(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/02 20060101AFI20230628BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B43K24/02 110
B43K7/00
(21)【出願番号】P 2019106553
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-04-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 佐知
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123689(JP,A)
【文献】特開2019-081387(JP,A)
【文献】特開2002-331789(JP,A)
【文献】特開2019-005943(JP,A)
【文献】特開2017-047671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/02
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、前記軸筒内に収容されて前端側の筆記部を前記軸筒の前端から突出させた筆記芯とを備えた筆記具において、
前記筆記芯を傾動しないように支持する固定支持状態と、前記筆記芯を傾動するように支持する傾動可能支持状態とを切り替えるようにし
、
前記軸筒の内周側に、前記筆記芯が筆圧を受けて撓んだ際に、この撓んだ前記筆記芯における長手方向の途中箇所を径方向に受けるように縮径された接触支持部が設けられていることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記筆記芯の前端から前記接触支持部までの寸法を10~50mmの範囲内に設定したことを特徴とする請求項1記載の筆記具。
【請求項3】
前記軸筒の前端側に進退可能に内在されるとともに前記筆記芯を前端部から突出させて挿通した筒状のスライダーと、前記スライダーを前記軸筒に対し後方へ付勢する第一の付勢部材とを備え、
前記軸筒と前記スライダーのうち、その一方にカム斜面を設けるとともに他方には前記カム斜面に摺接する摺接部を設け、
前記傾動可能支持状態では、前記筆記芯から前記スライダーに伝達される径方向の力により前記カム斜面を前記摺接部に摺接させて、前記スライダー及び前記筆記芯を前記軸筒に対し前進させながら傾けるようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の筆記具。
【請求項4】
軸筒と、前記軸筒内に収容されて前端側の筆記部を前記軸筒の前端から突出させた筆記芯とを備えた筆記具において、
前記筆記芯を傾動しないように支持する固定支持状態と、前記筆記芯を傾動するように支持する傾動可能支持状態とを切り替えるように
し、
前記軸筒の前端側に進退可能に内在されるとともに前記筆記芯を前端部から突出させて挿通した筒状のスライダーと、前記スライダーを前記軸筒に対し後方へ付勢する第一の付勢部材とを備え、
前記軸筒と前記スライダーのうち、その一方にカム斜面を設けるとともに他方には前記カム斜面に摺接する摺接部を設け、
前記傾動可能支持状態では、前記筆記芯から前記スライダーに伝達される径方向の力により前記カム斜面を前記摺接部に摺接させて、前記スライダー及び前記筆記芯を前記軸筒に対し前進させながら傾けるようにしたことを特徴とする筆記具。
【請求項5】
前記スライダーの外周部に小径部と該小径部よりも後側に位置する大径部とを設け、前記スライダーを所定の操作により前進位置と後退位置の間で進退するように構成し、前記軸筒の内周側に環状係合部を設け、
前記前進位置にて前記環状係合部が前記大径部に嵌り合うことで前記固定支持状態になり、前記後退位置にて前記環状係合部が前記小径部との間に隙間を確保することで前記傾動可能支持状態になるようにしたことを特徴とする請求項
3又は4記載の筆記具。
【請求項6】
前記軸筒は、後軸部と、前記後軸部の前側に回転可能に接続された回転軸部とを備え、前記回転軸部の回転により前記スライダーを前進させたり後退させたりするように、前記後軸部に、前記回転軸部と前記スライダーを係合していることを特徴とする請求項5記載の筆記具。
【請求項7】
前記軸筒内には、前記筆記芯の後端側が接続される被接続部材が設けられ、この被接続部材は、前後に微動するように支持されていることを特徴とする請求項1~6何れか1項記載の筆記具。
【請求項8】
前記固定支持状態と前記傾動可能支持状態の何れの状態においても、前記筆記芯を前記スライダーの前端部から出没させる出没操作機構が設けられていることを特徴とする請求項
3~6何れか1項記載の筆記具。
【請求項9】
前記筆記芯が、前端側に前記筆記部としてのボールペンチップを有するボールペンリフィールであることを特徴とする請求項1~8何れか1項記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンやサインペン等、軸筒の前端から突出する筆記部を紙面等に接して筆記を行うようにした筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載されるように、軸筒内に、ノック操作可能なノック体と、該ノック体の前端カム斜面や軸筒内面のカム斜面等に係合することで回転する回転子と、該回転子を後方へ付勢するリターンスプリングと、該回転子内に後端部を嵌合させたリフィールとを備え、前記ノック体がノック操作されることにより、前記回転子を、軸方向へ前進させた後、回転させて係止状態にし、前記ノック体が再度ノック操作されることにより、前記係止状態を解除して前記回転子を軸方向へ後退させるようにした出没式のボールペンがある。このようなボールペンによれば、リフィール前端のボールペンチップを紙面等に押し付けて筆記が行われる。この際、リフィールの前端側は、若干の撓みを生じるものの、大きくしなることなく、略直線的維持される。このため、このような従来のボールペンでは、硬い筆感が得られる。
一方、他の発明としては、軸筒の前端側を柔軟に撓ませるようにした筆記具がある(特許文献2参照)。このような筆記具では、ペン先が紙面等に押し付けられると軸筒前端側が柔軟に変形するため、筆のような筆感を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-240485号公報
【文献】特開2005-145032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、使用者によっては、筆記目的や、筆記による疲労状態、その時々の気分等に応じて、その時に使用している一本の筆記具について、その筆感を適宜に切り替えたくなる場合がある。
しかしながら、前記従来技術では、一本の筆記具でもって、硬い筆感と、柔らかい筆感とを切り替えることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題に鑑みて、本発明は、以下の構成を具備するものである。
軸筒と、前記軸筒内に収容されて前端側の筆記部を前記軸筒の前端から突出させた筆記芯とを備えた筆記具において、前記筆記芯を傾動しないように支持する固定支持状態と、前記筆記芯を傾動するように支持する傾動可能支持状態とを切り替えるようにし、前記軸筒の内周側に、前記筆記芯が筆圧を受けて撓んだ際に、この撓んだ筆記芯における長手方向の途中箇所を径方向に受けるように縮径された接触支持部が設けられていることを特徴とする筆記具。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上説明したように構成されているので、一本の筆記具の筆感を切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る筆記具の一例を示す縦断面図であり、(a)はスライダーの前進位置において筆記芯を没入させた状態を示し、(b)はスライダーの前進位置において筆記芯を突出させた状態を示し、(c)はスライダーの後退位置において筆記芯を突出させた状態を示す。
【
図3】同筆記具について軸筒を切欠いて内部構造を示す斜視図であり、(a)はスライダーを前進させた固定支持状態、(b)はスライダーを後退させた傾動可能支持状態である。
【
図4】後軸部と、回転軸部と、スライダーの関係を示す展開図であり、(a)はスライダーを前進させた状態、(b)はスライダーが途中位置にある状態、(c)はスライダーを後退させた状態である。
【
図5】スライダーを前進させた固定支持状態で筆記が行われている様子を示す要部縦断面図である。なお、ハッチングは省略している。
【
図6】スライダーを後退させた傾動可能支持状態で筆記が行われている様子を示す要部縦断面図であり、(a)は筆記芯が傾動する前の状態を示し、(b)は筆記芯が傾動した後の状態を示す。なお、ハッチングは、(a)の状態から前方へ移動した部分を示す。
【
図7】筆記芯及び被接続部材の前後微動を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施の形態では、以下の特徴を開示している。
第1の特徴は、軸筒と、前記軸筒内に収容されて前端側の筆記部を前記軸筒の前端から突出させた筆記芯とを備えた筆記具において、前記筆記芯を傾動しないように支持する固定支持状態と、前記筆記芯を傾動するように支持する傾動可能支持状態とを切り替えるようにした(
図3~
図6参照)。
【0009】
第2の特徴は、前記軸筒の内周側に、前記筆記芯が筆圧を受けて撓んだ際に、この撓んだ筆記芯における長手方向の途中箇所を径方向に受けるように縮径された接触支持部が設けられている(
図6参照)。
【0010】
第3の特徴は、前記筆記芯の前端から前記接触支持部までの寸法を10~50mmの範囲内に設定した(
図6参照)。
【0011】
第4の特徴は、前記軸筒の前端側に進退可能に内在されるとともに前記筆記芯を前端部から突出させて挿通した筒状のスライダーと、前記スライダーを前記軸筒に対し後方へ付勢する第一の付勢部材とを備え、前記軸筒と前記スライダーのうち、その一方にカム斜面を設けるとともに他方には前記カム斜面に摺接する摺接部を設け、前記傾動可能支持状態では、前記筆記芯から前記スライダーに伝達される径方向の力により前記カム斜面を前記摺接部に摺接させて、前記スライダー及び前記筆記芯を前記軸筒に対し前進させながら傾けるようにした(
図6(a)(b)参照)。
【0012】
第5の特徴は、前記スライダーの外周部に小径部と該小径部よりも後側に位置する大径部とを設け、このスライダーを所定の操作により前進位置と後退位置の間で進退するように構成し、前記軸筒の内周側に環状係合部を設け、前記前進位置にて前記環状係合部が前記大径部に嵌り合うことで前記固定支持状態になり、前記後退位置にて前記環状係合部が前記小径部との間に隙間を確保することで前記傾動可能支持状態になるようにした(
図3、
図5及び
図6参照)。
【0013】
第6の特徴として、前記軸筒は、後軸部と、前記後軸部の前側に回転可能に接続された回転軸部とを備え、前記回転軸部の回転により前記スライダーを前進させたり後退させたりするように、前記後軸部に、前記回転軸部と前記スライダーを係合している(
図3及び
図4参照)。
【0014】
第7の特徴として、前記軸筒内には、前記筆記芯の後端側が接続される被接続部材が設けられ、この被接続部材は、前後に微動するように支持されている(
図7参照)。
【0015】
第8の特徴は、前記固定支持状態と前記傾動可能支持状態の何れの状態においても、前記筆記芯を前記スライダーの前端部から出没させる出没操作機構が設けられている(
図1及び
図2参照)。
【0016】
第9の特徴として、前記筆記芯が、前端側に前記筆記部としてのボールペンチップを有するボールペンリフィールである(
図1及び
図2参照)。
【0017】
なお、後述する実施態様では、以下の構成要件のみを必須とした発明も開示している。
すなわち、この発明は、軸筒と、前記軸筒内に収容されて前端側の筆記部を前記軸筒の前端から突出させた筆記芯とを備えた筆記具において、前記筆記芯が傾動するように支持され、前記軸筒の内周側には、前記筆記芯が筆圧を受けて撓んだ際に、この撓んだ筆記芯における長手方向の途中箇所を径方向に受けるように縮径された接触支持部が設けられている。
この発明によれば、筆記芯が筆圧を受けて傾動し撓む際に、この撓んだ筆記芯の外周部に、接触支持部を当接させて、筆記芯の撓み量を適宜に抑制することができ、ひいては、筆記者が良好な筆感を得ることができる。
【0018】
<具体的実施態様>
次に、上記特徴を有する具体的な実施態様について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本明細書中、軸方向とは、軸筒10の中心線の延びる方向を意味する。また、「前」とは、前記軸方向の一方側であって筆記芯の先方向を意味する。また、「後」とは、前記一方側に対する逆方向側を意味する。
【0019】
筆記具1は、軸筒10と、軸筒10内に収容されて前端側の筆記部21を軸筒10の前端から突出させた筆記芯20と、軸筒10の前端側に進退可能に内在されるとともに筆記芯20を前端部から突出させて挿通した筒状のスライダー30と、スライダー30を軸筒10に対し後方へ付勢する第一の付勢部材40と、筆記芯20をスライダー30の前端部から出没させる出没操作機構50とを備える。
そして、この筆記具1は、筆記芯20を傾動しないように支持する固定支持状態(
図1(a)(b)及び
図5参照)と、筆記芯20を傾動するように支持する傾動可能支持状態(
図1(c)及び
図6参照)とを切り替えるように構成される。
【0020】
軸筒10は、筒状の後軸部11と、後軸部11の前側に回転可能に接続された回転軸部12とを備え、回転軸部12の回転によりスライダー30を前進させたり後退させたりするように、後軸部11に、回転軸部12とスライダー30を係合している。
【0021】
後軸部11は、前後方向へわたる長尺円筒状の後軸本体11aと、この後軸本体11aの前端側に、着脱可能に接続されて回転軸部12を回転可能に支持する支持軸11bとを具備している。
この後軸部11の内周面には、筆記芯20が筆圧を受けて撓んだ際に、この撓んだ筆記芯20における長手方向の途中箇所を径方向に受けるように、縮径された接触支持部11cが設けられている。
【0022】
接触支持部11cは、その前後部分よりも縮径された円筒状の内面である。筆記芯20の前端から接触支持部11cの前端までの寸法Lは、10~50mmの範囲内に設定され、本実施形態の好ましい一例では約32mmにしている。
寸法Lが前記範囲よりも小さい場合には、筆圧を受けて筆記芯20の前端側がしなる際の支点が、前側に寄り過ぎてしまう。また、寸法Lが前記範囲よりも大きい場合には、筆圧を受けて筆記芯20の前端側がしなる際の支点が、後側に寄り過ぎてしまう。したがって、何れの場合も良好なしなり加減を得られない。そこで、本実施形態の好ましい一例では、寸法Lを上記範囲内に設定した。
【0023】
後軸本体11aの後端側の外周面には、クリップ11a1が一体的に設けられる。図示例のクリップ11a1は、後軸本体11aに対し別体の部材を装着しているが、一体成形された部材とすることも可能である。
そして、後軸本体11aの後端側の内周面には、後述する出没操作機構50の一部を構成する縦溝11a2や固定カム斜面11a3等が形成される
この後軸部11は、支持軸11bに対し螺合接続されており、支持軸11bから外された際に、筆記芯20を着脱可能に露出する。
【0024】
また、支持軸11bは、長尺円筒状の部材である。この支持軸11bの前半部側は、筒状の回転軸部12に挿入され、回転軸部12を回転自在且つ進退不能に支持している。この支持構造は、例えば、支持軸11b外周面と回転軸部12内周面とのうち、その一方に設けられる環状凸部と、他方に設けられる環状溝とを嵌め合わせた構造とすればよい。
この支持軸11bの前端縁には、スライダー30に係合してスライダー30を進退させるカム部11b1が設けられる。
【0025】
カム部11b1は、支持軸11bの前端縁に、その周方向にわたって凹部及び傾斜面等を設けて構成される。
詳細に説明すれば、このカム部11b1は、
図4の展開図に示すように、前側凹部11b11、後側凹部11b12、及び傾斜面部11b13等を有する。
前側凹部11b11と後側凹部11b12は、前方を開口した半円状の凹部である。前側凹部11b11に対し、後側凹部11b12は周方向に離れ且つ後方側に位置する。
傾斜面部11b13は、前側凹部11b11の縁と後側凹部11b12の縁とを結ぶようにして、後軸部11の周方向へ延設されるとともに傾斜している。
【0026】
また、回転軸部12は、後端側が後軸部11に対し回転自在に接続された回転軸本体12aと、この回転軸本体12aの前端側に一体的に接続された先端カバー12bとから形成される(
図1及び
図2参照)。
【0027】
回転軸本体12aは、長尺円筒状に形成される。この回転軸本体12aの内周面には、その前端側に位置する環状係合部12a1と、環状係合部12a1よりも後側で第一の付勢部材40の前端部を受ける環状の段部12a2と、段部12a2よりも後側でスライダー30を前後方向へ案内するガイド溝12a3とが設けられる。
【0028】
環状係合部12a1は、その後側の回転軸本体12a内周面よりも、全周にわたって径方向内側へ突出する環状の凸部であり、スライダー30の大径部31cに接触又は近接して嵌り合うように形成される。
また、この環状係合部12a1の環状の前端縁は、スライダー30のカム斜面31aに摺接するための摺接部12a11(
図6(a)参照)として機能する。
【0029】
ガイド溝12a3は、前後方向へ連続する直線状の凹溝であり、周方向に等間隔を置いて複数(図示例によれば二つ)設けられる。
【0030】
また、先端カバー12bは、回転軸本体12aの前端側の外周に装着されて前方へ突出し、スライダー30の前端部を突出させて該前端部よりも後側の部分を覆う。
【0031】
筆記芯20は、インク収容管22の前端側に筆記部21としてのボールペンチップを接続した周知構造のボールペンリフィールである。
インク収容管22は、弾性的に撓むことが可能な合成樹脂材料(例えばポリプロピレン等)により形成される。
【0032】
また、スライダー30は、スライダー本体部31と、スライダー本体部31の後側に接続された受け部32との二部材から一体的に構成され、所定の操作により前進位置(
図1(a)(b)及び
図5参照)と後退位置(
図1(c)及び
図6参照)の間で進退するように構成される。
なお、スライダー本体部31と受け部32は、一体に形成された単一の部材とすることも可能である。
【0033】
スライダー本体部31の外周面には、後方へ向かって徐々に縮径するカム斜面31aと、カム斜面31aの後端部に接続されて後方へ延設された小径部31bと、この小径部31bの後側に接続された大径部31cとが設けられる。
また、スライダー本体部31の前端側の内周面には、突出した際の筆記部21の外周面に接して、筆記部21をスライダー本体部31に相対し径方向へ移動しないように支持する円筒状の接触支持面31dが設けられる。
【0034】
カム斜面31aは、スライダー30に径方向の力成分が加わった際に、軸筒10側の摺接部12a11に摺接して、スライダー30を傾けながら前方へ動かす運動方向変換手段として機能する。
【0035】
小径部31bは、スライダー30が後退位置にある際に、軸筒10側の環状係合部12a1との間に、スライダー30を傾動可能に支持(傾動可能支持状態)にするための隙間sを確保する(
図6(a)(b)参照)。
【0036】
大径部31cは、スライダー30が前進位置にある際に、軸筒10側の環状係合部12a1に嵌り合って、スライダー30を傾動しないように支持(固定支持状態)にする(
図5参照)。
【0037】
また、受け部32は、前端側と後端側に小径部分を有する略円筒状に形成され、第一の付勢部材40の後端部を受けて後方へ付勢される。この受け部32は、後端側の小径部分を、支持軸11bの前端側に対し、遊びを有する状態で嵌め合わせている。前記小径部分の前側には、被ガイド凸部32aが設けられる。
【0038】
被ガイド凸部32aは、受け部32の前後方向中央側の最大径部分の外周面から径方向外側へ突出するとともに後方へ延設された突条である。この被ガイド凸部32aの最後端部は、後軸部11の前側凹部11b11及び後側凹部11b12に嵌り合う断面半円状に形成される(
図4参照)。
この被ガイド凸部32aは、軸筒10側の複数のガイド溝12a3にそれぞれ対応するように、周方向に間隔を置いて複数(図示例によれば等間隔に二つ)設けられる。
【0039】
また、第一の付勢部材40は、図示例によれば圧縮コイルスプリングであり、受け部32前端側の小径部分に環状に装着され、回転軸部12に対しスライダー30を後方へ付勢している。
【0040】
この第一の付勢部材40のバネ荷重は、バネのたわみ量(≒スライダー30の動き量)を、カム斜面31aの長さ及び角度等によって約0.3mmに制限した状態で、40~50gfの範囲内になるようにしてある。
前記バネ荷重が前記範囲よりも小さい場合、意図しない小さな筆圧で筆記芯20の前端側がしなってしまう。また、前記バネ荷重が前記範囲よりも大きい場合には、筆記芯20の前端側をしならせるための筆圧が、顕著に大きくなってしまう。このため、本実施形態の好ましい一例では、第一の付勢部材40のバネ荷重を上記のように設定した。
【0041】
また、出没操作機構50は、筆記芯20の後端側が接続される被接続部材51と、この被接続部材51を軸筒10に相対し後方へ付勢する第二の付勢部材52と、被接続部材51をその後方側から前後微動可能に支持するとともに所定の操作により進退し回転する支持回転子53と、被接続部材51と支持回転子53の間を弾発する第三の付勢部材55と、外力により前進して支持回転子53を押動するノック部54とを具備する。
この出没操作機構50は、上記した固定支持状態(
図1(a)(b)及び
図5参照)と傾動可能支持状態(
図1(c)及び
図6参照)との何れの状態においても、筆記芯20をスライダー30の前端部から出没させるように機能する。
【0042】
被接続部材51は、筆記芯20(詳細にはインク収容管22の後端部)に対し後方側から圧入される小径筒状の嵌入支持部51aと、この嵌入支持部51aの後端側で径方向外側へ環状に突出する鍔部51bと、この鍔部51bから後方へ略円筒状に延設された筒部51cと、この筒部51cの後端側で支持回転子53に対し凹凸状に遊嵌する遊嵌部51dとを有する(
図7参照)。
【0043】
遊嵌部51dは、詳細に説明すれば、筒部51cの後端側の外周面に設けられた環状凹部51d1と、この環状凹部51d1の後側で径方向外側へ突出する環状凸部51d2によって構成され、後述する支持回転子53の前端側に挿入され遊びを有する状態で嵌り合っている(
図7参照)。
【0044】
また、第三の付勢部材55は、被接続部材51の筒部51cに環状に装着された圧縮コイルスプリングである。この第三の付勢部材55は、その前端部を被接続部材51の鍔部51bに当接するとともに、後端部を支持回転子53の前端に当接して圧縮変形している。
この第三の付勢部材55は、後方への力成分により筆記芯20及び被接続部材51が後退した場合に、この後退に抵抗を与え、後方への力成分が除去された場合には、筆記芯20及び被接続部材51を弾発して元の位置まで前進させる。
【0045】
支持回転子53は、前後方向へわたる略円筒状の部材であり、その前端側の周壁内面に、被接続部材51の遊嵌部51dを接続する被遊嵌部53aを有する(
図7参照)。この被遊嵌部53aは、周方向に置いて複数(図示例によれば等間隔に二つ)設けられる。
各被遊嵌部53aは、遊嵌部51d前側の環状凹部51d1に対し遊びを有する状態で嵌り合う凸部53a1と、遊嵌部51d後側の環状凸部51d2に対し遊びを有する状態で嵌り合う凹部53a2(図示例によれば貫通孔)とから構成される。
【0046】
また、支持回転子53の被遊嵌部53aよりも後側には、後端に傾斜面部53b1を有する突条53bが周方向に間隔を置いて複数設けられる。支持回転子53の後端側は、ノック部54に挿入されている。
ノック部54は、後端部を閉鎖した有底筒状の部材であり、その前端部に進退可能且つ回転不能にカム斜面54aを備え、外周部に後軸部11内周面の縦溝11a2に嵌り合って進退可能な突条54bを有する。
これらの構成により、支持回転子53を前進させ回転させて係止したり、その係止状態を解除して支持回転子53を後退させたりする機構は、例えば、特開2004-209881号公報に記載された発明を適用することが可能である。
【0047】
次に、上記構成の筆記具1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
図1(a)は、スライダー30が前進位置にある状態で、筆記部21を軸筒10内に没入した状態を示す。なお、図示を省略するが、スライダー30が後退位置にある状態においても、筆記部21を軸筒10内に没入した状態とすることが可能である。
【0048】
前記没入状態において、ノック部54が前方へ押されると、支持回転子53、固定カム斜面11a3及びカム斜面54a等の作用により、筆記部21が軸筒10の前端から突出した状態で係止される(
図1(b)参照)。
【0049】
このように、スライダー30が前進位置にあり、筆記部21が突出した状態では、
図5に拡大視するように、スライダー30の大径部31cが、軸筒10側の環状係合部12a1に嵌り合う。この状態で、筆記芯20は、筆記部21をスライダー本体部31の接触支持面31dに接しているので、傾動することのない固定支持状態に保持される。
この固定支持状態によれば、筆記具1を把持して筆記を行う筆記者は、通常の筆記具と同様の硬い筆感を得ることができる。
【0050】
また、筆記具1は、前記固定支持状態において、
図3(a)(b)及び
図4(a)~(c)に示すように、回転軸部12が回転操作されると、筆記芯20を傾動可能に支持する傾動可能支持状態になる。
詳細に説明すれば、前記固定支持状態では、
図4(a)に示すように、スライダー30の被ガイド凸部32aが、後軸部11におけるカム部11b1の前側凹部11b11に嵌り合っている。
この状態で、回転軸部12を後軸部11に相対し所定方向へ回転させれば、被ガイド凸部32aが前側凹部11b11から抜け出て、傾斜面部11b13を周方向斜め後方へ滑り動く(
図4(b)参照)。
回転軸部12を更に前記所定方向へ回転させれば、
図4(c)に示すように、被ガイド凸部32aが、後側凹部11b12に嵌り合い、傾動可能支持状態に保持される。
【0051】
この傾動可能支持状態では、
図6(a)(b)に示すように、回転軸本体12aの環状係合部12a1とスライダー本体部31の小径部31bとの間に、スライダー30の径方向への微動を可能にする隙間sが確保される。
【0052】
このため、この傾動可能支持状態では、筆記部21が被筆記面Aに押し付けられて、筆記部21に径方向の力が加わると、この径方向の力が接触支持面31dを介してスライダー本体部31に伝達し、スライダー30が、カム斜面31aを摺接部12a11に摺接させて、軸筒10に相対し前進させながら傾動する(
図6(b)参照)。
【0053】
前記のようにして筆記芯20が前端側を傾動させてしなる際、筆記芯20の外周部が接触支持部11cに当接して、そのしなり加減が適宜に規制される。
このため、筆記具1を把持して筆記を行う筆記者は、ペン先がしなやかに傾く筆のような独特の筆感を得ることができる。
【0054】
また、筆記芯20に比較的強い後方への力が加わった場合には、筆記芯20及び被接続部材51が、第三の付勢部材55の弾発力に抗して、若干後退する。
このため、例えば、筆記中に筆圧が急に強くなってしまった場合や、筆記者の筆圧がもともと強めである場合等に、その筆記に伴い筆記芯20に加わる微小な衝撃を、第三の付勢部材55の付勢力により吸収し、良好な筆感を筆記者に与えることができる。
【0055】
上記傾動可能支持状態を上記固定支持状態に戻すには、回転軸部12を逆方向へ回転操作して、スライダー30を前進させて、スライダー本体部31の大径部31cを環状係合部12a1に嵌め合わせればよい(
図5参照)。
【0056】
また、突出状態の筆記部21を軸筒10内に没入するには、ノック部54を、再度、ノック操作すればよい。
【0057】
なお、上記実施態様では、特に好ましい態様として、筆記芯20を傾動させるためのカム斜面31aをスライダー30側に設け、カム斜面31aに摺接する摺接部12a11を軸筒10側に設けたが、他例としては、カム斜面を軸筒側に設け、このカム斜面に摺接する摺接部をスライダー側に設けることも可能である。
【0058】
また、上記実施態様では、特に好ましい態様として、被接続部材51を支持回転子53に対し前後微動するように接続したが、他例としては、被接続部材51を省いて筆記芯20を直接、支持回転子53に接続した態様とすることも可能である。
【0059】
また、上記実施態様は、本発明の好ましい一例としてボールペンを構成したが、本発明は、サインペンや、フェルトペン、マーカーペン、筆ペン等、ボールペン以外の筆記具を構成することも可能である。
【0060】
また、本発明は上述した実施態様に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
10:軸筒
11:後軸部
11a:後軸本体
11b:支持軸
11c:接触支持部
12:回転軸部
12a:回転軸本体
12a1:環状係合部
12b:先端カバー
20:筆記芯
21:筆記部
30:スライダー
31:スライダー本体部
31a:カム斜面
31b:小径部
31c:大径部
32:受け部
40:第一の付勢部材
50:出没操作機構
51:被接続部材
52:第二の付勢部材
53:支持回転子
54:ノック部
55:第三の付勢部材