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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】レール破断検知装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/00 20060101AFI20230628BHJP
   B61L 1/18 20060101ALI20230628BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230628BHJP
   G01N 27/20 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61L1/18 Z
G01M99/00 Z
G01N27/20 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019160111
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021037830
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】薗部 正和
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】香川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175439(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0158510(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
B61L 1/18
G01N 27/20
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対で構成される2本のレールに対して検知用直流信号を印加する信号発生器と、
前記検知用直流信号について、2本の前記レールの間に生じる不平衡に基づき前記レールの破断を検知する破断検知部と
を備えるレール破断検知装置。
【請求項2】
記破断検知部は、2本の前記レールに流れる電流に関する不平衡率に基づき2本の前記レールのいずれか一方における破断の発生を検知する、請求項1に記載のレール破断検知装置。
【請求項3】
前記破断検知部は、前記検知用直流信号の一方と他方とについてそれぞれ予め定められた閾値に基づき2本の前記レール双方における破断の発生を検知する、請求項2に記載のレール破断検知装置。
【請求項4】
前記信号発生器は、少なくとも帰線電流が流れていない時に前記検知用直流信号を印加する、請求項1~3のいずれか一項に記載のレール破断検知装置。
【請求項5】
前記破断検知部は、前記帰線電流が流れている場合、前記帰線電流と前記検知用直流信号との合算値に基づき破断を検知する、請求項4に記載のレール破断検知装置。
【請求項6】
前記信号発生器は、前記帰線電流の逆流を阻止するダイオードを有する、請求項4及び5のいずれか一項に記載のレール破断検知装置。
【請求項7】
前記信号発生器は、前記レールの絶縁継ぎ目に対応して、前記レールの一端から他端までの間に前記検知用直流信号を印加する、請求項1~6のいずれか一項に記載のレール破断検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用レールの破断を検知するレール破断検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用レールの破断を検知するための装置として、例えば特許文献1に例示されるように、帰線電流を利用するものが知られている。
【0003】
しかしながら、例えば特許文献1に開示の技術では、帰線電流を利用することで破断検知を可能にするものとなっているため、帰線電流が流れていない場合、すなわち電車が走行していない時には、レール破断の検出ができない。このため、例えば、レール破断の常時検出の要請に対しては、必ずしも対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5827465号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、例えば、列車が走行していないために帰線電流が検出されない、というような場合でも、レールの破断検知が可能になるレール破断検知装置を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するためのレール破断検知装置は、レールに対して検知用直流信号を印加する信号発生器と、検知用直流信号に基づきレールの破断を検知する破断検知部とを備える。
【0007】
上記レール破断検知装置では、信号発生器が、レールに対して検知用直流信号を印加し、破断検知部が、当該検知用直流信号に基づきレールの破断を検知することで、例えば、列車が走行していないために帰線電流が検出されない、というような場合でも、検知用直流信号に基づいて、レールの破断検知が可能になる。
【0008】
本発明の具体的な側面では、信号発生器は、一対で構成される2本のレールに対して、検知用直流信号を印加し、破断検知部は、2本のレールに流れる電流に関する不平衡率に基づき2本のレールのいずれか一方における破断の発生を検知する。この場合、検知用直流信号を一対構成のレールに印加することで、各レールにおける破断を検知できる。
【0009】
本発明の別の側面では、破断検知部は、検知用直流信号の一方と他方とについてそれぞれ予め定められた閾値に基づき2本のレール双方における破断の発生を検知する。この場合、予め定められた閾値に基づいて、例えば一対で構成される2本のレール間での相対的な差を求めることなく、レール双方において破断が発生していることを検知できる。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、信号発生器は、少なくとも帰線電流が流れていない時に検知用直流信号を印加する。この場合、帰線電流が流れていない時であっても、検知用直流信号に基づいて、レール破断の検知が可能になる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、破断検知部は、帰線電流が流れている場合、帰線電流と検知用直流信号との合算値に基づき破断を検知する。これにより、帰線電流が流れている場合においても、レール破断の検知が可能になる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、信号発生器は、帰線電流の逆流を阻止するダイオードを有する。この場合、ダイオードにより帰線電流の信号発生器内部への逆流を阻止できる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、信号発生器は、レールの絶縁継ぎ目に対応して、レールの一端から他端までの間に検知用直流信号を印加する。この場合、レール破断の検知が可能な範囲を適切なものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るレール破断検知装置の一例について概要を示すブロック図である。
図2】レール破断検知装置を設置した線路と走行する列車の様子を示す概略図である。
図3】レール破断検知装置の一構成例を示すブロック図である。
図4】列車走行時にレール破断が無い場合の破断検知の様子を示すブロック図である。
図5】列車走行時にレール破断が有る場合の破断検知の様子を示すブロック図である。
図6】(A)は、列車走行時以外において、レール破断が無い場合の破断検知の様子を示すブロック図であり、(B)は、レール破断が有る場合の破断検知の様子を示すブロック図である。
図7】レール破断検知装置の一動作例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1等を参照して、一実施形態に係るレール破断検知装置について一例を説明する。
【0016】
図1に例示するように、本実施形態のレール破断検知装置100は、信号発生器10と、破断検知部20とを備える。1つのレール破断検知装置100は、絶縁継ぎ目INで範囲が規定される1つの検知区間内にあるレールRLについてレール破断の有無の検知を行う。
【0017】
レール破断検知装置100は、例えば図2に例示するように、地上のうちレールRLの近傍であって、列車TRの走行を妨げない位置に設置されている。なお、図示のように、レール破断検知装置100の各部は、レールRLに接続されている。
【0018】
図1に戻って、レール破断検知装置100のうち、信号発生器10は、レールRLに対して検知用直流信号DDSを絶えることなく常時印加する。より具体的には、信号発生器10は、図示のように、一対で構成される2本のレールRL(以下、これらを第1及び第2レールRL1,RL2とする。)に対して配線がなされたものとなっており、各レールRL1,RL2につき1つずつの閉回路を形成している。さらに、信号発生器10は、検知用の信号として、直流電流を発生させて、一対で構成されるレールRLに検知用直流信号DDSとして流している。
【0019】
レール破断検知装置100のうち、破断検知部20は、帰線電流RC(図2参照)のみならず、検知用直流信号DDSに基づいて、レールRLの破断を検知する。すなわち、一対のレールRLに印加される検知用直流信号DDSの状態から、検知範囲におけるレールRLについて、レール破断が生じているか否かを検知する。なお、詳しい構成の一例については、後述する。
【0020】
一方、図2に例示するように、レールRL上を走行する列車TRについては、屋根部分に設けられたパンタグラフPAを介して、変電所(図示略)等からの架線(トロリ線)WIから走行するための電力源として、き電電流FCが供給されている。つまり、列車TRは、き電電流FCによってモーターMMを回転駆動させ、モーターMMに繋がれた車軸や車輪の回転による走行動作を可能にしている。この際、き電電流FCに対応する帰線電流RCが、レールRLを介して変電所等へ返される。なお、列車TRの走行のために、一般的には、1500V、100A~1000A程度の電圧及び電流(直流電流)が、き電すなわち給電されている。
【0021】
本実施形態では、レール破断検知装置100は、図1を参照して説明した検知用直流信号DDSと図2を参照して説明した帰線電流RCとの双方について、検知可能な構成となっている。より具体的には、破断検知部20において、検知用直流信号DDSのみが流れている場合すなわち印加されている場合も、検知用直流信号DDS及び帰線電流RCの双方が流れている場合も、電流値や電圧値等の検出が可能になっている。なお、このためには、破断検知部20において電流値や電圧値の測定可能な範囲を適宜調整しておけばよい。
【0022】
また、図示の例では、レールRLにおいて、検知用直流信号DDSと帰線電流RCとは、同一の方向(+Z方向)に流れていることが前提としている。ただし、変電所の位置によっては、帰線電流RCの流れる方向は逆になる(-Z方向になる)場合もあり得る。
【0023】
以下、図3等を参照して、レール破断検知装置100のより具体的な一構成例について説明する。
【0024】
まず、図示のように、レール破断検知装置100のうち、信号発生器10は、直流電源11と、ダイオード12と、抵抗13とを備える。また、信号発生器10は、+極側から延びる導線PWと、-極側から延びる導線NWとを有し、これらが、一対で構成される2本のレールRLを構成する第1及び第2レールRL1,RL2の一端及び他端に接続されている。
【0025】
直流電源11は、信号発生器10の主要部であり、例えば数十V程度の電圧で、最大数十A程度の直流電流を、検知用直流信号DDSとして、常時発生させるための電源である。なお、この場合、検知用直流信号DDSとなるべき電流は、帰線電流RCに比べて小さなものとなる。
【0026】
ダイオード12は、一方向について電流を流し、当該一方向の逆方向については、電流を流さない特性を有し、ここでは、直流電源11の+極側に設けられている。ダイオード12は、直流電源11から印加された検知用直流信号DDSが流れる方向については、電流を流す一方、その反対方向については、電流を流させないようにしている。つまり、図示の場合、信号発生器10において、ダイオード12により、帰線電流CRの逆流を阻止する(防止する)構成となっている。
【0027】
抵抗13は、直流電源11の-極側に設けられ、直流電源11において発生させる電圧や電流の値に応じた抵抗値を有するものとしている。例えば、変電所の位置によっては、ダイオード12では帰線電流CRの逆流を阻止(防止)できないことも想定される。これに対して、抵抗13のインピーダンスをレールRLのインピーダンスに対して十分高い値にしておくことで、帰線電流CRの逆流をかなり低減できる。
【0028】
また、図示の一例では、信号発生器10の+側に位置する導線PWは、第1レールRL1に接続される第1導線PW1と、第2レールRL2に接続される第2導線PW2とに分岐している。反対に、信号発生器10の-側に位置する導線NWは、第1レールRL1に接続される第1導線NW1と、第2レールRL2に接続される第2導線NW2とに分岐されたものが1つに集約されている。
【0029】
以上の構成について言い換えると、ここでは、1つの信号発生器10から分岐して、第1導線PW1から第1レールRL1を経て第1導線NW1につながる1つの閉回路RP1と、第2導線PW2から第2レールRL2を経て第2導線NW2につながるもう1つの閉回路RP2とが形成されている。なお、分岐による2つの閉回路RP1,RP2は、対称性を有しており、レール破断等が無い場合には、両方にほぼ同等の電流が等しく分配されて流れる。
【0030】
上記の場合、信号発生器10は、一対で構成される2本のレールRL1,RL2に対して、検知用直流信号DDSを、図示のように、第1検知用直流信号DDS1と、第2検知用直流信号DDS2とに分岐して、それぞれ対応する第1レールRL1と第2レールRL2とに印加するものとなる。
【0031】
また、ここで、図示のように、信号発生器10において、各導線PW1,PW2,NW1,NW2は、各レールRL1,RL2の境界を定める絶縁継ぎ目INに対応して、各レールRL1,RL2の一端から他端までの間に第1及び第2検知用直流信号DDS1,DDS2を印加している。図示の例では、各導線PW1,PW2,NW1,NW2は、各レールRL1,RL2のうち、絶縁継ぎ目INの近傍に接続されている。これにより、1つのレール破断検知装置100によって検知可能な1つの検知区間の範囲の大半においてレール破断を検知できる。つまり、レール破断の検知が可能な範囲を適切なものにできる。
【0032】
信号発生器10は、以上のような構成により、帰線電流RC(図2参照)が流れている時だけでなく、帰線電流RCが流れていない時であっても、検知用直流信号DDS(第1及び第2検知用直流信号DDS1,DDS2)を発生させている。
【0033】
次に、レール破断検知装置100のうち、破断検知部20の構成について一例を説明するが、ここでの破断検知部20については、帰線電流RCのみならず検知用直流信号DDSについての電流も検知可能であることすなわち電流等の検知可能レンジを除いて、例えば上記した引用文献1(特許第5827465号公報)における検知区間や信号処理装置等における構成と同様とすることが可能である。したがって、ここでは、概略のみ説明する。
【0034】
図示のように、破断検知部20は、第1及び第2接続部CN1,CN2と、第1及び第2検知部21a,21bと、信号処理装置22とを備える。
【0035】
第1及び第2接続部CN1,CN2は、一対構成の導線を有して構成されており、第1及び第2レールRL1,RL2にそれぞれに対応して接続されている。図示のように、各接続部CN1,CN2は、一対構成の導線を、レールRL1,RL2の延びる方向(Z方向)に沿って所定の間隔(例えば3~6m程度の範囲内での所定間隔)D1,D2だけ離して接続し、当該間隔D1,D2が、第1及び第2検知部21a,21bによる電流あるいは電圧の状況についての検知区間となっている。
【0036】
第1及び第2検知部21a,21bは、各種回路等で構成され、それぞれ接続される接続部CN1,CN2からの信号を処理して、第1及び第2レールRL1,RL2を流れる電流あるいは電圧の状況を検知する。ここでは一例として、第1及び第2接続部CN1,CN2における上記検知区間の大きさに伴って生じる電位差が検知される。
【0037】
信号処理装置22は、各種回路等で構成され、第1及び第2検知部21a,21bからの情報すなわちレールRL1,RL2を流れる電流の電位差について、必要に応じて比較等を行い、得られて結果に基づいてレール破断に関する判断を行う。
【0038】
以下、図4図6を参照して、上記構成のレール破断検知装置100による破断検知の様子について一例を説明する。まず、前提として、ここでは、信号発生器10により、検知用直流信号DDS(第1及び第2検知用直流信号DDS1,DDS2)が、常時、第1及び第2レールRL1,RL2に対して印加されているものとする。
【0039】
一方、帰線電流RCは、列車TRが走行している時のみ流れている。すなわち、列車TRの非走行時は、帰線電流RCは流れず、この際、レール破断が生じていなければ、第1及び第2レールRL1,RL2には、第1及び第2検知用直流信号DDS1,DDS2のみが流れる。
【0040】
図4は、列車TRが走行している時に、レール破断が無い場合の破断検知の様子を示している。一方、図5は、列車TRが走行している時に、レール破断が有る場合の破断検知の様子を示している。なお、この場合、レール破断を示す破断箇所RRは、帰線電流RCの進行方向(+Z方向)について、列車TRよりも前方に位置している。
【0041】
また、前提として、既述のように、列車TRは、架線WI及びパンタグラフPAを介して、変電所SSからき電電流FCの供給を受け、モーターMMを回転駆動させることで、走行している。
【0042】
ここで、図4に示すように、レール破断等が生じていなければ、走行する列車TRに起因する帰線電流RCは、列車TR内において、第1レールRL1を流れる成分である第1帰線電流RC1と、第2レールRL2を流れる成分である第2帰線電流RC2とに分岐されて流れ出るようになっている。したがって、図示の場合、第1レールRL1には、第1帰線電流RC1と、第1検知用直流信号DDS1とが流れており、第1検知部21aは、第1接続部CN1を介して、これらの合計についての電位差を検知する。ここでは、第1帰線電流RC1に起因する電位差をV1とし、第1検知用直流信号DDS1に起因する電位差をV1'とする。すなわち、電位差V1+V1'が、第1検知部21aで検知される電位差を示す。
【0043】
同様に、第2レールRL2には、第2帰線電流RC2と、第2検知用直流信号DDS2とが流れており、第2検知部21bは、第2接続部CN2を介して、これらの合計についての電位差を検知する。ここでは、第2帰線電流RC2に起因する電位差をV2とし、第2検知用直流信号DDS2に起因する電位差をV2'とする。すなわち、電位差V2+V2'が、第2検知部21bで検知される電位差を示す。
【0044】
以上のように、ここでの破断検知部20では、帰線電流RCが流れている場合、帰線電流RCと検知用直流信号DDS(すなわち検知用直流信号DDSに起因する電流)との合算値に相当する電位差の情報に基づき破断を検知している。
【0045】
以下、破断検知部20による検知の方法について、より具体的に説明する。まず、図4に例示するように、レール破断が起きておらず、検知用直流信号DDSや帰線電流RCの分岐が対等な構成で行われていれば、上記したもののうち、例えば第1検知用直流信号DDS1と第2検知用直流信号DDS2とは、同等に分岐され、同等の値を示し、第1帰線電流RC1と第2帰線電流RC2とについても同様のことが言える。延いては、電位差V1と電位差V2、あるいは、電位差V1'と電位差V2'、さらにはこれらの和すなわち合算値についても同様である。
【0046】
しかしながら、図5に例示するように、第1及び第2レールRL1,RL2のうち一方のレールにレール破断が起きている(図示の例では、第1レールRL1において、破断箇所RRができている。)場合には、レールが破断していない側の一方のみに電流が流れ、第1レールRL1と第2レールRL2との間に電流に関する不平衡が生じることになる。本実施形態では、かかる点を鑑み、上記不平衡について捉えるべく、一例として、信号処理装置22において、下記の式(1)を不平衡率と定め、当該不平衡率の大きさに基づいて、レール破断の有無を判定している。
(|V1+V1'|-|V2+V2'|)/(|V1+V1'|+|V2+V2'|)×100%…(1)
ここで、上式(1)に示す不平衡率において、分子における|V1+V1'|-|V2+V2'|は、第1レールRL1を流れる電流と第2レールRL2を流れる電流との間における差に相当する値を示している。この値が大きい場合、どちらか一方に偏って電流が流れているすなわち他の一方においてレール破断が起きている可能性が高いことになる。
【0047】
なお、上式(1)に示す不平衡率において、分母は、両電流の和に相当する値を示している。
【0048】
以上から、上式(1)に示す不平衡率に対して、閾値を予め定めておいた上で、破断検知部20において、信号処理装置22が、第1及び第2検知部21a,21bで測定された電位差について、上式(1)に示す不平衡率を算出し、算出された不平衡率が当該閾値以下ならば、図4のような状態にあるとしてレール破断無しの判定をし、閾値よりも大きければ、図5のような破断箇所RRが生じた状態にあるとしてレール破断有りの判定をする。
【0049】
信号処理装置22は、レール破断有りの判定をした場合、その判定結果を、他装置に伝える。例えば、信号処理装置22は、監視装置(図示略)等へ判定結果を送る。当該監視装置は、信号処理装置22より送られた結果に基づき、監視を行う対象エリアに列車TRを進入させないようにする等の処理を行う。
【0050】
さらに、本実施形態では、常時流れている検知用直流信号DDSを利用することで、上記のように列車TRが走行している時のみならず、列車TRが走行していない時、すなわち帰線電流RCを分岐した第1帰線電流RC1や第2帰線電流RC2が発生していない時であっても、上記と同様の態様で、レール破断の判定ができる。
【0051】
具体的には、列車TRの走行時以外においても、例えば図6(A)に示すように、レール破断が無い場合や、図6(B)に示すように、レール破断が有る(破断箇所RRが生じている)場合には、第1検知用直流信号DDS1と第2検知用直流信号DDS2との状況から判定を行う。この場合、信号処理装置22において、上式(1)のうち、第1及び第2帰線電流RC1,RC2に起因する電位差をV1,V2を除いた下記の式(2)により、レール破断の有無が判定される。
(|V1'|-|V2'|)/(|V1'|+|V2'|)×100%…(2)
この場合も、分子の差が大きい場合、どちらか一方に偏って電流が流れているすなわち他の一方においてレール破断が起きている可能性が高いことになるからである。したがって、信号処理装置22は、上式(2)から算出された不平衡率が予め定めた閾値以下ならば、図6(A)のような状態にあるとしてレール破断無しの判定をし、閾値よりも大きければ、図6(B)のような破断箇所RRが生じた状態にあるとしてレール破断有りの判定をする。
【0052】
以上のように、レール破断検知装置100は、破断検知部20において、2本のレールRL1,RL2に流れる電流に関する不平衡率に基づき、レールRL1,RL2のいずれか一方における破断の発生を検知する構成となっている。
【0053】
なお、図4等に示したように検知用直流信号DDSと帰線電流RCとの双方を検知する場合と、図6(A)等に示したように検知用直流信号DDSのみを検知する場合とでは、検知される電位差の値が大きく異なると想定されるため、例えば破断検知部20において、どちらの状態にあるかを区別することは可能であるが、ここでのレール破断の判定では、上記のような不平衡率のようなものを利用している。
【0054】
以下、図1等に示す信号発生器10に相当するものを有していないレール破断検知装置と本実施形態のレール破断検知装置100とでの相違について、簡単に考察する。
【0055】
信号発生器10に相当するものを有していない場合であっても、列車TRが走行している時においては、帰線電流RCを分岐した第1帰線電流RC1及び第2帰線電流RC2を利用することで、レール破断の有無についての判定が可能である。しかしながら、列車走行時以外においては、レール破断の有無についての判定ができない。特に、図6(B)のように、列車走行時以外において信号発生器10が無いと、レール破断(破断箇所RR)が生じていても、これを判定できない。
【0056】
本実施形態では、常時流れている検知用直流信号DDSを利用することで、かかる事態を回避している。すなわち、帰線電流RCが無い時でも、レール破断の検知が可能となっている。
【0057】
さらに、レール破断検知装置100では、|V1'|又は|V1+V1'|について別途閾値を定め、|V2'|又は|V2+V2'|についても別途閾値を定めることで、2本のレールRL1,RL2の双方においてレール破断(両レール破断)が発生した場合についての検知を可能にしてもよい。
【0058】
両レール破断の発生時は、|V1'|又は|V1+V1'|の値、|V2'|又は|V2+V2'|の値のいずれもが、小さくなる。特に、列車走行時以外では、検知用直流信号DDSに起因する|V1'|の値と、|V2'|の値とを検出することになるので、特に小さな値が検出されることになると考えられる。したがって、上記閾値を、例えばレール破断時の値として想定される|V1'|や|V2'|の値を基準に予め定めておき、当該閾値以上であるか否かを、不平衡率を算出する前に判定することで、まず、両レール破断が発生しているか否かを確認できる。すなわち、破断検知部20において、分岐された検知用直流信号DDSの一方である第1検知用直流信号DDS1と、他方である第2検知用直流信号DDS2とについて、それぞれ予め定められた閾値に基づき2本のレールRL1,RL2の双方における破断の発生を検知する。この場合、予め定められた閾値に基づいて、上記のように、レールRL1,RL2間での相対的な差を求めることなく、レールRL1,RL2双方において破断が発生していることを検知できる。
【0059】
以下、図7のフローチャートを参照して、レール破断検知装置100の一動作例について説明する。ここでは、上記した両レール破断の検知も行う場合の一例を説明する。このため、前提として、上記した|V1'|又は|V1+V1'|に関する閾値をV1tとし、上記した|V2'|又は|V2+V2'|に関する閾値をV2tとして定めておく。このほか、不平衡率に関する閾値も予め定められているものとする。
【0060】
まず、レール破断検知装置100のうち信号発生器10による検知用直流信号DDSや、列車TRからの帰線電流RCに起因して、破断検知部20の第1検知部21a及び信号処理装置22での検知及び算出により、電位差に関して|V1'|又は|V1+V1'|に相当する値が算出される。信号処理装置22は、算出された値が、閾値V1t以上であるか否かを判定する(ステップS101a)。また、同時並行して、破断検知部20の第2検知部21b及び信号処理装置22により、電位差に関して|V2'|又は|V2+V2'|に相当する値を算出し、信号処理装置22は、算出された値が、閾値V2t以上であるか否かを判定する(ステップS101b)。
【0061】
ステップS101aにおいて、閾値V1t以上でない(未満である)と判定された場合(ステップS101a:No)、あるいは、ステップS101bにおいて、閾値V2t以上でない(未満である)と判定された場合(ステップS101b:No)、信号処理装置22は、|V1'|又は|V1+V1'|の値と、|V2'|又は|V2+V2'|の値との双方が、ともに予め定めた閾値未満であるか否かを判定する(ステップS102)。
【0062】
ステップS102において、|V1'|又は|V1+V1'|の値が閾値V1t以上でなく(未満であり)、かつ、|V2'|又は|V2+V2'|の値が閾値V2t以上でない(未満である)と判定された場合(ステップS102:Yes)、すなわち、|V1'|又は|V1+V1'|の値と、|V2'|又は|V2+V2'|の値との双方が、ともに小さいと判定された場合、信号処理装置22は、両レール破断が発生していると判定し(ステップS103)、一連の動作を終了する。なお、この場合、信号処理装置22すなわちレール破断検知装置100は、不平衡率等を求めることなく、レール双方において破断が発生していることを検知していることになる。
【0063】
一方、ステップS102において、|V1'|又は|V1+V1'|の値が閾値V1t以上であるか、または、|V2'|又は|V2+V2'|の値が閾値V2t以上であると判定された場合(ステップS102:No)、信号処理装置22は、ステップS101a及びステップS101bの動作に戻る。なお、この場合、次のステップS101aにおいて閾値V1t以上となる(ステップS101a:Yes)か、ステップS101bにおいて閾値V2t以上となる(ステップS101b:Yes)。
【0064】
ステップS101aにおいて、閾値V1t以上であると判定された場合(ステップS101a:Yes)や、ステップS101bにおいて、閾値V2t以上であると判定された場合(ステップS101b:Yes)は、両レール破断は生じていないものとして、通常のレール破断すなわちどちらか一方についてレール破断が生じているか否かを検出すべく各種処理を開始する。具体的には、信号処理装置22は、第1及び第2検知部21a,21bで測定された電位差に基づく不平衡率の算出を行う。すなわち、上式(1)あるいは上式(2)の算出結果を得る(ステップS104)。さらに、信号処理装置22は、ステップS104において算出された結果と予め定めた不平衡率に関する閾値との大小比較に基づき、レール破断が生じているか否かを判定し、(ステップS105)一連の動作を終了する。
【0065】
以上のように、本実施形態に係るレール破断検知装置100は、レールRL(RL1,RL2)に対して、検知用直流信号DDS(DDS1,DDS2)を印加する信号発生器10と、検知用直流信号DDS1,DDS2に基づきレールRL1,RL2の破断を検知する破断検知部20とを備える。この場合、信号発生器10が、レールRL1,RL2に対して検知用直流信号DDS1,DDS2を印加し、破断検知部20が、検知用直流信号DDS1,DDS2に基づきレールRL1,RL2の破断を検知することで、例えば帰線電流RCが検出されないような場合でも、検知用直流信号DDS1,DDS2に基づいて、レールRL1,RL2の破断検知が可能になる。
【0066】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0067】
まず、上記では、列車TRは、パンタグラフPAにより電力を受けるものとしているが、例えばパンタグラフを有しないサードレール方式等種々の態様の列車が走行する線路においても、レール破断検知装置100を設置して適用することができる。さらに、非電化区間において、本願を適用することも考えられる。
【0068】
また、上記では、1つの信号発生器10から分岐して、第1レールRL1に関する閉回路RP1と、第2レールRL2に関する閉回路RP2とを形成しているが、例えば信号発生器10において分岐を行わず、1つの閉回路を形成し、当該閉回路において、1つのレールについての電位差Vを測定し、電位差Vに関して予め定めた閾値と比較することで、1本のレールについて判定を行う構成とすることも考えられる。
【0069】
また、上記では、1つのレール破断検知装置100が、絶縁継ぎ目INで区切られる1つの検知区間内にあるレールRLについてレール破断の有無の検知を行うものとしているが、1つのレール破断検知装置100による検知範囲については、これ以外にも種々の態様が考えられる。例えば1つの検知区間を絶縁継ぎ目INで区切られる区間よりも細かい範囲に区切ってレール破断を行ってもよい。
【0070】
また、不平衡率については、例示として、上式(1)や下記の式(2)を示したが、上記態様によるレール破断について判定可能な不平衡率を示すものであれば、これ以外の算出方法であってもよい。
【0071】
また、上記では、信号発生器10において、検知用直流信号DDSを常時発生させる態様としているが、信号発生器10が、少なくとも帰線電流RCが流れていない時に検知用直流信号DDSを印加する構成としておくことで、目的の達成が可能であり、例えば、帰線電流RCが流れている時は、検知用直流信号DDSを印加しない構成とすることも考えられる。
【0072】
また、上記した各閾値については、検知用直流信号DDSや帰線電流RCの電流値や電圧値の範囲を基準に、発生し得るノイズ等を考慮して適宜定めることができる。
【0073】
また、信号発生器10については、必要に足る検知用直流信号DDSを印加できれば種々の態様とすることができ、ダイオード12や抵抗13の構成については、複数にしたり、さらに並べ方を種々の態様としたりできる。
【符号の説明】
【0074】
10…信号発生器、11…直流電源、12…ダイオード、13…抵抗、20…破断検知部、22…信号処理装置、100…レール破断検知装置、100A…レール破断検知装置、CN1,CN2…接続部、CR…帰線電流、D1,D2…間隔、DDS…検知用直流信号、DDS1…第1検知用直流信号、DDS2…第2検知用直流信号、FC…き電電流、IN…絶縁継ぎ目、MM…モーター、PA…パンタグラフ、PW,PW1,PW2,NW,NW1,NW2…導線、RC…帰線電流、RL…レール、RL1…第1レール、RL2…第2レール、RP1,RP2…閉回路、RR…破断箇所、SS…変電所、TR…列車、V1,V1',V2,V2'…電位差、WI…架線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7