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特許7303865植物性タンパク質を含む多孔質細胞支持体およびそれを用いて製造された培養肉
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】植物性タンパク質を含む多孔質細胞支持体およびそれを用いて製造された培養肉
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230628BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20230628BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20230628BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230628BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20230628BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C07K14/415
C12N5/00
C12N5/071
A23L13/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021214122
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023036506
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】10-2021-0117073
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520457236
【氏名又は名称】ダナグリーン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DANAGREEN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Rm.201, 116-1, Dogu-ro, Seocho-gu, Seoul 06570 Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュ スンヨン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-527054(JP,A)
【文献】特表2021-503894(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0146532(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0306283(US,A1)
【文献】Biomaterials,2006年,Vol.27,pp.3793-3799
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00-15/90
A23L 13/00-13/77
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来タンパク質分離物(plant derived protein isolates)、ポロゲン(porogen)、乳化剤を含む多孔質細胞支持体であって、前記植物由来タンパク質分離物は、豆、大豆、緑豆、インゲンマメ、エンドウ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される一つ以上から分離されたタンパク質であり、前記多孔質細胞支持体の細孔サイズは50~400μmであり、細孔相互接続率は80%~99.9%であることを特徴とする多孔質細胞支持体。
【請求項2】
凝固剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項3】
前記植物由来タンパク質分離物、ポロゲンおよび乳化剤を溶剤に加えて攪拌した後、凝固剤を添加して得られたものを特徴とする請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項4】
(a)80kPa~150kPaの圧縮強度、
(b)40gf~70gfの引張強度、18kPA~32kPAの降伏強度、および10%~20%の降伏伸び、
および
(c)0.4kgf~1.0kgfのかたさ、0.6~1.0の凝集性、0.8~1.2の弾力性、0.3~0.7の粘着性、0.3~0.7の咀嚼性の物性
から選択される一つ以上の特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項5】
(d)40%~80%の開放空隙、
(e)40%~80%の総空隙率、
ら選択される一つ以上の特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項6】
前記ポロゲンは、寒天、塩、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、スクロースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項7】
前記乳化剤または溶剤は、グリセリン、プロピレングリコール、モノグリセリド、ジグリセリド、レシチン、大豆リン脂質およびそれらの組み合わせからなる群から選択される一つ以上あることを特徴とする、請求項1又は請求項3に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項8】
前記凝固剤は、グルコノデルタラクトン、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マグネシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする、請求項に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項9】
前記多孔質細胞支持体内に細胞が分注されることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項10】
培養肉の製造のためのものであることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質細胞支持体。
【請求項11】
植物由来タンパク質分離物、ポロゲンおよび乳化剤を溶剤に添加し、撹拌して撹拌混合物を製造するステップと、
前記撹拌混合物に凝固剤を添加して細胞支持体を形成するステップとを含む、請求項1に記載の多孔質細胞支持体の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の多孔質細胞支持体と、前記多孔質細胞支持体内に分注された細胞とを含む、培養肉。
【請求項13】
請求項1に記載の多孔質細胞支持体に細胞を分注し、三次元培養して、三次元細胞集合体を形成するステップを含む培養肉製造方法。
【請求項14】
前記細胞は、幹細胞、筋細胞、脂肪細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される一つであることを特徴とする、請求項13に記載の培養肉製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載の培養肉を含む食用製品(edible product)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
植物性タンパク質を含む多孔質細胞支持体およびそれを用いて製造された培養肉に関する。
【背景技術】
【0002】
2050年になると全世界の人口は90億人に達し、人類の肉類消費量も465百万トンに達すると推定される。このため、国際連合食糧農業機構(FAO)は、増加する肉類の需要に合わせるために、毎年2億トンの追加生産が必要であることを発表した。このような未来の肉類不足問題を解決するための案として、最近「培養肉(In Vitro Meat)」が注目されている。「培養肉」とは、生きている動物の細胞を採取した後、細胞工学技術で増殖して得られる食用肉を意味し、家畜を飼育する過程を経ずに肉を得る細胞農業(cellular agriculture)の一つの分野である。
【0003】
培養肉の開発により、家畜飼育や屠殺過程で発生する各種環境汚染や倫理的な問題を一定部分解決できるという認識が広がっている。家畜飼育が温室効果ガス排出の主な要因として挙げられており、家畜飼育が減ると、農耕地拡大、土壌侵食減少、水質汚染防止などの効果が期待できる。
【0004】
また、培養肉は、劣悪な飼育環境や屠殺に関連する動物福祉の面でも利点があり、狂牛病、口蹄疫などの家畜感染症の発症リスクを排除することができ、技術レベルに応じて牛肉だけでなく、豚肉、鶏肉、魚類の培養育生産が可能である。したがって、培養肉を大規模に生産することが、資源を節約し、畜産業が環境に与える影響を減らせる有効な方法になると予想されている。
【0005】
一方、培養肉の製造コストに関しては、2013年の初期開発時にハンバーガーパティ100gを1個作るのに、なんと32万5千ドルが必要になり、2017年時点で1,986ドル/100gに減少したが、依然として非常に高いレベルである。また、現在生産されている培養肉は生産技術の限界で、既存の肉類より相対的に味が落ちるという評価を受けているという欠点がある。ステーキのような肉本来の味が重要な食材としては使われず、ハンバーガーパティ用材料として使われているので、既存の肉との味の差をなくすために、筋肉、油、骨などを培養肉と混合しながら、実際の肉と同じ味を出すための研究も活発に行われている。さらに、培養肉製造のために細胞培養培地に馬や牛の胎児血清が必要であり、培養肉製造が増加するほど家畜屠殺も増加する矛盾が発生することになる。
【0006】
したがって、培養肉製造方法において高いコスト問題を解決しながらも大量生産が可能であり、既存の肉類と同様の味を出すための技術的な研究が求められている状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、植物性タンパク質を含む多孔質細胞支持体を提供することにある。
別の目的は、前記多孔質細胞支持体を製造する方法を提供することである。
もう一つの目的は、前記多孔質細胞支持体を含む培養肉を提供することである。
もう一つの目的は、前記多孔質細胞支持体を用いて培養肉を製造する方法を提供することにある。
もう一つの目的は、前記培養肉を含む食用製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様は、植物由来タンパク質分離物(plant derived protein isolates)、ポロゲン(porogen)、乳化剤を含む多孔質細胞支持体を提供する。
前記多孔質細胞支持体は凝固剤をさらに含むことができる。
前記多孔質細胞支持体は、植物由来タンパク質分離物、ポロゲンおよび乳化剤を溶剤に加えて攪拌した後、凝固剤を添加して得られたものであってもよい。
【0009】
用語「植物由来タンパク質分離物(plant derived protein isolates)」とは、植物体に存在するタンパク質を当該技術分野で通常用いられる方法で処理して分離されたタンパク質を意味するものであり、植物性タンパク質ともいう。
【0010】
用語「ポロゲン(porogen)」は、多孔質材料を生成するために使用することができる任意の物質を意味するものであり、細孔形成剤、細孔誘導物質ともいう。前記ポロゲンは食用であり、寒天、塩、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチンおよびスクロースからなる群から選択される一つ以上であることができる。食用可能でありながら、植物由来タンパク質分離物に細孔を形成することができる物質は、ポロゲンとして制限なく適用することができる。
【0011】
用語「乳化剤」は、互いに混ざりにくい2つの材料がうまく混合できるよう助ける材料を意味することができる。前記乳化剤は食用可能であり、グリセリン、プロピレングリコール、モノグリセリド(monoglyceride)、ジグリセリド(diglyceride)、レシチン(lecithin)および大豆リン脂質からなる群から選択される一つ以上であることができる。食用可能でありながら、植物由来のタンパク質分離物とポロゲンがうまく混合するよう助けることができる物質は、乳化剤として制限なく適用することができる。
【0012】
用語「溶剤」は、物質を溶解するための物質を意味することができる。前記溶剤は食用可能であり、グリセリン、プロピレングリコール、モノグリセリド(monoglyceride)、ジグリセリド(diglyceride)、レシチン(lecithin)および大豆リン脂質からなる群から選択される一つ以上であることができる。
【0013】
前記乳化剤と前記溶剤は同じ材料であることができる。任意の物質が乳化剤および溶剤の役割を同時に遂行することができる。
【0014】
前記凝固剤は食用可能であり、グルコノデルタラクトン(glucono-δlactone)、塩化カルシウム、硫酸カルシウムおよび塩化マグネシウムからなる群から選択される一つ以上であることができる。
【0015】
前記多孔質細胞支持体は、以下の(a)~(c)から選択される任意の 一つ以上の特性を有するものであることができる。
(a)80kPa~150kPa の圧縮強度
(b)40gf~70gfの引張強度、18kPA~32kPAの降伏強度、および10%~20%の降伏伸び
(c)0.4kgf~1.0kgfのかたさ、0.7~0.9の凝集性、0.8~1.2の弾力性、0.4~0.6の粘着性、0.3~0.7の咀嚼性の物性。
【0016】
具体的には、前記多孔質細胞支持体は、80kPa~150kPa、90kPa~140kPa、95kPa~135kPa、または100kPa~130kPaの圧縮強度を有することができる。前記多孔質細胞支持体は、40gf~70gf、45gf~65gf、または50gf~65gfの引張強度、18kPA~32kPA、20kPA~31kPA、または22kPA~30kPAの降伏強度;及び10%~20%、12%~18%、または13%~17%の降伏伸びを有することができる。前記多孔質細胞支持体は、0.4kgf~1.0kgf、0.5kgf~0.9kgfまたは0.6kgf~0.7kgfのかたさ、0.6~1.0、または0.7~0.9の凝集性、0.8~1.2または0.9~1.1の弾力性、0.3~0.7、0.4~0.6または0.5~0.6の粘着性および0.3~0.7、0.4~0.6または0.5~0.6の咀嚼性の物性を有することができる。
【0017】
一実施形態では、前記多孔質細胞支持体の圧縮試験(Compression test)を行った結果、圧縮強度は平均約116kPaに測定することができる。また、前記多孔質細胞支持体の引張試験(Tensile test)を行った結果、引張強度は平均約56gf、降伏強度は平均約26kPA、及び降伏伸びは平均約15%に測定することができる。また、前記多孔質細胞支持体のTPA(Texture Profile Analysis)を行った結果、かたさは平均約0.67kgf、接着性は平均約0.002kgf*sec、凝集性は平均約0.8、弾力性は平均約1.0、粘着性は平均約0.6、咀嚼性は平均約0.5、弾力復元性は平均約0.6、脆性は平均約0.67kgfに測定することができる。
【0018】
前記多孔質細胞支持体は、以下の(d)~(o)から選択される任意の一つ以上の特性を有するものであることができる。
(d)40%~80%の開放空隙率
(e)40%~80%の総空隙率
(o)80%~99.9%の細孔相互接続率。
【0019】
具体的には、前記多孔質細胞支持体は、40%~80%、50%~70%、55%~65%、または55%~60%の開放空隙率を有することができる。前記多孔質細胞支持体は、40%~80%、50%~70%、55%~65%、または55%~60%の総空隙率を有することができる。前記多孔質細胞支持体は、80%~99.9%、85%~99.9%、90%~99.9%、または95%~99.9%の細孔相互接続率を有することができる。
【0020】
一実施形態では、前期多孔質細胞支持体の形態的特性を分析した結果、開放空隙率は約59%、総空隙率は約59%、細孔相互接続率は約99%に測定することができる。
【0021】
前記多孔質細胞支持体の細孔径は、10~600μm、20~550μm、30~500μm、40~450μm、50~400μm、60~350μm、70~300μm、75~250μm、80~200μm、85~150μm、70~130μm、80~120μm、90~110μm、50~600μm、50~400μm、50~300μm、50~250μm、50~200μm、50~150μmとすることができる。
【0022】
前記多孔質細胞支持体の弾性率は、1~10kPa、2~8kPa、3~8kPa、1~5kPa、4~10kPa、6~10kPa、1~3kPa、または4~6kPaであることができる。
【0023】
前記多孔質細胞支持体は、固体または半固体で可逆的な相転移が起こることができる。さらに、前記多孔質細胞支持体は不溶性であることができる。
【0024】
前記植物性タンパク質は、ナッツ、豆、大豆、緑豆、インゲンマメ、エンドウ、キノコ、野菜、穀物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される一つ以上の中から分離されたタンパク質であることができる。
【0025】
一実施形態では、分離された大豆タンパク質(isolated soy protein;ISP)を用いて多孔質細胞支持体を製造することができる。
前記多孔質細胞支持体内に細胞が分注することができる。
前記多孔質細胞支持体の使用は、三次元細胞培養を含むことができる。
【0026】
一実施形態では、前記多孔質細胞支持体に様々なタイプの細胞が付着、増殖および分化することができる。
【0027】
一実施形態では、前記多孔質細胞支持体に脂肪由来幹細胞、筋細胞または脂肪細胞を分注して三次元培養することができる。
【0028】
前記多孔質細胞支持体は、細胞を安定的かつ持続的に培養することができるだけでなく、細胞ごとに細胞の特性合わせた培養様相を示すことができる効果がある。また、一実施形態に係る多孔質細胞支持体は、細胞培養皿及びプレートで培養する既存の2D培養方法でも長期間培養ができる効果がある。
【0029】
前記多孔質細胞支持体内に分注された細胞は、細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞および植物細胞からなる群を含むことができる。
【0030】
前記細胞、例えば真核細胞は、酵母、真菌、原生動物(protozoa)、植物、高等植物および昆虫、または両生類の細胞、またはCHO、HeLa、HEK293、およびCOS-1などの哺乳動物の細胞であることができ、例えば、当技術分野で一般的に使用される、培養細胞(in vitro)、移植細胞(graft cell)および一次細胞培養(in vitroおよびエクスビボ(ex vivo))、およびインビボ(in vivo)細胞、およびヒトを含む哺乳動物の細胞(mammalian cell)であることができる。さらに、前記有機体は酵母、真菌、原生動物、植物、高等植物および昆虫、両生類、または哺乳動物であることができる。
【0031】
前記多孔質細胞支持体内に分注された細胞は、軟骨細胞、線維軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、滑膜細胞、骨髄細胞、神経細胞、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、肝細胞、筋細胞、基質細胞、血管細胞、幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪細胞、脂肪組織に由来する前駆細胞、末梢血液前駆細胞、成体組織から単離された幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、これらに由来する腫瘍細胞、およびそれらの組み合わせから選択されるいずれかを含めることができるが、これらに限定されない。具体的には、前記多孔質細胞支持体内に分注された細胞は、幹細胞、脂肪細胞、脂肪組織に由来する前駆細胞または筋細胞であることができる。
【0032】
前記多孔質細胞支持体は、分注された細胞の分化または増殖を誘導するための分化誘導因子、成長因子、成長刺激剤、生理活性物質、または細胞結合媒介物質であるペプチドや多糖類などをさらに含むことができる。
【0033】
一実施形態では、前記成長因子または成長刺激剤は、細胞接着媒体;生物学的に活性なリガンド;インテグリン結合シーケンス;リガンド;様々な成長及び/又は分化製剤(例えば、上皮細胞成長因子、IGF-I、IGF-II、TGF-[ベータ]、成長および分化因子、基質由来因子SDF-1;血管内皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、インスリン由来成長因子および変形性成長因子、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連ペプチド、bFGF;神経成長因子(NGF)または筋肉形成因子(MMF);ヘパリン結合成長因子(HBGF)、変形性成長因子アルファまたはベータ、アルファ線維芽細胞性成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(TGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、SDF-1; TGF[ベータ]スーパーファミリー因子; BMP-2;BMP-4;BMP-6;BMP-12;ソニックヘッジホッグ; GDF5;GDF6;GDF8;PDGF);特定の成長因子のアップレギュレーションに影響を与える小分子;テナシン-C;ヒアルロン酸;コンドロイチン硫酸;フィブロネクチン;デコリン;トロンボプラスチン;トロンビン由来ペプチド;TNFアルファ/ベータ;マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP);ヘパリン結合ドメイン;ヘパリン;ヘパラン硫酸;あるいは、それらのDNA断片、DNAプラスミド、短い干渉RNA(short interfering RNA, siRNA)、トランスフェクタント、またはそれらの任意の混合物を含めることができる。
【0034】
他の態様は、植物由来タンパク質分離物、ポロゲンおよび乳化剤を溶剤に添加し、攪拌して攪拌混合物を製造するステップ、および前記攪拌混合物に凝固剤を添加して細胞支持体を形成するステップを含む、多孔質細胞支持体を製造する方法を提供する。
【0035】
前記植物由来タンパク分離物、ポロゲン、乳化剤、溶剤および凝固剤に関する内容は上記の通りである。
【0036】
前記攪拌するステップは、 混合物を30rpm~150rpm、40rpm~120rpm、50rpm~100rpmまたは50rpm~70rpm、具体的には60rpmの速度で3分~60分、5分~50分、5分~40分 、5分~30分、5分~20分、具体的には10分間撹拌することができる。
【0037】
上記方法は、前記凝固剤を添加する前に成形および凍結乾燥するステップをさらに含むことができる。前記成形は、目的の形状およびサイズのキャスティングモールドで行うことができる。前記凍結乾燥は、-40℃~-240℃、-50℃~-200℃、-60℃~-160℃、-70℃~-120℃、-60℃~-100℃又は-70℃~-90 ℃で、具体的には-80℃で、10分~3時間、30分~2時間、30分~1時間30分、具体的には1時間凍結した後、乾燥させるステップを含むことができる。
【0038】
前記凍結乾燥するステップにおいて、凍結した植物性タンパク質組成物の全表面に炭酸水素ナトリウムを塗布した後、1時間~10時間、2時間~8時間、3時間~6時間又は4時間~5時間、具体的には、室温で4時間吸着させ、室温で1時間から10時間、2時間から8時間、3時間から6時間、または4時間から5時間、具体的には4時間乾燥させるステップを含むことができる。前記炭酸水素ナトリウムは、植物性タンパク質組成物の表面に細孔形成を促進して、組成物の内部まで凝固剤の流れを円滑にする役割を果たすことができる。前記凍結した植物性タンパク質組成物に炭酸水素ナトリウムを塗布せずに凝固剤を添加する場合には、凝固剤が組成物の表面に先に作用したことで内部に不規則に細孔が形成され、細胞の培養に不適切な構造を生成することができる。
【0039】
さらに、上記方法は、凝固した植物性タンパク質組成物を蒸留水または有機溶媒(例えばエタノール)で洗浄し、高圧滅菌処理してタンパク質以外の不純物を除去するステップをさらに含むことができる。
【0040】
別の態様は、前記多孔質細胞支持体;および多孔質細胞支持体内に分注された細胞を含む培養肉を提供する。
前記多孔質細胞支持体に関する内容は上記の通りである。
【0041】
用語「培養肉(cultured meat, synthetic meat, cell-cultured meat, clean meat, vat meat, in-vitro meat)」は、生きている動物の細胞を培養し、畜産農家なしで肉を培養する細胞工学技術で生産する肉を意味し、人工肉(artificial meat)とも呼ばれる。培養肉は、まだ商業的には生産しておらず、現在いくつかの研究やプロジェクトで実験的に体外肉技術を開発している。
【0042】
既存の培養肉を製造するために使用すると知られている Cytodex1(登録商標)マイクロキャリアと、一実施形態で製造した植物性タンパク質を含む多孔質細胞支持体の特性を比較した結果は、以下の表1に記載の通りである。
【表1】
【0043】
Cytodex 1(登録商標)に関する情報は、先行文献[Cytotechnology 2018 Apr; 70(2):503-512]と製造メーカーのホームページ(www.cytivalifesciences.com)から得たもので、上記一実施形態の特性は本発明全体に限定されるものではなく、一実施形態で製造した細胞支持体に限定されるものである。別の態様は、前記多孔質細胞支持体に細胞を分注して三次元培養し、三次元細胞集合体を形成するステップを含む培養肉の製造方法を提供する。
【0044】
前記細胞は、幹細胞、筋細胞および脂肪細胞からなる群から選択される一つ以上である可能性があるが、これらに限定されない。
【0045】
一実施形態では、前記多孔質細胞支持体に筋細胞または脂肪細胞を分注し、三次元培養して培養肉を製造することができる。また、前記多孔質細胞支持体は食用可能な材料で構成されているので、支持体から培養された細胞を分離するステップを含まずに培養肉を製造することができる。
【0046】
一実施形態では、前記多孔質細胞支持体に幹細胞を分注し、筋肉または脂肪組織に分化するように培養して培養肉を製造することができる。さらに、前記多孔質細胞支持体は食用可能な材料で構成されているので、支持体から分化した筋肉または脂肪組織を分離することなく、そのまま摂取することができる。
【0047】
別の態様は、前記多孔質細胞支持体に細胞を分注して三次元培養し、三次元細胞集合体を形成するステップを含む培養肉を製造する方法を提供する。
【0048】
一実施形態では、細胞および多孔質細胞支持体をバイオリアクターに入れるOne-stepプロセスによって培養肉を製造することができる。一つの培養器に細胞と多孔質細胞支持体を同時に投入すれば、細胞の付着、増殖及び分化が一度に発生して大量生産システムを構築することができる。
【0049】
別の態様は、上記方法によって製造された多孔質細胞支持体を含む培養肉を提供する。
別の態様は、前記培養肉を含む食用製品(edible product)を提供する。
前記多孔質細胞支持体および培養肉に関する内容は、上記の通りである。
【0050】
重複する内容は、本明細書の複雑さを考慮して省略し、本明細書で特に定義されていない用語は、本発明が属する技術分野で通常使用される意味を有することができる。
【発明の効果】
【0051】
一実施形態による植物性タンパク質を含む細胞支持体、及びそれを用いて製造された培養肉は、植物性タンパク質で構成されているので、培養された筋肉または脂肪組織を支持体から別途分離せずに一緒に摂取することができ、筋細胞及び脂肪細胞の割合を調整し、好ましい食感の肉を製造することができ、細胞支持体において様々なタイプの細胞の付着、増殖及び分化が可能であるため、培養肉の大量生産において有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】一実施形態で製造された植物由来タンパク質分離物を含む多孔質細胞支持体を撮影した写真である。
図2】一実施形態で製造された多孔質細胞支持体の圧縮強度測定の過程で現れる応力 ‐ ひずみ曲線(Stress-strain curve)である。
図3】一実施形態で製造された多孔質細胞支持体の引張強度測定の過程で現れる応力 ‐ ひずみ曲線である。
図4】一実施形態で製造された多孔質細胞支持体のTPA(Texture Profile Analysis)の結果を示す曲線である。
【0053】
図5】~
図8】既知の細胞培養のための支持体の形状を示しており、図5は凹型マイクロウェル、図6は多孔質足場、図7は無孔質マイクロビーズ、図8は多孔質マイクロビーズを示す。
図9】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体に脂肪由来幹細胞を分注し、培養9日目及び15日目に細胞を染色して撮影した写真である。
図10】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いてバイオリアクターで培養肉を製造する過程を示す模式図である。
図11】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて培養牛、培養鶏肉、および培養豚肉を培養する様子を示す図である。
図12】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて牛の筋細胞を培養する過程で、13日目及び20日目にLive/dead assayを行った写真である。
図13】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて牛の筋細胞を培養する過程で、培養前の細胞支持体(左)及び培養から4週目の細胞支持体(右)を撮影した写真である。
図14】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて牛の筋細胞を7日間培養した後、Calcein-AM/Desminで染色して撮影した写真である。
図15】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて牛の筋細胞を7日間培養した後、Phalloidin/Desminで染色して撮影した写真である。
図16】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて鶏の心筋細胞を10%DMEM培養培地で7日間培養した後、2%DMEM培養培地に交換し7日間培養してから、Live/dead assayを行った写真である。
図17】、一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて鶏の心筋細胞を10%DMEM培養培地で14日間培養した後、Live/dead assayを行った写真である。
図18】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて鶏の心筋細胞を2%DMEM培養培地で14日間培養した後、Live/dead assayを行って撮影した写真である。
図19】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて烏骨鶏の筋細胞を培養する過程で、13日、17日及び38日目にLive/dead assayを行った写真である。
図20】一実施形態で製造した多孔質細胞支持体を用いて牛の筋細胞と鶏の筋細胞を培養する過程で、14日目および8日目にそれぞれLive/dead assayを行った後を比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、以下の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、以下の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0055】
実施例1。植物由来タンパク質分離物を含む多孔質細胞支持体の製造
植物由来タンパク質分離物を含む多孔質細胞支持体を以下のように製造した。
粉末状の分離大豆タンパク質(isolated soy protein;ISP)10gと寒天(agar)2gを、食用グリセリン(glycerin;0409、ES食品原料)10mlに入れ、10分間60rpmでスチーム攪拌(スチームミキサーD-201、Daeduck Machinery)装置で混合して混合物を製造した。次に、滅菌した三次蒸留水30mlを混合物に添加し、高速攪拌機(MaXtir(登録商標) 500S、DAIHAN-brand(登録商標))を使用して5000rpmで10分間撹拌した。その後、希望の形状に成形するために前記混合物をキャスティングモールド(100mm×100mm×2mm)に移動させた後、―80℃で1時間凍結して凍結試料を作製した。凍結した試料の全面にベーキングソーダを十分に塗布して室温で4時間吸着させ、60℃で4時間乾燥させた。乾燥した試料を滅菌した三次蒸留水1Lに加えた後、グルコノデルタラクトン(E575、JUNGBUNZLAUER S.A)2gを加え、80℃で2時間凝固させた。その後、凝固させた試料を常温で100%エタノールと滅菌された3次蒸留水でそれぞれ5回洗浄し、3次蒸留水1Lに担持して2回高圧滅菌処理し、タンパク質以外の不純物を除去して植物性タンパク質成分の多孔質細胞支持体を製造した。前記製造した多孔質細胞支持体の写真を図1に示す。
【0056】
前記多孔質細胞支持体を製造するための全ての材料は、食品として認可された原料を使用しているので、摂取することが可能である。
【0057】
実施例2。多孔質細胞支持体の特性確認
実施例2.1多孔質細胞支持体の形態的特性分析
実施例1で製造した細胞支持体の形態的特性を、SKYSCAN1272 ex-vivo micro-CT(Bruker microCT、Belgium)を用いて以下の条件で測定した。
- X-ray source:40kV、200uA、No-filter、rotation step 0.15°;
- Resolution:1 um pixel resolution;
- 0.1% IKI(iodine-potassium iodide)で一晩染色した。
【0058】
断面生成はNRecon、断面回転はDataViewer、分析はCTAn、Volume renderingの生成はCTVox、surface renderingはCTAn+CTVol softwareを用いて分析しており、その結果は下記の表2に記載した通りである。
【0059】
【表2】
- Percent object volume(空隙率): 支持体が占める体積の比率を意味する。
- Structure thickness(構造物の厚さ):細孔間の平均間隔を意味する。
- Structure separation(構造物分離):細孔の平均サイズを意味する。
- Open porosity(開放空隙率): 支持体全体の体積に対して、外部と接続されている細孔が占める割合を意味する。
- Total porosity(全空隙率): 支持体全体の体積に対して細孔が占める割合を意味する。
- Pore interconnectivity(細孔相互接続率):全細孔のうち外部と接続された細孔の割合を意味する。
【0060】
これにより、実施例1で製造した細胞支持体の細孔相互接続率が約99%であるため、細胞の移動と培養液の流れが円滑になり、様々な細胞の成長及び分化に適したことを確認した。
【0061】
実施例2.2多孔質細胞支持体の物理的特性分析
実施例1で製造した細胞支持体の物性を分析するために、材料物性測定器であるTXA(登録商標)物性測定器(Texture Analyzer;株式会社ヨンジンエステック)を用いて、以下のように圧縮強度測定、引張強度測定及びTexture profile analysis(TPA)を行った。
【0062】
圧縮強度はCompression Testの方法を用いて測定した。具体的には、試料を圧縮固定装置を備えた物性測定器のプレートに載せ、横、縦それぞれ10mmの正方形プローブで圧縮した後、Initial strain rateをそれぞれ0.1[1/s]と0.033[1/s]に設定し測定した。その結果を下記表3及び図2に示す。
【表3】
【0063】
表3および図2に示すように、試料を物性測定器のプレートに載せ、横、縦それぞれ10mmの正方形プローブに圧縮した後、Initial strain rateをそれぞれ0.1[1/s]と0.033[1/s]に設定して測定した、一実施形態による多孔質細胞支持体の圧縮強度は、680.878gfの最大荷重(load)の場合、平均7.746mm の幅、7.455mmの長さ、1.734mmの厚さ、0.114mm/sの弾性波速度(speed)および115.882kPaの最大応力(stress)を示すことがわかった。
- 弾性波速度:外部の力によって変形を起こした物体が、力が除去された時、元の形状に戻ろうとする速度を意味する。
- 最大応力(stress): 物体が破壊されず耐えられる最大の圧縮応力を意味し、圧縮強度ともいう。
【0064】
引張強度は、試料を物性測定器の引張グリップで掴んだ後、Initial strain rateをそれぞれ0.1[1/s]および0.033[1/s]に設定し測定した。その結果を下記表4及び図3に示す。
【表4】
【0065】
表4および図3に示すように、物性測定器の引張グリップで掴んだ後、Initial strain rateをそれぞれ0.1[1/s]と0.033[1/s]に設定して測定された、一実施形態による多孔質細胞支持体の引張強度は、118.739gfの最大荷重の場合、平均14.000mmの幅、20.000mmの長さ、1.500mmの厚さ、1.325mm/sの弾性波速度、56.348gfの降伏荷重(Yield Load)、26.314kPAの降伏応力(Yield Stress)および15.148%の降伏伸び(Yield Elongation)を示すことがわかった。
- 降伏荷重(Yield Load): 物体が切れる直前の力を意味し、引張強度ともいう。
- 物体に外部の力を加えて両側に引っ張ると物体の長さは伸びるが、ある程度の力までは外部の力が除去されると元の大きさに戻るが、一定以上の力を加える場合は元の状態に戻らず、長さがさらに伸びるようになるが、元の状態に戻ることができる時の最大の力を降伏応力(Yield Stress)または降伏強度(Yield Strength)という。
- 降伏伸び(Yield Elongation):ほぼ一定の応力状態で、変形が増加し、次に平滑に応力が増加し始めるまでの物体の長さ変化を、元の物体の長さに対する百分率で表したことを意味する。
【0066】
TPA(Texture Profile Analysis)は、試料を物性測定器のプレートに載せ、直径25.4mmのcylinder probeを60mm/minの速度で2回50%圧縮して測定した。上記測定を3回繰り返し、その結果を下記表5及び図7に示す。
【表5】
【0067】
表5および図4に示すように、試料を物性測定器のプレートに載せ、直径25.4mmのcylinder probeを60mm/分の速度で2回50%圧縮して測定した、一実施形態による多孔質細胞支持体の物性は、平均0.6689kgfの硬度、0.0023のkgf*secの接着性、0.82の凝集性、1.00の弾力性、0.55の粘着性、0.54の咀嚼性、0.55の弾力復元性、0.6689kgfの脆性を示すことをわかった。
- Hardness(かたさ): 希望の変形に達するのに必要な力を意味する。
- Adhesiveness(接着性):物体がprobeから分離するのに必要な力を意味する。
- Cohesiveness(凝集性):物体があるままの形態を維持しようとする力を意味し、Adhesiveness(接着性)より大きい場合、Probeに資料が付かない。
- Springiness(弾力性): Elasticityとも呼ばれ、圧縮によって変形された資料が、力が除去された後に元の状態に戻ろうとする性質を意味する。
- Gumminess(粘着性):半固体状態の資料を、飲み込むことができる状態になるまで分解するのに必要な力を意味する。
- Chewiness(咀嚼性):固体状態の資料を、飲み込むことができる状態にするために必要なエネルギーを意味する。
- Brittleness(脆性):圧縮によって壊れたり割れたりする性質を意味し、最初の圧縮で最大の力に達する前に登場する中間ピークで、資料によってはこの性質が現れない場合もある。
- Resilience(弾性復元性):サンプルが元の高さを回復しようという性質を意味する。
【0068】
これにより、実施例1で製造した細胞支持体は、筋細胞の成長及び分化に適した圧縮強度及び引張強度を有し、培養肉の製造に活用されるための食用細胞支持体として、適度の弾性及び復元性を示すため食感が良く、適度の硬度と粘着性を示すため、滑らかな嚥下性を有することを確認した。
【0069】
実施例2.3既存の細胞支持体との特性比較
既知の細胞支持体(凹型マイクロウェル、多孔質足場、無孔質マイクロビーズ、多孔質マイクロビーズ)と実施例1で製造した多孔質細胞支持体の特性を比較した結果は、下記表6に記載の通りである。既知の細胞支持体の特性については、先行文献[Materials Science&Engineering C 103(2019)109782]を参照した。既知の細胞支持体の形態を図5図8に示す。
【表6】
【0070】
これにより、実施例1で製造した細胞支持体は、既存の細胞培養のための支持体と比較して細胞接着性が高く、培養液透過性に優れ、高い耐久性を有し、培養肉を製造するのに適した材料からなるものを確認した。
【0071】
実施例3。多孔質細胞支持体を用いた細胞の三次元培養
一実施形態による多孔質細胞支持体を用いて細胞を三次元培養した。
具体的には、培養皿に実施例1で製造した直径10mm、厚さ2mmの大きさの多孔質細胞支持体を載せた後、10%Mesenchymal stem cell growth medium2(Promocell C-28009、C-39809)培養培地を入れ、脂肪由来幹細胞株(ATCC PCS-500-011)5.0×105個を分注した後、15日間培養して細胞を増殖および組織化した。
【0072】
図9に示すように、培養期間が経過するにつれて細胞の成長が継続的に進行し、細胞が支持体に付着し成長すると支持体が収縮し、細胞の数が増えて空隙(void volume)が最小化し、組織(tissue)を形成することを確認した。
【0073】
実施例4。多孔質細胞支持体を用いた培養肉の製造
実施例1で製造した多孔質細胞支持体を用いて培養肉を製造した。具体的には、図10に示すように、バイオリアクター内に牛の筋細胞、鶏の筋細胞及び豚の筋細胞それぞれを実施例1で製造した細胞支持体と共に投入して一括して細胞を培養した。その結果を図11に示す。
【0074】
これにより、一つの培養器に細胞と多孔質細胞支持体を同時に投入することにより、細胞の付着、増殖及び分化が一度に発生するOne-step大量培養システムを構築できることを確認した。
【0075】
実施例4.1.多孔質細胞支持体を用いた培養牛肉の製造
培養皿に25mm×25mm×2mmの大きさの実施例1で製造した多孔質細胞支持体、Bovine#1細胞((株)ブノン縮産で当日屠殺した36ヶ月齢の韓牛雌牛(枝肉重量:339kg、2等級)のランプ(rump)の筋肉部位150gから一次筋細胞(primary skeletal muscle cells)を抽出した)1.7×106個および10%DMEM、2%DMEM(DMEM biowest L0103-500、FBS biowest S1480-500)培養培地を入れ、振とう培養器で24時間培養した。培養の結果、2~3%の残存細胞を除いては、全ての細胞が多孔質細胞支持体に分注されたことを確認した。
【0076】
また、4週間培養する過程で13日目及び20日目にlive & dead assayを行い、その結果を図12に示した。図12に示すように、支持体内でdead cellsがほとんど観察されなかったため、細胞接着が良好に行われ、1週間の間にlive cellsが増加したことにより、細胞支持体上で細胞増殖が良好に行われていることが分かった。また、図13に示すように、培養前後の支持体を肉眼で観察したところ、培養後の支持体は培養前の支持体とは違って薄いピンク色に変化したことが分かり、これは細胞支持体上で筋細胞の増殖が起きたことを意味する。
【0077】
続いて、25mm×25mm×2mmの大きさの実施例1で製造した多孔質細胞支持体に10%DMEM、2%DMEM(DMEM biowest L0103-500、FBS biowest S1480-500) 培養培地を入れ、Bovine#2細胞(サムホ畜産で当日屠殺した23ヶ月齢の韓牛雌牛(枝肉重量:261kg、2等級)のランプ(rump)の筋肉部位150gから抽出した一次筋細胞(primary skeletal muscle cells))1.0×106個を分注した後、7日間培養した。
【0078】
培養が完了した後、細胞をCalcein-AMとDesmin Ab、および Phalloidinと Desmin Abでそれぞれ染色し、その結果を図14および15にそれぞれ示した。Calcein-AMを用いて生細胞の観察および分化した細胞の形態を観察し、筋細胞マーカーであるDesmin Abを用いて分化した筋細胞を観察し、Phalloidinを用いて分化した細胞の形態を観察した。図14および図15に示すように、支持体内で筋細胞への分化がうまく行われていることを確認した。
【0079】
これにより、実施例1で製造した多孔質細胞支持体上で牛の筋細胞を培養して培養牛肉を製造できることを確認した。
【0080】
実施例4.2. 多孔質細胞支持体を用いた培養鶏肉の製造
25mm×25mm×2mmの大きさの実施例1で製造した多孔質細胞支持体に、10%DMEM培養培地を入れ、Chicken Cardiomyocyte#1細胞(孵化9~11日目の一般採卵鶏(layer chicken)の有精卵から embryonic bodyを取り出し、心臓から抽出した一次心筋細胞(primary cardiomyocyte))5.0×105個を分注した後、7日間培養して細胞を増殖させた。7日後、培養培地を2%DMEM交換し、7日間培養して心筋細胞に分化させた。培養後14日目に、live & dead assayを行い、結果を図16に示す。図16に示すように、全体的に細胞がうまく培養され、培養肉が生成されていることを確認した。
【0081】
また、25mm×25mm×2mmの大きさの実施例1で製造した多孔質細胞支持体に、10%DMEM培養培地及び2%DMEM培養培地をそれぞれ入れ、Chicken Cardiomyocyte#1細胞(ダナグリーンで孵化9~11日目に一般採卵鶏(layer chicken)の有精卵からembryonic bodyを取り出し、心臓から抽出した一次心筋細胞(primary cardiomyocyte)1.0×106個をそれぞれ分注した後、14日間培養した。培養後14日目に、live & dead assayを行い、その結果を図17および図18にそれぞれ示した。図17及び18に示すように、全体的に細胞がうまく培養され、培養肉が生成されていることを確認した。
【0082】
これにより、実施例1で製造した多孔質細胞支持体上で鶏の筋細胞を培養して培養鶏肉を製造できることを確認した。
【0083】
続いて、培養皿に25mm×25mm×2mmの大きさの実施例1で製造した多孔質細胞支持体に、10%DMEM、2%DMEM(DMEM biowest L0103-500、FBS biowest S1480-500)培養培地を入れ、Silkie#1細胞(孵化9~11日目の烏骨鶏(silkie)の有精卵からembryonic bodyを取り出し、太ももの部位から抽出した一次筋細胞(primary skeletal muscle cells))1.0×107個を分注した後、5週間培養した。
【0084】
培養後13日、17日、38日目にlive & dead assayを行い、その結果を図19に示した。図19に示すように、細胞支持体上で烏骨鶏筋細胞の増殖及び分化がうまく行われていることを確認した。具体的には、2週目に細胞支持体上にlive cellsが詰まっていて、5週目までも細胞のviabilityが可能であることを確認した。
【0085】
実施例4.3. 多孔質細胞支持体を用いて製造した培養牛肉と培養鶏肉の比較
25mm×25mm×2mmの大きさの実施例1で製造した多孔質細胞支持体に、10%DMEM、2%DMEM(DMEM biowest L0103-500、FBS biowest S1480-500)培養培地を入れ、Bovine#1細胞1.0×106個およびChicken#1細胞2.0×106個をそれぞれ分注した後、4週間培養した。
【0086】
培養の過程で、牛細胞は14日目に、鶏細胞は8日目にlive & dead assayを行い、その結果を図20に示した。図20に示すように、鶏肉細胞は、牛細胞に比べてサイズが小さく、doubling timeが速い方で、同じ期間培養した場合、支持体をはるかに短期間で詰めていくことを確認した。また、両培養肉とも細胞支持体によって細胞特性が阻害されず、培養牛肉と培養鶏肉の筋繊維形態が異なることを確認した。
【0087】
続いて、培養の過程で3週目および4週目に培養牛肉と培養鶏肉を試食した結果、培養鶏肉は3週間の培養だけでも実際と同じ鶏肉の味と風味を確認することができ、培養牛の場合には4週間の培養が完了した後、実際と同じ牛肉の味と風味を確認することができた。
これにより、実施例1で製造した多孔質細胞支持体を用いると、当該培養肉の特性に合った味と風味が出ることが分かった。
図1
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