(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/662 20060101AFI20230628BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230628BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
F16H61/662
F16H61/02
F16H59/18
(21)【出願番号】P 2020559886
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2019045264
(87)【国際公開番号】W WO2020121751
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018234833
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 宗桓
(72)【発明者】
【氏名】本間 知明
(72)【発明者】
【氏名】中野 論
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】牛久保 佑介
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-137105(JP,A)
【文献】特開2010-121696(JP,A)
【文献】特開2008-232393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/18-59/22
F16H 61/02
F16H 61/66-61/664
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機を有する車両を制御する車両の制御装置であって、
前記無段変速機を段階的にアップシフトさせて前記車両を加速させる段階変速を行う制御部を有し、
前記制御部は、前記段階変速の禁止条件として、駆動力不足判定に基づく第1禁止条件を含み、前記段階変速の禁止前から前記第1禁止条件によって前記段階変速が禁止された後にわたって継続的にアクセルペダルが踏まれ続けた場合は前記無段変速機をダウンシフトするダウンシフト制御を実行する車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の制御装置において、
前記制御部は、前記段階変速の禁止前から前記第1禁止条件によって前記段階変速の禁止された後にわたって継続的にアクセルペダルが踏まれ続けられる際にアクセル開度が所定未満になった場合には、前記ダウンシフト制御の実行を行わない車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両の制御装置において、
前記ダウンシフトは、段階的ダウンシフトである車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載された車両の制御装置において、
前記制御部は、前記ダウンシフト制御を実行する際に前記無段変速機の入力回転速度を閾値以上に上昇させる車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載された車両の制御装置において、
前記制御部は、前記段階変速の禁止条件として、前記第1禁止条件とは異なる
、前記無段変速機の不安定状態に関連付けられた第2禁止条件をさらに含み、
前記第1禁止条件で前記段階変速を禁止する場合は前記ダウンシフト制御を実行し、
前記第2禁止条件で前記段階変速を禁止する場合は前記ダウンシフト制御を実行しない車両の制御装置。
【請求項6】
無段変速機を有する車両を制御する車両の制御方法であって、
前記無段変速機を段階的にアップシフトさせて前記車両を加速させる段階変速を行い、
前記段階変速の禁止条件として、駆動力不足判定に基づく第1禁止条件を含み、前記段階変速の禁止前から前記第1禁止条件によって前記段階変速が禁止された後にわたって継続的にアクセルペダルが踏まれ続けた場合は前記無段変速機をダウンシフトするダウンシフト制御を実行する車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2015/046353A1には、無段変速機の制御方法として、駆動源の出力回転を無段階に変速可能な無段変速機を予め設定された複数の変速段同士の間でステップ的(段階的)にアップシフトする制御が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
当該制御はドライバがアクセルペダルを踏んで加速する際に実行されるものであり、段階的にアップシフトをしていくもの(以下では、段階的なアップシフトを「段階変速」ともいう。)である。このため、駆動輪に伝達される駆動力(トルク)は車速が増加するにつれて段階的に減少していくことになる。
【0004】
そのため、駆動輪に大きな負荷(例えば、道路勾配の大きい登坂路等)がかかるなど、車両の走行抵抗が高まる要因がある場合に、段階変速のシーケンス途中で駆動力(トルク)が段階的に下がった瞬間に失速し加速感が鈍化してしまうことが考えられる。
【0005】
このような状況に対応するために、駆動力が不足する場合に段階的アップシフトを禁止することが考えられる。しかしながら、単純に段階的アップシフトを禁止しただけではドライバの加速要求に応えきれない場合がある。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、段階変速を行っているときに、段階変速が禁止される状況になってもドライバの加速要求に応えることを目的とする。
【0007】
本発明のある態様によれば、無段変速機を有する車両を制御する車両の制御装置は、無段変速機を段階的にアップシフトさせて車両を加速させる段階変速を行う制御部を有し、制御部は、段階変速の禁止条件として、駆動力不足判定に基づく第1禁止条件を含み、段階変速の禁止前から第1禁止条件によって段階変速が禁止された後にわたって継続的にアクセルペダルが踏まれ続けた場合は無段変速機をダウンシフトするダウンシフト制御を実行する。
【0008】
本発明の別の態様によれば、無段変速機を有する車両を制御する車両の制御方法は、無段変速機を段階的にアップシフトさせて車両を加速させる段階変速を行い、段階変速の禁止条件として、駆動力不足判定に基づく第1禁止条件を含み、段階変速の禁止前から第1禁止条件によって段階変速が禁止された後にわたって継続的にアクセルペダルが踏まれ続けた場合は無段変速機をダウンシフトするダウンシフト制御を実行する。
【0009】
これらの態様によれば、段階変速を行っているときに、段階変速が禁止される状況になってもドライバの加速要求に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る変速マップ及び変速線の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る車両における駆動力の変化を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る変速制御のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る変速制御のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、車両100の概略構成図である。車両100は、エンジン1と、無段変速機としての自動変速機3と、オイルポンプ5と、駆動輪6と、制御装置としてのコントローラ10と、を備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリン、軽油等を燃料とする内燃機関であり、走行用駆動源として機能する。エンジン1は、コントローラ10からの指令に基づいて、回転速度、トルク等が制御される。
【0014】
自動変速機3は、トルクコンバータ2と、締結要素31と、ベルト式無段変速機構(以下、「CVT」ともいう。)30と、油圧コントロールバルブユニット40(以下では、単に「バルブユニット40」ともいう。)と、オイル(作動油)を貯留するオイルパン32と、を備える。
【0015】
トルクコンバータ2は、エンジン1と駆動輪6の間の動力伝達経路上に設けられる。トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。また、トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチ2aを締結することで、エンジン1からの駆動力の動力伝達効率を高めることができる。
【0016】
締結要素31は、トルクコンバータ2とCVT30の間の動力伝達経路上に配置される。締結要素31は、コントローラ10からの指令に基づき、オイルポンプ5の吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧されたオイルによって制御される。締結要素31としては、例えば、ノーマルオープンの湿式多板クラッチが用いられる。締結要素31は、図示しない前進クラッチ及び後進ブレーキによって構成される。
【0017】
CVT30は、締結要素31と駆動輪6との間の動力伝達経路上に配置され、車速やアクセル開度等に応じて変速比を無段階に変更することができる。CVT30は、プライマリプーリ30aと、セカンダリプーリ30bと、両プーリ30a,30bに巻き掛けられたベルト30cと、を備える。プーリ圧によりプライマリプーリ30aの可動プーリとセカンダリプーリ30bの可動プーリとを軸方向に動かし、ベルト30cのプーリ接触半径を変化させることで、変速比を無段階に変更することができる。なお、プライマリプーリ30aに作用するプーリ圧及びセカンダリプーリ30bに作用するプーリ圧は、オイルポンプ5からの吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧される。
【0018】
CVT30のセカンダリプーリ30bの出力軸には、図示しない終減速ギア機構を介してディファレンシャル12が接続される。ディファレンシャル12には、ドライブシャフト13を介して駆動輪6が接続される。
【0019】
オイルポンプ5は、エンジン1の回転がベルトを介して伝達されることによって駆動される。オイルポンプ5は、例えばベーンポンプによって構成される。オイルポンプ5は、オイルパン32に貯留されるオイルを吸い上げ、バルブユニット40にオイルを供給する。バルブユニット40に供給されたオイルは、各プーリ30a,30bの駆動や、締結要素31の駆動、自動変速機3の各要素の潤滑などに用いられる。
【0020】
コントローラ10は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ10は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。具体的には、コントローラ10は、自動変速機3を制御するATCU、シフトレンジを制御するSCU、エンジン1の制御を行うECU等によって構成することもできる。なお、本実施形態における制御部とは、コントローラ10の後述する段階変速制御を実行する機能を仮想的なユニットとしたものである。
【0021】
コントローラ10には、エンジン1の回転速度Neを検出する第1回転速度センサ51、締結要素31の出力回転速度Nout(=プライマリプーリ30aの回転速度Npri)を検出する第2回転速度センサ52、セカンダリプーリ30bの回転速度Nsecを検出する第3回転速度センサ53、車速Vを検出する車速センサ54、CVT30のセレクトレンジ(前進、後進、ニュートラル及びパーキングを切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を検出するインヒビタスイッチ55、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ56、ブレーキの踏力を検出する踏力センサ57、気圧を検出する気圧センサ58、及び道路勾配を検出する勾配センサ59等からの信号が入力される。コントローラ10は、入力されるこれらの信号に基づき、エンジン1、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ2a、自動変速機3の各種動作を制御する。
【0022】
次に、自動変速機3による段階変速制御について説明する。本実施形態では、加速時において、加速度αが所定値A以上である場合に、自動変速機3を予め設定された複数の変速段同士の間でステップ的(段階的)にアップシフトする変速制御を行う(以下では、段階変速に係る制御を「段階変速制御」という。)。以下に、本実施形態の段階変速制御について説明する。
【0023】
コントローラ10内には、予め
図2に示す変速マップが記憶されており、コントローラ10は、
図2に示す変速マップに基づき、車両100の運転状態(本実施形態では車速V、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO)に応じて、CVT30を制御する。なお、
図2では、本実施形態の段階変速制御の一例として、あるアクセル開度APOでの変速線L1のみを示しているが、実際にはアクセル開度APO毎に設定された変速線が複数存在する。
【0024】
変速マップは、自動変速機3の動作点が車速Vとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。自動変速機3はCTV30の変速比を最Low変速比にして得られる最Low線とCTV30の変速比を最High変速比にして得られる最High線の間の領域で変速することができる。
【0025】
コントローラ10は、アクセル開度APOが車速Vに応じた段階変速開始開度よりも小さい場合に通常変速を行い、アクセル開度APOが車速Vに応じた段階変速開始開度以上となった場合に段階変速を行う。段階変速開始開度は、車速Vに応じて予め設定されたアクセル開度であって、運転者が加速を意図していると判断される大きさに設定される。
【0026】
通常変速では、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に設定された変速線に基づいて変速が行われる。
【0027】
段階変速では、変速抑制フェーズと、アップシフトフェーズとが繰り返し行われる。
【0028】
変速抑制フェーズでは、変速比の変化率(単位時間あたりの変速比の変化量)はゼロであり、エンジン回転速度(プライマリ回転速度Npri)の上昇に伴って車速Vが上昇する。なお、変速抑制フェーズにおいて、変速比の変化率をゼロよりも大きくしてもよい。この場合、変速比の変化率は、変速抑制フェーズ中に車速Vの増加に伴い、プライマリ回転速度Npriが低下することがない範囲に設定される。
【0029】
アップシフトフェーズでは、変速比が段階的にHigh側に変更される。アップシフトフェーズにおける変速比の変化率は、車速Vの増加に伴い、プライマリ回転速度Npriが低下する範囲に設定される。
【0030】
変速抑制フェーズとアップシフトフェーズにおける変速比の変化率を上述のように設定することで、段階変速制御における変速は、
図2に示すようにプライマリ回転速度Npriの増減を繰り返す変速形態となる。
【0031】
段階変速制御では、プライマリ回転速度Npriがアクセル開度APO毎に設定された第1所定回転速度になるとアップシフトフェーズが実行され、車速Vに応じてアクセル開度APO毎に設定された第2所定回転速度になるまでアップシフトされた後は、変速抑制フェーズが実行される。なお、第1所定回転速度及び第2所定回転速度は、車速Vが上がるにつれてアップシフト側になるように予め設定された値である。
図2では、各車速Vに対応する第1所定回転速度を結んだ線を線L2とし、各車速Vに対応する第2所定回転速度を結んだ線を線L3として示している。
【0032】
変速抑制フェーズでは、車速Vの上昇とともにプライマリ回転速度Npri(エンジン回転速度)が徐々に高くなる。
【0033】
この段階変速制御は、上述のように、ドライバがアクセルペダルを踏んで車両100の加速を行う際に実行されるものであり、段階的にアップシフトをしていくものである。この段階変速においては、駆動輪6に伝達される駆動力(トルク)は、
図3に示すように、車速Vが増加するにつれて、別の言い方をすると、アップシフトするにつれて、段階的に減少していく。
【0034】
駆動輪6に大きな負荷(例えば、道路勾配の大きい登坂路に差し掛かる等)がかかるなど、車両100の走行抵抗が高まる要因がある場合に、段階的にアップシフトしてしまうと、駆動力(トルク)が急激に下がり、車両100が急激に失速してしまう(意図せず減速してしまう)おそれがある。
【0035】
このように、アップシフトによって車両100が失速することが予測される場合には、段階変速を禁止することが考えられる。しかしながら、単純にアップシフトを禁止しただけではドライバの加速要求に応えきれない場合がある。そこで、本実施形態では、アップシフトによって車両100が失速することが予測される場合に、単純にアップシフトを禁止するだけでなく、ドライバの加速要求に応じることができるようにダウンシフト変速を行う。以下に、
図4に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態の段階変速制御について具体的に説明する。本実施形態の段階変速制御は、コントローラ10にあらかじめ記憶されたプログラムに基づいて実行される。
【0036】
まず、ステップS1において、加速度αが所定値A以上であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ10は、車速センサ54によって検出された車速Vから加速度αを求め、加速度αが所定値A以上であるか否かを判定する。加速度αが所定値A以上であると判定されれば、ステップS2に進み、段階変速制御を指示する。これに対し、加速度αが所定値A未満であると判定されれば、ステップS10に進み、通常の変速制御を実行する。
【0037】
ステップS3では、コントローラ10は、第1禁止条件が成立したか否かを判定する。
【0038】
ここで、第1禁止条件について具体的に説明する。第1禁止条件は、予測されるアップシフト後の駆動力が所定値未満である場合である。本実施形態では、車速変化率推定値ΔVsが閾値V1未満であるか否かを判定することによって、予測されるアップシフト後の駆動力が所定値未満であるか否かを判定する。
【0039】
ここで、車速変化率推定値ΔVsについて具体的に説明する。車速変化率推定値ΔVsは、具体的には、ΔVs=ΔV×Rn/Rp・・・(式1)によって求められた値である。以下に、ΔV、Rn、Rpについて説明する。
【0040】
車速変化率ΔVは、段階変速中の自動変速機3の出力軸回転速度の時間的変化率である。具体的には、車速変化率ΔVは、第3回転速度センサ53によって検出されたセカンダリプーリ30bの回転速度Nsecを時間で微分した値である。なお、セカンダリプーリ30bの回転速度Nsecは車速Vに比例するので、ΔVは、車速Vの時間的変化率に比例するパラメータとなる。車速Vの時間的変化は、車重、道路勾配、走行抵抗の変化などの全ての要因を含んでいる。したがって、ΔVは、これらの全ての要因の変化が反映されたパラメータとなる。
【0041】
実変速比Rnは、現在のCVT30の変速比である。実変速比Rnは、第2回転速度センサ52によって検出されたプライマリプーリ30aの回転速度Npriと、第3回転速度センサ53によって検出されたセカンダリプーリ30bの回転速度Nsecと、に基づいて算出される。
【0042】
アップシフト後変速比Rpは、現時点でアップシフトした場合のCVT30の変速比である。
図2を用いて説明すると、例えば、車速VがVaであるときには、車速Vaと第2所定回転速度線L3との交点Cにおける変速比が、アップシフト後変速比Rpに相当する。
【0043】
車両100の駆動力は、車速変化率ΔVに比例する。このため、車速変化率推定値ΔVsもアップシフト後の駆動力に比例した値になる。よって、ステップS3において、車速変化率推定値ΔVsが閾値V1以上であるか否かを判定することによって、アップシフト後の駆動力が所定値未満か否か(不足するか否か)を判定することができる。
【0044】
コントローラ10が、第1禁止条件が成立したと判定すれば、つまり、アップシフト後の駆動力が不足すると判定すればステップS4に進む。これに対して、コントローラ10が、第1禁止条件が成立していないと判定すれば、つまり、アップシフト後の駆動力が不足しないと判定すればステップS7に進む。
【0045】
ステップS4では、段階変速を禁止する。コントローラ10は、プライマリ回転速度Npriがアクセル開度APO毎に設定された第1所定回転速度になっても、段階変速を実行しない(アップシフトフェーズへ移行しない)、つまり、変速抑制フェーズを維持する。具体的には、コントローラ10は、その時点での変速比Rを維持するように制御を行う。
【0046】
ステップS5では、アクセルONが継続されているか否かを判定する。コントローラ10は、段階変速の禁止前から段階変速の禁止後まで間、アクセルペダルが継続的に踏まれ続けているか否かを判定する。より具体的には、段階変速の禁止の判定を行う前から、段階変速の禁止の判定後にわたる所定時間の間、アクセルペダルが所定量以上で、継続的に踏まれているか否かを判定する。アクセルONが継続されていれば、ステップS6に進み、アクセルONが継続されていなければ、ENDに進む。
【0047】
ステップS6では、ダウンシフト制御を実行する。具体的には、コントローラ10は、段階的にダウンシフトする(変速比Rが所定量Low側になる)ようにバリエータ30を制御するとともに、エンジン回転速度Ne(=プライマリ回転速度Npri)がMAXになるようにエンジン1を制御する。このような段階的なダウンシフトを伴うダウンシフト制御を実行することにより、短時間で車両100を加速させることができる。これにより、段階変速を行っているときに、段階変速が禁止される状況になっても、ドライバの加速要求に応じることができる。なお、本実施形態における段階的なダウンシフトとは、例えば、変速指示を階段状に行うか、又は、変速指示を急勾配(所定勾配以上で変化)させることである。
【0048】
続いて、ステップS7以降のフローについて説明する。
【0049】
ステップS7では、コントローラ10は、第2禁止条件が成立したか否かを判定する。
【0050】
第2禁止条件は、第1禁止条件とは異なる条件であり、例えば、低油温、高油温、あるいは段階変速中に各種要素に異常が発生したこと検知した場合などである。
【0051】
具体的に説明すると、例えば、低油温(油温が第1所定油温T1以下)のときには、アップシフトを行ってもエンジン回転速度Neが低下せずに高止まりすることがある。このような状況では、CVT30のプライマリ回転速度Npriが安定しない。このため、ダウンシフト制御を実行するとドライバに違和感を与えてしまうおそれがある。したがって、低油温(油温が第1所定油温T1以下)のときには、段階変速を禁止するととともにダウンシフト制御の実行を禁止することが好ましい。
【0052】
また、高油温(油温が第2所定油温T2以上)のときには、変速制限をする場合があるので、このような場合にも、段階変速を禁止するととともにダウンシフト制御の実行を禁止することが好ましい。
【0053】
段階変速中に各種要素に異常が発生したときには、変速制限をする場合があるので、このような場合にも、段階変速を禁止するとともにダウンシフト制御の実行を禁止することが好ましい。
【0054】
コントローラ10が、第2禁止条件が成立したと判定すれば、ステップS8に進む。これに対して、コントローラ10が、第2禁止条件が成立していないと判定すれば、ステップS9に進む。
【0055】
ステップS8では、段階変速の実行を禁止する。コントローラ10は、プライマリ回転速度Npriがアクセル開度APO毎に設定された第1所定回転速度になっても、段階変速を実行しない(アップシフトフェーズへ移行しない)、つまり、変速抑制フェーズを維持する。具体的には、コントローラ10は、その時点での変速比Rを維持するように制御を行う。
【0056】
ステップS9では、段階変速の実行を許可する。コントローラ10は、プライマリ回転速度Npriがアクセル開度APO毎に設定された第1所定回転速度になると、段階変速を実行する(アップシフトフェーズへ移行する)。
【0057】
このように、本実施形態では、アップシフト後の駆動力が不足することが予想される場合には、段階変速(段階的なアップシフト)を禁止する。さらに、段階変速(段階的なアップシフト)が禁止される前後の所定時間の間、アクセルペダルが踏み続けられている場合には、段階的なダウンシフトを行うとともにエンジン1の回転速度を上昇させる。段階変速が禁止されてからもアクセルペダルが踏み続けられている場合には、ドライバが加速を要求し続けていることになる。このため、このような場合には、ダウンシフト制御を実行することで、車両100を加速させることができる。これにより、段階変速が禁止される状況になっても、ドライバの加速要求に応じることができる。
【0058】
なお、アクセルペダルの踏み込みが緩められた場合には、ドライバが加速をあきらめた可能性が高いため、ダウンシフト制御を実行しない。
【0059】
次に、
図5に示すタイミングチャートを参照しながら、本実施形態の段階変速制御について説明する。
【0060】
時刻t1において、アクセルペダルが踏み込まれると、車両100が加速を開始する。加速度αが所定値A以上であると、コントローラ10は、段階変速制御を実行する。具体的には、コントローラ10は、予め記憶されたアクセル開度APO毎に設定された変速線に沿うように、変速比R及びプライマリ回転速度Npri(エンジン回転速度)を制御する。また、コントローラ10は、車速変化率推定値ΔVsを算出し、ΔVsが閾値V1以上であるか否かを判定する。
【0061】
時刻t2において、プライマリ回転速度Npriが第1所定回転速度になると、アップシフトフェーズに移行し段階変速を実行する。具体的には、コントローラ10は、
図2に示す変速線L1に沿って、変速比RをHigh側に段階的に切り替える。そして、プライマリ回転速度Npriが第2所定回転速度となると、コントローラ10は、変速抑制フェーズに移行し、変速比Rを維持しながら、プライマリ回転速度Npri(エンジン回転速度)を上昇させる。以降、時刻t5まで、アップシフトフェーズと変速抑制フェーズとを繰り返し実行する。
【0062】
時刻t6において、ΔVsが閾値V1未満になると、コントローラ10は、段階変速の実行を禁止する。なお、このとき、コントローラ10は、変速抑制フェーズを継続する。具体的には、コントローラ10は、変速比Rを維持したままプライマリ回転速度Npriのみを増加させる。
【0063】
そして、時刻t7において、プライマリ回転速度Npriが第1所定回転速度となった場合に、コントローラ10は段階変速は実行せず、変速比Rをそのまま維持する。なお、
図5のプライマリ回転速度における太い点線は、段階変速が実行された場合を示している。
【0064】
時刻t6から所定時間経過すると(時刻t8)、コントローラ10は、ダウンシフト制御を実行する。具体的には、コントローラ10は、変速比Rが所定量Low側になるようにバリエータ30を制御するとともに、エンジン回転速度Ne(=プライマリ回転速度Npri)がMAXになるようにエンジン1を制御する。なお、ダウンシフト制御を実行するための条件は、段階変速の禁止前から段階変速の禁止後までの間に継続的にかつ所定の開度以上でアクセルペダルが踏まれ続けた場合である。
【0065】
このように、本実施形態では、アップシフト後の駆動力が不足することが予想される場合には、段階変速(段階的なアップシフト)を禁止する。さらに、段階変速(段階的なアップシフト)が禁止される前後の所定時間の間、アクセルペダルが踏み続けられている場合には、ダウンシフト制御を実行する。これにより、段階変速が禁止される状況になっても、ドライバの加速要求に応じることができる。
【0066】
なお、上記実施形態では、ダウンシフト制御時にエンジン1の回転速度をMAXまで上昇させる場合を例に説明したが、これに限らず、エンジン1の回転速度をあらかじめ設定された閾値以上にするようにしてもよい。
【0067】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0068】
コントローラ10(制御装置)は、無段変速機(CVT30)を段階的にアップシフトさせて車両100を加速させる段階変速を行う制御部(コントローラ10)を有し、制御部(コントローラ10)は、段階変速の禁止前から段階変速の禁止後までの間に継続的にアクセルペダルが踏まれ続けた場合は無段変速機(CVT30)をダウンシフトするダウンシフト制御を実行する。
【0069】
この構成では、段階変速を禁止するだけでは駆動力が足りないため、無段変速機(CVT30)を強制的にダウンシフトさせることで、駆動力不足を補うことができる。これにより、段階変速が禁止される状況になってもドライバの加速要求に応えることができる。また、ダウンシフト制御の実行条件として、段階変速の禁止の後(直後)にアクセルペダルが踏まれた状態が継続、維持されるという条件を採用しているため、加速の意図を持ったドライバ(アクセルペダルを踏み続けるドライバ)には駆動力を与える演出が可能となるとともに、加速を諦めたドライバ(アクセルを離したドライバ)に対しては違和感のある駆動力を与えないようにすることができる。
【0070】
コントローラ10(制御部)は、段階変速の禁止前から段階変速の禁止後までの間に継続的にアクセルペダルが踏まれ続けられる際にアクセル開度が所定未満になった場合には、ダウンシフト制御の実行を行わない。
【0071】
アクセル開度が所定未満になった場合には、ドライバが加速を諦めたとみなすことができる。このため、この場合には、ダウンシフト制御の実行を行わないようにすることで、違和感のある駆動力を与えないようにすることができる。
【0072】
本実施形態では、ダウンシフトは、段階的ダウンシフトである。
【0073】
緩やかなダウンシフトでなく段階的なダウンシフトとすることにより、短時間で大きな駆動力を演出することができる。
【0074】
コントローラ10(制御部)は、ダウンシフト制御を実行する際に無段変速機(CVT30)の入力回転速度(プライマリ回転速度Npri)を閾値以上に上昇させる。
【0075】
ダウンシフト制御を実行する際に無段変速機(CVT30)の入力回転速度(プライマリ回転速度Npri)を閾値以上に上昇させることにより、より大きな駆動力を得ることができる。
【0076】
コントローラ10(制御部)は、段階変速の禁止条件として、駆動力不足判定に基づく第1禁止条件と、第1禁止条件とは異なる第2禁止条件(油温異常、故障発生など)と、を含み、第1禁止条件で段階変速を禁止する場合はダウンシフト制御を実行し、第2禁止条件で段階変速を禁止する場合はダウンシフト制御を実行しない。
【0077】
自動変速機3のユニット状態が正常状態のときにおいては、段階変速の実行が禁止された場合にダウンシフト制御を行う。これにより、加速感を向上させることができる。また、自動変速機3のユニット状態が不安定な状態においては、段階変速の実行が禁止された場合にダウンシフト制御の実行を禁止する。これにより、車両100の挙動が不安定になることを防止できる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0079】
また、上記実施形態では、ステップS3において、第1禁止条件として車速変化率推定値ΔVsを用いてアップシフト後の駆動力が不足するか否かを予測していた。しかしながら、第1禁止条件はこれに限らず、例えば、アップシフト直前に予測したアップシフト後の駆動力を用いてもよい。また、車両100のアップシフト後の予想される走行抵抗が所定値以上であることを第1禁止条件としてもよい。この場合、走行抵抗は、空気抵抗、勾配抵抗、転がり抵抗、及び加速抵抗といった各種パラメータの1つまたは複数を適宜選択してこれらの合計によって算出すればよい。また、空気密度(気圧)、道路勾配、車速、車重、及び車両加速度から選ばれた1又は複数のパラメータを用いて駆動力不足を予測しても良い。例えば、道路勾配が突然大きくなったことを検知すると駆動力が予測される。また、地図情報を取得して道路勾配が大きくなることを予測することで駆動力不測を予測することができる。もちろん、他の方法で駆動力不測を予測しても良い。
【0080】
本願は、2018年12月14日に日本国特許庁に出願された特願2018-234833号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。