(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】車両及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20230628BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20230628BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20230628BHJP
F16H 59/44 20060101ALI20230628BHJP
F16H 59/66 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H61/662
F16H59/18
F16H59/44
F16H59/66
(21)【出願番号】P 2019070611
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金山 義輝
(72)【発明者】
【氏名】豊原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正典
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】大畑 智滋
(72)【発明者】
【氏名】平岡 忠明
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123838(JP,A)
【文献】特開2019-23504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 61/662
F16H 59/18
F16H 59/36-59/44
F16H 59/48
F16H 59/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機と駆動源とコントローラとを搭載する車両であって、
前記無段変速機は、
プライマリプーリおよびセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに掛け渡されたベルトであって、
リングと、
前記リングにより結束された複数のエレメントであって当該ベルトの径方向に開口する受容部を夫々有し前記受容部に前記リングを受ける複数のエレメントと、
を有するベルトと、
を含んで構成され、
前記駆動源は、駆動輪に直結して設けられ、
前記駆動源とは異なる他の駆動源であって前記無段変速機を介して前記駆動輪に接続される他の駆動源をさらに備え、
前記コントローラは、前記複数のエレメントが有するエレメントの脱落の可能性が高い運転状態である所定の運転状態を検知したときは、前記所定の運転状態を検知していないときよりも前記駆動源のトルクを大きくするトルク増大制御を実行するとともに、前記他の駆動源のトルクを制限する制御部を有する、
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両であって、
前記制御部は、アクセル開度および車速に基づき、前記所定の運転状態にあることを検知する、
ことを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項
2に記載の車両であって、
前記制御部は、前記車両が勾配路にあるときに、前記所定の運転状態にあることを検知する、
ことを特徴とする車両。
【請求項4】
請求項1に記載の車両であって、
前記制御部は、前記所定の運転状態として前記エレメントに横方向の力が加わる運転状態を検知したときに、前記トルク増大制御を実行する
とともに、前記他の駆動源のトルクを制限する、
ことを特徴とする車両。
【請求項5】
無段変速機と駆動源とコントローラとを搭載し、前記無段変速機は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに掛け渡されたベルトであってリングと前記リングにより結束された複数のエレメントであって当該ベルトの径方向に開口する受容部を夫々有し前記受容部に前記リングを受ける複数のエレメントとを有するベルトと、を含んで構成され、前記駆動源は駆動輪に直結して設けられ、前記駆動源とは異なる他の駆動源であって前記無段変速機を介して前記駆動輪に接続される他の駆動源をさらに備える車両の制御方法であって、
前記複数のエレメントが有するエレメントの脱落の可能性が高い運転状態である所定の運転状態を検知したときは、前記所定の運転状態を検知していないときよりも前記駆動源のトルクを大きくするトルク増大制御を実行するとともに、前記他の駆動源のトルクを制限すること、
を含むことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載され、一対の可変プーリに対するベルトの接触径を変化させることにより変速比を無段階に調整可能な無段変速機として、動力を伝達する媒体ないしエレメントである複数の横方向部材を、リングまたは環状のバンドにより結束して構成されたベルトを備えるものが知られている。特許文献1には、このような無段変速機に適用されるベルトとして、概略コ字状に形成されたエレメントを備えるものが開示されている。このエレメントは、ベース部分と、ベース部分の両端から同方向に延びる一対のピラー部分と、を有し、1つのリングに対し、ピラー部分の間の開口を通じて装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-516966号公報(段落0025~0027)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エレメントを介して動力を伝達する無段変速機では、隣り合うエレメントの隙間(「エンドプレー」と呼ばれる)が拡大し、ベルトの全周にわたるエンドプレーの総量が増大する場合がある。このような状態では、エンドプレーが局所的に集中すると、エレメントが孤立状態となり得る。そして、孤立状態となったエレメントに対し、さらに横方向の力が加わると、エレメントがリングから脱落することが懸念される。引用文献1のものでは、エレメントのピラー部分にフックが設けられ、リングに対してこのフックによりエレメントを係止させているが、エレメントに横方向の力がかかり、エレメントがリングに対して横方向に移動することで、フックによる係止が解除されるためである。エンドプレーの拡大は、リングに伸びが生じることによるほか、エレメントが他のエレメントにより圧迫されたり、エレメント同士が擦れて摩耗したりすることにより発生する。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、エレメントの脱落を抑制可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の車両は、無段変速機と駆動源とコントローラとを搭載する車両であって、前記無段変速機は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに掛け渡されたベルトであって、リングと、前記リングにより結束された複数のエレメントであって当該ベルトの径方向に開口する受容部を夫々有し前記受容部に前記リングを受ける複数のエレメントと、を有するベルトと、を含んで構成される。また、前記駆動源は、駆動輪に直結して設けられる。前記車両は前記駆動源とは異なる他の駆動源であって前記無段変速機を介して前記駆動輪に接続される他の駆動源をさらに備える。前記コントローラは、前記複数のエレメントが有するエレメントの脱落の可能性が高い運転状態である所定の運転状態を検知したときは、前記所定の運転状態を検知していないときよりも前記駆動源のトルクを大きくするトルク増大制御を実行するとともに、前記他の駆動源のトルクを制限する制御部を有する。
【0007】
本発明の別の態様によれば、上記態様の車両に対応する車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これらの態様によれば、駆動輪と直結する駆動源のトルクを大きくすることにより、無段変速機に入力される駆動トルクを小さくすることが可能になるので、ベルトが動力伝達を行う際にエレメントに加わる押し力を低下させることが可能になる。このため、圧迫によるエレメントの潰れ量を小さくすることが可能になり、この結果、エンドプレーの総量の増大を抑制することが可能になる。このためこれらの態様によれば、エレメントの脱落の可能性が高い運転状態であっても、エレメントの脱落が抑制可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る無段変速機を備える車両の動力伝達系の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、同上無段変速機の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、同上無段変速機に備わるベルトの構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、同上ベルトの組立方法(エレメントの装着手順)を示す説明図である。
【
図5】
図5は、エンドプレーが集中した状態を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図7】
図7は、実際に無段変速機に入力される駆動トルクを小さくする場合の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図8】
図8は、変形例の車両の駆動系の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(車両駆動系の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る無段変速機2を備える車両の動力伝達系(以下「駆動系」という)P1の全体構成を概略的に示している。
【0012】
本実施形態に係る駆動系P1は、車両の駆動源として内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)1を備え、エンジン1と左右の駆動輪5、5とをつなぐ動力伝達経路上に無段変速機2を備える。エンジン1と無段変速機2とは、トルクコンバータを介して接続することが可能である。無段変速機2は、エンジン1から入力した回転動力を所定の変速比で変換し、ディファレンシャルギア3を介して駆動輪5に出力する。
【0013】
無段変速機2は、変速要素として入力側にプライマリプーリ21を備えるとともに、出力側にセカンダリプーリ22を備える。無段変速機2は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22に掛け渡された金属ベルト23を備え、これらのプーリ21、22における金属ベルト23の接触部半径の比を変化させることで、変速比を無段階に変更することが可能である。
【0014】
プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22は、固定シーブ211、221と、固定シーブ211、221に対して同軸に、固定シーブ211、221の回転中心軸Cp、Csに沿って軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ212、222と、を備える。無段変速機2の入力軸に対してプライマリプーリ21の固定シーブ211が接続され、出力軸に対してセカンダリプーリ22の固定シーブ221が接続されている。無段変速機2の変速比は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の可動シーブ212、222に作用する作動油の圧力を調整し、固定シーブ211、221と可動シーブ212、222との間に形成されるV溝の幅を変化させることで制御される。
【0015】
本実施形態では、無段変速機2の作動圧の発生源として、エンジン1または図示しない電動モータを動力源とするオイルポンプ6を備える。オイルポンプ6は、変速機オイルパンに貯蔵されている作動油を昇圧させ、これを元圧として、所定の圧力の作動油を、油圧制御回路7を介して可動シーブ212、222の油圧室に供給する。
図1は、油圧制御回路7から油圧室への油圧供給経路を、矢印付きの点線により示している。
【0016】
無段変速機2から出力された回転動力は、所定の減速比に設定された最終ギア列または副変速機(いずれも図示せず)およびディファレンシャルギア3を介して駆動軸4に伝達され、駆動輪5を回転させる。
【0017】
車両は、第1駆動源であるエンジン1に加え、第2駆動源である電動モータ81を駆動源としてさらに備える。電動モータ81は、発電機としても、発動機としても動作可能なモータジェネレータであり、駆動輪5、5に対し、無段変速機2を介さずに動力を伝達可能に配設されている。ここで、「無段変速機を介さずに」とは、無段変速機2による変速を介さない、という意味であり、エンジン1と駆動輪5、5とをつなぐ動力伝達経路上で、無段変速機2と駆動輪5、5との間に配置される場合に限らず、セカンダリプーリ22の出力軸に接続されることで、実質的に無段変速機2よりも下流側の動力伝達経路上にある場合を包含する。
図1は、後者の例を示す。
【0018】
このように設けられた電動モータ81は、駆動輪5に直結して設けられる。また、このような電動モータ81に対し、エンジン1は、電動モータ81とは異なる他の駆動源であって無段変速機2を介して駆動輪5に接続される他の駆動源を構成する。
【0019】
(制御システムの構成および基本動作)
エンジン1、無段変速機2及び電動モータ81の動作は、エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201及びモータコントローラ301により夫々制御される。エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201及びモータコントローラ301は、いずれも電子制御ユニットとして構成され、中央演算装置(CPU)、RAMおよびROM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータからなる。エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201及びモータコントローラ301は、車両の制御を統合する統合コントローラ401を介して、CAN規格のバスにより互いに通信可能に接続されている。
【0020】
エンジンコントローラ101には、エンジン1の運転状態を検出する運転状態センサの検出信号が入力される。エンジンコントローラ101は、運転状態をもとに所定の演算を実行し、エンジン1の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期等を設定する。運転状態センサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)を検出するアクセルセンサ111、エンジン1の回転速度を検出する回転速度センサ112、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ113等が設けられるほか、図示しないエアフローメータ、スロットルセンサ、燃料圧力センサおよび空燃比センサ等が設けられている。
【0021】
変速機コントローラ201には、無段変速機2の制御に関連して、車両の走行速度を検出する車速センサ241、無段変速機2の入力軸の回転速度を検出する入力側回転速度センサ242、無段変速機2の出力軸の回転速度を検出する出力側回転速度センサ243、無段変速機2の作動油の温度を検出する油温センサ244、シフトレバーの位置を検出するシフト位置センサ245等からの信号が入力される。
【0022】
変速機コントローラ201は、変速に関する基本的な制御として、シフト位置センサ245からの信号に基づき運転者により選択されたシフトレンジを判定するとともに、アクセル開度および車両の走行速度等に基づき、無段変速機2の目標変速比を設定する。そして、変速機コントローラ201は、オイルポンプ6が生じさせる油圧を元圧として、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の可動シーブ212、222に対して目標変速比に応じた所定の油圧が作用するように、油圧制御回路7に制御信号を出力する。
【0023】
モータコントローラ301は、インバータ85を制御することにより、電動モータ81を制御する。モータコントローラ301には、電動モータ81の回転速度を検出するセンサ等からの信号が入力される。
【0024】
統合コントローラ401には、加速度センサ246、操舵角センサ247、サスペンションストロークセンサ248、カメラセンサ249、カーナビゲーション装置250、ブレーキセンサ251、勾配センサ252等からの信号、情報が入力される。統合コントローラ401に入力される信号、情報は、他のコントローラを介して入力されてもよい。統合コントローラ401には、エンジンコントローラ101から、アクセル開度等、エンジン1の運転状態に関する情報も入力される。
【0025】
加速度センサ246は、車体に対して横方向(つまり、水平であり、車両の直進方向に垂直な方向)に作用する加速度(以下「横方向加速度ACCl」ともいう)を検出する。本実施形態では、金属ベルト23の延伸方向、換言すれば、プライマリプーリ21またはセカンダリプーリ22の回転中心軸Cp、Csに垂直な水平方向が車両の直進方向と一致し、金属ベルト23の周方向および径方向に垂直な方向が車両の横方向に一致する。よって、加速度センサ246により検出される横方向加速度ACClは、金属ベルト23またはその動力伝達媒体であるエレメントに対して横方向に作用する加速度ないし力(つまり、慣性力)の大きさを示す。当該エレメントは後述するエレメント231であり、当該横方向は後述する横方向Lである。
【0026】
操舵角センサ247は、車両の操舵角(以下「操舵角Astr」ともいう)を検出する。本実施形態では、ステアリングホイールの基準角位置に対する回転角(つまり、ステアリングホイールの切れ角)が、操舵角として検出される。
【0027】
サスペンションストロークセンサ248は、車両の姿勢を検出する手段として設けられ、本実施形態では、前輪または後輪の左右両側のサスペンション装置に取り付けられた一対のストロークセンサにより構成される。本実施形態では、左右一対のストロークセンサからなるサスペンションストロークセンサ248の検出信号をもとに、車両に生じている横方向の揺れ(以下「横揺れ」という場合がある)を判定するが、サスペンションストロークセンサ248として、前輪および後輪双方の左右サスペンション装置にストロークセンサが夫々取り付けられてもよく、これにより、横揺れの判定に対する前後方向の揺れないし傾きの影響を排除することが可能となる。
【0028】
サスペンションストロークセンサ248は、ショックアブソーバに備わるピストンロッドの変位を検出する変位センサにより具現可能であり、サスペンションアームの角度を検出する角度センサによっても可能である。
【0029】
カメラセンサ249は、車両が現在走行中の道路または路面の状態を検出する手段として設けられている。カメラセンサ249により撮影された画像または映像を解析することで、道路または路面の状態として、路面の凹凸の有無およびその大きさを判断することが可能である。
【0030】
カーナビゲーション装置250は、道路地図情報を有するとともに、GPSセンサを内蔵し、GPSセンサにより取得される車両の現在位置(例えば、緯度および経度により表示される絶対位置)を道路地図情報と照合することで、車両の道路地図上での位置を検出する。本実施形態において、カーナビゲーション装置250は、道路または路面の状態を検出する他の手段として、カメラセンサ249に代替するかまたはこれを補完する。
【0031】
ブレーキセンサ251は、ブレーキペダルの踏力を検出する。勾配センサ252は、道路勾配を検出する。道路勾配は、車両位置における道路の勾配であり、車両駆動方向に上り勾配となる場合に正とされ、車両駆動方向に下り勾配となる場合に負とされる。例えば、車両が登坂路にいる場合には、道路勾配は、前進(D)レンジで車両駆動方向に上り勾配となるため正とされ、後進(R)レンジで車両駆動方向に下り勾配となるため負とされる。
【0032】
本実施形態では、後述する制御を行うコントローラ501が、エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201、モータコントローラ301、統合コントローラ401を有して構成される。
【0033】
(無段変速機の構成)
図2は、本実施形態に係る無段変速機2の構成を、
図1に示すx-x線断面により示している。
【0034】
本実施形態において、無段変速機2は、一対の可変プーリ、具体的には、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22と、これら一対のプーリ21、22に掛け渡された金属ベルト23と、を備える。
図2は、断面で示す都合上、プライマリプーリ21の可動シーブ212と、セカンダリプーリ22の固定シーブ221と、金属ベルト23と、を示している。無段変速機2は、プッシュベルト式であり、金属ベルト23は、動力伝達媒体である複数のエレメント231をその板厚方向に並べ、リング232(「フープ」または「バンド」と呼ばれる場合もある)により互いに結束することで構成される。
【0035】
図3は、本実施形態に係るエレメント231の構成を、金属ベルト23の周方向に垂直な断面により示している。
【0036】
本実施形態において、金属ベルト23のリング232は、複数のリング部材232a~232dを互いに積層して構成された1つのリングであり、この1つのリング232に複数のエレメント231が装着されて、金属ベルト23が構成される。リング232が1つであることから、本実施形態に係る金属ベルト23は、モノリング式の金属ベルトまたは単に「モノベルト」と呼ばれる場合がある。
図3は、リング部材が4つ(232a~232d)の場合を示すが、リング部材の数がこれに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0037】
エレメント231は、概して、基部231aと、基部231aの延伸方向に垂直に、互いに同方向に延びる一対の側部231b、231bと、から構成され、本実施形態では、全体として、概略コ字状をなしている。基部231aは、サドル部分とも呼ばれ、リング232を横断するだけの長さを有し、その両端に、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の各シーブ211、212、221、222に対する接触面が形成されている。基部231aの延伸方向は、エレメント231の幅方向であり、金属ベルト23の横方向Lに一致する。側部231bは、ピラー部分とも呼ばれ、リング232を挟む各側で基部231aに接続し、その延伸方向は、エレメント231の高さ方向であり、金属ベルト23の径方向Rに一致する。これら一対の側部231b、231bの互いに向き合う内面と基部231aの上面とにより、横方向Lに垂直な方向、つまり、金属ベルト23の径方向Rに開口するエレメント231の受容部231rが形成される。本実施形態において、受容部231rが開口する方向は、金属ベルト23の径方向Rに関して外向きである。エレメント231は、受容部231rにリング232を受ける状態で、金属ベルト23の内周側からリング232に装着される。
【0038】
エレメント231は、受容部231rを形成する左右夫々の側部231bに、その内面から内向きに突出するフックないし挟持片fを有し、リング232に装着された状態で、基部231aとこれらのフックfとの間にリング232が保持される。エレメント231は、左右両方の側部231b、231bに、受容部231rの空間を部分的に、横方向Lに拡張させる、一対の切欠きnを有する。切欠きnは、フックfに可撓性を持たせ、リング232を抑えつける力を付与するとともに、エレメント231の装着時にリング232の逃げとなる空間を形成するものである。
【0039】
図4(a)~4(c)は、金属ベルト23の組立方法、具体的には、エレメント231のリング232に対する装着手順を時系列に示している。
図4は、図示の便宜上、リング232の姿勢を変えて手順を示すが、実際の装着時では、エレメント231の向きが変えられることはいうまでもない。
【0040】
初めに、エレメント231をリング232に対して傾けた状態として、リング232の内周側に配置し、エレメント231の受容部231rに、リング232の一方の側縁を挿入する。そして、エレメント231を、基部231aをリング232に近付けるように移動させ、
図4(a)に示すように、基部231aと一方の側部231bに備わるフック(同図に示す状態では、左側の側部231bに備わるフック)fとの間を通じて、リング232の側縁を切欠きnに到達させる。
【0041】
次いで、
図4(b)に示すように、エレメント231を、基部231aとフックfとの間に位置するリング232の部分を中心として回転させ(同図に示す状態では、時計回りとは反対に回転させ)、エレメント231のリング232に対する傾斜を解消させる。この状態で、エレメント231は、基部231aがリング232に平行となる。
【0042】
エレメント231の基部231aをリング232に平行な状態とした後、
図4(c)に示すように、エレメント231を、リング232に対し、リング232の側縁を切欠きnから出す方向に相対的に移動させ(同図に示す状態では、エレメント231を左側に移動させ)、リング232を基部231aの中心に配置させる。これにより、1つのエレメント231の装着が完了する。
【0043】
このような手順を金属ベルト23の全周にわたる全てのエレメント231に対して繰り返すことで、金属ベルト23が完成する。リング232の張力により、さらに、エレメント231の前面に設けられた凸部p(
図3)と隣り合うエレメント231の背面に設けられた凹部との係合により、前後のエレメント231が互いに結束される。
【0044】
ここで、エレメント231を動力伝達媒体とする無段変速機2では、隣り合うエレメント231の隙間であるエンドプレーEPが拡大し、金属ベルト23の全周にわたるエンドプレーEPの総量が増大する場合がある。具体的には、エレメント231を束ねるリング232に弾性的または塑性的な変形による伸びが生じた場合や、エレメント231が他のエレメント231により圧迫されて押し潰されたり、エレメント231同士が擦れて摩耗したりする場合である。
【0045】
このような状態でエンドプレーEPが局所的に集中すると、エレメント231が孤立状態となり得る。そして、孤立状態となったエレメント231に対し、金属ベルト23の周方向および径方向Rに垂直な方向(つまり、横方向L)の力が加わると、エレメント231がリング232に対して横方向Lに移動する。よって、
図4を参照して先に説明した手順とは逆の手順により、エレメント231がリング232から脱落する懸念がある。
【0046】
このように、エレメント231の脱落は、エンドプレーEPの総量が増大すること、エンドプレーEPが集中すること、エレメント231が横方向Lに移動すること、の3つの条件が成立すると発生し得る。
【0047】
このため、これら3つの条件のうち少なくとも1つの条件が満たされた場合は、3つの条件すべてが満たされずエレメント231の脱落の可能性がない場合よりも、エレメント231の脱落の可能性は高くなる。また、これら3つの条件のうち成立している条件の数が多いほど、エレメント231の脱落の可能性は高くなる。
【0048】
これら3つの条件のうち少なくとも1つの条件が満たされる車両の運転状態は、エレメント231の脱落の可能性が生じる運転状態であり、これら3つの条件すべてが満たされない場合よりも、エレメント231の脱落の可能性が高い運転状態とされる。
【0049】
図2は、エンドプレーEPが集中した状態を示し、
図5は、理解を容易にするため、エンドプレーEPが集中した金属ベルト23の部分を、拡大視により模式的に示している。
図2において、エンドプレーEPは、金属ベルト23のうち点線で示す範囲AおよびBで集中している。
【0050】
本実施形態では、エレメント231、具体的には、エレメント231の受容部231rの開口する方向が、金属ベルト23の径方向Rに関して外向きであるため、金属ベルト23のうち、エレメント231の受容部231rが鉛直方向に関して下側に向く部分、換言すれば、プライマリプーリ21の回転中心軸Cpと、セカンダリプーリ22の回転中心軸Csと、を結ぶ直線Xよりも下側にある部分では、仮にエンドプレーEPが発生したとしてもエレメント231の脱落は抑制される。これに対し、受容部231rが上側に向く部分では、脱落の可能性がある。
【0051】
さらに、金属ベルト23の上側部分のうち、金属ベルト23に対してプーリ21、22から加わる力により
図2に示す範囲AおよびBでエンドプレーEPが発生する傾向がある。その際、範囲A、Bは、プーリ21、22が回転する方向に応じて、エレメント231がプーリ21、22のシーブ間に挟まる方向に進む場合、換言すれば、金属ベルト23がプーリ21、22のシーブ間の空間に進入する方向に進む場合と、金属ベルト23がプーリ21、22のシーブ間の空間から脱出する方向に進む場合と、で区別される。進入方向に進む場合(
図2に示す例では、範囲B)は、エンドプレーEPが生じてもエレメント231がプーリ21、22に挟まれることになるため、脱落は抑制される。他方で、脱出方向に進む場合(範囲A)は、プーリ21、22による支えがなくなるため、エンドプレーEPが生じるとエレメント231が脱落する可能性があり、対策の必要がある。
【0052】
例えば急ブレーキ時には、セカンダリプーリ22からプライマリプーリ21に回転方向とは逆向きの動力が伝達される。このとき範囲Aでは、回転方向とは逆向きの動力によって金属ベルト23の伸びが発生するので、エンドプレーEPが集中する。また、範囲Bでは、プッシュ方式でプライマリプーリ21からセカンダリプーリ22への動力伝達を行っていた金属ベルト23の圧縮が解放されるので、エンドプレーEPが集中する。
【0053】
エンドプレーEPの集中により、隣り合うエレメント231の間に単に隙間ができるだけでなく、凸部pが凹部から出て、それらの係合が解除され、エレメント231がリング232に対して横方向Lに移動可能な状態にあることが分かる。
【0054】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ501が、次に説明するように制御を行う。
【0055】
図6は、コントローラ501が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ501は、本フローチャートの処理を実行するように構成されることで、制御部を有した構成とされる。
【0056】
ステップS1で、コントローラ501は、車両の運転状態を検知する。ステップS1では、
図1を用いて前述した各種の入力信号、入力情報に基づき、車両の運転状態が検知される。
【0057】
ステップS2で、コントローラ501は、車両の運転状態が所定の運転状態か否かを判定する。所定の運転状態は、エレメント231の脱落の可能性が高い運転状態であり、エレメント231の脱落についての前述した3つの条件のうち少なくとも1つの条件が満たされる車両の運転状態とされる。また、前述した3つの条件のうちエンドプレーEPが集中すること、という条件は例えば、前述したように急ブレーキ時に成立する。
【0058】
このため、ステップS2の判定は例えば、車速センサ241とブレーキセンサ251とからの信号に基づき行うことができる。急ブレーキ時には、通常の減速時よりも無段変速機2に大きな制動トルクがかかることにより、圧迫によるエレメント231の潰れやリング232の伸びが助長される結果、エンドプレーEPの総量が増大すること、という条件も成立する。ステップS1、ステップS2の処理は例えば、統合コントローラ401により行うことができる。
【0059】
ステップS2で肯定判定であれば、車両の運転状態が所定の運転状態であることが検知され、処理はステップS3に進む。所定の運転状態は、所定の運転状態を指標するパラメータを検知するセンサにより直接検知される代わりに、所定の運転状態を指標するパラメータと相関関係を有するパラメータ等に基づき推定されることにより、検知されてもよい。ステップS2で否定判定の場合、処理はステップS4に進む。
【0060】
まず、ステップS4について説明すると、コントローラ501は、通常制御を維持する。通常制御とは、所定の運転状態が検知されない場合に行われる駆動源の制御である。
【0061】
ステップS3で、電動モータ81のトルク増大制御を実行する。トルク増大制御は、ステップS4で実行される通常制御時よりもトルクを増大させることにより行われる。従って、ステップS3では、所定の運転状態が検知されたときに、所定の運転状態が検知されていないときよりも電動モータ81のトルクを大きくするトルク増大制御が実行される。
【0062】
これにより、無段変速機2に入力される駆動トルクを小さくすることが可能になるので、金属ベルト23が動力伝達を行う際にエレメント231に加わる押し力を低下させることが可能になる。このため、圧迫によるエレメント231の潰れ量を小さくすることが可能になり、この結果、エンドプレーEPの総量の増大を抑制することが可能になる。ステップS3の処理は、モータコントローラ301により行うことができる。ステップS3、ステップS4の後には、処理は一旦終了する。
【0063】
実際に無段変速機2に入力される駆動トルクを小さくするにあたり、エンジン1のトルク制限制御は例えば、所定の運転状態が検知された場合に、電動モータ81のトルク増大制御の実行に応じて行うことができる。
【0064】
この場合、電動モータ82のトルクを増大させ、要求駆動トルクに対してエンジントルクが占める割合ないし配分を減少させることにより、プライマリプーリ21に入力される駆動トルクの減少を通じて、エンドプレーEPの拡大を抑制できる。つまり、エンジン1のトルク制限制御は例えば、電動モータ81のトルク増大制御により増大させたトルクに応じた分だけ、エンジン1のトルクを低下させることにより行うことができる。
【0065】
実際に無段変速機2に入力される駆動トルクを小さくするにあたり、コントローラ501は例えば、次に説明する制御を行うように構成されてもよい。
【0066】
図7は、実際に無段変速機2に入力される駆動トルクを小さくする場合の制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ501は、本フローチャートの処理を実行するように構成されることで、電動モータ81のトルク増大制御に加え、エンジン1のトルク制限制御をさらに実行する制御部を有した構成とされる。
【0067】
ステップS11、ステップS12、ステップS15及びステップS17の処理は、前述したステップS1、ステップS2、ステップS3及びステップS4の処理と同様である。このためここでは、
図6に示すフローチャートの処理と異なる処理について主に説明する。本フローチャートの処理は、エンジン1及び電動モータ81のうち少なくともエンジン1を駆動源として用いる車両走行時、つまりエンジン走行時及びハイブリッド走行時に行うことができる。
【0068】
ステップS12で肯定判定の場合、処理はステップS13に進み、コントローラ501は、エンジン1のトルク制限制御を実行する。トルク制限制御では、エンジン1のトルクが、所定トルク以下に制限され、これによりエンジン1のトルク低下が図られる。所定トルクは、エンドプレーEPの総量の増大を抑制する観点から予め設定できる。
【0069】
エンジン1のトルク制限制御により、実際に無段変速機2に入力される駆動トルクが小さくなるので、エンドプレーEPの総量の増大が抑制される。従って、前述した3つの条件のうちエンドプレーEPの総量が増大すること、という条件が成立し難くなるので、エレメント231の脱落が抑制される。ステップS13の処理は、エンジンコントローラ101により行うことができる。
【0070】
ステップS14で、コントローラ501は、アクセル開度に照らし車両の加速度が低いか否かを判定する。つまり、コントローラ501は、アクセル開度に応じた要求加速度よりも実際の加速度が低いか否かを判定する。要求加速度は、アクセル開度に応じて予め設定できる。このような判定は例えば、アクセルセンサ111及び車速センサ241からの信号に基づき、統合コントローラ401により行うことができる。
【0071】
ステップS14で否定判定であれば、処理はステップS16に進み、コントローラ501は、電動モータ81の出力を維持する。電動モータ81の出力を維持することは、エンジン1及び電動モータ81のうちエンジン1のみを駆動源として用いるエンジン走行時に、電動モータ81の出力をゼロのままとすることを含む。
【0072】
ステップS14で肯定判定であれば、処理はステップS15に進み、コントローラ501は、電動モータ81のトルク増大制御を実行する。この例では、所定の運転状態が検知された場合に、ステップS15で電動モータ81のトルク増大制御を行うことが前提とされる。このような前提のもと、ステップS15よりも前のステップS13で、エンジン1のトルク制限制御が行われる。
【0073】
この場合、アクセル開度に応じた車両全体としての目標トルクへのトルク制御を電動モータ81を用いて行うことができるので、トルク制御の応答性及び制御性が良好になる。
【0074】
このように、エンジン1のトルク制限制御は、所定の運転状態が検知された場合に、電動モータ81のトルク増大制御とともに行われるように構成されることを条件に、電動モータ81のトルク増大制御よりも先に行われるように構成されてもよい。
【0075】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0076】
本実施形態における車両は、無段変速機2と電動モータ81とコントローラ501とを搭載する。無段変速機2は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22と、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22に掛け渡された金属ベルト23であって、リング232と、リング232により結束された複数のエレメント231であって当該金属ベルト23の径方向に開口する受容部231rを夫々有し受容部231rにリング232を受ける複数のエレメント231と、を有する金属ベルト23と、を含んで構成される。電動モータ81は、駆動輪5に直結して設けられる。コントローラ501は、複数のエレメント231が有するエレメント231、つまり複数のエレメント231を構成するエレメント231の脱落の可能性が高い運転状態である所定の運転状態を検知したときは、当該運転状態を検知していないときよりも電動モータ81のトルクを大きくするトルク増大制御を実行するように構成される。
【0077】
このような構成によれば、駆動輪5と直結する電動モータ81のトルクを大きくすることにより、無段変速機2に入力される駆動トルクを小さくすることが可能になるので、金属ベルト23が動力伝達を行う際にエレメント231に加わる押し力を低下させることが可能になる。このため、圧迫によるエレメント231の潰れ量を小さくすることが可能になり、この結果、エンドプレーEPの総量増大を抑制することが可能になる。このためこのような構成によれば、エレメント231の脱落の可能性が高い運転状態であっても、エレメント231の脱落が抑制可能になる(請求項1、6に対応する効果)。
【0078】
本実施形態では、コントローラ501は、所定の運転状態として複数のエレメント231のエンドプレーEPが集中する運転状態を検知したときにトルク増大制御を実行する。
【0079】
このような構成によれば、エンドプレーEPが集中すること、という条件の成立により、エレメント231が脱落する可能性が高まっても、電動モータ81のトルクを増大させることにより、エンドプレーEPの総量が増大すること、という条件の成立を妨げることが可能になる。従って、前述した3つの条件すべてが成立することを妨げることが可能になるので、エレメント231の脱落が抑制可能になる。また、このような構成によれば、前述した3つの条件すべてが成立する前にエレメント231の脱落に予防的に対処するので、対処の遅れに起因した脱落の発生を防止することが可能になる。さらにこのような構成によれば、3つの条件の成立を予防的に妨げることが可能になるので、脱落を未然に防ぎやすくすることも可能になる(請求項2に対応する効果)。
【0080】
車両は、電動モータ81に加えてエンジン1をさらに備え、コントローラ501は、所定の運転状態を検知したときは、エンジン1のトルクを制限する。
【0081】
このような構成によれば、実際に無段変速機2に入力される駆動トルクを小さくすることにより、エンドプレーEPの総量の増大を抑制できる。従って、前述した3つの条件のうちエンドプレーEPの総量が増大すること、という条件を成立し難くすることにより、エレメント231の脱落を抑制できる(請求項5に対応する効果)。
【0082】
次に、変形例について説明する。
【0083】
図8は、車両の駆動系P1の変形例である車両の駆動系P2の全体構成を概略的に示している。
【0084】
駆動系P2は、第2駆動源である電動モータ82が、エンジン1からの動力の伝達を受ける第1駆動輪51、51ではなく、これとは異なる第2駆動輪52、52に対して動力を伝達可能に設けられている点で、駆動系P1と相違する。ここで、電動モータ82は、駆動系P2の電動モータ81と同様に、駆動輪(つまり、第1駆動輪)51、51に対し、無段変速機2を介さずに動力を伝達可能な状態にある。
【0085】
この場合も、電動モータ82のトルクを増大させ、要求駆動トルクに対してエンジントルクが占める割合ないし配分を減少させることにより、プライマリプーリ21に入力されるトルクの減少を通じて、エンドプレーEPの拡大を抑制することが可能になる。従って、エンドプレーEPの総量増大を抑制することが可能になる。このためこの場合も、エレメント231の脱落が抑制可能になる(請求項1、6に対応する効果)。
【0086】
エレメント231の脱落を生じさせる可能性があるエンドプレーEPが発生する領域であるエンドプレー発生領域は、次のように定めることができる。
【0087】
すなわち、エンドプレー発生領域は、金属ベルト23に加わる力のつり合いに関する運動方程式を解き、対象とするエレメント231(具体的には、
図2に示す範囲Aにあるエレメント)に対し、上記エンドプレーEPを生じさせるほどの力が隣り合うエレメント231同士の間を開く方向に加わるか否かを計算することで定めることができる。このように、エンドプレー発生領域は、プーリ21、22の半径のほか、金属ベルト23の弾性係数等、動力伝達系の仕様によっても変化するため、これらのパラメータに応じて適宜設定されるのが好ましい。
【0088】
このようなエンドプレー発生領域は、車両の運転状態(具体的には、アクセル開度および車速)に応じて予め設定することができる。このため、変速機コントローラ201は、アクセル開度APO及び車速VSPに基づき、所定の運転状態にあることを検知する構成とされてもよい。この場合、アクセル開度および車速が計測されている場合(つまり、アクセル開度および車速がいずれも0でない場合)に、エンドプレー発生領域にあるか否かを判定することができる。
【0089】
このような構成の変速機コントローラ201はさらに、車両が勾配路にあるときに、所定の運転状態にあることを検知する構成とすることができる。つまり、エンドプレー発生領域は例えば、車両が勾配路にあるときに対して設定することができる。勾配路にあるか否かの判定は、前後方向加速度をもとに行うことができる。
【0090】
この場合、変速機コントローラ201はさらに、無段変速機2のシフトレンジとして、走行レンジ(ドライブまたはリバース等の走行可能レンジであり、パーキングまたはニュートラル等の停止レンジでないレンジ)が選択されている場合に、所定の運転状態にあることを検知する構成とすることができる。つまり、エンドプレー発生領域は、さらに走行レンジが選択されている場合に対して設定することができる。
【0091】
これらの構成の場合も、エレメント231が脱落する可能性が高い運転状態であっても、エレメント231の脱落を抑制できる(請求項3、4に対応する効果)。
【0092】
前述したように、エレメント231に横方向Lの力が加わることにより、エレメント231が横方向Lに移動するという条件が成立すると、エレメント231の脱落の可能性が高まることになる。
【0093】
このため、所定の運転状態は例えば、エレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態とされてもよい。このような運転状態は、車両の横方向加速度ACClが予め設定した所定値ACCthr以上であるか否かを判定することにより検知できる。
【0094】
先に述べたように、横方向加速度ACClは、無段変速機2の配置により、金属ベルト23およびエレメント231に対して横方向Lに作用する加速度であり、エレメント231に対して横方向Lに作用する力の大きさを規定する。
【0095】
横方向加速度ACClは、操舵角Astrから車両の旋回半径φtrnを算出し、旋回半径φtrnおよび車速VSPを、次式(1)に代入することにより計算できる。
【0096】
VSP/φtrn=ACCl …(1)
【0097】
従って、エレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態であることは例えば、車速センサ241、操舵角センサ247からの信号に基づき検知することができる。
【0098】
このような構成によれば、エレメント231が横方向Lに移動すること、という条件の成立によりエレメント231の脱落の可能性が高まっても、電動モータ81のトルクを増大させることにより、エンドプレーEPの総量が増大すること、という条件の成立を妨げることが可能になる。従って、エレメント231の脱落が抑制可能になる。また、このような構成によれば、予防的に対処を行うので、対処の遅れに起因した脱落の発生を防止することが可能になる。さらにこのような構成によれば、3つの条件の成立を予防的に妨げることが可能になるので、脱落を未然に防ぎやすくすることも可能になる(請求項4に対応する効果)。
【0099】
横方向加速度ACClを算出するにあたっては、旋回半径φtrnの代わりに道路の曲率半径が用いられてもよい。道路の曲率半径は、道路地図情報に付随するナビゲーション情報として、カーナビゲーション装置250から取得することができる。この場合、エレメント231に対して横方向Lの力が作用することが予測可能になるので、予防的に対処を行うことにより、エレメント231が横方向Lに移動すること、という条件の成立を妨げることも可能になる。
【0100】
エレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態であることは、加速度センサ246からの信号に基づき検知されてもよい。この場合、横方向加速度ACClをより直接的に検出することにより、演算負荷の軽減が図られる。
【0101】
エレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態であることは、横揺れが大きく、エレメント231に対して横方向Lの位置ずれを生じさせる力の作用がある場合を含む。このため、このような運転状態であることは、車体の横揺れの有無およびその大きさを判定することにより検知されてもよい。
【0102】
車体の横揺れの有無およびその大きさは、横揺れ表示値Irllに基づき検知することができる。横揺れ表示値Irllは、車体に生じている横方向Lの揺れの大きさを示す指標であり、これが大きいほど、横揺れが大きいことを示す。
【0103】
従って、エレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態であることは、横揺れ表示値Irllが予め設定した所定値Ithr以上であるか否かを判定することにより、検知することができる。
【0104】
本実施形態では、右側のサスペンションストローク量STRrの単位時間当たりの変化量(以下「サスペンションストローク変化量」という)ΔSTRrと、左側のサスペンションストローク変化量ΔSTRlと、の差(=ΔSTRr-ΔSTRl)を算出し、このストローク変化量偏差Dstrを横揺れ表示値Irllとして用いる。
【0105】
ストローク変化量偏差Dstrは、右前輪および左前輪のサスペンションストローク量の差、及び右後輪および左後輪のサスペンションストローク量の差の少なくともいずれかとすることができる。これらの双方をストローク変化量偏差Dstr、従って横揺れ表示値Irllとして用いる場合、これらのいずれかが所定値Ithr以上の場合をエレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態とすることができる。
【0106】
以上のことから、車体の横揺れの有無およびその大きさに着目した場合、エレメント231に横方向Lの力が加わる運転状態であることは、サスペンションストロークセンサ248からの信号に基づき検知することができる。
【0107】
この場合、現在走行中の道路または路面の状態に起因した力の作用の有無を判定し、例えば、路面の凹凸により力の作用がある場合に、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる。また、横揺れの大きさを示す横揺れ表示値Irllの算出に、サスペンションストローク量STRr、STRlを採用したことで、車体に生じている横揺れがより確実に検出される。
【0108】
道路または路面の状態は、カメラセンサ249により撮影された画像または映像を解析することによっても判定することが可能である。これにより、横揺れを生じさせる道路または路面を実際に走行する前に、エレメント231に対する横方向Lの力の作用があることを予測し、予防的に対処することが可能になる。
【0109】
さらに、道路または路面の状態は、カメラセンサ249によるばかりでなく、カーナビゲーション装置250から得られるナビゲーション情報によっても判断することが可能である。例えば、車両の進行方向に工事中の道路があったり、路面の凹凸または起伏が続く道路があったりする場合に、エレメント231に対する横方向Lの力の作用があることを予測するのである。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0111】
上述した実施形態では、複数のコントローラを有して構成されるコントローラ501により制御部が実現される場合について説明した。しかしながら、制御部は例えば、単一のコントーラにより実現されてもよい。
【0112】
以上の説明では、第1駆動源と、無段変速機2を介さずに駆動輪5、5に動力を伝達可能に配設された第2駆動源と、を設け、第1駆動源としてエンジン1を、第2駆動源として電動モータ81、82を採用した。しかし、第1駆動源は、内燃エンジンばかりでなく、電動モータ(例えば、モータジェネレータ)によっても、内燃エンジンと電動モータとの組合せによっても構成可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 エンジン(他の駆動源)
2 無段変速機
21 プライマリプーリ
22 セカンダリプーリ
23 金属ベルト(ベルト)
231 エレメント
231r 受容部
232 リング
81、82 電動モータ(駆動源)
501 コントローラ(制御部)