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特許7303725アクスルケースのブレーキフランジ取付構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】アクスルケースのブレーキフランジ取付構造
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/16 20060101AFI20230628BHJP
   B60K 17/32 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B60B35/16 B
B60K17/32 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019196330
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021070343
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真
(72)【発明者】
【氏名】田島 史渉
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-076403(JP,U)
【文献】実開昭61-163705(JP,U)
【文献】特開2017-039414(JP,A)
【文献】特開2018-176873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/16
B60K 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルケースの車幅方向両端部に夫々挿通された孔明き円板状のブレーキフランジと、該ブレーキフランジの孔から前記アクスルケースの表面に沿って車幅方向に延出された円筒部と、該円筒部にその内外を連通して周方向に形成されたスロット部と、該スロット部の内周面と前記アクスルケースの表面とを前記スロット部の周方向に沿って溶接して成る溶接ビードと、を備えたことを特徴とするアクスルケースのブレーキフランジ取付構造。
【請求項2】
前記円筒部が、前記ブレーキフランジの孔から前記アクスルケースの表面に沿って車幅方向の外方に延出されている、ことを特徴とする請求項1に記載のアクスルケースのブレーキフランジ取付構造。
【請求項3】
前記溶接ビートの溶接始端および溶接終端が、前記スロット部の鉛直方向最下部を避けて配置されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のアクスルケースのブレーキフランジ取付構造。
【請求項4】
前記スロット部が、車両前方または後方から見た場合に、前記円筒部の周方向に沿って前記アクスルケースの中立軸を横切るように形成され、前記溶接ビートの溶接始端および溶接終端が、前記アクスルケースの中立軸の部分に配置されている、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のアクスルケースのブレーキフランジ取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクスルケースに溶接によって取り付けられるブレーキフランジの取付構造に係り、特に、溶接部における亀裂発生を低コストで抑制したアクスルケースのブレーキフランジ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1(a)、図1(b)に示すように、トラックやバス等のアクスルケース1の車幅方向左右両端部には、制動装置を取り付けるためのブレーキフランジ2(孔明き円板)が夫々挿通され、ブレーキフランジ2の内周部がその周方向に沿ってアクスルケース1に隅肉溶接されている。3は溶接部としての溶接ビードである。かかるアクスルケース1には、ブレーキフランジ2よりも車幅方向内方に取り付けられたスプリングシート4に車重+積荷の荷重Fが下方向に加わり、ブレーキフランジ2よりも車幅方向外方に取り付けられたエンドチューブ5に車輪を介して路面反力の荷重Rが上方向に加わる。これらの荷重F、Rによって、アクスルケース1には下方に凸となる曲げ変形が生じる。このため、ブレーキフランジ2の溶接部3には、アクスルケース1の中立軸Nから下側の範囲において、引張応力が発生する。また、アクスルケース1には、車両の制動時に制動装置から制動トルクが入力される。制動トルクはブレーキフランジ2を介して溶接部3に伝わり、溶接部3全体に亘って剪断応力が生じる。
【0003】
上述の引張応力、剪断応力によって、ブレーキフランジ2の溶接部3に疲労亀裂が生じることが考えられる。この疲労亀裂を抑制するため、図1のII-II線矢視断面図である図2に示すように、孔明き円板状のブレーキフランジ2をアクスルケース1に溶接する溶接部(溶接ビード)3がブレーキフランジ2の内周部全周に亘ってはおらず、引張応力が高くなるアクスルケース1の下側の一部分に未溶接部Lを設定した対策が知られている(特許文献1参照)。この対策によれば、図1の荷重F、Rによってアクスルケース1が下方に凸となる曲げ変形した際、引張応力が高くなるアクスルケース1の下側の部分に溶接部3が存在しないため、引張応力に基づく溶接部3の疲労亀裂を抑制できる。想定される引張応力の大きさに応じて未溶接部Lの範囲を適宜広げることで、上下の荷重F、Rの引張応力に起因する溶接部3の亀裂抑制には有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-39414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図2において、未溶接部Lの範囲を拡大しすぎると、溶接部3の長さ(溶接長)が短くなるため、溶接強度と相関する溶接部3の「のど厚断面積(のど厚×溶接長)」が減少し、制動トルクによる剪断応力の上昇に繋がり、溶接部3の強度低下を招くことになる。従って、未溶接部Lの範囲を、上下荷重F、Rによる引張応力と、制動トルクによる剪断応力との双方に耐え得るように設定する必要があるが、様々な車両の用途によっては車両の装備重量が増し、それに応じてアクスルケース1に加わる荷重F、Rが増し、溶接部3における引張応力および剪断応力が増大するため、未溶接部Lの範囲を調整することのみでの対応では限界がある。
【0006】
また、図1に示す荷重F、Rによってアクスルケース1が下方に凸となる曲げ変形する際、図2に示す溶接部3においては、鉛直方向下端となる溶接ビード3の端部3aにて引張応力が最大となるところ、溶接ビード3の端部3aの形状は、図3に示すように、溶融金属の表面張力の作用で概ね半球状の形状となる。この半球状の溶接ビート3の端部3aに、溶接部における最大の引張応力が作用して応力集中が生じるため、溶接ビート3の端部3aを亀裂基点としてアクスルケースに溶接亀裂Kが生じる要因となる。
【0007】
また、図2に示すように、ブレーキフランジ2をアクスルケース1に固定する溶接部3に未溶接部Lを設定すると、ブレーキフランジ2をアクスルケース1に周方向に沿って溶接する際、溶け込み深さが不安定となる溶接の始端部または終端部が、溶接部3の鉛直方向下端(3aの位置)に位置せざるを得ない。溶接部3の鉛直方向下端は、上下の荷重F、Rによって引張応力が最も高くなる部位であるため、溶接強度が高いとはいえない溶接の端部3a(始端部、終端部)に大きな引張応力が作用することになり、破損する可能性が生じる。
【0008】
また、図1(b)に示す孔明き円板状のブレーキフランジ2を図1(a)に示すようにアクスルケース1の左右に挿通して取り付けると、ブレーキフランジ2が挿通された部分の剛性(断面係数)がブレーキフランジ2の挿通されていないその隣りの部分の剛性(断面係数)よりも大幅に高まる。従って、剛性激変部に溶接部3が設けられることになり、応力が集中し溶接部3に亀裂が生じる要因となる。
【0009】
なお、アクスルケース1に取り付けられるブレーキフランジ2の溶接部3の応力を低減する手段としては、一般的に、溶接部(溶接ビード)3の断面寸法(のど厚)の拡大や、アクスルケース1の板厚増し等の対策が考えられるが、アクスルケース1自体を改変しなければならず、アクスルケース1の重量、車両重量、アクスルケース1の製造コストの増大に繋がり、何等か対策が求められていた。
【0010】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、簡単な構成で、ブレーキフランジをアクスルケースに取り付ける溶接部における応力を軽減でき、車両上下方向の荷重により溶接部に生じる引張応力と、制動時の制動トルクにより溶接部に生じる剪断応力との双方の応力に対し、低コストで高い耐久性を発揮でき、溶接部における亀裂発生を抑制できるアクスルケースのブレーキフランジ取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成すべく創案された本発明によれば、アクスルケースの車幅方向両端部に夫々挿通された孔明き円板状のブレーキフランジと、ブレーキフランジの孔からアクスルケースの表面に沿って車幅方向に延出された円筒部と、円筒部にその内外を連通して周方向に形成されたスロット部と、スロット部の内周面とアクスルケースの表面とをスロット部の周方向に沿って溶接して成る溶接ビードと、を備えたことを特徴とするアクスルケースのブレーキフランジ取付構造が提供される。
【0012】
本発明に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造においては、円筒部が、ブレーキフランジの孔からアクスルケースの表面に沿って車幅方向の外方に延出されていてもよい。
【0013】
本発明に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造においては、溶接ビートの溶接始端および溶接終端が、スロット部の鉛直方向最下部を避けて配置されていてもよい。
【0014】
本発明に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造においては、スロット部が、車両前方または後方から見た場合に、円筒部の周方向に沿ってアクスルケースの中立軸を横切るように形成され、溶接ビートの溶接始端および溶接終端が、アクスルケースの中立軸の部分に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)ブレーキフランジに円筒部を設け、円筒部に形成したスロット部をアクスルケースに溶接しているので、溶接部分の剛性値は、アクスルケースの剛性値に円筒部の剛性値が加わることになり、アクスルケース自体を改変しなくても、図3に示す従来例と比べると円筒部の分だけ高まる。従って、溶接部における引張応力を軽減できる。
(2)ブレーキフランジが挿通されて剛性が大幅に高まった部分と何も挿通されていない剛性が低い部分との間の剛性が、円筒部によって徐変される。その剛性徐変部である円筒部をアクスルケースに溶接しているので、剛性が大きく変化することに起因する応力集中部への溶接接合を回避でき、溶接亀裂発生の抑制に有効である
(3)車重、路面反力によってアクスルケースが下方に凸となる曲げ変形した際、引張応力が最大となるスロット部の鉛直方向最下端において、溶接がスロット部の内周面に沿って折り返されているため、溶接ビードの端部が存在せず、図3に示す従来例のように溶接ビートの端部が表面張力により半球状となることに起因する応力集中を回避できる。
(4)スロット部の内周面をその周方向に溶接しているので、溶接の始端部、終端部を引張応力が最大となるスロット部の鉛直方向最下端を避けて設定できる。すなわち、溶け込みが不安定となって溶接強度が低くなる溶接の始端部、終端部を、溶接部の引張応力が最大となる部位から避けることができる。
(5)以上要するに、簡単な構成で、ブレーキフランジをアクスルケースに固定する溶接部における応力を軽減でき、車両上下方向の荷重により溶接部に生じる引張応力と、制動時の制動トルクにより溶接部に生じる剪断応力との双方の応力に対し、低コストで高い耐久性を発揮でき、溶接部における亀裂発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来例に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造を示す説明図であり、(a)はブレーキフランジが取り付けられたアクスルケースの斜視図、(b)はブレーキフランジの斜視図である。
図2図1のII-II線矢視断面図である。
図3図1の部分拡大斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造を示す説明図であり、(a)は車両の前後方向から見た正面図、(b)は上方から見た平面図、(c)は(a)のC-C線断面図である。
図5】(a)は図4に示すアクスルケースに、車重+積荷による下向荷重Fおよび路面反力による上向荷重Rが加わる様子を示す正面図、(b)は荷重F、Rによってアクスルケースに生じる曲げモーメントを示す図、(c)がアクスルケースにブレーキフランジおよび円筒部を挿通固定したことによって増大するアクスルケースの断面係数を示す図である。
図6】本発明の変形実施形態に係るアクスルケースのブレーキフランジ取付構造を示す説明図であり、(a)は車両の前後方向から見た正面図、(b)は上方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(アクスルケース1のブレーキフランジ取付構造の概要)
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、本発明の一実施家形態に係るアクスルケース1のブレーキフランジ取付構造は、アクスルケース1の車幅方向両端部に夫々挿通された孔明き円板状のブレーキフランジ2と、ブレーキフランジ2の孔からアクスルケース1の表面に沿って車幅方向に延出された円筒部6と、円筒部6にその内外を連通して周方向に形成されたスロット部7と、スロット部7の内周面とアクスルケース1の表面とをスロット部7の周方向に沿って溶接して成る溶接ビード8と、を備えている。以下、各構成要素について説明する。
【0019】
(アクスルケース1)
本実施形態に係るブレーキフランジ取付構造が適用されるアクスルケース1は、図1(a)に示すものと同様に、ディファレンシャル機構が収容されるディファレンシャル収容部1aと、ディファレンシャル収容部1aから車幅方向左右両側に延出された装置取付部1bとを備えている。
【0020】
装置取付部1bは、ディファレンシャル機構1aから延出されたドライブシャフトが挿通されるように筒状に形成されており、装置取付部1bには、車体フレームに取り付けたリーフスプリングから下向きの荷重F(車重+積荷)を受けるスプリングシート4が取り付けられている。装置取付部1bの車幅方向先端には、車輪を回転自在に取り付けるためのエンドチューブ5が取り付けられており、エンドチューブ5には、路面からの反力として上向きの荷重Rが加わる。
【0021】
アクスルケース1のディファレンシャル収容部1aおよび装置取付部1bは、本実施形態においては、図4(a)に示すように、上下に二分割されており、それら上下のパーツの突合部1cが溶接されている。図中、連続した山型記号は溶接部を表す。装置取付部1bの車幅方向先端には、エンドチューブ5が溶接によって取り付けられている。
【0022】
(ブレーキフランジ2)
図1(a)に示すように、アクスルケース1には、エンドチューブ5とスプリングシート4との間に位置して、ブレーキフランジ2が配設されている。図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、ブレーキフランジ2は、孔明き円板状に形成されており、アクスルケース1の車幅方向両端部に挿通されている。ブレーキフランジ2には、制動装置が取り付けられ、制動トルクが加わる。
【0023】
(円筒部6)
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、ブレーキフランジ2には、その端面から車幅方向にアクスルケース1の表面に沿って延出された円筒部6が設けられており、ブレーキフランジ2および円筒部6がアクスルケース1に挿通されている。ブレーキフランジ2および円筒部6は、鋼材からなり、鍛造加工や鋳造加工等によって一体的に成形されている。但し、ブレーキフランジ2と円筒部6とを別々に成形し、それらを溶接してもよい。
【0024】
(スロット部7)
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、円筒部6には、その内外を連通して周方向に沿ってスロット部7が形成されている。スロット部7は、本実施形態においては、円筒部6の車体前後方向の2箇所に、車両前方または後方から見た場合に、円筒部6の周方向に沿ってアクスルケース1の中立軸N(荷重F、Rによって曲げられるアクスルケース1の中立軸)を横切るように形成されている。なお、本実施形態における中立軸Nは、アクスルケース1の中心軸(ドライブシャフトの位置)と程等しいため、中心軸を代用してもよい。
【0025】
図4(c)に示すように、スロット部7の範囲は、アクスルケース1の中立軸N(中心軸)を中心とし、水平方向を0°として上下プラスマイナス30°の範囲Wに設定している。これにより、上下の荷重F、Rによってアクスルケース1が下に凸となるように曲げ変形した際、アクスルケース1の下部にて引張応力が大きくなる部分に溶接ビード8が配設されなくなり、アクスルケール1の上部にて圧縮応力が大きくなる部分に溶接ビード8が配設されなくなる。なお、スロット部7の範囲Wは、一例であり、上下プラスマイナス45°の範囲等でもよい。
【0026】
(溶接ビード8)
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、スロット部7の内周面とアクスルケース1の表面とは、スロット部7の周方向に沿って全周溶接して成る溶接ビード8によって接合されている。すなわち、ブレーキフランジ2は、円筒部6のスロット部7がアクスルケース1の表面に溶接されることで、アクスルケース1に取り付けられている。
【0027】
ここで、溶け込み深さが不安定となり易い溶接ビード8の溶接始端および溶接終端は、スロット部7の鉛直方向最下部7aを避けて配置されている。詳しくは、図4(a)に示すように、スロット部7は、円筒部6の周方向に沿ってアクスルケース1の中立軸Nを横切るように形成されており、溶接ビート8の溶接始端および溶接終端は、アクスルケース1の中立軸Nの部分に配置されている。
【0028】
(作用・効果)
図1(a)に示すアクスルケース1には、スプリングシート4を介して下向きの荷重Fが加わり、エンドチューブ5に路面反力として上向きの荷重Rが加わる。これらの荷重F、Rによって、アクスルケース1には下に凸となる曲げモーメントが生じ、アクスルケース1の中立軸N(中心軸)から下側の範囲において引張応力が発生する。引張応力の大きさは、アクスルケース1の左右中心軸に直交するアクスルケース1の断面係数に反比例する。亀裂発生の主な要因は、引張応力の高い部位に溶接部8(溶接ビード)が存在することであるから、溶接部8においてアクスルケース1の断面係数を大きくすることが、引張応力の低減に繋がり、亀裂発生抑制に対し有効である。
【0029】
本実施形態では、図5(a)に示すように、ブレーキフランジ2に円筒部6を設け、円筒部6に形成したスロット部7をアクスルケース1に溶接しているので、溶接部8の剛性値は、アクスルケース1の剛性値に円筒部6の剛性値が加わった値となる。よって、アクスルケース1自体を改変しなくても、図3に示す従来例と比べると円筒部6の分だけ溶接部8の剛性値が大きくなる。剛性値増大に連れて断面係数も増大することから、溶接部8における引張応力の軽減が図れる。図5(a)に示すように、中型車両向けの一般的なアクスルケース1について、例えば、アクスルケース断面を外径100mm、板厚6mmとし、円筒部6を外径112mm、板厚6mmとして、円筒部6の有無の断面係数を比較すると、図5(c)にハッチングの部分Zで示すように、円筒部6を追加することで断面係数が約2倍となって、引張応力は約1/2となり、亀裂発生の抑制に対して非常に有効である。
【0030】
また、図5(a)に示すように、アクスルケース1に挿通された円筒部6によってその部分の剛性(断面係数)が高まるため、図5(c)に示すように、ブレーキフランジ2が挿通されて剛性が大幅に高まった部分Xと何も挿通されていない剛性が低い部分Yとの間の部分Zの剛性が、円筒部6によってハッチングで示すように徐変される。その剛性徐変部である円筒部6のスロット部7をアクスルケース1に溶接しているので、図3に示す従来例のように円筒部6のないブレーキフランジ2をアクスルケース1に隅肉溶接したものと比べると、ブレーキフランジ2が有る部分Xと無い部分Yとの境界で剛性が大きく変化することに起因する応力集中部での溶接接合を回避でき、アクスルケース1の溶接亀裂発生の抑制に有効である。
【0031】
また、図5(a)に示すように、本実施形態においては、円筒部6がブレーキフランジ2から車幅方向外方に延出されているので、ブレーキフランジ2をアクスルケース1に固定するための溶接部8(溶接ビード)の位置が、図3に示す従来例のブレーキフランジ2の端部2aから車幅方向外方のスロット部7に移動する。溶接部8の位置がブレーキフランジ2の端部2aから車幅方向外方のスロット部7に移動することで、図5(b)に示すように、アクスルケース1に加わる路面反力Rによって溶接ビード8の部分に生じる曲げモーメントの腕の長さがL2からL1へと短くなる(L1<L2)。よって、溶接部8において、路面反力Rによる曲げモーメントが小さくなり、溶接部8の引張応力も小さくなり、溶接亀裂を抑制できる。
【0032】
ところで、図1(a)に示すように、アクスルケース1のスプリングシート4に荷重Fが下方に加わり、エンドチューブ5に路面反力の荷重Rが上方に加わり、アクスルケース1に下に凸となる曲げ変形が生じると、既述のように、アクスルケース1の中立軸Nから下側の範囲において引張応力が発生し、図4(a)に示すスロット部7においては、スロット部7の鉛直方向最下端7aにおいて引張応力が最大となる。
【0033】
図4(a)に示すように、引張応力が最大となるスロット部7の鉛直方向最下端7aにおいて、スロット部7の内周面に沿って溶接が折り返されて連続的に施されているので、スロット部7の鉛直方向最下端7aに溶接ビード8の端部が存在しなくなる。この結果、図3に示す従来例のように、溶接部3の引張応力が最大となる鉛直方向最下端にて、溶接ビート3の端部3aが表面張力により半球状となることに起因する応力集中を回避でき、亀裂の発生を抑制できる。
【0034】
なお、スロット部7の鉛直方向最下端7aに溶接ビート8の端部が存在しないようにするためには、溶接は、少なくともスロット部7の鉛直方向最下端7aにて折り返されるように施されていればよく、スロット部7の鉛直方向最上端7bにて折り返されるように溶接されていなくてもよい。すなわち、溶接部3の鉛直方向最下端における引張応力にポイントを絞った場合、溶接ビード8は、スロット部7の鉛直方向最下端7aにて折り返されるように設けられていればよく、スロット部7の内周面の全周に亘って設けられていなくてもよい。
【0035】
また、図4(a)に示すように、スロット部7の内周面をその周方向に溶接しているので、溶接の始端部、終端部を、引張応力が最大となるスロット部7の鉛直方向最下端7aを避けて設定できる。すなわち、高い引張応力が発生するスロット部7の鉛直方向最下部7aが、溶接ビード8の最弱部(溶け込みが不安定となって溶接強度が低くなる溶接始端部、溶接終端部)となる事態を回避できる。本実施形態においては、溶接ビード8の溶接始端部および溶接終端部を図4(a)にてアクスルケースの中立軸Nの部分に配置しているので、応力が最も低い中立軸Nの部分が溶接ビード8の最弱部となり、強度のバランスが良好となる。
【0036】
また、図4(a)に示すように、本実施形態によれば、スロット部7の内周面をその周方向に全周に亘って折り返すように溶接しているので、溶接ビード8は上下が繋がった周方向の二列溶接となり、図3の示す従来例のように、折り返すことなく溶接していた周方向の一列溶接と比べると、溶接ビード8の溶接長を最大で2倍程度まで稼ぐことができる。これにより、溶接強度と相関する溶接部8の「のど厚断面積(のど厚×溶接長)」を稼ぐことができ、溶接部8での亀裂発生を抑制できる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るアクスルケース1のブレーキフランジ取付構造によれば、ブレーキフランジ2に円筒部6を設け、円筒部6にスロット部7を形成し、スロット部7をアクスルケース1に溶接するという簡単な構成で、アクスルケース1自体を改変することなく、ブレーキフランジ2をアクスルケース1に接合する溶接部8(溶接ビード)の応力を軽減でき、車両上下方向の荷重F、Rにより溶接部8に生じる引張応力と、制動時の制動トルクにより溶接部8に生じる剪断応力との双方の応力に対し、低コストで高い耐久性を発揮でき、溶接部8からの亀裂発生を抑制できる。
【0038】
(変形実施形態)
図6(a)に本発明の変形実施形態に係るアクスルケース1のブレーキフランジ取付構造を車両の前後方向から見た正面図を示し、図6(b)に同構造を上方から見た平面図を示す。この変形実施形態は、図4(a)、図4(b)を用いて上述した前実施形態と比べると、スロット部7の範囲が広がり、ブレーキフランジ2の上部の端部とアクスルケース1とが周方向に溶接(溶接ビード9)され、円筒部6の上部の端部とアクスルケース1とが周方向に溶接(溶接ビード10)されている点が相違し、その他は同様の構成となっている。よって、同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、相違点を説明する。
【0039】
図6(a)、図6(b)に示された変形実施形態に係るアクスルケース1のブレーキフランジ取付構造は、前実施形態よりも車重や積荷が重く、上下方向の荷重F、Rが大きく、制動時の制動トルクが大きい車両に適用される。前実施形態と比べて、上下方向の荷重F、Rが大きいためアクスルケース1の下部にて溶接部8に生じる引張応力が大きくなり、制動トルクによって溶接部8に生じる剪断応力も大きくなる。このため、前実施形態と比べて、スロット部7の範囲を上方に広げ下端位置7aを上方に移動し、ブレーキフランジ2とアクスルケース1とを溶接(溶接ビード9)し、円筒部6とアクスルケース1とを溶接(溶接ビード10)することで、大きくなった引張応力、剪断応力に対応している。
【0040】
また、要求される引張応力、剪断応力によっては、二つのスロット部7、7を上部で繋げて一つのスロット部7として、溶接ビード8の溶接長を更に長くして溶接強度を向上させてもよい。また、円筒部6の肉厚を増して図5(c)にハッチングで示す部分Zの断面係数を拡大することで、溶接部8(溶接ビード)の引張応力および剪断応力を低減し、耐久性能の向上を図ってもよい。このように、本発明によれば、スロット部7の範囲や位置、円筒部6の肉厚を改変することで、要求される引張応力および剪断応力に柔軟かつ容易に対応できる。この対応は、アクスルケース1自体を改変する必要がないため、安価である。
【0041】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0042】
例えば、図5(a)に示す円筒部6をブレーキフランジから上記実施形態とは逆に車幅方内方に延出してもよい。この場合、上述した路面反力Rによる曲げモーメントが小さくなる利点はないが、アクスルケース1に取り付けられるその他の部品配置的に有利となる。また、要求される引張応力、剪断応力によっては、図6(a)、図6(b)に示す、溶接ビード9、10を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、アクスルケースに溶接によって取り付けられるブレーキフランジの取付構造に係り、特に、溶接部における亀裂発生を低コストで抑制したアクスルケースのブレーキフランジ取付構造に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 アクスルケース
2 ブレーキフランジ
6 円筒部
7 スロット部
7a 鉛直方向最下端部
8 溶接ビード(溶接部)
N 中立軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6