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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】非水系電解液及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230628BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230628BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230628BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230628BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230628BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230628BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230628BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020004445
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021111586
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/062056(WO,A1)
【文献】特表2017-511588(JP,A)
【文献】特開2002-367673(JP,A)
【文献】特開2003-272956(JP,A)
【文献】特開2016-071977(JP,A)
【文献】特開2010-062132(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179882(WO,A1)
【文献】特開2003-059532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 4/131
H01M 4/133
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトニトリルを20体積%~90体積%含有する非水系溶媒と;
リチウム塩と;
下記一般式(1):
【化1】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、かつR及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の1価の炭化水素基を示す。ただし、RとRの両方は同時に水素原子になることはない。}
又は下記一般式(2):
【化2】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、かつRは炭素数1~4の2価の炭化水素基を示す。}
で表されるジカルボン酸エステルの少なくとも一方と;
を含有する、非水系電解液。
【請求項2】
前記ジカルボン酸エステルが、メチルマロン酸ジエチル、2-エチル-2-メチルマロン酸ジエチル、及びコハク酸ジメチルのうち少なくとも一つである、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記ジカルボン酸エステルの含有量が、前記非水系電解液100質量部に対して0.01質量部~2質量部である、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記非水系溶媒が、更にα位に置換基を有するラクトン類を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記非水系溶媒が、更に鎖状フッ素化カルボン酸エステルを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
集電体の片面又は両面に、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素又はFe原子を含有する正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に黒鉛を含有する負極活物質層を有する負極と、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解液とを含む積層体を具備する、非水系二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質層を構成する正極活物質が、LiMO{式中、Mは、Niを含み、且つ、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる1種以上の金属元素を含み、更に、Niの元素含有モル比は30%より多く、そして、zは0.9超1.2未満の数を示す。}で表されるリチウム含有複合金属酸化物である、請求項6に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)をはじめとする非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、各種携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。近年では、非水系二次電池は、電動工具等のパワーツールに代表される産業用、及び電気自動車、電動式自転車における車載用としても広がりを見せており、更には住宅用蓄電システム等の電力貯蔵分野においても注目されている。
【0003】
常温作動型のリチウムイオン二次電池の電解液としては、非水系電解液を使用することが実用の見地より望ましい。例えば環状炭酸エステル等の高誘電性溶媒と、低級鎖状炭酸エステル等の低粘性溶媒と、の組み合わせが、一般的な溶媒として例示される。しかしながら、通常の高誘電性溶媒は、融点が高いことの他、非水系電解液に用いる電解質塩の種類によっては非水系電解液の負荷特性(出力特性)及び低温特性を劣化させる要因にもなり得る。
【0004】
このような問題を克服する溶媒の1つとして、粘度と比誘電率とのバランスに優れたニトリル系溶媒が提案されている。中でもアセトニトリルは、リチウムイオン二次電池の非水系電解液に用いる溶媒として高いポテンシャルを有する。しかしながら、アセトニトリルには二つの欠点があり、実用性能を発揮することができていなかった。一つ目は、アセトニトリルが負極で電気化学的に還元分解するという欠点であり、二つ目は、アセトニトリルがジエチルカーボネート又はエチルメチルカーボネートのような一般的に用いられる鎖状カーボネートに比べてセパレータへの濡れ性が低いという欠点である。アセトニトリルが負極で電気化学的に還元分解する、という一つ目の問題に対しては、幾つかの改善策が提案されている。
これまでに提案されている改善策のうち主なものには、以下の2つがある。
【0005】
(1)特定の電解質塩、添加剤等との組み合わせによって負極を保護し、アセトニトリルの還元分解を抑制する方法
例えば、リチウムイオン二次電池の黎明期には、特許文献1のように、アセトニトリルをプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートで希釈しただけの溶媒を含む非水系電解液が報告されている。しかしながら、特許文献1では、高温耐久性能について高温保存後の内部抵抗及び電池厚みのみの評価により判定しているため、高温環境下に置かれた場合に実際に電池として作動するか否かという情報は開示されていない。単純にエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートで希釈するだけの措置によってアセトニトリルをベースとする溶媒を含む非水系電解液の還元分解を抑制することは、実際には至難の業である。
【0006】
(2)高濃度の電解質塩をアセトニトリルに溶解させて安定な液体状態を維持する方法
例えば、特許文献2には、濃度が4.2mol/Lとなるようにリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)をアセトニトリルに溶解させた非水系電解液を用いると、黒鉛電極への可逆的なリチウム挿入脱離が可能であることが記載されている。また、特許文献3には、濃度が4.5mol/Lとなるようにリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))をアセトニトリルに溶解させた非水系電解液を用いたセルに対して充放電測定を行った結果、黒鉛へのLi挿入脱離反応が観察され、更に、ハイレートで放電可能であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-351860号公報
【文献】国際公開第2013/146714号
【文献】特開2014-241198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載の技術では、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、カーボネート溶媒を含有する非水系電解液を用いた既存のリチウムイオン二次電池と比較して高温耐久性能に劣っており、市販品レベルに達していない。
【0009】
それに加えて、特許文献1~3に記載の技術では、鎖状カーボネート溶媒を含有する既存の非水系電解液に比べて非水系電解液のセパレータへの濡れ性が低い。特許文献1に記載の技術では、アセトニトリルの希釈に、セパレータへの濡れ性の低いプロピレンカーボネートを用いている。特許文献2~3に記載の技術では、アセトニトリルに電解質塩を高濃度に溶かしており、粘度の上昇に伴い濡れ性が低下している。これらの非水系電解液は、セパレータに十分に含浸せず、電池の内部抵抗の上昇に寄与し、サイクル特性などの電池特性に悪影響を及ぼすと共に、リチウム電池製造時の注液工程に課題を有する。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、優れた負荷特性及び高温耐久性能に加えてセパレータへの高い濡れ性を発揮することができる非水系電解液、及びそれを用いる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、非水系電解液が特定のジカルボン酸エステルを含有する場合に、優れた負荷特性及び高温耐久性能に加えてセパレータに対する高い濡れ性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
アセトニトリルを20体積%~90体積%含有する非水系溶媒と;
リチウム塩と;
下記一般式(1):
【化1】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の1価の炭化水素基を示す。ただし、R、Rは同時に水素原子ではない。}
又は下記一般式(2):
【化2】
{式中、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、
は炭素数1~4の2価の炭化水素基を示す。}
で表されるジカルボン酸エステルの少なくとも一方と;
を含有する、非水系電解液。
[2]
前記ジカルボン酸エステルが、メチルマロン酸ジエチル、2-エチル-2-メチルマロン酸ジエチル、コハク酸ジメチルのうち少なくとも一つである、[1]に記載の非水系電解液。
[3]
前記ジカルボン酸エステルの含有量が、非水系電解液100質量部に対して0.01~2質量部である、[1]または[2]に記載の非水系電解液。
[4]
前記非水系溶媒が更にα位に置換基を有するラクトン類を含有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の非水系電解液。
[5]
前記非水系溶媒が更に鎖状フッ素化カルボン酸エステルを含有することを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の非水系電解液。
[6]
集電体の片面又は両面に、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素又はFe原子を含有する正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に黒鉛を含有する負極活物質層を有する負極と、[1]~[5]のいずれか1項に記載の非水系電解液とを含む積層体を具備する、非水系二次電池。
[7]
前記正極活物質層を構成する正極活物質が、LiMO(MはNiを含み、且つ、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる1種以上の金属元素を含み、更に、Niの元素含有モル比は30%より多く、そして、zは0.9超1.2未満の数を示す。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物である、[6]に記載の非水系二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非水系電解液が特定のジカルボン酸エステルを含有する場合に、ジカルボン酸エステルがアセトニトリルより卑な電位で分解して負極保護被膜を形成することでアセトニトリルの還元分解を抑制し、優れた負荷特性と高温耐久性能を発揮するとともに、セパレータへの高い濡れ性を発揮することができる非水系電解液、及びそれを用いる非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の非水系二次電池の一例を概略的に示す平面図である。
図2図1の非水系二次電池のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含む。
【0015】
本実施形態の非水系電解液(以下、単に「電解液」ともいう。)は、
アセトニトリルを20体積%~90体積%含有する非水系溶媒と;
リチウム塩と;
下記一般式(1):
【化3】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、かつR及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の1価の炭化水素基を示す。ただし、RとRの両方は同時に水素原子になることはない。}
又は下記一般式(2):
【化4】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、Rは炭素数1~4の2価の炭化水素基を示す。}
で表されるジカルボン酸エステルの少なくとも一方と;
を含有する。
【0016】
<1.非水系二次電池の全体構成>
本実施形態の非水系電解液は、例えば、非水系二次電池に用いることができる。本実施形態の非水系二次電池としては、例えば、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極材料を含有する正極と、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極材料、並びに金属リチウムから成る群より選ばれる1種以上の負極材料を含有する負極と、を備えるリチウムイオン二次電池が挙げられる。
本実施形態の非水系二次電池としては、具体的には、図1及び2に図示される非水系二次電池であってもよい。ここで、図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、図2図1のA-A線断面図である。
【0017】
非水系二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成した電池外装110の空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。なお、図2では、図面が煩雑になることを避けるために、電池外装110を構成している各層、並びに正極150及び負極160の各層を区別して示していない。
電池外装110を構成しているアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
正極150は、電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺と共に熱融着されている。
【0018】
図1及び2に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してもよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
【0019】
以下、正極及び負極の総称として「電極」、正極活物質層及び負極活物質層の総称として「電極活物質層」、正極合剤及び負極合剤の総称として「電極合剤」とも略記する。
これらの各部材としては、本実施形態における各要件を満たしていれば、従来のリチウムイオン二次電池に備えられる材料を用いることができ、例えば後述の材料であってもよい。以下、非水系二次電池の各部材について詳細に説明する。
【0020】
<2.非水系電解液>
本実施形態における非水系電解液は、アセトニトリルを20体積%~90体積%含有する非水系溶媒(以下、単に「溶媒」ともいう。)と、リチウム塩と、上記一般式(1)又は(2)で表されるジカルボン酸エステルの少なくとも1つと、を少なくとも含む。リチウム塩の中でも、フッ素含有無機リチウム塩は、イオン伝導度に優れ、電池性能向上に大きく寄与することが知られている。しかし、フッ素含有無機リチウム塩は溶媒中の微量水分により加水分解し易く、過剰な遊離酸成分を発生する性質を有する。生成した酸成分が、電極、集電体等の材料を腐食し、又は溶媒を分解する等の、電池に致命的な悪影響を及ぼす場合がある。
本実施形態における非水系電解液は、フッ素含有無機リチウム塩の微量水分による加水分解を防ぐため、水分を含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。そのような水分の含有量は、非水系電解液の全体量に対して、好ましくは0~100ppmである。
【0021】
<2-1.非水系溶媒>
アセトニトリルはイオン伝導性が高く、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、非水系電解液がアセトニトリルを含有する場合には、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。それにより、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池とすることができる。
また、非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを用いることにより、前述のとおり、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、非水系二次電池の急速充電特性を高めることもできる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用した場合には、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)でき、また、充電電流を高め得るため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
【0022】
非水系溶媒としては、アセトニトリルを含んでいれば特に制限はなく、その他の非水系溶媒を含んでもよいし、含んでいなくてもよい。
なお、本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、非水系電解液中からリチウム塩、ジカルボン酸エステル、及びその他の任意的添加剤を除いた要素をいう。すなわち、非水系電解液中に、溶媒、リチウム塩、ジカルボン酸エステル、及びその他の任意的添加剤と共に後述する電極保護用添加剤を含んでいる場合には、溶媒と電極保護用添加剤とを併せて「非水系溶媒」という。後述するリチウム塩、ジカルボン酸エステル、及びその他の任意的添加剤は、非水系溶媒に含まない。
【0023】
上記その他の非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0024】
上記その他の非水系溶媒のうち、非プロトン性溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートに代表される環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、及びトリフルオロメチルエチレンカーボネートに代表される環状フッ素化カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;スルホラン、ジメチルスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイトに代表される硫黄化合物;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサンに代表される環状エーテル;エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、及びメチルトリフルオロエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート;トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、及びトリフルオロエチルメチルカーボネートに代表される鎖状フッ素化カーボネート;
【0025】
プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリルに代表されるモノニトリル;メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリルに代表されるアルコキシ基置換ニトリル;マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリルに代表されるジニトリル;ベンゾニトリルに代表される環状ニトリル;プロピオン酸メチルに代表される鎖状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライムに代表される鎖状エーテル;Rf-OR{式中、Rfはフッ素原子を含有するアルキル基であり、かつRはフッ素原子を含有してもよい有機基である}に代表されるフッ素化エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンに代表されるケトン類等の他、これらのフッ素化物に代表されるハロゲン化物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
その他の非水系溶媒の中でも、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上をアセトニトリルと共に使用することがより好ましい。ここで、環状カーボネート及び鎖状カーボネートとして前記に例示したもののうちの1種のみを選択して使用してもよく、2種以上(例えば、前記例示の環状カーボネートのうちの2種以上、前記例示の鎖状カーボネートのうちの2種以上、又は前記例示の環状カーボネートのうちの1種以上及び前記例示の鎖状カーボネートのうちの1種以上から成る2種以上)を使用してもよい。これらの中でも、環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、又はフルオロエチレンカーボネートがより好ましく、鎖状カーボネートとしてはエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、又はジエチルカーボネートがより好ましく、そして環状カーボネートを使用することが更に好ましい。
【0027】
更に、本発明によれば、非水系溶媒として、α位に置換基を有するラクトン類のうちの1種以上をアセトニトリルと共に使用することがより好ましい。α位に置換基を有するラクトン類の含有量は、非水系溶媒の全体量に対して、5体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることが更に好ましい。また、この値は、80体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることが更に好ましい。α位に置換基を有するラクトン類としては、例えば、α-メチル-γ-ブチロラクトン、α,α-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-ヘプチル-γ-ブチロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、α-メチル-γ-ブチロラクトンが好ましい。
α位に置換基を有するラクトン類は、カーボネート系の溶媒と比較して誘電率と融点のバランスに優れている。即ち、α位に置換基を有するラクトン類は、誘電率が高く、さらに融点が低く固化し難い。そのため、非水系溶媒としてこれらのα位に置換基を有するラクトン類を用いることにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。また、α位に置換基を有するラクトン類は、濡れ性にも優れ、非水系溶媒に用いることで非水系電解液のセパレータへの含浸性が向上する。それによって電池の内部抵抗の上昇を抑制し、サイクル特性などの電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0028】
更に、本発明によれば、非水系溶媒として、鎖状フッ素化カルボン酸エステルのうちの1種以上をアセトニトリルと共に使用することがより好ましい。鎖状フッ素化カルボン酸エステルの含有量は、非水系溶媒の全体量に対して、5体積%以上であることがより好ましく、15体積%以上であることが更に好ましい。また、この値は、80体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることが更に好ましい。鎖状フッ素化カルボン酸エステルは、耐酸化性に優れているとともに、正極表面にフッ素原子に富むイオン伝導度の高い良好な被膜を形成すると推定される。そのため、非水系溶媒中のフッ素化カルボン酸エステルの含有量が上述の範囲内にある場合、非水系二次電池のサイクル性能、高温耐久性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。鎖状フッ素化カルボン酸エステルとしては、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、ジフルオロ酢酸エチル、2,2-ジフルオロエチルアセテート、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート等が挙げられる。これらの中でも、2,2-ジフルオロエチルアセテートが好ましい。
【0029】
アセトニトリルは電気化学的に還元分解され易い。そのため、これを別の溶媒と混合すること、及び/又は、電極への保護皮膜形成のための電極保護用添加剤をこれに添加することが好ましい。また、非水系二次電池の充放電に寄与するリチウム塩の電離度を高めるために、非水系溶媒は、環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0030】
アセトニトリルの含有量については、非水系溶媒の全体量に対して、20~90体積%であることが好ましい。アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全体量に対して、30体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることが更に好ましい。また、この値は、85体積%以下であることがより好ましく、66体積%以下であることが更に好ましい。アセトニトリルの含有量が非水系溶媒の全体量に対して20体積%以上である場合、イオン伝導度が増大して高出力特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。後述のジカルボン酸エステルが電池の内部抵抗の増加を抑制するため、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上述の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0031】
<2-2.リチウム塩>
リチウム塩としては、非水系二次電池の非水系電解液に通常用いられており、かつ他の成分と組み合わせて所定のイオン伝導度が得られるものである限りにおいて、特に制限はなく、いずれのものであってもよい。リチウム塩は、本実施形態に係る非水系電解液中に、非水系溶媒の全体量に対して0.1~3mol/Lの濃度で含有されることが好ましく、0.5~2mol/Lの濃度で含有されることがより好ましい。リチウム塩の濃度が上記範囲内にある場合、上記範囲外のものに比べて、非水系電解液の導電率がより高い状態に保たれると同時に、非水系二次電池の充放電効率もより高い状態に保たれる傾向にある。なお、上記に示したリチウム塩の好ましい濃度は、非水系電解液に含まれるリチウム塩の合計濃度の好ましい範囲であり、本実施形態では、上記に示したリチウム塩の好ましい合計濃度範囲よりも、下記に示すそれぞれのリチウム塩の濃度の好ましい範囲が優先される。
【0032】
本実施形態におけるリチウム塩については、特に制限はないが、無機リチウム塩であることが好ましい。ここで、「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいい、そして後述の「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。
【0033】
無機リチウム塩は、通常の非水系電解質として用いられているものであれば特に限定されず、いずれのものであってもよい。そのような無機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF、LiN(SOF)、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiS、LiAlO、LiAlCl、Li1212-b〔bは0~3の整数〕、炭素原子を含まない多価アニオンと結合したリチウム塩等が挙げられる。これらの無機リチウム塩は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、無機リチウム塩としてフッ素原子を有する無機リチウム塩を用いると、正極集電体である金属箔の表面に不働態皮膜を形成するため、内部抵抗の増加を抑制する観点から好ましい。
【0034】
また、無機リチウム塩として、リン原子を有する無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましく、LiPFが特に好ましい。なお、無機リチウム塩として、ホウ素原子を有する無機リチウム塩を用いると、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBFが特に好ましい。
【0035】
本実施形態の非水系電解液における、無機リチウム塩の含有量は、非水系溶媒の全体量に対して0.05~2.5mol/Lであることが好ましく、0.5~2mol/Lであることがより好ましく、0.8~1.5mol/Lであることが更に好ましい。
【0036】
本実施形態におけるリチウム塩には、無機リチウム塩に加えて有機リチウム塩が更に含有されていてもよい。
【0037】
本実施形態の非水系電解液における、有機リチウム塩の含有量は、非水系溶媒の全体量に対して4mol/L以下であることが好ましく、2mol/L以下であることがより好ましい。有機リチウム塩の含有量の下限値は、例えば、非水系溶媒の全体量に対して、0.001mol/L以上であることができる。有機リチウム塩の含有量が上記範囲にある場合、非水系電解液の機能と溶解性とのバランスを確保することができる傾向にある。
【0038】
有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiN(SOCF、LiN(SO等のLiN(SO2m+1〔式中、mは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;LiN(SOF)で表される有機リチウム塩;LiPF(CF)等の「LiPF(C2p+16-n〔式中、nは1~5の整数であり、かつpは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;LiBF(CF)等のLiBF(CsF2s+14-q〔式中、qは1~3の整数であり、かつsは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;LiB(Cで表されるリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB);ハロゲン化された有機酸を配位子とするボレートのリチウム塩;LiBF(C)で表されるリチウムオキサラトジフルオロボレート(LiODFB);LiB(Cで表されるリチウムビス(マロネート)ボレート(LiBMB);LiPF(C)で表されるリチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート等が挙げられる。
【0039】
また、下記一般式(4a)、(4b)及び(4c):
LiC(SO)(SO10)(SO11) (4a)
LiN(SOOR12)(SOOR13) (4b)
LiN(SO14)(SOOR15) (4c)
で表される有機リチウム塩を用いることもできる。式(4a)、(4b)及び(4c)中、R、R10、R11、R12、R13、R14、及びR15は、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
非水系二次電池の負荷特性改善及び充放電サイクル特性改善のためには、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を補助的に添加することが好ましく、LiB(C、LiBF(C)、LiPF(C)、及びLiPF(Cから成る群より選択される1種以上を添加することが特に好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。
【0041】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に、その使用による効果を良好に確保する観点から、非水系溶媒の全体量に対して、0.005mol/L以上の濃度で含有されることが好ましく、0.02mol/L以上の濃度で含有されることがより好ましく、0.05mol/L以上の濃度で含有されることが更に好ましい。ただし、シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に、非水系溶媒の全体量に対して、1mol/L以下の濃度で含有されることが好ましく、0.5mol/L以下の濃度で含有されることがより好ましく、0.2mol/L以下の濃度で含有されることが更に好ましい。
【0042】
<2-3.電極保護用添加剤>
本実施形態における非水系電解液には、ジカルボン酸エステル以外に、電極を保護する添加剤が含まれていてもよい。電極保護用添加剤としては、本発明による課題解決を阻害しないものであれば特に制限はない。リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質(すなわち上述の非水系溶媒)と実質的に重複してもよい。電極保護用添加剤は、本実施形態における非水系電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0043】
電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表される環状エステル;1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、及びテトラメチレンスルホキシドに代表される環状硫黄化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0044】
非水系溶媒の一成分であるアセトニトリルは電気化学的に還元分解され易いため、アセトニトリルを含む非水系溶媒は、負極への保護皮膜形成のための添加剤として環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状硫黄化合物を1種以上含むことがより好ましい。
【0045】
本実施形態における非水系電解液中の電極保護用添加剤の含有量については、非水系溶媒の全体量に対する電極保護用添加剤の含有量として、0.1~30体積%であることが好ましく、1~20体積%であることがより好ましく、2~15体積%であることが更に好ましい。なお、電極保護用添加剤が室温で固体である場合は、昇温して液化させて用い、得られた液体の非水系電解液中の含有量が、上記の好ましい範囲に含まれていればよいものとする。
【0046】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど非水系電解液の劣化が抑えられるが、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。従って、電極保護用添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、非水系電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を最大限に発揮することができる傾向にある。このような組成で非水系電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0047】
<2-4.ジカルボン酸エステル>
本実施形態における非水系電解液は、下記一般式(1)又は(2):
【化5】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、かつR及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の1価の炭化水素基を示す。ただし、RとRの両方は同時に水素原子になることはない。}
【化6】
{式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の1価の炭化水素基を示し、かつRは炭素数1~4の2価の炭化水素基を示す。}
で表されるジカルボン酸エステルの少なくとも一方を含有する。
【0048】
ジカルボン酸エステルを添加剤として用いることで、非水系二次電池は、優れた負荷特性及び高温耐久性能を発揮することが可能になる。詳細な機構はわからないが、ジカルボン酸エステルが負極保護被膜の形成に寄与することでアセトニトリルの還元分解を抑制していると推測される。また、ジカルボン酸エステルは、濡れ性に優れているため、添加剤として用いることで、非水系電解液のセパレータへの含浸性が向上する。それによって電池の内部抵抗の上昇を抑制し、サイクル特性などの電池特性を向上させる効果がある。それに加えて、ジカルボン酸エステルには、リチウム電池製造時の注液工程でセパレータに非水系電解液が十分に含浸しない不良セルを減らす効果がある。
【0049】
一般式(1)で表されるジカルボン酸エステルと一般式(2)で表されるジカルボン酸エステルは、少なくとも一方、又は両方が非水系電解液に含有されることができる。
【0050】
上記式(1)、(2)において、R及びRとしては、炭素数1~2の1価の炭化水素基が好ましく、R及びRとしては、炭素数1~2の1価の炭化水素基が好ましく、R及びRとしては炭素数1~2の1価の炭化水素基が好ましく、そしてRは、炭素数1~3の2価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~2の2価の炭化水素基であることがより好ましい。また、Rは、一般式(1)中の-C(-R)(-R)-で表される2価の基と区別されることができ、直鎖状の基、例えば炭素数2~4のアルキレン基などであることができる。
【0051】
本実施形態におけるジカルボン酸エステルとしては、上記で説明された負荷特性、高温耐久性、添加剤としての性質、及び非水系電解液のセパレータへの含侵性の観点から、メチルマロン酸ジエチル、2-エチル-2-メチルマロン酸ジエチル、及びコハク酸ジメチルのうち少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0052】
本実施形態における非水系電解液中のジカルボン酸エステルの含有量については、特に制限はないが、非水系電解液100質量部に対して、0.01~2質量部であることが好ましく、0.02~1.5質量部であることがより好ましく、0.05~1質量部であることが更に好ましい。本実施形態において、ジカルボン酸エステルは、負極保護被膜の形成に寄与することでアセトニトリルの還元分解を抑制していると推測される。それにより、該ジカルボン酸エステルを含有する非水系二次電池は、優れた負荷特性を発揮すると共に、充放電サイクルを繰り返したときの容量の低下が抑制されたものとなる。しかしながら、本実施形態におけるジカルボン酸エステルの含有量を増やすと、負極の被膜が過度に厚くなり内部抵抗が増大することで電池のレート性能の低下を引き起こす。従って、該ジカルボン酸エステルの含有量を上述の範囲内に調整することによって、負極被膜の過度な厚膜化を防止しながらも、アセトニトリルの還元分解を抑制することができる。このような組成で非水系電解液を調製することにより、得られる非水系二次電池において、サイクル性能、低温環境下における高出力性能、及びその他の電池特性のすべてを、より一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0053】
<2-5.その他の任意的添加剤>
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、例えば、無水酸、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル{エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(CO)(P=O)-CH(C=O)OC、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CFCHO)P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(CO)P=O等}等、及びこれらの化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。特に前記のリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
【0054】
<3.正極>
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。正極150は、非水系二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、既知のものであってもよい。
【0055】
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。
【0056】
その中でも、本発明によれば、集電体の片面又は両面に、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素又はFe原子を含有する正極活物質層を有する正極がより好ましい。上記の元素を含む正極活物質を用いることで、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にある。
【0057】
また、正極活物質層は、正極活物質と共に、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
【0058】
正極活物質としては、例えば、下記の一般式(5a)及び(5b):
LiMO (5a)
Li (5b)
{式中、Mは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の金属元素を示し、xは0~1.1の数を示し、かつyは0~2の数を示す。}
のそれぞれで表されるリチウム含有化合物、及びその他のリチウム含有化合物が挙げられる。
【0059】
一般式(5a)及び(5b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物としては、例えば、
LiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物;
LiMnO、LiMn、及びLiMnに代表されるリチウムマンガン酸化物;
LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物;
LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.5Co0.2Mn0.32、LiNi0.6Co0.2Mn0.22、LiNi0.8Co0.1Mn0.12、LiNi0.8Co0.22に代表されるLizMO2{式中、Mは、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、そしてzは0.9超1.2未満の数を示す}で表されるリチウム含有複合金属酸化物等;
が挙げられる。これらのなかでも、Niの元素含有モル比が30%より大きいことが好ましく、45%より大きいことがより好ましく、75%より大きいことがさらに好ましい。
【0060】
一般式(5a)及び(5b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物以外のリチウム含有化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物(例えば、式LiSiO{式中、Mは一般式(5a)と同義であり、tは0~1の数を示し、かつuは0~2の数を示す。}で表される化合物)が挙げられる。高電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、及びチタン(Ti)から成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含む複合酸化物、及びリン酸金属化合物が好ましい。
【0061】
リチウム含有化合物として、より具体的には、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物又はリチウムと遷移金属元素とを含む金属カルコゲン化物、及びリチウムを有するリン酸金属化合物がより好ましく、例えば、以下の一般式(6a)及び(6b):
Li (6a)
LiIIPO (6b)
{式中、Dは酸素又はカルコゲン元素を示し、M及びMIIは、それぞれ1種以上の遷移金属元素を示し、v及びwの値は、電池の充放電状態によっており、vは0.05~1.10の数を示し、そしてwは0.05~1.10の数を示す。}
のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0062】
上述の一般式(6a)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の一般式(6b)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0063】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物のみを用いてもよいし、該リチウム含有化合物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。
【0064】
このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO、FeO、FeS、V、V13、TiO、TiS、MoS、及びNbSeに代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0065】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0066】
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合と関連して、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、そして残部は、その他の正極活物質で構成されることができる。
【0067】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0068】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0069】
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来既知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0070】
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0071】
<4.負極>
負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、既知のものであってもよい。
【0072】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V(vs.Li/Li)よりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。負極活物質層は、負極活物質と共に、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
【0073】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料の他、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。
【0074】
負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。その中でも、本発明によれば、集電体の片面又は両面に黒鉛を含有する負極活物質層を有する負極が好ましい。黒鉛は現状最も汎用されている負極活物質であり、他負極活物質に比べてエネルギー密度、安全性、サイクル耐久性等のバランスに優れる。
【0075】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0076】
バインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0077】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来既知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0078】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0079】
<5.セパレータ>
本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、既知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0080】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、又は、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0081】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数積層した構成であってもよい。
【0082】
<6.電池外装>
本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール又はアルミニウムから成る金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0083】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0084】
<7.電池の作製方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、既知の方法により作製される。
【0085】
先ず、正極150及び負極160、並びに必要に応じてセパレータ170から成る積層体を形成する。例えば、長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;等が可能である。
【0086】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る非水系電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を非水系電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。
【0087】
代替的には、非水系電解液を高分子材料から成る基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0088】
本実施形態における非水系二次電池100の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形等が好適に採用される。
【0089】
本実施形態において、アセトニトリルを使用した非水系電解液を用いた場合、その高いイオン伝導性に起因して、非水系二次電池の初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンが負極の全体に拡散してしまう可能性がある。非水系二次電池では、正極活物質層よりも負極活物質層の面積を大きくすることが一般的であるが、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない箇所にまでリチウムイオンが拡散して吸蔵されてしまうと、このリチウムイオンが初回放電時に放出されずに負極に留まるため、該放出されないリチウムイオンの寄与分が不可逆容量となってしまう。こうした理由から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、初回充放電効率が低くなってしまう場合がある。
【0090】
一方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、又は両者が同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分で電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
【0091】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比について特に制限はないが、上記の理由により、1.0より大きく1.1未満であることが好ましく、1.002より大きく1.09未満であることがより好ましく、1.005より大きく1.08未満であることが更に好ましく、1.01より大きく1.08未満であることが特に好ましい。アセトニトリルを含む非水系電解液を用いた非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくすることにより、初回充放電効率を改善できる。
【0092】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくするということは、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない部分の面積の割合を制限することを意味している。これにより、初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンのうち、正極活物質層とは対向していない負極活物質層の部分に吸蔵されるリチウムイオンの量(すなわち、初回放電時に負極から放出されずに不可逆容量となるリチウムイオンの量)を可及的に低減することが可能となる。よって、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を上記の範囲に設計することによって、アセトニトリルを使用することによる電池の負荷特性向上を図りつつ、電池の初回充放電効率を高め、更にリチウムデンドライトの生成も抑えることができるのである。
【0093】
本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電のときに非水系電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電が、途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。定格容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、固体電解質界面(SEI)が電極表面に形成され、正極150を含めた内部抵抗の増加を抑制する効果があることの他、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0094】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、1個当たりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【0095】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例
【0096】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下、各種非水系溶媒を、それぞれが所定の濃度になるよう混合し、更に、各種リチウム塩をそれぞれ所定の濃度になるよう添加することにより、非水系電解液(S11)~(S12)を調製した。これらの非水系電解液組成を表1に示す。
【0098】
また、非水系電解液(S11)を母電解液とし、母電解液100質量部に対し、各種ジカルボン酸エステルが所定の質量部になるよう添加することにより、非水系電解液(S21)~(S25)を調製した。これらの非水系電解液組成を表2に示す。
【0099】
なお、表1における非水系溶媒、リチウム塩、及び各種添加剤の略称は、それぞれ以下の意味である。
(非水系溶媒)
AN:アセトニトリル
DFA:2,2-ジフルオロエチルアセテート
GBL:γ-ブチロラクトン
MBL:α-メチル-γ-ブチロラクトン
ES:エチレンサルファイト
VC:ビニレンカーボネート
(リチウム塩)
LiPF:ヘキサフルオロリン酸リチウム
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF)
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
(2)濡れ性試験
上述のようにして得られた各種非水系電解液について、非水系電解液5μLを測り取り、ポリプロピレン系セパレータに滴下し、60秒後にセパレータを目視観察する試験を行った。得られた評価結果を表3に示す。なお表3中、○は、非水系電解液を滴下した部分のセパレータの色が白から灰色に変色した様子が観察された非水系電解液、×は、非水系電解液を滴下した部分のセパレータの色が白色のままである様子が観察された非水系電解液をそれぞれ表している。
【0103】
【表3】
【0104】
なお、濡れ性試験で使用されたポリプロピレン系セパレータは、以下のとおりである。
セパレータ:リチウム電池用単層ポリプロピレンセパレータ Celgard #2500
【0105】
ジカルボン酸エステルを含有しない比較例1においては非水系電解液を滴下した部分のセパレータの色が白色のままであり、非水系電解液がセパレータに含浸していないのに対して、本実施形態におけるジカルボン酸エステルを含有する非水系電解液の実施例1~5では、非水系電解液を滴下した部分のセパレータの色が白から灰色に変色し、非水系電解液がセパレータに含浸した。以上の結果から、本実施形態における非水系電解液中に含まれるジカルボン酸エステルは、非水系電解液のセパレータへの濡れ性を向上させる効果があることが示唆された。
【0106】
(3)コイン型非水系二次電池の作製
(3-1)正極(P1)の作製
(A)正極活物質として、数平均粒子径11μmのリチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3、密度4.70g/cm)と、(B)導電助剤として、数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(密度2.26g/cm)及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、(C)バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF;密度1.75g/cm)とを、92:4:4の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0107】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃で8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.9g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P1)を得た。目付量は23.9mg/cm、正極集電体を除く正極活物質の質量は22.0mg/cmであった。
【0108】
(3-2)負極(N1)の作製
(a)負極活物質として、数平均粒子径12.7μmの人造黒鉛粉末(密度2.23g/cm)と、(b)導電助剤として、数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末(密度1.95g/cm)と、(c)バインダーとして、カルボキシメチルセルロース(密度1.60g/cm)溶液(固形分濃度1.83質量%)及びジエン系ゴム(ガラス転移温度:-5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、密度1.00g/cm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、95.7:0.5:3.8の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0109】
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μm、幅280mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃で8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.5g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(N1)を得た。目付量は11.5mg/cm、負極集電体を除く負極活物質の質量は11.0mg/cmであった。
【0110】
(3-3)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に、上述のようにして得られた正極(P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上から、ガラス繊維濾紙(アドバンテック社製、GA-100)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらに、電池ケース内にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。溢れた非水系電解液はウエスできれいに拭き取った。P1とガラス繊維濾紙とN1の積層体、及び非水系電解液を含むアセンブリを25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0111】
(4)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(4-1)の手順に従って初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(4-2)及び(4-3)の手順に従って、それぞれのコイン型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(4-1)~(4-3)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0112】
(4-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
コイン型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.15mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、3.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。続いて3時間休止後、0.05Cに相当する0.3mAの定電流で電池を充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.15Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。また、このときの放電容量を初期容量とした。
【0113】
(4-2)コイン型非水系二次電池の85℃満充電保存試験
上記(4-1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。次に、このコイン型非水系二次電池を85℃の恒温槽に4時間保存した。その後、周囲温度を25℃に戻し、0.3Cに相当する1.8mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。このときの残存放電容量をAとした。85℃満充電保存試験の測定値として、以下の式に基づき、残存容量維持率を算出した。
0.3C残存容量維持率=(85℃満充電保存後の0.3C残存放電容量A/85℃満充電保存試験前の初期容量)×100[%]
【0114】
(4-3)コイン型非水系二次電池の出力試験
上記(4-2)に記載の方法で85℃満充電保存試験を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。このときの回復放電容量をBとした。次に、1Cに相当する6mAの定電流で電池を充電して、電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、1.5Cに相当する9mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。このときの放電容量をCとした。出力試験測定値として、以下の式に基づき、充放電効率及び回復容量維持率を算出した。
0.3C回復容量維持率=(85℃満充電保存試験後の0.3C回復放電容量B/85℃満充電保存試験前の初期容量)×100[%]
1.5C回復容量維持率=(85℃満充電保存試験後の1.5C回復放電容量C/85℃満充電保存試験前の初期容量)×100[%]
【0115】
ここで、各試験結果の解釈について述べる。
初期充放電初回効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を示すが、一般的に2回目以降の充放電効率より低下する傾向にある。これは、初回充電時のSEI形成時にLiイオンが利用されることで、放電できるLiイオンが少なくなるためである。これにより、不可逆容量が生じ、充電容量に対する放電容量が小さくなる。従って、初期充放電初回効率は80%以上であれば特に問題はない。
0.3C残存容量維持率は、85℃満充電保存試験における自己放電の大きさの指標とすることができる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、電池からより多くの電流を目的とする用途に使用可能であると考えられる。従って、0.3C残存容量維持率は、実用の見地から85%以上であることが望ましく、90%以上であるのがより望ましい。
0.3C回復容量維持率は、通電電流が小さい用途における出力指標となる。この場合、電池内部の抵抗の影響を受け難いため、0.3C回復容量維持率は90%以上であることが望ましく、95%以上であることがより望ましい。
1.5C回復容量維持率は、通電電流が大きい用途における出力指標となる。この場合、電池内部の抵抗の影響を受け易く、回復容量維持率は0.3Cの場合よりも低下する。従って、1.5C回復容量維持率は、85%以上であることが望ましく、90%以上であることがより望ましい。
【0116】
以上、算出した結果について、表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
実施例1~5と、比較例1との対比から、アセトニトリルと特定のジカルボン酸エステルを含む非水系電解液を用いた場合に、高温耐久性能の向上が確認された。
【0119】
以上の結果から、非水系電解液が特定のジカルボン酸エステルを含有する場合に、アセトニトリルの還元分解を抑制するという性質の良い被膜を形成することで、優れた負荷特性と高温耐久性能を発揮するとともに、セパレータへの高い濡れ性を発揮することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の非水系電解液を用いて作製された非水系二次電池は、例えば、携帯電話機、携帯オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、IC(Integrated Circuit)タグ等の携帯機器用の充電池;ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用充電池;住宅用蓄電システムとしての利用等が期待される。
【符号の説明】
【0121】
100 非水系二次電池
110 電池外装
120 電池外装の空間
130 正極リード体
140 負極リード体
150 正極
160 負極
170 セパレータ
図1
図2