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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】環流管
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/10 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
C21C7/10 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020127587
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024794
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】寺田 庄吾
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-247317(JP,A)
【文献】特開平02-034714(JP,A)
【文献】特開2012-001742(JP,A)
【文献】実開平06-054759(JP,U)
【文献】特開平05-295418(JP,A)
【文献】特開2001-254120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を脱ガスしつつ環流させる真空脱ガス装置の下部に、浸漬管と接続させた状態で2つ並べて設置されて、上昇管あるいは下降管として使用される環流管であって、
複数の耐火レンガを周状に組み付けることによって円筒状に形成されているとともに、
設置時に内側に位置する耐火レンガの径方向の厚みが、設置時に外側に位置する耐火レンガの径方向の厚みよりも厚くなっていることを特徴とする環流管。
【請求項2】
設置時に内側に位置する耐火レンガの周方向の横幅が、設置時に外側に位置する耐火レンガの周方向の横幅よりも広くなっていることを特徴とする請求項1に記載の環流管。
【請求項3】
設置時に内側に位置する耐火レンガが、設置時に外側に位置する耐火レンガよりも耐食性の高い耐火物材料によって形成されていることを特徴とする請求項1、または2に記載の環流管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼処理用の真空脱ガス装置において上昇管あるいは下降管として用いられる環流管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼に脱ガス処理を施す真空脱ガス装置として、合金、副原料、造滓材等を投入するための投入口および排気口を備えた上部槽と、底部に2本の環流管が設置された下部槽と、2本の環流管の下端にフランジによって接続された浸漬管とからなるRH式あるいはKTB式の真空脱ガス装置が知られている。そのような真空脱ガス装置によって、脱ガス処理を行う際には、取鍋に収納した溶鋼中に2本の浸漬管を浸漬し、上昇管として機能する一方の環流管および浸漬管内にArガスを供給し、そのArガスの上昇気流に付随させて溶鋼を下部槽の真空領域内に導入して脱ガスした後、下降管として機能する他方の環流管および浸漬管から取鍋内に排出することによって溶鋼を循環させる。
【0003】
上記の如き真空脱ガス装置の下部槽に設置される環流管は、脱ガス処理時に溶鋼流によって著しく損傷するため、定期的に交換しなければならない。そのため、特許文献1の如く、上段の耐火レンガからなる円筒状体と下段の耐火レンガからなる円筒状体との間(目地)に段差を設けて、溶鋼の熱によって水平状の目地が損傷してもその目地から浸入した溶鋼を外側まで浸透させないようにして耐久性を高めた環流管も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平7-31850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の如き真空脱ガス装置においては、脱ガス処理時に、上昇管から下降管への溶鋼の循環琉によって、環流管の内側(他方の環流管と近接した側)に外側よりも高い圧力が加わることになる。しかしながら、上記特許文献1の如き従来の環流管は、環流管が全周に亘って同一の物理的および化学的特性を有するものであるため、内側の部分が外側の部分よりも早く溶損したり、内側の部分に外側の部分よりも早くスポーリングが発生したりしてしまうことが多く、結果的に、長期間に亘って使用することが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来の環流管が有する問題点を解消し、耐溶損性および耐スポーリング性に優れており、耐用寿命が長く長期間に亘って使用可能な環流管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、金属溶湯を脱ガスしつつ環流させる真空脱ガス装置の下部に、浸漬管と接続させた状態で2つ並べて設置されて、上昇管あるいは下降管として使用される環流管であって、複数の耐火レンガを周状に組み付けることによって円筒状に形成されているとともに、設置時に内側(浸漬管と接続させた状態で2つ並べて設置する際に他方の環流管に近くなる側)に位置する耐火レンガの径方向の厚みが、設置時に外側(浸漬管と接続させた状態で2つ並べて設置する際に他方の環流管から遠くなる側)に位置する耐火レンガの径方向の厚みよりも厚くなっていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、設置時に内側に位置する耐火レンガの周方向の横幅が、設置時に外側に位置する耐火レンガの周方向の横幅よりも広くなっていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、設置時に内側に位置する耐火レンガが、設置時に外側に位置する耐火レンガよりも耐食性の高い耐火物材料によって形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の環流管は、真空脱ガス装置の下部に2つ並べて設置する際に、径方向の厚みが厚い耐火レンガを配置した側が他方の環流管と近くなるように設置することによって、優れた耐溶損性および耐スポーリング性を発現させることができるので、耐用寿命が長く長期間に亘って使用することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の浸漬管は、設置時に内側に位置する耐火レンガが設置時に外側に位置する耐火レンガよりも幅広になっており縦目地が少なくなっているため、真空脱ガス装置の下部への設置の際に、肉厚な(径方向の厚みが厚い)耐火レンガを配置した側が他方の環流管と近くなるように設置することによって、より高い耐溶損性および耐スポーリング性を発現させることができるので、非常に長期間に亘って使用することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の浸漬管は、設置時に内側に位置する耐火レンガが設置時に外側に位置する耐火レンガよりも耐食性の高い耐火物材料によって形成されているため、真空脱ガス装置の下部への設置の際に、肉厚な(径方向の厚みが厚い)耐火レンガを配置した側が他方の環流管と近くなるように設置することによって、非常に高い耐溶損性および耐スポーリング性を発現させることができるので、きわめて長期間に亘って使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】環流管を示す説明図(平面図)である。
図2】環流管を示す説明図(正面図)である。
図3】環流管を示す説明図(右側面図)である。
図4】環流管を示す説明図(左側面図)である。
図5】環流管を示す説明図(図1におけるA-A線切断端面図)である。
図6】上側第一耐火レンガを示す説明図(斜視図)である。
図7】環流管の使用状態を示す説明図(鉛直断面図)である。
図8】真空脱ガス装置の下部槽の環流管設置部分を示す説明図(図7におけるB-B線断面図)である。
図9】耐火レンガの変更例を示す説明図(斜視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る環流管の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
[第一実施形態]
<環流管の構造>
図1図5は、第一実施形態に係る環流管の一例を示したものである。環流管1は、複数(62個)の耐火レンガ3,3・・を円筒状に組み付けて、その外周に、複数(5個)の帯状の鉄輪(帯鉄)5,5・・を、上下各位置で巻き付けることによって形成されており、外径=約1,100mm×高さ=約900mmの大きさを有している。また、環流管1は、高さ方向の略中央で、水平断面形状を等しくする扁平な2つの円筒状体(上側円筒状体2aおよび下側円筒状体2b)を、上下二段に重ね合わせた状態になっている。
【0016】
上側円筒状体2aは、径方向の幅、周方向の幅、高さ、および材質の異なった30個の耐火レンガ3,3・・を組み付けることによって形成されている。すなわち、上側円筒状体2aは、上側第一耐火レンガ3a、2個の上側第二耐火レンガ3b,3b、2個の上側第三耐火レンガ3c,3c、14個の上側第四耐火レンガ3d,3d・・、および、11個の上側第五耐火レンガ3e,3e・・を組み付けることによって形成されている。
【0017】
図6は、上側第一耐火レンガ3a(図1における右側中央のもの)を示したものであり、上側第一耐火レンガ3aは、扁平な円筒体を中心軸Cに対する放射方向に略9等分した形状を有しており、水平断面が鋭角な扇状になっている。そして、他の耐火レンガに比べて、径方向の厚みが最も厚く、かつ、周方向の横幅も最も広くなっている。
【0018】
また、上側第二耐火レンガ3b、上側第三耐火レンガ3c、上側第四耐火レンガ3dおよび上側第五耐火レンガ3eは、水平断面が台形状であり、周方向の横幅、径方向の厚み、高さ等が上側第一耐火レンガ3aと異なっている。さらに、上側第二耐火レンガ3b、上側第三耐火レンガ3c、上側第四耐火レンガ3dおよび上側第五耐火レンガ3eは、周方向の横幅(内孔側を上底、外孔側を下底とした場合の下底の幅)が同一である(上側第一耐火レンガ3aの周方向の横幅の約1/3)。加えて、上側第二耐火レンガ3bの径方向の厚みは、上側第一耐火レンガ3aと同一であり、上側第三耐火レンガ3c、上側第四耐火レンガ3d、上側第五耐火レンガ3eの順に、径方向の厚みが20~30mmずつ薄くなっている。
【0019】
なお、上側円筒状体2aを構成している耐火レンガ3,3・・(すなわち、上側第一耐火レンガ3a、上側第二耐火レンガ3b,3b、上側第三耐火レンガ3c,3c、上側第四耐火レンガ3d,3d・・および上側第五耐火レンガ3e,3e・・)は、いずれもマグネシアクロム質耐火物によって形成されている。
【0020】
そして、上側円筒状体2aにおいては、上側第一耐火レンガ3aの両外に、それぞれ、上側第二耐火レンガ3b,3bが配置されており、それらの各上側第二耐火レンガ3b,3bの外側(上側第一耐火レンガ3aとの隣接側と反対側)に、それぞれ、上側第三耐火レンガ3c,3cが配置されている。さらに、それらの上側第三耐火レンガ3c,3cの外側(上側第二耐火レンガ3b,3bとの隣接側と反対側)に、それぞれ、7枚ずつ上側第四耐火レンガ3d,3d・・が配置されており、それらの上側第四耐火レンガ3d,3d・・に挟まれるように、11枚の上側第五耐火レンガ3e,3e・・が配置されている。そして、上側円筒状体2aにおいては、上側第五耐火レンガ3e,3e・・の内の中央のものが、中心軸Cに対して、上側第一耐火レンガ3aと対向した状態になっている。
【0021】
また、上側円筒状体2aにおいては、図2に示されるように、上側第五耐火レンガ3e,3e・・の上端縁の位置が最も高くなっており、上側第五耐火レンガ3e,3e・・の両外に配置された上側第四耐火レンガ3d,3d・・の上端縁の位置は、上側第五耐火レンガ3e,3e・・から離れるにしたがって、次第に低くなっている(50mmずつ低くなっている)。さらに、上側第二耐火レンガ3b,3bおよび上側第三耐火レンガ3c,3cの上端縁の位置は、上側第五耐火レンガ3e,3e・・から最も離れた上側第四耐火レンガ3d,3d・・の上端縁の位置と同一になっている。加えて、上側第一耐火レンガ3aの上端縁の位置は、上側第二耐火レンガ3b,3bおよび上側第三耐火レンガ3c,3cの上端縁の位置よりも低くなっている(50mm低くなっている)。
【0022】
また、上側円筒状体2aにおいては、図3に示されるように、上側第一耐火レンガ3aおよびその外側に配置された上側第二耐火レンガ3bの下端縁の位置が略同一になっており、それらの両外に配置された上側第三耐火レンガ3c,3cの下端縁の位置がそれより高くなっている(40mmずつ高くなっている)。そして、それらの上側第三耐火レンガ3c,3cの外側(上側第二耐火レンガ3bとの隣接側と反対側)に位置した上側第四耐火レンガ3d,3d・・の下端縁の位置、および、上側第五耐火レンガ3e,3e・・の下端縁の位置が、交互に上下した状態(50mmずつ上下した状態)になっている。
【0023】
一方、下側円筒状体2bは、径方向の幅、高さ、および材質の異なった32個の耐火レンガ3,3・・を組み付けることによって形成されている。すなわち、下側円筒状体2bは、5個の下側第一耐火レンガ3α,3α・・、2個の下側第三耐火レンガ3γ,3γ、14個の下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・、および、11個の下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・を組み付けることによって形成されている。
【0024】
下側第一耐火レンガ3α,3α・・、下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・、および、下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・は、上側円筒状体2aの各耐火レンガ3b,3c・・と同様に、水平断面が台形状の形状を有している。また、下側第一耐火レンガ3α,3α・・、第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・、および、下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・は、いずれも、外側の下端際が傾斜状に切り欠かれた状態になっている。
【0025】
また、下側第一耐火レンガ3α,3α・・、下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・、および、下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・は、周方向の横幅が同一であり、下側第三耐火レンガ3γ、下側第四耐火レンガ3δ、下側第五耐火レンガ3εの順に、径方向の厚みが薄くなっている(20~30mmずつ薄くなっている)。加えて、下側第一耐火レンガ3α,3α・・、下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・、および、下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・の径方向の厚みは、それぞれ、上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火レンガ3b、上側第三耐火レンガ3c、上側第四耐火レンガ3d、および、上側第五耐火レンガ3eの径方向の厚みと同一である。
【0026】
なお、下側円筒状体2bを構成している耐火レンガ3,3・・(すなわち、下側第一耐火レンガ3α,3α・・、下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・および下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・)は、いずれもマグネシアクロム質耐火物によって形成されている。
【0027】
下側円筒状体2bにおいては、上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火レンガ3b,3bの下側に位置するように、5枚の下側第一耐火レンガ3α,3α・・が配置されている。また、それらの第一耐火レンガ3α,3α・・の両外に、それぞれ、下側第三耐火レンガ3γ,3γが配置されており、それらの各下側第三耐火レンガ3γ,3γの外側(下側第一耐火レンガ3αとの隣接側と反対側)に、それぞれ、7枚ずつ下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・が配置されている。そして、それらの下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・に挟まれるように、11枚の下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・が配置された状態になっている。そして、それらの下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・の内の中央のものが、中心軸Cに対して、下側第一耐火レンガ3α,3α・・の内の中央のものと対向した状態になっている。
【0028】
また、下側円筒状体2bにおける下側第一耐火レンガ3α,3α・・の上端縁の位置は、上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火レンガ3b,3bと合致するように略水平状になっているが、それ以外の各耐火レンガ(下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・および下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・)の上端縁は、上側円筒状体2aにおける各耐火レンガ(上側第三耐火レンガ3c,3c、上側第四耐火レンガ3d,3d・・および上側第五耐火レンガ3e,3e・・)の下端縁と合致するように、交互に上下した状態(50mmずつ上下した状態)になっている。
【0029】
環流管1は、上記した上側円筒状体2aと下側円筒状体2bとを、高さ方向の略中央で上下二段に重ね合わせた状態になっており、中心軸Cに対して一方向側(図1における右側)に位置した上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火レンガ3b、および下側第一耐火レンガ3αの径方向(中心軸Cからの放射線方向)の厚みが、中心軸Cに対して一方向側と反対側(図1における左側)に位置した上側第五耐火レンガ3eおよび下側第五耐火レンガ3εの径方向の厚みよりも厚くなっている(約70mm厚くなっている)。
【0030】
<環流管の使用方法>
図7図8は、上記の如く構成された環流管1の使用方法の一例を示したものである。環流管1は、真空脱ガス装置Mの下部槽13の下端際の部分の内側に、2つ並べた状態で鉛直状に設置される(以下の説明では、図7図8における左側の環流管1を環流管1aとし、右側の環流管1を環流管1bする)。また、その際には、各環流管1a,1bの肉厚な部分(上側第一耐火レンガ3aおよび下側第一耐火レンガ3αの設置部分)を隣り合わせるように並べられる(図8参照)。
【0031】
なお、そのように、2つの環流管1a,1bを、真空脱ガス装置Mの下部槽13の下端際の部分の内側に並べて設置する際には、敷レンガ15(真空脱ガス装置Mの下部槽13の底面に敷設する耐火レンガ)の内の環流管1a,1bの間に位置する部分Fを、各環流管1a,1bの肉厚な部分(上側第一耐火レンガ3aおよび下側第一耐火レンガ3αの設置部分)の上端縁の形状(階段式の凹状、図3等参照)に合わせて、凹溝状にするのが好ましい。そして、各環流管1a,1bは、それぞれの下端に、円筒状の浸漬管11,11を接続し、それらの浸漬管11,11の下端際の部分を、取鍋14内の溶湯(溶融させた鉄)Sに浸漬させた状態で使用され、片方(環流管1a)が浸漬管1とともに上昇管として機能し、他方(環流管1b)が浸漬管1とともに下降管として機能する。
【0032】
そして、真空脱ガス装置Mにおいて、上部槽12および下部槽13を真空状態にし、配管(図示せず)を介して上昇管(環流管1aおよび浸漬管11)に不活性ガス(アルゴンガス等)を吹き込むと、取鍋14内の溶湯が、下部槽13側に引き込まれて上昇管の溶湯通路(環流管1aおよび浸漬管11の内部)を上昇し、その後、下降管(環流管1bおよび浸漬管11)の溶湯通路を下降して取鍋14に戻って環流する。かかる環流の過程において、溶湯の脱ガスが行われて真空脱ガス装置Mの外部に排出される。
【0033】
上記の如く真空脱ガス装置Mにおいて脱ガスを実施する際には、上昇管および下降管の内側(他方の管に近い側、下部槽13の中心に近い側)に外側よりも高い圧力が加わることになるが、環流管1a,1bにおいては、内側の部分が外側の部分に比べて肉厚になっている。すなわち、環流管1a,1bにおいては、内側に位置した上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火れんが3b、および下側第一耐火レンガ3αの径方向の厚みが、環流管1aの外側に位置した上側第五耐火レンガ3eおよび下側第一耐火レンガ3εの径方向の厚みよりも厚くなっている。それゆえ、環流管1a,1bは、内側の部分に外側の部分よりも高い圧力が加わり続けた場合でも、内側の部分の許容可能な溶損量が大きいので、長期間に亘って使用することができる。
【0034】
その一方、環流管1a,1bにおいては、外側の部分がそれ以外の部分(内側の部分および中間の部分)に比べて肉薄になっている。すなわち、外側に位置した上側第五耐火レンガ3eおよび下側第五耐火レンガ3εの径方向の厚みが、上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火れんが3b、および下側第一耐火レンガ3αや、上側第三耐火れんが3cおよび下側第三耐火レンガ3γや、上側第四耐火レンガ3dおよび下側第四耐火レンガ3δ等の径方向の厚みよりも薄くなっている。それゆえ、環流管1a,1bは、溶湯通路の水平断面の面積が、従来の一定厚みの円筒状の環流管のものと略同一であるので、環流効率の変化を起こすことなく効率良く脱ガスを実施することができる。
【0035】
<環流管の効果>
環流管1は、上記の如く、複数の耐火レンガ3,3・・を周状に組み付けることによって円筒状に形成されているとともに、中心軸Cに対して一方向側(図1における右側)に位置した上側第一耐火レンガ3aおよび下側第一耐火レンガ3αの径方向の厚みが、反対側(図1における左側)に位置した上側第五耐火レンガ3eおよび下側第五耐火レンガ3εの径方向の厚みよりも厚くなっている。それゆえ、環流管1によれば、真空脱ガス装置Mの下部に2つ並べて設置する際に、径方向の厚みが厚い上側第一耐火レンガ3aおよび下側第一耐火レンガ3αを配置した側が他方の環流管と近くなるように設置することによって(すなわち、図8の如く設置することによって)、優れた耐溶損性および耐スポーリング性を発現させることができるので、耐用寿命が長く長期間に亘って使用することができる。
【0036】
また、環流管1は、中心軸Cに対して一方向側(図1における右側)に位置した上側第一耐火レンガ3aの周方向の横幅が、反対側(図1における左側)に位置した上側第五耐火レンガ3eの周方向の横幅よりも広くなっており縦目地が少なくなっている。したがって、環流管1によれば、真空脱ガス装置Mの下部への設置の際に、上側第一耐火レンガ3aを配置した側が他方の環流管と近くなるように設置することによって(すなわち、図8の如く設置することによって)、より高い耐溶損性および耐スポーリング性を発現させることができるので、非常に長期間に亘って使用することができる。
【0037】
加えて、環流管1は、中心軸Cに対して一方向側(図1における右側)に位置した上側第一耐火レンガ3aの高さが、反対側(図1における左側)に位置した上側第五耐火レンガ3eの高さよりも低くなっている。そのため、環流管1によれば、真空脱ガス装置Mの下部槽13の敷レンガ15の内の2つの環流管1a,1bの間に位置する部分Fを、環流管1の肉厚な部分(上側第一耐火レンガ3aおよび下側第一耐火レンガ3αの設置部分)の上端縁の形状(階段式の凹状)に合致した凹溝状にすることによって、当該凹溝内に多くの溶鋼を流すことで流速が上がる事態を防ぎ、下部槽12の底面における溶鋼の流速を均等化することにより、脱ガス速度を向上させて脱ガス処理時間を短縮することが可能となる。
【0038】
[第二実施形態]
<環流管の構造>
第二実施形態に係る環流管1’は、第一実施形態に係る環流管1と同様な構造を有しているが、耐火レンガ3,3・・の形成材料が第一実施形態に係る環流管1のものと異なっている。すなわち、第二実施形態に係る環流管1’の上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火レンガ3b,3bは、マグネシアカーボン質耐火物によって形成されており、第二実施形態に係る環流管1’の上側第三耐火レンガ3c,3c、上側第四耐火レンガ3d,3d・・および上側第五耐火レンガ3e,3e・・は、マグネシアクロム質耐火物によって形成されている。すなわち、第二実施形態に係る環流管1’の上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火レンガ3b,3bは、上側第三耐火レンガ3c,3c、上側第四耐火レンガ3d,3d・・および上側第五耐火レンガ3e,3e・・に比べて耐食性の高い耐火物によって形成されている。
【0039】
また、第二実施形態に係る環流管1’の下側第一耐火レンガ3α,3α・・は、マグネシアカーボン質耐火物によって形成されており、第二実施形態に係る環流管1’の下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・および下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・は、マグネシアクロム質耐火物によって形成されている。すなわち、第二実施形態に係る環流管1’の下側第一耐火レンガ3α,3α・・は、下側第三耐火レンガ3γ,3γ、下側第四耐火レンガ3δ,3δ・・および下側第五耐火レンガ3ε,3ε・・に比べて耐食性の高い耐火物によって形成されている。
【0040】
<環流管の効果>
第二実施形態に係る環流管1’は、上記の如く、中心軸Cに対して一方向側(図1における右側)に位置した上側第一耐火レンガ3aおよび上側第二耐火れんが3b、および下側第一耐火レンガ3αが、反対側(図1における左側)に位置した上側第五耐火レンガ3eおよび下側第五耐火レンガ3εの形成材料(マグネシアクロム質耐火物)よりも耐食性の高い耐火物材料(マグネシアカーボン質耐火物)によって形成されている。したがって、第二実施形態に係る環流管1’によれば、真空脱ガス装置Mの下部への設置の際に、上側第一耐火レンガ3aを配置した側が他方の環流管と近くなるように設置することによって(すなわち、図8の如く設置することによって)、非常に高い耐溶損性および耐スポーリング性を発現させることができるので、きわめて長期間に亘って使用することができる。
【0041】
<環流管の変更例>
本発明に係る環流管は、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、耐火レンガ、鉄輪の材質、形状、大きさ等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明に係る環流管を設置する真空脱ガス装置の構成や、本発明に係る環流管の下端に接続する浸漬管の構成も、上記実施形態の態様に限定されず、必要に応じて適宜変更することができる。
【0042】
たとえば、本発明に係る環流管は、上記実施形態の如く、62個の耐火レンガを円筒状に組み付けたもの(モルタルによって固着させたもの)に限定されず、構成単位である耐火レンガの数を必要に応じて変更することができる。また、本発明に係る環流管は、上記実施形態の如く、径方向において相対的に肉厚な耐火レンガをマグネシアカーボン質耐火物によって形成するとともに、径方向において相対的に肉薄な耐火レンガをマグネシアクロム質耐火物によって形成したものに限定されず、構成単位である耐火レンガの材質を必要に応じて適宜変更することができる。さらに、本発明に係る環流管は、上記実施形態の如く、2つの円筒状体を上下に重ね合わせた構造を有するものに限定されず、3つ以上の円筒状体を上下に重ね合わせた構造を有するもの等でも良い。
【0043】
また、本発明に係る環流管は、複数の耐火レンガをモルタルによって固着させたものや、複数の耐火レンガをボンドによって固着させたものでも良いし、複数のレンガをモルタルやボンド等を使用することなく帯鉄で拘束することによって組付けた形状を保つ空目地タイプのもの等でも良い。加えて、本発明に係る環流管は、上記実施形態の如く、台形状の水平断面を有する複数の耐火レンガを組み付けたものに限定されず、図9の如く、扇状の水平断面を有する複数の耐火レンガ等を組み付けたもの等に変更することも可能である。
【0044】
加えて、本発明に係る環流管は、上記実施形態の如く、中心軸に対して一方向側に位置した耐火レンガ(上側第一耐火レンガおよび下側第一耐火レンガ)の周方向の横幅が反対側に位置した耐火レンガ(上側第五耐火レンガおよび下側第五耐火レンガ)の周方向の横幅よりも広くなっているものに限定されず、周方向の横幅が同一の耐火レンガを組み付けたものでも良い。さらに、本発明に係る環流管は、上記実施形態の如く、中心軸に対して一方向側に位置した耐火レンガ(上側第一耐火レンガおよび下側第一耐火レンガ)の高さが反対側に位置した耐火レンガ(上側第五耐火レンガおよび下側第五耐火レンガ)の高さよりも低くなっているものに限定されず、高さが同一の耐火レンガを組み付けたものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る環流管は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、真空脱ガス装置の下部槽に設置して上昇管あるいは下降管として機能させる部材等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1,1’・・環流管
2a・・上側円筒状体
2b・・上側円筒状体
3(3a~3eおよび3α~3ε)・・耐火レンガ
5・・鉄輪
11・・浸漬管
12・・上部槽
13・・下部槽
14・・取鍋
15・・敷レンガ
16・・鉄皮
M・・真空脱ガス装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9