と平行に進むビームの光量を可変する機能を有していてもよい。
例えば図12の1203にλ/4波長板を設置し、それを回転することを考える。入射する直線偏光の偏光方向を0度とし波長板の軸となす角度をθとすると、波長板から出射される光は角度θによって直線偏光から円偏光まで変えることができ、
光学素子1201で分岐される比を
cos(θ+π/4):sin(θ+π/4)
と変化させることができる。
もしくは図13の1303に液晶のように可変のリターダを入れることで、光の偏光状態を円偏光から直線偏光まで変化させることができる。
入射した光が直線偏光であれば、液晶リターダの軸の向きを入射偏光方向から45度ずらし、λ/4位相差が生じるようにすることで右回りもしくは左回りの円偏光に変換することができる。右か左かは液晶リターダの速軸がどちらの向きを向いているかによって決まる。もし右回り円偏光であれば、図13において片方にのみ光が行き、左回りであればもう片方にパワーが行く。
液晶に与えられるリターダンスがφであれば
cos(φ/2+π/4):sin(φ/2+π/4)
でパワーを分岐することができる。
また例えば、図14に示されるように、第一の光学素子と第二の光学素子の間に液晶リターダを置いた場合、2本の出力は等しくなるが、液晶によって与えられたリターダンスφによって、第二の光学素子で入射光と平行ではない方向1404と方向1405に回折される成分が発生する。方向1404と方向1406に出る光量の比、もしくは方向1405と方向1407に出る光量の比は、
cos(φ/2):sin(φ/2)
と表すことができるので、その方向1404と方向1405に進む光を吸収させるなど適当な処理をすれば、光量調整も可能となる。
【0043】
すなわち、本発明の光ビーム分岐回路は、1枚目の光学素子の前に、一様な1/4波長板をさらに備えていてもよい。この場合、1/4波長板をxy面内で回転させることで、当該1/4波長板の後に配置されている光学素子における分岐比を制御できる。
【0044】
本発明の光ビーム分岐回路は、1枚目の前記光学素子の前に、電気的に位相差を制御できる液晶可変リターダをさらに備えていてもよい。リターダの偏光状態を変化させることで、1枚目の光学素子における分岐比を制御できる。
【0045】
本発明の光ビーム分岐回路は、1枚目の前記光学素子の後に、電気的に位相差を制御できる液晶可変リターダをさらに備えていてもよい。リターダの偏光状態を変化させることで、2枚目以降の光学素子における入射光と平行に進む成分の光量を制御できる。
【0046】
本発明の第2の側面は、上記第1の側面に係る光ビーム分岐回路を備えたレーザ加工機に関する。レーザ加工機は、レーザ発振器から出力されたレーザを複数のレーザに分けて対象物に照射するものであって、レーザの分岐手段として上記光ビーム分岐回路を備える。それ以外のレーザ加工機の構成(レーザ発振器等)は公知のものを採用すればよい。レーザ発振器の出力が十分な場合、そのようにすることで複数個所を同時に加工できる。1枚の板の上の多数の点にビームを照射する必要がある場合、こうした機能は加工時間の大幅な短縮につながる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、光ビームを容易に分岐し、さらにその間隔、光量を可変とすることができる。したがって、例えばレーザ加工機などで複数ビームを用いて加工の効率を上げようとする場合に、ビームを容易に操作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】従来技術である、傾斜メタ表面(gradient metasurface)を使って実現した偏光グレーティングである。
図2】第一の実施形態に係る光学素子の位相差がπの整数倍の場合の動作を説明する図である。
図3】第一の実施形態に係る光学素子の位相差がπの整数倍でない場合の動作を説明する図である。
図4】第1の実施形態に係る光学素子(分割型)及び第2の実施形態に係る光学素子(曲線型)の一例を示す図である。
図5】第2の実施形態に係る光学素子が持つ位相差と直進光及び屈曲光のパワー関係を示した図である。
図6】フォトニック結晶の場合のピッチ変化に対する位相差の感度を示す図である。
図7】2枚の光学素子を備えた光ビーム分岐回路の光分岐機能を示す図である。
図8】3枚の光学素子を備えた光ビーム分岐回路の光分岐機能を示す図である。
図9】1本の入力光を3本に分岐する光分岐機能を示す図である。
図10】第2の光学素子のパターンを示す図である。
図11】平坦部とフォトニック結晶部の透過率の違いを計算した結果である。
図12】第一の光学素子の前にλ/4波長板を備えた光ビーム分岐回路の光分岐機能を示す図である。
図13】第一の光学素子の前に可変リターダを備えた光ビーム分岐回路の光分岐機能を示す図である。
図14】第一の光学素子と第2の光学素子の間に可変リターダを備えた光ビーム分岐回路の光分岐機能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施例ついて説明する。
【実施例1】
【0050】
まず、上記した第1の側面に係る光学素子に関し、垂直入射した直線偏光を、ある角度ψで屈曲する右回りの円偏光と逆方向に屈曲する左回りの円偏光に偏光分離できる光学素子について説明する。
【0051】
光学素子の光学配置を図2に示す。図2に示した光学素子は、いわゆる曲線型である。すなわち、曲線型の光学素子の基本構成は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成され、z軸方向に積層されたフォトニック結晶からなる波長板である。波長板は、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に複数繰り返されている。フォトニック結晶の溝方向(すなわち軸方位)は、曲線y=(D/π)log(|cos(πx/D)|)+定数 と離散化誤差の範囲で一致する曲線である(図4参照)。
【0052】
また、図4に示されるように、フォトニック結晶のパタン(凸部または凹部)を曲線状にしたことで、1周期内部で中央部ではパターンが疎になり、端に近いほど密になりパターンが破綻する。そこで中央部でのパターン間ピッチを基準に取り、それをpとする。pがある閾値ピッチ以下になった位置で2本のパターンを合流させる。合流直後のピッチは2pになるが、端にいくにほど密になるため、閾値長さ以下になったところで再度合流させる。以上の操作を繰り返すことでピッチがある範囲内で変化しながら理想的な光学軸分布を実現できる。閾値ピッチを0.5pとすると、ピッチの変化範囲は0.5p~2.0pの間になる。すなわち、隣り合う凸部と凹部の一方の間隔の最大値と最小値の比が4倍以内、好ましくは2倍以内になるように、他方が分岐・合流するよう幾何学的に配置されている。図4に示した例では、白色の部分が凹部となり、黒色の部分が凸部となっている。すなわち、主軸方位が連続的に変化する波長板(曲線型)の場合、凸部のピッチpが(パターンが直線であるときのピッチ)をpとすると0.5・p≦p≦2・p以内になるよう、凸部または凹部が分岐・合流するよう幾何学的に配置される。
【0053】
他方で、本発明の光学素子は、上記曲線型に限定されず、いわゆる分割型とすることもできる。すなわち、分割型の光学素子の基本構成は、3次元空間x、y、zにおいて、xy面に形成され、z軸方向に積層されたフォトニック結晶からなる波長板ある。波長板は、y軸方向に平行な帯状の幅Dの領域が、x軸方向に単一又は複数繰り返されたものとなる。また、幅Dの領域は、y軸に平行な複数の帯状のサブ領域に区分される。波長板に形成された溝(フォトニック結晶の溝方向)は、幅Dの領域の中では、y軸方向に対する角度が0度から180度の範囲で段階的に変化し、かつ、サブ領域の中では、y軸方向に対する角度が一様となる。
【0054】
図4に示されるように、分割型の光学素子は、xy面内では、少なくともx軸方向に向かって複数の領域Dが周期的に繰り返して形成されている。複数の領域Dのx軸方向の長さは等しいことが好ましい。また、各領域Dは、さらにx方向に複数のサブ領域に区分されている。各領域Dの分割数は、3~21とすることができ、例えば5、7、9、11、13、15、17、19などの奇数とすることが好ましい。各領域Dに含まれるサブ領域は、それぞれx方向に実質的に等しい幅を有していることが好ましい。「実質的に等しい幅」とは、x方向の中心に位置するサブ領域の幅を基準として、±2%の誤差を許容することを意味する。
【0055】
また、各サブ領域には、複数の溝が周期的に形成されている。溝の幅は実質的に全て等しい。また、溝は、各サブ領域において、x方向の端から端まで形成されている。領域Dにおいて、x方向の中心に位置するサブ領域では、x軸方向に平行に延びる溝が、y方向に周期的に繰り返し形成されている。他方で、領域Dにおいて、x方向の左右両端に位置するサブ領域では、y方向に平行に延びる溝が形成されている。このため、中心のサブ領域に形成された溝に対して、左右両端のサブ領域に形成された溝のなす角度θは90度となる。このようなサブ領域において溝の長さは最も大きく、素子全体のy方向の有効寸法と一致する。
【0056】
また、中心のサブ領域と左右両端のサブ領域の間には、左右それぞれに、複数のサブ領域が位置している。そして、これら間に位置する各サブ領域にも複数の溝がy方向に周期的に繰り返して形成されている。また、あるサブ領域に形成された溝の角度は全て等しい。ただし、間に位置する各サブ領域の溝の角度θは、中心のサブ領域から左右両端のサブ領域に近づくに連れて、徐々に90度に近づくように設定されている。例えば、中心のサブ領域と左右両端のサブ領域の間にはそれぞれ4つのサブ領域が設けられており、中心のサブ領域の溝の角度を0度とし左右両端のサブ領域の溝の角度を90度とすると、中心のサブ領域に近い領域から順に、22.5度ずつ傾斜角θが急になっていく。このように、各領域Dでは、x方向の幅が等しい複数のサブ領域に区分され、各サブ領域には角度の等しい溝が周期的に形成され、x方向の中心に位置するサブ領域から左右両端に位置するサブ領域に向かって、溝の角度が単調増加するようになっている。
【0057】
このような前提の下で、各サブ領域において、周期構造の溝間単位周期p(図1参照)は、入射する光の波長(例えば400nm~1800nmの間から選ばれる)の4分の1以下となる。なお、溝間単位周期pの下限値は40nmである。また、厚み方向(z方向)において、屈折率の異なる2種類の透明媒質の単位周期も光の波長の4分の1以下となる。なお、厚み方向の単位周期の下限値は40nmである。そして、複数の領域D全体のうち、溝の長さの面内最小値d(図4参照)が、前述した溝間単位周期pの1倍以上となる。なお、溝の長さの面内最小値dの上限値は前述した溝間単位周期pの50倍と考えられる。ここで図4に示されるように、ある領域D内に形成された複数のサブ領域のx方向の幅は全て等しいため、領域Dにおける溝の長さの面内最小値dは、基本的に、この領域Dの中心に位置するサブ領域に形成された溝の長さとなる。なお、溝の長さは、x方向の左右両側の領域の溝ほど長くなる傾向にある。
【0058】
3次元空間xyzにおいて光の進行方向をz軸とする。周期Dを持つ光学素子をxy面内に設置し、その遅軸方位のx軸からの傾きをθとし、右回り偏光が入射する場合、射出される光は次の式で表される。
光学素子が持つ位相差φがπの整数倍の時、上記の式を整理すると、
となる。したがって射出される光は、左回りの円偏光となって出射される。また、θはxにだけ依存しているため、xに依存した位相差が生じる。1周期Dの間でθがxに比例して0~πまで比例して変化するとき、出力は第2項の位相の傾きはx=Dのところで、x=0のところと2πだけ変化する。したがって、z軸に対してθ=sin-1(λ/D)だけ屈曲して出射されることがわかる。
【0059】
同様に左周り円偏光が入射すると出射光は、
となる。右回りの円偏光へと変換され、z軸に対してθ=-sin-1(λ/D)だけ屈曲して射出されることがわかる。これは逆にθの角度で入射した円偏光は素子に対して垂直方向に屈曲され、出射することも意味している。また直線偏光は右回り円偏光と左回り円偏光が等しく重ね合わされたものとみなせるため、直線偏光が入射した場合は、右回り円偏光成分、左回り円偏光成分はそれぞれ逆回りの円へ項に変換され、かつそれぞれ±θの角度に屈曲されて出射される。
【0060】
分割型(図4左)及び曲線型(図4右)の光学素子はどちらも位相差がπラジアンなので、直線偏光入射時に等しいパワー比で分岐が可能である。ただし、曲線型の光学素子の方が波長板の主軸方位がより滑らかに変化するため位相誤差が小さく、より性能が高い。なお要求される性能を分割型の光学素子でも満たせる場合、プロセスの都合によっては分割型のものを選ぶこともできる。
【0061】
次に、位相差φがπの整数倍ではない任意の値の場合について考える。
右周り円偏光が任意位相差φの光学素子に垂直入射するとき、出力光は
となる。射出される光は第1項:右回りの直進光および第2項:逆回りの円偏光へと分離される。また、パワー比はsin(φ/2):cos(φ/2)になることがわかる。したがって光学素子の位相差を制御することで任意のパワー比で2つの直交する円偏光に分岐することが可能になる。
【0062】
また、左回り円偏光が入射すると、
となる。射出される光は第1項:左回りの直進光および第2項:逆回りの円偏光へと分離され、そのパワー比はsinφ/2):cosφ/2)になる。第2項の光の等位相面の傾きは符号が逆転し、z軸に対してψ=sin-1(λ/D)だけ屈曲して射出される。
入射光が直線偏光の場合、右回り円偏光と左回り円偏光の重ね合わせとなるため、直進する成分と、それぞれz軸に対して±ψ=sin-1(λ/D)だけ屈曲される互いに逆回りの2本の円偏光と合わせて3本に分岐できる。直進する成分は入射偏光と同じ偏光状態、つまり直線偏光である。
位相差によって分岐比を制御でき、0.95ラジアンの時3本の光量が等しくなる。
【0063】
図5は光学素子が持つ位相差φと、直進光および屈折光のパワーの関係を示したグラフである。曲線型および分割型の光学素子に対してビーム伝搬法を用いて数値解析を行った。解析の条件は次の通りである。
・波長λ 1.55μm
・高屈折率材料 a-Si
・低屈折率材料 SiO
・プリズム周期D 10μm
・遅軸屈折率n 2.713
・速軸屈折率n 2.486
・積層全体の厚さ λ/(n-n)×φ/(2π)
【0064】
図5より制御することでsinφ/2):cosφ/2)のパワー比で分岐が可能であることがわかる。特に、φ=π/2ラジアンのときは等しいパワー比で分岐できる。また、図5の上部には、φ=1/4ラジアンとφ≠1/4ラジアンの場合について、位相差φの範囲、グラフの凡例の違いで曲線型、分割型の違いを示している。
【0065】
曲線型および分割型の光学素子はどちらも光学素子の位相差を制御することで任意のパワー比で分岐することができる。ただし曲線型の光学素子の方が波長板の主軸方位がより滑らかに変化するため位相誤差が小さく、より性能が高い。なお要求される性能を分割型の光学素子でも満たせる場合、プロセスの都合によっては分割型のものを選ぶこともできる。
【0066】
図5では0次の位相差における特性を示した。高次の位相差(例えば、π/2、3π/2、5π/2)でも同様なパワー分離特性を得ることができる。
なおこれらはDが波長に比べ十分大きい場合には上記数式通りに成り立つが、例えば波長1.5ミクロンにおいてDが5ミクロンの場合には、光学素子が持つ位相差がλ/4であっても、直進成分の方が多くなる。ただしこの場合でも、光学素子の位相差を調整することで、直進成分と屈曲成分を等量にすることは可能である。
【0067】
本発明では上記光学素子(φ=1/4ラジアン、φ≠1/4ラジアン)を光軸に沿って順に並べるだけで入射ビームを分岐、互いに平行にして出力する光ビーム分岐光回路が実現できる。
【0068】
例えばレーザ加工機において、1本のビームでは1点の加工しかできないが、2本に分岐することで、加工の処理能力は2倍となる。N本に分岐すればn倍となる。また平行光で出力されるため、加工形状がすべての点で等しくできる。さらに素子間の距離を変えることで分岐比を可変にできるため、一つの光回路で多様な間隔の加工ができる。その例を図7を用いて説明する。
【0069】
光学素子701はφ=1/4ラジアンの光学素子で位相差がλ/2である。直線偏光が入射した際、右回りと左回りの円偏光に角度θで分岐される。そのあとに光学素子701と同じ機能を持つ光学素子702をもう一枚配置する。そこに入射角θで入射した円偏光は、素子に垂直な方向に逆回りの円偏光となって出射される。このように2本の平行なビームを得ることができる。さらにこの2枚の素子の間隔Lを変えることでビームの間隔Wが変わることは明らかであり、波長λで光学素子のパターンの周期がDであるとき、
【実施例2】
【0070】
実施例1とは別の構成を考える。図8のように素子を配置し、第一の光学素子801は図7の光学素子701と同じく位相差λ/2のものを配置する。2枚目の第二の光学素子802には位相差λ/4の素子を配置する。すると、第二の光学素子802に入射する光は円偏光であるため、そのまま直進する光と屈曲される光とに等量分離される。それぞれは逆回りの円偏光である。
【0071】
さらにその後に第三の光学素子803を配置する。この素子の周期Dは、第一の光学素子801と等しくする。すると第二の光学素子802で4本に分岐されたビームはすべて平行になり出射される。このように1本のビームを4本の平行なビームに分離することができる。ビームの間隔を各素子間の距離で制御できることは明らかである。第二の光学素子802の位相差を変えることで4本のビーム間のパワー比を変えることができることは明らかである。
【実施例3】
【0072】
実施例2の考え方を拡張し、第二の光学素子802と同じものを第二の光学素子の後に複数枚並べていき、最後に第三の光学素子803と同じものを配置することで、複数本(4本以上)の平行なビームを生成することができる。例えば第一の光学素子801と第三の光学素子803の間に第二の光学素子802と同じ光学素子をn枚配置することでビームを2(n-1)本に分岐することができる。なお、出射するビームの間隔が互いに隣接するように配置すると、一方向に伸びたビームとして扱うこともできる。
【実施例4】
【0073】
実施例1とは別の構成を考える。図9に示す第一の光学素子901は位相差をπラジアンの整数倍以外の値とする。すると入射したビームは直進する直線偏光と2本の屈曲された円偏光の3本のビームに分岐される。そのあとに第二の光学素子902を配置する。第二の光学素子902では図10に示すように第一の光学素子901から直進してくるビームが入射する中心部1001のみにパターンを配置していない。するとそこに当たった光はそのまま直進する。一方で第二の光学素子902の中心部1001以外の部分には第一の光学素子901と同じパターンを配置しておき、その位相差はλ/2としておく。すると第一の光学素子901で屈曲された円偏光は屈曲され、入射ビームと平行なビームとなる。このように3本の平行なビームを作ることができる。
【0074】
なおパターンのない部分にも多層膜は形成されているが、図11に示すようにパターン部とパターンのないところの透過率はともに高い値を得ることができる。これは各層が波長より十分薄いため、光から見ると、パターンの有無にかかわらず平均的な屈折率を持つ一様媒質とみなせるためである。また、実施例4の構成においても中心部のビームが通る場所を確保すれば、実施例3と同じ考え方でビームの本数を増やすことができることは明らかである。
【実施例5】
【0075】
実施例1で示した配置において第一の光学素子の前にλ/4波長板1203を配置することを考える。図12において光学素子1201、1202はそれぞれ図7に示した光学素子701、702と同じである。
【0076】
波長板の軸と入射光の偏光方向が一致する場合、偏光状態は変化せず直線偏光のまま第一の光学素子1201に入射する。λ/4波長板1203の軸を直線偏光に対して角度θでxy面内で回転させた場合、偏光状態は直線偏光から円偏光の間の任意の楕円率を持つ楕円偏光に制御することができる。その場合、例えば円偏光になれば、第一の光学素子1201では片方のみに分岐される。楕円偏光とし、楕円率を適当に制御すれば、二つのビームの光量を制御できることは明らかである。なお、実施例2,3,4においても同様に第一の光学素子の前にλ/4波長板を配置することで同様の制御が可能であることは明らかである。
【実施例6】
【0077】
実施例3で示した配置において第一の光学素子の前に液晶を用いた可変リターダを配置することを考える。図13において光学素子1301、1302はそれぞれ図7に示した光学素子701、702と同じである。液晶は電界によって分子配向の向きを制御することができる。つまり電極を液晶の周囲に配置し、その電極間に電圧を印加することで電極間に電界を生じさせ、それにより複屈折の量と向きを制御することができる。可変リターダ1303を第一に光学素子の前に配置することで、入射する直線偏光を任意の偏光状態に制御することが可能である。その場合、例えば円偏光になれば、第一の光学素子1301では片方のみに分岐される。楕円偏光とし、楕円率を適当に制御すれば、二つのビームの光量を制御できることは明らかである。なお可変リターダの軸の向きは入射偏光方向と45度ずれた方向がのぞましい。ただし入射偏光方向と平行もしくは直交でなければ、制御は可能である。
【0078】
このように実施例1の構成に液晶による可変リターダを組み合わせることで、出力されるビームの光量費を制御することが可能となる。もちろん、液晶に限らず、異なる複屈折を持つ波長板を複数枚用意しておき、差し替えることで光量を可変できることは明らかである。実施例2,3,4においても同様に第一の光学素子の前に可変リターダを配置することで同様の制御が可能であることは明らかである。
【実施例7】
【0079】
実施例6とは別の可変リターダの活用方法を考える。図14に示すように例えば実施例1の構成で第一の光学素子1401と第二の光学素子1402の間に可変リターダ1403を挿入する場合を考える。可変リターダには円偏光が入射するが、その複屈折の大きさにより、直線偏光、楕円偏光、逆回りの円偏光に変えることは可能である。その場合、第二の光学素子で平行な方向に屈曲される成分と2θの角度でさらに外側に屈曲される成分とに分離される。その量は可変リターダの位相差をφとすると、平行な方向に進む光の強度は
式cosφ/2
で表すことができる。外側に屈曲された光は適当な吸収材で熱に変換してもよい。
このようにして出社する光の強度を可変にすることができる。リターダの軸の向きは、入射する光が円偏光であるため、どの方向でもよい。もちろん可変リターダは液晶でなくても構わない。また実施例2,3,4においても同様の機能を実現できることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14