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特許7303697吊荷の据付補助装置および吊荷の据付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】吊荷の据付補助装置および吊荷の据付方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/08 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
B66C13/08 L
B66C13/08 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019146606
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021024729
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】今村 一紀
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 琢
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山岸 雅
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-046894(JP,A)
【文献】実開昭56-092675(JP,U)
【文献】特開平08-119573(JP,A)
【文献】特開平10-087268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの吊ワイヤに吊られる吊治具と、この吊治具に設けられた吊荷を吊る吊り手段と、ジャイロ効果を利用して前記吊治具に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置とを備えた吊荷の据付補助装置において、
前記吊治具の外部に前記ジャイロ式旋回装置が配置されており、前記ジャイロ式旋回装置に接合されて前記旋回力を付与する際の旋回中心となる旋回軸と、前記吊治具に設けられて前記旋回軸を前記吊治具に対して回転可能に軸支する軸受と、前記吊治具に対する前記ジャイロ式旋回装置の旋回を止めた状態と前記吊治具に対して前記ジャイロ式旋回装置が旋回可能な状態とに切り替え可能な固定機構とを備えたことを特徴する吊荷の据付補助装置。
【請求項2】
前記軸受が前記旋回軸を支持する円錐台形状のテーパ孔部を有し、前記旋回軸が前記テーパ孔部に内嵌めされる円錐台形状のテーパ部を有している請求項1に記載の吊荷の据付補助装置。
【請求項3】
前記固定機構が、前記吊治具に固定されて前記吊治具に対して前記旋回軸を制止可能なブレーキ装置と、前記ブレーキ装置を制御して前記ブレーキ装置により前記吊治具に対して前記旋回軸を制止させた状態と前記ブレーキ装置による前記吊治具に対する前記旋回軸の制止を解除した状態と、を切り替える制御装置とを有して構成された請求項1または2に記載の吊荷の据付補助装置。
【請求項4】
クレーンの吊ワイヤによって吊治具を吊り、前記吊治具に設けられた吊り手段によって吊荷を吊った状態で、ジャイロ効果を利用して前記吊治具に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置を使用して、前記吊荷を据付目標位置に据付ける吊荷の据付方法において、
前記ジャイロ式旋回装置を駆動させ、前記吊治具に対して旋回可能に連結している前記ジャイロ式旋回装置の前記吊治具に対する旋回を止めた状態で、前記ジャイロ式旋回装置により前記吊治具に対して旋回力を付与して前記吊荷の姿勢制御を行いつつ、前記吊荷を前記据付目標位置の近傍まで移送し、
前記ジャイロ式旋回装置を前記吊治具に対して旋回可能な状態にして、前記吊荷の前記据付目標位置に対する位置調整作業を行うことを特徴とする吊荷の据付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷の移送補助装置および吊荷の据付方法に関し、さらに詳しくは、クレーンを用いた吊荷の据付作業の作業性を向上できる吊荷の据付補助装置および吊荷の据付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風の影響を受けやすい海上等でクレーンを用いて吊荷の据付作業を行う場合には、クレーンの吊ワイヤで吊っている吊治具や吊治具に吊られている吊荷が、風の力を受けて水平方向に旋回してしまうため、吊治具および吊荷の姿勢(向き)を制御することが難しい。そこで、吊荷の姿勢制御を行う装置として、ジャイロ効果を利用して吊治具に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置が使用されている(例えば、特許文献1参照)。ジャイロ式旋回装置は、フライホイールを回転駆動させるとともにジンバルによりフライホイールを傾動させることによってジャイロモーメントを発生させる。特許文献1に記載の発明のように、従来、ジャイロ式旋回装置は吊治具に単純に接合されていた。
【0003】
しかしながら、このようなジャイロ式旋回装置による姿勢制御だけでは、吊荷を据付目標位置に据え付ける直前の位置調整作業(位置合わせの微調整)を行うことが難しい。そこで、作業員や潜水士が吊荷に接続している介錯ロープや押棒等を用いて位置調整作業を行っていた。ところが、ジャイロ式旋回装置を作動させたままの状態では、吊治具および吊荷がジャイロ式旋回装置によるジャイロ効果によって制動されているので、介錯ロープや押棒を用いて相応の大きな力を吊荷に加える必要があった。
【0004】
位置調整作業を行う際に、ジャイロ式旋回装置のフライホイールの回転を停止させればジャイロ効果をなくすことができる。しかし、高速回転しているフライホイールの回転を停止させるには時間を要する。また、一度停止させたフライホイールを再び高速回転させる復帰作業も時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-267579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の吊荷の据付補助装置は、クレーンの吊ワイヤに吊られる吊治具と、この吊治具に設けられた吊荷を吊る吊り手段と、ジャイロ効果を利用して前記吊治具に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置とを備えた吊荷の据付補助装置において、前記吊治具の外部に前記ジャイロ式旋回装置が配置されており、前記ジャイロ式旋回装置に接合されて前記旋回力を付与する際の旋回中心となる旋回軸と、前記吊治具に設けられて前記旋回軸を前記吊治具に対して回転可能に軸支する軸受と、前記吊治具に対する前記ジャイロ式旋回装置の旋回を止めた状態と前記吊治具に対して前記ジャイロ式旋回装置が旋回可能な状態とに切り替え可能な固定機構とを備えたことを特徴する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の吊荷の据付補助装置は、クレーンの吊ワイヤに吊られる吊治具と、この吊治具に設けられた吊荷を吊る吊り手段と、ジャイロ効果を利用して前記吊治具に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置とを備えた吊荷の据付補助装置において、前記ジャイロ式旋回装置に接合されて前記旋回力を付与する際の旋回中心となる旋回軸と、前記吊治具に設けられて前記旋回軸を前記吊治具に対して回転可能に軸支する軸受と、前記吊治具に対する前記ジャイロ式旋回装置の旋回を止めた状態と前記吊治具に対して前記ジャイロ式旋回装置が旋回可能な状態とに切り替え可能な固定機構とを備えたことを特徴する。
【0008】
本発明の吊荷の据付方法は、クレーンの吊ワイヤによって吊治具を吊り、前記吊治具に設けられた吊り手段によって吊荷を吊った状態で、ジャイロ効果を利用して前記吊治具に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置を使用して、前記吊荷を据付目標位置に据付ける吊荷の据付方法において、前記ジャイロ式旋回装置を駆動させ、前記吊治具に対して旋回可能に連結している前記ジャイロ式旋回装置の前記吊治具に対する旋回を止めた状態で、前記ジャイロ式旋回装置により前記吊治具に対して旋回力を付与して前記吊荷の姿勢制御を行いつつ、前記吊荷を前記据付目標位置の近傍まで移送し、前記ジャイロ式旋回装置を前記吊治具に対して旋回可能な状態にして、前記吊荷の前記据付目標位置に対する位置調整作業を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吊治具に対して旋回可能に連結しているジャイロ式旋回装置の吊治具に対する旋回を止めた状態にして、ジャイロ式旋回装置により吊治具に旋回力を付与することで吊荷の姿勢制御を行なえる。さらに、ジャイロ式旋回装置を吊治具に対して旋回可能な状態にすることで、ジャイロ式旋回装置が駆動している状態においても、ジャイロ式旋回装置によるジャイロ効果が吊治具および吊荷にほとんど作用しない状態にできる。そのため、吊荷の据付目標位置に対する位置調整作業が行い易くなり、吊荷の据付作業の作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の据付補助装置を吊り下げたクレーンによって吊荷の据付作業を行っている状況を側面視で模式的に例示する説明図である。
図2図1のA矢視図である。
図3図1の据付補助装置を平面視で例示する説明図である。
図4図3のB-B断面矢視図である。
図5図1の固定機構を平面視で拡大して例示する説明図であり、吊治具に対するジャイロ式旋回装置の旋回を止めた状態を示している。
図6図1の固定機構を平面視で拡大して例示する説明図であり、吊治具に対してジャイロ式旋回装置が旋回可能な状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の吊荷の据付補助装置および吊荷の据付方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1図6に例示する本発明の吊荷の据付補助装置1は、クレーン20を用いて吊荷30の据付作業を行う際に使用する。図1に例示するように、この実施形態では、吊荷30として消波ブロックを防波堤に据付する据付作業を例示しているが、据付補助装置1は種々の吊荷30の据付作業に使用できる。
【0013】
図2および図3に例示するように、据付補助装置1は、クレーン20の吊ワイヤ21に吊られる吊治具2と、この吊治具2に設けられた吊荷30を吊る吊り手段3と、ジャイロ効果を利用して吊治具2に対して旋回力を付与するジャイロ式旋回装置4(以下、旋回装置4という)とを備えている。据付補助装置1はさらに、旋回装置4に接合された旋回軸5と、吊治具2に設けられて旋回軸5を吊治具2に対して回転可能に軸支する軸受6と、吊治具2に設けられた固定機構8とを備えている。
【0014】
旋回軸5は、旋回装置4によって吊治具2に対して旋回力を付与する際の旋回中心となる。クレーン20の吊ワイヤ21によって吊治具2が吊られた状態では、旋回軸5の軸方向は略鉛直方向となり、吊治具2の長手方向は旋回軸5の軸方向と直交する略水平方向となる。図中では、旋回軸5の軸中心Cを一点鎖線で示している。図中のX方向は吊治具2の長手方向、Y方向は吊治具2の幅方向、Z方向は旋回軸5の軸方向を示している。
【0015】
図2および図3に例示するように、吊治具2は、吊治具2の中央部分を構成する長方体形状の台座部2aと、この台座部2aのX方向の両端部からそれぞれX方向に張り出した天秤部2bとを有している。台座部2aの中央には、Z方向に貫通する貫通孔が設けられている。台座部2aは例えば、金属製のフレーム部材や板状部材などで形成される。天秤部2bは例えば、H形鋼や溝形鋼などの鋼材で形成される。
【0016】
それぞれの天秤部2bの外側端部の上部には、クレーン20の吊ワイヤ21が連結される吊金具2cが設けられている。この実施形態では、クレーン20のアームから垂下された吊ワイヤ21の下端部に設けられているフック22に、2本の吊ワイヤ21の上端部を連結し、その2本の吊ワイヤ21の下端部をそれぞれの天秤部2bに設けられた吊金具2cに連結している。
【0017】
この実施形態の吊り手段3は、吊治具2に対して吊荷30を吊る2本の吊ワイヤ3aで構成されている。それぞれの天秤部2bのX方向の外側端部の下部に設けられている吊金具2dにそれぞれ吊ワイヤ3aの上端部が連結され、それぞれの吊ワイヤ3aの下端部に吊荷30が連結される。
【0018】
吊治具2の形状やサイズ等は、この実施形態に限定されず、対象となる吊荷30の形状やサイズに応じて適宜設定できる。吊り手段3は、吊ワイヤ3aに限らず例えば、上端部が吊治具2に連結されて下端部が吊荷30に連結される棒状部材や、吊治具2の下部に設けられた吊荷30を掴むクランプなどで構成することもできる。
【0019】
図4に例示するように、軸受6は、吊治具2の台座部2aに設けられている貫通孔に内嵌めされている。軸受6は、軸受6および台座部2aの上側と下側に設けられた軸受固定部7によって台座部2aに固定されている。吊治具2に対する軸受6の固定方法は特に限定されず、例えば、吊治具2と軸受6とを溶接や接着剤などで接合した構成にすることもできる。この実施形態の軸受6は旋回軸5を支持する円錐台形状のテーパ孔部6aを有している。テーパ孔部6aは上方から下方に向かって縮径している。軸受6は、転がり軸受にすることもできるし、滑り軸受にすることもできる。
【0020】
旋回装置4は、吊治具2の下方に離間して配置されている。旋回装置4は、箱型のケーシング4aと、Z方向に回転する回転軸4cを中心としてケーシング4aに対して回転可能なジンバル4bと、ジンバル4bの回転軸4cを回転駆動させるジンバル用モータ4dと、ジンバル4bの回転軸4cと直交するスピン軸4fを中心として回転可能なフライホイール4eと、フライホイール4eのスピン軸4fを回転駆動させるフライホイール用モータ4gとを有している。旋回装置4は、さらに、ジンバル用モータ4dおよびフライホイール用モータ4gを制御する制御部4hと、ジンバル用モータ4d、フライホイール用モータ4g、および制御部4hに電力を供給するバッテリー4iとを有している。
【0021】
ジンバル用モータ4dはケーシング4aに対して固定されている。フライホイール用モータ4gはジンバル4bに固定されている。ジンバル用モータ4dによりジンバル4bの回転軸4cをZ方向に回転させることで、フライホイール4eがZ方向に傾動する構造になっている。制御部4hはコントローラ14に通信可能に接続されていて、作業員がコントローラ14を操作することで、制御部4hを介してジンバル用モータ4dおよびフライホイール用モータ4gを遠隔操作できる構成になっている。
【0022】
この実施形態では、ケーシング4aの長手方向の両端部の上部にそれぞれ、ケーシング4aの幅方向に延在した棒状の天秤受け部材15を設けている。
【0023】
旋回軸5は、旋回装置4のケーシング4aの上部から上方に突設されている。この実施形態の旋回軸5は、軸受6のテーパ孔部6aに回転可能に内嵌めされる円錐台形状のテーパ部5aと、テーパ部5aとケーシング4aの上部とを接合する柱状の接合部5bと、テーパ部5aの上部から上方に突設された円柱形状の突出部5cとを有している。テーパ部5aは、上方から下方に向かって縮径している。テーパ部5aがテーパ孔部6aに内嵌めされた状態で軸受6に支持されることで、旋回軸5および旋回装置4が、軸受6を介して吊治具2に対して旋回可能に支持された構造になっている。突出部5cは台座部2aの上端部よりも上方に突出している。
【0024】
固定機構8は、吊治具2に対する旋回装置4の旋回を止めた状態と吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態とに切り替え可能な機構である。図5および図6に例示するように、この実施形態の固定機構8は、吊治具2に対して旋回軸5を制止可能なブレーキ装置9と、ブレーキ装置9を制御する制御装置13とを有している。ブレーキ装置9および制御装置13はそれぞれ台座部2aの上部に固定されている。
【0025】
制御装置13は、ブレーキ装置9により吊治具2に対して旋回軸5を制止させた状態と、ブレーキ装置9による吊治具2に対する旋回軸5の制止を解除した状態と、を切り替える制御を行う。制御装置13はコントローラ14に通信可能に接続されていて、作業員がコントローラ14を操作することで、制御装置13を介してブレーキ装置9を遠隔操作できる構成になっている。この実施形態では、旋回装置4の遠隔操作とブレーキ装置9の遠隔操作を同じコントローラ14で行える構成にしているが、旋回装置4の遠隔操作を行うコントローラ14と、ブレーキ装置9の遠隔操作を行うコントローラ14とを別々に設けることもできる。
【0026】
この実施形態では、ブレーキ装置9を、無励磁作動式のドラム型電磁ブレーキ装置で構成している。このブレーキ装置9は、吊治具2の台座部2aに固定された支台10と、旋回軸5の突出部5cの周面に押し当てられる一対のブレーキシュー11と、支台10に対して一対のブレーキシュー11を移動可能に連結する可動機構12とを有している。
【0027】
可動機構12は、電磁石12aによる電磁力とバネ部材12bによる付勢力を利用して、支台10に対して一対のブレーキシュー11を移動させる構造になっている。図5に例示するように、可動機構12は、電磁石12aを構成するコイルに電流が流れていない非通電状態では、バネ部材12bによる付勢力により、一対のブレーキシュー11を突出部5cの周面に押し当てた状態にする。これにより、ブレーキ装置9が、吊治具2に対して旋回軸5を制止させた状態となる。
【0028】
図6に例示するように、可動機構12は、電磁石12aを構成するコイルに電流が流れている通電状態では、電磁石12aによる電磁力により、ブレーキシュー11を旋回軸5の突出部5cから離反させた状態にする。これにより、ブレーキ装置9が吊治具2に対する旋回軸5の制止を解除した状態となる。
【0029】
この実施形態の制御装置13はバッテリーを有していて、制御装置13からブレーキ装置9(電磁石12aのコイル)へ電力を供給しない非通電状態と、制御装置13からブレーキ装置9へ電力を供給する通電状態とを切り替えることで、ブレーキ装置9により吊治具2に対して旋回軸5を制止させた状態と、ブレーキ装置9による吊治具2に対する旋回軸5の制止を解除した状態と、を切り替える構成になっている。
【0030】
次に、据付補助装置1を使用して吊荷30を据付目標位置TPに据付ける方法を説明する。
【0031】
クレーン20の吊ワイヤ21によって吊治具2を吊り、吊治具2に設けられた吊り手段3によって吊荷30を吊った状態にする。吊荷30の位置調整作業に介錯ロープ40を用いる場合には、吊荷30を上空に吊り上げる前に、予め介錯ロープ40を吊荷30に接続しておく。そして、オペレータがクレーン20を操作して据付補助装置1および吊荷30を据付目標位置TPの近傍まで移送する。据付目標位置TPの近傍とは、例えば、据付目標位置TPに対する離間距離が3m~5m以内の範囲である。
【0032】
据付補助装置1および吊荷30を据付目標位置TPの近傍まで移送する移送工程では、図5に例示するように、固定機構8により旋回装置4の吊治具2に対する旋回を止めた状態にする。この実施形態では、陸上或いは船上の作業員がコントローラ14により、制御装置13を介してブレーキ装置9を遠隔操作することで、ブレーキ装置9によって吊治具2に対して旋回軸5を制止させた状態にする。
【0033】
そして、移送工程では、作業員がコントローラ14を操作して、旋回装置4を駆動させて、フライホイール4eを回転駆動させた状態にする。そして、旋回装置4により吊治具2に対して旋回力を付与することで、吊治具2および吊荷30の姿勢制御を行う。
【0034】
旋回装置4は、旋回装置4を能動的に旋回させることで吊治具2および吊荷30の姿勢を変える能動制御モードと、風などの外乱による旋回装置4の旋回を抑制することで吊治具2および吊荷30を現在の姿勢で維持する受動制御モードと、を切り替えることができる。
【0035】
能動制御モードでは、ジンバル用モータ4dによりジンバル4bを強制回転させて、高速回転しているフライホイール4eを強制的に傾動させることで、旋回装置4を旋回させるジャイロモーメントを発生させる。旋回装置4を旋回させる旋回力が旋回軸5および固定機構8を介して吊治具2に伝達されることで、吊治具2に旋回軸5を中心とした旋回力が付与され、吊治具2および吊荷30が旋回する。
【0036】
受動制御モードでは、フライホイール4eが高速回転した状態で、ジンバル用モータ4dがジンバル4bの回転軸4cをフリーに回転可能な状態とする。この状態にすると、風などの外乱により、旋回装置4を旋回させる外力が加わった場合には、ジャイロ効果により、その外力の方向に応じてジンバル4bの回転軸4cが自然に回転することで、旋回装置4の旋回を阻止する方向に旋回力(抵抗力)が働く。これにより、旋回装置4、吊治具2、および吊荷30の現在の姿勢が維持される。
【0037】
据付補助装置1および吊荷30を据付目標位置TPの近傍まで移送し終えた後には、旋回装置4の駆動を停止させずに、フライホイール4eを回転駆動させた状態で、図6に例示するように、固定機構8により、旋回装置4を吊治具2に対して旋回可能な状態に切り替える。この実施形態では、作業員がコントローラ14により、制御装置13を介してブレーキ装置9を遠隔操作することで、ブレーキ装置9による吊治具2に対する旋回軸5の制止を解除した状態に切り替える。
【0038】
吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態にすると、旋回装置4による旋回力が吊治具2にほとんど伝達されない状態になる。そして、この吊治具2および吊荷30が旋回装置4のジャイロ効果の影響をほとんど受けない状態で、作業員が介錯ロープ40や押棒などを用いて吊荷30の据付目標位置TPに対する位置調整作業を行い、吊荷30を据付目標位置TPに据付ける。この際、作業員は据付補助装置1および吊荷30やクレーン20から十分に離れた安全な位置で位置調整作業を行う。そして、吊治具2の吊り手段3と吊荷30との連結を解除する。以上により、吊荷30の据付作業が完了する。
【0039】
吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態にしているときには、旋回装置4は、旋回装置4の現在の姿勢を維持する受動制御モードに設定するとよい。受動制御モードに設定することで、旋回装置4が不要に旋回することを防ぐことができる。
【0040】
別の吊荷30の据付作業を継続して行う場合には、旋回装置4の駆動を停止させずに、フライホイール4eを回転駆動させた状態で、クレーン20を操作して据付補助装置1を次の吊荷30の載置位置の上方まで移動させる。そして、吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態で、吊治具2に設けられた吊り手段3と吊荷30とを連結する。
【0041】
次いで、クレーン20を操作して吊荷30を載置位置から上空に吊り上げた後に、固定機構8により旋回装置4の吊治具2に対する旋回を止めた状態に切り替える。そして、旋回装置4により吊治具2および吊荷30の姿勢制御を行いつつ、据付補助装置1および吊荷30をその吊荷30の据付目標位置TPの近傍まで移送する。この後の作業手順は前述した作業手順と同じである。
【0042】
このように、本発明によれば、吊治具2に対して旋回可能に連結している旋回装置4の吊治具2に対する旋回を止めた状態にして、旋回装置4により吊治具2に旋回力を付与することで吊荷30の姿勢制御を行なえる。それ故、風の影響を受けやすい施工条件の場合にも、吊治具2および吊荷30を据付目標位置TPの近傍まで安定した所望の姿勢で移送できる。
【0043】
さらに、吊治具2に対して旋回装置4を旋回可能な状態にすることで、旋回装置4が駆動し、フライホイール4eが回転駆動している状態においても、旋回装置4によるジャイロ効果が吊治具2および吊荷30にほとんど作用しない状態にできる。そのため、吊荷30の据付目標位置TPに対する位置調整作業を行う際に、介錯ロープ40や押棒等を用いて吊荷30を所望の位置に移動させ易くなる。このように、旋回装置4による姿勢制御を可能にしつつ、吊荷30の位置調整作業がより行い易くなるので、吊荷30の据付作業の作業性を向上できる。
【0044】
例えば、吊荷30の位置調整作業を行う際に、旋回装置4の駆動を停止して、フライホイール4eの回転を停止させれば旋回装置4によるジャイロ効果をなくすことができるが、高速回転しているフライホイール4eの回転を停止させるには時間を要する。また、一度停止させたフライホイール4eを再び高速回転させる復帰作業にも時間を要するため、複数の吊荷30の据付作業を行う場合に作業効率が大幅に低下する。一方、本発明では、複数の吊荷30の据付作業を行う場合にも、旋回装置4の駆動を停止させて、フライホイール4eの回転を停止させる必要がない。それ故、本発明は、旋回装置4の駆動を停止させて、フライホイール4eの回転を停止させる方法よりも、複数の吊荷30の据付作業をより速やかに行うことができる。
【0045】
この実施形態のように、軸受6が旋回軸5を支持する円錐台形状のテーパ孔部6aを有し、旋回軸5がテーパ孔部6aに内嵌めされる円錐台形状のテーパ部5aを有する構成にすると、軸受6が旋回軸5および旋回装置4の荷重を安定して支持しつつ、軸受6に対して旋回軸5が円滑に回転する構造にできる。
【0046】
吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態では、吊治具2に対する旋回装置4の向きが変わることや、吊治具2に対して旋回装置4が相対的に旋回した状態になることがある。この実施形態のように、固定機構8が吊治具2に対して旋回軸5を制止可能なブレーキ装置9と制御装置13とを有する構成にすると、吊治具2に対する旋回装置4の向きによらず、ブレーキ装置9により旋回軸5を速やかに制止させることができる。これにより、吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態と、吊治具2に対する旋回装置4の旋回を止めた状態との切り替えを速やかに行えるので、据付作業の作業効率を高めるには有利になる。
【0047】
さらに、ブレーキ装置9をドラム型電磁ブレーキ装置で構成すると、ブレーキ装置9に対する電力の供給の有無を制御するだけでブレーキ装置9を簡易に制御できるので、制御装置13を簡素な構成にできる。さらに、ブレーキ装置9を無励磁作動式のドラム型電磁ブレーキ装置にすると、ブレーキ装置9に電力を供給していない状態で、吊治具2に対して旋回装置4が動かない状態となる。それ故、ブレーキ装置9とは別に吊治具2に対して旋回装置4を係止する固定具などを設けずとも、不使用時の据付補助装置1を安定した状態で運搬、保管できる。それ故、据付補助装置1の利便性をより高くできる。
【0048】
ブレーキ装置9は、吊治具2に対して旋回軸5を制止可能な構成であれば、この実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることもできる。例えば、ブレーキ装置9を励磁作動式のドラム型電磁ブレーキ装置にすることもできる。また、例えば、油圧や空気圧等を利用するドラム型ブレーキ装置9にすることもできる。この実施形態では、円柱形状の旋回軸5(突出部5c)に対してブレーキシューを押し当てて制止させるドラム型のブレーキ装置9にしているが、例えば、旋回軸5にブレーキディスクを設けて、ブレーキ装置9をそのブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けて制止させるディスクブレーキ装置にすることもできる。
【0049】
なお、吊治具2に対して旋回装置4を回転可能に支持できる構成であれば、旋回軸5および軸受6の形状や構造は上記で例示した実施形態の構成に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、旋回装置4を吊治具2の上方に配置することもできる。この場合には、旋回軸5は、例えば、旋回装置4のケーシング4aの下部から下方に突設され、旋回軸5の下部が吊治具2に設けられた軸受6に軸支された構造になる。また、固定機構8は、吊治具2に対する旋回装置4の旋回を止めた状態と吊治具2に対して旋回装置4が旋回可能な状態とに切り替え可能な構成であれば上記で例示した実施形態の構成に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、固定機構8は、吊治具2と旋回装置4との間で直接的に摩擦力を発生させることで吊治具2に対して旋回装置4を制止する、吊治具2または旋回装置4に設けられたブレーキ装置と、そのブレーキ装置を制御する制御装置とで構成することもできる。
【符号の説明】
【0050】
1 据付補助装置
2 吊治具
2a 台座部
2b 天秤部
2c、2d 吊金具
3 吊り手段
3a (吊荷を吊り下げる)吊ワイヤ
4 ジャイロ式旋回装置
4a ケーシング
4b ジンバル
4c 回転軸
4d ジンバル用モータ
4e フライホイール
4f スピン軸
4g フライホイール用モータ
4h 制御部
4i バッテリー
5 旋回軸
5a テーパ部
5b 接合部
5c 突出部
6 軸受
6a テーパ孔部
7 軸受固定部
8 固定機構
9 ブレーキ装置
10 支台
11 ブレーキシュー
12 可動機構
12a 電磁石
12b バネ部材
13 制御装置
14 コントローラ
15 天秤受け部材
20 クレーン
21 吊ワイヤ
22 フック
30 吊荷
40 介錯ロープ
TP 据付目標位置
C 旋回軸の軸中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6