(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】採水装置及び採水方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/06 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
E02D1/06
(21)【出願番号】P 2019141674
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】512052764
【氏名又は名称】株式会社アサノ大成基礎エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100070183
【氏名又は名称】吉村 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100131303
【氏名又は名称】吉村 徳人
(72)【発明者】
【氏名】井原 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】竹延 千良
(72)【発明者】
【氏名】大森 将樹
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-318889(JP,A)
【文献】特開2007-146541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/06
3/10
E21B 49/08
G01N 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレーナ部と、前記ストレーナ部から浸入した地下水を揚水する揚水部と、を含んでなるケーシングと、
前記ケーシングの外周面に配置されたパッカーと、
前記揚水部から前記ストレーナ部への地下水の逆流を阻止するバルブと、
前記揚水部の下端部から地上へ地下水を導く採水管と、
前記ケーシングの上端部に圧縮気体を供給する圧縮気体供給手段と、を備え
、
前記揚水部は、排水ポンプを挿入することが可能な大径部と、前記大径部の下方に配置された小径部と、を含んでなり、
前記小径部の内径は、前記大径部の内径より小さいことを特徴とする採水装置。
【請求項2】
前記ストレーナ部から揚水される地下水の水質を測定する測定手段を備えることを特徴とする請求項
1に記載の採水装置。
【請求項3】
ストレーナ部と、前記ストレーナ部から浸入した地下水を揚水する揚水部と、を含んでなるケーシングを用いて地下水を採水する採水方法であって、
前記ケーシングを井戸内に配置する工程と、
前記揚水部の上端から挿入したポンプにより、前記揚水部の上端部に揚水されている残留水を排水する工程と、
前記揚水部から前記ストレーナ部への地下水の逆流を阻止した状態で、前記揚水部の上端部を加圧することにより、前記揚水部の下端部から地上まで延びる採水管を介して、前記揚水部の下端部に揚水されている地下水を採水する工程と、を含むことを特徴とする採水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水の採取に用いる採水装置及び採水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事や地下の利用にあたっては、地下水の環境や状態(例えば、地下水の水質、地下水に含まれる微生物、地下水に含まれる溶存ガス等)を分析することが重要となる。地下水の分析を正確に行うためには、対象外の地盤から湧出する地下水や井戸(ボーリング孔を含む)内に残留する雨水・掘削水等の混濁がない状態で、採水の対象とする地盤(以下、「対象地盤」とする)から湧出する地下水を採水する必要がある。
従来、地下水を採取する方法として、ポンプにより井戸内から地下水を汲み上げる方法(例えば、引用文献1参照)、井戸内に投下した採水器により地下水を採取する方法(例えば、引用文献2,3参照)等が知られている。
これらの方法では、対象地盤の深度に到達する井戸を掘削した後、井戸内に溜まっている残留水について、少なくとも井戸の容積分に相当する量の水を排水(予備排水)することで、井戸内の水を対象地盤から湧出する地下水(以下、「対象地下水」とする)に置換した上で、地下水の採取が行われる。
ここで、残留水とは、対象地下水、対象外の地盤から湧出する地下水、掘削水、雨水等が混濁した水となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-162298号公報
【文献】特開昭57-46142号公報
【文献】特開平10-318889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の地下水を採取する方法では、対象地下水の採取が困難となる恐れがある。特に、従来の地下水を採取する方法では、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合に、対象地下水の採取が困難となる恐れがある。
すなわち、対象地盤の透水性が低いほど、単位時間あたりに湧出する対象地下水の量が少なくなるため、井戸内の残留水を対象地下水に置換するのに要する時間が長くなる。
また、対象地盤の深度が深くなるほど、掘削される井戸の容積が大きくなるため、井戸内の残留水を対象地下水に置換するのに要する時間が長くなる。
特に、対象地盤の深度が数百[m]となると、対象地盤の透水性が低いことに加えて、掘削される井戸の容積が大きくなるため、限られた期間内において、井戸内の残留水を対象地下水に置換することが困難となる。
ここで、採水器を用いれば、井戸内の全体の残留水が対象地下水に置換されていなくても、井戸内の対象地盤の深度付近の残留水が対象地下水に置換されていれば、対象地盤の深度付近まで採水器を投下することにより、対象地下水を採取できる。
しかしながら、採水器を用いる方法では、対象地盤の深度が深くなるほど、採水器の投下から回収までに要する時間が長くなる。また、1[回]の投下・回収により採取できる対象地下水の量に制限があるため、分析に必要となる対象地下水の量に応じて、採水器の投下・回収を繰り返し行う必要がある。特に、井戸内において採水器が昇降することにより、対象地下水と、それ以外の水と、が撹拌・混濁され、対象地下水に対して水質等が異なる地下水が採取される恐れがある。
以上により、従来の方法では、対象地下水の採取が困難となる恐れがある。
本発明の課題は、対象地下水の採取を容易化することにある。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取を容易化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、第一の発明に係る採水装置は、ストレーナ部と、前記ストレーナ部から浸入した地下水を揚水する揚水部と、を含んでなるケーシングと、前記ケーシングの外周面に配置されたパッカーと、前記揚水部から前記ストレーナ部への地下水の逆流を阻止するバルブと、前記揚水部の下端部から地上へ地下水を導く採水管と、前記ケーシングの上端部に圧縮気体を供給する圧縮気体供給手段と、を備え、前記揚水部は、排水ポンプを挿入することが可能な大径部と、前記大径部の下方に配置された小径部と、を含んでなり、前記小径部の内径は、前記大径部の内径より小さいことを特徴とする。
第一の発明に係る採水装置では、井戸(ボーリング孔を含む)内に挿入されるケーシングの外周面において、パッカーが配置されている。
これによって、井戸内において、採水区間を限定することができる。したがって、パッカーが機能している状態では、対象外の地盤から湧出する地下水や井戸内に残留する雨水・掘削水等のケーシング内への浸入が防止され、対象地下水のみをケーシング内へ浸入させることが可能となる。
特に、第一の発明に係る採水装置では、揚水部からストレーナ部への地下水の逆流を阻止するバルブと、揚水部の下端部から地上へ地下水を導く採水管と、ケーシングの上端部に圧縮気体を供給する圧縮気体供給手段と、を備えている。
これによって、揚水部からストレーナ部への地下水の逆流が阻止されている状態で、ケーシングの上端部に対して圧縮気体を供給することで、揚水部の下端部に揚水されている対象地下水が、気体の圧力により押し出され、採水管を介して、地上に導かれる。
したがって、ケーシング内の全体の残留水が対象地下水に置換されていなくても、揚水部の下端部の残留水が対象地下水に置換されていれば、地上において対象地下水を採取できる。よって、ケーシング内の全体の残留水を対象地下水に置換する必要がなくなり、対象地下水の採取に要する時間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取にあたって、揚水部の下端部の残留水を対象地下水に置換すれば足りるため、対象地下水の採水に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
また、対象地下水の採取にあたって、採水器の昇降が不要となるため、採水器の投入から回収までに要する時間を待つ必要がなくなるとともに、対象地下水に対して水質等が異なる地下水が採取される恐れを防止することが可能となる。
以上により、第一の発明に係る採水装置では、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。
また、第一の発明に係る採水装置では、ケーシングにおいて、排水ポンプを挿入することが可能な大径部が設けられている。
これによって、地上から大径部内へ排水ポンプを挿入することで、ケーシング内の残留水を対象地下水に置換する処理(予備排水)を容易に行うことが可能となる。
さらに、第一の発明に係る採水装置では、ケーシングにおいて、大径部の下方に連続する小径部が設けられている。特に、小径部の内径が、大径部の内径より小さくなっている。
これによって、ケーシング内の容積が縮小され、ケーシング内の残留水を対象地下水に置換する処理(予備排水)に要する時間を短縮することが可能となる。
ここで、採水装置としては、後述する採水装置1が該当する。ストレーナ部としては、後述するストレーナ部11が該当する。揚水部としては、後述する揚水部12が該当する。ケーシングとしては、後述する揚水ケーシング10が該当する。パッカーとしては、後述するパッカー20a,20bが該当する。バルブとしては、後述する孔内バルブ30が該当する。採水管としては、後述する採水管50が該当する。圧縮気体供給手段としては、後述するコンプレッサー200が該当する。大径部としては、後述する大径部12bが該当する。小径部としては、後述する小径部12aが該当する。
【0007】
第二の発明に係る採水装置は、第一の発明に係る採水装置において、前記ストレーナ部から揚水される地下水の水質を測定する測定手段を備えることを特徴とする。
第二の発明に係る採水装置では、ストレーナ部から揚水される地下水の水質の径時的な変化に基づいて、揚水部の下端部の残留水が対象地下水に置換されたことを確認した上で、対象地下水を採取することができる。
したがって、対象地下水に対して水質等が異なる地下水が採取される恐れを防止することが可能となる。
ここで、測定手段としては、後述する水質モニタリング装置40が該当する。
【0008】
第三の発明に係る採水方法は、ストレーナ部と、前記ストレーナ部から浸入した地下水を揚水する揚水部と、を含んでなるケーシングを用いて地下水を採水する採水方法であって、前記ケーシングを井戸内に配置する工程と、前記揚水部の上端から挿入したポンプにより、前記揚水部の上端部に揚水されている残留水を排水する工程と、前記揚水部から前記ストレーナ部への地下水の逆流を阻止した状態で、前記揚水部の上端部を加圧することにより、前記揚水部の下端部から地上まで延びる採水管を介して、前記揚水部の下端部に揚水されている地下水を採水する工程と、を含むことを特徴とする。
第三の発明に係る採水方法では、ポンプを用いて揚水部の上端部に揚水されている残留水を排水することにより、揚水部の下端部の残留水が、対象地下水に置換される。
その後、揚水部からストレーナ部への地下水の逆流を阻止した状態で、揚水部の上端部を加圧することにより、揚水部の下端部に揚水されている対象地下水が、気体の圧力により押し出され、採水管を介して、地上に導かれる。
したがって、ケーシング内の全体の残留水が対象地下水に置換されていなくても、揚水部の下端部の残留水が対象地下水に置換されていれば、地上において対象地下水を採取できる。よって、ケーシング内の全体の残留水を対象地下水に置換する必要がなくなり、対象地下水の採取に要する時間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取にあたって、揚水部の下端部の残留水を対象地下水に置換すれば足りるため、対象地下水の採水に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
以上により、第三の発明に係る採水方法では、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。
ここで、ストレーナ部としては、後述するストレーナ部11が該当する。揚水部としては、後述する揚水部12が該当する。ケーシングとしては、後述する揚水ケーシング10が該当する。ポンプとしては、後述するポンプPが該当する。採水管としては、後述する採水管50が該当する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る採水装置1の概略構成を示す図である。
【
図2】採水装置1を用いた対象地下水の採取方法のフローチャートである。
【
図3】揚水ケーシング10内にポンプPが設置された状態の採水装置1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
(採水装置1の構成)
まず、本発明の実施形態に係る採水装置1を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る採水装置1の概略構成を示す図である。
採水装置1は、井戸w内において採水区間sを形成し、対象地盤から採水区間sへ湧出する対象地下水を採取するための装置となっている。
この際、井戸wは、ボーリング孔(裸孔)であっても、ボーリング孔内にケーシングパイプを配置して構成されるものであっても、どちらでも構わない。また、井戸wは、少なくとも対象地盤の深度より深い深度まで掘削される。そして、採水区間sは、対象地盤の深度を含む所定範囲の深度において形成される。
図1に示すように、採水装置1は、井戸w内に挿入される採水ユニット100と、地上に配置されるコンプレッサー200と、を含んで構成されている。
採水ユニット100は、揚水ケーシング(ケーシングパイプ)10と、揚水ケーシング10の外周面に配置された一対のパッカー20a,20bと、揚水ケーシング10内に配置された水質モニタリング装置40と、揚水ケーシング10に連通する採水管50と、揚水ケーシング10に対して着脱可能な加圧ヘッド60と、を含んで構成されている。
【0013】
揚水ケーシング10は、スチール、ステンレス等の金属材料により形成されている。揚水ケーシング10は、全体として、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。揚水ケーシング10は、井戸w内において、鉛直方向に沿って延びるように配置される。そして、揚水ケーシング10内には、その下端部から上端部まで、鉛直方向に沿って直線的に延びる流路(揚水路)が形成されている。これによって、揚水ケーシング10内において、後述するストレーナ部11から浸入した対象地下水を、地上に向かって揚水することが可能となる。
揚水ケーシング10は、ストレーナ部(ストレーナ管)11と、ストレーナ部11の上方に配置された揚水部(揚水管)12と、ストレーナ部11及び揚水部12の間に配置された孔内バルブ30及びセンサ配置部(センサ配置管)40aと、を含んで構成されている。ストレーナ部11、揚水部12、孔内バルブ30及びセンサ配置部40aは、同軸(流路が同軸)となるように配置されている。
ストレーナ部11は、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。ストレーナ部11は、鉛直方向に沿って延びるように設置される。ストレーナ部11の下端は、閉止されている。
ストレーナ部11の外周面には、一対のパッカー20a,20bが配置されている。一対のパッカー20a,20bは、鉛直方向に沿って所定の間隔で配置されている。そして、ストレーナ部11における一対のパッカー20a,20bの間の領域には、採水部hが構成されている。採水部hは、ストレーナ部11の周壁において、複数(多数)の浸入孔(図示せず)が設けられることにより構成されている。各浸入孔は、ストレーナ部11の内外を貫通する貫通孔となっている。これによって、各浸入孔を介して、対象地盤から湧出した地下水を、ストレーナ部11の内部へ浸入させる(呼び込む)ことが可能となっている。
【0014】
揚水部12は、分岐部(分岐管)12dと、分岐部12dの上方に配置された小径部(小径管)12aと、小径部12aの上方に配置された大径部(大径管)12bと、を含んで構成されている。分岐部12dの後述する主流路、小径部12a及び大径部12bは、同軸(流路が同軸)となるように配置されている。
分岐部12dは、管状(パイプ状)に形成されている。分岐部12dは、いわゆる分岐管(分配管)により構成されている。具体的に、分岐部12d内には、鉛直方向に沿って延びる主流路と、主流路の途中から分岐する副流路と、が形成されている。
主流路の下端は、孔内バルブ30の後述する出水口に連結(連通)している。主流路の上端は、小径部12aの下端に連結(連通)している。
副流路の一端は、主流路に連結(連通)している。また、副流路の他端は、採水管50の下端に連結(連通)している。
【0015】
小径部12aは、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。小径部12aは、鉛直方向に沿って延びるように設置される。小径部12aの下端は、分岐部12dの主流路の上端に連結(連通)している。小径部12aの上端は、レデューサ12eを介して、大径部12bの下端に連結(連通)している。
後述するように、小径部12aは、対象地盤の深度に応じて、複数本の小径管体(パイプ)を連結して構成される。各小径管体は、所定の長さの管体(パイプ)となっている。
大径部12bは、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。大径部12bは、鉛直方向に沿って延びるように設置される。大径部12bの下端は、レデューサ12eを介して、小径部12aの上端に連通している。大径部12bの上端は、地上における所定の高さまで延びている。
後述するように、大径部12bは、対象地盤の透水性(具体的には、後述するポンプPを設置する深度)に応じて、複数本の大径管体(パイプ)を連結して構成される。各大径管体は、所定の長さの管体(パイプ)となっている。
大径部12bの内径は、ポンプPを挿入することが可能となるように構成されている。一方、小径部12aの内径は、大径部13bの内径より小さく(ポンプPを挿入することができないように)構成されている。これによって、揚水ケーシング10の容積の増加を抑制することが可能となる。
【0016】
センサ配置部40aは、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。センサ配置部40aは、鉛直方向に沿って延びるように設置される。センサ配置部40aの下端は、ストレーナ部11の上端に連結(連通)している。センサ配置部40aの上端は、孔内バルブ30の後述する入水口に連結(連通)している。そして、センサ配置部40a内には、水質モニタリング装置40が配置されている。これによって、センサ配置部40a内に揚水される水の水質を、水質モニタリング装置40により測定することが可能となっている。
孔内バルブ30は、弁箱(バルブ室)12cと、弁箱12c内に配置された弁体30a及び弁座(図示せず)と、を含んで構成されている。
弁箱12cの底面には、入水口(図示せず)が設けられており、弁箱12cの天面には、出水口(図示せず)が設けられている。入水口及び出水口は、同軸となるように設けられている。そして、入水口には、センサ配置部40aの上端が連結(連通)し、出水口には、分岐部12dの主流路の下端が連結(連通)している。
孔内バルブ30の弁体30aは、入水口を開閉する。入水口が開放されているときには、ストレーナ部11から、センサ配置部40a及び孔内バルブ30を介して、揚水部12への対象地下水の揚水(浸入)が可能となる。一方、入水口が閉止されているときには、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流(浸入)が阻止される。
孔内バルブ30の弁体30aの駆動(開閉)方式は、空気圧駆動方式、水圧駆動方式、電気駆動方式のうち、いずれの駆動方式であっても構わない。なお、孔内バルブ30として、ストレーナ部11から揚水部12への対象地下水の揚水(浸入)を許容し、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流(浸入)を阻止する逆止弁を用いても構わない。
ここで、数百[m](特に、1000[m]以上)の深度に採水区間sが形成される場合には、空気圧駆動方式により孔内バルブ30の弁体30aを駆動することが困難となる。そこで、本実施形態では、孔内バルブ30の弁体30aの駆動方式として、水圧駆動方式を採用している。具体的に、採水装置1は、地上に配置された流体圧送装置(図示せず)を含んで構成されている。流体圧送装置は、流体チューブ(図示せず)を介して、孔内バルブ30へ流体(本実施形態では、水)を圧送する。そして、流体圧送装置から孔内バルブ30へ圧送される流体の圧力を制御することにより、孔内バルブ30の弁体30aが駆動(開閉)される。
【0017】
各パッカー20a,20bは、樹脂等により形成されている。各パッカー20a,20bは、略円柱状に形成されている。各パッカー20a,20bには、中心軸に沿って延びる貫通孔が設けられている。そして、各パッカー20a,20は、貫通孔にストレーナ部11が挿通された状態で、ストレーナ部11の外周面に配置されている。この際、各パッカー20a,20bの内周面は、ストレーナ部11の外周面に密着している。
各パッカー20a,20bは、袋状に形成されている。これによって、各パッカー20a,20bは、その内部に気体又は流体を圧入することにより膨張させることが可能となっている。また、各パッカー20a,20bは、その内部から気体又は流体を排出することにより、収縮させることが可能となっている。
ここで、数百[m](特に、1000[m]以上)の深度に採水区間sが形成される場合には、気体の圧入により各パッカー20a,20bの膨張・収縮を制御する方式を採用することが困難となる。そこで、本実施形態では、流体の圧入・排出により各パッカー20a,20bの膨張・収縮を制御する方式を採用している。具体的に、採水装置1は、地上に配置されたパッカー制御装置(図示せず)を含んで構成されている。パッカー制御装置は、制御チューブ(図示せず)を介して、各パッカー20a,20b内へ流体を圧送し、または、各パッカー20a,20b内から流体を排出する。そして、パッカー制御装置から各パッカー20a,20b内へ流体を圧送することにより、各パッカー20a,20bを膨張させることが可能となる。一方、パッカー制御装置によって各パッカー20a,20b内から流体を排出することにより、各パッカー20a,20bを収縮させることが可能となる。
なお、本実施形態では、採水部hの上方及び下方において、パッカー20a,20bが配置されている。これによって、一対のパッカー20a,20bを膨張させると、一対のパッカー20a,20bの間の領域が採水区間sとなる。しかしながら、採水部hの上方において、パッカー20aが配置され、採水部hの下方において、パッカー20bが配置されていない構成としても構わない。かかる構成とした場合には、パッカー20aを膨張させると、パッカー20aの底面と井戸wの底面との間の領域が採水区間sとなる。
【0018】
水質モニタリング装置40は、ストレーナ部11から揚水される地下水の水質を測定し、測定結果を有線又は無線により地上に配置されたデータ収録装置(図示せず)に対して送信する。ここで、データ収録装置は、地上に設置された観測室内に配置されている。
本実施形態では、水質モニタリング装置40により、CTD(電気伝導度、温度、水深)、pH(水素イオン指数)、ORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素量)等を測定することが可能となっている。
採水管50は、スチール、ステンレス等の金属材料からなる管体(パイプ)、又は、ナイロン、テフロン(登録商標)等の地下水の水質に影響を与えることがない材質により形成されたチューブにより構成されている。採水管50は、一連に構成されていても、深度に応じて複数本の管体(または、チューブ)を連結して構成されていても、どちらでも構わない。
採水管50の下端は、分岐部12dの副流路に連結(連通)されている。また、採水管50の上端は、地上まで延びており、採水管50の他端から排出される対象地下水を、採水容器(図示せず)により受水することが可能となっている。また、採水管50の上端部には、採水管50の流路を開閉するバルブb1が配置されている。
【0019】
加圧ヘッド60は、大径部12bの上端部に対して着脱可能となるように構成されている。大径部12bの上端部に加圧ヘッド60が装着されると、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端側が密閉される。加圧ヘッド60には、加圧口(図示せず)が設けられている。加圧口は、大径部12bの上端部に加圧ヘッド60が装着されている状態で、密閉された大径部12bの内外を連通させる。
コンプレッサー200は、エアチューブtを介して、加圧ヘッド60の加圧口へ圧縮気体を供給(加圧)する。これによって、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端部に加圧ヘッド60が装着されている状態で、コンプレッサー200から加圧ヘッド60の加圧口へ圧縮気体が供給されると、揚水ケーシング10(大径部12a)の上端部が加圧される。
【0020】
(採水装置1を用いた対象地下水の採取方法)
次に、採水装置1を用いた対象地下水の採取方法(採水方法)を説明する。
図2は、採水装置1を用いた対象地下水の採取方法のフローチャートである。
図3は、揚水ケーシング10内にポンプPが設置された状態の採水装置1を示す図である。
図2に示すように、採水装置1を用いて対象地下水を採取するには、まず、井戸構築工程を実施する。井戸構築工程では、井戸wを構築する。
具体的に、井戸構築工程では、ボーリング孔(裸孔)を掘削する。この際、ボーリング孔は、対象地盤の深度より深い深度まで掘削される。
本実施形態では、ボーリング孔(裸孔)を、そのままの状態で、井戸wとしている。しかしながら、ボーリング孔内においてスクリーン部を有するケーシングパイプを配置して井戸wを構築しても構わない。
【0021】
次に、採水深度決定工程を実施する。採水深度決定工程では、採水区間sを形成(採水部hを設置)する深度(以下、「採水深度」とする)を決定する。
具体的に、採水深度決定工程では、検層(具体的には、流体検層)により、採水深度を決定する。
【0022】
次に、管体使用数決定工程を実施する。管体使用数決定工程では、大径部12bを構成する大径管体の数(以下、「大径管体使用数」とする)と、小径部12aを構成する小径管体の数(以下、「小径管体使用本数」とする)と、を決定する。
ここで、大径管体使用数及び小径管体使用数は、採水深度決定工程で決定された採水深度と、対象地盤の透水性と、に応じて決定される。
すなわち、後述するように、採水ユニット100の採水部hは、複数本の小径管体を継ぎ足すとともに、複数本の大径管体を継ぎ足すことによって、採水深度決定工程で決定された採水深度まで挿入される。
この際、採水部hの深度を確保するにあたって、大径管体使用数が多くなるほど、揚水ケーシング10の容積が増加し、揚水ケーシング10内の残留水を対象地下水に置換することが困難となる。そこで、出来る限り、大径管体使用数を少なくし、小径管体使用数を多くすることによって、採水部hの深度を確保するのが好ましい。
一方、後述するように、大径部12bの下端部には、ポンプPが設置される。そして、ポンプPにより、大径部12b内に揚水された残留水が地上へ排水(予備排水)される。
この際、対象地盤の透水性が低いほど、揚水ケーシング10内において、後述する予備排水により地下水の水位が低下する深度が深くなるため、ポンプPを設置する深度を深くする必要があり、その結果、大径管体使用本数を増やす必要がある。ただし、ポンプPを設置する深度の下限は、使用するポンプPの能力(最大揚程)に応じて決定される。
そこで、大径管体使用数及び小径管体使用数を決定する際には、まず、大径管体使用数を決定する。この際、大径管体使用数は、大径部12bの下端部の深度がポンプPの最大揚程を超えない範囲内で、対象地盤の透水性に応じて決定される。次に、小径管体使用数を決定する。この際、小径管体使用数は、先に決定された大径管体使用数と、採水深度決定工程で決定された採水深度と、に応じて決定する。
【0023】
次に、採水ユニット設置工程を実施する。採水ユニット設置工程では、井戸w内において、採水ユニット100を設置(構成)する。
ここで、採水ユニット100は、小径部12a及び大径部12bが取り外された状態で、地上において保管されている。
採水ユニット設置工程では、まず、小径部12a及び大径部12bが取り外された状態の採水ユニット100を、井戸w内に挿入する。この際、採水ユニット100は、下側のパッカー20b、ストレーナ部11、上側のパッカー20a、センサ配置部40a(水質モニタリング装置40)、孔内バルブ30、分岐部12dの順に、挿入される。また、孔内バルブ30の弁体30a(入水口)は、開放されており、ストレーナ部11から揚水部12への対象地下水の揚水が可能な状態となっている。さらに、採水管50のバルブb1は、開放されている。
次に、管体使用数決定工程で決定された小径管体使用数にしたがって、分岐部12dの主流路の上端に対して、複数本の小径管体を継ぎ足すことによって、小径部12aを構成する。小径部12aが構成されることにより、採水部hが、所定の深度まで挿入される。
次に、管体使用数決定工程で決定された大径管体使用数にしたがって、小径部12aの上端に対して、複数本の大径部12bを継ぎ足すことによって、大径部12bを構成する。この際、レデューサ12eを介して、小径部12aの上端及び大径部12bの下端が連結される。大径部12bが構成されることにより、採水部hが、採水深度決定工程で決定された採水深度まで挿入される。
次に、各パッカー20a,20bを膨張させて、採水区間sを形成する。この際、各パッカー20a,20bの外周面が井戸wの内周面に密着するように、各パッカー20a,20bを膨張させる。これによって、上側のパッカー20aの底面と、下側のパッカー20bの天面と、井戸wの内周面と、に囲まれた領域が、採水区間sとなる。
以上により、井戸w内における採水ユニット100の設置が完了する。採水ユニット100の設置が完了すると、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端が、地上から所定の高さに配置される。この際、加圧ヘッド60は、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端部に装着されていない。そして、採水ユニット100の設置が完了すると、水質モニタリング装置40によるストレーナ部11から揚水される地下水の水質の監視が開始される。
【0024】
次に、予備排水工程を実施する。予備排水工程では、ポンプP(揚水ポンプ・排水ポンプ)による予備排水を実施する。
ここで、採水ユニット100の設置前には、井戸w内において、残留水が溜まっている。これによって、採水ユニット100の設置の完了時には、井戸w内に溜まっていた残留水が揚水ケーシング10内に浸入している状態となる。そこで、予備排水により、揚水ケーシング10内の残留水を対象地下水に置換する(揚水ケーシング10内へ対象地下水を呼び込む)必要がある。
図3に示すように、予備排水工程では、まず、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端から、ポンプPを挿入し、ポンプPを、大径部12bの下端部に設置する。次に、ポンプPを作動させて、大径部12bの下端部に揚水されている残留水の排水(予備排水)を開始する。この際、孔内バルブ30の弁体30a(入水口)は、開放されている。また、採水管50のバルブb1は、開放されている。
ここで、ポンプPにより排水(吸引)された残留水は、揚水管T1を介して、地上に導かれる。揚水管T1の上端には、分岐管T2が接続されている。そして、分岐管T2内には、主流路r1と、主流路r1の途中から分岐する2本の副流路(具体的には、水質測定路r2及び採水路r3)と、が形成されている。
主流路r1の一端は、揚水管T1の上端に連結(連通)している。また、主流路r1の他端は、排水口(下水溝等)に連結(連通)している。また、主流路r1の他端部部には、流量計F及び流量制御バルブb2が配置されている。
水質測定路r2の一端は、主流路r1に連結(連通)している。また、水質測定路r2の他端は、排水口(下水溝等)に連結(連通)している。また、排水路水質測定路r2には、第2の水質モニタリング装置80が配置されている。第2の水質モニタリング装置80は、水質測定路r2を通過する残留水(ポンプPにより排水された残留水)の水質を測定する。本実施形態では、第2の水質モニタリング装置80により、CTD(電気伝導度、温度、水深)、pH(水素イオン指数)、ORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素量)等が測定される。
採水路r3の一端は、主流路r1に連結(連通)している。そして、採水路r3の他端から排出される対象地下水を、採水容器(図示せず)により受水することが可能となっている。また、採水路r3の他端部には、採水路r3を開閉するバルブb3が配置されている。
予備排水の実行時には、採水路r3のバルブb3が閉止されるとともに、主流路r1の流量制御バルブb2が開放される。これによって、ポンプPにより排水された残留水は、揚水管T1を介して、主流路r1へ流入する。そして、主流路r1へ流入した残留水は、流量計F及び流量制御バルブb2を通過して、排水口へ排出される。この際、主流路r1へ流入した残留水の一部は、水質測定路r2へ流入する。そして、水質測定路r2へ流入した残留水は、第2の水質モニタリング装置80により水質が測定された後に、排水口へ排出される。
一方、後述するポンプによる本採水の実行時には、採水路r3のバルブb3が開放される。この際、主流路r1の流量制御バルブb2は、開放が維持される。これによって、ポンプPにより排水(採水)された対象地下水は、揚水管T1を介して、主流路r1へ流入する。そして、主流路r1へ流入した対象地下水の一部は、採水路r3へ流入し、採水路r3の他端から排出される。これによって、採水路r3の他端から排出される対象地下水を、採水容器により受水することが可能となる。
【0025】
予備排水の進行により、対象地盤から採水区間sへ湧出した対象地下水が、採水部hを介して、ストレーナ部11内へ呼び込まれる。そして、ストレーナ部11内へ呼び込まれた対象地下水は、揚水ケーシング10内において、上方に向かって引き上げられる。すなわち、ストレーナ部11内へ呼び込まれた対象地下水は、センサ配置部40a(水質モニタリング装置40)及び孔内バルブ30を介して、揚水部12の下端部へ引き上げられ、さらに、揚水部12内を上方に向かって引き上げられる。
この際、対象地盤の透水性が低い場合には、予備排水の進行中に、大径部12b内において、残留水の水位が、ポンプPの吸込口が設置されている深度より低くなり、ポンプPによる排水ができなくなる恐れがある。このときには、ポンプPの作動を一時停止して、残留水の水位の回復を待った後に、ポンプPの作動を再開する必要がある。このとき、対象地盤の透水性が低いほど、単位時間あたりに湧出する対象地下水の量が少なくなるため、残留水の水位の回復に要する時間が長くなる。
そして、予備排水の進行中には、水質モニタリング装置40により測定される水質(小径部12aの下端部に揚水されている地下水の水質)の経時的な変化が監視されるとともに、第2の水質モニタリング装置80により測定される水質(ポンプPにより排水された残留水の水質)の経時的な変化が監視される。また、予備排水の進行中には、水質モニタリング装置40の測定結果と、第2の水質モニタリング装置80の測定結果と、が比較される。
【0026】
本実施形態では、対象地盤の透水性に応じて、予備排水の終了条件及び本採水の方法が異なる構成となっている。ここで、対象地盤の透水性は、予備排水の進行中における揚水ケーシング10内の水位の回復状況(具体的には、水位の回復に要する時間)に応じて判断する。
すなわち、対象地盤の透水性が高い場合には、予備排水により、比較的短時間で、揚水ケーシング10内の全体において、残留水を対象地下水に置換することができる。そして、揚水ケーシング10内の全体において、残留水が対象地下水に置換されている場合には、予備排水のために設置されたポンプPにより、そのまま、揚水ケーシング10内に揚水されている対象地下水を採取(本採水)することができる。
そこで、対象地盤の透水性が高い場合には、揚水ケーシング10内の全体において、残留水が対象地下水に置換されていることを条件に、予備排水を終了し、後述するポンプによる本採水工程により、本採水を実施する。
具体的に、対象地盤の透水性が高い場合には、(1)水質モニタリング装置40により測定される水質について、安定状態が所定時間継続したこと、(2)水質モニタリング装置40の測定結果と第2の水質モニタリング装置80の測定結果とが略一致していると判断できること、及び、(3)予備排水により排水された残留水の量が所定量(少なくとも揚水ケーシング10の容積及び採水区間sの容積の合計量)に達したこと、の全ての条件を満たすことにより、予備排水を終了する。すなわち、これらの条件を満たす場合には、揚水ケーシング10内の全体において、残留水が対象地下水に置換されているものと判断することができる。
そして、予備排水の終了(予備排水工程の終了)により、続いて、ポンプによる本採水工程を実施する。
ポンプによる本採水工程では、ポンプPを用いて、対象地下水を採取(本採水)する。
具体的に、ポンプによる本採水工程では、まず、採水路r3のバルブb3を開放するとともに、主流路r1の流量制御バルブb2を閉止する。次に、予備排水工程で設置されたポンプPを作動させて、大径部12bの下端部に揚水されている対象地下水を採水する。これによって、ポンプPにより採水された対象地下水が、採水路r3の他端から排出され、採水容器内に貯留(受水)することが可能となる。
そして、目的とする量の対象地下水を採取したことにより、ポンプPを停止して、本採水を終了する。
【0027】
一方、対象地盤の透水性が低い場合には、予備排水により、揚水ケーシング10内の全体において、残留水を対象地下水に置換するのに要する時間が長くなる。したがって、この場合には、予備排水のために設置されたポンプPを用いて、対象地下水を採取(本採水)することができない。
そこで、対象地盤の透水性が低い場合には、少なくとも揚水部12の下端部において、残留水が対象地下水に置換されていることを条件に、予備排水が終了され、後述する加圧による本採水工程により、本採水が実施される。
具体的に、対象地盤の透水性が低い場合には、(1)水質モニタリング装置40により測定される水質について、安定状態が所定時間継続したこと、の条件を満たすことにより、予備排水を終了する。すなわち、この条件を満たす場合には、揚水ケーシング10内のうち、少なくとも揚水部12の下端部において、残存水が対象地下水に置換されているものと判断することができる。ここで、安定状態とは、水質の径時的な変化が少ない状態をいう。
そして、予備排水の終了後に、揚水ケーシング10内(大径部12bの下端部)からポンプPを回収し、その後、加圧による本採水工程を実施する。
【0028】
加圧による本採水工程では、揚水ケーシング10の上端部を加圧することにより、採水管50を介して、対象地下水を採取(本採水)する。
具体的に、加圧による本採水工程では、まず、孔内バルブ30の弁体30a(入水口)を閉止する。これによって、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流が阻止される。なお、採水管50のバルブb1は、開放されている。これによって、採水管50の上端から対象地下水を採取することが可能な状態となる。
次に、揚水ケーシング10(大径部12b)内における残留水の水位を確認する。そして、揚水ケーシング10内における残留水の水位が所定位置より低い場合には、揚水ケーシング10の上端から注水して、揚水ケーシング10(大径部12b)内における残留水の水位を所定位置まで上昇させる。一方、揚水ケーシング10内における残留水の水位が所定位置より高い場合には、注水を行う必要がない。
ここで、揚水ケーシング10内における残留水の水位が低いほど(揚水ケーシング10内において、気体で満たされている空間が広くなるほど)、対象地下水を採取するために必要となる加圧力(揚水ケーシング10の上端部を加圧する力)が大きくなる。そこで、揚水ケーシング10内における残留水の水位が所定位置より低い場合には、注水により、揚水ケーシング10内における残留水の水位を上昇させておくことで、対象地下水を採取するために必要となる加圧力を低減することが可能となる。
次に、
図1に示すように、加圧ヘッド60を揚水ケーシング10(大径部12b)の上端部に装着する。これによって、揚水ケーシング10の上端側が密閉される。
次に、コンプレッサー200を作動させて、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水の採水(本採水)を開始する。すなわち、コンプレッサー200が作動すると、コンプレッサー200から、加圧ヘッド60の加圧口を介して、揚水ケーシング10の上端部に気体が圧入される。これによって、揚水ケーシング10内の残留水の水面が下方に向かって加圧される。この際、孔内バルブ30の弁体30aが閉止されていることにより、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流が阻止されているため、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水が、採水管50を介して、地上に押し出される。これによって、採水管50の上端から排出された対象地下水を、採水容器内に貯留(受水)することが可能となる。
この際、採水管50内には、残留水が浸入している恐れがある。そこで、本採水の開始時には、採水管50の上端から排出される水について、少なくとも採水管50の容積分に相当する量の水を廃棄した後に、採水容器内への貯留(受水)を開始する。これによって、採取された対象地下水への残留水の混濁を防止することが可能となる。
また、本採水では、加圧による採水量が多くなると、揚水部12内に揚水されている残存水が採取される恐れがある。そこで、本採水の進行中には、所定量の対象地下水が採取されるごとに、コンプレッサー200の作動を一時停止(本採水を一時停止)して、孔内バルブ30の弁体30aを開放して、揚水ケーシング10(大径部12b)内における残留水の水位の回復(揚水部12の下端部への対象地下水の呼び込み)を待った後に、孔内バルブ30の弁体30aを閉止して、コンプレッサー200の作動を再開(本採水を再開)する必要がある。
そして、目的とする量の対象地下水を採取したことにより、コンプレッサー200を停止して、本採水を終了する。
【0029】
(採水装置1の作用・効果)
次に、採水装置1の作用・効果を説明する。
採水装置1では、井戸w内に挿入される揚水ケーシング10の外周面において、パッカー20a,20bが配置されている。
これによって、井戸w内において、採水区間sを限定することができる。したがって、パッカー20a,20bが機能している状態では、対象外の地盤から湧出する地下水や井戸内に残留する雨水・掘削水等の揚水ケーシング10内への浸入が防止され、対象地下水のみを揚水ケーシング10内へ浸入させることが可能となる。
特に、採水装置1では、揚水部12からストレーナ部11への地下水の逆流を阻止する孔内バルブ30と、揚水部12の下端部から地上へ地下水を導く採水管50と、揚水ケーシング10の上端部に圧縮気体を供給するコンプレッサー200と、を備えている。
これによって、揚水部12からストレーナ部11への地下水の逆流が阻止されている状態で、揚水ケーシング10の上端部に対して圧縮気体を供給することで、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水が、気体の圧力により押し出され、採水管50を介して、地上に導かれる。
したがって、揚水ケーシング10内の全体の残留水が対象地下水に置換されていなくても、揚水部12の下端部の残留水が対象地下水に置換されていれば、地上において対象地下水を採取できる。よって、揚水ケーシング10内の全体の残留水を対象地下水に置換する必要がなくなり、対象地下水の採取に要する時間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取にあたって、揚水部12の下端部の残留水を対象地下水に置換すれば足りるため、対象地下水の採水に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
また、対象地下水の採取にあたって、採水器の昇降が不要となるため、採水器の投入から回収までに要する時間を待つ必要がなくなるとともに、対象地下水に対して水質等が異なる地下水が採取される恐れを防止することが可能となる。
以上により、採水装置1では、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。
特に、採水装置1は、対象地盤の深度が数百[m](特に、1000[m]以上)となる場合(数百[m](特に、1000[m]以上)の深度に採水区間sが形成される場合)の地下水の採取に用いることに適している。
【0030】
さらに、採水装置1では、揚水ケーシング10において、ポンプPを挿入することが可能な大径部12bが設けられている。これによって、地上から大径部12b内へポンプPを挿入することで、揚水ケーシング10内の残留水を対象地下水に置換する処理(予備排水)を容易に行うことが可能となる。
また、採水装置1では、揚水ケーシング10において、大径部12bの下方に連続する小径部12aが設けられている。特に、小径部12aの内径が、大径部12bの内径より小さくなっている。これによって、揚水ケーシング10内の容積が縮小され、揚水ケーシング10内の残留水を対象地下水に置換する処理(予備排水)に要する時間を短縮することが可能となる。
また、採水装置1では、ストレーナ部11から揚水された地下水の水質を測定する水質モニタリング装置40を備えている。これによって、ストレーナ部11から揚水された地下水の水質の径時的な変化に基づいて、揚水部12の下端部の残留水が対象地下水に置換されたことを確認した上で、対象地下水を採取することができる。したがって、対象地下水に対して水質等が異なる地下水が採取される恐れを防止することが可能となる。
【0031】
(採水装置1を用いた対象地下水の採取方法の作用・効果)
次に、採水装置1を用いた対象地下水の採取方法(採水方法)の作用・効果を説明する。
採水装置1を用いた対象地下水の採取方法では、ポンプPを用いて揚水部12の上端部に揚水されている残留水を排水することにより、揚水部12の下端部の残留水が、対象地下水に置換される。
その後、揚水部12からストレーナ部11への地下水の逆流を阻止した状態で、揚水部12の上端部を加圧することにより、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水が、気体の圧力により押し出され、採水管50を介して、地上に導かれる。
したがって、揚水ケーシング10内の全体の残留水が対象地下水に置換されていなくても、揚水部12の下端部の残留水が対象地下水に置換されていれば、地上において対象地下水を採取できる。よって、揚水ケーシング10内の全体の残留水を対象地下水に置換する必要がなくなり、対象地下水の採取に要する時間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取にあたって、揚水部12の下端部の残留水を対象地下水に置換すれば足りるため、対象地下水の採水に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
以上により、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採取を容易化することが可能となる。
特に、採水装置1を用いた対象地下水の採取方法は、対象地盤の深度が数百[m](特に、1000[m]以上)となる場合(数百[m](特に、1000[m]以上)の深度に採水区間sが形成される場合)の地下水の採取に適用することに適している。
【符号の説明】
【0032】
1 採水装置
10 揚水ケーシング
11 ストレーナ部
12 揚水部
12a 小径部
12b 大径部
12c 弁箱
20a,20b パッカー
40 水質モニタリング装置
50 採水管
60 加圧ヘッド
30 孔内バルブ
100 採水ユニット
200 コンプレッサー